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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022123465
(43)【公開日】2022-08-24
(54)【発明の名称】光照射装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/50 20060101AFI20220817BHJP
   H05B 33/28 20060101ALI20220817BHJP
   A61N 5/06 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
H05B33/14 A
H05B33/28
H05B33/22 A
H05B33/22 C
A61N5/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021020796
(22)【出願日】2021-02-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】森井 克行
(72)【発明者】
【氏名】前野 万也香
(72)【発明者】
【氏名】内藤 裕義
【テーマコード(参考)】
3K107
4C082
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB02
3K107CC42
3K107DD27
3K107DD46Y
3K107DD71
3K107DD74
3K107DD84
3K107FF15
4C082PJ01
4C082PJ21
(57)【要約】
【課題】 幅広い周波数の光を照射でき、かつ被照射体に充分かつ均一な光を照射することができる光照射装置を提供する。
【解決手段】 被照射体に光を照射する光照射装置であって、該光照射装置は、0.04cm以上の発光面を有し、素子の最外部の一対の電極の間に複数の層が積層された構造を有し、該一対の電極から注入される電荷以外の電荷を該素子内に存在させることを特徴とする有機電界発光素子と、電圧の周波数変調が可能な回路とを含み、被照射体に光エネルギーによる変化をもたらす用途に使用されることを特徴とする光照射装置。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被照射体に光を照射する光照射装置であって、
該光照射装置は、0.04cm以上の発光面を有し、素子の最外部の一対の電極の間に複数の層が積層された構造を有し、該一対の電極から注入される電荷以外の電荷を該素子内に存在させることを特徴とする有機電界発光素子と、電圧の周波数変調が可能な回路とを含み、被照射体に光エネルギーによる変化をもたらす用途に使用されることを特徴とする光照射装置。
【請求項2】
前記有機電界発光素子は、電荷発生層を有することを特徴とする請求項1に記載の光照射装置。
【請求項3】
前記有機電界発光素子は、最外部の一対の電極間に駆動直後の電位差がない時に、電荷が残っている状態を実現できるエネルギー障壁が、該素子の積層構造のうちの少なくとも一つの積層膜間に存在することを特徴とする請求項1に記載の光照射装置。
【請求項4】
前記有機電界発光素子は、陽極と、基板上に形成された陰極との間に複数の層が積層された構造を有することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の光照射装置。
【請求項5】
前記有機電界発光素子は、最外部の一対の電極間に酸化物層を有することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の光照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光照射装置に関する。より詳しくは、医療分野における光治療・除菌等や農業分野におけるいわゆる植物工場などの光エネルギーによる被照射体への作用を目的とした光照射に用いることができる光照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光照射は照明として利用される他、化学反応や除菌、光通信、画像形成、美容や怪我・疾患の治療等の様々な分野で利用されている。照明以外での光照射の利用の例として、例えば、送信データに基づいて変調された変調光を出射する照明用光源を備えた送信装置(特許文献1参照)、治療および/または美容上の処置のための光を放射する携帯用機器(特許文献2参照)、有機エレクトロルミネッセンス素子を用いた、画像形成装置に用いられる露光装置(特許文献3参照)などの光源としての用途が開示されている。
また光照射装置や、光照射装置の光源として利用可能な有機エレクトロルミネッセンス素子に関しても検討がされており、例えば、明るさにムラを生じることなく全面を駆動できるように構成された発光装置(特許文献4参照)や、一対の電極間に少なくとも1層の発光層を含む発光ユニットを複数個備えたマルチフォトンエミッション素子構造の有機エレクトロルミネッセンス素子(特許文献5参照)、及び、高輝度発光時での長寿命を実現する素子構造を有し、高い生産性で生産可能な有機EL素子(特許文献6参照)が開示されている。また、有機EL素子に利用可能な仕事関数の小さい材料について開示されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-102968号公報
【特許文献2】特許第4651281号公報
【特許文献3】特開2004-134395号公報
【特許文献4】特開2011-228295号公報
【特許文献5】特開2010-192719号公報
【特許文献6】特許第3933591号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】インハ ゾウ(Yinhua Zhou)外21名、「サイエンス(Science)」2012年、336, 327-332
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記照明以外での光照射の利用のうち、化学反応や除菌等のような、“被照射体に光エネルギーによる作用をもたらすことを目的とした光照射利用”が最近増え始めている。また上記例の美容や怪我・疾患の治療もその適用範囲を広げ、本格的な利用に向けて検討が盛んになってきている。
ここで、現在の“被照射体に光エネルギーによる作用をもたらすことを目的とした光照射利用”の検討の加速について整理する。光照射によって作用をもたらすためのパラメータは一般に波長(エネルギー)によって区分される。何故ならば、波長はエネルギーであり、作用の源もエネルギーに依存するためである。つまり、例えば10のエネルギーにより変化がもたらされるのであれば、10のエネルギーを供給すればよく、それが光であれば、10のエネルギーを持つ波長ということになるためである。一方で、これらの現象には必ず有限の時間が必要であり、多くの現象が複数の現象の組み合わせであるため、より効果的な光の利用のためには、時間を制御して用いることは、光の効率的な利用さらには従来には得られなかった効果を発現させるためには重要である。例えば、光利用の原点である光反応において、中間体の寿命を鑑みた周期的な光の利用は非常に効果的である。しかしながら、そのような波長だけではなく周波数にもフォーカスした検討は非常に少ないのが現状である。このため光照射に用いられる装置は、被照射体の種類や分野ごとに最適な周波数の光を照射することのみに特化されており、効率的に作用を発現させるための照射領域の均一性も充分ではなく、時間的に効率化されるための光の周期性もほぼ考慮されていない。被照射体への作用に影響する要素を考慮した理想的な“被照射体に光エネルギーによる作用をもたらすことを目的とした光照射装置”は、光源の観点では、被照射体に充分な作用をもたらすために均一かつ充分な光の量の照射が可能で、かつ幅広い周波数の光を照射できる光源であり、光照射装置としては、それが実現できる回路などの周辺装置を具備していることが求められる。
