(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022125876
(43)【公開日】2022-08-29
(54)【発明の名称】防護閉空間システム
(51)【国際特許分類】
A62B 31/00 20060101AFI20220822BHJP
F24F 8/108 20210101ALI20220822BHJP
A62B 17/00 20060101ALI20220822BHJP
【FI】
A62B31/00
F24F8/108
A62B17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021023700
(22)【出願日】2021-02-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「ウイルス等感染症対策技術開発事業 基礎研究支援」「ウイルス等感染症患者用高清浄閉空間システムの飛躍的高機能化」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(72)【発明者】
【氏名】石橋 晃
【テーマコード(参考)】
2E185
【Fターム(参考)】
2E185AA01
2E185BA02
(57)【要約】
【課題】感染リスクを低減する防護閉空間システムを提供する。
【解決手段】実施形態に係る防護閉空間システム100は、外界と内部との間で気体のマスフローとしての交換のない孤立閉鎖系を構成し、かつ外界と内部との界面の少なくとも一部に浮遊ダスト2、浮遊粒子4、浮遊菌6を通さず、気体分子は通すガス交換膜310を有する閉空間101と、閉空間101に当該システム使用者が身を置いて、閉空間101の内部の気体を吸引する開口と、当該吸引気体をダスト微粒子数密度に関して、閉空間101の内部に、浄化部200を通過する気流の向きを交互に変化させながら戻す清浄化装置102とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外界と内部との間で気体のマスフローとしての交換のない孤立閉鎖系を構成し、かつ外界と内部との界面の少なくとも一部にダスト微粒子を通さず、気体分子は通すガス交換膜を有する閉空間と、
前記閉空間に使用者が身を置いて、前記閉空間の内部の気体を吸引する開口と、吸引した気体をダスト微粒子数密度に関して、前記閉空間の内部に、浄化部を通過する気流の向きを交互に変化させながら戻す清浄化装置と
を備える、防護閉空間システム。
【請求項2】
外界から前記閉空間を隔てる界面において、d/dx_⊥を、内部と外界の前記界面を垂直に横切る方向の空間微分の演算子として、前記閉空間の内外におけるエアフローFに関し、dF/dx_⊥=0を満たす、請求項1に記載の防護閉空間システム。
【請求項3】
前記閉空間における空気の占める体積をV、前記ガス交換膜の中の酸素の拡散定数をD、前記ガス交換膜の厚みをLとした時、前記体積Vと前記ガス交換膜の面積Aとを、{(V/A)/(D/L)}でスケーリングさせて設計が行われ、前記閉空間の内部の酸素消費レートをB、外界と平衡状態にあり前記閉空間の内部で酸素消費の無い時の酸素体積をVO2、前記閉空間内における目標酸素濃度をη(η>0.18)とした時、前記ガス交換膜の面積Aが、少なくとも、A>=BL/{D(VO2/V-η)}を満たすように設定されている、請求項1に記載の防護閉空間システム。
【請求項4】
前記清浄化装置の少なくとも一部が、不織布又は布からなるマスクより構成される、請求項1又は2に記載の防護閉空間システム。
【請求項5】
前記閉空間は、防護服を備える、請求項1~4のいずれか1項に記載の防護閉空間システム。
【請求項6】
前記ガス交換膜が使用者の頭部と少なくとも腰骨下部より上部の胴部を一体的に覆い、前記頭部の周りの空間と前記胴部の周りの空間が連通している、請求項5に記載の防護閉空間システム。
【請求項7】
前記外界から前記閉空間を隔てる界面である防護服表面において、d/dx_⊥を、内部と外部の前記界面を垂直に横切る方向の空間微分の演算子として、前記閉空間の内外におけるエアフローFに関し、dF/dx_⊥=0を満たす、請求項6に記載の防護閉空間システム。
【請求項8】
前記閉空間は、防護飲食空間を備える、請求項1~5のいずれか1項に記載の防護閉空間システム。
【請求項9】
前記外界から前記閉空間を隔てる界面である防護飲食空間端の2次元面において、d/dx_⊥を、内部と外部の前記界面を垂直に横切る方向の空間微分の演算子として、前記閉空間の内外におけるエアフローFに関し、dF/dx_⊥=0を満たす、請求項8に記載の防護閉空間システム。
【請求項10】
前記清浄化装置として、前記使用者の呼吸器そのものを用いる、請求項1~9のいずれか1項に記載の防護閉空間システム。
【請求項11】
請求項5~7のいずれか1項に記載の防護閉空間システムにおいて、防護服着用作業時の運動量を勘案して、前記閉空間の内部の酸素消費レートBを決定し、対応する前記ガス交換膜の面積Aを有する防護服を使用する、作業実施方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、防護閉空間システムに関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナの第3波が猛威を振るっており、医療崩壊の可能性も鑑みて緊急対策を施す必要に迫られている。特に、心を痛めるのは、身を削って新型コロナの検査や治療に当たっておられる医療従事者の方々が、本来患者にとって救いの存在であるにもかかわらず、潜在的な新型コロナ罹患者であるとして、排斥されがちな状況であることである。看護師の中には、幼子を含む自らの家庭を守るため、やむをえず離職される方々も数多いという非常に悲しい過酷な状況に陥ってしまっている。排斥する側に回っている者たちを非難することはたやすい事であるが、彼らも自らの恐怖心を制御できない哀れな状況とも見て取れる。現状の不幸・諸悪の根源は、新型コロナの完全な防御策が現状存在しないことである。医療用から一般ユースまで、ハードウエア的対策が試みられている(例えば、非特許文献1~6参照。)。これらは(途中にフィルタを介在させる物もあるものの)全て基本的に使用者の呼吸が直接外界と繋がっているオープンエアフローシステムであるという共通点で括られる。新型コロナ等感染症ウイルスがこの気流に乗って出入りする限り、これらの方策では相互感染リスクを「原理的にゼロにする」ことは不可能である。
【0003】
このように、現代文明の進歩に伴い、重症急性呼吸器症候群(SARS:severe acute respiratory syndrome)や新型コロナ等の感染症の発生に加え、産業活動上、特に原子力発電所関連の災害発生時における人類の脆弱性、健全な人間活動に対するリスクが高まっている。特に、新型コロナによるCOVIDー19(coronavirus disease 2019)の世界的蔓延により、人々の生活、家庭外での積極的活動が圧迫され、飲食店の倒産などを通じて、経済的にも大打撃を受けている。
【0004】
放射性元素を含む塵埃発生、PM(Fine particulate matter)2.5として知られている微粒子状物質等の発生や感染症リスクが発生した場合、ヒトにおける内部と外部(外界)のやり取りを制御することが必要である。通常行われることは、マスクを用いることであり、呼吸器を通じた有害物質の体内吸収を防ぐことが重要とされている。
【0005】
