(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022116331
(43)【公開日】2022-08-09
(54)【発明の名称】磁気テープ、磁気テープカートリッジおよび磁気テープ装置
(51)【国際特許分類】
G11B 5/70 20060101AFI20220802BHJP
G11B 5/735 20060101ALI20220802BHJP
G11B 5/738 20060101ALI20220802BHJP
G11B 5/78 20060101ALI20220802BHJP
G11B 5/584 20060101ALI20220802BHJP
G11B 21/10 20060101ALI20220802BHJP
G11B 23/107 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
G11B5/70
G11B5/735
G11B5/738
G11B5/78
G11B5/584
G11B21/10 W
G11B23/107
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092409
(22)【出願日】2022-06-07
(62)【分割の表示】P 2021104362の分割
【原出願日】2018-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】笠田 成人
(57)【要約】
【課題】総厚を薄くし、かつ磁性層の表面平滑性を高めた磁気テープにおいて、サーボシステムにおける信号欠陥の発生頻度を低減すること。
【解決手段】非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気テープであって、磁気テープ総厚は5.30μm以下であり、上記磁性層はサーボパターンを有し、上記磁性層の表面において測定される中心線平均表面粗さRaは1.8nm以下であり、かつ上記磁性層の面内方向について測定される屈折率Nxyと上記磁性層の厚み方向について測定される屈折率Nzとの差分の絶対値ΔNは0.25以上0.40以下である磁気テープ。この磁気テープを含む磁気テープカートリッジおよび磁気テープ装置。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体上に強磁性粉末を含む磁性層を有する磁気テープであって、
前記強磁性粉末の平均粒子サイズは5nm以上40nm以下であり、
磁気テープ総厚は5.30μm以下であり、
前記磁性層はサーボパターンを有し、
前記磁性層の表面において測定される中心線平均表面粗さRaは1.8nm以下であり、かつ
前記磁性層の面内方向について測定される屈折率Nxyと前記磁性層の厚み方向について測定される屈折率Nzとの差分、Nxy-Nz、は0.25以上0.40以下である、磁気テープ。
【請求項2】
前記非磁性支持体と前記磁性層との間に、非磁性粉末を含む非磁性層を有する、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項3】
前記非磁性層の厚みは0.10μm以上1.50μm以下である、請求項2に記載の磁気テープ。
【請求項4】
前記非磁性層の厚みは0.10μm以上1.00μm以下である、請求項2に記載の磁気テープ。
【請求項5】
前記非磁性層の厚みは0.10μm以上0.70μm以下である、請求項2に記載の磁気テープ。
【請求項6】
磁気テープ総厚は3.00μm以上5.30μm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の磁気テープ。
【請求項7】
前記非磁性支持体の前記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の磁気テープ。
【請求項8】
前記磁性層の表面において測定される中心線平均表面粗さRaは1.2nm以上1.8nm以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の磁気テープ。
【請求項9】
前記サーボパターンはタイミングベースサーボパターンである、請求項1~8のいずれか1項に記載の磁気テープ。
【請求項10】
前記磁性層の面内方向について測定される屈折率Nxyと前記磁性層の厚み方向について測定される屈折率Nzとの差分、Nxy-Nz、は0.25以上0.35以下である、請求項1~9のいずれか1項に記載の磁気テープ。
【請求項11】
前記磁性層における前記強磁性粉末の含有量は、60~90質量%の範囲である、請求項1~10のいずれか1項に記載の磁気テープ。
【請求項12】
前記磁性層は、前記強磁性粉末100.0質量部に対して前記結合剤を1.0~20.0質量部の量で含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の磁気テープ。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の磁気テープを含む磁気テープカートリッジ。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか1項に記載の磁気テープと、磁気ヘッドと、を含む磁気テープ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気テープ、磁気テープカートリッジおよび磁気テープ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体にはテープ状のものとディスク状のものがあり、データバックアップ、アーカイブ等のデータストレージ用途には、テープ状の磁気記録媒体、即ち磁気テープ(以下、単に「テープ」とも記載する。)が主に用いられている。磁気テープへの情報の記録は、通常、磁気テープのデータバンドに磁気信号を記録することにより行われる。これによりデータバンドにデータトラックが形成される。
【0003】
近年の情報量の莫大な増大に伴い、磁気テープには記録容量を高めること(高容量化)が求められている。この高容量化のための手段としては、データトラックの幅を狭くすることにより、磁気テープの幅方向に、より多くのデータトラックを配置して記録密度を高めることが挙げられる。
【0004】
しかしデータトラックの幅を狭くすると、磁気テープを磁気テープ装置(一般に、「ドライブ」と呼ばれる。)内で走行させて情報の記録および/または再生を行う際、磁気テープの位置変動によって、磁気ヘッドがデータトラックに正確に追従することが困難となり、記録および/または再生時にエラーを起こし易くなってしまう。そこで、かかるエラーの発生を抑制するための手段として、近年、サーボ信号を利用するヘッドトラッキングサーボを用いたシステム(以下、「サーボシステム」と記載する。)が提案され、実用化されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
サーボシステムの中で、磁気サーボ方式のサーボシステムでは、サーボパターン(サーボ信号)を磁気テープの磁性層に形成し、このサーボパターンを磁気的に読み取ってヘッドトラッキングを行う。より詳しくは、次の通りである。
まずサーボヘッドにより、磁性層に形成されているサーボパターンを読み取る(即ち、サーボ信号を再生する)。サーボパターンを読み取ることにより得られた値に応じて、磁気テープ装置内で磁気ヘッドの位置を制御する。これにより、情報の記録および/または再生のために磁気テープ装置内で磁気テープを搬送する際、磁気テープの位置が変動しても、磁気ヘッドがデータトラックに追従する精度を高めることができる。例えば、磁気テープを磁気テープ装置内で搬送して情報の記録および/または再生を行う際、磁気テープの位置が磁気ヘッドに対して幅方向に変動しても、ヘッドトラッキングサーボを行うことにより、磁気テープ装置内で磁気テープの幅方向における磁気ヘッドの位置を制御することができる。こうして、磁気テープ装置において磁気テープに正確に情報を記録すること、および/または、磁気テープに記録されている情報を正確に再生すること、が可能となる。
【0007】
ところで、磁気テープは、通常、磁気テープカートリッジに収容されて流通され、使用される。磁気テープカートリッジの1巻あたりの記録容量を高めるためには、磁気テープカートリッジ1巻に収容される磁気テープ全長を長くすることが望ましい。このためには、磁気テープの総厚を薄くすること(以下、「薄型化」とも記載する。)が求められる。
【0008】
また、近年、磁気テープには、磁性層の表面平滑性を高めることが求められている。磁性層の表面平滑性を高めることは、電磁変換特性の向上につながるためである。
【0009】
以上の点に鑑み本発明者は、総厚を薄くし、かつ磁性層の表面平滑性を高めた磁気テープを、サーボシステムに適用することを検討した。しかるに、かかる検討の中で、磁気テープの総厚を薄くし、かつ磁性層の表面平滑性を高めると、サーボシステムにおいてサーボ信号再生時に信号欠陥の発生頻度が増加するという、従来知られていなかった現象が生じることが明らかとなった。かかる信号欠陥の一例としては、サーマルアスペリティと呼ばれる信号欠陥が挙げられる。サーマルアスペリティは、磁気抵抗効果型(magnetoresistive;MR)素子を搭載したMRヘッドを備えたシステムにおいて、MR素子に局所的な温度変化が発生することによってMR素子の抵抗値が変動することに起因して生じる再生波形の変動である。サーボ信号再生時に信号欠陥が発生すると、発生箇所ではヘッドトラッキングを行うことが困難になってしまう。したがって、サーボシステムを用いて、磁気テープへ情報をより正確に記録し、および/または、磁気テープに記録されている情報をより正確に再生するためには、サーボ信号再生時の信号欠陥の発生頻度を低減することが求められる。
【0010】
本発明の一態様は、総厚を薄くし、かつ磁性層の表面平滑性を高めた磁気テープにおいて、サーボシステムにおける信号欠陥の発生頻度を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、
非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気テープであって、
磁気テープ総厚は5.30μm以下であり、
上記磁性層はサーボパターンを有し、
上記磁性層の表面において測定される中心線平均表面粗さRa(以下、「磁性層表面粗さRa」とも記載する。)は1.8nm以下であり、かつ
上記磁性層の面内方向について測定される屈折率Nxyと上記磁性層の厚み方向について測定される屈折率Nzとの差分の絶対値ΔN(以下、「(磁性層の)ΔN」とも記載する。)は0.25以上0.40以下である、磁気テープ、
に関する。
【0012】
一態様では、Nxy>Nzであることができ、上記屈折率Nxyと上記屈折率Nzとの差分(Nxy-Nz)が0.25以上0.40以下であることができる。
【0013】
