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  • 特開-抗菌剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022122305
(43)【公開日】2022-08-23
(54)【発明の名称】抗菌剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/498 20060101AFI20220816BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20220816BHJP
   C12P 17/14 20060101ALI20220816BHJP
   C12P 15/00 20060101ALI20220816BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20220816BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20220816BHJP
【FI】
A61K31/498
C12N1/20 A
C12P17/14
C12P15/00
A61P31/04
A61K35/74 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021019423
(22)【出願日】2021-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒川 宜親
(72)【発明者】
【氏名】小鹿 一
(72)【発明者】
【氏名】尾仲 宏康
(72)【発明者】
【氏名】浅水 俊平
(72)【発明者】
【氏名】河合 盛進
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宏昭
(72)【発明者】
【氏名】和泉 李佳
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B064AC19
4B064AD20
4B064AE41
4B064AE57
4B064CA04
4B064CC01
4B064DA01
4B065AA50X
4B065BC11
4B065BD50
4B065CA18
4B065CA44
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA04
4C086BC51
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086NA15
4C086ZB35
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC15
4C087BC16
4C087BC17
4C087BC22
4C087BC55
4C087CA10
4C087CA11
4C087CA38
4C087NA14
4C087ZB35
(57)【要約】      (修正有)
【課題】新たな抗菌剤を提供する。
【解決手段】式(1)で表される化合物、そのプロドラッグ、それらの塩、及びそれらの溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、抗菌剤。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】
で表される化合物、そのプロドラッグ、それらの塩、及びそれらの溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、抗菌剤。
【請求項2】
グラム陽性細菌及びグラム陰性細菌からなる群より選択される少なくとも1種に対する抗菌剤である、請求項1に記載の抗菌剤。
【請求項3】
薬剤耐性細菌及び薬剤感受性細菌からなる群より選択される少なくとも1種に対する抗菌剤である、請求項1又は2に記載の抗菌剤。
【請求項4】
ブドウ球菌に対する抗菌剤である、請求項1~3のいずれかに記載の抗菌剤。
【請求項5】
黄色ブドウ球菌に対する抗菌剤である、請求項1~4のいずれかに記載の抗菌剤。
【請求項6】
医薬又は試薬である、請求項1~5のいずれかに記載の抗菌剤。
【請求項7】
一般式(1):
【化2】
で表される化合物の生産能を有する、ストレプトマイセス属細菌。
【請求項8】
ストレプトマイセス属HEK131株(特許微生物寄託センター受託番号:NITE P-03335)である、請求項7に記載のストレプトマイセス属細菌。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の細菌の培養物を回収する工程を含む、一般式(1):
【化3】
で表される化合物を製造する方法。
【請求項10】
前記培養物が、請求項7又は8に記載の細菌と他の細菌との共培養物である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記他の細菌が、ツカムレラ属細菌、コリネバクテリウム属細菌、ロドコッカス属細菌、ゴルドニア属細菌、ダイエットジア属細菌、ノカルジア属細菌、スケルマニア属細菌、ウィラムジア属細菌、及びマイコバクテリウム属細菌からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
一般式(1):
【化4】
で表される化合物、そのプロドラッグ、それらの塩、又はそれらの溶媒和物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌感染症に対しては、通常、抗菌剤の作用により原因菌を静菌又は殺菌するという治療方法が採られる。ところが、抗菌剤を用いることによって、その抗菌剤に対する薬剤耐性菌が出現することとなる。例えば、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は、抗菌剤が頻用される病院において出現し、集団感染の起因菌となることが知られている。また、畜産現場でも細菌感染症対策が必要とされているものの、人と家畜の両方に同じ抗菌剤を使用すると、病原菌の多剤耐性化が促進されることになる。このため、多剤耐性菌への対策として、また多剤耐性化の抑止のために、新たな抗菌剤の開発が求められている。
【0003】
Griseolutein Aは黄色ブドウ球菌への抗菌活性を有することが報告されている(非特許文献1)。しかしながら、Griseolutein Aが薬剤耐性菌に対して抗菌作用を発揮できることについては報告されていない。また、Griseolutein Aがグラム陰性菌に対しても抗菌作用を発揮できることについては報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Mar. Drugs 2020, 18, 243 Hifnawy et., al.
