IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本製粉株式会社の特許一覧

特開2022-119032湯種の作製に用いるための乾熱処理小麦粉及びそれを用いたパン生地
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022119032
(43)【公開日】2022-08-16
(54)【発明の名称】湯種の作製に用いるための乾熱処理小麦粉及びそれを用いたパン生地
(51)【国際特許分類】
   A21D 6/00 20060101AFI20220808BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20220808BHJP
   A21D 10/00 20060101ALI20220808BHJP
【FI】
A21D6/00
A21D13/00
A21D10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021015976
(22)【出願日】2021-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】益田 美子
(72)【発明者】
【氏名】大楠 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 克広
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB01
4B032DB02
4B032DG02
4B032DK03
4B032DK12
4B032DK18
4B032DK43
4B032DK54
4B032DL11
4B032DP02
4B032DP05
4B032DP08
4B032DP16
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】マルトース量が多く甘味を感じる湯種パン類を得ることができる湯種パン類用小麦粉、これを使用するパン生地及び前記パン生地を焼成してなる湯種パン類を提供する。
【解決手段】湯種パン類の製造において、所定量の湿麩を含む乾熱処理した小麦粉を用いて湯種を作製し、これを使用してパン生地を製造することで、マルトース量が多く甘味を感じる湯種パン類を得ることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿麩量が0~17質量%の乾熱処理小麦粉からなる、湯種の作製に用いるための小麦粉。
【請求項2】
湯種と湯種以外の生地からなり、請求項1記載の小麦粉を、パン生地に用いられる小麦粉全質量に対し8~35質量%の量において湯種用小麦粉として含む、湯種パン類を製造するためのパン生地。
【請求項3】
湯種と湯種以外の生地からなり、乾熱処理小麦粉を湯種用小麦粉として含み、かつパン生地に用いられる小麦粉全質量中の総湿麩量が17.0~22.5質量%である、湯種パン類を製造するためのパン生地。
【請求項4】
請求項2または3記載のパン生地を焼成してなる湯種パン類。
【請求項5】
請求項1記載の小麦粉を、パン生地に用いられる小麦粉全質量に対し8~35質量%の量において用いて湯種を作製することを含む、パン生地を製造する方法。
【請求項6】
乾熱処理小麦粉を用いて湯種を作製することを含み、かつパン生地に用いられる小麦粉全質量中の総湿麩量が17.0~22.5質量%となるように前記乾熱処理小麦粉の量を調整することを含む、パン生地を製造する方法。
【請求項7】
請求項5または6記載の方法によりパン生地を製造し、前記パン生地を焼成することを含む、湯種パン類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は湯種パン類の製造に必要な湯種の作製に用いるための乾熱処理小麦粉及びそれを用いたパン生地に関する。
【背景技術】
【0002】
