(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120413
(43)【公開日】2022-08-18
(54)【発明の名称】ボルト締結体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16B 5/02 20060101AFI20220810BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
F16B5/02 E
C08J5/04 CES
C08J5/04 CFC
C08J5/04 CFD
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021017289
(22)【出願日】2021-02-05
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】佐々 喜紀
(72)【発明者】
【氏名】大窪 和也
(72)【発明者】
【氏名】小武内 清貴
(72)【発明者】
【氏名】石田 貴大
【テーマコード(参考)】
3J001
4F072
【Fターム(参考)】
3J001FA02
3J001GA01
3J001GA06
3J001GB01
3J001HA07
3J001JA03
3J001KA21
3J001KB01
3J001KB04
4F072AA02
4F072AA04
4F072AA07
4F072AA08
4F072AB09
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4F072AD04
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4F072AG03
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4F072AJ04
4F072AJ22
4F072AK05
4F072AK14
4F072AL02
(57)【要約】
【課題】SMC部品のボルト締結において、高温環境下に曝されても軸力保持率のバラつきが抑制されたボルト締結体と、前記ボルト締結体を生産性よく低コストで製造できるボルト締結体の製造方法の提供。
【解決手段】第1ボルト孔10aが形成された第1被締結部材10と、第2ボルト孔20aが形成された第2被締結部材20と、これらを締結するボルト30とを有し、ボルト30は軸部31と頭部32とを備え、第1被締結部材10及び第2被締結部材20は、ボルト30の軸部31が第1ボルト孔10aから第2ボルト孔20aにかけて挿通されて締結され、第1被締結部材10は、強化繊維と樹脂組成物とを含むシートモールディングコンパウンドの硬化物からなる層11の少なくとも一方の表面に、強化繊維からなる連続繊維と樹脂組成物とを含むプリプレグの硬化物からなる層12が積層した繊維強化樹脂部材13である、ボルト締結体1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ボルト孔が形成された第1被締結部材と、前記第1ボルト孔と重なる第2ボルト孔が形成された第2被締結部材と、前記第1被締結部材と前記第2被締結部材とを締結するボルトと、を有するボルト締結体であって、
前記ボルトは、軸部と前記軸部の直径よりも大きい直径を有する頭部とを備え、
前記第1被締結部材と前記第2被締結部材とは、前記ボルトの前記軸部が前記第1ボルト孔から前記第2ボルト孔にかけて挿通されて締結され、
前記第1被締結部材は、強化繊維と樹脂組成物とを含むシートモールディングコンパウンドの硬化物からなる層の少なくとも一方の表面に、強化繊維からなる連続繊維と樹脂組成物とを含むプリプレグの硬化物からなる層が積層した繊維強化樹脂部材である、ボルト締結体。
【請求項2】
前記シートモールディングコンパウンド及び前記プリプレグに含まれる強化繊維が、それぞれガラス繊維又は炭素繊維を含む、請求項1に記載のボルト締結体。
【請求項3】
前記第2被締結部材が金属成形品又は繊維強化樹脂部材からなる、請求項1又は2に記載のボルト締結体。
【請求項4】
前記ボルトが金属からなる、請求項1~3のいずれか一項に記載のボルト締結体。
【請求項5】
前記プリプレグが、一方向プリプレグ又はクロスプリプレグである、請求項1~4のいずれか一項に記載のボルト締結体。
【請求項6】
前記プリプレグの硬化物からなる層が、前記第1被締結部材の前記ボルトの頭部側の最表層となるように、前記シートモールディングコンパウンドの硬化物からなる層の少なくとも一方の表面に積層されている、請求項1~5のいずれか一項に記載のボルト締結体。
【請求項7】
第1ボルト孔が形成された第1被締結部材と、第2ボルト孔が形成された第2被締結部材とを、前記第1ボルト孔と前記第2ボルト孔とが重なるように配置し、軸部と前記軸部の直径よりも大きい直径を有する頭部とを備えるボルトの前記軸部を、前記第1ボルト孔から前記第2ボルト孔にかけて挿通して、前記第1被締結部材と前記第2被締結部材とを締結するボルト締結体の製造方法であって、
前記第1被締結部材は、シートモールディングコンパウンドの硬化物からなる層の少なくとも一方の表面に、一方向プリプレグ又はクロスプリプレグの硬化物からなる層が最表層となるように積層された繊維強化樹脂部材であり、