この観点から、これまでの公知例との違いを説明していく。特許文献1は可視光通信を企図しており目的が異なる。故に高周波駆動のための解決策としては、発光面積を小さくすることで対応しているため、面光源として、如何に高周波数に対応するかは解決されていない。特許文献2は、本発明と同じ用途目的であるものの、高周波数はできないものとしてそこには触れられていない。故に低周波数のみとなっている。特許文献3および4は、パルスであることが重要であり、周波数の大きさにはこだわりなく、また発光面積も小さい。このように、従来の技術では上記理想的な光照射装置は実現されておらず、解決すべき課題となっている。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、幅広い周波数の光を照射でき、かつ被照射体に充分かつ均一な光を照射することができる光照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、被照射体に光を照射する光照射装置であって、該光照射装置は、0.04cm以上の発光面を有し、素子の最外部の一対の電極の間に複数の層が積層された構造を有し、該一対の電極から注入される電荷以外の電荷を該素子内に存在させることを特徴とする有機電界発光素子と、電圧の周波数変調が可能な回路とを含み、被照射体に光エネルギーによる変化をもたらす用途に使用されることを特徴とする光照射装置である。
【0008】
上記有機電界発光素子は、電荷発生層を有することが好ましい。
【0009】
上記有機電界発光素子は、最外部の一対の電極間に駆動直後の電位差がない時に、電荷が残っている状態を実現できるエネルギー障壁が、該素子の積層構造のうちの少なくとも一つの積層膜間に存在することが好ましい。
【0010】
上記有機電界発光素子は、陽極と、基板上に形成された陰極との間に複数の層が積層された構造を有することが好ましい。
また、基本的に充電時間が短いことは高周波数で駆動させるときに重要な要素になる。つまり面光源である有機電界発光素子においては、抵抗Rと静電容量Cの積であらわされるRC時定数が小さいことが望ましい。例えばCを小さくする方法として厚膜化することが考えられる。膜厚が倍になればCは半分になり、RC時定数は半分になる。厚膜化のためには移動度の高い材料があれば好適である。それには例えば、移動度の高い無機物、例えば酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ニオブなどの酸化物やCHNHPbCl、CsPbCl、CsPbBrなどのペロブスカイト型ハロゲン化物の層を用いることが方法として考えられる。
故に、上記有機電界発光素子は、最外部の一対の電極間に酸化物層を有することも好ましい形態の一つである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光照射装置は、発光面が大きい面光源であって、幅広い周波数の光を照射できる光照射装置であるため、光エネルギーによる被照射体への作用を目的とした様々な用途に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の光照射装置の発光素子の積層構造の一例を示した概略図である。
図2】実施例1で作製した有機電界発光素子の周波数特性を示した図である。
図3】比較例1で作製した有機電界発光素子の周波数特性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0014】
本発明の光照射装置は、0.04cm以上の発光面を有し、電極から注入される電荷以外の電荷を該素子内に存在させることができる有機電界発光素子と電圧の周波数変調が可能な回路とを含む。本発明の光照射装置は、面光源である有機電界発光素子を用いることから、点光源を多数用いた場合に比べて発光にムラがなく、被照射体に対して均一な光照射を行うことができる。
また有機電界発光素子が電極から注入される電荷以外の電荷を該素子内に存在させることができるものであることで、より多くの電荷を発生させて素子の輝度を高めることができ、そのような特徴を有さない素子に比べて電圧が高周波数の領域でも高い輝度を得ることができる。電極から注入される電荷以外の電荷を該素子内に存在させることができる有機電界発光素子としては、積層構造中に電荷発生層を有する素子や、素子の積層構造のうちの少なくとも一つの積層膜間に、駆動後、最外部の一対の電極間に電位差がない時に電荷が残っている状態を実現できるエネルギー障壁を有する素子等が挙げられる。
電荷発生層とは、強い電子アクセプター性(深いLUMO)を有する分子層とドナー性(浅いHOMO)を有する分子層を積層または混合することで分子間電荷移動に伴い、電荷発生する層を指す。
また、素子内の層間にエネルギー障壁がある場合、電極からの電荷注入によらない蓄積電荷による電荷移動のみでの再結合過程が存在し、高周波での高輝度に寄与する。層間の障壁が小さな素子構造では、1周期内で注入された電荷はすべて解消され、効率に優れて電圧も低く、直流電源においては高特性とされる素子となる。しかしながら、高周波数でのパルス応答に関しては、電極からの電荷注入が基本にある有機電界発光素子ではRC時定数に制限され、注入された電荷が減少し、注入された電荷も再結合に至るのが困難である。一方で、素子内部にエネルギー障壁が存在する低特性素子では、層間の界面で電荷が再結合に至らず残留し、通常はロスとなるが、パルス駆動においては、次のパルス周期において利用される。
発光面の大きさは、用途によりさまざまであり、必要な領域を覆うことさえできれば問題なく特に限定されない。局所的な患部に対する光医療などであれば、少なくとも0.04cm以上であればよく、より多くの若しくは広い被照射体に対して充分な光照射を行う点からは、1cm以上であることが好ましい。より好ましくは、9cm以上であり、更に好ましくは、25cm以上である。
【0015】
本発明の光照射装置が含む、電圧の周波数変調が可能な回路は、電圧の周波数変調が可能なものであれば特に制限されないが、より多くの分野で利用可能な光照射装置とする点から、0.1~10Hzの領域で周波数変調が可能なものが好ましい。より好ましくは、0.1~10Hzの領域で周波数変調が可能なものであり、更に好ましくは、0.1~10Hzの領域で周波数変調が可能なものである。
附属する回路は、これらの周波数変調を実現できるものであれば特に制限はなく、例えば、発振器とトランジスタのみで行うことができる。発振器は、例えば薄膜トランジスタのリングオシレータが考えられる。
【0016】
以下においては、本発明の光照射装置を構成する有機電界発光素子として、電荷発生層を有する有機電界発光素子、及び、層間にエネルギー障壁を有する有機電界発光素子の構造や材料について記載する。
