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特開2022-117786ガドリニウム中性子捕捉療法用ナノ粒子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117786
(43)【公開日】2022-08-12
(54)【発明の名称】ガドリニウム中性子捕捉療法用ナノ粒子
(51)【国際特許分類】
   A61K 51/12 20060101AFI20220804BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20220804BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20220804BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20220804BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20220804BHJP
   A61K 49/12 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220804BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20220804BHJP
   A61K 33/24 20190101ALI20220804BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
A61K51/12 100
A61K9/14
A61K9/51
A61K47/32
A61K47/34
A61K49/12
A61P35/00
A61K47/60
A61K33/24
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021014481
(22)【出願日】2021-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】オラシオ カブラル
(72)【発明者】
【氏名】チン チアンユエン
(72)【発明者】
【氏名】柳衛 宏宣
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076CC50
4C076EE23
4C076EE26
4C076EE59
4C076FF70
4C084AA11
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZB26
4C084ZC75
4C085HH07
4C085KA09
4C085KA28
4C085KB12
4C085KB76
4C085LL18
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA05
4C086HA28
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA13
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC75
(57)【要約】
【課題】ガドリニウム中性子捕捉療法用ナノ粒子の提供。
【解決手段】非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントとアニオン性のポリマー鎖セグメントとを含むブロックコポリマーと、ガドリニウムとを含んでなる、高分子ナノ粒子複合体、並びに、非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントと、第一のアニオン性のポリマー鎖セグメントと、第二のアニオン性のポリマー鎖セグメントとをこの順に含むブロックコポリマーと、ガドリニウムとを含んでなる、高分子ミセル複合体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントとアニオン性のポリマー鎖セグメントとを含むブロックコポリマーと、ガドリニウムとを含んでなる、高分子ナノ粒子複合体。
【請求項2】
前記非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントが、ポリエチレングリコール、ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)、ポリ(2-イソプロピル-2-オキサゾリン)、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ヒドロキシエチル及びポリ(メタクリル酸ヒドロキシエチル)からなる群より選ばれる親水性ポリマーに由来するものである、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
前記アニオン性のポリマー鎖セグメントが、ポリ(グルタミン酸)、ポリ(アスパラギン酸)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)及びポリ(リンゴ酸)からなる群より選ばれるアニオン性ポリマーに由来するものである、請求項1又は2に記載の複合体。
【請求項4】
前記ブロックコポリマーが、次式Ia又はIIa:
【化8】
〔式Ia及びIIa中、Rは水素原子又は未置換の若しくは置換された直鎖若しくは分枝のC1-12アルキル基を表し、L11及びL21は連結基を表し、Rはそれぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表し、Rはそれぞれ独立して水素原子、カルボン酸若しくはその塩、又はアミンを表し、Rは水素原子、アミノ基の保護基、疎水性基又は重合性基を表し、Rはヒドロキシル基又は開始剤残基を表し、「/」の表記は、その左右に示された(m1+m2)個の各モノマー単位の配列順序が任意であることを表し、m1及びm2はそれぞれ独立して5~20,000の整数であり、nは2~5,000の整数である。〕
で示されるものである、請求項1~3のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項5】
前記ブロックコポリマーが、次式Ib又はIIb:
【化9】
〔式Ib及びIIb中、「/」の表記は、その左右に示された(m1+m2)個の各モノマー単位の配列順序が任意であることを表し、m1及びm2はそれぞれ独立して5~20,000の整数であり、nは2~5,000の整数である。〕
で示されるものである、請求項1~4のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項6】
非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントと、第一のアニオン性のポリマー鎖セグメントと、第二のアニオン性のポリマー鎖セグメントとをこの順に含むブロックコポリマーと、ガドリニウムとを含んでなる、高分子ミセル複合体。
【請求項7】
前記非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントが、ポリエチレングリコール、ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)、ポリ(2-イソプロピル-2-オキサゾリン)、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ヒドロキシエチル及びポリ(メタクリル酸ヒドロキシエチル)からなる群より選ばれる親水性ポリマーに由来するものである、請求項6に記載の複合体。
【請求項8】
