(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022121415
(43)【公開日】2022-08-19
(54)【発明の名称】車両用合わせガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 27/12 20060101AFI20220812BHJP
B32B 17/10 20060101ALI20220812BHJP
B60J 1/00 20060101ALI20220812BHJP
B60J 3/04 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
C03C27/12 K
B32B17/10
B60J1/00 J
B60J3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022017734
(22)【出願日】2022-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2021017940
(32)【優先日】2021-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】青木 里紗
(72)【発明者】
【氏名】儀間 裕平
【テーマコード(参考)】
4F100
4G061
【Fターム(参考)】
4F100AG00
4F100AG00A
4F100AG00E
4F100AK25E
4F100AK42C
4F100AK45C
4F100AK49C
4F100AK51E
4F100AK52E
4F100AK53E
4F100AK68
4F100AR00B
4F100AR00C
4F100AR00D
4F100BA05
4F100BA06
4F100BA07
4F100BA21A
4F100BA21B
4F100DB02C
4F100GB32
4F100JA02
4F100JA02E
4F100JG01
4F100JG01E
4F100JL11E
4F100JN01C
4F100JN13E
4F100YY00B
4F100YY00C
4F100YY00D
4G061AA20
4G061BA02
4G061CB03
4G061CB05
4G061CB16
4G061CB19
4G061CD03
4G061CD18
(57)【要約】
【課題】機能フィルムに亀裂が生じ難い車両用合わせガラス。
【解決手段】第1のガラス基板および第2のガラス基板と、前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板の間に、第1の中間膜および第2の中間膜と、前記第1の中間膜と前記第2の中間膜の間に、給電により駆動する機能フィルムと、を有する車両用合わせガラスであって、前記第1の中間膜は、前記第2のガラス基板よりも前記第1のガラス基板に近い位置に配置され、前記機能フィルムは、電極が電気的に接続され、当該車両用合わせガラスの上面視、前記機能フィルムと前記電極とが重なり合う領域を接合部と称したとき、前記接合部は、長手方向に沿って延在し、前記第1の中間膜、前記第2の中間膜、および前記機能フィルムのそれぞれにおいて、前記長手方向に沿って測定される最大TMA変位量L
MAXが60,000ppm以下である、車両用合わせガラス。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のガラス基板および第2のガラス基板と、
前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板の間に、第1の中間膜および第2の中間膜と、
前記第1の中間膜と前記第2の中間膜の間に、給電により駆動する機能フィルムと、
を有する車両用合わせガラスであって、
前記第1の中間膜は、前記第2のガラス基板よりも前記第1のガラス基板に近い位置に配置され、
前記機能フィルムは、電極が電気的に接続され、
当該車両用合わせガラスの上面視、前記機能フィルムと前記電極とが重なり合う領域を接合部と称したとき、前記接合部は、長手方向に沿って延在し、
前記第1の中間膜、前記第2の中間膜、および前記機能フィルムのそれぞれにおいて、前記長手方向に沿って測定される最大TMA変位量LMAXが60,000ppm以下である、車両用合わせガラス:
ここで、最大TMA変位量LMAXは、30℃~140℃におけるTMA変位量の絶対値の最大値を表し、各温度におけるTMA変位量は、対象温度におけるTMA測定値をLA(mm)とし、23℃におけるTMA測定値をL0(mm)としたとき、
TMA変位量(ppm)={(LA-L0)/L0}×1,000,000 (1)式
上記(1)式から求められる。
【請求項2】
前記接合部は、当該合わせガラスの上面視、曲率半径が5mm以上の丸いコーナー部を有する、請求項1に記載の車両用合わせガラス。
【請求項3】
前記機能フィルムは、0.05mm以上、0.5mm以下の厚さを有する、請求項1または2に記載の車両用合わせガラス。
【請求項4】
前記機能フィルムは、透明基材を有し、該透明基材は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)およびポリブチレンテレフタラート(PBT)の少なくとも一つを含む、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の車両用合わせガラス。
【請求項5】
前記透明基材の厚さが、100μm以上である、請求項4に記載の車両用合わせガラス。
【請求項6】
前記接合部の長手方向が、前記透明基材のMD(Machine Direction)と略垂直に配置されている、請求項4または5に記載の車両用合わせガラス。
【請求項7】
前記接合部の長手方向が、前記透明基材のMD(Machine Direction)と略平行に配置されている、請求項4または5に記載の車両用合わせガラス。
【請求項8】
前記機能フィルムは、調光素子、発光素子、および電熱素子の少なくとも一つを有する、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の車両用合わせガラス。
【請求項9】
前記電極は、前記第1の中間膜または前記第2の中間膜と直接接する、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の車両用合わせガラス。
【請求項10】
