IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東京精密の特許一覧

<>
  • 特開-光学式測定器の回り止め 図1
  • 特開-光学式測定器の回り止め 図2
  • 特開-光学式測定器の回り止め 図3
  • 特開-光学式測定器の回り止め 図4
  • 特開-光学式測定器の回り止め 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022125348
(43)【公開日】2022-08-26
(54)【発明の名称】光学式測定器の回り止め
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/347 20060101AFI20220819BHJP
【FI】
G01D5/347 110X
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111006
(22)【出願日】2022-07-11
(62)【分割の表示】P 2021139816の分割
【原出願日】2016-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100163533
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 義信
(74)【代理人】
【識別番号】100199842
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 祥平
(72)【発明者】
【氏名】津留 太良
(57)【要約】
【課題】
小型ペンシル型の光学式変位測定器において、可動部と固定部の周方向位置関係を常時一定に保ちながら、可動部の往復動に起因する、可動部とスリーブを含む固定部間での摩擦及び摩耗発生を抑制する。
【解決手段】
小型ペンシル型の光学式変位測定器100は、一端側に被測定物に当接する測定子10が配設され、他端側にスケール76が配設された棒状の可動部20と、可動部の反測定子側を収容する円筒状部材42、60を含み、可動部の中間部を支持する軸受部40を一端側に有し、スケールに対向して配設された受光部72を有する固定部62を備える。可動部がその長手軸周りに固定部に対して回動するのを防止する、可動部回り止め手段80を可動部に、固定部回り止め手段を固定部62にそれぞれ設ける。可動部回り止め手段と固定部回り止め手段は、ともに磁石手段を含む。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端側に被測定物に当接する測定子が配設され、他端側にスケールが配設された棒状の可動部と、前記可動部の反測定子側を収容する筒状部材を有し、前記可動部を支持する軸受部を有し、前記スケールに対向して配設された検出部を有する固定部と、を備えた変位測定器において、
前記可動部は、前記可動部の外周面に形成された突起を有し、
前記固定部は、前記可動部を移動可能に前記突起と係合する溝を有し、
前記突起と前記溝とは、前記可動部の移動方向に対向して配設された永久磁石を有し、
前記突起の永久磁石と、前記溝の永久磁石との磁極を同極とすることを特徴とする変位測定器。
【請求項2】
前記突起と前記溝とは、前記可動部の移動方向に沿って配設された永久磁石を更に有する、請求項1に記載の変位測定器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学式のリニア・エンコーダを有する測定器に係り、被測定物に当接して使用するペンシル型の光学式測定器に用いて好適な回り止めに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のリニア・エンコーダの例が、特許文献1に記載されている。この公報では、小型のアクチュエータを実現できる信頼性の高い小型のリニア・エンコーダを得るために、可動シャフトの端部に形成した平坦部に、フォトリソグラフィーで高反射率と低反射率の縞模様を形成したテープ状のスケール部を、取り付けている。そしてシャフトの平坦部とは異なる位置の周方向複数個所に永久磁石を取り付け、その外側に三相コイルを有する固定子を配置している。固定子の前記スケール部に対応する位置には、スケール部に対向して複数層を有する光学式センサを配置している。なお、スケール部の固定子内での回転を防ぐために、固定子端部に設けるガイド部材に、シャフトの平坦部形状に対応した矩形の開口部が形成されている。