前記一方向プリプレグ又はクロスプリプレグの硬化物からなる層が、前記第1被締結部材の前記ボルトの頭部側の最表層となるように、前記第1被締結部材と前記第2被締結部材とを配置する、ボルト締結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルト締結体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維とマトリックス樹脂組成物を含有する繊維強化樹脂、例えば、炭素繊維強化複合材料(Carbon Fiber Reinforced Plastics:以下、「CFRP」と略称することがある。)からなる成形品(以下、「繊維強化樹脂部材」ともいう。)は、軽量で優れた機械特性を有するため、スポーツ、自動車、航空機、産業用途等の様々な用途で広く用いられている。繊維強化樹脂としては、連続繊維を含む強化繊維基材に樹脂組成物が含浸されたプリプレグや、短繊維を含む強化繊維基材に樹脂組成物が含浸されたシートモールディングコンパウンド(SMC)等が用いられる。特に、SMCは成形時に流動しやすく、プリプレグでは成形が困難な複雑な形状の成形が可能である。
【0003】
従来、繊維強化樹脂部材を自動車の車体や航空機の機体等に取り付ける場合には、例えば、ボルト等の締結具を繊維強化樹脂部材及び車体等に形成された貫通孔(ボルト孔)に挿通し、ねじ留めによって繊維強化樹脂部材と車体等とを締結する方法が採用されている。
しかしながら、このような方法では、繊維強化樹脂部材に経時的にクリープ現象による肉痩せが生じるため、ボルトによる軸力が低下し、ボルトに緩みが生じるおそれがある。
【0004】
上記のような、ボルト等の締結具によって繊維強化樹脂部材にクリープ現象が生じるのを抑制するためには、例えば、金属製のカラーを繊維強化樹脂部材の貫通孔に装着し、ボルトとの接触箇所を金属部品から構成することが有効であることが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
特許文献1に記載の締結構造によれば、繊維強化樹脂部材に形成された貫通孔に接着剤を用いてカラーが接着されており、ボルトとカラーがメタルタッチするように構成されている。特許文献1では、ボルト締結に伴う軸方向の力を金属製のカラーで受ける構成とすることで、クリープ現象の影響を受けにくくし、ボルトの緩みが生じるのを抑制することが可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
SMCを用いて製造された繊維強化樹脂部材(以下、「SMC部品」ともいう。)は、プリプレグを用いて製造された繊維強化樹脂部材に比べて樹脂の割合が多いため、クリープ現象による影響を受けやすい。
加えて、SMC部品は成形時の流動により締結部における繊維含有量が安定しにくく、軸力保持率にバラつきが生じることがある。特に、高温環境下に曝されると軸力保持率がバラつきやすい。
【0007】
本発明は、SMC部品のボルト締結において、高温環境下に曝されても軸力保持率のバラつきが抑制されたボルト締結体と、前記ボルト締結体を生産性よく低コストで製造できるボルト締結体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] 第1ボルト孔が形成された第1被締結部材と、前記第1ボルト孔と重なる第2ボルト孔が形成された第2被締結部材と、前記第1被締結部材と前記第2被締結部材とを締結するボルトと、を有するボルト締結体であって、
前記ボルトは、軸部と前記軸部の直径よりも大きい直径を有する頭部とを備え、
前記第1被締結部材と前記第2被締結部材とは、前記ボルトの前記軸部が前記第1ボルト孔から前記第2ボルト孔にかけて挿通されて締結され、
前記第1被締結部材は、強化繊維と樹脂組成物とを含むシートモールディングコンパウンドの硬化物からなる層の少なくとも一方の表面に、強化繊維からなる連続繊維と樹脂組成物とを含むプリプレグの硬化物からなる層が積層した繊維強化樹脂部材である、ボルト締結体。
[2] 前記シートモールディングコンパウンド及び前記プリプレグに含まれる強化繊維が、それぞれガラス繊維又は炭素繊維を含む、前記[1]のボルト締結体。
[3] 前記第2被締結部材が金属成形品又は繊維強化樹脂部材からなる、前記[1]又は[2]のボルト締結体。
[4] 前記ボルトが金属からなる、前記[1]~[3]のいずれかのボルト締結体。
[5] 前記プリプレグが、一方向プリプレグ又はクロスプリプレグである、前記[1]~[4]のいずれかのボルト締結体。
[6] 前記プリプレグの硬化物からなる層が、前記第1被締結部材の前記ボルトの頭部側の最表層となるように、前記シートモールディングコンパウンドの硬化物からなる層の少なくとも一方の表面に積層されている、前記[1]~[5]のいずれかのボルト締結体。
[7] 第1ボルト孔が形成された第1被締結部材と、第2ボルト孔が形成された第2被締結部材とを、前記第1ボルト孔と前記第2ボルト孔とが重なるように配置し、軸部と前記軸部の直径よりも大きい直径を有する頭部とを備えるボルトの前記軸部を、前記第1ボルト孔から前記第2ボルト孔にかけて挿通して、前記第1被締結部材と前記第2被締結部材とを締結するボルト締結体の製造方法であって、
前記第1被締結部材は、シートモールディングコンパウンドの硬化物からなる層の少なくとも一方の表面に、一方向プリプレグ又はクロスプリプレグの硬化物からなる層が最表層となるように積層された繊維強化樹脂部材であり、
