(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022126087
(43)【公開日】2022-08-30
(54)【発明の名称】細胞培養用担体、及び細胞培養用担体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20220823BHJP
C12N 5/00 20060101ALI20220823BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20220823BHJP
C07K 7/08 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12N5/00
C12M1/00 C
C07K7/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021023947
(22)【出願日】2021-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】後藤 泰史
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 優
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC02
4B029CC13
4B029GB09
4B065AA90X
4B065CA44
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA16
4H045CA40
4H045EA50
4H045EA60
4H045FA33
4H045FA81
(57)【要約】
【課題】適度な硬さに調整可能であり、細胞増殖性に優れた細胞培養用担体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】(1)アニオン基を持つ生分解性ポリマを含む基質と(2)前記基質の少なくとも一部に設けられ、カチオン基を持つ生分解性ポリマを含む被覆部と、を含み、前記基質が、前記カチオン基を持つ生分解性ポリマとイオン架橋された架橋部を有する、細胞培養用担体とその製造方法が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)アニオン基を持つ生分解性ポリマによる基質と、(2)前記基質の少なくとも一部に設けられ、カチオン基を持つ生分解性ポリマを含む被覆部と、を含み、
前記基質が、前記カチオン基を持つ生分解性ポリマとイオン架橋された架橋部を有する、細胞培養用担体。
【請求項2】
アニオン基を持つ生分解性ポリマがポリウロン酸である請求項1に記載の細胞培養用担体。
【請求項3】
アニオン基を持つ生分解性ポリマがアルギン酸である請求項2に記載の細胞培養用担体。
【請求項4】
カチオン基を持つ生分解性ポリマがキトサン又はキトサンに細胞接着性基を結合したものである請求項1から請求項3のいずれかに記載の細胞培養用担体。
【請求項5】
細胞接着性基がRGD構造を含むペプチドである請求項4に記載の細胞培養用担体。
【請求項6】
前記被覆部が、イオン架橋可能なカチオン基を有する請求項1~5のいずれかに記載の細胞培養用担体。
【請求項7】
前記被覆部の少なくとも一部が、無機イオンによりイオン架橋されている請求項1~5のいずれかに記載の細胞培養用担体。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の細胞培養用担体の製造方法であって、アニオン基を持つポリマ水溶液を、カチオン基を持つポリマ水溶液に滴下して造粒することを含む、細胞培養用担体の製造方法。
【請求項9】
アニオン基を持つポリマの液滴表面を、カチオン基を持つポリマで被覆すること、次いで、アニオン基を持つポリマを2価以上の金属カチオンで架橋することを含む、請求項8に記載の細胞培養用担体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の一実施形態は、細胞培養用担体、及び細胞培養用担体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞培養は、シート状等の担体上に細胞を単層に成長させる単層培養と、培養系に細胞が浮遊した状態で細胞培養を行う浮遊培養とに大きく分類される。浮遊培養では、培養系に粒子状の担体を添加し、細胞を担体に吸着させて担持させた状態で、細胞培養を促進することができる。細胞培養後には、酵素又はキレート剤等を用いて担体を除去して、細胞を回収することができる。細胞の大量培養では、担体に対する細胞の担持量を多くすること、培養された細胞から担体を除去すること等を効率的に行うことが望まれる。
