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▶ 日清製粉株式会社の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022124797
(43)【公開日】2022-08-26
(54)【発明の名称】調理済み中華麺類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/109 20160101AFI20220819BHJP
【FI】
A23L7/109 C
A23L7/109 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021022645
(22)【出願日】2021-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】301049777
【氏名又は名称】日清製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長井 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】大谷 彩夏
(72)【発明者】
【氏名】清水 祐輔
【テーマコード(参考)】
4B046
【Fターム(参考)】
4B046LA05
4B046LB04
4B046LB09
4B046LC01
4B046LG04
4B046LG09
4B046LG26
4B046LG51
4B046LP41
4B046LP80
4B046LQ03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】長時間の放置や再加熱を経ても食感が低下しにくい麺類の製造方法の提供。
【解決手段】pH9.0以上の生中華麺をpH3.5~4.9の茹で液でボイルすることを含む、調理済み中華麺の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH9.0以上の生中華麺をpH3.5~4.9の茹で液でボイルすることを含む、調理済み中華麺の製造方法。
【請求項2】
前記ボイル後の中華麺のpHが8.5以上である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記生中華麺が穀粉類100質量部に対しかんすいを0.5~2質量部含有する、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記穀粉類が小麦粉である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記茹で液が食酢、ブドウ果皮発酵エキス、及び有機酸又はその塩からなる群より選択される少なくとも1種の食用の酸を含有する、請求項1~4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記茹で液の質量が前記生中華麺の質量の3倍以上である、請求項1~5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
調理済み中華麺が、冷蔵又は常温保管された後、再加熱されて喫食されるためのものである請求項1~6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
調理済み中華麺が、テイクアウト又はデリバリーされて喫食されるためのものである、請求項1~6のいずれか1項記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調理済み中華麺類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、予め調理された、そのまま又は再加熱して食することができる調理済み麺類が、スーパーやコンビニエンスストアなどで多く販売されている。また調理済み麺類のテイクアウトやデリバリーへの需要が増加している。これらの調理済み麺類は、冷蔵又は常温保管された後、再加熱(主にレンジ加熱)して食されたり、又は温かい状態で数十分間保持された後で食されたりすることが少なくない。しかし、このような状況に晒された調理済み麺類は、茹で伸びや老化などにより食感が低下する。
【0003】
特許文献1には、茹で麺類の製造又は処理過程においてリンゴ酸及びリンゴ酸カルシウムを含有する茹で液を用いることにより、得られた茹で麺類のpHを調整し、苦みを抑えることができることが記載されている。特許文献2には、麺生地を調製し、該麺生地からなる麺線を茹で、溶液に浸漬する工程を含み、該麺生地の調製及び麺線の茹で工程で、1質量%水溶液のpHが4.0~5.5である有機酸及び/又はその塩を使用する麺類の製造方法により、保存性、食感、ほぐれ性に優れた麺が得られることが記載されている。特許文献3には、有機酸又はその塩から選択されるpH調整剤と、海藻エキス又はその粉末、及びアルギン酸又はその塩の少なくとも1つとを含有する麺類茹で水用pH調整剤組成物、ならびに、該組成物を麺類茹で水に添加し麺類茹で水のpHを3.5~6.5に調整すること、これにより茹で麺類の麺質や食感を改善できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60-102158号公報
【特許文献2】特開2002-027930号公報
【特許文献3】特開2016-077223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
