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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022125120
(43)【公開日】2022-08-26
(54)【発明の名称】硫化物固体電解質
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20220819BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220819BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20220819BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220819BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20220819BHJP
   H01B 1/10 20060101ALI20220819BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20220819BHJP
   C01B 25/14 20060101ALI20220819BHJP
   C01B 25/10 20060101ALI20220819BHJP
   C01B 17/22 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M10/052
H01B1/06 A
H01B1/10
H01B13/00 Z
C01B25/14
C01B25/10
C01B17/22
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103098
(22)【出願日】2022-06-28
(62)【分割の表示】P 2019535640の分割
【原出願日】2018-08-06
(31)【優先権主張番号】P 2017154965
(32)【優先日】2017-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇都野 太
(72)【発明者】
【氏名】津野 利章
(72)【発明者】
【氏名】寺井 恒太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 淳
(57)【要約】
【課題】容量維持率の高いリチウムイオン電池が得られる硫化物固体電解質を提供する。
【解決手段】リチウム、リン及び硫黄を含み、アルジロダイト型結晶構造を有し、CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=25.2±0.5degに回折ピークAを、29.7±0.5degに回折ピークBを有し、固体31P-NMR測定で観測されるガラス由来のピークの総面積に対する、PS 3-ガラス由来のピークの面積比率が95%以上100%以下であり、固体31P-NMR測定で観測される60~120ppmにある全ピークの合計面積に対する、ガラス由来のピークの面積比率が1%以上40%以下であり、前記回折ピークBのSi相対半値幅が1.25以上2.50以下である、硫化物固体電解質。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム、リン及び硫黄を含み、
アルジロダイト型結晶構造を有し、
CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=25.2±0.5degに回折ピークAを、29.7±0.5degに回折ピークBを有し、
固体31P-NMR測定で観測されるガラス由来のピークの総面積に対する、PS 3-ガラス由来のピークの面積比率が95%以上100%以下であり、
固体31P-NMR測定で観測される60~120ppmにある全ピークの合計面積に対する、ガラス由来のピークの面積比率が1%以上40%以下であり、
前記回折ピークBのSi相対半値幅が1.25以上2.50以下である、硫化物固体電解質。
【請求項2】
前記回折ピークBのピーク強度Ipと、該回折ピークBの高角度側裾部の回折強度Ibとの強度比(Ib/Ip)が、0.050以上0.200以下である、請求項1に記載の硫化物固体電解質。
【請求項3】
前記回折ピークBのSi相対半値幅が1.25以上2.00以下である、請求項1又は2に記載の硫化物固体電解質。
【請求項4】
レーザ回折式粒度分布測定により測定される体積基準平均粒子径が0.1μm以上10μm以下である、請求項1~3のいずれかに記載の硫化物固体電解質。
【請求項5】
さらにハロゲンを含む、請求項1~4のいずれかに記載の硫化物固体電解質。
【請求項6】
前記リチウムの前記リンに対するモル比a(Li/P)と、前記硫黄の前記リンに対するモル比b(S/P)と、前記ハロゲンの前記リンに対するモル比c(X/P)とが、下記式(A)~(C)を満たす、請求項5に記載の硫化物固体電解質。
5.0≦a≦7.5 ・・・(A)
6.5≦a+c≦7.5 ・・・(B)
0.5≦a-b≦1.5 ・・・(C)
(式中、b>0且つc>0を満たす。)
【請求項7】
下記式(1)で表される組成を有する、請求項5に記載の硫化物固体電解質。
Li(P1-αα)S (1)
(式中、Mは、Si、Ge、Sn、Pb、B、Al、Ga、As、Sb及びBiからなる群より選択される1以上の元素であり、Xは、F、Cl、Br及びIからなる群から選択される1種以上の元素である。a~cは下記式(A)~(C)を満たす。αは0≦α≦0.3である。)
5.0≦a≦7.5 ・・・(A)
6.5≦a+c≦7.5 ・・・(B)
0.5≦a-b≦1.5 ・・・(C)
(式中、b>0且つc>0を満たす。)
【請求項8】
塩素(Cl)を含む、請求項5~7のいずれかに記載の硫化物固体電解質。
【請求項9】
塩素(Cl)及び臭素(Br)を含む、請求項5~7のいずれかに記載の硫化物固体電解質。
【請求項10】
さらに、CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=15.3±0.5deg、17.7±0.5deg、31.1±0.5deg、44.9±0.5deg又は47.7±0.5degの回折ピークを有する、請求項1~9のいずれかに記載の硫化物固体電解質。
【請求項11】
前記回折ピーク、回折ピークA及び回折ピークBの範囲が中央値の±0.3degである、請求項10に記載の硫化物固体電解質。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載の硫化物固体電解質と、活物質を含む電極合材。
【請求項13】
請求項1~11のいずれかに記載の硫化物固体電解質及び請求項12に記載の電極合材のうち少なくとも1つを含むリチウムイオン電池。
【請求項14】
アルジロダイト型結晶構造を有する硫化物固体電解質(前駆体)を、メディアレス粉砕機で処理する、硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項15】
前記メディアレス粉砕機が、気流式粉砕機又は薄膜旋回式撹拌機である、請求項14に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項16】
前記メディアレス粉砕機がジェットミルである、請求項14に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項17】
熱処理により、前記アルジロダイト型結晶構造を有する硫化物固体電解質を製造する、請求項14~16のいずれかに記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項18】
前記熱処理の温度が350~480℃である、請求項17に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項19】
前記メディアレス粉砕機での処理後に熱処理をしない、請求項14~18のいずれかに記載の硫化物固体電解質の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化物固体電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラ及び携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。電池の中でも、エネルギー密度が高いという観点から、リチウムイオン電池が注目を浴びている。
【0003】