【0003】
特許文献2には、接触式変位測定器が開示されている。この公報では、プローブ部材の摺動部に滑り軸受を用い、接触子とともに上下動するプローブ部材の一端に差動トランスを構成するコアが取り付けられている。プローブを取り囲む外筒には、コアに対応する位置に差動トランスを構成するコイルユニットが組み込まれている。さらに特許文献3には、半導体製造装置等で部品吸着に用いる往復動装置において、往復動する可動部材の回転を防止する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-215911号公報(特にその段落0021)
【特許文献2】特開2012-185019号公報
【特許文献3】特開2008-82512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プローブを被測定物に当接させて変位を測定する、小型の接触式センサが多くの用途に用いられている。その中でもいわゆるペンシル型の光学式測定器は、小型であるので取り付け自由度が高いこと、及び対候性、耐環境性に富むので、アクチュエータ等の計測具に用いることが可能であり、例えば上記特許文献1では、光学式リニア・エンコーダを持つアクチュエータとして実現されている。
【0006】
光学式リニア・エンコーダでは、特にペンシル型の場合には、センサの取り付け易さから、センサは円柱状に形成したプローブを持つのが一般的である。一方、光源からの光がスケール面で透過または反射して受光部に到達するので、センサのスケール面は平面であることが検出強度を一定に保つために望ましい。
【0007】
そのため、特許文献1では円柱面を面落としして平面を形成し、摺動抵抗をできるだけ減らすため固定子に非接触で固定子内で回転可能に形成した円柱状のプローブを、スケール面と検出部とが常に同じ関係を維持できるよう、固定子側に設けた矩形穴でその回転を規制している。
【0008】
その結果、矩形穴とスケール面の面落とし形状とには、挿入及びプローブの軸方向移動のために微小な隙間があり、相互の接触による摩耗の発生や摺動抵抗による摩擦の発生の恐れがある。
【0009】
特許文献2に記載のものは小型化したリニア・エンコーダが記載されているが、作動トランス型であって、光学式ではないため、プローブの回転は許容するので、光学式センサにおけるスケール面と検出部の相対関係を保つ必要は必ずしもない。なおこの特許文献2に記載のものは、リニア・エンコーダの耐環境性を保持するため蛇腹を用いて外部汚染源からの油等の異物の混入を防止している。
【0010】
異物混入は、検出部の劣化を引き起こすので避けなければならないが、蛇腹を使用するとプローブの移動とともに内部空気がダンパ作用を起こして摺動抵抗の一因となるので、蛇腹等を使用せずに摺動抵抗を低減したプローブの密封及び回転支持方法が望まれている。
【0011】
また特許文献3では、往復動する可動部材の往復動方向に沿って、可動磁石と固定磁石を対向配置し、往復動の戻り力を発生させるとともに、可動部材の周方向運動を規制している。しかしながらこの公報に記載の装置も、可動部材の回り止めは、本体ケース端部に設けたすべり軸受の形状を円形とは異なる形状として物理的に回動を規制することであり、可動部材と軸受が接触して回動を防止するので、スティック・スリップにより軸受で摩耗が発生することについては、考慮されていない。
【0012】
本発明は上記従来技術の不具合または従来技術では未考慮の事項に鑑みなされたものであり、その目的は、スリーブ内に基本的に非接触に保持した測定プローブを有する小型ペンシル型の光学式変位測定器において、測定プローブとスリーブの周方向位置関係を常時一定に保ちながら、測定プローブの往復動に起因する、測定プローブとスリーブを含む固定部材間での摩擦及び摩耗発生を抑制することにある。本発明の他の目的は、上記目的に加え、小型のペンシル型の光学式変位測定器の構成を簡素化して、プローブの往復動による測定器内空気のダンパ作用を無くすまたは低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成する本発明の特徴は、以下のとおりである。