前記第一のアニオン性のポリマー鎖セグメント及び前記第二のアニオン性のポリマー鎖セグメントが、それぞれ、ポリ(グルタミン酸)、ポリ(アスパラギン酸)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)及びポリ(リンゴ酸)からなる群より選ばれるアニオン性ポリマーに由来するものである(但し、前記第一のアニオン性のポリマー鎖セグメントと前記第二のアニオン性のポリマー鎖セグメントとは、互いに異なるポリマーに由来するものである。)、請求項7又は8に記載の複合体。
【請求項9】
前記ブロックコポリマーが、次式IIIa又はIVa:
【化10】
〔式IIIa及びIVa中、Rは水素原子又は未置換若しくは置換された直鎖若しくは分枝のC1-12アルキル基を表し、L11、L12、L21及びL22は連結基を表し、R及びRはそれぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表し(但し、Rがメチレン基のときはRはエチレン基であり、Rがエチレン基のときはRはメチレン基である。)、Rはそれぞれ独立して水素原子、カルボン酸若しくはその塩、又はアミンを表し、Rは疎水性基を表し、Rは水素原子、アミノ基の保護基、疎水性基又は重合性基を表し、Rはヒドロキシル基、未置換若しくは置換された直鎖若しくは分枝のC1-12アルキル基、又は開始剤残基を表し、「/」の表記は、その左右に示された(m1+m2)個の各モノマー単位の配列順序が任意であることを表し、m1及びm2はそれぞれ独立して5~20,000の整数であり、nは2~5,000の整数であり、kは20~120の整数である。〕
で示されるものである、請求項6~8のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項10】
ブロックコポリマーが、次式IIIb又はIVb:
【化11】
〔式IIIb及びIVb中、「/」の表記は、その左右に示された(m1+m2)個の各モノマー単位の配列順序が任意であることを表し、m1及びm2はそれぞれ独立して5~20,000の整数であり、nは2~5,000の整数であり、kは20~120の整数である。〕
で示されるものである、請求項7~10のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の複合体を含む、MRIガイド下中性子捕捉療法用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MRI造影能を有するとともに中性子捕捉療法により抗腫瘍活性を有するナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
癌の累積罹患率、死亡率が増加の一途をたどる中、あらゆる部位において癌の早期発見は命題といえる。早期発見によって治療時の侵襲も低くなるほか、完治も期待できる。それぞれの癌によって早期治療のプロトコールは確立されており、簡便かつ診断能の高い技術が必要とされている。また、既に進行癌の診断が下された患者に対しては、遠隔転移の有無を的確に診断することは病期(ステージ)の決定、その後の治療方針の決定に非常に重要である。癌の治療には外科治療、放射線療法、化学療法が挙げられるが、外科治療に際しては転移病巣の的確な切除、あるいは焼灼を行うことで癌の根治が期待できる。また放射線療法でも腫瘍の部位を正確に判定し、重点的に照射を行うことで健常部位への照射を防ぎ、副作用を軽減することができる。これらの意味でもあらゆるステージでの癌患者にとって、癌の正確な部位診断を行うことは非常に大きなメリットがある。
【0003】
悪性腫瘍の画像診断法の代表例としては、X線CT、超音波、核磁気共鳴映像法(MRI)が挙げられる。これらの検査は普及率が高く、各々、利点と欠点を併せ持つ。中でも、MRIは、世界で最も急速に普及している画像診断技術であり、放射線被爆等の問題がなく、軟部組織の質的変化も可視化でき、客観性及び再現性が高いことから、近年その重要度が特に高まっている。しかしながら、MRIは、そのハードウェアのみでは小さな腫瘍が正常組織の複雑な信号に埋もれるため、その同定が困難であり、診断精度向上ためには、腫瘍組織を選択的に描出できるMRI造影剤の開発が大きな課題となっている。
【0004】
これまで、腫瘍組織とその周囲組織とのコントラストを高めるための様々な造影剤が開発され、実用化されている。代表的な造影剤としては、Gd-DTPA(ガドリニウム-ジエチレントリアミン五酢酸)等の金属錯体が挙げられる(例えば、非特許文献1:Wesbey GE, et al. Physiol Chem Phys Med NMR. 1984;16(2):145-155.)。しかしながら、Gd-DTPAは部位特異性に欠けるため癌などの特定組織への標的性が無く、経静脈投与により速やかに各臓器及び筋肉内に拡散するため、腫瘍において確定的な診断を下す事が困難であった。
【0005】
そこで、腫瘍に特異的に集積し、少ない使用量でコントラストが高く、しかも副作用が少なく安全でかつ長期間の血中滞留性を有する造影剤の開発が望まれている。
腫瘍組織においては、正常組織に比べて新生血管の増生と血管壁の著しい透過性亢進がみられること、またリンパ系が未発達であるということ等の特性により、高分子量の物質でも血中から組織に移行させることができ、かつ移行後は当該組織から排出されにくい。このため、高分子化合物やナノサイズの粒子が結果的に腫瘍組織内に集積しやすくなるという、いわゆるEPR効果により、抗癌剤等の各種分子を内包したリポソームや高分子ミセルなどのナノサイズの粒子が腫瘍組織に集積することが知られている(特許文献1参照)。
【0006】
他方、近年では腫瘍に対する新たな治療オプションとして、中性子捕捉療法(Neutron Capture Therapy: NCT)が提案されている。NCTとして、熱中性子捕獲断面積の大きい元素の1つであるホウ素(10B)やガドリニウム(Gd(III))を予め腫瘍に蓄積させておき、そこに熱中性子を照射することにより10BやGd(III)の核反応により発生する放射線を利用する癌治療法(10Bを用いたBCNT、Gd(III)を用いたGdNCT)などがある。このうち、酸化ガドリニウム(Gd2O3)を用いた中性子捕捉療法(GdNCT)は、悪性組織におけるGd(III)化合物の蓄積、並びに熱中性子の照射によるガンマ線及び高エネルギー粒子の生成に基づく癌治療技術である。
【0007】
Gd(III)系化合物は、MRI造影剤としての利点に加えて、安定な放射性核種の中でも最も高い熱中性子捕獲断面積を有し、これは現在BNCTに使用されている10Bの67倍も高い。このため、Gd(III)は、安全で強力なGdNCTを誘発するためのNCT剤として期待される。
しかしながら、Gd(III)は、腫瘍において選択的蓄積性に欠けるため、標的腫瘍に対する送達系の開発が必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3955992号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Wesbey GE, et al. Physiol Chem Phys Med NMR. 1984;16(2):145-155.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような状況下において、腫瘍組織に特異的に集積して当該組織を選択的に描出することができ、少ない使用量でコントラストが高く長時間の造影が可能であり、しかも長時間血液中を循環しても副作用が少なく安全であるMRI造影剤としての機能を発揮するとともに、集積した腫瘍組織において腫瘍細胞の高い殺傷効果を発揮する分子の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントとアニオン性のポリマー鎖セグメントとを含むブロックコポリマーと、ガドリニウムとを含む高分子複合体によって上記課題を解決することに成功し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントとアニオン性のポリマー鎖セグメントとを含むブロックコポリマーと、ガドリニウムとを含んでなる、高分子ナノ粒子複合体。
