(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022126075
(43)【公開日】2022-08-30
(54)【発明の名称】3-ヒドロキシスルフォランの製造方法、及びエステル製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 333/48 20060101AFI20220823BHJP
【FI】
C07D333/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021023934
(22)【出願日】2021-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】星 ひかる
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】照田 尚
(57)【要約】
【課題】反応器内の液量を確保しつつ中和液から中和塩及び水を除去できる、3-ヒドロキシスルフォランの製造方法の提供。
【解決手段】式1で表されるスルフォレンをアルカリ水溶液で処理し、式2で表される3-ヒドロキシスルフォランを含む水溶液を得る工程、前記水溶液を酸で中和して中和液を得る工程、及び前記3-ヒドロキシスルフォランを溶解し、かつ水と共沸する有機溶媒を用いて、前記中和液の溶媒を共沸置換する工程を有する、3-ヒドロキシスルフォランの製造方法。
[化1]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式1で表されるスルフォレンをアルカリ水溶液で処理し、下記式2で表される3-ヒドロキシスルフォランを含む水溶液を得る工程、
前記水溶液を酸で中和して中和液を得る工程、及び
前記3-ヒドロキシスルフォランを溶解し、かつ水と共沸する有機溶媒を用いて、前記中和液の溶媒を共沸置換する工程を有する、3-ヒドロキシスルフォランの製造方法。
【化1】
【請求項2】
請求項1に記載の方法を用いて3-ヒドロキシスルフォランを製造し、
得られた3-ヒドロキシスルフォランと下記式3で表されるカルボン酸エステルをエステル交換反応させて、下記式4で表される3-ヒドロキシスルフォランのカルボン酸エステルを得る、エステル製造方法。
【化2】
[式3及び式4において、R
1は水素原子、又は直鎖状もしくは分岐状の炭素数1~10のアルキル基を示し、R
2は直鎖状又は分岐状の炭素数1~10のアルキル基を示す。]
【請求項3】
前記有機溶媒の標準気圧における沸点が100℃以下である、請求項2に記載のエステル製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3-ヒドロキシスルフォランの製造方法、及び3-ヒドロキシスルフォランのカルボン酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3-ヒドロキシスルフォランの不飽和カルボン酸エステル類は、含硫黄モノマーとして各種ポリマーの重合に用いられる。
特許文献1には、3-ヒドロキシスルフォランとメタクリル酸メチルとのエステル交換工程を経て、3-ヒドロキシスルフォランのメタクリル酸エステルを製造した例が記載されている。また、3-ヒドロキシスルフォランの製造方法として、スルフォレンをアルカリ水溶液で処理し、中和して3-ヒドロキシスルフォランを含む中和液を得て、前記中和液からほとんどの水を留去し、アセトンを加えて3-ヒドロキシスルフォランを溶解して抽出し、中和塩を析出させて濾別する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者等の知見によれば、特許文献1に記載の方法で3-ヒドロキシスルフォランを工業的に生産しようとすると、撹拌翼を備えた反応器内で前記中和液からほとんどの水を留去して濃縮物とする際に、撹拌翼で濃縮物を撹拌し難い、又は濃縮物に含まれる中和塩によって反応器の内面が傷つくおそれがある等の不都合がある。