現在市販されているリチウムイオン電池は、可燃性の有機溶媒を含む電解液が使用されているため、短絡時の温度上昇を抑える安全装置の取り付けや短絡防止のための構造及び材料面での改善が必要となる。これに対し、電解液を固体電解質に変えて、電池を全固体化したリチウムイオン電池は、電池内に可燃性の有機溶媒を用いないので、安全装置の簡素化が図れ、製造コストや生産性に優れると考えられている。
【0004】
リチウムイオン電池に用いられる固体電解質として、硫化物固体電解質が知られている。硫化物固体電解質の結晶構造としては種々のものが知られているが、電池の使用温度領域を拡げるという観点からは、広い温度範囲で構造が変化し難い安定な結晶構造が適している。このような硫化物固体電解質として、例えば、アルジロダイト(Argyrodite)型結晶構造を有する硫化物固体電解質(例えば、特許文献1~5参照。)が開発されている。
【0005】
アルジロダイト型結晶構造のような安定相の結晶構造を有する硫化物固体電解質は、製造時に高温(例えば、550℃)での熱処理が必要である。一般的に、高温での熱処理により結晶化は促進され、結晶化度は高くなる。それにより、硫化物固体電解質は硬くなってしまうことがある。硫化物固体電解質が硬いと、電池の製造時に種々の問題が生じる。例えば、硫化物固体電解質粒子を加圧し密着させて固体電解質層を形成する場合(圧密成型)、粒子が変形しにくいため、粒子同士の接触面積が小さくなり、イオンパスの形成が不十分となることがある。また、電極層を形成する場合、硫化物固体電解質粒子と混合する際に、使用される活物質粒子が壊れることがある。
上記問題を解決するためには、例えば、特許文献6に記載されているように、硫化物固体電解質にガラスを多く含ませることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2010-540396号公報
【特許文献2】国際公開WO2015/011937
【特許文献3】国際公開WO2015/012042
【特許文献4】特開2016-24874号公報
【特許文献5】国際公開WO2016/104702
【特許文献6】特開2008-103203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ガラスは結晶に比べて軟らかいため、ガラスを多く含むことで硫化物固体電解質の圧密性は改善するものの、イオン伝導度は低下する傾向がある。そのため、圧密性を改善してもリチウムイオン電池の性能向上に貢献しない場合があった。
本発明の目的の1つは、容量維持率の高いリチウムイオン電池が得られる硫化物固体電解質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態によれば、リチウム、リン及び硫黄を含み、CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=25.2±0.5degに回折ピークAを、29.7±0.5degに回折ピークBを有し、固体31P-NMR測定で観測されるガラス由来のピークの総面積に対する、PS 3-ガラス由来のピークの面積比率が90%以上100%以下であり、固体31P-NMR測定で観測される60~120ppmにある全ピークの合計面積に対する、ガラス由来のピークの面積比率が1%以上45%以下である、硫化物固体電解質が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態によれば、容量維持率の高いリチウムイオン電池が得られる硫化物固体電解質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一軸圧縮装置を使用した圧密性評価を説明するための概略図である。
図2】一軸圧縮装置を使用した圧密性評価を説明するための概略図である。
図3】実施例1で製造した硫化物固体電解質のX線回折パターンである。
図4図3に示したX線回折パターンの2θ=27~33deg付近の拡大図に、X線回折パターンの微分曲線を示した図である。
図5】実施例1で製造した硫化物固体電解質の固体31P-NMRスペクトル図である。
図6】比較例1で製造した硫化物固体電解質のX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質は、構成元素としてリチウム、リン及び硫黄を含む。そして、下記の要件1及び2を満たす。
・要件1
CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=25.2±0.5degに回折ピークAを、29.7±0.5degに回折ピークBを有する。
・要件2
固体31P-NMR測定で観測されるガラス由来のピークの総面積に対する、PS 3-ガラス由来のピークの面積比率が90%以上100%以下であり、且つ、固体31P-NMR測定で観測される60~120ppmにある全ピークの合計面積に対する、ガラス由来のピークの面積比率が1%以上45%以下である。
【0012】
上記要件1について、回折ピークA及び回折ピークBは、アルジロダイト型結晶構造に由来するピークである。回折ピークA及び回折ピークBの他に、アルジロダイト型結晶構造の回折ピークは、例えば、2θ=15.3±0.5deg、17.7±0.5deg、31.1±0.5deg、44.9±0.5deg又は47.7±0.5degにも現れることがある。本実施形態の硫化物固体電解質は、これらのピークを有していてもよい。
【0013】
なお、本願において回折ピークの位置は、中央値をAとした場合、A±0.5degで判定しているが、A±0.3degであることが好ましい。例えば、上述した2θ=25.2±0.5degの回折ピークの場合、中央値Aは25.2degであり、2θ=25.2±0.3degの範囲に存在することが好ましい。本願における他のすべての回折ピーク位置の判定についても同様である。
【0014】
上記要件2について、本要件は、硫化物固体電解質が所定量のガラスを含み、且つ、ガラスの大部分がPS 3-ガラスであることを意味する。
硫化物固体電解質が、結晶構造と比べて相対的に軟らかいガラス成分を所定量含むことにより、圧密した際の粒子間の密着性が向上する。なかでも、PS 3-ガラスは、ガラス成分の中でもサイズが小さいため、PS 3-ガラスを多く含むことにより、塑性変形がより容易になると考えられる。これにより、電池成型時に、極材等の粒子と硫化物固体電解質の粒子との接触面積が大きくなり、電池性能が向上すると考えられる。
また、アルジロダイト型結晶構造はPS 3-構造を基本骨格とし、特定サイトにハロゲンが均一に分散している構造を有する。本実施形態では、例えば、熱処理することにより結晶性の高いアルジロダイト型結晶構造を含む固体電解質(前駆体)を形成した後、メディアレス粉砕機で処理することにより、アルジロダイト型結晶構造の一部をガラス化している。そのため、上記処理により形成するガラスは、アルジロダイト型結晶構造の構成成分や分布(ユニットやハロゲン)が似ている状態にあると推定できる。よって、アルジロダイト型結晶構造との界面整合性が非常によいガラスであることから、他のガラスを多く含む場合と比べて、イオン伝導度の低下が抑制されたものと考えられる。
【0015】
本発明の一実施形態では、PS 3-ガラス由来のピークの面積比率は95%以上100%以下がより好ましい。
また、60~120ppmにある全ピークの合計面積に対する、ガラス由来のピークの面積比率は、2%以上40%以下であることが好ましく、5%以上40%以下であることがより好ましい。
【0016】
固体31P-NMR測定によるピークの特定及び面積比率は、固体31P-NMRスペクトルの60~120ppmに観察される信号を、非線形最小二乗法により各ピークに分離し、各ピークの面積及び半値幅から算出する。
アルジロダイト型結晶構造は、結晶内にPS 3-構造を含有しているが、結晶の対称性の違いや、PS 3-構造周りの原子の配位状態の違いから、それぞれの結晶で固体31P-NMR測定で得られるピークの化学シフト位置が異なる。一方、ガラスとしては、PS 3-構造、P 4-構造及びP 4-構造から構成されるガラスが報告されており、これらの各化学構造の化学シフトは上記の結晶のピークの化学シフト位置とは異なる位置に観察され、結晶に由来するピークとは半値幅が大きく異なる。一般に、結晶に由来するピークは、比較的半値幅が狭く、ガラスに由来するピークは、比較的半値幅が広い。例えば、本願実施例及び比較例で測定結果では、結晶に由来するピークの半値幅は450Hz以下であるのに対し、ガラスに由来するピークの半値幅は1000Hzより広い。なお、分離ピークの同定については、例えば、H. Eckert, Z. Zhang, and H. Kennedy, Chem. Mater. Vol 2, No.3, 273(1990)を参照できる。
