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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022119323
(43)【公開日】2022-08-17
(54)【発明の名称】ベーカリー用浸漬液
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20220809BHJP
   A21D 13/40 20170101ALI20220809BHJP
   A23D 7/005 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
A23D7/00 504
A21D13/40
A23D7/005
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021016359
(22)【出願日】2021-02-04
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100209495
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 さおり
(72)【発明者】
【氏名】舟川 奈都記
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B026DC07
4B026DG04
4B026DH01
4B026DL01
4B026DL02
4B026DL03
4B026DL07
4B026DL10
4B026DP01
4B026DX04
4B032DB01
4B032DK01
4B032DK12
4B032DK14
4B032DK15
4B032DK18
4B032DK19
4B032DK29
4B032DK42
4B032DK48
4B032DK49
4B032DL03
4B032DL06
4B032DP80
(57)【要約】
【課題】保存性が高く、ベーカリー製品に対する浸透性が良好であり、ソフトでしっとりし且つ風味良好なフレンチトースト様食品を、安定的に得ることができるベーカリー製品浸漬液、及び、該特徴を有するフレンチトースト様食品の製造方法を提供すること。
【解決手段】エステル交換油脂を含有する酸性水中油型乳化組成物であることを特徴とするベーカリー用浸漬液。好ましくは該ベーカリー用浸漬液を水性液で希釈して使用する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステル交換油脂を含有する酸性水中油型乳化組成物であることを特徴とするベーカリー用浸漬液。
【請求項2】
上記酸性水中油型乳化組成物が、酵素処理卵黄を含有することを特徴とする請求項1に記載のベーカリー用浸漬液。
【請求項3】
上記酸性水中油型乳化組成物の油脂含有量が10~60質量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載のベーカリー用浸漬液。
【請求項4】
上記酸性水中油型乳化組成物の甘味度30超の糖類の含有量が1~15質量%であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のベーカリー用浸漬液。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のベーカリー用浸漬液を用いたフレンチトースト様食品。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載のベーカリー用浸漬液をベーカリー食品に含侵させた後、加熱することを特徴とするフレンチトースト様食品の製造方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載のベーカリー用浸漬液を水性液で希釈し、ベーカリー食品に含侵させた後、加熱することを特徴とするフレンチトースト様食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレンチトースト様食品の製造に使用するための、ベーカリー用浸漬液に関する。
【背景技術】
【0002】
フレンチトーストとは、老化して硬くなったパンを再生する一方法として古くから食されてきたもので、パン全体に、卵類、牛乳、糖類からなる、いわゆる浸漬液を染み込ませた後に加熱し、しっとりと柔らかくさせた加工食品である。
【0003】
