IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友金属鉱山株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-有価金属を回収する方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117640
(43)【公開日】2022-08-12
(54)【発明の名称】有価金属を回収する方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 5/04 20060101AFI20220804BHJP
   C22B 9/22 20060101ALI20220804BHJP
   C22B 23/02 20060101ALI20220804BHJP
   C22B 15/00 20060101ALI20220804BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
C22B5/04
C22B9/22
C22B23/02
C22B15/00
C22B7/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021014247
(22)【出願日】2021-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】前場 和也
(72)【発明者】
【氏名】富樫 亮
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA09
4K001AA19
4K001BA22
4K001CA01
4K001CA02
4K001CA04
4K001CA09
4K001CA15
4K001GA17
4K001HA03
4K001KA06
(57)【要約】
【課題】誘導加熱炉を用いた有価金属の回収方法において、炭酸ガス(CO)発泡による問題を抑制し、それにより効率的な有価金属の回収が可能となる方法を提供すること。
【解決手段】有価金属(Cu、Ni、Co)を回収する方法であって、以下の工程;少なくとも有価金属を含む装入物を原料として準備する工程と、前記原料を加熱熔融して、合金とスラグとにする工程と、を有し、前記原料を加熱熔融する際に、誘導加熱体と、前記誘導加熱体の内側に設けられた耐火性ライニングと、を備えた誘導加熱炉を用い、フラックスとして酸化カルシウム(CaO)を原料に導入する、方法。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有価金属(Cu、Ni、Co)を回収する方法であって、以下の工程;
少なくとも有価金属を含む装入物を原料として準備する工程と、
前記原料を加熱熔融して、合金とスラグとにする工程と、を有し、
前記原料を加熱熔融する際に、誘導加熱体と、前記誘導加熱体の内側に設けられた耐火性ライニングと、を備えた誘導加熱炉を用い、フラックスとして酸化カルシウム(CaO)を原料に導入する、方法。
【請求項2】
前記原料を加熱熔融する際に、金属アルミニウム(Al)を含む還元剤を原料に導入する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属アルミニウム(Al)としてアルミサッシを用いる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記還元剤は炭素成分を含まない、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記還元剤の導入量を、前記原料に含まれる有価金属の全てを還元するのに必要な量(当量)に対して1.0~1.4倍量にする、請求項2~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記原料を加熱熔融する際の加熱温度を1300℃以上1500℃以下にする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記有価金属は、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属又は合金からなる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有価金属を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量で大出力の電池としてリチウムイオン電池が普及している。よく知られているリチウムイオン電池は、外装缶内に負極材と正極材とセパレータと電解液とを封入した構造を有している。ここで外装缶は、鉄(Fe)やアルミニウム(Al)等の金属からなる。負極材は、負極集電体(銅箔等)に固着させた負極活物質(黒鉛等)からなる。正極材は、正極集電体(アルミニウム箔等)に固着させた正極活物質(ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム等)からなる。セパレータはポリプロピレンの多孔質樹脂フィルム等からなる。電解液は六フッ化リン酸リチウム(LiPF)等の電解質を含む。
