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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117892
(43)【公開日】2022-08-12
(54)【発明の名称】飲料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/38 20210101AFI20220804BHJP
【FI】
A23L2/38 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021014663
(22)【出願日】2021-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000006116
【氏名又は名称】森永製菓株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡部 耕平
【テーマコード(参考)】
4B117
【Fターム(参考)】
4B117LC02
4B117LG12
4B117LK28
4B117LP20
(57)【要約】
【課題】酒粕を原料とする牛乳のような乳感を有する新たな飲料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】酒粕を含有し、ベンズアルデヒドの含有量が50質量ppb以下であり、脂質の含有量が1質量%以下である飲料からなる。カプロン酸エチルの含有量が5質量ppm以下であり、かつ、ベンズアルデヒドの含有量が50質量ppb以下であることが好ましい。上記飲料は、ベンズアルデヒドの含有量が2000質量ppb以下である酒粕、好ましくはカプロン酸エチルの含有量が200質量ppm以下、ベンズアルデヒドの含有量が2000質量ppb以下である酒粕と、水とを含む原料を用いて、高圧ホモジナイザーによる均質化処理工程と、加熱殺菌工程とを行うことで得ることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酒粕を含有し、ベンズアルデヒドの含有量が50質量ppb以下であり、脂質の含有量が1質量%以下であることを特徴とする飲料。
【請求項2】
酒粕を含有し、カプロン酸エチルの含有量が5質量ppm以下であり、かつ、ベンズアルデヒドの含有量が50質量ppb以下であり、脂質の含有量が1質量%以下であることを特徴とする飲料。
【請求項3】
カプロン酸エチルの含有量が1質量ppm以下であり、かつ、ベンズアルデヒドの含有量が10質量ppb以下である、請求項2記載の飲料。
【請求項4】
更に、米麹又はその糖化液を含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の飲料。
【請求項5】
前記飲料に含まれる固形粒子の粒径分布において、10μm以下の固形粒子が40%以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の飲料。
【請求項6】
Brix6~15である、請求項1~5のいずれか1項に記載の飲料。
【請求項7】
pH5~7である、請求項1~6のいずれか1項に記載の飲料。
【請求項8】
容器に充填されている、請求項1~7のいずれか1項に記載の飲料。
【請求項9】
前記飲料は、飲用時に薄めて飲むように調製されている、請求項8記載の飲料。
【請求項10】
前記飲料は、飲用時にBrix6~15となるよう薄めて飲むように調製されている、請求項9記載の飲料。
【請求項11】
ベンズアルデヒドの含有量が2000質量ppb以下である酒粕と、水とを含む原料を用いて、高圧ホモジナイザーによる均質化処理工程と、加熱殺菌工程とを行い、ベンズアルデヒドの含有量が50質量ppb以下の飲料を得ることを特徴とする飲料の製造方法。
【請求項12】
カプロン酸エチルの含有量が200質量ppm以下、ベンズアルデヒドの含有量が2000質量ppb以下である酒粕と、水とを含む原料を用いて、高圧ホモジナイザーによる均質化処理工程と、加熱殺菌工程とを行い、カプロン酸エチルの含有量が5質量ppm以下であり、かつ、ベンズアルデヒドの含有量が50質量ppb以下の飲料を得ることを特徴とする飲料の製造方法。
【請求項13】
