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特開2022-120698間葉系幹細胞を含む細胞集団を含有する軟部組織再生用医薬組成物
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  • 特開-間葉系幹細胞を含む細胞集団を含有する軟部組織再生用医薬組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120698
(43)【公開日】2022-08-18
(54)【発明の名称】間葉系幹細胞を含む細胞集団を含有する軟部組織再生用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/36 20060101AFI20220810BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20220810BHJP
   A61P 41/00 20060101ALI20220810BHJP
   A61L 27/20 20060101ALI20220810BHJP
   A61L 27/22 20060101ALI20220810BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20220810BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALN20220810BHJP
【FI】
A61L27/36 100
A61K35/28
A61P41/00
A61L27/20
A61L27/22
A61L27/40
C12N5/0775
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021017768
(22)【出願日】2021-02-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 〔公開1〕 発行日 :令和2年9月16日 刊行物 :第29回日本形成外科学会基礎学術集会プログラム・抄録集 〔公開2〕 公開日 :令和2年10月9日 集会名 :第29回日本形成外科学会基礎学術集会 開催場所 :パシフィコ横浜ノース(神奈川県横浜市西区みなとみらい1-1-1) 〔公開3〕 発行日 :令和2年10月9日 刊行物 :第100回日本形成外科学会北海道地方会抄録集 〔公開4〕 開催日 :令和2年10月24日 集会名 :第100回日本形成外科学会北海道地方会 開催場所 :札幌医科大学記念ホール(北海道札幌市中央区南1条西18丁目)及びzoomでのWeb同時開催
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 真広
(72)【発明者】
【氏名】中石 智之
(72)【発明者】
【氏名】大西 俊介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 梨里
【テーマコード(参考)】
4B065
4C081
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BC03
4B065BC09
4B065BC26
4B065BD09
4B065BD12
4B065BD18
4B065BD45
4B065CA44
4C081AB11
4C081CD032
4C081CD172
4C081CD34
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB44
4C087BB63
4C087CA04
4C087MA05
4C087MA67
4C087NA03
4C087NA14
4C087ZC80
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、脂肪組織以外に由来する間葉系幹細胞を用いて、脂肪組織の生着率を向上させる方法及び脂肪組織以外に由来する間葉系幹細胞を主成分とした軟部組織再生用医薬組成物を提供することである。
【解決手段】本発明は、脂肪組織以外に由来する間葉系幹細胞を含む細胞集団を有効成分として含有する軟部組織再生医薬組成物、及び脂肪組織由来を除く間葉系幹細胞と脂肪組織を混合して生体に移植することにより、脂肪組織の生着率を向上させる方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪組織以外に由来する間葉系幹細胞を含む細胞集団を有効成分として含有する軟部組織再生用医薬組成物。
【請求項2】
前記間葉系幹細胞が羊膜組織に由来する請求項1に記載の軟部組織再生用医薬組成物。
【請求項3】
前記間葉系幹細胞が、投与される対象とは異なる生体から得られたものである請求項1又は2に記載の軟部組織再生用医薬組成物。
【請求項4】
前記間葉系幹細胞が、投与される対象と同種の生体から得られたものである請求項1又は2に記載の軟部組織再生用医薬組成物。
【請求項5】
投与される対象がヒトである、請求項1から4の何れか一項に記載の軟部組織再生用医薬組成物。
【請求項6】
前記間葉系幹細胞がヒト由来である請求項1から5の何れか一項に記載の軟部組織再生用医薬組成物。
【請求項7】
前記間葉系幹細胞が、脂肪細胞への分化能がない又は低いものである請求項1から6の何れか一項に記載の軟部組織再生用医薬組成物。
【請求項8】
前記間葉系幹細胞が、線維化抑制作用を有する請求項1から7の何れか一項に記載の軟部組織再生用医薬組成物。
【請求項9】
前記間葉系幹細胞が、2継代以上されている間葉系幹細胞である請求項1から8の何れか一項に記載の軟部組織再生用医薬組成物。
【請求項10】
前記間葉系幹細胞の表面マーカーのうち、CD44、CD73、CD90、CD105が陽性であり、かつCD45が陰性である請求項1から9の何れか一項に記載の軟部組織再生用医薬組成物。
【請求項11】
脂肪組織と混合して軟部組織に投与されるものである請求項1から10の何れか一項に記載の軟部組織再生用医薬組成物。
【請求項12】
脂肪組織及び脂肪組織に由来する間葉系幹細胞と混合して軟部組織に投与されるものである請求項1から11の何れか一項に記載の軟部組織再生用医薬組成物。
【請求項13】
ジメチルスルホキシドの含有量が5~10質量%であり、ヒドロキシエチルデンプンの含有量が4~10質量%であり、かつ、ヒトアルブミンの含有量が5質量%以下である、請求項1から12の何れか一項に記載の軟部組織再生用医薬組成物。
【請求項14】
投与前に凍結保存されたものである請求項1から13の何れか一項に記載の軟部組織再生用医薬組成物。
【請求項15】
投与前の凍結保存可能期間が1ヶ月以上である請求項14に記載の軟部組織再生用医薬組成物。
【請求項16】
投与前の凍結保存可能期間が6ヶ月以上である請求項14に記載の軟部組織再生用医薬組成物。
【請求項17】
投与前の凍結保存可能期間が1年以上である請求項14に記載の軟部組織再生用医薬組成物。
【請求項18】
脂肪組織以外に由来する間葉系幹細胞を含む細胞集団が混合されて含まれる、生体への生着能の高い移植用脂肪組織。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間葉系幹細胞を含む細胞集団を含有する軟部組織再生用医薬組成物、及び間葉系幹細胞を含む細胞集団と脂肪組織を混合して生体に移植することにより、脂肪組織の生着率を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪注入術は、自己の脂肪組織を回収して陥凹病変に注入することで軟部組織を再生する方法であり、エリテマトーデスなどの膠原病やParry-Romberg症候群などの先天性疾患、癌などの疾病治療を目的とした外科的手術、交通事故などによる外傷などの要因により起こる顔面変性疾患の陥凹変形治療の選択肢の一つである(非特許文献1)。本術式では、脂肪組織の採取は細いカニューレを用い、注入は注射器により行われるため侵襲性が低く、瘢痕が残りにくい。また、自家組織を移植するため、異物移植に伴う後遺症などの問題が発生しないことも大きなメリットである。そのため、脂肪注入術は豊胸などの美容改善目的にも用いられる。
【0003】
脂肪注入術には上述したメリットがあるが、脂肪組織が採取後に壊死することにより、脂肪組織の生着率が低下することが問題とされてきた(非特許文献2)。そこで近年、脂肪移植時に、自家脂肪組織由来の間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cell)を混合することで脂肪組織の生着率を向上させる方法(Cell-assisted lipotransfer:CAL法)が考案された(特許文献1)。
【0004】
間葉系幹細胞は、骨髄中に存在する幹細胞として最初に見出された体性幹細胞であり、骨芽細胞、脂肪細胞、軟骨細胞などの間葉系に属する細胞へ分化することが可能である。間葉系幹細胞は、骨髄のみならず、脂肪、歯髄、胎児付属物(胎盤、臍帯、卵膜、羊水)等の組織にも存在することもわかっており、CAL法においては、特に脂肪間葉系幹細胞(Adipose-derived stem cell)が活用されている。
【0005】
脂肪間葉系幹細胞は、脂肪細胞への分化能を有しており、成熟脂肪細胞と共培養することで脂肪細胞へ分化誘導される(非特許文献3)。また、脂肪間葉系幹細胞は、血管内皮細胞への分化能を有しており、さらに低酸素環境下で大量のVEGF(Vascular endothelial growth factor)を分泌することから、血管新生に寄与することが可能である(非特許文献4、5)。このような細胞特性から、脂肪間葉系幹細胞は、脂肪組織と混合することで、脂肪組織の生着率を向上させていると考えられる。
【0006】
羊膜は妊婦の胎盤の最も胎児側に位置する半透明の膜であり、胎児を包み、羊水を保持する役割を持つ。羊膜にも間葉系に属する細胞が存在することが報告されている(非特許文献6)。羊膜は出産時の医療廃棄物として非侵襲的に採取することができ、細胞採取のために新たな侵襲を伴うことが無い。羊膜に存在する間葉系細胞は、骨髄や脂肪に由来する間葉系幹細胞に類する細胞特性を有することから間葉系幹細胞であると考えられているが、脂肪細胞、血管内皮細胞への分化能がほとんどないとも報告されていることから(非特許文献7)、骨髄間葉系幹細胞や脂肪間葉系幹細胞とは細胞特性が異なると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2007-507202
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Francesco M Egro. et al, Clin Plast Surg. 2020 Jan;47(1):1-6.