上述した違いを利用することにより、硫化物固体電解質において、その固体31P-NMRスペクトルを結晶によるピークとガラスによるピークに分離し、それぞれの面積を定量できる。詳細は後述する実施例に記載する。各ピーク面積は、周辺環境が同じリンの存在量を示している。
【0017】
本発明の一実施形態では、上記回折ピークBのピーク強度Ipと、該回折ピークBの高角度側裾部の回折強度Ibとの強度比(Ib/Ip)が、0.050以上0.200以下であることが好ましい。
ピーク強度Ipは、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θが29.7±0.5degの範囲内にピークトップを有する回折ピーク(回折ピークB)の高さである。なお、上記範囲に回折ピークが2つ以上ある場合は、最も強い回折ピークを回折ピークBとする。
【0018】
回折強度Ibは、ピーク強度Ipを有するピークの高角度側裾部の回折強度である。具体的には、粉末X線回折測定で得られるX線回折パターンを平滑化後、上記回折ピークBを含む領域周辺を微分して得られる微分曲線において、回折ピークBのピークトップの角度より大きく、且つ、微分値が0となる最小の角度における回折強度である。
本発明者らは、回折強度Ibはガラス(非晶質成分)に由来するブロードなピーク(ハローパターン)の強度であり、回折強度Ibが強いことは、硫化物固体電解質の表面層にガラスが生成していることを表していると推定している。硫化物固体電解質の表面層に所定量のガラスが生成していることにより、硫化物固体電解質の圧密性が向上しやすくなる。
強度比(Ib/Ip)は、0.050以上0.120以下であることがより好ましい。
【0019】
なお、本発明では、硫化物固体電解質に含まれている結晶構造に由来する回折ピークBと、非晶質成分に由来するハローパターンが重複しているため、上述した微分曲線を用いて両者を分離している。粉末X線回折の測定方法の詳細は、実施例に記載する。
【0020】
本発明の一実施形態では、上記回折ピークBのSi相対半値幅が1.25以上2.50以下であることが好ましい。本要件は、アルジロダイト型結晶構造の代表的な回折ピーク(回折ピークB)の半値幅が狭いことを規定する。一般に、粉末X線回折測定の回折ピークには幅があり、バックグランドを引いたピーク高さの半分の高さのピークの幅を半値幅という。半値幅と結晶子サイズとは相関があることが知られている。結晶子サイズが大きいと結晶性は高くなり、結晶構造の繰り返し規則性が高くなるため、粉末X線回折測定の回折ピークの強度が強くなると共に半値幅が狭くなる。ただし、回折ピークの半値幅は測定装置や測定条件の依存性があるため、標準試料を基準に比較することが必要となる。
なお、硫化物固体電解質がガラス状態の場合は、半値幅は極めて大きくなり、回折ピークはブロード化する。
本実施形態の硫化物固体電解質は、その一部にガラスを含んでいるものの、全体としては高い結晶性を維持している。これにより、高いイオン伝導度を維持している。
回折ピークBのSi相対半値幅は1.25以上2.00以下であることがより好ましい。
【0021】
なお、回折ピークBのSi相対半値幅は、標準試料としてSiを使用し、Siの2θ=28.6±0.5degの回折ピークの測定値に対する比である。測定装置の相違等による回折ピークBの測定値の変動を補正するために、標準試料による相対値としたものである。測定方法の詳細は実施例に示す。
【0022】
本発明の一実施形態では、レーザ回折式粒度分布測定により測定される体積基準平均粒子径(D50)が0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。D50は、0.2μm以上8μm以下であることがより好ましく、さらに、0.3μm以上6μm以下であることが好ましい。
【0023】
本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質では、上記Li、P及びSの他に、ハロゲンを構成元素として含んでいてもよい。ハロゲンとしては、F、Cl、Br又はIが挙げられる。本形態ではCl又はBrを含むことが好ましく、Cl及びBrを含むことがより好ましい。
また、Si、Ge、Sn、Pb、B、Al、Ga、As、Sb、Bi等の元素を含んでいてもよい。また、カルコゲン元素(酸素(O)、セレン(Se)、テルル(Te)等)を含んでいてもよい。
【0024】
本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質では、リチウムのリンに対するモル比a(Li/P)と、硫黄のリンに対するモル比b(S/P)と、ハロゲンのリンに対するモル比c(X/P)とが、下記式(A)~(C)を満たすことが好ましい。
5.0≦a≦7.5 ・・・(A)
6.5≦a+c≦7.5 ・・・(B)
0.5≦a-b≦1.5 ・・・(C)
(式中、b>0且つc>0を満たす。)
【0025】
なお、硫化物固体電解質が、Si、Ge、Sn、Pb、B、Al、Ga、As、Sb及びBiからなる群より選択される1以上の元素Mを含む場合、上記(A)~(C)における各元素のモル比は、元素Mとリンの合計に対するモル比とする。例えば、リチウムのリンに対するモル比a(Li/P)は、Li/(P+M)とする。
【0026】
本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質は、例えば、下記式(1)で表される組成を有することが好ましい。
Li(P1-αα)S (1)
(式中、Mは、Si、Ge、Sn、Pb、B、Al、Ga、As、Sb及びBiからなる群より選択される1以上の元素であり、Xは、F、Cl、Br及びIからなる群から選択される1種以上の元素である。a~cは下記式(A)~(C)を満たす。αは0≦α≦0.3である。)
5.0≦a≦7.5 ・・・(A)
6.5≦a+c≦7.5 ・・・(B)
0.5≦a-b≦1.5 ・・・(C)
(式中、b>0且つc>0を満たす。)
【0027】
式(1)のXは、F、Cl、Br及びIからなる群から選択される1種以上の元素(x、・・・、x:nは1以上4以下の整数)を表す。Xは、1種(x)又は2種(x、x)の元素からなることが好ましく、2種の元素からなることがより好ましい。各元素のモル比は特に限定されない。
αは0が好ましい。
【0028】
上述した各元素のモル比や組成は、製造に使用した投入原料におけるモル比や組成ではなく、生成物である硫化物固体電解質におけるものである。各元素のモル比は、例えば原料における各元素の含有量を調製することにより制御できる。
【0029】
本願において、硫化物固体電解質における各元素のモル比や組成は、分析困難である等の特別な事情を除いて、ICP発光分析法で測定した値を用いるものとする。ICP発光分析法の測定方法は、実施例に記載する。
【0030】
本実施形態の硫化物固体電解質は、例えば、アルジロダイト型結晶構造を有する硫化物固体電解質(以下、メディアレス粉砕機で処理する前のアルジロダイト型結晶構造を有する硫化物固体電解質を前駆体という。)を、メディアレス粉砕機で処理することにより製造できる。
前駆体の製造方法は特に限定されない。例えば、上述した特許文献1~5を参照することができる。本発明の一実施形態では、前駆体は熱処理を経て製造されたものが好ましい。熱処理することにより、結晶性の高いアルジロダイト型結晶構造を含む前駆体が得られる。一旦アルジロダイト型結晶構造を生じさせた後に、メディアレス粉砕機で処理して一部をガラス化することにより、PS 3-ガラスの比率を極めて高くできる。
以下、本発明の製造方法の一実施形態について説明する。
【0031】
本実施形態において、前駆体は、リチウム、リン及び硫黄を含む原料に、機械的応力を加えて混合又は反応させ、原料混合物及び/又はガラス状である中間体とし、その後、中間体を熱処理することにより得られる。
使用する原料は、製造する硫化物固体電解質が必須として含む元素、すなわち、リチウム、リン及び硫黄を全体として含む2種以上の化合物又は単体を組み合わせて使用する。
【0032】
リチウムを含む原料としては、例えば、硫化リチウム(LiS)、酸化リチウム(LiO)、炭酸リチウム(LiCO)等のリチウム化合物、及びリチウム金属単体等が挙げられる。中でも、硫化リチウムが好ましい。
上記硫化リチウムは、特に制限なく使用できるが、高純度のものが好ましい。硫化リチウムは、例えば、特開平7-330312号公報、特開平9-283156号公報、特開2010-163356号公報、特開2011-84438号公報に記載の方法により製造することができる。
具体的には、炭化水素系有機溶媒中で水酸化リチウムと硫化水素とを70℃~300℃で反応させて、水硫化リチウムを生成し、次いでこの反応液を脱硫化水素化することにより硫化リチウムを合成できる(特開2010-163356号公報)。
