(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117119
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】光学素子及び紫外線発光装置
(51)【国際特許分類】
H01L 33/58 20100101AFI20220803BHJP
H01L 33/56 20100101ALI20220803BHJP
【FI】
H01L33/58
H01L33/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021013638
(22)【出願日】2021-01-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】染谷 武紀
(72)【発明者】
【氏名】石戸 総
【テーマコード(参考)】
5F142
【Fターム(参考)】
5F142AA63
5F142AA67
5F142AA76
5F142BA32
5F142CA11
5F142CB03
5F142CD02
5F142CD18
5F142CG05
5F142CG16
5F142DB12
5F142GA31
(57)【要約】
【課題】紫外線発光装置に用いた際の光の取出し効率に優れ、かつ紫外線による劣化が抑制された樹脂層を備える光学素子を提供する。
【解決手段】樹脂組成物層及び紫外線を透過する光学部材を備える光学素子であって、前記樹脂組成物層を、前記樹脂組成物層が硬化する温度で焼成して樹脂層とした場合に、前記樹脂層はd線(波長587.6nm)に対する屈折率n
d(R)が1.37以上であり、前記樹脂層中の有機溶媒の含有量が0.3質量%以下であり、前記光学部材の表面の少なくとも一部の領域に前記樹脂組成物層が形成され、前記樹脂組成物層を介して前記光学部材が他の部材と接着される、紫外線発光装置に用いられる光学素子。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物層及び紫外線を透過する光学部材を備える光学素子であって、
前記樹脂組成物層を、前記樹脂組成物層が硬化する温度で焼成して樹脂層とした場合に、前記樹脂層はd線(波長587.6nm)に対する屈折率nd(R)が1.37以上であり、前記樹脂層中の有機溶媒の含有量が0.3質量%以下であり、
前記光学部材の表面の少なくとも一部の領域に前記樹脂組成物層が形成され、
前記樹脂組成物層を介して前記光学部材が他の部材と接着される、紫外線発光装置に用いられる光学素子。
【請求項2】
前記樹脂層中の金属不純物の濃度が1000ppm以下である、請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
d線(波長587.6nm)に対する、前記樹脂層の屈折率nd(R)と前記光学部材の屈折率nd(O)とが、nd(R)≦nd(O)の関係を満たす、請求項1又は2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記樹脂組成物層が縮合重合型樹脂を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項5】
前記樹脂組成物層が金属酸化物ナノ粒子を実質的に含まない、請求項1~4のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項6】
前記光学部材が無機ガラスから構成され、
前記無機ガラスは、波長域260~400nmにおける吸収係数の最大値αmaxが0.2mm-1以下の紫外線高透過ガラスである、請求項1~5のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項7】
前記無機ガラスのガラス転移温度が750℃以下である、請求項6に記載の光学素子。
【請求項8】
前記無機ガラスの溶融温度が1500℃以下である、請求項6又は7に記載の光学素子。
【請求項9】
前記樹脂組成物層の酸価が50mgKOH/g以下である、請求項6~8のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項10】
前記光学部材が石英、サファイア、又はスピネルから構成される、請求項1~5のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項11】
前記樹脂組成物層は、中央領域と周辺領域とを有し、
前記中央領域の厚みが、前記周辺領域の厚み以上である、請求項1~10のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項12】
前記紫外線発光装置が、波長域250~400nmにピーク波長λ(D)を有する半導体発光素子を備える、請求項1~11のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項13】
前記樹脂組成物層が、前記半導体発光素子の光出射面と前記光学部材との接着に用いられる、請求項12に記載の光学素子。
【請求項14】
基板と、前記基板上に設けられた半導体発光素子と、前記半導体発光素子上に設けられた光学素子と、を有する紫外線発光装置であって、
前記光学素子は樹脂層及び紫外線を透過する光学部材を備え、
前記樹脂層はd線(波長587.6nm)に対する屈折率nd(R)が1.37以上であり、
前記樹脂層中の有機溶媒の含有量が0.3質量%以下であり、
前記光学部材の表面の少なくとも一部の領域に前記樹脂層が形成され、
前記半導体発光素子の光出射面上に、前記樹脂層を介して前記光学部材が設けられている、紫外線発光装置。
【請求項15】
前記光学素子が、請求項2~10のいずれか1項に記載の光学素子を、樹脂組成物層の硬化する温度以上の温度で焼成し、前記樹脂組成物層を前記樹脂層とした光学素子である、請求項14に記載の紫外線発光装置。
【請求項16】
前記樹脂層の前記半導体発光素子側の表面が、前記半導体発光素子の光出射面と接している中央領域と、前記半導体発光素子の光出射面と接していない周辺領域と、を有し、
前記中央領域は、前記半導体発光素子の光出射面の全面と接している、請求項14又は15に記載の紫外線発光装置。
【請求項17】
前記樹脂層のうち、前記半導体発光素子の光出射面と前記光学部材との間に介在する領域の厚みが0.1~100μmである、請求項14~16のいずれか1項に記載の紫外線発光装置。
【請求項18】
前記樹脂層を介して、前記半導体発光素子の光出射面と前記光学部材とが接着されており、
前記接着の強度が、せん断強度で1N/mm2以上である、請求項14~17のいずれか1項に記載の紫外線発光装置。
【請求項19】
前記半導体発光素子の光出射面の全面上に、前記光学部材が前記樹脂層を介して設けられている、請求項14~18のいずれか1項に記載の紫外線発光装置。
【請求項20】
前記半導体発光素子がフリップチップ構造又は縦型構造である、請求項14~19のいずれか1項に記載の紫外線発光装置。
【請求項21】
前記樹脂層が前記半導体発光素子の側面の少なくとも一部を覆っている、請求項14~20のいずれか1項に記載の紫外線発光装置。
【請求項22】
前記光学部材の一部が、前記基板と接している、又は前記基板と接着されている、請求項14~21のいずれか1項に記載の紫外線発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学素子及び紫外線発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線発光装置における光源として、環境保全等の観点から、従来の水銀ランプに代えて、半導体発光素子の紫外線LED素子(発光ダイオード素子)が注目されている。この紫外線LED素子は、発光波長によって様々な用途で用いられる。例えば、紫外線硬化樹脂の硬化工程、皮膚疾患の治療、ウィルスや病原菌の殺菌に使用できる。
【0003】
しかしながら、紫外線LED素子は、LED素子の活性層で発生した光に対して、紫外線LED素子の外部に取出して利用出来ている光はその一部であることから、光の取出し効率が低く、普及の妨げとなっている。光の取出し効率を向上させるために、フリップチップ構造や縦型構造といった紫外線LED素子が検討されているものの、光の取出し効率は数%前後と依然として低く、光の利用効率のさらなる向上が求められている。
【0004】