【非特許文献2】Coleman SR, Clin Plast Surg. 2001 Jan;28(1):111-9.
【非特許文献3】Considine RV, et al. Am J Physiol. 1996 May;270(5 Pt 1):E895-9.
【非特許文献4】Cao Y, et al. Biochem Biophys Res Commun. 2005 Jul 1;332(2):370-9.
【非特許文献5】Rehman J, et al. Circulation. 2004 Mar 16;109(10):1292-8.
【非特許文献6】Casey ML, et al. Biol Reprod. 1996 Dec;55(6):1253-60.
【非特許文献7】Chen L, et al. Stem Cell Res. 2019 Oct;40:101537.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これまで、CAL法に用いられてきた幹細胞は、脂肪細胞及び血管内皮細胞への分化能、高い血管新生能を有する必要があることから、脂肪間葉系幹細胞に限られていた。しかし、脂肪間葉系幹細胞では、やせ型の人から脂肪組織を採取し細胞を分離することが困難であるため、CAL法の適用患者が制限される。そのような状況において、本発明は、脂肪組織以外に由来する間葉系幹細胞を用いて、脂肪組織の生着率を向上させる方法及び脂肪組織以外に由来する間葉系幹細胞を主成分とした軟部組織再生用医薬組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、脂肪組織に、脂肪組織以外に由来する間葉系幹細胞を含む細胞集団を混合して生体に移植することで、脂肪組織の生着率が向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本明細書によれば、以下の発明が提供される。
(1)脂肪組織以外に由来する間葉系幹細胞を含む細胞集団を有効成分として含有する軟部組織再生用医薬組成物。
(2)前記間葉系幹細胞が羊膜組織に由来する(1)に記載の軟部組織再生用医薬組成物。
(3)前記間葉系幹細胞が、投与される対象とは異なる生体から得られたものである(1)又は(2)に記載の軟部組織再生用医薬組成物。
(4)前記間葉系幹細胞が、投与される対象と同種の生体から得られたものである(1)又は(2)に記載の軟部組織再生用医薬組成物。
(5)投与される対象がヒトである、(1)から(4)の何れか一に記載の軟部組織再生用医薬組成物。
(6)前記間葉系幹細胞がヒト由来である(1)から(5)の何れか一に記載の軟部組織再生用医薬組成物。
(7)前記間葉系幹細胞が、脂肪細胞への分化能がない又は低いものである(1)から(6)の何れか一に記載の軟部組織再生用医薬組成物。
(8)前記間葉系幹細胞が、線維化抑制作用を有する(1)から(7)の何れか一に記載の軟部組織再生用医薬組成物。
(9)前記間葉系幹細胞が、2継代以上されている間葉系幹細胞である(1)から(8)の何れか一に記載の軟部組織再生用医薬組成物。
(10)前記間葉系幹細胞の表面マーカーのうち、CD44、CD73、CD90、CD105が陽性であり、かつCD45が陰性である(1)から(9)の何れか一に記載の軟部組織再生用医薬組成物。
(11)脂肪組織と混合して軟部組織に投与されるものである(1)から(10)の何れか一に記載の軟部組織再生用医薬組成物。
(12)脂肪組織及び脂肪組織に由来する間葉系幹細胞と混合して軟部組織に投与されるものである(1)から(11)の何れか一に記載の軟部組織再生用医薬組成物。
(13)ジメチルスルホキシドの含有量が5~10質量%であり、ヒドロキシエチルデンプンの含有量が4~10質量%であり、かつ、ヒトアルブミンの含有量が5質量%以下である、(1)から(12)の何れか一に記載の軟部組織再生用医薬組成物。
(14)投与前に凍結保存されたものである(1)から(13)の何れか一に記載の軟部組織再生用医薬組成物。
(15)投与前の凍結保存可能期間が1ヶ月以上である(14)に記載の軟部組織再生用医薬組成物。
(16)投与前の凍結保存可能期間が6ヶ月以上である(14)に記載の軟部組織再生用医薬組成物。
(17)投与前の凍結保存可能期間が1年以上である(14)に記載の軟部組織再生用医薬組成物。
(18)脂肪組織以外に由来する間葉系幹細胞を含む細胞集団が混合されて含まれる、生体への生着能の高い移植用脂肪組織。
(19)脂肪組織以外に由来する間葉系幹細胞を含む細胞集団と脂肪組織とを混合し、対象に移植する工程を含む、脂肪組織の生着率を向上させる方法。
(20)脂肪組織以外に由来する間葉系幹細胞を含む細胞集団と脂肪組織とを混合し、対象に移植する工程を含む、対象の軟部組織を再生する方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、脂肪組織と混合して生体に移植することで脂肪組織の生着率を向上させることが可能な軟部組織再生用医薬組成物を得ることができる。これにより、脂肪組織の採取が困難なやせ型の人であってもCAL法による軟部組織再生を行うことができ、CAL法の適用範囲を大きく広げることが可能となる。
【0013】
生体組織からの移植用細胞の分離は、室内清浄度の高い細胞培養加工施設(CPC:Cell Processing Center)にて無菌的に実施する必要があるが、CPC内で生体組織から無菌的に移植用細胞を分離する作業は非常に煩雑であり、脂肪組織の採取及び移植と並行して、細胞を分離するのは困難である。本発明によって得られた軟部組織再生用医薬組成物は凍結保存によって長期保存可能であるため、CAL法実施に際し、脂肪組織の採取及び移植と並行して新たな組織の採取や細胞分離を行うことなく使用可能であり、CAL法の実施工程を簡略化することができる。これにより、CAL法の実施要件が大幅に軽減され、容易にCAL法を実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】脂肪組織と羊膜間葉系幹細胞(AMSC)を混合してマウス皮下に移植した後の経時的な脂肪組織の肉眼観察写真である。
図2】脂肪組織と羊膜間葉系幹細胞を混合してマウス皮下に移植した後の経時的な脂肪組織の体積を示したグラフである。データは、平均値±標準誤差(SE)で示す。各群についてn=7での測定を行った。図中の「#」は、各群の比較において、有意差が見られたことを示す(p<0.05)。
図3】脂肪組織と羊膜間葉系幹細胞を混合してマウス皮下に移植した後の経時的な脂肪組織の重量を示したグラフである。データは、平均値±標準誤差(SE)で示す。各群についてn=7での測定を行った。図中の「#」は、各群の比較において、有意差が見られたことを示す(p<0.05)。