【0003】
特許文献1には、ペクチン等のポリガラクツロン酸化合物を含む基質と、基質表面にある接着性ポリマとを含む細胞培養物品によって、プロテアーゼを用いずに、ペクチナーゼ及びキレート剤を用いることで、基質から細胞を容易に採取できることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、細胞培養用担体の機械的硬さが細胞の増殖性や未分化維持等に関与していることを示した研究例が多くある。細胞の増殖性が柔らかい担体で向上する場合、同時に担体の表面修飾や細胞培養時の攪拌等の機械的応力にも損傷したり崩壊したりしない強度も必要である。
ポリウロン酸を無機カチオンで架橋した担体は、ポリウロン酸の種類、無機カチオンの種類、架橋度で硬さが変わる。架橋度はポリウロン酸に対する無機カチオンの濃度や接触時間で変化する。従来のポリウロン酸水溶液を無機イオン水溶液に滴下等で接触させる方法では、バラツキが小さく十分な機械的強度を得るために、余裕を持った高濃度の無機イオンを使用し時間的管理もできないので、硬さ調整をプロセスで行うことは困難である。
また、ポリウロン酸をイオン架橋した担体の表面にカチオン性ポリマを被覆することは、細胞を静電気的に吸着するため、細胞の増殖性を向上するために有効であるが、無機カチオンでイオン架橋されたポリウロン酸はアニオン残基が少ないので、カチオン性ポリマの被覆量が少なくなり、細胞の吸着性能も劣ると考えられる。
細胞増殖性に優れた硬さを持ち、かつ、担体製造工程や培養工程で損傷したり崩壊したりしない強度を両立し、さらに、細胞増殖性に優れた表面を持つ担体とその製造方法が望まれている。
【0006】
本開示の一目的としては、適度な硬さに調整可能であり、細胞増殖性に優れる細胞培養用担体及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
[1](1)アニオン基を持つ生分解性ポリマを含む基質と、(2)前記基質の少なくとも一部に設けられ、カチオン基を持つ生分解性ポリマを含む被覆部と、を含み、前記基質が、前記カチオン基を持つ生分解性ポリマとイオン架橋された架橋部を有する、細胞培養用担体。
[2]アニオン基を持つ生分解性ポリマがポリウロン酸である[1]に記載の細胞培養用担体。
[3]アニオン基を持つ生分解性ポリマがアルギン酸である[2]に記載の細胞培養用担体。
[4]カチオン基を持つ生分解性ポリマがキトサン又はキトサンに細胞接着性基を結合したものである[1]から[3]のいずれかに記載の細胞培養用担体。
[5]細胞接着性基がRGD構造を含むペプチドである[4]に記載の細胞培養用担体。
[6]前記被覆部が、イオン架橋可能なカチオン基を有する[1]から[5]のいずれかに記載の細胞培養用担体。
[7]前記被覆部の少なくとも一部が、無機イオンによりイオン架橋されている[1]から[5]のいずれかに記載の細胞培養用担体。
【0008】
[8][1]から[7]のいずれかに記載の細胞培養用担体の製造方法であって、アニオン基を持つポリマ水溶液を、カチオン基を持つポリマ水溶液に滴下して造粒することを含む、細胞培養用担体の製造方法。
[9]アニオン基を持つポリマの液滴表面を、カチオン基を持つポリマで被覆すること、次いで、アニオン基を持つポリマを2価以上の金属カチオンで架橋することを含む、[8]に記載の細胞培養用担体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一実施形態によれば、適度な硬さに調整可能であり、細胞増殖性に優れた細胞培養用担体及びその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示にかかる一実施形態について説明するが、以下の例示によって本開示は限定されない。