これに対して、特許文献1では、LED素子の光放出面にエッチング加工で凹凸構造のフォトニック結晶を形成して、全反射する光の一部をLED外に取り出す技術が開示されている。
また、LED素子上に光学部材を設ける技術も検討されており、光学部材として、特許文献2ではサファイア製の半球レンズを、特許文献3ではスピネル焼結体を、特許文献4ではフッ素樹脂を、それぞれ使用する技術が、それぞれ開示されている。
【0005】
紫外線LED素子のような半導体発光素子と光学部材を接着する材料に関する検討としては、例えば特許文献5や特許文献6が挙げられる。特許文献5には透過率が高く、レンズと紫外線発光素子とのせん断強さが1.0~5.0N/mm2となるように接合させる屈折率緩和物質層として、カルボキシル基を有するアモルファスなフッ素樹脂が開示されている。また、特許文献6には、光取り出し面と入射面との接着強度が6~40N/mm2となる接合層として、非晶質フッ素樹脂層が開示されている。
このように、半導体発光素子に光学部材を組み合わせて光の取出し効率を向上させようとする技術が、様々な角度から検討、提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6349036号公報
【特許文献2】特許第6230038号公報
【特許文献3】国際公開第2018/066636号
【特許文献4】国際公開第2017/208535号
【特許文献5】特開2016-111085号公報
【特許文献6】特開2019-212871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、半導体発光素子と光学部材を接着する材料に関する検討はあまり多くはなされていない。特許文献5に開示されているフッ素樹脂は屈折率が非常に低いため、光の取出し効率の改善が不十分である。同文献に比較例としてシリコーン樹脂で接着した例も開示されているが、開示されている例では紫外線発光素子から放出された紫外線によって劣化してしまっている。特許文献6に開示されている例のフッ素樹脂は屈折率が非常に低いため、光の取出し効率の改善が不十分である。
本発明者らの検討により、接着材料の屈折率の低さに起因して、光の取出し効率が低くなることが判明した。これは、半導体発光素子と接着材料の界面で多くの光が反射されてしまい、半導体発光素子の外側へ光が放射されないためであると考えられる。
【0008】
屈折率が一定以上の接着材料として樹脂から構成される樹脂組成物層が挙げられるが、樹脂組成物層や、接着のために樹脂組成物層を焼成した後の樹脂層は紫外線による劣化が指摘されている。樹脂組成物層や樹脂層が劣化すると、着色による透過率の低下やクラックの発生、樹脂層の剥離等が懸念される。
【0009】
そこで本発明は、紫外線発光装置に用いた際の光の取出し効率に優れ、かつ紫外線による劣化が抑制された樹脂組成物層を備える光学素子を提供することを目的とする。また、かかる光学素子を焼成して樹脂組成物層を樹脂層とした光学素子を有する紫外線発光装置を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが鋭意検討を行った結果、これまで特に考慮されてこなかった樹脂層に含まれる残留有機溶媒が、紫外線による劣化の原因のひとつであることが分かった。すなわち本発明は、一定値以上の屈折率を有し、かつ有機溶媒の含有量が少ない樹脂層となる樹脂組成物層を接着材料として用いることで、上記課題を解決できることを見出し、完成するに至ったものである。
【0011】
すなわち、本発明及びその一態様は下記[1]~[22]に関するものである。
[1] 樹脂組成物層及び紫外線を透過する光学部材を備える光学素子であって、前記樹脂組成物層を、前記樹脂組成物層が硬化する温度で焼成して樹脂層とした場合に、前記樹脂層はd線(波長587.6nm)に対する屈折率nd(R)が1.37以上であり、前記樹脂層中の有機溶媒の含有量が0.3質量%以下であり、前記光学部材の表面の少なくとも一部の領域に前記樹脂組成物層が形成され、前記樹脂組成物層を介して前記光学部材が他の部材と接着される、紫外線発光装置に用いられる光学素子。
[2] 前記樹脂層中の金属不純物の濃度が1000ppm以下である、前記[1]に記載の光学素子。
[3] d線(波長587.6nm)に対する、前記樹脂層の屈折率nd(R)と前記光学部材の屈折率nd(O)とが、nd(R)≦nd(O)の関係を満たす、前記[1]又は[2]に記載の光学素子。
[4] 前記樹脂組成物層が縮合重合型樹脂を含む、前記[1]~[3]のいずれか1に記載の光学素子。
[5] 前記樹脂組成物層が金属酸化物ナノ粒子を実質的に含まない、前記[1]~[4]のいずれか1に記載の光学素子。
[6] 前記光学部材が無機ガラスから構成され、前記無機ガラスは、波長域260~400nmにおける吸収係数の最大値αmaxが0.2mm-1以下の紫外線高透過ガラスである、前記[1]~[5]のいずれか1に記載の光学素子。
[7] 前記無機ガラスのガラス転移温度が750℃以下である、前記[6]に記載の光学素子。
[8] 前記無機ガラスの溶融温度が1500℃以下である、前記[6]又は[7]に記載の光学素子。
[9] 前記樹脂組成物層の酸価が50mgKOH/g以下である、前記[6]~[8]のいずれか1に記載の光学素子。
[10] 前記光学部材が石英、サファイア、又はスピネルから構成される、前記[1]~[5]のいずれか1に記載の光学素子。
[11] 前記樹脂組成物層は、中央領域と周辺領域とを有し、前記中央領域の厚みが、前記周辺領域の厚み以上である、前記[1]~[10]のいずれか1に記載の光学素子。
[12] 前記紫外線発光装置が、波長域250~400nmにピーク波長λ(D)を有する半導体発光素子を備える、前記[1]~[11]のいずれか1に記載の光学素子。
[13] 前記樹脂組成物層が、前記半導体発光素子の光出射面と前記光学部材との接着に用いられる、前記[12]に記載の光学素子。
【0012】
[14] 基板と、前記基板上に設けられた半導体発光素子と、前記半導体発光素子上に設けられた光学素子と、を有する紫外線発光装置であって、前記光学素子は樹脂層及び紫外線を透過する光学部材を備え、前記樹脂層はd線(波長587.6nm)に対する屈折率nd(R)が1.37以上であり、前記樹脂層中の有機溶媒の含有量が0.3質量%以下であり、前記光学部材の表面の少なくとも一部の領域に前記樹脂層が形成され、前記半導体発光素子の光出射面上に、前記樹脂層を介して前記光学部材が設けられている、紫外線発光装置。
[15] 前記光学素子が、前記[2]~[10]のいずれか1に記載の光学素子を、樹脂組成物層の硬化する温度以上の温度で焼成し、前記樹脂組成物層を前記樹脂層とした光学素子である、前記[14]に記載の紫外線発光装置。
[16] 前記樹脂層の前記半導体発光素子側の表面が、前記半導体発光素子の光出射面と接している中央領域と、前記半導体発光素子の光出射面と接していない周辺領域と、を有し、前記中央領域は、前記半導体発光素子の光出射面の全面と接している、前記[14]又は[15]に記載の紫外線発光装置。
[17] 前記樹脂層のうち、前記半導体発光素子の光出射面と前記光学部材との間に介在する領域の厚みが0.1~100μmである、前記[14]~[16]のいずれか1に記載の紫外線発光装置。
[18] 前記樹脂層を介して、前記半導体発光素子の光出射面と前記光学部材とが接着されており、前記接着の強度が、せん断強度で1N/mm2以上である、前記[14]~[17]のいずれか1に記載の紫外線発光装置。
[19] 前記半導体発光素子の光出射面の全面上に、前記光学部材が前記樹脂層を介して設けられている、前記[14]~[18]のいずれか1に記載の紫外線発光装置。
[20] 前記半導体発光素子がフリップチップ構造又は縦型構造である、前記[14]~[19]のいずれか1に記載の紫外線発光装置。
[21] 前記樹脂層が前記半導体発光素子の側面の少なくとも一部を覆っている、前記[14]~[20]のいずれか1に記載の紫外線発光装置。