図4】脂肪組織と羊膜間葉系幹細胞を混合してマウス皮下に移植してから16週後の脂肪組織標本のElastica-Masson(E-M)染色像である。
図5】脂肪組織と羊膜間葉系幹細胞を混合してマウス皮下に移植した後の経時的な脂肪組織標本におけるE-M染色像面積を示したグラフである。データは、平均値±標準誤差(SE)で示す。各群についてn=7での測定を行った。図中の「#」は、各群の比較において、有意差が見られたことを示す(p<0.05)。
図6】脂肪組織と羊膜間葉系幹細胞を混合してマウス皮下に移植してから4週後の脂肪組織の線維化関連遺伝子の発現レベルを示すグラフである。データは、平均値±標準誤差(SE)で示す。各群についてn=6-7での測定を行った。図中の「#」は、各群の比較において、有意差が見られたことを示す(p<0.05)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明するが、下記の説明は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が下記の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も本発明の範囲に含まれる。
【0016】
[1]用語の説明
本明細書における「胎児付属物」は、卵膜、胎盤、臍帯及び羊水を指す。さらに「卵膜」は、胎児の羊水を含む胎嚢であり、内側から羊膜、絨毛膜及び脱落膜からなる。このうち、羊膜は胎児を起源とする。「羊膜」は、卵膜の最内層にある血管に乏しい透明薄膜を指す。羊膜の内層(上皮細胞層ともよばれる)は分泌機能のある一層の上皮細胞で覆われ羊水を分泌し、羊膜の外層(細胞外基質層ともよばれ、間質に相当する)は間葉系幹細胞を含む。
【0017】
本明細書における「間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cells:MSC)」は、「間葉系間質細胞(Mesenchymal stromal cells)」と区別なく用いられる。本明細書において、「間葉系幹細胞」は「MSC」と記載されることがある。間葉系幹細胞は、プラスチック容器に接着して増殖し、間葉系に属する細胞(例えば、骨芽細胞、脂肪細胞、軟骨細胞)のいずれか1種以上の細胞への分化能を有する。また、間葉系幹細胞を特定するための表面抗原発現パターンとしては、CD44、CD73、CD90、CD105が陽性であり、CD45が陰性である。
【0018】
細胞の表面抗原発現は、当該技術分野において公知の任意の検出方法により検出することができる。発現マーカーを検出する方法としては、例えばフローサイトメトリー又は細胞染色が挙げられるが、これらに限定されない。蛍光標識抗体を用いるフローサイトメトリーにおいて、ネガティブコントロール(アイソタイプコントロール)と比較してより強い蛍光を発する細胞が検出された場合、当該細胞は当該マーカーについて「陽性」と判定される。蛍光標識抗体は、当該技術分野において公知の任意の抗体を使用することができ、例えば、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)、フィコエリスリン(PE)、アロフィコシアニン(APC)等により標識された抗体が挙げられるが、これらに限定されない。細胞染色において、着色するか若しくは蛍光を発する細胞が顕微鏡下にて観察された場合、当該細胞は当該マーカーについて「陽性」と判定される。細胞染色は、抗体を使用する免疫細胞染色であってもよく、抗体を使用しない非免疫細胞染色であってもよい。
【0019】
本明細書における「羊膜間葉系幹細胞」は、羊膜に由来する間葉系幹細胞を指し、「羊膜間葉系間質細胞」と区別なく用いられる。
【0020】
本明細書における「間葉系細胞を含む細胞集団」とは、少なくとも間葉系細胞を含む細胞集団であれば特に限定されず、他の細胞を含む集団であってもよい。間葉系幹細胞は一つの組織から分離したもののみであっても、複数の組織から分離したものの混合物であっても構わない。また、「間葉系細胞を含む細胞集団」の形態は特に限定されず、例えば、細胞ペレット、細胞凝集塊、細胞シート、細胞浮遊液、細胞懸濁液、これらの凍結物等が挙げられる。
【0021】
本明細書における「軟部組織」とは、体を構成する組織間をつなぐ役割を果たす結合組織であり、脂肪組織、筋肉組織、末梢神経組織、血管などを含む総称である。
【0022】
本明細書における「軟部組織再生用医薬組成物」とは、軟部組織の損傷・修復を再生・修復するための成分を含有するものである。
【0023】
[2]軟部組織再生用医薬組成物
本発明の軟部組織再生用医薬組成物は、脂肪組織以外に由来する間葉系幹細胞を含む細胞集団を有効成分として含有することを特徴とする。
【0024】
本発明の軟部組織再生用医薬組成物の投与対象は、典型的にはヒトであるが、他の動物であってもよい。他の動物としては、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、サル、フェレット等の哺乳動物、ニワトリ等の鳥類が挙げられる。好適な投与対象はヒトである。以下、本発明の軟部組織再生用医薬組成物について、投与対象をヒトとする態様を説明するが、本発明における投与対象をヒトに限定することを意図するものではない。
【0025】
脂肪組織以外に由来する間葉系幹細胞としては、羊膜間葉系幹細胞、胎盤間葉系幹細胞、臍帯間葉系幹細胞、骨髄間葉系幹細胞、歯髄間葉系幹細胞などが挙げられる。その中でも羊膜間葉系幹細胞は、原料組織から分離可能な細胞数が多く、かつ高増殖性であることから所定量の細胞を短期間で取得できる。そのため、羊膜間葉系幹細胞は、継代数の少ない高品質な細胞を安定的に低コストで製造可能である。したがって、産業利用する上では、羊膜間葉系幹細胞を用いるのが好ましい。前記間葉系幹細胞としては、投与される対象とは異なる生体から得られたもの、すなわち、他家の間葉系幹細胞を使用することができる。他家の間葉系幹細胞を使用することにより、自家間葉系幹細胞を含む組織の採取が困難な場合であってもCAL法による軟部組織再生を行うことが可能となる。
【0026】
前記間葉系幹細胞は任意の動物由来のものであってよく、例えば、マウス、ラット、ハムスター等のげっ歯類;ヒト、ゴリラ、チンパンジー等の霊長類;及びイヌ、ネコ、ウサギ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ等の家畜若しくは愛玩動物などの哺乳動物由来のものであってよいが、特に投与対象と同種の動物由来のものが好ましい。投与対象がヒトの場合は、ヒト由来の間葉系幹細胞であることが好ましい。
【0027】