前記高圧ホモジナイザーによる均質化処理工程を、前記飲料に含まれる固形粒子の粒径分布において、10μm以下の固形粒子が40%以上となるように行う、請求項11又は12記載の飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酒粕を含有する乳感に優れた飲料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
甘酒は、日本古来より飲用され続けてきた伝統的な甘味飲料であり、現在においても、その栄養価の高さから、健康に良い飲料として注目を集めている。酒粕を含む甘酒は、米麹からなる甘酒と比して、酢酸エチル、酢酸イソアミル及びカプロン酸エチル等の芳香性エステルに由来する、芳香でフルーティーな香り(芳香感)を楽しむことができる。
【0003】
このような甘酒の一例として、下記特許文献1には、a)米麹、b)米麹と米飯との混合物、c)米麹と酒粕との混合物、d)酒粕、e)米麹と米飯と酒粕との混合物から選ばれた一種を含有する原料に水を加えて得られた甘酒液の不溶性固形分の少なくとも一部を除去することにより不溶性固形分量が0~30%とされていることを特徴とする甘酒が開示されている。
【0004】
また、下記特許文献2には、酒粕を含み、ガスボリュームが1.6~2.7L/Lであり、可溶性固形分含量が5~25質量% であることを特徴とする容器詰め殺菌炭酸甘酒が開示されている。
【0005】
一方、近年、乳アレルギーの人も飲めるようにしたり、豆乳に含まれるイソフラボン、穀物に含まれる食物繊維などの栄養成分を摂取できるようにするため、例えば、豆乳、ライスミルク、穀物系ミルクなどの牛乳代替飲料も開発されている。これらの牛乳代替飲料は、牛乳以外の原料を使用して牛乳のような乳感を有する飲料に調製されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-14701号公報
【特許文献2】特開2019-106906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
酒粕には、蛋白質、炭水化物、食物繊維、ビタミン類、有機酸、ミネラルなどの栄養成分が含まれているほか、ペプチドやアミノ酸、麹菌、酵母菌由来のβ‐グルカン、葉酸などの生理活性を有する成分も含まれている。
【0008】
しかし、酒粕を含有する甘酒は、ややとろみのある食感と、特有の風味があるため、牛乳のように、例えば食事をしながら、どんな料理にも合って、手軽に飲むことができる飲料とは言えなかった。
【0009】
そこで、本発明者らは、酒粕を原料として、牛乳のような食感(以下、乳感とする)を有し、どのような場面でも、手軽に摂取できる飲料が作れないかと着想し、その製造を試みたところ、酒粕特有の風味が強いために、牛乳のような乳感を有する、くせのない飲料が得られにくいという問題があることがわかった。
【0010】
したがって、本発明の目的は、酒粕を原料とする牛乳のような乳感を有する新たな飲料及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明者らは、各種銘柄のお酒の製造時に得られた種々の酒粕を利用して実験を重ねたところ、お酒特有の風味が弱い酒粕を選択して使用することによって、酒粕を原料としても、牛乳のような乳感を有する新たな飲料の製造が可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の飲料の1つは、酒粕を含有し、ベンズアルデヒドの含有量が50質量ppb以下であり、脂質の含有量が1質量%以下であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の飲料のもう1つは、酒粕を含有し、カプロン酸エチルの含有量が5質量ppm以下であり、かつ、ベンズアルデヒドの含有量が50質量ppb以下であり、脂質の含有量が1質量%以下であることを特徴とする。
【0014】