【0014】
[1] 一端側に被測定物に当接する測定子が配設され、他端側にスケールが配設された棒状の可動部と、上記可動部の反測定子側を収容する筒状部材を有し、上記可動部を支持する軸受部を有し、上記スケールに対向して配設された検出部を有する固定部と、を備えた変位測定器において、上記可動部は、上記可動部の外周面に形成された突起を有し、上記固定部は、上記可動部を移動可能に上記突起と係合する溝を有し、上記突起と上記溝とは、上記可動部の移動方向に対向して配設された永久磁石を有し、上記突起の永久磁石と、上記溝の永久磁石との磁極を同極とすることを特徴とする変位測定器。
[2] 上記突起と上記溝とは、上記可動部の移動方向に沿って配設された永久磁石を更に有する、請求項1に記載の変位測定器。
【0015】
また、本発明の他の特徴は、一端側に被測定物に当接する測定子が配設され、他端側にスケールが配設された棒状の可動部と、前記可動部の反測定子側を収容する筒状部材を有し、前記可動部を支持する軸受部を有し、前記スケールに対向して配設された検出部を有する固定部と、を備えた変位測定器において、前記可動部は、前記固定部に対して回動を防止する可動部回り止め手段を有し、前記固定部は、前記可動部回り止め手段と係合する固定部回り止め手段を有し、前記可動部回り止め手段は、前記可動部の外周面に形成された突起を有し、前記固定部回り止め手段は、前記突起と係合して前記可動部の移動をガイドするガイド部を有し、前記突起と前記ガイド部とは、前記移動方向に沿って配設された永久磁石と、前記移動方向に対向して配設された永久磁石と、をそれぞれ有し、前記可動部側の永久磁石と、前記可動部側の永久磁石に対向する前記固定部側の永久磁石との磁極を同極とすることにある。
【0016】
また、前記固定部に設けた前記軸受部に、周方向に複数個に分割形成された永久磁石を配設し、前記可動部の外周であって前記軸受部に対応する位置に、前記軸受部の永久磁石に対応する磁極数を有する周方向に分割された複数個の永久磁石を配置してもよい。
【0017】
また、前記可動部のスケールは、反射部と透過部が前記移動方向に規則的に多数形成された光学リニアスケールであり、前記固定部の検出部は、前記スケールに投射した光の反射光または透過光を検出するフォトダイオードを含んでもよい。
また、前記ガイド部は溝であってもよい。
【0018】
また、別の形態として、一端側に被測定物に当接する測定子が配設され、他端側にスケールが配設された棒状の可動部と、この可動部の反測定子側を収容する円筒状部材を含み、前記可動部の中間部を支持する軸受部を一端側に有し、前記スケールに対向して配設された検出部を有する固定部を備えた変位測定器において、前記可動部がその長手軸周りに前記固定部に対して回動するのを防止する、可動部回り止め手段を前記可動部に、固定部回り止め手段を前記固定部にそれぞれ設け、前記可動部回り止め手段と前記固定部回り止め手段は、ともに磁石手段を含んでもよい。
【0019】
そしてこの特徴において、前記可動部回り止め手段は前記軸受部よりも前記スケール側に設けられた長円形または矩形の突起とこの突起の周囲面であって長手方向に配設された永久磁石を有し、前記固定部回り止め手段は前記突起の前記長手方向の移動範囲に応じて形成された長円形または矩形の溝とこの溝の長手方向内周面に配設した永久磁石を有し、前記可動部側の永久磁石と前記可動部側永久磁石に対向する前記固定部側の永久磁石の磁極を、同極とするのが好ましく、また、前記固定部側の永久磁石は前記溝の長手方向内面に間隔を置いて複数個配設されており、前記間隔を置いた永久磁石間にコイル磁石を配設してもよい。
【0020】