一態様では、上記磁気テープは、上記非磁性支持体と上記磁性層との間に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層を有することができる。
【0014】
一態様では、上記磁気テープ総厚は、3.00μm以上5.30μm以下であることができる。
【0015】
一態様では、上記磁気テープは、上記非磁性支持体の上記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末および結合剤を含むバックコート層を有することができる。
【0016】
一態様では、上記磁性層表面粗さRaは、1.2nm以上1.8nm以下であることができる。
【0017】
一態様では、上記サーボパターンは、タイミングベースサーボパターンであることができる。
【0018】
本発明の一態様は、上記磁気テープを含む磁気テープカートリッジに関する。
【0019】
本発明の一態様は、上記磁気テープと、磁気ヘッドと、を含む磁気テープ装置に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一態様によれば、薄型化され、かつ表面平滑性が高い磁性層にサーボパターンを有する磁気テープであって、サーボシステムにおけるサーボ信号再生時の信号欠陥の発生頻度が低減された磁気テープ、ならびに、この磁気テープを含む磁気テープカートリッジおよび磁気テープ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】データバンドおよびサーボバンドの配置例を示す。
【
図2】LTO(Linear-Tape-Open) Ultriumフォーマットテープのサーボパターン配置例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[磁気テープ]
本発明の一態様は、非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気テープであって、磁気テープ総厚は5.30μm以下であり、上記磁性層はサーボパターンを有し、磁性層表面粗さRaは1.8nm以下であり、かつ磁性層のΔNは0.25以上0.40以下である、磁気テープに関する。
以下、上記磁気テープについて、更に詳細に説明する。以下の記載には、本発明者の推察が含まれる。かかる推察によって本発明は限定されるものではない。また、以下では、図面に基づき例示的に説明することがある。ただし、例示される態様に本発明は限定されるものではない。
【0023】
<磁性層>
(磁性層表面粗さRa)
上記磁気テープの磁性層表面において測定される中心線平均表面粗さRa(磁性層表面粗さRa)は、1.8nm以下である。磁性層表面粗さRaが1.8nm以下であり、かつ総厚が5.30μm以下である磁気テープは、何ら対策を施さなければ、サーボシステムにおいて、サーボ信号再生時に信号欠陥の発生頻度が増加してしまう。これに対し、磁性層のΔNが0.25以上0.40以下である上記磁気テープは、磁性層表面粗さRaが1.8nm以下であり、かつ総厚が5.30μm以下であるにもかかわらず、サーボ信号再生時に信号欠陥の発生を抑制することができる。この点に関する本発明者の推察は、後述する。また、磁性層表面粗さRaが1.8nm以下である上記磁気テープは、優れた電磁変換特性を示すことができる。電磁変換特性の更なる向上の観点からは、磁性層表面粗さRaは、1.7nm以下であることが好ましく、1.6nm以下であることがより好ましい。また、磁性層表面粗さRaは、例えば1.2nm以上または1.3nm以上であることができる。ただし電磁変換特性向上の観点からは磁性層表面粗さRaの値が小さいほど好ましいため、上記例示した値を下回ってもよい。本発明および本明細書において、磁気テープの「磁性層(の)表面」とは、磁気テープの磁性層側表面と同義である。
【0024】
本発明および本明細書における磁気テープの磁性層の表面において測定される中心線平均表面粗さRaは、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;AFM)により磁性層表面の面積40μm×40μmの領域において測定される値とする。測定条件の一例としては、下記の測定条件を挙げることができる。後述の実施例に示す磁性層表面粗さRaは、下記測定条件下での測定によって求められた値である。
AFM(Veeco社製Nanoscope4)をタッピングモードで用いて磁気テープの磁性層の表面の面積40μm×40μmの領域を測定する。探針としてはBRUKER社製RTESP-300を使用し、スキャン速度(探針移動速度)は40μm/秒、分解能は512pixel×512pixelとする。
【0025】
磁性層表面粗さRaは、公知の方法により制御することができる。例えば、磁性層に含まれる各種粉末(例えば、強磁性粉末、任意に含まれ得る非磁性粉末等)のサイズ、磁気テープの製造条件等により磁性層表面粗さRaは変わり得る。したがって、これらを調整することにより、磁性層表面粗さRaが1.8nm以下の磁気テープを得ることができる。
【0026】
(サーボパターン)
上記磁気テープは、磁性層にサーボパターンを有する。磁性層へのサーボパターンの形成は、サーボライトヘッドにより、磁性層の特定の位置を磁化することにより行われる。ヘッドトラッキングサーボを可能とするためのサーボパターンの形状および磁性層における配置は公知である、上記磁気テープの磁性層が有するサーボパターンについては、公知技術を適用することができる。例えば、ヘッドトラッキングサーボの方式としては、タイミングベースサーボ方式と振幅ベースサーボ方式が知られている。上記磁気テープの磁性層が有するサーボパターンは、いずれの方式のヘッドトラッキングサーボを可能とするサーボパターンでもよい。また、タイミングベースサーボ方式でのヘッドトラッキングサーボを可能とするサーボパターンと振幅ベースサーボ方式でのヘッドトラッキングサーボを可能とするサーボパターンとが磁性層に形成されていてもよい。
【0027】
以下に、ヘッドトラッキングサーボの具体的態様の1つとして、タイミングベースサーボ方式のヘッドトラッキングサーボについて記載する。ただし本発明におけるヘッドトラッキングサーボは、下記具体的態様に限定されるものではない。
【0028】
タイミングベースサーボ方式のヘッドトラッキングサーボ(以下、「タイミングベースサーボ」と記載する。)では、二種以上の異なる形状の複数のサーボパターンを磁性層に形成し、サーボヘッドが、異なる形状の2つのサーボパターンを読み取った時間間隔と、同種の形状の2つのサーボパターンを読み取った時間間隔と、によりサーボヘッドの位置を認識する。こうして認識されたサーボヘッドの位置に基づき、磁気テープの幅方向における磁気ヘッドの位置が制御される。ここで位置制御が行われる磁気ヘッドは、一態様では磁気テープに記録された情報を再生する磁気ヘッド(再生ヘッド)であり、他の一態様では磁気テープに情報を記録する磁気ヘッド(記録ヘッド)である。
【0029】
図1に、データバンドおよびサーボバンドの配置例を示す。
図1中、磁気テープ1の磁性層には、複数のサーボバンド10が、ガイドバンド12に挟まれて配置されている。2本のサーボバンドに挟まれた複数の領域11が、データバンドである。サーボパターンは、磁化領域であって、サーボライトヘッドにより磁性層の特定の領域を磁化することによって形成される。サーボライトヘッドにより磁化する領域(サーボパターンを形成する位置)は規格により定められている。例えば、業界標準規格であるLTO Ultriumフォーマットテープには、磁気テープ製造時に、
図2に示すようにテープ幅方向に対して傾斜した複数のサーボパターンが、サーボバンド上に形成される。詳しくは、
図2中、サーボバンド10上のサーボフレームSFは、サーボサブフレーム1(SSF1)およびサーボサブフレーム2(SSF2)から構成される。サーボサブフレーム1は、Aバースト(
図2中、符号A)およびBバースト(
図2中、符号B)から構成される。AバーストはサーボパターンA1~A5から構成され、BバーストはサーボパターンB1~B5から構成される。一方、サーボサブフレーム2は、Cバースト(
図2中、符号C)およびDバースト(
図2中、符号D)から構成される。CバーストはサーボパターンC1~C4から構成され、DバーストはサーボパターンD1~D4から構成される。このような18本のサーボパターンが5本と4本のセットで、5、5、4、4、の配列でサブフレームに配置され、サーボフレームを識別するために用いられる。
図2には、説明のために1つのサーボフレームを示した。ただし、実際には、タイミングベースサーボ方式のヘッドトラッキングサーボが行われる磁気テープの磁性層では、各サーボバンドに、複数のサーボフレームが走行方向に配置されている。
図2中、矢印は走行方向を示している。例えば、LTO Ultriumフォーマットテープは、通常、磁性層の各サーボバンドに、テープ長1mあたり5000以上のサーボフレームを有する。サーボヘッドは、磁気テープ装置内で搬送される磁気テープの磁性層表面と接触し摺動しながら、複数のサーボフレームにおいて順次サーボパターンの読み取りを行う。
【0030】
タイミングベースサーボ方式のヘッドトラッキングサーボでは、異なる形状の2つのサーボパターンをサーボヘッドが読み取った(サーボ信号を再生した)時間間隔と、同種の形状の2つのサーボパターンを読み取った時間間隔と、によりサーボヘッドの位置を認識する。時間間隔は、通常、サーボ信号の再生波形のピークの時間間隔として求められる。例えば、
図2に示す態様では、AバーストのサーボパターンとCバーストのサーボパターンが同種の形状のサーボパターンであり、BバーストのサーボパターンとDバーストのサーボパターンが同種の形状のサーボパターンである。AバーストのサーボパターンおよびCバーストのサーボパターンは、BバーストのサーボパターンおよびDバーストのサーボパターンとは形状が異なるサーボパターンである。異なる形状の2つのサーボパターンをサーボヘッドが読み取った時間間隔とは、例えば、Aバーストのいずれかのサーボパターンを読み取った時間とBバーストのいずれかのサーボパターンを読み取った時間との間隔である。同種の形状の2つのサーボパターンをサーボヘッドが読み取った時間間隔とは、例えば、Aバーストのいずれかのサーボパターンを読み取った時間とCバーストのいずれかのサーボパターンを読み取った時間との間隔である。タイミングベースサーボ方式のヘッドトラッキングサーボは、上記の時間間隔が設定値からずれた場合、時間間隔のズレは磁気テープの幅方向の位置変動に起因して発生することを前提とするシステムである。設定値とは、磁気テープが幅方向で位置変動を起こさずに走行する場合の時間間隔である。タイミングベースサーボシステムでは、求められた時間間隔の設定値からのズレの程度に応じて、磁気ヘッドを幅方向に移動させる。詳しくは、時間間隔の設定値からのズレが大きいほど、磁気ヘッドを幅方向に大きく移動させる。この点は、
図1および
図2に示す態様に限定されずタイミングベースサーボシステム全般に当てはまる。
【0031】
