(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120106
(43)【公開日】2022-08-17
(54)【発明の名称】巻き取り欠陥レベル予測値生成装置、巻き取り条件生成装置、巻き取り欠陥レベル予測値生成方法、及び巻き取り条件生成方法
(51)【国際特許分類】
B65H 23/198 20060101AFI20220809BHJP
【FI】
B65H23/198
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094278
(22)【出願日】2022-06-10
(62)【分割の表示】P 2020510048の分割
【原出願日】2019-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2018065047
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲政
(72)【発明者】
【氏名】松村 善仁
(57)【要約】 (修正有)
【課題】実際の結果の適合する巻き取り条件を構築することができる巻き取り欠陥レベル予測値生成装置を提供する。
【解決手段】巻き取り欠陥レベル予測値生成装置1010は、入力部1020と、出力部1040と、予測値算出部1030と、を備える。予測値算出部は、巻き取りウエブを作製した際の巻き取りパラメータと巻き取り条件及び巻き取り欠陥レベル値の組み合わせを教師データとして機械学習により作製された学習モデル1034を備え、入力部から入力された新規な巻き取りウエブの巻き取りパラメータと巻き取り条件とから、学習モデルを用いて、巻き取り欠陥レベル予測値を算出する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力部と、出力部と、予測値算出部と、を備える巻き取り欠陥レベル予測値生成装置であって、
前記予測値算出部は、巻き取りウエブを作製した際の巻き取りパラメータと巻き取り条件及び巻き取り欠陥レベル値の組み合わせを教師データとして機械学習により作製された学習モデルを備え、前記入力部から入力された新規な巻き取りウエブの巻き取りパラメータと巻き取り条件とから、前記学習モデルを用いて、巻き取り欠陥レベル予測値を算出し、
前記出力部は前記巻き取り欠陥レベル予測値を出力し、
前記巻き取りパラメータは、ウエブの幅、ウエブの搬送速度、ウエブの巻き取り長さ、及び巻き取りウエブを作製したライン名称を含み、
前記巻き取り条件は、巻き始めのウエブの張力、巻き始めの巻き取り径、巻き終わりのウエブの張力、及び巻き終わりの巻き取り径を含み、
前記巻き取り欠陥レベル予測値は、ウエブの巻きズレ量、及びウエブの損傷欠陥のレベルを含み、
前記教師データである、ウエブを作製した際に得られた前記巻き取り条件の集合に対し、それぞれの巻き取り条件の項目の値をCniとし、前記巻き取り条件の項目の値Cniに設定された品質許容範囲値をTniとし、かつ前記品質許容範囲値Tniが設定された項目数をNとした場合、前記各項目について前記Cniを下記の式で求められるCkに置き換え、前記巻き取り欠陥レベル値は元の値と変えないデータを加え、3N-1個分の教師データ、又は前記教師データの一部を追加教師データとして付与された巻き取り欠陥レベル予測値生成装置。
Ck= Cni ± 0.5×Tni
【請求項2】
請求項1に記載の巻き取り欠陥レベル予測値生成装置における学習モデルであり、巻き取り条件を入力し、ウエブの巻きズレ量、及びウエブの損傷欠陥のレベルを出力する欠陥レベル算出モデルと、
巻き取り条件算出部と、を備え、
前記巻き取り条件算出部は、
前記欠陥レベル算出モデルの出力であるウエブの巻きズレ量、及び前記ウエブの損傷欠陥のレベルのそれぞれの和を目的関数とし、前記巻き取り条件を設計変数とし、前記目的関数が最小になるまで、進化計算により、前記設計変数を変化させ、前記目的関数が最小になった際の設計変数である巻き取り条件を、巻き取り条件として出力する、巻き取り条件生成装置。
【請求項3】
前記巻き取りパラメータは、ウエブを巻き取る巻芯の径、ウエブの厚み、ウエブ幅方向の最大厚みと最小厚みとの差、ウエブ幅方向の厚み分布及びウエブの弾性率の少なくとも一つを含み、
前記巻き取り条件は、ウエブの巻き終わりの径、ナーリング高さ、ウエブを押圧するエアープレスの圧力関数、及びウエブを押圧するタッチローラの押し力関数の少なくとも一つを含む、請求項1に記載の巻き取り欠陥レベル予測値生成装置。
【請求項4】
前記ウエブの巻きズレ量が、巻き終わった後のロール輸送時、又は衝撃付与実験装置で衝撃を与えられた際の幅方向への巻きズレ量、もしくは周方向への巻きズレ量であり、
前記ウエブの損傷欠陥が、前記ウエブが変形し折れ曲がったり痕ができたりして損傷した欠陥である、
請求項1又は3に記載の巻き取り欠陥レベル予測値生成装置。
【請求項5】
前記巻き取り条件は、さらに、巻き始めと巻き終わりの間の張力、及び対応する巻き取り径を含む、請求項2に記載の巻き取り条件生成装置。
【請求項6】
前記機械学習はニューラルネットワークであり、且つ学習時に過学習に対しドロップアウト(Dropout)を適用する、請求項1、3又は4のいずれか一項に記載の巻き取り欠陥レベル予測値生成装置。
【請求項7】
巻き取りロールを作製した際の巻き取りパラメータと巻き取り条件を入力とし、巻き取り欠陥レベル値を出力とした組み合わせの教師データを機械学習する学習モデルを作製するステップと、
新規な巻き取りウエブの巻き取りパラメータと巻き取り条件とを入力するステップと、
前記巻き取りパラメータと巻き取り条件とから、前記学習モデルを用いて、新規な巻き取りウエブの巻き取り欠陥レベル予測値を算出するステップと、を少なくとも備える巻き取り欠陥レベル予測値生成方法であって、
前記巻き取りパラメータは、ウエブの幅、ウエブの搬送速度、ウエブの巻き取り長さ、及び巻き取りウエブを作製したライン名称を含み、
前記巻き取り条件は、巻き始めのウエブの張力、巻き始めの巻き取り径、巻き終わりのウエブの張力、及び巻き終わりの巻き取り径を含み、
前記巻き取り欠陥レベル予測値は、ウエブの巻きズレ量、及びウエブの損傷欠陥のレベルを含み、
前記教師データである、ウエブを作製した際に得られた前記巻き取り条件の集合に対し、それぞれの巻き取り条件の項目の値をCniとし、前記巻き取り条件の項目の値Cniに設定された品質許容範囲値をTniとし、かつ前記品質許容範囲値Tniが設定された項目数をNとした場合、前記各項目について前記Cniを下記の式で求められるCkに置き換え、前記巻き取り欠陥レベル値は元の値と変えないデータを加え、3N-1個分の教師データ、又は前記教師データの一部を追加教師データとして付与された巻き取り欠陥レベル予測値生成方法。
Ck= Cni ± 0.5×Tni
【請求項8】
請求項1に記載の巻き取り欠陥レベル予測値生成装置における学習モデルであり、巻き取り条件を入力し、ウエブの巻きズレ量、及びウエブの損傷欠陥のレベルを出力する欠陥レベル算出モデルの作製ステップと、
巻き取り条件算出ステップと、を備え、
前記巻き取り条件算出ステップにおいて、
前記欠陥レベル算出モデルの出力であるウエブの巻きズレ量、及び前記ウエブの損傷欠陥のレベルのそれぞれの和を目的関数とし、前記巻き取り条件を設計変数とし、前記目的関数が最小になるまで、進化計算により、前記設計変数を変化させ、前記目的関数が小さくなった際の設計変数である巻き取り条件を、巻き取り条件として出力する、巻き取り条件生成方法。
【請求項9】
前記巻き取りパラメータは、ウエブを巻き取る巻芯の径、ウエブの厚み、ウエブ幅方向の最大厚みと最小厚みとの差、ウエブ幅方向の厚み分布及びウエブの弾性率の少なくとも一つを含み、
前記巻き取り条件は、ウエブの巻き終わりの径、ナーリング高さ、ウエブを押圧するエアープレスの圧力関数、及びウエブを押圧するタッチローラの押し力関数の少なくとも一つを含む、請求項7に記載の巻き取り欠陥レベル予測値生成方法。
【請求項10】
前記ウエブの巻きズレ量が、巻き終わった後のロール輸送時、又は衝撃付与実験装置で衝撃を与えられた際の幅方向への巻きズレ量、もしくは周方向への巻きズレ量であり、
前記ウエブの損傷欠陥が、前記ウエブが変形し折れ曲がったり痕ができたりして損傷した欠陥である、
請求項7又は9に記載の巻き取り欠陥レベル予測値生成方法。
【請求項11】
前記巻き取り条件は、さらに、巻き始めと巻き終わりの間の張力、及び対応する巻き取り径を含む、請求項8に記載の巻き取り条件生成方法。
【請求項12】