目の前にある空気の中には107~108個/m3もの粒子や菌が浮遊している。コロナ禍の状況において、これらの浮遊粒子・菌をできるだけ少なくすることが重要となる。また、原子力発電所における作業、特に、廃炉事業などにおいては、放射性元素を含む塵埃を呼吸により体内に取り込んでしまうことの無いよう厳重な管理が必要である。
【0006】
浮遊菌やコロナウイルスを取り除くためにはマスクや透明フェイスガードを用いている。在来マスクを介した呼吸もマスク越しに、正味の空気流の出入りがある。
【0007】
マスクの有効性に関する根本的議論がなされ、現状では、(特に不織布等による簡易型の)マスクは「他人へのウイルス拡散防止」にはなっても、「他人から自分へのウイルス拡散防止」にはならないとされている。軽量簡易型の不織布・ウレタンマスクを以ってする安心かつ安全なものは未だかつて存在していない。
【0008】
一方、バルブ付きマスクというものが存在する。しかしながら、周りに対する影響としては、その使用を禁止する場合も発生している(例えば、非特許文献7参照。)。当該マスクでは、呼気がバルブにより、そのまま使用者の周りに排出されるということで、当該マスクを着用していない人も混在する場合には、全体としての危険性がむしろ増大する(バルブ付きマスクは、利己的ではあっても、利他的な安全装置とは言い難い)ためである。
【0009】
本発明者らは、孤立・閉鎖性を特徴とするオリジナル技術であるクリーンユニットシステムプラットフォーム(CUSP:Clean Unit System Platform)に基づいて高性能クリーン環境システムを実現して来た(例えば、特許文献1、特許文献2、及び特許文献3参照)。これまでのCUSPにおける清浄化装置(FFU:ファンフィルタユニット)のフィルタ部を通過する気流の向きは常に一方方向のみである。このため、これまでのCUSPの動作は“直流”モード(DCーCUSP)であった。直流を形成するためのファンの回転動力のために電力が消費される。このため、現状では必ずしも「究極的に省エネルギー的な」システムとは言うことができない。
【0010】
新型コロナ等感染症に対抗できる清浄環境を生成する技術を考えてみた場合、在来クリーンルームがある。これは、浮遊粒子を除去するために、フィルタを通した空気を送り込み、室内に清浄環境を作るもので、例えば、半導体などの工業分野、食品製造・調理場などの食品分野や手術室・医薬などの医療分野で幅広く利用されている解放系(オープンエアフローシステム)である。外気を取りこみ、これを濾過して得られる清浄空気を室内に送りこむことにより室内の塵埃や菌の濃度を薄めつつ、この空気を室外に排出することで、室内の浮遊塵埃・菌を減少させもので、系としては、解放系である。即ち、オープンエアフローシステムである。このシステムでは、FFUで濾過・導入した外気もろとも室外に排出する結果として室内が清浄化するパッシブな清浄化機構であり、室内の塵埃を直接当該FFUで除去するアクティブな清浄化システムではない。このやり方では、室内が清浄化した後も、FFUは依然として同じレートで目詰まりをし続ける。当該FFUにとっては過酷な状況が続き、必然的に維持コストが高まり、省エネにも反する。また外部と内部の間で正味の気体のマスとしてのやり取りがある解放系であるため、相対的に陽圧である室内/内部から塵埃・菌が排出される外界/外部(に滞在する者)へは大いなるリスク(例えば、新型コロナの場合は感染リスク)が降りかかる。他にも、維持コストの高さや消費電力の高さなど問題を抱えている。
【0011】
また、新型コロナ罹患リスクを下げるものとして、上述の不織布マスクやウレタンマスクの着用が、現状ではひとつの対策となっているが、在来型のマスクの利用法では、呼吸に伴ってマスク越しに体内と外界の間で、直接の正味の空気流の出入りがある解放系(オープンエアフローシステム)である。呼吸に伴う新型コロナウイルスの吸引リスクが、特にウレタンマスクや簡易型の不織布マスクなどでは、かなり大きい。
【0012】
防護服としてみた場合の既存の技術としては、医療系では、非特許文献1にて医療従事者用のものとして示されているように、浮遊菌やコロナウイルスを取り除くためにマスクや透明フェイスガードを用いている。しかしながら、これもまた、マスクを介した呼吸を通じて、正味の空気流の出入りがある解放系(オープンエアフローシステム)であり、空気流に乗ってくる新型コロナウイルス等の細菌や塵埃を完全にゼロとすることはできない。重くて嵩張る所謂防毒マスク状の安全装具も用いられる場合もあるが、これに関しても(使用者に対する安全性は不織布マスクよりは高まると言えるものの)マスクの外はすぐ外界である(オープンエアフローシステム)ことは変わらず、従って、その解放性により感染リスクを「完全にゼロとする」ことはできない。
【0013】
防護服としてみた場合の既存の技術としてコンスーマー系では、非特許文献2~6の先行例が挙げられる。これらの先行例(非特許文献2、非特許文献4、非特許文献5)は、基本的に、上下左右に隙間が多く気密性すら保持していない。非特許文献3と非特許文献6は、気密性は有するものの、電池式のファンを使ってフィルタで濾過した空気を送り込んでいるもので、まさに在来型のクリーンルームの技術思想をそのまま適用したオープンエアフローシステムである。従って、目の細かいフィルタを使って、そのリスクを相対的に下げることはできるが、新型コロナが気流に乗って侵入するリスクを完全にゼロにできない。リスクを下げるため、フィルタの目を細かくすると圧力損失が大きくなる。エアフローを維持するための電力が大きくなり、電池式では限界がある。また、目が細かいフィルタは目詰まりし易いので、ランニングコストも高くなってしまう(ここでも上述の安全性の高さと使い勝手の良さの間のトレードオフ・負の相関が顕著に観測される)。特に、非特許文献6の器具は、宇宙服とも形容されるほどで、コロナ対策的には強力なものでありそうであるが、見た目にもごわごわ感があり、軽量で操作性に富むとは言い難いものである。
【0014】
この他、在来型システムにおいては、N95(Particulate Respirator Type N95)マスクと顔面シールドを備えた個人用防護具(PPE:personal protective equipment)スーツを着用する例もあるが、より高い安全性を求めるほど、簡便性や軽量性、操作性の良さとは負の相関関係にあり、顔面・頭部に掛かる荷重・負荷が大きくなってしまう。
新型コロナ等感染症とはまた別に、体内への有害物質の吸引が致命傷となるリスクを抱える原子力発電所作業等でも、重装備のマスクが使用されている。当該負荷が小さく、軽量かつコンパクトで使用者の活動性を妨げない安心・安全な防護服が医療従事者や原子力発電所復旧作業者に提供され十分機能しているとは言い難い。
【0015】
また新型コロナ禍の下の外食産業用としては、各人を個別に覆うシステムが登場している(例えば、非特許文献8参照。)。しかしながら、このようなシステムもまた、解放系(オープンエアフローシステム)となっており、微細なエアロゾルとして長時間空気中を漂う新型コロナ等感染症の原因物質に対しての効力は限定的なものとなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第10677483号公報
【特許文献2】国際公開第2014/084086号公報
【特許文献3】特許第6292563号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】"covid-19. Foto Premium”https://www.freepik.es/fotos-premium/doctor-usando-ppe-careta-buscando-informe-laboratorio-virus-corona-covid-19_7635461.htm (2021年2月7日検索)