湯種パンは、中種法やストレート法と比べてパンのマルトース量が多くなるため、ほのかな甘みがあることが特徴である。湯種の作製温度や保管時間・温度などを工夫して「風味が良い」パンや「小麦粉らしい甘さ」を有するパンを得るための改良は従来されてきた。しかし、上記の湯種の作製条件の検討だけでは、マルトース量の増加に限界があった。
従来の方法として、湯種にイーストと乳酸菌を使用し、「良好な風味」のパン類を提供する方法が報告されている(特許文献1)。また湯種の水分量と添加量を調整することにより、「小麦由来の甘味」を伴う湯種パンを提供する方法が開示されている(特許文献2)。さらに、α-アミラーゼの使用により甘味を有し、老化が遅い湯種パンを提供する方法も報告されている(特許文献3)。
また、非特許文献1には湯種パンに麦芽糖が多いことが記載されているが、麦芽糖を増やすための方法については報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-50320号公報
【特許文献2】特開2006-42809号公報
【特許文献3】特開2016-106530号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「製パン技術資料No.679湯種に使用する粉質が品質に与える影響」日本パン技術研究所、平成20年1月発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、マルトース量が多く甘味を感じる湯種パン類を提供するための湯種の作製に用いる小麦粉を提供することを目的とする。また本発明はマルトース量が多く甘味を感じかつ焼成後の体積も十分な湯種パン類を提供するための、湯種の作製に用いる小麦粉、前記小麦粉を湯種として使用するパン生地及び前記パン生地を焼成してなる湯種パン類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
所定量の湿麩を有する乾熱処理小麦粉を湯種の作製に用いてパン生地を作製することにより、あるいは乾熱処理小麦粉を湯種の作製に用い、かつパン生地中に所定量の湿麩が含まれるように調整することにより、上記課題を解決しうることを見いだし、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明者らは、湯種パン類の製造において、所定量の湿麩を有するような条件で乾熱処理した小麦粉を用いて湯種を作製し、これを使用してパン生地を製造することで、マルトース量が多く甘味を感じられ、かつ十分な体積を有する湯種パン類が得られることを見いだした。
本発明は以下の態様を提供する。
(1)湿麩量が0~17質量%の乾熱処理小麦粉からなる、湯種の作製に用いるための小麦粉。
(2)湯種と湯種以外の生地からなり、(1)記載の小麦粉を、パン生地に用いられる小麦粉全質量に対し8~35質量%の量において湯種用小麦粉として含む、湯種パン類を製造するためのパン生地。
(3)湯種と湯種以外の生地からなり、乾熱処理小麦粉を湯種用小麦粉として含み、かつパン生地に用いられる小麦粉全質量中の総湿麩量が17.0~22.5質量%である、湯種パン類を製造するためのパン生地。
(4)(2)又は(3)記載のパン生地を焼成してなる湯種パン類。
(5)(1)記載の小麦粉を、パン生地に用いられる小麦粉全質量に対し8~35質量%の量において用いて湯種を作製することを含む、パン生地を製造する方法。
(6)乾熱処理小麦粉を用いて湯種を作製することを含み、かつパン生地に用いられる小麦粉全質量中の総湿麩量が17.0~22.5質量%となるように前記乾熱処理小麦粉の量を調整することを含む、パン生地を製造する方法。
(7)(5)または(6)記載の方法によりパン生地を製造し、前記パン生地を焼成することを含む、湯種パン類の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、マルトース量が多く甘味を感じる湯種パン類を製造することができる。また、本発明により、マルトース量が多く甘味を感じかつ従来のものと比べても十分な体積を有する湯種パン類を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<湯種法>
