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▶ 株式会社J−オイルミルズの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120970
(43)【公開日】2022-08-19
(54)【発明の名称】油脂組成物の加熱臭の抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20220812BHJP
【FI】
A23D9/00
A23D9/00 506
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021018052
(22)【出願日】2021-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(72)【発明者】
【氏名】熊田 誠
(72)【発明者】
【氏名】堀金 智貴
(72)【発明者】
【氏名】前山 智華
(72)【発明者】
【氏名】竹内 茂雄
【テーマコード(参考)】
4B026
【Fターム(参考)】
4B026DC01
4B026DG01
4B026DG06
4B026DG07
4B026DH05
4B026DH10
4B026DX01
(57)【要約】
【課題】構成脂肪酸総量に占めるα-リノレン酸の含有量が30質量%以上80質量%以下であるα-リノレン酸高含有食用油脂を含む油脂組成物の加熱臭を抑制する方法を提供する。
【解決手段】α-リノレン酸高含有食用油脂を含む油脂組成物に食用油脂Aを50質量%以上80質量%以下含有させる前記油脂組成物の加熱臭の抑制方法であって、
前記α-リノレン酸高含有食用油脂が構成脂肪酸総量に占めるα-リノレン酸の含有量が30質量%以上80質量%以下であり、
前記食用油脂Aがコーン油および米油から選ばれる一種又は二種である、前記方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
α-リノレン酸高含有食用油脂を含む油脂組成物に食用油脂Aを50質量%以上80質量%以下含有させる、前記油脂組成物の加熱臭の抑制方法であって、
前記α-リノレン酸高含有食用油脂が構成脂肪酸総量に占めるα-リノレン酸の含有量が30質量%以上80質量%以下であり、
前記食用油脂Aがコーン油および米油から選ばれる一種又は二種である、前記方法。
【請求項2】
前記α-リノレン酸高含有食用油脂の含有量が20質量%以上50質量%以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記α-リノレン酸高含有食用油脂は、えごま油およびあまに油からなる群から選ばれる一種又は二種である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記α-リノレン酸高含有食用油脂に対する前記食用油脂Aの質量比が1以上4以下である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記油脂組成物が、加熱調理用である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂組成物の加熱臭の抑制方法に関し、より具体的には、構成脂肪酸総量に占めるα-リノレン酸の含有量が30質量%以上80質量%以下であるα-リノレン酸高含有食用油脂を含む油脂組成物の加熱臭の抑制方法である。
【背景技術】
【0002】
α-リノレン酸は、生体内で合成できない脂肪酸であり、欠乏すると皮膚炎などを発症することが知られている。
【0003】
また、2012年に発表された観察研究のメタ・アナリシスでは、1日あたり1gのα-リノレン酸摂取量増加は心筋梗塞による死亡を10%減少させると推定している。
【0004】
このように、α-リノレン酸の摂取による健康上の有用性が示されており、α-リノレン酸を多く含む、えごま油やあまに油を食事に取り入れることで手軽にα-リノレン酸の摂取量を増加させることができる。
【0005】
ところが、α-リノレン酸は酸化されやすく、加熱時に独特の加熱臭や長期保管時に独特の劣化臭が生じるという課題を有している。
【0006】