[2] 前記非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントが、ポリエチレングリコール、ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)、ポリ(2-イソプロピル-2-オキサゾリン)、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ヒドロキシエチル及びポリ(メタクリル酸ヒドロキシエチル)からなる群より選ばれる親水性ポリマーに由来するものである、[1]に記載の複合体。
[3] 前記アニオン性のポリマー鎖セグメントが、ポリ(グルタミン酸)、ポリ(アスパラギン酸)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)及びポリ(リンゴ酸)からなる群より選ばれるアニオン性ポリマーに由来するものである、[1]又は[2]に記載の複合体。
[4] 前記ブロックコポリマーが、次式Ia又はIIa:
【化1】
〔式Ia及びIIa中、Rは水素原子又は未置換の若しくは置換された直鎖若しくは分枝のC1-12アルキル基を表し、L11及びL21は連結基を表し、Rはそれぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表し、Rはそれぞれ独立して水素原子、カルボン酸若しくはその塩、又はアミンを表し、Rは水素原子、アミノ基の保護基、疎水性基又は重合性基を表し、Rはヒドロキシル基又は開始剤残基を表し、「/」の表記は、その左右に示された(m1+m2)個の各モノマー単位の配列順序が任意であることを表し、m1及びm2はそれぞれ独立して5~20,000の整数であり、nは2~5,000の整数である。〕
で示されるものである、[1]~[3]のいずれか1項に記載の複合体。
[5] 前記ブロックコポリマーが、次式Ib又はIIb:
【化2】
〔式Ib及びIIb中、「/」の表記は、その左右に示された(m1+m2)個の各モノマー単位の配列順序が任意であることを表し、m1及びm2はそれぞれ独立して5~20,000の整数であり、nは2~5,000の整数である。〕
で示されるものである、[1]~[4]のいずれか1項に記載の複合体。
[6] 非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントと、第一のアニオン性のポリマー鎖セグメントと、第二のアニオン性のポリマー鎖セグメントとをこの順に含むブロックコポリマーと、ガドリニウムとを含んでなる、高分子ミセル複合体。
[7] 前記非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントが、ポリエチレングリコール、ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)、ポリ(2-イソプロピル-2-オキサゾリン)、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ヒドロキシエチル及びポリ(メタクリル酸ヒドロキシエチル)からなる群より選ばれる親水性ポリマーに由来するものである、[6]に記載の複合体。
[8] 前記第一のアニオン性のポリマー鎖セグメント及び前記第二のアニオン性のポリマー鎖セグメントが、それぞれ、ポリ(グルタミン酸)、ポリ(アスパラギン酸)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)及びポリ(リンゴ酸)からなる群より選ばれるアニオン性ポリマーに由来するものである(但し、前記第一のアニオン性のポリマー鎖セグメントと前記第二のアニオン性のポリマー鎖セグメントとは、互いに異なるポリマーに由来するものである。)、[7]又は[8]に記載の複合体。
[9] 前記ブロックコポリマーが、次式IIIa又はIVa:
【化3】
〔式IIIa及びIVa中、Rは水素原子又は未置換若しくは置換された直鎖若しくは分枝のC1-12アルキル基を表し、L11、L12、L21及びL22は連結基を表し、R及びRはそれぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表し(但し、Rがメチレン基のときはRはエチレン基であり、Rがエチレン基のときはRはメチレン基である。)、Rはそれぞれ独立して水素原子、カルボン酸若しくはその塩、又はアミンを表し、Rは疎水性基を表し、Rは水素原子、アミノ基の保護基、疎水性基又は重合性基を表し、Rはヒドロキシル基、未置換若しくは置換された直鎖若しくは分枝のC1-12アルキル基、又は開始剤残基を表し、「/」の表記は、その左右に示された(m1+m2)個の各モノマー単位の配列順序が任意であることを表し、m1及びm2はそれぞれ独立して5~20,000の整数であり、nは2~5,000の整数であり、kは20~120の整数である。〕
で示されるものである、[6]~[8]のいずれか1項に記載の複合体。
[10] ブロックコポリマーが、次式IIIb又はIVb:
【化4】
〔式IIIb及びIVb中、「/」の表記は、その左右に示された(m1+m2)個の各モノマー単位の配列順序が任意であることを表し、m1及びm2はそれぞれ独立して5~20,000の整数であり、nは2~5,000の整数であり、kは20~120の整数である。〕
で示されるものである、[7]~[10]のいずれか1項に記載の複合体。
[11] [1]~[10]のいずれか1項に記載の複合体を含む、MRIガイド下中性子捕捉療法用医薬組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、MRIでは組織のコントラストを明瞭に造影できるとともに、中性子捕捉療法では有効な抗腫瘍効果を得ることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】Gd2O3 NPの合成法の模式図である。
図2】PEG-P(Asp)の合成スキームを示す図である。
図3】PEG‐PBLA及びPEG‐P(Asp)ジブロック共重合体の1H‐NMRスペクトルを示す図である。ピークaとピークbの積分により、重合度は43と算出された。
図4】DLSによるPEG-P(Asp-Gd)及びGd2O3 NPの流体力学直径を示す図である。
図5】Gd2O3、Gd(OH)3、及びGd2O3 NPのTG曲線を示す図である。Gd(OH)3は、300°C(青線)でGd2O3に酸化される。Gd2O3又はGd2O3 NPについては、300°Cでの低下はなかった。Gd2O3NPは400℃での低下を示し、これはPEG‐P(Asp)の分解に相当する。
図6】Gd2O3NSの合成手順の概略図である。
図7】PEG‐P(Asp)‐PBLGトリブロック共重合体の合成スキームを示す図である。
図8】PEG-PBLA、PEG-PBLA-PBLG、及びPEG-P(Asp)-PBLGの1H-NMRスペクトルを示す図である。
図9】PEG-PBLA-PBLGのGPCクロマトグラムの図である。
図10】P(Asp)に対し (a1)0.25、(a2)1及び(a3)10当量のGdを有するPEG‐P(Asp(Gd))‐PBLGミセル、並びにP(Asp)に対し(b1)0.25、(b2)1及び(b3)10当量のGdを有するGd2O3NSのTEM画像である。
図11】EDSにより測定されたNSの外(b)、NSのコア内(c)、及びNSのシェル内(d)におけるGd2O3NSのTEM画像(a)とGd強度を示す図である。NSの構造を確認すると、Gdはシェルに位置していた。
図12】P(Asp)に対し(a)0.25、(b)1、及び(c)10当量のGdを有するGd2O3 NSにおける、DLSにより決定された水力学的直径を示す図である。