【非特許文献2】Journal of the Chemical Society D: Chemical Communications, 1970,Issue 21, Page 1423 to 1425.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、新たな抗菌剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、後述の一般式(1)で表される化合物、そのプロドラッグ、それらの塩、及びそれらの溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、抗菌剤、であれば、上記課題を解決できることを見出した。本発明者は、この知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0007】
項1. 一般式(1):
【0008】
【化1】
で表される化合物、そのプロドラッグ、それらの塩、及びそれらの溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、抗菌剤。
【0009】
項2. グラム陽性細菌及びグラム陰性細菌からなる群より選択される少なくとも1種に対する抗菌剤である、項1に記載の抗菌剤。
【0010】
項3. 薬剤耐性細菌及び薬剤感受性細菌からなる群より選択される少なくとも1種に対する抗菌剤である、項1又は2に記載の抗菌剤。
【0011】
項4. ブドウ球菌に対する抗菌剤である、項1~3のいずれかに記載の抗菌剤。
【0012】
項5. 黄色ブドウ球菌に対する抗菌剤である、項1~4のいずれかに記載の抗菌剤。
【0013】
項6. 医薬又は試薬である、項1~5のいずれかに記載の抗菌剤。
【0014】
項7. 一般式(1):
【0015】
【化2】
で表される化合物の生産能を有する、ストレプトマイセス属細菌。
【0016】
項8. ストレプトマイセス属HEK131株(特許微生物寄託センター受託番号:NITE P-03335)である、項7に記載のストレプトマイセス属細菌。
【0017】
項9. 項7又は8に記載の細菌の培養物を回収する工程を含む、一般式(1):
【0018】
【化3】
で表される化合物を製造する方法。
【0019】
項10. 前記培養物が、項7又は8に記載の細菌と他の細菌との共培養物である、項9に記載の方法。
【0020】
項11. 前記他の細菌が、ツカムレラ属細菌、コリネバクテリウム属細菌、ロドコッカス属細菌、ゴルドニア属細菌、ダイエットジア属細菌、ノカルジア属細菌、スケルマニア属細菌、ウィラムジア属細菌、及びマイコバクテリウム属細菌からなる群より選択される少なくとも1種である、項10に記載の方法。
【0021】
項12. 一般式(1):
【0022】
【化4】
で表される化合物、そのプロドラッグ、それらの塩、又はそれらの溶媒和物。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、新たな抗菌剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施例2の試験結果を示す。縦軸は相対細胞数を示し、横軸はGriseolutein T濃度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0026】
1.化合物
本発明は、その一態様において、一般式(1):
【0027】
【化5】
で表される化合物(本明細書において、「本発明の化合物」又は「Griseolutein T」と示すこともある。)、そのプロドラッグ、それらの塩、又はそれらの溶媒和物(本明細書において、これらをまとめて「本発明の有効成分」と示すこともある。)に関する。以下、これらについて説明する。
【0028】
本発明の化合物のプロドラッグとは、生体内において酵素や胃酸などによる反応により本発明の化合物に変換される化合物をいう。本発明の化合物のプロドラッグとしては、例えば、-NH-部分がアシル化、アルキル化、リン酸化された化合物(例えば、本発明の化合物の-NH-部分がエイコサノイル化、アラニル化、アルキル(例えばペンチル)アミノカルボニル化、(5-アルキル(例えばメチル)-2-オキソ-1,3-ジオキソレン-4-イル)アルコキシ(例えばメトキシ)カルボニル化、テトラヒドロフラニル化、ピロリジルアルキル(例えばメチル)化、ピバロイルオキシアルキル(例えばメチル)化、アセトキシアルキル(例えばメチル)化、tert-ブチル化された化合物など); 