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、反応器内の液量を確保しつつ中和液から中和塩及び水を除去できる、3-ヒドロキシスルフォランの製造方法、及びこれを用いた3-ヒドロキシスルフォランのカルボン酸エステルの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下の態様を有する。
[1] 下記式1で表されるスルフォレンをアルカリ水溶液で処理し、下記式2で表される3-ヒドロキシスルフォランを含む水溶液を得る工程、
前記水溶液を酸で中和して中和液を得る工程、及び
前記3-ヒドロキシスルフォランを溶解し、かつ水と共沸する有機溶媒を用いて、前記中和液の溶媒を共沸置換する工程を有する、3-ヒドロキシスルフォランの製造方法。
【0006】
【0007】
[2] 前記[1]の方法を用いて3-ヒドロキシスルフォランを製造し、
得られた3-ヒドロキシスルフォランと下記式3で表されるカルボン酸エステルをエステル交換反応させて、下記式4で表される3-ヒドロキシスルフォランのカルボン酸エステルを得る、エステル製造方法。
【0008】
【0009】
[式3及び式4において、R1は水素原子、又は直鎖状もしくは分岐状の炭素数1~10のアルキル基を示し、R2は直鎖状又は分岐状の炭素数1~10のアルキル基を示す。]
[3] 前記有機溶媒の標準気圧における沸点が100℃以下である、[2]のエステル製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の3-ヒドロキシスルフォランの製造方法及びエステル製造方法は、3-ヒドロキシスルフォランを製造する際に、反応器内の液量を確保しつつ中和液から中和塩及び水を除去できるため、製造効率を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
室温は、特に断りがない限り、20~30℃を意味する。
pHは、特に断りがない限り、室温における値である。
水分含有量は、試料をカールフィッシャー試薬に送り、カールフィッシャー電量滴定によって水分の含有量を測定した値である。
【0012】
≪3-ヒドロキシスルフォランの製造方法≫
本実施形態の3-ヒドロキシスルフォランの製造方法は、下記式1で表されるスルフォレンをアルカリ水溶液で処理し、下記式2で表される3-ヒドロキシスルフォランを含む水溶液を得る工程(水和工程)、前記水溶液を酸で中和して中和液を得る工程(中和工程)、及び前記3-ヒドロキシスルフォランを溶解し、かつ水と共沸する有機溶媒を用いて、前記中和液の溶媒を共沸置換する工程(溶媒置換工程)を有する。
【0013】
工業的な合成には一般的に撹拌槽が用いられる。撹拌槽は、円筒形の有底中空の容器(反応器)と、容器の中心軸を回転軸とする撹拌翼と、撹拌翼の軸に連結されたモーターとを備える。撹拌効率向上のためにバッフルを設けてもよい。多目的な撹拌槽ではモーターの能力やバッフルの存在から、撹拌できる内容物は低粘度であることが好ましい。容器の底部から撹拌翼までの距離は容器高さの1/3程度に設定されることが多く、撹拌できる内容物量に下限がある。
【0014】
【0015】
<水和工程>
水和工程では、原料のスルフォレンをアルカリ水溶液で処理し、水和反応により3-ヒドロキシスルフォランを生成する。これにより3-ヒドロキシスルフォランを含む水溶液が得られる。
具体的には、アルカリ水溶液にスルフォレンを溶解し、室温から80℃の範囲内の温度で1~100時間撹拌して水和反応を実施する。
【0016】
アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。コスト、実用性、反応効率の点から、水酸化ナトリウムが好ましい。
アルカリ水溶液の濃度は、1~10規定が好ましい。取り扱い性、副反応の抑制、着色の抑制等の点から1~8規定がより好ましく、1~4規定がさらに好ましい。
【0017】
アルカリの使用量は、スルフォレンに対して0.5倍モルから10倍モルの範囲内が好ましい。反応の効率、コストの点からは、スルフォレンに対して1倍モルから5倍モルの範囲内がより好ましい。副反応の抑制、反応時間の短縮化の点からは、1倍モルから3倍モルの範囲内がさらに好ましい。