フレンチトーストの一般的な製法は、バット等に入れた浸漬液に、厚さ10mm~30mm程度にスライスした食パン、或いはフランスパンを20分~一晩浸漬し、さらに必要に応じ、砂糖やシナモン等の風味原料を振り掛け、これをフライパン、或いはオーブンで焼成する、というものである。
【0004】
すなわち、フレンチトーストとは、常温で液状、且つ加熱により凝固するという卵の特性を利用し、浸漬液の水分によりパン組織に過剰の水分を含ませ、且つ卵を凝固させた卵ゲルの物性を付与することにより、老化して硬くなったパンにしっとりとしたソフトな食感を再付与したものである。
【0005】
ただし、このフレンチトーストの製造方法は手間と時間がかかるため、家庭のお菓子や小規模の生産の場合は問題ないが、大規模な工場生産には不適である。
【0006】
さらに、浸漬液の主要原料である卵は大変保存性の悪いものであるため、使用の度に割卵や、冷凍卵の解凍などの作業が必要であり、また、長時間浸漬液を保存しておくことも不可能であるため、大変作業性が悪い問題があった。
【0007】
また、卵液は浸漬中や加熱中に水分が飛びやすく、そのためベーカリー食品への均質な浸漬が難しく、表面が均質に仕上がらない問題があった。
【0008】
そして、このフレンチトーストは水分含量が高いことから保存性が低いことに加え、短時間で水分が蒸発減少し、硬い食感になってしまう問題があった。
【0009】
ここで、水相に卵を使用した乳化油脂を浸漬液として使用すると、上記卵液の保存性の問題、浸漬性の問題、食感の問題、さらには保存性の問題をすべて同時に解決することが可能であるため、様々な乳化油脂が提案されている。
【0010】
例えば、流動状の酸性水中油型乳化物を使用する方法(例えば特許文献1参照)、甘味度30超の糖類の含有量が15質量%以上、油脂含量5質量%以上であり、乳化物中の油滴の体積基準のメディアン径が2μm以下の水中油型乳化物を使用する方法(例えば特許文献2参照)、リゾリン脂質を含有し、炭水化物を20~70質量%含有することで水分活性を低下させた濃縮フレンチトースト用食品を水又は乳で希釈して用いる方法(例えば特許文献3参照)、ペクチン及び/又は大豆多糖類等の乳蛋白質の凝集抑制成分を含有する卵液を使用する方法(例えば特許文献4参照)などの検討が行われてきた。
【0011】
特許文献1に記載の方法は、酸によって浸漬液の保存性が向上され、且つ、卵の加熱変性が抑制されているため、良好な品質のフレンチトースト様食品を安定的に得ることが可能であるが、油性感がやや強く感じられる問題があった。
【0012】
特許文献2や3に記載の方法は、糖により浸漬液の保存性が向上され、卵の加熱変性が抑制されているため、良好な品質のフレンチトースト様食品を安定的に得ることが可能であるが、甘味がやや強いものに限定されてしまうという問題や、焦げを生じやすい問題があった。
【0013】
特許文献4に記載の方法は、酸に加え、ペクチンに代表される卵の加熱変性抑制作用により、浸透性は改善されるが、食感がやや悪化してしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2005-253426号公報
【特許文献2】特開2019-092437号公報
【特許文献3】特開2016-039780号公報
【特許文献4】特開2004-008017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、本発明の目的は、保存性が高く、ベーカリー製品に対する浸透性が良好であり、ソフトでしっとりし且つ風味良好なフレンチトースト様食品を、安定的に得ることができるベーカリー製品浸漬液、及び、該特徴を有するフレンチトースト様食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、油相に特定の油脂を使用した酸性水中油型乳化組成物を用いることにより、上記問題を解決しうることを知見した。
すなわち、本発明は、エステル交換油脂を含有する酸性水中油型乳化組成物であることを特徴とするベーカリー用浸漬液を提供するものである。
また、本発明は、該ベーカリー用浸漬液を用いたフレンチトースト様食品を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明のベーカリー製品浸漬液を使用することにより、ソフトでしっとりし且つ風味良好なフレンチトースト様食品を、安定的に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のベーカリー用浸漬液について詳細に述べる。
【0019】
まず、本発明で使用する酸性水中油型乳化組成物について述べる。
【0020】