図13】リン酸緩衝液(10mM)+NaCl(150mM)(pH 7.4)中のGd2O3 NPの放出プロファイルを示す図である。データは平均±標準偏差(n = 4)として示した。
図14】リン酸緩衝液(10mM)+NaCl(150mM)(pH 7.4)中のGd2O3 NSの放出プロファイルを示す図である。データは平均±標準偏差(n = 4)として示した。
図15】24時間及び48時間インキュベートした後のC26細胞に対するGd2O3NPの細胞毒性を示す図である。データは平均値±標準偏差(n = 4)で示した。
図16】24時間及び48時間培養後のC26細胞に対するGd2O3 NSの細胞毒性を示す図である。データは平均値±標準偏差(n = 4)で示した。
図17】Gd2O3NPの静脈内注射前後のC26腫瘍担がんマウスのインビボT1強調MR画像である。
図18】Gd2O3NSの静脈内注射前後のC26腫瘍担持マウスのインビボT1強調MR画像である。
図19】皮下のC26腫瘍に対するGd2O3NPの抗腫瘍活性を示す図である。ポリマーを投与して24時間後(0日目)、マウスに熱中性子を1時間照射した。a. 腫瘍増殖曲線。b. 体重変化。データは平均±標準偏差(n = 4)として示した。
図20】皮下のC26腫瘍に対するGd2O3NSの抗腫瘍活性を示す図である。ポリマーを投与して24時間後(0日目)、マウスに熱中性子を1時間照射した。データは平均±標準偏差(n = 4)として示した。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施し得る。
1.概要
本発明は、非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントとアニオン性のポリマー鎖セグメントとを含むブロックコポリマーと、ガドリニウムとを含んでなる、高分子ナノ粒子複合体である。また本発明は、非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントと、第一のアニオン性のポリマー鎖セグメントと、第二のアニオン性のポリマー鎖セグメントとをこの順に含むブロックコポリマーと、ガドリニウムとを含んでなる、高分子ミセル複合体である。
【0015】
本発明の高分子ナノ粒子複合体は、高い血中滞留性と腫瘍組織選択性(EPR効果によるもの)を有する高分子ナノ粒子を利用したドラッグデリバリーシステムに着目して見出されたものである。本発明は、当該高分子ナノ粒子にMRI造影能を発揮し得るガドリニウムを内包させた高分子ナノ粒子複合体を提供するものである。
本発明者は、遊離ガドリニウムの漏出を回避し、腫瘍組織において高い蓄積を達成するシステムを設計し、さらに、中性子照射後に効率的に細胞を殺傷させるために、腫瘍細胞の近傍又は内部に大量のガドリニウムを送達させるためのシステムを設計した。
【0016】
すなわち、本発明においては、腫瘍を標的とした効果的な磁気共鳴イメージング(MRI)下でのGdNCTのためのガドリニウム含有複合体を開発した。本発明の複合体は、中性子を照射しないときは細胞毒性がなく、In vivoにおいて固形腫瘍に蓄積することが示された。この蓄積をMRIによって追跡すると、本発明の複合体のT1緩和性は、臨床的に使用されている従来のガドリニウム化合物のT1緩和性よりも5~10倍高く、in vivoにおいて腫瘍のMRIコントラストを増強した。
【0017】
さらに、本発明の複合体は、中性子を照射すると、腫瘍増殖を抑制する強力な抗腫瘍効果を発揮した。
本発明の複合体は、腫瘍における線量蓄積を定量化し、体内の腫瘍位置を同定することができる。これにより、中性子をピンポイントで照射することを可能にする。
【0018】
このように、本発明の複合体は多機能性を有している。これらの機能は、MRIに有用な3価のGd(III)(周期表の元素の中で最大の値)の高いスピン磁気モーメント、及び157Gdの257,000 barnsもの巨大な熱中性子捕捉断面積から生じる。この値は、既知の放射性同位体の中で最大の値であり、他のNCT剤であるホウ素の値の60倍以上である。さらに、BNCTには10Bしか使用できず、これは非常に高価な精製プロセスを必要とする。これに対し、155Gd及び157Gd同位体は、いずれも中性子を効果的に捕捉することができ、156Gd及び158Gdも励起されてガンマ線、x線及び変換エレクトロンを放出することができる。Gd同位体のこのような効率は、低線量での使用を可能にする。
【0019】
2.高分子ナノ粒子複合体
本発明の高分子ナノ粒子複合体は、(i)非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントとアニオン性のポリマー鎖セグメントとを含むブロックコポリマーと、(ii)MRI造影能を発揮し得るガドリニウムとを含んでなるものである。ここで、当該複合体の具体的な形態としては、上記ブロックコポリマーの非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントをシェル部分とし、アニオン性のポリマー鎖セグメントをコア部分として形成されたナノ粒子状粒子に、ガドリニウムが内包された形態である。
なお、本発明においては、便宜上、上記各ポリマー鎖セグメントには、いわゆるオリゴマー鎖の範疇に入るセグメントも包含されるものとする。
【0020】
(1)ブロックコポリマー
前記ブロックコポリマー中、非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントとしては、限定はされないが、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)、ポリ(2-イソプロピル-2-オキサゾリン)、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ヒドロキシエチル及びポリ(メタクリル酸ヒドロキシエチル)からなる群より選ばれる水溶性ポリマーに由来するものが挙げられ、中でも、PEGに由来するものが好ましい。当該非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントは親水性であることから、高分子ナノ粒子複合体に優れた生体適合性を付与することができる。
【0021】
前記ブロックコポリマー中、アニオン性のポリマー鎖セグメントとしては、限定はされないが、例えば、側鎖にアニオン性基を有するポリペプチドが好ましく挙げられる。具体的には、例えば、ポリ(グルタミン酸)、ポリ(アスパラギン酸)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)及びポリ(リンゴ酸)からなる群より選ばれるアニオン性ポリマーに由来するものが好ましく挙げられ、中でも、ポリ(アスパラギン酸)に由来するものがより好ましい。
【0022】
本発明に用いるブロックコポリマーとしては、具体的には、下記一般式Ia又はIIaで示されるものが例示できる。
【化5】
【0023】
式Ia及びIIa中、Rは水素原子又は未置換若しくは置換された直鎖若しくは分枝のC1-12アルキル基を表す。なお、「C1-12アルキル基」とは炭素数が1-12個のアルキル基を意味し、本明細書では他の炭素数の場合も同様に表記する。
11及びL21は連結基を表し、Rはそれぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表し、Rはそれぞれ独立して水素原子、カルボン酸若しくはその塩、又はアミンを表し、Rは水素原子、アミノ基の保護基、疎水性基又は重合性基を表し、Rはヒドロキシル基又は開始剤残基を表し、「/」の表記は、その左右に示された(m1+m2)個の各モノマー単位の配列順序が任意であることを表し、m1及びm2はそれぞれ独立して5~20,000の整数であり、nは2~5,000の整数である。
【0024】
