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特開2022-124401多孔質膜形成用ポリマー組成物、多孔質膜の製造方法、多孔質膜、フレキシブル金属張積層板及び電子基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022124401
(43)【公開日】2022-08-25
(54)【発明の名称】多孔質膜形成用ポリマー組成物、多孔質膜の製造方法、多孔質膜、フレキシブル金属張積層板及び電子基板
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/28 20060101AFI20220818BHJP
【FI】
C08J9/28 CFG
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021022146
(22)【出願日】2021-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】591021305
【氏名又は名称】太陽ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119079
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 佐保子
(72)【発明者】
【氏名】本松 譲
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AA74
4F074AB01
4F074CB34
4F074CB47
4F074DA02
4F074DA03
4F074DA08
4F074DA19
4F074DA23
4F074DA24
4F074DA47
4F074DA54
(57)【要約】
【課題】低誘電率及び低誘電正接を有し、液の浸透性や吸水性の問題が改善され、機械的強度の低下のおそれが抑えられた多孔質膜を形成するためのポリマー組成物を提供する。
【解決手段】ポリマーと、溶剤(A)と、溶剤(B)とを含み、前記溶剤(A)は、100℃以上の沸点を有し、かつ前記ポリマーを、前記10質量%の濃度で溶解させた溶液が、25℃において150dPa・s以上の粘度を有し、前記溶剤(B)は、100℃未満の沸点を有し、かつ前記ポリマーを10質量%の濃度で溶解させた溶液が、25℃において50dPa・s未満の粘度を有する、多孔質膜形成用ポリマー組成物。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーと、溶剤(A)と、溶剤(B)とを含み、
前記溶剤(A)は、100℃以上の沸点を有し、かつ前記ポリマーを、前記10質量%の濃度で溶解させた溶液が、25℃において150dPa・s以上の粘度を有し、
前記溶剤(B)は、100℃未満の沸点を有し、かつ前記ポリマーを10質量%の濃度で溶解させた溶液が、25℃において50dPa・s未満の粘度を有する、
多孔質膜形成用ポリマー組成物。
【請求項2】
前記溶剤(A)が、アルキレングリコールモノアルキルエーテルである、請求項1記載の多孔質膜形成用ポリマー組成物。
【請求項3】
前記溶剤(A)が、プロピレングリコール1-モノメチルエーテル及びジエチレングリコールモノエチルエーテルからなる群より選ばれる1種以上である。請求項1又は2記載の多孔質膜形成用ポリマー組成物。
【請求項4】
前記溶剤(B)が、アセトン、酢酸エチル及びテトラヒドロフランからなる群より選ばれる1種以上である、請求項1~3のいずれか一項記載の多孔質膜形成用ポリマー組成物。
【請求項5】
前記溶剤(A)の沸点と前記溶剤(B)の沸点の差が40℃以上150℃以下である。請求項1~4のいずれか一項記載の多孔質膜形成用ポリマー組成物。
【請求項6】
前記ポリマーが、ポリイミドである、請求項1~5のいずれか一項記載の多孔質膜形成用ポリマー組成物。
【請求項7】
前記溶剤(A)の質量と前記溶剤(B)の質量の比が8:2~2:8である、請求項1~6のいずれか一項記載の多孔質膜形成用ポリマー組成物。
【請求項8】
前記ポリマーの質量と、前記溶剤(A)の質量と、前記溶剤(B)の質量の合計100質量部に対して、前記ポリマーの質量が5質量部以上30質量部以下である、請求項1~7のいずれか一項記載の多孔質膜形成用ポリマー組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項記載の多孔質膜形成用ポリマー組成物を基材に塗布し、塗膜を形成する工程、