上記特徴において、前記固定部の一端側に設けた軸受部に、周方向に複数極に分割形成された永久磁石を配設し、前記可動部の外周であって前記軸受部に対応する位置に、前記軸受部の永久磁石に対応する磁極数を有する周方向に分割された複数個の永久磁石を配置してもよく、前記可動部のスケールは、反射部と透過部が前記長手方向に規則的に多数形成された光学リニアスケールであり、前記固定部の検出部は、前記スケールに投射した光の反射光または透過光を検出するフォトダイオードを含むものであってもよい。また、前記可動部の前記回り止めと前記固定部の前記検出部間にばねを配設するとともに、長円形または矩形の前記回り止めの前記長手方向側両端面および前記固定部の長円形または矩形の前記溝の長手方向両内側端面にそれぞれ永久磁石を配設し、対向する永久磁石の磁極を同極としてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、プローブの周方向変位を防止する回り止めを永久磁石で構成したので、光学式の変位測定器において、測定プローブが、測定プローブに対向して配置される検出部及び測定部を内蔵するスリーブに対する非接触の状態を維持できるので、測定プローブと固定部材間の摩擦や摩耗の発生を抑制できる。また、従来使用されてきた蛇腹やばね等の部品を省くことが可能になり、変位測定器の構成が簡素化するとともに、測定器内の空気の圧縮が低減され、測定器内部空気によるダンパ作用が無くなるまたは低減される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係るペンシル型変位測定器の一実施例を示す図であり、同図(a)は同図(b)のA視図、同図(b)は縦断面図である。
図2図1に示した変位測定器の可動部側(同図(a))及び静止側(同図(b))の斜視図である。
図3図1に示した変位測定器の回り止め部の図であり、同図(a)は上面図、同図(b)は同図(a)のB-B断面図である。
図4図1に示した変位測定器におけるピッチングとローリングを説明する図である。
図5】本発明に係る変位測定器の回り止め部の他の実施例の図であり、図3に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る小型ペンシル型の変位測定器100の一実施例を、図面を用いて説明する。小型ペンシル型の変位測定器100は、光学式スケールを採用したエンコード方式の高精度接触式デジタル測長機であり、隣接した多点計測に好適で様々な形状の測定を正確に実行可能である。また、測定子10側に蛇腹ブーツ14を備えること等により、防水性や耐環境性を向上でき、一般的なクーラントや油に対しても耐性を持たせることが可能になる。
【0024】
図1に、本発明に係る小型ペンシル型の変位測定器100の縦断面図(同図(b))とそのA部上面図(同図(a))を示す。変位測定器100は、大別して測定子10を一端側に有する可動部20と、この可動部20の一部を収納する外形ほぼ円筒状の固定部62とから構成される。可動部20の一部を図2(a)に、固定部62の一部を分解斜視図で図2(b)に示す。
【0025】
図1(b)において、可動部20は、図示しない被測定物に当接するほぼ半球状の接触子12とこの接触子を保持する測定子10を一端側に有する。測定子10の反接触子側には、丸棒状の軸部30が取り付けられている。軸部30の反測定子側には、詳細を後述する本発明の特徴的構成である回り止め80を有する。
【0026】
可動部20には段付き軸部32が形成されており、その周方向1か所に軸方向に延び、段付き軸部32から外径側に突出した回り止め80が設けられている。段付き軸部32よりもさらに反測定子側には、後述するコイルばね38を巻回するために、段付き軸部32よりも小径の保持部34が形成されている。保持部34は、図2(a)に示すように、段付き軸部32側から軸方向中間部までは円柱形状(中実軸状)であるが、中間部から他方の軸端までは、水平面で切断した断面半円形状の切り落とし部35を形成している。
【0027】
切り落とし部35の軸端側には、さらに光学スケール76の厚さだけ半円形状から水平面で切り込まれたスケール取り付け部36が形成されている。すなわち、接着剤等を用いて光学スケール76をスケール取り付け部36に取り付けたときに、スケール76の上面がほぼ切り落とし部35の上面と一致する、円の2分割面になるようにその切込み深さを調整している。
【0028】
