(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117105
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】核酸を植物細胞のゲノムへ導入する方法
(51)【国際特許分類】
A01H 1/00 20060101AFI20220803BHJP
C12N 15/89 20060101ALI20220803BHJP
C12N 15/82 20060101ALI20220803BHJP
C12N 15/65 20060101ALI20220803BHJP
C12N 15/87 20060101ALI20220803BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220803BHJP
A01H 5/00 20180101ALI20220803BHJP
【FI】
A01H1/00 A
C12N15/89 Z ZNA
C12N15/82 Z
C12N15/65 Z
C12N15/87 Z
C12N5/10
A01H5/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021013616
(22)【出願日】2021-01-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発/植物の生産性制御に係る共通基盤技術開発/ゲノム編集の国産技術基盤プラットフォームの確立」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】501410115
【氏名又は名称】学校法人高崎健康福祉大学
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】吉積 毅
(72)【発明者】
【氏名】木村 光宏
(72)【発明者】
【氏名】中村 史
【テーマコード(参考)】
2B030
4B065
【Fターム(参考)】
2B030AB04
2B030CA15
2B030CA16
2B030CA17
4B065AA88X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BA04
4B065BA25
4B065CA53
(57)【要約】
【課題】in planta形質転換法において課題となっていた形質転換効率を改善し、所望の遺伝子導入植物を容易に作出する方法を提供すること。
【解決手段】以下の工程を含む、核酸を植物細胞のゲノムへ導入する方法:
(1)植物の茎頂分裂組織に核酸を接触させる工程、
(2)該核酸に接触した該茎頂分裂組織にマイクロニードルを穿刺する工程。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、核酸を植物細胞のゲノムへ導入する方法:
(1)植物の茎頂分裂組織に核酸を接触させる工程、
(2)該核酸に接触した該茎頂分裂組織にマイクロニードルを穿刺する工程。
【請求項2】
該植物が種子植物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該核酸が発現ベクターに含まれる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
該核酸がマーカータンパク質をコードする塩基配列をさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
接触される核酸が該核酸とオルガネラ送達型ペプチドの混合物である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
以下の工程を含む、核酸が導入されたゲノムを有する植物細胞を含む植物体の製造方法:
(1)植物の茎頂分裂組織に核酸を接触させる工程、
(2)該核酸に接触した該茎頂分裂組織にマイクロニードルを穿刺する工程、
(3)穿刺された該茎頂分裂組織を固形培地上で生育し、植物体を得る工程、
(4)得られた該植物体から該核酸が導入されたゲノムを有する植物細胞を含む植物体を選抜する工程。
【請求項7】
該植物が種子植物である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
該核酸が発現ベクターに含まれる、請求項6または5に記載の方法。
【請求項9】
該核酸がマーカータンパク質をコードする塩基配列をさらに含む、請求項6~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
接触される核酸が該核酸とオルガネラ送達型ペプチドの混合物である、請求項6~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
以下の工程を含む、核酸が導入されたゲノムを有する植物体の製造方法:
(1)植物の茎頂分裂組織に核酸を接触させる工程、
(2)該核酸に接触した該茎頂分裂組織にマイクロニードルを穿刺する工程、
(3)穿刺された該茎頂分裂組織を固形培地上で生育し、植物体を得る工程、
(4)得られた該植物体から該核酸が導入されたゲノムを有する植物細胞を含む植物体を選抜する工程、
(5)選抜された該植物体の後代から該核酸が導入されたゲノムを有する植物体を選抜する工程。
【請求項12】
該植物が種子植物である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
該核酸が発現ベクターに含まれる、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