前記塗膜を100℃未満の温度で保持し、多孔質化する工程、及び
多孔質化した塗膜を100℃以上の温度で保持し、乾燥させる工程
を含む、多孔質膜の製造方法。
【請求項10】
前記多孔質化する工程が、前記塗膜を10℃以上80℃以下の温度で保持する工程である、請求項9記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項11】
前記乾燥させる工程が、多孔質化した塗膜を150℃以上350℃以下の温度で保持し、乾燥させる工程である、請求項9又は10記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項12】
平均孔径が0.1μm以上3.0μm以下の多孔質層と、その少なくとも一方の表面に、厚み3.0μm以上のスキン層を備えた多孔質膜。
【請求項13】
前記多孔質層がポリイミドからなる、請求項12記載の多孔質膜。
【請求項14】
10GHzで測定した誘電率が2.5以下である、請求項12又は13の多孔質膜。
【請求項15】
請求項12~14のいずれか一項記載の多孔質膜上に金属箔が積層されたフレキシブル金属張積層板。
【請求項16】
請求項12~14のいずれか一項記載の多孔質膜を備えた電子基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質膜形成用ポリマー組成物、多孔質膜の製造方法、多孔質膜。フレキシブル金属張積層板及び電子基板に関する。
【0002】
近年、第5世代移動通信方式(5G)に対応する移動体通信機器が出現し、さらに第6世代を見据えた開発が開始されている。移動体通信機器等においては、小型化の要請があり、省スペースを図るために、プリント配線板にはフレキシブルなポリマーフィルムに金属箔を張り合わせたフレキシブル金属張積層板が用いられることが多い。
【0003】
一方、移動体通信機器等では、大容量の情報を高速で伝送・処理するため、高周波数帯(GHzオーダー)の電気信号の使用が増えている。高周波数帯の信号は、減衰しやすく、使用される材料には伝送損失を抑制する工夫が求められている。加えて、これらの機器では発熱量が大きく、材料には耐熱性も求められている。
【0004】
これらを背景に、伝送損失の低減を可能とする低誘電率及び低誘電正接を有するポリマーフィルムが開発されている。ポリイミドは、耐熱性に優れた材料として知られているが、ポリイミドフィルムに関しては、フィルムの多孔質化を図り、誘電特性を改善する方法が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1では、低誘電率フィルムの製造方法としては、例えば、低誘電率で厚さが10μm以下のナノ孔質ポリマーフィルムの製造方法であって、最低沸点溶媒と最高沸点溶媒との沸点差が約50℃以上である少なくとも2種の溶媒を含む溶液中でポリマーを提供して、30nm未満の平均気孔サイズの気孔をフィルムに形成することを含むナノ孔質ポリマーフィルムの製造方法、及びこの方法によって製造されたナノ孔質フィルムが提案されている。
【0006】
例えば、特許文献2では、ポリイミド前駆体の均一溶液(A)と、該ポリイミド前駆体の貧溶媒(B)からなるフィルム状組成物(C)であって、上記貧溶媒はポリイミド前駆体のイミド化開始温度より高い温度あるいはそれと同等の温度に沸点または熱分解点を有し、前記フィルム状組成物を加熱処理してイミド化することを特徴とするフィルム両面に緻密層を有し、フィルム中央部は多孔質層からなる多孔質ポリイミドフィルムの製造法、及びこの方法によって製造された多孔質ポリイミドフィルムが提案されている。
【0007】
さらに、特許文献3では、ポリマー材料からなるフィルムに微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムであって、フィルムの空孔率が60%以上であり、空孔の平均孔径が10μm以下であるフィルムが提案され、特許文献4では、ポリマー材料からなるベース材料層に微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムであって、ベース材料層の少なくとも一方の表面に、ベース材料層のポリマー材料からなる実質的に平滑なスキン層が形成されていることを特徴とするフィルムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000-154268号公報