前記間葉系幹細胞は脂肪細胞への分化能がない又は低いものを使用することができる。従来のCAL法で使用される脂肪間葉系幹細胞は、脂肪細胞や血管内皮細胞への分化能を有しており、血管新生を誘導することにより脂肪組織の生着率を向上させるが、そのような分化能がない又は低い間葉系幹細胞であっても脂肪組織の生着率向上効果を有することから、従来のCAL法と作用機序が本質的に異なるものと考えられる。なお、本明細書において、脂肪細胞への分化能がない又は低い間葉系幹細胞とは、公知のいずれかの脂肪細胞分化誘導培地(例えば、StemMACS(商標) AdipoDiff Media、MesenCult(商標) Adipogenic Differentiation Kit、StemPro(商標) Adipogenesis Differentiation Kit等の市販培地をいずれも使用可能である)で21日間以上培養した細胞をオイルレッドO染色した場合に、検鏡視野下の細胞群における染色細胞の割合が20%以上とならない(最も好ましくは0%となる)間葉系幹細胞をいう。より好ましくは、脂肪細胞への分化能がない又は低い間葉系幹細胞は、StemMACS(商標) AdipoDiff Media、MesenCult(商標) Adipogenic Differentiation Kit、StemPro(商標) Adipogenesis Differentiation Kitの脂肪細胞分化誘導培地のうち、2つ又は3つの培地をそれぞれ用いて培養した場合において、いずれの場合においても、21日間以上培養した細胞をオイルレッドO染色した際に、検鏡視野下の細胞群における染色細胞の割合が20%以上とならない。
【0028】
前記間葉系幹細胞は線維化抑制作用を有するものであることが好ましい。その場合、脂肪組織の線維化を抑制し、脂肪組織の生着率を向上させることができる。
【0029】
以下、例として羊膜間葉系幹細胞を含む細胞集団について説明する。
羊膜間葉系幹細胞の製造方法は、羊膜もしくは羊膜を含む胎児付属物を酵素処理させる工程及び/又は培養容器に接着させることにより、間葉系幹細胞を含む細胞集団を取得する工程を含むものでもよい。取得した細胞集団は、羊膜に由来する間葉系幹細胞が含まれていれば、他の雑多な細胞が含まれていても構わない。組織から細胞を取得する際は、組織に付着した血液などから血液細胞が混入することも起こりうる。
【0030】
羊膜は、上皮細胞層と細胞外基質層からなり、後者には羊膜間葉系幹細胞が含まれている。羊膜上皮細胞は、他の上皮細胞同様、特徴として上皮カドヘリン(E-cadherin:CD324)及び上皮接着因子(EpCAM:CD326)を発現しているのに対し、羊膜間葉系幹細胞はこれら上皮特異的表面抗原マーカーを発現しておらず、フローサイトメトリーで容易に区別可能である。上記の細胞取得工程は、羊膜を帝王切開により得る工程を含む工程でもよい。
【0031】
本発明における羊膜間葉系幹細胞の製造方法は、好ましくは羊膜を少なくともコラゲナーゼで処理して得た細胞である。
【0032】
羊膜の酵素処理は、好ましくは、羊膜の細胞外基質層に含まれる間葉系幹細胞を遊離することができ、かつ上皮細胞層を分解しない酵素(又はその組み合わせ)による処理である。かかる酵素としては、特に限定されないが、例えば、コラゲナーゼ及び/又は金属プロテイナーゼを挙げることができる。金属プロテイナーゼとしては、非極性アミノ酸のN末端側を切断する金属プロテイナーゼであるサーモリシン及び/又はディスパーゼを挙げることができるが、特に限定されない。
【0033】
コラゲナーゼの活性濃度は、好ましくは50PU/ml以上、より好ましくは100PU/ml以上、さらに好ましくは200PU/ml以上、さらに好ましくは300PU/ml以上、さらに好ましくは400PU/ml以上である。また、コラゲナーゼの活性濃度は、特に限定されないが、例えば、1000PU/ml以下、900PU/ml以下、800PU/ml以下、700PU/ml以下、600PU/ml以下、500PU/ml以下である。ここで、PU(Protease Unit)とは、pH7.5、30℃において、FITC-collagen 1μgを1分間で分解する酵素量と定義する。
【0034】
金属プロテイナーゼ(例えば、サーモリシン及び/又はディスパーゼ)の活性濃度は、好ましくは50PU/ml以上、より好ましくは100PU/ml以上、さらに好ましくは200PU/ml以上、さらに好ましくは300PU/ml以上、さらに好ましくは400PU/ml以上である。また、金属プロテイナーゼの活性濃度は、好ましくは1000PU/ml以下、より好ましくは900PU/ml以下、さらに好ましくは800PU/ml以下、さらに好ましくは700PU/ml以下、さらに好ましくは600PU/ml以下、さらに好ましくは500PU/ml以下である。ここで、金属プロテイナーゼとしてディスパーゼを用いた態様において、PU(Protease Unit)とは、pH7.5、30℃において、乳酸カゼインから1分間に1μgのチロシンに相当するアミノ酸を遊離する酵素量と定義される。上記の酵素濃度の範囲において、胎児付属物の上皮細胞層に含まれる上皮細胞の混入を防止しながら、細胞外基質層に含まれる間葉系幹細胞を効率よく遊離させることができる。コラゲナーゼ及び/又は金属プロテイナーゼの好ましい濃度の組み合わせは、酵素処理後の胎児付属物の顕微鏡観察や、取得した細胞のフローサイトメトリーにより決定することができる。
【0035】
生細胞を効率的に回収する観点から、コラゲナーゼ及び金属プロテイナーゼを組み合わせて胎児付属物を同時一括に処理することが好ましい。この場合の金属プロテイナーゼとしては、サーモリシン及び/又はディスパーゼを使用することができるが、これらに限定されない。コラゲナーゼ及び金属プロテイナーゼを含有する酵素液を用いて胎児付属物を一回のみ処理することにより、間葉系幹細胞を簡便に取得することができる。また、同時一括に処理することにより、細菌やウィルス等のコンタミネーションのリスクを低減することができる。
【0036】
羊膜の酵素処理は、生理食塩水やハンクス平衡塩溶液等の洗浄液を用いて洗浄した羊膜を酵素液に浸漬し、撹拌手段によって撹拌しながら処理することが好ましい。かかる撹拌手段としては、胎児付属物の細胞外基質層に含まれる間葉系幹細胞を効率よく遊離させる観点から、例えば、スターラー又はシェーカーを使用することができるが、これらに限定されない。撹拌速度は、特に限定されないが、スターラー又はシェーカーを用いた場合、例えば、5rpm以上、10rpm以上、20rpm以上、30rpm以上、40rpm以上又は50rpm以上である。また、撹拌速度は、特に限定されないが、スターラー又はシェーカーを用いた場合、例えば、100rpm以下、90rpm以下、80rpm以下、70rpm以下又は60rpm以下である。酵素処理時間は、特に限定されないが、例えば、10分以上、20分以上、30分以上、40分以上、50分以上、60分以上、70分以上、80分以上又は90分以上である。また、酵素処理時間は、特に限定されないが、例えば、6時間以下、5時間以下、4時間以下、3時間以下、2時間以下、110分以下、100分以下である。酵素処理温度は、特に限定されないが、例えば、15℃以上、16℃以上、17℃以上、18℃以上、19℃以上、20℃以上、21℃以上、22℃以上、23℃以上、24℃以上、25℃以上、26℃以上、27℃以上、28℃以上、29℃以上、30℃以上、31℃以上、32℃以上、33℃以上、34℃以上、35℃以上又は36℃以上である。また、酵素処理温度は、特に限定されないが、例えば、40℃以下、39℃以下、38℃以下又は37℃以下である。