電荷発生層を有する有機電界発光素子は、最外部の一対の電極である陽極と陰極との間に電荷発生層と発光層を含む複数の層が積層された構造を有する。本発明における有機電界発光素子の構造は特に制限されないが、陰極、電子注入層及び/又は電子輸送層、発光層、電荷発生層、陽極をこの順に有し、更に発光層と陽極との間に正孔輸送層及び/又は正孔注入層を有する素子であることが好ましい。なお、電荷発生層の材料によっては、電荷発生層は正孔注入層の機能も発揮することになる。
本発明における有機電界発光素子が正孔輸送層、正孔注入層のうち、正孔輸送層のみを有する場合、正孔輸送層と電荷発生層との積層順は特に制限されず、発光層、正孔輸送層、電荷発生層、陽極の順でもよく、発光層、電荷発生層、正孔輸送層、陽極の順でもよい。本発明の素子が正孔輸送層、正孔注入層のうち、電荷発生層とは別の層として正孔注入層のみを有する場合も同様に正孔注入層と電荷発生層との積層順は特に制限されず、発光層、正孔注入層、電荷発生層、陽極の順でもよく、発光層、電荷発生層、正孔注入層、陽極の順でもよい。
本発明の素子が発光層と陽極との間に正孔輸送層、及び、電荷発生層とは別の層として正孔注入層を有する場合、これらの層と電荷発生層との積層順は特に制限されず、発光層、電荷発生層、正孔輸送層、正孔注入層、陽極の順でもよく、発光層、正孔輸送層、電荷発生層、正孔注入層、陽極の順でもよく、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、電荷発生層、陽極の順でもよい。
なお、本発明における有機電界発光素子を構成する各層は、1層からなるものであってもよく、2層以上からなるものであってもよい。
【0017】
本発明における電荷発生層を有する有機電界発光素子としては、陰極、電子注入層及び/又は電子輸送層、発光層、正孔輸送層、電荷発生層、陽極の各層をこの順に隣接して有する素子、又は、陰極、電子注入層及び/又は電子輸送層、発光層、正孔輸送層、電荷発生層、正孔注入層、陽極の各層をこの順に隣接して有する素子が好ましい。
上記構造の有機電界素子において、素子が電子注入層、電子輸送層のいずれか一方のみを有する場合には、当該一方の層が陰極と発光層とに隣接して積層されることになり、素子が電子注入層と電子輸送層の両方を有する場合には、陰極、電子注入層、電子輸送層、発光層の順にこれらの層が隣接して積層されることになる。
【0018】
本発明の光照射装置を構成する有機電界発光素子は、基板上に陽極が形成された順構造の素子であってもよく、基板上に陰極が形成された逆構造の素子であってもよいが、陽極と、基板上に形成された陰極との間に複数の層が積層された構造を有する逆構造の素子であることが好ましい。
逆構造の有機電界発光素子は、順構造の素子に比べて高周波数領域での発光輝度に優れるため、本発明の光照射装置に用いる有機電界発光素子として好ましい。
【0019】
本発明の光照射装置を構成する有機電界発光素子は、更に最外部の一対の電極である陰極と陽極との間に酸化物層を有することが好ましく、酸化物層としては金属酸化物層が好ましい。すなわち本発明の光照射装置を構成する有機電界発光素子は、陰極と陽極との間に金属酸化物層を有する有機無機ハイブリッド型の有機電界発光素子であることが好ましい。金属酸化物を素子の材料として用いることで、上述した電荷発生層や層間でのエネルギー障壁が生じやすく、結果として素子がより高周波での駆動特性に優れたものとなる。
後述するように、金属酸化物の中には電荷発生層の材料として使用できるものもあり、電荷発生層に金属酸化物を用いて素子を形成することで、素子をより駆動寿命や保存安定性に優れたものとする効果を併せて得ることができる。
本発明における電荷発生層を有する有機電界発光素子は、基板上に隣接して陰極が形成され、陽極と陰極との間に金属酸化物層を有する有機無機ハイブリッド型の有機電界発光素子であって、発光層と陽極とを有し、陰極と発光層との間に、電子注入層と、必要に応じて電子輸送層とを有し、陽極と発光層との間に電荷発生層と正孔輸送層及び/又は正孔注入層を有する構造の素子であることが好ましい。本発明における有機電界発光素子は、これらの各層の間に他の層を有していてもよいが、これらの各層のみから構成される素子であることが好ましい。
【0020】
本発明の光照射装置を構成する有機電界発光素子は、発光層を複数有するマルチフォトン型の有機電界発光素子であってもよい。マルチフォトン型の有機電界発光素子の構造としては、複数の発光層の間に電荷発生層が存在する構造が好ましく、上述した陰極、電子注入層及び/又は電子輸送層、発光層、電荷発生層、陽極をこの順に有する素子の構造において、電荷発生層と陽極との間に更に1つ又は2つ以上の発光層を有し、発光層の間に電荷発生層が存在する構造の素子が挙げられる。
有機電界発光素子がマルチフォトン型の有機電界発光素子である場合も発光層と陽極との間に正孔輸送層及び/又は正孔注入層を有する素子であることが好ましい。マルチフォトン型とは、少なくとも一層の発光層を含む複数個の発光ユニットを、電荷発生層を介して直列に接続するように積層させた素子構造である(例えば、特許文献6参照)。
電荷発生層を有する有機電界発光素子がマルチフォトン型の有機電界発光素子である場合の好ましい構造は、上述した発光層を1つのみ有する素子の種々の構造における、発光層から電荷発生層までの部分を複数有する構造である。
【0021】
次に、最外部の一対の電極間に電位差がない時に、電荷が残っている状態を実現できるエネルギー障壁が、素子の積層構造のうちの少なくとも一つの積層膜間存在する有機電界発光素子の構造について記載する。
エネルギー障壁はどの層間にあってもよく、そのエネルギー障壁の大きさは、電荷注入がある程度阻害されていることが条件のため、電荷の注入と蓄積の両方が起こる大きさであることが必要である。具体的には、0.1eV~2eV程度であればよく、より好ましくは、0.1eV~1.5eV程度であり、さらに好ましくは、0.1eV~1eV程度である。
また、その材料は制限されず、後述する各層の材料の具体例から上記エネルギー障壁が生じるような材料を選択して用いることができる。
また素子構成としては上述した電荷発生層を有する有機電界発光素子の構造から電荷発生層を除いたものが挙げられる。更に上記電荷発生層を含む素子構成でもよく、その場合、上述した電荷発生層を有する有機電界発光素子の構造と同様の構成が挙げられる。更に、素子は順構造であっても逆構造であってもよいが、逆構造である方がエネルギー障壁は発生しやすいため、逆構造の方が好ましい。
【0022】
本発明の光照射装置を構成する有機電界発光素子において、発光層を形成する材料としては、発光層の材料として通常用いることができるいずれの化合物も用いるができ、低分子化合物であっても高分子化合物であってもよく、これらを混合して用いてもよい。
なお、本発明において低分子材料とは、高分子材料(重合体)ではない材料を意味し、分子量が低い有機化合物を必ずしも意味するものではない。
【0023】