パン類の製造方法の一つである湯種法は、材料の一部で湯種を作製して製造する方法であり、湯種特有のもちもち感や保湿性をパンに与える方法として知られている。例えば小麦粉の一部に熱湯と塩を加える、もしくは小麦粉の一部に水と塩を加えた後に加温することにより得られる湯種生地を用いることを特徴とする。このような湯種生地を、直捏法や中種法の混捏時に加えてパン生地をつくり、その後室温でフロアタイムをとり、適当な大きさに分割した後、室温でベンチタイムをとり、成形、ホイロを行なった後、焼成して得られる。
通常、湯種は、24時間以内を目安に使用する。パン生地の混捏工程に進むまでに4時間以上の時間が空くときは、腐敗を防ぐために5℃で保管することができる。
【0009】
<湯種パン類>
上述の湯種を用いて製造する湯種パン類として、食パン、ロールパン、菓子パン、調理パン等が挙げられる。食パンとしては白食パン、バラエティーブレッド、イングリッシュマフィン等が挙げられ、ロールパンとしては、テーブルロール、バターロール、コッペパン、スィートロール、バンズ等が挙げられ、菓子パンとしては、アンパン、ジャムパン、クリームパン、カレーパン等のフィリング類をパンに詰めたもの、メロンパン、レーズンパン、ブリオッシュ等が挙げられ、調理パンとしては、ハンバーガー、ホットドック、ピザ等が挙げられる。バゲット、パリジャン、バタール、ブール、シャンピニヨン、カンパーニュ等のフランスパン、カンパーニュ、パンドロデブ、リュスティック、グリッシーニ、フォカッチャ等の砂糖、卵や油脂などの配合割合が少ないリーンなタイプの生地を使用して得られる製品でも良く、湯種生地の使用量も、各製品に合わせて適量を添加して製造してよい。
【0010】
<乾熱処理小麦粉>
本発明の1つの実施態様は、湯種パン類の製造に用いる「湯種」を作製するための小麦粉であって、湿麩量が0~17質量%の乾熱処理小麦粉に関する。以下、本発明の前記小麦粉を「湯種用小麦粉」と呼ぶことがある。
乾熱処理小麦粉の「乾熱処理」とは、水分や水蒸気を加えずに小麦粉を加熱する方法であり、小麦粉中の水分の蒸発を積極的に行う熱処理である。例えば、小麦粉を気体又は固体媒介の伝導熱、放射熱、反射熱、熱風、電磁波(マイクロ波)などに曝して加熱する熱処理法が挙げられる。
乾熱処理する装置や機械については特に限定はなく、例えば、製菓製パン用オーブン、リールオーブン、焙焼釜、高温乾燥機、送熱風乾燥機、加熱攪拌機、間接過熱型乾燥機、マイクロ波発生器などを用いることができ、高温低湿度環境で保持することにより乾熱処理を達成することができる。この際、小麦粉が均一に乾熱処理されるようにするために、適時気流やミキサー等での混合、あるいは、熱伝導にムラが生じない程度に小麦粉を薄く広げることが好ましい。乾熱処理温度及び時間についても、グルテンの変性具合を見ながら、適宜調節することが可能である。本発明では湿麩量が0~17質量%となるように乾熱処理を行うことが必要である。
【0011】
乾熱処理の条件は、例えば、80~280℃の温度範囲で、かつ1~35分間の時間範囲である。より好ましくは、100~260℃の範囲で2~30分間であり、さらに好ましくは、130~210℃で5~20分間である。なお、上で述べた乾熱処理の温度は、小麦粉の品温であり、乾熱処理の時間は、小麦粉が所定の処理温度に達してからの時間を意味する。
乾熱処理後の冷却方法に特に限定はなく、自然放熱、通風や間接水流による強制急速冷却などが使用でき、その冷却に時間についても製品品温が室温程度に下がるまで、適宜調節することが可能である。
本発明では、用いる小麦粉の粒径や、水分量の差によらず、乾熱処理によって改質効果を得ることができる。
【0012】