【0037】
本発明の製造方法において、所望により、遊離した間葉系幹細胞を含む酵素溶液からフィルター、遠心分離や中空糸分離膜、セルソーター等の公知の方法により遊離した間葉系幹細胞を分離及び/又は回収することができる。好ましくは、フィルターによって遊離した間葉系幹細胞を含む酵素溶液を濾過する。前記酵素溶液をフィルターによって濾過する態様においては、遊離した細胞のみがフィルターを通過し、分解されなかった上皮細胞層はフィルターを通過できずにフィルター上に残るため、遊離した間葉系幹細胞を容易に分離及び/又は回収することができるだけでなく、細菌やウィルス等のコンタミネーションのリスクも低減することができる。フィルターとしては、特に限定されないが、例えば、メッシュフィルターを挙げることができる。メッシュフィルターのポアサイズ(メッシュの大きさ)は、特に限定されないが、例えば、40μm以上、50μm以上、60μm以上、70μm以上、80μm以上、又は90μm以上である。また、メッシュフィルターのポアサイズは、特に限定されないが、例えば、200μm以下、190μm以下、180μm以下、170μm以下、160μm以下、150μm以下、140μm以下、130μm以下、120μm以下、110μm以下、又は100μm以下である。濾過速度に関しては特に限定されないが、メッシュフィルターのポアサイズを上記の範囲とすることにより、間葉系幹細胞を含む酵素溶液を自然落下により濾過することができ、これにより細胞生存率の低下を防止することができる。
【0038】
メッシュフィルターの材質としては、ナイロンが好ましく用いられる。研究用として汎用されるFalconセルストレーナーなどの40μm、70μm、95μm又は100μmのナイロンメッシュフィルターを含有するチューブが利用可能である。また、血液透析などで使用されている医療用メッシュクロス(ナイロン及びポリエステル)が利用できる。さらに、体外循環時に使用される動脈フィルター(ポリエステルメッシュフィルター、ポアサイズ:40μm以上120μm以下)も利用可能である。他の材質、例えば、ステンレスメッシュフィルター等も用いることが可能である。
【0039】
間葉系幹細胞をフィルター通過させる場合、自然落下(自由落下)が好ましい。ポンプ等を用いた吸引など強制的なフィルター通過も可能であるが、細胞に損傷を与えることを避けるため、できるだけ弱い圧力とすることが望ましい。
【0040】
フィルターを通した間葉系幹細胞は、倍量又はそれ以上の培地又は平衡塩緩衝液で濾液を希釈した後、遠心分離により回収することができる。平衡塩緩衝液としては、ダルベッコリン酸バッファー(DPBS)、アール平衡塩溶液(EBSS)、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)、リン酸バッファー(PBS)等を用いることができるが、これらに限定されない。
【0041】
上記の工程によりで得られた羊膜間葉系幹細胞は、培養することで増殖させる工程を含むことができる。培養工程における細胞集団の播種密度は、例えば500~10,000細胞/cmが挙げられる。細胞集団を播種する際の密度はさらに好ましくは500細胞/cm以上、1,000細胞/cm以上、2,000細胞/cm以上、3,000細胞/cm以上、4,000細胞/cm以上、5,000細胞/cm以上である。細胞集団を播種する際の密度はさらに好ましくは10,000細胞/cm以下、9,000細胞/cm以下、8,000細胞/cm以下、7,000細胞/cm以下である。
【0042】
上記培養する工程は、継代工程を含んでもよいし、異なる培養条件で複数回培養を繰り返す工程を含んでもよい。
【0043】
上記の1回の培養の培養期間としては、例えば4~10日間を挙げることができ、より具体的には、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間又は10日間を挙げることができる。
【0044】
上記の培養に用いる培地は、任意の動物細胞培養用液体培地を基礎培地とし、必要に応じて他の成分(血清、血清代替試薬、増殖因子など)を適宜添加することにより調製することができる。なお、前記基礎培地に増殖因子を添加する態様においては、増殖因子を培地中で安定化させるための試薬(ヘパリンなど)を、増殖因子に加えて、さらに添加することにより調製してもよいし、増殖因子をあらかじめゲルや多糖類などで安定化しておき、その後、安定化した増殖因子を前記基礎培地に対して添加することで調製してもよい。
【0045】
基礎培地としては、BME培地、BGJb培地、CMRL1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)培地、DMEM培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)、ハムF10培地、ハムF12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、及びこれらの混合培地(例えば、DMEM/F12培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium/Nutrient Mixture F-12 Ham))等の培地を使用することができるが、特に限定されない。
【0046】
他の成分としては例えば、アルブミン、血清、血清代替試薬又は増殖因子などが挙げられる。アルブミンの場合、0.05%より多く5%以下の濃度が好ましい。血清の場合、5%以上の濃度が好ましい。
【0047】
また、上記の培養に用いる培地は、一般的に市販されている無血清培地を用いても良い。例えば、STK1やSTK2(DSファーマバイオメディカル社)、EXPREP MSC Medium(バイオミメティクスシンパシーズ社)、Corning stemgro ヒト間葉系幹細胞培地(コーニング社)などが挙げられるが、特に限定されない。
【0048】