例えばタイミングベースサーボシステムを用いる磁気テープ装置において、サーボ信号再生時に信号欠陥が発生すると、欠陥が発生した箇所(サーボフレーム)では時間間隔の測定結果を得ることが困難になる。その結果、磁気テープを走行させて磁気ヘッドによって磁気信号(情報)の記録または再生を行う際に磁気ヘッドを幅方向に移動させてヘッドの位置決めを行うことが部分的に困難になってしまう。タイミングベースサーボシステムに限らず、サーボシステムを用いる磁気テープ装置においてサーボ信号再生時に信号欠陥が発生することは、磁気テープを走行させて磁気ヘッドによって磁気信号(情報)の記録または再生を行う際に磁気ヘッドを移動させてヘッドの位置決めを行うことを部分的に困難にしてしまう。
以上の点に関し、本発明者の検討の中で、総厚が5.30μm以下であり、かつ磁性層表面粗さRaが1.8nm以下である磁気テープでは、サーボ信号再生時に信号欠陥が顕著に発生することが判明した。本発明者は、サーボ信号再生時の信号欠陥の発生原因としては、サーボヘッドと磁性層表面との円滑な摺動が妨げられること(以下、「摺動性の低下」と記載する。)が挙げられると考えている。総厚が5.30μm以下であり、かつ磁性層表面粗さRaが1.8nm以下である磁気テープは、従来の磁気テープとは、サーボヘッドと磁性層表面との接触状態が異なることが、摺動性低下の原因ではないかと本発明者は推察している。ただし推察に過ぎない。
これに対し本発明者の鋭意検討の結果、そのようなサーボ信号再生時の信号欠陥の発生は、磁性層のΔNを0.25以上0.40以下とすることにより抑制できることが明らかとなった。この点に関する本発明者の推察は、後述する。
【0032】
(磁性層のΔN)
本発明および本明細書において、磁性層の面内方向について測定される屈折率Nxyと磁性層の厚み方向について測定される屈折率Nzとの差分の絶対値ΔNは、以下の方法によって求められる値とする。
磁性層の各方向についての屈折率は、分光エリプソメトリーにより2層モデルを用いて求めるものとする。分光エリプソメトリーにより2層モデルを用いて磁性層の屈折率を求めるためには、磁性層と隣接する部分の屈折率の値が用いられる。以下では、非磁性支持体上に非磁性層と磁性層とがこの順に積層された層構成を有する磁気テープについて、磁性層の屈折率NxyおよびNzを求める場合を例に説明する。ただし、本発明の一態様にかかる磁気テープは、非磁性支持体上に非磁性層を介さずに磁性層が直接積層された層構成の磁気テープであることもできる。かかる構成の磁気テープについては、磁性層と非磁性支持体との2層モデルを用いて、以下の方法と同様に磁性層の各方向についての屈折率を求める。また、以下に記載の入射角度は、垂直入射の場合の入射角度を0°としたときの入射角度である。
(1)測定用試料の準備
非磁性支持体の磁性層を有する表面とは反対側の表面上にバックコート層を有する磁気テープについては、磁気テープから切り出した測定用試料のバックコート層を除去した後に測定を行う。バックコート層の除去は、バックコート層を溶媒を用いて溶解する等の公知の方法により行うことができる。溶媒としては、例えばメチルエチルケトンを用いることができる。ただし、バックコート層を除去できる溶媒であればよい。バックコート層除去後の非磁性支持体表面は、エリプソメーターでの測定において、この表面での反射光が検出されないように公知の方法により粗面化する。粗面化は、例えばバックコート層除去後の非磁性支持体表面をサンドペーパーを用いて研磨する等の公知の方法によって行うことができる。バックコート層を持たない磁気テープから切り出した測定用試料については、磁性層を有する表面とは反対側の非磁性支持体表面について、粗面化を行う。
また、下記の非磁性層の屈折率測定のためには、更に磁性層を除去して非磁性層表面を露出させる。下記の非磁性支持体の屈折率測定のためには、更に非磁性層も除去して非磁性支持体の磁性層側の表面を露出させる。各層の除去は、バックコート層の除去について記載したように、公知の方法により行うことができる。なお以下に記載の長手方向とは、測定用試料が切り出される前に磁気テープに含まれていたときに、磁気テープの長手方向であった方向をいうものとする。この点は、以下に記載のその他の方向についても、同様である。
(2)磁性層の屈折率測定
エリプソメーターを用いて、入射角度を65°、70°および75°とし、長手方向から磁性層表面にビーム径300μmの入射光を照射することにより、Δ(s偏光とp偏光の位相差)およびΨ(s偏光とp偏光の振幅比)を測定する。測定は入射光の波長を400~700nmの範囲で1.5nm刻みで変化させて行い、各波長について測定値を求める。
各波長における磁性層のΔおよびΨの測定値、下記方法により求められる各方向における非磁性層の屈折率、ならびに磁性層の厚みを用いて、以下のように2層モデルによって各波長における磁性層の屈折率を求める。
2層モデルの基板である第0層を非磁性層とし、第1層を磁性層とする。空気/磁性層と磁性層/非磁性層の界面の反射のみを考慮し非磁性層の裏面反射の影響はないものと見做して2層モデルを作成する。得られた測定値に最も整合する第1層の屈折率を最小二乗法によってフィッティングにより求める。フィッティングの結果から得られた波長600nmにおける値として、長手方向における磁性層の屈折率Nx、および長手方向から入射光を入射させて測定した磁性層の厚み方向における屈折率Nz1を求める。
入射光を入射させる方向を磁気テープの幅方向とする点以外は上記と同様として、フィッティングの結果から得られた波長600nmにおける値として、幅方向における磁性層の屈折率Ny、および幅方向から入射光を入射させて測定した磁性層の厚み方向における屈折率Nz2を求める。
フィッティングは、以下の手法により行う。
一般的に「複素屈折率n=η+iκ」である。ここで、ηは屈折率の実数部であり、κは消光係数であり、iは虚数である。複素誘電率ε=ε1+iε2 (ε1とε2はクラマース・クローニッヒの関係を満たしている)とε1=η2-κ2、ε2=2ηκの関係にあり、NxおよびNz1算出の際は、Nxの複素誘電率をεx=εx1+iεx2、Nz1の複素誘電率をεz1=εz11+iεz12とする。
εx2を1つのガウシアンとし、ピーク位置が5.8~5.1eV、σが4~3.5 eVの任意の点を出発点とし、測定波長域(400~700nm)の外に誘電率にオフセットとなるパラメータを置き、測定値を最小二乗フィッティングすることによりNxを求める。同様に、εz12はピーク位置が3.2~2.9eV、σが1.5~1.2eVの任意の点を出発点とし、オフセットパラメータを置き、測定値を最小二乗フィッティングすることによりNz1を求める。NyおよびNz2も同様に求める。磁性層の面内方向について測定される屈折率Nxyは、「Nxy=(Nx+Ny)/2」として求める。磁性層の厚み方向について測定される屈折率Nzは、「Nz=(Nz1+Nz2)/2」として求める。求められたNxyとNzから、これらの差分の絶対値ΔNを求める。
(3)非磁性層の屈折率測定
以下の点を除き、上記方法と同様に非磁性層の波長600nmにおける屈折率(長手方向における屈折率、幅方向における屈折率、長手方向から入射光を入射させて測定される厚み方向における屈折率、および幅方向から入射光を入射させて測定される厚み方向における屈折率)を求める。
入射光の波長は、250~700nmの範囲で1.5nm刻みで変化させる。
非磁性層と非磁性支持体の2層モデルを用いて、2層モデルの基板である第0層を非磁性支持体とし、第1層を非磁性層とする。空気/非磁性層と非磁性層/非磁性支持体の界面の反射のみを考慮し非磁性支持体の裏面反射の影響はないものと見做して2層モデルを作成する。
フィッティングにおいて、複素誘電率の虚部(ε2)に、7か所のピーク(0.6eV、2.3eV、2.9eV、3.6eV、4.6eV、5.0eV、6.0eV)を仮定し、測定波長域(250~700nm)の外に誘電率にオフセットとなるパラメータを置く。
(4)非磁性支持体の屈折率測定
2層モデルにより非磁性層の屈折率を求めるために用いられる非磁性支持体の波長600nmにおける屈折率(長手方向における屈折率、幅方向における屈折率、長手方向から入射光を入射させて測定される厚み方向における屈折率、および幅方向から入射光を入射させて測定される厚み方向における屈折率)は、以下の点を除き、磁性層の屈折率測定のための上記方法と同様に求める。
2層モデルを用いず、表面反射のみの1層モデルを用いる。
フィッティングは、コーシーモデル(n=A+B/λ2、nは屈折率、AおよびBはそれぞれフィッティングにより定まる定数、λは波長)により行う。
【0033】
上記の方法により求められる磁性層のΔNを0.25以上0.40以下とすることにより、総厚が5.30μm以下であり、かつ磁性層表面粗さRaが1.8nm以下である磁気テープにおけるサーボ信号再生時の信号欠陥の発生を抑制することができる。この信号欠陥の発生は、サーボヘッドと磁性層表面との摺動性の低下が原因で発生すると考えられる。一方、本発明者は、上記方法により求められるΔNは、磁性層の表層領域における強磁性粉末の存在状態の指標となり得る値と考えている。このΔNは、磁性層における強磁性粉末の配向状態に加えて、結合剤の存在状態、強磁性粉末の密度分布等の各種要因の影響を受ける値と推察される。そして、各種要因を制御することによってΔNを0.25以上0.40以下とした磁性層は、磁性層表面の強度が高く、サーボヘッドと摺動しても削れ難いと考えられる。その結果、磁性層表面が削れて発生した削れ屑が異物としてサーボヘッドに付着することを抑制できることが、サーボヘッドと磁性層表面との摺動性の低下が抑制されることに寄与するのではないかと本発明者は推察している。このことが、上記の信号欠陥の発生を抑制することにつながると本発明者は考えている。ただし以上は推察に過ぎず、本発明は上記推察に何ら限定されない。
【0034】
上記磁気テープの磁性層のΔNは、0.25以上0.40以下である。上記の信号欠陥の発生をより一層抑制する観点からは、ΔNは0.25以上0.35以下であることが好ましい。ΔNを調整するための手段の具体的態様は、後述する。
【0035】
ΔNは、NxyとNzとの差分の絶対値である。Nxyは磁性層の面内方向について測定される屈折率であり、Nzは磁性層の厚み方向について測定される屈折率である。一態様では、Nxy>Nzであることができ、他の一態様ではNxy<Nzであることができる。磁気テープの電磁変換特性の観点からは、Nxy>Nzであることが好ましく、したがってNxyとNzとの差分(Nxy-Nz)が0.25以上0.40以下であることが好ましく、0.25以上0.35以下であることがより好ましい。一態様では、Nxyは、例えば1.50~2.50の範囲であることができる。一態様では、Nzは、例えば 1.30~2.50の範囲であることができる。ただし、上記磁気テープは、ΔNが0.25以上0.40以下の範囲にあればよく、NxyおよびNzは上記の例示した範囲に限定されない。
【0036】
以上説明したΔNを調整するための各種手段については後述する。
【0037】