乾熱処理していない小麦粉から得られるグルテンは、適度な硬さとつながりと伸展性を有している。一方、軽度の乾熱処理ではソフトなつながりを有した海綿状のような状態であり、乾熱の度合いが強くなるにつれ、グルテンは脆さが増し、つながりがなくなり、砂のように纏まらなくなる。従って、乾熱処理した小麦粉を用いたパン類では焼成後の体積が十分にならないという問題がある。
【0013】
乾熱処理小麦粉の原料となる小麦粉は、パン類の製造に用いる通常の小麦粉のいずれの種類を用いてもよい。小麦粉は、強力小麦粉、中力小麦粉、薄力小麦粉のいずれでもよい。好ましくは強力小麦粉である。
【0014】
本発明の1つの態様は、湿麩量が0~17質量%の範囲となるように乾熱処理を行った小麦粉及びそれを湯種用小麦粉として使用するパン生地である。
「湿麩」とは、通常、小麦粉に所定量の水を加えて、生地が滑らかになるまでこねて十分にグルテンを形成させ、固まりになった小麦粉を水中にいれて澱粉質をとった後の、水気を含んだ粘り気のあるグルテンのことである。本発明では、「湿麩量」は、以下の方法により測定したものをいう。
【0015】
[湿麩量測定法]
グルトマチックシステム2202(perten社)を使用して測定する。
(1)10g±0.1gで秤量した小麦粉を、88μmメッシュのシートを入れたウォッシュチャンバーに投入する。
(2)4.8mlの蒸留水を小麦粉に加える。
(3)グルトマチックの基本メソッドで測定を開始する。具体的には、小麦粉と水が20秒間混練された後、洗浄が5分間行われる。
(4)手順3でできたグルテンの塊をCentrifuge 2015(perten社)を用い、6000±5rpmで1分間、遠心を行う。
(5)手順4で脱水されたグルテンを全量回収して秤量したものを、湿麩とする。
(6)湿麩量は、以下の計算式で算出する。
湿麩量(%)=湿麩(g)/手順1で秤量した小麦粉(g)×100
【0016】
本発明において、湿麩量が0~17質量%の範囲になるように乾熱処理された小麦粉を湯種用小麦粉として使用して湯種パン類を製造すると、特に、マルトース含量が増加して、甘味がある湯種パン類を製造することができる。さらに、マルトース含量が増加するという観点から、湿麩量が0~14質量%の小麦粉が好ましく、0~12質量%がより好ましく、2~10質量%がさらに好ましい。
【0017】
<パン生地>
本発明のパン生地は湯種パン類を製造するためのパン生地であり、湯種と湯種以外の生地からなるパン生地である。
本発明のパン生地の1つの態様は、湯種と湯種以外の生地からなり、湿麩量が0~17質量%の乾熱処理小麦粉を、パン生地に用いられる小麦粉全質量に対し8~35質量%の量において湯種用小麦粉として含む、湯種パン類を製造するためのパン生地である。
【0018】
湿麩量が0~17質量%の乾熱処理小麦粉を用いて湯種を作製し、これを用いて湯種パン類を製造することにより、マルトース含量が多い、甘味を有する湯種パン類を製造することができ、さらに、乾熱処理小麦粉を一定量用いることにより、マルトース量が多くかつ焼成後の体積も十分な湯種パン類を提供する本発明の効果を確実に得ることができるため好ましい。
すなわち、湯種パン類の製造のためのパン生地に使用する小麦粉全質量のうち、湯種用小麦粉として湿麩量が特定量の乾熱処理小麦粉を8~35質量%用いて作製した湯種を用いることにより、得られる湯種パン類のマルトース含量が多くなり、甘味が強いパン類となり、さらに焼成後の体積も大きくなるため好ましい。乾熱処理小麦粉の湯種に用いる量は、好ましくはパン生地に用いる小麦粉全質量に対し10~30質量%であり、より好ましくは10~25質量%であり、更に好ましくは15~20質量%である。かかる範囲であれば、マルトース含量を増加させる効果が十分に認められ、またパンの形を形成しやすく商品価値の高いパン類を製造することができる。
【0019】
