(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022118588
(43)【公開日】2022-08-15
(54)【発明の名称】イオン複合体
(51)【国際特許分類】
C07G 1/00 20110101AFI20220805BHJP
C08L 101/12 20060101ALI20220805BHJP
C08L 97/00 20060101ALI20220805BHJP
C08L 79/02 20060101ALI20220805BHJP
【FI】
C07G1/00
C08L101/12
C08L97/00
C08L79/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021015202
(22)【出願日】2021-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】杓野 拓斗
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 花苗
(72)【発明者】
【氏名】牛丸 和乗
(72)【発明者】
【氏名】福岡 徳馬
(72)【発明者】
【氏名】森田 友岳
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA07W
4J002AB05W
4J002AD03W
4J002AH00X
4J002BJ00W
4J002CM01W
4J002GA01
4J002GC00
4J002GL00
(57)【要約】
【課題】本発明は、実質的に溶媒を含まない状態で成形性が良好であり、成形後の耐湿性および保形性が良好であり、かつ、循環型資源であるリグニンスルホン酸を構成成分とするイオン複合体を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、(A)リグニンスルホン酸系化合物、(B)カチオン性高分子、及び(C)ポリアニオンから形成されるイオン複合体を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)リグニンスルホン酸系化合物、
(B)カチオン性高分子、及び
(C)ポリアニオン
から形成されるイオン複合体。
【請求項2】
ポリアニオンの重量平均分子量が3,000~1,000,000である、請求項1に記載のイオン複合体。
【請求項3】
(C)成分の含有量が1~80重量%である、請求項1又は2に記載のイオン複合体。
【請求項4】
(C)成分が、ポリアクリル酸またはポリスチレンスルホン酸を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のイオン複合体。
【請求項5】
(A)成分が、リグニンスルホン酸、ポリエチレングリコール誘導体化リグニンスルホン酸、及びこれらの塩から選ばれる1種以上を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のイオン複合体。
【請求項6】
(B)成分が、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のイオン複合体。
【請求項7】
(A)リグニンスルホン酸系化合物、
(B)カチオン性高分子、及び
(C)ポリアニオン
を混合する混合工程を含む、イオン複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従前から、植物系バイオマスの有効活用を目的として、植物体を構成する主要な成分の一つであるリグニンもしくはその誘導体を、成形可能な材料として利用する試みが広く行われている。リグニンスルホン酸は、亜硫酸法によるパルプの生産時や、リグニンの硫酸処理などで得ることができるリグニン由来化合物であり、リグニンと同様に成形可能な材料として利用する試みが行われている。リグニンスルホン酸は、分子内にアニオン性官能基であるスルホ基を多数有するアニオン性高分子であり、高い親水性を有している。一般に、このようなイオン性高分子を材料として利用するための手法として、種々のアニオン性高分子とカチオン性高分子を組み合わせることで、イオン複合体を形成させ、得られた複合体の有する特性に応じて、種々の材料を調製することが行われている。
【0003】
リグニンスルホン酸とカチオン性高分子の組み合わせに関し、例えば、特許文献1には、リグニンスルホン酸とカチオン性高分子を複合化することで、成形性、柔軟性、弾性に加え、自己修復能を有するイオン複合材料が記載されている。特許文献2には、カチオン交換型(すなわちアニオン性)高分子であるリグニンスルホン酸とアニオン交換型(すなわちカチオン性)粘土鉱物から成るイオン複合型粘土組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-112526号公報
【特許文献2】特開2006-133299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記されているイオン複合材料は、水系で複合体形成を行うことが可能であるが、乾燥後の成形体は湿度応答性が大きく空気中で吸湿し、高湿度下では形状が崩壊するという問題点があり、成形材料として工業的に利用するには課題があった。特許文献2に記載のイオン複合型粘土組成物は、成形体の形成を可能とし、水中での保形性に優れるものの、成形体の柔軟性に劣り、更にPEG400等の溶媒を含むことから、安全面での課題があった。