【非特許文献2】"wearable shield to protect against coronavirus outbreaks”https://www.dezeen.com/2020/02/26/sun-dayong-coronavirus-protection-shield/ (2021年2月7日検索)
【非特許文献3】” BioVYZR: Venture Out & Breathe Easy”https://www.yankodesign.com/2020/04/30/this-air-purifying-face-shield-creates-a-bubble-of-safety-around-its-wearer/ (2021年2月7日検索)
【非特許文献4】"bubble shield”https://www.designboom.com/technology/bubble-shield-inflatable-protective-environment-designlibero-04-21-2020/ (2021年2月7日検索)
【非特許文献5】"ShieldPod”https://utwpods.com/products/shieldpod (2021年2月7日検索)
【非特許文献6】"宇宙服? 面会専用防護服でコロナ気にせず親孝行 [HBC北海道放送]”https://www.hbc.co.jp/news/ed3f374193c84375bdf10897f9ac88dd.html (2021年1月15日検索)https://m.facebook.com/taiyokogyo/posts/4019467178086684 (2021年2月7日検索)
【非特許文献7】"新型コロナに効果がない…在韓米軍が着用を禁止したものとは?”https://www.wowkorea.jp/news/korea/2020/0907/10269854.html (2021年2月7日検索)
【非特許文献8】"Suspended shields imagine future of restaurant dining.”https://www.designboom.com/design/christophe-gernigon-plexeat-restaurant-shields-coronavirus-05-17-2020/ (2021年2月7日検索)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の実施形態は、感染リスクを低減化する防護閉空間システムを提供する。
【0019】
本発明の実施形態は、孤立・閉鎖系高清浄環境CUSP技術を進化させ、新型コロナに罹患しないし、罹患させない安心安全で軽量な究極の防護服を提供する。
【0020】
本発明の実施形態は、使用者は外界の新型コロナウイルスを吸いこむ事がなく、また逆に、内部から周りに菌を撒き散らす事も完全に抑止できる防護服を提供する。
【0021】
本発明の実施形態は、この究極の相互感染防止力により、医療従事者はもとより、一般市民を含む社会全体に安心と安定をもたらす防護服を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本実施形態の一態様によれば、外界と内部との間で気体のマスフローとしての交換のない孤立閉鎖系(クローズドエアフローシステム)を構成し、かつ前記外界と前記内部との界面の少なくとも一部にダスト微粒子を通さず、気体分子は通すガス交換膜を有する閉空間と、前記閉空間に当該システム使用者が身を置いて、前記閉空間の内部の気体を吸引する開口と、当該吸引気体をダスト微粒子数密度に関して、前記閉空間の内部に、浄化部を通過する気流の向きを交互に変化させながら戻す清浄化装置とを備える、防護閉空間システムが提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明の実施形態によれば、感染リスクを低減化する防護閉空間システムを提供することができる。
【0024】
本発明の実施形態によれば、孤立・閉鎖系高清浄環境CUSP技術を進化させ、新型コロナに罹患しないし、罹患させない安心安全で軽量な究極の防護服を提供することができる。
【0025】
本発明の実施形態によれば、使用者は外界の新型コロナウイルスを吸いこむ事がなく、また逆に、内部から周りに菌を撒き散らす事も完全に抑止できる防護服を提供することができる。
【0026】
本発明の実施形態によれば、この究極の相互感染防止力により、医療従事者はもとより、一般市民を含む社会全体に安心と安定をもたらす防護服を提供することができる。
【0027】
特に、CUSPシステムを、直流モードから呼吸の空気流を活用する交流モード(AC-CUSP)へと進化させることで、新型コロナ等感染症に罹患しないし、罹患させない軽量で安心安全な高空気清浄度防護服システムをまずは医療従事者に提供する。世の中を覆う恐怖の根源は、エアロゾル感染をするとされる新型コロナの防御が容易でないことである。ワクチンの登場が待たれるが、その摂取が軌道に乗るまで、感染リスクを何としても下げることによって、今の世が陥ってしまっている不幸な状況を少しでも明るい方向へ軌道修正できる抜本的な方策を実現し、医療従事者、特に看護師の離職や医療崩壊の危機を未然に防ぐことができ、日本の医療環境の向上に繋げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】比較例に係る防護閉空間システムの模式的構成図。
【
図2】本実施形態に係る防護閉空間システムの模式的構成図。
【
図3A】本実施形態に係る防護閉空間システムに対応する防護服システムを装着したユーザの正面図。
【
図3B】本実施形態に係る防護閉空間システムに対応する防護服システムを装着したユーザの側面図。
【
図4】本実施形態に係る防護閉空間システムを防護服システムへ適用した際の実験結果。
【
図5】本実施形態に係る防護閉空間システムを防護飲食空間システムへ適用した際の模式的構成図。
【
図6】本実施形態に係る防護閉空間システムを防護飲食空間システムへ適用した際の実験結果。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、図面を参照して、実施の形態について説明する。以下に説明する図面の記載において、同一又は類似の部分には同一の符号を付している。図面は模式的なものである。また、以下に示す実施の形態は、技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、部品の材質、形状、構造、配置等を特定するものではない。実施の形態は、種々の変更を加えることができる。
【0030】
(比較例)
図1は、比較例に係る防護閉空間システム100Aの模式的構成図である。比較例(在来技術)は、FFUが外界と部屋内部の界面に存在し、ファンフィルタユニット200が外気を部屋内部へ押し込むため内部が陽圧のオープンエアフローシステムである。
【0031】
比較例に係る防護閉空間システム100Aは、空気浄化機器(新型コロナ対策に適用時はマスク)が外界と人体内部の界面106Aに存在する(新型コロナ対策に適用時は、呼吸が発生して居ることから明らかな)内外非等圧システムである。また、比較例に係る防護閉空間システム100Aは、換気が、通常の使い方をしたマスク使用時に対応する開放系(オープンエアフローシステム)である。
