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特開2022-119800積層体、積層体の製造方法、および、電子デバイスの製造方法
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  • 特開-積層体、積層体の製造方法、および、電子デバイスの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022119800
(43)【公開日】2022-08-17
(54)【発明の名称】積層体、積層体の製造方法、および、電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20220809BHJP
   H01L 21/02 20060101ALI20220809BHJP
   B32B 7/022 20190101ALI20220809BHJP
【FI】
B32B27/00 101
H01L21/02 C
B32B7/022
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077463
(22)【出願日】2022-05-10
(62)【分割の表示】P 2019566449の分割
【原出願日】2019-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2018005558
(32)【優先日】2018-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】山田 和夫
(72)【発明者】
【氏名】照井 弘敏
(72)【発明者】
【氏名】山内 優
(57)【要約】
【課題】基板をシリコーン樹脂層および支持基材から剥離する際に、シリコーン樹脂層が基板に付着することを抑制できる積層体を提供する。
【解決手段】表面にヒドロキシ基を有する支持基材と、ヒドロキシ基を有するシリコーン樹脂層と、基板と、をこの順で備え、上記基板が、ポリイミド樹脂基板、または、ポリイミド樹脂基板およびガスバリア膜をそれぞれ少なくとも1層ずつ有する積層基板であり、上記支持基材と上記シリコーン樹脂層との間の剥離強度よりも、上記シリコーン樹脂層と上記基板との間の剥離強度の方が大きい、積層体。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にヒドロキシ基を有する支持基材と、ヒドロキシ基を有するシリコーン樹脂層と、基板と、をこの順で備え、
前記基板が、ポリイミド樹脂基板、または、ポリイミド樹脂基板およびガスバリア膜をそれぞれ少なくとも1層ずつ有する積層基板であり、
前記支持基材と前記シリコーン樹脂層との間の剥離強度よりも、前記シリコーン樹脂層と前記基板との間の剥離強度の方が大きい、積層体。
【請求項2】
前記支持基材が、ガラス板またはシリコンウエハである、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記基板が、前記積層基板であって、
前記積層基板における前記ガスバリア膜が、無機材料からなるガスバリア膜である、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
複数の前記基板および前記シリコーン樹脂層が、1つの前記支持基材上に配置される、請求項1~3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
前記ポリイミド樹脂基板と前記支持基材との熱膨張係数の差が、0~90×10-6/℃である、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
前記シリコーン樹脂層の厚さが、1μm超100μm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項7】
前記シリコーン樹脂層と前記基板との間の剥離強度が、0.3N/25mm以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項8】
前記シリコーン樹脂層を構成するシリコーン樹脂は、少なくとも、3官能オルガノシロキシ単位を含み、前記3官能オルガノシロキシ単位の割合が、全オルガノシロキシ単位に対して、20モル%以上、90モル%以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項9】
前記シリコーン樹脂層の前記基板側の表面の表面粗さRaが、0.1~20nmである、請求項1~8のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項10】
前記ポリイミド樹脂基板およびガスバリア膜をそれぞれ少なくとも1層ずつ有する積層基板が、前記シリコーン樹脂層に近い方から
ポリイミド樹脂基板/ガスバリア膜、
ガスバリア膜/ポリイミド樹脂基板、または
ガスバリア膜/ポリイミド樹脂基板/ガスバリア膜
の順に積層されている、請求項1~9のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の積層体を製造する方法であって、
前記基板上に前記シリコーン樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、
前記シリコーン樹脂層の表面に前記支持基材を積層することにより前記積層体を得る積層工程と、を備える積層体の製造方法。
【請求項12】
前記樹脂層形成工程が、基板の第1主面にシリコーン樹脂となる硬化性シリコーンを含む硬化性組成物を塗布し、必要に応じて溶媒を除去し、塗膜を形成して、塗膜中の硬化性シリコーンを硬化させて、シリコーン樹脂層とする工程を含む、請求項11に記載の積層体の製造方法。
【請求項13】
前記硬化性シリコーンがオルガノアルケニルポリシロキサンおよびオルガノハイドロジェンポリシロキサンの混合物である、請求項12に記載の積層体の製造方法。
【請求項14】
前記硬化性シリコーンが加水分解性オルガノシラン化合物または加水分解性オルガノシラン化合物を加水分解縮合反応させて得られる部分加水分解縮合物である、請求項12に記載の積層体の製造方法。
【請求項15】
請求項1~10のいずれか1項に記載の積層体の前記基板の表面上に電子デバイス用部材を形成し、電子デバイス用部材付き積層体を得る部材形成工程と、
前記電子デバイス用部材付き積層体から前記支持基材および前記シリコーン樹脂層を含むシリコーン樹脂層付き支持基材を除去し、前記基板および前記電子デバイス用部材を有する電子デバイスを得る分離工程と、を備える電子デバイスの製造方法。
【請求項16】
前記部材形成工程が、加熱処理を含む工程である、請求項15に記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項17】
前記加熱処理が、50℃以上、600℃以下で1~120分間行われる、請求項15または16に記載の電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、積層体の製造方法、および、電子デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池(PV)、液晶パネル(LCD)、有機ELパネル(OLED)、電磁波、X線、紫外線、可視光線、赤外線などを感知する受信センサーパネル等の電子デバイスの薄型化、軽量化が進行している。それに伴い、電子デバイスに用いるポリイミド樹脂基板などの基板の薄板化も進行している。薄板化により基板の強度が不足すると、基板のハンドリング性が低下し、基板上に電子デバイス用部材を形成する工程(部材形成工程)などにおいて問題が生じる場合がある。
【0003】
そこで、最近では、基板のハンドリング性を良好にするため、支持基材と、所定のシリコーン樹脂層と、基板とをこの順に有する積層体を用いる技術が提案されている(特許文献1)。この場合、まず、支持基材に所定のシリコーン樹脂層を形成し、その後、基板を積層して積層体を得る。次に、積層体の基板上に電子デバイス用部材を形成し、その後、電子デバイス用部材が形成された基板(部材付き基板)と、シリコーン樹脂層および支持基材とを分離する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】日本国特開2015-104843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1における積層体は、支持基材、シリコーン樹脂層および基板の各界面の剥離強度がコントロールされていない。
本発明者らが検討したところ、電子デバイスの製造過程における加熱処理後において、基板(部材付き基板)をシリコーン樹脂層および支持基材から剥離する際に、シリコーン樹脂層の一部または全部が基板に付着する場合があることが分かった。
【0006】
本発明は、以上の点を鑑みてなされたものであり、基板をシリコーン樹脂層および支持基材から剥離する際に、シリコーン樹脂層が基板に付着することを抑制できる積層体を提供することを目的とする。