また、水溶媒中で水酸化リチウムと硫化水素とを10℃~100℃で反応させて、水硫化リチウムを生成し、次いでこの反応液を脱硫化水素化することにより硫化リチウムを合成できる(特開2011-84438号公報)。
【0033】
リンを含む原料としては、例えば、三硫化二リン(P)、五硫化二リン(P)等の硫化リン、リン酸ナトリウム(NaPO)等のリン化合物、及びリン単体等が挙げられる。これらの中でも、硫化リンが好ましく、五硫化二リンがより好ましい。五硫化二リン等のリン化合物、リン単体は、工業的に製造され、販売されているものであれば、特に限定なく使用することができる。
【0034】
硫化物固体電解質がハロゲンを含む場合、原料は、例えば、下記式(2)で表されるハロゲン化合物を含むことが好ましい。
-X (2)
【0035】
式(2)中、Mは、ナトリウム(Na)、リチウム(Li)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、リン(P)、硫黄(S)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、セレン(Se)、スズ(Sn)、アンチモン(Sb)、テルル(Te)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、又はこれらの元素に酸素元素、硫黄元素が結合したものを示し、Li又はPが好ましく、Liがより好ましい。
Xは、F、Cl、Br及びIから選択されるハロゲンである。
また、lは1又は2の整数であり、mは1~10の整数である。mが2~10の整数の場合、すなわち、Xが複数存在する場合は、Xは同じであってもよいし、異なっていてもよい。例えば、後述するSiBrClは、mが4であって、XはBrとClという異なる元素からなるものである。
【0036】
上記式(2)で表されるハロゲン化合物としては、具体的には、NaI、NaF、NaCl、NaBr等のハロゲン化ナトリウム;LiF、LiCl、LiBr、LiI等のハロゲン化リチウム;BCl、BBr、BI等のハロゲン化ホウ素;AlF、AlBr、AlI、AlCl等のハロゲン化アルミニウム;SiF、SiCl、SiCl、SiCl、SiBr、SiBrCl、SiBrCl、SiI等のハロゲン化ケイ素;PF、PF、PCl、PCl、POCl、PSCl、PBr、PSBr、PBr、POBr、PI、PSI、PCl、P等のハロゲン化リン;SF、SF、SF、S10、SCl、SCl、SBr等のハロゲン化硫黄;GeF、GeCl、GeBr、GeI、GeF、GeCl、GeBr、GeI等のハロゲン化ゲルマニウム;AsF、AsCl、AsBr、AsI、AsF等のハロゲン化ヒ素;SeF、SeF、SeCl、SeCl、SeBr、SeBr等のハロゲン化セレン;SnF、SnCl、SnBr、SnI、SnF、SnCl、SnBr、SnI等のハロゲン化スズ;SbF、SbCl、SbBr、SbI、SbF、SbCl等のハロゲン化アンチモン;TeF、Te10、TeF、TeCl、TeCl、TeBr、TeBr、TeI等のハロゲン化テルル;PbF、PbCl、PbF、PbCl、PbBr、PbI等のハロゲン化鉛;BiF、BiCl、BiBr、BiI等のハロゲン化ビスマス等が挙げられる。
【0037】
中でも、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、ヨウ化リチウム(LiI)等のハロゲン化リチウム、五塩化リン(PCl)、三塩化リン(PCl)、五臭化リン(PBr)、三臭化リン(PBr)等のハロゲン化リンが好ましく挙げられる。中でも、LiCl、LiBr、LiI等のハロゲン化リチウム、PBrが好ましく、LiCl、LiBr、LiI等のハロゲン化リチウムがより好ましく、さらにLiClとLiBrが好ましい。
ハロゲン化合物は、上記の化合物の中から一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
本実施形態では、リチウム化合物、リン化合物、及びハロゲン化合物を含み、該リチウム化合物、及びリン化合物の少なくとも一方が硫黄を含むことが好ましく、硫化リチウムと硫化リンとハロゲン化リチウムとの組合せがより好ましく、硫化リチウムと五硫化二リンとハロゲン化リチウムの組合せが更に好ましい。
【0039】
例えば、前駆体の原料として、硫化リチウム、五硫化二リン、ハロゲン化リチウムを使用する場合には、投入原料のモル比を、硫化リチウム:五硫化二リン:ハロゲン化リチウム=37~88:8~25:0.1~50とすることができる。
【0040】
本実施形態においては、上記の原料に機械的応力を加えて反応させ、中間体とする。ここで、「機械的応力を加える」とは、機械的にせん断力や衝撃力等を加えることである。機械的応力を加える手段としては、例えば、遊星型ボールミル、振動ミル、転動ミル等の粉砕機や、混練機等を挙げることができる。
本実施形態では原料に機械的応力を加えて反応させ、ガラスとすることが好ましい。すなわち、従来よりも強い機械的応力により、原料粉末が結晶性を維持できない状態まで粉砕混合する。これにより、本実施形態の硫化物固体電解質は高いイオン伝導度を発現すると推定している。
【0041】
粉砕混合の条件としては、例えば、粉砕機として遊星型ボールミルを使用した場合、回転速度を数十~数百回転/分とし、0.5時間~100時間処理すればよい。より具体的に、本願実施例で使用した遊星型ボールミル(フリッチュ社製:型番P-7)の場合、遊星型ボールミルの回転数は350rpm以上400rpm以下が好ましく、360rpm以上380rpm以下がより好ましい。
粉砕メディアであるボールは、例えば、ジルコニア製ボールを使用した場合、その直径は0.2~20mmが好ましい。
【0042】
粉砕混合で作製した中間体を熱処理して前駆体とする。熱処理温度は350~480℃が好ましく、360~460℃がさらに好ましく、380~450℃がより好ましい。
熱処理の雰囲気は特に限定しないが、好ましくは硫化水素気流下ではなく、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下である。
【0043】
前駆体をメディアレス粉砕機で処理することにより、本実施形態の硫化物固体電解質が製造できる。メディアレス粉砕機とは、粉砕媒体(メディア)を使用しない粉砕機及び撹拌機等である。本実施形態の硫化物固体電解質は一部にガラスを含みつつ、多量のアルジロダイト型結晶構造を有する。また、全ガラスに対するPS 3-ガラスの比率が高い。そのため、メディアレス粉砕機の処理時に前駆体に付加する力は、アルジロダイト型結晶構造が過度に破壊されないように調整する必要がある。アルジロダイト型結晶構造が破壊されるとガラス状となり、PS 3-ガラス以外のガラス成分、例えば、P 4-ガラス及びP 4-ガラスの比率が高くなりやすい。
【0044】
例えば、ジルコニア製ボールを使用する粉砕法では、粉砕条件にもよるが、前駆体に与える力が強すぎ、前駆体のアルジロダイト型結晶構造が過度に破壊される傾向がある。メディアレス粉砕機を使用する場合、主に前駆体同士の衝突による力が処理に使用され、粉砕メディアを使用した場合と比べると弱い。本実施形態の処理は、メディアレス粉砕機を使用した場合と同程度の力により、実施することが好ましい。
【0045】
メディアレス粉砕機としては、気流式粉砕機、薄膜旋回式撹拌機、高速回転型衝撃式ミル及び熱プラズマ加工機からなる群より選択される装置が好ましい。気流式粉砕機としては、例えばジェットミルを用いることができる。薄膜旋回式撹拌機としては、例えばフィルミックス(登録商標)を用いることができる。なお、処理は乾式を採用してもよく、また、湿式を採用してもよい。例えば乾燥工程を削減可能という観点からは乾式が好ましい。また、処理により、前駆体は粉砕されてもよい。
【0046】
本発明の一実施形態では、上記のメディアレス粉砕機により得られた硫化物固体電解質に熱処理をしないことが好ましい。メディアレス粉砕機による処理で得られたガラスが熱処理により再度結晶化するおそれがあるからである。なお、メディアレス粉砕機による処理後の熱処理とは、例えば、温度を300℃以上とする熱処理を意味する。ガラスが結晶化しない温度であれば、メディアレス粉砕機による処理後に熱処理をしてもよい。
【0047】
本発明の硫化物固体電解質は、リチウムイオン二次電池等の固体電解質層、正極、負極等に用いることができる。
【0048】
[電極合材]
本発明の一実施形態に係る電極合材は、上述した本発明の硫化物固体電解質と、活物質を含む。又は、本発明の硫化物固体電解質により製造される。活物質として負極活物質を使用すると負極合材となる。一方、正極活物質を使用すると正極合材となる。
【0049】
・負極合材
本発明の硫化物固体電解質に負極活物質を配合することにより負極合材が得られる。