上記式Ia及びIIaにおいて、mとしては、例えば5~20,000の整数、10~5,000の整数、あるいは40~500の整数であり、nとしては、例えば2~5,000の整数、5~1,000の整数、あるいは10~200の整数である。
また、上記式Ia及びIIa中において、n個の繰り返し単位の部分は、非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントに相当する。また、m1個とm2個の繰り返し単位の部分は、アニオン性のポリマー鎖セグメントに相当する。
【0025】
において、前述した未置換の又は置換された直鎖又は分枝のC1-12アルキル基としては、限定はされないが、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、デシル、ウンデシル等が挙げられ、置換された場合の置換基としては、例えば、アセタール化ホルミル基、シアノ基、ホルミル基、カルボキシル基、アミノ基、C1-6アルコキシカルボニル基、C2-7アシルアミド基、同一若しくは異なるトリ-C1-6アルキルシロキシ基、シロキシ基又はシリルアミノ基が挙げられる。
【0026】
置換基がアセタール化ホルミル基であるときは、酸性の温和な条件下で加水分解して他の置換基であるホルミル基(-CHO:アルデヒド基)に転化できる。このようなホルミル基、又は上記カルボキシル基若しくはアミノ基は、例えば、前記ブロックコポリマーを生成した後に、対応する保護された形態の基又は部分から脱保護又は転換して生じさせることができ、次いで必要に応じ、適当な抗体又はその特異結合性を有する断片(F(ab’)2、F(ab)、又は葉酸など)を共有結合し、そして本発明の高分子ナノ粒子複合体に標的指向性を付与するために利用することもできる。このような官能基を片末端に有する非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントは、例えば、WO96/32434、WO96/33233、WO97/06202等に記載のブロックコポリマーのPEGセグメント部の製造法に準じて形成することができる。
【0027】
このように形成される非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントと、アニオン性のポリマー鎖セグメントとは、前述した各ブロックコポリマーの製造方法に応じて、どのような連結様式をとっていてもよく、どのような連結基で結合されていてもよい。
【0028】
コポリマーの製造方法は、特に限定はされないが、末端にアミノ基を有する非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントを用いて、そのアミノ末端から、例えば、β-ベンジル-L-アスパルテート及び/又はγ-ベンジル-L-グルタメートのN-カルボン酸無水物(NCA)を重合させてブロックコポリマーを合成し、その後、側鎖ベンジル基を他のエステル基に変換するか、又は部分若しくは完全加水分解することにより目的のブロックコポリマーを得る方法が挙げられる。
【0029】
この場合、得られたコポリマーの構造は、一般式Iaで示される構造となる。連結基L1は、用いた非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントの末端構造に由来する構造となり、好ましくは-(CH)p-NH-である(ここで、pは1~5の整数である。)。
また、アニオン性のポリマー鎖セグメント、又は該ポリマー鎖の誘導体を合成してから、予め用意した非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントと結合させる方法により、コポリマーを製造することもできる。この場合、結果的に上記の方法で製造したものと同一の構造となることもあるが、一般式IIaで示されるブロックコポリマーの構造となる。連結基L2は、特に限定されるものではなく、例えば-(CH)q-CO-である(ここで、qは1~5の整数である。)。
【0030】
において、カルボン酸としてはモノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸などが挙げられ、これらの塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などが挙げられる。
において、アミノ基の保護基としては、例えば、ベンジルオキシカルボニル基、t-ブチルオキシカルボニル基、アセチル基及びトリフルオロアセチル基等が挙げられる。また、疎水性基としては、例えば、ベンジルカルボニル基及びベンズヒドリルカルボニル基等が挙げられる。さらに、重合性基としては、例えば、アクリロイル及びメタクリルロイル基等が挙げられる。
【0031】
において、開始剤残基としては、例えば、NCA重合の開始剤となり得る脂肪族又は芳香族の1級アミン化合物残基(-NH-アルキル)等が挙げられる。なお、「-NH-アルキル」のアルキルとしては、C1-6アルキルが挙げられる。
本発明の一態様では、上記ブロックコポリマーは、例えば次式Ib又はIIbで示されるものが挙げられる。
【化6】
【0032】
式Ib及びIIb中、「/」の表記、m1及びm2、並びにnは、前記と同様である。
【0033】
(2)MRI造影能を発揮し得るガドリニウム
MRI造影剤は、造影効果の違いにより、T1 短縮効果による陽性造影剤とT2短縮効果による陰性造影剤の2種類に分類される。造影剤の材料としては常磁性金属が用いられるが、その中でもガドリニウムはT1短縮効果が高く、常磁性体として優れた特性を有している。
ガドリニウムは毒性が非常に強く体内蓄積性があるため、一般には、常磁性金属イオン(Gd3+イオン)を周囲で囲いキレート化合物にする。
【0034】
本発明のナノ粒子複合体においては、アニオン性のポリマー鎖セグメントにガドリニウムを担持(キレート化)させて、毒性の低減と排泄促進を図っている。
上記親水性セグメントは、親水性ポリマー鎖のセグメントであるため、ナノ粒子の表面側のシェル部分を構成する。シェル部分の内側のアニオン性のポリマー鎖セグメントは、ガドリニウムを担持する。アニオン性のポリマー鎖セグメントに担持されたガドリニウムは、ナノ粒子のうちシェルの内部に内包された状態となる。そして、本発明の一態様において、内包されたガドリニウムは酸化物(Gd)である。この酸化ガドリニウムを内包するナノ粒子複合体を、本明細書において「Gdナノ粒子(NP)」という。
【0035】
3.高分子ミセル複合体
本発明は、非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントと、第一のアニオン性のポリマー鎖セグメントと、第二のアニオン性のポリマー鎖セグメントとをこの順に含むブロックコポリマーと、ガドリニウムとを含んでなる、高分子ミセル複合体を提供する。
高分子ミセル複合体とすることにより、第一のアニオン性のポリマー鎖セグメントにガドリニウムをキレート化させるとともに、さらに、第二のアニオン性のポリマー鎖セグメントには必要に応じて任意の抗腫瘍性化合物を担持させることができる。
【0036】
本発明の高分子ミセル複合体において、非荷電性親水性のポリマー鎖セグメント、及び第一のアニオン性のポリマー鎖セグメントは、「2.高分子ナノ粒子複合体」の項で説明した内容と同様である。
【0037】
但し、前記第一のアニオン性のポリマー鎖セグメントと前記第二のアニオン性のポリマー鎖セグメントとは、互いに異なるポリマーに由来するものである。従って、前記第一のアニオン性のポリマー鎖セグメント及び前記第二のアニオン性のポリマー鎖セグメントは、ポリ(グルタミン酸)、ポリ(アスパラギン酸)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)及びポリ(リンゴ酸)からなる群より選ばれるアニオン性ポリマーに由来するが、前記第一のアニオン性のポリマー鎖セグメントと前記第二のアニオン性のポリマー鎖セグメントとは、互いに異なるポリマーに由来する。