前記一方向プリプレグ又はクロスプリプレグの硬化物からなる層が、前記第1被締結部材の前記ボルトの頭部側の最表層となるように、前記第1被締結部材と前記第2被締結部材とを配置する、ボルト締結体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、SMC部品のボルト締結において、高温環境下に曝されても軸力保持率のバラつきが抑制されたボルト締結体と、前記ボルト締結体を生産性よく低コストで製造できるボルト締結体の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明のボルト締結体の一例を示す断面図である。
【
図2】軸力の測定方法を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[ボルト締結体]
図1は、本発明のボルト締結体の一例を示す断面図である。
この例のボルト締結体1は、第1被締結部材10と、第2被締結部材20と、第1被締結部材10と第2被締結部材20とを締結するボルト30と、を有する。
【0012】
<第1被締結部材>
第1被締結部材10には、第1被締結部材10を貫通する第1ボルト孔10aが形成されている。
第1ボルト孔10aは、後述する第2被締結部材20に形成された第2ボルト孔20aと重なるように、第1被締結部材10に形成されている。
第1ボルト孔10aの孔径は特に制限されず、第1被締結部材10を締結する場所に応じて設定すればよい。第1ボルト孔10aは、第1被締結部材10の締結位置や角度を微調整できる長穴であってもよい。
【0013】
この例の第1被締結部材10は、シートモールディングコンパウンドの硬化物からなる層(以下、「第1繊維強化樹脂層」ともいう。)11の両面に、強化繊維からなる連続繊維と樹脂組成物とを含むプリプレグの硬化物からなる層(以下、「第2繊維強化樹脂層」ともいう。)12が積層した繊維強化樹脂部材13である。すなわち、この例の第1被締結部材10では、第2繊維強化樹脂層12が第1被締結部材10の最表層となるように、第1繊維強化樹脂層11の両面に積層されている。
硬化物は、硬化性樹脂が熱や光によって硬化した物、及び熱可塑樹脂が溶融して固化した物を含む。
【0014】
(第1繊維強化樹脂層)
第1繊維強化樹脂層11は、強化繊維と樹脂組成物(以下、「樹脂組成物(A)」ともいう。)とを含むシートモールディングコンパウンド(SMC)の硬化物から構成される基材である。SMCは成形を容易にする観点からシートであることが好ましい。
第1繊維強化樹脂層11は、1枚のSMCの硬化物からなる層であってもよいし、2枚以上のSMCの硬化物からなる層であってもよい。
第1繊維強化樹脂層11の厚みは、第1被締結部材10全体の厚みに対して、30~95%が好ましい。
【0015】
強化繊維としては特に限定されないが、無機繊維、有機繊維、金属繊維、又はこれらを組み合わせたハイブリッド構成の強化繊維等が挙げられる。
無機繊維としては、炭素繊維、黒鉛繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、タングステンカーバイド繊維、ボロン繊維、ガラス繊維等が挙げられる。炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等が挙げられる。有機繊維としては、アラミド繊維、高密度ポリエチレン繊維、その他一般のナイロン繊維、ポリエステル繊維等が挙げられる。金属繊維としては、ステンレス、鉄等の繊維が挙げられる。ハイブリッド構成の強化繊維としては、金属を被覆した炭素繊維が挙げられる。これらの中でも、繊維強化樹脂部材13の強度等の機械物性を考慮すると、ガラス繊維、炭素繊維が好ましい。その中でも特に、比強度、比剛性が高く軽量化効果の観点から、炭素繊維が好ましい。
これらの強化繊維は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
強化繊維の形態は、典型的には、短繊維束である。短繊維束は、典型的には、連続繊維を一方向に引き揃えた強化繊維束(トウ)を所定の長さに切断した切断片である。
強化繊維束のフィラメント数は、1000~60000本が好ましく、1000~20000本がより好ましく、1000~15000本がさらに好ましく、1000~5000本が特に好ましい。強化繊維束のフィラメント数が上記下限値以上であれば、SMCの流動性を向上させることができる。強化繊維束のフィラメント数が上記上限値以下であれば、第1繊維強化樹脂層11の反りを防止できる。
【0017】
強化繊維の長さ(繊維長)は、一般にSMCに使用される強化繊維の長さとすることが好ましい。強化繊維の長さとしては、1~60mmが好ましく、1~30mmがより好ましい。強化繊維の長さが上記下限値以上であれば、繊維強化樹脂部材13の機械的特性がより優れる。強化繊維の長さが上記上限値以下であれば、SMCをプレス成形する際に良好な流動性が得られやすい。
【0018】
強化繊維の含有量(以下、「繊維含有量」ともいう。)は、SMCの総質量に対し、20質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましい。また、繊維含有量は、SMCの総質量に対し、75質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、65質量%以下がさらに好ましい。繊維含有量が上記下限値以上であれば、強化繊維による補強効果が充分に発揮され、繊維強化樹脂部材13の機械的強度がより優れる。繊維含有量が上記上限値以下であれば、SMCの成形時の流動性がより優れる。
