(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022126080
(43)【公開日】2022-08-30
(54)【発明の名称】乳化ソースの製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 23/00 20160101AFI20220823BHJP
【FI】
A23L23/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021023940
(22)【出願日】2021-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】嶋村 陽
【テーマコード(参考)】
4B036
【Fターム(参考)】
4B036LF03
4B036LH04
4B036LH12
4B036LH13
4B036LH21
4B036LH32
4B036LH38
4B036LK01
4B036LK03
4B036LP01
4B036LP06
4B036LP17
(57)【要約】
【課題】高圧ホモジナイザーなどの乳化処理装置を使用しなくとも、ニーダー等の加熱撹拌装置で容易に製造できる乳化ソース及びその製造方法を提供する。
【解決手段】水分と油脂分と乳化剤とを含む原材料を混合槽に投入する工程、混合槽に投入した原材料を加熱混合する工程を含む乳化ソースの製造方法であて、
前記乳化剤が少なくとも2種類の乳化剤からなり、前記乳化剤のうち最も大きなHLB値を有するものを乳化剤Bとし、最も小さなHLB値のものを乳化剤Aとしたとき、乳化剤AのHLB値と乳化剤BのHLB値との差が2.5以上であり、
乳化剤Aと乳化剤Bとの配合割合が13:7~7:13であり、及び
混合槽に投入する乳化剤がいずれも未乳化の状態である、前記製造方法により、上記課題を解決しうる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分と油脂分と乳化剤とを含む原材料を混合槽に投入する工程、混合槽に投入した原材料を加熱混合する工程を含む乳化ソースの製造方法であって、
前記乳化剤が少なくとも2種類の乳化剤からなり、
前記乳化剤のうち最も大きなHLB値を有するものを乳化剤Bとし、最も小さなHLB値を有するものを乳化剤Aとしたとき、乳化剤AのHLB値と乳化剤BのHLB値との差が2.5以上であり、
乳化剤Aと乳化剤Bとの配合割合が13:7~7:13であり、及び
混合槽に投入する乳化剤がいずれも未乳化の状態である、前記製造方法。
【請求項2】
乳化剤が2種類の乳化剤Aと乳化剤Bとからなる、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
混合槽における原材料の混合速度が3000rpm以下である、請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
原材料中の水分と油脂分との合計質量に対して水分が30質量%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
水分と油脂分の合計100質量部に対する、乳化剤の合計質量が1.1質量部以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法により乳化ソースを製造し、これを冷凍する工程を含む、冷凍乳化ソースの製造方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法により乳化ソースを製造し、前記乳化ソースを麺類ないしは米飯類に上掛けする工程及び/又は前記乳化ソースと麺類ないしは米飯類と混合する工程を含む、食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乳化ソースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ライフスタイルの多様化が進み、手間をかけることなく食することができる調理済食品や半調理済食品の需要が年々高くなっている。特に、レトルト食品や冷凍食品は、保存性が高く、電子レンジや湯煎、フライパン等で再加熱するだけで食することができるため、家庭や飲食店などで常備される食品として人気が高い。このような食品には、概して乳化ソースが含まれているものが多い。