上記酸性水中油型乳化組成物の油相に使用する油脂としては、食用に適する油脂であればよく、その代表例としては、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ハイオレイックサフラワー油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、サル脂、マンゴ脂、乳脂、牛脂、豚脂、魚油等の動植物性油脂が挙げられ、更に、これらの油脂に硬化、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理を施した油脂のうちの1種又は2種以上を使用することができるが、本発明では、エステル交換油脂を必須成分として使用する。
【0021】
エステル交換油脂を使用することにより、乳化性の向上効果及び加熱焼成後の固化性を向上させ、油性感を低減することができる。
【0022】
本発明では、エステル交換油脂を油相中の10質量%以上、好ましくは25質量%以上使用することが好ましい。
【0023】
なお、上限については、焼成後の適度の油分分離を発生させるために、エステル交換油を油脂中の80質量%以下、好ましくは60質量%以下とすることが好ましい。
【0024】
上記酸性水中油型乳化組成物における油脂含有量は特に制限はないが、好ましくは10~60質量%、より好ましくは15~50質量%、さらに好ましくは15~40質量%である。
【0025】
5質量%より小さいと、加熱時に卵成分や水相成分中の固形分由来のダマを生じやすくなってしまう。また、60質量%を超えると、酸性水中油型乳化組成物の乳化安定性が低下してしまう問題があることに加え、得られるフレンチトースト様食品の油性感が高くなってしまう場合がある。
【0026】
上記酸性水中油型乳化組成物は、酸や酸味料、必要に応じ水を使用して、水相のpHを酸性とする。
【0027】
上記のpHの調整に用いる酸や酸味料としては、乳酸、クエン酸、グルコン酸、アジピン酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、食酢(酢酸)、果汁、発酵乳等が挙げられ、これらを単独で用いるか又は二種以上を組み合わせて用いることができるが、食酢(酢酸)を使用することが好ましい。
【0028】
ここで、上記酸性水中油型乳化組成物の水相のpHは、好ましくは2.0~5.5、より好ましくは2.5~5.0、最も好ましくは2.8~4.5の範囲である。pHが2.0未満であると、得られるフレンチトースト様食品の酸味が強すぎるおそれがあり、また、pHが5.5を超えると、得られるフレンチトースト様食品の表面が滑らかなものとなりにくい。
【0029】
上記酸性水中油型乳化組成物において、上記の酸や酸味料の使用量及び水の使用量は、水相のpHが酸性、好ましくはpHが2.0~5.5となるように、使用する酸の種類等に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは、酸や酸味料の使用量は0.1~20質量%の範囲、水の使用量は20~70質量%の範囲からそれぞれ選択する。
【0030】
また上記酸性水中油型乳化組成物では、卵黄類を好ましくは1~20質量%、より好ましくは3~15質量%、さらに好ましくは5~15質量%含有するものであることが好ましい。
【0031】
卵黄類の含有量が20質量%より大きいと、得られる酸性水中油型乳化組成物の粘度が上昇しやすく、また、1質量%より小さいと、酸性水中油型乳化組成物の水中油型乳化が不安定となってしまうおそれがある。
【0032】
上記の卵黄類としては、全卵、卵黄、加塩卵黄、加塩全卵、加糖全卵、加糖卵黄、乾燥全卵、乾燥卵黄、凍結全卵、凍結卵黄、凍結加糖全卵、凍結加糖卵黄、酵素処理全卵、酵素処理卵黄等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができるが、本発明では酸性水中油型乳化物の乳化安定性、特に、焼成時の耐熱乳化安定性の向上のために酵素処理卵黄を使用することが好ましい。
【0033】
ここで、乾燥品を用いた場合は、生卵黄に換算して含量を算出するものとする。
【0034】
また、上記卵黄類に塩分や糖分などが含まれる場合は、純卵黄分を算出するものとする。なお、上記卵黄類に糖分が含まれる場合は、該糖分は、下記糖類の含有量に算入する。
【0035】
ここで上記酵素処理卵黄について以下に述べる。
【0036】
上記酵素処理卵黄において、基質である卵黄の酵素処理の際に用いる酵素としては、ホスホリパーゼAやプロテアーゼを使用することができる。上記ホスホリパーゼAは、リン脂質加水分解酵素とも呼ばれ、リン脂質をリゾリン脂質に分解する反応を触媒する酵素であり、豚等の哺乳類の膵液や、微生物を起源とした市販のホスホリパーゼAを使用することができる。