更に、本発明は、上記積層体を製造する方法、および、上記積層体を用いた電子デバイスの製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、以下の構成により上記目的を達成できることを見出した。
【0008】
[1]表面にヒドロキシ基を有する支持基材と、ヒドロキシ基を有するシリコーン樹脂層と、基板と、をこの順で備え、上記基板が、ポリイミド樹脂基板、または、ポリイミド樹脂基板およびガスバリア膜をそれぞれ少なくとも1層ずつ有する積層基板であり、上記支持基材と上記シリコーン樹脂層との間の剥離強度よりも、上記シリコーン樹脂層と上記基板との間の剥離強度の方が大きい、積層体。
[2]上記支持基材が、ガラス板またはシリコンウエハである、上記[1]に記載の積層体。
[3]上記基板が、上記積層基板であって、上記積層基板における上記ガスバリア膜が、無機材料からなるガスバリア膜である、上記[1]または[2]に記載の積層体。
[4]複数の上記基板および上記シリコーン樹脂層が、1つの上記支持基材上に配置される、上記[1]~[3]のいずれかに記載の積層体。
[5]上記ポリイミド樹脂基板と上記支持基材との熱膨張係数の差が、0~90×10-6/℃である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の積層体。
[6]上記シリコーン樹脂層の厚さが、1μm超100μm以下である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の積層体。
[7]上記シリコーン樹脂層と上記基板との間の剥離強度が、0.3N/25mm以下である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の積層体。
[8]上記シリコーン樹脂層を構成するシリコーン樹脂は、少なくとも、3官能オルガノシロキシ単位を含み、前記3官能オルガノシロキシ単位の割合が、全オルガノシロキシ単位に対して、20モル%以上、90モル%以下である、上記[1]~[7]のいずれかに記載の積層体。
[9]上記シリコーン樹脂層の前記基板側の表面の表面粗さRaが、0.1~20nmである、上記[1]~[8]のいずれかに記載の積層体。
[10]上記ポリイミド樹脂基板およびガスバリア膜をそれぞれ少なくとも1層ずつ有する積層基板が、前記シリコーン樹脂層に近い方から
ポリイミド樹脂基板/ガスバリア膜、
ガスバリア膜/ポリイミド樹脂基板、または
ガスバリア膜/ポリイミド樹脂基板/ガスバリア膜
の順に積層されている、上記[1]~[9]のいずれかに記載の積層体。
[11]上記[1]~[10]のいずれかに記載の積層体を製造する方法であって、上記基板上に上記シリコーン樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、上記シリコーン樹脂層の表面に上記支持基材を積層することにより上記積層体を得る積層工程と、を備える積層体の製造方法。
[12]上記樹脂層形成工程が、基板の第1主面にシリコーン樹脂となる硬化性シリコーンを含む硬化性組成物を塗布し、必要に応じて溶媒を除去し、塗膜を形成して、塗膜中の硬化性シリコーンを硬化させて、シリコーン樹脂層とする工程を含む、上記[11]に記載の積層体の製造方法。
[13]上記硬化性シリコーンがオルガノアルケニルポリシロキサンおよびオルガノハイドロジェンポリシロキサンの混合物である、上記[12]に記載の積層体の製造方法。
[14]上記硬化性シリコーンが加水分解性オルガノシラン化合物または加水分解性オルガノシラン化合物を加水分解縮合反応させて得られる部分加水分解縮合物である、上記[12]に記載の積層体の製造方法。
[15]上記[1]~[10]のいずれかに記載の積層体の上記基板の表面上に電子デバイス用部材を形成し、電子デバイス用部材付き積層体を得る部材形成工程と、上記電子デバイス用部材付き積層体から上記支持基材および上記シリコーン樹脂層を含むシリコーン樹脂層付き支持基材を除去し、上記基板および上記電子デバイス用部材を有する電子デバイスを得る分離工程と、を備える電子デバイスの製造方法。
[16]上記部材形成工程が、加熱処理を含む工程である、上記[9]に記載の電子デバイスの製造方法。
[17]上記加熱処理が、50℃以上、600℃以下で1~120分間行われる、上記[15]または[16]に記載の電子デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、基板をシリコーン樹脂層および支持基材から剥離する際に、シリコーン樹脂層が基板に付着することを抑制できる積層体を提供することができる。
更に、本発明によれば、上記積層体を製造する方法、および、上記積層体を用いた電子デバイスの製造方法を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、積層体を模式的に示す断面図である。
図2図2は、樹脂層形成工程を模式的に示す断面図である。
図3図3は、部材形成工程を模式的に示す断面図である。
図4図4は、分離工程を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、以下の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
【0012】
<積層体>
図1は、積層体10を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、積層体10は、表面にヒドロキシ基を有する支持基材12と、ヒドロキシ基を有するシリコーン樹脂層14と、基板16と、をこの順で備える積層体である。換言すれば、積層体10は、支持基材12および基板16と、それらの間に配置されたシリコーン樹脂層14とを含む積層体である。シリコーン樹脂層14は、一方の面が支持基材12に接し、他方の面(表面14a)が基板16の第1主面16aに接している。
【0013】
支持基材12およびシリコーン樹脂層14からなる2層部分(以下、「シリコーン樹脂層付き支持基材18」ともいう)は、基板16を補強する補強板として機能する。
【0014】
積層体10においては、支持基材12とシリコーン樹脂層14との間の剥離強度xよりも、シリコーン樹脂層14と基板16との間の剥離強度yの方が大きい。このような剥離強度の関係は、例えば、図2に示すように、基板16の第1主面16aにシリコーン樹脂層14を形成してから支持基材12を積層することにより、実現される。
【0015】
そして、積層体10に加熱処理が施されることにより、剥離強度が逆転する。すなわち、シリコーン樹脂層14と基板16との間の剥離強度yよりも、支持基材12とシリコーン樹脂層14との間の剥離強度xの方が大きくなる。
これは、加熱処理によって、支持基材12のヒドロキシ基とシリコーン樹脂層14のヒドロキシ基とが結合することにより、支持基材12とシリコーン樹脂層14との剥離強度xが増大して、相対的に、剥離強度yよりも剥離強度xの方が大きくなるためと考えられる。
その結果、加熱処理後の積層体10に、支持基材12と基板16とを引き剥がす方向の応力が加えられると、シリコーン樹脂層14と基板16との間で剥離して、基板16とシリコーン樹脂層付き支持基材18とに分離する。
こうして、加熱処理後において、基板16をシリコーン樹脂層14および支持基材12から剥離する際に、シリコーン樹脂層14が基板16に付着することを抑制できる。
【0016】
積層体10に施される加熱処理は、図3に基づいて説明する部材形成工程(基板16に電子デバイス用部材20を形成する工程)で施されてもよいし、別の工程(例えば、部材形成工程の前の工程)で施されてもよい。
加熱処理の温度(加熱温度)は、50℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、150℃以上がさらに好ましく、200℃以上が特に好ましい。
加熱温度の上限は、特に限定されないが、加熱温度が高すぎると、シリコーン樹脂層14の種類によっては、分解が生じるおそれがある。このため、加熱温度は、600℃以下が好ましく、550℃以下がより好ましく、500℃以下がさらに好ましい。
加熱処理の時間(加熱時間)は、1~120分が好ましく、5~60分がより好ましい。加熱雰囲気は、特に限定されず、大気雰囲気、不活性ガス雰囲気(例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気)などが挙げられる。
加熱処理は、温度条件を変えて段階的に実施してもよい。
【0017】
加熱処理による剥離強度の逆転を生じやすくする観点から、積層体10におけるシリコーン樹脂層14と基板16との間の剥離強度yは、大きすぎないことが好ましく、具体的には、0.3N/25mm以下が好ましく、0.1N/25mm以下がより好ましい。
剥離強度は、90°剥離試験により評価できる。すなわち、積層体10の基板16を300mm/minで引き上げて剥離し、その引上げ荷重(ピール強度)を剥離強度として評価できる。
【0018】