乳化ソースとは、水分と油脂分とが乳化状態にあるソースのことであり、連続相が水で分散相が油脂である水中油滴型のソースと、連続相が油脂で分散相が水である油中水滴型のソースとがある。乳化粒子(油滴又は水滴)は、乳化剤の作用により両親媒性の乳化膜に覆われ、連続相中に均質に分散されるように調製される。乳化ソースに使用される乳化剤としては、レシチン、サポニン、カゼインナトリウム等の天然由来の乳化剤;ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等の合成乳化剤が知られている。製造する乳化ソースによっては、もともと乳化作用を示す構成成分を含む卵黄等の原料を使用することもある。
一般的に、乳化ソースは、水分、油脂分及び乳化剤を含む原料を乳化処理(均質化処理)する工程を経て製造されるが、その乳化処理工程において高速撹拌機、ホモミキサー、高圧ホモゲナイザー、コロイドミル、超音波乳化機等の装置が使用される。例えば、特許文献1では、卵黄及び水を含む混合物を乳化処理して卵黄含有組成物を得るために、高速撹拌機を用いて3000rpm~20000rpmの撹拌条件で乳化させることが好ましいことが記載されている(段落0010)。特許文献2では、水分、油及び乳化剤を含む原料を、ホモミキサーを使用して10,000rpmで2分間の乳化を行ったことが記載されている(実施例4等)。このような乳化処理をすることにより、粒子径の細かい乳化粒子が形成されて連続相内に満遍なく分散され、油水分離することなく安定的に乳化状態を維持することができる。
【0003】
特に、レトルト食品においては、レトルト処理等の加熱殺菌処理をしても乳化が維持され、長期間安定的に保存できるという要件を満たす必要があり、そのためにはできるだけ細かい粒子径の乳化粒子になるように調製される(特許文献3の段落0002参照)。食品工業的には、その粒子径は概してメジアン径が20μm以下に調製され、より安定性を確保するためには5μm以下に調製されるのが一般的である。レトルト処理にはソースの変色という課題があり、特許文献4では、レシチン及びHLB3又はHLB4の乳化剤を溶解した油相部と、HLB10及びHLB11の乳化剤を溶解した水相部とを予備乳化した後、高圧ホモジナイザーを用いて均質化(乳化)し、平均粒径の小さい脂肪球(乳化粒子)が分散した水中油型乳化脂組成物を調製し、この水中油型乳化脂組成物を用いて製造したレトルトホワイトソースは乳化破壊による変色や褐変現象にともなう白色の低下が起こらなかったことが記載されている。
ところで、パスタ等の麺類や米飯等の主食材に上掛けしたり和えたりして喫食する乳化ソースは多種多様であり、各種の加熱調理済みの具材を含むものが大半である。このような具材入り乳化ソースは、前記乳化処理工程及び加熱調理工程を含む多段階の製造方法により製造されるが、乳化処理工程を行うためには高額な装置が必要であり、多段階の製造工程を伴うため手間もかかる。そのため、より省力化並びに簡便化することが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-105602
【特許文献2】特開平10-042801
【特許文献3】特開2003-024017
【特許文献4】特開2000-152749
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高圧ホモジナイザーなどの乳化処理装置を使用しなくとも、ニーダー等の加熱撹拌装置で容易に製造できる乳化ソースの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