本発明の飲料の製造方法の1つは、ベンズアルデヒドの含有量が2000質量ppb以下である酒粕と、水とを含む原料を用いて、高圧ホモジナイザーによる均質化処理工程と、加熱殺菌工程とを行い、ベンズアルデヒドの含有量が50質量ppb以下の飲料を得ることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の飲料の製造方法のもう1つは、カプロン酸エチルの含有量が200質量ppm以下、ベンズアルデヒドの含有量が2000質量ppb以下である酒粕と、水とを含む原料を用いて、高圧ホモジナイザーによる均質化処理工程と、加熱殺菌工程とを行い、カプロン酸エチルの含有量が5質量ppm以下であり、かつ、ベンズアルデヒドの含有量が50質量ppb以下の飲料を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の飲料によれば、酒粕を含有し、ベンズアルデヒドの含有量が50質量ppb以下であり、脂質の含有量が1質量%以下であることにより、更には、カプロン酸エチルの含有量が5質量ppm以下であり、かつ、ベンズアルデヒドの含有量が50質量ppb以下であることにより、酒粕特有の風味が軽減され、乳感があって手軽に摂取できる飲料を提供することができる。
【0017】
本発明の飲料の製造方法によれば、ベンズアルデヒドや、カプロン酸エチルの含有量が少ない酒粕を原料として、高圧ホモジナイザーによる均質化処理工程と、加熱殺菌工程とを行うことにより、ベンズアルデヒドの含有量が50質量ppb以下の飲料、更には、カプロン酸エチルの含有量が5質量ppm以下であり、かつ、ベンズアルデヒドの含有量が50質量ppb以下の飲料を得るようにしたので、酒粕特有の風味が軽減され、乳感があって手軽に摂取できる飲料を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明において、原料となる酒粕は、主に清酒製造の「圧搾」と呼ばれる工程後に残った「搾り粕」のことを意味する。酒粕には、清酒の原料である米や麹、酵母由来の炭水化物やたんぱく質、アミノ酸、ペプチド、ビタミンなどの栄養素が豊富に含まれている。
【0019】
また、清酒には、様々な香り成分が含まれている。例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソブタノール、n-ブタノール、イソアミルアルコール、n-アミルアルコール、β-フェネチルアルコールなどのアルコール類;C1~C14直鎖脂肪酸のエチルエステル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル、酢酸フェネチル、イソバレリアン酸エチル、イソカプロン酸エチル、酢酸フェネチル、ピルビン酸エチル、ケトイソバレリアン酸エチル、ケトイソカプロン酸エチル、オキシイソバレリアン酸エチル、オキシイソカプロン酸エチル、バニリン酸エチル、フェルラ酸エチル、p-オキシ桂皮酸エチル、p-オキシ安息香酸エチル、乳酸エチルなどのエステル類;C1~C14直鎖脂肪酸、イソ酪酸、イソバレリアン酸、イソカプロン酸、イソカプリル酸、イソカプリン酸、オレイン酸、ピルビン酸、ケト酪酸、p-オキシ桂皮酸、バニリン酸、フェニルピルビン酸などの酸類;ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピロンアルデヒド、イソバレルアルデヒド、カプロンアルデヒド、ベンズアルデヒド、シンナミックアルデヒド、フルフラール、p-オキシベンズアルデヒド、バニリン、フェニルアルデヒド、ジアセチル、アセトイン、アセトンなどのカルボニル化合物;エタノールアミン、イソブチルアミン、カダベリン、プトレシン、フェネチルアミンなどのアミン類;硫化水素、メルカプタン、ジスルフィドなどの含硫化合物などが知られている(財団法人食品分析開発センターのホームぺージ、URL:http://www.mac.or.jp/mail/100601/04.shtmlから抜粋)。
【0020】
そして、酒粕の風味は、酒粕を搾った後にできあがる清酒の風味に由来している。清酒には、大吟醸酒、吟醸酒、純米酒、本醸造酒など、いくつかの種類がある。これらは、原料とする米の精米歩合や、米麹や酵母の種類や、発酵の条件(温度、時間など)や、醸造アルコールの添加の有無などによって、異なる香り成分を有しており、それに伴って、搾り粕である酒粕の香り成分も異なるものとなっている。例えば、清酒の香り成分の1つであるカプロン酸エチルの含有量について言うと、大吟醸の酒粕には、普通種の酒粕に比べて、カプロン酸エチルが10倍程度多く含まれていることがある(宝ホールディングス株式会社のホームぺージ、URL:https://www.takarashuzo.co.jp/products/seasoning/basicinfo/008.htmの記載から)。
【0021】