【0011】
一実施形態による細胞培養用担体としては、(1)アニオン基を持つ生分解性ポリマによる基質と、(2)前記基質の少なくとも一部に設けられ、カチオン基を持つ生分解性ポリマを含む被覆部と、を含み、前記基質が、前記カチオン基を持つ生分解性ポリマとイオン架橋された架橋部を有する、ことを特徴とする。
一実施形態によれば、無機カチオンでイオン架橋していないアニオン基を持つ生分解性ポリマの基質の表面を、細胞接着性を示すカチオン基を持つ生分解性ポリマで被覆された粒子状担体が得られる。この担体は任意の金属カチオンを含む水溶液に浸漬するだけで、任意の硬さに調整することができる。
【0012】
基質のアニオン基を持つ生分解性ポリマとして適したものにポリウロン酸がある。ポリウロン酸とはウロン酸を含む多糖を指し、アルギン酸、ガラクツロン酸、グルクロン酸、フルクツロン酸等が含まれる。これらの中でもガラクツロン酸とアルギン酸が細胞培養用担体として使用されている。なお、本明細書では、アニオン基を持つ生分解性ポリマとして、適宜、ポリウロン酸又はガラクツロン酸を例に説明するが、アニオン基を持つ生分解性ポリマをこれらの例示のみに限定する意図ではない。
【0013】
ガラクツロン酸はゲル化しにくく、ゲル化しやすいCa2+のような多価カチオンを使用しても、多価カチオン水溶液中に滴下してゲル粒子を得る一般的な方法では球状になりにくく異形化しやすい。一方、同じくポリウロン酸の一つであるアルギン酸はゲル化しやすくCa2+では硬く高強度のゲル粒子を容易に作ることができるが、細胞の増殖性は劣るため、Fe3+のような多価のイオンで、より柔らかく調整することが好ましい。また、ポリウロン酸の粒子は表面にアニオン基を持つが、電荷的に細胞表面のアニオンと反発するため細胞接着性のペプチドを表面に付与することが好ましい。従来のポリウロン酸化合物をイオン架橋した粒子の表面に細胞接着性のペプチドを修飾するには、柔らかい粒子では破損や分解もしやすかった。また、細胞培養時の攪拌操作などでの機械的応力によっても破損や分解を起こしやすい。
簡便かつ効果的に細胞接着性を向上する方法として、ポリウロン酸の表面にカチオン基を持つポリマ(以下、「カチオン性ポリマ」とも表記する。)をイオン架橋する方法があるが、従来の既に無機カチオンでイオン架橋されたポリウロン酸では表面のアニオン基は少なくなっているので、カチオン基を持つポリマがイオン架橋して吸着する量も少なくなる。
【0014】
本実施形態では、未架橋のポリウロン酸の水溶液の液滴を、カチオン基を持つポリマ溶液と接触させることで、ポリウロン酸の水溶液の液滴の表面にあるアニオン基とカチオン基を持つポリマとが多数箇所でイオン架橋し、カチオン基を持つポリマで被覆された粒子が得られる。この結果、柔らかくても球状の粒子形状を保持し、高い細胞接着性も付与された細胞培養用担体を得ることができる。
【0015】
また、細胞培養用担体の内部のポリウロン酸はイオン架橋されていないので、所望のカチオンを溶解した水溶液に浸漬するだけで、そのカチオンでイオン架橋され、所望の硬さの細胞培養用担体を得ることができる。
基質に形成されるカチオン性ポリマは、基質の液滴表面に基質と架橋したポリマ被覆膜を形成し粒子状の担体形状を保つことができる。また担体の表面をカチオン性にし、細胞を静電気的に吸着する作用をより高めることができる。
【0016】
好ましい一例では、カチオン性ポリマに細胞接着性ポリペプチドが連結される。この構成では、カチオン性ポリマがアルギン酸の基質に配向し、細胞接着性ポリペプチドが細胞側に配向することで、細胞接着性ポリペプチドによる細胞の接着性をより高めることができる。こうして作製した担体を所望の濃度のカチオン溶液に所望の時間浸漬することで、所望の硬さの担体を容易に作ることができる。例えば、アルギン酸を基材としてキトサンで表面を架橋した担体は、Ca2+の溶液に浸漬することで基材のアルギン酸がCa2+でイオン架橋した比較的に硬い担体とすることができる。またFe3+のような3価以上の金属イオンの溶液に浸漬することで、比較的に柔らかい担体とすることもできる。Ca2+で架橋した担体よりもFe3+で架橋した担体の方が細胞増殖性に優れているのは、基材の柔らかさにあると推測される。また、例えばガラクツロン酸を含むペクチンを基材とした場合には、Ca2+で架橋した担体でも比較的に柔らかいが、表面をカチオン性ポリマで架橋被覆されているので機械的応力に対する強度は向上し、細胞培養にもより使用されやすくなる。