【0037】
また、上記プロテアーゼは、蛋白質を加水分解する反応を触媒する酵素であり、植物、動物、微生物を起源とした、例えばパイナップルを起源としたブロメライン、パパイヤを起源としたパパイン、哺乳類の膵液を起源としたトリプシン、哺乳類の胃液を起源としたペプシン、カビ由来のプロテアーゼ等、市販のプロテアーゼを使用することができ、特にブロメラインが最適である。
【0038】
卵黄の酵素処理の際、ホスホリパーゼAのみを用いてもよいし、プロテアーゼのみを用いてもよいし、ホスホリパーゼAとプロテアーゼを併用してもよい。
【0039】
また、上記酸性水中油型乳化組成物では、糖類を、固形分として、好ましくは1~30質量%、より好ましくは5~20質量%、さらに好ましくは5~14質量%使用する。糖類の配合割合が30質量%より大きいと、得られる酸性水中油型乳化組成物の粘度が著しく上昇し、浸透性が低下してしまう可能性があることに加え、加熱時に焦げを生じる可能性もある。また、1質量%未満であると、酸性水中油型乳化組成物の水中油型乳化が不安定となってしまうおそれがある。
【0040】
なお、使用する糖類が液状の場合は、上記含有量については固形分で算出するものとする。
【0041】
上記の糖類としては、上白糖、グラニュー糖、粉糖、蔗糖、液糖、はちみつ、ブドウ糖、果糖、黒糖、麦芽糖、乳糖、シクロデキストリン、酵素糖化水飴、酸糖化水飴、還元ポリデキストロース、還元乳糖、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、パラチニット、ラクチトール、直鎖オリゴ糖アルコール、分岐オリゴ糖アルコール、高糖化還元水飴、還元麦芽糖水飴、還元水飴、異性化液糖、ショ糖結合水飴、オリゴ糖、キシロース、トレハロース、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、アラビノース、パラチノースオリゴ糖、アガロオリゴ糖、キチンオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ヘミセルロース、モラセス、イソマルトオリゴ糖、マルトオリゴ糖、カップリングシュガー、ラフィノース、ラクチュロース、テアンデオリゴ糖、ゲンチオリゴ糖等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0042】
特に、本発明では、甘味度30超の糖類の含有量が1~15質量%、好ましくは1~10質量%であることが好ましい。甘味度30超の糖類の含有量が15質量%超であると、加熱時に焦げを生じる可能性もある。また、1質量%未満であると、加熱時にダマになりやすく、また、得られるフレンチトースト様食品も、ソフトでしっとりした食感が得られにくい。
【0043】
なお、本明細書において、甘味度とは、ショ糖の甘味を100としたときの各種甘味料の甘味の強さを相対値として表したものである。
【0044】
上記甘味度30超の糖類としては、上白糖、グラニュー糖、粉糖、ブドウ糖、果糖、蔗糖、麦芽糖、乳糖、酵素糖化水飴、還元澱粉糖化物、異性化液糖、蔗糖結合水飴、オリゴ糖、還元ポリデキストロース、還元乳糖、還元水飴、還元パラチノース、ソルビトール、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノース、パラチノースオリゴ糖、はちみつ等が挙げられる。本発明では、これらの中から選ばれた1種又は2種以上の糖類を用いることができる。
【0045】
また、上記酸性水中油型乳化組成物では、増粘安定剤を好ましくは0.01~15質量%、より好ましくは0.1~8質量%使用する。
【0046】
上記増粘安定剤としては、例えば、グアーガム、タマリンドガム、キサンタンガム、カラギーナン、ペクチン、微結晶セルロース、ファーセレラン、寒天、ゼラチン、ジェランガム、グルコマンナン、アルギン酸、アルギン酸塩、カードラン、ローカストビーンガム、アラビアガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、卵白粉末等の増粘多糖類やゲル化剤、澱粉、糊化澱粉、糊化化工澱粉等の澱粉類を挙げることができる。
【0047】