前記機械学習はニューラルネットワークであり、且つ学習時に且つ学習時に過学習に対しドロップアウト(Dropout)を適用する、請求項7、9又は10のいずれか一項に記載の巻き取り欠陥レベル予測値生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻き取り欠陥レベル予測値生成装置、巻き取り条件生成装置、巻き取り欠陥レベル予測値生成方法、及び巻き取り条件生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄い金属板、紙、プラスチックフィルムなどのウエブを利用して物を製造する場合、ウエブは、例えば、塗布、乾燥等の処理された後、巻き取り装置により巻き取られる。巻き取り装置により作製された巻き取りウエブは、ロールの形態で、保管、輸送等される。
【0003】
上述の巻き取りにおいて、巻き取りウエブに、ウエブの巻きズレ、及びウエブの損傷が生じないことが求められる。ウエブの巻きズレは、ロールに巻かれたウエブが、ウエブの幅方向にずれる現象である。ウエブの損傷は、ロールに巻かれたウエブに、シワ、凹み、模様等の変形が生じる現象である。
【0004】
ウエブの巻きズレに対して、ウエブを巻き取る際の張力を高くする等、ウエブをきつく巻くことが、ウエブの巻きズレを抑制するのに有効とされている。しかしながら、ウエブをきつく巻くことは、ウエブの損傷が発生する原因ともなる。
【0005】
一方、ウエブの損傷に対して、ウエブを巻き取る際の張力を低くする等、ウエブをゆるく巻くことが、ウエブの損傷を抑制するのに有効とされている。しかしながら、ウエブをゆるく巻くことは、ウエブの巻きズレが発生する原因ともなる。
【0006】
上述したように、ウエブの巻きズレとウエブの損傷とはトレードオフの関係にあり、ウエブの巻きズレ、及びウエブの損傷を抑制できる巻き取り条件を構築することは容易ではない。これらに対応するため、種々の提案がなされている(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017‐100850号公報
【特許文献2】特許第5776077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1及び特許文献2では、巻き取り張力を求めるために理論モデルを用いている。しかしながら、理論モデルを用いた場合、理論モデルを考慮した範囲に限定されてしまう。また、実際のウエブの巻き取りが理論モデルに適合するとは限らない。理論モデルが適合しない場合、精度の高い巻き取り条件を構築することは難しい。
【0009】
そのため、ウエブの巻き取り条件を構築するには、現実的には、実際に巻き取り装置を利用して構築する必要があり、経済的にも、時間的にも負担が大きい。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、理論モデルの適否に拘らず、実際の結果に適合する巻き取り条件を構築することができる巻き取り欠陥レベル予測値生成装置、巻き取り条件生成装置、巻き取り欠陥レベル予測値生成方法、及び巻き取り条件生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の態様に係る巻き取り欠陥レベル予測値生成装置は、入力部と、出力部と、予測値算出部と、を備える巻き取り欠陥レベル予測値生成装置であって、予測値算出部は、巻き取りウエブを作製した際の巻き取りパラメータと巻き取り条件及び巻き取り欠陥レベル値の組み合わせを教師データとして機械学習により作製された学習モデルを備え、入力部から入力された新規な巻き取りウエブの巻き取りパラメータと巻き取り条件とから、学習モデルを用いて、巻き取り欠陥レベル予測値を算出し、出力部は巻き取り欠陥レベル予測値を出力し、巻き取りパラメータは、ウエブの幅、ウエブの搬送速度、ウエブの巻き取り長さ、及び巻き取りウエブを作製したライン名称を含み、巻き取り条件は、巻き始めのウエブの張力、巻き始めの巻き取り径、巻き終わりのウエブの張力、及び巻き終わりの巻き取り径を含み、巻き取り欠陥レベル予測値は、ウエブの巻きズレ量、及びウエブの損傷欠陥のレベルを含み、教師データである、ウエブを作製した際に得られた巻き取り条件の集合に対し、それぞれの巻き取り条件の項目の値をCniとし、巻き取り条件の項目の値Cniに設定された品質許容範囲値をTniとし、かつ品質許容範囲値Tniが設定された項目数をNとした場合、各項目についてCniを下記の式で求められるCkに置き換え、巻き取り欠陥レベル値は元の値と変えないデータを加え、3N-1個分の教師データ、又は教師データの一部を追加教師データとして付与される。
Ck= Cni ± 0.5×Tni
【0012】
第2の態様に係る巻き取り条件生成装置は、上記記載の巻き取り欠陥レベル予測値生成装置における学習モデルであり、巻き取り条件を入力し、ウエブの巻きズレ量、及びウエブの損傷欠陥のレベルを出力する欠陥レベル算出モデルと、巻き取り条件算出部と、を備え、巻き取り条件算出部は、欠陥レベル算出モデルの出力であるウエブの巻きズレ量、及びウエブの損傷欠陥のレベルのそれぞれの和を目的関数とし、巻き取り条件を設計変数とし、目的関数が最小になるまで、進化計算により、設計変数を変化させ、目的関数が最小になった際の設計変数である巻き取り条件を、巻き取り条件として出力する。
【0013】
第3の態様に係る巻き取り欠陥レベル予測値生成装置において、巻き取りパラメータは、ウエブを巻き取る巻芯の径、ウエブの厚み、ウエブ幅方向の最大厚みと最小厚みとの差、ウエブ幅方向の厚み分布及びウエブの弾性率の少なくとも一つを含み、巻き取り条件は、ウエブの巻き終わりの径、ナーリング高さ、ウエブを押圧するエアープレスの圧力関数、及びウエブを押圧するタッチローラの押し力関数の少なくとも一つを含む。
【0014】
第4の態様に係る巻き取り欠陥レベル予測値生成装置において、ウエブの巻きズレ量が、巻き終わった後のロール輸送時、又は衝撃付与実験装置で衝撃を与えられた際の幅方向への巻きズレ量、もしくは周方向への巻きズレ量であり、ウエブの損傷欠陥が、ウエブが変形し折れ曲がったり痕ができたりして損傷した欠陥である。
【0015】
第5の態様に係る巻き取り条件生成装置において、巻き取り条件は、さらに、巻き始めと巻き終わりの間の張力、及び対応する巻き取り径を含む。
【0016】
第6の態様に係る巻き取り欠陥レベル予測値生成装置において、機械学習はニューラルネットワークであり、且つ学習時に過学習に対しドロップアウト(Dropout)を適用する。
【0017】
第7の態様に係る巻き取り欠陥レベル予測値生成方法は、巻き取りロールを作製した際の巻き取りパラメータと巻き取り条件を入力とし、巻き取り欠陥レベル値を出力とした組み合わせの教師データを機械学習する学習モデルを作製するステップと、新規な巻き取りウエブの巻き取りパラメータと巻き取り条件とを入力するステップと、巻き取りパラメータと巻き取り条件とから、学習モデルを用いて、新規な巻き取りウエブの巻き取り欠陥レベル予測値を算出するステップと、を少なくとも備える巻き取り欠陥レベル予測値生成方法であって、巻き取りパラメータは、ウエブの幅、ウエブの搬送速度、ウエブの巻き取り長さ、及び巻き取りウエブを作製したライン名称を含み、巻き取り条件は、巻き始めのウエブの張力、巻き始めの巻き取り径、巻き終わりのウエブの張力、及び巻き終わりの巻き取り径を含み、巻き取り欠陥レベル予測値は、ウエブの巻きズレ量、及びウエブの損傷欠陥のレベルを含み、教師データである、ウエブを作製した際に得られた巻き取り条件の集合に対し、それぞれの巻き取り条件の項目の値をCniとし、巻き取り条件の項目の値Cniに設定された品質許容範囲値をTniとし、かつ品質許容範囲値Tniが設定された項目数をNとした場合、各項目についてCniを下記の式で求められるCkに置き換え、巻き取り欠陥レベル値は元の値と変えないデータを加え、3N-1個分の教師データ、又は教師データの一部を追加教師データとして付与される。
Ck= Cni ± 0.5×Tni
【0018】
第8の態様に係る巻き取り条件生成方法は、上記記載の巻き取り欠陥レベル予測値生成装置における学習モデルであり、巻き取り条件を入力し、ウエブの巻きズレ量、及びウエブの損傷欠陥のレベルを出力する欠陥レベル算出モデルの作製ステップと、巻き取り条件算出ステップと、を備え、巻き取り条件算出ステップにおいて、欠陥レベル算出モデルの出力であるウエブの巻きズレ量、及びウエブの損傷欠陥のレベルのそれぞれの和を目的関数とし、巻き取り条件を設計変数とし、目的関数が最小になるまで、進化計算により、設計変数を変化させ、目的関数が小さくなった際の設計変数である巻き取り条件を、巻き取り条件として出力する。
【0019】