従来の酒粕を利用した甘酒等の飲料においては、お酒の風味の強いものが好まれて用いられていた。しかしながら、本発明では、乳感を有する飲料を製造するため、お酒の風味の弱い酒粕を原料とする。そして、その指標として、ベンズアルデヒドの含有量と、カプロン酸エチルの含有量を採用した。具体的には、原料とする酒粕としては、ベンズアルデヒドの含有量が、好ましくは2000質量ppb以下、より好ましくは1800質量ppb以下、更に好ましくは1600質量ppb以下のものが好ましく使用される。また、ベンズアルデヒドが上記含有量であると共に、カプロン酸エチルの含有量が、好ましくは200質量ppm以下、より好ましくは150質量ppm以下、更に好ましくは120質量ppm以下のものが更に好ましく使用される。
【0022】
なお、ベンズアルデヒド、カプロン酸エチルの含有量は、ヘッドスペース-固相マイクロ抽出-ガスクロマトグラフ質量分析法(HS-SPME-GC/MS法)を用いて、下記表1に示す測定条件にて測定した。定量は、標準添加法により、ヘッドスペース中のベンズアルデヒド、カプロン酸エチルの濃度を求めた。サンプリング条件は、20mlバイアルに試料を1g採取し、測定に供した。
【0023】
【表1】
【0024】
また、本発明において、酒粕中のベンズアルデヒド、カプロン酸エチルの含有量は、酒粕の湿重量(乾燥等を行っていない搾り粕の重量)に対する含有量を意味する。
【0025】
なお、ベンズアルデヒド、カプロン酸エチルの含有量が上記のような範囲となっている酒粕は、市販の酒粕の中から容易に見つけることができ、当業者であれば、そのような酒粕を入手することは容易である。一般的には、米の精米歩合が高い原料を用いて作られた清酒の酒粕よりも、米の精米歩合が低い原料を用いて作られた清酒(大吟醸、吟醸)の酒粕の方が、ベンズアルデヒド、カプロン酸エチルの含有量が高い傾向がある。
【0026】
例えば、吟醸酒は原料米の精米歩合を極端に低くし、突き破精型の固い麹と蒸米を用いて、提案で長時間ゆっくり発酵させて造った清酒で果実様の芳香とすっきりした味を有するのが特徴である。吟醸酒の芳香は主に酵母によって生成され、その強弱や特徴は酵母の種類によって大きく左右される。現在、吟醸用酵母として広く使用されているのは財団法人日本醸造協会から発売されている協会9号酵母であるが、この他、県の醸造指導機関や各企業が独自に開発した酵母も数多く使用されている。
【0027】
芳香を有する吟醸酒を製造するためには、もろみを低温で糖化と発酵のバランスを取りながら穏やかに発酵させることが肝要である。そのためには、麹および蒸米ともに吸水率を低くしてからもろみ中における溶け過ぎを抑え、更に汲水歩合を多く(140%内外)して発酵を促進させる等の操作を行う。発酵の最高温度は10~11℃とし、もろみ日数は協会9号酵母の場合30日程度が標準である。もろみの後半は徐々に温度を低くし、酵母の発酵力が弱まるのを待ってから上槽する。(参考資料:財団法人日本醸造協会「増補改訂 最新酒造講本」p203~204)
上記のように、吟醸酒などの芳香の高い清酒は、精米歩合や、酵母の種類や、発酵条件などを吟味して作られているが、本発明においては、そのような芳香の高いお酒から得られた酒粕よりも、芳香がそれほど高くない清酒から得られた酒粕の方が、ベンズアルデヒド、カプロン酸エチルの含有量が低く、原料として適している。
【0028】
本発明の飲料の原料としては、酒粕以外に米麹又はその糖化液を含有させてもよい。米麹は、蒸した米に麹菌を種付けし、繁殖・発酵させたものである。米麹には、麹カビが産生した、澱粉や蛋白質を分解する酵素が豊富に含まれている。また、米麹に含まれる酵素を利用して、澱粉を糖化することにより、糖化液を得ることができる。米麹又はその糖化液を含有させることにより、米麹の風味や甘味を付与することができる。
【0029】
本発明の飲料は、甘酒飲料等に用いられているその他の原料を含有していてもよい。その他の原料としては、例えば、砂糖、ブトウ糖、果糖、異性化糖、ハチミツ、ステビア、アスパルテームなどの甘味料や、クエン酸、乳酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、リン酸、酢、レモン汁、梅エキスなどの酸味料や、グアガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、ペクチン、タマリンドガム、カラギーナンなどの増粘剤や、タピオカ澱粉、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、米澱粉、などの生澱粉や、それらにα化、エーテル化、エステル化、架橋などを施した加工澱粉や、米粉、小麦粉等の穀粉を用いることができる。