【0003】
リチウムイオン電池の主要な用途の一つに、ハイブリッド自動車や電気自動車がある。そのため自動車のライフサイクルにあわせて、搭載されたリチウムイオン電池が将来的に大量に廃棄される見込みである。また製造中に不良品として廃棄されるリチウムイオン電池がある。このような使用済み電池や製造中に生じた不良品の電池(以下、「廃リチウムイオン電池」)を資源として再利用することが求められている。
【0004】
再利用の手法として、廃リチウムイオン電池を高温炉(熔融炉)で全量熔解する乾式製錬プロセスが従来から提案されている。乾式製錬プロセスは、破砕した廃リチウムイオン電池を熔融処理し、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)及び銅(Cu)に代表される回収対象である有価金属と、鉄(Fe)やアルミニウム(Al)に代表される付加価値の低い金属とを、それらの間の酸素親和力の差を利用して分離回収する手法である。この手法では、付加価値の低い金属はこれを極力酸化してスラグとする一方で、有価金属はその酸化を極力抑制し合金として回収する。
【0005】
酸素親和力の差を利用して有価金属を分離回収する乾式製錬プロセスでは、熔融処理時の酸化還元度のコントロールが非常に重要である。コントロールが不十分であると、有価金属として回収するはずの合金に不純物が混入する。または不純物として回収するはずのスラグに、酸化した有価金属が取り込まれるといった問題が生じ、これが有価金属の回収率を低下させてしまう。そのため乾式製錬プロセスでは、熔融炉に空気や酸素などの酸化剤や還元剤を導入して酸化還元度をコントロールすることが行われている。例えば、特許文献1では、乾式法による廃リチウムイオン電池からのコバルトの回収方法に関して、廃リチウムイオン電池を熔融炉に投入して酸素により酸化するプロセスが提案されている。
【0006】
また酸化還元度のコントロールを行う乾式製錬プロセスでは、熔融処理の際に比較的密封された炉内で雰囲気ガスの成分や圧力を調整して雰囲気制御が行われる。その際に、処理に用いる坩堝として、アルミニウム、マグネシウム及びカルシウムの酸化物などの融点が高く、且つ化学的に安定な材質のものが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5818798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように乾式製錬プロセスで有価金属を回収する手法が従来から提案されるものの、従来の技術には問題があった。すなわち廃リチウムイオン電池に含まれる酸化物を熔融するためには1400℃以上の高温で処理することが望ましい。このような高温処理が可能な炉として外熱式の抵抗加熱電気炉を用いることが考えられる。しかしながら抵抗加熱電気炉はスケールアップを図る上で問題がある。具体的には、抵抗加熱電気炉は、脆弱な炭化ケイ素や二ケイ化モリブデンなどの加熱体を備えている。そのため、融体を取り出すためには、坩堝を一旦炉内から取り出し、その後、坩堝を傾転させる、あるいは坩堝底部の排出口から融体を出湯させる、といった操作が必要である。したがって、設備が大がかりになるだけでなく、加熱体によって坩堝の大きさが制限される。このような理由で熔融量の増大を図ることが困難である。
【0009】
また高温処理炉として内熱式アーク炉を用いることも考えられる。内熱式アーク炉は大型化が容易であるため、熔融量を多くすることが可能である。しかしながら、内熱式アーク炉は、得られる有価金属の品質の点で懸念がある。すなわち、内熱式アーク炉は、坩堝内部に装入される黒鉛電極を備えている。そのため還元力が強く、処理物に含まれる有価金属以外のリン(P)やマンガン(Mn)といった成分が還元されてしまい、不純物として有価金属の品質を悪化させる恐れがある。さらに銅製錬の転炉を用いて酸化による発熱を利用して有価金属の回収を行う手法も知られているが、銅製錬転炉では、銅やニッケルは回収できるものの、コバルトは回収できないという問題がある。