本発明のパン生地の他の態様は、湯種と湯種以外の生地からなり、乾熱処理小麦粉を湯種用小麦粉として含み、かつパン生地に用いられる小麦粉全質量中の総湿麩量が17.0~22.5質量%である、湯種パン類を製造するためのパン生地である。
パン生地に用いられる小麦粉全質量中の総湿麩量が17.0質量%以上となるように乾熱小麦粉を用いて湯種を作製した場合には、焼成後の湯種パン類の体積は所定の大きさを維持することができ、一方、総湿麩量が17.0質量%より少なくなると、焼成後の湯種パン類の体積が低減して湯種パン類として十分な体積を得ることができない。湯種パン類の体積は一般に、中種あるいは本捏において使用する小麦粉中のグルテン量にも影響され、乾熱処理を行った小麦粉の湿麩量が0質量%であっても一定の範囲の小麦粉量を用いて湯種を作製することにより、焼成後の湯種パン類の体積を維持することができることを見いだした。
なお、焼成後の十分な体積を得る観点から、本発明の湯種パン類に用いられる全小麦粉中の総湿麩量は、17.0質量%以上であることが好ましく、17.0~22.5質量%であることがより好ましく、18.0~22.3質量%以上であることがさらに好ましく、20.0~22.0質量%であることがよりさらに好ましい。
【0020】
<パン生地及び湯種パン類の製造方法>
本発明のパン生地の製造方法の1つの態様は、湿麩量が0~17質量%の乾熱処理小麦粉を用いて湯種を製造することを含む方法であり、さらに好ましくは、前記乾熱処理小麦粉を、パン生地に用いられる小麦粉全質量に対し8~35質量%の量において用いて湯種を作製することを含む方法である。
また、本発明の湯種パン類の製造方法の1つの態様は、湿麩量が0~17質量%の乾熱処理小麦粉を湯種用小麦粉として使用してパン生地を製造し、これを焼成することを含む方法である。好ましくは、前記乾熱処理小麦粉を、パン生地に用いられる小麦粉全質量に対し8~35質量%の量において用いて湯種を作製して、パン生地を製造し、これを焼成することを含む方法である。
本発明のパン生地の製造方法の他の態様は、乾熱処理小麦粉を用いて湯種を作製することを含み、かつパン生地に用いられる小麦粉全質量中の総湿麩量が17.0~22.5質量%となるように前記乾熱処理小麦粉の量を調整してパン生地を製造することを含む方法である。
また、本発明の湯種パン類の製造方法の他の態様は、乾熱処理小麦粉を用いて湯種を作製することを含み、かつパン生地に用いられる小麦粉全質量中の総湿麩量が17.0~22.5質量%となるように前記乾熱処理小麦粉の量を調整することを含む方法によりパン生地を製造し、これを焼成することを含む方法である。
【0021】
本発明におけるパン生地及び湯種パン類の製造方法の各工程は、本発明の湯種用小麦粉を使用して湯種を製造する点を除き、通常の湯種パン類の製造方法と同じである。
本発明において湯種の作製方法は特に限定されるものではないが、例えば、食塩を湯種用小麦粉100質量部に対し5~20質量部程度添加し、さらに80~100℃の熱湯を50~200質量部程度添加して混合して作成する。
なお、本発明のパン生地及び湯種パン類の製造方法において、湯種以外の生地に用いる小麦粉は通常、本発明の乾熱処理小麦粉ではなく、通常の小麦粉を用いることが好ましい。ただし、最終製品の膨らみに影響が出ない程度に中種や本捏に本発明の乾熱処理小麦粉を使用してもよい。好ましくは、湯種以外において使用する場合には、パン生地に使用する小麦粉全質量に対し、20質量%以下とすることが好ましい。
【0022】
<その他の原料>
湯種パン類を製造するために使用する小麦粉以外の原料として、通常使用されるものであればいずれも使用することができる。
例えば、デュラム小麦粉、ライ麦粉、コーンフラワー、大麦粉、米粉などの穀粉;イースト、イーストフード;タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉など及びこれらにα化、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理等を行った加工澱粉類;ブドウ糖、果糖、乳糖、砂糖、イソマルトースなどの糖類;卵黄、卵白、全卵その他の卵に由来する成分である卵成分;粉乳、脱脂粉乳、大豆粉乳等の乳成分;ショートニング、ラード、マーガリン、バター、液状油等の油脂類;乳化剤;食塩等の無機塩類;保存料;ビタミン;カルシウム等の強化剤等を例示することができる。