【0019】
樹脂組成物(A)は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等の樹脂成分を含む。
強化繊維束を樹脂組成物(A)のシートに分散させてSMCを製造する場合、樹脂成分としては、熱硬化性樹脂が好ましい。
予め樹脂組成物(A)が含浸した強化繊維束を樹脂組成物(A)のシートに分散させてSMCを製造する場合、樹脂成分としては、熱可塑性樹脂が好ましい。
樹脂成分として、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とを組み合わせて用いてもよい。
【0020】
熱硬化性樹脂としては特に限定されないが、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、尿素性樹脂、メラミン樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂等が挙げられる。これらの中でも、強化繊維として炭素繊維を用いる場合には、炭素繊維との接着性の点で、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂が好ましい。
これらの熱硬化性樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66等)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、変性ポリオレフィン、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリカーボネート、ポリアミドイミド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリスチレン、ABS、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリエステルや、アクリロニトリルとスチレンの共重合体等が挙げられる。
これらの熱可塑性樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
樹脂成分の含有量(以下、「樹脂含有量」ともいう。)は、SMCの総質量に対し、25質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、35質量%以上がさらに好ましい。また、樹脂含有量は、SMCの総質量に対し、80質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、50質量%以下がさらに好ましい。樹脂含有量が上記下限値以上であれば、SMCの成形時の流動性がより優れる。樹脂含有量が上記上限値以下であれば、強化繊維による補強効果が充分に発揮され、繊維強化樹脂部材13の機械的強度がより優れる。
【0023】
樹脂組成物(A)には、添加剤が配合されていてもよい。
添加剤としては、難燃剤、耐候性改良剤、その他酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤、相溶化剤、導電性フィラー等が挙げられ、繊維強化樹脂部材13の要求性能にあわせて適宜選定できる。
添加剤の含有量は、SMCの総質量に対し、0~25質量%が好ましく、1~20質量%がより好ましく、1~15質量%がさらに好ましい。
【0024】
SMCの製造方法は特に制限されず、公知の方法によって製造できる。例えば、樹脂組成物(A)を強化繊維に含浸させ、一定期間保持して養生する(樹脂組成物(A)を増粘させる)ことによってSMCを製造する。
【0025】
(第2繊維強化樹脂層)
第2繊維強化樹脂層12は、強化繊維からなる連続繊維と樹脂組成物(以下、「樹脂組成物(B)」ともいう。)とを含むプリプレグの硬化物から構成される基材である。プリプレグは成形を容易にする観点からシートであることが好ましい。
第2繊維強化樹脂層12は、1枚のプリプレグの硬化物からなる層であってもよいし、2枚以上のプリプレグの硬化物からなる層であってもよい。
第2繊維強化樹脂層12の厚みの合計は、第1被締結部材10全体の厚みに対して、軸力保持の観点からは5%以上が好ましく、8%以上がより好ましく、成形時の流動性の観点からは70%以下が好ましく、50%以下がより好ましい。
【0026】
連続繊維は強化繊維からなる。強化繊維としては、第1繊維強化樹脂層11の説明において先に例示した強化繊維が挙げられる。これらの中でも、繊維強化樹脂部材13の強度等の機械物性を考慮すると、ガラス繊維、炭素繊維が好ましい。その中でも特に、比強度、比剛性が高く軽量化効果の観点から、炭素繊維が好ましい。
【0027】
プリプレグの具体例としては、連続繊維を一方向に引き揃えた強化繊維束に樹脂組成物(B)が含浸した一方向プリプレグ(UDプリプレグ)、連続繊維の織物に樹脂組成物(B)が含浸したクロスプリプレグ、トウ(強化繊維束)に予め樹脂組成物(B)が含浸したトウプレグ等が挙げられる。