該核酸がマーカータンパク質をコードする塩基配列をさらに含む、請求項11~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
接触される核酸が該核酸とオルガネラ送達型ペプチドの混合物である、請求項11~14のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸を植物細胞のゲノムへ導入する方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の急激な人口増加や気候変動など、農業事情が急変する中で食糧増産や環境改善を推進するため、迅速かつ汎用性の高い新規植物育種技術が求められている。その代表例が、ランダムな遺伝子組換えを利用した分子育種であるが、この技術を利用して作物の新しい品種を開発するためには,解決すべき課題がある。それは、組織培養に起因する品種依存性の問題である。植物に人工制限酵素等の外来遺伝子を導入し、形質転換体を取得する際には、カルスと呼ばれる細胞隗の培養が必要である。しかし、このプロセスはすべての作物品種で可能というわけではなく、カルスへの脱分化、植物体への再分化を効率よく誘導することのできる品種に限定される。特に、主要穀物であるコムギやトウモロコシなどでは、その傾向が顕著であり、形質転換が可能な品種は僅かである。
【0003】
上記の問題点を克服する手段としてin planta形質転換法が考案されてきた。in planta法は文字どおり、植物個体を直接形質転換させる方法である。この場合、次世代で形質転換体を取得するためには、将来種子になる生殖系列細胞に、アグロバクテリウム法、パーティクルボンバードメント法などを用いて遺伝子を導入しなければならない。これまでは、専らアグロバクテリウム法が用いられてきた。アグロバクテリウムを開花前の花芽に浸潤させ、主に受精前の胚珠を遺伝子導入の標的とする方法として、例えば、floral dip法が挙げられる。1990年代にモデル植物のシロイヌナズナにおいて確立され、簡便で再現性も高いことから、汎用されている。その後、イネやトウモロコシ、コムギといった作物においても、floral dip法またはこれに類似する方法により、形質転換体作製の成功例が報告されている。しかし、形質転換体の取得効率が低く、再現性が見られないなどの問題があり、これらの作物については技術確立には至っていない。
【0004】
発芽した種子にアグロバクテリウムを感染させ、生殖器官を含めさまざまな組織に分化する茎頂分裂組織(SAM)に遺伝子導入する方法も報告されている。ただし、通常SAMは、すでに分化している鞘葉や葉、茎に覆われているため、感染液を茎頂まで到達させる工夫が必要となる。例えば、ダイコンやナスでは、超音波処理時間や界面活性剤処理濃度を最適化することで、形質転換体が取得されている。また、コムギにおいては、種子から生育させたSAMにパーティクルボンバードメント法でDNAを安定的に導入する方法が報告されている(非特許文献1)。しかしながら、これらの方法についても形質転換体の取得効率が低く、汎用的な技術とはなっていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hamada H, et al. Sci Rep. 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の課題は、in planta形質転換法において課題となっていた形質転換効率を改善し、所望の遺伝子導入植物を容易に作出することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ダイズ乾燥種子を1日吸水させ、茎頂分裂組織(SAM)を露出させ、GUS遺伝子(pBI221)またはGUS遺伝子と核送達型ペプチドの混合物をSAMに滴下し、さらにマイクロニードルで穿刺した。その結果、マイクロニードルを穿刺した1日後のSAMは、穿刺しなかった場合と比較して、GUS遺伝子を高発現していることが確認できた。さらに、マイクロニードルを穿刺し、1か月生育させた幼葉において、GUS遺伝子の発現とGUS遺伝子配列の存在が確認された。また、GUS遺伝子の導入が確認できたT0世代を生育させ、そこから得られた種子を生育させて得られた幼葉(T1世代)においてもGUS遺伝子の発現が確認できた。本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は以下の通りである。
[1]以下の工程を含む、核酸を植物細胞のゲノムへ導入する方法:
(1)植物の茎頂分裂組織に核酸を接触させる工程、
(2)該核酸に接触した該茎頂分裂組織にマイクロニードルを穿刺する工程。
[2]該植物が種子植物である、[1]に記載の方法。
[3]該核酸が発現ベクターに含まれる、[1]または[2]に記載の方法。
[4]該核酸がマーカータンパク質をコードする塩基配列をさらに含む、[1]~[3]のいずれか1つに記載の方法。
[5]接触される核酸が該核酸とオルガネラ送達型ペプチドの混合物である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の方法。
[6]以下の工程を含む、核酸が導入されたゲノムを有する植物細胞を含む植物体の製造方法:
(1)植物の茎頂分裂組織に核酸を接触させる工程、
(2)該核酸に接触した該茎頂分裂組織にマイクロニードルを穿刺する工程、
(3)穿刺された該茎頂分裂組織を固形培地上で生育し、植物体を得る工程、
(4)得られた該植物体から該核酸が導入されたゲノムを有する植物細胞を含む植物体を選抜する工程。
[7]該植物が種子植物である、[6]に記載の方法。
[8]該核酸が発現ベクターに含まれる、[6]または[7]に記載の方法。