【0010】
一方で、高温処理炉として誘導加熱炉が挙げられる。誘導加熱炉は、電磁誘導を利用した加熱炉であり、特に間接加熱式の誘導加熱炉は、高温処理が可能、酸化還元度のコントロールが容易、処理量を高めることが可能、といった特徴を有している。実際、誘導加熱炉には、数トンクラスの処理量を誇る大型なものがあり、商業的な観点から問題がない。有価金属の回収を商業ベースで行う上で、誘導加熱炉、特に間接加熱式の誘導加熱炉は有望である。
【0011】
しかしながら、本発明者が、実際に誘導加熱炉を用いて、廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収を試みたところ、熔融処理の際に処理物が泡立つスラグフォーミングが発生しやすいという問題のあることが分かった。すなわち、乾式製錬プロセスで有価金属の回収を行う場合には、処理物の融点を下げる目的で、フラックスとして炭酸カルシウム(CaCO)を添加することが広く行われている。炭酸カルシウム(CaCO)は、下記(1)式に示すように、熔融処理時に炭酸ガス(CO)を放出して、酸化カルシウム(CaO)に変化する。
【0012】
【化1】
【0013】
誘導加熱炉は加熱誘導体(黒鉛坩堝等)を加熱する外部加熱方式を利用しているため、熔解速度が遅い。そのため炭酸カルシウムからの炭酸ガス脱離に伴うフォーミング現象が起こり易い。フォーミング現象が生じると、原料の追加投入が困難になり、原料の熔解が長時間化する恐れがある。
【0014】
本発明者は、このような問題点に鑑みて鋭意検討を行った。その結果、有価金属を回収する際に、フラックスとして酸化カルシウム(CaO)を用いることで、誘導加熱炉を用いた場合であっても、フォーミング現象を抑えられるとの知見を得た。
【0015】
本発明は、このような知見に基づき完成されたものであり、誘導加熱炉を用いた有価金属の回収方法において、炭酸ガス(CO)発泡による問題を抑制し、それにより効率的な有価金属の回収が可能となる方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、下記(1)~(7)の態様を包含する。なお本明細書において「~」なる表現は、その両端の数値を含む。すなわち「X~Y」は「X以上Y以下」と同義である。
【0017】
(1)有価金属(Cu、Ni、Co)を回収する方法であって、以下の工程;
少なくとも有価金属を含む装入物を原料として準備する工程と、
前記原料を加熱熔融して、合金とスラグとにする工程と、を有し、
前記原料を加熱熔融する際に、誘導加熱体と、前記誘導加熱体の内側に設けられた耐火性ライニングと、を備えた誘導加熱炉を用い、フラックスとして酸化カルシウム(CaO)を原料に導入する、方法。
【0018】
(2)前記原料を加熱熔融する際に、金属アルミニウム(Al)を含む還元剤を原料に導入する、上記(1)の方法。
【0019】
(3)前記金属アルミニウム(Al)としてアルミサッシを用いる、上記(2)の方法。
【0020】
(4)前記還元剤は炭素成分を含まない、上記(2)又は(3)の方法。
【0021】
(5)前記還元剤の導入量を、前記原料に含まれる有価金属の全てを還元するのに必要な量(当量)に対して1.0~1.4倍量にする、上記(2)~(4)のいずれかの方法。
【0022】
(6)前記原料を加熱熔融する際の加熱温度を1300℃以上1500℃以下にする、上記(1)~(5)のいずれかの方法。
【0023】
(7)前記有価金属は、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属又は合金からなる、上記(1)~(6)のいずれかの方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、誘導加熱炉を用いた有価金属の回収方法において、炭酸ガス(CO)発泡による問題を抑制し、それにより効率的な有価金属の回収が可能となる方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】有価金属の回収方法の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施形態」という)について説明する。なお本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0027】