前記電極は、前記第1の中間膜および前記第2の中間膜と、当該合わせガラスの厚さ方向に離間している、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の車両用合わせガラス。
【請求項11】
前記電極は、接合層を介して、前記機能フィルムと接合される、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の車両用合わせガラス。
【請求項12】
前記接合層は、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、およびシリコーン樹脂からなる群から選定された、少なくとも一つの樹脂を有する、請求項11に記載の車両用合わせガラス。
【請求項13】
前記接合層は、30℃~140℃の範囲において、1×10-4(/K)以下の線膨張係数を有する、請求項11または12に記載の車両用合わせガラス。
【請求項14】
前記接合部において、前記第1の中間膜の前記第1のガラス基板に遠い側の表面から、前記第2の中間膜の前記第2のガラス基板から遠い側の表面までの領域における厚さの偏差が100μm以下である、請求項1乃至13のいずれか一項に記載の車両用合わせガラス。
【請求項15】
前記接合部は、前記第1のガラス基板および前記第2のガラス基板の周縁から、5mm以上離間して配置されている、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の車両用合わせガラス。
【請求項16】
前記第1の中間膜および前記第2の中間膜の少なくとも一方は、ポリビニルブチラール(PVB)である、請求項1乃至15のいずれか一項に記載の車両用合わせガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用の合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
一対のガラス基板をそれぞれのガラス基板の表面に設置された中間膜を介して積層することにより構成される合わせガラスは、例えば、車両用のガラス部材などに広く利用されている。
【0003】
近年、合わせガラスの内部に各種機能フィルムを封入して、合わせガラスに追加の機能を発現させるようになって来ている。例えば、一対の中間膜の間に調光フィルムを封入した場合、環境に応じて合わせガラスの透過率を適宜調整することが可能になる(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者らによれば、機能フィルムを備える合わせガラスの使用中に、しばしば、機能フィルムに亀裂が発生する場合がある。このような機能フィルムの亀裂は、合わせガラスに発現される各種機能を低下させたり、合わせガラスの美感を損ねたりする。
【0006】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、機能フィルムに亀裂が発生し難い、車両用合わせガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、
第1のガラス基板および第2のガラス基板と、
前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板の間に、第1の中間膜および第2の中間膜と、
前記第1の中間膜と前記第2の中間膜の間に、給電により駆動する機能フィルムと、
を有する車両用合わせガラスであって、
前記第1の中間膜は、前記第2のガラス基板よりも前記第1のガラス基板に近い位置に配置され、
前記機能フィルムは、電極が電気的に接続され、
当該車両用合わせガラスの上面視、前記機能フィルムと前記電極とが重なり合う領域を接合部と称したとき、前記接合部は、長手方向に沿って延在し、
前記第1の中間膜、前記第2の中間膜、および前記機能フィルムのそれぞれにおいて、前記長手方向に沿って測定される最大TMA変位量LMAXが60,000ppm以下である、車両用合わせガラスが提供される。
【0008】
ここで、最大TMA変位量LMAXは、30℃~140℃におけるTMA変位量の絶対値の最大値を表し、各温度におけるTMA変位量は、対象温度におけるTMA測定値をLA(mm)とし、23℃におけるTMA測定値をL0(mm)としたとき、
TMA変位量(ppm)={(LA-L0)/L0}×1,000,000 (1)式
上記(1)式から求められる。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、機能フィルムに亀裂が発生し難い、車両用合わせガラスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態による車両用合わせガラスを模式的に示した平面図である。
【
図2】
図1に示した車両用合わせガラスにおけるI線-I線に沿った断面を模式的に示した図である。
【
図3】本発明の一実施形態による車両用合わせガラスの製造方法のフローを模式的に示した図である。
【
図4】各サンプルにおいて得られた、TMA変位量と温度の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
前述のように、本願発明者らは、機能フィルムを備える車両用合わせガラスの使用中に、しばしば、機能フィルムに亀裂が生じる場合があることに気付いた。このような機能フィルムの亀裂は、合わせガラスに発現される各種機能を低下させたり、合わせガラスの美感を損ねたりする。
【0012】
本願発明者らの考察によれば、この機能フィルムの亀裂には、以下の要因が関与しているものと考えられる。
【0013】
車両用合わせガラスにおいて、機能フィルムは、2枚の中間膜の間に配置される。また、2枚の中間膜の間には、機能フィルムに給電するための電極、および電極と機能フィルムを接着するための接着層も配置される。機能フィルムは、一方の中間膜と電極(正確には接着層)との間に配置される。
【0014】
このような構成の車両用合わせガラスの使用中に、該合わせガラスに温度変化が生じた場合、機能フィルム自体に熱応力が生じ、機能フィルムに亀裂が入るおそれがある(第1の要因)。
【0015】
また、一般に、電極および接着層は、中間膜に比べ、温度変化を受けた際の膨張収縮が小さい傾向にある。
【0016】
従って、両者に挟まれた機能フィルムは、電極の側の表面では、あまり位置の変化が生じないように拘束される一方、中間膜の側の表面では、中間膜の膨張収縮の影響により、比較的大きな引張/圧縮応力を受ける。その結果、機能フィルムに亀裂が生じると考えられる(第2の要因)。