【0006】
本発明は、実質的に溶媒を含まない状態で成形性が良好であり、成形後の耐湿性および保形性が良好であり、かつ、循環型資源であるリグニンスルホン酸を構成成分とするイオン複合体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、以下の〔1〕~〔6〕を提供する。
〔1〕(A)リグニンスルホン酸系化合物、
(B)カチオン性高分子、及び
(C)ポリアニオン
から形成されるイオン複合体。
〔2〕ポリアニオンの重量平均分子量が3,000~1,000,000である、〔1〕に記載のイオン複合体。
〔3〕(C)成分の含有量が1~80重量%である、〔1〕又は〔2〕に記載のイオン複合体。
〔4〕(C)成分が、ポリアクリル酸またはポリスチレンスルホン酸を含む、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載のイオン複合体。
〔5〕(A)成分が、リグニンスルホン酸、ポリエチレングリコール誘導体化リグニンスルホン酸、及びこれらの塩から選ばれる1種以上を含む、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載のイオン複合体。
〔6〕(A)リグニンスルホン酸系化合物、
(B)カチオン性高分子、及び
(C)ポリアニオン
を混合する混合工程を含む、イオン複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、乾燥等溶媒を除去することにより多様な形状に成形できる等」、成形性の良好なイオン複合体が提供され得る。イオン複合体は、成形された状態で、良好な耐湿性、保形性を示すことができ、良好な柔軟性を示すこともできる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[1.イオン複合体]
イオン複合体は、(A)~(C)成分から形成される。これにより、溶媒に対し可溶性又は懸濁性を示すことができ、各成分について以下説明する。
【0010】
[1.1 (A)成分:リグニンスルホン酸系化合物に由来する構成単位]
-リグニンスルホン酸系化合物-
リグニンスルホン酸系化合物とは、リグニンのヒドロキシフェニルプロパン構造の側鎖α位の炭素が開裂してスルホ基が導入された骨格を有する化合物である。上記骨格部分の構造を式(1)に示す。
【化1】
【0011】
リグニンスルホン酸系化合物は、上記式(1)で示される骨格を有する化合物の変性物(以下、「変性リグニンスルホン酸系化合物」ともいう)であってもよい。変性方法は特に限定されないが、加水分解、アルキル化、アルコキシル化、スルホン化、スルホン酸エステル化、スルホメチル化、アミノメチル化、脱スルホン化、ポリエチレングリコール化など化学的に変性する方法;リグニンスルホン酸系化合物を限外濾過により分子量分画する方法が例示される。このうち、化学的な変性方法としては、加水分解、アルコキシル化、脱スルホン化及びアルキル化、ポリエチレングリコール化から選ばれる1又は2以上の反応が好ましい。
【0012】
ポリエチレングリコールで変性されたリグニンスルホン酸(ポリエチレングリコール誘導体化リグニンスルホン酸)の場合、変性に用いるポリエチレングリコールの分子量は、好ましくは1000~5000、より好ましくは1500~4000、更に好ましくは2000~3000である。ポリエチレングリコール変性リグニンスルホン酸に占めるポリエチレングリコールの比率(ポリエチレングリコール比率)は、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上、更に好ましくは30%以上である。上限は、通常70%以下である。
【0013】
リグニンスルホン酸系化合物は、塩の形態を取りうる。塩としては、例えば、一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩、有機アンモニウム塩が挙げられる。このうち、カルシウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、カルシウム・ナトリウム混合塩などが好ましい。
【0014】
リグニンスルホン酸系化合物の製造方法及び由来は特に限定されず、天然物や合成品などいずれをも用いることができる。リグニンスルホン酸系化合物は、酸性条件下で木材を蒸解して得られる亜硫酸パルプの廃液の主成分のひとつである。このため、亜硫酸パルプ廃液由来のリグニンスルホン酸系化合物を用いることもできる。
【0015】
リグニンスルホン酸系化合物(変性リグニンスルホン酸系化合物)は、市販品に豊富に含まれており、本発明においてはこのような市販品を用いてもよい。市販品としては、サンエキスP252(日本製紙社製)、サンエキスM(日本製紙社製)、パールレックスNP(日本製紙社製)、サンフローRH(日本製紙社製)、リグニンスルホン酸ナトリウム(東京化成工業社製)、リグニンスルホン酸ナトリウム塩(Merck社製)、リグニンスルホン酸カルシウム塩(Merck社製)などが例示される。