本実施形態の有価金属(Cu、Ni、Co)を回収する方法は、以下の工程;少なくとも有価金属を含む装入物を原料として準備する工程(準備工程)と、準備した原料を加熱熔融して、合金とスラグとにする工程(熔融工程)と、を有する。また原料を加熱熔融する際に、誘導加熱体と、前記誘導加熱体の内側に設けられた耐火性ライニングと、を備えた誘導加熱炉を用い、フラックスとして酸化カルシウム(CaO)を原料に導入する。
【0028】
本実施形態は、少なくも有価金属を含む装入物から有価金属を回収する方法である。ここで有価金属は回収対象となるものであり、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属又は合金である。また本実施形態は主として乾式製錬プロセスによる回収方法である。しかしながら、乾式製錬プロセスと湿式製錬プロセスとから構成されていてもよい。各工程の詳細について以下に説明する。
【0029】
<準備工程>
準備工程では、装入物を原料として準備する。装入物は、有価金属を回収する処理対象となるものであり、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれる少なくとも一種の有価金属を含有する。装入物はこれらの成分(Cu、Ni、Co等)を金属や元素の形態で含んでもよく、あるいは酸化物等の化合物の形態で含んでもよい。また装入物はこれらの成分(Cu、Ni、Co)以外の他の無機成分や有機成分を含んでもよい。
【0030】
装入物は、その対象が特に限定されない。一例として、廃リチウムイオン電池、電子部品、及び/又は電子機器が挙げられる。また後続する工程での処理に適したものであれば、その形態も限定されない。準備工程で装入物に粉砕処理等の処理を施して、適した形態にしてもよい。さらに準備工程で装入物に熱処理や分別処理等の処理を施して、水分や有機物等の不要成分を除去してもよい。
【0031】
<酸化焙焼工程>
必要に応じて、後続する熔融工程の前に、原料を酸化焙焼(予備加熱)して酸化焙焼物(予備加熱物)にする工程(酸化焙焼工程)を設けてもよい。酸化焙焼工程では原料を酸化焙焼して原料(装入物)に含まれる炭素を減少させる。この工程を設けることで、原料が炭素を過剰に含む場合であっても、この炭素を酸化除去し、それにより、後続する熔融工程での有価金属の合金一体化を促進させることができる。すなわち熔融工程で有価金属は還元されて局所的な熔融微粒子になる。炭素は熔融微粒子(有価金属)が凝集する際に物理的な障害となることがある。そのため酸化焙焼工程を設けないと、熔融微粒子の凝集一体化及びそれによる熔融合金(メタル)とスラグの分離を炭素が妨げ、有価金属回収率が低下してしまう場合がある。これに対して、予め酸化焙焼工程で炭素を除去しておくことで、熔融工程での熔融微粒子(有価金属)の凝集一体化が進行し、有価金属の回収率をより一層に高めることが可能になる。またリン(P)は比較的還元されやすい不純物であるため、炭素が過剰に存在すると、リンが還元されて有価金属とともに熔融合金に取り込まれてしまう恐れがある。過剰な炭素を予め除去しておくことで、熔融合金へのリンの混入を防ぐことができる。酸化焙焼物の炭素量は1質量%未満であることが好ましい。
【0032】
その上、酸化焙焼工程を設けることで、酸化のばらつきを抑えることが可能となる。酸化焙焼工程では、原料に含まれる付加価値の低い金属(Al等)を酸化することが可能な酸化度で処理(酸化焙焼)を行うことが望ましい。一方で、酸化焙焼の処理温度、時間及び/又は雰囲気を調整することで、酸化度は容易に制御される。そのため酸化焙焼工程によって酸化度をより厳密に調整することができ、酸化度のばらつきを抑制できる。
【0033】
酸化度の調整は次のようにして行う。先述したように、アルミニウム(Al)、リチウム(Li)、炭素(C)、マンガン(Mn)、リン(P)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)及び銅(Cu)は、一般的にAl>Li>C>Mn>P>Fe>Co>Ni>Cuの順に酸化されていく。酸化焙焼工程では、アルミニウム(Al)の全量が酸化されるまで酸化を進行させる。鉄(Fe)の一部が酸化されるまで酸化を促進させてもよいが、コバルト(Co)が酸化されてスラグへ分配されることがない程度に酸化度を留める。
【0034】
酸化焙焼は、酸化剤の存在下で行うことが好ましい。これにより不純物たる炭素(C)の酸化除去及びアルミニウム(Al)の酸化を効率的に行うことができる。酸化剤は特に限定されない。しかしながら取り扱いが容易な点で、酸素含有ガス(空気、純酸素、酸素富化空気等)が好ましい。また酸化剤の導入量としては、例えば酸化処理の対象となる各物質の酸化に必要な化学当量の1.2倍程度が好ましい。