次に、磁性層の詳細について、更に説明する。
【0038】
(強磁性粉末)
磁性層に含まれる強磁性粉末としては、各種磁気記録媒体の磁性層において通常用いられる強磁性粉末を使用することができる。強磁性粉末として平均粒子サイズの小さいものを使用することは、磁気記録媒体の記録密度向上の観点から好ましい。この点から、強磁性粉末としては、平均粒子サイズが50nm以下の強磁性粉末を用いることが好ましく、平均粒子サイズが40nm以下の強磁性粉末を用いることがより好ましい。一方、磁化の安定性の観点からは、強磁性粉末の平均粒子サイズは5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、15nm以上であることが更に好ましい。
【0039】
強磁性粉末の好ましい具体例としては、六方晶フェライト粉末を挙げることができる。六方晶フェライト粉末は、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、カルシウムフェライト、鉛フェライト等であることができ、またはこれらの二種以上の混晶であってもよい。六方晶フェライト粉末の詳細については、例えば、特開2011-225417号公報の段落0012~0030、特開2011-216149号公報の段落0134~0136、特開2012-204726号公報の段落0013~0030および特開2015-127985号公報の段落0029~0084を参照できる。
【0040】
強磁性粉末の好ましい具体例としては、金属粉末を挙げることもできる。金属粉末の詳細については、例えば特開2011-216149号公報の段落0137~0141および特開2005-251351号公報の段落0009~0023を参照できる。
【0041】
強磁性粉末の好ましい具体例としては、ε-酸化鉄粉末を挙げることもできる。ε-酸化鉄粉末の製造方法としては、ゲーサイトから作製する方法、逆ミセル法等が知られている。上記製造方法は、いずれも公知である。また、Feの一部がGa、Co、Ti、Al、Rh等の置換原子によって置換されたε-酸化鉄粉末を製造する方法については、例えば、J. Jpn. Soc. Powder Metallurgy Vol. 61 Supplement, No. S1, pp. S280-S284、J. Mater. Chem. C, 2013, 1, pp.5200-5206等を参照できる。ただし、上記磁性層において強磁性粉末として使用可能なε-酸化鉄粉末の製造方法は限定されない。
【0042】
本発明および本明細書において、「強磁性粉末」とは、複数の強磁性粒子の集合を意味するものとする。「集合」とは、集合を構成する粒子が直接接触している態様に限定されず、結合剤、添加剤等が、粒子同士の間に介在している態様も包含される。以上の点は、本発明および本明細書における非磁性粉末等の各種粉末についても同様である。
本発明および本明細書において、特記しない限り、強磁性粉末等の各種粉末の平均粒子サイズは、透過型電子顕微鏡を用いて、以下の方法により測定される値とする。
粉末を、透過型電子顕微鏡を用いて撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントして粉末を構成する粒子の写真を得る。得られた粒子の写真から目的の粒子を選びデジタイザーで粒子の輪郭をトレースし粒子(一次粒子)のサイズを測定する。一次粒子とは、凝集のない独立した粒子をいう。
以上の測定を、無作為に抽出した500個の粒子について行う。こうして得られた500個の粒子の粒子サイズの算術平均を、粉末の平均粒子サイズとする。上記透過型電子顕微鏡としては、例えば日立製透過型電子顕微鏡H-9000型を用いることができる。また、粒子サイズの測定は、公知の画像解析ソフト、例えばカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて行うことができる。後述の実施例に示す平均粒子サイズ等の粉末のサイズに関する値は、特記しない限り、透過型電子顕微鏡として日立製透過型電子顕微鏡H-9000型、画像解析ソフトとしてカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて測定された値である。
【0043】
粒子サイズ測定のために磁気テープから試料粉末を採取する方法としては、例えば特開2011-048878号公報の段落0015に記載の方法を採用することができる。
【0044】
本発明および本明細書において、特記しない限り、粉末を構成する粒子のサイズ(粒子サイズ)は、上記の粒子写真において観察される粒子の形状が、
(1)針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粒子を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、
(2)板状または柱状(ただし、厚みまたは高さが板面または底面の最大長径より小さい)の場合は、その板面または底面の最大長径で表され、
(3)球形、多面体状、不特定形等であって、かつ形状から粒子を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
【0045】
また、粉末の平均針状比は、上記測定において粒子の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粒子の(長軸長/短軸長)の値を求め、上記500個の粒子について得た値の算術平均を指す。ここで、特記しない限り、短軸長とは、上記粒子サイズの定義で(1)の場合は、粒子を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚みまたは高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、特記しない限り、粒子の形状が特定の場合、例えば、上記粒子サイズの定義(1)の場合、平均粒子サイズは平均長軸長であり、同定義(2)の場合、平均粒子サイズは平均板径である。同定義(3)の場合、平均粒子サイズは、平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)である。
【0046】
一態様では、磁性層に含まれる強磁性粉末を構成する強磁性粒子の形状は板状であることができる。以下において、板状の強磁性粒子から構成される強磁性粉末を、板状強磁性粉末と記載する。板状強磁性粉末の平均板状比は、好ましくは2.5~5.0の範囲であることができる。平均板状比とは、上記の定義(2)の場合における(最大長径/厚みまたは高さ)の算術平均である。平均板状比が大きいほど、配向処理によって、板状強磁性粉末を構成する強磁性粒子の配向状態の均一性が高まり易い傾向があり、ΔNの値は大きくなる傾向がある。
【0047】
また、強磁性粉末の粒子サイズの指標としては、活性化体積を用いることもできる。「活性化体積」とは、磁化反転の単位である。本発明および本明細書に記載の活性化体積は、振動試料型磁束計を用いて保磁力Hc測定部の磁場スイープ速度3分と30分とで雰囲気温度23℃±1℃の環境下で測定し、以下のHcと活性化体積Vとの関係式から求められる値である。後述の実施例に示されている活性化体積は、東英工業社製振動試料型磁束計を用いて測定を行って求められた値である。
Hc=2Ku/Ms{1-[(kT/KuV)ln(At/0.693)]1/2}
[上記式中、Ku:異方性定数、Ms:飽和磁化、k:ボルツマン定数、T:絶対温度、V:活性化体積、A:スピン歳差周波数、t:磁界反転時間]
記録密度向上の観点からは、強磁性粉末の活性化体積は、2500nm3以下であることが好ましく、2300nm3以下であることがより好ましく、2000nm3以下であることが更に好ましい。一方、磁化の安定性の観点からは、強磁性粉末の活性化体積は、例えば800nm3以上であることが好ましく、1000nm3以上であることがより好ましく、1200nm3以上であることが更に好ましい。
【0048】
磁性層における強磁性粉末の含有量(充填率)は、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。磁性層の強磁性粉末以外の成分は、少なくとも結合剤であり、任意に一種以上の更なる添加剤が含まれ得る。磁性層において強磁性粉末の充填率が高いことは、記録密度向上の観点から好ましい。
【0049】
(結合剤、硬化剤)
上記磁気テープは塗布型磁気テープであって、磁性層に結合剤を含む。結合剤とは、一種以上の樹脂である。樹脂はホモポリマーであってもコポリマー(共重合体)であってもよい。磁性層に含まれる結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート等を共重合したアクリル樹脂、ニトロセルロース等のセルロース樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルキラール樹脂等から選択したものを単独で用いることができ、または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂および塩化ビニル樹脂である。これらの樹脂は、後述する非磁性層および/またはバックコート層においても結合剤として使用することができる。以上の結合剤については、特開2010-24113号公報の段落0029~0031を参照できる。また、結合剤は、電子線硬化型樹脂等の放射線硬化型樹脂であってもよい。放射線硬化型樹脂については、特開2011-048878号公報の段落0044~0045を参照できる。
結合剤として使用される樹脂の平均分子量は、重量平均分子量として、例えば10,000以上200,000以下であることができる。本発明および本明細書における重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定された値をポリスチレン換算して求められる値である。測定条件としては、下記条件を挙げることができる。後述の実施例に示す重量平均分子量は、下記測定条件によって測定された値をポリスチレン換算して求めた値である。
GPC装置:HLC-8120(東ソー社製)
カラム:TSK gel Multipore HXL-M(東ソー社製、7.8mmID(Inner Diameter)×30.0cm)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
【0050】