【0017】
また、本方法ではイオン架橋していない基材を用いているので、金属カチオンの種類の他、濃度や浸漬時間でイオン架橋の度合いを変化させることができ、所望の硬さの担体を得ることができる。
【0018】
基質として好ましいアルギン酸は多糖類であり、水酸基が多く高い含水率を示すことから、酸素透過性に優れる材料である。そのため、細胞への酸素供給量をより多くすることができる。
また、アルギン酸を分解して除去するためには、キレート剤、アルギン酸リアーゼ、又はこれらの組み合わせを用いることができる。これらは、トリプシンに代表されるプロテアーゼよりも細胞に対して無害である。これより、アルギン酸を基質に含む細胞培養用担体は、細胞培養後に担体を除去する過程でプロテアーゼを用いなくてよいため、細胞表面のタンパク質が分解される作用を抑制することができる。
【0019】
細胞培養用担体は、細胞を担持した後に、細胞培養用担体を除去して、細胞のみを分離して回収するために用いることができる。細胞培養用担体を除去するためには、細胞培養用担体を溶解する方法がある。培養系において、細胞培養用担体が溶解すると、粘度が上昇し、細胞が回収しにくくなる傾向がある。
【0020】
基質がアルギン酸を含むことで、細胞培養用担体において、基質の溶解性を高めることができ、より短時間で基質を溶解することができる。また、基質がアルギン酸を含むことで、基質を溶解させる際に、細胞系の粘度上昇を抑制することができる。また、アルギン酸の溶解は、キレート剤、アルギン酸リアーゼ等によって促進させることができ、特にキレート剤を用いることで高価なアルギン酸リアーゼ等の酵素の使用を低減又は不要にすることができる。アルギン酸に対し、ペクチンでは、ペクチンの溶解によって培養系の粘度が上昇する傾向がある。
【0021】
アルギン酸は、多糖類であって、β-D-マンヌロン酸とα-L-グルロン酸とから形成されるポリウロン酸である。アルギン酸は、マンヌロン酸からなるブロック、グルロン酸からなるブロック、及びマンヌロン酸とグルロン酸とを含むブロック単位が不均質に存在する直鎖状の高分子である。
【0022】
アルギン酸又はその塩としては、例えば、アルギン酸、アルギン酸カルシウム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム等が挙げられる。これらの中でも、水溶性を示すことから、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム、又はこれらの組み合わせが好ましく、アルギン酸ナトリウムがより好ましい。
アルギン酸又はその塩の重量平均分子量(Mw)は、1,000~5,000,000が好ましく、10,000~1,000,000がより好ましく、15,000~200,000がさらに好ましい。アルギン酸又はその塩の重量平均分子量が小さいほど、水溶液の粘度を低くすることができる。低粘度の水溶液は、取り扱い性が良く、小粒子径の液滴を作製しやすい利点がある。特に、この重量平均分子量が200,000以下であることで、水溶液がより低粘度となり、より低圧で送液を行うことができ、取り扱い性を改善することができる。この重量平均分子量が1,000以上であることで、ゲル化物の形状安定性をより高めることができる。
ここで、重量平均分子量は、標準ポリスチレンで校正したゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
【0023】
アルギン酸又はその塩の1質量%水溶液の25℃の粘度は、1~900mPa・sが好ましく、1~200mPa・sがより好ましいい。この粘度が1mPa・s以上であることで、ゲル化をより促進し、ゲル化物の形状安定性をより高めることができる。また、この粘度がより高いことで、ゲル化物の柔軟性をより高めることができる。この粘度が900mPa・s以下であることで、ゲル化の反応系が高粘度になることを防止し、操作性をより改善することができる。
【0024】