(多面貼り態様)
図1には、1つの基板がシリコーン樹脂層を介して支持基材に積層される態様を図示した。しかし、本発明の積層体は、この態様に限定されず、例えば、複数の基板がシリコーン樹脂層を介して支持基材に積層される態様(以下、「多面貼り態様」ともいう)であってもよい。
多面貼り態様は、より詳細には、複数の基板のいずれもが、シリコーン樹脂層を介して支持基材に接する態様である。すなわち、複数枚の基板が重なる(複数枚のうちの1枚の基板のみが、シリコーン樹脂層を介して、支持基材に接する)態様ではない。
多面貼り態様においては、例えば、個々の基板ごとに複数のシリコーン樹脂層が設けられ、複数の基板およびシリコーン樹脂層が、1つの支持基材上に配置される。もっとも、これに限定されず、例えば、1つの支持基材上に形成された1枚のシリコーン樹脂層(例えば、支持基材と同サイズ)上に、個々の基板が配置されてもよい。
【0019】
以下では、まず、積層体10を構成する各層(支持基材12、基板16、シリコーン樹脂層14)について詳述し、その後、積層体10の製造方法について詳述する。
【0020】
<支持基材>
支持基材12は、基板16を支持して補強する部材である。
支持基材12としては、表面にヒドロキシ基を有する部材であれば特に限定されず、例えば、ガラス板、シリコンウエハ(Siウエハ)などが好適に挙げられる。支持基材の表面のヒドロキシ基の有無は、例えば、顕微赤外分光分析により確認することができる。
ガラス板のガラスの種類は特に制限されないが、無アルカリホウケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダライムガラス、高シリカガラス、その他の酸化ケイ素を主な成分とする酸化物系ガラスが好ましい。酸化物系ガラスとしては、酸化物換算による酸化ケイ素の含有量が40~90質量%のガラスが好ましい。
ガラス板として、より具体的には、無アルカリホウケイ酸ガラスからなるガラス板(旭硝子株式会社製商品名「AN100」)が挙げられる。
ガラス板の製造方法は特に制限されず、通常、ガラス原料を溶融し、溶融ガラスを板状に成形して得られる。このような成形方法は、一般的なものであってよく、例えば、フロート法、フュージョン法、スロットダウンドロー法等が挙げられる。
支持基材12の厚さは、基板16よりも厚くてもよいし、薄くてもよい。積層体10の取り扱い性の点からは、支持基材12の厚さは基板16よりも厚いことが好ましい。
支持基材12がガラス板の場合、ガラス板の厚さは、扱いやすく、割れにくい等の理由から、0.03mm以上であることが好ましい。ガラス板の厚さは、基板16を剥離する際に、割れずに適度に撓むような剛性が望まれる理由から、1.0mm以下であることが好ましい。
【0021】
<基板>
基板16は、ポリイミド樹脂基板、または、ポリイミド樹脂基板およびガスバリア膜をそれぞれ少なくとも1層ずつ有する積層基板である。
【0022】
ポリイミド樹脂基板は、ポリイミド樹脂からなる基板であり、例えば、ポリイミドフィルムが用いられ、その市販品としては、東洋紡株式会社製の「ゼノマックス」、宇部興産株式会社製の「ユーピレックス25S」などが挙げられる。
ポリイミド樹脂基板上に電子デバイスの高精細な配線等を形成するために、ポリイミド樹脂基板の表面は平滑であることが好ましい。具体的には、ポリイミド樹脂基板の表面粗度Raは、50nm以下が好ましく、30nm以下がより好ましく、10nm以下がさらに好ましい。
ポリイミド樹脂基板の厚さは、製造工程でのハンドリング性の観点から、1μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。柔軟性の観点からは、1mm以下が好ましく、0.2mm以下がより好ましい。
ポリイミド樹脂基板の熱膨張係数は、電子デバイスや支持基材との熱膨張係数差が小さい方が加熱後または冷却後の積層体の反りを抑制できるため好ましい。具体的には、ポリイミド樹脂基板と支持基材との熱膨張係数の差は、0~90×10-6/℃が好ましく、0~30×10-6/℃がより好ましい。
【0023】
ガスバリア膜は、基板16の用途に応じて適宜選択できるが、無機材料からなるガスバリア膜(無機ガスバリア膜)が好適に挙げられる。
無機ガスバリア膜の材質としては、例えば、酸化ケイ素(SiOx)、窒化ケイ素(SiNx)、酸窒化ケイ素(SiOxNy)、および、酸化アルミニウム(Al)が挙げられ、窒化ケイ素(SiNx)が好ましい。ここで、xは2.0以下の数を示し、yは3分の4以下の数を示す。
無機ガスバリア膜の形成方法としては、公知の無機薄膜の形成方法を適用でき、具体的には、例えば、スパッタリング法、イオンプレーテング法、および、プラズマ化学気相成長法(以下、プラズマCVD法と略記する)が挙げられる。
無機ガスバリア膜の厚さは、基板16の用途に応じて適宜調整すればよく、特に限定されないが、5~2000nmが好ましく、50~500nmがより好ましい。
【0024】
ポリイミド樹脂基板およびガスバリア膜をそれぞれ少なくとも1層ずつ有する積層基板(以下、単に「積層基板」ともいう)の態様としては、特に限定されないが、例えば、以下の態様が挙げられる。
・態様1:ポリイミド樹脂基板/ガスバリア膜
・態様2:ガスバリア膜/ポリイミド樹脂基板
・態様3:ガスバリア膜/ポリイミド樹脂基板/ガスバリア膜
・態様4:ガスバリア膜/ポリイミド樹脂基板/ガスバリア膜/接着剤/ガスバリア膜/ポリイミド樹脂基板/ガスバリア膜
・態様5:ポリイミド樹脂基板/ガスバリア膜/ポリイミド樹脂基板/ガスバリア膜
・態様6:ガスバリア膜/ポリイミド樹脂基板/ガスバリア膜/ポリイミド樹脂基板/ガスバリア膜
上記態様1~6では、シリコーン樹脂層に近い方から順に記載している。例えば、上記態様1は、ポリイミド樹脂基板がシリコーン樹脂層に接する態様である。
上記態様4における接着材は、従来公知の接着剤であって、特に限定されない。
【0025】
積層基板におけるポリイミド樹脂基板は、通常は、あらかじめフィルム状に成形されたものをそのまま使用するが、これに限定されず、ワニスを塗布し硬化させたものでもよい。例えば、上記態様5~6においては、まず、フィルム状のポリイミド樹脂基板を用いて「ガスバリア膜/ポリイミド樹脂基板/ガスバリア膜」を作製し、その後、一方のガスバリア膜上に、ワニスを塗布し、乾燥および硬化させて、ポリイミド樹脂基板を形成してもよい。
【0026】
基板16の面積(主面の面積)は、特に制限されないが、電子デバイスの生産性の点から、300cm以上が好ましく、1000cm以上がより好ましく、6000cmがさらに好ましい。
基板16の形状も特に制限されず、矩形状であっても、円形状であってもよい。基板16には、オリエンテーションフラット(いわゆるオリフラ。基板の外周に形成された平坦部分)や、ノッチ(基板の外周縁に形成された一つまたはそれ以上のV型の切欠き)が形成されていてもよい。
【0027】
<シリコーン樹脂層>
シリコーン樹脂層14は、ヒドロキシ基を有する。
シリコーン樹脂層14は、後述するように、シリコーン樹脂により構成されている。シリコーン樹脂層14においては、このシリコーン樹脂を構成するオルガノシロキシ単位の1種であるT単位のSi-O-Si結合の一部が切れており、これにより、ヒドロキシ基が現れていると考えられる。
後述するように、シリコーン樹脂となる硬化性シリコーンとして、縮合反応型シリコーンを用いる場合には、縮合反応型シリコーンが有するヒドロキシ基が、シリコーン樹脂層14のヒドロキシ基になり得る。
【0028】
シリコーン樹脂層14の厚さは、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましい。一方、下限に関して、シリコーン樹脂層14の厚さは、1μm超が好ましく、4μm以上がより好ましい。
シリコーン樹脂層14の厚さがこのような範囲であると、シリコーン樹脂層14にクラックが生じにくく、シリコーン樹脂層14と基板16との間に気泡や異物が介在することがあっても、基板16のゆがみ欠陥の発生を抑制できる。
上記厚さは、5点以上の任意の位置におけるシリコーン樹脂層14の厚さを接触式膜厚測定装置で測定し、それらを算術平均したものである。
【0029】
シリコーン樹脂層14の基板16側の表面の表面粗さRaは特に制限されないが、基板16の積層性および剥離性がより優れる点より、0.1~20nmが好ましく、0.1~10nmがより好ましい。
表面粗さRaの測定は、JIS B 0601-2001に準じて行なわれ、任意の5箇所以上の点において測定されたRaを算術平均した値が上記表面粗さRaに相当する。
【0030】
(シリコーン樹脂)
シリコーン樹脂層14は、主に、シリコーン樹脂からなる。
一般的に、オルガノシロキシ単位には、M単位と呼ばれる1官能オルガノシロキシ単位、D単位と呼ばれる2官能オルガノシロキシ単位、T単位と呼ばれる3官能オルガノシロキシ単位、および、Q単位と呼ばれる4官能オルガノシロキシ単位がある。Q単位はケイ素原子に結合した有機基(ケイ素原子に結合した炭素原子を有する有機基)を有しない単位であるが、本発明においてはオルガノシロキシ単位(含ケイ素結合単位)とみなす。M単位、D単位、T単位、Q単位を形成するモノマーを、それぞれMモノマー、Dモノマー、Tモノマー、Qモノマーともいう。