第9の態様に係る巻き取り欠陥レベル予測値生成方法において、巻き取りパラメータは、ウエブを巻き取る巻芯の径、ウエブの厚み、ウエブ幅方向の最大厚みと最小厚みとの差、ウエブ幅方向の厚み分布及びウエブの弾性率の少なくとも一つを含み、巻き取り条件は、ウエブの巻き終わりの径、ナーリング高さ、ウエブを押圧するエアープレスの圧力関数、及びウエブを押圧するタッチローラの押し力関数の少なくとも一つを含む。
【0020】
第10の態様に係る巻き取り欠陥レベル予測値生成方法において、ウエブの巻きズレ量が、巻き終わった後のロール輸送時、又は衝撃付与実験装置で衝撃を与えられた際の幅方向への巻きズレ量、もしくは周方向への巻きズレ量であり、ウエブの損傷欠陥が、ウエブが変形し折れ曲がったり痕ができたりして損傷した欠陥である。
【0021】
第11の態様に係る巻き取り条件生成方法において、巻き取り条件は、さらに、巻き始めと巻き終わりの間の張力、及び対応する巻き取り径を含む。
【0022】
第12の態様に係る巻き取り欠陥レベル予測値生成方法において、機械学習はニューラルネットワークであり、且つ学習時に且つ学習時に過学習に対しドロップアウト(Dropout)を適用する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、理論モデルの適否に拘らず、実際の結果に適合する巻き取り条件を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、巻き取り条件生成装置の概略ブロック図である。
【
図2】
図2は、巻き取り条件算出方法を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、教師データに含まれる巻き取りパラメータと巻き取り条件の一例を示すテーブルである。
【
図4】
図4は、教師データに含まれる巻き取りパラメータと巻き取り条件の別の例を示すテーブルである。
【
図5】
図5は、機械学習部の概略ブロック図である。
【
図6】
図6は、学習モデルの概略ブロック図である。
【
図7】
図7は、ウエブを巻き取る巻き取り装置の概略図である。
【
図9】
図9は、巻き取り欠陥レベル予測値生成装置の概略ブロック図である。
【
図10】
図10は、教師データに含まれる入力データと出力データの一例を示すテーブルである。
【
図11】
図11は、教師データに含まれる入力データと出力データの別の例を示すテーブルである。
【
図14】
図14は、巻き取り条件生成装置の概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面にしたがって本発明の好ましい実施形態について説明する。本発明は以下の好ましい実施形態により説明される。本発明の範囲を逸脱すること無く、多くの手法により変更を行うことができ、実施形態以外の他の実施形態を利用することができる。したがって、本発明の範囲内における全ての変更が特許請求の範囲に含まれる。
【0026】
<巻き取り条件生成装置>
図1は、巻き取り条件生成装置の概略ブロック図である。
図1に示されるように、巻き取り条件生成装置10は、入力部20と、条件算出部30と、出力部40と、記憶部50と、備える。
【0027】
入力部20は、巻き取り条件生成装置10に外部からのデータを受け入れる。入力部20は、例えば、キーボード、タッチパッド、電気信号に対する通信インターフェイス、及びそれらの組み合わせで構成することができる。入力部20は、構成は特に限定されない。入力部20が通信インターフェイスであれば、他の電子機器に記憶されているデータを入力部20から直接受け入れることができる。通信インターフェイスは有線であっても、無線であってもよい。
【0028】
記憶部50は、入力部20から入力されたデータを記憶する。実施形態では、複数の教師データTD1、教師データTD2・・・教師データTDnが、記憶部50に記憶されている。記憶部50としては、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気ディスクを含む装置、eMMC(embedded Multi Media Card)、SSD(Solid State Drive)等のフラッシュメモリを含む装置等を用いることができる。なお、nは整数である。
【0029】
教師データTDnとは、目標の巻き取り品質を満たしているかが確認された巻き取りウエブに関連する情報である。目標の巻き取り品質は、ウエブの巻きズレ欠陥が発生しないこと、及びウエブの損傷欠陥が発生しないことである。欠陥が発生しないとは、欠陥が全く発生しないこと、及び欠陥が許容される範囲であることの両方を含んでいる。教師データTDnとして、巻き取りウエブの作製に関し良質なデータが抽出されている。
【0030】
教師データTD1は巻き取りパラメータP1と巻き取り条件C1とを含み、教師データTD2は巻き取りパラメータP2と巻き取り条件C2とを含んでいる。各教師データTDnは、巻き取りパラメータPnと巻き取り条件Cnとを含んでいる。教師データTDnに含まれる巻き取りパラメータPnと巻き取り条件Cnとは、巻き取りウエブを作製するための情報であって、巻き取りパラメータPnと巻き取り条件Cnは組み合わせの情報として取得されている。巻き取りパラメータPnは、巻き取りウエブを作製する際の前提となる条件であり、巻き取り条件Cnは、実際に巻き取りウエブを作製する際の運転条件等となる。巻き取りパラメータPn、及び巻き取り条件Cnの内容については後述する。
【0031】
条件算出部30は、機械学習部32と学習モデル34とを備えている。機械学習部32は、複数の教師データTD1、教師データTD2・・・教師データTDnのあつまりを教師データ群として、機械学習するよう構成されている。機械学習部32において、巻き取りパラメータPnは入力教師データを構成する。巻き取り条件Cnは出力教師データとなる。
【0032】
機械学習部32は、巻き取りパラメータPnと巻き取り条件Cnとの組み合わせである教師データTDnから、後述する、巻き取りパラメータPnと巻き取り条件Cnとの相関関係を学習する。
【0033】
条件算出部30は、機械学習部32により学習された学習結果を、学習モデル34として備えている。学習モデル34は、入力部20から入力された、新規な巻き取りウエブの巻き取りパラメータPnewから、新規な巻き取りウエブの巻き取り条件Cnewを予測値として算出する。新規な巻き取りウエブの巻き取りパラメータPnewは、新規な巻き取りパラメータPnewとも称し、図中では巻き取りパラメータPnewと表示する。新規な巻き取りウエブの巻き取り条件Cnewは、新規な巻き取り条件Cnewとも称し、図中では巻き取り条件Cnewと表示する。実施形態では、条件算出部30は、機械学習部32を備えているが、条件算出部30は、少なくとも学習モデル34を備えていればよい。
【0034】
出力部40は、学習モデル34により算出された新規な巻き取り条件Cnewを出力する。出力部40は、例えば、ディスプレイ、プリンター、電気信号に対する通信インターフェイス、及びそれらの組み合わせで構成することができる。出力部40が通信インターフェイスであれば、例えば、巻き取り装置に備えられる制御装置(不図示)に、新規な巻き取り条件Cnewを直接伝送することができる。入力部20と同様に、通信インターフェイスは有線であっても、無線であってもよい。
【0035】
巻き取り条件生成装置10を利用した巻き取り条件算出方法について説明する。
図2に示されるように、巻き取りパラメータP
nと巻き取り条件C
nの組み合わせを教師データTD
nとして、例えば、機械学習部32の機械学習により学習モデル34が作製される(ステップS11)。複数の教師データTD
nを利用して、学習することが好ましい。
【0036】
次に、新規な巻き取りパラメータPnewが入力される(ステップS12)。新規な巻き取りパラメータPnewが学習モデル34に入力される。
【0037】
次に、学習モデル34は、入力された新規な巻き取りパラメータPnewから、新規な巻き取り条件Cnewを予測値として算出する(ステップS13)。
【0038】
目標の巻き取り品質を満たす教師データTDnに基づいて機械学習部32が学習モデル34を作製しているので、良質な巻き取りができる期待値の高い新規な巻き取り条件Cnewを得ることができる。
【0039】
<教師データ>
教師データTD
nの構成について説明する。
図3は、教師データTDに用いることができる巻き取りパラメータP
nと巻き取り条件C
nとの組み合わせの一例を示すテーブルである。
図3に示すように、巻き取りパラメータP