水分と油脂分と乳化剤とを含む原材料を未乳化の状態で混合槽に投入し、投入した原材料を加熱混合する工程を含み、前記乳化剤として特定のHLBを有する少なくとも2種類の乳化剤を組み合わせて用いることを特徴とする方法により、乳化ソースをニーダー等の加熱撹拌装置で容易に製造できることを見いだし、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下の発明を提供する。
〔1〕水分と油脂分と乳化剤とを含む原材料を混合槽に投入する工程、混合槽に投入した原材料を加熱混合する工程を含む乳化ソースの製造方法であって、
前記乳化剤が少なくとも2種類の乳化剤からなり、
前記乳化剤のうち最も大きなHLB値を有するものを乳化剤Bとし、最も小さなHLB値を有するものを乳化剤Aとしたとき、乳化剤AのHLB値と乳化剤BのHLB値との差が2.5以上であり、
乳化剤Aと乳化剤Bとの配合割合が13:7~7:13であり、及び
混合槽に投入する乳化剤がいずれも未乳化の状態である、前記製造方法。
〔2〕乳化剤が2種類の乳化剤Aと乳化剤Bとからなる、〔1〕記載の製造方法。
〔3〕混合槽における原材料の混合速度が3000rpm以下である、〔1〕または〔2〕記載の製造方法。
〔4〕原材料中の水分と油脂分との合計質量に対して水分が30質量%以上である、〔1〕~〔3〕のいずれか一に記載の製造方法。
〔5〕水分と油脂分の合計100質量部に対する、乳化剤の合計質量が1.1質量部以上である、〔1〕~〔4〕のいずれか一に記載の製造方法。
〔6〕〔1〕~〔5〕のいずれか一に記載の製造方法により乳化ソースを製造し、これを冷凍する工程を含む、冷凍乳化ソースの製造方法。
〔7〕〔1〕~〔5〕のいずれか一に記載の製造方法により乳化ソースを製造し、前記乳化ソースを麺類ないしは米飯類に上掛けする工程及び/又は前記乳化ソースと麺類ないしは米飯類と混合する工程を含む、食品の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、食品工業で使用される一般的な調理用加熱撹拌装置を使用して乳化ソースを製造しても、油水分離が生じ難く、乳化状態が安定的に維持される乳化ソースを得ることができる。該乳化ソースは、冷凍保存した後に電子レンジ等で再加熱しても、乳化状態が安定的に維持されている。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<乳化剤>
乳化剤とは、1分子の中に親油基(疎水基)と親水基とを含む両親媒性の化合物のことであり、親油基は油脂に馴染み易く、親水基は水に馴染み易い性質である。このような乳化剤は、レシチン(大豆、卵黄等に由来)、サポニン(キラヤやダイズ等に由来)、カゼインナトリウム(牛乳由来)等の天然乳化剤と合成乳化剤とに大別される。食品利用できる合成乳化剤において、親油基は炭素数8~22の飽和脂肪酸及び/又は不飽和脂肪酸で構成され、親水基はグリセリン、ポリグリセリン、ショ糖、プロピレングリコール、ソルビタン等で構成される。HLB値は、乳化剤の疎水性と親水性とのバランスを示す数値である。一般的に、疎水性乳化剤(W/O型乳化剤:親油性)のHLB値は低値であり、親水性乳化剤(O/W型乳化剤)のHLB値は高値である。低HLB乳化剤は疎水性が高く、HLB値が6以下の乳化剤は水にわずかに分散する程度であり、特にHLB値が3~6程度の乳化剤は油脂分中に水滴を分散させる乳化(W/O型乳化)に適している。高HLB乳化剤は親水性が高く、HLB値が14以上の乳化剤は水に溶けてコロイド溶液になり、特にHLB値が8~18程度の乳化剤は水分中に油滴を分散させる乳化(O/W型乳化)に適している。HLB値が6~8程度の乳化剤は水中に乳状から透明な状態で分散する。
【0009】