一態様では、結合剤として、酸性基を含む結合剤を用いることができる。本発明および本明細書における酸性基とは、水中または水を含む溶媒(水性溶媒)中でH+を放出してアニオンに解離可能な基およびその塩の形態を包含する意味で用いるものとする。酸性基の具体例としては、例えば、スルホン酸基、硫酸基、カルボキシ基、リン酸基、それらの塩の形態等を挙げることができる。例えば、スルホン酸基(-SO3H)の塩の形態とは、-SO3Mで表され、Mが水中または水性溶媒中でカチオンになり得る原子(例えばアルカリ金属原子等)を表す基を意味する。この点は、上記の各種の基の塩の形態についても同様である。酸性基を含む結合剤の一例としては、例えば、スルホン酸基およびその塩からなる群から選ばれる少なくとも一種の酸性基を含む樹脂(例えばポリウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂等)を挙げることができる。ただし、磁性層に含まれる樹脂は、これらの樹脂に限定されるものではない。また、酸性基を含む結合剤において、酸性基含有量は、例えば20~500eq/tonの範囲であることができる。単位「eq」は、当量(equivalent)を意味し、SI単位に換算不可の単位である。樹脂に含まれる酸性基等の各種官能基の含有量は、官能基の種類に応じて公知の方法で求めることができる。酸性基含有量が多い結合剤を使用するほど、ΔNの値は大きくなる傾向がある。結合剤は、磁性層形成用組成物中に、強磁性粉末100.0質量部に対して、例えば1.0~30.0質量部の量で使用することができ、好ましくは1.0~20.0質量部の量で使用することができる。強磁性粉末に対する結合剤の使用量を多くするほど、ΔNの値は大きくなる傾向がある。
【0051】
また、結合剤として使用可能な樹脂とともに硬化剤を使用することもできる。硬化剤は、一態様では加熱により硬化反応(架橋反応)が進行する化合物である熱硬化性化合物であることができ、他の一態様では光照射により硬化反応(架橋反応)が進行する光硬化性化合物であることができる。硬化剤は、磁性層形成工程の中で硬化反応が進行することにより、少なくとも一部は、結合剤等の他の成分と反応(架橋)した状態で磁性層に含まれ得る。この点は、他の層を形成するために用いられる組成物が硬化剤を含む場合に、この組成物を用いて形成される層についても同様である。好ましい硬化剤は、熱硬化性化合物であり、ポリイソシアネートが好適である。ポリイソシアネートの詳細については、特開2011-216149号公報の段落0124~0125を参照できる。硬化剤は、磁性層形成用組成物中に、結合剤100.0質量部に対して例えば0~80.0質量部、磁性層の強度向上の観点からは好ましくは50.0~80.0質量部の量で使用することができる。
【0052】
(添加剤)
磁性層には、強磁性粉末および結合剤が含まれ、必要に応じて一種以上の添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、一例として、上記の硬化剤が挙げられる。また、磁性層に含まれ得る添加剤としては、非磁性粉末、潤滑剤、分散剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、カーボンブラック等を挙げることができる。添加剤は、所望の性質に応じて市販品を適宜選択して使用することができる。例えば、潤滑剤については、特開2016-126817号公報の段落0030~0033、0035および0036を参照できる。非磁性層に潤滑剤が含まれていてもよい。非磁性層に含まれ得る潤滑剤については、特開2016-126817号公報の段落0030、0031、0034、0035および0036を参照できる。分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061および0071を参照できる。分散剤は、非磁性層に含まれていてもよい。非磁性層に含まれ得る分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061を参照できる。
【0053】
磁性層には、一種または二種以上の非磁性粉末が含まれることが好ましい。非磁性粉末としては、磁性層表面に適度に突出する突起を形成する突起形成剤として機能することができる非磁性粉末(以下、「突起形成剤」と記載する。)を挙げることができる。突起形成剤は、磁気テープの磁性層表面の摩擦特性制御に寄与し得る成分である。また、磁性層には、研磨剤として機能することができる非磁性粉末(以下、「研磨剤」と記載する。)が含まれてもよい。上記磁気テープの磁性層には、突起形成剤および研磨剤の少なくとも一方が含まれることが好ましく、両方が含まれることがより好ましい。
【0054】
突起形成剤としては、一般に突起形成剤として使用される各種非磁性粉末を用いることができる。これらは、無機物質の粉末であっても有機物質の粉末であってもよい。一態様では、摩擦特性の均一化の観点からは、突起形成剤の粒度分布は、分布中に複数のピークを有する多分散ではなく、単一ピークを示す単分散であることが好ましい。単分散粒子の入手容易性の点からは、磁性層に含まれる非磁性粉末は無機物質の粉末(無機粉末)であることが好ましい。無機粉末としては、金属酸化物等の無機酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の各粉末を挙げることができ、無機酸化物の粉末であることが好ましい。突起形成剤は、より好ましくはコロイド粒子であり、更に好ましくは無機酸化物コロイド粒子である。また、単分散粒子の入手容易性の観点からは、無機酸化物コロイド粒子は、コロイダルシリカ(シリカコロイド粒子)であることがより好ましい。本発明および本明細書において、「コロイド粒子」とは、少なくとも、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、トルエンもしくは酢酸エチル、または上記溶媒の二種以上を任意の混合比で含む混合溶媒の少なくとも1つの有機溶媒100mLあたり1g添加した際に、沈降せず分散しコロイド分散体をもたらすことのできる粒子をいうものとする。コロイド粒子については、平均粒子サイズは、特開2011-048878号公報の段落0015に平均粒径の測定方法として記載されている方法により求められる値とする。また、他の一態様では、突起形成剤は、カーボンブラックであることも好ましい。
【0055】
突起形成剤の平均粒子サイズは、例えば30~300nmであり、好ましくは40~200nmである。
【0056】
一方、研磨剤は、好ましくはモース硬度8超の非磁性粉末であり、モース硬度9以上の非磁性粉末であることがより好ましい。なおモース硬度の最大値は、ダイヤモンドの10である。具体的には、アルミナ(Al2O3)、炭化ケイ素、ボロンカーバイド(B4C)、SiO2、TiC、酸化クロム(Cr2O3)、酸化セリウム、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化鉄、ダイヤモンド等の各粉末を挙げることができ、中でもα-アルミナ等のアルミナ粉末および炭化ケイ素粉末が好ましい。また、研磨剤の粒子サイズに関しては、粒子サイズの指標である比表面積として、例えば14m2/g以上、好ましくは16m2/g以上、より好ましくは18m2/g以上である。また、研磨剤の比表面積は、例えば40m2/g以下であることができる。比表面積とは、窒素吸着法(BET(Brunauer-Emmett-Teller)1点法とも呼ばれる。)により求められる値である。以下において、かかる方法により求められる比表面積を、BET比表面積とも記載する。
【0057】
また、突起形成剤および研磨剤が、各機能をより良好に発揮することができるという観点から、磁性層における突起形成剤の含有量は、好ましくは強磁性粉末100.0質量部に対して、1.0~4.0質量部であり、より好ましくは1.5~3.5質量部である。一方、研磨剤については、磁性層における含有量は、好ましくは強磁性粉末100.0質量部に対して1.0~20.0質量部であり、より好ましくは3.0~15.0質量部であり、更に好ましくは4.0~10.0質量部である。
【0058】
研磨剤を含む磁性層に使用され得る添加剤の一例としては、特開2013-131285号公報の段落0012~0022に記載の分散剤を、磁性層形成用組成物における研磨剤の分散性を向上するための分散剤として挙げることができる。
【0059】
<非磁性層>
次に非磁性層について説明する。上記磁気テープは、非磁性支持体上に直接磁性層を有していてもよく、非磁性支持体と磁性層との間に非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層を有していてもよい。非磁性層に使用される非磁性粉末は、無機物質の粉末でも有機物質の粉末でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等が挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。その詳細については、特開2011-216149号公報の段落0146~0150を参照できる。非磁性層に使用可能なカーボンブラックについては、特開2010-24113号公報の段落0040~0041も参照できる。非磁性層における非磁性粉末の含有量(充填率)は、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。
【0060】
非磁性層の結合剤、添加剤等のその他詳細は、非磁性層に関する公知技術が適用できる。また、例えば、結合剤の種類および含有量、添加剤の種類および含有量等に関しては、磁性層に関する公知技術も適用できる。
【0061】
上記磁気テープの非磁性層には、非磁性粉末とともに、例えば不純物として、または意図的に、少量の強磁性粉末を含む実質的に非磁性な層も包含されるものとする。ここで実質的に非磁性な層とは、この層の残留磁束密度が10mT以下であるか、保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であるか、または、残留磁束密度が10mT以下であり、かつ保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下である層をいうものとする。非磁性層は、残留磁束密度および保磁力を持たないことが好ましい。
【0062】
<非磁性支持体>
次に、非磁性支持体について説明する。非磁性支持体(以下、単に「支持体」とも記載する。)としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートおよびポリアミドが好ましい。これらの支持体には、あらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、加熱処理等を行ってもよい。
【0063】
<バックコート層>
上記磁気テープは、非磁性支持体の磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末および結合剤を含むバックコート層を有することもできる。バックコート層には、カーボンブラックおよび無機粉末の一方または両方が含有されていることが好ましい。バックコート層に含まれる結合剤、任意に含まれ得る各種添加剤については、バックコート層に関する公知技術を適用することができ、磁性層および/または非磁性層の処方に関する公知技術を適用することもできる。例えば、特開2006-331625号公報の段落0018~0020および米国特許第7,029,774号明細書の第4欄65行目~第5欄38行目の記載を、バックコート層について参照できる。