【0030】
本発明の飲料の製造方法では、上記原料に適当量の水を加えて、仕込み液(原料液)を調製する。この場合、最終的に得られる飲料中のベンズアルデヒドの含有量が、50質量ppb以下、好ましくは30質量ppb以下、より好ましくは20質量ppb以下、最も好ましくは、10質量ppb以下となるように加水量を調整する。更に好ましくは、ベンズアルデヒドが上記含有量であると共に、カプロン酸エチルの含有量が、好ましくは5質量ppm以下、より好ましくは4質量ppm以下、更に好ましくは3質量ppm以下、最も好ましくは1質量ppm以下となるように加水量を調整する。
【0031】
ただし、乳感を得るためには、酒粕の含有量がある程度以上必要である。具体的には、仕込み液中の酒粕の含有量が、湿重量の酒粕として、3~10質量%であることが好ましく、4~8質量%であることがより好ましく、5~7質量%であることが最も好ましい。酒粕の含有量が少ないと乳感が得られにくくなり、酒粕の含有量が多すぎると、重い飲みごたえとなり、手軽に飲みにくくなる傾向がある。
【0032】
また、米麹又はその糖化液を添加する場合、その仕込み液中の含有量は、米麹の場合は、0.5~3質量%であることが好ましく、1~2質量%であることがより好ましい。また、糖化液の場合は、2~8質量%であることが好ましく、3~6質量%であることがより好ましい。
【0033】
また、最終的に得られる飲料のpHが、好ましくは5~7、より好ましくは5~6.5、最も好ましくは5~6となるように、酸味料等を添加してpH調整を行うことが好ましい。pHが低すぎると、酸味が強すぎて飲みにくくなり、pHが高すぎると、殺菌条件を高める必要がでてくるので、風味が劣化しやすくなる傾向がある。
【0034】
更に、最終的に得られる飲料のBrixが、好ましくは6~15、より好ましくは7~13、最も好ましくは8~11となるように、原料の配合量や、加水量を調整することが好ましい。Brixが低すぎると、乳感が得られにくくなり、Brixが高すぎると、重い飲みごたえとなり、手軽に飲みにくくなる傾向がある。
【0035】
更にまた、最終的に得られる飲料の粘度は、品温20℃において、B型粘度計(株式会社東京計器製、測定条件:液温20℃、ローターNo.1、60rpm)を用いて測定したとき、5~60cpが好ましく、5~25cpが好ましく、10~25cpがさらに好ましい。粘度が上記範囲にあることにより、口当たりがよく、乳感を感じやすくなる。粘度は、各原料の配合や、増粘剤の添加などによって調整することができる。
【0036】
なお、上記において、最終的に得られる飲料とは、そのまま飲める状態に調製された飲料を意味する。ただし、本発明の飲料は、飲用時に薄めることによって、上記のようなBrixや粘度になるように調製された濃厚な飲料であってもよい。
【0037】
次に、仕込み液中の原料が微細化して均一に分散するように、混合破砕処理を行う。混合破砕処理は、公知の湿式破砕機や湿式摩砕機を用いて行うことができる。例えば、コロイドミル、サンドミル、ボールミル、ダイノーミル、レディミル、ホモミキサー、高圧ホモジナイザー、バウブレンダー等が挙げられる。これらの破砕処理装置は、縦型、横型、バッチ式、連続式等のいずれであってもよい。
【0038】
これらの破砕処理装置の中でも、特に高圧ホモジナイザーによる均質化処理を行うことが好ましい。高圧ホモジナイザーとしては、例えば三和エンジニアリング製のH11型(商品名)ホモジナイザーなどを用いることができる。高圧ホモジナイザーによる処理条件は、40~80℃の加温条件下で、高圧条件として、下限値は、5MPa以上が好ましく、10MPa以上がより好ましく、上限値は、100MPa以下が好ましく、60MPa以下がより好ましい。なお、圧力の条件は、適した装置の選択により調整することができる。
【0039】
なお、酒粕、米麹などの固形粒子を含有する原料は、仕込み液に配合する前に、予め破砕処理を行って微細化しておき、これを仕込み液に配合して他の原料と撹拌混合してもよい。また、必要に応じて、更に仕込み液中で破砕処理するようにしてもよい。
【0040】
そして、高圧ホモジナイザーなどによる混合破砕処理によって、最終的に得られる飲料中の固形粒子の粒度分布において、10μm以下の固形粒子が、40%以上となるようにすることが好ましく、50%以上となるようにすることがより好ましく、60%以上となるようにすることが更に好ましい。
【0041】