本発明の乳化ソースの乳化剤は少なくとも2種類の乳化剤からなり、前記乳化剤のうち最も大きなHLB値を有するものを乳化剤Bとし、最も小さなHLB値のものを乳化剤Aとしたとき、乳化剤AのHLB値:HLBAと乳化剤BのHLB値:HLBB(ただし、HLBA<HLBB)の差(HLBB-HLBA)が2.5以上である。例えば、HLB値が5、7及び11の3種類の乳化剤からなる場合には、HLB値が5の乳化剤が乳化剤Aであり、HLB値が11の乳化剤が乳化剤Bである。好ましくは乳化剤は2種類の乳化剤Aと乳化剤Bとからなる。
HLBAとHLBBの差は、好ましくは3以上であり、より好ましくは4以上である。差が2.5未満になると、乳化ソースがその保存中に油水分離を起こす。乳化剤Aと乳化剤BのHLB値は、その差が2.5以上であれば特に制限されず、公知の乳化剤から適宜選択することができる。乳化剤AのHLB値(HLBA)は12以下であることが好ましく、11以下であることがより好ましく、9以下であることが更に好ましく、8.5以下であることがより更に好ましく、8以下であることがなお更に好ましい。乳化剤BのHLB値(HLBB)は7以上であることが好ましく、7.5以上であることがより好ましく、8以上であることが更に好ましい。
例えば本発明における乳化剤Aあるいは乳化剤Bとして使用可能な乳化剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、レシチン、酵素処理レシチン、サポニン等が挙げられる。
【0010】
乳化剤Aと乳化剤Bとの割合は、13:7~7:13であり、好ましくは12.5:7.5~7.5:12.5であり、より好ましくは12:8~8:12であり、更に好ましくは11:9~9:11であり、最も好ましくは10:10である。乳化剤Aの割合が13超過又は7未満であると、乳化ソースの保存中に油水分離が起こる。
【0011】
乳化剤の使用量は、乳化ソースの製造に使用する油脂分と水分とが乳化されるに足る量であれば適宜調節することができ、特に限定されるものではない。良好に油脂分と水分とを乳化させるために、水分と油脂分との合計100質量部に対して、乳化剤の合計質量として好ましくは1.1質量部以上であり、更に好ましくは1.15質量部以上であり、より好ましくは1.2質量部以上であり、より更に好ましくは1.8質量部以上であり、最も好ましくは2.0質量部以上である。乳化剤の上限は特に制限されるものではないが、10質量部を超えると乳化ソースに異味が生じる恐れがあるため10質量部以下であることが好ましく、8質量部以下がより好ましい。なお、配合割合における油の分量には、具材を炒めるための油の量も含まれている。
【0012】
本発明において、乳化ソースの製造に使用する乳化剤は未乳化のものである。事前に親油性乳化剤を油脂に溶解させる工程並びに親水性乳化剤を水分に溶解させる工程を必要とせず、予備乳化させる工程も必要としない。
【0013】
<油脂分>
本発明の乳化ソースに使用する油脂分は、食用油脂であればいずれも好適に使用でき、例えば、大豆油、綿実油、サフラワー油、米油、コーン油、ナタネ油、シソ油、エゴマ油、アマニ油、オリーブ油、ゴマ油、小麦胚芽油、コメヌカ油、ヒマワリ油、落花生油、アボガド油、卵黄油、魚油、鯨油、鶏油、豚脂、牛脂、乳脂、カカオ脂、シア脂、ヤシ油、パーム油、パーム核油等、並びにこれらに水素添加処理、分別処理及びエステル交換処理等の処理を一又は二以上を施した加工油脂等が挙げられる。好ましくは常温で液体の油であり、より好ましくは多価不飽和脂肪酸含有量の少ない液体油である。これらのうち単一の油脂を用いてもよいが、2種以上を適当な比率で用いてもよい。
【0014】
<水分>
本発明の乳化ソースに使用する水分は、飲食及び食品加工に使用される水分であればいずれも好適に使用でき、例えば、水道水、蒸留水、イオン交換水、ミネラルウォーター等が挙げられ、任意に食塩等の塩類、ショ糖等の糖類、クエン酸等の有機酸、アミノ酸、水溶性ビタミン、エキス、人工甘味料などの水溶性成分を乳化ソースの種類に応じて適宜添加することができる。醤油、醸造酢等の調味液;オレンジジュース等の果汁;豆乳等の煮汁;果実、果菜、根菜等のペースト又はピューレなども水分として使用することができるが、その場合には水可溶性固形分や水不溶性固形分の含有量を差し引いた水分量に換算することが好ましい。