負極活物質としては、例えば、炭素材料、金属材料等を使用することができる。これらのうち2種以上からなる複合体も使用できる。また、今後開発される負極活物質も使用することができる。
また、負極活物質は電子伝導性を有していることが好ましい。
炭素材料としては、グラファイト(例えば、人造黒鉛)、黒鉛炭素繊維、樹脂焼成炭素、熱分解気相成長炭素、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、フルフリルアルコール樹脂焼成炭素、ポリアセン、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、天然黒鉛及び難黒鉛化性炭素等が挙げられる。
金属材料としては、金属単体、合金、金属化合物が挙げられる。当該金属単体としては、金属ケイ素、金属スズ、金属リチウム、金属インジウム、金属アルミニウムが挙げられる。当該合金としては、ケイ素、スズ、リチウム、インジウム及びアルミニウムのうち少なくとも1つを含む合金が挙げられる。当該金属化合物としては、金属酸化物が挙げられる。金属酸化物は、例えば酸化ケイ素、酸化スズ、酸化アルミニウムである。
【0050】
負極活物質と固体電解質の配合割合は、負極活物質:固体電解質(質量比)=95:5~5:95が好ましく、90:10~10:90がより好ましく、85:15~15:85がさらに好ましい。
負極合材における負極活物質の含有量が少なすぎると電気容量が小さくなる。また、負極活物質が電子伝導性を有し、導電助剤を含まないか、又は少量の導電助剤しか含まない場合には、負極内の電子伝導性(電子伝導パス)が低下し、レート特性が低くなるおそれや、負極活物質の利用率が下がり、電気容量が低下するおそれがあると考える。一方、負極合材における負極活物質の含有量が多すぎると、負極内のイオン伝導性(イオン伝導パス)が低下し、レート特性が低くなるおそれや、負極活物質の利用率が下がり、電気容量が低下するおそれがあると考える。
【0051】
負極合材は導電助剤をさらに含有することができる。
負極活物質の電子伝導性が低い場合には、導電助剤を添加することが好ましい。導電助剤は、導電性を有していればよく、その電子伝導度は、好ましくは1×10S/cm以上であり、より好ましくは1×10S/cm以上である。
導電助剤の具体例としては、好ましくは炭素材料、ニッケル、銅、アルミニウム、インジウム、銀、コバルト、マグネシウム、リチウム、クロム、金、ルテニウム、白金、ベリリウム、イリジウム、モリブデン、ニオブ、オスニウム、ロジウム、タングステン及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1つの元素を含む物質であり、より好ましくは導電性が高い炭素単体、炭素単体以外の炭素材料;ニッケル、銅、銀、コバルト、マグネシウム、リチウム、ルテニウム、金、白金、ニオブ、オスニウム又はロジウムを含む金属単体、混合物又は化合物である。
なお、炭素材料の具体例としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、デンカブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック;黒鉛、炭素繊維、活性炭等が挙げられ、これらは単独でも2種以上でも併用可能である。なかでも、電子伝導性が高いアセチレンブラック、デンカブラック、ケッチェンブラックが好適である。
【0052】
負極合材が導電助剤を含む場合の導電助剤の合材中の含有量は、好ましくは1~40質量%、より好ましくは2~20質量%である。導電助剤の含有量が少なすぎると、負極の電子伝導性が低下してレート特性が低くなるおそれや、負極活物質の利用率が下がり、電気容量が低下するおそれがあると考える。一方、導電助剤の含有量が多すぎると、負極活物質の量及び/又は固体電解質の量が少なくなる。負極活物質の量が少なくなると電気容量が低下すると推測する。また、固体電解質の量が少なくなると負極のイオン伝導性が低下し、レート特性が低くなるおそれや、負極活物質の利用率が下がり、電気容量が低下するおそれがあると考える。
【0053】
負極活物質と固体電解質を互いに密に結着させるため、さらに結着剤を含んでもよい。
結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、あるいはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。
【0054】
負極合材は、固体電解質と負極活物質、並びに任意の導電助剤及び/又は結着剤を混合することで製造できる。
混合方法は特に限定されないが、例えば、乳鉢、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、遊星型ボールミル、振動ボールミル、サンドミル、カッターミルを用いて混合する乾式混合;及び有機溶媒中に原料を分散させた後に、乳鉢、ボールミル、ビーズミル、遊星型ボールミル、振動ボールミル、サンドミル、フィルミックスを用いて混合し、その後溶媒を除去する湿式混合を適用することができる。これらのうち、負極活物質粒子を破壊しないために湿式混合が好ましい。
【0055】
・正極合材
本発明の固体電解質に正極活物質を配合することにより正極合材が得られる。
正極活物質は、リチウムイオンの挿入脱離が可能な物質であり、電池分野において正極活物質として公知のものが使用できる。また、今後開発される正極活物質も使用することができる。
【0056】
正極活物質としては、例えば、金属酸化物、硫化物等が挙げられる。硫化物には、金属硫化物、非金属硫化物が含まれる。
金属酸化物は、例えば遷移金属酸化物である。具体的には、V、V13、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn、Li(NiCoMn)O(ここで、0<a<1、0<b<1、0<c<1、a+b+c=1)、LiNi1-YCo、LiCo1-YMn、LiNi1-YMn(ここで、0≦Y<1)、Li(NiCoMn)O(0<a<2、0<b<2、0<c<2、a+b+c=2)、LiMn2-ZNi、LiMn2-ZCo(ここで、0<Z<2)、LiCoPO、LiFePO、CuO、Li(NiCoAl)O(ここで、0<a<1、0<b<1、0<c<1、a+b+c=1)等が挙げられる。
金属硫化物としては、硫化チタン(TiS)、硫化モリブデン(MoS)、硫化鉄(FeS、FeS)、硫化銅(CuS)及び硫化ニッケル(Ni)等が挙げられる。
その他、金属酸化物としては、酸化ビスマス(Bi)、鉛酸ビスマス(BiPb)等が挙げられる。
非金属硫化物としては、有機ジスルフィド化合物、カーボンスルフィド化合物等が挙げられる。
上記の他、セレン化ニオブ(NbSe)、金属インジウム、硫黄も正極活物質として使用できる。
【0057】
正極合材は、さらに導電助剤を含んでいてもよい。
導電助剤は、負極合材と同様である。
【0058】
正極合材の固体電解質及び正極活物質の配合割合、導電助剤の含有量、並びに正極合材の製造方法は、上述した負極合材と同様である。
【0059】
[リチウムイオン電池]
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン電池は、上述した本発明の硫化物固体電解質及び電極合材のうち少なくとも1つを含む。又は、本発明の硫化物固体電解質及び電極合材のうち少なくとも1つにより製造される。
リチウムイオン電池の構成は特に限定されないが、一般に、負極層、電解質層及び正極層をこの順に積層した構造を有する。以下、リチウムイオン電池の各層について説明する。
【0060】
(1)負極層
負極層は、好ましくは本発明の負極合材から製造される層である。
又は、負極層は、好ましくは本発明の負極合材を含む層である。
負極層の厚さは、100nm以上5mm以下が好ましく、1μm以上3mm以下がより好ましく、5μm以上1mm以下がさらに好ましい。
負極層は公知の方法により製造することができ、例えば、塗布法、静電法(静電スプレー法、静電スクリーン法等)により製造することができる。
【0061】
(2)電解質層
電解質層は、固体電解質を含む層又は固体電解質から製造された層である。当該固体電解質は特に限定されないが、好ましくは本発明の硫化物固体電解質である。
電解質層は、固体電解質のみからなってもよく、さらにバインダーを含んでもよい。当該バインダーとしては、本発明の負極合材の結着剤と同じものが使用できる。
【0062】
電解質層の厚さは、0.001mm以上1mm以下であることが好ましい。
電解質層の固体電解質は、融着していてもよい。融着とは、固体電解質粒子の一部が溶解し、溶解した部分が他の固体電解質粒子と一体化することを意味する。また、電解質層は、固体電解質の板状体であってもよく、当該板状体は、固体電解質粒子の一部又は全部が溶解し、板状体になっている場合も含む。