【0016】
なお、リグニンスルホン酸の化学構造を、一般式などで一律に特定することは困難である。その理由は、リグニンスルホン酸系化合物の骨格であるリグニンが非常に複雑な分子構造をしているためである。
【0017】
-リグニンスルホン酸系化合物の分子量-
リグニンスルホン酸系化合物の重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、好ましくは5,000~300,000、さらに好ましくは10,000~100,000である。重量平均分子量が5,000未満の場合、カチオン性高分子との複合性が悪化し、イオン複合体が不均一となる。重量平均分子量が300,000を超える場合、イオン複合体の成形性が悪化する。なお、本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)にてポリエチレングリコール換算する公知の方法にて測定できる。
【0018】
GPCの測定条件は特に限定されるものではないが、以下の条件を例示することができる。
測定装置;東ソー製
使用カラム;Shodex Column OH-pak SB-806HQ、SB-804HQ、SB-802.5HQ
溶離液;0.05mM硝酸ナトリウム/アセトニトリル 8/2(v/v)
標準物質;ポリエチレングリコール(東ソー製又はGLサイエンス製)
検出器;示差屈折計(東ソー製)
【0019】
(A)成分は、リグニンンスルホン酸系化合物1種類でもよいし、分子量、製造方法、由来等の異なる2種以上の組み合わせでもよい。
【0020】
-(A)成分の含有量-
(A)成分の含有量は、特に限定されるものではなく、イオン複合体の組成や種類、量に応じて適宜調節すればよい。一例としては、イオン複合体100重量%に対し、好ましくは5重量%以上、より好ましくは10重量%以上、さらに好ましくは15重量%以上である。上限は、好ましくは70重量%以下、より好ましくは60重量%以下、さらに好ましくは50重量%以下である。これにより、イオン複合体の成形性の低下を抑制できる。従って、(A)成分の含有量は、5~70重量%が好ましく、10~60重量%がより好ましく、15~50重量%が更に好ましい。
【0021】
[1.2 (B)成分:カチオン性高分子]
-カチオン性高分子-
本発明に用いられるカチオン性高分子としては、例えば、1級、2級、3級アミノ基、4級アンモニウム基およびイミノ基からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の官能基を有する高分子が挙げられ、1級、2級、3級アミノ基、4級アンモニウム基およびイミノ基のうち少なくとも1種以上の官能基を有する単一のモノマーに由来する構成単位から成る高分子が好ましい。カチオン性高分子としては、例えば、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(アリルアミン)、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)、キトサン、カチオン化セルロース、カチオン化カルボキシメチルセルロース、カチオン化デンプン、カチオン化ヒアルロン酸、カチオン化グアーガム、α-ポリリジン、ε-ポリリジン、α-ポリオルニチン、δ-ポリオルニチン、リジン含有タンパク質、ポリ(ビニルピリジン)、ポリ(ビニルN-メチルピリジン)、ポリ{[3-(メタクリロイルアミノ)プロピル]トリメチルアンモニウム}、ポリ[(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウム]、ポリ{[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム}、ポリ{[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム};これらのカチオン性高分子の1級、2級、3級アミノ基を4級アンモニウム化したもの;ポリアルギニン、ポリ(ヘキサメチレンビグアニド)、ポリヘキサメチレングアニジン、シアノフィシン、アルギニン含有タンパク質などのイミノ基を有するカチオン性高分子が挙げられる。カチオン性高分子は、水溶性の観点から、上述の高分子の、塩酸塩などの無機酸塩、酢酸塩などの有機酸塩でもよい。
【0022】
-カチオン性高分子の分子量-
カチオン性高分子の重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、好ましくは50,000~500,000、より好ましくは100,000~450,000、さらに好ましくは150,000~400,000である。
【0023】
(B)成分は、カチオン性高分子1種類でもよいし、分子量、構造等の異なる2種以上の組み合わせでもよい。
【0024】
-(B)成分の含有量-
(B)成分の含有量は、特に限定されるものではなく、イオン複合体の組成や種類、量に応じて適宜調節すればよい。一例としては、イオン複合体100重量%に対し、好ましくは5重量%以上、より好ましくは15重量%以上、更に好ましくは20重量%以上である。上限は、好ましくは70重量%以下、より好ましくは65重量%以下、更に好ましくは60重量%以下である。これにより、イオン複合体の成形性の低下を抑制できる。従って、(B)成分の含有量は、5~70重量%が好ましく、15~65重量%がより好ましく、20~60重量%が更に好ましい。