間葉系幹細胞を含む細胞集団の培養は、例えば、以下のような工程にて行うことができる。まず、細胞懸濁液を遠心分離し、上清を除去し、得られた細胞ペレットを培地にて懸濁する。次に、プラスチック製培養容器に細胞を播種し、3%以上5%以下のCO濃度、37℃環境にて、培地を用いてコンフルエント率95%以下となるように培養する。上記の培地としては、例えば、αMEM、M199、或いはこれらを基礎とする培地を挙げることができるが、これらに限定されない。上記のような培養により取得した細胞は、1回培養した細胞である。
【0049】
上記の1回培養した細胞は、例えば、以下のようにさらに継代し、培養することができる。まず、1回培養した細胞を、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)にて処理した後にトリプシンにて処理してプラスチック製培養容器から剥離させる。次に、得られた細胞懸濁液を遠心分離し、上清を除去し、得られた細胞ペレットを培地にて懸濁する。最後に、プラスチック製培養容器に細胞を播種し、3%以上5%以下のCO濃度、37℃環境にて、培地を用いてコンフルエント率95%以下となるように培養する。上記の培地としては、例えば、αMEM、M199、或いはこれらを基礎とする培地を挙げることができるが、これらに限定されない。上記のような継代及び培養により取得した細胞は、1回継代した細胞である。同様の継代及び培養を行うことにより、N回継代した細胞を取得することができる(Nは1以上の整数を示す)。継代回数Nの下限は、細胞を大量に製造する観点から、例えば、2回以上、好ましくは3回以上、より好ましくは4回以上、さらに好ましくは5回以上、さらに好ましくは6回以上、さらに好ましくは7回以上、さらに好ましくは8回以上、さらに好ましくは9回以上、さらに好ましくは10回以上、さらに好ましくは11回以上、さらに好ましくは12回以上、さらに好ましくは13回以上、さらに好ましくは14回以上、さらに好ましくは15回以上、さらに好ましくは16回以上、さらに好ましくは17回以上、さらに好ましくは18回以上、さらに好ましくは19回以上、さらに好ましくは20回以上、さらに好ましくは25回以上である。また、継代回数Nの上限は、細胞の老化を抑える観点から、例えば、50回以下、45回以下、40回以下、35回以下、30回以下であることが好ましい。
【0050】
上記の培養工程において、羊膜間葉系幹細胞は、生体外での培養開始後、好ましくは40日以降まで、さらに好ましくは45日以降まで、50日以降まで、55日以降まで、60日以降まで、65日以降まで、70日以降まで、75日以降まで、80日以降まで、85日以降まで、90日以降まで、95日以降まで、100日以降まで、105日以降まで、又は110日以降まで、増殖停止することなく培養することが可能である。
【0051】
上記の培養工程において、羊膜間葉系幹細胞は、生体外での培養開始後、倍加回数が好ましくは10回以上、さらに好ましくは15回以上、20回以上、25回以上、30回以上、35回以上、40回以上、45回以上、又は50回以上になるまで培養することが可能である。
【0052】
倍加回数とは、ある一定の培養期間において細胞が分裂した回数であり、[log10(培養終了時の細胞数)-log10(培養開始時の細胞数)]/log10(2)の計算式にて算出される。継代を行った場合は、継代数毎の倍加回数を上記の式で計算した後、累積することによって、総倍加回数が算出される。
【0053】
また、羊膜間葉系幹細胞の製造方法は、前記間葉系幹細胞を含む細胞集団を凍結保存する工程を含むことができる。前記細胞集団を凍結保存する工程を含む態様においては、前記細胞集団を解凍後、必要に応じて前記細胞集団を分離、回収及び/又は培養してもよい。また、前記細胞集団を解凍後、そのまま使用してもよい。
【0054】
前記間葉系幹細胞を含む細胞集団を凍結保存するための手段は、特に限定されないが、例えば、プログラムフリーザー、ディープフリーザー、液体窒素への浸漬などが挙げられる。凍結する際の温度は、好ましくは-30℃以下、-40℃以下、-50℃以下、-60℃以下、-70℃以下、-80℃以下、-90℃以下、-100℃以下、-110℃以下、-120℃以下、-130℃以下、-140℃以下、-150℃以下、-160℃以下、-170℃以下、-180℃以下、-190℃以下、又は-196℃(液体窒素温度)以下である。凍結する際の好ましい凍結速度は、例えば、1℃/分、2℃/分、3℃/分、4℃/分、5℃/分、6℃/分、7℃/分、8℃/分、9℃/分、10℃/分、11℃/分、12℃/分、13℃/分、14℃/分又は15℃/分である。かかる凍結手段としてプログラムフリーザーを用いた場合、例えば、1℃/分以上2℃/分以下の凍結速度で-50℃以上-30℃以下の間の温度(例えば、-40℃)まで温度を下げ、さらに9℃/分以上11℃/分以下(例えば、10℃/分)の凍結速度で-100℃以上-80℃以下の温度(例えば、-90℃)まで温度を下げることができる。
【0055】
上記の凍結手段により凍結する際、上記の細胞集団は、任意の保存容器に入った状態で凍結されてよい。かかる保存容器としては、例えば、クライオチューブ、クライオバイアル、凍結用バッグ、輸注バッグなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
凍結用保存液は、細胞の生存率を高める観点から、0質量%より多い所定濃度のアルブミンを含有することが好ましい。アルブミンの好ましい濃度は、例えば、0.5質量%以上、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、4質量%以上、5質量%以上、6質量%以上、7質量%以上又は8質量%以上である。また、アルブミンの好ましい濃度は、例えば、40質量%以下、35質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下又は9質量%以下である。アルブミンとしては、例えば、ウシ血清アルブミン、マウスアルブミン、ヒトアルブミン等を挙げることができるが、これに限定されない。
【0057】
本発明の軟部組織再生用医薬組成物は、脂肪、筋肉、靭帯などのスポーツや交通事故による外傷、深在性エリテマトーデス、Parry-Romberg症候群、強皮症、HIV感染に伴う脂肪萎縮を原因とする顔面変性疾患(顔面脂肪萎縮症)等による陥凹病変の治療剤として使用することができる。また、本発明の軟部組織再生用医薬組成物は豊胸、老化による顔のしわ、たるみの除去などの美容改善目的としても使用することができる。本発明の軟部組織再生用医薬組成物を治療部位もしくは美容改善部位に、脂肪組織と混合して、効果が計測できる量投与することで、脂肪組織の線維化を抑制し、脂肪組織の生着率を向上させることができる。
【0058】
本発明によれば、脂肪、筋肉、靭帯などのスポーツや交通事故による外傷、深在性エリテマトーデス、Parry-Romberg症候群、強皮症、HIV感染に伴う脂肪移植を原因とする顔面変性疾患(顔面脂肪萎縮症)等による陥凹病変の治療のために使用される、本発明による軟部組織再生用医薬組成物が提供される。