電解質層は、公知の方法により製造することができ、例えば、塗布法、静電法(静電スプレー法、静電スクリーン法等)により製造することができる。
【0063】
(3)正極層
正極層は、正極活物質を含む層であり、好ましくは本発明の正極合材を含む層又は本発明の正極合材から製造された層である。
正極層の厚さは、0.01mm以上10mm以下であることが好ましい。
正極層は、公知の方法により製造することができ、例えば、塗布法、静電法(静電スプレー法、静電スクリーン法等)により製造することができる。
【0064】
(4)集電体
本発明の一実施形態のリチウムイオン電池は、好ましくは集電体をさらに備える。例えば負極集電体は負極層の電解質層側とは反対側に、正極集電体は正極層の電解質層側とは反対側に設ける。
集電体として、銅、マグネシウム、ステンレス鋼、チタン、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、ゲルマニウム、インジウム、リチウム、又はこれらの合金等からなる板状体や箔状体等が使用できる。
【0065】
本発明の一実施形態のリチウムイオン電池は、上述した各部材を貼り合せ、接合することで製造できる。接合する方法としては、各部材を積層し、加圧・圧着する方法や、2つのロール間を通して加圧する方法(roll to roll)等がある。
また、接合面にイオン伝導性を有する活物質や、イオン伝導性を阻害しない接着物質を介して接合してもよい。
接合においては、固体電解質の結晶構造が変化しない範囲で加熱融着してもよい。
また、本発明の一実施形態のリチウムイオン電池は、上述した各部材を順次形成することでも製造できる。公知の方法により製造することができ、例えば、塗布法、静電法(静電スプレー法、静電スクリーン法等)により製造することができる。
【実施例0066】
以下、本発明を実施例により、さらに詳細に説明する。
なお、評価方法は以下のとおりである。
(1)体積基準平均粒子径(D50
レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(HORIBA製、LA-950V2モデルLA-950W2)で測定した。
脱水処理されたトルエン(和光純薬製、特級)とターシャリーブチルアルコール(和光純薬製、特級)を93.8:6.2の重量比で混合したものを分散媒として用いた。装置のフローセル内に分散媒を50mL注入し、循環させた後、測定対象を添加して超音波処理した後、粒子径分布を測定した。なお、測定対象の添加量は、装置で規定されている測定画面で、粒子濃度に対応する赤色光透過率(R)が80~90%、青色光透過率(B)が70~90%に収まるように調整した。また、演算条件には、測定対象の屈折率の値として2.16を、分散媒の屈折率の値として1.49をそれぞれ用いた。分布形態の設定において、反復回数を15回に固定して粒径演算を行った。
【0067】
(2)イオン伝導度測定
各例で製造した硫化物固体電解質を、錠剤成形機に充填し、22MPaの圧力を加え成形体とした。電極としてカーボンを成形体の両面に乗せ、再度錠剤成形機にて圧力を加えることで、測定用の成形体(直径約10mm、厚み0.1~0.2cm)を作製した。この成形体について交流インピーダンス測定によりイオン伝導度を測定した。伝導度の値は25℃における数値を採用した。
【0068】
(3)粉末X線回折(XRD)測定
各例で製造した硫化物固体電解質から、直径10mm、高さ0.1~0.3cmの円形ペレットを成形して試料とした。この試料を、XRD用気密ホルダーを用いて空気に触れさせずに測定した。回折ピークの2θ位置は、XRD解析プログラムJADEを用いて重心法にて決定した。
株式会社リガクの粉末X線回折測定装置SmartLabを用いて以下の条件にて実施した。
管電圧:45kV
管電流:200mA
X線波長:Cu-Kα線(1.5418Å)
光学系:平行ビーム法
スリット構成:ソーラースリット5°、入射スリット1mm、受光スリット1mm
検出器:シンチレーションカウンター
測定範囲:2θ=10-60deg
ステップ幅、スキャンスピード:0.02deg、1deg/分
測定結果より結晶構造の存在を確認するためのピーク位置の解析では、XRD解析プログラムJADEを用い、3次式近似によりベースラインを引いて、ピーク位置を求めた。
【0069】
・回折ピークBのピーク強度Ipと、該回折ピークBの高角度側裾部の回折強度Ibとの強度比(Ib/Ip)
測定結果からのピーク強度比の算出は、Excel表計算ソフトを用いて行った。まず、7点の加重平均により平均化し、平均化した値を用いて、再度7点の加重平均により平均化し、さらに、この平均化した値を用いて7点の加重平均により平均化することにより、平滑化した。平滑化した点を用いて、隣り合う平滑点の差を微分値として微分曲線を作成した。
2θが29.7±0.5degである範囲の実測強度の最大値をピークBのピーク強度Ipとした。最大強度から高角度領域で、微分曲線の値が0になる点(正(プラス)から負(マイナス)に変化する点)の角度の実測強度をIbとした。それらの値からIb/Ipを算出した。
【0070】
・Si相対半値幅
XRDパターンにおいて、2θが10~60degである範囲の最低回折強度の値(Iback)をバックグランドとした。回折ピークBのピーク強度の実測値(IBR)からバックグランドにおける回折強度(Iback)を減じて、回折ピークBのピーク強度(I)を算出した。回折ピークBにおいて、ピーク強度がIの半分となる2つの角度(d1、d2)を求め、d1及びd2の差を半値幅A(Δd:実測値)とした。
次に、Si(株式会社リガク社製)を試料としXRDパターンを測定した。2θ=28.6±0.5degの回折ピークの半値幅(Δdsi)とピーク強度(ISi)を、上記半値幅Aと同様にして決定した。なお、バックグランドは2θが10~60degである範囲の最低回折強度の値とした。
半値幅A(Δd)とSiの半値幅(Δdsi)から、Si相対半値幅(Δd/Δdsi)を計算した。
なお、Siの半値幅(Δdsi)が0.3以上となる場合は、測定不良である。装置自体又は測定条件に不備があると考えられるため、適した条件で再測定することにより、Δdsiを0.3未満とする。
【0071】
(4)ICP測定
各例で製造した硫化物固体電解質を秤量し、アルゴン雰囲気中で、バイアル瓶に採取した。バイアル瓶にKOHアルカリ水溶液を入れ、硫黄分の捕集に注意しながらサンプルを溶解し、適宜希釈、測定溶液とした。これを、パッシェンルンゲ型ICP-OES装置(SPECTRO社製SPECTRO ARCOS)にて測定し、組成を決定した。
検量線溶液は、Li、P、SはICP測定用1000mg/L標準溶液を、Cl、Brはイオンクロマトグラフ用1000mg/L標準溶液を用いて調製した。
各試料で2つの測定溶液を調整し、各測定溶液で5回の測定を行い、平均値を算出した。その2つの測定溶液の測定値の平均で組成を決定した。
【0072】
(5)固体31P-NMR測定
粉末試料約60mgをNMR試料管へ充填し、下記の装置及び条件にて固体31P-NMRスペクトルを得た。
装置:ECZ400R装置(日本電子株式会社製)
観測核:31
観測周波数:161.944MHz
測定温度:室温
パルス系列:シングルパルス(90°パルスを使用)
90°パルス幅:3.8μ
FID測定後、次のパルス印加までの待ち時間:300s
マジックアングル回転の回転数:12kHz
積算回数:16回
測定範囲:250ppm~-150ppm
化学シフト:外部基準として(NHHPO(化学シフト1.33ppm)を用いることで得た。
【0073】
得られた固体31P-NMRスペクトルについて、60~120ppmの範囲にあるピークを、ソフトウェア「FT-NMR」(「パソコンによるFT-NMRのデータ処理」改訂版(第二版)(三共出版)に収録されているソフトウェア)を用いて解析し、分離ピークを決定した。
上記ソフトウェアは、固体31P-NMRスペクトルの60~120ppmの範囲にあるNMR信号(実験値)から、非線形最小二乗法を用いて、分離ピーク、NMR信号の計算値及び残差二乗和R2を計算する。最大ピーク高さを1とした時の、実験値と計算値との解析範囲内の残差二乗和R2が0.007以下となり、かつ、最も少ない分離ピーク数となる場合を、ピーク分離完了とした。ピークフィッティングの手段や経路は特に問わないが、下記の点に留意するとよい。
解析は、基本的には分離ピークの本数が1本であるとしてフィッティングを開始する。但し、実測された固体31P-NMRスペクトルのピーク形状を考慮して、分離ピークの本数を2本以上として、解析を始めてもよい。例えば、実測値のピーク形状が非対称である場合、肩部や裾部を有する場合は、分離ピークの本数を2本以上に設定しないとR2は0.007以下にならない。