本発明の乳化ソースにおける水分の含有率は、油脂分と水分との合計質量に対して、好ましくは30質量%以上であり、なお好ましくは40質量%以上であり、より好ましくは42~85質量%であり、更に好ましくは43~80質量%であり、より更に好ましくは45~75質量%である、なお更に好ましくは45~65質量%である。
【0015】
<乳化ソース>
本発明の乳化ソースは、水中油滴型でもよく、油中水滴型であってもよく、水分と油脂分とが全体的に乳化状態になっているソースであればよい。そのような乳化ソースとして、ベシャメルソース、ホワイトソース,ドミグラスソース、ウニソース、たらこソース、クリームソース、カルボナーラソース、トマトソース、カレーソース、中華あん、ペペロンチーノソース、バジルソース、ガーリックソース、チーズソース等が挙げられる。
【0016】
<任意成分>
本発明の乳化ソースにおいて、通常使用される原材料はいずれも好適に使用することができる。小麦粉、ライ麦粉、コーンフラワー、大麦粉、米粉などの穀粉類;小麦ふすま、米ぬか等の糠類;穀類、イモ類、豆類、樹幹等並びにそれらのワキシー種から分離精製された澱粉類(例えば、小麦澱粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、緑豆澱粉、サゴ澱粉等並びにそれらのワキシー澱粉)及びこれらにα化、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理等を行った加工澱粉類;難消化性澱粉等の水不溶性食物繊維;ポリデキストロース、大麦βグルカン、難消化性デキストリン等の水溶性食物繊維;デキストリン等の澱粉分解物;ペクチン、カラギーナン、キサンタンガム、グアーガム、タラガム、ローカストビーンガム、イヌリン等の増粘多糖類;メチルセルロース類等のセルロース誘導体;ブドウ糖、果糖、乳糖、砂糖、イソマルトースなどの糖類;卵黄、卵白、全卵及びそれらを粉末化したものやその他の卵に由来する成分である卵成分;粉乳、脱脂粉乳、大豆粉乳等の乳成分;大豆蛋白、小麦蛋白、えんどう豆蛋白等のタンパク質類;食塩等の無機塩類;保存料;香料;香辛料;ビタミン;カルシウム等の強化剤;肉類、魚介類、穀類、野菜類、果菜類、豆類を素材とする塊状の具材などが挙げられる。
【0017】
<乳化ソースの製造方法>
本発明の乳化ソースは、水分及び油脂分と前記特定のHLB値の乳化剤とを適当な割合で含む原材料を、食品工業で通常使用される加熱撹拌装置に投入し、混合しつつ加熱調理することにより製造することができる。ここで、混合槽に投入する乳化剤はいずれも未乳化の状態である。すなわち、あらかじめ油相や水相の原材料と乳化することなく、水分及び油脂分並びに他の原材料を加熱撹拌装置に投入する。
加熱撹拌装置における原材料の混合速度は、好ましくは12rpm以上であり、更に好ましくは15rpm以上であり、より好ましくは30rpm以上であり、より更に好ましくは50rpm以上であり、なお更に好ましくは100rpm以上である。混合速度の上限は特に限定されるものではないが、用いる加熱撹拌装置の最高設定混合速度以下であればよく、好ましくは3000rpm以下であり、より好ましくは2000rpm以下であり、更に好ましくは1500rpm以下である。加熱撹拌装置としては、撹拌羽根等で混合加熱する加熱ニーダー、撹拌槽が回転するドラム回転式加熱調理装置、それらを併用した加熱調理装置等が挙げられる。混合速度は、撹拌羽根の回転速度、ドラムの回転速度のことである。混合速度が12rpm以上であると、油水分離が起こりにくくなるため好ましい。ただし、本発明の乳化ソースの製造方法において、高速撹拌機や、ホモミキサー、高圧ホモゲナイザー、コロイドミル、超音波乳化機等の装置を使用した乳化処理工程を含む方法を採用することを妨げるものではない。
