(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022012338
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】インピーダンス変換線路
(51)【国際特許分類】
H01P 5/02 20060101AFI20220107BHJP
H01P 3/00 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
H01P5/02 603A
H01P3/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020114126
(22)【出願日】2020-07-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和1年度、総務省、電波資源拡大のための研究開発「集積電子デバイスによる大容量映像の非圧縮低電力無線伝送技術の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100163186
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 裕吉
(72)【発明者】
【氏名】李 尚曄
(72)【発明者】
【氏名】吉田 毅
【テーマコード(参考)】
5J014
【Fターム(参考)】
5J014AA00
(57)【要約】
【課題】設計が容易で広帯域に亘って良好なインピーダンス整合性能を発揮するインピーダンス変換線路を提供する。
【解決手段】インピーダンス変換線路100は、一定幅の信号線10と、導電性の線状部材である複数のフィン30とを備えており、複数のフィン30が、信号線10とは別の配線層において信号線10と電気的に絶縁かつ平面視直交して信号線10の延在方向に互いに間隔を空けて配置されており、信号線10の延在方向の区間ごとに複数のフィン30の配置パターンが異なっている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定幅の信号線と、
導電性の線状部材である複数のフィンとを備え、
前記複数のフィンが、前記信号線とは別の配線層において前記信号線と電気的に絶縁かつ平面視直交して前記信号線の延在方向に互いに間隔を空けて配置されており、
前記信号線の延在方向の区間ごとに前記複数のフィンの配置パターンが異なっている
ことを特徴とするインピーダンス変換線路。
【請求項2】
第1の区間における前記フィンの配置間隔と第2の区間における前記フィンの配置間隔とが異なっている、請求項1に記載のインピーダンス変換線路。
【請求項3】
第1の区間における前記フィンと前記信号線との距離と第2の区間における前記フィンと前記信号線との距離とが異なっている、請求項1に記載のインピーダンス変換線路。
【請求項4】
第1の区間における前記フィンの幅と第2の区間における前記フィンの幅とが異なっている、請求項1に記載のインピーダンス変換線路。
【請求項5】
前記複数のフィンの少なくとも一部がグランド線に接続されている、請求項1ないし4のいずれかに記載のインピーダンス変換線路。
【請求項6】
前記信号線と同じ配線層において前記信号線と並行に前記信号線の両側に配置されたグランド線を備えている、請求項1ないし5のいずれかに記載のインピーダンス変換線路。
【請求項7】
前記信号線および前記複数のフィンとは別の配線層に配置され前記信号線と電気的に絶縁された複数のストリップラインを備えている、請求項6に記載のインピーダンス変換線路。
【請求項8】
前記複数のフィンの1本1本が前記信号線よりも細い、請求項1ないし7のいずれかに記載のインピーダンス変換線路。
【請求項9】
前記信号線の延在方向に各区間の特性インピーダンスが単調変化する、請求項1ないし8のいずれかに記載のインピーダンス変換線路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インピーダンス変換線路に関し、特に、高周波半導体チップにおけるインピーダンス変換線路として好適な配線構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特に高周波回路において特性インピーダンスが合っていない信号線を回路要素に接続すると接続点で信号の反射が起きて信号減衰が発生してしまう。このため、2つの回路要素を接続する場合、各回路要素と信号線との接続点での反射を抑制するためにインピーダンス整合器(トランスフォーマーともいう)が使用される。
【0003】
最も簡単な構成のインピーダンス整合器として、接続される一方の回路要素のインピーダンスをZ1、他方の回路要素のインピーダンスをZ2としたとき、特性インピーダンスがsqrt(Z1*Z2)で長さが伝送信号の中心周波数の1/4波長である伝送線路(以下、λ/4線路という)がよく用いられる。λ/4線路はミリ波以上の高周波数帯になるとの長さを数mm以下にできるため、CMOS集積回路に代表される半導体チップのオンチップ伝送線路としての実装が可能になる。