【0038】
本発明の高分子ミセル複合体において、ブロックコポリマー(トリブロックコポリマー)としては、次式IIIa又はIVaで示されるものを挙げることができる。
【化7】
【0039】
式IIIa及びIVaにおいて、Rは、前記式Ia及びIIaと同様に、水素原子又は未置換若しくは置換された直鎖若しくは分枝のC1-12アルキル基を表し、L11、L12、L21及びL22は連結基を表し、R及びRはそれぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表す。但し、Rがメチレン基のときはRはエチレン基であり、Rがエチレン基のときはRはメチレン基である。
【0040】
はそれぞれ独立して水素原子、カルボン酸若しくはその塩、又はアミンを表し、Rは疎水性基を表し、Rは水素原子、アミノ基の保護基、疎水性基又は重合性基を表し、Rはヒドロキシル基、未置換若しくは置換された直鎖若しくは分枝のC1-12アルキル基、又は開始剤残基を表す。「/」の表記、m1及びm2、並びにnは前記と同様であり、kは20~120の整数である。
【0041】
において、疎水性基としては、飽和又は不飽和の非環式、あるいは飽和又は不飽和の環式の炭化水素基が挙げられる。炭化水素基が非環式の場合には、直鎖状でも分岐状でもよい。環式には、芳香環及び複素芳香環が含まれる。
【0042】
炭化水素基には、非環式ではC1-10アルキル基、C2-10アルケニル基、C1-10アルキニル基などが含まれ、環式のうち芳香環には、C6-10アリール基、C6-10アルキルアリール基、C6-20アリールアルキル基、C4-10シクロアルキル基などが含まれる。また、複素芳香環には、1つ又は2つのヘテロ原子を含む三員環、1つ又は2つのヘテロ原子を含む四員環、1つ~3つのヘテロ原子を含む五員環、1つ~5つのヘテロ原子を含む六員環、1つ又は2つのヘテロ原子を含む七員環、八員環、九員環などが挙げられ、これらの融合環も含まれる。
【0043】
1-10アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。C2-10アルケニル基としては、例えばビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、2-メチル-1-プロペニル基、2-メチルアリル基、2-ブテニル基等が挙げられる。C1-10アルキニル基としては、例えばエチニル基、プロピニル基、ブチニル基等が挙げられる。C6-10アリール基としては、例えばフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、インデニル基、ビフェニル基等が挙げられる。C6-10アルキルアリール基としては、例えばo-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、2,3-キシリル基、2,5-キシリル基等が挙げられる。C6-10アリールアルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基、1-ナフチルメチル基、2-ナフチルメチル基、1-フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基、メチルベンジル基、ジメチルベンジル基、トリメチルベンジル基、エチルベンジル基、メチルフェネチル基、ジメチルフェネチル基、ジエチルベンジル基等が挙げられる。C4-10シクロアルキル基としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。
【0044】
複素環において、ヘテロ原子としては、ホウ素原子、窒素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子などが挙げられる。複素環としては、例えばピロリジン、ピロール、テトラヒドロフラン、フラン、テトラヒドロチオフェン、ピリジン、ピラン、チオピラン、ピペラジン、ジアジン、モルホリン、オキサジン、チオモルホリン、チアジンなどが挙げられる。
において、アミノ基の保護基、疎水性基及び重合性基は、Rにおいて記載したものと同様であり、Rにおいて、未置換若しくは置換された直鎖若しくは分枝のC1-12アルキル基は、Rにおいて記載したものと同様であり、開始剤残基は、Rにおいて記載したものと同様である。
【0045】
本発明の高分子ミセル複合体において、非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントは、前記と同様に製造することができる。
また、非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントへのガドリニウムの導入(キレート化)は前記と同様である。
【0046】
本発明の高分子ミセル複合体の製造方法としては、限定はされないが、前記ブロックコポリマーと、ガドリニウムとを、水性媒体中にて反応させる方法が挙げられる。反応条件は、目的の複合体が得られる限り、任意の条件を設定することができ、例えば、前記した一般式IIIa及びIVaに示したコポリマー、ガドリニウムの使用量等を、適宜設定することができる。反応温度は、例えば5~60℃であり、反応溶媒となる水性媒体としては、水(特に、脱イオン水)又は無機若しくは有機緩衝剤、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、エタノール等の水混和有機溶媒を、本発明の複合体の形成反応に悪影響を及ぼさない範囲で含んでいてもよい。
【0047】
本発明の複合体は、水性媒体(水性溶媒)中において凝集して、可溶化した高分子ミセル状の形態を形成し得る。本発明の複合体の形態は、例えば、非荷電性親水性のポリマー鎖セグメント(親水性セグメントともいう)をシェル部分とし、シェル部分から内側に向かって、順に第一のアニオン性のポリマー鎖セグメント(第一のセグメントともいう)、及び第二のアニオン性のポリマー鎖セグメント(第二のセグメントともいう)を含むミセル状粒子である。
【0048】
上記親水性セグメントは、親水性ポリマー鎖のセグメントであるため、ミセル粒子の表面側のシェル部分を構成する。シェル部分の内側の第一のセグメントは、ガドリニウムを担持する。第二のセグメントは、側鎖に疎水性基を有するため疎水性セグメントとなり、ミセル粒子の最も内側のコア部分を構成する。第一のセグメントに担持されたガドリニウムは、コア部分を構成する第二のセグメントとともに、ミセル粒子のうちシェルの内部に内包された状態となる。そして、本発明の一態様において、内包されたガドリニウムは酸化物(Gd)である。この酸化ガドリニウムを内包するミセル複合体を、本明細書において「Gdナノシェル(NS)」という。
【0049】
本発明の高分子ミセル複合体は、水性媒体中における平均分散粒子径(動的光散乱法により測定)が、例えば10nm~1μm、10nm~200nm、又は20nm~50nmである。高分子ミセル粒子の単離及び精製は、常法により、水性媒体中から回収することができる。典型的な回収方法としては、限外濾過法、ダイアフィルトレーション、透析方法が挙げられる。
【0050】
上記の通り、本発明の高分子ミセル複合体のコアは、第二のセグメントにより構成される。このコア領域は、高分子物質を配置できる空間を有する。このため、コアに各種抗腫瘍物質を担持させるか、あるいは第二のセグメントの側鎖に、抗腫瘍物質を結合させるための官能基を連結させることにより、高分子ミセル複合体のコアに、抗腫瘍物質を内包させることができる。当該抗腫瘍物質の作用により、中性子捕捉療法と併用して抗腫瘍効果が期待できる。
【0051】