全オルガノシロキシ単位とは、M単位、D単位、T単位、および、Q単位の合計を意味する。M単位、D単位、T単位、および、Q単位の数(モル量)の割合は、29Si-NMRによるピーク面積比の値から計算できる。
【0031】
オルガノシロキシ単位において、シロキサン結合は2個のケイ素原子が1個の酸素原子を介して結合した結合であることより、シロキサン結合におけるケイ素原子1個当たりの酸素原子は1/2個とみなし、式中O1/2と表現される。より具体的には、例えば、1つのD単位においては、その1個のケイ素原子は2個の酸素原子と結合し、それぞれの酸素原子は他の単位のケイ素原子と結合していることより、その式は-O1/2-(R)2Si-O1/2-(Rは、水素原子または有機基を表す)となる。O1/2が2個存在することより、D単位は(R)2SiO2/2(言い換えると、(R)2SiO)と表現されるのが通常である。
以下の説明において、他のケイ素原子に結合した酸素原子Oは、2個のケイ素原子間を結合する酸素原子であり、Si-O-Siで表される結合中の酸素原子を意味する。従って、Oは、2つのオルガノシロキシ単位のケイ素原子間に1個存在する。
【0032】
M単位とは、(R)3SiO1/2で表されるオルガノシロキシ単位を意味する。ここで、Rは、水素原子または有機基を表す。(R)の後に記載の数字(ここでは、3)は、水素原子または有機基が3つケイ素原子に結合することを意味する。つまり、M単位は、1個のケイ素原子と、3個の水素原子または有機基と、1個の酸素原子Oとを有する。より具体的には、M単位は、1個のケイ素原子に結合した3個の水素原子または有機基と、1個のケイ素原子に結合した酸素原子Oを有する。
D単位とは、(R)2SiO2/2(Rは、水素原子または有機基を表す)で表されるオルガノシロキシ単位を意味する。つまり、D単位は、1個のケイ素原子を有し、そのケイ素原子に結合した2個の水素原子または有機基と、他のケイ素原子に結合した酸素原子Oを2個有する単位である。
T単位とは、RSiO3/2(Rは、水素原子または有機基を表す)で表されるオルガノシロキシ単位を意味する。つまり、T単位は、1個のケイ素原子を有し、そのケイ素原子に結合した1個の水素原子または有機基と、他のケイ素原子に結合した酸素原子Oを3個有する単位である。
Q単位とは、SiO2で表されるオルガノシロキシ単位を意味する。つまり、Q単位は、1個のケイ素原子を有し、他のケイ素原子に結合した酸素原子Oを4個有する単位である。
有機基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;ハロゲン化アルキル基(例えば、クロロメチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等)等のハロゲン置換の一価の炭化水素基が挙げられる。有機基としては、炭素数1~12(好ましくは炭素数1~10程度)の、非置換またはハロゲン置換の一価の炭化水素基が好ましい。
【0033】
シリコーン樹脂層14を構成するシリコーン樹脂は、その構造は特に制限されないが、少なくとも、オルガノシロキシ単位として、T単位を含むことが好ましい。
上記特定オルガノシロキシ単位の割合が、全オルガノシロキシ単位に対して、20モル%以上が好ましく、30モル%以上がより好ましく、60モル%以上がさらに好ましい。上限は特に制限されないが、90モル%以下の場合が多い。
【0034】
(硬化性シリコーン)
シリコーン樹脂は、通常、硬化処理によってシリコーン樹脂となり得る硬化性シリコーンを硬化(架橋硬化)して得られる。つまり、シリコーン樹脂は、硬化性シリコーンの硬化物に相当する。
硬化性シリコーンは、その硬化機構により縮合反応型シリコーン、付加反応型シリコーン、紫外線硬化型シリコーンおよび電子線硬化型シリコーンに分類されるが、いずれも使用することができる。
【0035】
縮合反応型シリコーンとしては、モノマーである加水分解性オルガノシラン化合物若しくはその混合物(モノマー混合物)、または、モノマーもしくはモノマー混合物を部分加水分解縮合反応させて得られる部分加水分解縮合物(オルガノポリシロキサン)を好適に用いることができる。部分加水分解縮合物とモノマーとの混合物であってもよい。モノマーは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
この縮合反応型シリコーンを用いて、加水分解・縮合反応(ゾルゲル反応)を進行させることにより、シリコーン樹脂を形成できる。
【0036】
上記モノマー(加水分解性オルガノシラン化合物)は、通常、(R’-)Si(-Z)4-aで表される。ただし、aは0~3の整数、R’は水素原子または有機基、Zはヒドロキシ基または加水分解性基を表す。この化学式において、a=3の化合物がMモノマー、a=2の化合物がDモノマー、a=1の化合物がTモノマー、a=0の化合物がQモノマーである。モノマーにおいて、通常、Z基は加水分解性基である。R’が2または3個存在する場合(aが2または3の場合)、複数のR’は異なっていてもよい。
【0037】
部分加水分解縮合物である硬化性シリコーンは、モノマーのZ基の一部を酸素原子Oに変換する反応により得られる。モノマーのZ基が加水分解性基の場合、Z基は加水分解反応によりヒドロキシ基に変換され、次いで別々のケイ素原子に結合した2個のヒドロキシ基の間における脱水縮合反応により、2個のケイ素原子が酸素原子Oを介して結合する。硬化性シリコーン中にはヒドロキシ基(または加水分解しなかったZ基)が残存し、硬化性シリコーンの硬化の際にこれらヒドロキシ基やZ基が上記と同様に反応して硬化する。硬化性シリコーンの硬化物は、通常、3次元的に架橋したポリマー(シリコーン樹脂)となる。
【0038】
モノマーのZ基が加水分解性基である場合、そのZ基としては、アルコキシ基、ハロゲン原子(例えば、塩素原子)、アシルオキシ基、イソシアネート基等が挙げられる。多くの場合、モノマーとしてはZ基がアルコキシ基のモノマーが使用され、このようなモノマーはアルコキシシランとも称される。
アルコキシ基は塩素原子等の他の加水分解性基と比較すると反応性の比較的低い加水分解性基であり、Z基がアルコキシ基であるモノマー(アルコキシシラン)を使用して得られる硬化性シリコーン中にはZ基としてヒドロキシ基と共に未反応のアルコキシ基が存在することが多い。
【0039】
上記縮合反応型シリコーンとしては、反応の制御や取り扱いの面から、加水分解性オルガノシラン化合物から得られる部分加水分解縮合物(オルガノポリシロキサン)が好ましい。部分加水分解縮合物は、加水分解性オルガノシラン化合物を部分的に加水分解縮合させて得られる。部分的に加水分解縮合させる方法は、特に制限されない。通常は、加水分解性オルガノシラン化合物を溶媒中、触媒存在下で反応させて製造される。触媒としては、酸触媒およびアルカリ触媒が挙げられる。加水分解反応には通常、水を使用することが好ましい。部分加水分解縮合物としては、溶媒中で加水分解性オルガノシラン化合物を酸またはアルカリ水溶液の存在下で反応させて製造された物が好ましい。
使用される加水分解性オルガノシラン化合物の好適態様としては、上述したように、アルコキシシランが挙げられる。つまり、硬化性シリコーンの好適態様の一つとしては、アルコキシシランの加水分解反応および縮合反応により得られた硬化性シリコーンが挙げられる。
アルコキシシランを使用した場合、部分加水分解縮合物の重合度が大きくなりやすく、本発明の効果がより優れる。
【0040】
付加反応型シリコーンとしては、主剤および架橋剤を含み、白金触媒等の触媒の存在下で硬化する硬化性の組成物が好適に使用できる。付加反応型シリコーンの硬化は、加熱により促進される。付加反応型シリコーン中の主剤は、ケイ素原子に結合したアルケニル基(ビニル基等)を有するオルガノポリシロキサン(すなわち、オルガノアルケニルポリシロキサン。直鎖状が好ましい)であることが好ましく、アルケニル基等が架橋点となる。付加反応型シリコーン中の架橋剤は、ケイ素原子に結合した水素原子(ハイドロシリル基)を有するオルガノポリシロキサン(すなわち、オルガノハイドロジェンポリシロキサン。直鎖状が好ましい)であることが好ましく、ハイドロシリル基等が架橋点となる。付加反応型シリコーンは、主剤と架橋剤の架橋点が付加反応をすることにより硬化する。架橋構造に由来する耐熱性がより優れる点で、オルガノアルケニルポリシロキサンのアルケニル基に対する、オルガノハイドロジェンポリシロキサンのケイ素原子に結合した水素原子のモル比が0.5~2であることが好ましい。
【0041】
上記縮合反応型シリコーンおよび付加反応型シリコーン等の硬化性シリコーンの重量平均分子量(Mw)は特に制限されないが、5,000~60,000が好ましく、5,000~30,000がより好ましい。Mwが5,000以上だと塗布性の観点で優れており、Mwが60,000以下だと溶媒への溶解性、塗布性の観点でよい。
【0042】