各種パラメータに適切と思われる初期値を入力してフィッティングを開始する。パラメータとしては、ピーク位置(ppm)、ピーク高さ及びピーク半値幅(Hz)がある。ソフトウェアは初期値を起点として、非線形最小二乗法にて、分離ピーク、NMR信号の計算値及び残差二乗和R2を計算する。
ピークフィッティングには、ガウス関数又はPseudo-Voigt関数(ガウス関数とローレンツ関数の線形和)を用いる。用いる関数は、ガウス関数を基本とし、精度が悪い時にPseudo-Voigt関数を選択するとよい。なお、フィッティング時には、Pseudo-Voigt関数のガウス関数とローレンツ関数の比は固定して計算するが、その固定値は適宜求める必要がある。
上記パラメータ等を微修正しながら、R2が0.007以下となるまでフィッティングを繰返す。R2が0.007以下にならない場合には、ピーク本数を増やした上で同様に解析する。最終的に、R2が0.007以下に到達した時点で、ピーク分離完了とする。なお、R2は0.007以下を基準とするが、値はより小さい方がよいので、更にフィッティングを繰り返して精度を高めてもよい。
【0074】
解析により得られた各分離ピークには、その最大値の半分の強度を示す化学シフトがピークの両側にそれぞれ1点(σAn及びσBn:単位ppm)存在する。各分離ピークn(nはピーク番号であり1以上の整数である。)の半値幅Hn(nは1以上の整数)は以下の式で求めた。
Hn(Hz)=161.944×(σAn-σBn)
ガラス由来ピークの面積比率φカ゛ラスについて、分離ピークの半値幅が1000Hz以上であるものをガラス由来のピークとし、半値幅が450Hz以下であるものを結晶由来のピークとした。
【0075】
各ピークの面積比率φ(%)を、分離ピークnの面積Sとその総和Sall(=S+S+・・・+S:mは1以上の整数)から以下の式で求めた。
φ=100×S/Sall
なお、例えば86~87.6ppmにLiPSのβ晶によるピークが微量に観察されることがあるが、本願においては不純物であると見做し、上記半値幅や面積比率の計算対象からは除外するものとする。不純物であることはXRD回折パターンからも判別可能である。
ガラス由来ピークの面積比率φカ゛ラスについて、分離ピークの半値幅が1000Hz以上であるものをガラス由来のピークとし、ガラス由来のピークの合計面積Sと、全ピークの合計面積Sallから以下の式で求めた。
φカ゛ラス=100×S/Sall
各ガラス由来ピークの面積比率φカ゛ラスxについて、各ガラス由来のピークの合計面積Sgxと、ガラス由来のピークの合計面積Sから以下の式で求めた。
φカ゛ラスx=100×Sgx/S
【0076】
ピーク分離後の各ピークの帰属について、ハロゲンとして塩素のみを含む硫化物固体電解質の例を表1に、ハロゲンとして塩素及び臭素を含む硫化物固体電解質の例を表2に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
(6)圧密性
一軸圧縮装置を使用して圧密性を評価した。
図1及び2は、一軸圧縮装置を使用した圧密性評価を説明するための概略図である。一軸圧縮装置は、耐加圧性の円筒形容器1と、この円筒形容器1の内部空間に投入された複合体を加圧し複合体の密度を真密度まで高める加圧ロッド2と、複合体5の高さを測定する測定手段(マイクロメータ)3及びその固定具4を主な構成要素としている。
円筒形容器1として、外径43mm、内径13mmで高さ40mmであり、側面の厚さが15mmであり、底面が外径13mmで厚さ10mmであり、SKD11製の円筒形の容器を使用する。なお、SKD11は大同特殊鋼社製のダイス鋼である。
加圧ロッド2は、円筒形容器1の内部に滑らかに挿入するものであり、外径13mmで長さ50mmであり、SKD11製である。加圧ロッド2の上部には加圧するための押圧手段(図示なし)がある。また、加圧ロッドの変位をマイクロメーターに伝達する伝達部が設けられている。
【0080】
一軸圧縮装置により、試料を0~540MPaの間で108MPa毎に圧縮している時の空間率(圧縮時空間率:ε)を測定した。具体的には、以下のとおりである。
はじめに、試料を挿入しない状態でのマイクロメーターの値(l)を確認する(図1)。
次に、円筒形容器1の内部に試料5を0.3g(嵩密度が大きいものは0.1g又は0.05gとしてもよい)投入し、試料を均した状態にする。
容器1の内部に加圧ロッド2を挿入し、試料5を0~540MPaの間で108MPa毎に加圧して圧縮させた際のマイクロメーターの値(l)を確認する(図2)。
【0081】
圧縮時の試料の高さから、空間率ε(%)は下記式(A)より算出できる。
ε=[1-ρap]×100=[1-{m/(ρSL)}]×100 (A)
(式中、ρaは材料の見かけの密度、ρpは材料の真密度、mは円筒形容器内に挿入する材料の重量、Sは加圧ロッドの面積、Lは(l-l)である。)
【0082】
応力σ-空間率εに関するGurnhamの式(logσ=a-bε)から、切片(a)及び傾き(b)を算出した。bの値が大きい程、圧密性が悪いことを意味する。なお、aが大きい程(bが一定のとき)、logσ-ε線はεの大きい方へずれることを示す。
【0083】
製造例1
(硫化リチウム(LiS)の製造)
撹拌機付きの500mLセパラブルフラスコに、不活性ガス下で乾燥したLiOH無水物(本荘ケミカル社製)を200g仕込んだ。窒素気流下にて昇温し、内部温度を200℃に保持した。窒素ガスを硫化水素ガス(住友精化)に切り替え、500mL/分の流量にし、水酸化リチウム無水物(LiOH)と硫化水素を反応させた。
反応により発生する水分はコンデンサーにより凝縮して回収した。反応を6時間行った時点で水が144mL回収された。さらに3時間反応を継続したが、水の発生は見られなかった。
生成物粉末を回収して、純度及びXRDを測定した。その結果、純度は98.5%であり、XRDではLiSのピークパターンが確認できた。
【0084】
実施例1
(1)アルジロダイト型結晶構造を有する硫化物固体電解質(前駆体)の製造
製造例1で製造したLiSと、五硫化二リン(P:FS SPEC、サーモフォス社製、純度99.9%以上)及び塩化リチウム(LiCl:シグマアルドリッチ社製、純度99%)とを、mol比(LiS:P:LiCl)が19:5:16になるように混合し、出発原料の混合物とした(以下、全ての実施例において、各出発原料の純度は同様である)。混合物200gと、直径20mmのジルコニア製ボール1780gとを、SUS製容器(容量6L)に入れた。容器を振動ミル(中央化工機 MD-3)に取り付け、機械的エネルギーを加えることにより(メカニカルミリング処理)、白黄色粉末であるガラス(中間体)を得た。振動ミルの処理条件は、露点-40℃以下の窒素雰囲気下、40℃で、1500回転/秒、120時間とした。
【0085】
上記中間体の粉末約10gをAr雰囲気下のグローブボックス内で、タンマン管(PT2,東京硝子機器株式会社製)内に詰め、石英ウールでタンマン管の口を塞ぎ、さらにSUS製の密閉容器で大気が入らないよう封をした。同じのタンマン管を3本準備し、その後、密閉容器を電気炉(FUW243PA、アドバンテック社製)内に入れ熱処理した。具体的には、室温から430℃まで2.5℃/分で昇温し(約3時間で430℃に昇温)、430℃で8時間保持した。その後、徐冷し、硫化物固体電解質(前駆体)約30gを得た。
【0086】
(2)メディアレス粉砕機による処理
上記前駆体30gを、窒素雰囲気下のグローブボックス内で、ジェットミル(NJ-50、アイシンナノテクノロジーズ社製)にて処理して、本発明の硫化物固体電解質を製造した。処理条件は、処理速度を180g/時間(処理時間:10分間)とし、粉砕ガスには窒素を用い、投入ガス圧を2.0MPaとし、粉砕ガス圧を2.0MPaとした。
得られた硫化物固体電解質の体積基準平均粒子径(D50)は3.0μmであった。イオン伝導度(σ)は、3.3mS/cmであった。
硫化物固体電解質のXRDパターンを図3に示す。2θ=15.6、18.1、25.7、30.2、31.6、45.3、48.2、52.8degにアルジロダイト型結晶構造に由来するピークが観測された。図3から、2θ=29.7±0.5degにある回折ピークのピーク強度Ipは、13124であった。
図4図3に示したXRDパターンの2θ=27~33deg付近の拡大図に、XRDパターンの微分曲線を示した図である。図4から、2θ=29.7±0.5degにある回折ピークの低角度側裾部の回折強度Ibは1124(2θ=30.46deg)であった。
硫化物固体電解質をICP分析し、各元素のモル比を測定した。その結果、モル比a(Li/P)は5.4、モル比b(S/P)は4.4、モル比c(Cl/P)は1.6であった。
図5に硫化物固体電解質の固体31P-NMRスペクトルを示す。
【0087】