【0025】
[1.3 (C)成分:ポリアニオン]
-ポリアニオン-
本発明に用いられるポリアニオンとしては、(A)成分以外であれば特に制限されない。例えば、アニオン性官能基を含む高分子が挙げられる。アニオン性官能基としては、例えば、スルホ基、カルボキシル基、フェノール性ヒドロキシ基、ホスホ基が挙げられる。ポリアニオンの分子量は、好ましくは3,000~1,000,000、より好ましくは5,000~500,000であるが、特に限定されない。ポリアニオンの例としては、例えば、カルボシル基を有する化合物(例えば、ポリアクリル酸)、スルホ基を有する化合物(例えば、ポリスチレンスルホン酸)が挙げられる。本発明に用いられるポリアニオンは、水溶性の観点から、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩などの塩でもよい。
【0026】
(C)成分は、ポリアニオン1種類でもよいし、分子量、構造等の異なる2種以上の混合物でもよい。
【0027】
-(C)成分の含有量-
(C)成分の含有量は、特に限定されるものではなく、イオン複合体の組成や種類、量に応じて適宜調節すればよい。一例としては、イオン複合体100重量%に対し、好ましくは1重量%以上、より好ましくは5重量%以上である。これにより、イオン複合体の耐湿性の低下を抑制できる。上限は、好ましくは80重量%以上、より好ましくは60重量%以上、更に好ましくは50重量%以上、更により好ましくは40重量%以上である。これにより、イオン複合体の成形性の低下を抑制でき、成形物が脆くなることを抑制できる。従って、(C)成分の含有量は、1~80重量%が好ましく、5~60重量%がより好ましく、5~50重量%が更に好ましく、5~40重量%が更により好ましい。
【0028】
[1.4 任意成分]
イオン複合体は、(A)~(C)成分以外の任意成分を必要に応じて含んでもよい。任意成分としては、例えば、酸化防止剤、防腐剤、安定剤、溶媒が挙げられる。
【0029】
溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジオキサンなどの水と混和し得る有機溶媒が好ましく、なかでも、安全面の観点から水が好ましい。
【0030】
[1.5 イオン複合体の形態]
イオン複合体は、(A)~(C)成分から形成されていればよい。その形態は、例えば、各成分がイオン結合、水素結合等結合している形態、結合していない組成物の形態が挙げられる。
【0031】
イオン複合体は、溶媒(例えば、水)に溶解又は懸濁(分散)した状態(液状)でもよいし、実質的に溶媒を含まない状態(固形状)でもよい。
【0032】
[2.イオン複合体の調製方法]
イオン複合体の調製方法は、(A)~(C)成分を混合する混合工程を少なくとも含む方法であればよい。
【0033】
[2.1 混合工程]
混合工程における成分(A)~(C)の形態は、それぞれ、液体状、粉末状、固形状のいずれでもよいが、取扱い上の観点からは、液体状が好ましい。
【0034】
混合の順序としては、例えば、成分(A)及び(B)を混合後、得られる混合物に成分(C)を添加混合;成分(A)及び(C)を混合後、得られる混合物に成分(B)を添加混合;成分(B)と(C)を混合後、得られる混合物に成分(A)を添加混合、が挙げられる。混合物は、固形状でもよいし液体状でもよい。成分(A)と(B)は、他の成分と混合前に予め溶媒と混合しておくことが好ましい。系内への添加と混合は同時に行ってもよい(例えば、ラインミキシング)。
【0035】
[2.2 溶媒除去工程]
混合工程の後、必要に応じて、系内から(得られる溶液又は懸濁液から)溶媒を除去する溶媒除去工程を行ってもよい。溶媒の除去は、例えば、乾燥、沈殿によることができる。乾燥を行う場合の乾燥温度は、溶媒が除去される温度であればよい。水の場合、好ましくは30~150℃である。乾燥の際の湿度は、例えば30~70%の範囲で適宜設定できる。これにより、乾燥と共に調湿(例えば、水分量20重量%以下、好ましくは18重量%以下、下限は、例えば1重量%以上、好ましくは3重量%以上)を行うことができる。沈殿による溶媒除去の方法としては、例えば、溶媒が水の場合、溶液又は懸濁液を有機溶媒中に投入し、沈殿物をイオン複合体として回収する方法が挙げられる。
【0036】
[3.イオン複合体の用途]
イオン複合体は、溶媒を実質的に含まない状態で良好な耐湿性、保形性を発揮し得る、また柔軟性も良好である。そのため、イオン複合体は成形体として各種用途に利用できる。そのようなものとしては生分解性が期待される用途に適しており、例えば、農業用マルチフィルムや建築用カバーシート、プランター等が挙げられる。
【0037】
-物性の評価-
イオン複合体の保形性の評価方法は以下の方法で確認できる。調製したサンプルをダンベル型試験片(8号、JIS K 6251)の形状に打ち抜き、引張試験を行い、最大応力、ヤング率、靭性を測定し、これらの測定値があらかじめ用意した対照サンプル又は目標値よりも高いことを確認すればよい。耐湿性は、高湿度条件で保持して吸湿性を測定し、測定値があらかじめ用意した対照サンプル又は目標値よりも高いことを確認すればよい。