【0064】
<各種厚み>
上記磁気テープの総厚は、5.30μm以下である。総厚が薄いこと(薄型化)は、磁気テープカートリッジの1巻あたりの記録容量を高めるうえで好ましい。上記磁気テープの総厚は、例えば5.20μm以下、5.10μm以下、または5.00μm以下であってもよい。また、上記磁気テープの総厚は、例えば、磁気テープの取り扱いの容易性(ハンドリング性)等の観点からは、1.00μm以上であることが好ましく、2.00μm以上であることがより好ましく、3.00μm以上であることが更に好ましく、4.00μm以上であることが一層好ましい。
【0065】
非磁性支持体の厚みは、好ましくは3.00~4.50μmである。磁性層の厚みは、近年求められている高密度記録化の観点からは0.15μm以下であることが好ましく、0.10μm以下であることがより好ましい。磁性層の厚みは、0.01~0.10μmの範囲であることが更に好ましい。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。2層以上に分離する場合の磁性層の厚みとは、これらの層の合計厚みとする。
【0066】
非磁性層の厚みは、例えば0.10~1.50μmであり、0.10~1.00μmであることが好ましい。
【0067】
バックコート層の厚みは、0.90μm以下であることが好ましく、0.10~0.70μmの範囲であることが更に好ましい。
【0068】
各層および非磁性支持体の厚みは、磁気テープの厚み方向の断面を、イオンビーム、ミクロトーム等の公知の手法により露出させた後、露出した断面において走査型透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope;STEM)により断面観察を行い求めるものとする。厚みの測定方法の具体例については、後述の実施例における厚みの測定方法に関する記載を参照できる。
【0069】
<製造工程>
(各層形成用組成物の調製)
磁性層、非磁性層またはバックコート層を形成するための組成物を調製する工程は、通常、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程を含む。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。各層形成用組成物の調製に用いられる成分は、どの工程の最初または途中で添加してもかまわない。溶媒としては、塗布型磁気記録媒体の製造に通常用いられる各種溶媒の一種または二種以上を用いることができる。溶媒については、例えば特開2011-216149号公報の段落0153を参照できる。また、個々の成分を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、結合剤を混練工程、分散工程および分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。上記磁気テープを製造するためには、従来の公知の製造技術を各種工程において用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダ等の強い混練力をもつものを使用することが好ましい。これらの混練処理の詳細については特開平1-106338号公報および特開平1-79274号公報を参照できる。分散機は公知のものを使用することができる。また、強磁性粉末と研磨剤とを別分散することもできる。別分散とは、より詳しくは、研磨剤および溶媒を含む研磨剤液(但し、強磁性粉末を実質的に含まない)を、強磁性粉末、溶媒および結合剤を含む磁性液と混合する工程を経て磁性層形成用組成物を調製する方法である。上記の「強磁性粉末を実質的に含まない」とは、研磨剤液の構成成分として強磁性粉末を添加しないことを意味するものであって、意図せず混入した不純物として微量の強磁性粉末が存在することは許容されるものとする。ΔNに関しては、上記磁性液の分散時間を長くするほど、ΔNの値が大きくなる傾向がある。これは、磁性液の分散時間を長くするほど、磁性層形成用組成物の塗布層における強磁性粉末の分散性が高まり、配向処理によって強磁性粉末を構成する強磁性粒子の配向状態の均一性が高まり易い傾向があるためと考えられる。また、非磁性層形成用組成物の各種成分を混合し分散する際の分散時間を長くするほど、ΔNの値は大きくなる傾向がある。磁性液の分散時間および非磁性層形成用組成物の分散時間は、0.25以上0.40以下のΔNが実現できるように設定すればよい。
各層形成用組成物を調製する任意の段階において、公知の方法によってろ過を行ってもよい。ろ過は、例えばフィルタろ過によって行うことができる。ろ過に用いるフィルタとしては、例えば孔径0.01~3μmのフィルタ(例えばガラス繊維製フィルタ、ポリプロピレン製フィルタ等)を用いることができる。
【0070】
(塗布工程)
磁性層は、磁性層形成用組成物を、例えば、非磁性支持体上に直接塗布するか、または非磁性層形成用組成物と逐次もしくは同時に重層塗布することにより形成することができる。バックコート層は、バックコート層形成用組成物を、非磁性支持体の磁性層を有する(または磁性層が追って設けられる)側とは反対側に塗布することにより形成することができる。また、各層を形成するための塗布工程は、2段階以上の工程に分けて行うこともできる。例えば一態様では、磁性層形成用組成物を2段階以上の工程に分けて塗布することができる。この場合、2つの段階の塗布工程の間に乾燥処理を施してもよく、施さなくてもよい。また、2つの段階の塗布工程の間に配向処理を施してもよく、施さなくてもよい。各層形成のための塗布の詳細については、特開2010-231843号公報の段落0066も参照できる。また、各層形成用組成物を塗布した後の乾燥工程については、公知技術を適用できる。磁性層形成用組成物に関しては、磁性層形成用組成物を塗布して形成された塗布層(以下、「磁性層形成用組成物の塗布層」または単に「塗布層」とも記載する。)の乾燥温度を低くするほど、ΔNの値は大きくなる傾向がある。乾燥温度は、例えば乾燥工程を行う雰囲気温度であることができ、0.25以上0.40以下のΔNが実現できるように設定すればよい。
【0071】
(その他の工程)
磁気テープ製造のためのその他の各種工程については、特開2010-231843号公報の段落0067~0070を参照できる。
例えば、磁性層形成用組成物の塗布層には、この塗布層が湿潤状態にあるうちに配向処理を施すことが好ましい。0.25以上0.40以下のΔNを実現する容易性の観点からは、配向処理は、磁性層形成用組成物の塗布層の表面に対して垂直に磁場が印加されるように磁石を配置して行うこと(即ち垂直配向処理)が好ましい。配向処理時の磁場の強度は、0.25以上0.40以下のΔNが実現できるように設定すればよい。また、磁性層形成用組成物の塗布工程を2段階以上の塗布工程により行う場合には、少なくとも最後の塗布工程の後に配向処理を行うことが好ましく、垂直配向処理を行うことがより好ましい。例えば2段階の塗布工程によって磁性層を形成する場合、1段階目の塗布工程の後には配向処理を行うことなく乾燥工程を行い、その後に2段階目の塗布工程で形成された塗布層に対して配向処理を施すことができる。配向処理については、特開2010-24113号公報の段落0052の記載をはじめとする各種公知技術を適用することができる。例えば、垂直配向処理は、異極対向磁石を用いる方法等の公知の方法によって行うことができる。配向ゾーンでは、乾燥風の温度、風量および/または配向ゾーンにおける磁気テープの搬送速度によって塗布層の乾燥速度を制御することができる。また、配向ゾーンに搬送する前に塗布層を予備乾燥させてもよい。
また、磁性層形成用組成物の塗布層を乾燥させた後の任意の段階でカレンダ処理を行うことができる。カレンダ処理の条件については、例えば特開2010-231843号公報の段落0026を参照できる。カレンダ温度(カレンダロールの表面温度)を高くするほど、ΔNの値は大きくなる傾向がある。また、カレンダ温度を高くするほど、磁性層表面粗さRaの値は小さくなる傾向がある。カレンダ温度は、0.25以上0.40以下のΔNおよび1.8nm以下のRaが実現できるように設定すればよい。
【0072】
(サーボパターンの形成)
上記磁気テープは、磁性層にサーボパターンを有する。サーボパターンについて、詳細は先に記載した通りである。例えば、タイミングベースサーボパターンが形成された領域(サーボバンド)および2本のサーボバンドに挟まれた領域(データバンド)の配置例が、
図1に示されている。タイミングベースサーボパターンの配置例は、
図2に示されている。ただし、各図面に示す配置例は例示であって、磁気テープ装置(ドライブ)の方式に応じた配置でサーボパターン、サーボバンドおよびデータバンドを配置すればよい。また、タイミングベースサーボパターンの形状および配置については、例えば、米国特許第5689384号のFIG.4、FIG.5、FIG.6、FIG.9、FIG.17、FIG.20等に例示された配置例等の公知技術を適用することができる。
【0073】
サーボパターンは、磁性層の特定の領域をサーボライターに搭載されたサーボライトヘッドにより磁化することによって形成することができる。磁化の方向は、磁気テープの長手方向または垂直方向(換言すると面内方向)であることができる。また、サーボパターンの形成は、通常、磁性層をDC(Direct Current)消磁した後に行われる。消磁の方向は、磁気テープの長手方向または垂直方向であることができる。サーボライトヘッドにより磁化する領域(サーボパターンを形成する位置)は規格により定められている。サーボライターとしては、市販のサーボライターまたは公知の構成のサーボライターを用いることができる。サーボライターの構成については、例えば特開2011-175687号公報、米国特許第5689384号、米国特許第6542325号等に記載の技術等の公知技術を採用できる。
【0074】
以上により、本発明の一態様にかかる磁気テープを得ることができる。磁気テープは、通常、磁気テープカートリッジに収容され、磁気テープカートリッジが磁気テープ装置に装着される。
【0075】
[磁気テープカートリッジ]
本発明の一態様は、上記磁気テープを含む磁気テープカートリッジに関する。
【0076】
