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特開2022-120515真空蒸着装置用の蒸着源及びこの蒸着源を備える真空蒸着装置
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  • 特開-真空蒸着装置用の蒸着源及びこの蒸着源を備える真空蒸着装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120515
(43)【公開日】2022-08-18
(54)【発明の名称】真空蒸着装置用の蒸着源及びこの蒸着源を備える真空蒸着装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20220810BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20220810BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
C23C14/24 A
H05B33/10
H05B33/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021017449
(22)【出願日】2021-02-05
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】梅原 政司
【テーマコード(参考)】
3K107
4K029
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC45
3K107GG04
3K107GG32
3K107GG33
3K107GG34
4K029DA03
4K029DA13
4K029DB12
4K029DB14
4K029HA01
(57)【要約】
【課題】比較的遅い蒸着レートで蒸着する場合でも、膜厚モニタを利用してその蒸着レートを調節するのに適した真空蒸着装置用の蒸着源を提供する。
【解決手段】真空チャンバ1内に配置されて被処理基板Swに対して蒸着するための本発明の真空蒸着装置DM用の蒸着源DS,DSは、蒸着材料4が充填される容器51a,51bと、この容器内の蒸着材料を加熱する加熱手段6とを備え、容器に、加熱によりこの容器内で気化または昇華した蒸着材料の放出を可能とする放出部53a,53bを有し、放出部から所定の余弦則に従い放出される蒸着材料の飛散領域を正規飛散領域Ndとし、正規飛散領域以外の領域に向けて容器内で気化または昇華した蒸着材料の放出を可能とする補助放出部54を前記容器に設けた。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内に配置されて被処理基板に対して蒸着するための真空蒸着装置用の蒸着源であって、蒸着材料が充填される容器と、この容器内の蒸着材料を加熱する加熱手段とを備え、容器に、加熱によりこの容器内で気化または昇華した蒸着材料の放出を可能とする放出部を有するものにおいて、
放出部から所定の余弦則に従い放出される蒸着材料の飛散領域を正規飛散領域とし、正規飛散領域以外の領域に向けて容器内で気化または昇華した蒸着材料の放出を可能とする補助放出部を前記容器に設けたことを特徴とする蒸着源。
【請求項2】
前記放出部が、前記被処理基板に対向配置される前記容器の上面に突設した放出ノズルで構成され、前記補助放出部が、前記容器の上面または側面にその先端の放出開口が側方を向くように突設した補助ノズルで構成されることを特徴とする請求項1記載の蒸着源。
【請求項3】
被処理基板に対して共蒸着により所定の薄膜を成膜するための真空蒸着装置であって、
真空チャンバ内に互いに隣接配置した複数個の蒸着源と、各蒸着源から放出される蒸着材料の膜厚を夫々モニタする複数個の膜厚モニタとを備え、各膜厚モニタが、水晶基板の表裏両面に励振電極が形成される水晶振動子と、表側励振電極と裏側励振電極との間に電圧を印加してその電位差により水晶振動子を励振させ、水晶振動子の重量変化に伴う共振周波数の変化量を基に膜厚を検出する検出手段とを有するものにおいて、