水酸基がアシル化、アルキル化、リン酸化、ホウ酸化された化合物(例えば、本発明の化合物の水酸基がアセチル化、パルミトイル化、プロパノイル化、ピバロイル化、サクシニル化、フマリル化、アラニル化、ジアルキル(例えばメチル)アミノアルキル(例えばメチル)カルボニル化された化合物など)が挙げられ; カルボキシ基がエステル化、アミド化された化合物(例えば、本発明の化合物のカルボキシ基がアルキル(例えばエチル)エステル化、アリール(例えばフェニル)エステル化、カルボキシアルキル(例えばメチル)エステル化、ジアルキル(例えばメチル)アミノアルキル(例えばメチル)エステル化、ピバロイルオキシアルキル(例えばメチル)エステル化、1-{(アルコキシ(例えばエトキシ)カルボニル)オキシ}アルキル(例えばエチル)エステル化、フタリジルエステル化、(5-アルキル(例えばメチル)-2-オキソ-1,3-ジオキソレン-4-イル)アルキル(例えばメチル)エステル化、1-{[(シクロアルキル(例えばシクロヘキシル)オキシ)カルボニル]オキシ}アルキル(例えばエチル)エステル化、アルキル(例えばメチル)アミド化された化合物など)などが挙げられる。これらの化合物はそれ自体公知の方法によって製造することができる。また、本発明の化合物のプロドラッグは、廣川書店1990年間「医薬品の開発」第7巻「分子設計」163~198頁に記載されているような生理的条件で、本発明の化合物に変化するものであってもよい。
【0029】
本発明の化合物及びそのプロドラッグの塩は、薬学的に許容される塩である限り、特に制限されるものではない。該塩としては、酸性塩、塩基性塩のいずれも採用することができる。酸性塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩; 酢酸塩、プロピオン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩が挙げられ、塩基性塩の例としては、ナトリウム塩、及びカリウム塩等のアルカリ金属塩; 並びにカルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩; アンモニアとの塩; モルホリン、ピペリジン、ピロリジン、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、モノ(ヒドロキシアルキル)アミン、ジ(ヒドロキシアルキル)アミン、トリ(ヒドロキシアルキル)アミン等の有機アミンとの塩等が挙げられる。
【0030】
本発明の化合物及びそのプロドラッグ、並びにそれらの塩は、水和物、溶媒和物とすることもできる。溶媒としては、例えば、薬学的に許容される有機溶媒(例えばエタノール、グリセロール、酢酸等)等が挙げられる。
【0031】
2.製造方法
本発明の化合物は、様々な方法で合成、製造することができる。本発明の化合物は、例えば、非特許文献2に記載の方法を参考にして適宜改変した方法に従って、合成することができる。本発明の化合物は、好適には、本発明の化合物の生産能を有するストレプトマイセス属細菌の培養物を回収する工程を含む方法によっても製造することができる。以下にこの製造方法について説明する。
【0032】
ストレプトマイセス属細菌としては、ストレプトマイセス属(Streptomyces)に属する細菌である限り特に制限されず、例えばS. abietis、S. abikoensis、S. aburaviensis、S. baarnensis、S. bacillaris、S. badius、S. cacaoi、S. caelestis、S. caeruleatus、S. candidus、S. decoyicus、S. demainii、S. deserti、S. diastaticus、S. erythraeus、S. erythrogriseus、S. eurocidicus、S. felleus、S. fenghuangensis、S. ferralitis、S. fervens、S. filamentosus、S. fildesensis、S. glaucosporus、S. glaucus、S. globisporus、S. glomeratus、S. glomeroaurantiacus、S. hirsutus、S. hokutonensis、S. hoynatensis、S. humidus、S. javensis、S. jietaisiensis、S. jiujiangensis、S. kaempferi、S. kanamyceticus、S. karpasiensis、S. laceyi、S. lacticiproducens、S. laculatispora、S. ladakanum、S. malachitospinus、S. malaysiensis、S. marinus、S. narbonensis、S. nashvillensis