nは、例えば、ライン名称(ライン番号とも称する)、ウエブを巻き取る巻芯の径(mm)、ウエブの幅(mm)、ウエブの搬送速度(m/min)、ウエブの巻き取り長さ(m)、ウエブの厚み(μm)、ウエブ幅方向の厚み分布における最大厚みと最小厚みの差(μm)、及びウエブの弾性率(GPa)の8項目を含んでいる。
【0040】
ライン名称は、製造ラインを識別するための名称であり、ライン毎に固有の番号が付与されている。ウエブを巻き取る巻芯の径は、巻き取り装置にセットされる巻芯の径であり、ウエブの巻き始めの径でもある。ウエブの幅は、ウエブの長手方向と直交する方向の長さである。ウエブの搬送速度は、製造ラインを搬送方向に沿って移動するウエブの速度である。ウエブの巻き取り長さは、巻芯に巻き取られるウエブの長さであり、巻き取りウエブ(完成品のロールの状態)のウエブの長さである。ウエブの厚みは、ウエブの対向する2つの主面の距離である。主面とは面積の大きな面である。ウエブの厚みは、厚み計により測定することができる。ウエブ幅方向の厚み分布における最大厚みと最小厚みの差とは、ウエブの両端から一定距離の分だけ除いたウエブの幅方向において、所定間隔で厚みを測定した際の、最大厚みと最小厚みとの差である。連続厚み測定器(アンリツ製)で測定することができる。ウエブの弾性率は、テンシロン(引張試験機)で測定された値である。
【0041】
巻き取り条件Cnは、巻き始めのウエブの張力(N)、巻き終わりのウエブの張力(N)、ナーリング高さ(μm)、ウエブの巻き終わりの径(mm)、ウエブを押圧するタッチローラの押し力(N)、及びウエブを押圧するエアープレスの圧力(kPa)の6項目を含んでいる。
【0042】
巻き始めのウエブの張力は、巻き始める際にウエブに加えられる張力である。巻き終わりのウエブの張力は、ウエブが巻き取り長さに達した際に、ウエブに加えられる張力である。ナーリング高さは、ウエブの両端部に形成されたナーリング領域の厚みと、ナーリングの形成されていない領域の厚みとの差である。ナーリングはウエブの両端部に形成される凹凸である。ウエブの巻き終わりの径は、ウエブが巻き取り長さに達した際のウエブの径である。ウエブを押圧するタッチローラの押し力は、ウエブを巻き取る際に、タッチローラが巻芯の方向にウエブを押し付ける力である。ウエブを押圧するエアープレスの圧力は、ウエブを巻き取る際に、ノズルから噴出されるエアーが巻芯の方向にウエブを押し付ける圧力又はその際のエアーノズル内の内圧である。
【0043】
図4は、教師データTDに用いることができる巻き取りパラメータP
nと巻き取り条件C
nとの組み合わせの別の例を示すテーブルである。
【0044】
図3のテーブルと異なる項目について説明する。
図4のテーブルにおいて、巻き取り条件C
nは、巻き取りロールの径方向座標に対して表される張力関数(N)、タッチローラの押し力関数(N)、及びエアープレス圧力関数(kPa)を含んでいる。巻き取りロールの径方向座標に対して表される張力関数が、巻き始めのウエブの張力、巻き終わりのウエブの張力、ウエブの巻き終わりの径を含でいる。また、タッチローラの押し力関数がウエブを押圧するタッチローラの押し力を含んでいる。また、エアープレス圧力関数がウエブを押圧するエアープレスの圧力を含んでいる。なお、
図4においては、「巻き取りロールの径方向座標に対して表される張力関数」を「径方向座標に対して表される張力関数」と表現する。
【0045】
したがって、巻き取り条件Cnは、巻き始めのウエブの張力、巻き終わりのウエブの張力、ウエブの巻き終わりの径、ウエブを押圧するタッチローラの押し力、及びウエブを押圧するエアープレスの圧力を含んでいない。
【0046】
巻き取りロールの径方向座標に対して表される張力関数は、ウエブの巻き取り径とウエブの張力との関係を規定した関数である。張力関数は、例えば、張力を縦軸とウエブ径を横軸としてグラフにプロットした場合、直線、折れ線、曲線等で表すことができる。
【0047】
タッチローラの押し力関数は、ウエブの巻き取り径とタッチローラの押し力との関係を規定した関数である。エアープレス圧力関数は、ウエブの巻き取り径とエアープレス圧力との関係を規定した関数である。
【0048】
教師データTDnにおいて、巻き取りパラメータPnは入力データを構成し、巻き取り条件Cnは出力データを構成する。巻き取りパラメータPnは、基本的には、ライン名称、ウエブを巻き取る巻芯の径、ウエブの幅、ウエブの厚み、ウエブ幅方向の厚み分布における最大厚みと最小厚みの差、及びウエブの弾性率のように、ウエブの巻き取りが開始されると調整できない項目を含んでいる。一方、実施形態の巻き取りパラメータPnは、ウエブの巻き取り開始後でも調整可能なウエブの搬送速度、及びウエブの巻き取り長さを含んでいる。ウエブの搬送速度、及びウエブの巻き取り長さは、生産性を決定する要因である。ウエブの生産性の目標を達成することを前提にしているので、ウエブの搬送速度、及びウエブの巻き取り長さが、入力データである巻き取りパラメータPnに含まれている。ウエブの生産性の目標を達成し、かつ目標の巻き取り品質を満たす巻き取りウエブを作製することが重要となる。
【0049】
巻き取り条件Cnは、基本的には、巻き始めのウエブの張力、巻き終わりのウエブの張力、ウエブの巻き終わりの径、ウエブを押圧するタッチローラの押し力、及びウエブを押圧するエアープレスの圧力のように、ウエブの巻き取りが開始後に調整可能な項目を含んでいる。
【0050】
一方、実施形態の巻き取り条件Cnは、巻き取り開始後に調整できないナーリング高さを含んでいる。ナーリングは、巻き取りウエブを作製する際、又は巻き取り後の、巻きズレを防止するために設けられる。ナーリング高さは、巻き取り品質に関係すること、及び巻き取り開始前に調整可能であることから、出力データである巻き取り条件Cnに含まれている。
【0051】
図3、及び
図4において、巻き取りパラメータP
n、及び巻き取り条件C
nを例示したが、これらに限定されない。巻き取りパラメータP
nは、少なくともウエブの幅、ウエブの搬送速度、及びウエブの巻き取り長さを含んでいればよい。巻き取り条件C
nは、少なくとも、巻き始めのウエブの張力、及び巻き終わりのウエブの張力を含んでいればよい。
【0052】
また、より精度の高い新規な巻き取り条件Cnewを得るため、巻き取り条件Cnとして、以下の項目を追加してもよい。例えば、巻き始めと巻き終わりの張力(N)、及び巻き取り径(mm)に加えて、巻き始めと巻き終わりの間の張力(N)、及び対応する巻き取り径(mm)を追加することができる。
【0053】
タッチローラの押し力(N)と巻き取り径(mm)のとの関係を追加することができる。同様に、エアープレスの圧力(kPa)と巻き取り径(mm)のとの関係を追加することができる。
【0054】
<条件算出部>
条件算出部30に備えられる機械学習部32及び学習モデル34について説明する。
図5は機械学習部32の概略構成図である。
図5に示されるように、機械学習部32は、ニューラルネットワーク100及び深層学習を含んでいる。ニューラルネットワーク100は、入力層102、第1中間層104、第2中間層106、及び出力層108を備える、いわゆる3層のニューラルネットワークで構成されている。入力層102、及び出力層108は、5個のニューロンを備える。第1中間層104、及び第2中間層106は、それぞれ3個のニューロンを備える。ニューラルネットワーク100は全結合されている。ここで、深層学習は、入力層102から出力層108までの間で構成される層を多層化構造にした際に学習がうまく実行されない問題(勾配消失、過学習等)を起きにくいよう性能を向上したものを意味する。
【0055】
教師データTDnから巻き取りパラメータPnが入力データとして入力層102に入力される。入力データとして、少なくともウエブの幅、ウエブの搬送速度、及びウエブの巻き取り長さを含んでいる。
【0056】
入力層102に入力された入力データは、ある重みが乗算され、さらにバイアスが加算され、第1中間層104に入力される。第1中間層104に入力された入力データは、ある重みが乗算され、さらにバイアスが加算され、第2中間層106に入力される。第2中間層106に入力された入力データは、ある重みが乗算され、さらにバイアスが加算され、出力層108に入力される。それぞれのニューロンにおいて、乗算される重み、及び加算されるバイアスの値は任意に設定されている。ニューロンにおいて入力を出力に変換する活性化関数として、例えば、ReLU(Rectified Linear Unit)を用いることができる。なお、活性化関数は、ReLUに限定されない。
【0057】
巻き取りパラメータPnに対応する条件出力結果RLnが出力層108から出力される。条件出力結果RLnは、少なくとも、巻き始めのウエブの張力、及び巻き終わりのウエブの張力を含んでいる。