【0032】
ファンフィルタユニット(FFU)200Aの回転は一方向で固定されているため、エアフローFは常に一定方向フィルタを横切る(電気回路との比較をすると、直流のエアフローシステムである)。マスクを従来の処方に従って使用する際は、吸気と排気[呼気]が、口という同一場所で行われるが、マスクを空気が横切ることのみが寄与するので(向きに依存せず)、理論解析式的には解放系クリーンルームと同一で、式(1)~式(4)のように記述される。この場合、
図1の閉空間101Aは、ヒトの内部、即ち口腔内・気管・肺及び、これに連結する体内に相当する。ファンフィルタユニット(FFU)200Aを介して、内部の閉空間101Aと外部が直接に接している。また、エアフローFOは、オープンエアフローを表す。
図1の閉空間101Aの内部と外界には、ダスト微粒子が浮遊している。ダスト微粒子には、例えば、浮遊ダスト2、浮遊粒子4、浮遊菌6が含まれる。
【0033】
今、ある体積Vを持つ閉空間を考える。風量Fにて換気がなされているとする。この気流により、この閉空間101A内の空気は十分早くかき回され、双方の内部で空気を構成するガス分子は十分早く均一化すると考えてよく、この時、この閉空間101A内部では空間座標依存性を無視することができる。この閉空間101Aで、酸素消費量B(m3/s)の活動がなされているとする。時刻tにおける閉空間101A内部の酸素濃度をη(t)とし、外界の酸素濃度(=内部で酸素消費の無い時の酸素濃度)をη0とすると、時刻t+δtにおける酸素の体積Vη(t+δt)は、時刻tにおける酸素体積Vη(t)を使って、
【0034】
【0035】
と記すことができる。この式(1)の第2項は、時間区間(t、t+δt)の間の酸素消費に伴う酸素体積の減少、第3項はその間に風量Fの換気を通じて外界のフレッシュエア(酸素濃度η0を有する)が入ってくることによる酸素体積の増加、第4項は(風量Fの外気給気に伴い)同量の内気(その酸素濃度はη(t)であることに注意)がその間に排出されることによる酸素体積の減少を示す。右辺第1項を左辺に移項して両辺をδtで除することにより、式(2)の微分方程式、
【0036】
【0037】
が得られる。初期条件として、時刻t=0で閉空間内の酸素濃度は外界のそれと等しいことから、η(0)=η0が成り立つので、式(2)の解は、
【0038】
【0039】
と求まる。十分時間が経つと系は定常状態に達し、式(3)の指数関数部がゼロになることから、或いはまた、式(2)の左辺がゼロとなることから解るように、内部の酸素濃度は一定値
【0040】
【0041】
に収束する。
【0042】
(実施の形態)
図2は、本実施形態に係る防護閉空間システム100の模式的構成図である。本系ではファンフィルタユニット(FFU)200が空間内部にあり(外界から隔絶されており)、当該FFUから出る気流が循環しているので、内外等圧で、内部と外部の間にフローとしての空気のやり取りの無いクローズドエアフローシステムである。
【0043】
実施形態に係る防護閉空間システム100は、外界と内部との間で気体のマスフローとしての交換のない孤立閉鎖系を構成し、かつ外界と内部との界面106の少なくとも一部に浮遊ダスト2、浮遊粒子4、浮遊菌6を通さず、気体分子は通すガス交換膜310を有する閉空間101と、閉空間101にシステム使用者が身を置いて、閉空間101の内部の気体を吸引する開口と、吸引気体をダスト微粒子数密度に関して、閉空間101の内部に、浄化部200を通過する気流の向き(F1、F2)を交互に変化させながら戻す清浄化装置102とを備える。
【0044】
ここで、外界から閉空間101を上下左右ぐるりと覆って隔てる界面106において、d/dx_⊥を、内部と外部の界面106を垂直に横切る方向の空間微分の演算子として、閉空間101内外におけるエアフローFに関し、dF/dx_⊥=0を満たすように構成されている。
【0045】
また、閉空間101における空気の占める体積をV、ガス交換膜310中の酸素の拡散定数をD、ガス交換膜310の厚みをLとした時、体積Vとガス交換膜310の面積Aとを、{(V/A)/(D/L)}でスケーリングさせて設計が行われ、閉空間101の内部の酸素消費レートをB、外部と平衡状態にあり閉空間101の内部で酸素消費の無い時の酸素体積をVO2、閉空間101内における目標酸素濃度をη(η>0.18)とした時、ガス交換膜310の面積Aが、少なくとも、A>=BL/{D(VO2/V-η)}を満たすように設定されている。
【0046】
また、清浄化装置102の少なくとも一部が、不織布や布からなるマスクより構成される。
【0047】
本実施形態に係る防護閉空間システム100において、体積Vをもつ閉空間101を、外界との気流のやり取りのない孤立系として成立させると、この閉空間101として定義する「外界との境界面106」を横切る空気流がゼロとなる。即ち、上述の閉空間101に流れ込む風量(=閉空間から流れ出る風量)Fはゼロである。その代わり、当該境界面106の一部にガス交換能力を有するガス交換膜310を用いる。このガス交換膜310の面積をA、厚みをL、このガス交換膜310を通過する気体分子の拡散定数をDとする。この孤立閉空間101において、単位時間あたりB(m3/s)にて酸素を消費せしめるとすると、アボガドロ数をNA、系の置かれた圧力(~1気圧)における1モルあたりの気体体積をC、上記ガス交換膜の面積をA、隔壁を通して包囲体の内部に入ってくる酸素のフラックスをjとすると、時刻t+δtにおける酸素の体積Vη(t+δt)は、時刻tにおける酸素体積Vη(t)を使って
【0048】
【0049】
が成り立つ。式(5)の右辺第3項は、上記ガス交換膜310の両側(即ち閉空間101内部と外界との間)での酸素濃度差(濃度勾配)のために流入してくる酸素分子の数である(空気流としてではなく、分子の拡散として酸素が閉空間内部に入ってくるのであり、上述の式(1)~(4)で記述される現象とは全く性質を異にする)。式(5)において、jは
【0050】
【0051】
で与えられる。ただし、φは閉空間101の内部の単位体積当たりの酸素分子数、Dはガス交換膜中の酸素の拡散定数で、ガス交換膜に垂直な方向をX軸としたとき、∇はこのX軸方向の微分演算子である。閉空間101の体積をV、ガス交換膜310の厚みをLとすると、Lは、閉空間101の寸法に比べ3桁以上程度小さく、極めて薄いと見なせるので、式(5)は、
【0052】
【0053】
と良い精度で近似することができる。η0は、式(1)、式(2)と同様に、外界の酸素濃度であり、通常20.9%程度である。式(7)より式(8)の微分方程式
【0054】
【0055】
が導かれる。式(8)の厳密解は、
【0056】
【0057】
と求まる。ここでは十分時間がたった後の定常状態に対応する解に興味があるので、式(8)の左辺=0とおくと、この時刻tにおける酸素濃度は
【0058】
【0059】
と求まる(式(9)でt→∞とした場合に一致する)。
ここで、風量Fで換気して、閉空間101の酸素濃度を担保する方法と、ガス交換膜310としての機能を持つ膜を閉空間の一部に用いることで外界から(酸素が濃度勾配を緩和する方向にガス交換膜内を拡散することを利用して)酸素を閉空間101内に供給する場合の2つを比較することができる。即ち、式(2)と式(8)、或いは、式(4)と式(10)を比べると、
【0060】
【0061】
と同定することで、風量Fで換気して、閉空間101内の酸素濃度を担保する方法と、閉空間101の面積A、厚みL、分子拡散定数Dを持つガス交換膜を閉空間と外界の境界の一部に用いることが、等価であることが示された。