光学スケール76はリニアスケールとして知られているものであり、ガラス等の透明基板に反射部をエッチング等で長手方向に等間隔に構成しており、基板の地の部分を透過部として利用している。透過部と反射部の幅は実質的に等しく、透過部と反射部の対がなすピッチは、例えば20μmである。すなわち、透過部と反射部の幅はそれぞれほぼ10μmである。
【0029】
40は可動部が図1(b)中で左右方向(X方向)に移動するのを低摩擦及び低コンタミで支持する軸受(軸受部とも称する)であり、含油軸受や非接触型の軸受を採用している。軸受(軸受部)40の一実施例では、軸受40は周方向に複数個に分割されて交互にS極とN極が配列された永久磁石からなる磁気軸受を有し、この軸受40に対向する可動部20の軸部30外周には、軸受40に構成されたのと同磁極で同数の永久磁石が周方向に分割配列されている。可動部20の軸部30が軸受40に相対的にX方向に移動するので、可動部20の軸受40に対向する面の長手方向長さは、軸受40の長さより長くなる。したがって、軸受40を永久磁石で構成する場合には、軸部30に設ける永久磁石の長さは、軸受40の長さに可動部20のX方向変位を加えた長さ以上とすることが望ましい。
【0030】
固定部62の先端側(図1(b)で左側)と測定子10の反接触子端面間には、蛇腹ブーツ14が気密に取り付けられており、可動部20が固定部62に対して動いても、変位測定器100の周囲環境に含まれる油やクーラント等の外部の塵埃が、固定部62の内部に侵入するのを防止している。蛇腹ブーツ14は測定子10の測定に影響を与えないよう低剛性に形成されているとともに、耐環境性材料から構成されている。
【0031】
固定部62の軸受40より反蛇腹ブーツ側(図1(b)で右側)には、変位測定器100の外径をほぼ円筒状に気密に構成するために、軸受40への接続側を円筒状に形成され、多くの切り欠き部を有するケース42と、このケース42のカバー案内部44の外周に沿う薄肉円筒状のカバー60が設けられている。カバー60は、ケース42のほぼ全長手方向を覆う。カバー60がケース42に嵌合する側の反対端には、本変位測定器100の電子部品に延びる信号線92や電線94が接続されるターミナル部90が配設されており、ターミナル部90とカバー60はOリング等の機械的な封止手段もしくは接着等の方法で、気密化されている。ターミナル部90には、本変位測定器100を制御する制御器に接続するケーブルが接続されているが、図示を省略している。
【0032】
図2(b)は、カバー60と軸受40を取り除いた固定部62を示す。図2(b)を参照して、ケース42及びその周りをさらに説明する。ケース42には、ワイヤ放電加工等で複雑形状の複数の切り欠き部を有するように形成されている。すなわち、図2(b)のほぼ左半分の部分は、ばね当接部45まで中空円筒形上に形成されて、可動部20を受け入れる形状になっている。そして、上面には、長円形の溝50が形成されており、可動部20の回り止め80が長手方向に移動できる回り止め用溝となっている。溝50の周縁部には、溝縁部磁石82が接着等で取り付けられている。可動部20の回り止め80と溝縁部磁石82は、回り止め部84を構成する。
【0033】
下側にも穴48が形成されており、調整等に使用される。ばね当接部45はほぼ上半分にのみ形成された壁であり、可動部20の段付き軸部32の壁面との間で、コイルばね38を保持する。コイルばね38は、本変位測定器100を使用した後の、測定子10をX方向に左側へ戻すためのものである。なおカバー案内部44の内面とばね当接部45につながるばね保持部46の内面が、コイルばね38を保持及びガイドする。
【0034】
ばね当接部45の右側には台状に基板受け部52が形成されており、固定部62の反軸受部端に形成した基板受け部56とで、光学式エンコーダを形成する受光部72が搭載された電子基板70を搭載する。したがって両基板受け部52、56は同一平面を形成しており、端部の基板受け部56は半円よりやや大きな切頭円柱である。電子基板70は、下面に受光部72や回路素子74が搭載されて基板受け部52、56に載置され、一端側が基板受け部52に形成したねじ穴52aと電子基板70に形成した取り付け穴70aを用いて止めねじ78で固定される。同様に、他端側が基板受け部56に形成したねじ穴56aと電子基板70に形成した取り付け穴70bを用いて、止めねじ78で固定される。受光部72は、フォトダイオードなどの受光素子を有し、受光素子がリニアスケールを構成する反射部、透過部に投射された光の反射光または透過光を検出する。