【0058】
条件出力結果RLnが調整部36に入力される。調整部36に、教師データTDnから巻き取りパラメータPnに対応する巻き取り条件Cnが入力される。巻き取り条件Cnは、少なくとも、巻き始めのウエブの張力、及び巻き終わりのウエブの張力を含んでいる。
【0059】
調整部36は、条件出力結果RLnと巻き取り条件Cnを対比する。調整部36は、例えば、2乗和誤差を損失関数として、その値を求める。準備されている教師データ群に含まれる全ての教師データTD1~nについて同様の操作を行う。調整部36は、条件出力結果RLnと巻き取り条件Cnの2乗和誤差の総和が最小になるよう、重み、及びバイアスを調整する。このような調整を複数回繰り返すことで、学習が実行される。学習を終えると、学習された重みとバイアスwbのデータが不図示の記憶部に記憶される。
【0060】
ニューラルネットワーク100に関し、入力層102、第1中間層104、第2中間層106、及び出力層108の個数、及びニューロンの個数は、特に限定されない。入出力データの項目数が多いほど、層の個数とニューロンの個数を増やすことが好ましい。
【0061】
ニューラルネットワーク100を利用した学習において、過学習の対策のためDropoutの手法を適用することができる。Dropoutは、中間層のニューロンをランダムに消去する手法である。Dropoutにより、ニューラルネットワーク100の汎化性能を向上させることができる。過学習の対策はDropoutに限定されず、種々の正則化の手法を適用することができる。
【0062】
図6は、学習モデル34の概略構成図である。学習モデル34は、ニューラルネットワーク200は、入力層202、第1中間層204、第2中間層206、及び出力層208を備える、いわゆる3層のニューラルネットワークで構成されている。入力層202、及び出力層208は、5個のニューロンを備える。第1中間層204、及び第2中間層206は、それぞれ3個のニューロンを備える。ニューラルネットワーク200には、
図5に示す機械学習部32で学習された重みとバイアスwbが、それぞれのニューロンに設定されている。
【0063】
新規な巻き取りパラメータPnewがニューラルネットワーク200の入力層202に入力される。それぞれのニューロンで重みとバイアスwbのデータを用いて、重みが乗算され、バイアスが加算され、出力層208に入力される。新規な巻き取りパラメータPnewに対応する新規な巻き取り条件Cnewが予測値として算出され、出力層208から出力される。
【0064】
実施形態では機械学習部32と学習モデル34とが別々のニューラルネットワークを用いた場合を説明した。機械学習部32と学習モデル34とが共通のニューラルネットワークを用いてもよい。機械学習部32のニューラルネットワークにより重みとバイアスとを学習する。次いで、学習された重みとバイアスとを機械学習部32のニューラルネットワークに設定する。機械学習部32を学習モデル34として機能させることができる。
【0065】
機械学習部32と学習モデル34とは、物理的に離れていてもよい。機械学習部32と学習モデル34とは、機械学習部32の学習結果を学習モデル34が利用する関係にあればよく、特に限定されない。また、学習モデル34は、別のサーバ等の装置で作製されたモデルあってもよい。すなわち、別のサーバ等による学習済みの学習モデル34を、巻き取り条件生成装置10の条件算出部30に投入してもよい。
【0066】
機械学習部32に学習させる際、多くの良質な教師データTDnを用いて学習することが予測値の精度向上につながる。一方、巻き取りの品質範囲が限定的な巻き取り条件Cnを抽出し、この巻き取り条件Cnを含む教師データTDnを利用して機械学習部32で学習させると、学習モデル34から出力される新規な巻き取り条件Cnewの各項目も限定的な値となる。学習の結果が、教師データTDに依存するからである。そのため、巻き取り条件Cnewの各項目がどの程度許容幅を持つかを認識することが困難であった。
【0067】
実施形態では、以下の手法により、信頼性のある教師データTDnを有効に増やすことができ、巻き取り条件Cnewの各項目の許容幅を確認することができる。
【0068】
まず、教師データTDnに含まれる巻き取り条件Cnの集合から各項目(例えば、巻き始めのウエブの張力、ナーリング高さ等)を抽出する。各項目における製造管理幅を確認する。各項目が、それぞれ、製造管理幅を持つ場合がある。製造管理幅は巻き取りに際し許容される品質許容範囲値である。例えば、上述の張力は10Nの製造管理幅を持つ。すなわち、ウエブを巻き取る際、ある張力に対して±5Nが許容される範囲となる。同様にナーリング高さは、品種により例えば1μmの製造管理幅を持っており、±0.5μmが許容される範囲となる。
【0069】
そこで、巻き取り条件Cnに含まれる各項目について、以下の式1に示す製造管理幅の0.5倍を加算した場合と、製造管理幅の0.5倍を減算した場合とを、項目として含ませている。
【0070】
Ck=Cni± 0.5×Tni (式1)
ここで、Cniは巻き取り条件Cnに含まれる項目を、Tは製造管理幅を示している。すなわちCkはCni+0.5×TniとCni-0.5×Tniとを含んでいる。これらを含め、巻き取り条件Cnに対する追加巻き取り条件Cadとして許容する。すなわち、巻き取りパラメータPn、及び巻き取り条件Cnの組み合わせとする教師データTDn以外に、巻き取りパラメータPn及び追加巻き取り条件Cadの組み合わせを追加教師データTDadとして教師データTDnに加えることになる。
【0071】
次に、巻き取り条件Cnに対して追加巻き取り条件Cadがどの程度増加するかを説明する。上述のCk=Cni±0.5×Tniを認めると、結果、一つの項目に注目すれば、Cni、Cni+0.5×Tni、及びCni-0.5×Tniの3つの値を含むことになる。
【0072】
例えば、巻き取り条件Cnが4項目を有し、それぞれ項目の値がCn1からCn4であり、各項目がそれぞれTn1からTn4の製造管理幅を有る場合について説明する。
以下は、巻き取り条件Cnの各項目の値の組み合わせを示している。
No1:(Cn1+0.5×Tn1、Cn2+0.5×Tn2、Cn3+0.5×Tn3、Cn4+0.5×Tn4)
No2:(Cn1 、Cn2+0.5×Tn2、Cn3+0.5×Tn3、Cn4+0.5×Tn4)
No3:(Cn1-0.5×Tn1、Cn2+0.5×Tn2、Cn3+0.5×Tn3、Cn4
+0.5×Tn4)
No4:(Cn1+0.5×Tn1、Cn2 、Cn3+0.5×Tn3、Cn4+0.5×Tn4)
No5:(Cn1 、Cn2 、Cn3+0.5×Tn3、Cn4+0.5×Tn4)
No6:(Cn1-0.5×Tn1、Cn2 、Cn3+0.5×Tn3、Cn4+0.5×Tn4)
No7:(Cn1+0.5×Tn1、Cn2-0.5×Tn2、Cn3+0.5×Tn3、Cn4
+0.5×Tn4)
No8:(Cn1 、Cn2-0.5×Tn2、Cn3+0.5×Tn3、Cn4+0.5×Tn4)
No9:(Cn1-0.5×Tn1、Cn2-0.5×Tn2、Cn3+0.5×Tn3、Cn4
+0.5×Tn4)・・・・・
No81・・・
上述したように、Cn1からCn4の各項目が、それぞれ3つの値を取ることができるので、その組み合わせの個数は34=81となる。1個の教師データTDnが81倍の教師データに増えることが理解できる。ただし、教師データにおける製造管理幅を現場で取得した際に、巻き取り条件のうち一つの項目のみ加算もしくは減算し、他の項目はそのままの値で良好な巻き取り品質となることを確認して得られた製造管理幅の場合は、教師データも同様にする。すなわち、上記の例で示すと、その組み合わせの個数は3×Nとなり、製造管理幅を設定した項目が4個の場合は、教師データTDnは12倍の教師データに増加することが理解できる。
【0073】
上述では、Cn1からCn4の各項目が、Tn1からTn4の製造管理幅を有する場合について説明した。例えば、項目Cn4の製造管理幅Tn4が0と設定されている場合、組み合せの計算から除外される。したがって、組み合わせの個数は33=27となる。Cn1からCn4の各項目の中で一つでも製造管理幅Tnが定められていると、組み合わせの個数は31=3となる。この場合であっても、1個の教師データTDnが3倍の教師データに増えることが理解できる。
【0074】
上述の手法によれば、式1の範囲を巻き取り条件に加えことにより、品質許容範囲が設定された項目数をNとした場合、3N-1個分の教師データを追加教師データとして付与することができる。実際の製造管理幅に基づいて信頼性のある追加教師データTDadを増やせることができ、追加教師データTDadを加えた教師データTDnを用いて学習することにより予測値の精度向上を図ることができる。機械学習部32により学習モデル34を作製する前に、追加教師データTDadを付与するステップを設けることが好ましい。