[9]該核酸がマーカータンパク質をコードする塩基配列をさらに含む、[6]~[8]のいずれか1つに記載の方法。
[10]接触される核酸が該核酸とオルガネラ送達型ペプチドの混合物である、[6]~[9]のいずれか1つに記載の方法。
[11]以下の工程を含む、核酸が導入されたゲノムを有する植物体の製造方法:
(1)植物の茎頂分裂組織に核酸を接触させる工程、
(2)該核酸に接触した該茎頂分裂組織にマイクロニードルを穿刺する工程、
(3)穿刺された該茎頂分裂組織を固形培地上で生育し、植物体を得る工程、
(4)得られた該植物体から該核酸が導入されたゲノムを有する植物細胞を含む植物体を選抜する工程、
(5)選抜された該植物体の後代から該核酸が導入されたゲノムを有する植物体を選抜する工程。
[12]該植物が種子植物である、[11]に記載の方法。
[13]該核酸が発現ベクターに含まれる、[11]または[12]に記載の方法。
[14]該核酸がマーカータンパク質をコードする塩基配列をさらに含む、[11]~[13]のいずれか1つに記載の方法。
[15]接触される核酸が該核酸とオルガネラ送達型ペプチドの混合物である、[11]~[14]のいずれか1つに記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の核酸を植物細胞のゲノムへ導入する方法によれば、一部の植物においてのみ確立された組織培養法を採用する必要がなく、in planta形質転換法を採用することによって多くの植物で遺伝子導入が可能となる。また、本発明の核酸を植物細胞のゲノムへ導入する方法によって、in planta形質転換法における課題であった形質転換効率を改善することが可能となる。従って、本発明は、実用的な植物育種技術として有用になりうる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、マイクロニードルによるダイズSAMへのプラスミド導入過程を示す図である。A:ダイズSAMへのマイクロニードル穿刺前の写真像。B:ダイズSAMへのマイクロニードル穿刺中の写真像。C:ダイズSAMへのマイクロニードル穿刺直前の写真像。
【
図2】
図2は、マイクロニードル穿刺法によってGUS(β-グルクロニダーゼ)遺伝子導入されたダイズSAMの遺伝子発現を示す図である。A:GUS遺伝子陽性のダイズSAMの写真像。B: マイクロニードル穿刺法がダイズSAM へのGUS遺伝子導入効率を上昇させていることを示すグラフ。
【
図3】
図3は、マイクロニードル穿刺法によるダイズSAMへのGUS遺伝子導入後の生育を示す図である。A:マイクロニードル穿刺法によるGUS遺伝子導入後1日目のダイズSAMSの写真像。B:マイクロニードル穿刺法によるGUS遺伝子導入後約2週目のダイズSAMSの写真像。C:マイクロニードル穿刺法によるGUS遺伝子導入後約1カ月目のダイズSAMSの写真像。
【
図4】
図4は、マイクロニードル穿刺法によってGUS遺伝子導入されたダイズのGUS遺伝子のPCR増幅を示す図である。A:GUS遺伝子導入されたダイズSAMから生育された幼葉(T0世代)のGUS染色像。B: GUS陽性の幼葉(T0世代)のゲノムDNAにおけるGUS遺伝子配列の増幅像。第1、2、4レーンが陽性。
【
図5】
図5は、GUS遺伝子陽性T0世代から得られたT1世代におけるGUS染色を示す図である。A:T1世代の個体の写真像。B:野生型ダイズの幼葉のGUS染色像。C:GUS遺伝子陽性T0世代から得られたT1世代(#3)の幼葉のGUS染色像。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.核酸を植物細胞のゲノムへ導入する方法
本発明は、核酸を植物細胞のゲノムへ導入する方法(以下、本発明の導入方法)を提供する。
【0012】
本発明の導入方法において導入される核酸(本発明の核酸)は、外来性の所望のタンパク質(異種タンパク質)をコードする塩基配列を含む核酸(外来性核酸)であっても、導入される植物細胞が生来有しているタンパク質(同種タンパク質)をコードする塩基配列を含む核酸(内在性核酸)であってもよい。
【0013】
上記異種タンパク質としては、特に限定されないが、例えば、抗体やインターフェロン(例:IFN-α、IFN-β、IFN-ω、IFN-ε、IFN-κ、IFN-γ、IFN-λ等)などの高付加価値のタンパク質、抗原、発現が困難であるタンパク質(例:西洋ワサビのペルオキシダーゼ等)などが挙げられる。抗原として、例えばウイルスタンパク質の一部を用いることで、ウイルスに対するワクチンや抗体の開発の際に有用な抗原を大量生産することが可能となる。あるいは、抗がん剤の開発の際に有用ながん抗原を大量生産することもできる。
【0014】
上記同種タンパク質としては、特に限定されないが、例えば、DREBなどが挙げられる。DREBは乾燥、低温、塩などの環境ストレスにより誘導されるタンパク質として報告されている。DREBをコードする塩基配列を環境ストレス誘導性遺伝子(例えば、rd29A遺伝子など)のプロモーター領域の下流に連結した核酸を導入した形質転換植物は、環境ストレス耐性が向上し、有用である。
【0015】
本発明の核酸は、DNAであってもRNAであってもよいが、好ましくはDNAである。DNAの場合は、好ましくは二本鎖DNAであり、植物細胞内で機能的なプロモーターの制御下に配置した発現ベクターの形態で提供されることがより好ましい。かかる核酸は、遺伝子工学的技術を用いて作製してもよいし、化学的に合成してもよい。核酸がDNAである場合には、化学的にDNA鎖を合成するか、もしくは合成した一部オーバーラップするオリゴDNA短鎖を、PCR法やGibson Assembly法などを利用して接続することにより、タンパク質の全長をコードするDNAを構築することも可能である。化学合成又はPCR法もしくはGibson Assembly法との組み合わせで全長DNAを構築することの利点は、該DNAを導入する植物細胞に合わせて使用コドンをCDS全長にわたり設計できる点にある。異種DNAの発現に際し、そのDNA配列を導入される植物細胞において使用頻度の高いコドンに変換することで、タンパク質発現量の増大が期待できる。使用する植物細胞におけるコドン使用頻度のデータは、各植物細胞におけるコドン使用頻度を記した文献を参照することができる。
