(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117302
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】電動機の駆動装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/18 20160101AFI20220803BHJP
H02P 21/22 20160101ALI20220803BHJP
H02P 21/24 20160101ALI20220803BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
H02P21/18
H02P21/22
H02P21/24
H02P27/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021013916
(22)【出願日】2021-01-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(71)【出願人】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100091498
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【弁理士】
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【弁理士】
【氏名又は名称】金沢 充博
(72)【発明者】
【氏名】西村 和馬
(72)【発明者】
【氏名】吉田 俊哉
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505BB06
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505GG02
5H505GG04
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ17
5H505JJ26
5H505JJ28
5H505KK06
5H505LL14
5H505LL22
5H505MM10
(57)【要約】
【課題】電動機のロータ角度の更新と更新停止が繰り返されることを防止し、ロータ角度情報を連続的に取得することができる駆動装置を提供する。
【解決手段】駆動装置は、インバータ10と、該インバータ10の出力電流を検出する電流検出器12と、該インバータ10への電圧指令値を決定するベクトル制御部11とを備えている。ベクトル制御部11は、インバータ10への電圧指令値を成分に含む電圧指令ベクトルと同方向の単位ベクトルを生成する単位ベクトル生成部35と、単位ベクトルの移動量を制限範囲内に制限する推移制限部38を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータと、該インバータの出力電流を検出する電流検出器と、該インバータへの電圧指令値を決定するベクトル制御部とを備えた電動機の駆動装置であって、
前記ベクトル制御部は、
前記インバータへの電圧指令値を成分に含む電圧指令ベクトルと同方向の単位ベクトルを生成する単位ベクトル生成部と、
前記単位ベクトルの移動量を制限範囲内に制限する推移制限部を備えている、駆動装置。
【請求項2】
前記駆動装置は、前記単位ベクトル生成部によって生成された前記単位ベクトルが更新範囲外にあるときに前記単位ベクトルの更新を停止する更新停止部をさらに備えており、
前記推移制限部は、前記更新停止部から出力された前記単位ベクトルの移動量を前記制限範囲内に制限するように構成されている、請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
前記更新範囲は、1つ前の制御周期で生成された単位ベクトルからの回転角を包含する、請求項2に記載の駆動装置。
【請求項4】
前記制限範囲は、1つ前の制御周期で生成された単位ベクトルからの回転角を包含する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の駆動装置。
【請求項5】
前記制限範囲は、前記電動機の回転速度に比例して変更される、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の駆動装置。
【請求項6】
前記制限範囲は、直線的な距離の範囲であり、前記推移制限部は、2つの単位ベクトルの差を内分する点のベクトルを、移動量が制限された単位ベクトルとして算定するように構成されている、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の駆動装置。
【請求項7】