【0075】
また、製造管理幅を実際の製造現場で設定した際に、他の項目はそのままの値に設定していた場合は、それに合わせ、追加教師データは、製造管理幅を設定した項目のみを加減算し、他の項目は変更しない。すわなち、3N-1個分の教師データのみを追加教師データとして付与することが好ましい。また、3N-1個分の教師データの一部を追加教師データとして付与することができる。
【0076】
<巻き取り装置>
実施形態の巻き取り装置について、
図7、及び
図8に参照して説明する。
図7に示されるように、巻き取り装置300は、製造ライン500の下流側に配置される。製造ライン500は、ウエブ1を製造するための設備、例えば、塗布装置、乾燥装置等を含んでいる。ウエブ1を製造するための設備であれば、特に限定されない。製造ライン500はコントローラ502によりウエブ1に対する各種処理が制御される。コントローラ502は、駆動ローラ504の回転速度を制御することができ、ウエブの搬送速度を調整することができる。
【0077】
巻き取り装置300は、巻芯302、モータ304、支持台306、及びタッチローラ308、押圧機構310、張力測定ローラ312、張力センサ314、ダンサーローラ318、ダンサー機構320、ガイドローラ322、測長ローラ324、及びコントローラ326を含んでいる。
【0078】
巻芯302は支持台306に回動自在に保持されている。モータ304が巻芯302を回転駆動する。コントローラ326はモータ304の回転を制御し、巻芯302を矢印A方向に回転させる。回転により、ウエブ1は巻芯302に巻き取られる。
【0079】
ウエブ1は、可撓性の連続した帯状であって膜厚の薄い部材を意味し、樹脂フィルム、紙、金属、レジンコーティッド紙、又は合成紙等が包含される。樹脂フィルムの材質は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン等のビニル重合体、6,6─ナイロン、6─ナイロン等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン─2,6─ナフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、セルロースダイアセテート等のセルロースアセテート等が例示することができる。樹脂フィルムは、例えば、機能が付与(例えば、機能層の形成等)されていても良い。
【0080】
ウエブ1の搬送経路の途中に、張力測定ローラ312、ダンサーローラ318、ガイドローラ322がそれぞれ配置されている。張力測定ローラ312には張力センサ314が接続される。また、ダンサーローラ318には、ダンサーローラ318を移動させるダンサー機構320が設けられ、一定の力でウエブに張力を与えている。ダンサー位置センサは、ダンサー位置を測定する。測定されたダンサー位置はコントローラ326に入力される。コントローラ326は、測定結果に基づいて、制御し、ダンサーローラ318を移動してウエブ1に安定した張力を与えることができる。
【0081】
タッチローラ308は、巻芯302の回転軸と平行な回転軸を有し、巻芯302に巻き取られるウエブ1に当接する。タッチローラ308には押圧機構310が設けられている。押圧機構310は、コントローラ326によって制御され、巻芯302に向かって所定の押し力でタッチローラ308を押し付ける。タッチローラ308は、巻芯302に巻き取られるウエブ1に巻き込まれるエアーの含有率を低くすることができる。押圧機構310は、例えば、タッチローラ308を支持するアームと、アームを押すエアーシリンダ等で構成される。コントローラ326は、エアーシリンダの空気圧を制御することができ、ウエブを押圧するタッチローラ308の押し力を調整することができる。
【0082】
測長ローラ324は、ウエブ1に当接して設けられており、ウエブ1の移動に伴って回転する。測長ローラ324には、不図示のエンコーダが設けられている。エンコーダからの信号がコントローラ326に入力される。コントローラ326は、測長ローラ324を通過するウエブ1の送り長、ここではウエブの巻き取り長さを測定することができる。ウエブの巻き取り長さが、予め定められた値に達すると、コントローラ326は巻芯302の回転を停止する。
【0083】
ウエブの巻き取り径は、コントローラ326により、常時演算され、算出されている。例えば、巻芯302が一回転するのに必要なウエブの長さを計測し、ウエブの長さを3.14で除算することにより径を求めることができる。
【0084】
図7に示す実施形態において、巻き取り条件生成装置10の条件算出部30の学習モデル34(不図示)には、新規な巻き取りパラメータP
newが入力されている。条件算出部30の学習モデル34が、新規な巻き取りパラメータP
newから、新規な巻き取り条件C
newを予測値として算出する。
【0085】
新規な巻き取りパラメータPnew及び新規な巻き取り条件Cnewが、コントローラ326、及びコントローラ502に入力される。新規な巻き取りパラメータPnew及び新規な巻き取り条件Cnewに基づいて、巻き取り装置300によりウエブを巻き取ることにより、目標の品質を満たす巻き取りウエブを作製することができる。
【0086】
次に、
図8を参照して、
図7と異なる巻き取り装置400について説明する。なお、上述の巻き取り装置300と同一の部分については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する場合がある。
【0087】
巻き取り装置400は、巻き取り装置300とは異なりタッチローラ308に代えて、エアーノズル402を備える。エアーノズル402に形成されたスリット状の開口(不図示)からウエブ1のエアーを吹き付けてエアープレスすることにより、巻芯302に巻き取られるウエブ1に巻き込まれるエアーを非接触で除去することができる。
【0088】
エアーノズル402は、エアーノズル402の開口の長手方向と巻芯302の回転軸とが平行になるように配置される。実施形態では、エアーノズル402は、エアー噴出方向がウエブ1の主面と直交する位置に配置されている。エアーノズル402のエアー噴出方向をウエブ1の主面に対して直交する位置から傾けてもよい。
【0089】
エアーノズル402には、エアーの発生源として、フィルタ、エアータンク及びコンプレッサからなるブロア404が配管406を介して接続されている。コントローラ326はブロア404を制御することができ、ウエブを押圧するエアープレスの圧力を調整することができる。
【0090】
図8においては、巻き取り装置400と駆動ローラ504との間に、ナーリングローラ506が配置される。ナーリングローラ506は、ウエブ1の端部を、ウエブ1の厚み方向から挟圧(ニップ)するため、一対で構成される。ウエブ1の両端部にナーリングを設けるため一対のナーリングローラ506が2個、ウエブ1の両端部に配置される。ナーリングはウエブに形成された凹凸である。ウエブに凹凸を形成するため、一対のナーリングローラ506に一方には、突起(不図示)が設けられている。
【0091】
ナーリングローラ506には、ニップ圧調整機構(不図示)が設けられている。ニップ圧調整機構は、ナーリングローラ506とウエブ1との距離を調整することができる。ニップ圧調整機構は、コントローラ502に制御することができ、ナーリング高さを調整することができる。また、ナーリングローラ506に形成される突起の形状、大きさ等を変更することにより、ナーリング高さを調整することができる。
【0092】
図8に示す実施形態において、巻き取り条件生成装置10の条件算出部30の学習モデル34(不図示)には、新規な巻き取りパラメータP
newが入力されている。条件算出部30の学習モデル34が、新規な巻き取りパラメータP
newから、新規な巻き取り条件C
newを予測値として算出する。
【0093】
新規な巻き取りパラメータPnew及び新規な巻き取り条件Cnewが、コントローラ326、及びコントローラ502に入力される。新規な巻き取りパラメータPnew及び新規な巻き取り条件Cnewに基づいて、巻き取り装置400によりウエブを巻き取ることにより、目標の品質を満たす巻き取りウエブを作製することができる。上述したように、巻き取り条件算出方法により巻き取り条件が算出され、算出された巻き取り条件を用いて、例えば、巻き取り装置300、及び400によるウエブの巻き取り方法が提供される。
【0094】