[22] 前記光学部材の一部が、前記基板と接している、又は前記基板と接着されている、前記[14]~[21]のいずれか1に記載の紫外線発光装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、屈折率が高く、かつ紫外線による劣化が抑制された樹脂層となる樹脂組成物層を備える光学素子を提供できる。この光学素子を焼成して紫外線発光装置に用いることにより、半導体発光素子と樹脂層との界面における光の反射を抑制し、高い光の取出し効率を実現できる。すなわち、半導体発光素子の外側へ光を多く放射できることから、紫外線発光装置の出力を向上できる。また、紫外線による劣化を懸念することなく長期間の使用も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る光学素子の模式断面図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る光学素子の半導体発光装置との接着例を示す模式断面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る光学素子の半導体発光装置との接着例を示す模式断面図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る紫外線発光装置の模式断面図である。
【
図5】
図5は、本実施形態に係る紫外線発光装置の変形例を示す模式断面図である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係る紫外線発光装置の変形例を示す模式断面図である。
【
図7】
図7は、本実施形態に係る紫外線発光装置の変形例を示す模式断面図である。
【
図8】
図8は、本実施形態に係る紫外線発光装置の変形例を示す模式断面図である。
【
図9】
図9は、本実施形態に係る紫外線発光装置の変形例を示す模式断面図である。
【
図10】
図10は、本実施形態に係る紫外線発光装置の変形例を示す模式断面図である。
【
図11】
図11は、本実施形態に係る紫外線発光装置の変形例を示す模式断面図である。
【
図12】
図12は、本実施形態に係る紫外線発光装置の変形例を示す模式断面図である。
【
図13】
図13は、本実施形態に係る紫外線発光装置の変形例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施できる。また、数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0016】
<光学素子>
本実施形態に係る光学素子は、樹脂組成物層及び紫外線を透過する光学部材を備え、紫外線発光装置に用いられる。
樹脂組成物層が硬化する温度で焼成して得られる樹脂層はd線(波長587.6nm)に対する屈折率nd(R)が1.37以上であり、樹脂層中の有機溶媒の含有量は0.3質量%以下である。
光学部材の表面の少なくとも一部の領域に樹脂組成物層が形成され、この樹脂組成物層を介して、光学部材が他の部材と接着される。
【0017】
[樹脂組成物層]
本実施形態において、樹脂組成物層は、硬化して樹脂層となる前の樹脂組成物の層であり、例えば、有機溶媒を含む樹脂組成物溶液を乾燥して得られる層である。これを、樹脂組成物層が硬化する温度でさらに焼成して得られる層が樹脂層である。具体的には、後述する光学部材に樹脂組成物溶液を滴下し、加熱することで有機溶媒が除かれた樹脂組成物層が得られる。そして、光学部材を半導体発光素子等の他の部材と樹脂組成物層を介して重ね合わせ、さらに焼成することにより貼り合わせると、樹脂層が得られる。
また、樹脂に硬化剤を混ぜた樹脂組成物溶液を光学部材に塗布することで樹脂組成物層を形成し、さらにこの光学部材を他の部材と樹脂組成物層を介して重ね合わせ、さらに焼成することにより貼り合わせて樹脂層を得ることもできる。
【0018】
樹脂組成物層を、樹脂組成物層が硬化する温度で焼成して得られる樹脂層のd線(波長587.6nm)に対する屈折率(以下、単に「屈折率」と称することがある。)nd(R)は1.37以上である。
屈折率は波長分散性があり、下記のコーシー(Cauchy)の分散式で表される。
n(λ)=A+(B/λ2)+(C/λ4)
式中、λは光の波長を表し、n(λ)は波長λの光に対する屈折率を表す。A、B及びCは実験的に定められる定数である。
なお、樹脂組成物層を紫外線発光装置における接着材料に用いる場合、樹脂層の紫外線波長域における屈折率が重要であるが、本明細書では便宜上d線(波長587.6nm)での屈折率を用いる。d線での屈折率を高くすることで、紫外線波長域での屈折率も高くできる。
【0019】
樹脂層の屈折率nd(R)を高くすることにより、半導体発光素子等の光学部材と接着する部材と樹脂層との界面や、光学部材と樹脂層との界面における全反射やフレネル反射を抑制して、光の取出し効率の低下を抑制できる。その結果、紫外線発光装置の出力を向上できる。そのため、樹脂層の屈折率nd(R)は1.37以上であり、1.39以上が好ましく、1.40以上がより好ましく、1.41以上がさらに好ましい。また、上限は特に限定されないが、光学素子及び光学部材の接着性と、紫外線発光装置の出力向上とのバランスの観点から、通常1.8以下である。
樹脂層の屈折率nd(R)は、樹脂組成物層を構成する樹脂の選択により調整できる。
【0020】
樹脂層中に有機溶媒が含まれることにより、溶媒の揮発による発泡や接着強度の低下、また、溶媒自体の紫外線による劣化が起こる可能性がある。紫外線による劣化とは、例えば、紫外線照射による樹脂層の着色や、紫外線発光装置の作製時等で加熱した場合に、樹脂層と光学部材との界面や、樹脂層と半導体発光素子等の接着する部材との界面に発泡が見られるといった現象である。
このような紫外線による劣化を抑制するため、樹脂組成物層が硬化する温度で焼成して得られる樹脂層中の有機溶媒の含有量は0.3質量%以下であり、0.1質量%以下が好ましく、0.05質量%以下がより好ましい。また、下限は特に限定されず、少ないほど好ましい。
有機溶媒とは、後述する樹脂組成物層を構成する樹脂組成物を可溶な溶媒であり、樹脂組成物の種類に応じて適宜選択される。この有機溶媒の含有量は、ガスクロマトグラフィー分析により測定できる。
【0021】
有機溶媒は、樹脂への溶解性が高いことから、芳香族炭化水素、ケトン、エステル、アミン、アミドを含むことが多い。これらの溶媒が紫外線による劣化に寄与するものと考えられることから、これらの含有量を減少することがより好ましく、上記の合計の含有量を0.3質量%以下とすることがより好ましく、0.1質量%以下がさらに好ましく、0.05質量%以下がよりさらに好ましい。
【0022】
有機溶媒の含有量は、樹脂組成物層を形成する際に低温で長時間乾燥する、乾燥の際に減圧する、低沸点溶媒の使用等により減少できる。低温で長時間乾燥や減圧乾燥をすることにより、樹脂の硬化が起こる前に溶媒を揮発できる。
【0023】
樹脂層中に金属不純物が含まれると、紫外線領域に吸収を持つため、紫外線照射時に樹脂層にクラックが発生しやすくなる。金属不純物とは、意図せずに含まれる触媒残渣や、シリコーン系樹脂をヒドロシリル化によって得る時の金属触媒を指す。具体的にはスズ、白金、パラジウム、ロジウム、金、銀、銅、亜鉛、鉄、コバルト、ニッケル、及びそれらの化合物を指す。
クラックの発生を抑制する観点から、樹脂組成物層が硬化する温度で焼成して得られる樹脂層中の金属不純物の濃度は重量換算で1000ppm以下が好ましく、100ppm以下がより好ましく、10ppm以下がさらに好ましく、少ないほど好ましい。金属不純物の濃度はICP発光分析や、電子顕微鏡観察と電子線照射により発生する特性X線のエネルギー分光による検出(EDX)を組み合わせて測定できる。
【0024】
樹脂組成物層を構成する樹脂は、樹脂組成物層が硬化する温度で焼成して得られる樹脂層のnd(R)が1.37以上となるものであれば特に限定されない。他方で、紫外線発光装置においては、紫外光や深紫外光といった波長のより短い光を出射する発光素子を用いることから、出射光のエネルギーが大きい。そのため、発光素子が発する光によって樹脂の光分解による劣化を防止する観点からは、紫外光への耐光性が高い樹脂が好ましい。具体的には、縮合重合型樹脂を含むことがより好ましく、シリコーン系樹脂を含むことがさらに好ましい。
樹脂は1種を用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
シリコーン系樹脂は結合の主骨格がケイ素と酸素が交互に結びついたシロキサン結合であり、そこに有機官能基が結びついたものをいう。有機官能基の例としては、深紫外領域に吸収のない官能基が好ましく、例えばアルキル基が挙げられる。アルキル基は、水素原子の一部又は全部がフッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0026】