抗腫瘍物質としては、例えば、アルキル化剤(シクロホスファミド、メルファラン、ブスルファン等)、代謝拮抗薬(メトトレキサート、フルオロウラシル等)、白金錯化合物(シスプラチン等)、ビンカアルカロイド、抗生物質(アクチノマイシンD、マイトマイシン等)、分子標的薬又は抗体医薬(イマチニブ(グリベック)、エベロリムス(アフィニトール)、エルロチニブ(タルセバ)、ゲフィチニブ(イレッサ)、スニチニブ(スーテント)、トラスツズマブ(ハーセプチン)、ベバシズマブ(アバスチン)、リツキシマブ(リツキサン))、核酸(がん遺伝子に対するsiRNA、shRNA、マイクロRNA等)が挙げられる。但し、上記抗腫瘍物質は例示列挙であり、これらに限定されるものではない。
【0052】
これらの抗腫瘍物質を内包させるためには、疎水性相互作用やπ-π相互作用、水素結合、静電相互作用、共有結合などを介して抗腫瘍物質をミセルに内包するための第二のセグメントが必要であるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
3.MRI造影用組成物及び/又はMRIガイド下中性子捕捉療法用医薬組成物
本発明は、前記高分子ナノ粒子複合体、又は前記高分子ミセル複合体を含むことを特徴とする、MRI造影用組成物及び/又はMRIガイド下中性子捕捉療法用医薬組成物(抗腫瘍用組成物)を提供する。本発明の組成物は、MRI造影による癌(悪性腫瘍)の検出若しくは診断手段、及び/又は癌(悪性腫瘍)の治療手段として使用することができる。腫瘍の種類は、例えば脳腫瘍、頭頸部がん、唾液腺がん、甲状腺がん、肺がん、小細胞肺がん、乳がん、中皮腫、膵臓がん、肝臓がん、胆道がん、食道がん、胃がん、消化管間質腫瘍(GIST)、小腸がん、大腸がん、腎臓がん、腎盂・尿管がん、膀胱がん、前立腺がん、子宮頸がん、卵巣がん、子宮肉腫、悪性リンパ腫、白血病(急性又は慢性、リンパ性又は骨髄性)、多発性骨髄腫、皮膚がん、メラノーマ(悪性黒色腫)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0054】
本発明の組成物において、前記複合体の含有割合は特に限定されるものではなく、MRI造影の効果や抗腫瘍効果を勘案して適宜設定することができる。
【0055】
本発明の組成物は、ヒト、又はマウス、ラット、ウサギ、ブタ、イヌ、ネコ等の各種非ヒト動物に適用することができ、限定はされない。被験動物(ヒト又は非ヒト動物)への投与方法は、通常、点滴静注などの非経口用法が採用され、投与量、投与回数及び投与期間などの各条件は、被験動物の種類及び状態のほか、組成物の使用目的に応じて、適宜設定することができる。例えば、抗腫瘍用効果を得ることを目的として、ヒトに静脈内投与をする場合の用量は、実験動物又はボランティアによる小実験を行い、それらの結果を考慮して、さらには患者の状態を考慮して専門医が決定することができる。一般には、1日1回、1.0~1,000 mg/m(患者の体表面積)とすることができ、また、10~200 mg/m(患者の体表面積)を1日1回、数日間連続投与し、一定期間休薬するか、あるいは、50~500 mg/m(患者の体表面積)を1日1回投与した後、数日間休薬する等、投与スケジュールにより、適当な用量を選択することができる。
【0056】
本発明の組成物は、MRI造影用及び/又は抗腫瘍用といった用途を勘案し、薬剤製造上一般に用いられる賦形材、充填材、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、潤滑剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤及び等張化剤等を適宜選択して使用することができる。
また、本発明においては、被験動物の体内に本発明の複合体又は組成物を投与することを特徴とする、腫瘍検出用MRI造影方法を提供する。また、本発明においては、被験動物の体内に本発明の複合体又は組成物を投与し、中性子を照射することを特徴とするMRIガイド下中性子捕捉療法又は癌の治療方法を提供する。
【0057】
4.MRI造影用及び/又はMRIガイド下中性子捕捉療法用キット
本発明のMRI造影用及び/又はMRIガイド下中性子捕捉療法用キットは、前記高分子ナノ粒子複合体、又は前記高分子ミセル複合体を含むことを特徴とする。本発明のキットは、腫瘍検出用MRI造影方法や、癌の治療方法等に用いることができる。
本発明のキットにおいて、本発明の複合体の保存状態は、限定はされず、その安定性(保存性)及び使用容易性等を考慮して、溶液状又は粉末状等の状態を選択できる。
本発明のキットは、複合体以外に他の構成要素を含んでいてもよい。他の構成要素としては、例えば、各種バッファー、防腐剤、分散剤、安定化剤、及び使用説明書(使用マニュアル)等を挙げることができる。
【実施例0058】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
腫瘍標的MRI下中性子捕捉療法のためのGd 2 O 3 ナノ粒子(NP)及びナノシェル(NS)
【0059】
1. Gd2O3ナノ粒子(NP)の調製(図1)
1.1. ポリ(エチレングリコール)ポリ(β-ベンジル-L-アスパラギン酸)(PEG-PBLA)の合成
Gd2O3 NPを調製するために、まずPEG-PBLAを開環重合(ROP)によって合成した(図2)。すなわち、β-ベンジル‐L‐アスパラギン酸‐N‐カルボキシ無水物(BLA‐NCA)をDMFとCH2Cl2との混合溶媒中で重合させ、n‐ブチルアミンの第一級アミノ基により開始し、PBLAを得た。12kDaを有するMeO-PEG-NH2 (PEG272)を開始剤として使用して、PEG-PBLAブロックコポリマーを合成した。反応は、乾燥アルゴン下、35℃で3日間行った。ポリマーをジエチルエーテル中で沈殿させることによって回収し、濾過し、真空乾燥した。1H-NMR測定(温度: 80℃、溶剤: DMSO-d6)において、PEG中のメチレン単位とPBLAのフェニル基のプロトン比を比較することにより、PEG-PBLAのDPは43と決定した(図3)。PEG-PBLAのMw/Mnは、GPCによって測定して1.05であった。
【0060】
1.2. ポリ(エチレングリコール)-ポリ(アスパラギン酸)(PEG-P(Asp))の合成
PEG-P(Asp)は、PEG-PBLAの脱保護によって得た(図2)。脱保護は、5当量の0.5N NaOHを含むポリマーを室温で30分間添加することによって行った。ポリマーは、MilliQ水に対して透析した後、凍結乾燥によって回収した。次いで、生成物を1 H-NMR(温度: 25℃、溶剤: D2O)によっても確認した。PBLAのフェニル基の陽子(-C6H5: δ=7.3ppm)は反応後に消失し(図3)、これは脱保護操作がうまく行われたことを示す。
【0061】
1.3. PEG-P(Asp-Gd)の合成
まず、PEG-P(Asp)ミセルを水溶液中(pH 6.5)に暴露した。次に、P(Asp)単位に対する10当量のGdCl3を溶液に添加した後、室温で12時間の反応を行った。生成物をEDTA不含のMili-Q水に対して透析して精製し、凍結乾燥で回収することによりPEG-P(Asp-Gd)を得た。ポリマーあたりのGd量は、ICP-MS及び動的光散乱法により検討した(図4)。PEG-P(Asp-Gd)複合体のサイズは40nmであった。
【0062】
1.4. Gd2O3ナノ粒子の合成
前ステップで調製したPEG-P(Asp-Gd)を濃度2mg/mlでメタノールに溶解した。次に、NaOH(メタノール中0.5N)を滴下し、懸濁液を撹拌することで溶液のpHを12に調整した。Gd3+からGd2O3への酸化は、熱比重により確認した(図5)。次に、生成物をMilli-Q水に対する透析により精製した。最後に、遠心分離によりGd2O3 NPsを濃縮した。ポリマー当たりのGdの量は、ICP-MSによって11%(Gd重量/ポリマー重量)であると決定した。さらに、サイズは19nmであった(図4)。
【0063】