オリーブ、チーズ類、チョコレート、ナッツ、ごま、果実加工品などを加えたり、飾りとして使用しても良く、生地に紅茶葉やココアパウダーやインスタントコーヒー、及びこれらを煮出したもの、抹茶やすりごまやアマニ粉末などの農産品パウダー、濃縮果汁や蜂蜜、各種ビールやワインなどを混ぜ込んで製品の特徴づけを行ってもよく、製パン用折込油脂やフラワーペーストを折り込むこともでき、惣菜類や餡やジャムやクリーム類などを包餡することも可能である。
【実施例0023】
製造例1 湯種用乾熱処理小麦粉の製造
製パン用オーブンの設定温度を表1の処理温度とし、オーブンの庫内温度が設定温度に達してから、普通小麦の小麦粉(株式会社ニップン製:商品名イーグル)を、約17g/100cm2程度となるようにオーブン天板に薄く広げ、オーブンに入れた。オーブンの開閉は素早く行い、庫内の温度下降は-3℃以内とした。庫内の温度が-3℃以上は下がらない程度にオーブン扉を適宜開け、開けた隙間から放射温度計を使用して小麦粉の品温を測定し、小麦粉が所定の処理温度に達してからの時間を表1の処理時間として乾熱処理した。乾熱処理後、オーブンから取り出し、室温にて30分間自然放熱したものを乾熱処理小麦粉とした。測定する穀粉は、乾熱処理後、全量をビニール袋に入れて1分間振り混ぜて均質化し、その一部を試料とした。
下記湿麩量測定法に従い測定した各乾熱処理小麦粉の湿麩量を表1-1及び表1-2に示す。
【0024】
[湿麩量測定法]
グルトマチックシステム2202(perten社)を使用して測定した。
(1)10g±0.1gで秤量した小麦粉を、88μmメッシュのシートを入れたウォッシュチャンバーに投入した。
(2)4.8mlの蒸留水を小麦粉に加えた。
(3)グルトマチックの基本メソッドで測定を開始した。具体的には、小麦粉と水が20秒間混練された後、洗浄を5分間行った。
(4)手順(3)で得られたグルテンの塊をCentrifuge 2015(perten社)を用い、6000±5rpmで1分間、遠心を行った。
(5)手順(4)で脱水されたグルテンを全量回収して秤量したものを、湿麩とした。
(6)湿麩量は、以下の計算式で算出した。
湿麩量(%)=湿麩(g)/手順(1)で秤量した小麦粉(g)×100
【0025】
表1-1
【0026】
表1-2
【0027】
製造例2 湯種食パンの製造
(1)乾熱処理した小麦粉(株式会社ニップン製:商品名 イーグル)20質量部、食塩2質量部、熱湯(80~100℃)20質量部を低速1分間、中速2分間ミキシングしたものを湯種とする。
(2)乾熱処理していない小麦粉(株式会社ニップン製:商品名 イーグル)60質量部、イースト2.3質量部、イーストフード0.1質量部、水34質量部を加え、低速2分、中速2分間ミキシングした後、4時間発酵させて中種を得た。
(3)上記湯種と中種全量に、乾熱処理していない小麦粉(株式会社ニップン製:商品名 イーグル)20質量部、上白糖5質量部、脱脂粉乳2質量部に水15質量部を加え、低速2分、中速3分、高速1分間ミキシングし、ショートニング5質量部を加えて、さらに低速1分間、中速3分間、高速5分間ミキシングして生地を得た。
(4)フロアタイムを15分間取った後、460gに分割し、ベンチタイムを20分間とった。
(5)分割した460gの生地1つをワンローフ型に入れ、ホイロを40分間とった後、210℃で30分間焼成し湯種食パンを得た。
【0028】
試験例 湯種食パンに与える乾熱処理小麦粉の影響
製造例2の(1)~(3)の配合を、表2に記載のとおりにした以外は、製造例2に従ってパンを製造した。
【0029】
表2 配合(質量部)
【0030】