【0035】
酸化焙焼の加熱温度は、700℃以上1100℃以下が好ましい。700℃以上で、炭素の酸化効率をより一層に高めることができ、酸化時間を短縮することができる。また、1100℃以下で、熱エネルギーコストを抑制することができ、酸化焙焼の効率を高めることができる。酸化焙焼温度は800℃以上であってよい。また900℃以下であってもよい。
【0036】
酸化焙焼は、公知の焙焼炉を用いて行うことができる。また後続する熔融工程で使用する熔融炉とは異なる炉(予備炉)を用い、その予備炉内で行うことが好ましい。酸化焙焼炉として、装入物を焙焼しながら酸化剤(酸素等)を供給してその内部で酸化処理を行うことが可能な炉である限り、あらゆる形式の炉を用いることができる。一例して、従来公知のロータリーキルン、トンネルキルン(ハースファーネス)が挙げられる。
【0037】
<熔融工程>
熔融工程では、準備工程又は酸化焙焼工程を経て得た原料(廃リチウムイオン電池やその酸化焙焼物等)を加熱熔融して、合金(メタル)とスラグとに分離する。具体的には、熔融原料を加熱熔融して熔体にする。この熔体は熔融合金とスラグとを熔融した状態で含む。次いで得られた熔体を固形物にする。この固形物は熔融合金とスラグとを凝固した状態で含む。熔融合金は有価金属を主として含む。そのため有価金属とその他の成分のそれぞれを、熔融合金及びスラグとして分離することが可能である。これは付加価値の低い金属(Al等)は酸素親和力が高いのに対し、有価金属は酸素親和力が低いからである。例えばアルミニウム(Al)、リチウム(Li)、炭素(C)、マンガン(Mn)、リン(P)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)及び銅(Cu)は、一般的にAl>Li>C>Mn>P>Fe>Co>Ni>Cuの順に酸化されていく。つまりアルミニウム(Al)が最も酸化され易く、銅(Cu)が最も酸化されにくい。そのため付加価値の低い金属(Al等)は容易に酸化されてスラグになる一方で、有価金属(Cu、Ni、Co)は還元されて熔融金属(合金)になる。このようにして付加価値の低い金属と有価金属とを、スラグと熔融合金とに分離することができる。
【0038】
本実施形態の方法では、原料を加熱熔融する際に、誘導加熱体と、この誘導加熱体の内側に設けられた耐火性ライニングと、を備えた誘導加熱炉(間接加熱式誘導炉)を用いる。誘導加熱炉は、電磁誘導を利用した加熱炉であり、コイルとこのコイルの内部に設けられた坩堝などの誘導加熱体とから構成されている。誘導加熱体(坩堝等)は黒鉛や炭化ケイ素などの導電性材料で構成されている。コイルに交流電流を流すと交流磁場が生じ、この交流磁場によって坩堝及びその内部に収容された処理物中に誘導電流が生じる。この誘導電流のジュール熱によって誘導加熱体及び処理物が加熱される。誘導加熱炉は、誘導加熱を利用した外部加熱方式を利用しているため、坩堝内部に黒鉛電極を設ける必要がない。そのため炭素の混入を極力抑えることが可能である。また比較的密閉された雰囲気下で加熱することができ、雰囲気ガス成分や圧力を調整して酸化還元度を容易にコントロールすることができる。
【0039】
誘導体加熱体の内部には耐火性ライニングが設けられており、これにより高品質の有価金属を回収することが可能になる。すなわち、有価金属(Cu、Ni、Co)以外の易還元性成分(P、Mn等)が原料に含まれている場合に、原料が黒鉛などの坩堝に直接接触していると、この易還元性成分の酸化物が還元されてしまい、合金に分配される恐れがある。易還元性成分(P、Mn等)が合金に多く分配されると、合金の品位が低下し、有価金属の回収を効率的に行うことができない。これに対して、耐火性ライニングを設けることで、原料と坩堝の接触が妨げられるため、加熱しながら酸化還元の度合いを安定して制御することができ、その結果、有価金属を高い回収率で得られると同時に不純物の除去を効率的に行うことが可能になる。耐火性ライニングとして、マグネシア、アルミナ、などの材料を用いることができる。
【0040】