【0035】
電子基板70を基板受け部52、56に固定した状態で、受光部72の下面と可動部20に取り付けた光学スケール76の上面との間の距離が、光学式測定に適切な距離となるよう、基板受け部52、56の水平面高さが設定されている。電子基板70に搭載した受光部72や回路素子74を固定部62内に収容するため、固定部には半円型の切り欠き部59が形成されており、さらにこの半円型の切り欠き部59の下側部分には、組み立て等の便のために切り欠き部58が長手方向に延びて形成されている。上述したように、電子基板70には、図示しないターミナル部から信号線92や電力用の電線94が複数本(図1(b)では簡便のためそれぞれ1本のみ記載)取り付けられている。
【0036】
このように構成した本変位測定器100の回り止め部84の詳細を、図3及び図4を用いて説明する。図3(a)は回り止め部84の周方向展開図であり、図1(a)に対応する図であり、図3(b)は図3(a)のB‐B断面図である。図4は可動部20と固定部62の相対変位を説明する図であり、同図(a)はヨー動とロール動を説明する図、同図(b)はロール動による可動部20と固定部62の相対変位を示す図、同図(c)はヨー動による可動部20と固定部62の相対変位を示す図である。
【0037】
固定部62のカバー案内部44とばね保持部46にわたって、長手方向に長円形の溝50(図3(a)にはその一部を記載)が形成されている。溝50の内周面では溝50の全周にわたって、最内側に永久磁石(N極)822が、その外側に永久磁石(S極)821が積層されて形成されている。一方、可動部20の段付き軸部32には長円形の溝が形成されており、この溝に回り止め80が嵌合されている。回り止め80は長円形柱であり、断面矩形の高剛性の金属製固定軸806が中心に配置され、その周りであって長辺側には順に永久磁石(S極)802、永久磁石(N極)801が積層されて、接着等で取り付けられている。一方固定軸806の短辺側では、内側から順に永久磁石(N極)803、永久磁石(S極)804が積層されて、接着等で取り付けられている。各磁石801~804の角部は、樹脂等で固められた後丸み付処理されて回り止め80が完成する。上記各磁石の材料は高磁力を発生できる材料が好ましく、例えば希土類磁石のネオジムやサマリウムコバルトやフェライト磁石を使用する。
【0038】
磁石821、822からなり溝50の内周に配設される溝縁部磁石82、および回り止め80に配置される磁石801~804の磁極をこのように構成したので、溝縁部磁石82を備えた固定部62と回り止め80とは常時互いに反発する反発力を生じており、可動部20が長手方向に移動する際に、たとえその長手方向軸周りに回動(ロール動)するような力が加えられても、上記回り止め部84の磁石822、801の相互作用により復元力が発生し、その回転方向位置を一定に保つ。したがって、回り止め80が固定部62に接触するのも防止され、可動部20の移動に伴うコンタミの発生を防止できる。また、回り止め80が長円形であり、磁石801、802も長手方向に所定長さを有しているので、可動部20のある点周りの変位(ヨー動)を防止できる。さらに、回り止め80の角部に丸みを形成したので、溝50の端部に万一回り止め80が当接しても、塵埃等のコンタミが発生するのが防止される。
【0039】
一方、測定を終えて測定子10が被測定物から解放されると、可動部20はコイルばね38の復元力により初期位置に戻るが、その際回り止め80の短辺部に設けた磁石804と溝50の内面の磁石822の相互作用により、その復元動作が緩衝され溝50の端部円弧部との当接が回避され、この場合にもコンタミの発生を防止できる。
【0040】