前記更新範囲は、前記電動機の回転速度に比例して変更される、請求項2に記載の駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期モータや誘導モータなどの電動機を駆動する駆動装置に関し、特にインバータの出力電流に基づいてベクトル制御を行なう駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から一般に用いられているモータの制御方法としては、指令周波数に対応する電圧を出力することにより、電動機磁束を一定に保つV/F制御や、インバータの出力電流を励磁電流とトルク電流に分解し、負荷に見合ったモータ電流を流せるように励磁電圧とトルク電圧を制御するベクトル制御が挙げられる。
【0003】
特許文献1には、ロータ用の位置センサを使用することなくモータを制御することが出来るセンサレスベクトル制御が開示されている。
図8は、従来のセンサベクトル制御を示すブロック図である。
図8に示すように、ベクトル制御部511は、電流検出器512により検出された三相電流Iu,Iv,Iwを二相電流Iα_r,Iβ_rに変換する3/2相変換部517と、静止座標系上の二相電流指令値Iα_d,Iβ_dと3/2相変換部517によって変換された静止座標系上の二相電流Iα_r,Iβ_rとの偏差に基づいて指令電圧ベクトルVα_d,Vβ_dを決定する出力電圧決定部518と、指令電圧ベクトルVα_d,Vβ_dからインバータ510の出力電圧Vt_dとモータMのロータ(図示せず)の位相(角度)θを算出する出力電圧/角度算出部522と、ロータの位相θからロータの角速度ωcを算出する速度演算部526と、角速度ωcから目標出力電圧値Vdemを決定する目標出力電圧決定部527と、目標出力電圧値Vdemと出力電圧Vt_dとの偏差に基づいて位相補正量Δθを決定する位相補正量決定部532と、ロータの位相θに位相補正量Δθを加算してロータの位相θを補正する位相補正部533と、出力電圧Vt_dの変動量が変動電圧しきい値よりも大きいときに更新停止信号を出力する電圧変動検出部531と、回転座標系上の磁化電流指令値Im_dを決定する目標磁化電流決定部539と、ロータの角速度ωcと角速度指令値ωdとの偏差に基づいて回転座標系上のトルク電流指令値It_dを決定する目標トルク電流決定部538と、磁化電流指令値Im_dおよびトルク電流指令値It_dを、位相補正部533によって補正されたロータの位相θ’に基づいて、静止座標系上の二相電流指令値Iα_d,Iβ_dに変換する回転/静止座標変換部535と、指令電圧ベクトルVα_d,Vβ_dを三相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に変換する2/3相変換部536を備えている。
【0004】
ベクトル制御部511の基本的動作は次の通りである。電流検出器512によって検出された三相電流Iu,Iv,Iwは、二相電流(ベクトル)Iα_r,Iβ_rに変換される。変換された二相電流Iα_r,Iβ_rと、対応する目標値(二相電流指令値Iα_d,Iβ_d)との偏差がなくなるようにPI制御が行なわれ、指令電圧ベクトルVα_d,Vβ_dが求められる。求められた二相の指令電圧ベクトルVα_d,Vβ_dは、三相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に変換される。そして、各相の電圧指令値に対応したPWM信号が生成され、このPWM信号はインバータ510に送られる。
【0005】
出力電圧/角度算出部522は、指令電圧ベクトルVα_d,Vβ_dからインバータ510の出力電圧Vt_dとモータMのロータの位相(角度)θを算出する。しかしながら、出力電圧決定部518から出力される指令電圧ベクトルVα_d,Vβ_dは電気的な情報の為、機械的時定数に比べ応答速度が速く、一時的に変動が大きくなる場合がある。この変動が大きくなった時に、指令電圧ベクトルVα_d,Vβ_dから算出した電圧(出力電圧Vt_d)、モータMのロータ角度(位相)θを基にセンサレス制御を行うと、この変動の影響でモータMが脱調し、モータMの駆動が行えないおそれがある。
【0006】
そこで、出力電圧Vt_dを算出した後、電圧変動検出部531にて、出力電圧Vt_dの時間変化を検出する。電圧変動検出部531は、出力電圧Vt_dの変化が大きく過渡状態と判断した場合は、更新停止信号を出力する。具体的には、電圧変動検出部531は、出力電圧Vt_dの変動量を変動電圧しきい値と比較し、出力電圧Vt_dの変動量が変動電圧しきい値よりも大きいときに更新停止信号を出力し、出力電圧Vt_dの変動量が変動電圧しきい値よりも小さいときは更新停止信号を出力しない。この更新停止信号は、電圧送信セレクタ525aおよび位相送信セレクタ525bに入力される。
【0007】
電圧変動検出部531から出力された更新停止信号を受けると、電圧送信セレクタ525aが作動し、出力電圧/角度算出部522から位相補正量決定部532への出力電圧Vt_dの送信を遮断する。結果として、位相補正量決定部532での出力電圧Vt_dの更新が停止される。同様に、電圧変動検出部531から出力された更新停止信号を受けると、位相送信セレクタ525bが作動し、出力電圧/角度算出部522から速度演算部526および位相補正部533へのロータ角度θの送信を遮断する。結果として、速度演算部526および位相補正部533でのロータ角度θの更新が停止される。この様にすることで、指令電圧ベクトルVα_d,Vβ_dの過渡的な変動に起因するモータMの脱調を防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2020-39227号公報