【特許文献2】特開2001-151929号公報
【特許文献3】特開2018-21171号公報
【特許文献4】特開2018-21172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1のフィルムは、基材上にポリマー塗膜を形成した後、ポリマーに対する非溶媒と接触させ、相転換をもたらすことで得られため、製造に多段階の処理を必要とし、得られたフィルムには、空孔が表面付近にも存在するため、例えばめっき処理を行った場合に液の浸透性や吸水性の問題があり、また、機械的強度が低いといった問題もある。
特許文献2では、フィルム製造工程の熱処理によって、ポリイミド前駆体からポリイミドへの転換を図るため、独立した空孔のサイズの制御が困難である。
特許文献3及び4では、実際に得られるフィルムの空孔のサイズ(平均孔径)は、4.4~9.8μmであり、上記しためっき処理における液の浸透性や吸水性の問題を避けられず、機械的強度も低いといった問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、低誘電率及び低誘電正接を有し、液の浸透性や吸水性の問題が改善され、かつ機械的強度の低下のおそれが抑えられた多孔質膜を形成するためのポリマー組成物を提供することを目的とし、また、そのような多孔質膜及び多孔質膜の製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
本発明の要旨構成は以下のとおりである。
[1]ポリマーと、溶剤(A)と、溶剤(B)とを含み、
前記溶剤(A)は、100℃以上の沸点を有し、かつ前記ポリマーを、前記10質量%の濃度で溶解させた溶液が、25℃において150dPa・s以上の粘度を有し、
前記溶剤(B)は、100℃未満の沸点を有し、かつ前記ポリマーを10質量%の濃度で溶解させた溶液が、25℃において50dPa・s未満の粘度を有する、
多孔質膜形成用ポリマー組成物。
[2]前記溶剤(A)が、アルキレングリコールモノアルキルエーテルである、[1]の多孔質膜形成用ポリマー組成物。
[3]前記溶剤(A)が、プロピレングリコール1-モノメチルエーテル及びジエチレングリコールモノエチルエーテルからなる群より選ばれる1種以上である。[1]又は[2]の多孔質膜形成用ポリマー組成物。
[4]前記溶剤(B)が、アセトン、酢酸エチル及びテトラヒドロフランからなる群より選ばれる1種以上である、[1]~[3]のいずれかの多孔質膜形成用ポリマー組成物。
[5]前記溶剤(A)の沸点と前記溶剤(B)の沸点の差が40℃以上150℃以下である。[1]~[4]のいずれか一項記載の多孔質膜形成用ポリマー組成物。
[6]前記ポリマーが、ポリイミドである、[1]~[5]のいずれかの多孔質膜形成用ポリマー組成物。
[7]前記溶剤(A)の質量と前記溶剤(B)の質量の比が8:2~2:8である、[1]~[6]のいずれかの多孔質膜形成用ポリマー組成物。
[8]前記ポリマーの質量と、前記溶剤(A)の質量と、前記溶剤(B)の質量の合計100質量部に対して、前記ポリマーの質量が5質量部以上30質量部以下である、[1]~[7]のいずれかの多孔質膜形成用ポリマー組成物。
[9][1]~[8]のいずれかの多孔質膜形成用ポリマー組成物を基材に塗布し、塗膜を形成する工程、
前記塗膜を100℃未満の温度で保持し、多孔質化する工程、及び
多孔質化した塗膜を100℃以上の温度で保持し、乾燥させる工程
を含む、多孔質膜の製造方法。
[10]前記多孔質化する工程が、前記塗膜を10℃以上80℃以下の温度で保持する工程である、[9]の多孔質膜の製造方法。
[11]前記乾燥させる工程が、多孔質化した塗膜を150℃以上350℃以下の温度で保持し、乾燥させる工程である、請求項9又は10記載の多孔質膜の製造方法。
[12]平均孔径が0.1μm以上3.0μm以下の多孔質層と、その少なくとも一方の表面に、厚み3.0μm以上のスキン層を備えた多孔質膜。
[13]前記多孔質層がポリイミドからなる、請求項12記載の多孔質膜。
[14]10GHzで測定した誘電率が2.5以下である、請求項12又は13の多孔質膜。
[15][12]~[14]のいずれかの多孔質膜上に金属箔が積層されたフレキシブル金属張積層板。