【0017】
また、本願発明者らは、このような考察に基づき、機能フィルムに亀裂が生じ難い車両用合わせガラスを見出した。
【0018】
なお、本願において、TMA変位量とは、熱機械分析(TMA)測定により得られる試料の変形量を表す指標である。
【0019】
TMA測定は、試料に一定荷重を印加した状態で、温度に対する変形を計測する測定方法である。TMA測定では、試料の熱膨張等による荷重方向における試料の変形挙動を評価できる。荷重の印加方向への変形(膨張)では正の値が、荷重の印加方向と反対方向への変形(収縮)では負の値が得られる。
【0020】
本発明の一実施形態による車両用合わせガラスでは、機能フィルムの最大TMA変位量LMAXが60,000ppm以下に抑制されている。従って、本発明の一実施形態では、前述の第1の要因が軽減または排除され、機能フィルム自身の熱膨張/収縮に起因した機能フィルムの亀裂の発生を有意に抑制できる。
【0021】
また、本発明の一実施形態による車両用合わせガラスでは、中間膜の最大TMA変位量LMAXも、60,000ppm以下に抑制されている。従って、本発明の一実施形態では、前述の第2の要因が軽減または排除され、中間膜および電極側の影響による機能フィルムの亀裂も、有意に抑制できる。
【0022】
これらの効果により、本発明の一実施形態による車両用合わせガラスでは、機能フィルムの亀裂の発生を有意に抑制できる。
【0023】
(本発明の一実施形態による車両用合わせガラス)
次に、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
【0024】
図1には、本発明の一実施形態による車両用合わせガラスの上面視の平面図を概略的に示す。また、
図2には、
図1に示した車両用合わせガラスのI-I線に沿った断面を模式的に示す。
【0025】
図1および
図2に示すように、本発明の一実施形態による車両用合わせガラス(以下、「第1の合わせガラス」と称する)100は、第1のガラス基板110および第2のガラス基板120と、両者の間に配置された、第1の中間膜130および第2の中間膜140と、を有する。第1の中間膜130は、第2のガラス基板120よりも第1のガラス基板110に近い側に配置される。逆に、第2の中間膜140は、第1のガラス基板110よりも第2のガラス基板120に近い側に配置される。本実施形態では、第1の中間膜130は、第1のガラス基板110に接し、第2の中間膜140は、第2のガラス基板120に接している。
【0026】
図1に示すように、第1のガラス基板110および第2のガラス基板120は、上面視、略矩形状の形態を有する。上面視とは、第1の合わせガラス100を第2のガラス基板120側(
図2の正のZ軸方向)から見ることを指す。
【0027】
ただし、これは単なる一例であって、第1のガラス基板110および第2のガラス基板120の形状は、特に限られない。例えば、第1のガラス基板110および第2のガラス基板120は、略円形、または矩形以外の略多角形状であってもよい。また、第1のガラス基板110および第2のガラス基板120は、平坦形状の他、Z軸(
図2参照)のいずれかの側に湾曲した、曲面形状を有してもよい。
【0028】
通常、第1の中間膜130は、上面視、第1のガラス基板110と同様の形状および寸法を有し、第2の中間膜140は、第2のガラス基板120と同様の形状および寸法を有する。
【0029】
なお、
図1に示した例では、第1のガラス基板110、第1の中間膜130、第2の中間膜140、および第2のガラス基板120は、上面視、全て同じ形状および寸法を有する。しかしながら、これは単なる一例であって、第1のガラス基板110(第1の中間膜130)と第2のガラス基板120(第2の中間膜140)は、相互に異なる形状および/または寸法を有してもよい。
【0030】
さらに、第1の合わせガラス100は、第1の中間膜130と第2の中間膜140の間に機能フィルム155を有する。
【0031】
機能フィルム155は、給電により、第1の合わせガラス100に、調光機能、発光機能、および/または発熱機能など、各種機能を発現させる役割を有する。
【0032】
図1の太い破線に示すように、機能フィルム155は、第2のガラス基板120の側から見たとき、第2の中間膜140によって各辺が覆われるようにして、第1の中間膜130と第2の中間膜140の間に封止される。
【0033】
なお、
図1に示した例では、機能フィルム155は、上面視、略矩形の形状を有する。しかしながら、機能フィルム155の形態は、特に限られない。
【0034】
さらに、第1の合わせガラス100は、機能フィルム155に給電するための電極160を有する。電極160は、先端部160aと、該先端部160aを外部回路と接続するための配線161とを有する。
【0035】
なお、
図1に示すように、第1の合わせガラス100の上面視、機能フィルム155と電極160が重なり合う領域を、特に「接合部」168と称する。接合部168は、電極160の先端部160aに対応する。
【0036】
図1に示すように、電極160の先端部160aは、上面視、機能フィルム155の一つの辺に沿って、またはその近傍に配置される。なお、
図1では、電極160が2つ配置されているが、電極160の数は、特に限られない。電極160は、1つでもよく、3つ以上でもよい。また、各電極160の矩形状の先端部160aは、互いに異なる形状であってもよい。
【0037】
なお、以下の記載では、
図1における一方の電極160について説明する。ただし、以下の説明は、他方の電極160にも適用されてもよい。
【0038】
電極160の先端部160aは、上面視、一方向(Y方向)に沿って延伸するように構成される。
図1の例では、電極160の先端部160aは、Y方向に延伸した矩形状である。しかしながら、電極160の先端部160aは、上面視、X方向に沿って延伸されていてもよい。また、電極160の先端部160aの延伸方向はこれに限らず、例えば二方向に沿ってL字状に延伸してもよい。以下、電極160の先端部160aの延伸方向を、「長手方向」とも称する。電極160の先端部160aが複数の方向に延伸している場合、最も長い方向を長手方向とする。
図1の例では、電極160の先端部160aの長手方向は、配線161の延伸方向に略垂直である。そして、接合部168の形状は、上面視、略矩形である。
【0039】