【0016】
本発明の核酸を含む発現ベクターは、例えば、該DNAを、植物細胞で機能し得るプロモーターを含むベクター中の該プロモーターの下流に連結することにより製造することができる。植物細胞で複製可能なベクターとしては、植物細胞で機能する複製起点(例、Tiプラスミド、Riプラスミドのori等)を有するものであれば特に制限はないが、大腸菌の複製起点(例、ColE1 ori等)も有していることが好ましい。また、植物ウイルスベクター(例:ポテトウイルスX(Potato virus X;PVX)ベクター、カブモザイクウイルス(Turnip mosaic virus;TuMV)ベクター、タバコモザイクウイルス(Tobacco mosaic virus;TMV)ベクター、ササゲモザイクウイルス(Cowpea mosaic virus;CPMV)ベクター等)を用いた方法(例:Genewareシステム等)であってもよい。
【0017】
プロモーターとしては、植物細胞で機能し得るプロモーターであればいかなるものでもよい。プロモーターとして誘導プロモーター(例、傷害、サリチル酸処理で誘導されるPR1α遺伝子プロモーター、乾燥、低温、アブシジン酸処理で誘導されるrd29A遺伝子プロモーター、ジクロロミド処理で誘導されるGST-27遺伝子プロモーター等)を使用することで、誘導開始までに細胞数を増やしてもよい。また、プロモーターとして構成プロモーターも使用することができる。構成プロモーターとしては、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーター、CaMV19Sプロモーター、ノパリン合成酵素(NOS)プロモーター、パセリ由来ユビキチンプロモーター(Pcubi4-2)等が挙げられる。これらのプロモーター又はその断片をタンデムに繋げたもの(例、2x35S)を用いることもできる。また、CaMVと同科のウイルスであるカリモウイルス属に属する植物DNAウイルスのPClSV(Peanut chlorotic streak virus)、Soymovirus属に属する植物DNAウイルスのFMV(Figwort mosaic virus)、カリモウイルス属に属する植物ウイルスのMMV(Mirabilis mosaic virus)、Cavemovirus属に属する植物ウイルスのCsVMV(Cassava vein mosaic virus)、およびカリモウイルス属に属する植物ウイルスのDMV(Dahlia mosaic virus)等各ウイルスのFlt(Full length transcriptional)プロモーターも、35Sプロモーター同様に植物遺伝子発現系として使用することができる(特にMMV由来のFltプロモーターで効果が高い)。また、外来性核酸の発現に際して、1種類のプロモーターを用いるのではなく、複数種類のプロモーターを用いて外来遺伝子を発現させることで、発現量が向上することが知られている。従って、外来性核酸を1種類のみ発現させる場合であっても、複数のプロモーターを用いることが好ましい。前記発現量の向上は、同一プロモーターを持つコンストラクトを植物細胞に導入すると、複数のプロモーターを用いた場合よりも植物細胞のゲノム上に該プロモーターの数が多くなるため、転写型遺伝子サイレンシング(TGS)が相対的に起こりやすいためだと推測される。また、上記Fltプロモーターは、各プロモーターの由来のウイルス由来の5’UTRが除かれていてもよい。
【0018】
発現ベクターは、所望によりターミネーター(例、NOSターミネーター、エンドウrbcS3Aターミネーター、熱ショックタンパク質(HSP)18.3ターミネーター等)、翻訳エンハンサー(例、イネ由来アルコールデヒドロゲナーゼ5’非翻訳領域(Os ADH-5’UTR)、タバコモザイクウイルス(TMV)由来Ω配列等)、3’調節領域(例、イネ由来アクチン遺伝子(Act1)3’UTR等)、ポリA付加シグナルなどを含有することができる。
【0019】
本発明の核酸は、マーカータンパク質をコードする塩基配列をさらに含んでいてもよい。マーカータンパク質は、その発現が、本発明の核酸がゲノムに導入された少数の形質転換細胞を非形質転換細胞の中から選択するための指標となるものであればよく、例えば、レポータータンパク質(例:蛍光タンパク質、発光タンパク質、蛍光、発光又は呈色を補助するタンパク)、薬剤耐性タンパク質などが挙げられる。マーカータンパク質は、1種類のみ用いてもよいし、2種類以上(例えば、蛍光タンパク質と薬剤耐性タンパク質とを組み合わせて)用いてもよい。2種以上用いることで、偽陽性をより減少させることができる。
【0020】