[16][12]~[14]のいずれかの多孔質膜を備えた電子基板。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、低誘電率及び低誘電正接を有し、液の浸透性や吸水性の問題が改善され、機械的強度の低下のおそれが抑えられた多孔質膜を形成するためのポリマー組成物が、そのような多孔質膜及び多孔質膜の製造方法とともに提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例3の多孔質膜の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)像である(2500倍)。
図2】実施例3の多孔質膜の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)像及び2値化解析の結果を示す図である(5000倍)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<ポリマー組成物>
本発明の多孔質膜形成用ポリマー組成物は、ポリマーと、溶剤(A)と、溶剤(B)とを含む。多孔質膜形成用ポリマー組成物を用いた多孔質膜の製造は、組成物を基材に塗布し、塗膜を得た後、溶剤(A)と溶剤(B)とを除去することで行うことができるが、その際、沸点が低い溶剤(B)が先に多く揮発し、塗膜表面にスキン層を形成するとともに、沸点が高い溶剤(A)の濃度が増し、塗膜内部の粘度が上昇し、このスキン層による閉じ込め効果と塗膜内部の粘度上昇により、溶剤(A)が気化した際に小径かつ均一な状態で多孔質化が進行すると推測される。この点から、溶剤(B)はポリマーに対して良溶媒であることが好ましく、溶剤(A)はポリマーに対して難溶媒であることが好ましい。
ここで、スキン層は、多孔質膜の断面における表面側に存在する空孔が存在しない層をいう。
スキン層は、多孔質膜の機械的強度の向上、液の浸透性・吸水性の抑制に資するものである。
【0015】
ポリマーとしては、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリフェニレンエーテル等が挙げられるが、機械特性や耐熱性が良好である点から、ポリイミドが好ましい。
【0016】
ここで、ポリイミドは、繰り返し単位にイミド結合を含むポリマーである。ポリイミドの中でも、繰り返し単位にエーテル結合を含むポリエーテルイミド、フッ素原子を有するフッ素化ポリイミドが好ましい。
【0017】
ポリマーは、機械的強度向上の点から、重量平均分子量(Mw)が10,000以上であることが好ましく、より好ましくは50,000以上である。また、塗工作業性向上の点から、Mwは1,000,000以下であることが好ましく、より好ましくは500,000以下である。
ここで、Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCともいう)を用いて、標準ポリスチレン換算値として求められる値である。
【0018】
ポリイミドとしては、テトラカルボン酸二水物とジアミンとを反応させ、脱水閉環することにより得ることができる。
上記テトラカルボン酸二水物としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物等が挙げられる。テトラカルボン酸二無水物は、単独で又は2種以上を併用してもよい。
上記ジアミンとしては、例えば、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,4-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエン、ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-2,2-ジメチルビフェニル、2,2-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル等が挙げられる。ジアミンは、単独で又は2種以上を併用してもよい。
【0019】
溶剤(A)及び溶剤(B)は、それらに対してポリマーが溶解性を有する溶剤である。
溶剤(A)は、100℃以上の沸点を有し、かつポリマーを10質量%の濃度で溶剤(A)に溶解させた溶液が、25℃において150dPa・s以上の粘度を有するものである。粘度は、多孔質層の形成性向上の点から、170dPa・s以上であることが好ましい。また、塗工の作業性向上の点から、1,000dPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは500dPa・s以下である。