主骨格の構造としては、(-R1R2SiO-)で示される直鎖構造でもよいが、(-R3SiO1.5-)で示されるシルセスキオキサン樹脂を特に好適に使用できる。式中R1~R3は有機官能基を意味する。
ケイ素原子に1個の有機官能基と3個の酸素原子が結合した構造を持つシルセスキオキサン樹脂は、直鎖構造と比較して有機官能基が少ないため、耐光性や耐熱性に特に優れる。シルセスキオキサン樹脂の骨格としては、ランダム構造やラダー構造、かご構造が知られているが、本実施形態においては特に制限なく使用できる。シルセスキオキサン樹脂としては、小西化学社製SRシリーズ、SPシリーズ、SOシリーズが例示される。その他に、信越化学社製シリコーンレジンKR-220L、KR-220KP、KR-242A、KR-251や、特許第6257446号公報で開示される材料も例示される。
【0027】
ただし、光学部材が後述する無機ガラスから構成される場合、無機ガラスは酸に弱いため無機ガラスが溶ける恐れがある。したがって、樹脂組成物層は酸を含まない方が好ましい。この場合の樹脂組成物層の酸価は50mgKOH/g以下が好ましく、10mgKOH/g以下がより好ましく、5mgKOH/g以下がより好ましい。樹脂組成物層の酸価はJIS K 0070(1992年)に準拠して測定される。なお、樹脂組成物層を焼成して樹脂層とした場合でも、酸価は変わらず、同じ値を示すものとみなせる。
【0028】
樹脂組成物層に含まれる他の成分として、金属酸化物ナノ粒子の含有量は10質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、実質的に含まないことがさらに好ましい。これは、金属酸化物ナノ粒子は表面に水酸基を多く含むことから吸湿性が高くなる傾向にあり、信頼性に劣る可能性があるためである。また、金属不純物の含有にもつながるおそれがある。
金属酸化物ナノ粒子とは、平均一次粒径が1~100nm程度、平均二次粒子径が5~200nm程度の金属酸化物の粒子である。金属酸化物ナノ粒子を実質的に含まないとは、金属不純物の濃度と同様に、ICP発光分析やEDX検出が付属した電子顕微鏡観察において、金属酸化物の濃度が樹脂組成物層に対して1質量%以下であることを意味する。なお、樹脂組成物層を焼成して樹脂層とした場合でも、金属酸化物ナノ粒子の濃度は変わらず、同じ値を示すものとみなせる。
【0029】
樹脂組成物層が硬化する温度で焼成した場合の樹脂層の波長域260~400nmにおける透過率の平均値(平均透過率)は、紫外線発光装置の高出力を達成する観点から、70%以上が好ましく、75%以上がより好ましい。また、平均透過率は高いほど好ましいが、通常100%以下である。
なお、本明細書における各波長の光の透過率は可視紫外分光光度計を用いて測定される値である。すなわち、透過率は、内部透過率ではなく界面の表面反射率を含む外部透過率であり、厚さ10μmに換算した外部透過率である。
【0030】
樹脂組成物層は、波長域250~400nmにピーク波長λ(D)を有する半導体発光素子を備える紫外線発光装置に用いられることが好ましい。これは、短波長の紫外線を発する半導体発光素子ほど光の取出し効率が低くなるので、本発明の効果が顕著に得られるためである。より好ましくは波長域250~370nm、さらに好ましくは波長域250~330nm、特に好ましくは波長域250~290nmにピーク波長を有する半導体発光素子を含む紫外線発光装置に用いられる。
【0031】
樹脂組成物層は、紫外線発光装置における光学部材と他の部材との接着に用いられるが、接着とは、樹脂組成物層を焼成した樹脂層のみで強い接着強度を実現する必要は必ずしもなく、光路以外の場所、例えば、紫外線発光装置の基板と光学部材の界面において別の接着剤を用いて接着することにより、高い光の取出し効率と接着強度とを両立してもよい。紫外線発光装置の詳細については後述する。
【0032】
他の部材は半導体発光素子が好ましいが、本実施形態における樹脂組成物層を、それ以外の部材の接着に用いることを何ら排除するものではない。また、紫外線発光装置以外の部材の接着にも適用できる。例えば、光の透過性が求められる部材の接着に好適に用いられ、グラスファイバー同士の接着、レンズ同士の接着、プリズム同士の接着、光学フィルター同士の接着等に用いてもよい。
【0033】
[光学部材]
本実施形態における光学部材は紫外線を透過し、光入射面及び光出射面を有する。光入射面及び光出射面の少なくともいずれか一方の少なくとも一部の領域に光学機能面を備えることが好ましい。
光入射面とは、例えば半導体発光素子から出射された光が入射される面であり、光出射面とは、当該入射された光が光学部材内を透過し、外部を照射するために光が出射される面である。
【0034】
光学機能面とは、かかる面によって光を屈折、回折、散乱させるものや、ミラーのような高反射面、透過性を高めた低反射面、波長選択性を持たせた各種フィルター等が挙げられる。光学部材の光入射面や光出射面の全面が当該機能を備えていても、一部の領域が備えていてもよい。
【0035】
光学部材は上記機能を発揮できれば、従来公知の様々な光学部材を使用できる。形状も特に限定されないが、例えば板状、レンズ、レンズアレイ、回折格子、回折光学素子、グレーティングセルズアレイが挙げられる。また、その表面に金属や誘電体が単層又は多層に成膜されていてもよい。
特に、球状や半球状、非球面の凸レンズ形状であることが好ましく、半球状がより好ましい。
【0036】
光学部材は、半導体発光素子のような発光素子と貼り合わされる場合、発光素子の光出射面が高屈折率材料で形成されているため、光学部材を高屈折率な材料で構成することで光取出し効率を大きく向上できる。そのため、d線(波長587.6nm)に対する光学部材の屈折率nd(O)は1.4以上が好ましく、1.45以上がより好ましく、1.5以上がさらに好ましい。上限は特に限定されないが、通常2.0以下である。
【0037】
樹脂組成物層が硬化する温度で焼成した樹脂層の屈折率nd(R)と光学部材の屈折率nd(O)とは、nd(R)≦nd(O)の関係を満たすことが樹脂層と光学部材の界面での全反射を防ぐ点から好ましい。
【0038】
光学部材と樹脂層との屈折率の差Δnd=nd(O)-nd(R)は、光学部材と樹脂層との界面での反射を防ぐ観点から、0.4以下が好ましく、0.35以下がより好ましい。またΔndの下限は特に限定されない。
【0039】
発光素子が発した光はレンズ等の形状に加工された光学部材を通り紫外線発光装置外へ出射される。そのため、光学部材を形成する材料を発光素子が発する発光波長において高透過な材料とすることで光の損失を抑えて光の取出し効率をより向上できる。
光学部材内で光が通る距離は通常0.5~5mm程度であり、光学部材の発光素子の発光波長での吸収係数k(O)は0.2mm-1以下が好ましく、0.15mm-1以下がより好ましく、0.1mm-1以下がさらに好ましく、0.07mm-1以下が特に好ましい。下限は特に限定されない。
【0040】
発光素子のピーク波長λ(D)における光学部材の屈折率no(O)と樹脂層の屈折率no(R)との差であるΔno=no(O)-no(R)は、光学部材と樹脂層との界面での反射を防ぐ観点から、0.4以下が好ましく、0.35以下がより好ましい。またΔnoの下限は特に限定されない。
【0041】
光学部材は、発光素子と光学部材の接着工程等の生産プロセス内で加熱された場合でも、光学部材の形状が変形しないようにガラス転移温度Tg(O)が高いことが好ましい。Tg(O)は350℃以上が好ましく、400℃以上がより好ましく、500℃以上がさらに好ましい。
【0042】
光学部材を構成する材料は特に限定されず、無機ガラス、石英(Tg:1060℃、Tc:1210℃、nd:1.46)、結晶体であるサファイア(nd(常光):1.77、融点:2053℃)やスピネル、酸窒化アルミニウムなどの透明セラミックス材料を使用できる。
【0043】
耐久性が高く、また、発光素子が発する高出力な光、特に紫外線のような短波長の光に長時間晒されても劣化のおそれがなく、耐熱性にも優れると、光学部材としての製品寿命を長くできる。かかる観点から、光学部材には無機材料、具体的には無機ガラス、石英、サファイア、スピネルを用いることが好ましい。
【0044】
さらに、無機ガラスは、様々な形状に容易に加工でき、製造コストの低減や大量生産の点から特に好ましい。