そこで、特許文献1には、風味安定性及び酸化安定性に優れたリノレン酸を多く含む食用油を提供するために、エゴマ種子やアマニ種子などとゴマ種子とを混合した後、搾油し、ろ過することが記載されている。
【0007】
また、特許文献2では、特定のゴマ油により、えごま油やあまに油の劣化臭を効果的にマスキングする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000-316473号公報
【特許文献2】特開2020-005529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法は、2種類の油脂原料を予め混合することを必要とし、製造上、煩雑であった。また、特許文献2に記載の方法は、特定のゴマ油による効果を開示したものであった。そして、いずれも、ゴマ種子あるいはゴマ油を必須とするものであった。
【0010】
そこで、本発明においては、構成脂肪酸総量に占めるα-リノレン酸の含有量が30質量%以上80質量%以下であるα-リノレン酸高含有食用油脂を含む油脂組成物の加熱臭を抑制する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、構成脂肪酸総量に占めるα-リノレン酸の含有量が30質量%以上80質量%以下であるα-リノレン酸高含有食用油脂を含む油脂組成物に、コーン油または米油を配合することにより、前記油脂組成物の加熱臭が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、α-リノレン酸高含有食用油脂を含む油脂組成物に食用油脂Aを50質量%以上80質量%以下含有させる前記油脂組成物の加熱臭の抑制方法であって、
前記α-リノレン酸高含有食用油脂が構成脂肪酸総量に占めるα-リノレン酸の含有量が30質量%以上80質量%以下であり、
前記食用油脂Aがコーン油および米油から選ばれる一種又は二種である、前記方法である。
【0013】
前記α-リノレン酸高含有食用油脂の含有量が20質量%以上50質量%以下であることが好ましい。
【0014】
前記α-リノレン酸高含有食用油脂は、えごま油およびあまに油からなる群から選ばれる一種又は二種であることが好ましい。
【0015】
前記α-リノレン酸高含有食用油脂に対する前記食用油脂Aの質量比が1以上4以下であることが好ましい。
【0016】
前記油脂組成物が、加熱調理用であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
構成脂肪酸総量に占めるα-リノレン酸の含有量が30質量%以上80質量%以下であるα-リノレン酸高含有食用油脂を含む油脂組成物に、コーン油または米油を特定量含有させることにより、前記油脂組成物の加熱臭を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のα-リノレン酸高含有食用油脂とは、構成脂肪酸総量に占めるα-リノレン酸の含有量が30質量%以上80質量%以下である食用油脂のことである。
前記α-リノレン酸の前記含有量は、好ましくは、35質量%以上75質量%以下であり、より好ましくは40質量%以上70質量%以下であり、さらに好ましくは45質量%以上65質量%以下であり、さらにより好ましくは45質量%以上58質量%以下である。
【0019】
前記α-リノレン酸高含有食用油脂としては、例えば、あまに油、えごま油、しそ油、チアシード油、藻類油および微生物油などが挙げられ、えごま油およびあまに油からなる群から選ばれる一種又は二種を用いることが好ましく、あまに油がより好ましい。
【0020】
構成脂肪酸総量に占めるα-リノレン酸の含有量は、例えば、日本油化学協会、「基準油脂分析試験法2.4.1.4-2013」に準じて測定することができる。
【0021】
本発明の油脂組成物は、前記α-リノレン酸高含有食用油脂を含有する。前記α-リノレン酸高含有食用油脂の含有量は、好ましくは20質量%以上50質量%以下であり、より好ましくは20質量%以上45質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以上40質量%以下であり、さらにより好ましくは25質量%以上35質量%以下である。
【0022】
本発明で使用される食用油脂Aは、コーン油および米油から選ばれる一種又は二種である。好ましくは、コーン油、もしくは、コーン油および米油である。