ここで、粘度は、E型粘度計で、ローター3°×R14を用い、回転数5rpm、30秒値で測定した値とする。
【0020】
溶剤(B)は、100℃未満の沸点を有し、かつポリマーを10質量%の濃度で溶剤(B)に溶解させた溶液が、25℃において50dPa・s未満の粘度を有するものである。粘度は、良好な機械特性の点から、5dPa・s以上であることが好ましい。また、スキン層の形成性向上の点から、30dPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは20dPa・s以下である。
ここで、粘度は、E型粘度計で、ローター3°×R14を用い、回転数5rpm、30秒値で測定した値とする。
【0021】
溶剤(A)の沸点と溶剤(B)の沸点の差は、40℃以上であることが好ましく、より好ましくは50℃以上である。沸点の差の上限は、特に限定されないが、150℃以下とすることができる。溶剤(A)及び溶剤(B)の少なくともいずれかが2種以上からなる場合、いずれかの溶剤(A)と溶剤(B)の組み合わせが、上記の沸点の差を満たすことが好ましく、溶剤(A)と溶剤(B)の全ての組み合わせが、上記の沸点の差を満たすことがより好ましい。
【0022】
溶剤(A)と溶剤(B)は、ポリマーに応じて、適宜選択することができる。ポリマーが、例えば、ポリエーテルイミド、ポリフッ化イミドなどのポリイミドの場合、溶剤(A)としては、アルキレングリコールモノアルキルエーテルが挙げられる。アルキレングルコールモノアルキルエーテルにおけるアルキレン部分は酸素原子によって中断されていてもよい。
例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル(沸点124℃)、エチレングリコールモノエチルエーテル(135℃)、エチレングリコールモノn-プロピルエーテル(沸点150℃)、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル(144℃)、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル(168℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(194℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(196℃)、プロピレングリコール1-モノメチルエーテル(1-メトキシ-2-プロパノール、沸点121℃)、プロピレングリコール2-モノメチルエーテル(2-メトキシ-1-プロパノール、沸点130℃)、1-エトキシ-2-プロパノール(沸点131℃)、2-エトキシ-1-プロパノール(沸点141℃)、1-プロポキシ-2-プロパノール(沸点148℃)等が挙げられる。中でも、1-メトキシ-2-プロパノール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等が好ましい。
溶剤(A)は、1種以上であっても、2種以上を併用してもよい。
【0023】
ポリマーが、例えば、ポリエーテルイミド、ポリフッ化イミドなどのポリイミドの場合、溶剤(B)としては、アセトン(56.5℃)、酢酸エチル(77.1℃)及びテトラヒドロフラン(68℃)が挙げられる。ポリイミドに対する溶解性が良好である点からテトラヒドロフランが好ましい。
溶剤(B)は、1種以上であっても、2種以上を併用してもよい。
【0024】
溶剤(A)の質量と溶剤(B)の質量の比(溶剤(A)の質量:溶剤(B)の質量)は、低誘電率と良好な機械特性の両立の点から、8:2~2:8であることが好ましく、より好ましくは7:3~3:7である。溶剤(A)が2種以上の場合、上記溶剤(A)の質量は合計値であり、溶剤(B)が2種以上の場合、上記溶剤(B)の質量は合計値である。以下も同様とする。
【0025】
ポリマーの質量と、溶剤(A)の質量と、溶剤(B)の質量の合計100質量部に対して、ポリマーの質量は、塗工の作業性向上の点から、5質量部以上であることが好ましく、より好ましくは10質量部以上である。また、多孔質層の形成性向上の点から、50質量部以下であることが好ましく、より好ましくは25質量部以下である。
【0026】
ポリマー組成物は、ポリマー、溶剤(A)及び溶剤(B)を混合することで製造することができる。