【0004】
また、λ/4線路以外にもインピーダンス整合器として、信号線の平面形状をテーパー状にしたテーパー線路が知られている(例えば、特許文献1を参照)。信号線の平面形状をテーパー状にすることにより信号線の延長方向に対して特性インピーダンスを緩やかに変化させインピーダンス整合を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
λ/4線路は、構成が簡単であるというメリットはあるが、有損失線路であるため周波数が高くなるとインピーダンス整合器としての性能に限界がある。一方、テーパー線路は、特性インピーダンスが低い方の線路幅が広くなりがちで回路面積が大きくなるという問題がある。また、テーパー線路は線路幅をどのような形状で変化させるのか設計が難しい。コプレナ導波路などにおいてテーパー線路を採用しようとすると信号線だけでなく信号線両側のグランド線もテーパー形状にする必要があり設計が煩雑になる。
【0007】
上記問題に鑑み、本発明は、設計が容易で広帯域に亘って良好なインピーダンス整合性能を発揮するインピーダンス変換線路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一局面に従ったインピーダンス変換線路は、一定幅の信号線と、導電性の線状部材である複数のフィンとを備えており、前記複数のフィンが、前記信号線とは別の配線層において前記信号線と電気的に絶縁かつ平面視直交して前記信号線の延在方向に互いに間隔を空けて配置されており、前記信号線の延在方向の区間ごとに前記複数のフィンの配置パターンが異なっている。
【0009】
具体的に、前記インピーダンス変換線路において、第1の区間における前記フィンの配置間隔と第2の区間における前記フィンの配置間隔とが異なっている。
【0010】
具体的に、前記インピーダンス変換線路において、第1の区間における前記フィンと前記信号線との距離と第2の区間における前記フィンと前記信号線との距離とが異なっている。
【0011】
具体的に、前記インピーダンス変換線路において、第1の区間における前記フィンの幅と第2の区間における前記フィンの幅とが異なっている。
【0012】
前記インピーダンス変換線路において、前記複数のフィンの少なくとも一部がグランド線に接続されていてもよい。
【0013】
前記インピーダンス変換線路は、前記信号線と同じ配線層において前記信号線と並行に前記信号線の両側に配置されたグランド線を備えていてもよい。
【0014】
さらに、前記インピーダンス変換線路は、前記信号線および前記複数のフィンとは別の配線層に配置され前記信号線と電気的に絶縁された複数のストリップラインを備えていてもよい。
【0015】
具体的に、前記インピーダンス変換線路において、前記複数のフィンの1本1本が前記信号線よりも細い。
【0016】
具体的に、前記インピーダンス変換線路において、前記信号線の延在方向に各区間の特性インピーダンスが単調変化する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、設計が容易で広帯域に亘って良好なインピーダンス整合性能を発揮するインピーダンス変換線路が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係るインピーダンス変換線路の平面図
【
図3】本発明の一実施形態に係るインピーダンス変換線路の分解斜視図
【
図4】本実施形態に係るインピーダンス変換線路と従来のλ/4線路の反射特性を比較するグラフ
【
図5】本実施形態に係るインピーダンス変換線路と従来のλ/4線路の減衰特性を比較するグラフ
【
図6】逆向きに接続した場合の本実施形態に係るインピーダンス変換線路と従来のλ/4線路の反射特性を比較するグラフ
【
図7】逆向きに接続した場合の本実施形態に係るインピーダンス変換線路と従来のλ/4線路の減衰特性を比較するグラフ
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、適宜図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者は、当業者が本発明を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。また、図面に描かれた各部材の寸法、細部の詳細形状などは実際のものとは異なることがある。
【0020】
≪インピーダンス変換線路の構造≫
本発明の一実施形態に係るインピーダンス変換線路は、CMOSプロセスによりシリコン基板上に実装されるオンチップ伝送線路である。
図1は、本発明の一実施形態に係るインピーダンス変換線路100の平面図である。
図2は、
図1のII-II断面図である。
図3は、本発明の一実施形態に係るインピーダンス変換線路100の分解斜視図である。ただし、便宜のため、