少なくとも1個の蒸着源は、蒸着材料が充填される容器とこの容器内の蒸着材料を加熱する加熱手段とを有し、容器に加熱によりこの容器内で気化または昇華した蒸着材料の放出を可能とする放出部が設けられ、
放出部から所定の余弦則に従い放出される蒸着材料の飛散領域を正規飛散領域とし、正規飛散領域以外の領域に向けて容器内で気化または昇華した蒸着材料の放出を可能とする補助放出部が前記容器に更に設けられ、少なくとも1個の膜厚モニタの水晶振動子が、補助放出部から所定の余弦則に従い放出される蒸着材料の飛散領域に配置されることを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項4】
前記真空チャンバ内で前記水晶振動子と前記容器との間に、前記補助放出部が挿通する透孔を有する遮熱板を配置したことを特徴とする請求項3記載の真空蒸着装置。
【請求項5】
前記真空チャンバ内で前記水晶振動子と前記容器との間に、前記補助放出部の放出口から放出された前記蒸着材料の水晶振動子への付着分布を調整する分布調整手段を更に配置したことを特徴とする請求項3または請求項4記載の真空蒸着装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸着装置用の蒸着源及びこの蒸着源を備えて共蒸着により所定の薄膜を成膜する真空蒸着装置に関し、より詳しくは、蒸着源にて0.1Å/s以下の非常に遅い蒸着レートで蒸着するような場合でも精度よく膜厚をモニタできるようにしたものに関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子の有機発光層を形成する際に、発光効率を向上させるために、ホスト材料に所定の混合割合で少なくとも一種のドーパント材料を含ませることが一般に知られている。このような有機発光層の形成には、例えば、真空チャンバ内で互いに隣接させてホスト材料用の蒸着源とドーパント材料用の蒸着源とを配置した真空蒸着装置が利用される。そして、ホスト材料とドーパント材料との共蒸着時に夫々の蒸着レート(成膜レート)を適宜制御することでホスト材料とドーパント材料との混合割合が調整される。
【0003】
各蒸着源としては、ホスト材料やドーパント材料といった蒸着材料が充填される箱状の容器を有し、この容器の被処理基板(以下、「基板」という)に対向する上面に放出ノズル(放出部)が一方向に間隔を存して列設されたものが用いられる(所謂ラインソース:例えば、特許文献1参照)。共蒸着により有機発光層を成膜する場合、真空雰囲気の真空チャンバ内で、各容器内のホスト材料とドーパント材料とを夫々加熱して昇華または気化させ、この昇華または気化したホスト材料とドーパント材料とを各容器の放出ノズルから所定の余弦則に従い夫々放出させ、各蒸着源に対して相対移動する基板に付着、堆積させて、所定の混合割合を持つ有機発光層が成膜される。
【0004】
真空蒸着装置には、ホスト材料とドーパント材料との膜厚を夫々モニタするための膜厚モニタが設けられ、単位時間当たりの膜厚からホスト材料とドーパント材料との蒸着中における蒸着レートを得ることができる。このような膜厚モニタとしては、水晶振動子を利用した水晶発振式のものが広く利用されている。このものは、水晶基板の表裏両面に励振電極が形成される水晶振動子と、表側励振電極と裏側励振電極との間に電圧を印加してその電位差により水晶振動子を励振させ、水晶振動子の重量変化に伴う共振周波数の変化量を基に、基板表面での膜厚を検出する検出手段とを備える(例えば、特許文献2参照)。通常は、ホスト材料の膜厚を検出する水晶振動子(以下、「第1水晶振動子」という)と、ドーパント材料の膜厚を検出する水晶振動子(以下、「第2水晶振動子」という)とは、各蒸着源から同じ高さの同一平面内で且つ各蒸着源の放出ノズルから所定の余弦則に従い放出されるホスト材料とドーパント材料とが夫々直接付着する基板周辺の所定位置に隣接配置される。このため、ホスト材料とドーパント材料との膜厚をモニタするときには、第1水晶振動子にはドーパント材料も、また、第2水晶振動子にはホスト材料も付着することになる。
【0005】