【0018】
水和反応の反応温度が、室温以上であると良好な反応速度が得られやすく、80℃以下であると、原料の分解が生じ難く、副生物の生成を抑制しやすい。具体的には、スルフォレンがブタジエンと亜硫酸ガスに分解すると、ブタジエンのオリゴマーまたはポリマー等の副生物が生成し、重合を促進するので好ましくない。より実用的な反応温度は、室温から60℃の範囲内が好ましく、反応による着色を抑制しやすい点では、室温から40℃の範囲内がより好ましい。
【0019】
水和反応の反応時間は、1~100時間が好ましく、反応の効率、経済性の点では5~72時間がより好ましく、8~24時間がさらに好ましいが、着色の抑制、純度の観点からは、24時間以上かけて反応するのが好ましい。
【0020】
水和反応が完全に進行している場合には、原料スルフォランの除去を考える必要は無いが、水和反応で未反応の原料が残っている場合には、原料スルフォランを熱分解やシリカゲルクロマトや蒸留等の方法で除去することが好ましい。コストが低い点で、原料スルフォレンが分解する80~100℃の温度で減圧しながら熱分解することが好ましい。原料スルフォレンの熱分解を行う時期に制限はないが、熱分解させて生成したブタジエンが重合する可能性が低い点で、後述の水濃縮工程時に、減圧しながら熱分解することが好ましい。
【0021】
<中和工程>
中和工程では、水和工程で得られた3-ヒドロキシスルフォランを含む水溶液に、酸を加えて中和し、中和液を得る。
酸としては、塩酸、硫酸、燐酸、酢酸、硝酸等が挙げられる。目的物である3-ヒドロキシスルフォランと中和塩との分離性、作業性等の点から、塩酸、硫酸が好ましい。
中和工程で得られる中和液には、3-ヒドロキシスルフォラン、水、中和塩が含まれる。
【0022】
中和の終点は、pH5~8が好ましく、pH6~7がより好ましい。pHが8以下であると中和液の着色が生じ難い。pHが5以上であると、3-ヒドロキシスルフォランの脱水反応が生じ難い。3-ヒドロキシスルフォランの脱水反応が生じるとスルフォレンの異性体である2-スルフォレンが副生するため好ましくない。
【0023】
<溶媒置換工程>
溶媒置換工程では、水と共沸する有機溶媒(以下、共沸溶媒ともいう。)を用いて、中和液の溶媒を共沸置換する。共沸溶媒は3-ヒドロキシスルフォランを溶解するものを使用する。
共沸置換は多段階共沸により実施することが好ましい。具体的には、中和液に共沸溶媒を添加し、共沸溶媒及び水を含む混合物(以下、共沸混合物という。)を留去し、再び共沸溶媒を添加し、共沸混合物を留去する、という操作を繰り返すことによって、中和液中の水を共沸溶媒に置換する。多段階共沸については後述する。
共沸置換により、3-ヒドロキシスルフォラン、中和塩、及び共沸溶媒を含み、水が除去された溶液が得られる。得られた溶液を濾過して中和塩を除去する。
中和塩を除去した溶液(以下、SFOH溶液ともいう。)は、そのまま、又は共沸溶媒を除去して、後述のエステル交換反応に使用できる。
【0024】
共沸溶媒の例を表1に挙げる。表には、標準気圧(101.3kPa)における、各溶媒の沸点、各溶媒と水の2成分からなる混合物の共沸点及び共沸時の各溶媒の含有量(共沸組成)を示す。
【0025】
【0026】
本実施形態で得られた3-ヒドロキシスルフォランを、後述するカルボン酸エステルとのエステル交換反応に用いる場合、共沸溶媒の沸点が、エステル交換反応で使用するカルボン酸エステルの沸点よりも低いと、SFOH溶液とカルボン酸エステルを混合した後に共沸溶媒を容易に留去できる点で好ましい。例えば、共沸溶媒の標準気圧における沸点は100℃以下が好ましく、さらに分離の効率性から90℃以下がより好ましい。
共沸溶媒がアルコールである場合は、後述のエステル交換反応において副反応を生じやすいため、エステル交換反応の前に、SFOH溶液中の共沸溶媒を除去することが好ましい。
溶媒置換工程で得られたSFOH溶液を、そのままエステル交換反応に使用しやすい点で、共沸溶媒は、アセトニトリル、又はエチルメチルケトンがより好ましい。
【0027】