図3ではメタル配線層のみを図示し、各層間のビアおよび各層間に存在する絶縁層(誘電体)は図示を省略している。以下、これらの図を参照して本発明の一実施形態に係るインピーダンス変換線路100の構造について説明する。
【0021】
インピーダンス変換線路100は、信号線10と、信号線10と並行に信号線10の両側に配置されたグランド線20とを備えている。信号線10は電気信号(電磁波)を伝搬する線路であり、グランド線20はグランド電位を与える線路である。信号線10およびグランド線20は、メタル配線層の中でも配線厚が最も大きく電気抵抗をより小さくすることができる最上位メタル配線層(以下、便宜的にM6層とする)を用いて構成するのが好適である。一例として、信号線10の幅はおよそ6.5μmの一定幅、グランド線20の幅はおよそ9μmの一定幅、信号線10とグランド線20との間隔はおよそ12.25μmの一定間隔、信号線10およびグランド線20の長さはおよそ171.5μmである。
【0022】
また、インピーダンス変換線路100は、シリコン基板50に最も近い最下位メタル配線層(以下、便宜的にM1層とする)に配置され信号線10と電気的に絶縁された複数のストリップライン40を備えている。具体的に、複数のストリップライン40は、一本一本が信号線10よりも十分に細い導電性の線状部材であり、信号線10と平行に間隔を開けて配置されている。
図3では便宜上、複数のストリップライン40を平面で描いている。このように、インピーダンス変換線路100は、同一配線層(M6層)に形成された信号線10およびグランド線20の下層にストリップライン40が敷き詰められたいわゆるスローウェーブ伝送線路の構造を有している。スローウェーブ伝送線路では、グランド線20を信号線10から遠ざけることができるので伝送線路のインダクタンスを比較的大きく保つことができ、また、グランド線20が信号線10から遠ざかることで低下する伝送線路の容量を複数のストリップライン40でカバーして伝送線路の容量も比較的大きく保つことができる。このため、スローウェーブ伝送線路は、マイクロストリップラインやコプレナ導波路などの他の構造の伝送線路よりも信号線10を伝搬する信号の波長をより短くすることができる、すなわち、マイクロストリップラインやコプレナ導波路よりも信号線10の長さを短くすることができる。
【0023】
さらに、インピーダンス変換線路100は、導電性の線状部材である複数のフィン30を備えている。複数のフィン30は、中間メタル配線層(便宜的にM2層からM5層とする)において、信号線10と電気的に絶縁かつ平面視直交して信号線10の延在方向に互いに間隔を空けて配置されている。より詳細には、中間メタル配線層においてグランド線20と平面視で重なるように中間グランド線20aが形成されており(なお、グランド線20と中間グランド線20aとは図略のビアで接続されている。)、フィン30は、同一配線層における2本の中間グランド線20aを橋渡しするように形成されている。フィン30は信号線10よりも十分に細く、一例としてフィン30の幅はおよそ0.5μmである。
【0024】
フィン30はストリップライン40よりもより信号線10に近い位置に配置されるため伝送線路の容量増大の効果は大きい。したがって、フィン30が配置された区間の特性インピーダンスを低くすることができる。また、フィン30は、信号線10の延在方向の区間ごとに異なるパターンで配置されている。なお、
図1では便宜的に信号線10から遠い位置にあるフィン30を細い線で描いている。このように信号線10の延在方向の区間ごとにフィン30の配置パターンを変えることでインピーダンス変換線路100の特性インピーダンスを離散的、段階的に変化させることができる。
【0025】
例えば、インピーダンス変換線路100はS1からS7までの7つの連続区間に分けることができる。各図において区間境界を波線で示している。区間S1では、信号線10およびグランド線20があるM6層のすぐ下のM5層において11本のフィン30が一定間隔で配置されている。一例として、区間S1の長さはおよそ38.5μm、区間S1におけるフィン30どうしの間隔はおよそ3.5μm、区間S1の特性インピーダンスはおよそ29Ωである。続く区間S2では、区間S1と同じM5層に3本のフィン30が区間S1におけるフィン30どうしの間隔よりも広い一定間隔で配置されている。一例として、区間S2の長さはおよそ21μm、区間S2におけるフィン30どうしの間隔はおよそ7μm、区間S2の特性インピーダンスはおよそ34Ωである。なお、区間S1およびS2ではM5層以外の中間メタル配線層にフィン30は配置されていない。また、M5層には区間S1およびS2のフィン30のみが配置され、それ以外の区間のフィン30は配置されていない。
【0026】