(硬化性組成物)
上述したシリコーン樹脂層14の製造方法は特に制限されず、公知の方法を採用できる。なかでも、シリコーン樹脂層14の生産性が優れる点で、シリコーン樹脂層14の製造方法としては、基板16の第1主面16aに上記シリコーン樹脂となる硬化性シリコーンを含む硬化性組成物を塗布して、必要に応じて溶媒を除去して、塗膜を形成して、塗膜中の硬化性シリコーンを硬化させて、シリコーン樹脂層14とすることが好ましい。
上述したように、硬化性シリコーンとしては、モノマーである加水分解性オルガノシラン化合物、および/または、モノマーを部分加水分解縮合反応させて得られる部分加水分解縮合物(オルガノポリシロキサン)が使用できる。硬化性シリコーンとしては、オルガノアルケニルポリシロキサンおよびオルガノハイドロジェンポリシロキサンの混合物も使用できる。
【0043】
硬化性シリコーンとして付加反応型シリコーンを用いる場合、必要に応じて、硬化性組成物は、他の金属元素を含む金属化合物として、白金触媒を含んでいてもよい。
白金触媒は、上記オルガノアルケニルポリシロキサン中のアルケニル基と、上記オルガノハイドロジェンポリシロキサン中の水素原子とのヒドロシリル化反応を、進行・促進させるための触媒である。
【0044】
硬化性組成物には溶媒が含まれていてもよく、その場合、溶媒の濃度の調整により塗膜の厚さを制御できる。なかでも、取扱い性に優れ、シリコーン樹脂層14の膜厚の制御がより容易である点から、硬化性シリコーンを含む硬化性組成物中における硬化性シリコーンの含有量は、組成物全質量に対して、1~80質量%が好ましく、1~50質量%がより好ましい。
溶媒としては、作業環境下で硬化性シリコーンを容易に溶解でき、かつ、容易に揮発除去できる溶媒であれば、特に制限されない。具体的には、例えば、酢酸ブチル、2-ヘプタノン、1-メトキシ-2-プロパノールアセテート、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
さらに、溶媒としては、「Isoper G」(東燃ゼネラル石油株式会社製)などの市販品も使用できる。
【0045】
硬化性組成物には、種々の添加剤が含まれていてもよい。例えば、レベリング剤が含まれていてもよい。レベリング剤としては、メガファックF558、メガファックF560、メガファックF561(いずれもDIC株式会社製)等のフッ素系のレベリング剤が挙げられる。
【0046】
硬化性組成物には、添加剤として、金属化合物が含まれていてもよい。
金属化合物に含まれる金属元素としては、3d遷移金属、4d遷移金属、ランタノイド系金属、ビスマス(Bi)、アルミニウム(Al)、および、スズ(Sn)などが挙げられる。
3d遷移金属としては、周期表第4周期の遷移金属、すなわち、スカンジウム(Sr)~銅(Cu)の金属が挙げられる。具体的には、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、および、銅(Cu)が挙げられる。
4d遷移金属としては、周期表第5周期の遷移金属、すなわち、イットリウム(Y)~銀(Ag)の金属が挙げられる。具体的には、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、および、銀(Ag)が挙げられる。
ランタノイド系金属としては、ランタン(La)~ルテチウム(Lu)の金属が挙げられる。具体的には、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロジウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、および、ルテチウム(Lu)が挙げられる。
金属化合物は、錯体が好ましい。錯体とは、金属元素の原子またはイオンを中心として、これに配位子(原子・原子団・分子またはイオン)が結合した集団体である。錯体中に含まれる配位子の種類は特に制限されないが、例えば、β-ジケトン、カルボン酸、アルコキシド、および、アルコールからなる群から選択される配位子が挙げられる。
β-ジケトンとしては、例えば、アセチルアセトン、メチルアセトアセテート、エチルアセトアセテート、ベンゾイルアセトンが挙げられる。
カルボン酸としては、例えば、酢酸、2-エチルヘキサン酸、ナフテン酸、ネオデカン酸が挙げられる。
アルコキシドとしては、例えば、メトキシド、エトキシド、ノルマルプロポキシド(n-プロポキシド)、イソプロポキシド、ノルマルブトキシド(n-ブトキシド)が挙げられる。
アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブタノールが挙げられる。
硬化性組成物中における金属化合物の含有量は、特に制限されず、適宜調整される。
【0047】
<積層体の製造方法>
積層体10を製造する方法は、図2に示すように、基板16の第1主面16aにシリコーン樹脂層14を形成する方法が好ましい。
具体的には、硬化性シリコーンを含む硬化性組成物を基板16の第1主面16aに塗布し、得られた塗膜に対して硬化処理を施してシリコーン樹脂層14を得た後、シリコーン樹脂層14の表面に支持基材12を積層して、積層体10を製造する方法が好ましい。
これにより、支持基材12とシリコーン樹脂層14との間の剥離強度xよりも、シリコーン樹脂層14と基板16との間の剥離強度yの方が大きくなる。
【0048】
すなわち、積層体10を製造する方法は、硬化性シリコーンの層を基板16の第1主面16aに形成し、基板16の第1主面16aにシリコーン樹脂層14を形成する工程(樹脂層形成工程)と、シリコーン樹脂層14の表面に支持基材12を積層して積層体10を得る工程(積層工程)とを備える。
以下、上記各工程の手順について詳述する。
【0049】
(樹脂層形成工程)
樹脂層形成工程は、硬化性シリコーンの層を基板16の第1主面16aに形成し、基板16の第1主面16aにシリコーン樹脂層14を形成する工程である。本工程によって、基板16とシリコーン樹脂層14とをこの順で備えるシリコーン樹脂層付き基板が得られる。
シリコーン樹脂層付き基板は、ロール状に巻いた基板16の第1主面16aにシリコーン樹脂層14を形成してから再びロール状に巻き取る、いわゆるロール・ツー・ロール(Roll to Roll)方式での製造が可能であり、生産効率に優れる。
本工程において、基板16の第1主面16aに硬化性シリコーンの層を形成するためには、たとえば、上述した硬化性組成物を、基板16の第1主面16aに塗布する。次いで、硬化性シリコーンの層に対して硬化処理を施すことにより硬化層を形成することが好ましい。
基板16の第1主面16aに硬化性組成物を塗布する方法は特に制限されず、公知の方法が挙げられる。例えば、スプレーコート法、ダイコート法、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法、バーコート法、スクリーン印刷法、グラビアコート法が挙げられる。
次いで、基板16の第1主面16aにおいて塗布された硬化性シリコーンを硬化させて、硬化層(シリコーン樹脂層14)を形成する。
硬化の方法は特に制限されず、使用される硬化性シリコーンの種類によって適宜最適な処理が実施される。例えば、縮合反応型シリコーンおよび付加反応型シリコーンを用いる場合は、硬化処理としては熱硬化処理が好ましい。
熱硬化処理の条件は、基板16の耐熱性の範囲内で実施され、例えば、熱硬化させる温度条件は、50~400℃が好ましく、100~300℃がより好ましい。加熱時間は、通常、10~300分が好ましく、20~120分がより好ましい。
形成されるシリコーン樹脂層14の態様は、上述した通りである。
【0050】
(積層工程)
積層工程は、シリコーン樹脂層14の表面に支持基材12を積層することにより積層体10を得る工程である。積層工程は、シリコーン樹脂層付き基板と、支持基材12とを用いて積層体10を形成する工程である。
支持基材12をシリコーン樹脂層14の表面上に積層する方法は特に制限されず、公知の方法が挙げられる。
例えば、常圧環境下でシリコーン樹脂層14の表面上に支持基材12を重ねる方法が挙げられる。必要に応じて、シリコーン樹脂層14の表面上に支持基材12を重ねた後、ロールやプレスを用いてシリコーン樹脂層14に支持基材12を圧着させてもよい。ロールまたはプレスによる圧着により、シリコーン樹脂層14と支持基材12との間に混入している気泡が比較的容易に除去されるので好ましい。
真空ラミネート法や真空プレス法により圧着すると、気泡の混入が抑制され、かつ、量良好な密着が実現でき、好ましい。真空下で圧着することにより、微小な気泡が残存した場合でも、加熱処理により気泡が成長しにくいという利点もある。
なお、圧着は常温で行なうと、支持基材12とシリコーン樹脂層14との間の剥離強度xよりも、シリコーン樹脂層14と基板16との間の剥離強度yを高く維持しやすいため好ましい。
支持基材12を積層する際には、シリコーン樹脂層14に接触する支持基材12の表面を十分に洗浄し、クリーン度の高い環境で積層することが好ましい。
【0051】
<積層体の用途>