【0062】
即ち、風量Fで換気して、閉空間内の酸素濃度を担保する方法は、式(11)を満たすA、D、Lを有するガス交換膜310をして気密性を持つ閉空間101と外界との境界に用いることで、同等の酸素交換能を担保することができる。この境界・界面は、一枚のガス交換膜(必要に応じてこれをGas Exchange Membrane:GEMと呼ぶ)であってもよいし、多数枚を集積して、各膜面の両側を内気と外気が層状に流れるようにした一体物、即ちガス交換装置(必要に応じてこれをGas Exchange Box:GXBと呼ぶ)でもよい。これらにより、メカニカルな駆動力に基づく換気ではなく、濃度勾配が存在するところに生じる拡散を通じて、気密性の高い空間内部への必要なガス成分(例えば酸素)の外界からの供給、或いは閉空間101内部からの不必要ガス成分(例えば二酸化炭素)の外界への排出を行うことを可能とする(当該閉空間の一部として構成する定量的面積を有するところの)ガス交換膜を与えることができる。エネルギー等分配則が成り立つため、当該ガス交換膜中の各気体分子の拡散定数は、当該分子の質量のスクエアルート(の逆数)に従うのみであるので、例えば、二酸化炭素と酸素では桁数に違いはなく、前係数にいくらかの差がある程度である(共に、~10-7m2/sのオーダーである)。
【0063】
(防護閉空間システムの防護服システムへの適用)
上位概念であるCUSPシステムについて、部屋としての表現型(
図2)から、防護服としての表現型を顕わに取ったものが
図3(
図3A、
図3B)である。当該防護服は(最低でも)腰骨以上の上半身を覆うので、呼吸と腹部の体積変化が相殺するため、防護服内部と外界は等圧になる。このため防護服の面を横切る風流はゼロとなり、防護服内に外界のウイルスや塵埃は侵入できないし、逆にまた、使用者の呼気中にウイルスが存在していても、防護服外には漏れ出すことが無い。これにより、新型コロナ等[エアロゾル/空気]感染ウイルスを移さないし、移されない(即ち、相互感染リスクが「原理的にゼロ」となる)究極的相互感染防止システムが実現する。
【0064】
本実施形態に係る防護閉空間システム100において、「外界」とは、必ずしも戸外という意味ではなく、上記の閉空間101の外の空間という意味であり、その形態は、防護閉空間システム、防護服システム及び防護飲食空間システムを使用する作業者が滞在・活動する部屋や廊下等であっても良い。
【0065】
本実施形態に係る防護閉空間システム100は、単に、放射性物質や菌、エアロゾルを含む外界からの異物微粒子の吸引リスクを下げるのみで無く、作業中に吸引する空気を清浄化することで、肺や気管支など呼吸器の負荷を(平時に比べて桁違いに小さく)抑えることができる。
【0066】
本実施形態に係る防護閉空間システム100においては、外界と内部との界面の少なくとも一部にある、ダスト微粒子を通さず、気体分子は通すガス交換膜310が、防護服の全部、または必要面積量を満たす少なくとも一部に設けられる。即ち、当防護閉空間システムは、クローズドエアフローシステムであるが、分子導通的には、オープンシステムになる(即ちオープンモレキュラーディフュージョンシステムである)ということで、比較例のオープンエアフローシステムとは一線を画するシステムである。ここで、ダスト微粒子には、部屋または閉空間の内部に浮遊する微生物(ウイルスや細菌、放射性物質を含む塵埃等)等を含む微粒子全般が含まれる。先に説明したように、ガス交換膜の面積Aが、少なくとも、A>=BL/{D(VO2/V-η)}を満たすように設定されている。
【0067】
また、本実施形態は、頭部特に口の周りの防護服空間と、使用者の腹部特に横隔膜の上下運動に伴い動きが発生する部分の周りの防護服空間、或はパーソナルな飲食空間とが互いに導通しており、当該防護服空間、或いはパーソナルな飲食空間は、上記口部から少なくとも上記運動発生する部分を含む領域までを含むように設定される。防護服については、最も大きい場合は、頭部から両手、両足まですっぽり包む防護服となり、最も小さい場合は、頭部を含み、腕部と脚部を切り離して腰骨下部までのみ延伸した防護服となる。パーソナルな飲食空間については、体全体が当該パーソナル空間にすっぽり収まるよう設定される。
【0068】
この場合、空気浄化機器(マスク)において濾過する際、マスクを横切るエアフローが存在するので、エアフローをFとして、dF/dx_⊥≠0となる。d/dx_⊥は、内部と外部の界面(従来のシステムでは、マスクそのもの)を垂直に横切る微分の演算子である。
【0069】
また本実施形態は、清浄化装置として、望ましくは口元を覆うマスクを用いるが、マスクを省略することも、防護閉空間との相乗効果が多少落ちるものの、可能である(この場合、当該防護閉空間使用者の呼吸器系そのものが清浄化装置として機能することとなる)。また、防護服着用作業時の運動量を勘案して、閉空間の内部の酸素消費レートBを決定した上で、タック、プリーツ、蛇腹状構造を採り入れてガス交換能を有する幅の広い布地を狭い周囲に集めることで、十分なガス交換膜の面積Aを有するコンパクトな防護服を使用する作業実施方法を実現している。
【0070】
本実施形態では、少なくともその一部がガス交換膜よりなる防護服、或はパーソナルな飲食空間により頭部を囲む空間と胴部、或は体全体とを囲む空間を連結して、体の周りの閉空間と外界とを画する構成とするが、この閉空間が、人体内部と外界との間のバッファー空間として機能する。従来のマスク利用のシステムでは(オープンエアフローシステムの直接の帰結として)、このバッファー空間が存在し無かった。
【0071】
このようにして、呼吸に際しても常に内外等圧であることにより(呼吸においては、空気流は保存しており、閉空間内に置いて発生したり消滅したりしてはいないことに注意)、界面を形成する防護服、或はパーソナル飲食空間を包む2次元膜を通過するフローは存在しない(従って、このフローに乗って移動する菌を含むエアロゾル或いは放射性塵埃も当該閉空間へ入って来ない)という今までにない安全なシステムが実現する(同時に、この閉空間から外へ出るフローも存在しないので、閉空間滞在者が周りに感染症を移してしまうリスクも同様にゼロであることに留意されたい)。本実施形態における外界と使用者を包む閉空間との界面(防護服)における(在来システムの場合の上記(1)式に対応するところの)エアフローの空間微分は、dF/dx_//≠0、dF/dx_⊥=0と記述される。x_//は、防護服膜、或はパーソナル飲食空間を包む2次元膜に沿っての空間座標である。呼吸に伴い界面(防護服、或いはパーソナル飲食空間を包む2次元膜)を横切るエアフローは存在せず、界面に沿った有限のフローのみ存在する(即ち、クローズドエアフローシステムを形成する)。上述の通り、本実施形態のシステムでは、内外を横切るエアフローは存在しないが、呼気は後部のガス交換膜のところで、内外濃度差に応じて、酸素分子濃度と二酸化炭素分子濃度が、平衡状態に達するよう分子拡散が生じる。これにより、分子導通的にはオープンシステム(即ち、オープンモレキュラーディフュージョンシステム)となり、閉空間内の空気質を良好に保つことができる。つまり、ガス交換膜を横切る空気流をほぼゼロにしたままで、体内の生体活動を平時と同等に保つことが可能である。
【0072】
上述の通り、ガス交換膜を横切るエアフローが存在し無いので、新型コロナ菌エアロゾル、或は、放射性汚染物質を含む各種塵埃の内外でのやり取りも生じない。これにより、後述の理論解析により示すように、捕集効率90~95%程度の中性能不織布マスクを使用して居ても、新型コロナ等感染症罹患リスクや放射性物質を含む塵埃の吸引リスクが非常に小さいシステムを構成できる。