、S. netropsis、S. olivaceiscleroticus、S. olivaceoviridis、S. olivaceus、S. olivochromogenes、S. paradoxus、S. parvisporogenes、S. parvulus、S. qinglanensis、S. racemochromogenes、S. radiopugnans、S. rameus、S. sanglieri、S. sannanensis、S. sanyensis、S. tauricus、S. tendae、S. termitum、S. umbrinus、S. variabilis、S. variegatus、S. varsoviensis、S. wedmorensis、S. wellingtoniae、S. werraensis、S. willmorei、S. xanthocidicus、S. xantholiticus、S. xanthophaeus、S. yaanensis、S. yanglinensis、S. yanii、S. zhaozhouensis、S. zinciresistens、S. ziwulingensis等が挙げられる。ストレプトマイセス属細菌としては、特に好ましくはストレプトマイセス属HEK131株(特許微生物寄託センター受託番号:NITE P-03335)等が挙げられる。ストレプトマイセス属菌は1種単独を採用することもできるし、2種以上を組合わせて採用することもできる。
【0033】
培養物は、ストレプトマイセス属細菌を培養する工程によって得られた培養培地(培地が液体である場合は培養液)そのもの(菌体を含む)、該培養培地から菌体除去工程を経て得られた培地成分(培地が液体である場合は培養上清)、又は菌体成分である。本発明の化合物の製造においては、好適には、菌体を含む培養培地そのものを、「培養物」として使用することができる。
【0034】
培養物は、ストレプトマイセス属細菌と他の細菌との共培養物であることができる。他の細菌としては、ストレプトマイセス属細菌の二次代謝産物産生を誘導する能力を有する細菌が好ましい。このような細菌としては、例えば細胞壁にミコール酸を有する細菌、コリネ型細菌等が挙げられる。より具体的には、例えばツカムレラ (Tsukamullera)属細菌、コリネバクテリウム(Corynebacterium) 属細菌、ロドコッカス(Rhodococcus) 属細菌、ゴルドニア(Gordonia) 属細菌、ダイエットジア(Dietzia) 属細菌、ノカルジア(Nocardia) 属細菌、スケルマニア(Skermania) 属細菌、ウィラムジア(Williamsia) 属細菌、マイコバクテリウム(Mycobacterium) 属細菌等が挙げられ、これらの中でさらに具体的には、例えばティープルモニス(T. pulmonis)、シーエフィシエンス(C.efficiens)、シーグルタミカム(C.glutamicum) 、ジールブリペルティンクタ(G.rubripertincta) 、アールコプロフィラス(R.coprophilus) 、アールエリスロポリス(R.erythropolis) 、アールウラチスラビエンシス(R.wratislaviensis) 、アールゾプフィイ(R.zopfii)等が挙げられ、これらの中でよりさらに具体的にはティープルモニス(T.pulmonis)TP-B0596株、シーエフィシエンス(C.efficiens)NBRC100395 株、シーグルタミカム(C.glutamicum)ATCC13869 株、ジールブリペルティンクタ(G.rubripertincta)JCM3204 株、アールコプロフィラス(R.coprophilus)JCM3200株、アールエリスロポリス(R.erythropolis)NBRC100887株、 アールウラチスラビエンシス(R.wratislaviensis)JCM9689株、アールゾプフィイ(R.zopfii)JCM9919 株等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはツカムレラ属細菌が挙げられ、より好ましくはツカムレラ・プルモニスが挙げられ、さらに好ましくはツカムレラ・プルモニスTP-B0596株が挙げられる。他の細菌は1種単独を採用することもできるし、2種以上を組合わせて採用することもできる。
【0035】
共培養物を得る方法は、ストレプトマイセス属細菌と他の細菌とが接触し得る条件下で培養する方法である限り、特に制限されない。典型的には、液体培地中に、ストレプトマイセス属細菌と他の細菌とを添加して培養することができる。
【0036】
培養は、ストレプトマイセス属細菌の公知の培養方法に従って又は準じて行うことができる。