第1繊維強化樹脂層11の一方の面に積層される第2繊維強化樹脂層12と、第1繊維強化樹脂層11の他方の面に積層される第2繊維強化樹脂層12とは、同じプリプレグで構成されていてもよいし、樹脂組成、繊維の種類、構成成分比率等が異なるプリプレグで構成されていてもよい。
【0028】
強化繊維束のフィラメント数は、1000~60000本が好ましく、1000~20000本がより好ましく、1000~15000本がさらに好ましく、1000~5000本が特に好ましい。強化繊維束のフィラメント数が上記下限値以上であれば、強化繊維による補強効果が充分に発揮され、繊維強化樹脂部材13の機械的強度がより高まる。強化繊維束のフィラメント数が上記上限値以下であれば成形時の賦形がしやすい。
【0029】
連続繊維の含有量(以下、「繊維含有量」ともいう。)は、プリプレグの総質量に対し、50~85質量%が好ましく、55~80質量%がより好ましく、60~75質量%がさらに好ましい。繊維含有量が上記下限値以上であれば、強化繊維による補強効果が充分に発揮され、繊維強化樹脂部材13の機械的強度がより高まる。繊維含有量が上記上限値以下であれば、連続繊維と樹脂組成物(B)との接着性を充分に確保することができる。
また、プリプレグ中の繊維含有量は、SMC中の繊維含有量よりも多いことが好ましい。例えば、プリプレグ中の繊維含有量-SMC中の繊維含有量で表される繊維含有量の差は、5~15質量%が好ましい。
【0030】
樹脂組成物(B)は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等の樹脂成分を含む。
熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂としては、それぞれ第1繊維強化樹脂層11の説明において先に例示した熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0031】
樹脂成分の含有量(以下、「樹脂含有量」ともいう。)は、プリプレグの総質量に対し、15~50質量%が好ましく、20~45質量%がより好ましく、25~40質量%がさらに好ましい。樹脂含有量が上記下限値以上であれば、連続繊維と樹脂組成物(B)との接着性を充分に確保することができる。樹脂含有量が上記上限値以下であれば、強化繊維による補強効果が充分に発揮され、繊維強化樹脂部材13の機械的強度がより高まる。
【0032】
樹脂組成物(B)には、添加剤が配合されていてもよい。
添加剤としては、第1繊維強化樹脂層11の説明において先に例示した添加剤が挙げられる。
添加剤の含有量は、プリプレグの総質量に対し、0~25質量%が好ましく、1~20質量%がより好ましく、1~15質量%がさらに好ましい。
【0033】
プリプレグの製造方法は特に制限されず、公知の方法によって製造できる。例えば、樹脂組成物(B)を強化繊維からなる連続繊維に含浸させ、一定期間保持して養生する(樹脂組成物(B)を増粘させる)ことによってプリプレグを製造する。
【0034】
(第1被締結部材の製造方法)
図1に示す第1被締結部材10は、例えば、以下のようにして製造できる。
まず、1枚以上のプリプレグと、1枚以上のSMCと、1枚以上のプリプレグとをこの順に積層し、プリプレグとSMCとを硬化又は固化させて成形し、繊維強化樹脂部材13を得る。
成形方法としては、オートクレーブ成形、真空バッグ成形、プレス成形等の一般的な方法を選択することができる。これらの中でも、生産性の観点からプレス成形が好ましく、金型を用いた加熱加圧成形がより好ましい。
金型を用いた加熱加圧成形において、加熱条件は100~200℃が好ましい。加圧条件は1~10MPaが好ましい。加熱加圧時間は1~20分間が好ましい。
1つの第2繊維強化樹脂層12に2枚以上のプリプレグを用いる場合は、予め2枚以上のプリプレグを積層し、真空脱気しておくことが好ましい。同様に、第1繊維強化樹脂層11に2枚以上のSMCを用いる場合は、予め2枚以上のSMCを積層し、真空脱気しておくことが好ましい。
【0035】
次いで、繊維強化樹脂部材13の所定の箇所に、所定の孔径の第1ボルト孔10aを形成し、第1被締結部材10を得る。
【0036】
<第2被締結部材>
第2被締結部材20には、第2被締結部材20を貫通する第2ボルト孔20aが形成されている。
第2ボルト孔20aの孔径は特に制限されず、第1ボルト孔10aの孔径と略同じであってもよいし、異なっていてもよい。第2ボルト孔20aは、第1被締結部材10の締結位置や角度を微調整できる長穴であってもよい。
第2ボルト孔20aの内表面には、後述するボルト30の軸部31に形成された雄ネジ部と螺合する雌ネジ部(図示略)が形成されていてもよい。
【0037】
第2被締結部材20は、自動車の車体や航空機の機体等の部品であり、金属成形品又は繊維強化樹脂部材からなることが好ましい。
金属成形品の材質(金属)としては、アルミニウム、鉄、ステンレス、各種合金等が挙げられる。これらの中でも、コストを重視する場合は、SS400(JIS規格)などの汎用鋼材が好ましく、軽量性を重視する場合はアルミニウムが好ましい。
【0038】
繊維強化樹脂部材は、例えば、強化繊維に樹脂組成物(以下、「樹脂組成物(C)」ともいう。)を含浸した樹脂含浸中間基材を成形することで得られる。
樹脂含浸中間基材としては、プリプレグ、SMC等が挙げられる。プリプレグを単独で用いてもよく、SMCを単独で用いてもよく、プリプレグとSMCを組み合わせて用いてもよい。