また本実施形態の方法では、原料を加熱熔融する際に、酸化カルシウム(CaO)をフラックスとして原料に導入する。カルシウム(Ca)成分を添加することで、熔融処理温度を低温化することができる。例えば、原料がアルミニウム(Al)成分を含んでいる場合には、熔融処理時に酸化アルミニウム(Al)と酸化カルシウム(CaO)とが共晶化してスラグの融点を下げる。また原料がリン(P)を含んでいる場合には、カルシウム成分の添加によりリンの除去を進めることができる。すなわち、カルシウムは塩基性酸化物を形成するため、スラグを塩基性に変化させることができる。リンは酸化すると酸性酸化物になるため、スラグが塩基性になるほど、リンをスラグに取り込ませて除去することが容易になる。
【0041】
従来から、上記スラグを形成するためのCaO源として、安価で且つ常温で安定な炭酸カルシウム(CaCO)がフラックスとして多用されていた。しかしながら、誘導加熱炉を用いた加熱熔融では、炭酸カルシウムを原料に添加すると、炭酸カルシウムが熱分解して酸化カルシウムに変化する際に発生する炭酸ガスにより、スラグが泡立つフォーミング現象が生じて、原料の熔融が困難になる恐れがある。すなわち、バッチ式で操業するに際して、誘導加熱炉は誘導加熱体(黒鉛坩堝等)を加熱する外部加熱方式を利用している。また本実施形態では誘導加熱体に含まれる炭素による過還元の影響を抑えるために誘導加熱体の内側に断熱層としても作用してしまう耐火ライニングを設けている。そのため熔解速度が遅く、温度が操業温度に達する手前、即ち粘性の低いスラグが生成する前に、炭酸カルシウムからの炭酸ガスの脱離が発生する。その結果、炭酸カルシウムからの炭酸ガス脱離に伴うフォーミング現象が起こり易い。フォーミング現象が生じると、原料の追加投入が困難になり、原料の熔解が長時間化する恐れがある。これに対して、フラックスとして、炭酸カルシウムに比べて高価であるものの酸化カルシウムを用いると炭酸ガスの脱離が無いため、フォーミング現象が抑えられ、その結果、効率的な有価金属の回収が可能になる。なお、本実施形態の方法において、フラックスとして酸化カルシウム(CaO)以外の成分を加えてもよい。例えば、熔融温度を調節するために、二酸化ケイ素(SiO)を加えてもよい。フラックスとして酸化カルシウムが加えられる限り、本実施形態の効果を得ることができる。
【0042】
フラックスとして添加される酸化カルシウム(CaO)の添加量は、原料に含まれるアルミナ(Al)量対してモル比で0.8~1.0倍となるようにすることが好ましい。添加量を上記範囲内とすることで熔融処理温度の低温化及びリン(P)の除去をより効果的に行うことができる。
【0043】
本実施形態の方法において、好ましくは、原料を加熱熔融する際に、金属アルミニウム(Al)を含む還元剤を原料に導入する。従来から、石炭、コークスなどの炭素原子を含む還元剤(炭素質還元剤)が多用されている。しかしながら、炭素質還元剤は、熔融したスラグとの濡れ性が非常に悪く、還元反応が進みにくいという問題がある。具体的には、熔融工程で炭素質還元剤はスラグからはじかれてしまい、スラグ上で発火することが多い。また炭素質還元剤は炭酸ガス放出によるフォーミング現象を誘発しやすいという問題がある。例えば、炭素質還元剤を用いて廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収を試みると、正極活物質として多用されるニッケル酸リチウム(LiNiO)やコバルト酸リチウム(LiCoO)は、下記(2)及び(3)式に示すように炭素(C)と反応して炭酸ガス(CO)と一酸化炭素(CO)を発生させる。そのためフォージング現象を引き起こしやすい。
【0044】
【化2】
【化3】
【0045】
これに対して、金属アルミニウム(Al)を熔融したスラグ上に投入すると、投入したアルミニウムは速やかに熔けて、スラグと容易に反応を起こす。また発火の問題を抑えることができる。そのため還元反応を効率よく進めることが可能になるとともに、安全面でも優れている。なお、還元剤として導入した金属アルミニウムは、熔融工程でスラグに分配される。そのため合金に混入することがなく、有価金属の回収率を損なうことがない。その上、金属アルミニウムを還元剤として用いると、反応時に炭酸ガス(CO)が発生しない。例えば、廃リチウム硫黄電池からの有価金属の回収の際に金属アルミニウム還元剤を用いると、下記(4)及び(5)式に示すように炭酸ガス(CO)の生成が伴われない。
【0046】
【化4】
【化5】
【0047】
還元剤として用いられる金属アルミニウムの形状は限定されない。例えば塊状であってよく、粒状であってよく、粉末状であってよい。また金属アルミニウムの純度は限定されない。しかしながら好適には純度が90%以上である。このような純度であれば、還元効率が大きく低下することはない。金属アルミニウムとしてアルミサッシやアルミニウム外装缶などの廃材を用いてもよい。このような廃材を用いることで、コスト削減を図りながらも有価金属を高効率に回収することが可能になる。