なお、本発明において、飲料中の固形粒子の粒度分布は、レーザー回析・散乱式粒度分布測定装置を用いて測定することができ、そのような装置として具体的には、例えば「LASER MICRON SIZER 2000e」(商品名、株式会社セイシン企業製)などが挙げられる。
【0042】
こうして均質化された仕込み液を、殺菌処理し、好ましい態様では、容器に充填することによって、本発明の飲料を得ることができる。容器に充填する場合、殺菌処理したものを無菌充填してもよく、ホットパックなどの方法で充填してもよく、容器に充填してから殺菌処理を行ってもよい。殺菌処理は、例えば、超高温瞬間殺菌、高温殺菌、低温殺菌などの方法で行うことができる。また、殺菌処理は、常温流通が可能となるような条件で行うことが好ましく、例えば殺菌強度F0値が、好ましくは25以上、より好ましくは15以上となるように行うことが好ましい。
【0043】
容器としては、特に限定されず、例えば、紙パック、缶、ペットボトル、チルドカップ、巾着のようなポリエチレン袋、瓶などが挙げられる。特に飲み終わった後の廃棄が容易であり、風味に影響を与えにくい、紙パックが好ましく用いられる。
【0044】
こうして得られた本発明の飲料は、酒粕特有の風味が軽減され、牛乳のような乳感があって、いつでもどこでも手軽に摂取できる飲料となる。このため、例えば、朝昼夕の食事の際に飲む飲料とした場合でも、料理の味を損ねることなく、飲むことができる。食事と一緒でなくても、例えば小腹満たしにこれ1つを飲んだりすることもできる。このようにシーンを選ばずに、いろいろな場面で飲食することができる。そして、酒粕や米麹の栄養素を酒粕の香りを気にすることなく同時に摂取できる。
【実施例0045】
以下、試験例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの試験例に記載された実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。
【0046】
なお、以下の試験例において、各測定値は以下の方法で測定した値である。
【0047】
(カプロン酸エチル、ベンズアルデヒドの測定方法)
前述した方法により、表1に示す測定条件で測定した。
【0048】
(固形粒子の粒径分布の測定方法)
レーザー回析・散乱式粒度分布測定装置「LASER MICRON SIZER 2000e」(商品名、株式会社セイシン企業製)を用いて測定を行った。
【0049】
(油脂含有量の測定方法)
ソックスレー抽出法により、測定を行った。
【0050】
(pHの測定方法)
pHメーターで測定した。
【0051】
(Brixの測定方法)
デジタル屈折計「ATAGO RX-5000α」(商品名、株式会社アタゴ製)で測定した。
【0052】
(粘度の測定方法)
品温20℃において、B型粘度計(株式会社東京計器製、測定条件:液温20℃、ローターNo.1、60rpm)を用いて測定した。
【0053】
なお、下記試験例で用いた酒粕は、各種の酒造メーカーから入手したものであり、それぞれについて、酒粕の湿重量中のベンズアルデヒド、カプロン酸エチルの含有量を測定した結果は、下記の通りである。
・酒粕A:ベンズアルデヒド 検出せず、カプロン酸エチル32質量ppm
・酒粕B:ベンズアルデヒド 検出せず、カプロン酸エチル184質量ppm
・酒粕C:ベンズアルデヒド 検出せず、カプロン酸エチル12質量ppm
・酒粕D:ベンズアルデヒド 4320質量%ppb、カプロン酸エチル24質量ppm
・酒粕E:ベンズアルデヒド 3560質量%ppb、カプロン酸エチル32質量ppm
本発明において、酒粕原料として好ましいものは、カプロン酸エチルの含有量が120質量ppm以下、ベンズアルデヒドの含有量が1600質量ppb以下である酒粕A、酒粕Cである。このように、市販の酒粕を複数入手して、それらに含まれるベンズアルデヒド、カプロン酸エチルの含有量を測定することにより、本発明の飲料の原料として好適な酒粕は、当業者であれば容易に見つけることができる。
【0054】
<試験例1>(香気成分の検討)
下記表2に示される配合により、酒粕、砂糖及び水を混合し、仕込み液を調製した。この仕込液を、高圧ホモジナイザーにより、表1に示される条件で均質化処理し、130℃で10秒間殺菌した。これを紙パック容器(商品名「テトラパック(登録商標)」、テトラパック社製)に無菌充填した。
【0055】