蛍光タンパク質としては、例えば、Sirius、TagBFP、EBFP等の青色蛍光タンパク質;mTurquoise、TagCFP、AmCyan、mTFP1、MidoriishiCyan、CFP等のシアン蛍光タンパク質;TurboGFP、AcGFP、TagGFP、Azami-Green (例:hmAG1)、ZsGreen、EmGFP、EGFP、GFP2、HyPer等の緑色蛍光タンパク質;TagYFP、EYFP、Venus、YFP、PhiYFP、PhiYFP-m、TurboYFP、ZsYellow、mBanana等の黄色蛍光タンパク質;KusabiraOrange (例:hmKO2)、mOrange等の橙色蛍光タンパク質;TurboRFP、DsRed-Express、DsRed2、TagRFP、DsRed-Monomer、AsRed2、mStrawberry等の赤色蛍光タンパク質;TurboFP602、mRFP1、JRed、KillerRed、mCherry、HcRed、KeimaRed(例:hdKeimaRed)、mRasberry、mPlum等の近赤外蛍光タンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
発光タンパク質としては、例えばイクオリンが挙げられるが、これに限定されない。また、蛍光、発光又は呈色を補助するタンパク質として、例えば、ルシフェラーゼ、ホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、βラクタマーゼ、β-グルクロニダーゼ等の蛍光、発光又は呈色前駆物質を分解する酵素が挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
薬剤耐性タンパク質としては、例えば、ハイグロマイシン耐性タンパク質(ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ、hpt)、カナマイシン耐性タンパク質、ネオマイシン耐性タンパク質等の薬剤耐性タンパク質、ALS(AHAS)タンパク質やPPOタンパク質等の除草剤耐タンパク質が挙げられる。
【0023】
本発明の核酸は、該核酸とオルガネラ送達型ペプチドの混合物であってもよい。本発明の導入方法によって本発明の核酸が導入される植物細胞のゲノムは、通常、核ゲノムである。しかし、本発明の核酸が導入される植物細胞によっては、核ゲノムへの導入効率が十分ではないこともありうる。また、核以外のゲノムを含むオルガネラに本発明の核酸を導入することが必要となる場合、本発明の導入方法は不都合である。しかし、本発明の核酸をオルガネラ送達型ペプチド(本発明のペプチド)との混合物として用いることによって、本発明の核酸を効率的にかつ本発明のペプチド依存的に送達するオルガネラゲノムを選択することができる。
【0024】
本発明のペプチドは、ゲノムを含むオルガネラへ本発明の核酸を送達することができる限り特に制限されない。ゲノムを含むオルガネラとしては、例えば、核、ミトコンドリア、葉緑体などが挙げられる。核を本発明の核酸の送達先とする場合、本発明のペプチドとしては、例えば、配列番号1によって示されるアミノ酸配列を含むペプチド(核送達型ペプチド)が挙げられる。核送達型ペプチドを本発明の導入方法で使用することによって、本発明の核酸の核への導入効率を上昇させることができる場合もある。ミトコンドリアを本発明の核酸の送達先とする場合、本発明のペプチドとしては、例えば、配列番号2によって示されるアミノ酸配列を含むペプチドが挙げられる。また、葉緑体を本発明の核酸の送達先とする場合、本発明のペプチドとしては、例えば、配列番号3によって示されるアミノ酸配列を含むペプチドが挙げられる。ミトコンドリア送達型ペプチドまたは葉緑体送達型ペプチドを本発明の導入方法で使用することによって、通常、核へ導入される本発明の核酸をミトコンドリアまたは葉緑体に選択的に導入することができる。
【0025】
ゲノムを含むオルガネラへ本発明の核酸を送達する別の方法として、本発明の核酸はシグナルペプチドをコードする塩基配列をさらに含んでもよい。シグナルペプチドによって、本発明の核酸は細胞内のオルガネラに選択的に輸送される。シグナルペプチドをコードする塩基配列は本発明の核酸の5’側末端または3’側末端のいずれに連結されていてもよい。
【0026】
本発明の核酸が導入される植物細胞の由来植物としては、特に制限はないが、茎頂分裂組織を使用することから、種子植物であることが好ましい。本発明の核酸が導入される種子植物としては、単子葉植物又は双子葉植物が挙げられる。
【0027】
単子葉植物としては、例えば、イネ科植物が挙げられ、該イネ科植物としては、Oryza、Triticum、Hordeum、Secale、Saccharum、Sorghum、又はZeaに属する植物が挙げられ、具体的には、トウモロコシ、モロコシ、コムギ、イネ、エンバク、オオムギ、ライムギ、アワが挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
双子葉植物としては、例えば、アブラナ科植物、マメ科植物、ナス科植物、ウリ科植物、ヒルガオ科植物が挙げられるが、これらに限定されない。アブラナ科植物としては、Raphanus、Brassica、Arabidopsis、Wasabia、又はCapsellaに属する植物が挙げられ、具体的には、ハクサイ、ナタネ、キャベツ、カリフラワー、大根、アブラナ、シロイヌナズナ、ワサビ、ナズナが挙げられるが、これらに限定されない。マメ科植物としては、例えば、ダイズ、アヅキ、インゲンマメ、ササゲが挙げられるが、これらに限定されない。好ましいマメ科植物は、ダイズである。ナス科植物としては、例えば、トマト、ナス、バレイショが挙げられるが、これらに限定されない。ウリ科植物としては、例えば、マクワウリ、キュウリ、メロン、スイカが挙げられるが、これらに限定されない。ヒルガオ科植物としては、例えば、アサガオ、カンショ、ヒルガオが挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
さらに、上記以外の植物の例としては、バラ科、シソ科、ユリ科、アカザ科、セリ科、キク科などの植物が挙げられ、さらには、任意の樹木種、任意の果樹種、クワ科植物(例えば、ゴム)、及びアオイ科植物(例えば、綿花)が挙げられる。