図2に示すように、接合部168において、電極160(の先端部160a)は、接合層165を介して、機能フィルム155と接合される。
【0040】
さらに、第1の合わせガラス100は、第1のガラス基板110および/または第2のガラス基板120の周縁部に沿って、額縁状に配置された遮蔽層180を有する。例えば、
図1および
図2に示した例では、第1のガラス基板110の第1の中間膜130とは反対側の表面に、遮蔽層180が配置されている。
図1において、機能フィルム155よりも内側の破線は、遮蔽層180の内縁部を表している。
【0041】
遮蔽層180は、不透明な層として形成され、機能フィルム155の外周端部を認識し難くする役割を有する。ただし、遮蔽層180の配置は任意である。
【0042】
ここで、第1の合わせガラス100において、第1の中間膜130および第2の中間膜140は、それぞれ、接合部168の長手方向に沿って測定される、最大TMA変位量LMAXが60,000ppm以下であるという特徴を有する。また、機能フィルム155も、接合部168の長手方向に沿って測定される、最大TMA変位量LMAXが60,000ppm以下であるという特徴を有する。
【0043】
このような特徴により、第1の合わせガラス100では、使用中に温度が変化し、各部材に熱膨張および/または熱収縮が生じても、機能フィルム155に亀裂の発生を有意に抑制できる。
【0044】
(合わせガラスに含まれる構成部材)
次に、本発明の一実施形態による車両用合わせガラスに含まれる各構成部材について、より詳しく説明する。なお、ここでは、前述の第1の合わせガラス100を例に、その構成部材について説明する。従って、各構成部材を表す際には、
図1~
図2に使用した参照符号を使用する。
【0045】
(第1のガラス基板110および第2のガラス基板120)
第1のガラス基板110の組成は、特に限られない。第1のガラス基板110は、例えば、ソーダライムガラス、アルミノシリケート等の無機ガラス、またはポリカーボネート等の有機ガラスであってもよい。
【0046】
第1のガラス基板110の厚さは、特に限られないが、一般的には0.1mm~10mmの範囲で、第1の合わせガラス100が適用される車両の種類や部位等により適宜選択できる。第1のガラス基板110の厚さは、耐飛び石衝撃性の点から0.3mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましく、0.7mm以上がさらに好ましく、1.1mm以上が特に好ましく、1.6mm以上が最も好ましい。
【0047】
また、第1の合わせガラス100の質量を抑制するために、第1のガラス基板110の厚さは、3mm以下が好ましく、2.6mm以下がより好ましく、2.1mm以下がさらに好ましい。
【0048】
第2のガラス基板120についても、第1のガラス基板110と同様のことが言える。なお、第2のガラス基板120は、第1のガラス基板110とは異なる組成を有し、および/または第1のガラス基板110とは異なる厚さを有してもよい。例えば、第1のガラス基板110は、第2のガラス基板120より薄くてもよい。
【0049】
(第1の中間膜130および第2の中間膜140)
前述のように、第1の中間膜130は、接合部168において、電極160の長手方向(Y方向)に沿って測定される、最大TMA変位量LMAXが60,000ppm以下となるような材料で構成される。接合部168の長手方向に沿って測定される、第1の中間膜130の最大TMA変位量LMAXは、50,000ppm以下であれば、機能フィルム155への亀裂の発生をより有意に抑制できるため好ましく、48,000ppm以下がさらに好ましい。
【0050】
第1の中間膜130は、例えば、樹脂で構成される。樹脂としては、耐衝撃性や耐貫通性の観点から、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリウレタン(PU)、および/またはシクロオレフィンポリマー(COP)等であってもよい。これらの樹脂は、一般的に溶融押出成形で構成される。
【0051】
第1の中間膜130が樹脂で構成される場合、溶融押出成形される際の搬送方向(Machine Direction:MD)と、MDに略垂直方向(Transverse
Direction:TD)で最大TMA変位量LMAXが異なる場合がある。なお、TDは、第1の中間膜130の厚さ方向に対しても略垂直な方向である。
【0052】
第1の中間膜130は、MDにおける最大TMA変位量LMAXがTDにおける最大TMA変位量LMAXより大きい場合、MDが接合部168における電極の延伸方向(Y方向)と略垂直となるように配置されることが好ましい。逆に、第1の中間膜130は、MDにおける最大TMA変位量LMAXがTDにおける最大TMA変位量LMAXより小さい場合、MDが接合部168における電極の延伸方向(Y方向)と略平行となるように配置されることが好ましい。
【0053】
なお、「略平行」および「略垂直」とは、完全な平行および垂直から、それぞれ45°未満のずれを許容するが、該ずれは30°以下が好ましく、20°以下がより好ましく、10°以下がさらに好ましい。
【0054】
第1の中間膜130の厚さは、例えば、0.3mm~3mmの範囲であってもよい。厚さを0.3mm以上とすることにより、耐衝撃性を高められる。また、厚さを3mm以下とすることにより、合わせガラスの質量を抑制できる。
【0055】
第2の中間膜140についても、第1の中間膜130と同様のことが言える。
【0056】
(機能フィルム155)
機能フィルム155は、前述のように、調光機能、発光機能および/または発熱機能など、各種機能を発現させることができる。
【0057】
機能フィルム155は、例えば、調光素子、発光素子、および電熱素子の少なくとも一つを有してもよい。
【0058】
機能フィルム155が調光素子を含む場合、そのような調光素子は、相互に対向して配置された導電層付き透明基材と、両透明基材の間に配置された調光素子層とを有してもよい。導電層としては、例えば、透明導電性酸化物(TCO:transparent conductive oxide)を用いることができる。TCOとしては、例えば、スズ添加酸化インジウム(ITO:tin-doped indium oxide)、アルミニウム添加酸化亜鉛(AZO:aluminum doped zinc oxide)、インジウム添加酸化カドミウム等が挙げられるが、これらには限定されない。また、導電層として、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)又はポリ(4,4-ジオクチルシクロペンタジチオフェン)等の透明導電性ポリマー、金属層と誘電体層との積層膜、銀ナノワイヤー、銀や銅のメタルメッシュ等も好適に使用できる。