【0073】
本実施形態においては、有害物質吸引リスクの極小化にとどまらず、さらに、呼吸に伴って気流がマスクを交互に横切ることで、市販の簡易不織布マスクを利用した(塵埃捕集効率は90%台と高くない)にも関わらず、内部の清浄度は、
図4に示すように向上する。その意味で(電流との比喩において)この新しいCUSPの動作は“交流”モード(AC-CUSP)ということができる。この交互気流(交流)を生じさせるものは、(特許文献1~3のDC-CUSPと大きく異なり)横隔膜の上下運動による呼吸であり、防護服内部、或はパーソナル飲食空間内部の空気浄化において、電力が全く消費されることない省エネルギーシステムであるという特徴を有する。
【0074】
この防護服システム、或いは実施形態に係る防護飲食空間システムにおいては、その性質に反しない限り、上記の浄化機器について、種々の塵埃捕集能力を有するマスクを使用する場合にも、上記で説明したことが成立する。例えば、マスクとしてはN95やそれ以上の捕集効率を有する相対的に高級なマスクを使用することもできる。逆に、マスクを使用せず(或いは、空集合としてのマスクを使用するとも言えるが)使用者の肺の多数回分枝した肺の気管そのものを以って替えることもできる。
【0075】
(防護服システム)
図3Aは、本実施形態に係る防護閉空間システムに対応する防護服システムを装着したユーザの正面図である。また、
図3Bは、本実施形態に係る防護閉空間システムに対応する防護服システムを装着したユーザの側面図である。
【0076】
図3A及び
図3Bに示すように、頭部113は、ガス交換膜110を兼ねる頭部シールド110Aで覆われている。胴周りの空間120は、ガス交換膜製上着(防護服)112で覆われている。頭部113と胴部を閉空間として導通がありながら一体として包まれ、閉空間を形成する。左右に上腕の付け根部分は絞り部114で絞られている。ガス交換膜製上着(防護服)112は、ベルト部116において裾が臀部(腰骨下部)に矢印AF方向に挟み込まれている。
【0077】
横隔膜の上下運動RFに伴い動きが発生する胴部周りの空間120と口部を含む頭部周りの空間111と導通をもって一体として閉空間をなすことで、息を吐いて防護服112の内部空間120にエアBFが出されるときは、腹部が凹み、また吸気により、内部空間120内のエアBFが人体に取りこまれ体積が減少するときは、腹部が凸となることで、体積は一定に保たれる。
【0078】
吸引のリスクの極小化にとどまらず、さらに呼吸に伴い、気流がマスク126を交互に横切ることで、市販の簡易不織布マスクを利用した(塵埃捕集効率は90%台と高くない)にも関わらず、内部の清浄度は、
図4に示すように上昇することが示された。また、この実験の間に酸素濃度の表示は20.9%で一定である。少なくとも20.8%以下に低下しないことも確かめられた。
【0079】
図3A及び
図3Bは、頭部と胴部を一体で包む形の防護服とすることで、当該防護服が形成する閉空間と外界との間に圧力差が無い本実施形態のシステム(
図2)と等価になる。すなわち、閉空間は、防護服を備える。
【0080】
ガス交換膜が使用者の頭部と少なくとも腰骨下部より上部の胴部を一体的に覆い、頭部周りの空間と前記胴部周りの空間が連通している。
【0081】
外界から閉空間を隔てる界面である防護服表面において、d/dx_⊥を、内部と外部の前記界面を垂直に横切る方向の空間微分の演算子として、閉空間内外におけるエアフローFに関し、dF/dx_⊥=0を満たす。
【0082】
清浄化装置の少なくとも一部が、不織布や布からなるマスクより構成される。
【0083】
(実験結果:防護服システム)
図4は、本実施形態に係る防護閉空間システムを防護服システムへ適用した際の実験結果である。
図4は、
図2、
図3A、3Bに示す内部空間の実効体積V=約8Lの防護服システムの中で、マスク(浄化機器)のみを用いて静かに呼吸した際の塵埃粒子数の時間変化である。当該防護服は、株式会社三商による「1010B型続服」をベースとして用い、ガス交換膜の厚みL~100μm、分子拡散定数2×10
-7m
2/sに基づき、ガス交換膜の面積A>=BL/{D(V
O2/V-η)}を備えた防護服を、頭部と腹部との空気導通性を確保して作製したものである。ここで、吸気の酸素濃度は、20.9%、呼気の酸素濃度は16.5%程度と見積もられる。二酸化炭素排出量は~0.2L/分程度であるので、呼吸商(respiratory quotient:RQ)~0.9として、酸素消費量B=0.2L/分/0.9~0.22L/分と同定し、この実施例では、ガス交換膜の面積Aを約1平米とした。丸印は、マスク有りの場合の、四角は、マスク無しの場合の結果である。粒子数測定に用いたDylos DC170の測定時風量は、~1L/分であり、呼吸風量に比べ約1桁小さいので、この測定結果に対する影響はほぼ無視することができる。実際、参照実験として、人体を摸したマネキンに本実施形態の防護服を着せて、粒子数測定器のみを稼働させた時には、
図4の三角印(▲)で示すように塵埃粒子数の減少は極めてゆっくりであることが確認された。このことから、
図4に丸印(〇、●)及び四角印(□、■)で示した内部塵埃粒子数減少は、呼吸を通じてマスクを反対方向から交互に横切る気流によって、後述の数式(12)~(14)に従って変化した結果であると理解される。丸印(●)、四角印(■)は、粒径0.5μm以上の粒子数であり、丸印(〇)、四角印(□)は、2.5μm以上の粒子数である。
【0084】
就寝者自身の呼吸(風量F=約10L/分)に伴い、時定数τ=約3分で粒径2.5μm以上の粒子数が減少していることは、τ=V/γFで与えられることから極めて整合的である。時間の経過に伴う粒子数の減少は、白丸と黒丸で大まかにはほぼ同等の結果が得られるが、厳密に比較すると、(マスク着用の効果が出て)白丸の方が粒子数減衰の時定数がやや小さい。さらに、粒径依存性を見ると、粒径が大きい粒子の方が、粒子減少の時定数が短い。これは、マスク(及び、肺そのもの)の粒子捕集機能が、粒径が大きい場合程大きいことを示している。市販の簡易型不織布マスクであり、粒径が小さい塵埃に対しては塵埃捕集効率γが大きくないことに対応する。
【0085】
図3A及び
図3Bに示すように、呼吸に伴う口部に設けられたマスクを打ちから外、外から内へと交互に通過する気流により、マスク自体の塵埃捕集効率は小さいものの、繰り返し気流が出入りすることで、防護服で囲まれた有限体席の閉空間麻清浄度は、時間と共に上昇することが分かる。
図4の実験では、通常の服を着ての実験であったため、呼吸に伴う服と防護服の接触と擦れによる塵埃発生により、粒子数減少率は、粒径0.5μmに対しては、約1/10とあまり大きくないが、粒径2.5μm以上の粒子に対しては約2桁の減少が見られ、良好な結果といえる。防護服素材のインナーウエアを着た上で、本実施形態の防護服を着用すれば、接触や擦れによる塵埃発生が極小に押さえられるので、粒径0.5μmの場合も含め、飛躍的に良好な結果が得られると期待される。
【0086】
本実施形態は、クローズドエアフローシステムであり、フィルタを何度も何度も繰り返し、内部空気が通過することで、簡易不織布マスクの塵埃捕集効率が1よりかなり小さい中性能フィルタ(簡易不織布マスク等)を使用した場合でも絶大なる効果を発揮する。即ち、今、仮に簡単のため、塵埃捕集効率が90%と低いフィルタであったとしても、2回通過時は百分の一、4回では1万分の一、8回では1億分の一となる。実際には、簡易不織布マスクでも塵埃捕集効率は95~98%程度はあるので、防護服装着時に呼吸を何十、何百回も行うことに鑑み、本実施形態により事実上最高級フィルタをも凌ぐ高い性能を発揮することができる。