光が光学部材を透過する間の光の損失を抑制するために、無機ガラスは、波長域260~400nmにおける吸収係数の最大値αmaxが0.2mm-1以下の紫外線高透過ガラスがより好ましく、かかる波長域における吸収係数の最大値αmaxは0.15mm-1以下がさらに好ましく、0.1mm-1以下がよりさらに好ましく、0.07mm-1以下が特に好ましい。吸収係数の最大値αmaxは小さいほど好ましい。
【0045】
光学部材として無機ガラスを用いる場合、例えば、ホウケイ酸ガラス、ケイ酸ガラス、リン酸ガラス、フツリン酸ガラスが挙げられる。
【0046】
ホウケイ酸ガラスは、SiO2及びB2O3を主成分として、Al2O3、アルカリ土類金属酸化物(MgO、CaO、SrO、BaO)、アルカリ金属酸化物(Li2O、Na2O、K2O)、その他の金属酸化物等を含むガラスである。
ケイ酸ガラスは、SiO2を主成分として、B2O3、Al2O3、アルカリ土類金属酸化物(MgO、CaO、SrO、BaO)、アルカリ金属酸化物(Li2O、Na2O、K2O)、その他の金属酸化物等を含むガラスである。
リン酸ガラスは、P2O5を主成分として、Al2O3、アルカリ土類金属酸化物(MgO、CaO、SrO、BaO)、アルカリ金属酸化物(Li2O、Na2O、K2O)、その他の金属酸化物等を含むガラスである。
フツリン酸ガラスは、P2O5を主成分として、Al、アルカリ土類金属(Mg、Ca、Sr、Ba)、アルカリ金属(Li、Na、K)、その他の金属のフッ化物や、その他の金属酸化物等を含むガラスである。
【0047】
光学部材は、発光素子と光学部材の接着工程等の生産プロセス内で加熱された場合でも、光学部材の形状が変形しないようにガラス転移温度Tgが高いことが好ましい。Tgは350℃以上が好ましく、400℃以上がより好ましく、500℃以上がさらに好ましい。一方、加熱してプレス加工で非球面状などに加工しやすい等の成形性の観点から、Tgは750℃以下が好ましく、725℃以下がより好ましく、700℃以下がさらに好ましい。
【0048】
無機ガラスの溶融温度は、低温で溶融でき、板状、ボール形状等、様々な形状に安価で容易に生産できる観点から、1500℃以下が好ましく、1450℃以下がより好ましく、1400℃以下がさらに好ましく、1350℃以下がよりさらに好ましい。また、下限は通常500℃以上である。
【0049】
無機ガラスは、鉄成分の含有量が多いと紫外線透過率が低下する。そのため、無機ガラスは、特に鉄成分の含有量が低減されたものが好ましい。ここで鉄成分は、Fe3+又はFe2+の価数となってガラス中に存在するが、ガラス中に含まれている鉄成分をFe2O3に換算した全酸化鉄含有量をT-Fe2O3として表す。
ガラス中のT-Fe2O3は10質量ppm以下が好ましく、5質量ppm以下がより好ましく、2.5質量ppm以下がさらに好ましく、2質量ppm以下がよりさらに好ましく、1質量ppm以下が特に好ましく、含有量が少ないほど好ましい。上記の鉄成分は、溶解工程からの混入を除けば、主にガラス原料に含まれる不純物としてガラスに導入される。
【0050】
特に、発光素子が波長域250nm~400nmの紫外線を発光波長とするものである場合、紫外線域で高透過な無機ガラス中のT-Fe2O3は5質量ppm以下が好ましく、2質量ppm以下がより好ましく、1.5質量ppm以下がさらに好ましく、1質量ppm以下がよりさらに好ましく、0.9質量ppm未満が特に好ましく、含有量が少ないほど好ましい。
【0051】
光学部材は耐久性を高めたり、紫外域での吸収係数を小さくする点から、石英、サファイア、又はスピネルから構成されることも好ましい。
石英は高純度なSiO2のガラスであり、d線屈折率は1.46、275nmでの屈折率は約1.5である。サファイアはα-アルミナ(α-Al2O3)の単結晶体であり、d線屈折率は1.77、275nmでの屈折率は約1.83である。スピネルはMgO・Al2O3系(MgAl2O4)の結晶体である。
【0052】
光学部材は、反射防止膜をその表面に形成させることもできる。例えば、SiO2、MgF2、Al2O3、HfO2、ZrO2、Ta2O5等の誘電体の単層膜、又は多層膜が用いられる。反射防止膜を形成することにより、光学部材表面でのフレネル反射が低減されるため、光の取出し効率をさらに向上させることもできる。
【0053】
[光学素子]
本実施形態に係る光学素子は紫外線発光装置に用いられるが、半導体発光素子を含む紫外線発光装置に用いられることが好ましい。短波長の紫外線を発する半導体発光素子において、光の取出し効率がより低くなることから、半導体発光素子がピーク波長λ(D)を有する波長域は250~400nmが好ましく、250~370nmがより好ましく、250~330nmがさらに好ましく、250~290nmがよりさらに好ましい。
ピーク波長λ(D)は、殺菌用途の場合は波長域260~285nmにあることがより好ましく、医療用途の場合は波長域290~330nmにあることがより好ましく、樹脂硬化用途の場合は波長域340~380nmにあることがより好ましい。
【0054】
光学素子を、樹脂組成物層が半導体発光素子の光出射面に密着するように設置することで、半導体発光素子の光の取出し効率を向上でき好ましい。光学素子が半導体発光素子を含む紫外線発光装置に用いられる場合は、少なくとも光学素子における光学部材の光入射面に樹脂組成物層を設けることが好ましい。
【0055】
光学素子10は、
図1に示すように、樹脂組成物層2が、光学部材1の表面の少なくとも一部の領域に形成され、この樹脂組成物層2を介して、光学部材1が他の部材と接着される。すなわち、光学部材1の光入射面及び光出射面の少なくともいずれか一方の表面上に設けられる。かかる表面の少なくとも一部の領域に樹脂組成物層2が形成されていればよい。
【0056】
樹脂組成物層2は、
図1に示すように、中央領域と周辺領域とを有し、中央領域の厚みが、周辺領域の厚み以上であることが好ましい。これは、中央領域が接着に用いられる領域、周辺領域が接着に用いられない領域となるように、半導体発光素子等の部材を接着する際、接着面内に空気を巻き込むことを好適に防ぎ、光の取出し効率が向上できるためである。上記は、中央領域及び周辺領域の厚みが各々一定であることを要件とするものではない。
例えば、中央領域において、その厚みが極大となる点が一点である場合に、その極大点に最初に接着する部材を押し当てることで、空気の巻き込みを良好に防げる。中央領域の厚みは連続的に増減していてもよく、周辺領域の厚みは、中央領域の上記極大となる点の厚みよりも小さいことが好ましい。ただし周辺領域が部材の接着の妨げにならなければ、中央領域よりも厚いことを妨げない。
【0057】
また、樹脂組成物層2は、
図2に示すように、光学部材1表面上の全領域(全面)に設けられていてもよく、
図3に示すように、接着する部材である半導体発光素子3の大きさに合わせて、光学部材1表面上の一部の領域に設けられていてもよい。
【0058】
<紫外線発光装置>
本実施形態に係る紫外線発光装置20は、例えば
図4に示すように、基板4と、基板4上に設けられた半導体発光素子3と、半導体発光素子3上に設けられた光学素子10と、を有する。
光学素子10は樹脂層2’及び紫外線を透過する光学部材1を備える。
光学部材1の表面の少なくとも一部の領域に樹脂層2’が形成され、半導体発光素子3の光出射面上に、樹脂層2’を介して光学部材1が設けられている。
【0059】
中央領域と周辺領域とを有し、中央領域の厚みが、周辺領域の厚み以上である樹脂層2’とすることが好ましい。中央領域は接着に用いられる領域であり、周辺領域は接着に用いられない領域である。これにより、半導体発光素子3と樹脂層2’の間に空間、すなわち空気の層が介在しない状態を容易に形成できる。そのため、半導体発光素子3の光出射面と空気界面で生じる全反射を防ぎ、光の高い取出し効率を実現できる。
【0060】
紫外線発光装置における光学素子は、上記<光学素子>に記載のものと同様の光学素子を、樹脂組成物層2の硬化する温度以上の温度で焼成し、樹脂組成物層2を樹脂層2’とした光学素子を使用できる。焼成条件は樹脂組成物層2が硬化すれば特に限定されず、樹脂層2’を介して光学部材1と半導体発光素子3とが接着できればよい。
【0061】
具体的には、光学素子を構成する樹脂層のd線(波長587.6nm)に対する屈折率nd(R)は1.37以上である。また、樹脂層中の有機溶媒の含有量は0.3質量%以下である。