【0037】
培地は、特に制限されず、ストレプトマイセス属細菌の培地として、公知の培地をそのまま、或いは適宜改変したものを採用することができる。液体培地としては、例えば0.2~1.0%(好ましくは0.4~0.6%)グルコース、1.0~3.0%(好ましくは1.5~2.5%)可溶性デンプン、1.0~3.0%(好ましくは1.5~2.5%)グリセロール、0.1~0.3%酵母エキス、1.0~2.0%種子(例えば綿種子)粉砕物を含有する液体培地(特に好ましくはA3M培地)が挙げられる。また、これ以外にも、例えばA11M培地、A16培地等も挙げられる。培地のpHは、例えば7.0~8.0、好ましくは7.0~7.5である。培地は、通常、熱により(例えばオートクレーブ)滅菌されたものを使用する。
【0038】
培養温度は、ストレプトマイセス属細菌を培養できる温度である限り特に制限されず、例えば15~45℃、好ましくは25~35℃である。
【0039】
培養時間は、本発明の化合物の産生が可能である限り特に制限されず、例えば8時間~2週間、好ましくは16時間~1週間である。
【0040】
培養により得られた培養培地そのもの、培地成分、及び菌体成分には、本発明の化合物が含まれているので、これらを回収することによって本発明の化合物を得ることができる。必要に応じて、これらを精製することが望ましい。
【0041】
精製は、公知の方法に従って又は準じて行うことができる。精製方法としては、例えば有機溶媒(例えばブタノール等)抽出、クロマトグラフィー(例えばシリカゲルクロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー等)等が挙げられる。溶出は、多段階で行うことが好ましい。1段階目では、好適には、トリフルオロ酢酸を含む水溶液にアセトニトリルを添加した溶媒で溶出することができる。トリフルオロ酢酸の濃度は、比較的低濃度であり、例えば0.05~0.2%程度である。アセトニトリル濃度が一定程度以上である場合に、本発明の化合物が溶出されることが分かっているので(実施例1-3参照)、これを利用してグラジエント溶出やステップワイズ溶出を行うことが好ましい。2段階目以降では、好適には、酢酸アンモニウムを含む水溶液にメタノールを添加した溶媒で溶出することができる。酢酸アンモニウムの濃度は、例えば15~25mM程度である。メタノール濃度が一定程度以上である場合に、本発明の化合物が溶出されることが分かっているので(実施例1-3参照)、これを利用してグラジエント溶出やステップワイズ溶出を行うことが好ましい。精製は、具体的には、抗菌活性(好ましくはグラム陽性菌とグラム陰性菌両方に対する抗菌活性)を指標として(例えば、後述の実施例1-3の方法に従って又は準じて)行うことができる。
【0042】
本発明の化合物は、上記で得られた化合物を出発材料として、公知の合成反応やそれに準じた合成反応に供することによって得ることもできる。
【0043】
3.用途
本発明の有効成分は、抗菌活性を有する。このため、本発明の有効成分は、抗菌剤の有効成分として、医薬、試薬等の各分野において利用することができる。このため、本発明は、その一態様において、本発明の有効成分の少なくとも1種を含有する、抗菌剤(本明細書において、「本発明の抗菌剤」と示すこともある。)に関する。
【0044】
本発明の抗菌剤は、本発明の有効成分を含有する限りにおいて特に制限されず、必要に応じてさらに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、薬学的に許容される成分であれば特に限定されるものではない。他の成分としては、薬理作用を有する成分のほか、添加剤も含まれる。添加剤としては、例えば基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、浸透圧調整剤、吸収促進剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、保湿剤、着色料、香料、キレート剤等が挙げられる。
【0045】