上記酸性水中油型乳化組成物では、上記増粘安定剤の中でも、増粘多糖類やゲル化剤と、澱粉類とを併用することが好ましく、より好ましくは、キサンタンガム、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム及びアルギン酸からなる群から選択される1種又は2種以上と、タピオカ澱粉由来の糊化澱粉、タピオカ澱粉由来の糊化化工澱粉、ワキシーコーンスターチ由来の糊化澱粉、及びワキシーコーンスターチ由来の糊化化工澱粉からなる群から選択される1種又は2種以上の澱粉類とを併用する。
【0048】
また、上記酸性水中油型乳化組成物には、マヨネーズ、タルタルソース、乳化型サラダドレッシング等の酸性水中油型乳化組成物に使用されることが知られている副原料を、本発明の目的を損なわない限り、任意に使用することができる。
【0049】
該副原料としては、トマト、チーズ、カレー粉、胡椒等の香辛料や香辛料抽出物といった風味原料や、レシチン、リゾレシチン、グリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤、高甘味度甘味料、グルタミン酸ナトリウム等の調味料、香料、酸化防止剤、食塩、蛋白質、着色料、ピクルス等の野菜類等が挙げられる。
【0050】
また、上記蛋白質としては、カゼイン、ホエイ蛋白質、乳脂肪球被膜蛋白質等の乳蛋白質、卵白、大豆蛋白質、えんどう豆蛋白等の植物蛋白質等が挙げられる。上記酸性水中油型乳化組成物は、焼成時の耐熱性、特に焼成時の内生地との接着性の向上のために、卵白を固形分として好ましくは0.1~5質量%、より好ましくは0.2~1質量%含有するものであることが好ましい。
【0051】
上記副原料の使用量は、使用目的等に応じて適宜選択することができるが、上記酸性水中油型乳化組成物において好ましくは合計で15質量%以下とする。
【0052】
上記酸性水中油型乳化組成物は、例えば以下のようにして得ることができる。まず、水に、食酢等の酸や酸味料、加塩卵黄等の卵黄類、食塩、水飴等の糖類、辛子粉等の香辛料等の水溶性成分を分散溶解させた水相を調製し、また、液状油やエステル交換油脂等の油脂に、油溶性成分や、必要により増粘安定剤等を分散させた油相を調製する。次いで、水相を撹拌しつつ油相を加え、水中油型予備乳化物を得る。該水中油型予備乳化物をコロイドミル等の乳化機、ホモゲナイザー等の均質化機で処理し仕上げ乳化を行ない、上記酸性水中油型乳化組成物が得られる。
【0053】
また、上記酸性水中油型乳化組成物中の油粒子の平均粒径は、20μm以下が好ましく、10μm以下がさらに好ましく、5μm以下が最も好ましい。20μmを超えると、酸性水中油型乳化組成物の乳化安定性が低下しやすく、保存時に油分分離等が発生する危険性もあるので好ましくない。なお、上記平均粒径は、例えば、島津製作所のレーザー回折式粒度分布測定機(SALD-2100型)や光学顕微鏡で測定することができる。
【0054】
次に、本発明のベーカリー浸漬液について詳細に説明する。
【0055】
本発明のベーカリー浸漬液は、上記酸性水中油型乳化組成物を使用したものである。
【0056】
なお、浸漬液として使用する際に、水、牛乳等の水性液で、好ましくは2~10倍、より好ましくは3~6倍に希釈して使用してもよい。
【0057】
そして本発明のベーカリー浸漬液は、ベーカリー製品に含浸させ、加熱することにより、フレンチトースト様食品を製造することができる。
【0058】
ここで上記ベーカリー製品としては、特に限定されるものではないが、例えば、食パン、バラエティブレッド、菓子パン、フランスパン、イギリスパン、ライ麦パン、デニッシュ・ペストリー、イングリッシュマフィン、グリッシーニ、コーヒーケーキ、ブリオッシュ、シュトーレン、パネトーネ、クロワッサン、イーストパイ、ピタ、ナン、マフィン、蒸しパン、イーストドーナツ、ワッフル、パイ等のパン類や、スナックカステラ、バターケーキ、スポンジケーキ、シフォンケーキ、サンドケーキ等のケーキ類が挙げられる。
【0059】
上記ベーカリー製品がパン類の場合は、表面が焼成によって硬化しているため、本発明のベーカリー浸漬液を含浸させることが難しい場合がある。そのため、好ましくはスライスしたパン、より好ましくはスライスした食パン、フランスパン、イギリスパンを用いる。ケーキ類の場合も、パン類ほどではないが、表面が硬いため、スライスしたものを用いるのが好ましく、バターケーキ、スポンジケーキ等をスライスして用いるのがよい。
【0060】
すなわち、本発明のフレンチトースト様食品の製造方法は、ベーカリー製品に対し、エステル交換油脂を含有する酸性水中油型乳化物を含浸させたのち、加熱することを特徴とする。
【0061】
上記含浸方法は、特に限定されるものではないが、塗布、浸漬、スプレー等の方法によって、上記酸性水中油型乳化物をベーカリー製品に対し、含浸させることができる。
【0062】