樹脂層の好ましい態様は、上記<光学素子>の[樹脂組成物層]に記載の、樹脂組成物層が硬化する温度で焼成した後の樹脂層の好ましい態様と同様である。
光学素子を構成する光学部材は、上記<光学素子>の[光学部材]に記載のものを使用でき、好ましい態様も同様である。
【0062】
樹脂層のうち、半導体発光素子の光出射面と光学部材との間に介在する領域の厚みは、熱膨張差によるクラックの発生を防ぐ観点から、100μm以下が好ましく、75μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましく、30μm以下がよりさらに好ましい。一方で、接着強度を高める観点からは、上記領域の厚みは、0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、1μm以上がさらに好ましい。厚みは触針式薄膜段差計により測定できる。
【0063】
樹脂層により、半導体発光素子の光出射面と光学部材とが接着されていることが好ましく、接着の強度が、せん断強度で1N/mm2以上が好ましく、2N/mm2以上がより好ましく、3N/mm2以上がさらに好ましく、5N/mm2以上がよりさらに好ましく、6N/mm2以上が特に好ましい。また、上限は特に限定されない。なお、せん断強度はMIL STD 883に準拠して測定される値であり、例えば、Nordson社製ボンドテスターDAGE 4000plusを用いて測定できる。なお、せん断強度は、例えば、樹脂層に含まれる有機官能基の数により調整できる。
【0064】
紫外線発光装置における半導体発光素子は、通常用いられるものを使用できるが、波長域250~400nmにピーク波長λ(D)を有することが好ましい。光の取出し効率がより低くなり、本発明の効果がより顕著となることから、より好ましくは波長域250~370nm、さらに好ましくは波長域250~330nm、特に好ましくは波長域250~290nmにピーク波長λ(D)を有する半導体発光素子を用いる。
ピーク波長λ(D)は、上述のように、用途によってより好ましい波長域が異なる。具体的には、殺菌用途の場合は波長域260~285nmにピーク波長λ(D)があることがより好ましい。医療用途の場合は波長域290~330nmにピーク波長λ(D)があることがより好ましい。樹脂硬化用途の場合は波長域340~380nmにピーク波長λ(D)があることがより好ましい。
【0065】
半導体発光素子は、LED基板の上に半導体層が形成され、LED基板の裏面と半導体層の表面にそれぞれ電極が設けられた縦型構造や、半導体層の表面にp電極とn電極の双方を設けるフリップチップ構造のいずれも採用できる。半導体発光素子の光出射面は、縦型構造の場合はAlGaN系半導体層や透明電極、フリップチップ構造の場合はサファイアや窒化アルミニウムであることが多い。
【0066】
本実施形態に係る紫外線発光装置20は、上述したように、基板4と、基板4上に設けられた半導体発光素子3と、半導体発光素子3上に設けられた光学素子10とを有する。
紫外線発光装置は、例えば、
図4に示すように、樹脂層2’の半導体発光素子3側の表面が、半導体発光素子3の光出射面と接している中央領域と、半導体発光素子3の光出射面と接していない周辺領域と、を有することが好ましく、さらに中央領域が半導体発光素子3の光出射面の全面と接していることがより好ましい。これは、樹脂層2’のうち紫外線が照射される中央領域が、周辺領域の存在により外部に露出しないことで、紫外線が照射される樹脂層が大気中の酸素と反応して変質するのを抑制できるためである。
【0067】
かかる構成に対し、紫外線発光装置20の変形例として
図5~
図13を示すが、本実施形態に係る紫外線発光装置の構成はこれらに限定されるものではない。
【0068】
紫外線発光装置は、
図5に示すように、半導体発光素子3の光出射面の一部に、光学部材1が樹脂層2’を介して設けられていてもよい。しかしながら、
図4に示すように、半導体発光素子3の光出射面の全面上に、光学部材1が樹脂層2’を介して設けられていることが好ましい。すなわち、紫外線発光装置20は、平面視において、すなわち光学部材1の光出射面側から見た場合に、半導体発光素子3の全領域がすべて光学素子1で覆われていることが好ましく、光学素子1の内接円の直径は、半導体発光素子3の外接円の直径以上(1倍以上)がより好ましく、1.5倍以上がさらに好ましく、1.7倍以上がよりさらに好ましく、2倍以上がことさらに好ましく、2.5倍以上が特に好ましい。
【0069】
図6に示すように、紫外線発光装置20は、樹脂層2’が半導体発光素子3の光出射面のみならず、その側面の少なくとも一部を覆っていてもよい。さらには、
図7に示すように、樹脂層2’で半導体発光素子3の側面の全領域をも覆うことで、封止してもよい。側面の少なくとも一部を覆うことで、光学素子10と半導体発光素子3をより強く接着できる。また、封止することで、大気中の水分等、半導体発光素子3の劣化を早める物質の外界からの侵入を防ぎ、その結果、半導体発光素子3の性能劣化を抑制できる。
【0070】
図8及び
図9の紫外線発光装置20は、光学部材1の外周部分を伸ばして基板4と接触又は接着されている。このように、光学部材1の一部が、基板4と接している、又は基板4と接着されていると、光学部材1が半導体発光素子3から脱落しにくくなる。光学部材1と基板4は、
図8のように光学部材1の外周部分を伸ばして基板4と接触させてもよく、その他の面で接触させてもよく、光学部材1と基板4との間に他の材料を介して接触または接着させてもよい。また
図9のように、接着剤層5等を介して接着させてもよい。
【0071】
また、
図9~
図11に示すように、樹脂層2’と共に別の接着剤層5を用いることで、高い光の取出し効率と接着強度とを両立してもよい。光学部材1が接着剤層5で基板4と接着されていると、樹脂層2’の接着性が低い場合であっても、光学素子10が脱落しにくくなる。
接着剤層5は1つの材料であってもよく、複数の接着剤や部材で構成されていてもよい。接着剤層5は従来公知のものを使用できるが、例えば、金属ハンダ、低融点ガラス等の無機接着剤により形成できる。接着剤層5は半導体発光素子3から発せられる光が強く当たらない位置に設ける場合には、紫外線により劣化するおそれがある有機接着剤により形成してもよい。また、セラミックス材料やガラスも使用できる。
【0072】
図9の紫外線発光装置20は、光学部材1の外周部分を伸ばし、接着剤層5を介して基板4と固定させている。光学部材1の外周部分を伸ばす代わりに、別の部材を光学部材1の外周部分に接着することで類似の形状としてもよい。他方、半導体発光素子3は樹脂層2’で封止され、樹脂層2’を介して光学部材1と密着している。接着剤層5を用いることで接着強度が増すことから、樹脂層2’は、光の取出し効率向上を接着性に優先させて設計することも可能である。
【0073】
接着剤層5を介して光学部材1と基板4とを固定するに際し、
図10のように基板4表面の一部に凹部を設け、かかる凹部へ向けて光学部材1の外周部分を伸ばし、接着剤層5を介して基板4と固定させてもよい。光学部材1の外周部分を伸ばす代わりに、別の部材を光学部材1の外周部分に接着することで類似の形状としてもよい。
図11は、基板4の外周部分を伸ばし、接着剤層5を介して光学部材1と固定させている。基板4の外周部分を伸ばす代わりに、別の部材を光学部材1の外周部分に接着することで類似の形状としてもよい。
【0074】
図12の紫外線発光装置20は、複数の半導体発光素子3の光出射面の全面上に、光学部材1が樹脂層2’を介して設けられている。また、
図13の紫外線発光装置20のように、光学部材1は複数の半球状光学部材の集合体であってもよく、それらはひとつの樹脂層2’を介して複数の半導体発光素子3の光出射面の全面上に設けられていてもよい。この形態では、複数の半導体発光素子を備えた紫外線発光装置で半導体発光素子間の間隔を狭くでき、紫外線発光装置のサイズを小さくできる。
【0075】
上記の他に、例えば、基板4を側壁を設けた容器形状としてカバーで蓋をしたり、カバーを側壁を有する蓋形状とし、基板4上に設けてもよい。カバーは半導体発光素子3から出射する光を透過する材料で形成されていればよく、かかる出射する光の波長で高透過な材料が好ましい。例えば石英や無機ガラスが挙げられる。