ここで、ホスト材料とドーパント材料との共蒸着時、ホスト材料に対するドーパント材料の蒸着レートの割合を0.1%~0.01%の範囲(ドーパント材料の蒸着レートが、例えば、0.1Å/s以下)とする場合があり、ホスト材料と比較してドーパント材料の蒸着レートは非常に遅い。このため、第2水晶振動子への単位時間当たりの付着量が微量であることで、ドーパント材料の膜厚を精度よくモニタできない場合がある。このような場合、水晶振動子への蒸着材料(ドーパント材料)の付着量が増加されるようにすることが考えられる。然し、基板への成膜のために容器の放出ノズルから放出される蒸着材料の一部を水晶振動子にも付着させて膜厚をモニタする上記従来例のものでは、基板への成膜視野や真空チャンバ内での設置スペースを考慮すると、例えば、第2水晶振動子のみをドーパント材料用の蒸着源に近接させるようなことは事実上できない。しかも、膜厚のモニタ中に、蒸着源からの熱線により水晶振動子が加熱されたのでは、単位時間当たりの付着量が微量である場合に共振周波数が成膜材料の付着によって変化したのか、または、水晶振動子が加熱されることに伴って変化したのかが区別できず、これでは、外乱の影響を受けて膜厚をモニタできない虞もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-77193号公報
【特許文献2】特開2015-117397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の点に鑑み、比較的遅い蒸着レートで蒸着する場合でも、膜厚モニタを利用してその蒸着レートを調節するのに適した真空蒸着装置用の蒸着源を提供することをその課題とする。また、本発明は、共蒸着により所定の薄膜を成膜する場合に、各蒸着材料の蒸着レートの遅速に関係なく、各蒸着源の蒸着レートを精度よく夫々モニタできるようにした真空蒸着装置を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、真空チャンバ内に配置されて被処理基板に対して蒸着するための本発明の真空蒸着装置用の蒸着源は、蒸着材料が充填される容器と、この容器内の蒸着材料を加熱する加熱手段とを備え、容器に、加熱によりこの容器内で気化または昇華した蒸着材料の放出を可能とする放出部を有し、放出部から所定の余弦則に従い放出される蒸着材料の飛散領域を正規飛散領域とし、正規飛散領域以外の領域に向けて容器内で気化または昇華した蒸着材料の放出を可能とする補助放出部を前記容器に設けたことを特徴とする。この場合、前記放出部が、前記被処理基板に対向配置される前記容器の上面に突設した放出ノズル、前記補助放出部が、前記容器の上面または側面にその先端の放出開口が側方を向くように突設した補助ノズルとする構成を採用することができる。
【0009】
また、上記課題を解決するために、被処理基板に対して共蒸着により所定の薄膜を成膜するための本発明の真空蒸着装置は、真空チャンバ内に互いに隣接配置した複数個の蒸着源と、各蒸着源から放出される蒸着材料の膜厚を夫々モニタする複数個の膜厚モニタとを備え、各膜厚モニタが、水晶基板の表裏両面に励振電極が形成される水晶振動子と、表側励振電極と裏側励振電極との間に電圧を印加してその電位差により水晶振動子を励振させ、水晶振動子の重量変化に伴う共振周波数の変化量を基に膜厚を検出する検出手段とを有し、少なくとも1個の蒸着源は、蒸着材料が充填される容器とこの容器内の蒸着材料を加熱する加熱手段とを有し、容器に加熱によりこの容器内で気化または昇華した蒸着材料の放出を可能とする放出部が設けられ、放出部から所定の余弦則に従い放出される蒸着材料の飛散領域を正規飛散領域とし、正規飛散領域以外の領域に向けて容器内で気化または昇華した蒸着材料の放出を可能とする補助放出部が前記容器に更に設けられ、少なくとも1個の膜厚モニタの水晶振動子が、補助放出部から所定の余弦則に従い放出される蒸着材料の飛散領域に配置されることを特徴とする。
【0010】
以上によれば、例えば、ホスト材料とドーパント材料との共蒸着時に、比較的蒸着レートの遅い蒸着源に補助放出部を設けて、補助放出部から正規飛散領域以外の領域に気化または昇華した蒸着材料を放出させる。この補助放出部から放出された蒸着材料を膜厚モニタの水晶振動子に付着、堆積させ、水晶振動子の重量変化に伴う共振周波数の変化量を基に、被処理基板表面での膜厚が検出される(このとき、加熱手段により容器内の蒸着材料に加える熱量や成膜時の真空チャンバ内圧力などの条件をかえて、放出部から放出される蒸着材料の被処理基板への付着量が予め実験的に求められ、検出される膜厚が適宜補正される)。