【0059】
調光素子層は、懸濁粒子デバイス、高分子分散型液晶、高分子ネットワーク液晶、ゲストホスト液晶、フォトクロミック、エレクトロクロミック、エレクトロキネティックからなる群から選択された、少なくとも一つを有してもよい。
【0060】
機能フィルム155が発光素子を含む場合、発光素子は、LEDまたはOLEDであってもよい。LEDは、ミニLEDやマイクロLEDと呼ばれる小型のLEDでもよい。
【0061】
機能フィルム155が電熱素子を含む場合、電熱素子は、導電性コーティング膜または導電線条を含んでもよい。導電性コーティング膜としては、銀と誘電体を含む多層膜が好適に使用できる。導電線条としては、タングステンが好適に使用できる。
【0062】
機能フィルム155は、透明基材を有してもよい。そのような透明基材は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂、ポリカーボネート(PC)等のカーボネート系樹脂、ポリイミド(PI)等のイミド系樹脂、およびポリブチレンテレフタラート(PBT)の少なくとも一つを含んでもよい。透明基材は、PEN、PC、PIまたはPBTで構成されることが好ましい。透明基材が、PEN、PC、PIまたはPBTで構成される場合、合わせガラスに温度変化が生じた場合でも、透明基材は結晶化しにくく、機能フィルム155が変形によって応力緩和しやすい。したがって、機能フィルム155に亀裂が生じにくくなる。
【0063】
透明基材の厚さは、35μm以上、好ましくは50μm以上、より好ましくは100μm以上である。透明基材の厚さが厚いほど、剛性が高く、亀裂が入りづらくなる。また透明基材は複数の基材が粘着層を介して貼り合わされていてもよい。
【0064】
機能フィルム155の厚さは、これに限られるものではないが、例えば、0.05mm~0.5mmの範囲である。この範囲の厚さを有する機能フィルム155に含まれる透明基材は、一般的に溶融押出成形で構成される。
【0065】
機能フィルム155に含まれる透明基材は、MDが接合部168における電極の延伸方向(Y方向)と略垂直となるように配置されてもよい。
【0066】
なお、機能フィルム155は、前述のように、接合部168の長手方向に沿って測定される最大TMA変位量LMAXが60,000ppm以下となるものから選定される。
【0067】
接合部168の長手方向に沿って測定される、機能フィルム155の最大TMA変位量LMAXは、50,000ppm以下であれば、機能フィルム155の亀裂の発生をより有意に抑制できるため好ましく、48,000ppm以下がさらに好ましい。
【0068】
(電極160および接合層165)
電極160は、金、銀、銅、アルミニウム、タングステン、白金、パラジウム、ニッケル、コバルト、チタン、イリジウム、亜鉛、マグネシウム、およびスズからなる群から選定された、少なくとも一つを含んでもよい。電極160は、これらの材料の周りをポリイミド等の絶縁材料で覆ったフレキシブルプリント配線板(FPC)を用いてもよい。電極160としてFPCを用いる場合、接合部の168の少なくとも一部は、機能フィルム155と接合のため絶縁材料で覆われない。
【0069】
電極160の先端部160a、すなわち接合部168は、一方向に延伸した形状を有する。先端部160a(接合部168)が一方向に延伸した形状を有することで、接合部168の周縁での厚さの偏差が、第1の合わせガラス100の局所的な領域に集中することを避けられるため、接合部168への応力の集中を抑制できる。また、接合部168の延伸方向に垂直な方向の長さを短くでき、接合部168を遮蔽層180に隠蔽させやすい。
【0070】
電極160の先端部160aの長手方向の長さは、機能フィルム155の面積1m2あたり、50mm以上が好ましく、100mm以上がより好ましい。電極160が複数配置される場合、それらの電極それぞれについて、上記範囲を満たすことが好ましい。電極160の先端部160aの長手方向の長さが上記範囲であれば、接合部168の局所的な加熱が起こりにくく、機能フィルム155への亀裂の発生が抑制されやすい。
【0071】
電極160の先端部160aは、第1のガラス基板110および第2のガラス基板120の周縁から5mm以上離間して配置されることが望ましい。電極160をガラス板の周縁から5mm以上離間して配置することで、合わせガラス作製時のエッジシールによる圧縮応力が加わり難くなり、機能フィルム155の亀裂をより効果的に抑制できる。電極160の先端部160aを離間させる距離は、10mm以上が好ましく、15mm以上がより好ましい。
【0072】
電極160は、第2の中間膜140と、第1の合わせガラス100の厚さ方向に離間して配置されてよい。例えば、
図2では、電極160と第2の中間膜140の間に、機能フィルム155と接合層165が配置されている。
図2に示した例では、電極160は、第1の中間膜130と直接接触しているが、電極160は、第1の中間膜130と、第1の合わせガラス100の厚さ方向に離間して配置されてよい。この場合、電極160と第1の中間膜130の間に配置する部材は、特に限られないが、透明基材、機能フィルム155とは別の機能フィルム、および接合層165とは別の接合層などを適宜選択してよい。
【0073】
電極160の最大TMA変位量LMAXは、例えば、20,000ppm以下、好ましくは10,000ppm以下、より好ましくは5,000ppm以下である。
【0074】
接合層165は、導電性接着剤、導電性ペースト、異方性導電フィルムまたは半田を含んでもよい。導電性接着剤は、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、およびシリコーン樹脂からなる群から選定された、少なくとも一つの樹脂を有してもよい。また、導電性ペーストとしては、銀を含む銀ペーストが好適に使用可能である。
【0075】
接合層165の最大TMA変位量LMAXは、例えば、20,000ppm以下、好ましくは10,000ppm以下、より好ましくは5,000ppm以下である。また、接合層165は、30℃~140℃の範囲において、1×10-4(/K)以下の線膨張係数を有してもよい。
【0076】