カバーと基板4とは金属ハンダ、無機接着剤、有機接着剤等で接着でき、これにより外界からの水分等の侵入を防ぎ、半導体発光素子3の性能劣化を抑制できる。
カバーが蓋形状である場合には基板4は平板形状でよく、コストを抑制できる。さらに側面がカバー6で構成されることから、半導体発光素子3から側面方向に放射された光も外界に取り出せるため、取出し効率がより向上できる。
【0076】
<光学素子及び紫外線発光装置の製造方法>
紫外線発光装置は、ダイボンディングなどの公知の方法により基板上に半導体発光素子を取り付ける。また光学素子は、これとは別に光学部材を加工、成形する等して、用意する。また、樹脂組成物層となる樹脂組成物も調製する。
【0077】
樹脂組成物層となる樹脂組成物を溶媒に溶解させ、光学部材の接着面に塗布、乾燥させることで、樹脂組成物層が形成された光学部材を備える光学素子が得られる。
【0078】
樹脂組成物を溶解する際には加熱してもよく、溶媒の沸点以下の温度、例えば30℃~50℃が好ましい。このとき、溶媒量を調整して粘度を高くすることにより、光学部材の接着面において、樹脂組成物層や焼成後の樹脂層の形状を制御しやすい。
樹脂組成物層や焼成後の樹脂層は、中央領域と周辺領域とを有し、中央領域の厚みが、周辺領域の厚み以上となるような形状とすることが好ましい。中央領域は接着に用いられる領域であり、周辺領域は接着に用いられない領域である。これにより、半導体発光素子等の他の部材と接着させる際に、接着面への空気の巻き込みを防げる。
【0079】
樹脂組成物層について、乾燥の際に、溶液を長時間低温乾燥することによって、焼成後の樹脂層に含まれる有機溶媒の量を0.3重量%以下とできる。
乾燥温度は、80℃以下が好ましく、50℃以下がより好ましい。一方で、温度が低すぎると有機溶媒が揮発しないことから、40℃以上が好ましい。乾燥時間は、30分以上が好ましく、1時間以上がさらに好ましい。乾燥時間の上限は特に限定されないが、生産性の点から6時間以下が好ましい。
また、乾燥は一段階で行っても複数段階で行ってもよいが、有機溶媒の含有量をより少なくする観点から、温度を変えて二段階以上で行うことも好ましい。
なお、従来のように、樹脂組成物を有機溶媒に溶解させて塗布し、長時間の低温乾燥を経ないで焼成により樹脂層とした場合、得られる樹脂層中の有機溶媒は、通常0.5重量%以上となる。これは低温乾燥を経ない焼成により、有機溶媒が十分に揮発する前に硬化反応が起こり、樹脂層の表面に被膜のようなものが先にできるため、有機溶媒がそれ以上揮発しにくくなることに起因するものと考えらえる。
【0080】
なお、光学部材の接着面への樹脂組成物層の形成は、上記方法に限られず、他の方法を用いてもよい。例えば、圧力により予め乾燥させて得た樹脂組成物層を光学部材の接着面に固着してもよい。
【0081】
上記で得られた光学素子を、基材上に設けられた半導体発光素子の光出射面に接するように配置し、樹脂組成物層が軟化する温度に加熱して半導体発光素子を圧着する。次いで樹脂組成物層が硬化する温度に加熱した後、冷却することにより樹脂組成物層が樹脂層となり、樹脂層により光学部材と半導体発光素子とが密着した紫外線発光装置が得られる。先に半導体発光素子上に光学素子を設けた後で、基板に取り付ける順で紫外線発光装置を作製することもできる。
【0082】
また、樹脂層として光硬化性樹脂を用いる場合には、樹脂組成物層を光学部材及び半導体発光素子の少なくとも一方の接着面に固着し、それらを貼り合わせた後に、光を照射して硬化させてもよい。これにより、樹脂層を介して光学部材と半導体発光素子とが接着された紫外線発光装置が得られる。
【実施例0083】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0084】
(樹脂1)
樹脂1として、ポリシルセスキオキサン(小西化学工業社製、SR-13、固形分濃度70質量%、溶剤:酢酸ブチル)を用いた。これは、加熱により脱水重縮合反応が起こり、硬化して樹脂層となる。
(樹脂2)
樹脂2として、一液型液状シリコーンゴム(信越化学社製、KER4510、固形分濃度100質量%)を用いた。これは、紫外線照射によりプラチナ触媒によるヒドロシリル化反応が起こり、硬化して樹脂層となる。
【0085】
(信頼性評価サンプルの作製)
条件A:15mm×30mmに切断した厚さ0.3mmの石英片に、ディスペンサで樹脂1を0.2mg滴下し、130℃で5分間乾燥させて樹脂1に由来する樹脂組成物層とした。次いで3mm×3mmに切断した厚さ0.3mmの石英片を貼り合わせ、250℃で30分焼成することで、樹脂1に由来する樹脂層により石英片が接着された信頼性評価サンプルを作製した。
条件B:15mm×30mmに切断した厚さ0.3mmの石英片に、ディスペンサで樹脂1を0.2mg滴下し、50℃で1時間乾燥させた後、さらに80℃で20分乾燥させて樹脂1に由来する樹脂組成物層とした。次いで130℃に昇温した状態で3mm×3mmに切断した厚さ0.3mmの石英片を貼り合わせ、200℃で30分焼成することで、樹脂1に由来する樹脂層により石英片が接着された信頼性評価サンプルを作製した。
条件C:15mm×30mmに切断した厚さ0.3mmの石英片に、ディスペンサで樹脂2を0.2mg滴下し、3mm×3mmに切断した厚さ0.3mmの石英片を貼り合わせた。次いで、浜松フォトニクス社製UV-LEDスポット光源LC-L1(波長365nm)を用い、3000mJ/cm2の光を照射して、樹脂2を硬化させることで、樹脂2に由来する樹脂層により石英片が接着された信頼性評価サンプルを作製した。
【0086】
[評価]
(石英片の貼り合わせ結果)
条件Aで得られた信頼性評価サンプルは、樹脂層中の有機溶媒の含有量が多く、石英片の貼り合わせ時に発泡が確認された。そのため、以後の評価には進めなかった。
条件Bで得られた信頼性評価サンプルは、有機溶媒の含有量が少なく、石英片の貼り合わせ時に発泡がなく、後述する信頼性評価が可能であった。条件Bで得られた信頼性評価サンプルにおける樹脂層中の有機溶媒の含有量を、ガスクロマトグラフィー分析により0.3質量%以下であることを確認すると共に、金属不純物の濃度をICP発光分光分析により測定する。
条件Cで得られた信頼性サンプルは、樹脂中に有機溶媒を含まないため、発泡することなく以降の評価に進んだ。条件Cで得られた信頼性評価サンプルにおける樹脂層について、有機溶媒の含有量をガスクロマトグラフィー分析により、金属不純物の濃度をICP発光分光分析により、それぞれ測定する。
条件A、条件B、条件Cで得られた信頼性評価サンプルの貼り合わせ結果を、乾燥・焼成条件と共に表1に示す。
【0087】
【0088】
(接着強度試験)
条件B及び条件Cで得られた信頼性評価サンプルについて、石英片同士の接着強度を下記方法により測定した。結果を表2に示す。
測定装置;ノードソン社製
品番;DAGE4000plus
測定モード;ダイシェアモード
【0089】
【0090】
(屈折率測定)
樹脂1をガラス(SCHOTT社製、D263(登録商標)Teco)上に滴下し、ギャップ6μmのバーコーターでコートした。その後、50℃で1時間乾燥させた後、80℃で20分乾燥させ、樹脂1の樹脂組成物層を形成した。さらに、130℃で短時間加熱した後、200℃で30分間加熱して焼成することで、樹脂1の樹脂層が形成されたガラス基板を作り、屈折率測定サンプルとした。
樹脂2をガラス(SCHOTT社製D263(登録商標)Teco)上に滴下し、さらに離型処理した同じガラスで蓋をした以外は上記条件Cと同様にして樹脂層を介してガラスを接着させた。その後、60℃で1時間アニール処理をした後、離型処理したガラスを剥がし、屈折率測定サンプルとした。
【0091】
屈折率測定サンプルの屈折率をプリズムカプラ(Metricon社製:Model2010)を用いて測定した。測定温度は30℃、波長は452nm、532nm及び632nmとした。これら3波長における屈折率から、下記式で表されるコーシー(Cauchy)の分散式を用いて、特定の波長の光に対する屈折率を算出した。
n(λ)=A+(B/λ2)+(C/λ4)
式中、λは光の波長を表し、n(λ)は波長λの光に対する屈折率を表す。A、B及びCは実験的に定められる定数である。
表3に、波長452nm、532nm及び632nmにおける屈折率の実測値(順にn452、n532、n632)、並びに、コーシーの分散式で算出した波長587.6nm(d線)及び265nmにおける屈折率(順にnd(R)、N265)を示す。