【0023】
前記食用油脂Aは、前記油脂組成物に50質量%以上80質量%以下含有させる。好ましくは、55質量%以上80質量%以下含有させ、より好ましくは、55質量%以上75質量%以下含有させ、さらに好ましくは、60質量%以上75質量%以下含有させる。特定量含有させることで、より高い効果を得ることができる。
【0024】
前記コーン油および米油は、特に、限定されない。通常、コーン油はコーン胚芽から得られ、米油は米ぬかあるいは米胚芽から得られる。
【0025】
前記食用油脂Aが前記コーン油の場合、前記油脂組成物に50質量%以上80質量%以下含有させる。好ましくは、55質量%以上80質量%以下含有させ、より好ましくは、55質量%以上75質量%以下含有させ、さらに好ましくは、60質量%以上75質量%以下含有させる。特定量含有させることで、より高い効果を得ることができる。
【0026】
また、前記α-リノレン酸高含有食用油脂に対する前記食用油脂Aの質量比は、1以上4以下が好ましく、1.2以上4以下がより好ましく、1.5以上4以下がさらに好ましく、2以上4以下がさらにより好ましく、2.2以上4以下が特に好ましい。適切な質量比とすることで、より高い効果を得ることができる。
【0027】
本発明における油脂組成物は、前記α-リノレン酸高含有食用油脂および前記食用油脂A以外の食用油脂を含んでもよい。前記食用油脂は、食用のものを適宜利用することができ、例えば、大豆油、菜種油、パーム油、オリーブ油、ゴマ油、紅花油、ひまわり油、綿実油、落花生油、パーム核油、ヤシ油等の植物油脂、牛脂、豚脂、鶏脂等の動物脂、中鎖脂肪酸トリグリセリド、あるいはこれら油脂に分別、水素添加、エステル交換等を施した加工油脂などが挙げられる。前記食用油脂は、1種類を単品で用いてもよく、あるいは2種類以上を用いてもよい。なかでも、使用時の作業性等の点で、大豆油、菜種油、パーム油及びオリーブ油から選ばれる一種又は二種以上を含むことが好ましく、大豆油及び菜種油から選ばれる一種又は二種を含むことがより好ましい。
【0028】
本発明に記載の食用油脂(前記α-リノレン酸高含有食用油脂および前記食用油脂Aを含む)は、油糧原料から搾油、抽出等して得られた原油から、更に、脱ガム処理、脱酸処理、脱色処理、脱臭処理のうちの1種又は2種以上の精製処理が施されてなるものであることが好ましく、脱ガム処理、脱酸処理、脱色処理および脱臭処理のすべての精製処理を施されてなるものであることがより好ましい。このような精製処理によれば、原料の香りや風味、色素等が除かれて、そのような原料由来の性質が好まれない場合の需要に応えることができる。
【0029】
また、前記油脂組成物は、本発明による作用効果を害しない範囲であれば、抗酸化剤、乳化剤、香料などの添加素材を、更に配合していてもよい。具体的には、例えば、アスコルビン酸脂肪酸エステル、リグナン、コエンザイムQ、γ-オリザノール、トコフェロールなどが挙げられる。また、前記油脂組成物の水の含有量は、1質量%未満が好ましい。
【0030】
また、前記油脂組成物の用途は、特に限定されないが、加熱調理用であることが好ましく、フライ調理用もしくは炒め調理用であることがより好ましく、炒め調理用であることがさらに好ましい。
【実施例0031】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例に使用した食用油脂等は、以下のとおりである。
【0032】
<食用油脂>
菜種油(株式会社J-オイルミルズ社製)
大豆油(株式会社J-オイルミルズ社製)

<食用油脂A>
米油(株式会社J-オイルミルズ社製)
コーン油(株式会社J-オイルミルズ社製)

<α-リノレン酸高含有食用油脂>
あまに油(株式会社J-オイルミルズ社製、構成脂肪酸総量に占めるα-リノレン酸含量:52.1質量%)
えごま油(株式会社J-オイルミルズ社製、構成脂肪酸総量に占めるα-リノレン酸含量:59.6質量%)
【0033】
なお、上記に記載した、食用油脂、食用油脂Aおよびα-リノレン酸高含有食用油脂は、いずれも、脱ガム処理、脱酸処理、脱色処理及び脱臭処理のすべての精製処理が施されてなるものである。また、水の含有量は、1質量%未満である。
【0034】
[試験例1] 加熱臭の抑制効果の評価1