本発明の抗菌剤の対象細菌としては、グラム陰性菌及びグラム陽性菌を問わず、また薬剤耐性細菌及び薬剤感受性細菌を問わず、広く採用することができる。グラム陰性菌としては、例えば、腸内細菌科細菌(例えば、エシェリヒア属菌、クレブシエラ属菌、サルモネラ属菌、赤痢菌属等)、アシネトバクター属菌、シュードモナス属菌(例えば緑膿菌)、モラクセラ属菌、ヘリコバクター属菌、カンピロバクター属菌、アエロモナス属菌、ビブリオ属菌(例えばコレラ菌、腸炎ビブリオ菌)、ヘモフィルス属菌(例えばインフルエンザ菌)、ナイセリア属菌(例えば淋菌、髄膜炎菌)、バクテロイデス属菌等が挙げられる。グラム陽性菌としては、例えば、ブドウ球菌属菌(例えば黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌等)、腸球菌(例えばエンテロコッカス属菌)、レンサ球菌属菌(例えばA群連鎖球菌、B群連鎖球菌、肺炎球菌、緑色連鎖球菌)、バシラス属菌(例えばセレウス菌、炭疽菌)、クロストリジウム属菌(例えば破傷風菌、ボツリヌス菌、ディフィシル菌)、コリネバクテリウム属菌(例えばジフテリア菌)、リステリア属菌、ラクトバシラス属菌、ビフィドバクテリウム属菌、プロピオニバクテリウム属菌(例えばニキビの原因となるアクネ菌)、放線菌等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはグラム陽性菌が挙げられ、より好ましくはブドウ球菌が挙げられ、さらに好ましくは黄色ブドウ球菌が挙げられる。本発明の抗菌剤は、薬剤耐性菌に対しても、高い抗菌作用を発揮することができる。
【0046】
本発明の抗菌剤の使用態様は、特に制限されず、その種類に応じて適切な使用態様を採ることができる。本発明の抗菌剤は、その用途に応じて、例えばin vitroで使用する(例えば、培養細胞の培地に添加する。)こともできるし、in vivoで使用する(例えば、動物に投与する。)こともできる。
【0047】
本発明の抗菌剤を動物又は細胞に適用する場合の適用対象は特に限定されないが、哺乳動物では、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、シカ等が挙げられる。また、細胞としては、動物細胞等が挙げられる。細胞の種類も特に制限されず、例えば血液細胞、造血幹細胞・前駆細胞、配偶子(精子、卵子)、線維芽細胞、上皮細胞、血管内皮細胞、神経細胞、肝細胞、ケラチン生成細胞、筋細胞、表皮細胞、内分泌細胞、ES細胞、iPS細胞、組織幹細胞、がん細胞等が挙げられる。
【0048】
本発明の抗菌剤は、医薬、試薬等に適した任意の剤形、例えば錠剤(口腔内側崩壊錠、咀嚼可能錠、発泡錠、トローチ剤、ゼリー状ドロップ剤などを含む)、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、ドライシロップ剤、液剤(ドリンク剤、懸濁剤、シロップ剤を含む)、ゼリー剤などの経口製剤形態や、注射用製剤(例えば、点滴注射剤(例えば点滴静注用製剤等)、静脈注射剤、筋肉注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤)、外用剤(例えば、軟膏剤、クリーム剤、パップ剤、ローション剤)、坐剤吸入剤、眼剤、眼軟膏剤、点鼻剤、点耳剤、リポソーム剤等の非経口製剤形態を採ることができる。
【0049】
本発明の抗菌剤の投与経路としては、所望の効果が得られる限り特に制限されず、経口投与、経管栄養、注腸投与等の経腸投与; 経静脈投与、経動脈投与、筋肉内投与、心臓内投与、皮下投与、皮内投与、腹腔内投与等の非経口投与等が挙げられる。
【0050】
本発明の抗菌剤中の有効成分の含有量は、使用態様、適用対象、適用対象の状態等に左右されるものであり、限定はされないが、例えば0.0001~100重量%、好ましくは0.001~50重量%とすることができる。
【0051】
本発明の抗菌剤をヒトや動物に投与する場合の投与量は、薬効を発現する有効量であれば特に限定されず、通常は、有効成分の重量として、一般に経口投与の場合には一日あたり0.1~1000 mg/kg体重、好ましくは一日あたり0.5~500 mg/kg体重であり、非経口投与の場合には一日あたり0.01~100 mg/kg体重、好ましくは0.05~50 mg/kg体重である。上記投与量は、患者の年齢、病態、症状等により適宜増減することもできる。
【実施例0052】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0053】
実施例1.Griseolutein Tの調製
<実施例1-1.培養物の調製>
ISP2寒天培地(1% Malt extract, 0.4% Yeast extract, 0.4% Glucose, 2% Agar)に、-80℃保存したStreptomyces sp. HEK131株(特許微生物寄託センター受託番号:NITE P-03335)グリセロールストックからストリーク植菌し、3日間、30℃でインキュベートした。ISP2液体培地(1% Malt extract, 0.4% Yeast extract, 0.4% Glucose)100 mlが入ったK-1フラスコに寒天培地に、ISP2寒天培地に生育したStreptomyces sp. HEK131を植菌し、30℃、200 rpmで2日間回転振盪培養し、生育が定常期に達した前培養液を調製した。