区間S2に続く区間S3では、M5層のすぐ下のM4層において12本のフィン30が一定間隔で配置されている。一例として、区間S3の長さはおよそ21μm、区間S3におけるフィン30どうしの間隔はおよそ1.75μm、区間S3の特性インピーダンスはおよそ39Ωである。続く区間S4では、区間S3と同じM4層に6本のフィン30が区間S3におけるフィン30どうしの間隔よりも広い一定間隔で配置されている。一例として、区間S4の長さはおよそ21μm、区間S4におけるフィン30どうしの間隔はおよそ3.5μm、区間S4の特性インピーダンスはおよそ41Ωである。なお、区間S3およびS4ではM4層以外の中間メタル配線層にフィン30は配置されていない。また、M4層には区間S3およびS4のフィン30のみが配置され、それ以外の区間のフィン30は配置されていない。
【0027】
区間S4に続く区間S5では、M4層のすぐ下のM3層において一定間隔で6本のフィン30が配置されている。一例として、区間S5の長さはおよそ21μm、区間S5におけるフィン30どうしの間隔はおよそ3.5μm、区間S5の特性インピーダンスはおよそ44Ωである。なお、区間S5ではM3層以外の中間メタル配線層にフィン30は配置されていない。また、M3層には区間S5のフィン30のみが配置され、それ以外の区間のフィン30は配置されていない。
【0028】
区間S5に続く区間S6では、M3層のすぐ下のM2層において一定間隔で12本のフィン30が配置されている。一例として、区間S6の長さはおよそ21μm、区間S6におけるフィン30どうしの間隔はおよそ1.75μm、区間S6の特性インピーダンスはおよそ48Ωである。なお、区間S6ではM2層以外の中間メタル配線層にフィン30は配置されていない。また、M2層には区間S6のフィン30のみが配置され、それ以外の区間のフィン30は配置されていない。続く区間S7にはフィン30は配置されていない。すなわち、区間S7は一般的なスローウェーブ伝送線路である。一例として、区間S7の長さはおよそ28μm、区間S7の特性インピーダンスはおよそ51Ωである。
【0029】
上記のようにインピーダンス変換線路100は区間S1から区間S7にかけて特性インピーダンスが段階的に大きくなるように構成されている。したがって、信号線10およびグランド線20の区間S1側の端部に特性インピーダンスが低い回路要素を接続し、区間S7側の端部に特性インピーダンスが高い回路要素を接続することで、インピーダンス変換線路100はこれら回路要素間で特性インピーダンスを整合して低損失で信号伝送を行うことができる。
【0030】
≪シミュレーション結果≫
上述のインピーダンス変換線路100の全長、各区間長、各区間における特性インピーダンスの各数値は、具体的に、区間S1側に25Ωの特性インピーダンスの負荷(低インピーダンス負荷)を接続し、区間S7側に56Ωの特性インピーダンスの負荷(高インピーダンス負荷)を接続して300GHz帯の信号を伝送することを想定して設計したものである。次に、上記構成のインピーダンス変換線路100の伝送特性を従来のλ/4線路の伝送特性と比較して説明する。
【0031】
-シミュレーション1-
インピーダンス変換線路100の区間S1側を入力端子、区間S7側を出力端子として、入力端子にZ1=25Ωの特性インピーダンスの負荷(低インピーダンス負荷)を接続し、出力端子にZ2=56Ωの特性インピーダンスの負荷(高インピーダンス負荷)を接続したときのインピーダンス変換線路100のSパラメータを計算した。比較のために、上記の低インピーダンス負荷と高インピーダンス負荷とを従来のλ/4線路で接続したときのSパラメータも計算した。なお、この場合のsqrt(Z1*Z2)は37.4Ωであるが、便宜上、それに近い37.9Ωのλ/4線路を使用した。また、λ/4線路の長さは300GHz帯の信号伝送を想定して95μmに設定した。
【0032】
図4は、本実施形態に係るインピーダンス変換線路100と従来のλ/4線路の反射特性を比較するグラフである。
図5は、本実施形態に係るインピーダンス変換線路100と従来のλ/4線路の減衰特性を比較するグラフである。
図4のグラフを参照すると、本実施形態に係るインピーダンス変換線路100のS11、S22パラメータは全帯域に亘ってλ/4線路よりも小さくなっており、特に100GHz以上でS11は-10dBよりも小さくなっており、100GHzを超える高周波帯域において信号反射抑制の効果は大きい。特にターゲットの300GHz帯において本実施形態に係るインピーダンス変換線路100の信号反射抑制の効果が顕著である。また、
図5のグラフを参照すると、本実施形態に係るインピーダンス変換線路100の長さはλ/4線路の倍近いにもかかわらずS21パラメータ、すなわち、挿入損失はλ/4線路と比べて0.1dB程度増加するだけである。これらのことから、インピーダンス変換線路100は、線長はλ/4線路よりも長くなるものの100GHzから500GHz超に亘る広帯域でλ/4線路よりも優れたインピーダンス整合性能を発揮することがわかる。
【0033】
-シミュレーション2-