また、
図1に示した例では、接合部168は、上面視、4つのコーナー部を有し、各コーナー部は、略直角に構成される。
【0077】
しかしながら、これとは別に、接合部168は、上面視、4つのコーナー部のうち少なくとも一つが、丸い形状を有してもよい。例えば、接合部168は、上面視、4つのコーナー部の全てが丸い形状を有してもよい。丸い形状の曲率半径は、例えば、5mm以上であってもよい。コーナー部を丸い形状にすることで、コーナー部の応力集中を緩和しコーナー部を起点とした亀裂を抑制できる。
【0078】
また、接合部168において、第1の中間膜130の第1のガラス基板110に遠い側の表面から、第2の中間膜140の第2のガラス基板120から遠い側の表面までの領域における厚さの偏差は、100μm以下であることが好ましい。
【0079】
厚さの偏差を100μm以下とすることにより、厚い部分への応力集中を緩和し、第1の合わせガラス100内の各部材が膨張/収縮した際に生じ得る機能フィルム155の亀裂を、よりいっそう抑制できる。
【0080】
(遮蔽層180)
遮蔽層180は、例えば不透明な層として構成される。遮蔽層180は、有機インクまたは着色されたセラミックス等で構成されてもよい。遮蔽層180は任意の色であってよいが、黒色、茶色、灰色、濃紺等の濃色が好ましく、黒色がより好ましい。
【0081】
遮蔽層180の厚さは、特に限られないが、例えば、1μm~30μmの範囲であってもよく、5μm~20μmが好ましい。
【0082】
なお、
図1~
図2に示した例では、遮蔽層180は、第1のガラス基板110の第1の中間膜130とは反対の表面に設けられている。
【0083】
しかしながら、これは単なる一例であって、遮蔽層180は、第2のガラス基板120の第2の中間膜140側の表面に設けられてもよい。あるいは、遮蔽層180は、第1のガラス基板110と、第2のガラス基板120の両方に設けられてもよい。
【0084】
また、前述のように、遮蔽層180は、省略されてもよい。
【0085】
(第1の合わせガラス100)
上記のような特徴を有する第1の合わせガラス100は、例えば、車両用のガラス部材に適用できる。車両用のガラス部材は、例えば、フロントガラス、リヤガラス、その他の嵌め込み窓ガラス、サイドガラス、またはルーフガラスであってもよい。
【0086】
第1の合わせガラス100を車両用のガラス部材に適用する場合、第1の合わせガラス100は、第1のガラス基板110が車内側となり、第2のガラス基板120が車外側となるように適用されてもよい。
【0087】
なお、前述のように、第1の合わせガラス100は、平坦形状であっても、曲面形状であってもよい。
【0088】
また、第1の合わせガラス100に含まれる各部材は、予め加熱処理(アニール処理)しておいてもよい。例えば、後述する第1の合わせガラス100の製造工程S110時点で、アニール処理済みの部材を用意することで最大TMA変位量LMAXを60,000ppm以下に調整しやすい。この場合、第1の合わせガラス100の製造の際に、各部材に蓄積された内部応力が緩和され、第1の合わせガラス100の使用中における機能フィルム155の亀裂をよりいっそう抑制できる。
【0089】
(本発明の一実施形態による車両用合わせガラスの製造方法)
次に、
図3を参照して、本発明の一実施形態による車両用合わせガラスの製造方法の一例について説明する。
【0090】
図3には、本発明の一実施形態による車両用合わせガラスの製造方法のフローを示す。
【0091】
図3に示すように、本発明の一実施形態による車両用合わせガラスの製造方法は、
(1)必要な部材を準備する工程(工程S110)と、
(2)機能フィルムの一部に、接合層を介して電極を配置する工程(工程S120)と、(3)第1のガラス基板、第1の中間膜、電極付き機能フィルム、第2の中間膜、および第2のガラス基板をこの順に積層して、組立体を構成する工程(工程S130)と、(4)組立体を加熱して接合する工程(工程S140)と、(5)接合後の組立体を圧着する工程(工程S150)と、
を有する。
【0092】
以下、各工程について説明する。なお、ここでは、明確化のため、第1の合わせガラス100を例に、その製造方法について説明する。従って、各部材を表す際には、
図1および
図2に記載された参照符号を使用する。
【0093】
(工程S110)
まず、合わせガラスに必要な部材、例えば、第1のガラス基板110および第2のガラス基板120が準備される。
【0094】
必要な場合、第1のガラス基板110の一方の表面(以下、「第1の表面」と称する)の周縁部に沿って、額縁状に遮蔽層180を配置してもよい。
【0095】
遮蔽層180は、例えば、第1のガラス基板110の第1の表面の周縁部に遮蔽層180用のペーストを配置した後、このペーストを焼成することにより形成されてもよい。ペーストの配置方法としては、例えば、スクリーン印刷法のような従来の任意の方法が利用できる。
【0096】
また、必要な場合、第2のガラス基板120の一方の表面(以下、「第2の表面」と称する)の周縁部に沿って、額縁状に別の遮蔽層を配置してもよい。
【0097】
さらに、必要な場合、第1のガラス基板110および/または第2のガラス基板120に対して、曲げ加工処理が実施されてもよい。
【0098】
曲げ加工処理は、重力成形処理またはプレス成形処理等であってもよい。また、曲げ加工処理は、第1のガラス基板110および第2のガラス基板120を加熱した状態で実施されてもよい。両ガラス基板110、120は、それぞれ別々に曲げ加工処理されてもよく、同時に曲げ加工処理されてもよい。加熱温度は、ガラス基板の種類によっても変化するが、例えば、550℃~700℃の範囲である。
【0099】
なお、第1のガラス基板110に遮蔽層180用のペーストが配置されている場合、この曲げ加工処理により、ペーストを焼成して遮蔽層180を形成してもよい。あるいは曲げ加工処理の前に仮焼成してもよい。
【0100】
さらに、第1の中間膜130用の第1の樹脂シート、機能フィルム155、および第2の中間膜140用の第2の樹脂シートが準備される。
【0101】
(工程S120)
次に、機能フィルム155の所定の位置に、接合層165を介して電極160が接合され、接合部168が形成される。機能フィルム155は、例えば、調光フィルムであってもよい。
【0102】
(工程S130)
次に、第1のガラス基板110の第1の表面とは反対の表面に、第1の中間膜130用の第1の樹脂シートが配置される。