テイクアウトやデリバリーなどの食シーンにおいても美味しく食べられる、長時間の放置や再加熱を経ても食感が低下しにくい麺類が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、アルカリのpHを有する生中華麺を、所定のpHの酸性の茹で液でボイルすることにより、時間が経っても又は再加熱しても、粘弾性のある食感を保持した調理済み中華麺を製造することができることを見出した。
【0007】
したがって、本発明は、pH9.0以上の生中華麺をpH3.5~4.9の茹で液でボイルすることを含む、調理済み中華麺の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、時間が経っても又は再加熱しても、粘弾性のある食感を保持した調理済み中華麺を製造することができる。本発明の調理済み中華麺は、店頭で購入後再加熱して食するための麺、あるいはテイクアウト又はデリバリー用の麺として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明による調理済み中華麺の製造方法は、アルカリのpHを有する生中華麺を、酸性の茹で液でボイルすることを含む。
【0010】
本発明の方法で用いる生中華麺は、穀粉類を主原料として含有する原料粉から調製される。該原料粉に含まれる穀粉類の例としては、小麦粉、米粉、大麦粉、モチ大麦粉、そば粉、大豆粉、コーンフラワー、オーツ麦粉、ライ麦粉、ふすま粉などが挙げられる。これらの穀粉類は、いずれか単独又は2種以上の組み合わせで使用することができる。該穀粉類は、α化穀粉等の熱処理粉を含んでいてもよいが、好ましくは非熱処理粉である。該原料粉は、その全量中に、該穀粉類を、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上含有する。
【0011】
好ましくは、該原料粉は小麦粉を含む。好ましくは、該原料粉は、その全量中に、小麦粉を50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上含有する。また好ましくは、該原料粉に使用される穀粉類の80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは100質量%が小麦粉である。該小麦粉は、麺類の製造に一般に使用されるものであればよく、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉、全粒粉などが挙げられるが、好ましくは強力粉、準強力粉、中力粉、及びデュラム粉が挙げられる。これらの小麦粉は、いずれか単独又は2種以上の組み合わせで使用することができる。該小麦粉は、その粒径は特に限定されず、例えばセモリナであってもよい。
【0012】
該原料粉は、必要に応じて澱粉類を含有していてもよい。該澱粉類の例としては、特に限定されず、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、米澱粉などの未加工澱粉、及びそれらを加工(例えば、架橋化、リン酸化、アセチル化、エーテル化、酸化、α化など)した加工澱粉が挙げられる。本発明において、これら未加工澱粉及び加工澱粉は、いずれか単独又は2種以上の組み合わせで使用することができる。該原料粉が澱粉類を含有する場合、該澱粉類の含有量は、該原料粉の全量中、好ましくは50質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0013】
該原料粉は、穀粉類、澱粉類に加えて、麺類の製造に従来用いられる他の成分をさらに含有していてもよい。当該他の成分としては、小麦蛋白質(グルテン)、大豆蛋白質、乳蛋白質、卵黄粉、卵白粉、全卵粉、脱脂粉乳等の蛋白質素材、ならびに、油脂類、かんすい、焼成カルシウム、食物繊維、食塩、糖類、甘味料、香辛料、調味料、ビタミン、ミネラル、栄養強化剤、色素、香料、デキストリン(難消化性含む)、膨張剤、増粘剤、乳化剤、保水剤、保存剤、酵素剤、pH調整剤、酸化還元剤などが挙げられる。該原料粉における該他の成分の合計含有量は、好ましくは10質量%以下である。該原料粉における該他の成分の各々の含有量は、目的とする麺類の種類に応じて適宜決定することができる。
【0014】
該原料粉からの生中華麺の調製は、常法に従って行うことができる。例えば、常法に従って、該原料粉に練り水を添加し、混捏することで麺生地を調製する。得られた麺生地から生麺を製造することができる。例えば、麺生地を、ロール等の通常の手段により圧延し、又は必要に応じて複合と圧延を繰り返して、麺帯を得る。次いで、得られた麺帯を切出し等により成形して、生麺を得ることができる。あるいは、麺生地を押出機等により押出し成形して、生麺を得ることができる。
【0015】
本発明で製造される中華麺の形状は特に限定されず、例えば麺線であっても麺皮類であってもよいが、好ましくは麺線である。
【0016】
本発明で用いられる生中華麺は、ボイルしていない生麺の状態でアルカリのpHを有しており、好ましくはpH9.0以上、好ましくはpH9.5~11.0である。生中華麺のpHが低いと、ボイル後の麺の保管又は再加熱後における食感低下が充分に改善されなくなる。また、生中華麺のpHが11.0を越えるとアルカリ剤による食味の低下を感じやすくなる。上記pH範囲の生中華麺は、当該pHを有する麺生地を調製し、該麺生地を製麺することで製造することができる。例えば、かんすい等のアルカリ剤を原料粉に添加するか、又は麺生地の調製に用いる練り水に添加することによって、アルカリpHの麺生地を得ることができ、これを上記の手順で成形すればアルカリpHの生中華麺を製造することができる。