インピーダンス変換線路100を敢えて逆向きに接続、すなわち、区間S7側を入力端子、区間S1側を出力端子として、入力端子にZ1=25Ωの特性インピーダンスの負荷(低インピーダンス負荷)を接続し、出力端子にZ2=56Ωの特性インピーダンスの負荷(高インピーダンス負荷)を接続したときのインピーダンス変換線路100のSパラメータを計算した。比較のために、上記の低インピーダンス負荷と高インピーダンス負荷とを従来のλ/4線路で接続したときのSパラメータも計算した。なお、シミュレーション1と同様に37.9Ωのλ/4線路を使用した。また、λ/4線路の長さは130GHz帯の信号伝送を想定して200μmに設定した。
【0034】
図6は、逆向きに接続した場合の本実施形態に係るインピーダンス変換線路100と従来のλ/4線路の反射特性を比較するグラフである。
図7は、逆向きに接続した場合の本実施形態に係るインピーダンス変換線路100と従来のλ/4線路の減衰特性を比較するグラフである。
図6のグラフを参照すると、本実施形態に係るインピーダンス変換線路100のS11、S22パラメータは130GHz帯においてλ/4線路よりも小さくなっている。また、
図7のグラフを参照すると、本実施形態に係るインピーダンス変換線路100のS21パラメータは130GHz帯でλ/4線路よりも若干大きい程度であり、整合器としての損失は所望帯域で小さくなっている。これらのことから、インピーダンス変換線路100は通常とは逆向きで使用することで、ターゲットの周波数帯(本例では300GHz帯)とは別の周波数帯(本例では130GHz帯)において、λ/4線路よりも短い線長でλ/4線路よりも優れたインピーダンス整合性能を発揮することがわかる。
【0035】
≪効果≫
本実施形態に係るインピーダンス変換線路100は広帯域に亘って、特に数百GHzの高周波帯において優れたインピーダンス整合性能を発揮することができる。また、使用態様によってはλ/4線路よりも短い線長でλ/4線路よりも優れたインピーダンス整合性能を発揮することができ、集積回路の集積化、小型化に貢献する。
【0036】
本実施形態に係るインピーダンス変換線路100は、区間ごとに伝送線路モデルを作ってフィン30の配置間隔、配置配線層などのパラメータをチューニングし、あとは各区間の伝送線路モデルを直列に繋ぐことで全体を構成することができるため目的のインピーダンス変換器を容易に設計することができる。
【0037】
≪変形例≫
本実施形態に係るインピーダンス変換線路100では、区間ごとのフィン30の配置パターンを変えるためにフィン30の配置間隔および信号線10からの距離の2つのパラメータを調整しているが、これらのいずれか一方のみを調整するようにしてもよい。一般的に、フィン30を同一の配線層に配置するのであれば、フィン30の配置間隔が短いほどその区間の特性インピーダンスは低くなる。一方、フィン30の配置間隔が同じであれば、フィン30を信号線10により近い配線層に配置するほどその区間の特性インピーダンスは低くなる。また、上記以外にフィン30の幅を調整するようにしてもよい。一般に、フィン30を同一の配線層において同一の間隔で配置するのであれば、フィン30の幅が広いほどその区間の特性インピーダンスは低くなる。
【0038】
本実施形態に係るインピーダンス変換線路100では、フィン30はすべてグランド線20(より正確にはグランド線20a)に接続されているが、一部またはすべてのフィン30をグランド線20に接続せずにフローティングフィンにしてもよい。
【0039】
本実施形態に係るインピーダンス変換線路100では、信号線10およびグランド線20の下層にストリップライン40が配置されているが、信号線10およびグランド線20の上層、あるいは上層および下層の両方にストリップライン40を配置してもよい。
【0040】
本実施形態に係るインピーダンス変換線路100は、スローウェーブ伝送線路の構造を有しているが、本発明はマイクロストリップ線路やコプレナ導波路のような構造にも適用可能である。すなわち、伝送線路の種類によらず、信号線10とは別の配線層において複数のフィン30を信号線10と電気的に絶縁かつ平面視直交して信号線の延在方向に互いに間隔を空けて配置し、信号線10の延在方向の区間ごとに複数のフィン30の配置パターンを異ならせることで本実施形態と同様の優れたインピーダンス整合性能を発揮することができる。
【0041】
以上のように、本発明における技術の例示として、実施の形態を説明した。そのために、添付図面および詳細な説明を提供した。したがって、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。また、上述の実施の形態は、本発明における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【符号の説明】
【0042】
100…インピーダンス変換線路、10…信号線、20…グランド線、30…フィン、40…ストリップライン、S1~S7…区間