酒粕として、前述した市販のA~Eの酒粕を用い、これらを適宜選択して、組合せることによって、最終的に得られる飲料中のベンズアルデヒド、カプロン酸エチルの含有量が異なる飲料を得た。
【0056】
得られた飲料について、粒度分布における10μm以下及び10μm以上の固形粒子の割合、油脂の含有量、pH、Brix、粘度を測定すると共に、5名のパネラーにより、乳感の評価を行い、各パネラーの平均点で乳感を評価した。なお、乳感の評価基準は下記の通りである。
【0057】
牛乳に特有ののどの奥の上あごと舌の間を通る時のテクスチャーや、舌にまとわりつく、膜感を評価した。0、1、2、3の4段階評価とし、5名の評点の平均値を算出した。0~0.9点を×、1.0~1.9点を△、2.0点以上を〇とし、△および〇を合格とした。
【0058】
この結果を表2に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
上記表2に示すように、ベンズアルデヒドの含有量が50質量ppb以下である実施例1~7は、乳感の平均点が1.8以上であり、良好な乳感を有することがわかる。また、ベンズアルデヒドの含有量が50質量ppb以下で、かつ、カプロン酸エチルの含有量が5質量ppm以下である実施例1~4、7は、更に良好な乳感を有することがわかる。
【0061】
<試験例2>(固形粒子の粒径の検討)
下記表3の配合により、試験例1と同様にして飲料を製造した。ただし、高圧ホモジナイザーによる均質化の際に、高圧ホモジナイザーの圧力を変更することにより、固形粒子の粒径が異なる飲料を製造した。
【0062】
得られた飲料について、試験例1と同様にして、粒度分布における10μm以下及び10μm以上の固形粒子の割合、油脂の含有量、pH、Brix、粘度を測定すると共に、5名のパネラーにより、乳感の評価を行い、各パネラーの平均点で乳感を評価した。この結果を表2に示す。
【0063】
【表3】
【0064】
表3に示すように、飲料に含まれる固形粒子の粒径分布において、10μm以下の固形粒子が40%以上である実施例10,11,12は、特に優れた乳感が得られた。
【0065】
<試験例3>(Brixの検討)
下記表4の配合により、試験例1と同様にして飲料を製造した。配合において、米麹糖化液の配合量を変えて添加したもの、砂糖の添加量を変えたものを調整し、Brixの異なる飲料を製造した。
【0066】
得られた飲料について、試験例1と同様にして、粒度分布における10μm以下及び10μm以上の固形粒子の割合、油脂の含有量、pH、Brix、粘度を測定すると共に、5名のパネラーにより、乳感の評価を行い、各パネラーの平均点で乳感を評価した。この結果を表4に示す。
【0067】
【表4】
【0068】
表4に示すように、Brixが高くなると粘性があがり、乳感が下がる傾向が認められた。
【0069】
<試験例4>(pHの検討)
下記表5の配合により、試験例1と同様にして飲料を製造した。配合において、酸味料として乳酸又はフィチン酸を添加したものと、酸味料を添加しないものを調製し、pHの異なる飲料を製造した。
【0070】
得られた飲料について、試験例1と同様にして、粒度分布における10μm以下及び10μm以上の固形粒子の割合、油脂の含有量、pH、Brix、粘度を測定すると共に、5名のパネラーにより、乳感の評価を行い、各パネラーの平均点で乳感を評価した。この結果を表5に示す。
【0071】
【表5】
【0072】
表5に示すように、酸性側に行くと乳感が弱まる傾向が認められた。
【0073】
<試験例5>(米麹糖化液との併用についての検討)
下記表6の配合により、試験例1と同様にして飲料を製造した。配合において、酒粕と米麹糖化液とを併用したもの、米麹糖化液だけのものであって、高圧ホモジナイザーによる均質化の際に、高圧ホモジナイザーの圧力を変更することにより、固形粒子の粒径が異なる飲料を製造した。
【0074】
得られた飲料について、試験例1と同様にして、粒度分布における10μm以下及び10μm以上の固形粒子の割合、油脂の含有量、pH、Brix、粘度を測定すると共に、5名のパネラーにより、乳感の評価を行い、各パネラーの平均点で乳感を評価した。この結果を表6に示す。
【0075】
【表6】
【0076】
表6に示すように、酒粕と米麹糖化液とを併用した飲料は、いずれも良好な乳感を有しており、固形粒子の粒径が小さいほど乳感が高まる傾向が認められた。また、米麹糖化液のみものは、固形粒子の粒径にかかわらず、いずれも乳感が乏しかった。