上記発光層を形成する高分子材料としては、例えば、トランス型ポリアセチレン、シス型ポリアセチレン、ポリ(ジ-フェニルアセチレン)(PDPA)、ポリ(アルキルフェニルアセチレン)(PAPA)のようなポリアセチレン系化合物;ポリ(パラ-フェニレンビニレン)(PPV)、ポリ(2,5-ジアルコキシ-パラ-フェニレンビニレン)(RO-PPV)、シアノ-置換-ポリ(パラ-フェニレンビニレン)(CN-PPV)、ポリ(2-ジメチルオクチルシリル-パラ-フェニレンビニレン)(DMOS-PPV)、ポリ(2-メトキシ-5-(2’-エチルヘキソキシ)-パラ-フェニレンビニレン)(MEH-PPV)のようなポリパラフェニレンビニレン系化合物;ポリ(3-アルキルチオフェン)(PAT)、ポリ(オキシプロピレン)トリオール(POPT)のようなポリチオフェン系化合物;ポリ(9,9-ジアルキルフルオレン)(PDAF)、ポリ(ジオクチルフルオレン-アルト-ベンゾチアジアゾール)(F8BT)、α,ω-ビス[N,N’-ジ(メチルフェニル)アミノフェニル]-ポリ[9,9-ビス(2-エチルヘキシル)フルオレン-2,7-ジル](PF2/6am4)、ポリ(9,9-ジオクチル-2,7-ジビニレンフルオレニル-オルト-コ(アントラセン-9,10-ジイル)のようなポリフルオレン系化合物;ポリ(パラ-フェニレン)(PPP)、ポリ(1,5-ジアルコキシ-パラ-フェニレン)(RO-PPP)のようなポリパラフェニレン系化合物;ポリ(N-ビニルカルバゾール)(PVK)のようなポリカルバゾール系化合物;ポリ(メチルフェニルシラン)(PMPS)、ポリ(ナフチルフェニルシラン)(PNPS)、ポリ(ビフェニリルフェニルシラン)(PBPS)のようなポリシラン系化合物;更には特願2010-230995号、特願2011-6457号に記載のホウ素化合物系高分子材料等が挙げられる。
【0024】
上記発光層を形成する低分子材料としては、例えば、配位子に2,2’-ビピリジン-4,4’-ジカルボン酸を持つ、3配位のイリジウム錯体、ファクトリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(Ir(ppy))、8-ヒドロキシキノリン アルミニウム(Alq)、トリス(4-メチル-8キノリノレート) アルミニウム(III)(Almq)、8-ヒドロキシキノリン 亜鉛(Znq)、(1,10-フェナントロリン)-トリス-(4,4,4-トリフルオロ-1-(2-チエニル)-ブタン-1,3-ジオネート)ユーロピウム(III)(Eu(TTA)(phen))、2,3,7,8,12,13,17,18-オクタエチル-21H,23H-ポルフィン プラチナム(II)のような各種金属錯体;ジスチリルベンゼン(DSB)、ジアミノジスチリルベンゼン(DADSB)のようなベンゼン系化合物;ナフタレン、ナイルレッドのようなナフタレン系化合物;フェナントレンのようなフェナントレン系化合物;クリセン、6-ニトロクリセンのようなクリセン系化合物;ペリレン、N,N’-ビス(2,5-ジ-t-ブチルフェニル)-3,4,9,10-ペリレン-ジ-カルボキシイミド(BPPC)のようなペリレン系化合物;コロネンのようなコロネン系化合物;アントラセン、ビススチリルアントラセンのようなアントラセン系化合物;ピレンのようなピレン系化合物;4-(ジ-シアノメチレン)-2-メチル-6-(パラ-ジメチルアミノスチリル)-4H-ピラン(DCM)のようなピラン系化合物;アクリジンのようなアクリジン系化合物;スチルベンのようなスチルベン系化合物;2,5-ジベンゾオキサゾールチオフェンのようなチオフェン系化合物;ベンゾオキサゾールのようなベンゾオキサゾール系化合物;ベンゾイミダゾールのようなベンゾイミダゾール系化合物;2,2’-(パラ-フェニレンジビニレン)-ビスベンゾチアゾールのようなベンゾチアゾール系化合物;ビスチリル(1,4-ジフェニル-1,3-ブタジエン)、テトラフェニルブタジエンのようなブタジエン系化合物;ナフタルイミドのようなナフタルイミド系化合物;クマリンのようなクマリン系化合物;ペリノンのようなペリノン系化合物;オキサジアゾールのようなオキサジアゾール系化合物;アルダジン系化合物;1,2,3,4,5-ペンタフェニル-1,3-シクロペンタジエン(PPCP)のようなシクロペンタジエン系化合物;キナクリドン、キナクリドンレッドのようなキナクリドン系化合物;ピロロピリジン、チアジアゾロピリジンのようなピリジン系化合物;2,2’,7,7’-テトラフェニル-9,9’-スピロビフルオレンのようなスピロ化合物;フタロシアニン(HPc)、銅フタロシアニンのような金属または無金属のフタロシアニン系化合物;更には特開2009-155325号公報および特願2010-230995号、特願2011-6458号に記載のホウ素化合物材料等が挙げられる。また、ケミプロ化成社の製品であるKHLHS-04、KHLDR-03等も用いることができる。
【0025】
上記発光層の平均厚さは、特に限定されないが、10~150nmであることが好ましい。より好ましくは、20~100nmであり、更に好ましくは、40~100nmである。
発光層の平均厚さは、低分子化合物の場合は水晶振動子膜厚計により、高分子化合物の場合は接触式段差計により測定することができる。
【0026】
本発明の光照射装置を構成する有機電界発光素子が、電子輸送層を有する場合、その材料としては、電子輸送層の材料として通常用いることができるいずれの化合物も用いるができ、これらを混合して用いてもよい。
電子輸送層の材料として用いることができる化合物の例としては、トリス-1,3,5-(3’-(ピリジン-3’’-イル)フェニル)ベンゼン(TmPyPhB)のようなピリジン誘導体、(2-(3-(9-カルバゾリル)フェニル)キノリン(mCQ))のようなキノリン誘導体、2-フェニル-4,6-ビス(3,5-ジピリジルフェニル)ピリミジン(BPyPPM)のようなピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、バソフェナントロリン(BPhen)のようなフェナントロリン誘導体、2,4-ビス(4-ビフェニル)-6-(4’-(2-ピリジニル)-4-ビフェニル)-[1,3,5]トリアジン(MPT)のようなトリアジン誘導体、3-フェニル-4-(1’-ナフチル)-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール(TAZ)のようなトリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル-1,3,4-オキサジアゾール)(PBD)のようなオキサジアゾール誘導体、2,2’,2’’-(1,3,5-ベンゼントリイル)-トリス(1-フェニル-1-H-ベンズイミダゾール)(TPBI)のようなイミダゾール誘導体、ナフタレン、ペリレン等の芳香環テトラカルボン酸無水物、ビス[2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾラト]亜鉛(Zn(BTZ))、トリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)などに代表される各種金属錯体、2,5-ビス(6’-(2’,2’’-ビピリジル))-1,1-ジメチル-3,4-ジフェニルシロール(PyPySPyPy)等のシロール誘導体に代表される有機シラン誘導体等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
これらの中でも、Alqのような金属錯体、TmPyPhBのようなピリジン誘導体が好ましい。
【0027】
上記電子注入層としては、窒素含有化合物から形成される窒素含有膜からなる層を用いることができる。
窒素含有膜からなる層を形成する窒素含有化合物としては、例えば、ポリビニルピロリドンのようなピロリドン類、ポリピロールのようなピロール類又はポリアニリンのようなアニリン類、又はポリビニルピリジンのようなピリジン類、同様に、ピロリジン類、イミダゾール類、ピペリジン類、ピリミジン類、トリアジン類などの含窒素複素環を有する化合物や、アミン化合物が挙げられる。