【0054】
一方で、ISP2寒天培地に、-80℃保存したTsukamurella pulmonis TP-B0596をグリセロールストックから植菌し、2日間、30℃でインキュベートした。ISP2液体培地100 mlが入ったK-1フラスコに、ISP2寒天培地に生育したT. pulmonis TP-B0596を植菌し、30℃、200 rpmで2日間回転振盪培養し、生育が定常期に達した前培養液を調製した。
【0055】
A3M液体培地(0.5% glucose, 2% soluble starch, 2% glycerol, 0.3% Yeast extract, 1.5% pharmamedia, 1% Diaion HP-20, pH7.0)に、Streptomyces sp. HEK131の前培養液3%(v/v)を添加し、同時にT. pulmonis TP-B0596の前培養液1%(v/v)を添加し、30℃、200 rpmで1~4日間振盪培養を行い、Streptomyces sp. HEK131とT. pulmonis TP-B0596との共培養物(100mL×4本)を得た。
【0056】
一方で、A3M液体培地に、Streptomyces sp. HEK131の前培養液3%(v/v)を添加し、30℃、200 rpmで1~4日間振盪培養を行い、Streptomyces sp. HEK131の単独培養物(100mL×4本)を得た。
【0057】
<実施例1-2.抽出>
共培養物及び単独培養物それぞれを、1/2容積の1-ブタノールと1時間、30℃、150 rpmで振とう混和した。混合物を遠沈管に分注し、4000 rpmで8分間遠心分離した。上層を合わせエバポレーターで濃縮、真空乾燥して、共培養物と単独培養物のそれぞれのブタノール抽出物を974mg、812mg取得した。
【0058】
<実施例1-3.精製>
共培養物のブタノール抽出物(243 mg)を分取HPLCで分画した。カラムにDevelosil ODS HG-5 (内径2 cm、長さ25 cm)を用い、溶媒は20-80-100% (0-60-65 min) MeCN-0.1% TFAのグラジエント溶出とし、流速6 mL/minで2分毎に分画した。26-28分に溶出される画分を濃縮し、抗菌性画分YI-I-136-2 (2.5 mg)を得た。共培養物のブタノール抽出物(731 mg)を同様に分取HPLCで分画し、YI-I-136-2に相当する画分YI-I-173-4 (4.9 mg)を得た。2つの抗菌性画分を合わせて分取HPLCで分画した。カラムにDevelosil ODS HG-5 (内径2 cm、長さ25 cm)を用い、溶媒は20-70-100% (0-50-60 min) MeOH-20 mM NH4OAcのグラジエント溶出とし、流速5 mL/minで1.5分毎に分画した。49.5-52.5分に溶出される画分を濃縮し、抗菌性画分YI-I-179-1 (1.6 mg)を得た。この画分をさらに分取HPLCで分画した。カラムにDevelosil ODS HG-5 (内径2 cm、長さ25 cm)を用い、溶媒は25% MeOH-20 mM NH4OAcとし、流速6 mL/minで溶出した。40.2分に溶出されたピークを分取し、濃縮、凍結乾燥し、griseolutein T(0.16 mg)を得た。
【0059】
単独培養物のブタノール抽出物(812 mg)を2回に分けて分取HPLCで分画した。カラムにDevelosil ODS HG-5 (内径2 cm、長さ25 cm)を用い、溶媒は20-80-100% (0-60-65 min) MeCN-0.1% TFAのグラジエント溶出とし、流速6 mL/minで2分毎に分画した。22-24分に溶出する画分を合わせて濃縮し、griseolutein Tを含む画分YI-II-39-5 (3.5 mg)を得た。Griseolutein Tの含量が低いためこれ以上の精製は行わす、1-4に示す方法で含量を測定した。
【0060】
<実施例1-4.定量分析>
精製したgriseolutein Tを標品に用い、以下の条件で精製途中の画分中のgriseolutein Tの定量分析を行った。Develosil ODS UG-5 (内径4.6 mm、長さ25 cm), 20-40% (20 min) MeOH-20 mM NH4OAc, 1 mL/min, UV280 nm。結果は以下の通りである。
共培養物由来の画分YI-I-173-4:2.6 mg/L
単独培養由来の画分YI-II-39-5:0.16 mg/L。
【0061】
<実施例1-5.構造解析>