【0030】
本発明の導入方法は、植物の茎頂分裂組織に本発明の核酸を接触させる工程(工程(1))を含む。
【0031】
工程(1)では、まず、本発明の核酸が導入される植物から茎頂分裂組織(SAM)が調製される。SAMの調製は、公知の手段に従って実施することができる。通常、植物体においてSAMはすでに分化した葉や茎に隠れており単離することは非常に困難である。しかし、実体顕微鏡下、生育の初期段階の植物体(例えば、発芽直後の種子)から数枚の葉を除くことによってSAMを人為的に露出させることが可能である。例えば、ダイズを使用する場合、滅菌したダイズ乾燥種子を水を含ませたろ紙上に置床し、吸水させ、1日後、吸水種子から表皮、子葉、本葉を取り除き、SAMを露出させることができる。
【0032】
次に、以上の通りにして調製されたSAMに本発明の核酸が接触される。本発明の核酸とSAMの接触は、本発明の核酸がSAMに物理的に接触できる限り、その態様は特に制限されないが、本発明の核酸を滅菌水または適当な緩衝液(例:TEバッファーなど)中に適当な濃度となるように溶解し、SAMに滴下することによって接触させることが好ましい。滅菌水または緩衝液中における本発明の核酸の濃度は、当業者が適宜決定してよいが、通常、300μg/mL~1000μg/mLである。また、本発明の核酸をSAMに接触させる頻度は通常、1回または2回以上実施してもよく、1回に接触させる本発明の核酸の量は、通常、1.2μg~4.0μgである。また、本発明の核酸とSAMの接触の温度条件は、当業者が適宜決定することができる。例えば、通常、20℃~30℃で本発明の核酸とSAMを接触させることができる。
【0033】
本発明の導入方法は、該核酸に接触した該茎頂分裂組織にマイクロニードルを穿刺する工程(工程(2))を含む。
【0034】
工程(2)では、工程(1)で本発明の核酸に接触したSAMにマイクロニードルが穿刺される。マイクロニードルは、SAMに穿刺可能な限り、その素材、先端形状、厚み、長さ、長さ、密度等は特に制限されるものでない。工程(2)で使用されるマイクロニードルの素材としては、シリコン、ガラス、または金属などが挙げられ、微細加工の容易さからシリコンが好ましく挙げられる。マイクロニードルはフォトレジストやエッチング等の半導体製造技術を応用することにより、製造できる。また、マイクロニードル形状としては、例えば、くさび型、角柱型、円柱型などが挙げられ、好ましくは、くさび型が挙げられる。形状がくさび型である場合、その先端の曲率半径は、通常、5-400nm 、好ましくは、5-250nmが挙げられる。マイクロニードルの長さとしては、茎頂分裂組織内の生殖系列細胞に到達するため、例えば、50-100μmが挙げられる。
【0035】
工程(2)において、マイクロニードルがSAMに穿刺される回数は、特に制限されるものではないが、通常、1回~数回(例、2回、3回、4回または5回)実施してよく、好ましくは、1回また2回である。マイクロニードルの穿刺は、市販のナノニードルアレイ動作装置を用いて実施することができる。
【0036】
以上の通りにして、本発明の核酸はSAMに含まれる植物細胞のゲノムにランダムに導入される。実際に植物細胞のゲノムに本発明の核酸が導入されたことの確認は、本分野で公知の方法で決定することができる。例えば、SAMを植物体にまで生育させた後、ゲノムDNAを植物体から採取する。本発明の核酸の部分塩基配列からなる1対のプライマーを準備し、ゲノムDNAを鋳型として、本発明の核酸を増幅することによって、植物細胞のゲノムにおける本発明の核酸の有無を確認することができる。
【0037】
また、植物細胞のゲノムに本発明の核酸が導入されている場合、導入される本発明の核酸のコピー数は、通常、1~十数コピー、好ましくは、1~数コピー(2、3、4または5コピー)である。植物細胞のゲノムに導入された本発明の核酸のコピー数は、本分野で公知の方法で決定することができる。例えば、SAMを植物体にまで生育させた後、ゲノムDNAを植物体から採取する。制限酵素でゲノムDNAを処理し、アガロースゲル電気泳動によってゲノムDNAを分離し、メンブレンフィルターに転写する。本発明の核酸をプローブとして用いたサザンブロット解析によりメンブレンフィルターから植物細胞のゲノムに導入された本発明の核酸のコピー数を確認することができる。
【0038】
2.核酸が導入されたゲノムを有する植物細胞を含む植物体を製造する方法
本発明はまた、核酸が導入されたゲノムを有する植物細胞を含む植物体の製造方法(本発明の製造方法1)を提供する。
【0039】
本発明の製造方法1において製造される植物体は、植物個体、植物器官、植物組織、植物細胞、及び種子のいずれをも包含する。植物器官の例としては、根、葉、茎、及び花などが挙げられる。植物組織の例としては、例えば、茎頂分裂組織が挙げられる。また、植物細胞には、培養細胞の他、植物体中の細胞も含まれる。さらに、種々の形態の植物細胞、例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片、根の切片、カルス、未熟胚、花粉等が含まれる。
【0040】
核酸が導入されたゲノムを有する植物細胞を含む植物体は、通常、本発明の核酸が導入されたゲノムを有する植物細胞を少なくとも1つ含む植物体であり、好ましくは、生殖系列細胞のゲノムに本発明の核酸が導入された植物体であり、最も好ましくは、すべての植物細胞のゲノムに本発明の核酸が導入された植物体である。従って、本発明の製造方法1において製造される植物体は、野生型の植物体は除かれる。
【0041】