また、磁石804、822の相互作用により磁気ばねが生成され、測定時に可動部20の絶対変位量の変化による影響を緩和し、被測定物に対してほぼ一定の接触応力を付与することが可能になり、計測精度が向上する。さらに、磁気ばねにより重力のない環境や空気のない真空環境等での計測時にも接触応力をほぼ一定にすることが可能になる。さらにまた、蛇腹ブーツ14やケース54で気密化したことにより、可動部20が変位すると内部空気が空気ばねとして作用し、これは計測時の抵抗になるが、そのような場合にも所定の速さで可動部20を長手方向(X方向)に動かすことが可能になる。
【0041】
溝50の磁石822と回り止めの磁石801の相互作用によりロール動を抑制する結果、図4(b)に示すように、何らかの要因で可動部20に取り付けた光学スケール76が破線で示した位置76aに変化しても位置は即座に復元され、光学スケール76と受光部72間は適正隙間dに戻され、高精度な測定を可能にする。同様に何らかの要因で可動部20が長手方向からΔθだけ傾いて、図4(c)に示すように光学スケール76が位置76bへ変化しても、上述した磁石の相互作用により光学スケール76の位置は即座に復元され、光学スケール76と受光部72の相対位置が一定に保たれる。
【0042】
図5に本発明に係る回り止め部84の変形例を示す。本変形例が上記実施例と異なるのは、固定部62に形成した溝50の内周面に取り付ける永久磁石を分割形状とし、分割した磁石を所定間隔を置いて配置し、各隣り合う磁石間にコイル磁石を配置したことにある。なお溝50の円弧部の磁石は分割せずに、図3に示した実施例と同様の構成である。
【0043】
具体的には、長手方向長さを所定長さとした分割磁石822、821を溝50の長手部内面に積層して接着等で配設し、隣り合う分割磁石822、821の間にコイル磁石825を配設している。コイル磁石825は、芯811の周りにコイル812が巻回された磁石であり、コイル812は図示しない電線により電子基板70に接続されている。コイル812の端部への印加電流を制御することにより、発生する磁力を変化させる。その場合、各コイル812ごとの印加電流の大きさや流れる方向を制御すると、可動部20の長手方向位置に応じてコイル812の発生する磁力の強さや方向を変化させることができ、測定子10の測定位置に応じて可動部20の移動速さを変化させることができ、一定なまたは変化する可動部20の最適長手方向移動速度を得ることができる。また、上記印加電流の向きや方向を制御することにより、測定子10による被測定物への測定圧(押圧力)を調整することもできる。
【0044】
以上説明したように本実施例及び変形例によれば、接触して計測するペンシル型の変位測定器において、可動部の回り止めと固定部の溝の双方に永久磁石を配置したので、可動部と固定部の接触を極力回避でき、変位測定器内部でのコンタミの発生を防止できる。また万一コンタミが発生しても磁性金属粉であれば磁石に吸着することができ、光学式変位測定部に対するコンタミによる測定精度劣化の悪影響を防止できる。さらに、可動部の固定部に対する相対ヨー動、ロール動を磁石が復元するので、光学スケールと受光部の相対姿勢を一定に保持できる。
【符号の説明】
【0045】
10…測定子、12…接触子、14…蛇腹ブーツ、20…可動部、30…軸部、32…段付き軸部、32a…ばね当接面、34…保持部、34a…ばね巻回面、35…切り落とし部、36…スケール取り付け部、38…コイルばね、40…軸受(部)、42…ケース、43…ケース端部、44…カバー案内部、45…ばね当接部、46…ばね保持部、48…穴、50…(回り止め用)溝、52…基板受け部、52a…取り付けねじ穴、54…ケース、56…基板受け部、56a…取り付けねじ穴、58、59…切り欠き部、60…カバー、62…固定部、70…電子基板、70a、70b…取り付け穴、72…受光部、74…回路素子、76…(光学)スケール、76a…(ロール変位後の)スケール、76b…(ヨー変位後の)スケール、78…止めねじ、80…回り止め、82…溝縁部磁石、84…回り止め部、90…ターミナル部、92…信号線、94…電線、100…(ペンシル型)変位測定器、801、803…永久磁石(N極)、802、804…永久磁石(S極)、806…固定軸、811…芯、812…コイル、821…永久磁石(S極)、822…永久磁石(N極)、825…コイル磁石、d…隙間、Δθ…ヨー変位量
図1
図2
図3
図4
図5