表1の製造実施例の乾熱処理小麦粉を用いて、表2の配合を組み合わせて作製した生地を焼成したパン(実施例1~21及び比較例1~10)(表3-1~表3-6)を一晩室温で保存し、マルトース含量測定法に従いマルトース含量を測定した。また、パンの体積を体積測定法に従い測定した。
【0031】
[マルトース含量測定法]
(1)パンのクラム部分5.0gと超純水100mLを、5分間混和した。
(2)遠心分離(3000rpm、5分間)した上清を0.45μmフィルターに通した。
(3)ろ液を分子量3千の限外ろ過膜(ミリポア社製:Amicon Ultra)に注ぎ、遠心分離(10000rpm、20分間)を行い、限外ろ過した。
(4)ろ液を75%(v/v)アセトニトリルを分離溶媒として、ASAHIPAK NH2P-50 4Eカラムを用いてHPLCで分離した。あらかじめマルトース一水和物(関東化学株式会社製)を標準物質に用いて作成しておいた検量線をもとに、マルトースのピーク面積から濃度を算出し、100gのクラムあたりのマルトース含量(g/100gと表示)を算出した。
なお、マルトース含量と甘味(官能試験)については別途試験を行ったところ(結果は示していない)、マルトース含量が2.43g/100gと2.51g/100gの間において試験結果に差異があり、後者に良好な甘味を感じたため、2.5g/100g以上のマルトース量を甘味について効果ありと判断した。
【0032】
[体積測定法]
ワンローフ型を使用して得た焼成直後の製品を、菜種置換法により測定した。すなわち、一定容量の容器に満杯に詰めた菜種の体積から、同じ容器に焼成直後の製品と菜種を詰めて満杯にしたときの菜種の体積を差引くことで、焼成直後の体積を求め、製品のボリュームとした。ワンローフ体積が1700cc未満であると、焼きあがった製品は小さく、製品価値が低いパンとなっていたため、不適とした。
【0033】
実施例1~21ではいずれも、乾熱処理を行っていない小麦粉を用いた比較例1よりもマルトース含量(g/クラム100g)が多く、また、マルトース含量が2.5g/100g以上であり甘味を感じた。
本書には示していないが、製造実施例1~25の乾熱処理小麦粉を用いて湯種を作製し、パン生地及び湯種パン類を製造する試験を行い、マルトース含量及び体積の評価を行ったところ、湿麩量が同じ量の乾熱小麦粉を、同じ量において湯種の作製に用いた場合(例えば、製造実施例17及び20、製造実施例6、12及び25、製造実施例11、16及び19など)、マルトース含量及び体積の評価がほぼ一致する結果となった。そのため、本書では、特定の湿麩量を与える代表的な製造実施例の結果のみを以下の実施例では用いた。
湿麩量が17質量%を超える量の乾熱処理小麦粉を湯種用小麦粉として使用したものについては、乾熱処理を行っていない小麦粉を用いた比較例1と比べてマルトース含量がほぼ同等であった(比較例2、3)。湿麩量が17質量%以下の乾熱処理小麦粉を35質量%以上使用したものについては、甘味は増加したがパンの体積が不足し製品としての価値が低いものであった(比較例5、7、及び9)。一方、パン生地に用いられる小麦粉中の、湿麩量が0~17質量%の乾熱処理小麦粉の使用割合が35質量%以下の範囲で増加すると、マルトース含量も増加し、甘味が強くなる傾向にあった。特に湯種用小麦粉としての使用量が8質量%程度より多くなると、使用量が5質量%程度の比較例4、6、8及び10と比べてマルトース含量が高くなり甘味が強くなる傾向にあり、好ましいことがわかった。
また、小麦粉全質量に対する全小麦粉中の湿麩の合計量(質量%)(表では「全小麦粉中の湿麩量」)が17.0~22.5質量%の範囲にある場合(実施例1~21)、マルトース含量が2.5g/100g以上となり甘味が強く、また焼成後のパンの体積が1700cc以上となり良好であった。
【0034】
表3-1
【0035】
表3-2
【0036】
表3-3
【0037】
表3-4
【0038】
表3-5
【0039】
表3-6