【0059】
本発明によれば、豊胸、老化による顔のしわ、たるみの除去などの美容改善のために使用される、本発明による軟部組織再生用医薬組成物が提供される。
【0060】
本発明によれば、患者又は被験者に、本発明による軟部組織再生用医薬組成物の有効量を投与する工程を含む、患者又は被験者に細胞を移植する方法、患者又は被験者の疾患の治療方法、患者又は被験者の美容改善方法が提供される。
【0061】
本発明によれば、前記の陥凹病変治療又は美容改善を目的とした軟部組織再生治療のための、本発明による軟部組織再生用医薬組成物の使用が提供される。
【0062】
本発明によれば、患者又は被験者に投与して、軟部組織の修復、軟部組織の生着促進、軟部組織の線維化抑制に必要な治療のための、本発明による軟部組織再生用医薬組成物の使用が提供される。
【0063】
本発明の軟部組織再生用医薬組成物は、脂肪組織と混合して軟部組織に投与されるものであることが好ましく、脂肪組織及び脂肪組織に由来する間葉系幹細胞と混合して軟部組織に投与されるものであっても良い。
【0064】
本発明の軟部組織再生用医薬組成物の投与量としては、患者又は被験者に投与した場合に、投与していない患者又は被験者と比較して疾患の治療又は美容改善に対して効果を得ることができるような細胞の量である。具体的な投与量は、投与形態、投与方法、使用目的、患者又は被験者の年齢、症状、及び生着させる脂肪組織の量等によって適宜決定することができる。投与量は、特に限定されないが、例えば、脂肪組織100mL当たり、10個以上、10個以上又は10個以上である。また、投与量は、特に限定されないが、例えば、脂肪組織100mL当たり、1010個以下、10個以下又は10個以下である。
【0065】
本発明の軟部組織再生用医薬組成物の投与方法は、特に限定されないが、例えば、局所への直接注射、又は局所に直接移植することなどが挙げられる。
【0066】
本発明の軟部組織再生用医薬組成物は、他の疾患治療目的に注射用製剤、或いは細胞塊又はシート状構造の移植用製剤、或いは任意のゲルと混合したゲル製剤として用いることも可能である。
【0067】
本発明の軟部組織再生用医薬組成物は、培養直後のものを使用しても構わないが、使用直前まで凍結状態にて保存することが好ましい。投与前の凍結保存可能期間は1ヶ月以上が好ましく、6ヶ月以上がより好ましく、1年以上がより好ましい。本発明の軟部組織再生用医薬組成物は、ヒトの治療の際に用いられる任意の成分を含んでもよい。かかる成分としては、例えば、塩類、多糖類(例えば、HES、デキストランなど)、タンパク質(例えば、アルブミンなど)、DMSO、培地成分(例えば、RPMI1640培地に含まれる成分など)などを挙げることができるが、これらに限定されない。例えば、ジメチルスルホキシド、ヒドロキシエチルデンプン及びヒトアルブミンを含有したものであることが好ましく、5~10質量%のジメチルスルホキシド、4~10質量%のヒドロキシエチルデンプン及び5質量%以下のヒトアルブミンを含有したものであることが更に好ましい。
【0068】
また、本発明の医薬組成物は、間葉系幹細胞を含む細胞集団を、製薬上許容し得る媒体として使用される輸液製剤により希釈したものでもよい。本明細書における「輸液製剤(製薬上許容し得る媒体)」としては、ヒトの治療の際に用いられる溶液であれば特に限定されないが、例えば、生理食塩液、5%ブドウ糖液、リンゲル液、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、開始液(1号液)、脱水補給液(2号液)、維持輸液(3号液)、術後回復液(4号液)等を挙げることができる。
【0069】
[3]移植用脂肪組織及び脂肪組織の生着率を向上させる方法
本発明の移植用脂肪組織は、脂肪組織以外に由来する間葉系幹細胞を含む細胞集団が混合されて含まれ、生体への生着能が高いことを特徴とする。より具体的には、脂肪組織を本発明の軟部組織再生用医薬組成物と混合することで製造される移植用脂肪組織である。
【0070】
本明細書は、脂肪組織の生着率を向上させる方法を提供する。本明細書における脂肪組織の生着率を向上させる方法は、脂肪組織以外に由来する間葉系幹細胞を含む細胞集団と脂肪組織とを混合し、対象に移植する工程を含む、ことを特徴とする。より具体的には、本発明の移植用脂肪組織を対象に移植する工程を含む方法である。
【0071】
移植用脂肪組織の原料となる脂肪組織は、移植される対象と同種由来であっても異種由来であってもよいが、同種由来であることが好ましい。対象がヒトの場合、ヒト由来であることが好ましい。同種由来のうち、自家由来であっても異系由来であってもよいが、自家由来であることが好ましい。
【0072】
脂肪組織の採取方法、本発明の軟部組織再生用医薬組成物との混合前の脂肪組織の処理方法、及び移植用脂肪組織の移植方法の詳細な条件は、例えば、特許文献1に記載の条件を採用してもよい。
【0073】
混合する軟部組織再生用組成物の詳細、脂肪組織と軟部組織再生用組成物の混合比等の詳細な条件は、特に矛盾のない限り、[2]軟部組織再生用組成物の項に記載の通りである。
【0074】
[4]軟部組織を再生する方法
本明細書は、対象の軟部組織を再生する方法を提供する。本明細書における対象の軟部組織を再生する方法は、脂肪組織以外に由来する間葉系細胞を含む細胞集団と脂肪組織とを混合し、対象に移植する工程を含む、ことを特徴とする。具体的には、本発明の移植用脂肪組織を対象に移植する工程を含む、対象の軟部組織を再生する方法である。
【0075】
軟部組織を再生する方法に用いる、脂肪組織、脂肪組織以外に由来する間葉系細胞を含む細胞集団の調製方法、移植用脂肪組織の調製方法等の詳細な条件は、特に矛盾のない限り、[2]軟部組織再生用組成物及び[3]移植用脂肪組織及び脂肪組織の生着率を向上させる方法の項に記載の通りである。
【実施例0076】
以下の実施例にて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0077】
<実施例1:羊膜間葉系幹細胞の製造>
(1)羊膜の採取
インフォームドコンセントを得た待機的帝王切開症例の妊婦から、胎児付属物である卵膜及び胎盤を無菌的に採取した。得られた卵膜及び胎盤を生理食塩水が入った滅菌バットに収容し、卵膜の断端から羊膜を用手的に剥離した。羊膜をハンクス平衡塩溶液(Ca・Mg不含有)にて洗浄し、付着した血液及び血餅を除去した。
【0078】
(2)羊膜の酵素処理及び間葉系幹細胞の回収