【0048】
一方で、還元剤は炭素成分を含まないことが好ましい。炭素質還元剤は、還元反応が進みにくくスラグ上で発火する問題がある。また脱炭酸ガスによるフォーミング現象を誘発しやすい。炭素成分を含まない還元剤を用いることで、有価金属の回収を効率的且つ安全に行うことが可能になる。
【0049】
還元剤の導入量を、原料に含まれる有価金属の全てを還元するのに必要な量(当量)に対して1.0~1.4倍量にすることが好ましい。還元剤の添加量が過度に少ないと、有価金属の還元が不十分になる。そのため、有価金属がスラグに混入してしまい、有価金属の回収率が低下する恐れがある。一方で還元剤の添加量が過度に多いと、還元されやすい不純物が合金(メタル)に混入する恐れがある。特に還元されやすいリン(P)が合金に混入すると、合金のリン品位が高くなるという問題がある。
【0050】
原料を加熱熔融する際の加熱温度は特に限定されない。しかしながら1300℃以上1500℃以下にすることが好ましい。加熱温度を1300℃以上にすることで、有価金属(Cu、Co、Ni)が十分に熔融し、流動性が高められた状態で熔融合金を形成する。そのため後述するスラグ分離工程で熔融合金とスラグとの分離を効率的に行うことができる。加熱温度は1350℃以上がより好ましい。一方で加熱温度が1500℃を超えると、熱エネルギーが無駄に消費されるとともに、坩堝や炉壁等の耐火物の消耗が激しくなり、生産性が低下する恐れがある。加熱温度は1450℃以下がより好ましい。
【0051】
<スラグ分離工程>
必要に応じて、熔融工程の後に、スラグ分離工程を設けてもよい。スラグ分離工程では、熔融工程で得られた熔融物からスラグを分離して、有価金属を含む熔融合金を回収する。スラグと熔融合金は比重が異なる。熔融合金に比べて比重の小さいスラグは熔融合金の上部に集まるので、比重分離により、容易に分離回収することができる。
【0052】
スラグ分離工程後に、得られた合金を硫化する硫化工程や、得られた硫化物或いは合金を粉砕する粉砕工程を設けてもよい。さらに、このような乾式製錬プロセスを経て得られた有価金属合金に湿式製錬プロセスを施してもよい。湿式製錬プロセスにより、不純物成分を除去し、有価金属(Cu、Ni、Co)を分離精製し、それぞれを回収することができる。湿式製錬プロセスにおける処理としては、中和処理や溶媒抽出処理等の公知の手法が挙げられる。
【0053】
本実施形態の装入物は、有価金属を含有する限り、限定されない。しかしながら装入物は廃リチウムイオン電池を含むことが好ましい。廃リチウムイオン電池は、リチウム(Li)及び有価金属(Cu、Ni、Co)を含むとともに、付加価値の低い金属(Al、Fe)や炭素成分を含んでいる。そのため、廃リチウムイオン電池を装入物として用いることで、有価金属を効率的に分離回収することができる。なお廃リチウムイオン電池とは、使用済みのリチウムイオン電池のみならず、電池を構成する正極材等の製造工程で生じた不良品、製造工程内部の残留物、発生屑等のリチウムイオン電池の製造工程内における廃材を含む概念である。そのため、廃リチウムイオン電池をリチウムイオン電池廃材と言うこともできる。
【0054】
廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法を、図1を用いて説明する。図1は回収方法の一例を示す工程図である。図1に示されるように、この方法は、廃リチウムイオン電池の電解液及び外装缶を除去して廃電池内容物を得る工程(廃電池前処理工程S1)と、廃電池内容物を粉砕して粉砕物とする工程(第1粉砕工程S2)と、粉砕物を酸化焙焼して酸化焙焼物にする工程(酸化焙焼工程S3)と、酸化焙焼物を熔融して熔融物にする工程(熔融工程S4)と、熔融物からスラグを分離して、熔融合金を回収する工程(スラグ分離工程)を有する。また図示されていないが、スラグ分離工程の後に、得られた合金を硫化する硫化工程や、得られた硫化物或いは合金を粉砕する第2粉砕工程を設けてもよい。各工程の詳細を以下に説明する。
【0055】
<廃電池前処理工程>
廃電池前処理工程(S1)は、廃リチウムイオン電池の爆発防止及び無害化並びに外装缶の除去を目的に行われる。リチウムイオン電池は密閉系であるため、内部に電解液などを有している。そのためそのままの状態で粉砕処理を行うと、爆発の恐れがあり危険である。何らかの手法で放電処理や電解液除去処理を施すことが好ましい。廃電池前処理の具体的な方法は特に限定されるものではない。例えば針状の刃先で廃電池を物理的に開孔し、電解液を除去する手法が挙げられる。また廃電池を加熱して、電解液を燃焼して無害化する手法が挙げられる。