【特許文献2】特開2020-162327号公報
【非特許文献1】中島雄希、伊東淳一:「V/f制御に基づくIPMSMの最大効率制御」、平成25年電気学会全国大会、No.4-115、2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、ロータ角度θの更新停止を維持すると、その間もロータの回転は続いているため、更新を再開した際に、前回更新したロータ角度と実際のロータ角度との差が大きくなってしまう。そうすると、モータ各相の自己インダクタンスに大きな電圧が発生し、回転に起因する逆起電力が検出できなくなり、また、電流指令値と実電流が乖離した過渡状態となる。結果として、ロータ角度θの更新が再度停止されてしまう。このように、1度ロータ角度θの更新を停止すると、更新の停止と再開を繰り返してしまうことになり、連続的なロータ角度情報の取得ができなくなる場合がある。
【0010】
そこで、本発明は、電動機のロータ角度の更新と更新停止が繰り返されることを防止し、ロータ角度情報を連続的に取得することができる駆動装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一態様では、インバータと、該インバータの出力電流を検出する電流検出器と、該インバータへの電圧指令値を決定するベクトル制御部とを備えた電動機の駆動装置であって、前記ベクトル制御部は、前記インバータへの電圧指令値を成分に含む電圧指令ベクトルと同方向の単位ベクトルを生成する単位ベクトル生成部と、前記単位ベクトルの移動量を制限範囲内に制限する推移制限部を備えている、駆動装置が提供される。
【0012】
一態様では、前記駆動装置は、前記単位ベクトル生成部によって生成された前記単位ベクトルが更新範囲外にあるときに前記単位ベクトルの更新を停止する更新停止部をさらに備えており、前記推移制限部は、前記更新停止部から出力された前記単位ベクトルの移動量を前記制限範囲内に制限するように構成されている。
一態様では、前記更新範囲は、1つ前の制御周期で生成された単位ベクトルからの回転角を包含する。
一態様では、前記制限範囲は、1つ前の制御周期で生成された単位ベクトルからの回転角を包含する。
一態様では、前記制限範囲は、前記電動機の回転速度に比例して変更される。
一態様では、前記制限範囲は、直線的な距離の範囲であり、前記推移制限部は、2つの単位ベクトルの差を内分する点のベクトルを、移動量が制限された単位ベクトルとして算定するように構成されている。
一態様では、前記更新範囲は、前記電動機の回転速度に比例して変更される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、推移制限部は、単位ベクトルの過度な移動を制限し、予め設定された制限範囲を超える変動が発生した場合には、単位ベクトルの移動量を制限範囲内に制限する。したがって、単位ベクトルの角度と実際のロータ角度との差が制限範囲内に収まる。結果としてロータ角度情報を連続的に取得することができ、電動機を安定して制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る駆動装置を示すブロック図である。
【
図2】
図2(a)乃至
図2(c)は、モータ端子電圧(インバータ出力電圧)の指令値と同方向の単位ベクトルについて、1制御周期前後の様子を表した図である。
【
図3】単位ベクトルを更新するか否かを判定するために使用される更新範囲を説明する図である。
【
図4】単位ベクトルの移動が制限される制限範囲を示した図である。
【
図5】推移制限部によって移動が制限された単位ベクトルを示す図である。
【
図6】移動制限を受けたベクトル<u>の軌跡を示す図である。
【
図7】Mlimit<1のときのベクトル<u>の軌跡を示す図である。
【
図8】従来のセンサベクトル制御を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る駆動装置を示すブロック図である。この駆動装置は、電動機としてのモータMを駆動するインバータ装置(電力変換装置)であり、
図1に示すようにインバータ10およびベクトル制御部11を含む複数の要素から構成されている。すなわち、駆動装置は、モータMに印加される電圧を生成するインバータ10と、インバータ10への電圧指令値を決定するベクトル制御部11と、インバータ10からモータMに流れる電流を検出する電流検出器(電流計)12とを備えている。モータMは、ロータに永久磁石を備えた永久磁石同期モータ(PMSM)である。ベクトル制御部11は、CPU(中央演算処理装置)などの処理装置およびメモリを備えたコンピュータから構成することができる。
【0016】