表2は、多段階共沸を説明するための一例であり、共沸溶媒としてアセトニトリル(表には「ATN」と記す。)を用い、多段階共沸を行う場合の理論値を示したものである。表中の「部」は「質量部」を示す。
表2の例において、中和液の液量は100質量部であり、3-ヒドロキシスルフォラン及び中和塩を含む溶質21.1質量部と、溶媒である水78.9質量部とからなる。
まず、中和液から水の一部(50質量部)を留去して(水濃縮工程)、水分含有量58質量%の濃縮液(液量50質量部)とする。
次いで、アセトニトリルの31.8質量部を添加し(添加1)、アセトニトリルと水を共沸させて共沸混合物31.8質量部を留去する(留去1)。留去される共沸混合物におけるアセトニトリルの含有量が84.2質量%であるとすると、共沸混合物31.8質量部は水5質量部とアセトニトリル26.8質量部とからなる。これにより、水分含有量が48質量%に低下した溶液(液量50.0質量部)が得られる。
次いで、アセトニトリルの31.8質量部を添加し(添加2)、アセトニトリルと水を共沸させて共沸混合物31.8質量部を留去する(留去2)。これにより、水分含有量が38質量%に低下した溶液(液量50.0質量部)が得られる。
このようにして、アセトニトリルの31.8質量部を添加し(添加3~6)、アセトニトリルと水を共沸させて共沸混合物31.8質量部を留去する(留去3~6)を繰り返すと水分含有量が漸次低下し、溶質21.1質量部と、水-1.2質量部と、アセトニトリル30.1質量部とからなる溶液50.0質量部が得られる。得られた溶液を濾過して中和塩を除去してSFOH溶液を得る。
【0028】
【0029】
このように、共沸溶媒を用いて中和液の溶媒を共沸置換することにより、反応器内の液量を確保しつつ中和液から水を除去できる。
溶媒置換工程では、水分含有量が1質量%以下、好ましくは0.1質量%以下の溶液が得られるまで、共沸置換することが好ましい。
【0030】
溶媒置換工程において、最初に共沸溶媒を添加する前の水留去(水濃縮工程)は必須ではないが、共沸置換に先立って中和液に含まれる水の一部を留去することで、中和液に含まれる水を効率良く除去することができる。その結果、共沸溶媒を添加して共沸混合物を留去する操作を繰り返す回数(段数)を低減できる。
共沸溶媒を添加する前に水のみを留去(濃縮)する場合、水の留去量が多すぎると反応器内の液を撹拌翼で撹拌し難くなるため、かかる不都合が生じないように留去量を設定する。
多段階共沸における段数は特に限定されないが、例えば1~10段が好ましく、コストおよび熱による重合抑制の観点から、1~4段がより好ましい。
【0031】
多段階共沸において、共沸溶媒の添加量と、その直後の留去量とは同じであってもよく、異なってもよい。各段の共沸溶媒の添加量は、互いに同じであってもよく、異なってもよい。また、各段の留去量は、互いに同じであってもよく、異なってもよい。
溶媒置換工程における液量の増減は、反応器に収容可能な液量以下、かつ撹拌翼で撹拌できる液量以上の範囲内であればよい。溶媒置換工程に供する中和液の液量を100質量%とすると、反応器の構造にもよるが、留去後の液量は、例えば50質量%以上が好ましく、30質量%以上が効率の点でより好ましい。
【0032】
共沸置換は減圧下で行ってもよい。減圧すると共沸点が低下するため、共沸混合物を留去させるための加熱温度を低くできる点で好ましい。
溶媒置換工程において、内温を処理温度とすると、処理温度は室温~80℃が好ましく、40℃~60℃がより好ましい。
溶媒置換工程において、内圧を処理圧力とすると、処理圧力は30hPa~500hPaが好ましく、30hPa~400hPaがより好ましく、30hPa~300hPaがさらに好ましい。
1回(1段)の留去工程において、処理温度及び処理圧力は、それぞれ一定でもよく経時的に変化してもよい。
【0033】
≪エステル製造方法≫
本実施形態のエステル製造方法では、上記実施形態の方法を用いて3-ヒドロキシスルフォランを製造し、得られた3-ヒドロキシスルフォランと下記式3で表されるカルボン酸エステル(以下、原料エステルともいう。)をエステル交換反応させ(エステル交換工程)、下記式4で表される3-ヒドロキシスルフォランのカルボン酸エステル(以下、生成エステルともいう。)を得る。