【0011】
このように本発明では、正規飛散領域以外の領域に向けて蒸着材料を放出させる専用の放出部(補助放出部)を設け、補助放出部から放出される蒸着材料のみを基に膜厚を検出する構成を採用したため、比較的遅い蒸着レートで蒸着するような場合でも精度よく膜厚をモニタすることができ、共蒸着により所定の薄膜を成膜する場合には、各蒸着材料の蒸着レートの遅速に関係なく、各蒸着源の蒸着レートを精度よく夫々モニタすることができる。また、補助放出部の放出開口の向きを適宜調整すれば、成膜視野を遮ることなく、真空チャンバ内の空きスペースを利用して膜厚モニタの水晶振動子を配置でき、しかも、水晶振動子を近接配置してこの水晶振動子への蒸着材料の付着量を増加させることができ、有利である。その上、水晶振動子への蒸着材料の入射角度を最適に調整できるため、例えば、加熱手段により容器内の蒸着材料に加える熱量を変えて容器内での蒸着材料の気化量または昇華量を変化させたとき、これに対応した蒸着材料の指向性変化の影響も抑制でき、被処理基板表面での膜厚変動をより安定化させることができる。
【0012】
ところで、放出部の放出開口近傍に膜厚モニタの水晶振動子を配置して膜厚をモニタする際に、蒸着源からの熱線により水晶振動子が加熱されたのでは、単位時間当たりの付着量が微量である場合に共振周波数が成膜材料の付着によって変化したのか、または、水晶振動子が加熱されることに伴って変化したのかが区別できず、これでは、外乱の影響を受けて膜厚をモニタできない虞もある。そこで、前記真空チャンバ内で前記水晶振動子と前記容器との間に、前記補助放出部が挿通する透孔を有する遮熱板を配置する構成を採用することが好ましい。また、補助放出部から放出される蒸着材料を水晶振動子に付着させる際に、偏って蒸着材料が付着したのでは精度よく膜厚をモニタすることができないばかりか、水晶振動子の寿命を短くする虞がある。そこで、前記真空チャンバ内で前記水晶振動子と前記容器との間に、前記補助放出部の放出口から放出された前記蒸着材料の水晶振動子への付着分布を調整する分布調整手段を更に配置し、水晶振動子に面内均一性よく蒸着材料を付着させる構成を採用することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態の蒸着源を備える真空蒸着装置を説明する、一部を断面視とした部分斜視図。
図2図1の真空蒸着装置を正面側からみた図。
図3】変形例に係る補助ノズルを備える蒸着源の正面側からみた図。
図4】(a)及び(b)は、補助ノズル先端に装着される分布調節手段の拡大斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、被処理基板を矩形の輪郭を持つ所定厚さのガラス基板(以下、「基板Sw」という)とし、基板Swの片面に共蒸着により所定の薄膜を成膜する場合を例に本発明の真空蒸着装置用の蒸着源及びこの蒸着源を備える真空蒸着装置の実施形態を説明する。以下においては、「上」、「下」といった方向を示す用語は、真空蒸着装置の設置姿勢で示す図1を基準として説明する。
【0015】
図1を参照して、DMは、本実施形態の真空蒸着装置である。真空蒸着装置DMは、真空チャンバ1を備え、真空チャンバ1には、特に図示して説明しないが、排気管を介して真空ポンプが接続され、所定圧力(真空度)に真空引きして保持することができる。真空チャンバ1の上部には基板搬送装置2が設けられている。基板搬送装置2は、成膜面としての下面を開放した状態で基板Swを保持するキャリア21を有し、図外の駆動装置によってキャリア21、ひいては基板Swが真空チャンバ1内の一方向に所定速度で搬送されるようになっている。基板搬送装置2としては公知のものが利用できるため、これ以上の説明は省略する。また、以下においては、後述の蒸着源DS,DSに対する基板Swの相対移動方向をX軸方向、X軸方向に直交する基板Swの幅方向をY軸方向とする。
【0016】