【0028】
上記窒素含有化合物としてはまた、窒素含有率の高い化合物が好ましく、ポリアミン類が好ましい。ポリアミン類は、化合物を構成する全原子数に対する窒素原子数の比率が高いため、有機電界発光素子を高い電子注入性と駆動安定性を有するものとする点から適している。
ポリアミン類としては、塗布により層を形成することができるものが好ましく、低分子化合物であっても高分子化合物であってもよい。低分子化合物としては、ジエチレントリアミン、ペンタメチルジエチレントリアミンのようなポリアルキレンポリアミンが好適に用いられ、高分子化合物では、ポリアルキレンイミン構造を有する重合体が好適に用いられる。特にポリエチレンイミンが好ましい。中でも、窒素含有化合物が、ポリエチレンイミン又はジエチレントリアミンであることは本発明の好適な実施形態の1つである。
なお、ここで低分子化合物とは、高分子化合物(重合体)ではない化合物を意味し、分子量の低い化合物を必ずしも意味するものではない。
【0029】
上記窒素含有膜の平均厚さは、特に限定されないが、0.5~10nmであることが好ましい。より好ましくは、1~5nmであり、更に好ましくは、1~3nmである。
窒素含有膜の平均厚さは、低分子化合物の場合は水晶振動子膜厚計により測定することができる。
【0030】
本発明における有機電界発光素子が有する電荷発生層の材料のうち強い電子アクセプター性を有する材料としては、下記式(1);
【0031】
【化1】
【0032】
(式中、R~Rは、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~12のアルキル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アルキルシリル基、アリール基、アリールアミノ基、複素環基、ニトロ基およびニトリル基のいずれかを表す。また、RとR、RとR、RとRは、互いに結合して環構造を形成していてもよく、その場合、間にエステル結合又はアミド結合を介して結合していてもよい。)で表される化合物等の有機化合物や、酸化モリブデン(MoO)、酸化バナジウム(V)、酸化タングステン(WO)、酸化レニウム(ReO)等の金属酸化物が挙げられる。
電荷発生層材料のドナー性を有する材料には、後述の正孔輸送材料を用いることができる。電荷発生層はこれら二つの材料を積層または混合して用いることができる。
【0033】
上記有機電界発光素子における電荷発生層の平均厚さは、特に限定されないが、10~150nmであることが好ましい。より好ましくは、20~100nmであり、更に好ましくは、40~100nmである。
電荷発生層の平均厚さは、水晶振動子膜厚計により測定することができる。
【0034】
本発明における有機電界発光素子が、正孔輸送層を有する場合、正孔輸送層として用いる正孔輸送性有機材料には、各種p型の高分子材料や、各種p型の低分子材料を単独または組み合わせて用いることができる。
p型の高分子材料(有機ポリマー)としては、例えば、ポリアリールアミン、フルオレン-アリールアミン共重合体、フルオレン-ビチオフェン共重合体、ポリ(N-ビニルカルバゾール)、ポリビニルピレン、ポリビニルアントラセン、ポリチオフェン、ポリアルキルチオフェン、ポリヘキシルチオフェン、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリチエニレンビニレン、ピレンホルムアルデヒド樹脂、エチルカルバゾールホルムアルデヒド樹脂またはその誘導体等が挙げられる。
またこれらの化合物は、他の化合物との混合物として用いることもできる。一例として、ポリチオフェンを含有する混合物としては、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン/スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)等が挙げられる。
【0035】
上記p型の低分子材料としては、例えば、1,1-ビス(4-ジ-パラ-トリアミノフェニル)シクロへキサン、1,1’-ビス(4-ジ-パラ-トリルアミノフェニル)-4-フェニル-シクロヘキサンのようなアリールシクロアルカン系化合物、4,4’,4’’-トリメチルトリフェニルアミン、N,N,N’,N’-テトラフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD1)、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(4-メトキシフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD2)、N,N,N’,N’-テトラキス(4-メトキシフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD3)、N,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(α-NPD)、TPTEのようなアリールアミン系化合物、N,N,N’,N’-テトラフェニル-パラ-フェニレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラ(パラ-トリル)-パラ-フェニレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラ(メタ-トリル)-メタ-フェニレンジアミン(PDA)のようなフェニレンジアミン系化合物、カルバゾール、N-イソプロピルカルバゾール、N-フェニルカルバゾールのようなカルバゾール系化合物、スチルベン、4-ジ-パラ-トリルアミノスチルベンのようなスチルベン系化合物、OZのようなオキサゾール系化合物、トリフェニルメタン、m-MTDATAのようなトリフェニルメタン系化合物、1-フェニル-3-(パラ-ジメチルアミノフェニル)ピラゾリンのようなピラゾリン系化合物、ベンジン(シクロヘキサジエン)系化合物、トリアゾールのようなトリアゾール系化合物、イミダゾールのようなイミダゾール系化合物、1,3,4-オキサジアゾール、2,5-ジ(4-ジメチルアミノフェニル)-1,3,4-オキサジアゾールのようなオキサジアゾール系化合物、アントラセン、9-(4-ジエチルアミノスチリル)アントラセンのようなアントラセン系化合物、フルオレノン、2,4,7-トリニトロ-9-フルオレノン、2,7-ビス(2-ヒドロキシ-3-(2-クロロフェニルカルバモイル)-1-ナフチルアゾ)フルオレノンのようなフルオレノン系化合物、ポリアニリンのようなアニリン系化合物、シラン系化合物、1,4-ジチオケト-3,6-ジフェニル-ピロロ-(3,4-c)ピロロピロールのようなピロール系化合物、フローレンのようなフローレン系化合物、ポルフィリン、金属テトラフェニルポルフィリンのようなポルフィリン系化合物、キナクリドンのようなキナクリドン系化合物、フタロシアニン、銅フタロシアニン、テトラ(t-ブチル)銅フタロシアニン、鉄フタロシアニンのような金属または無金属のフタロシアニン系化合物、銅ナフタロシアニン、バナジルナフタロシアニン、モノクロロガリウムナフタロシアニンのような金属または無金属のナフタロシアニン系化合物、N,N’-ジ(ナフタレン-1-イル)-N,N’-ジフェニル-ベンジジン、N,N,N’,N’-テトラフェニルベンジジンのようなベンジジン系化合物等が挙げられる。