【0039】
強化繊維としては、第1繊維強化樹脂層11の説明において先に例示した強化繊維が挙げられる。
樹脂組成物(C)は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等の樹脂成分を含む。熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂としては、それぞれ第1繊維強化樹脂層11の説明において先に例示した熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂が挙げられる。
樹脂組成物(C)には、添加剤が配合されていてもよい。添加剤としては、第1繊維強化樹脂層11の説明において先に例示した添加剤が挙げられる。
樹脂含浸中間基材の成形方法としては、オートクレーブ成形、真空バッグ成形、プレス成形等の一般的な方法を選択することができる。
【0040】
<ボルト>
ボルト30は、第1被締結部材10と第2被締結部材20とを締結する締結具である。
ボルト30は、軸部31と、軸部31の直径よりも大きい直径を有する頭部32とを備える。
ボルト30の材質としては、金属、樹脂等が挙げられる。これらの中でも、クリープ現象が生じにくい観点から、金属が好ましい。
【0041】
軸部31には、雄ネジ部が形成されている。
軸部31の直径は特に制限されないが、少なくとも第2ボルト孔20aの孔径と略同じであることが好ましい。
頭部の直径は、軸部31の直径よりも大きければ特に制限されないが、少なくとも第1ボルト孔10aの孔径よりも大きいことが好ましい。第1ボルト孔10aが長穴の場合、長穴の短径よりも頭部の直径が大きいことが好ましい。
【0042】
ボルト30の軸部31は、第1ボルト孔10aから第2ボルト孔20aにかけて挿通され、これにより第1被締結部材10と第2被締結部材20とが締結されている。
この例のボルト締結体1では、第1被締結部材10の2つの第2繊維強化樹脂層12のうちの一方が、第1被締結部材10のボルト30の頭部32側の最表層であり、他方が第1被締結部材10の第2被締結部材20側の最表層である。
なお、第1被締結部材10とボルト30の頭部32との間には、座金40を介在させておくことが好ましい。座金40は、ボルト30の頭部32と一体化していてもよい。頭部32と座金40とが一体化しているボルト30としては、フランジボルト等が挙げられる。
【0043】
<ボルト締結体の製造方法>
図1に示すボルト締結体は、例えば第1被締結部材10と第2被締結部材20とを、第1ボルト孔10aと第2ボルト孔20aとが重なるように配置し、ボルト30の軸部31を第1ボルト孔10aから前記第2ボルト孔20aにかけて挿通してボルト30を締めて、第1被締結部材10と第2被締結部材20とを締結することで得られる。ボルト30の頭部32と座金40とが一体化していない場合、ボルト30の軸部31を第1ボルト孔10aに挿通する前に、座金40に挿通しておくことが好ましい。
第2ボルト孔20aの内表面に雌ネジ部(図示略)が形成されている場合、ボルト30を締めてボルト30の軸部31と第2ボルト孔20aとが螺合することで、第1被締結部材10と第2被締結部材20とが締結される。
また、ボルト30の軸部31に形成された雄ネジ部と螺合する雌ネジ部が形成されたナットを用い、第1ボルト孔10aから第2ボルト孔20aを挿通した軸部31にナットを螺合することで、第1被締結部材10と第2被締結部材20とを締結してもよい。
【0044】
また、第1被締結部材10と第2被締結部材20とをボルト30で締結する前に、第1被締結部材10及び第2被締結部材20の締結部、具体的にはボルト30が接する第1ボルト孔10aの周辺や第2ボルト孔20aの周辺等の荷重が加わりやすい部分に、予め予圧を加えておくことが好ましい。予圧を加えておくことで、軸力保持率のバラつきをより抑制できる。
予圧を加える方法としては特に制限されないが、例えばボルト30の軸部31を第1ボルト孔10aから前記第2ボルト孔20aにかけて挿通してボルトを締めた後、ボルトを緩める方法が挙げられる。
【0045】
<作用効果>
SMCは、成形前は強化繊維が均一に分散しているが、SMCを成形してSMC部品とする際に流動することで繊維含有量に偏りが生じることがある。そのため、同じ種類のSMCを成形してSMC部品を製造しても、ボルト孔を形成する場所によってSMC部品毎に繊維含有量が変わってしまい、締結部における繊維含有量が安定しにくく、軸力保持率のバラつきが生じやすい。
一方、プリプレグは、SMCに比べて成形時に流動しにくいため、成形前も成形後も繊維含有量に偏りが生じにくい。そのため、締結部における繊維含有量が安定しやすく、SMC部品と比べると軸力保持率のバラつきが生じにくい。
本実施形態では、第2繊維強化樹脂層12が第1繊維強化樹脂層11の両面に積層した繊維強化樹脂部材13を第1被締結部材10として用い、第2被締結部材20に締結する。よって、本実施形態のボルト締結体1であれば、第1繊維強化樹脂層11のみを第2被締結部材20に締結した場合に比べて、クリープ現象による影響を緩和でき、高温環境下に曝されても軸力保持率のバラつきが生じにくく、一定の品質を確保できる。
加えて、本実施形態のボルト締結体1であれば、第1被締結部材10の第1ボルト孔10aに金属製のカラーを装着する必要がないため、低コストで製造でき、生産性にも優れる。