磁気テープカートリッジでは、一般に、カートリッジ本体内部に磁気テープがリールに巻き取られた状態で収容されている。リールは、カートリッジ本体内部に回転可能に備えられている。磁気テープカートリッジとしては、カートリッジ本体内部にリールを1つ具備する単リール型の磁気テープカートリッジおよびカートリッジ本体内部にリールを2つ具備する双リール型の磁気テープカートリッジが広く用いられている。単リール型の磁気テープカートリッジは、磁気テープへの情報(磁気信号)の記録および/または再生のために磁気テープ装置(ドライブ)に装着されると、磁気テープカートリッジから磁気テープが引き出されてドライブ側のリールに巻き取られる。磁気テープカートリッジから巻き取りリールまでの磁気テープ搬送経路には、磁気ヘッドが配置されている。磁気テープカートリッジ側のリール(供給リール)とドライブ側のリール(巻き取りリール)との間で、磁気テープの送り出しと巻き取りが行われる。この間、磁気ヘッドと磁気テープの磁性層表面とが接触し摺動することにより、情報の記録および/または再生が行われる。これに対し、双リール型の磁気テープカートリッジは、供給リールと巻き取りリールの両リールが、磁気テープカートリッジ内部に具備されている。上記磁気テープカートリッジは、単リール型および双リール型のいずれの磁気テープカートリッジであってもよい。上記磁気テープカートリッジは、本発明の一態様にかかる磁気テープを含むものであればよく、その他については公知技術を適用することができる。
【0077】
[磁気テープ装置]
本発明の一態様は、上記磁気テープと、磁気ヘッドと、を含む磁気テープ装置に関する。
【0078】
本発明および本明細書において、「磁気テープ装置」とは、磁気テープへの情報の記録および磁気テープに記録された情報の再生の少なくとも一方を行うことができる装置を意味するものとする。かかる装置は、一般にドライブと呼ばれる。上記磁気テープ装置は、摺動型の磁気テープ装置であることができる。摺動型の装置とは、磁気テープへの情報の記録および/または記録された情報の再生を行う際に磁性層表面と磁気ヘッドとが接触し摺動する装置をいう。
【0079】
上記磁気テープ装置に含まれる磁気ヘッドは、磁気テープへの情報の記録を行うことができる記録ヘッドであることができ、磁気テープに記録された情報の再生を行うことができる再生ヘッドであることもできる。また、上記磁気テープ装置は、一態様では、別々の磁気ヘッドとして、記録ヘッドと再生ヘッドの両方を含むことができる。他の一態様では、上記磁気テープに含まれる磁気ヘッドは、記録素子と再生素子の両方を1つの磁気ヘッドに備えた構成を有することもできる。再生ヘッドとしては、磁気テープに記録された情報を感度よく読み取ることができる磁気抵抗効果型(magnetoresistive;MR)素子を再生素子として含む磁気ヘッド(MRヘッド)が好ましい。MRヘッドとしては、公知の各種MRヘッドを用いることができる。また、情報の記録および/または情報の再生を行う磁気ヘッドには、サーボパターン読み取り素子が含まれていてもよい。または、情報の記録および/または情報の再生を行う磁気ヘッドとは別のヘッドとして、サーボパターン読み取り素子を備えた磁気ヘッド(サーボヘッド)が上記磁気テープ装置に含まれていてもよい。
【0080】
上記磁気テープ装置に搭載される磁気テープの詳細は、先に記載した通りである。かかる磁気テープは、サーボパターンを有する。したがって、磁気ヘッドによりデータバンド上に磁気信号を記録してデータトラックを形成し、および/または、記録された信号を再生する際、サーボヘッドによりサーボパターンを読み取りながら読み取られたサーボパターンに基づきヘッドトラッキングを行うことによって、磁気ヘッドをデータトラックに高精度に追従させることができる。
【0081】
タイミングベースサーボ方式のヘッドトラッキングサーボの詳細については、例えば、米国特許第5689384号、米国特許第6542325号、および米国特許第7876521号に記載の技術をはじめとする公知技術を適用することができる。また、振幅ベースサーボ方式のヘッドトラッキングサーボの詳細については、例えば、米国特許第5426543号および米国特許第5898533号をはじめとする公知技術を適用することができる。
【0082】
市販の磁気テープ装置には、通常、規格に応じた磁気ヘッドが備えられている。また、市販の磁気テープ装置には、通常、規格に応じたサーボシステムにおけるヘッドトラッキングを可能にするためのサーボ制御機構が備えられている。本発明の一態様にかかる磁気テープ装置は、例えば、市販の磁気テープ装置に本発明の一態様にかかる磁気テープを組み込むことにより構成することができる。
【実施例0083】
以下に、本発明を実施例に基づき説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。以下に記載の「部」、「%」の表示は、特に断らない限り、「質量部」、「質量%」を示す。また、以下に記載の工程および評価は、特記しない限り、雰囲気温度23℃±1℃の環境において行った。
【0084】
[実施例1]
<研磨剤液の調製>
アルファ化率約65%、BET比表面積20m2/gのアルミナ粉末(住友化学社製HIT-80)100.0部に対し、2,3-ジヒドロキシナフタレン(東京化成社製)を3.0部、SO3Na基含有ポリエステルポリウレタン樹脂(東洋紡社製UR-4800(SO3Na基:0.08meq/g))の32%溶液(溶媒はメチルエチルケトンとトルエンの混合溶媒)を31.3部、溶媒としてメチルエチルケトンとシクロヘキサノン1:1(質量比)の混合溶媒570.0部を混合し、ジルコニアビーズの存在下で、ペイントシェーカーにより5時間分散させた。分散後、メッシュにより分散液とビーズとを分け、アルミナ分散物を得た。
【0085】
<磁性層形成用組成物の調製>
(磁性液)
板状強磁性六方晶バリウムフェライト粉末 100.0部
活性化体積:1600nm3、平均板状比:3.5
SO3Na基含有ポリウレタン樹脂 表1参照
重量平均分子量:70,000、SO3Na基含有量:表1参照
シクロヘキサノン 150.0部
メチルエチルケトン 150.0部
(研磨剤液)
上記で調製したアルミナ分散物 6.0部
(シリカゾル(突起形成剤液))
コロイダルシリカ(平均粒子サイズ:100nm) 2.0部
メチルエチルケトン 1.4部
(その他成分)
ステアリン酸 2.0部
ブチルステアレート 2.0部
ポリイソシアネート(東ソー社製コロネート(登録商標)) 2.5部
(仕上げ添加溶媒)
シクロヘキサノン 200.0部
メチルエチルケトン 200.0部
【0086】
(調製方法)
上記磁性液の各種成分を、バッチ式縦型サンドミルにおいて分散メディアとしてビーズを用いてビーズ分散することにより、磁性液を調製した。ビーズとしてはジルコニアビーズ(ビーズ径:表1参照)を用いて、表1に記載の時間(磁性液ビーズ分散時間)、ビーズ分散を行った。
こうして得られた磁性液、上記の研磨剤液、シリカゾル、その他成分および仕上げ添加溶媒を混合し5分間ビーズ分散した後、バッチ型超音波装置(20kHz、300W)で0.5分間処理(超音波分散)を行った。その後、0.5μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過を行い磁性層形成用組成物を調製した。
【0087】
<非磁性層形成用組成物の調製>
下記の非磁性層形成用組成物の各種成分のうち、ステアリン酸、ブチルステアレート、シクロヘキサノンおよびメチルエチルケトンを除いた成分を、バッチ式縦型サンドミルを用いてビーズ分散(分散メディア:ジルコニアビーズ(ビーズ径:0.1mm)、分散時間:表1参照)して分散液を得た。その後、得られた分散液に残りの成分を添加し、ディゾルバー撹拌機により撹拌した。次いで、得られた分散液をフィルタ(孔径0.5μm)を用いてろ過し、非磁性層形成用組成物を調製した。
【0088】
非磁性無機粉末:α-酸化鉄 100.0部
平均粒子サイズ(平均長軸長):0.15μm
平均針状比:7
BET比表面積:52m2/g
カーボンブラック 20.0部
平均粒子サイズ:20nm
電子線硬化型塩化ビニル共重合体 13.0部
電子線硬化型ポリウレタン樹脂 6.0部
ステアリン酸 1.0部
ブチルステアレート 1.0部
シクロヘキサノン 300.0部
メチルエチルケトン 300.0部
【0089】
<バックコート層形成用組成物の調製>
下記のバックコート層形成用組成物の各種成分のうち、ステアリン酸、ブチルステアレート、ポリイソシアネートおよびシクロヘキサノンを除いた成分をオープンニーダにより混練および希釈して混合液を得た。その後、得られた混合液に対して横型ビーズミルにより、ビーズ径1.0mmのジルコニアビーズを用い、ビーズ充填率80体積%およびローター先端周速10m/秒で、1パスあたりの滞留時間を2分とし、12パスの分散処理を行った。その後、得られた分散液に残りの成分を添加し、ディゾルバー撹拌機により撹拌した。次いで、得られた分散液をフィルタ(孔径:1.0μm)を用いてろ過し、バックコート層形成用組成物を調製した。
【0090】
非磁性無機粉末:α-酸化鉄 80.0部
平均粒子サイズ(平均長軸長):0.15μm
平均針状比:7
BET比表面積:52m2/g
カーボンブラック 20.0部
平均粒子サイズ:20nm
塩化ビニル共重合体 13.0部
スルホン酸塩基含有ポリウレタン樹脂 6.0部
フェニルホスホン酸 3.0部
メチルエチルケトン 155.0部
ステアリン酸 3.0部
ブチルステアレート 3.0部
ポリイソシアネート 5.0部
シクロヘキサノン 355.0部
【0091】
<磁気テープの作製>
ポリエチレンナフタレート支持体上に、非磁性層形成用組成物を塗布し乾燥させた後、125kVの加速電圧で40kGyのエネルギーとなるように電子線を照射して非磁性層を形成した。
形成した非磁性層の表面上に磁性層形成用組成物を塗布して塗布層を形成した。この塗布層が湿潤状態にあるうちに、表1に記載の雰囲気温度(磁性層乾燥温度)の雰囲気中で異極対向磁石を用いて表1の「磁性層の形成と配向」欄に記載の強度の磁場を塗布層の表面に対して垂直方向に印加して垂直配向処理および乾燥処理を行い、磁性層を形成した。
その後、上記支持体の、非磁性層および磁性層を形成した表面とは反対側の表面上に、バックコート層形成用組成物を塗布し乾燥させた。
その後、金属ロールのみから構成されるカレンダロールを用いて、カレンダ処理速度80m/min、線圧300kg/cm(294kN/m)、および表1に記載のカレンダ温度(カレンダロールの表面温度)の条件下で、表面平滑化処理(カレンダ処理)を行った。
その後、雰囲気温度70℃の環境で36時間熱処理を行った。熱処理後、1/2インチ(1インチは0.0254メートル)幅にスリットし、スリット品の送り出しおよび巻き取り装置を持った装置に不織布とカミソリブレードが磁性層表面に押し当たるように取り付けたテープクリーニング装置で磁性層の表面のクリーニングを行った。その後、市販のサーボライターによって磁性層にLTO Ultriumフォーマットにしたがう配置および形状のサーボパターン(タイミングベースサーボパターン)を形成した。
以上により、実施例1の磁気テープを作製した。
【0092】
[実施例2、4、比較例1~4、6、参考例1~4]
表1に記載の各種項目を表1に記載のように変更した点以外、実施例1と同様の方法により磁気テープを作製した。各層の厚みは、各層形成用組成物の塗布量によって調整した。
表1中、「磁性層の形成と配向」欄に「配向処理なし」と記載されている比較例および参考例は、磁性層形成用組成物の塗布層について配向処理を行わずに磁気テープを作製した。
【0093】
[実施例3]