【0036】
本発明の光照射装置を構成する有機電界発光素子が、電子輸送層や正孔輸送層を有する場合、これらの層の平均厚さは、特に限定されないが、10~150nmであることが好ましい。より好ましくは、20~100nmであり、更に好ましくは、40~100nmである。
電子輸送層や正孔輸送層の平均厚さは、低分子化合物の場合は水晶振動子膜厚計により、高分子化合物の場合は接触式段差計により測定することができる。
【0037】
本発明の光照射装置を構成する有機電界発光素子が金属酸化物層を有する場合、陰極から発光層までの間、陽極から発光層までの間のいずれか又は両方に金属酸化物層を有することになるが、陰極から発光層までの間との発光層から陽極までの間の両方に金属酸化物層を有することが好ましい。これにより、エネルギー障壁が生じやすく、本発明において好適である。陰極から発光層までの間の金属酸化物層を第1の金属酸化物層、陽極から発光層までの間の金属酸化物層を第2の金属酸化物層とすると、第1の金属酸化物層は電子注入層、第2の金属酸化物層は電荷発生層又は正孔注入層として用いられることが好ましい。本発明における有機電界発光素子の好ましい素子の構造の一例を表すと、陰極、第1の金属酸化物層、窒素含有膜からなる層、発光層、正孔輸送層、第2の金属酸化物層、陽極がこの順に隣接して積層された構造である。なお、窒素含有膜からなる層と、発光層との間に必要に応じて電子輸送層を有していてもよい。
【0038】
上記第1の金属酸化物層は、単体の金属酸化物膜の一層からなる層、もしくは、単体又は二種類以上の金属酸化物を積層及び/又は混合した層である半導体もしくは絶縁体積層薄膜の層である。金属酸化物を構成する金属元素としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、インジウム、ガリウム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、カドミウム、アルミニウム、ケイ素からなる群から選ばれる。これらのうち、積層又は混合金属酸化物層を構成する金属元素の少なくとも一つが、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、ジルコニウム、ハフニウム、ケイ素、チタン、亜鉛からなる層であることが好ましく、その中でも単体の金属酸化物ならば、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化亜鉛からなる群から選ばれる金属酸化物を含むことが好ましい。
【0039】
上記単体又は二種類以上の金属酸化物を積層及び/又は混合した層の例としては、酸化チタン/酸化亜鉛、酸化チタン/酸化マグネシウム、酸化チタン/酸化ジルコニウム、酸化チタン/酸化アルミニウム、酸化チタン/酸化ハフニウム、酸化チタン/酸化ケイ素、酸化亜鉛/酸化マグネシウム、酸化亜鉛/酸化ジルコニウム、酸化亜鉛/酸化ハフニウム、酸化亜鉛/酸化ケイ素、酸化カルシウム/酸化アルミニウムなどの金属酸化物の組合せを積層及び/又は混合したものや、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化マグネシウム、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化ジルコニウム、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化アルミニウム、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化ハフニウム、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化ケイ素、酸化インジウム/酸化ガリウム/酸化亜鉛などの三種の金属酸化物の組合せを積層及び/又は混合したものなどが挙げられる。これらの中には、特殊な組成として良好な特性を示す酸化物半導体であるIGZOやエレクトライドである12CaO・7Alも含まれる。
これら第1の金属酸化物層は、電子注入層ともいえ、また、電極(陰極)ともいえる。
なお、本発明においては、シート抵抗が100Ω/□より低い物は導電体、シート抵抗が100Ω/□より高い物は半導体または絶縁体として分類される。従って、透明電極として知られているITO(錫ドープ酸化インジウム)、ATO(アンチモンドープ酸化インジウム)、IZO(インジウムドープ酸化亜鉛)、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)、FTO(フッ素ドープ酸化インジウム)等の薄膜は、導電性が高く半導体または絶縁体の範疇に含まれないことから上記第1の金属酸化物層を構成する一層に該当しない。
【0040】
また上記第1の金属酸化物層は、金属酸化物の層を含む限り、金属酸化物の層と金属単体の層とが積層したものであってもよい。
金属酸化物を構成する元素は上記のとおりである。
金属単体の層の材料となる金属としては、銀、パラジウム等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0041】
上記第1の金属酸化物層が、金属酸化物の層と金属単体の層とが積層したものである場合、金属酸化物の層と金属単体の層とが交互に積層したものであることが好ましい。この場合、金属酸化物の層と金属単体の層の数は、金属酸化物の層が2層であり、金属単体の層が1層であることが好ましい。すなわち、1つの金属単体の層が2つの金属酸化物の層に挟まれた構造が好ましい。
【0042】
上記第2の金属酸化物層を形成する金属酸化物としては、特に制限されないが、酸化バナジウム(V)、酸化モリブテン(MoO)、酸化タングステン(WO)、酸化ルテニウム(RuO)等の1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、酸化バナジウム、酸化モリブテン又は酸化タングステンを主成分とするものが好ましい。第2の金属酸化物層の中で、酸化バナジウム、酸化モリブテン又は酸化タングステンを主成分とするものにより構成されることは、電荷発生層のアクセプター層の好適な一例である。より好ましくは、酸化バナジウム又は酸化モリブテンを主成分とするものである。第2の金属酸化物層が酸化バナジウム又は酸化モリブテンを主成分とするものにより構成されると、第2の金属酸化物層が陽極から正孔を注入して発光層又は正孔輸送層へ輸送するという正孔注入層としての機能により優れたものとなる。酸化バナジウム又は酸化モリブテンは、それ自体の正孔輸送性が高いため、陽極から発光層又は正孔輸送層への正孔の注入効率が低下するのを好適に防止することもできるという利点がある。
したがって、第2の金属酸化物層が酸化モリブテンを主成分とするものにより構成されると、電荷発生層として機能と正孔注入層としての機能の両方を充分に発揮することになる。
第2の金属酸化物層は、酸化バナジウム又は酸化モリブテンを主成分とするものであることが好ましいが、より好ましくは、酸化バナジウム及び/又は酸化モリブテンから構成されることである。
【0043】
上記第1の金属酸化物層の平均厚さは、1nmから数μm程度まで許容できるが、低電圧で駆動できる有機電界発光素子とする点から、1~1000nmであることが好ましい。より好ましくは、2~100nmである。
上記第2の金属酸化物層の平均厚さは、特に限定されないが、1~1000nmであることが好ましい。より好ましくは、5~50nmである。