積層体10は、種々の用途に使用でき、例えば、後述する表示装置用パネル、PV、薄膜2次電池、表面に回路が形成された半導体ウエハ、受信センサーパネル等の電子部品を製造する用途が挙げられる。これらの用途では、積層体が大気雰囲気下にて、高温条件(例えば、450℃以上)で曝される(例えば、20分以上)場合もある。
表示装置用パネルとは、LCD、OLED、電子ペーパー、プラズマディスプレイパネル、フィールドエミッションパネル、量子ドットLEDパネル、マイクロLEDディスプレイパネル、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)シャッターパネル等が含まれる。
受信センサーパネルとは、電磁波受信センサーパネル、X線受光センサーパネル、紫外線受光センサーパネル、可視光線受光センサーパネル、赤外線受光センサーパネルなどが含まれる。これら受信センサーパネルに用いる基板は、樹脂などの補強シートなどで補強されていてもよい。
【0052】
<電子デバイスの製造方法>
積層体10を用いて、基板16および電子デバイス用部材20を含む電子デバイス(部材付き基板24)が製造される。
電子デバイスの製造方法は特に制限されないが、積層体10の基板16上に電子デバイス用部材20を形成して電子デバイス用部材付き積層体22を得た後、得られた電子デバイス用部材付き積層体22から、シリコーン樹脂層14と基板16との界面を剥離面として、電子デバイス(部材付き基板24)とシリコーン樹脂層付き支持基材18とに分離する方法が好ましい。
以下、電子デバイス用部材20を形成する工程を「部材形成工程」、部材付き基板24とシリコーン樹脂層付き支持基材18とに分離する工程を「分離工程」という。
【0053】
上述した加熱処理を積層体10に施していない場合、部材形成工程は、上述した加熱処理を含む工程であることが好ましい。
【0054】
以下に、各工程で使用される材料および手順について詳述する。
【0055】
(部材形成工程)
部材形成工程は、積層体10の基板16上に電子デバイス用部材を形成する工程である。より具体的には、図3に示すように、基板16の第2主面16b(露出表面)上に電子デバイス用部材20を形成し、電子デバイス用部材付き積層体22を得る。
まず、本工程で使用される電子デバイス用部材20について詳述し、その後工程の手順について詳述する。
【0056】
(電子デバイス用部材(機能性素子))
電子デバイス用部材20は、積層体10中の基板16上に形成され電子デバイスの少なくとも一部を構成する部材である。より具体的には、電子デバイス用部材20としては、表示装置用パネル、太陽電池、薄膜2次電池、または、表面に回路が形成された半導体ウエハ等の電子部品、受信センサーパネル等に用いられる部材(例えば、LTPSなどの表示装置用部材、太陽電池用部材、薄膜2次電池用部材、電子部品用回路、受信センサー用部材)が挙げられる。
【0057】
例えば、太陽電池用部材としては、シリコン型では、正極の酸化スズ等透明電極、p層/i層/n層で表されるシリコン層、および負極の金属等が挙げられ、その他に、化合物型、色素増感型、量子ドット型等に対応する各種部材等を挙げることができる。
薄膜2次電池用部材としては、リチウムイオン型では、正極および負極の金属または金属酸化物等の透明電極、電解質層のリチウム化合物、集電層の金属、封止層としての樹脂等が挙げられ、その他に、ニッケル水素型、ポリマー型、セラミックス電解質型等に対応する各種部材等を挙げることができる。
電子部品用回路としては、CCDやCMOSでは、導電部の金属、絶縁部の酸化ケイ素や窒化珪素等が挙げられ、その他に圧力センサー・加速度センサー等各種センサーやリジッドプリント基板、フレキシブルプリント基板、リジッドフレキシブルプリント基板等に対応する各種部材等を挙げることができる。
【0058】
(工程の手順)
上述した電子デバイス用部材付き積層体22の製造方法は特に制限されず、電子デバイス用部材の構成部材の種類に応じて従来公知の方法にて、積層体10の基板16の第2主面16b上に、電子デバイス用部材20を形成する。
電子デバイス用部材20は、基板16の第2主面16bに最終的に形成される部材の全部(以下、「全部材」という)ではなく、全部材の一部(以下、「部分部材」という)であってもよい。シリコーン樹脂層14から剥離された部分部材付き基板を、その後の工程で全部材付き基板(後述する電子デバイスに相当)とすることもできる。
シリコーン樹脂層14から剥離された、全部材付き基板には、その剥離面(第1主面16a)に他の電子デバイス用部材が形成されてもよい。さらに、全部材付き積層体を2枚用いて組み立て、その後、全部材付き積層体から2枚のシリコーン樹脂層付き支持基材18を剥離して、2枚の部材付き基板24を製造することもできる。
【0059】
例えば、OLEDを製造する場合を例にとると、積層体10の基板16のシリコーン樹脂層14側とは反対側の表面(第2主面16b)上に有機EL構造体を形成するために、透明電極を形成する、さらに透明電極を形成した面上にホール注入層・ホール輸送層・発光層・電子輸送層等を蒸着する、裏面電極を形成する、封止板を用いて封止する、等の各種の層形成や処理が行なわれる。これらの層形成や処理として、具体的には、例えば、成膜処理、蒸着処理、封止板の接着処理等が挙げられる。
【0060】
例えば、TFT-LCDを製造する場合は、積層体10の基板16の第2主面16b上に、例えばLTPS等の材料を用いて薄膜トランジスタ(TFT)を形成するTFT形成工程、別の積層体10の基板16の第2主面16b上に、レジスト液をパターン形成に用いてカラーフィルタ(CF)を形成するCF形成工程、および、TFT形成工程で得られたTFT付き積層体とCF形成工程で得られたCF付き積層体とを積層する貼合わせ工程などの各種工程を有する。
【0061】
例えば、マイクロLEDディスプレイを製造する場合は、少なくとも積層体10の基板16の第2主面16b上に、例えばLTPS等の材料を用いて薄膜トランジスタ(TFT)を形成するTFT形成工程と、上記で形成したTFT上に、LEDチップを実装するLED実装工程とを有する。それ以外に、平坦化、配線形成、封止などの工程を実施してもよい。
【0062】
TFT形成工程やCF形成工程では、周知のフォトリソグラフィ技術やエッチング技術等を用いて、基板16の第2主面16bにTFTやCFを形成する。この際、パターン形成用のコーティング液としてレジスト液が用いられる。
TFTやCFを形成する前に、必要に応じて、基板16の第2主面16bを洗浄してもよい。洗浄方法としては、公知のドライ洗浄やウェット洗浄を用いることができる。
【0063】
貼合わせ工程では、TFT付き積層体の薄膜トランジスタ形成面と、CF付き積層体のカラーフィルタ形成面とを対向させて、シール剤(例えば、セル形成用紫外線硬化型シール剤)を用いて貼り合わせる。その後、TFT付き積層体とCF付き積層体とで形成されたセル内に、液晶材を注入する。液晶材を注入する方法としては、例えば、減圧注入法、滴下注入法がある。
【0064】
電子デバイス用部材20を形成する際には、上述した加熱処理が行なわれることが好ましい。これにより、剥離強度が逆転する。
すなわち、上述したように、加熱処理前は、支持基材12とシリコーン樹脂層14との間の剥離強度xよりもシリコーン樹脂層14と基板16との間の剥離強度yの方が大きいが、加熱処理後は、シリコーン樹脂層14と基板16との間の剥離強度yよりも支持基材12とシリコーン樹脂層14との間の剥離強度xの方が大きくなる。
【0065】
(分離工程)
分離工程は、図4に示すように、上記部材形成工程で得られた電子デバイス用部材付き積層体22から、シリコーン樹脂層14と基板16との界面を剥離面として、電子デバイス用部材20が積層した基板16(部材付き基板24)と、シリコーン樹脂層付き支持基材18とに分離して、電子デバイス用部材20および基板16を含む部材付き基板24(電子デバイス)を得る工程である。
【0066】
上述したように、部材形成工程における加熱処理によって、シリコーン樹脂層14と基板16との間の剥離強度yよりも支持基材12とシリコーン樹脂層14との間の剥離強度xの方が大きくなっている。このため、シリコーン樹脂層14と基板16との間で剥離する。
【0067】
剥離された基板16上の電子デバイス用部材20が必要な全構成部材の形成の一部である場合には、分離後、残りの構成部材を基板16上に形成することもできる。
【0068】
基板16とシリコーン樹脂層14とを剥離する方法は、特に制限されない。例えば、基板16とシリコーン樹脂層14との界面に鋭利な刃物状のものを差し込み、剥離のきっかけを与えた上で、水と圧縮空気との混合流体を吹き付けたりして剥離できる。
好ましくは、電子デバイス用部材付き積層体22を、支持基材12が上側、電子デバイス用部材20側が下側となるように定盤上に設置し、電子デバイス用部材20側を定盤上に真空吸着し、この状態でまず刃物を基板16とシリコーン樹脂層14との界面に侵入させる。その後、支持基材12側を複数の真空吸着パッドで吸着し、刃物を差し込んだ箇所付近から順に真空吸着パッドを上昇させる。そうすると、シリコーン樹脂層付き支持基材18を容易に剥離できる。