本発明の製造方法1は、本発明の導入方法と同様に、植物の茎頂分裂組織に本発明の核酸を接触させる工程(工程(1))、および該核酸に接触した該茎頂分裂組織にマイクロニードルを穿刺する工程(工程(2))を含む。本発明の製造方法1における工程(1)および工程(2)の条件等は、本発明の導入方法における工程(1)および工程(2)の条件等と同様である。
【0042】
本発明の製造方法1は、穿刺された該茎頂分裂組織を固形培地上で生育し、植物体を得る工程(工程(3))を含む。
【0043】
工程(3)において、穿刺されたSAMの生育は、その種類に応じ、公知の方法に従って実施することができる。生育に使用される培地としては固形培地(例、寒天培地、アガロース培地、ゲランガム培地等)が好ましい。また、培地は、形質転換体の生育に必要な炭素源、窒素源、無機物、などを含有することが好ましい。例えば、基礎培地としてN6培地、MS培地、LS培地、B5培地などが用いられる。培地には、適宜、植物生長物質(例、オーキシン類、サイトカイニン類等)などを添加してもよい。培地のpHは好ましくは約5~約8である。培養温度は、植物細胞の種類に応じて、通常約20℃~約35℃の範囲内で適宜選択することができる。例えば、ダイズの場合、通常20℃~30℃、1か月程度でSAMから植物体の1個体に生育することができる。
【0044】
本発明の製造方法1は、得られた該植物体から該核酸が導入されたゲノムを有する植物細胞を含む植物体を選抜する工程(工程(4))を含む。
【0045】
工程(3)で得られた植物体は、SAMから生育した植物体(T0世代)であるが、非形質転換細胞由来の野生型の植物体が含まれる場合もあるため、該核酸が導入されたゲノムを有する植物細胞を含む植物体を選抜する必要がある。本発明の核酸がマーカータンパク質をコードする塩基配列を含んでいた場合、当業者であれば用いるマーカータンパク質の種類に合わせて適宜公知の手法を選択して、工程(4)を実施することができる。例えば、薬剤耐性タンパク質を用いた場合には、本発明の核酸が導入された植物細胞を、対応する薬剤存在下にて培養することにより、本発明の核酸が導入された植物細胞を選択することができる。薬剤として、例えばハイグロマイシンを用いる場合、その培地中での濃度は、10 mg/L~200 mg/L(例:50 mg/L)が好ましい。
【0046】
レポータータンパク質を用いた場合には、所定の検出装置を用いて、該レポータータンパク質からの信号を検出することにより、本発明の核酸が導入された植物細胞を選択することができる。検出装置としては、フローサイトメーター、イメージングサイトメーター、蛍光顕微鏡、発光顕微鏡、CCDカメラ等が挙げられるが、これらには限定されない。このような検出装置は、レポータータンパク質の種類に応じて、当業者が適したものを用いることができる。例えば、レポータータンパク質が、蛍光タンパク質又は発光タンパク質の場合には、フローサイトメーターを用いて選択が可能であり、レポータータンパク質が、蛍光、発光又は呈色を補助するタンパク質の場合には、顕微鏡を用いて、光応答性細胞培養器材をコーティングした培養皿を用いて、呈色等された植物細胞へ光照射し、照射されなかった細胞が培養皿から剥離されることを利用して選択することができる。
【0047】
また、前記マーカータンパク質の発現を指標として選択する方法以外にも、PCR法、シーケンシング法、サザンブロット法、CAPS(切断増幅多型配列)法等を用いることで、植物細胞の本発明の核酸が導入されたことを確認することができる。
【0048】
3.核酸が導入されたゲノムを有する植物体を製造する方法
本発明はまた、核酸が導入されたゲノムを有する植物体の製造方法(本発明の製造方法2)を提供する。
【0049】
核酸が導入されたゲノムを有する植物体は、すべての植物細胞のゲノムに本発明の核酸が導入された植物体である。従って、本発明の製造方法2において製造される植物体は、野生型の植物体や形質転換細胞と非形質転換細胞から構成されるキメラ植物体は除かれる。より具体的には、本発明の核酸が導入されたゲノムを有する植物体は、本発明の核酸を片方の染色体に有するヘテロ接合体、または、本発明の核酸を両方の染色体に有するホモ接合体である。
【0050】
本発明の製造方法2は、本発明の製造方法1と同様に、植物の茎頂分裂組織に本発明の核酸を接触させる工程(工程(1))、該核酸に接触した該茎頂分裂組織にマイクロニードルを穿刺する工程(工程(2))、穿刺された該茎頂分裂組織を固形培地上で生育し、植物体を得る工程(工程(3))および得られた該植物体から該核酸が導入されたゲノムを有する植物細胞を含む植物体を選抜する工程(工程(4))を含む。本発明の製造方法2における工程(1)~(4)の条件等は、本発明の製造方法1における工程(1)~(4)の条件等と同様である。
【0051】
本発明の製造方法2は、選抜された該植物体の後代から該核酸が導入されたゲノムを有する植物体を選抜する工程(工程(5))を含む。
【0052】
工程(4)で選抜された植物体は、SAMに含まれる植物細胞の一部が形質転換され、そこから生育した植物体(T0世代)であるが、形質転換細胞と非形質転換細胞から構成されるキメラ植物体となっている場合が多い。植物体に所望の表現型を獲得させることを目的として本発明の核酸を導入する場合、キメラ植物体では不都合であるため、植物体全体のゲノムに本発明の核酸が導入されていることが好ましい。従って、本発明の製造方法2では、本発明の製造方法1で選抜された植物体の後代から該核酸が導入されたゲノムを有する植物体を選抜する。工程(5)は、工程(4)の方法と同様の方法で実施することができる。例えば、本発明の製造方法1で選抜された植物体から種子を取得し、そこから生育する植物体(T1世代)またはゲノムDANに対して、工程(4)の方法と同様の方法を適用することができる。
【0053】