第1の金属酸化物層の平均厚さは、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定することができる。
第2の金属酸化物層の平均厚さは、水晶振動子膜厚計により成膜時に測定することができる。
【0044】
本発明の光照射装置を構成する有機電界発光素子において、陽極及び陰極としては、公知の導電性材料を適宜用いることができるが、光取り出しのために少なくともいずれか一方は透明であることが好ましい。公知の透明導電性材料の例としてはITO(錫ドープ酸化インジウム)、ATO(アンチモンドープ酸化インジウム)、IZO(インジウムドープ酸化亜鉛)、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)、FTO(フッ素ドープ酸化インジウム)などが上げられる。不透明な導電性材料の例としては、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、錫、インジウム、銅、銀、金、白金やこれらの合金などが挙げられる。
陰極としては、この中でも、ITO、IZO、FTOが好ましい。
陽極としては、これらの中でも、Au、Ag、Alが好ましい。
上記のように、一般に陽極に用いられる金属を陰極及び陽極に用いる事ができる事から、上部電極からの光の取り出しを想定する場合(トップエミッション構造の場合)も容易に実現でき、上記電極を種々選んでそれぞれの電極に用いる事ができる。例えば、下部電極としてAl、上部電極にITOなどである。逆構造の有機ELでは、大気安定性の高いITOを陰極に用いることができるため、大気安定性が高く、素子寿命の長い素子とすることができる。
【0045】
上記陰極の平均厚さは、特に制限されないが、10~500nmであることが好ましい。より好ましくは、100~200nmである。陰極の平均厚さは、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定することができる。
上記陽極の平均厚さは、特に限定されないが、10~1000nmであることが好ましい。より好ましくは、30~150nmである。また、不透過な材料を用いる場合でも、例えば平均厚さを10~30nm程度にすることで、トップエミッション型及び透明型の陽極として使用することができる。
陽極の平均厚さは、水晶振動子膜厚計により成膜時に測定することができる。
【0046】
本発明における有機電界発光素子において、有機化合物から形成される層の成膜方法は特に限定されず、材料の特性に合わせて種々の方法を適宜用いることができるが、溶液にして塗布できる場合はスピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、スリットコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法等の各種塗布法を用いて成膜することができる。このうち、膜厚をより制御しやすいという点でスピンコート法やスリットコート法が好ましい。塗布しない場合や溶媒溶解性が低い場合は真空蒸着法や、ESDUS(Evaporative Spray Deposition from Ultra-dilute Solution)法などが好適な例として挙げられる。
【0047】
上記有機化合物から形成される層を、有機化合物溶液を塗布して形成する場合、有機化合物を溶解するために用いる溶媒としては、例えば、硝酸、硫酸、アンモニア、過酸化水素、水、二硫化炭素、四塩化炭素、エチレンカーボネイト等の無機溶媒や、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール(DEG)、グリセリン等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン(THP)、アニソール、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、ジエチレングリコールエチルエーテル(カルビトール)等のエーテル系溶媒、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、フェニルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、メチルピロリドン等の芳香族複素環化合物系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド系溶媒、クロロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化合物系溶媒、酢酸エチル、酢酸メチル、ギ酸エチル等のエステル系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン等の硫黄化合物系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル等のニトリル系溶媒、ギ酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸系溶媒のような各種有機溶媒、または、これらを含む混合溶媒等が挙げられる。
これらの中でも、溶媒としては、非極性溶媒が好適であり、例えば、キシレン、トルエン、シクロヘキシルベンゼン、ジハイドロベンゾフラン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、メチルピロリドン等の芳香族複素環化合物系溶媒、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒等が挙げられ、これらを単独または混合して用いることができる。
【0048】
上記陰極、陽極、及び、酸化物層は、スパッタ法、真空蒸着法、ゾルゲル法、スプレー熱分解(SPD)法、原子層堆積(ALD)法、気相成膜法、液相成膜法等により形成することができる。陽極、陰極の形成には、金属箔の接合も用いることができる。これらの方法は各層の材料の特性に応じて選択するのが好ましく、層ごとに作製方法が異なっていても良い。第2の金属酸化物層は、これらの中でも、気相製膜法を用いて形成するのがより好ましい。気相製膜法によれば、有機化合物層の表面を壊すことなく清浄にかつ陽極と接触よく形成することができ、その結果、上述したような第2の金属酸化物層を有することによる効果がより顕著なものとなる。
【0049】
上記有機電界発光素子の特性をさらに向上させる等の理由から、必要に応じて例えば正孔阻止層、電子阻止層などを有していてもよい。これらの層を形成するための材料としては、これらの層を形成するために通常用いられる材料を用い、また、これらの層を形成するために通常用いられる方法により層を形成することができる。
【0050】
また、積層構造の最後の電極を形成した後に、表面を保護するパッシベーション層をその上に形成してもよい。パッシベーション層の材料としてはこれらの層を形成するために通常用いられる材料を用いることができる。例えば、上述した正孔輸送層の材料及び/又は金属酸化物層の材料を用いることができるが、絶縁を保持できる組み合わせであればこれに限らない。
【0051】
上記パッシベーション層の平均厚さは、特に制限されないが、20~300nmであることが好ましい。より好ましくは、50~200nmである。
パッシベーション層の平均厚さは、水晶振動子膜厚計により成膜時に測定することができる。
【0052】