実施例1と同様にポリエチレンナフタレート支持体上に非磁性層を形成した後、非磁性層の表面上に乾燥後の厚みが50nmになるように磁性層形成用組成物を塗布して第一の塗布層を形成した。この第一の塗布層を、磁場の印加なしに表1に記載の雰囲気温度(磁性層乾燥温度)の雰囲気中を通過させて第一の磁性層(配向処理なし)を形成した。
その後、第一の磁性層の表面上に乾燥後の厚みが50nmになるように磁性層形成用組成物を塗布して第二の塗布層を形成した。この第二の塗布層が湿潤状態にあるうちに、表1に示す雰囲気温度(磁性層乾燥温度)の雰囲気中で異極対向磁石を用いて表1の「磁性層の形成と配向」欄に記載の強度の磁場を第二の塗布層の表面に対して垂直方向に印加して垂直配向処理および乾燥処理を行い、第二の磁性層を形成した。
以上のように重層磁性層を形成した点以外、実施例1と同様の方法により磁気テープを作製した。
【0094】
[比較例5]
実施例1と同様にポリエチレンナフタレート支持体上に非磁性層を形成した後、非磁性層の表面上に乾燥後の厚みが50nmになるように磁性層形成用組成物を塗布して第一の塗布層を形成した。この第一の塗布層が湿潤状態にあるうちに、表1に記載の雰囲気温度(磁性層乾燥温度)の雰囲気中で異極対向磁石を用いて表1の「磁性層の形成と配向」欄に記載の強度の磁場を第一の塗布層の表面に対して垂直方向に印加して垂直配向処理および乾燥処理を行い、第一の磁性層を形成した。
その後、第一の磁性層の表面上に乾燥後の厚みが50nmになるように磁性層形成用組成物を塗布して第二の塗布層を形成した。この第二の塗布層を、磁場の印加なしに表1に記載の雰囲気温度(磁性層乾燥温度)の雰囲気中を通過させて第二の磁性層(配向処理なし)を形成した。
以上のように重層磁性層を形成した点以外、実施例1と同様の方法により磁気テープを作製した。
【0095】
[測定方法]
(1)磁性層表面粗さRa
原子間力顕微鏡(AFM、Veeco社製Nanoscope4)をタッピングモードで用いて、磁気テープの磁性層表面において測定面積40μm×40μmの範囲を測定し、中心線平均表面粗さRa(磁性層表面粗さRa)を求めた。探針としてはBRUKER社製RTESP-300を使用し、スキャン速度(探針移動速度)は40μm/秒、分解能は512pixel×512pixelとした。
【0096】
(2)非磁性支持体および各層の厚み
作製した各磁気テープの磁性層、非磁性層、非磁性支持体およびバックコート層の厚みを以下の方法によって測定した。測定された各種厚み、および各種厚みから算出された磁気テープ総厚を、表1に示す。
ここで測定された磁性層、非磁性層および非磁性支持体の厚みを、以下の屈折率の算出のために用いた。
(i)断面観察用試料の作製
特開2016-177851号公報の段落0193~0194に記載の方法にしたがい、磁気テープの磁性層側表面からバックコート層側表面までの厚み方向の全領域を含む断面観察用試料を作製した。
(ii)厚み測定
作製した試料をSTEM観察し、STEM像を撮像した。このSTEM像は、加速電圧300kVおよび撮像倍率450000倍で撮像したSTEM -HAADF(High-Angle Annular Dark Field)像であり、1画像に、磁気テープの磁性層側表面からバックコート層側表面までの厚み方向の全領域が含まれるように撮像した。こうして得られたSTEM像において、磁性層表面を表す線分の両端を結ぶ直線を、磁気テープの磁性層側表面を表す基準線として定めた。上記の線分の両端を結ぶ直線とは、例えば、STEM像を、断面観察用試料の磁性層側が画像の上方に位置しバックコート層側が下方に位置するように撮像した場合には、STEM像の画像(形状は長方形または正方形)の左辺と上記線分との交点とSTEM像の右辺と上記線分との交点とを結ぶ直線である。同様に磁性層と非磁性層との界面を表す基準線、非磁性層と非磁性支持体との界面を表す基準線、非磁性支持体とバックコート層との界面を表す基準線、磁気テープのバックコート層側表面を表す基準線を定めた。
磁性層の厚みは、磁気テープの磁性層側表面を表す基準線上の無作為に選んだ1箇所から、磁性層と非磁性層との界面を表す基準線までの最短距離として求めた。同様に、非磁性層、非磁性支持体およびバックコート層の厚みを求めた。
【0097】
(3)磁性層のΔN
以下では、エリプソメーターとしてウーラム社製M-2000Uを使用した。2層モデルまたは1層モデルの作成およびフィッティングは、解析ソフトとしてウーラム社製WVASE32を使用して行った。
(i)非磁性支持体の屈折率測定
各磁気テープから測定用試料を切り出した。未使用の布にフレッシュなメチルエチルケトンを染み込ませ、この布を用いて測定用試料のバックコート層をふき取り除去して非磁性支持体表面を露出させた後、露出した表面の反射光がこの後に行われるエリプソメーターでの測定において検出されないように、この表面をサンドペーパーにより粗面化した。
その後、未使用の布にフレッシュなメチルエチルケトンを染み込ませ、この布を用いて測定用試料の磁性層および非磁性層をふき取り除去した後、シリコンウェハー表面と粗面化した表面とを静電気を利用して貼り付けることにより、測定用試料を、磁性層および非磁性層を除去して露出した非磁性支持体表面(以下、「非磁性支持体の磁性層側表面」と記載する。)を上方に向けてシリコンウェハー上に配置した。
エリプソメーターを用いて、このシリコンウェハー上の測定用試料の非磁性支持体の磁性層側表面に先に記載したように入射光を入射させてΔおよびΨを測定した。得られた測定値および上記(2)で求めた非磁性支持体の厚みを用いて、先に記載した方法によって非磁性支持体の屈折率(長手方向における屈折率、幅方向における屈折率、長手方向から入射光を入射させて測定される厚み方向における屈折率、および幅方向から入射光を入射させて測定される厚み方向における屈折率)を求めた。
(ii)非磁性層の屈折率測定
各磁気テープから測定用試料を切り出した。未使用の布にフレッシュなメチルエチルケトンを染み込ませ、この布を用いて測定用試料のバックコート層をふき取り除去して非磁性支持体表面を露出させた後、露出した表面の反射光がこの後に行われる分光エリプソメーターでの測定において検出されないように、この表面をサンドペーパーにより粗面化した。
その後、未使用の布にフレッシュなメチルエチルケトンを染み込ませ、この布を用いて測定用試料の磁性層表面を軽くふき取り磁性層を除去して非磁性層表面を露出させた後、上記(i)と同様にシリコンウェハー上に測定用試料を配置した。
このシリコンウェハー上の測定用試料の非磁性層表面について、エリプソメーターを用いて測定を行い、分光エリプソメトリーにより、先に記載した方法によって非磁性層の屈折率(長手方向における屈折率、幅方向における屈折率、長手方向から入射光を入射させて測定される厚み方向における屈折率、および幅方向から入射光を入射させて測定される厚み方向における屈折率)を求めた。
(iii)磁性層の屈折率測定
各磁気テープから測定用試料を切り出した。未使用の布にフレッシュなメチルエチルケトンを染み込ませ、この布を用いて測定用試料のバックコート層をふき取り除去して非磁性支持体表面を露出させた後、露出した表面の反射光がこの後に行われる分光エリプソメーターでの測定において検出されないように、この表面をサンドペーパーにより粗面化した。
その後、測定用試料を、上記(i)と同様にシリコンウェハー上に測定用試料を配置した。
このシリコンウェハー上の測定用試料の磁性層表面について、エリプソメーターを用いて測定を行い、分光エリプソメトリーにより、先に記載した方法によって磁性層の屈折率(長手方向における屈折率Nx、幅方向における屈折率Ny、長手方向から入射光を入射させて測定される厚み方向における屈折率Nz1、および幅方向から入射光を入射させて測定される厚み方向における屈折率Nz2)を求めた。求められた値から、Nxy、Nzを求め、更にこれらの差分の絶対値ΔNを求めた。実施例、比較例および参考例のいずれの磁気テープについても、求められたNxyは、Nzより大きな値(即ちNxy>Nz)であった。
【0098】
(4)垂直方向角型比(SQ;Squareness Ratio)
磁気テープの垂直方向角型比とは、磁気テープの垂直方向において測定される角型比である。角型比に関して記載する「垂直方向」とは、磁性層表面と直交する方向をいう。実施例、比較例および参考例の各磁気テープについて、振動試料型磁束計(東英工業社製)を用いて、23℃±1℃の測定温度において、磁気テープに外部磁場を最大外部磁場1194kA/m(15kOe)かつスキャン速度4.8kA/m/秒(60Oe/秒)の条件で掃引して垂直方向角型比を求めた。測定値は反磁界補正後の値であり、振動試料型磁束計のサンプルプローブの磁化をバックグラウンドノイズとして差し引いた値として得るものとする。一態様では、磁気テープの垂直方向角型比は0.60以上1.00以下であることが好ましい。また、一態様では、磁気テープの垂直方向角型比は、例えば0.90以下、0.85以下、または0.80以下であることもでき、これらの値を上回ることもできる。
【0099】
(5)サーボ信号再生時の信号欠陥(サーマルアスペリティ)発生頻度
実施例、比較例および参考例の各磁気テープをサーボ試験機に取り付けた。このサーボ試験機において各磁気テープを走行させ、走行している磁気テープの磁性層表面とMR素子を搭載したサーボヘッドとを接触させ摺動させることにより、上記サーボヘッドによってサーボパターンの読み取り(サーボ信号の再生)を行った。再生によって得られたサーボ信号の再生波形の中で、正常なバースト信号ではなく、かつノイズレベルの出力の平均値を100%として200%以上の出力を示している部分をサーマルアスペリティと判定して、サーマルアスペリティの発生回数をカウントした。カウントされたサーマルアスペリティの発生回数を磁気テープ全長で除した値(回数/m)を、信号欠陥(サーマルアスペリティ)の発生頻度とした。
【0100】
以上の結果を、表1(表1-1~表1-4)に示す。
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
参考例1~4と比較例1~6との対比により、磁気テープ総厚が5.30μm超の場合(参考例1および2)、ならびに磁性層表面粗さRaが1.8nm超の場合(参考例3および4)と比べ、磁気テープ総厚が5.30μm以下であり、かつ磁性層表面粗さRaが1.8nm以下の場合には、サーボ信号再生時に信号欠陥の発生頻度が顕著に増加することが確認された(比較例1~6)。
これに対し実施例1~4の磁気テープは、総厚が5.30μm以下であり、かつ磁性層表面粗さRaが1.8nm以下であるものの、比較例1~6の磁気テープと比べてサーボ信号再生時に信号欠陥の発生頻度が大きく低減された。
なお一般に、角型比は磁性層における強磁性粉末の存在状態の指標として知られている。ただし、表1に示すように、垂直方向角型比が同じ磁気テープであってもΔNは相違している(例えば実施例3、4、比較例5)。このことは、ΔNは、磁性層における強磁性粉末の存在状態に加えて他の要因の影響も受ける値であることを示していると本発明者は考えている。