【0034】
【0035】
式3及び式4において、R1は、水素原子、又は直鎖状炭素数1~10又は分岐状の炭素数3~10アルキル基を表し、R2は直鎖状炭素数1~10又は分岐状の炭素数3~10のアルキル基を表す。
R1又はR2としての前記アルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が例示できる。実用性が高い点で、R1は水素原子又は炭素数1~3のアルキル基が好ましい。R2は炭素数1~4のアルキル基が好ましい。分離性の観点から、R1及びR2の両方がメチル基であることがより好ましい。
【0036】
本実施形態のエステル製造方法は、例えば、下記態様1又は態様2が好ましい。
(態様1)溶媒置換工程で得られたSFOH溶液を、そのままエステル交換工程に用いる態様。本態様において、SFOH溶液に含まれる共沸溶媒はアルコールを含まないことが好ましい。本態様において、SFOH溶液に含まれる共沸溶媒の沸点(標準気圧)は100℃以下が好ましい。
(態様2)溶媒置換工程で得られたSFOH溶液に含まれる共沸溶媒を除去して、エステル交換工程に用いる態様。例えば、共沸溶媒がアルコールの場合、後述するよう減圧濃縮し、さらにディーンスターク装置を用いてアルコールが除去されるまで還流してもよい。
【0037】
<エステル交換工程>
態様1では、溶媒置換工程で得られたSFOH溶液と原料エステルとを混合し、エステル交換触媒を加えて加熱し、エステル交換反応を行う。
態様2では、SFOH溶液から共沸溶媒を除去した後、原料エステルに溶解し、エステル交換触媒を加えて加熱し、エステル交換反応を行う。
エステル交換反応は、例えば特開2007-153763号公報等に記載されている公知の方法を用いて実施できる。
【0038】
態様1及び態様2において、エステル交換反応の進行に伴って原料エステル由来のアルコールが副生するが、この副生アルコールを除去しながらエステル交換反応を進めることが好ましい。反応率が所定の値に達したら反応液を冷却し、反応を停止する。その後、未反応3-ヒドロキシスルフォランの除去およびエステル交換触媒の除去・失活を行い、反応液から原料エステルを留去し、濃縮して目的の生成エステルを得る。
態様1の場合、エステル交換反応の反応液から、原料エステルを留去して濃縮する際に、SFOH溶液由来の共沸溶媒も同時に留去することが好ましい。
【0039】
原料エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等のメタクリル酸エステル類;α-エチルアクリル酸メチル、α-エチルアクリル酸エチル、α-エチルアクリル酸プロピル等のα-エチルアクリル酸エステル類;が例示できる。
【0040】
原料エステルの使用量については、副生するアルコールの除去が共沸によらず容易に除去できるのであれば、原料エステルの量が少なくてもエステル交換反応は十分進むが、アクリル酸エチルとエタノール、メタクリル酸メチルとメタノールのように、副生アルコールを原料エステルとの共沸により除去する場合には、原料エステルの量が少なすぎると副生するアルコールを十分除くことができないため反応率が低下しやすい。
一方、原料エステルの量が多すぎると、エステル交換反応の釜効率が悪くなり、コスト的に好ましくない。
原料エステルの使用量は、これらの不都合が生じない範囲が好ましい。例えば、3-ヒドロキシスルフォランに対して2倍モルから20倍モルの範囲内が好ましく、3倍モルから10倍モルの範囲内がより好ましい。
【0041】
エステル交換反応の触媒としては、ジn-ブチルスズオキシド、ジn-オクチルスズオキシド、ジn-ブチルスズジメトキシド、ジn-ブチルスズジアクリレート、ジn-ブチルスズジメタクリレート、ジn-ブチルスズジラウレート等の有機錫化合物;ナトリウムメトキシド、リチウムエトキシド、チタンテトラブトキシド、チタンテトラメトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラエトキシド、テトラキス(2-エチルヘキシルオキシ)チタン、チタンテトラステアリルオキシド等の金属アルコキシド類;が例示できる。反応操作上の優位性、入手しやすさの点からは、ジブチルスズオキシド、チタンテトラメトキシド、チタンテトラブトキシドが好ましい。