本発明の光照射装置を構成する有機電界発光素子において、基板の材料としては、樹脂材料、ガラス材料等が挙げられる。
基板に用いられる樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレート等が挙げられる。基板の材料として、樹脂材料を用いた場合、柔軟性に優れた有機電界発光素子が得られる。
基板に用いられるガラス材料としては、石英ガラス、ソーダガラス等が挙げられる。
【0053】
上記基板の平均厚さは、10~150μmであることが好ましい。より好ましくは、10~50μmである。
基板の平均厚さはデジタルノギスにより測定することができる。
【0054】
上記有機電界発光素子は、パッシベーション層の上に更に封止層を有していてもよい。封止層を形成する材料としては上記基板の材料と同様のものを用いることができ、封止層の厚みも上記基板の厚みと同様であることが好ましい。
【0055】
本発明の光照射装置を構成する有機電界発光素子に封止を施す場合、封止工程としては、通常の方法を適宜使用できる。例えば、不活性ガス中で封止容器を接着する方法や、有機電界発光素子の上に直接封止膜を形成する方法などが挙げられる。これらに加えて、水分吸収材を封入する方法を併用してもよい。
上述した逆構造の有機電界発光素子は、順構造の有機電界発光素子に比べると厳密な封止は必要ないが、必要であれば封止を施しても良い。
【0056】
上記有機電界発光素子は、基板がある側とは反対側に光を取り出す(すなわち、基板がある側とは反対側が光取り出し面である)トップエミッション型のものであってもよく、基板がある側に光を取り出す(すなわち、基板がある側が光取り出し面である)ボトムエミッション型のものであってもよい。
【実施例0057】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0058】
(有機電界発光素子の作製)
(実施例1)
[工程1]市販されている平均厚さ0.7mmのITO電極層付き透明ガラス基板1を用意した。この時、基板のITO電極2は幅2mmにパターニングされているものを用いた。この基板を超純水ですすいだ後、クリーンエースの希釈液中で5分間×2回超音波洗浄した。その後、超純水中で5分間×2回超音波洗浄し、イソプロパノール中で5分間煮沸した。この基板をイソプロパノール中から取り出し、窒素ブローにより乾燥させ、UVオゾン洗浄を20分行った。
[工程2]この基板を、亜鉛金属ターゲットを持つミラトロンスパッタ装置の基板ホルダーに固定した。約5×10-5Paまで減圧した後、アルゴンと酸素を導入した状態でスパッタし、第1の金属酸化物層3として、膜厚約2nmの酸化亜鉛層を作成した。
この時にメタルマスクを併用して、電極取り出しのためITO電極の一部は酸化亜鉛が成膜されないようにした。
[工程3]この基板を超純水中で15分間超音波洗浄後、イソプロパノール中で5分間煮沸した。この基板をイソプロパノール中から取り出し、窒素ブローにより乾燥させ、UVオゾン洗浄を20分行った
[工程4]次に電子注入層である有機バッファ層4を形成するため、日本触媒社製ポリエチレンイミン(登録商標:エポミン)をエタノールにより0.1質量%に希釈したものを2000rpm、30秒の条件でスピンコートした。ここで用いたエポミンは分子量70000のP1000であった。
[工程5]次に、発光層5としてAlqを35nm、正孔輸送層6および電荷発生層のドナー層としてα-NPDを45nmの膜厚となるように真空蒸着法により積層した。
[工程6]次に、正孔輸送層6の上に、正孔注入層7および電荷発生層のアクセプター層を形成した。ここでは、酸化モリブデンを10nmの膜厚となるように真空蒸着法により形成した。
[工程7]次に、最終工程として正孔注入層7上に陽極8を形成した。ここでは、アルミニウムを100nmの膜厚となるように真空蒸着法により製膜した。
以上の工程[工程1]~[工程5]により、図1の構成を持つ有機電界発光素子11を作製した。
【0059】
実施例1で製造した有機電界発光素子11の特性(周波数特性)を下記有機電界発光素子の発光特性測定により評価した。結果を図2に示した。
<有機電界発光素子の発光特性測定>
エヌエフ回路設計ブロック社製のファンクションジェネレータにより、素子への任意の周波数変調を行った定電圧印加を行った。デューティー灯は50%とし、ON時の電圧は輝度が連続駆動の際に1000cd/m程度になるような電圧とし、OFF時は0Vとした。コニカミノルタ社製の輝度計により、発光輝度を測定し、周波数特性の評価を行った。
【0060】
(比較例1)
実施例1の素子と同じ材料を用い、かつ電荷発生層形成を含まない(酸化モリブデンを用いない)順構造の素子を以下の[工程1-11]~[工程3-11]で作製し、比較例1の素子を得た。比較例1の素子は、有機材料の総膜厚も実施例1の素子と同一である。
得られた比較例1の素子の特性(周波数特性)を実施例1の素子と同じ方法で評価した。結果を図3に示した。
[工程1-11]市販されている平均厚さ0.7mmのITO電極層付き透明ガラス基板1を用意した。この時、基板のITO電極は幅2mmにパターニングされているものを用いた。これを本比較例では陽極として用いた。この基板を超純水ですすいだ後、クリーンエースの希釈液中で5分間×2回超音波洗浄した。その後、超純水中で5分間×2回超音波洗浄し、イソプロパノール中で5分間煮沸した。この基板をイソプロパノール中から取り出し、窒素ブローにより乾燥させ、UVオゾン洗浄を20分行った。
[工程2-11]次に、正孔注入層および正孔輸送層としてα-NPDを30nm、発光層としてAlqを50nm、真空蒸着法により積層した。
[工程3-11]次に、最終工程として、電子注入層としてフッ化リチウムを1nm、陰極としてアルミニウムを100nmの膜厚となるように真空蒸着法により製膜した。
【0061】
実施例1、比較例1の素子の周波数特性を比較すると、高い周波数で明白な輝度の差がわかる。具体的には1MHzでは実施例1の素子では発光輝度が低下しているものの、未だ最大輝度の2割程度の輝度は確認できる。一方、比較例1の素子では、ほぼ発光が確認できない。ここで、実施例1の素子は、電荷発生層を形成可能なα-NPDと酸化モリブデンの積層構造を有している。加えて、本構造のような金属酸化物層(有機バッファ層)/発光層の構造を有する有機電界発光素子について、金属酸化物層(有機バッファ層)/発光層界面での電荷蓄積が幾つかの実験から報告されている。酸化亜鉛上にポリエチレンイミン高分子が形成された場合は非特許文献1により開示されており仕事関数は3.1eV程度、一方、AlqのLUMOは3.0eV程度が文献により報告されている事からエネルギー差は少なくとも0.1eV程度はあることになる。以上から、実施例1の素子と比較例1の素子はほぼ同材料を用いながら、周波数特性に明確な違いを見出した。なお、本結果の傾向、つまり、何らかの方法により一対の電極から注入される電荷以外の電荷を該素子内に存在させることを特徴とする有機電界発光素子を用意した場合、そうでない有機電界発光素子に比べてより高い周波数で駆動が可能であるという傾向は、原理的に発光面積に依存しないことから、発光面積が1cm以上や9cm以上、25cm以上の素子でも同様であることは明らかである。
【符号の説明】
【0062】
11:有機EL素子(有機電界発光素子)、1:基板、2:陰極、3:金属酸化物層、4:有機バッファ層、5:発光層、6:正孔輸送層、7:正孔注入層、8:陽極
図1
図2
図3