【0017】
好ましくは、本発明で用いられる生中華麺はかんすいを含有する。かんすいは、市販品などの通常使用されるものを用いることができる。該かんすいは、生中華麺の原料粉に含有されても、練り水に含有されてもよいが、好ましくは練り水に含有されている。該生中華麺におけるかんすいの含有量は、穀粉類100質量部に対し、好ましくは0.5~2質量部、より好ましくは1.0~2.0質量部である。
【0018】
本発明においては、該生中華麺を酸性の茹で液でボイルし、茹で麺類を製造する。該ボイルに使用される茹で液のpHは、好ましくはpH3.5~4.9、より好ましくはpH3.9~4.5、さらに好ましくは3.9~4.2である。茹で液のpHが高すぎると本発明の効果が得られず、一方低すぎると、酸味や酸臭により茹で麺の風味が低下する。当該茹で液は、食用の酸を含有する水溶液であればよい。該食用の酸としては、食酢、有機酸又はその塩、リン酸又はその塩、酸性調味料などが挙げられる。このうち、食酢、有機酸又はその塩、及び酸性調味料が好ましい。食酢の例としては、穀物酢、果実酢等の醸造酢が挙げられる。有機酸の例としては、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸、コハク酸、乳酸、酢酸等などが挙げられる。リン酸の例としては、リン酸三ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム等の単リン酸塩、ピロリン酸塩、ポリリン酸塩、メタリン酸塩等の重合又は縮合リン酸塩が挙げられる。有機酸又はリン酸の塩としては、ナトリウム塩及びカリウム塩が好ましい。酸性調味料としては、市販の酸性調味料、例えばブドウ果皮発酵エキス(例えば(株)エフ・エル・アイのカルマックスシリーズ)などを用いることができる。これらの酸は、いずれか単独又は2種以上の組み合わせで使用することができる。該食用の酸を所定のpHになるように水に添加することで、本発明で用いる酸性の茹で液を調製することができる。該茹で液中における該食用の酸の含有量は、0.001~10質量%であることが好ましい。
【0019】
本発明の方法において、該茹で液による該生中華麺のボイルは、常法に従って行えばよい。例えば、多量の沸騰した該茹で液に該生中華麺を投入し、所定時間ボイルすればよい。ボイルに用いる該茹で液の量は、質量として、該生中華麺の3倍以上であることが好ましい。ボイルの時間は、麺の種類、形状等に応じて適宜調整することができるが、例えば1~10分間程度が好ましい。本発明において、ボイル後の中華麺のpHは、好ましくはpH8.5以上であり、より好ましくはpH9.0以上であり、さらに好ましくはpH9.5~11.0である。必要に応じて、ボイル後の麺を、水洗又は冷却してもよい。
【0020】
本明細書において、茹で液のpHは、温度25℃でのpH値を表す。また本明細書において、生中華麺又はボイル後の麺のpHとは、麺1gを水9mLに懸濁させた懸濁液のpH(25℃)をいう。
【0021】
以上の手順で調理済み中華麺を製造することができる。製造された調理済み中華麺は、そのまま喫食用に提供されてもよいが、常温、冷蔵(チルドを含む)、又は冷凍状態で保管、流通、又は販売されてもよい。本発明により製造された調理済み中華麺は、時間が経っても又は再加熱しても、粘弾性のある食感を保持することができる。したがって、該調理済み中華麺は、冷蔵又は常温保管された後、再加熱(例えば電子レンジ加熱)されて喫食されるための麺として好適である。あるいは、該調理済み中華麺は、温かい状態で数分~数十分間保持された後で喫食される、例えば、テイクアウト又はデリバリーされて喫食されるための麺として好適である。
【実施例0022】
本発明を具体的に説明するために、以下に実施例を記載するが、本発明はこれらの実施
例によって制限されるものではない。
【0023】
小麦粉(準強力粉)100質量部と練り水(水34質量部、かんすい〔「かんすい赤」オリエンタル酵母工業製〕を表1記載の量で含有)を混合し、ミキシング(高速5分間→低速7分間)して麺生地を調製した。該麺生地を製麺ロールにより圧延及び複合して麺帯を作製し、切り刃(#18角)で切り出して生中華麺(麺厚1.65mm)を製造した。得られた生中華麺を、表1記載の酸を含有する沸騰した茹で水で2分間ボイルし、湯切り又は水洗冷却して、調理済み中華麺を製造した。茹で水の量は、麺130gに対し、500mL又は10L(製造例10のみ)とした。生中華麺、及びボイル後の中華麺のpHを測定した。
【0024】
(i)湯切り直後の麺(ボイル直後)、(ii)湯切りし、常温(25℃)で1時間保管した後、スープを添加して電子レンジで約70℃に再加熱した麺(「常温1時間後」)、及び(iii)水洗冷却し、12時間以上冷蔵(4℃)した後、スープを添加して電子レンジで約70℃に再加熱した麺(「冷蔵12時間後」)について、その食感を評価した。評価は、10名の訓練されたパネラーが下記の評価基準に従って行い、10名の評価の平均点を求めた。結果を表1に示す。表1の下段には製造例2及び5の結果を再掲した。
<評価基準>
食感
5点:対照例よりも粘弾性に非常に優れる
4点:対照例よりも粘弾性に優れる
3点:対照例よりも粘弾性にやや優れる
2点:対照例と同等の粘弾性である
1点:対照例よりも粘弾性に劣る
【0025】
【表1】