【0087】
浄化機器(マスク)に関しては、塵埃捕集効率の高いものがより短時間に清浄環境化が得られるが、内外等圧の孤立閉鎖フロー系であることから、呼吸が苦しく感じられるほどの高捕集効率のマスクは用いる必要が無いことは、顔面への負荷の軽減と活動の軽快さをもたらすことになり本実施形態の大きなメリットである。
【0088】
当該防護服は、
図3A及び
図3Bに示すように、視覚を良くするために目の前の部分には、透明材料を用いて、作業などの容易さを担保している。
【0089】
ここで、閉空間101内のダスト微粒子数密度n(t)およびガス(分子)濃度η(t)の時間変化特性について説明する。ここでは、一例として、閉空間101が
図2に内外等圧循環フィードバック直流CUSP(DC-CUSP)系について説明するが、これはトポロジー的には、マスクを着用した使用者が本実施形態の防護服を来た場合、即ち、呼吸に伴う空気のマスク部交互通過が生じる交流CUSP(AC-CUSP)にもそのまま適用できる。
【0090】
図3A及び
図3B(
図2とDC-AC変換のもと等価)に示すように、少なくとも内外境界面(防護服)の一部がガス交換膜により形成された防護服内の閉空間におけるダスト微粒子数密度n(t)は
【0091】
【0092】
なる微分方程式を満たす。ただし、Vは防護服内閉空間の体積、Sは使用者の衣服の害表面積と防護服の内表面積の和、σは単位面積・単位時間当たりのダスト微粒子発生量、Fは呼吸風量、γは浄化機器(マスク)のダスト微粒子捕集効率である。
【0093】
式(12)を解くと
【0094】
【0095】
が求められる。ただし、t=0のときのダスト微粒子数密度n(0)=N0とした。
【0096】
t→∞のとき式(13)は
【0097】
【0098】
となる。実際には、ファンフィルタユニット200の運転を開始してから十分に時間が経った時(t>10V/γF)には実質的に式(14)の究極的に低いダスト微粒子数密度が得られる。即ち、この防護服システムは、単に、新型コロナウイルスの吸引リスクを下げるのみでなく、吸引する空気を清浄化することで、肺や気管支など呼吸器の負荷を抑えるという従来の防護服システムでは不可能であったことも実現する。新型コロナ対策に従事時の医療作業者や原子力災害における復旧作業者への良好な効果となると期待される。また、新型コロナに罹患した患者にとっては、この防護服を着用することで、自らの世話をしてくれる医療者や家族への感染の心配をすることなく、自らにとっては、余計な塵埃粒子の肺への侵入を抑えることにより(厳密には今後の医学的解析を待たねばならないが)経皮的動脈血酸素飽和度SpO2(Saturation pulse O2)値が減少するなどから判断される弱った肺機能の更なる低下防止や、呼吸器系の回復促進の意味合いを持つと期待される。
【0099】
一方、ガス分子濃度η(t)は式(8)で表される微分方程式を満たす。ただし、Aは防護服の全部または一部を形成するガス交換膜の面積、Lはこのガス交換膜の厚み、Dはこのガス交換膜中の注目するガス分子(酸素分子等)の拡散定数、Bは防護服の内部での呼吸等による酸素消費・二酸化炭素発生レート(消費される酸素では正の値となり、二酸化炭素やその他の体外に放出されるガスでは負の値となる)、ηoは防護服の外界の当該ガス分子濃度である。
【0100】
この孤立閉空間を構成する防護服の内部空間においても、先に説明したように、時刻t+δtにおける当該ガスの体積Vη(t+δt)は、式(5)と求まる。ここで、既に述べたように呼吸時に口部を出入りする空気体積と横隔膜の上下運動委伴う銅部の体積変化が相殺する(息を吐けば腹が凹み、息を吸えば腹が出っ張る)ためにDC-CUSP系における100%循環フィードバック相当が成立する。防護服内では、呼吸により発生する空気流により、防護服内部閉空間の空気は十分早くかき回され十分早く空間的に均一化するので、防護服内エアを構成するガス分子濃度の空間座標依存性を良い近似で無視することができることを用いた。(5)式の右辺第3項は、上記ガス交換膜の両側(即ち防護服の内部と外界)での当該ガスの濃度差(濃度勾配)のために流入してくる当該ガスの分子の数である(空気流としてではなく、分子の拡散として当該ガスが防護服の内部に入ってくるのであり、上述の式(5)で記述される現象とは全く性質を異にする)。式(5)において、jは式(6)で与えられる。ただし、φは防護服の内部の単位体積当たりの当該ガス分子数、ガス交換膜に垂直な方向をX軸としたとき、∇はこのX軸方向の微分演算子である。Lは(100μmオーダーで)極めて薄く、防護服内部の空間の厚み(数cm~10cm)に比べ2桁以上程度小さいので、式(5)は、式(7)と良い精度で近似することができる。境界条件としてt=0の時の濃度η(0)は、外部の濃度η0に等しく、式(4)、式(5)と同様に、当該ガスが酸素である場合は通常20.9%程度である。式(7)より、微分方程式(8)が導かれる。また、先に説明したように、式(7)~式(9)に基づくと、時刻tにおける当該ガスの濃度(例えば酸素濃度)は式(10)と求まる(式(9)でt→∞とした場合に一致する)。
【0101】
図3A及び
図3Bに示す、孤立した閉空間を構成するAC-CUSP式防護服では、その一部がガス交換膜から成ることで分子拡散を通じて、防護服内部のガス分子濃度を制御することができる。即ち、
図3A及び
図3Bに示すAC-CUSP式防護服では、少なくともその一部に面積A、厚みL、分子拡散定数Dを有するガス交換膜を用いることで、式(9)より導かれる換気風量F=AD/Lなる対応原理(スケーリング則)に従って機械換気風量Fと同等の換気が実現できる。ガス分子濃度を空気流の出し入れに頼ることなく、対応の必要な分子のみに着目してその濃度を制御でき、環境中立な成分である窒素を動かさず、また拡散を引き起こすものは空気分子の熱運動であるので特に電力も要しない、極めて省エネ効果の大きい重要な技術である。
図4に示す実験では、酸素モニターOX-01(理研計器株式会社)を用いて酸素濃度を測定したが、実験中、その濃度は20.8%未満に低下することは無かった。これは以下のように理解できる。
図3A及び
図3Bに示す防護服は、眼前の透明部を除いて全てガス交換膜と同じ材料で構成されており、その面積は約1m
2である。
【0102】
用いたガス交換膜は、酸素分子拡散定数は、約2×10-7m2/s、L~100μmである。吸気の酸素濃度は、20.9%、呼気の酸素濃度は16.5%程度と見積もられる。二酸化炭素排出量は~0.2L/分程度であるので、平均呼吸商~0.9として酸素消費量は、B=0.2L/分/0.9~0.22L/分となる。一方、式10より、η=η0-BL/AD=20.9-1.5×10-3~20.75%となり、実験結果とほぼ整合的である。
【0103】
(防護飲食空間システム)
閉空間は、防護飲食空間を備えていても良い。
【0104】
外界から閉空間を隔てる界面である防護飲食空間端の2次元面において、d/dx_⊥を、内部と外部の前記界面を垂直に横切る方向の空間微分の演算子として、閉空間内外におけるエアフローFに関し、dF/dx_⊥=0を満たす。
【0105】
図5は、本実施形態に係る防護閉空間システムを防護飲食空間システムへ適用した際の模式的構成図である。
【0106】