上皮細胞層と間葉系細胞層とを含む羊膜を240PU/mLコラゲナーゼ及び200PU/mLディスパーゼIを含有するハンクス平衡塩溶液(Ca・Mg含有)に浸し、37℃にて90分間、50rpmの条件にて振盪攪拌することにより羊膜を酵素処理した。酵素処理後の溶液を目開き95μmのナイロンメッシュでろ過することにより羊膜の未消化物を取り除き、間葉系細胞を含む細胞懸濁液を回収した。
【0079】
(3)間葉系幹細胞の培養
上述の「(2)羊膜の酵素処理及び間葉系幹細胞の回収」で得られた、間葉系幹細胞を含む細胞集団を培養容器のCellSTACK(登録商標)(コーニング社製)に播種した。播種密度は、5,000cells/cmの密度で播種した。細胞播種後は、終濃度が10%のウシ胎児血清(FBS)を含むαMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)にてサブコンフルエントになるまで接着培養した。培養後、CellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLの0.5%trypsin-ethylenediaminetetraacetic acidを添加し、37℃で10分間インキュベートし、細胞集団を完全に剥離させて回収した。ここで取得した細胞集団は0継代目の細胞集団である。その後、前記細胞集団の1/5量の細胞集団を先の培養と同じスケールのCellSTACK(登録商標)に播種することにより、終濃度が10%のFBSを含むαMEMにて継代培養を行った。以降、上記工程を2-4回繰り返すことにより、3-5継代目の細胞集団を調製した。
【0080】
(4)間葉系幹細胞の凍結保存
上述の「(3)間葉系幹細胞の培養」で得られた3-5継代目の細胞集団をCell Bankerに浮遊させて凍結保存し、羊膜間葉系幹細胞を製造した。
【0081】
<実施例2:羊膜間葉系幹細胞による脂肪組織の生着率向上に向けた検討>
(1)マウス皮下への脂肪組織及び羊膜間葉系幹細胞の移植
脂肪組織はヒト脂肪移植術時に生じた余剰脂肪を採取した。コールマン法により患者の腹部、大腿部、臀部などから細分化された皮下脂肪を吸引採取し、700×g、3分間の遠心処理後、中層の脂肪層のみを回収した。
【0082】
羊膜間葉系幹細胞を37℃で解凍後、150mmの培養dishに播種し、10% FBS、100U/mL ペニシリン-100μg/mLストレプトマイシンを加えたαMEMで培養した。サブコンフルエントになった時点で0.5%trypsin-ethylenediaminetetraacetic acidを用いて細胞継代を行い、1-3継代の細胞を回収し、羊膜間葉系幹細胞 5.0×10個、5.0×10個をphosphate buffered saline 100μLに浮遊させ、1mLシリンジ内に採取した。ヒト脂肪0.5gを同シリンジ内に採取し、内筒を用手的に動かすことで混和を行った。作成した羊膜間葉系幹細胞混和脂肪をC.B-17/IcrHsd-Prkdcscidマウス背部皮下左側に注入し、背部右側にはControlとして羊膜間葉系幹細胞を混和しない脂肪0.5gを同様に注入した。
【0083】
(2)移植脂肪の肉眼所見の経時的観察
移植後2、4、8、12、16週に評価を行なった。背部正中の皮切から皮下剥離の上、移植脂肪を摘出した。摘出した移植脂肪は、薄い被膜に覆われており、周囲組織からの剥離は比較的容易であった。一部の移植脂肪では被膜内に毛細血管が透見されたが、毛細血管の程度について、羊膜間葉系幹細胞添加による差異は明らかではなかった。肉眼所見像を図1に示す。
【0084】
(3)移植脂肪の残存体積の経時的測定
摘出した移植脂肪に対し、マウス足容積測定装置を使用し、水置換式体積測定を行なった。移植脂肪の体積は経時的に減少を認めた。羊膜間葉系幹細胞5.0×10個添加群、5.0×10個添加群ともに対照群と比較して、残存する移植脂肪の体積が大きい傾向を認め、5.0×10個添加群の12週、5.0×10個添加群の4、8、12週では有意差を持って羊膜間葉系幹細胞添加群で体積が大きい結果となった(p < 0.05)。本測定データを図2に示す。
【0085】
(4)移植脂肪の残存重量の経時的測定
摘出した移植脂肪に対し、電子天秤を用いて、質量を測定した。移植脂肪の質量は継時的に減少を認めた。羊膜間葉系幹細胞5.0×10個添加群、5.0×10個添加群ともに対照群と比較して、残存する移植脂肪の質量が大きい傾向を認め、両群ともに4週、12週では有意差を持って羊膜間葉系幹細胞添加群で質量が大きい結果となった(p < 0.05)。本測定データを図3に示す。
【0086】
(5)移植脂肪の線維化面積の経時的測定
採取した脂肪塊を半割し、4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液に浸漬して固定し、パラフィン包埋、組織スライド作製、Elastica-Masson (E-M)染色を行った。組織スライドの染色像を図4に示す。
【0087】
作製した組織スライドにおいて、ランダムに選択された20視野(400倍)の平均陽性面積を測定した。膠原線維の占める面積は、羊膜間葉系幹細胞5.0×10個添加群、5.0×10個添加群ともに、羊膜間葉系幹細胞の添加により抑制される傾向を認めた。定量化を行ったところ、線維化は移植後8週以降増加傾向を認めたが、対照群と比較し、羊膜間葉系幹細胞添加群で線維化が有意に抑制された。本測定データを図5に示す。
【0088】
(6)移植脂肪の線維化関連遺伝子の発現レベルの評価
採取した脂肪塊を半割し、破砕後、スピンカラム法にてtotal RNAを抽出した。ゲノムDNAのコンタミネーションを防ぐ目的でDNase処理を行った。total RNAから逆転写反応によりcDNAを作成し、インターカレーション法によりPCR増幅産物生成量を測定し、ΔΔCT法により解析した。内在性コントロールはglyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)を用いた。
【0089】
移植後4週でのα-SMA、TGF-βの遺伝子発現は羊膜間葉系幹細胞5.0×10個添加群、5.0×10個添加群ともに有意に抑制された。コラーゲンI遺伝子の発現も羊膜間葉系幹細胞 5.0×10個添加群では有意に抑制された。本評価データを図6に示す。
【0090】
<実施例3:医薬組成物の製造>
上記の「実施例1:羊膜間葉系幹細胞の製造」で得られた羊膜間葉系幹細胞の一部を医薬組成物の調製に供する。羊膜間葉系幹細胞1.0×10個、ジメチルスルホキシド(DMSO)5v/v%、ヒドロキシエチルスターチ(HES)6w/v%及びヒト血清アルブミン46w/v%を含有する生理食塩液1mLからなる医薬組成物(細胞製剤)を調製する。当該医薬組成物を凍結用バッグに封入し、凍結状態で保存する。尚、使用時に医薬組成物を解凍し、患者又は被験者に供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6