基板搬送装置2によって搬送される基板Swと蒸着源DS,DSとの間には、板状のマスクプレート3が設けられている。本実施形態では、マスクプレート3は、基板Swと一体に取り付けられて基板Swと共に基板搬送装置2によって搬送される。なお、マスクプレート3は、真空チャンバ1に予め固定配置しておくこともできる。マスクプレート3には、板厚方向に貫通する複数の開口31が形成され、これら開口31がない位置にて蒸着材料の基板Swに対する付着範囲が制限されることで所定のパターンで基板Swに成膜されるようになっている。マスクプレート3としては、インバー、アルミ、アルミナやステンレス等の金属製の他、ポリイミド等の樹脂製のものが用いられる。そして、真空チャンバ1の底面には、X軸方向に搬送される基板Swに対向させて、従来例に相当する第1の蒸着源DSと、本実施形態の第2の蒸着源DSとがX軸方向で互いに隣接させて設けられている。
【0017】
図2も参照して、第1及び第2の各蒸着源DS,DSは、後述の補助ノズルを備える以外、同一の形態を有し、固体の蒸着材料4を収容する箱状の容器としての収容箱51a,51bを有する。各収容箱51a,51b内に夫々収容される蒸着材料4としては、共蒸着により基板Swに成膜しようとする薄膜に応じて適宜選択され(例えば、ホスト材料とドーパント材料)、顆粒状、フレーク状またはタブレット状のものが利用される。収容箱51a,51bの下部には、金属製の受け皿52が設けられ、受け皿52内に蒸着材料4が充填されるようにしている。受け皿52と収容箱51a,51bの間には加熱手段6が設けられ、蒸着材料4を気化または昇華する温度まで加熱することができる。加熱手段6としては、シースヒータやランプヒータ等の公知のものが利用でき、また、誘導加熱式のもので加熱手段6を構成することもできる。なお、特に図示して説明しないが、収容箱51a,51b内には、受け皿52の上方に位置させて分散板が設けられ、気化または昇華した蒸着材料4を後述の各放出ノズルから略均等に放出できるようにしている。
【0018】
各収容箱51a,51bの上面(基板Swとの対向面)には、加熱によりその内部で気化または昇華した蒸着材料4を真空チャンバ1内で基板Swに向けて放出する放出部としての放出ノズル53a,53bがY軸方向に所定の間隔で(本実施形態では、6本)夫々列設されている。各放出ノズル53a,53bは、所定高さの筒状体で構成され、例えば、その孔軸が基板Swに平行に設置される収容箱51a,51bの上面に直交する姿勢で各収容箱51a,51bの上面に夫々立設され、各放出ノズル53a,53b先端の放出開口530が基板Swに対向するようにしている。放出ノズル53a,53bの本数、ノズル径、上面からノズル先端の放出開口530までの高さ、収容箱51a,51bの上面に対する孔軸の傾斜角や、各放出ノズル53a,53bの配列は、例えば、基板Swに蒸着したときのY軸方向の膜厚分布や、蒸着時のノズル詰まりの回避を考慮して適宜設定される。
【0019】
真空チャンバ1内には、第1及び第2の各蒸着源DS,DSの蒸着レートを夫々検出するために、第1及び第2の各膜厚モニタ7,7が設けられている。第1及び第2の各膜厚モニタ7,7としては、同一の構造を持つものが利用でき、真空チャンバ1内に設置されるセンサヘッド71a,71bと、真空チャンバ1外に設置される検出手段としてのコントローラ72a,72bを備える。センサヘッド71a,71bは、公知のものが利用できるため、特に詳細には図示しないが、複数の水晶振動子73が同一円周上に間隔を置いて設置されてステッピングモータにより回転駆動されるホルダ74を有する。ホルダ74には、各水晶振動子73を覆うようにマスク体75が設置され、マスク体75の所定位置には1個の水晶振動子73を臨む成膜用窓75aが開設されている。水晶振動子73は、水晶基板73aの表裏両面に励振電極73b,73cが形成されたものである。以下において、センサヘッド71aに設けられる水晶振動子を第1水晶振動子73、センサヘッド71bに設けられる水晶振動子を第2水晶振動子73ともいう。一方、コントローラ72a,72bは、表側励振電極73bと裏側励振電極73cとの間に電圧を印加してその電位差により水晶振動子73を励振させ、水晶振動子73の重量変化に伴う共振周波数の変化量を基に膜厚を検出する。そして、例えば、蒸着材料4の膜厚が増加するのに従い、測定される共振周波数が所定範囲を超えて変化すると、寿命と判断され、ステッピングモータにより次の水晶振動子73が成膜用窓75aを臨む位相までホルダ74が再度回転される。