電流検出器12は、インバータ10からモータMに流れる三相電流Iu,Iv,Iwを計測する。その計測値は、ベクトル制御部11に入力される。なお、三相電流Iu,Iv,Iwの計測は、任意の2相の電流を計測し、式Iu+Iv+Iw=0から残りの電流を求めてもよい。ベクトル制御部11は、三相電流Iu,Iv,Iwおよび外部から入力される速度指令値に基づいて三相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を生成する。ベクトル制御部11は、これら三相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*をインバータ10に送る。インバータ10は三相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に基づいた電圧を生成し、これをモータMに印加する。
【0017】
ベクトル制御部11は、電流検出器12により検出された三相電流Iu,Iv,Iwを静止座標系上の二相電流Iα,Iβに変換する3/2相変換部17と、静止座標系上の二相電流Iα,Iβを回転座標系上の二相電流Iγ,Iδに変換する静止/回転座標変換部18を備えている。δ軸はモータ端子電圧(インバータ出力電圧)のベクトル方向の軸であり、γ軸はδ軸に直交する軸である。
【0018】
ベクトル制御部11は、さらに、電流Iγとγ軸電流指令値Iγ*(=0)との偏差を最小とするための回転座標系上の電圧指令値eINV-γ*を生成するγ軸電流制御部21と、電流Iδとδ軸電流指令値Iδ*との偏差を最小とするための回転座標系上の電圧指令値eINV-δ*を生成するδ軸電流制御部22と、回転座標系上の電圧指令値eINV-γ*,eINV-δ*を静止座標系上の電圧指令値eINV-α*,eINV-β*に変換する回転/静止座標変換部24と、二相の電圧指令値eINV-α*,eINV-β*を三相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に変換する2/3相変換部25を備えている。γ軸電流制御部21およびδ軸電流制御部22は、PI制御器である。
【0019】
ベクトル制御部11は、さらに、静止座標系上の電圧指令値eINV-α*,eINV-β*を成分に持つベクトルe→
INV*の長さ|e→
INV*|を算定するベクトル長さ算定部29と、1制御周期あたりの回転角[rad]の推定値Δθe*を算定する回転角推定器31と、静止座標系上の電圧指令値eINV-α*,eINV-β*を成分に含む電圧指令ベクトルと同方向の単位ベクトル(uα,uβ)を生成する単位ベクトル生成部35と、単位ベクトル(uα,uβ)からノイズを除去するフィルタ36(例えばローパスフィルタ)と、単位ベクトル(uα,uβ)が、予め設定された更新範囲外にあるときに単位ベクトル(uα,uβ)の更新を停止する更新停止部37と、単位ベクトル(uα,uβ)の移動を、予め設定された制限範囲内に制限する推移制限部38を備えている。推移制限部38の出力<uα>,<uβ>は、静止/回転座標変換部18および回転/静止座標変換部24に送られる。
【0020】
回転角推定器31は、ベクトル制御部11の制御周期Tc[s]、逆起電力定数Ke[Vs/rad](電気角速度当たりの一相起電力)、およびベクトル長さ|e→
INV*|から、1制御周期あたりの回転角[rad]の推定値Δθe*を算定するように構成される。
【0021】
単位ベクトル生成部35は、電圧指令値eINV-α*,eINV-β*を成分に含む電圧指令ベクトルe→
INV*をその長さ|e→
INV*|で割り算することで、単位ベクトル(uα,uβ)を生成するように構成される。単位ベクトル生成部35は、制御周期Tcごとに単位ベクトルを生成する。
【0022】
更新停止部37は、単位ベクトル生成部35によって生成された単位ベクトルが更新範囲内にあるときは、前回生成された単位ベクトルを、新たに生成された単位ベクトルに置き換え(すなわち単位ベクトルを更新し)、その一方で、単位ベクトル生成部35によって生成された単位ベクトルが更新範囲外にあるときは、単位ベクトルを更新せず、前回の単位ベクトルを出力する。このような機能を持つ単位ベクトル生成部35の例としては、サンプル・ホールド回路が挙げられる。
【0023】
ベクトル制御部11は、さらに、単位ベクトルの各成分uα,uβのゼロクロスを検出してモータMの回転速度(回転周波数)fを算定する速度算出器40と、外部からベクトル制御部11に入力された速度指令値[rpm]から周波数指令値f*を算出する速度変換器41と、モータMの回転周波数fと周波数指令値f*との偏差を最小とするためのδ軸電流指令値Iδ*を算定する速度制御部42を備えている。速度制御部42は、PI制御器である。
【0024】
上述のように、ベクトル制御部11には、αβ-γδ変換、γδ-αβ変換を含んだ電流制御系が組み込まれてまれており、モータMの実電流が電流指令値Iγ*,Iδ*を追従するように制御する。なお、δ軸はモータ端子電圧(インバータ出力電圧)のベクトル方向の軸で、γ軸はδ軸に直交する軸である。αβ-γδ変換およびγδ-αβ変換へは座標の角度を与えるのではなく、インバータ10への電圧指令値eINV-α*,eINV-β*を成分に持つ電圧指令ベクトルと同方向の単位ベクトル(uα,uβ)を与える。単位ベクトルの各成分uα,uβは、cos値、sin値としてそれぞれ与えられ、各ブロックで回転行列演算が行われる。sin、cos関数を利用していないため、ベクトル制御部11の演算量(計算負荷)を減らすことができる。