【0069】
電子デバイス用部材付き積層体22から部材付き基板24を分離する際においては、イオナイザによる吹き付けや湿度を制御することにより、シリコーン樹脂層14の欠片が部材付き基板24に静電吸着することをより抑制できる。
【0070】
上述した電子デバイス(部材付き基板24)の製造方法は、小型の表示装置の製造に好適である。表示装置は主としてLCDまたはOLEDである。LCDは、例えば、TN型、STN型、FE型、TFT型、MIM型、IPS型、VA型のLCDを含む。基本的に、パッシブ駆動型およびアクティブ駆動型のいずれの表示装置にも適用できる。
【0071】
部材付き基板24としては、表示装置用部材を有する表示装置用パネル、太陽電池用部材を有する太陽電池、薄膜2次電池用部材を有する薄膜2次電池、受信センサー用部材を有する受信センサーパネルなどが挙げられる。
表示装置用パネルは、液晶パネル、有機ELパネル、プラズマディスプレイパネル、フィールドエミッションパネルなどを含む。
受信センサーパネルは、電磁波受信センサーパネル、X線受光センサーパネル、紫外線受光センサーパネル、可視光線受光センサーパネル、赤外線受光センサーパネルなどを含む。
【実施例0072】
以下に、実施例等により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって制限されるものではない。
【0073】
以下の例1~9では、支持基材として無アルカリホウケイ酸ガラスからなるガラス板(線膨張係数38×10-7/℃、旭硝子株式会社製商品名「AN100」)を使用し、基板としてポリイミドフィルム(線膨張係数30×10-7/℃、東洋紡株式会社製)を使用した。積層前のガラス板の表面には、顕微赤外分光分析により、ヒドロキシ基(OH基)が存在することが確認された。
例1~7は実施例であり、例8~9は比較例である。
【0074】
<例1>
(硬化性シリコーン1の調製)
オルガノハイドロジェンシロキサンとアルケニル基含有シロキサンとを混合することにより、硬化性シリコーン1を得た。硬化性シリコーン1の組成は、M単位、D単位、T単位のモル比が9:59:32、有機基のメチル基とフェニル基とのモル比が44:56、全アルケニル基と全ケイ素原子に結合した水素原子とのモル比(水素原子/アルケニル基)が0.7、平均OX基数が0.1であった。平均OX基数は、Si原子1個に平均で何個のOX基(Xは水素原子または炭化水素基)が結合しているかを表した数値である。
【0075】
(硬化性組成物1の調製)
硬化性シリコーン1に、Platinum(0)-1,3-divinyl-1,1,3,3-tetramethyldisiloxane(CAS No. 68478-92-2)を白金元素の含有量が60ppmとなるように加えて、混合物Aを得た。混合物A(200g)と、2-エチルヘキサン酸ビスマス(「プキャット25」、日本化学産業株式会社製、金属含有率25%)(0.08g)と、溶媒としてジエチレングリコールジエチルエーテル(「ハイソルブEDE」、東邦化学工業株式会社製)(84.7g)とを混合し、得られた混合液を、孔径0.45μmのフィルタを用いてろ過することにより、硬化性組成物1を得た。
【0076】
(積層体の作製)
調製した硬化性組成物1を、ポリイミド樹脂基板としての厚さ0.038mmのポリイミドフィルム(東洋紡株式会社製商品名「ゼノマックス」)に塗布し、ホットプレートを用いて140℃で10分間加熱することにより、ポリイミド樹脂基板上にシリコーン樹脂層を形成した。シリコーン樹脂層の厚さは、10μmであった。
顕微赤外分光分析により硬化後のシリコーン樹脂層にヒドロキシ基(OH基)が存在することを確認した。
続いて、水系ガラス洗浄剤(株式会社パーカーコーポレーション製「PK―LGC213」)で洗浄後、純水で洗浄した200×200mm、厚さ0.5mmのガラス板「AN100」(支持基材)をシリコーン樹脂層上に置き、貼合装置を用いて貼り合わせ、積層体を作製した。
【0077】
(剥離の評価)
90°剥離試験を行なうことで剥離強度などを評価した。具体的には、作製した積層体のポリイミド樹脂基板を、300mm/minで引き上げて剥離し、剥離界面、および、その引上げ荷重(ピール強度)を評価した。ピール強度を剥離強度(単位:N/25mm)とした。
積層後に加熱処理を行なっていないサンプル、大気下220℃で30分間の加熱処理を行なったサンプル、窒素下450℃で60分間の加熱処理を行なったサンプルの夫々の剥離強度を評価した。
【0078】
(加熱処理後のヒドロキシ基の数の評価)
窒素下450℃で60分間の加熱処理を行なった積層体のポリイミド樹脂基板を剥離した後、シリコーン樹脂層のヒドロキシ基の数を顕微赤外分光分析により評価したところ、ヒドロキシ基に起因するスペクトル強度が加熱処理前よりも減少していることが確認された。
【0079】
<例2>
(硬化性シリコーン2の調製)
1Lのフラスコに、トリエトキシメチルシラン(179g)、トルエン(300g)、および、酢酸(5g)を加えて混合物を得た。得られた混合物を、25℃で20分間撹拌し、その後、60℃に加熱して12時間反応させることにより、反応粗液1を得た。得られた反応粗液1を25℃に冷却後、水(300g)を用いて、反応粗液1を3回洗浄した。洗浄された反応粗液1にクロロトリメチルシラン(70g)を加えて、25℃で20分間撹拌し、その後、50℃に加熱して12時間反応させて反応粗液2を得た。得られた反応粗液2を25℃に冷却後、水(300g)を用いて、反応粗液2を3回洗浄した。洗浄された反応粗液2からトルエンを減圧留去し、スラリーを得た。得られたスラリーを、真空乾燥機を用いて終夜乾燥することにより、白色のオルガノポリシロキサン化合物である硬化性シリコーン2を得た。硬化性シリコーン2は、M単位、T単位のモル比が13:87、有機基は全てメチル基、平均OX基数が0.02であった。
【0080】
(硬化性組成物2の調製)
硬化性シリコーン2(50g)と、金属化合物としてジルコニウムテトラノルマルプロポキシド(「オルガチックスZA-45」、マツモトファインケミカル株式会社製、金属含有率21.1%)(0.24g)と、溶媒としてIsoperG(東燃ゼネラル石油株式会社製)(75g)とを混合し、得られた混合液を、孔径0.45μmのフィルタを用いてろ過することにより、硬化性組成物2を得た。
【0081】
(積層体の作製)
調製した硬化性組成物2を用いて、例1と同様にして、積層体を作製した。シリコーン樹脂層の厚さは、4μmであった。
顕微赤外分光分析により硬化後のシリコーン樹脂層にヒドロキシ基が存在することを確認した。
【0082】
(剥離の評価)
例1と同様にして剥離強度などを評価した。窒素下550℃で10分間の加熱処理を行なったサンプルについても評価を行なった。
【0083】
(加熱処理後のヒドロキシ基の数の評価)
窒素下450℃で60分間の加熱処理を行なった積層体のポリイミド樹脂基板を剥離した後、シリコーン樹脂層のヒドロキシ基の数を顕微赤外分光分析により評価したところ、ヒドロキシ基に起因するスペクトル強度が加熱処理前よりも減少していることが確認された。
【0084】
<例3>
支持基材としてシリコンウエハ(Siウエハ)を用いたこと以外は、例1と同様にして、積層体を作製し、剥離強度などを評価した。シリコンウエハは、純水で洗浄した後、積層面にコロナ処理を行なったものを用いた。積層前のシリコンウエハの表面には、顕微赤外分光分析により、ヒドロキシ基(OH基)が存在することが確認された(以下、同様)。
【0085】
<例4>
ポリイミド樹脂基板として宇部興産株式会社製のポリイミドフィルム「ユーピレックス25S」を用いたこと以外は、例1と同様にして、積層体を作製し、剥離強度などを評価した。
【0086】
<例5>
ポリイミド樹脂基板における硬化性組成物1を塗布する面側に予めガスバリア膜を形成したこと以外は、例1と同様にして、積層体を作製し、剥離強度などを評価した。
ガスバリア膜は、SiNx膜の厚さが300nmとなるように、スパッタリング法を用いて成膜した。
【0087】
<例6>
ポリイミド樹脂基板における硬化性組成物1を塗布する面側とは反対の面側に予めガスバリア膜を形成したこと以外は、例1と同様にして、積層体を作製し、剥離強度などを評価した。
ガスバリア膜は、SiNx膜の厚さが300nmとなるように、スパッタリング法を用いて成膜した。
【0088】
<例7>
ポリイミド樹脂基板の両面に予めガスバリア膜を形成したこと以外は、例1と同様にして、積層体を作製し、剥離強度などを評価した。
ガスバリア膜は、SiNx膜の厚さがそれぞれ300nmとなるように、スパッタリング法を用いて両面に成膜した。
【0089】
<例8>
(硬化性シリコーン3の調製)
オルガノハイドロジェンシロキサンとアルケニル基含有シロキサンとを混合することにより、硬化性シリコーン3を得た。硬化性シリコーン3の組成は、全てD単位、有機基の全てがメチル基、全アルケニル基と全ケイ素原子に結合した水素原子とのモル比(水素原子/アルケニル基)が0.9、平均OX基数が0であった。