加熱撹拌装置における、加熱温度は80~100℃であることが好ましく、85~95℃であることが更に好ましい。
【0018】
<冷凍乳化ソースの製造方法>
本発明の方法により製造した乳化ソースを、さらに冷凍する工程に付して、冷凍乳化ソースを製造してもよい。冷凍方法は、通常行われる方法により行うことができる。
【0019】
<食品及び冷凍食品の製造方法>
本発明の方法により乳化ソースを製造し、これを麺類又は米飯類に上掛けないしは麺類又は米飯類と混合することにより、食品を製造してもよい。食品として、例えば、ペペロンチーノ、カルボナーラ、トマトソース、ナポリタン、ボロネーゼ、ジェノベーゼなどの乳化ソースをかけたスパゲティ、ホワイトソースをかけたグラタン、ドリアなどが挙げられる。
上記の方法により食品を製造し、これを冷凍して冷凍食品を製造してもよい。冷凍食品として、例えば、ペペロンチーノ、カルボナーラ、トマトソース、ナポリタン、ボロネーゼ、ジェノベーゼなどの乳化ソースをかけたスパゲティ、ホワイトソースをかけたグラタン、ドリアの冷凍食品が挙げられる。
【実施例0020】
製造例1 標準的なペペロンチーノソースの製造方法(高速撹拌)
下記配合表の材料を用いて、下記1.~3.の手順に従いペペロンチーノソースを製造した。すなわち、
1.4質量部のサラダ油と4質量部のニンニクみじん切りを加熱調理用ニーダーに投入し、ニンニクのみじん切りの歩留が90質量%になるまで炒めた。
2.サラダ油以外の原料を加熱調理用ニーダー(株式会社カジワラ、KR-J型)に投入し、芯温が85℃になるまで加熱しながら300rpm(撹拌羽根の回転速度)で混合撹拌した。
3.全量を高速撹拌機(ESGE社、バーミックスM300ベーシック)に投入し、17,500rpmで高速撹拌しながら残余の46質量部のサラダ油を1分間かけて徐々に投入し、更に5分間高速撹拌して乳化安定化させてペペロンチーノソースを得た。
【0021】
配合表1(ペペロンチーノソース)
*:乳化剤は理研ビタミン株式会社社製ポエムJ-0381V(HLB値14)である。
【0022】
製造例2 本発明の乳化ソース(ペペロンチーノソース)の製造方法(低速撹拌)
配合表1記載の2質量部の乳化剤を、1質量部のHLB値8の乳化剤(三菱ケミカルフーズ株式会社、リョートーポリグリエステルO-50D)と1質量部のHLB値14の乳化剤(理研ビタミン株式会社、ポエムJ-0381V)と(合計2質量部)に置換してペペロンチーノソースを製造した。すなわち、
1.4質量部のサラダ油と4質量部のニンニクみじん切りを加熱調理用ニーダー(株式会社カジワラ、KR-J型)に投入し、ニンニクのみじん切りの歩留が90質量%になるまで炒めた。
2.残余の全原料を加熱調理用ニーダーに投入し、芯温が85℃になるまで加熱しながら300rpm(撹拌羽根の回転速度)で低速撹拌してペペロンチーノソースを得た。
【0023】
評価例1
製造例1で得た乳化ソースを200mL容メスシリンダーに入れ、乳化ソース液面が100mlの目盛りになるようメスアップした。樹脂製フィルムを用いてメスシリンダーの開口部を密封し、室温で24時間静置した。静置後、油水分離している場合には目視によって油水界面の目盛りを読み取った。油水分離していない場合には「〇」を付した。
【0024】
試験例1 乳化剤のHBL値の差の検討
表1記載のHLB値の乳化剤を使用した以外は製造例2に従ってペペロンチーノソースを製造し、評価例1に従って評価した。
その結果、乳化剤AのHLB値(HLBA)と乳化剤BとのHLB値(HLBB)の差が3以上の実施例1~7では、製造したペペロンチーノソースを静置しても油水分離が起こらず良好であった。乳化剤を1種類しか用いない場合(比較例1、2)またはHLB値の差が2以下の場合(比較例3、4)では、油水分離が起こり不適であった。
【0025】
HLB5: ショ糖脂肪酸エステル(三菱ケミカルフーズ株式会社、リョートーシュガーエステルS-570)
HLB7: ショ糖脂肪酸エステル(三菱ケミカルフーズ株式会社、リョートーシュガーエステルS-770)