【0092】
【0093】
(信頼性試験)
条件B及び条件Cで作製した信頼性評価サンプルを用い、高温高湿試験、温度サイクル試験、及びLED試験の3種の信頼性試験を実施した。各試験の条件は下記のとおりであり、樹脂層の変化の有無を金属顕微鏡により確認した。結果を表4に示す。
高温高湿試験:85℃、85%RH、1000時間
温度サイクル試験:1サイクル=+85℃→-40℃→+85℃、1時間/サイクル、1000サイクル
LED試験:波長265nm、照射密度20mW/cm2、温度25℃。
【0094】
【0095】
条件Cで得た樹脂2に由来する樹脂層はLED試験で着色が見られた。必ずしも明らかではないが、これは硬化に用いた触媒のわずかな吸収により劣化したことに起因するものと推定している。一方、条件Bで得た樹脂1に由来する樹脂層はいずれの信頼性試験でも劣化しなかった。
【0096】
[例1-1:光学素子]
光学部材として、表5に記載の組成aとなるように、相当する硝酸塩、硫酸塩、水酸化物、酸化物、ホウ酸等の原料を秤量し、十分混合した後、白金製坩堝に投入し、1150℃~1500℃の温度範囲で1.5時間~3時間加熱、溶融した。この溶融ガラスを、ガラス溶解炉に取り付けられたパイプから滴下し冷却固化することで粗球形状のガラス粗ボールを得た。次いで、ガラス粗ボールの表面を研磨してガラス研磨ボールを作製した。なお、上記の方法以外にも、板状に成形固化させて得られるガラス板からブレード等による機械加工、及び再加熱して変形させることでガラスブロックを作製し、ボール研磨機で表面を研磨することでもガラス研磨ボールを得られる。
得られたガラス研磨ボールをスライス加工や研磨加工により半球状に加工することで、半球レンズ(光学部材)を作製した。なお、表5中の組成における空欄は、かかる成分の含有量が検出限界値未満であることを意味する。
【0097】
上記で得られた組成aの半球レンズである光学部材の平面部分に、ディスペンサを用いて樹脂1を滴下し、50℃で60分乾燥させた後、80℃で20分乾燥させ、樹脂組成物層を形成した。樹脂組成物層の中央領域の厚みは20μmであり、周辺領域の厚みは20μm未満であった。
この樹脂1に由来する樹脂組成物層が形成された光学部材と他の部材とを、樹脂組成物層を介して貼り合わせて焼成することで、樹脂層を介して光学部材が他の部材と接着される光学素子とできる。
樹脂組成物層を焼成して樹脂層とした場合、樹脂層の有機溶媒含有量及び金属不純物含有量は、樹脂2を用いて条件Bで得た信頼性評価サンプルにおける樹脂層の値と同様となる。
【0098】
[例1-2~例1-4:光学素子]
光学部材を表5に記載の組成b~組成dの光学部材に変更した以外は、例1と同様にして樹脂1に由来する樹脂組成物層が形成された光学部材を得た。これに他の部材を、樹脂組成物層を介して貼り合わせて焼成することで、樹脂層を介して光学部材が他の部材と接着される光学素子とできる。光学部材の組成及び特性は表5に、光学素子の特性は表6に示したとおりである。
なお、例1-1~例1-4はいずれも実施例である。
【0099】
【0100】
【0101】
(屈折率測定)
光学部材の屈折率は、上述と同様な方法で作製した組成a~組成dのガラスブロックを一辺5mm以上、厚み5mm以上の直方体形状に加工したサンプルを用い、精密屈折率計(島津製作所製、型式:KPR-200、KPR-2000)を用いて測定した。表5に、587.6nm(d線)の実測値、並びにコーシーの分散式で算出した波長265nm、275nm及び285nmにおける屈折率を示す。
また、光学素子について、d線(波長587.6nm)に対する、光学部材の屈折率nd(O)と樹脂層の屈折率nd(R)、及びそれらの差Δnd=nd(O)-nd(R)を表6に示す。
【0102】
(吸収係数α)
光学部材の吸収係数αは、組成a~組成dのガラスブロックを厚さ10mm、5mm、1mmとなるように両面を研磨したサンプルについて、分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製、型式:U-4100)を用いて外部透過率を測定し、吸収係数を計算した。外部透過率と吸収係数は次式の関係がある。Tは外部透過率、αは吸収係数、dは試料の厚み、rは片面反射率である。
lnT=-α×d+ln(1-r)2
各波長における吸収係数及び260~400nmの波長域における吸収係数の最大値αmaxを表5に示す。
【0103】
(Fe含有量)
光学部材の全酸化鉄含有量(T-Fe2O3)はICP質量分析法によって以下の手順で測定した。組成a~組成dのガラスブロックを粉砕したものにフッ化水素酸と硫酸の混酸を添加し加熱して分解した。分解後、塩酸を添加して一定量にし、ICP質量分析法でFeの濃度を測定した。濃度は標準液を用いて作製された検量線により計算される。この測定濃度とガラスの分解量より、ガラス中のT-Fe2O3を算出した。ICP質量分析計は、アジレント・テクノロジー社製Agilent8800を用いた。結果を表5に示す。
【0104】
(ガラス転移温度)
光学部材のガラス転移温度Tgは、組成a~組成dのガラスブロックを直径5mm、長さ20mmの円柱状に加工したサンプルを、熱機械分析装置(リガク社製、型式:Thermo Plus TMA8310)を用いて5℃/分の昇温速度で測定した。結果を表5に示す。
【0105】
[例2-1~例2-3:紫外線発光装置]
金属配線された窒化アルミニウム製の基板の上に、ピーク波長λ(D)が275nmでフリップチップ構造であり、光出射面が鏡面のサファイア基板である半導体発光素子を設けた。例2-1は半導体発光素子のみから構成される紫外線発光装置である。
例2-2は石英で作製した半球状の光学部材を、例2-3は組成dの光学部材をそれぞれ用い、その平面部に樹脂1の樹脂組成物層を形成した光学素子を用意し、半導体発光素子の光出射面上に樹脂組成物層が接するように光学素子を配置した。その後、ホットプレートの上に静置して100℃~150℃で30分加熱すると、樹脂組成物層が軟化して半導体発光素子の光出射面全体に接するように広がり、次いで200℃~250℃で30分加熱すると樹脂組成物層が硬化して、光学素子が樹脂層を介して半導体発光素子に接して固定された。次いで冷却することで、半導体発光素子に樹脂組成物層を介して光学素子を設けられた紫外線発光装置を得た。なお、光出射面が窒化アルミニウム基板である半導体発光素子の場合でも同様な工程で光学素子を設けられる。
なお、例2-1は比較例であり、例2-2及び例2-3は実施例である。
【0106】
上述した紫外線発光装置で得られる光取出し効率向上の効果について、光学シミュレーションによって半導体発光素子から発光素子外部に放出される出射光の出力を計算して検証を行った。
光学シミュレーションでは、光線追跡法により発光素子外部に放出される出射光の出力を計算する。計算にあたって用いる半導体発光素子の計算モデルを表7、それぞれの検討例で用いる樹脂層と光学部材を表8に示す。
なお、半導体発光素子は、基板側から順に、コンタクト層、発光層、サファイア基板の順番で構成されている。コンタクト層は紫外光を吸収する完全吸収体であるp-GaNであり、発光層は屈折率2.5程度のAlGaN系半導体材料である。
【0107】
発光層で生じた光はサファイア基板を通過し、サファイア基板の上面側の光出射面から半導体発光素子外へと出射される。出射光の出力は、半導体発光素子の光出射面より上方に放出された光をカウントする。
【0108】
表8に示した各々の紫外線発光装置の出射光の出力について、例2-1の出射光の出力に対する比をEnhancement Factorとする。つまり、Enhancement Factorは、半導体発光素子に光学素子を取り付けることによって紫外線発光装置の光の出力が何倍になったかを表す値である。ピーク波長λ(D)=275nmの半導体発光素子を用いた光学シミュレーションの結果を表8に示す。
【0109】
【0110】
【0111】
表8の結果から、例2-2及び例2-3のEnhancement Factorは1.0を超えており、光学素子を半導体発光素子上に設けることで光の取出し効率を向上できることが分かる。
【0112】
以上の結果より、樹脂層中の有機溶媒の含有量を制御することで、光の取出し効率向上と高信頼性を確保できることが示された。また、樹脂層中の金属不純物の濃度を低くすることで、光の取出し効率向上と高信頼性の確保はより好ましいものとなる。