未架橋のアルギン酸又はその塩の市販品例として、株式会社キミカ製の「キミカアルギンシリーズ」、「アルギテックスシリーズ」、富士化学工業株式会社製の「スノーアルギンシリーズ」、「ニューテックスシリーズ」等を用いることができる(いずれも商品名)。
【0025】
カチオン性ポリマは、基質に形成されるものであり、基質全体に形成されてもよく、基質の部分的に形成されてもよい。
基質が粒子状である場合は、カチオン性ポリマは、基質粒子の外周面を全体的に被覆してもよく、部分的に被覆してもよい。基質が層状である場合は、カチオン性ポリマは、基質表面を全体的に被覆してもよく、部分的に被覆してもよい。
【0026】
カチオン性ポリマは、正の電荷を有するため、負の電荷を有するアルギン酸を含む基質に対して、静電気力で吸着することができる。
細胞培養用担体は、回収される細胞に残渣が混入する可能性があることを考慮すると、カチオン性ポリマは、生体に対して毒性を示さないことが好ましい。また、細胞培養用担体に細胞を担持させた状態で、生体に投与する用途では、より生体に対して毒性を示さないことが好ましい。
【0027】
細胞培養用担体において、細胞を担持させ、その後に基質を溶解させ、細胞を回収する際に、カチオン性ポリマは基質とともに溶解しないことで、細胞とともに回収される場合がある。この場合に、回収された細胞とともにカチオン性ポリマが生体に投与されることを考慮すると、生体内でカチオン性ポリマが分解されることが好ましい。例えば、カチオン性ポリマは、生分解性を示すことが好ましい。
【0028】
カチオン性ポリマとしては、カチオン性基を有するモノマーの重合体、カチオン性分散剤等を用いてカチオン性に表面処理されたポリマ、カチオン性基が導入されたポリマ等であってよい。好ましくは、アミノ基を有するポリマであり、より好ましくは、アミノ基を有する単糖類の重合体、アミノ基を有するアミノ酸の重合体、又はこれらの組み合わせである。
【0029】
カチオン性ポリマとしては、例えば、キトサン、ポリエチレンイミン、ポリリジン、ポリ(2-ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート等の4級アンモニウム塩基を有する(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド等のポリマ、カチオン残基を持つポリペプチド、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、ポリアミジン、カチオン化セルロース、カチオン化デンプン等が挙げられる。
これらは、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中で、生分解性を示すカチオン性ポリマが好ましく、より好ましくはキトサンである。
【0030】
細胞培養用担体の一例では、カチオン性ポリマに細胞接着性ポリペプチドが連結されることが好ましい。
この構成では、カチオン性ポリマがアルギン酸の基質に配向し、細胞接着性ポリペプチドが細胞側に配合することで、細胞接着性ポリペプチドによる細胞の接着性をより高めることができる。
【0031】
例えば、カチオン性ポリマと細胞接着性ポリペプチドとが連結された状態で、細胞接着性ポリペプチドが連結したカチオン性ポリマがアルギン酸を含む基質に吸着されて形成されたものであることが好ましい。
このような細胞培養用担体では、細胞接着性ポリペプチドが、担体の外周側に配向することから、細胞の担持量をより多くすることができる。
【0032】
細胞接着性ポリペプチドとしては、例えば、ポリペプチド及びタンパクのいずれであってもよく、天然品及び合成品のいずれであってもよい。天然ポリペプチドは、微生物培養によって得られたものであってもよい。
天然ポリペプチド、化学合成ポリペプチド、タンパクは、担持対象の細胞の種類に応じて、適切なアミノ酸配列を備えるものを用いることができる。化学合成ポリペプチドは、より適切なアミノ酸配列を安価に得ることができる。
【0033】
化学合成ポリペプチドとしては、カチオン性を示すことが好ましい。カチオン性化学合成ポリペプチドは、カチオン性を示すことから、細胞と接着しやすく、細胞接着量をより多くすることができる。
カチオン性化学合成ポリペプチドとしては、C末端でカチオン性ポリマに結合し、N末端としてアミノ基を有することが好ましい。これによって、カチオン性化学合成ポリペプチドのN末端によって、細胞を接着することができる。