HLB8: グリセリン脂肪酸エステル(三菱ケミカルフーズ株式会社、リョートーポリグリエステルO-50D)
HLB11:ショ糖脂肪酸エステル(三菱ケミカルフーズ株式会社、リョートーシュガーエステルS-1170)
HLB14:グリセリン脂肪酸エステル(理研ビタミン株式会社、ポエムJ-0381V)
HLB15:ショ糖脂肪酸エステル(三菱ケミカルフーズ株式会社、リョートーシュガーエステルS-1570)
【0026】
試験例2 乳化剤の配合割合の検討
表2記載の質量部の乳化剤を使用した以外は製造例2(低速撹拌)に従ってペペロンチーノソースを製造し、評価例1に従って油水分離を評価した。なお、参考例1及び2は、製造例1(高速撹拌)に従って得た標準的なペペロンチーノソースである。
その結果、HLB値8の乳化剤とHLB値14の乳化剤とを6:4~4:6の比で用いた実施例6及び8~11では、24時間静置しても油水分離は観察されなかった。比較例1、2、5及び6では、界面が95mL以下となり、明らかに油水分離しているため不適であった。なお、高速撹拌して製造したペペロンチーノソース(参考例1、2)では油水分離は起こらなかった。
【0027】
【0028】
試験例3 乳化剤の配合割合と合計量の検討
表3記載の乳化剤の配合割合と合計量を使用した以外は製造例2(低速撹拌)に従ってペペロンチーノソースを製造し、評価例1に従って油水分離を評価した。
その結果、乳化剤の合計が1.2質量部以上の実施例12~14では、何れも静置後に油水分離が起こらず良好に乳化状態を維持していた。
【0029】
【0030】
試験例4 撹拌速度の検討
表4記載の撹拌速度にした以外は実施例6に従ってペペロンチーノソースを製造し、それぞれ評価例1に従って評価した。
その結果、加熱調理用ニーダーの回転速度が15、20、及び25rpmの実施例15~17では油水分離が起こらなかった。乳化剤を1種類しか使用していない比較例1、2では、明らかに油水分離が起こって不適であり、油水分離をなくすためには従来の17500rpm程度の高速撹拌が必要であった(参考例1、2)。
【0031】
【0032】
試験例5 油脂分と水の割合の検討
表5記載の量の油脂分と水分とを使用した以外は製造例2に従ってペペロンチーノソースを製造し、評価例1に従って評価した。
その結果、水分が45~60質量部の実施例18~21では油水分離が起こらない良好なペペロンチーノソースを得ることができた。
【0033】
【0034】
試験例6 油脂の検討
表6記載の油脂と水を使用した以外は製造例2に従ってペペロンチーノソースを製造し、評価例1に従って評価した。
その結果、常温で液状の油、融点が37℃、42℃の常温で固形状の脂の何れの油脂を使用しても油水分離は起こらず、良好なペペロンチーノソースが得られた(実施例22~25)。
【0035】
【0036】
試験例7 乳化ソースを用いた冷凍スパゲッティーの検討
スパゲッティー1.7mm(オーマイ社製)を沸騰湯浴中で8分間茹で、水洗して水切りし、紙トレーに茹でスパゲッティー200gを盛り付け、乳化剤を表7記載の乳化剤で置き換えた配合表1のペペロンチーノソースを100g上掛けし、-40℃で急速凍結した。紙トレー入りペペロンチーノスパゲッティーを樹脂製フィルムで密閉し、家庭用冷凍冷蔵庫の冷凍室に入れて10日間保存した。電子レンジに投入し、600Wで5分間解凍加熱し、開封してソースの油浮き(油水分離)を観察した。全く油浮きがない場合には「〇」を、わずかに油浮きがあるが気にならない程度である場合には「△」を、明らかに油浮きがある場合には「×」を付した。
その結果、静置後の油水分離が生じなかった実施例26~32では、電子レンジで加熱解凍してもソースの油浮きが観察されなかった。
実施例33では、わずかではあるが油浮きが観察された。ペペロンチーノソースは油脂分の割合が高いのでわずかに油浮きが生じたが、カルボナーラソースやトマトソースなどの油脂分の割合が比較的低い乳化ソースであれば油浮きは生じないと考えられる。
【0037】