【0025】
本実施形態では、電圧指令値eINV-α*,eINV-β*を単位ベクトル化したuα,uβをそのまま使っているのではなく、与えられた条件に従ってuα,uβをサンプルまたはホールドする更新停止部37、および、1制御周期あたりの単位ベクトルの移動量を制限する推移制限部38から出力された<uα>,<uβ>をcos値、sin値として用いて座標変換を行う。特に更新停止部37は、単位ベクトル(uα,uβ)がモータMのロータの永久磁石の磁束に起因する逆起電力の方向と乖離している時にγδ軸が脱調してしまうことを回避するために重要な働きをする。
【0026】
このような構成とすることで、一般的なセンサレス制御で用いられている角速度信号から回転角信号を得る積分要素が不要となる。これにより回転系の慣性モーメントに起因するパラメータが不要となりパラメータ調整の手間がなくなり、かつ、急加速、急減速などの過渡応答性が大幅に改善される。
【0027】
図1の実施形態では、Iγ*=0とし、Iδ*のみを操作して出力トルクを制御している。この場合、永久磁石同期モータ(PMSM)であるモータMの状態によらずモータMは力率1で駆動される。磁石埋込式(IPM)モータでは、殆どの運転領域において力率1に近い状態を保つことで高い効率が得られるが、極軽負荷時や定格トルクを超える運転領域ではこの限りではない。これを改善するためには、Iγ*に対しても操作を施せばよい。Iγ*≠0では永久磁石同期モータ(PMSM)に無効電力が供給され、これを調整することは、非特許文献1で述べている最大効率化の手法と等価と言える。ただし、無効電力を供給することでインバータの変換効率は低下すると思われる。システム効率を考えた場合、Iγ*≠0での運転が有効か否かは検討が必要である。
【0028】
次に、更新停止部37について説明する。
図2はモータ端子電圧(インバータ出力電圧)の指令値と同方向の単位ベクトル(u
α,u
β)について、1制御周期前後の様子を表した図である。[n]は単位ベクトル(u
α,u
β)の現在のサンプリング時点(すなわち現在の制御周期)、[n-1]は1つ前のサンプリング時点(すなわち1つ前の制御周期)を表す。Tcは制御周期であり、ωeは回転角速度(電気角)[rad/s]である。
【0029】
ロータ回転とモータ端子電圧が同期している場合は、単位ベクトル(u
α,u
β)は、
図2(a)のように1制御周期あたりΔθe=Tcωeだけ回転角が進むことになる。大きな負荷変動等が発生した場合は速度変動が発生しΔθeも変化するが、慣性が小さい負荷の場合でも機械系の時定数に比べ制御周期Tcは十分短いため、1制御周期間のΔθeの変動は小さいと言える。単位ベクトルが
図2(a)のような推移をしている場合は、モータ端子電圧とロータ回転に起因する逆起電力の位相はほぼ一致し、かつ、電流制御系の指令値と実電流値がほぼ一致する状態となっていると考えられるため、単位ベクトル(u
α,u
β)からモータMのロータの回転角情報を取得できる。
【0030】
一方、
図2(b)は、1制御周期あたりの回転角Δθeよりも単位ベクトルが大幅に進んだ場合で、
図2(c)は大幅に遅れた場合を示している。これらの場合は、モータ各相のインピーダンス、特に自己インダクタンスに大きな電圧が発生している状態であると考えられ、単純に端子電圧の位相から回転に起因する逆起電力の位相を見出すことができない。つまり、u
α,u
βから回転角情報を取得できない。
【0031】
そこで本実施形態では、
図3の太線で示すように回転角Δθeを包含(Δθrenew>Δθe)するような更新範囲が設けられる。更新範囲(-Δθrenew~+Δθrenew)は、一つ前の制御周期で生成された単位ベクトル(u
α[n-1],u
β[n-1])からの回転角Δθeを包含する範囲である。
【0032】
一つ前の制御周期に対して次の制御周期の単位ベクトル(uα,uβ)がこの更新範囲内であれば、単位ベクトルの各成分uα,uβから回転角が取得できるとして、更新停止部37は、uα,uβをサンプリングし、そのまま出力する。更新範囲外であれば、uα,uβをサンプリングせず、一つ前の制御周期の単位ベクトル(uα,uβ)を出力する。これは、更新停止部37が、単位ベクトル(uα,uβ)の更新を停止することに相当する。以下の説明では、更新停止部37から出力される単位ベクトルを(uα’,uβ’)と表す。
【0033】
図3に示す実施形態では、更新範囲(-Δθrenew~+Δθrenew)は、一つ前の制御周期での単位ベクトル(u
α[n-1],u
β[n-1])に対して対称の角度を持っているが、一実施形態では、更新範囲(-Δθrenew~+Δθrenew)は、一つ前の制御周期での単位ベクトル(u
α[n-1],u
β[n-1])に対して非対称の角度を持ってもよい。
【0034】