本発明のフレンチトースト様食品を得る際の、ベーカリー製品への含浸量は、ベーカリー製品100質量部に対し、好ましくは20~300質量部、さらに好ましくは30~200質量部、最も好ましくは35~120質量部である。20質量部以上とすることで、フレンチトーストの様相を呈さない食味が淡い食品となってしまうことを防止できる。300質量部以下とすることで、フレンチトースト様食品の保型性を向上させ、手で持って食することができないくらいの柔らかい食品となることを一層確実に防止できる。
【0063】
なお、ここでいう含浸量は、ベーカリー製品に水中油型乳化物を含浸させることでベーカリー製品に保持された水中油型乳化物の量を指し、含浸前後のベーカリー製品の質量差により求められる。
【0064】
なお、含浸の際に、上記水中油型乳化物以外に、その他の成分、例えば、シナモン、香辛料、ハム、ザラメ糖等を別途付着させてもよい。
【0065】
なお、上記水中油型乳化物を含浸させる際は、水中油型乳化物を、必要に応じ加温することで粘度を下げることが可能である。
【0066】
また、上記のように、浸漬液として使用する際に、水、牛乳等の水性液で、好ましくは2~10倍、より好ましくは3~6倍に希釈して使用してもよい。
【0067】
また、上記水中油型乳化物を含浸させる際は、減圧下で含浸させる方法や、遠心法を使用することも可能である。
【0068】
上記水中油型乳化物を含浸させたベーカリー製品を加熱する方法としては一般的な方法でよく、例えば、ホットプレートやオーブンやジェットオーブンで焼成、フライパン等で加熱、蒸し器で蒸す、或いはマイクロ波により加熱する等の方法がある。
【0069】
上記水中油型乳化物を含浸させたベーカリー製品を加熱することで、本発明のフレンチトースト様食品が得られる。本明細書において、フレンチトースト様食品とは、パンやケーキに、卵を多く含有する浸漬液や卵液を浸漬させてから加熱し、卵の凝固力を使用して得られる通常のフレンチトーストと同様の外観、風味、食感を有している食品を意味し、いわゆるフレンチトーストそのものも含む。ただし、風味については卵風味以外に乳風味、カカオ風味、コーヒー風味、ピザ風味、トマト風味等の呈味が付与されたものも含むものとする。これらの風味成分については上記の水中油型乳化物中に配合してもよいが、上記希釈時に希釈液としてこれらの風味液を使用したり、水や牛乳に含有させてもよい。フレンチトースト様食品にはベーカリー製品の製造をフレンチトーストのように型なしで加熱するものに限定されず、パンプディングのように型に入れてオーブンで加熱するものも含まれる。
【0070】
本発明のフレンチトースト様食品の加熱条件は、オーブンの種類や、フレンチトースト様食品の種類によって異なるが、固定式のオーブンの場合は好ましくは120~270℃で、さらに好ましくは130~210℃、さらに最も好ましくは、160~200℃である。またジェットオーブンの場合は好ましくは200~330℃で、さらに好ましくは230~280℃である。
【0071】
このようにして得られたフレンチトースト様食品は、ソフトでしっとりし且つ風味良好であり、冷蔵保管した場合においても老化が抑制され、長期にわたり良好な食感を保持したものとなる。
【実施例0072】
以下に実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0073】
<酸性水中油型乳化組成物の製造>
〔製造例1〕
水35質量部、砂糖混合果糖ブドウ糖液糖(糖分70質量%、水分30質量%)10質量部、食酢(酢酸含量15質量%)7質量部、食塩3質量部、グルタミン酸ナトリウム1質量部、からし粉0.4質量部、粉末ゼラチン2質量部、アルギン酸0.5質量部及び、酵素処理(ホスホリパーゼA処理)した10%加塩卵黄7質量部を混合して水相を調製した。別に、菜種サラダ油20質量部、パームスーパーオレインのランダムエステル交換油10質量部、ワキシーコーンスターチをリン酸架橋後に糊化した糊化化工澱粉3質量部、卵白粉末1質量部、及びキサンタンガム0.1質量部を混合して油相を調製した。次いで、上記水相を撹拌しつつ上記油相を加え、水中油型予備乳化物を得、これをホモゲナイザーにて均質化し、油粒子の平均粒径が3μm以下、pHが4.0である酸性水中油型乳化組成物Aを得た。
【0074】
〔製造例2〕
製造例1における酵素処理(ホスホリパーゼA処理)した10%加塩卵黄7質量部を、10%加塩卵黄10質量部に置換し、水35質量部を33質量部に変更した以外は製造例1と同様の配合・製法で、油粒子の平均粒径が3μm以下、pHが4.0である酸性水中油型乳化組成物Bを得た。
【0075】