実施例1及び後述する実施例及び比較例について、原料における各元素のモル比及び粉砕機による処理の内容を表3に示す。実施例及び比較例で製造した硫化物固体電解質の固体31P-NMR測定から算出された、各ピークの面積比率を表4に示す。硫化物固体電解質の回折ピークBのピーク強度Ip、同回折ピークの高角度裾部の回折強度Ib、強度比、Si相対半値幅及び体積基準平均粒子径(D50)を表5に示す。硫化物固体電解質のイオン伝導度σ及び圧密性評価の結果を表6に示す。
【0088】
【表3】
【0089】
【表4】
【0090】
【表5】
【0091】
【表6】
【0092】
実施例2
(1)アルジロダイト型結晶構造を有する硫化物固体電解質(前駆体)の製造
製造例1で製造したLiSと、Pと、LiClと、臭化リチウム(LiBr、シグマアルドリッチ製)とを、mol比(LiS:P:LiCl:LiBr)が1.9:0.5:1.0:0.6になるように混合し、出発原料の混合物30gとした。混合物を変更した他は、実施例1と同様にして硫化物固体電解質(前駆体)を得た。
【0093】
(2)メディアレス粉砕機による処理
投入ガス圧を0.8MPaとし、粉砕ガス圧を0.8MPaとした他は、実施例1と同様にして処理し、硫化物固体電解質を製造し、評価した。結果を表3~6に示す。
硫化物固体電解質のXRDパターンから、2θ=25.2±0.5deg、29.7±0.5degにアルジロダイト型結晶構造に由来するピークが観測された。なお、後述する実施例及び比較例についても同様であった。
【0094】
実施例3
メディアレス粉砕機による処理において、投入ガス圧を0.4MPaとし、粉砕ガス圧を0.4MPaとした他は、実施例2と同様にして硫化物固体電解質を製造し、評価した。結果を表3~6に示す。
【0095】
実施例4
メディアレス粉砕機として、ジェットミルの代りに薄膜旋回式撹拌機で処理した他は、実施例2と同様にして、硫化物固体電解質を製造し、評価した。
薄膜旋回式撹拌機(商品名「T.K.フィルミックス」、プライミクス株式会社製)を使用した。硫化物固体電解質(前駆体)30gを、分散媒であるトルエン311mLに分散させ、装置の撹拌槽内に充填した。撹拌槽と回転羽根の間隔が2mmになるよう回転羽根を回転軸に取付けた。回転羽根の周速を30m/秒とし、180秒間処理した。得られたスラリーを乾燥させて硫化物固体電解質を得た。
評価結果を表3~6に示す。
【0096】
比較例1
製造例1で製造したLiSと、Pと、LiClとを、mol比(LiS:P:LiCl)が1.9:0.5:1.6になるように混合し、出発原料の混合物30gとした。
原料混合物と、直径10mmのジルコニア製ボール30gとを遊星型ボールミル(フリッチュ社製:型番P-7)のジルコニア製ポット(45mL)に入れ、完全密閉した。ポット内はアルゴン雰囲気とした。遊星型ボールミルで回転数を370rpmにして15時間処理(メカニカルミリング)し、ガラス状の粉末(中間体)を得た。中間体を実施例1と同様に熱処理して、前駆体を作製した。
得られた前駆体を、窒素雰囲気下のグローブボックス内で、750mLの溶媒(脱水トルエン、和光純薬製)中に分散させ、約5.8重量%のスラリーとした。スラリーを窒素雰囲気に保ったまま、ビーズミル装置(LMZ015、アシザワ・ファインテック社製)を用いて粉砕処理した。具体的に、粉砕媒体には直径0.5mmのジルコニアビーズ456gを使用し、周速12m/秒、流量500mL/分の条件でビーズミル装置を稼働させ、スラリーを装置内に投入し、1回通過させた。処理後のスラリーを窒素置換したシュレンク瓶に入れた後、減圧乾燥することで硫化物固体電解質を得た。
硫化物固体電解質の評価結果を表3~6に示す。
硫化物固体電解質のXRDパターンを図6に示す。
【0097】
比較例2
LiS、P及びLiClのmol比(LiS:P:LiCl)が2.5:0.5:1.0となるように、各原料を混合した。具体的には、LiS0.642g、P0.621g、LiCl0.237gを混合し、原料混合物とした。
原料混合物と、直径10mmのジルコニア製ボール30gとを遊星型ボールミル(フリッチュ社製:型番P-7)のジルコニア製ポット(45mL)に入れ、完全密閉した。ポット内はアルゴン雰囲気とした。遊星型ボールミルで回転数を370rpmにして15時間処理(メカニカルミリング)し、ガラス状の粉末(中間体)を得た。
【0098】
上記中間体の粉末約1gをAr雰囲気下のグローブボックス内で、タンマン管(PT2,東京硝子機器株式会社製)内に詰め、石英ウールでタンマン管の口を塞ぎ、さらにSUS製の密閉容器で大気が入らないよう封をした。その後、密閉容器を電気炉(FUW243PA、アドバンテック社製)内に入れ熱処理した。具体的には、室温から430℃まで2.5℃/分で昇温し(約3時間で430℃に昇温)、430℃で8時間保持した。その後、徐冷し、硫化物固体電解質を得た。
得られた硫化物固体電解質について評価した。評価結果を表3~6に示す。
【0099】
比較例3
実施例1(1)と同様にして得たガラス(中間体)0.5gと、実施例1(1)と同様にして得た硫化物固体電解質(前駆体)1.5gと、直径2mmのジルコニア製ボール30gとを、遊星型ボールミル(フリッチュ社製:型番P-7)のジルコニア製ポット(45mL)に入れ、完全密閉した。ポット内はアルゴン雰囲気とした。遊星型ボールミルで回転数を100rpmにして0.5時間処理し、硫化物固体電解質を得た。
評価結果を表3~6に示す。
【0100】
[リチウムイオン電池]
各例で得た硫化物固体電解質を使用して、リチウムイオン電池を製造し、容量維持率を評価した。
【0101】
(A)リチウムイオン電池の製造
各例で得た硫化物固体電解質50mgを直径10mmのステンレス製の金型に投入し、平らに均し、電解質層の層厚が均等になるようにした後、油圧プレス機(P-6、RIKEN製)で電解質層の上面から185MPaの圧力を加えて加圧成型した。
正極活物質としてLiTi12コートLiNi0.8Co0.15Al0.05、固体電解質として各例で得た硫化物固体電解質を重量で70:30の比率で混合し正極材料とし、正極材料15mgを電解質層の上面に投入し平らに均し、正極層の層厚が均等になるようにした後、油圧プレス機(P-6、RIKEN製)で正極層の上面から407MPaの圧力を加えて加圧成型した。
負極活物質である黒鉛粉末、及び各例で得た硫化物固体電解質を重量で60:40の比率で混合して負極材料とした。電解質層の正極層とは反対側の面に負極材料12mgを投入して平らに均し、負極層の層厚が均等になるようにした後、油圧プレス機(P-6、RIKEN製)で負極層の上面から555MPaの圧力を加えて加圧成型し、正極、固体電解質層及び負極の三層構造のリチウムイオン電池を作製した。
【0102】
(B)サイクル特性試験
上記(A)で製造したリチウムイオン電池を、25℃に設定した恒温槽内に12時間静置した後、評価した。1サイクル目に0.1C(0.189mA)で4.2Vまで充電、0.1C(0.189mA)で3.1Vまで放電し、2サイクル目~10サイクル目に0.5C(0.945mA)で4.2Vまで充電、0.5C(0.945mA)で3.1Vまで放電し、11サイクル目に0.1C(0.189mA)で4.2Vまで充電、0.1C(0.189mA)で3.1Vまで放電し、12サイクル目~16サイクル目に、0.2C(0.378mA)で4.2Vまで充電、サイクルごとに0.2C(0.378mA)、0.5C(0.945mA)、1C(1.89mA)、2C(3.78mA)、5C(9.45mA)で3.1Vまで放電し、17~19サイクル目に0.5C(0.945mA)で4.2Vまで充電、0.5C(0.945mA)で3.1Vまで放電した。20サイクル目に0.1C(0.189mA)で4.2Vまで充電、0.1C(0.189mA)3.1Vまで放電した。
以後19サイクル(21~39サイクル目)を0.5C(0.945mA)で4.2Vまで充電、0.5C(0.945mA)で3.1Vまで放電し、次の1サイクル(40サイクル目)を0.1C(0.189mA)で4.2Vまで充電、0.1C(0.189mA)で3.1Vまで放電した。この20サイクルを1セットとし、これを4回繰り返すことにより、全100サイクルとした。容量維持率は、サイクル中の最大放電容量に対する100サイクル目の放電容量の割合とした。
容量維持率を表7に示す。
【0103】
【表7】
【0104】
上記に本発明の実施形態及び/又は実施例を幾つか詳細に説明したが、当業者は、本発明の新規な教示及び効果から実質的に離れることなく、これら例示である実施形態及び/又は実施例に多くの変更を加えることが容易である。従って、これらの多くの変更は本発明の範囲に含まれる。
この明細書に記載の文献、及び本願のパリ条約による優先権の基礎となる出願の内容を全て援用する。

図1
図2
図3
図4
図5
図6