次に、推移制限部38について説明する。上述のように、回転角が取得できる条件でのみモータ端子電圧と同方向の単位ベクトルを取得すれば、誤った回転角情報を無視することができ、この情報にてγδ-αβ変換を行うことでモータMの運転が維持できる。しかし、単位ベクトルの更新停止を維持すると、その間もモータMのロータの回転は続いているため回転に起因する逆起電力の位相は進み続け、更新を再開した際に、前回サンプリングした単位ベクトルとの角度差が大きくなってしまう。つまり更新停止から回復直後の1制御周期で、制御に用いる単位ベクトル(u
α’,u
β’)が大幅に変動し、γδ軸の角度が大きく変動する。このため電流制御系に大きなステップが入力されてしまう。そうすると、モータ各相の自己インダクタンスに大きな電圧が発生し、回転に起因する逆起電力が検出できなくなり、また、電流制御系も電流指令値と実電流が乖離した過渡状態となる。この時、
図2(b)または
図2(c)の状態となり、再度サンプリングが停止される。このため、1度単位ベクトルの更新を停止するとサンプリングの停止と再開を繰り返してしまうことになり、連続的な回転角情報の取得ができなくなる場合がある。
【0035】
そこで、本実施形態では、1度に移動できる単位ベクトルの角度に制限を設け、推移制御部(
図1参照)は、予め設定された制限範囲を超える変動が1制御周期で発生した場合には、単位ベクトルの角度の移動量を規定値に制限するように動作する。
【0036】
図4は単位ベクトルの移動が制限される制限範囲(太線で表す)を示した図である。
図4は
図3と酷似しているが、制限範囲を規定する角度がΔθlimitで与えられている点、および単位ベクトルは、更新停止部37から出力された単位ベクトル(u
α’,u
β’)となっている点が異なる。制限範囲は±Δθlimitで与えられているが、更新範囲(-Δθrenew~+Δθrenew)と同様、1つ前の制御周期での単位ベクトルに対して対称な角で与える必要はない。
【0037】
ただし、回転方向に対しては、更新停止後に進んでしまった単位ベクトルに追いつく必要があるため、基本的には回転角Δθeを包含するような制限範囲を設ける(Δθlimit>Δθe)。すなわち、制限範囲(-Δθlimit~+Δθlimit)は、一つ前の制御周期で生成された単位ベクトル(uα’[n-1],uβ’[n-1])からの回転角Δθeを包含する範囲である。
【0038】
図4で与えた制限範囲を超えた単位ベクトル(u
α’[n],u
β’[n])が次の制御周期で得られた場合は、単位ベクトルの移動量(または回転量)を制限範囲の上限値+Δθlimitまたは下限値-Δθlimitに制限する。
図5の(<u
α>,<u
β>)が推移制限部38の出力ベクトルである。この場合、複数の制御周期を使って(u
α’[n],u
β’[n])に追いつくように出力ベクトルが変化する。実際は、制御周期ごとに(u
α’,u
β’)が更新され、推移制限部38の出力ベクトル(<u
α>,<u
β>)はそれを追従することになる。すなわち、上述のようにΔθlimit>Δθeであるので、推移制限部38の出力ベクトル(<u
α>,<u
β>)はやがて(u
α’,u
β’)に追いつくことができる。
ただし、
図5のようにベクトルの大きさを変えずに推移角度を制限するためには三角関数の演算が不可欠となる。これを回避する方法については後述する。
【0039】
推移制限部38は、単位ベクトルの過度な移動を制限し、予め設定された制限範囲を超える変動が発生した場合には、単位ベクトルの移動量を制限範囲内に制限する。したがって、前回更新した単位ベクトルの角度と実際のロータ角度との差が制限範囲内に収まる。結果としてロータ角度情報を連続的に取得することができる。
図1に示す実施形態では、更新停止部37から出力された単位ベクトル(u
α’,u
β’)の過度な移動が推移制限部38によって制限されるが、一実施形態では、更新停止部37がない構成でも、推移制限部38は有効に機能する。すなわち、推移制限部38は、単位ベクトル生成部35によって生成された単位ベクトルの過度な移動を制限することで、ロータ角度情報を連続的に取得することができ、ベクトル制御部11はモータMを安定して制御することができる。
【0040】
次に、回転速度に適応した更新停止および移動制限に関わる範囲の設定について説明する。
図3で示した更新範囲(-Δθrenew~+Δθrenew)が、1制御周期あたりの回転角Δθe=Tcωeよりも極端に大きいと、モータ端子電圧と回転に起因する逆起電力が同期していない場合でも、単位ベクトルの更新を許してしまい適切な制御が維持できない。また、
図4においても同様で、制限範囲(-Δθlimit~+Δθlimit)が大きすぎると、更新再開後の単位ベクトルの変動が大きくなり、更新停止から回復(更新再開)直後に再度、更新停止を誘発してしまう。言うまでもなくΔθeは回転速度に比例しているため、更新範囲(-Δθrenew~+Δθrenew)および制限範囲(-Δθlimit~+Δθlimit)も回転速度に応じて調整することが望ましい。
【0041】
そこで、一実施形態では、更新範囲および制限範囲は、モータMの回転速度に比例して変更される。1制御周期あたりの回転角Δθeに対する係数として、Mrenew、Mlimitを導入し、更新範囲および制限範囲を、