【0027】
ポリマー組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の添加剤を配合してもよく、例えば、着色剤、増粘剤、酸素除去剤、蛍光増白剤、界面活性剤、酸化防止剤、可塑剤、架橋剤、難燃剤、耐電防止剤、レベリング剤、ガラス繊維、ケイ素系繊維、無機粉末および抗菌剤等が挙げられる。
樹脂組成物は、ポリマー、溶剤(A)及び溶剤(B)から構成されるものであってもよい。
【0028】
<多孔質膜>
本発明の多孔質膜形成用ポリマー組成物を用いて多孔質膜を製造することができる。例えば、製造工程は、
基材に塗布し、塗膜を形成する工程、
前記塗膜を100℃未満の温度で保持し、多孔質化する工程、及び
多孔質化した塗膜を100℃以上の温度で保持し、乾燥させる工程
を含む。本発明のポリマー組成物によれば、自立性を有する多孔質膜を得ることができる。
【0029】
基材は、特に限定されず、ガラス、銅張積層板、樹脂フィルム(ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド)等が挙げられる。基材上に多孔質膜を形成し、基材付きフィルムとすることも、基材を剥離させてフィルムとすることもできる。フレキシブル金属張積層板の用途に使用する場合は、金属箔を基材として塗布を行い、金属箔上に多孔質膜を形成することもできる。あるいは、エンドレスベルト(例えば金属製ベルト)を基材として塗布を行い、エンドレスベルト上に多孔質膜を形成し、多孔質膜からなるフィルムを得ることもできる。
【0030】
基材へのポリマー組成物の塗布の方法は特に限定されず、スピンコート法、ブレードコート法、スリットコート法、スクリーン印刷、インクジェットコート法、各種アプリケーター及びディスペンサーを用いた塗布方法が挙げられる。
【0031】
ポリマー組成物の塗布の厚みは、特に限定されず、多孔質膜の使用目的等に応じて選択することができる。例えば、10μm以上とすることができ、低誘電特性と良好な機械特性の両立の点から25μm以上が好ましい。また、100μm以下とすることができ、50μm以下が好ましい。
【0032】
本発明の多孔質膜の製造方法は、塗布後の塗膜を100℃未満の温度で保持し、多孔質化する工程を含む。この工程は、大気圧又は減圧下で行うことができる。
【0033】
温度は、溶剤(B)の沸点以下であることが好ましく、50℃以下がより好ましい。下限は、10℃以上が好ましい。多孔質化する工程は、室温(10℃以上30℃以下)で行うことが好ましい。
【0034】
上記温度に保持する時間は、塗膜内部に空孔が形成される時間であれば限定されないが、15分以上とすることができ、好ましくは30分以上である。上限は特に限定されないが、効率の点から1時間以下とすることが好ましい。
【0035】
多孔質化していることは、塗膜の不透明化により、目視で確認することができる。
【0036】
本発明の製造方法は、多孔質化した塗膜を100℃以上の温度で保持し、乾燥させる工程を含む。この工程で、塗膜に存在する溶剤(A)及び溶剤(B)を除去する。この工程は、大気圧又は減圧下で行うことができる。
【0037】
温度は、残留溶剤低減の点から、150℃以上が好ましく、より好ましくは200℃以上である。また、多孔質層の形態保持の点から、350℃以下が好ましく、より好ましくは300℃以下である。
【0038】
上記温度に保持する時間は、残留溶剤低減の点から、10分以上とすることができ、好ましくは30分以上である。上限は特に限定されないが、効率の点から1時間以下とすることが好ましい。
【0039】
これらの工程を経て基材上に多孔質膜を形成し、基材付きフィルムとして提供することができる。得られる多孔質膜は自立性を有しており、基材を剥離してフィルムとすることができる。
【0040】
多孔質膜は、平均孔径が0.1μm以上3.0μm以下の空孔を有する多孔質層とその少なくとも一方の表面にスキン層を備えている。
多孔質膜の断面におけるスキン層の厚みは、低誘電特性と良好な機械特性の両立の点から、3.0μm以上とすることができ、5.0μm以上が好ましい。上限は、20μm以下とすることができ、10μm以下が好ましい。
ここで、スキン層の厚みは、多孔質膜の断面を走査型電子顕微鏡で観察し、倍率2500で観察を行い、画像(50μm×40μm)の任意の3カ所において、スキン層の厚みを測定し、平均することにより求めることができる。