表1に記載の油脂組成物を用いて、加熱臭の抑制効果を評価した。内径5.0cmのステンレス製シャーレに油脂組成物10gを入れた。油脂組成物の入ったシャーレを210℃に設定したホットプレート(アズワン株式会社製、EC-1200N)の上に載せ、10分間加熱した(加熱終了時の油温は約190℃であった)。加熱した後、1分間室温に放置し、訓練を受けた3名の専門の評価者がシャーレの油脂組成物から発生するα-リノレン酸分解物由来の臭いを嗅いで、以下の評価基準に従って、評価をおこなった。その平均値を算出し、表1に記載した。
【0035】
(評価基準)
5:加熱臭が対照より非常に少ない
4:加熱臭が対照よりかなり少ない
3:加熱臭が対照より少ない
2:加熱臭が対照と同等
1:加熱臭が対照より多い
(対照:αーリノレン酸高含有食用油脂を同量配合した菜種油)
【0036】
【表1】
【0037】
表1に示したように、コーン油および米油から選ばれる一種又は二種を含有した油脂組成物は、加熱臭が抑制されることがわかった。また、あまに油が20質量%以上45質量%以下の油脂組成物に、コーン油および米油から選ばれる一種又は二種を50質量%以上80質量%以下含有させることで、加熱臭を抑制できることが確認できた。また、あまに油に対する、コーン油および米油の合計の質量比は、1.2以上4以下で加熱臭の抑制効果が確認でき、1.7以上4以下でその効果が高いことが確認できた。
さらに、実施例1-1と1-3を対比すると、米油よりコーン油を用いた方が加熱臭の抑制効果が高いことがわかる。また、実施例1-4と1-5を対比すると、コーン油単独より、コーン油と米油と併用したほうが加熱臭の抑制効果が高いことがわかる。
一方、菜種油は加熱臭の抑制効果がなく、大豆油も若干の抑制効果にとどまった。
【0038】
[試験例2] 加熱臭の抑制効果の評価2
試験例1と同じ方法で、表2に記載の油脂組成物の加熱臭の抑制効果を評価した。結果を表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
表2に示したように、α-リノレン酸高含有食用油脂としてえごま油を用いた場合においても、加熱臭の抑制効果が確認できた。
【0041】
[試験例3] α-リノレン酸分解物由来の揮発成分量
IHヒーターでフライパン(24cm、樹脂加工)を200℃まで加熱した後、表3に記載の油脂組成物10gを投入し、1分間加熱した。加熱後、室温まで冷めた油脂組成物を回収し、揮発成分を分析した。分析はガスクロマトグラフィー質量分析法(以降、GC/MSと称することがある)に従って、下記測定条件で、加熱臭の成分である、α-リノレン酸分解物由来の揮発成分の量を測定した。結果を表3に示す。
なお、α-リノレン酸分解物由来の揮発成分として、2,4-heptadienalを測定した。
【0042】
<測定条件>
装置:GCAgilent6890N/MS5975B、GERSTELHS/TDU/CIS/ODP
捕集方法:
(1)加熱後のアマニ油等をCUPに0.01gサンプリングし、180℃に加温。
(2)TDUにて180℃、ヘリウム下(50mL/min×10min)でパージし、揮発した成分をCISライナー(捕集剤:TenaxTA、GERSTEL社製)にトラップ(CIS内温度‐50℃)。

加熱脱着、分析:
(1)CIS内を240℃まで加熱、揮発した成分をGC/MSへ導入、分析。

カラム:AgilentDB-WAX UI長さ60m×内径0.25mm×膜厚0.25μm
注入方法:スプリットレス
オーブン:40℃(10min)→2℃/min→100℃→5℃/min→210℃(10min)
分析時間:72min
イオン化法:EI法(70eV)
イオン源:230℃
四重極:150℃
スキャンレンジ:m/z 29~400
MS/ODPスプリット比:1/2
【0043】
【表3】
【0044】
表3に示したように、実施例3-1では、油脂組成物に含まれる、あまに油1質量%あたりの揮発成分量を94%(=127.73/135.56)に抑制でき、試験例1で示した結果と齟齬のない結果であることが確認できた。
【0045】
本発明のα-リノレン酸高含有食用油脂を含む油脂組成物の加熱臭の抑制方法は、上述の実施形態および実施例に限定するものではなく、発明の効果を損ねない範囲で種々の変更が可能である。