Griseolutein Tの化学構造は、2次元NMR解析(DQF-COSY, HSQC, HMBC)を中心とする解析により以下のように決定した。右の図の太線はDQF-COSYで決定した結合、矢印は2結合または3結合を介した繋がりを決定するためのHMBCにおけるC→Hの相関を示す。化学シフト値を以下の表にまとめた。
【0062】
【化6】
【0063】
【表1】
【0064】
高分解能MS(ESI-TOF, positive)では、m/z 327.0993 (C17H15N2O5[M-OH]+としての計算値:327.0975)およびm/z 367.0910(C17H16N2O6Na [M+Na]+としての計算値:367.0901)のイオンピークが観測され、gliseolutein Tの分子式C17H16N2O6を支持した。
【0065】
実施例2.標準株での抗菌活性評価
-80℃保存した被検菌株(表2)のグリセロールストックからLB寒天培地(1% Trypton, 0.5% Yeast Extract, 0.5% NaCl, 1.5% Agar)にそれぞれストリーク植菌し、一晩37℃でインキュベートした。生育した各被検菌株を生理食塩水(0.9% NaCl)に懸濁しマクファーランド濁度0.5に調整した。調整した菌液をNDM6、MCR1、E. coliは200倍、MRSAは50倍にそれぞれMueller Hinton II (Cation-Adjusted)培地(0.3% Beef Extract, 1.75% Acid Hydrolysate of Casein, 0.15% Starch)で希釈し、4種の被検菌液を作製した。
【0066】
精製したGriseolutein Tを10%DMSO水溶液で溶解し検査濃度の10倍濃度に調製した。対照試料としてコリスチン硫酸塩(検査濃度64μg/mL)とアンピシリンナトリウム(検査濃度128μg/mL)の混合水溶液と、滅菌水も同様の調整を行った。96穴平底マルチプレートに調製したGriseolutein T溶液10μL、被検菌液90μLを混合し、18時間37℃でインキュベートした後、600nmの吸光度を測定した。滅菌水の対照試料の吸光度を100%、コリスチン硫酸塩とアンピシリンナトリウムの混合水溶液の対照試料の吸光度を0%とし、相対細胞数(%)を算出した。
【0067】
【表2】
【0068】
結果を図1に示す。Griseolutein Tが、グラム陽性細菌及びグラム陰性細菌のいずれに対しても、また各種薬剤耐性細菌に対しても、抗菌作用を発揮できることが分かった。
【0069】
実施例3.臨床分離株での抗菌活性評価
-80℃保存した由来の異なる87種の被検菌株(表3)のグリセロールストックからLB寒天培地(1% Trypton, 0.5% Yeast Extract, 0.5% NaCl, 1.5% Agar)にそれぞれストリーク植菌し、一晩37℃でインキュベートした。寒天培地上で生育しシングルコロニーを形成した各被検菌株を、再度別のLB寒天培地にストリーク植菌し、一晩37℃でインキュベートした。生育した各被検菌株をMueller Hinton II (Cation-Adjusted)培地に懸濁しマクファーランド濁度0.5に調整した。調整した菌液を180倍にMueller Hinton II (Cation-Adjusted)培地で希釈し、87種の被検菌液を作製した。
【0070】
精製したGriseolutein Tを10%DMSO水溶液で溶解し検査濃度の10倍濃度に調製後、精製したGriseolutein Tを10%DMSO水溶液で溶解し検査濃度の10倍濃度に調製した。対照試料としてコリスチン硫酸塩(検査濃度64μg/mL)とアンピシリンナトリウム(検査濃度128μg/mL)の混合水溶液と、滅菌水も同様の調整を行った。96穴丸底マルチプレートに調製したGriseolutein T溶液10μL、被検菌液90μLを混合し、18時間37℃でインキュベートした後、96穴丸底マルチプレートの底に生じた菌の沈殿から生育量を判定した。菌の沈殿量がネガティブコントロール(滅菌水(薬剤なし))と同程度である場合を「効果なし」と判定し、菌の沈殿量がネガティブコントロールよりも少ない場合を「生育抑制」と判定し、菌の沈殿が認められない場合を「生育阻害」と判定した。
【0071】
【表3】
【0072】
結果を表4に示す。Griseolutein Tが、薬剤耐性細菌及び薬剤感受性細菌のいずれに対しても、また各種薬剤耐性細菌に対しても、抗菌作用を発揮できることが分かった。また、Griseolutein Tは、黄色ブドウ球菌に対して特に強い抗菌作用を発揮できることが分かった。なお、本試験では効果が確認できなかった菌株に対しても、実施例1の結果(図1)を踏まえれば、濃度を上げることにより抗菌作用が確認されると考えられる。
【0073】
【表4】
図1