また、本実施形態のボルト締結体1の製造方法であれば、高温環境下に曝されても軸力保持率のバラつきが抑制されたボルト締結体を優れた加工精度で、生産性よく低コストで製造できる。
【0046】
しかも、SMCは成形時に流動しやすいことから複雑な形状の成形が可能である。よって、複雑な形状の部分が第1繊維強化樹脂層となるように、SMCとプリプレグとを積層して成形すれば、第1被締結部材を複雑な形状とすることもできる。よって、本発明であれば、複雑な形状の第1被締結部材と第2被締結部材とを締結する場合であっても、軸力保持率のバラつきを抑制できる。
【0047】
<他の実施形態>
本発明のボルト締結体は、上述したものに限定されない。
例えば、第1被締結部材は、第2繊維強化樹脂層の両面に第1繊維強化樹脂層が積層した繊維強化樹脂部材であってもよい。
また、第1被締結部材は、第1繊維強化樹脂層の一方の表面に第2繊維強化樹脂層が積層した繊維強化樹脂部材であってもよい。
以下に、第1被締結部材の構成の一例を示す。なお、一方向プリプレグの硬化物からなる層を「第2繊維強化樹脂層(UD)」とし、クロスプリプレグの硬化物からなる層を「第2繊維強化樹脂層(クロス)」とする。また、以下に示す構成例において、それぞれ最も左に位置する層が、第2被締結部材と接するものとする。例えば、下記構成例の(11)~(14)では、第1繊維強化樹脂層が第2被締結部材と接する。
(1)第2繊維強化樹脂層(UD)/第1繊維強化樹脂層/第2繊維強化樹脂層(UD)
(2)第2繊維強化樹脂層(クロス)/第1繊維強化樹脂層/第2繊維強化樹脂層(クロス)
(3)第2繊維強化樹脂層(クロス)/第1繊維強化樹脂層/第2繊維強化樹脂層(UD)
(4)第2繊維強化樹脂層(UD)/第1繊維強化樹脂層/第2繊維強化樹脂層(クロス)
(5)第1繊維強化樹脂層/第2繊維強化樹脂層(UD)/第1繊維強化樹脂層
(6)第1繊維強化樹脂層/第2繊維強化樹脂層(クロス)/第1繊維強化樹脂層
(7)第2繊維強化樹脂層(UD)/第1繊維強化樹脂層
(8)第2繊維強化樹脂層(クロス)/第1繊維強化樹脂層
(9)第2繊維強化樹脂層(UD)/第2繊維強化樹脂層(クロス)/第1繊維強化樹脂層
(10)第2繊維強化樹脂層(クロス)/第2繊維強化樹脂層(UD)/第1繊維強化樹脂層
(11)第1繊維強化樹脂層/第2繊維強化樹脂層(UD)
(12)第1繊維強化樹脂層/第2繊維強化樹脂層(クロス)
(13)第1繊維強化樹脂層/第2繊維強化樹脂層(UD)/第2繊維強化樹脂層(クロス)
(14)第1繊維強化樹脂層/第2繊維強化樹脂層(クロス)/第2繊維強化樹脂層(UD)
【0048】
第1被締結部材としては、第2繊維強化樹脂層が第1被締結部材の最表層となるように、第1繊維強化樹脂層の少なくとも一方の表面に積層した繊維強化樹脂部材が好ましい。上述した構成例の中では、(1)~(4)、(7)~(14)が好ましい。
また、ボルト締結体を製造するに際しては、第2繊維強化樹脂層が、第1被締結部材のボルトの頭部側の最表層となるように、第1被締結部材と第2被締結部材とを配置することが好ましい。上述した構成例の中では、(1)~(4)、(11)~(14)が好ましい。第1被締結部材では、ボルトの頭部側の最表層に特に荷重がかかり、クリープ現象により影響を受けた場合に軸力保持率がバラつきやすい。第2繊維強化樹脂層が第1被締結部材のボルトの頭部側の最表層となるように第1被締結部材と第2被締結部材とを配置すれば、クリープ現象による影響をより緩和でき、軸力保持率のバラつきをより抑制できる。
【0049】
また、
図1に示す第1被締結部材10では、第2繊維強化樹脂層12が第1繊維強化樹脂層11の表面全体を覆うように配置されているが、第1繊維強化樹脂層11の第1ボルト孔10aが配置される位置に、部分的に第2繊維強化樹脂層12が配置されていてもよい。
【0050】
また、第1繊維強化樹脂層の第1ボルト孔にカラーを装着してもよい。
カラーは、エポキシ樹脂系接着剤、ウレタン樹脂系接着剤等の接着剤を用いて、第1繊維強化樹脂層の第1ボルト孔に接着されることが好ましい。
【実施例0051】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
[材料]
本実施例で使用したプリプレグ及びSMCを以下に示す。
・プリプレグ:炭素繊維が直交するように製織されたクロス材にエポキシ樹脂を含む樹脂組成物が含浸されたクロスプリプレグ(三菱ケミカル株式会社製、製品名「TR3110 360GMP」、厚さ0.22mm)。
・SMC:炭素繊維の短繊維がランダムに分散された強化繊維基材にビニルエステル樹脂を含む樹脂組成物が含浸されたSMC(三菱ケミカル株式会社製、製品名「STR120N131」、厚さ2mm)。
【0053】
[実施例1]
<第1被締結部材の製造>
まず、以下の手順(1)~(3)の手順で、縦300mm×横300mm×厚さ2.88mmの平板状の繊維強化樹脂部材を製造した。
手順(1):クロスプリプレグの経糸方向を0°方向とし、緯糸方向が90°方向となるように直角に、一辺が298mmの正方形にクロスプリプレグを裁断した。裁断したクロスプリプレグを2枚同じ0°方向を向くように積層し、真空脱気をして積層体(1)得た。
手順(2):SMCを一辺が298mmの正方形に裁断した。手順(1)で作製した積層体(1)上に裁断したSMCを積層した。次いで、SMC上に手順(1)で作製した積層体(1)をさらに積層し、積層構成[積層体(1)/SMC/積層体(1)]の積層体(2)を得た。