Δθrenew=MrenewΔθe (1)
Δθlimit=MlimitΔθe (2)
のようにそれぞれ与える。係数Mrenew、Mlimitは基本1以上の定数として与えられたパラメータである。これにより運転速度に適応した更新範囲および制限範囲を与えることができる。
【0042】
ただし、Δθe=Tcωeであるため、モータの回転速度の情報が必要になる。
図1に示す実施形態では、ベクトル制御系に角速度信号が存在しない。代わりに、速度制御のために、速度算出器40は、単位ベクトルの各成分のゼロクロスを検出して速度情報fを得ている。このため、ゼロクロス検出のための時間遅れや速度信号の平滑のための積分要素により得られる速度信号に遅れが生じる。そのため、本実施形態では、モータ端子電圧の大きさがおおよそ回転速度に比例することから、回転角Δθe[rad]に代えて、以下に示す回転角の推定値Δθe*が使用される。
Δθe* = Tc(Φωe/Ke) ≒ Tc(|e
→
INV*|/Ke) (3)
ここで、Φωeはロータの永久磁石の磁束による起電力、Keは逆起電力定数、|e
→
INV*|はαβ軸における電圧指令値e
INV-α*,e
INV-β*を成分に持つベクトルの長さである。
したがって、更新範囲および制限範囲は、それぞれ次のように表される。
Δθrenew ≒ MrenewTc(|e
→
INV*|/Ke) (4)
Δθlimit ≒ MlimitTc(|e
→
INV*|/Ke) (5)
【0043】
永久磁石同期モータ(PMSM)では、dq軸間で干渉し合う速度起電力(ωe Ld Idおよびωe Lq Iq)が存在するため、モータ電流または速度が増加すると式(3)の近似誤差が大きくなる。
図1の制御においては、負荷が増大するとq軸電流が増し、Δθe*は真値よりも大きな値を示すが、式(3)、(4)で与えるΔθrenew、Δθlimitが厳格に速度に比例している必要はないため、ここでは誤差を許容するものとする。
【0044】
次に、演算量を考慮した範囲設定(外積値による角度設定)について説明する。
上記のように式(4)、(5)で更新範囲および制限範囲を与えると、それらが運転速度によって変化するために三角関数の演算が制御周期ごとに必要になる。そこで、一実施形態では、演算量を減らすため、以下の手法が採用される。
【0045】
更新範囲および制限範囲の内外を判定する対象は単位ベクトルである。このため、1制御周期前の単位ベクトルと次の制御周期の単位ベクトルから外積値を求めると、次の関係が得られる。
sinδ= uα[n]uβ[n-1] - uα[n-1]uβ[n] (6)
sinδ’= uα’[n]uβ’[n-1] - uα’[n-1]uβ’[n] (7)
ここでδ、δ’はそれぞれ1制御周期前後の単位ベクトルのなす角である。よって、簡易な演算により、それらの角度のsin値を得ることができる。
【0046】
ここで式(4)、(5)により与えられる角度が微小であることを考慮して、これら角度に対しても、以下のようにsin値が得られる。
sin(Δθrenew)≒sin[MrenewTc(|e→
INV*|/Ke)]≒MrenewTc(|e→
INV*|/Ke) (8)
sin(Δθlimit)≒sin[MlimitTc(|e→
INV*|/Ke)]≒MlimitTc(|e→
INV*|/Ke) (9)
つまり式(6)と(8)の大小比較、式(7)と(9)の大小比較により範囲内外の判別を行えば、制御ループ内での三角関数の演算を回避できる。
【0047】
次に、演算量を考慮した範囲設定(ベクトル移動量による角度設定)について説明する。
上述した式(6)、(7)、(8)、(9)を用いた範囲内外の判定手法は、sinδやsinδ’が変曲点を過ぎた|δ|>π/2や|δ’|>π/2では成立しない。したがって、単位ベクトルが大きな変動をした場合には適切な判定ができない場合がある。極端な例として|δ|=πの場合、sinδ=0となり、更新停止部37は必ず(uα’,uβ’)を更新してしまう。
【0048】
そのような事象を回避するため、一実施形態では、外積値を用いた上記手法に代えて、単位ベクトルの移動量で判定する手法が採用される。
単位ベクトルの移動距離は、以下の式で与えられる。
Δl≒√[(uα[n]-uα[n-1])2-(uβ[n]-uβ[n-1])2] (10)
Δl’=√[(uα’[n]-uα’[n-1])2-(uβ’[n]-uβ’[n-1])2] (11)
【0049】
更新範囲および制限範囲を定義するための距離が微小とすれば、これらの距離はそれぞれΔθrenew、Δθlimitで近似できる。よって式(8)、(9)より
Δθrenew ≒ sin(Δθrenew) ≒ MrenewTc(|e→
INV*|/Ke) (12)
Δθlimit ≒ sin(Δθlimit) ≒ MlimitTc(|e→
INV*|/Ke) (13)
となり、結果、式(8)、(9)と同じ境界値となる。式(10)と(12)の大小比較、式(11)と(13)の大小比較を行うことで、更新範囲内外の判別、および制限範囲内外の判別が行える。
【0050】