【0056】
外装缶は金属であるアルミニウム(Al)や鉄(Fe)から構成されることが多く、こうした金属製の外装缶はそのまま回収することが比較的容易である。このように廃電池前処理工程(S1)で電解液及び外装缶を除去することで、安全性を高めるとともに、有価金属(Cu、Ni、Co)の回収率を高めることができる。廃電池前処理工程(S1)で、外装缶に含まれるアルミニウム(Al)や鉄(Fe)を回収する場合には、除去した外装缶を粉砕した後に、粉砕物を篩振とう機を用いて篩分けしてもよい。アルミニウム(Al)は軽度の粉砕で容易に粉状になるため、これを効率的に回収することができる。また磁力選別によって、外装缶に含まれる鉄(Fe)を回収してもよい。
【0057】
<第1粉砕工程>
第1粉砕工程(S2)では、廃リチウムイオン電池又はその内容物(電池内容物)を粉砕して粉砕物を得る。この工程は乾式製錬プロセスでの反応効率を高めることを目的にしている。反応効率を高めることで、有価金属(Cu、Ni、Co)の回収率を高めることができる。具体的な粉砕方法は特に限定されるものではない。カッターミキサー等の従来公知の粉砕機を用いて粉砕することができる。なお廃電池前処理工程と第1粉砕工程は、これらを併せて先述する準備工程に相当する。
【0058】
<酸化焙焼工程>
酸化焙焼工程(S3)では、第1粉砕工程(S2)で得られた粉砕物を酸化焙焼して酸化焙焼物を得る。この工程の詳細は先述したとおりである。
【0059】
<熔融工程>
熔融工程(S4)では、酸化焙焼工程(S3)で得られた酸化焙焼物を熔融して熔融物を得る。この工程の詳細は先述したとおりである。
【0060】
<スラグ分離工程>
スラグ分離工程では、熔融工程(S4)で得られた熔融物からスラグを分離して、熔融合金を回収する。この工程の詳細は先述したとおりである。
【0061】
スラグ分離工程後に硫化工程や粉砕工程を設けてもよい。さらに得られた有価金属合金に対して湿式製錬プロセスをおこなってもよい。硫化工程、粉砕工程及び湿式製錬プロセスの詳細は先述したとおりである。
【実施例0062】
本発明を、以下の実施例及び比較例を用いて更に詳細に説明する。しかしながら本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0063】
(1)還元熔融試験
[実施例1]
実施例1では、内部をマグネシア系キャスターでライニングした黒鉛坩堝を備えた外熱式高周波誘導炉を用いて酸化物粉粒体の還元熔融試験を行い、還元熔融時の泡立ちの高さを調べた。
【0064】
まず試料として、酸化物粉粒体と還元剤とフラックスとを準備した。酸化物粉粒体に含まれる主要元素の質量比は下記表1に示されるとおりであった。また有価金属(Cu、Ni及びCo)を還元するための還元剤としてアルミニウムサッシを用いた。さらに試料中のアルミナと共晶化することで熔融するためのフラックスとして酸化カルシウムを用いた。
【0065】
次いで、坩堝の内部に、50kgの酸化物粉粒体と、2.4kgの還元剤(アルミニウムサッシ)と、5.4kgのフラックス(酸化カルシウム)を投入した。外部からフリーエアーが流入しないように誘導炉上部に蓋を設けた。また昇温時から出湯時まで30L/分の流量で窒素(N)ガスを坩堝内に継続して流して、坩堝内が不活性雰囲気に保たれるようにした。反応により発生するガスを吸引できるように吸引管を炉内に差し込み、ガス分析装置(堀場製作所、PG330P)を用いてガスを常時モニタリングした。上記還元熔融試験は1400℃で行った。
【0066】
【表1】
【0067】
[比較例1]
比較例1では、還元剤として黒鉛粉(C)を用い、またフラックスとして炭酸カルシウム(CaCO)を用いた。それ以外は実施例1と同様にして還元熔融試験を行った。
【0068】
(2)試験結果
実施例1及び比較例1について、還元熔融時の泡立ちの高さを表2に示す。還元剤及びフラックスとしてアルミニウムサッシと酸化カルシウムを用いた実施例1においては、発泡がほとんど見られなかった。これに対して、黒鉛粉と炭酸カルシウムを用いた比較例1では、泡立ちが激しく、泡が炉蓋にまで到達していた。
【0069】
以上の結果から、安定操業を維持するためには、発泡をある程度に抑制することが好ましく、添加する還元剤やフラックスの材質を適切に選択することが重要であることが分かった。
【0070】
【表2】
図1