【0042】
触媒の使用量は、3-ヒドロキシスルフォランに対して0.01~5モル%が好ましく、コスト、触媒の処理のし易さ等の点からは、0.1~2モル%がより好ましい。
反応し難い2級アルコールを有する3-ヒドロキシスルフォランのエステル交換反応であることを考慮して、エステル交換反応を1日から2日という実用的な時間で終了するためには、触媒の使用量は、0.5~3モル%がより好ましい。
【0043】
原料エステルや生成エステルの重合を防止するために、反応系内に重合防止剤を添加することが好ましい。重合防止剤の種類は、特に限定されない。重合防止剤は1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
重合防止剤としては、ハイドロキノン、p-メトキシフェノール、2,4-ジメチル-6-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、tert-ブチル-カテコール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、ペンタエリスリトールテトラキス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナメイト)、2-sec-ブチル-4,6-ジニトロフェノール等のフェノール系化合物;N,N-ジイソプロピルパラフェニレンジアミン、N,N-ジ-2-ナフチルパラフェニレンジアミン、N-フェニレン-N-(1,3-ジメチルブチル)パラフェニレンジアミン、N,N’-ビス(1,4-ジメチルフェニル)-パラフェニレンジアミン、N-(1,4-ジメチルフェニル)-N’-フェニル-パラフェニレンジアミン等のアミン系化合物;4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、ビス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)セバケイト等のN-オキシル系化合物;銅、塩化銅(II)、塩化鉄(III)等の金属化合物;等が例示できる。
【0045】
重合防止剤の使用量は適宜設定できる。例えば、使用する原料エステルに対して100ppm以上が好ましく、充分な重合防止効果を得るには500ppm以上がより好ましい。一方、コスト面から考えると重合防止剤の使用量は、10000ppm以下が好ましく、製品の着色、使用場面での便宜性などを考えると、5000ppm以下がより好ましい。
【0046】
また、重合を防止するためにエステル交換反応液中に空気等の酸素含有ガスをバブリングすることも好ましい。導入する酸素含有ガスの量は、所望の重合防止効果が得られるように適宜設定できる。例えば、酸素含有ガスとして空気を用いる場合、使用する原料エステル1モルに対して0.5~3.0mL/minでバブリングすることが好ましい。エステル交換反応液に重合防止剤を添加し、併せて反応液中に空気等の酸素含有ガスを導入しながら反応を行うことは、重合防止効果の増幅という観点から特に好ましい。
【0047】
エステル交換反応では、バッチ式反応器を用いてもよく、連続式反応器を用いてもよい。例えば、バッチ式反応器で触媒を含む反応液を撹拌しながら、反応を進行させるために、副生するアルコール(R2OH)を系外に除去しながらエステル交換反応を実施できる。
【0048】
エステル交換反応を行う際の反応圧力は、特に限定されず、減圧、常圧、加圧のいずれでも実施できる。
エステル交換反応を行う際の反応温度は、反応圧力にもよるが、例えば、常温から150℃の範囲内が好ましい。副生するアルコール(R2OH)を除去し、より高い反応速度を得るためには、60~150℃がより好ましい。
エステル交換の反応時間は、1~50時間が好ましく、実用性及び効率の点からは5~36時間がより好ましい。