【実施例0038】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明する。しかしながら、本発明はもとより下記実施例により制限されるものではなく、前・後記述の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。なお、実施例中、特に断りの無い限り、「%」は重量%を示す。また、物性値等の測定方法は、別途記載がない限り、上記に記載した測定方法である。
【0039】
[実施例で使用した成分]
(1)成分(A):リグニンスルホン酸系化合物
リグニン1:TCI試薬リグニンスルホン酸ナトリウム(粉末、リグニンスルホン酸、重量平均分子量11,200、東京化成工業社製)
リグニン2:パールレックスNP(粉末、高純度リグニンスルホン酸、重量平均分子量16,100、日本製紙社製)
リグニン3:ポリエチレングリコール誘導体化リグニンスルホン酸1(36%水溶液、ポリエチレングリコール誘導体化リグニンスルホン酸、重量平均分子量38,000、ポリエチレングリコールの分子量2200、ポリエチレングリコール比率60%、日本製紙社製)
リグニン4:ポリエチレングリコール誘導体化リグニンスルホン酸2(35%水溶液、ポリエチレングリコール誘導体化リグニンスルホン酸、重量平均分子量30,000、ポリエチレングリコールの分子量2200、ポリエチレングリコール比率50%、日本製紙社製)
リグニン5:ポリエチレングリコール誘導体化リグニンスルホン酸3(33%水溶液、ポリエチレングリコール誘導体化リグニンスルホン酸、重量平均分子量56,000、ポリエチレングリコールの分子量2200、ポリエチレングリコール比率40%、日本製紙社製)
【0040】
(2)成分(B):カチオン性高分子
カチオン1:ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(20%水溶液、重量平均分子量200,000~350,000、Merck社製)
【0041】
(3)成分(C):ポリアニオン
アニオン1:ポリアクリル酸25000(固形、重量平均分子量25,000、遊離酸タイプ、富士フイルム和光純薬社製)
アニオン2:ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(粉末、重量平均分子量70,000、Na塩タイプ、Merck社製)
【0042】
[実施例1~9及び比較例1~6]
表1に記載の、リグニンスルホン酸系化合物(リグニン1~5)、カチオン性高分子(カチオン1)、ポリアニオン(アニオン1~2)を各20重量%水溶液に調製し、それぞれ表1に記載の配合比で均一に混合し、この混合物をフッ素樹脂製シャーレに移して温度30℃、相対湿度50%で乾燥、水分量が20重量%以下となるように調湿させることでイオン複合体を得た。なお、実施例6、7、比較例6の乾燥・調湿後の水分量は、それぞれ、8.1重量%、12.2重量%、6.6重量%であった。
【0043】
【0044】
表1中の配合比(%)は、イオン複合体の固形分総量に対する固形分での配合率%である。
【0045】
-複合体の力学物性の評価-
各実施例、比較例で得られたサンプルについて、力学物性の評価を行った。調製したサンプルを30℃、相対湿度50%の恒温恒湿器の中で5日間静置した後、ダンベル型試験片(8号、JIS K 6251)の形状に打ち抜き、引張試験(大気中、引張速度50mm/min)を行った。引張試験では、最大応力、ヤング率、靭性が測定された。その結果を表2に示す。測定は3回行い、その平均値と標準誤差を記載した。
【0046】
-形態(吸湿性)の評価-
各実施例、比較例で得られたサンプルについて、形態の評価を行った。調製したサンプルを相対湿度70%条件、80%条件でそれぞれ均質化させ、そのサンプルの形態を確認することで、吸湿性を評価した。形態の評価は、複合体サンプルを静置していたシャーレから剥離後、イオン複合体の表面が粘つかず形状を維持していれば「〇」、表面のみ若干液化し、シャーレからの剥離後、形状が崩壊すれば「△」、全体に亘り液化しておりシャーレからの剥離困難であれば「×」とした。この結果を表2に示す。
【0047】
【0048】
実施例1~9に記載のイオン複合体は、比較例1~6に記載のポリアニオンを添加していない同一組成比率のイオン複合体と比較して、最大応力やヤング率などの引張剛性または靭性のような耐破断度のいずれかが少なくとも向上していることがわかる。また更に、吸湿性においても、相対湿度70%や80%条件においても、イオン複合体が相対的に形状を維持しており、ポリアニオンの添加により、湿度への抵抗性が優れることがわかる。一方で、比較例1、3~6に記載のイオン複合体では、ポリアニオンを含まないことで、相対湿度80%の環境下でイオン複合体が吸湿し、べた付きが生じることで、イオン複合体として取り扱いが困難になっていることがわかる。比較例2では、イオン複合体としての取り扱いは可能であるものの、形態維持性には劣り、高湿度条件下での使用に適さないことがわかる。