【0090】
(硬化性組成物3の調製)
硬化性シリコーン3(100質量部)に、下記式(1)で示されるアセチレン系不飽和基を有するケイ素化合物(1質量部)を混合し、白金元素の含有量が100ppmとなるように白金触媒を加えて、混合物Bを得た。
HC≡C-C(CH-O-Si(CH (1)
混合物B(50g)と、金属化合物としてジルコニウムテトラノルマルプロポキシド(「オルガチックスZA-45」、マツモトファインケミカル株式会社製、金属含有率21.1%)(0.24g)と、溶媒としてPMX-0244(東レダウコーニング株式会社製)(50g)とを混合し、得られた混合液を、孔径0.45μmのフィルタを用いてろ過することにより、硬化性組成物3を得た。
【0091】
(積層体の作製)
調製した硬化性組成物3を用いて、例1と同様にして、積層体を作製した。シリコーン樹脂層の厚さは、10μmであった。
顕微赤外分光分析により硬化後のシリコーン樹脂層にヒドロキシ基が存在しないことを確認した。
【0092】
(剥離の評価)
例1と同様にして剥離強度などを評価した。
【0093】
<例9>
支持基材としてシリコンウエハとしたこと以外は、例8と同様にして、積層体を作製し、剥離強度などを評価した。シリコンウエハは、純水で洗浄した後、積層面にコロナ処理を行なったものを用いた。
【0094】
以上の評価結果を、下記表1にまとめた。
【0095】
【表1】
【0096】
上記表1の「剥離界面」において、「支持基材」はシリコーン樹脂層と支持基板との界面できれいに剥離したことを意味し、「基板」は基板とシリコーン樹脂層との界面できれいに剥離したことを意味する。また、「分解」はシリコーン樹脂層が分解したことを意味する。
【0097】
上記表1に示す結果から明らかなように、例1~7では、220℃および450℃の加熱処理後に、基板とシリコーン樹脂層との界面できれいに剥離しており、シリコーン樹脂層が基板に付着することを抑制できていた。例1、例3~7では、シリコーン樹脂層の厚さが10μmであり、例2ではシリコーン樹脂層の厚さが4μmであるため、基板に異物によるゆがみ欠陥が見られなかった。
一方、例8~9では、220℃および450℃の加熱処理後に、シリコーン樹脂層と支持基材との界面で剥離しており、シリコーン樹脂層が基板に付着することを抑制できなかった。
【0098】
硬化性シリコーン1および3を用いた例1、3~9の550℃の加熱処理では、加熱中にシリコーン樹脂層が分解して剥離したため、剥離強度を評価できなかった。
【0099】
加熱処理を行なっていない積層体におけるシリコーン樹脂層と基板との間の剥離強度を測定するために、積層体の作製過程において、あえて支持基材とシリコーン樹脂層との間の剥離強度を上げる処理を行った。
すなわち、シリコーン樹脂層にコロナ処理を施してから支持基材(ガラス基板「AN100」)を貼り合せたこと以外は、例1と同様にして作製した積層体について、加熱処理を行なわずに剥離の評価をしたところ、基板とシリコーン樹脂層との界面できれいに剥離し、剥離強度は0.20N/25mmであった。
同様に、シリコーン樹脂層にコロナ処理を施してから支持基材を貼り合せたこと以外は、例2~9と同様にして作製した積層体について、加熱処理を行なわずに剥離の評価をしたところ、基板とシリコーン樹脂層との界面できれいに剥離した。それぞれの剥離強度は以下のとおりであり、いずれも0.3N/25mm以下であった。
例2:0.10N/25mm、例3:0.20N/25mm、例4:0.25N/25mm、例5:0.25N/25mm、例6:0.20N/25mm、例7:0.25N/25mm、例8:0.15N/25mm、例9:0.15N/25mm
【0100】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2018年1月17日出願の日本特許出願2018-005558に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0101】
10 積層体
12 支持基材
14 シリコーン樹脂層
14a シリコーン樹脂層の表面
16 基板
16a 基板の第1主面
16b 基板の第2主面
18 シリコーン樹脂層付き支持基材
20 電子デバイス用部材
22 電子デバイス用部材付き積層体
24 部材付き基板(電子デバイス)
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2022-05-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にヒドロキシ基を有する支持基材と、ヒドロキシ基を有するシリコーン樹脂層と、基板と、をこの順で備える積層体であって
前記基板は、前記積層体に加熱処理を施した後に、前記シリコーン樹脂層および前記支持基材から剥離されるものであり、
前記シリコーン樹脂層と前記基板とが接しており、
前記基板が、樹脂基板、または、樹脂基板およびガスバリア膜をそれぞれ少なくとも1層ずつ有する積層基板であり、
前記樹脂基板は、10μm以上0.2mm以下の厚さを有すると共に、前記支持基材との熱膨張係数差が0~90×10 -6 /℃であり、
前記積層体に加熱処理を施す前には、前記支持基材と前記シリコーン樹脂層との間の剥離強度よりも、前記シリコーン樹脂層と前記基板との間の剥離強度の方が大き
前記積層体に加熱処理を施した後には、前記支持基材と前記シリコーン樹脂層との間の剥離強度よりも、前記シリコーン樹脂層と前記基板との間の剥離強度の方が小さい、積層体。
【請求項2】
前記支持基材が、ガラス板またはシリコンウエハである、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記基板が、前記積層基板であって、
前記積層基板における前記ガスバリア膜が、無機材料からなるガスバリア膜である、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
複数の前記基板および前記シリコーン樹脂層が、1つの前記支持基材上に配置される、請求項1~3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
前記シリコーン樹脂層の厚さが、1μm超100μm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
前記積層体に加熱処理を施す前において、前記シリコーン樹脂層と前記基板との間の剥離強度が、0.3N/25mm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項7】
前記シリコーン樹脂層を構成するシリコーン樹脂は、少なくとも、3官能オルガノシロキシ単位を含み、前記3官能オルガノシロキシ単位の割合が、全オルガノシロキシ単位に対して、20モル%以上、90モル%以下である、請求項1~いずれか1項に記載の積層体。
【請求項8】
前記樹脂基板およびガスバリア膜をそれぞれ少なくとも1層ずつ有する積層基板が、前記シリコーン樹脂層に近い方か
脂基板/ガスバリア膜、
ガスバリア膜/樹脂基板、または
ガスバリア膜/樹脂基板/ガスバリア膜
の順に積層されている、請求項1~のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の積層体を製造する方法であって、
前記基板上に前記シリコーン樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、
前記シリコーン樹脂層の表面に前記支持基材を積層することにより前記積層体を得る積層工程と、を備える積層体の製造方法。
【請求項10】
前記樹脂層形成工程が、基板の第1主面にシリコーン樹脂となる硬化性シリコーンと、溶媒と、を含む硬化性組成物を塗布し、前記溶媒を除去し、塗膜を形成して、塗膜中の硬化性シリコーンを硬化させて、シリコーン樹脂層とする工程を含む、請求項に記載の積層体の製造方法。
【請求項11】
前記硬化性シリコーンがオルガノアルケニルポリシロキサンおよびオルガノハイドロジェンポリシロキサンの混合物である、請求項10に記載の積層体の製造方法。
【請求項12】
前記硬化性シリコーンが加水分解性オルガノシラン化合物または加水分解性オルガノシラン化合物を加水分解縮合反応させて得られる部分加水分解縮合物である、請求項10に記載の積層体の製造方法。
【請求項13】
請求項1~のいずれか1項に記載の積層体の前記基板の表面上に電子デバイス用部材を形成し、電子デバイス用部材付き積層体を得る部材形成工程と、
前記電子デバイス用部材付き積層体から前記支持基材および前記シリコーン樹脂層を含むシリコーン樹脂層付き支持基材を除去し、前記基板および前記電子デバイス用部材を有する電子デバイスを得る分離工程と、を備え、
前記部材形成工程の前に前記積層体に加熱処理を施す工程を備えるか、又は、前記部材形成工程が加熱処理を含む工程である、電子デバイスの製造方法。
【請求項14】
前記加熱処理が、50℃以上、600℃以下で1~120分間行われる、請求項13に記載の電子デバイスの製造方法。