このような空孔とスキン層の制御により、本発明では、機械的強度の低下のおそれが抑えられ、液の浸透性や吸水性の問題を容易に回避することができる。
【0041】
多孔質層における空孔の平均孔径は、良好な機械特性と液浸透抑制の点から、0.1μm以上、3.0μm以下が好ましい。
ここで、平均孔径は、多孔質膜の断面を走査型電子顕微鏡で観察し、倍率5000の画像にて、一視野(25μm×20μm)に含まれる孔の内、走査型電子顕微鏡像に2値化を施し、孔を識別後、各孔の面積を画像解析して、円相当径として孔径を算出し、平均値を求めることができる。解析ソフトはImageJを用いることができ、また、孔径0.1μm未満は平均孔径の算出に加えていないこととする。
【0042】
多孔質膜は、低誘電率化の点から、多孔質膜の空孔率が10%以上であることが好ましく、20%以上がより好ましい。上限は、70%以下とすることができ、60%以下が好ましい。無孔質膜の比重は、実質的に多孔質膜を構成するポリマーの比重に相当する。
ここで、空孔率は、下記式を用いて算出した。
空孔率(%)=(1-多孔質膜の比重/無孔質膜の比重)×100
【0043】
多孔質膜の10GHzで測定した誘電率は2.5以下であることができ、好ましくは2.0以下である。また、多孔質膜の10GHzで測定した誘電正接は0.01以下であることが好ましい。
【0044】
本発明によれば、用いるポリマーが無色透明である場合、白色度に優れた多孔質膜を得ることができる。多孔質膜のOD値は、0.2以上1以下とすることができる。
【0045】
本発明の多孔質膜は、基材付きフィルム、多孔質膜を含む積層体とすることができる。積層体は、本発明の多孔質膜同士又は本発明の多孔質膜と他のフィルムを、熱ラミネート、接着剤により積層したものであることができる。例えば、本発明の多孔質膜又は他のフィルム上に配線を形成し、配線の上から本発明の多孔質膜を積層させることができる。
【0046】
本発明の多孔質膜は、優れた誘電特性を生かし、低誘電率フィルムとして有用であり、多孔質膜に金属箔が積層されたフレキシブル金属張積層板、多孔質膜を備えた電子基板とすることができる。多孔質膜は、高周波アンテナ基板や高速伝送用のフレキシブル基板に適しており、また、用いるポリマーが無色透明である場合、白色度に優れた多孔質膜が得られる点から、LEDの反射膜等への応用も可能である。
【実施例0047】
本発明を、実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。以下において「部」および「%」は、特に断りのない限り全て質量基準である。
【0048】
実施例における測定及び評価は、以下のようにして行った。
【0049】
(重量平均分子量)
重量平均分子量(Mw)は、GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)により測定し、ポリスチレン換算により算出した。
【0050】
(粘度)
ポリマーを溶剤に溶解して濃度10質量%の溶液を調製し、25℃で、E型粘度計(東洋精機社製)で、ローター3°×R14を用い、回転数5rpm、30秒値で測定し、粘度を求めた。
【0051】
(厚み)
多孔質膜の両面に金(Au)を蒸着した後、剃刀で切断して断面を露出させ、カーボンを蒸着した。走査型電子顕微鏡(日本電子社製)を用いて、倍率2500で観察を行い、画像の任意の3カ所において、対象となる厚みを測定し、平均することにより平均の厚みを求めた。
【0052】
(平均孔径)
多孔質膜を剃刀で切断し、断面を露出させ、カーボンを蒸着した。走査型電子顕微鏡(日本電子社製)を用いて、倍率5000で観察を行い、一視野に含まれる孔の内、20孔をランダムに選定し、その孔の円相当径を測長し、平均して求めた。選定した孔に、孔径0.1μm未満の孔は含まれていない。
【0053】
(空孔率)
比重は、3cm角に切断した多孔質膜の重量を電子天秤で測定し、膜厚をマイクロメーターで測定することにより、下記式を用いて算出した。
比重(g/cm)=重量/(膜厚×面積)
空孔率は、下記式を用いて算出した。
空孔率(%)=(1-多孔質膜の比重/無孔質膜の比重)×100
【0054】
(誘電特性)
ENAネットワークアナライザー(アジレント・テクノロジー社製)、SPDR共振器を用いて、10GHzの比誘電率および誘電正接を測定した。
【0055】
(OD値)
光学濃度計(361TVisual;X-Rite社製)を用いて、多孔質膜の入射光及び透過光の強度をそれぞれ測定し、以下の式より遮光性OD値を算出した。