2. Gd2O3ナノシェル(NS)の作製
2.1 ポリ(エチレングリコール)‐ポリ(β‐ベンジル‐L‐アスパラギン酸)ポリ(ベンジル‐L‐グルタミン酸)(PEG‐PBLA‐PBLG)の合成
Gd2O3ナノシェル(NS)は、PEG-PBLA-PBLGトリブロック共重合体ベースである(図6)。PEG‐PBLA‐PBLGトリブロック共重合体は、BLA‐NCAの逐次重合により合成し、続いてベンジル‐Lグルタミン酸 N‐カルボキシ無水物(BLG‐NCA)とした。まず、ROPによりBLA-NCAモノマーを用いてPEG-PBLAを合成した(図7)。
【0064】
すなわち、BLA-NCAをDMF及びCH2Cl2の混合溶媒中で重合させ、n-ブチルアミンの第一級アミノ基によって開始させて、PBLAを得た。12kDaのMeO-PEG-NH2 (PEG272)を開始剤として使用して、PEG-PBLAブロック共重合体をそれぞれ合成した。反応は、乾燥アルゴン下、35℃で3日間行った。ポリマーは、ジエチルエーテル中で沈殿させることによって回収し、濾過及び減圧乾燥を行った。PEG中のメチレン単位とPBLAのフェニル基との陽子比を1H-NMR(80℃、溶媒: DMSO-d6)で比較した(図8)。
【0065】
トリブロック共重合体を合成するために、100mgのPEG-PBLAを2mlの乾燥DMSOに溶解した。次に、380mgのチオ尿素及び45当量のBLG-NCAを2mLの乾燥DMSOに溶解した。次に、PEG-PBLA溶液をBLG-NCA溶液に添加した。反応は、乾燥アルゴン下、35℃で3日間行った。最初に、ジエチルエーテル中で沈殿させることによってポリマーを集め、濾過し、減圧乾燥した。PEG中のメチレン単位とPBLA-PBLGのフェニル基とのプロトン比を1 H-NMR測定(温度: 80℃、溶媒: DMSO-d6)により比較した結果、PBLGのDPは38と決定された(図8)。PEG-PBLA-PBLGのMw/MnはGPCにより1.06であった(図9
【0066】
2.2. ポリ(エチレングリコール)‐ポリ(アスパラギン酸)‐ポリ(ベンジル‐L‐グルタミン酸)(PEG‐P(Asp)‐PBLG)ミセルの合成。
まず、PEG-PBLA-PBLGトリブロックポリマーを2mg/mLでTHFに溶解した。次に、PBLA単位に対する0.5N NaOH溶液の1当量を上記溶液に添加し、30分間ストリングした。次に、PEG-P(Asp)-PBLGポリマーをMilli-Q水に対して透析し、凍結乾燥によって回収した。脱保護についても1 H-NMR(溶媒: D2O、温度: 25℃)によって確認した。PBLAのフェニル基のプロトン(-C6 H5: δ=7.3ppm)は反応後消失したが、これは脱保護操作が成功したことを示す。
【0067】
乾燥したPEG-P(Asp)-PBLGポリマーを2mg/mLのDMSOに溶解した。上記溶液を透析バッグに入れ、Milli-Q水で透析した。透析水を3回交換した後、ミセルが形成された。次に、生成物を遠心分離により濃縮した。
【0068】
2.3. PEG‐P(Asp‐Gd)‐PBLGミセルの合成
まず、PEG-P(Asp)-PBLGミセルを水溶液中(pH 6.5)に暴露した。次にP(Asp)単位に対して0.25、1、10当量のGdCl3を上記溶液に添加し、室温で12時間の反応を行った。生成物をEDTAなしのMilli-Q水に対する透析により精製し、凍結乾燥により回収してPEG-P(Asp-Gd)-PBLGを得た。最後に、比較後に最終生成物を合成するために、10当量のGdを有するものを選択する。PEG-P(Asp-Gd)-PBLGミセルは、染色せずにTEMによって画像化した(図10)。ミセルは、Gd当量の増加と共に10~30nmの直径を示した(図10)。
【0069】
2.4. Gd2O3NSの合成
まず、PEG-P(Asp-Gd)-PBLGミセルを2mg/mLでメタノールに溶解した。次に、NaOH(メタノール中0.5N)の滴下添加により、激しいストリング下で溶液のpHを12に調整した。次に、生成物をMilli-Q水に対する透析により精製した。Gd2O3NSは、染色無しのTEMで画像化した(図10)。ミセルは、Gd当量の増加と共に20.2~8.9nmの直径を示した(図10)。NSの構造は、TEM-Energy Dispersive X-ray Spectroscopy(EDS)解析により確認した(図11)。さらに、P(Asp)に対し0.25、1、10当量のGd2O3NSを、動的光散乱(DLS)により評価した(図12)。Gd2O3 NS径は、Gd当量の増加により減少した。
【0070】
3. Gd2O3 NS及びNSの評価
3.1. Gd放出
P(Asp)に対し10当量のGdから調製したGd2O3 NP及びNSを、リン酸緩衝液(10mM)+NaCl(150mM)に2mg/mLで溶解した。Gd2O3 NP溶液を透析バッグ内に入れた(Mw cut-off=3000)。透析膜を、300mLのリン酸緩衝液(10mM)+NaCl(150mM)に穏やかに撹拌しながら浸漬した。次に、外側溶液の10分の1ミリリットルのアリコートを異なる時点で除去した。溶液中のGdの濃度は、ICP-MSによって測定した。Gd2O3 NPからのGdの放出は検出されず、これはGd2O3 NP(図13)とNS(図14)が安定であることを示す。
【0071】
3.2. In vitro細胞毒性評価
P(Asp)に対し10当量のGdから調製されたGd2O3NP又はNSのC-26細胞に対する細胞毒性は、CCK-8アッセイによって決定した。C-26 細胞を96ウェルプレートに播種し、RPMI-1640培地を用いて24時間培養した。次に、細胞をNP又はNSに24時間及び48時間曝露した。CCK-8溶液をこれらのエンドポイントで添加した。マイクロプレートリーダー(450nm)を使用することによって、細胞生存率を測定した。NP(図15)及びNS(図16)は、両者とも細胞毒性を示さなかった。
【0072】
3.3. 生体内MRI測定
BALB/cマウス(雌、6週齢)にC26細胞(1×106細胞/mL、100μL)を皮下接種した。1T MRI装置(ICON1T, Bruker BioSpin MRI GmbH)をMRI測定に使用した。P(Asp)に対し10当量のGdか調製したGd2O3NP又はNSを、マウスに静注投与した。Gd2O3NP又はNSの用量は、Gdに基づいて10mg/kg重量であった。インビボT1強調MRイメージングパラメータ:スピンエコー法、切片厚さ=1.8mm、視野(FOV)=30×30mm、マトリクスサイズ=188×188、エコー時間(TE)=12ms、反復時間(TR)=400ms。Milli-Q水は対照としてスキャンした。MRI評価では、NP(図17)とNSが腫瘍内で高いコントラストを達成していた(図18)。
【0073】
3.4 固形腫瘍のIn vivo GdNCT
皮下にC26腫瘍を担持するBALB/cマウスを、上記と同じ方法によって準備した。P(Asp)に対し10当量のGdから調製したGd2O3NP又はNSを、マウスに1回の投与で静注した。Gd2O3NPの用量はGdベースで20mg/kg、Gd2O3NSの用量はGdベースで10mg/kgであった。投与して24時間後に、1.6-2.2×1012中性子/cm2 熱中性子線を、マウスに1時間の局所照射を行った。照射前後に腫瘍サイズを測定し、体積(V)を以下の式で計算した。
V = (a×b2)/2
【0074】
式中、(a)及び(b)は、それぞれ腫瘍の長軸及び短軸を表し、これらの長さはキャリパによって測定される。コントロールとして、同じ用量のGd2O3 NPを投与したが熱中性子照射は行わないマウスを用いた。中性子照射後、Gd2O3NPは有効性を示し、毒性はなかった(図19)。NSもまた、中性子照射後に高い抗腫瘍活性を示した(図20)。
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