〔製造例3〕
製造例1における菜種サラダ油20質量部、パームスーパーオレインのランダムエステル交換油10質量部を、菜種サラダ油30質量部に置換した以外は製造例1と同様の配合・製法で、油粒子の平均粒径が3μm以下、pHが4.0である酸性水中油型乳化組成物Cを得た。
【0076】
〔製造例4〕
牛乳70質量部、グラニュー糖15質量部、卵黄15質量部を均一に混合し、フレンチトースト用卵液を得た。
【0077】
<フレンチトースト様食品の作製>
〔実施例1、2及び比較例1、2〕
上記製造例1~3で得られた酸性水中油型乳化物A~Cを、それぞれ牛乳を用いて4倍に希釈し、本発明のベーカリー浸漬液A(実施例1)、ベーカリー浸漬液B(実施例2)、ベーカリー浸漬液C(比較例1)とした。なお、比較のために製造例4で得られたフレンチトースト用卵液をベーカリー浸漬液D(比較例2)とし、以下のようにして、実施例1~2及び比較例1~2のフレンチトースト様食品を作製し、得られたそれぞれのフレンチトースト様食品について評価を行なった。
【0078】
<フレンチトースト様食品の評価>
得られたフレンチトースト様食品の外観及び内相について、下記評価方法及び評価基準により4段階で評価を行なった。
また、得られたフレンチトースト様食品を官能試験に供し、風味及び食感(ソフト性・しとり感・油性感)それぞれについて、下記評価方法及び評価基準により4段階で評価を行なった。尚、官能試験には、焼成後20℃で2時間冷却したサンプルを供した。また官能評価においては、パネラーに、事前に風味や食感が異なる複数のサンプル例を食べ比べさせて、パネラー間において風味及び食感について「良好」とする程度のすり合わせを行った。
これらの評価結果を表1に示す。
【0079】
(評価方法及び評価基準)
(1)外観:ベーカリー浸漬液の浸透性の評価を目的とし、表面の焦げの有無、表面の平滑性を目視により観察した。
◎:焦げは全く見られず、表面も平滑である。
○:少量の焦げが見られるが、表面は平滑である。
△:焦げ、及び若干のオイルオフの発生が見られ、表面は膜状になり、パンとの一体感が得られていない。
×:焦げの発生が見られ、表面は盛り上がり、パンとの一体感が全く得られていない。
【0080】
(2)内相:ベーカリー浸漬液の加熱時のダマの有無の評価を目的とし、内相のダマの有無を目視により観察した。
◎:ダマは全く見られず、均質な内相であった。
○:ほぼ均質な内相であった。
△:微細なダマが見られた。
×:ダマが多くみられ、不均質な内相であった。
【0081】
(3)風味:得られたフレンチトースト様食品について、専門パネラー10人にて風味の評価を行った。
◎:8割以上が良好と評価。
○:5割以上8割未満が良好と評価。
△:2割以上5割未満が良好と評価。
×:2割未満が良好と評価。
【0082】
(4)食感(ソフト性):得られたフレンチトースト様食品について、専門パネラー10人にてソフト感の評価を行った。
◎:8割以上が良好と評価。
○:5割以上8割未満が良好と評価。
△:2割以上5割未満が良好と評価。
×:2割未満が良好と評価。
【0083】
(5)食感(しとり感):得られたフレンチトースト様食品について、専門パネラー10人にてしとり感の評価を行った。
◎:8割以上が良好と評価。
○:5割以上8割未満が良好と評価。
△:2割以上5割未満が良好と評価。
×:2割未満が良好と評価。
【0084】
(6)食感(油性感):得られたフレンチトースト様食品について、専門パネラー10人にて油性感の評価を行った。評価については下記の4段階評価とし、一番多かった回答を表1に記載した。なお同数の場合は上位の回答を表1に記載した。
◎:油性感が感じられない。
○:油性感がほとんど感じられない。
△:やや油っぽさを感じる。
×:油っぽい。
【0085】
【表1】
【0086】
以上の結果からわかるように、製造例1~2の酸性水中油型乳化物を使用した実施例1~2のフレンチトースト様食品は、外観、内相、風味、及び食感(ソフト性、しとり感及び油性感)が良好であった。特に酵素処理卵黄を使用した製造例1の酸性水中油型乳化物を使用した実施例1のフレンチトースト様食品は、外観、内相、及び食感(ソフト性、しとり感及び油性感)が優れていた。
これに比べ、エステル交換油脂を含有しない酸性水中油型乳化物を使用した比較例1のフレンチトースト様食品は、外観及び食感(しとり感及び油性感)が不良であった。
さらに通常のフレンチトースト用浸漬液を使用した比較例2のフレンチトースト様食品は、焦げ、及び若干のオイルオフの発生が見られ、表面は膜状になり、パンとの一体感が得られていない上に、食感(しとり感)も劣っていた。