OD値 = log10(I/I)
:入射光強度
I:透過光強度
【0056】
(伸び率)
多孔質膜を短冊状(50mm×5mm)に切断し、引っ張り試験機(島津製作所社製)を用いて、チャック幅30mm、引張速度30mm/minで引張した。得られた結果のうち上位3つの値を平均して伸び率を得た。
【0057】
(液の浸透性)
多孔質膜を切断し、断面を露出させた。赤色浸透液(太洋物産製、日本レッドチェックNRC-AL2450)に5分間浸漬後、表面に付着した浸透液をふき取った。多孔質膜をさらに露出断面に対し垂直に切断し、液浸長を光学顕微鏡により評価した。
【0058】
実施例で使用したポリイミドは以下のとおりである。
河村産業製 KPI-MX300F(Mw:300,000、比重1.53g/cm
【化1】
【0059】
実施例で使用した溶剤及び上記粘度の測定方法で、測定したポリイミドを濃度10質量%で溶解させた溶液の粘度は、以下のとおりである。
【表1】
【0060】
<実施例1>
テトラヒドロフラン(THF)68g及びプロピレングリコール1-モノメチルエーテル(PGME)17gを含む混合溶媒に、ポリイミド15gを添加し、均一になるまで混合し、ポリマー溶液を得た。
得られた溶液を、ソーダガラス上に、アプリケーターを用いて、乾燥後の最終膜厚が25μmとなるような塗布厚みで塗布し、ソーダガラス上に塗膜を形成した。
25℃に設定した恒温槽に、塗膜を形成したソーダガラスを静置して、30分間保持した。保持後、目視による不透明化により、塗膜の多孔質構造の有無を確認した。
次いで、200℃の熱風オーブン中で、30分間保持し、塗膜を乾燥させた。得られた膜について各種評価を行った。
結果を表2に示す。
【0061】
<実施例2~5、比較例1~2>
THFの質量とPGMEの質量の割合を表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして膜を得て、各種評価を行った。図1及び2に、実施例3の多孔質膜の断面図の走査型電子顕微鏡(SEM)像及びImageJで2値化した結果を示す。平均孔径の算出は、図2(c)に基づき行った。図1のスキン層の上が白く見えるのは、断面観察のために膜表面に処理した金(Au)蒸着膜である。
【0062】
【表2】
【0063】
表2より、実施例の多孔質膜は低誘電率及び低誘電正接を有しており、とりわけ溶剤(A)の質量と溶剤(B)の質量の比が、3:7~7:3の実施例2~3では、誘電特性が良好であり、かつ空孔率も制御されており、液の浸透性の問題が回避され、機械的強度が低下するおそれが抑えられていることがわかる。
【0064】
<実施例6>
アセトン(THF)45g及びプロピレングリコール1-モノメチルエーテル(PGME)45gを含む混合溶媒に、ポリイミド10gを添加し、均一になるまで混合し、ポリマー溶液を得た。
得られた溶液を、ソーダガラス上に、アプリケーターを用いて、乾燥後の最終膜厚が25μmとなるような塗布厚みで塗布し、ソーダガラス上に塗膜を形成した。
25℃に設定した恒温槽に、塗膜を形成したソーダガラスを静置して、30分間保持した。保持後、目視による不透明化により、塗膜の多孔質構造の有無を確認した。
次いで、200℃の熱風オーブン中で、30分間保持し、塗膜を乾燥させた。得られた膜の断面を走査型電子顕微鏡で観察して、得られた膜が平均孔径が0.1μm以上3.0μm以下の多孔質層と表面に厚み3.0μm以上のスキン層を備えた多孔質膜が得られているかどうかを確認した。また、膜について、伸びを測定した。
◎・・・所定の多孔質膜が得られた。膜の伸び率5%以上であった。
〇・・・所定の多孔質膜が得られた。膜の伸び率は5%未満であった。
×・・・多孔質化していない膜が得られた。あるいは、自立した多孔質膜を調製することができなかった。
結果を表3に示す。
【0065】
表3に示す溶剤を使用したこと以外は、実施例6と同様にして膜を得て、各種評価を行った。結果を表3に示す。各実施例では、実施例2~5と同様に、所定の多孔質膜が得られた。
【0066】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のポリマー組成物によれば、低誘電率及び低誘電正接を有し、液の浸透性や吸水性の問題が改善され、かつ機械的強度の低下のおそれが抑えられた多孔質膜を形成することができ、産業上の有用性が高い。
図1
図2