実施形態の巻き取り条件生成装置10を利用し、学習モデル34の評価を行った。巻き取りパラメータとして、搬送速度、巻き取り長さ、及びウエブ幅を選択した。巻き取り条件としては、巻き始めの張力、及び巻き終わりの張力を選択した。学習に使用しなかったテストデータで評価したところ、学習モデル34により生成された予測値と実際の製造条件値との差の少なさを表す学習モデル34から算出された巻き取り条件の正答率は、80%から95%の範囲であった。学習モデル34が実際の巻き取り条件と同等であり、十分使用できることが理解できる。
【0095】
通常の製造ラインを用いて巻き取り条件を試作で構築する場合と比較して、実施形態の巻き取り条件生成装置を利用することにより、コスト及び時間を1/10から1/5程度の範囲に抑えることができる予測される。
【0096】
ここまで説明した実施形態において、例えば、機械学習部32、学習モデル34、コントローラ326、及びコントローラ502の各種の処理を実行する処理部(processing unit)のハードウェア的な構造は、次に示すような各種のプロセッサ(processor)である。各種のプロセッサには、ソフトウェア(プログラム)を実行して各種の処理部として機能する汎用的なプロセッサであるCPU(Central Processing Unit)、画像処理に特化したプロセッサであるGPU(Graphics Processing Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なプロセッサであるプログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device:PLD)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が含まれる。
【0097】
1つの処理部は、これら各種のプロセッサのうちの1つで構成されていてもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサ(例えば、複数のFPGA、あるいはCPUとFPGAの組み合わせ、又はCPUとGPUの組み合わせ)で構成されてもよい。また、複数の処理部を1つのプロセッサで構成してもよい。複数の処理部を1つのプロセッサで構成する例としては、第1に、サーバ及びクライアント等のコンピュータに代表されるように、1つ以上のCPUとソフトウェアの組合せで1つのプロセッサを構成し、このプロセッサが複数の処理部として機能する形態がある。第2に、システムオンチップ(System On Chip:SoC)等に代表されるように、複数の処理部を含むシステム全体の機能を1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、各種の処理部は、ハードウェア的な構造として、各種のプロセッサを1つ以上用いて構成される。
【0098】
さらに、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路(circuitry)である。
【0099】
次に、巻き取り欠陥レベル予測値生成方法について説明する。
【0100】
図9は、巻き取り欠陥レベル予測値生成装置の概略ブロック図である。
図9に示されるように、巻き取り欠陥レベル予測値生成装置1010は、入力部1020と、予測値算出部1030と、出力部1040と、記憶部1050と、備える。
【0101】
入力部1020は入力部20と同様の構成であり、出力部1040は出力部40と同様の構成であり、記憶部1050は記憶部50と同様の構成である。
【0102】
教師データTDnとは、巻き取りロールを作製した際の目標の巻き取り品質を満たす条件だけでなく、様々な欠陥レベルを発生させる情報である。教師データTDnとして、巻き取りウエブの作製に関する良質なデータに加えて、弱い欠陥レベルから強い欠陥レベルまで様々な巻き取りデータが抽出されていることが望ましい。
【0103】
教師データTD1は入力データIN1と出力データOUT1とを含み、教師データTD2は入力データIN2と出力データOUT2とを含んでいる。各教師データTDnは、入力データINnと出力データOUTnとを含んでいる。教師データTDnに含まれる入力データINnは、巻き取りウエブを作製するための情報であって、巻き取りパラメータPnと巻き取り条件Cnとの組み合わせの情報として取得されている。教師データTDnに含まれる出力データOUTnは、巻き取りウエブの品質に関する情報であって、ウエブの巻きズレ量とウエブの損傷欠陥レベルとを含む巻き取り欠陥レベル値である。
【0104】
ウエブの巻きズレ量(mm)は、巻き終わった後のロール輸送時、又は衝撃付与実験装置で衝撃を与えられた際の幅方向への巻きズレ量(mm)、もしくは周方向への巻きズレ量(mm)を意味する。主な巻きズレである幅方向への巻きズレは、幅方向に巻きの途中でずれである。また、周方向ずれは、巻きズレ前に端面に直線を書き、巻きズレた後その直線を測った際のずれ量である。
【0105】
ウエブの損傷欠陥は、ウエブが変形し折れ曲がったり痕ができたりして損傷した欠陥を意味する。損傷欠陥のレベルとは、欠陥の強度を表している。欠陥の強度は、官能評価で行われ、例えば、レベル1~レベル10の10段階評価で、変形の強度が強いものほど高い数値のレベルに分類される。
【0106】
ウエブの損傷欠陥が、しわや凹み、模様などの複数の種類を有する場合には、それぞれについてのレベルを出力データとして、扱う。例えば、欠陥が巻きズレ、縦しわ、横しわ、凹みである場合には、出力データは巻きズレ量、縦しわレベル、横しわレベル、凹みレベルの4つで構成される。
【0107】
予測値算出部1030は、機械学習部1032と学習モデル1034とを備えている。機械学習部32は、複数の教師データTD1、教師データTD2・・・教師データTDnのあつまりを教師データ群として、機械学習するよう構成されている。機械学習部32において、入力データINnは入力教師データを構成する。出力データOUTnは出力教師データとなる。
【0108】
機械学習部1032は、教師データTDnから、後述する、入力データINnと出力データOUTnとの相関関係を学習する。
【0109】
目標の巻き取り品質を満たす教師データTDnに基づいて機械学習部32が学習モデル34を作製しているので、新規な入力データINnew(新規な巻き取りパラメータPnew及び新規な巻き取り条件Cnew)から、出力データOUTnew(巻きズレ量、及びウエブの損傷欠陥レベル)の予測値を得ることができる。
【0110】
<教師データ>
教師データTD
nの構成について説明する。
図10は、教師データTDに用いることができる入力データIN
nと出力データOUT
nの組み合わせの一例を示すテーブルである。
図10に示されるように、入力データIN
nとして巻き取りパラメータP
n、及び巻き取り条件C
nを含んでいる。巻き取りパラメータP
n、及び巻き取り条件C
nの各項目は、
図3に対応している。出力データOUT
nとして巻きズレ量、及びウエブの損傷欠陥レベルを含んでいる。
【0111】
図11は、教師データTDに用いることができる入力データIN
nと出力データOUT
nの組み合わせの別の例を示すテーブルである。
図11に示されるように、巻き取りパラメータP
n、及び巻き取り条件C
nの各項目は、
図4に対応している。
【0112】
<予測値算出部>
予測値算出部1030に備えられる機械学習部1032及び学習モデル1034について説明する。
図12は機械学習部1032の概略構成図である。
図12に示されるように、機械学習部1032は、ニューラルネットワーク100及び深層学習を含んでいる。ニューラルネットワーク100は、入力層102、第1中間層104、第2中間層106、及び出力層108を備える、いわゆる3層のニューラルネットワークで構成されている。入力層102、及び出力層108は、5個のニューロンを備える。第1中間層104、及び第2中間層106は、それぞれ3個のニューロンを備える。ニューラルネットワーク100は全結合されている。
【0113】
教師データTDnから入力データINnとして巻き取りパラメータPn、及び巻き取り条件Cnが入力層102に入力される。
【0114】
入力層102に入力された入力データは、ある重みが乗算され、さらにバイアスが加算され、第1中間層104に入力される。第1中間層104に入力された入力データINnは、ある重みが乗算され、さらにバイアスが加算され、第2中間層106に入力される。第2中間層106に入力された入力データINnは、ある重みが乗算され、さらにバイアスが加算され、出力層108に入力される。それぞれのニューロンにおいて、乗算される重み、及び加算されるバイアスの値は任意に設定されている。