以下に、本発明を実施例により説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0054】
<植物材料>
ダイズ乾燥種子(鶴の子大豆、タキイ種苗)を密閉容器に入れ、塩素ガスにより滅菌を行った。塩素ガスは次亜塩素酸ナトリウム溶液(約6%)100 mLと濃塩酸4 mLの混合液を密閉容器に入れて発生させた。Φ9 cm x 20 mmシャーレ中に6 mLの水を含ませたろ紙(Φ8cm、2枚)を引き、18時間滅菌した10種子を置床し、30℃ 16h明/20℃ 8h暗条件下で吸水させた。1日後、吸水種子から表皮、子葉、本葉を取り除き、茎頂分裂組織(SAM)を露出させた。胚軸の一部を切り取り、約1.5 cm角にした3%寒天培地上に固定した。
【0055】
<マイクロニードル穿刺法によるダイズSAMへの遺伝子導入>
マイクロニードルは以前報告されたナノニードルアレイ動作装置(Matsumoto et al., 5, 15325, DOI: 10.1038/srep15325 (2015))を用いて操作した。シリコン製マイクロニードルは二等辺三角形のくさび型形状で、長さ100μm、底辺の幅5μm、先端の曲率半径は300-400nm、厚さ1-2μmであり、5mm角のチップの1つの端面に間隔30μmで約160本のニードルが平櫛状に配置されている。これを微小ネジにより動作装置のアームに固定した。プラスミドにはTEに溶解したpBI221(20 μg/mL、Clontech社)を用い、4μLをSAMに滴下した。ペプチド<(KH)9-BP100: KHKHKHKHKHKHKHKHKHKKLFKKILKYL-NH2(配列番号1)>とpBI221の複合体は、1μgペプチドと3μgのプラスミドを100μL滅菌水で混合することで作製した。この複合体溶液4μLをSAMに滴下した。茎頂分裂組織はマイクロニードルにより二度、十字状に穿刺した(
図1)。穿刺した茎頂分裂組織は1%ショ糖を加えた1/2 MS寒天培地(Murashige and Skoog, 1962)に置床し、30℃ 16h明/20℃ 8h暗条件下で生育させた。2週間後、新しい1%ショ糖を加えた1/2 MS寒天培地に移植し、2週間程度生育させた後、土に移植し、30℃ 16h明/20℃ 8h暗条件下で生育させた。
【0056】
<PCR法による外来遺伝子の検出>
形質転換候補植物体T0およびT1の本葉からCTAB法によりDNAを抽出した(Porebski et al., Plant Mol. Biol. Rep., 15, p8-15, 1997)。PCRによる増幅はGUS遺伝子特異的なプライマー(Oligo-MC5; AAGCTTGCATGCCTGCA(配列番号4)、Oligo-MC3; AGTGAATTCCCGATCTAGTAACAT(配列番号5))により行った。PCR反応液の組成や反応条件は、PrimeSTAR GXL DNA Polymerase(TaKaRa Bio)の標準プロトコールに従った。PCR産物はアガロースゲル電気泳動により分離し、UV照射下でエチジウムブロマイドによる染色により検出した。
【0057】
<GUS染色法>
形質転換候補植物体T0およびT1の本葉を切り取り、既存の方法によりGUS染色を行った(Jefferson et al., EMBO J.1987)。
【0058】
(結果)
マイクロニードル穿刺法によってGUS(β-グルクロニダーゼ)遺伝子導入されたダイズSAMの遺伝子発現の評価
4μL pBI221(20 μg/mL、Clontech社)をSAMに滴下し、マイクロニードルにより穿刺し、1%ショ糖を加えた1/2 MS寒天培地上で30℃ 16h明/20℃ 8h暗条件下1日間生育させた。穿刺後1日目のSAMをGUS染色した。その結果、DNAをSAMに滴下した場合と比較して、さらにマイクロニードルによる穿刺を実施した場合の方が、SAMにおいてGUS遺伝子を高発現していることが確認された(有意差有り、P < 0.05)(
図2)。
【0059】
マイクロニードル穿刺法によるダイズSAMへのGUS遺伝子導入後の生育観察
pBI221を滴下されたSAMをマイクロニードルにより穿刺し、1%ショ糖を加えた1/2 MS培地上で30℃ 16h明/20℃ 8h暗条件下生育させた。生育後1日目からSAMは緑化が観察された(
図3A)。また、生育後2週目までにSAMから本葉や根が出現した(
図3B)。さらに2週間後に土に移植し、穿刺後約1か月で再生したダイズが開花した(
図3C)。
【0060】
PCRによるGUS遺伝子の増幅
吸水1日後に露出させたダイズSAMにpBI221溶液(5μg/回)を滴下し、ナノニードルで穿刺し、1%ショ糖を加えた1/2 MS培地上で30℃ 16h明/20℃ 8h暗条件下生育させた。1か月後、生育したT0世代の幼葉をGUS染色した(
図4A)。GUS陽性の幼葉からDNAを抽出し、PCRによりGUS遺伝子配列を増幅した。その結果、T0世代では、検査した7個体中、3個体にGUS遺伝子が導入されていることが確認できた(
図4B)。
【0061】
T1世代におけるGUS染色
GUS遺伝子が導入されたT0世代の各個体(
図5A)から次世代ダイズ種子(T1世代)を複数個取得し、そのうち2個ずつ種子を播種し、生育させて、本葉の一部を用いてGUS染色を行った。その結果、T1世代において、GUS遺伝子を発現する個体を得ることができた(
図5C)。
本発明によれば、in planta形質転換法において課題となっていた形質転換効率を改善し、所望の遺伝子導入植物を容易に作出することが可能となる。さらに、短期間で有用遺伝子を蓄積する「ピラミッディング」も実施可能である。従って、本発明は、高等植物の品種改良における実践的な育種技術としての活用が期待できる。