【0103】
第1の樹脂シートは、第1の中間膜130になった際に、少なくとも一方向に沿って測定される最大TMA変位量LMAXが60,000ppm以下を満たす材料から選定される。また、第1の樹脂シートは、第1の中間膜130になった際に、接合部168の長手方向に沿って測定される最大TMA変位量LMAXが60,000ppm以下となるような配向で配置される。ただし、第1の樹脂シートは、第1の中間膜130になった際に、接合部168の長手方向以外の方向(例えば、長手方向に垂直な方向)に沿って測定される最大TMA変位量LMAXが60,000ppm以下となるように材料が選定され、配置されることが好ましい。
【0104】
次に、第1の樹脂シートの上に、電極160が配置された機能フィルム155が配置される。
【0105】
次に、機能フィルム155の上に、第2の中間膜140用の第2の樹脂シートが配置される。
【0106】
第2の樹脂シートは、第1の樹脂シートと同様の樹脂であっても、異なる樹脂であってもよい。第2の樹脂シートは、第1の樹脂シートと同様、第2の中間膜140になった際に、接合部168の長手方向に沿って測定される最大TMA変位量LMAXが60,000ppm以下となるような配向で配置される。また、第2の樹脂シートは、第2の中間膜140になった際に、接合部168の長手方向以外の方向(例えば、長手方向に垂直な方向)に沿って測定される最大TMA変位量LMAXが60,000ppm以下となるように配置されることが好ましい。
【0107】
次に、第2の樹脂シートの上に第2のガラス基板120が配置され、組立体が構成される。
【0108】
(工程S140)
次に、組立体が容器内に配置される。容器内は、例えば730mmHg以下の圧力まで減圧される。その後、容器を密閉した状態で、容器が70℃~120℃の範囲に加熱される。
【0109】
組立体を容器内に配置して減圧する代わりに、組立体を一対のニップローラーで挟持して加圧し、または組立体の周縁をラバーチャンネルで覆い減圧し、70℃~120℃の範囲で加熱してもよい。
【0110】
加熱により、第1の樹脂シートが軟化し、第1の中間膜130が形成される。また、第2の樹脂シートが軟化し、第2の中間膜140が形成される。従って、第1の中間膜130を介して、第1のガラス基板110と機能フィルム155が接合されるとともに、第2の中間膜140を介して、第2のガラス基板120と機能フィルム155が接合される。
【0111】
(工程S150)
次に、接合後の組立体を、例えば、絶対圧力0.6MPa~1.3MPa、温度100℃~150℃の範囲で制御した条件で加熱および加圧する圧着処理を行う。これにより、各部材がより強固に接合される。
【0112】
以上の工程により、前述の
図1および
図2に示したような第1の合わせガラス100を製造できる。
【0113】
なお、上記記載は単なる一例であって、本発明の一実施形態による車両用合わせガラスは、別の方法で製造されてもよい。
【0114】
例えば、工程の簡略化、並びに合わせガラス100に封入する材料の特性等を考慮して、前述の工程S150は実施されなくてもよい。また、前述の工程S120(電極160の配置工程)は、必ずしも工程S110と工程S130の間に実施される必要はない。例えば、機能フィルム155に対する電極160の配置は、工程S130において、第1の中間膜130の上に機能フィルム155を配置する段階で、実施されてもよい。
【0115】
この他にも、各種変更が可能である。
【実施例0116】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、以下の記載において、例1~例2、例5~例6は、実施例であり、例3~例4は、比較例である。
【0117】
(実験1)
中間膜用のサンプル(以下、「サンプルA」と称する)を用いて、TMA測定を実施した。
【0118】
サンプルAには、長さ10mm~15mm、厚さ0.4mmのEVAシート(メルセンG7055)を使用した。
【0119】
TMA測定には、TMA測定装置(北浜製作所社製Q400)を使用した。測定プローブは、石英製フィルムプローブとした。測定荷重は、0.05Nとし、昇温速度は、10℃/分とした。
【0120】
なお、測定は、サンプルAの製造時の延伸方向と平行な方向(MD)、およびMDに垂直な方向(TD)の2方向で実施した。
【0121】
前述の(1)式から、各温度におけるTMA変位量を求めた
得られた結果から、30℃~140℃におけるサンプルAの最大TMA変位量LMAXを求めた。前述のように、最大TMA変位量LMAXは、サンプルAの30℃~140℃におけるTMA変位量の絶対値の最大値を表す。
【0122】
(実験2)
実験1と同様の方法により、中間膜用のサンプル(以下、「サンプルB」と称する)を用いて、TMA変位量を測定した。
【0123】
サンプルBには、サンプルAと同じサイズのEVAシート(メルセンG7060)を使用した。
【0124】
(実験3)
実験1と同様の方法により、中間膜用のサンプル(以下、「サンプルC」と称する)を用いて、TMA変位量を測定した。
【0125】
サンプルCには、長さ10mm~15mm、厚さ0.38mmのポリビニルブチラール(PVB)樹脂シート(Eastman RK11)を使用した。
【0126】
(実験4)
実験1と同様の方法により、中間膜用のサンプル(以下、「サンプルD」と称する)を用いて、TMA変位量を測定した。
【0127】
サンプルDには、長さ10mm~15mm、厚さ0.38mmのPVB樹脂シート(Eastman 837800 Smoke Grey)を使用した。
【0128】
(実験5)
実験1と同様の方法により、中間膜用のサンプル(以下、「サンプルE」と称する)を用いて、TMA変位量を測定した。
【0129】
サンプルEには、長さ10mm~15mm、厚さ0.38mmのPVB樹脂シート(Eastman RK11)を使用した。ただし、サンプルEでは、PVB樹脂シートを70℃に設定したオーブン内で16時間保持した後、徐冷して室温に戻す処理を加えたものを使用した。
【0130】
(実験6)
実験1と同様の方法により、中間膜用のサンプル(以下、「サンプルF」と称する)を用いて、TMA変位量を測定した。
【0131】
サンプルFには、長さ10mm~15mm、厚さ0.76mmのPVB樹脂シート(RF41)を使用した。ただし、サンプルFでは、PVB樹脂シートを70℃に設定したオーブン内で16時間保持した後、徐冷して室温に戻す処理を加えたものを使用した。