図5に、マスク126を着用した4人が丸テーブルで会食する例を示す。丸テーブル(直径約1m)を包むようにテーブル上に透明膜(外套)124により半球状の2次元面を形成し、同半球面はテーブルの高さからは、円柱状の側面に接続し床へと垂直に降りて閉空間を形成する。丸テーブル上では、直径約1mの半円が直交する形で透明膜(十字間仕切り)124Cが設けられ、4つのパーソナル閉空間が形成されている。半球の頂上部と上記円柱状の側面は、ガス交換膜112A、112Bより成っている。4つのパーソナル飲食空間への出入りは、和服の前を重ねるのと同じ要領で、一部重なり(巾約30cm)があるよう半球並びに円柱側面に切れ込があり(図示せず)ここを経て、内部に入る。入室後は、当該2次元面入口の重なりにより、内部と外部を密閉性良く分離することができる。テーブル上のパーソナル飲食空間の体積Vは、4π/3・(50cm)
3より、約60L程度となる。
【0107】
図5に示すように、本実施形態に係る防護飲食空間システムを連結した丸テーブルなどで、複数人で会食する際に、当初[料理を待っている間]は、マスク126を着用して会話を楽しみ[この間にも、上述の通り、当該閉空間内の清浄度は高まっていることに注意]、その後、料理が出てきた後は、マスクを取って食事を楽しみつつ、かつこの際にも、上記の肺の気管そのものを浄化機器として使用することに相当して、パーソナル飲食空間内の清浄度高まっており、非特許文献8で提案されている解放系システムに比べて非常に安心・安全に会食と食事が楽しめるシステムとなる。
【0108】
(実験結果:防護飲食空間システム)
図6は、本実施形態に係る防護閉空間システムを防護飲食空間システムへ適用した際の実験結果である。
図6は、
図5より少し小ぶりのモデルシステム(1コンパートメント当たり、頭部を囲む領域の実効体積約30Lの閉空間)を用いた場合の呼吸によるAC-CUSPモードでの塵埃数減少を確認した実験結果である。内外を隔てる2次元膜兼ガス交換膜としては高密度ポリエチレン繊維不織布(商品名「タイベック」、厚み約160μmの布様のタイプのもの)を用いたが、(パラメータD、Lの値に注意を払いながら、上記式10に基づいてガス交換膜の面積Aを定めることで、必要な内部酸素濃度を確保さえすれば)他の素材より成るガス交換膜を用いることも勿論可能である。
【0109】
就寝者自身の呼吸(風量F=約10L/分)に伴い、時定数τ=約3分で粒径2.5μm以上の粒子数が減少していることは、τ=V/γFで与えられることから極めて整合的である。粒子数測定に用いたDylos DC170の測定時風量は、~1L/分であり、呼吸風量に比べ約1桁小さいので、この測定結果に対する影響はほぼ無視することができ、この粒子数減少は、呼吸を通じてマスクを反対方向から交互に横切る気流によって、式(12)~式(14)に従って変化した結果であると理解される。その意味で(電流との比喩において)この新しいCUSPの動作である交流モード(AC-CUSP)がよく機能していることがわかる。この交互気流(交流)を生じさせるものは、横隔膜の上下運動による呼吸であり、(DC-CUSPと大きく異なり)電力が殆ど消費されることない省エネルギーシステムである。
【0110】
この4人掛け丸テーブルで、複数人で会食する際に、当初[料理を待っている間]は、マスクを着用して会話を楽しみ[この間にも、AC-CUSP機構により、各飲食空間内の清浄度は高まっており、その後、料理が出てきた後は、マスクを取って事前に食事と会話を楽しむことが出きる。この際にも、上記の肺の気管そのものを浄化機器として使用することに相当して、飲食空間内の清浄度高まっており、従来の飲食店におけるのと大きく異なり、非常に安心・安全に会食を堪能できる。
【0111】
上記飲食空間では、半球部頂上とテーブ高より下の円柱側面部が、2次元面が内外隔壁とガス交換膜を兼ねる。各人の体全体このパーソナル飲食閉空間に含まれることにより、息を吐いて防護服内部空間にエアが出されるときは、腹部が凹み、また吸気により、内部空間内のエアが人体に取りこまれ体積が減少するときは、腹部が凸となることで、体積は一定に保たれるため、内外を出入りするエアフローが存在しない。これにより、防護服システムで示した種々の効果と効能が、この防護飲食空間システムについても成立する。飲食事には、勿論マスクを外して構わない。
図4の実験結果が示すようにマスク無しでも、孤立閉鎖空間の清浄度は向上する。これは、不織布マスクと同じ機能を人間の肺自体が果たしているからである。タバコが、肺・呼吸器に害をなすこと(マスクと異なり取り換えが効かない)肺・呼吸器は大事にしなければならないはこの考察からも一目瞭然である。
【0112】
本実施形態は、新型コロナ等感染症対策、特に、医療行為従事時並びに外食時等の家庭外活動時の安全対策に適用して好適なものである。また、原子力発電所復旧作業、或いは汚染物質の吸引の可能性のある作業時に着用して、医療従事者、現場作業者の生物体の安全を確保するのにも大きな効果を発揮する。
【0113】
本実施形態によれば、以上の設定により、呼吸時のエアフローFは、使用者を覆う防護服、或いは飲食空間を形成する2次元面で包まれる閉空間と外界との間で出入りすることが無い(dF/dx_⊥=0となる)ことにより、外界の有害塵埃・菌を吸いこむことがなく、また逆に、当該防護服を着た人、或いは飲食空間内滞在者がまわりに有害菌を撒き散らすことも完全にゼロにできる。
【0114】
本実施形態によれば、極めて高い安全性を持つ防護服システム、或いは飲食空間(従って、この集合体としての全体としてのレストラン等飲食店システム)が可能となる。また、原子力発電所作業、廃炉作業においても、内部被爆のリスクが極めて小さい安全な作業が可能となる。
【0115】
以上、この発明の実施の形態について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0116】
防護服はガス交換膜がむき出しの形で、ガス交換膜そのものから構成しても良いし、ガス交換膜と通常服地の張り合わせ(或いは縫い合わせ)体として構成することもできる。特に、ガス交換膜を通常の布地でサンドイッチした生地で前面にファスナー(ジッパー)がある防護服を作製すると、見た目には、通常のパーカーやフード付きのスウェット上着のような感じでカジュアルに着こなすことが出きる。
【0117】
また、飲食空間への応用の際は、テーブルの下の空間やテーブル上の中心辺りに小型のFFUを設置し(さらにガス交換膜を複数積層したガス交換ユニット[GEU]をテーブ下の床上に導入すればベストモードとして)DC-CUSPシステムとAC-CUSPモードが並列で動作することで、新型コロナリスク低減効果を飛躍的に高めることができる。
【0118】
上述の実施の形態において挙げた数値、構造、構成、形状、配置等はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構造、構成、形状、配置等を用いてもよい。
【符号の説明】
【0119】
2…浮遊ダスト
4…浮遊粒子
6…浮遊菌
100、100A…防護閉空間システム
101、101A…閉空間
102…清浄化装置
103、104、106、106A…界面
110、112A、112B、310…ガス交換膜
110A…頭部シールド
111…頭部周りの空間
112…ガス交換膜製上着(防護服)
113…頭部
114…絞り部
116…ベルト部
118…臀部(腰骨下部)
120…胴部周りの空間(内部空間)
124…透明膜(外套)
124C…透明膜(十字間仕切り)
126…清浄化装置(マスク)
200、200A…ファンフィルタユニット(FFU)