【0020】
真空蒸着装置DMは、コンピューター、メモリやシーケンサ等を備える制御ユニットCuを備え、制御ユニットCuは、例えば加熱手段6や真空ポンプの作動を統括制御する。この場合、制御ユニットCuは、タッチパネルディスプレイ(図示せず)を備え、タッチパネルディスプレイを介して、例えば加熱手段43の加熱温度を設定し、または、設定値や真空チャンバ1内の圧力を表示することができる。制御ユニットCuはまた、膜厚モニタ7,7の各コントローラ72a,72bと通信自在に接続され、第1及び第2の各膜厚モニタ7,7で検出した膜厚から、例えば、加熱手段6を制御して蒸着レートを所定値に調節することができる。
【0021】
ここで、センサヘッド71a,71bは、通常、第1及び第2の各蒸着源DS,DSから同じ高さの同一平面内で且つ第1及び第2の各蒸着源DS,DSの放出ノズル53a,53bから所定の余弦則に従い夫々放出される蒸着材料が第1及び第2の各水晶振動子73,73に夫々直接付着する基板Sw周辺の所定位置(即ち、成膜視野を遮ならない所定位置)に隣接配置される。一方、共蒸着時、第1の蒸着源DSと比較して第2の蒸着源DSの蒸着レートの割合を0.1%~0.01%の範囲(蒸着レートが、例えば、0.1Å/s以下)とする場合がある。このような場合、第2の蒸着源DSの蒸着レートは非常に遅く、第2水晶振動子73への単位時間当たりの付着量が微量であるため、このような場合でも精度よく膜厚をモニタできるように構成しておく必要がある。
【0022】
本実施形態では、第2の蒸着源DSの各放出ノズル53bから所定の余弦則に従い放出される蒸着材料4の飛散領域を正規飛散領域Ndとし、第2の蒸着源DSの収容箱51bに、正規飛散領域Nd以外の領域に向けて気化または昇華した蒸着材料4の放出する、補助放出部としての単一の補助ノズル54を設けることとした。そして、補助ノズル54先端の放出開口54aに第2水晶振動子73が対向するように第2の膜厚モニタ7のセンサヘッド71bを近接設置することとした。具体的には、補助ノズル54は、そこから所定の余弦則に従い放出される蒸着材料4の飛散領域が正規飛散領域Ndと重ならないように収容箱51bの側面にその上面に略平行にのびる姿勢で立設されている。補助ノズル54の形態はこれに限定されるものではなく、例えば、第2の蒸着源DSの蒸着レートに応じて、その本数、ノズル径、側面からノズル先端の放出開口54aまでの高さを適宜設定できる。また、第2水晶振動子73への入射角に応じて、収容箱51bの側面に対する孔軸の傾斜角を適宜設定することができる。なお、補助ノズル54から放出される蒸着材料4は基板Swへの成膜に寄与しないため、蒸着時に放出ノズル53b及び補助ノズル54から放出させる蒸着材料4の総量の5%以下になるように、補助ノズル54からの放出量を調節することが好ましい。
【0023】
また、真空チャンバ1内には、第2の膜厚モニタ7のセンサヘッド71bと収容箱51bとの間に位置させて、第2の蒸着源DSからの熱線を反射する遮熱板8が配置されている。遮熱板8には、補助ノズル54の先端部分が挿入される透孔81が設けられている。これにより、第2水晶振動子73を可及的に第2の蒸着源DSに近づけても、第2水晶振動子73が加熱されることを抑制でき、単位時間当たりの蒸着材料4の付着量を増加させることができる。
【0024】