【0132】
(評価結果)
表1~表3には、各サンプルにおいて得られたTMA変位量の温度変化を示す。なお、表1には、厚さ0.05mm~0.5mmの機能フィルム(PDLC)における測定結果も合わせて示した。
【0133】
【0134】
【0135】
【表3】
また、
図4には、サンプルA~サンプルC、および機能フィルム(PDLC)において得られたTMA変位量の変化曲線を示す。
図5において、横軸は、温度であり、縦軸は、前述の(1)式から得られるTMA変位量である。
【0136】
これらの結果から、機能フィルムは、MDおよびTDのいずれの方向においても、ほとんど膨張収縮が生じないことがわかる。
【0137】
また、サンプルAおよびサンプルBでは、30℃~140℃の範囲において、寸法があまり変化しないことがわかる。一方、サンプルCおよびサンプルDの場合、TDでの測定では、寸法変化は少ないものの、MDでの測定では、約70℃を超える温度域から、急激に変形(収縮)することがわかった。
【0138】
以下の表4には、各サンプルにおいて得られた、30℃~140℃の範囲における最大TMA変位量LMAXをまとめて示した。
【0139】
【表4】
(例1)
以下の方法で合わせガラスを製作した。
【0140】
第1のガラス基板の上に、第1の中間膜、電極、接合層、機能フィルム、第2の中間膜、および第2のガラス基板をこの順に積層して、組立体を構成した。なお、第1の中間膜および第2の中間膜は、MDが電極の先端部(接合部168)の長手方向に平行になるように配置した。
【0141】
第1のガラス基板および第2のガラス基板には、縦300mm、横300mm、厚さ2mmのソーダライムガラスを使用した。また、第1の中間膜および第2の中間膜には、前述のサンプルAと同じEVAシート(メルセンG7055)を使用した。寸法はともに、縦300mm、横300mm、厚さ0.4mmであった。
【0142】
機能フィルムには、前述のPDLCを使用した。電極には、FPC(先端部は縦100mm、横10mm)を使用し、接合層には、異方性導電フィルム(縦100mm、横10mm)を使用した。電極の先端部の縦方向が長手方向である。組立体の寸法は、縦300mm×横300mmとした。
【0143】
次に、この組立体を加熱下で圧接して、合わせガラス(以下、「サンプルA1」と称する)を形成した。工程S140における加熱温度は、110℃とした。なお、工程S150は実施していない。
【0144】
(例2)
例1と同様の方法により、合わせガラスを作製した。ただし、この例2では、第1の中間膜および第2の中間膜として、前述のサンプルBと同じEVAシート(メルセンG7060)を使用した。すなわち、第1の中間膜および第2の中間膜の寸法はともに、縦300mm、横300mm、厚さ0.4mmであった。
【0145】
その他は、例1と同様の方法により、合わせガラス(以下、「サンプルA2」と称する)を形成した。
【0146】
(例3)
例1と同様の方法により、合わせガラスを作製した。ただし、この例3では、第1の中間膜および第2の中間膜として、前述のサンプルCと同じPVBシート(Eastman
RK11)を使用した。すなわち、第1の中間膜および第2の中間膜の寸法はともに、縦300mm、横300mm、厚さ0.38mmであった。また、工程S140後に工程S150を実施した。
【0147】
その他は、例1と同様の方法により、合わせガラス(以下、「サンプルA3」と称する)を形成した。
【0148】
(例4)
例1と同様の方法により、合わせガラスを作製した。ただし、この例4では、第1の中間膜および第2の中間膜として、前述のサンプルDと同じPVBシート(Eastman
837800 Smoke Grey)を使用した。すなわち、第1の中間膜および第2の中間膜の寸法はともに、縦300mm、横300mm、厚さ0.38mmであった。また、工程S140後に工程S150を実施した。
【0149】
その他は、例1と同様の方法により、合わせガラス(以下、「サンプルA4」と称する)を形成した。
【0150】
(例5)
例1と同様の方法により、合わせガラスを作製した。ただし、この例5では、第1の中間膜および第2の中間膜として、前述のサンプルEと同じPVBシート(Eastman
RK11)を使用した。すなわち、第1の中間膜および第2の中間膜の寸法はともに、縦300mm、横300mm、厚さ0.38mmであった。PVB樹脂シートを70℃に設定したオーブン内で16時間保持した後、徐冷して室温に戻す処理を加える工程は、工程S110の最後に実施した。すなわち、この工程はPVB樹脂シートをガラス基板に配置する前に実施した。また、工程S140後に工程S150を実施した。
【0151】
その他は、例1と同様の方法により、合わせガラス(以下、「サンプルA5」と称する)を形成した。
【0152】
(例6)
例1と同様の方法により、合わせガラスを作製した。ただし、この例6では、第1の中間膜および第2の中間膜として、前述のサンプルFと同じPVBシート(RF41)を使用した。すなわち、第1の中間膜および第2の中間膜の寸法はともに、縦300mm、横300mm、厚さ0.76mmであった。PVB樹脂シートを70℃に設定したオーブン内で16時間保持した後、徐冷して室温に戻す処理を加える工程は、工程S110の最後に実施した。すなわち、この工程はPVB樹脂シートをガラス基板に配置する前に実施した。また、工程S140後に工程S150を実施した。
【0153】
その他は、例1と同様の方法により、合わせガラス(以下、「サンプルA6」と称する)を形成した。
【0154】
(評価試験)
各サンプルA1~A6を用いて、合わせガラスに熱応力が加わった際の健全性を評価した。
【0155】
評価試験は、各サンプルA1~A6を、110℃に保持したオーブン内で1500時間保持することにより実施した。試験後に、サンプルを回収し、異常の有無を目視で観察した。
【0156】
その結果、サンプルA3およびサンプルA4では、機能フィルムに亀裂が確認された。一方、サンプルA1、サンプルA2、サンプルA5およびサンプルA6では、機能フィルムにクラック等の異常は、認められなかった。
【0157】
このように、機能フィルム、第1の中間膜、および第2の中間膜として、MDおよびTDのいずれの方向においても、最大TMA変位量LMAXが60,000ppm以下となる材料を選定して、合わせガラスを構成することにより、機能フィルムにクラックが生じることを有意に抑制できることがわかった。