【0115】
巻き取りパラメータPn、及び巻き取り条件Cnに対応する欠陥レベル予測値ELnが出力層108から出力される。
【0116】
欠陥レベル予測値ELnが調整部36に入力される。調整部36に、教師データTDnから巻き取りパラメータPn、及び巻き取り条件Cnに対応する出力データOUTnが入力される。出力データOUTnは、巻きズレ量、及びウエブの損傷欠陥レベルを含んでいる。
【0117】
調整部36は、欠陥レベル予測値ELnと出力データOUTnを対比する。調整部36は、例えば、2乗和誤差を損失関数として、その値を求める。準備されている教師データ群に含まれる全ての教師データTD1~nについて同様の操作を行う。調整部36は、欠陥レベル予測値ELnと出力データOUTnの2乗和誤差の総和が最小になるよう、重み、及びバイアスを調整する。このような調整を複数回繰り返すことで、学習が実行される。学習を終えると、学習された重みとバイアスwbのデータが不図示の記憶部に記憶される。
【0118】
ニューラルネットワーク100の構成は、
図5に示される機械学習部32に含まれるニューラルネットワーク100と同様の構成を取り得ることができる。
【0119】
図13は、学習モデル1034の概略構成図である。学習モデル1034は、ニューラルネットワーク200は、入力層202、第1中間層204、第2中間層206、及び出力層208を備える、いわゆる3層のニューラルネットワークで構成されている。入力層202、及び出力層208は、5個のニューロンを備える。第1中間層204、及び第2中間層206は、それぞれ3個のニューロンを備える。ニューラルネットワーク200には、
図12に示す機械学習部1032で学習された重みとバイアスwbが、それぞれのニューロンに設定されている。
【0120】
新規な入力データINnewとして新規な巻き取りパラメータPnew、及び新規な巻き取り条件Cnewがニューラルネットワーク200の入力層202に入力される。それぞれのニューロンで重みとバイアスwbのデータを用いて、重みが乗算され、バイアスが加算され、出力層208に入力される。新規な入力データINnewに対応する新規な出力データOUTnewが、新規な巻き取りウエブに対する、巻き取り欠陥レベル予測値として算出され、出力層208から出力される。すなわち、新規な巻き取りパラメータPnew、及び新規な巻き取り条件Cnewから新規に巻き取られるウエブの巻きズレ量、及びウエブの損傷欠陥レベルを予測することができる。
【0121】
実施形態では機械学習部1032と学習モデル1034とが別々のニューラルネットワークを用いた場合を説明した。機械学習部1032と学習モデル1034とが共通のニューラルネットワークを用いてもよい。機械学習部1032のニューラルネットワークにより重みとバイアスとを学習する。次いで、学習された重みとバイアスとを機械学習部32のニューラルネットワークに設定する。機械学習部1032を学習モデル1034として機能させることができる。
【0122】
機械学習部1032と学習モデル1034とは、物理的に離れていてもよい。機械学習部1032と学習モデル1034とは、機械学習部1032の学習結果を学習モデル1034が利用する関係にあればよく、特に限定されない。また、学習モデル1034は、別のサーバ等の装置で作製されたモデルあってもよい。すなわち、別のサーバ等による学習済みの学習モデル1034を、巻き取り欠陥レベル予測値生成装置1010の予測値算出部1030に投入してもよい。
【0123】
次に、最適な巻き取り条件生成装置、及び最適な巻き取り条件生成方法について説明する。
【0124】
図14に示されるように、巻き取り条件生成装置2010は、巻き取り条件算出部2020と、欠陥レベル算出モデル2030とを備える。欠陥レベル算出モデル2030は、巻き取り欠陥レベル予測値生成装置1010における学習モデル1034であり、巻き取り条件を入力とし、ウエブの巻きズレ量、及びウエブの損傷欠陥のレベルを出力するモデルである。
【0125】
上述したように、欠陥レベル算出モデル2030は、入力データINn(巻き取りパラメータPn、及び巻き取り条件Cn)を教師データTDnと入力して対して巻き取り欠陥レベル予測値を出力データOUTnとして出力するように学習されたモデルである。一方で、巻き取り欠陥レベル予測値を出力データOUTnが小さく、すなわち欠陥レベルを良化させるための、入力データINnに含まれる巻き取り条件Cnを算出することはできない。
【0126】
巻き取り条件算出部2020は、設計変数を進化計算させて、目標関数が最小となるように演算処理できるよう構成されている。ここで、進化計算は、遺伝的アルゴリズム等の最適手法による計算を意味する。
【0127】
巻き取り条件算出部2020は、ウエブの巻きズレ量、及びウエブの損傷欠陥のレベルのそれぞれの和を目的関数とし、巻き取り条件を設計変数とし、目的関数が最小になるまで、進化計算することができる。
【0128】
実施形態において、巻き取り条件算出部2020は、設計変数を変化させ、目的関数が小さくなった際の設計変数である巻き取り条件を、巻き取り条件として出力する。
【0129】
巻き取り条件算出部2020は、欠陥レベルを良化させるための巻き取り条件Cnewを算出できる。
【0130】
ここまで説明した実施形態において、例えば、機械学習部1032、学習モデル1034、巻き取り条件算出部2020、及び欠陥レベル算出モデル2030の各種の処理を実行する処理部(processing unit)のハードウェア的な構造は、次に示すような各種のプロセッサ(processor)である。各種のプロセッサには、ソフトウェア(プログラム)を実行して各種の処理部として機能する汎用的なプロセッサであるCPU(Central Processing Unit)、画像処理に特化したプロセッサであるGPU(Graphics Processing Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なプロセッサであるプログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device:PLD)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が含まれる。
【0131】
1つの処理部は、これら各種のプロセッサのうちの1つで構成されていてもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサ(例えば、複数のFPGA、あるいはCPUとFPGAの組み合わせ、又はCPUとGPUの組み合わせ)で構成されてもよい。また、複数の処理部を1つのプロセッサで構成してもよい。複数の処理部を1つのプロセッサで構成する例としては、第1に、サーバ及びクライアント等のコンピュータに代表されるように、1つ以上のCPUとソフトウェアの組合せで1つのプロセッサを構成し、このプロセッサが複数の処理部として機能する形態がある。第2に、システムオンチップ(System On Chip:SoC)等に代表されるように、複数の処理部を含むシステム全体の機能を1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、各種の処理部は、ハードウェア的な構造として、各種のプロセッサを1つ以上用いて構成される。
【符号の説明】
【0132】
10 巻き取り条件生成装置
20 入力部
30 条件算出部
32 機械学習部
34 学習モデル
36 調整部
40 出力部
50 記憶部
100 ニューラルネットワーク
102 入力層
104 第1中間層
106 第2中間層
108 出力層
200 ニューラルネットワーク
202 入力層
204 第1中間層
206 第2中間層
208 出力層
300 巻き取り装置
302 巻芯
304 モータ
306 支持台
308 タッチローラ
310 押圧機構
312 張力測定ローラ
314 張力センサ
318 ダンサーローラ
320 ダンサー機構
322 ガイドローラ
324 測長ローラ
326 コントローラ
400 巻き取り装置
402 エアーノズル
404 ブロア
406 配管
500 製造ライン
502 コントローラ
504 駆動ローラ
506 ナーリングローラ
1010 巻き取り欠陥レベル予測値生成装置
1020 入力部
1030 予測値算出部
1032 機械学習部
1034 学習モデル
1040 出力部
1050 記憶部
2010 巻き取り条件生成装置
2020 巻き取り条件算出部
2030 欠陥レベル算出モデル
A 矢印