以上によれば、第2の蒸着源DSの収容箱51bに、正規飛散領域Nb以外の領域に向けて蒸着材料4を放出させる専用の補助ノズル54を設け、補助ノズル54から放出される蒸着材料4のみを第2水晶振動子73に付着させ、これを基に第2の膜厚モニタ7で膜厚を検出することができる。このとき、第2水晶振動子73に可及的に補助ノズル54を近づけて単位時間当たりの蒸着材料4の付着量を増加できることと、遮熱板8を配置したこととが相俟ってより高精度で膜厚をモニタすることができる。そして、加熱手段6により収容箱51b内の蒸着材料4に加える熱量や共蒸着時の真空チャンバ1内圧力などの条件をかえて、放出ノズル53bから放出される蒸着材料4の基板Swへの付着量が予め実験的に求められ、検出される膜厚が適宜補正され、これを基に蒸着レートが算出される。これにより、第1及び第2の各蒸着源DS,DSにより共蒸着により基板Swに所定の薄膜を成膜する場合に、比較的速い第1の蒸着源DSの蒸着レートは第1の膜厚モニタ7により、比較的遅い第2蒸着源DSの蒸着レートは第2の膜厚モニタ7により精度よく夫々モニタすることができる。また、収容箱51bの側面に補助ノズル54を設けたことで、成膜視野を遮るといった不具合はなく、真空チャンバ1内の空きスペースを利用して第2の膜厚モニタ7のセンサヘッド71bを配置できる。その上、第2水晶振動子73への蒸着材料の入射角度を最適に調整できるため、例えば、蒸着材料4に加える熱量を変えて収容箱51b内での蒸着材料4の気化量または昇華量を変化させたとき、これに対応した蒸着材料4の指向性変化の影響も抑制でき、基板Swでの膜厚変動をより安定化させることができる。
【0025】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、被処理基板をガラス基板Swとし、基板搬送装置2により基板Swを一定の速度で搬送しながら成膜するものを例に説明したが、真空蒸着装置DMの構成は、上記のものに限定されるものではない。例えば、被処理基板をシート状のものとし、駆動ローラと巻取りローラとの間で一定の速度で移動させながらその片面に共蒸着により成膜するような装置にも本発明は適用できる。また、上記実施形態では、第1及び第2の各蒸着源DS,DSとして放出ノズル53a,53bを設けた収容箱51a,51bを備えるものを例に説明したが、所謂スポット式の蒸着源にも本発明は適用することができる。
【0026】
また、上記実施形態では、真空チャンバ1内に2個の蒸着源DS,DSを設けて共蒸着により成膜する場合を例に説明したが、蒸着源の数は上記に限定されるものではなく、真空チャンバ1内に単一の蒸着源を設けて比較的遅い蒸着レートで成膜する場合や、真空チャンバ1内に3個以上の蒸着源を設けて共蒸着により成膜する場合などにも本発明は広く適用することができる。更に、上記実施形態では、第2の蒸着源DSに補助ノズル54を設けるものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、当然に第1の蒸着源DSに補助ノズルを設けることもでき、また、収容箱51bの側面に補助ノズル54を設けるものを例に説明したが、正規飛散領域Ndと重ならないように蒸着材料を放出できるものであれば、これに限定されるものではない。例えば、図3に示すように、収容箱51bの上面に設けられる放出ノズル540をその先端部で略90度屈曲させ、その先端の放出開口540aが側方を向くように構成することもできる。
【0027】
ところで、補助ノズル54から放出される蒸着材料4を水晶振動子73に付着させる際に、偏って蒸着材料4が付着したのでは精度よく膜厚をモニタすることができないばかりか、水晶振動子73の寿命を短くする虞がある。このような場合、図4(a)及び図4(b)に示すように、補助ノズル54の先端に、分布調整手段として、複数個の円形開口91を備えるキャップ体9aや複数本のスリット状の開口92を備えるキャップ体9bを装着し、蒸着材料4の水晶振動子73への付着分布を調整するようにしてもよい。一方、特に図示して説明しないが、例えば、遮熱板8と水晶振動子73との間に、複数個の円形開口やスリット状の開口を開設した分布板を設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0028】
DM…真空蒸着装置、DS,DS…真空蒸着装置用の蒸着源、Sw…被処理基板、1…真空チャンバ、4…蒸着材料、51a,51b…収容箱(容器)、53a,53b…放出ノズル,放出部、54…補助ノズル,補助放出部、54a…放出開口、6…加熱手段、7,7…膜厚モニタ、72a,72b…コントローラ(検出手段)、73…水晶振動子、73a…水晶基板、73b…表側励振電極、73c…裏側励振電極、8…遮熱板、81…透孔、9a,9b…キャップ体(分布調整手段)。
図1
図2
図3
図4