次に、推移制限部38の簡易化について説明する。
前述のように
図5のような移動量制限の場合、三角関数の演算が不可欠となり演算量が増える。そこで、一実施形態では、単位ベクトルの回転移動を直線的な移動で近似する。具体的には、2つの単位ベクトル間の移動量は、2つの単位ベクトル間の角度に代えて、2つの単位ベクトルの差として算定される。
図6に示す実施形態では、移動距離を式(13)で与え、単位ベクトルの移動量を制限している。式(13)によれば、移動範囲を規定する境界値Δθlimitは、電圧指令ベクトルの長さ|e
→
INV*|を逆起電力定数Keで除算して得られた値に、制御周期Tcおよび係数Mlimitを乗算することで求められる。この実施形態では、移動範囲は、直線的な距離の範囲である。
図6に示すように、推移制限部38は、2つの単位ベクトルの差を内分する点のベクトルを、移動量が制限された単位ベクトル<u>[n]として算定する。
【0051】
ベクトル<u>[n]の構成要素<uα>[n],<uβ>[n]は、次のように与えられる。
<uα>[n] = kuα’[n]+(1-k)<uα>[n-1] (14)
<uβ>[n] = kuβ’[n]+(1-k)<uβ>[n-1] (15)
ただし、k=Δθlimit/L
L=√[(uα’[n]-<uα>[n-1])2-(uβ’[n]-<uβ>[n-1])2] (16)
【0052】
なお式(16)では、平方根の演算が必要となる。式(16)の代わりに、例えば、次の近似式を利用すると平方根演算を回避できる。
L ≒ 0.9834max(|uα’[n]-<uα>[n-1]|,|uβ’[n]-<uβ>[n-1]|)
+0.4307min(|uα’[n]-<uα>[n-1]|,|uβ’[n]-<uβ>[n-1]) (17)
【0053】
なお、式(10)や
図1の|e
→
INV*|(=√(α
2+β
2))を算定するベクトル長さ算定部29も式(17)と同じ近似式で代用することができる。
一方、式(17)のLは以下の式のSで置き換えることも可能である。
K = Δθlimit/S
S = u
α’[n]<u
β>[n-1] - <u
α>[n-1]u
β’[n] (18)
この場合は、2点間の距離の近似を外積値Sによって与えており、ベクトルの移動量が微小であれば、式(17)と式(18)の値はほぼ等しくなる。
【0054】
図6のように、式(14)-(16)で移動量が制限された<u>は直線的に単位円の内側を通ってu’を追従する。
図7は、Mlimit<1のときのベクトル<u>の軌跡を示す。Mlimit<1とした場合の定常状態においては、
図7のように、u’が単位円上を1制御周期あたりΔθeだけ移動するのに対し、<u>の移動はΔθlimitに制限される。このため、<u>は、半径がΔθlimit/Δθe =Mlimitの円上を移動して追従することになる。
図7より、u’[n]に対する<u>[n]の遅れ角は、おおよそ
ε
θ ≒ cos
-1(Mlimit)-Δθlimit/2 ≒ cos
-1(Mlimit) (19)
で与えられる。つまり、ε
θの位相遅れを許容すればMlimit<1の設定は可能である。
【0055】
上述した式(5)の近似誤差のため、定格負荷付近でΔθlimit≒Δθeに設定しようとすれば、Mlimit<1の設定をすることになる。この場合、低速・軽負荷時にε
θの位相遅れが生じ、
図1の制御においては若干の遅れ力率で運転される。低速では脱調を防止する意味から若干の遅れ力率運転が望ましいと考えられるため、Mlimit<1なる設定を積極的に選ぶこともあり得る。なお、
図7のようにベクトル<u>の大きさが若干小さくなるため、αβ-γδ変換、γδ-αβ変換は影響を受ける。これを回避するため再度単位ベクトル化を行っても良いが、これらの変換は電流制御系のループ内にあるためPI制御によって補正され、定常運転時への影響はないと考えられる。
【0056】
次に、永久磁石同期モータ(PMSM)の力率1運転について説明する。
永久磁石同期モータ(PMSM)のdq座標における電圧方程式は、
【数1】
である。ここで定常状態を考え,巻線抵抗での電圧降下を無視すると、
【数2】
となる。ここでモータ端子電圧に比例した電流が流れる、つまり力率1運転を行った場合は、上記式(21)は、
【数3】
と書ける。ここでGは電流の大きさを決める比例定数(コンダクタンス)である。式(22)をv
d,v
qで解くと、
【数4】
【数5】
となる。このため,δ軸から見たq軸の角度(角度差)θ
q-δは次の式で与えられる。
【数6】
モータ端子電圧(インバータ出力電圧)の大きさは以下となる。
【数7】
【0057】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0058】
10 インバータ
11 ベクトル制御部
12 電流検出器
17 3/2相変換部
18 静止/回転座標変換部
21 γ軸電流制御部
22 δ軸電流制御部
24 回転/静止座標変換部
25 2/3相変換部
29 ベクトル長さ算定部
31 回転角推定器
35 単位ベクトル生成部
36 フィルタ
37 更新停止部
38 推移制限部
M モータ