【0049】
エステル交換反応の終了後は、必要に応じて触媒を失活させ、未反応の3-ヒドロキシスルフォランを回収し、生成エステルを精製することが好ましい。
触媒の失活は公知の方法で実施できる。
生成エステルは、通常、常温で固体である。生成エステルの精製は、減圧蒸留、再結晶等の、公知の精製方法によって実施できる。
【実施例0050】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0051】
<例1>
本例は、共沸溶媒としてアセトニトリルを用いて中和液中の水を共沸置換した実施例である。
(水和工程・中和工程)
スルフォレン18g(0.15モル)を3.28規定の水酸化ナトリウム水溶液55mLに溶かして30℃で24時間静置した。ガスクロマトグラフで分析し、原料スルフォレンが殆ど消えていることを確認した。反応液を氷水で冷却し、硫酸を8g加え、pH6.5程度まで中和して中和液(100g)を得た。中和液の水分含有量は48質量%であった。
【0052】
(溶媒置換工程)
表3に示す条件で多段階共沸を行って、中和液に含まれる水をアセトニトリルに溶媒置換した。
共沸混合物の留去後に反応器内の液の水分含有量を測定した。留去量及び添加量に基づいて反応器内の液量を算出し、反応器内の液量に対する溶質の含有量を固形分として算出した。反応器内の最初の液量に対する液量の割合を釜残量として算出した。これらの結果を表に示す(以下、同様)。
多段階共沸終了後の溶液を、加圧ろ過器で濾過して中和塩を除去した。
さらに濾液を80℃にして減圧濃縮することで残存する原料を分解して除去した。
こうして、3-ヒドロキシスルフォランがアセトニトリルに溶解したSFOH溶液(41g)を得た。SFOH溶液における、3-ヒドロキシスルフォランのGC純度は97%、水分含有量は0.13質量%であった。
【0053】
【0054】
<例2>
本例は、共沸溶媒としてメチルエチルケトン(表には「MEK」と記す。)を用いて中和液中の水を共沸置換した実施例である。多段階共沸の条件を表4に示す。
(水和工程・中和工程)
スルフォレン99.6g(0.84モル)を1.5規定の水酸化ナトリウム水溶液0.85リットルに溶かして室温で72時間静置した。ガスクロマトグラフで分析し、原料スルフォレンが殆ど消えていることを確認した。反応液を氷水で冷却し、硫酸を60g加え、pH7.2程度まで中和して中和液(1011g)を得た。中和液の水分含有量は81質量%であった。
【0055】
(溶媒置換工程)
得られた中和液の一部(249g)を用い、表4に示す条件で多段階共沸を行って、中和液に含まれる水をメチルエチルケトンに溶媒置換した。
多段階共沸終了後の溶液を、加圧ろ過器で濾過して中和塩を除去した。
さらに濾液を80℃にして減圧濃縮することで残存する原料を分解して除去した。
こうして、3-ヒドロキシスルフォランがメチルエチルケトンに溶解したSFOH溶液(81g)を得た。SFOH溶液における、3-ヒドロキシスルフォランの水分含有量は0.08質量%であった。
【0056】
例1、2で得られたSFOH溶液は、公知のエステル交換反応方法を用いて3-ヒドロキシスルフォランのカルボン酸エステルを製造する方法に使用できる。
【0057】
【0058】
<例3>
本例は、中和液中の水を共沸置換せずに留去した比較例である。
(水和工程・中和工程)
例2と同様にして中和液(1011g)を得た。得られた中和液の一部(500g)をエバポレーションで乾固させ、102g(釜残量20質量%)のスラリーを得た。
【0059】
例3の乾固後のスラリーは、固く、壁面にこびりついている状態であった。工業的に使用される装置で製造する場合、粘度が高く撹拌翼が回らない、かつ最低釜残量(釜残量の最小値)が20質量%と低いため撹拌翼が回らないといった点から、工業的な3-ヒドロキシスルフォランの製造は困難である。
一方、例1、2は最低釜残量がそれぞれ36質量%、29質量%であった。反応器内の残液量が確保され、スラリーは流動性がある状態のため、撹拌翼を回転させることができ、工業的に使用される装置を用いた3-ヒドロキシスルフォランの製造が可能である。