手順(3):積層体(2)を140℃に加熱されたプレス金型へ投入して型締めし、4MPaの力で押し込み、5分間保持して硬化させ、縦300mm×横300mm×厚さ2.88mmの平板状の繊維強化樹脂部材を得た。繊維強化樹脂部材の厚みは、[積層体(1)の硬化物/SMCの硬化物/積層体(1)の硬化物]が[0.44mm/2.00mm/0.44mm]となるように設定した。
なお、プレス金型としては、成形品に相補的な形状のキャビティを形成する一対の型を備える圧縮成形用金型を用いた。
【0054】
次いで、得られた繊維強化樹脂部材の0°方向を長手方向とし、一辺が40mmの正方形に繊維強化樹脂部材を裁断し、試験片とした。
得られた試験片に対して穴加工を施し、孔径が6mmの第1ボルト孔を形成し、第1被締結部材とした。
【0055】
<ボルト締結体の製造>
縦40mm×横40mm×厚さ5mmのSS400製の鋼板に対して穴加工を施し、孔径が6mmの第2ボルト孔を形成し、第2被締結部材とした。
ボルトとして、フランジボルト(株式会社ミスミグループ本社製、製品名「HXNHFNI-STCB-M6-40」)を用いた。フランジボルトは、ねじ径がJIS B 1180に規定されるM6であり、座金の外径が13.7mmであった。
第1被締結部材と第2被締結部材とを、第1ボルト孔と第2ボルト孔とが重なるように配置し、フランジボルトの軸部を第1ボルト孔から第2ボルト孔にかけて挿通してボルトを締めて、第1被締結部材と第2被締結部材とを締結し、
図1に示すようなボルト締結体1を製造した。
なお、第1被締結部材と第2被締結部材とは、締結トルク5.2N・mの締付力で締結した。
得られたボルト締結体について、以下のようにして軸力保持率のバラつきを評価した。
【0056】
<軸力保持率のバラつきの評価>
図2に示すように、孔径が6mmの第3ボルト孔50aが形成された台座50に、ボルト締結体1を固定した。なお、第3ボルト孔50aの内表面には、ボルト30の軸部31に形成された雄ネジ部と螺合する雌ネジ部(図示略)が形成されている。
台座50の上に軸力測定用パイプ60を立設させ、軸力測定用パイプ60上に第2被締結部材20及び第1被締結部材10をこの順で積層した。第2被締結部材20及び第1被締結部材10は、第1ボルト孔10a、第2ボルト孔20a及び第3ボルト孔50aの位置が重なるように配置した。なお、軸力測定用パイプ60としては、SUS製のパイプ(株式会社ミスミグループ本社製、製品名「PSTS10-400」、400cm)を長さ15cmに切断して用いた。軸力測定用パイプ60の表面には、高温用のひずみゲージ(株式会社共和電業製、製品名「KFGS-5-120-C1-16R3M2」)61を接着剤で貼り付け、貼り付けた部分を補強用粘土(株式会社共和電業製、商品名「AK22」)を用いて補強した。また、締結時に軸力測定用パイプ60にかかる圧力を均一にするために、軸力測定用パイプ60の上端と下端に平座金70を配置した。
ボルト30としてフランジボルトの軸部31を第1ボルト孔10a、第2ボルト孔20a、軸力測定用パイプ60内、第3ボルト孔30aの順に挿通した。なお、軸力が発生する直前までボルト30を緩めておき、ひずみが落ち着いた後に締結トルク5.2N・mの締付力でボルト30を締めて、第1被締結部材10と第2被締結部材20とを締結しつつ、台座50にボルト締結体1を固定した。
締結直後の軸力測定用パイプ60にかかる圧縮ひずみを測定器(株式会社共和電業製、製品名「PCD400A」)を用い、4ゲージ法にて測定した。締め付けにより軸力測定用パイプ60にかかる圧縮ひずみは、ボルト30にかかる引張ひずみと同じであるため、軸力測定用パイプ60に貼り付けたひずみゲージ61の値を基に軸力を計算した。
【0057】
引き続き、台座50に固定した状態のボルト締結体を100℃に設定した送風定温恒温器(ヤマト科学株式会社製、製品名「DKN602」)内で100時間放置した。放置後のボルト締結体についても同様にして軸力を求め、下記式(i)より軸力保持率を求めた。
5つのボルト締結体について軸力保持率を求め、平均値及び標準偏差を求め、下記式(ii)より軸力保持率変動係数を求めた。結果を表1に示す。
軸力保持率(%)=(放置後の軸力/放置前の軸力)×100 ・・・(i)
軸力保持率変動係数(%)=(標準偏差/平均値)×100 ・・・(ii)
【0058】
[比較例1]
SMCを一辺が298mmの正方形に裁断した。裁断したSMC1枚を140℃に加熱されたプレス金型へ投入して型締めし、4MPaの力で押し込み、5分間保持して硬化させ、縦300mm×横300mm×厚さ2mmの平板状の繊維強化樹脂部材を得た。
得られた繊維強化樹脂部材を用いた以外は、実施例1と同様にしてボルト締結体を製造し、軸力保持率のバラつきを評価した。結果を表1に示す。
【0059】
【0060】
表1から明らかなように、実施例1で得られたボルト締結体は、高温環境下に曝されても軸力保持率のバラつきを抑制できた。
本発明のボルト締結体は、経時的に締結力の緩みが生じる現象を抑制できる。また、本発明のボルト締結体の製造方法によれば、上述したボルト締結体を優れた加工精度で、生産性よく低コストで製造できる。よって、本発明のボルト締結体及びその製造方法は、航空機や車両等の様々な用途において有用である。