カチオン性化学合成ポリペプチドは、カチオン性ポリマと反発するため、カチオン性化学合成ポリペプチドは、細胞培養用担体の外周側に配向するようになる。そして、細胞培養用担体の外周側において、カチオン性化学合成ポリペプチドによって細胞が接着されやすくなる。
【0034】
また、カチオン性化学合成ポリペプチドとしては、カチオン性アミノ酸を有することが好ましい。このカチオン性アミノ酸は、カチオン性化学合成ポリペプチドのN末端として導入されることが好ましい。
また、カチオン性化学合成ポリペプチドとしては、プロリンを含むことが好ましい。プロリンは、カチオン性化学合成ポリペプチドに、1個又は2個以上含まれてもよく、2個以上含まれることが好ましい。
【0035】
具体的な細胞接着性ポリペプチドとしては、ビトロネクチン(VN)ポリペプチド、フィブロネクチンポリペプチド、ラミニンポリペプチド等があり、これらのポリペプチドのRGDモチーフを含むアミノ酸配列を有するポリペプチド、これらのポリペプチドに含まれるメチオニンをノルロイシンに置換したポリペプチド等が挙げられる。
これらは、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
なかでも、ビトロネクチン(VN)ポリペプチドのRGDモチーフを含むアミノ酸配列を有する化学合成ビトロネクチン(VN)ポリペプチドを好ましく用いることができる。
化学合成ビトロネクチンは、カチオン性ポリマとの連結末端と反対側の末端をN末端としてカチオン性とすることで、カチオン性ポリマから離れた位置で、細胞接着性をより向上させることができる。
化学合成ビトロネクチンは、カチオン性アミノ酸を有することで、カチオン性ポリマから離れた位置で、細胞接着性をより向上させることができる。さらに、化学合成ビトロネクチンは、アニオン性アミノ酸を備えないことで、カチオン性ポリマから離れた位置で、細胞接着性をより向上させることができる。
【0037】
化学合成ビトロネクチンは、プロリンを含むことで、線状構造となって細胞接着性をより向上させることができる。線状構造は、螺旋構造、βシート構造等に比べて、表面積を大きくすることができ、細胞との接着面積をより大きくすることができる。
化学合成ビトロネクチンは、メチオニンを含まないことが好ましい。ポリペプチドにメチオニンが含まれる場合、メチオニンは酸化を受けやすいため、化学的安定性が低下することがある。化学合成によって、メチオニンをノルロイシンに置換することが好ましい。
【0038】
一実施形態による細胞培養用担体は、未架橋のアルギン酸塩からなる基質の水溶液の表面を基質とイオン架橋したキトサンからなる。この状態で細胞培養担体として使用するよりも、アルギン酸塩を2価以上の金属イオンによって架橋され適度な硬さと強度を持つようにすることが望ましい。細胞増殖性が良好になるため、さらに望ましくは3価以上の金属塩が好ましい。3価以上の金属イオンとしては、例えば、Alイオン(Al3+)、Fe(III)イオン(Fe3+)、スズイオン(Sn4+)、チタンイオン(Ti4+)、バナジウムイオン(V3+)、ジルコニウムイオン(Zr4+)等が挙げられる。好ましくは、Alイオン(Al3+)、Fe(III)イオン(Fe3+)であり、より好ましくは、Fe(III)イオン(Fe3+)である。
【0039】
一実施形態による細胞培養用担体は、細胞培養に用いた後に、培養系から除去することができる。細胞培養用担体の除去には、キレート剤、アルギン酸リアーゼ等を用いることができる。これらを用いることで、細胞培養用担体のアルギン酸基質を溶解除去することができる。
カチオン性ポリマにキトサンを用いる場合は、細胞培養後に、培養系から細胞培養用担体のカチオン性ポリマを除去するために、キトサナーゼを用いることができる。この場合、キトサナーゼと、キレート剤、アルギン酸リアーゼ等とを組み合わせて用いて、細胞培養用担体のアルギン酸基質とカチオン性ポリマとをともに除去するようにしてもよい。
【0040】
細胞培養用担体はマイクロキャリアに好ましく用いることができる。
マイクロキャリアは、三次元培養方法において培地中に細胞を懸濁させて培養する際に、培地中で細胞を接着して担持する足場として用いることができる。培地にマイクロキャリアを添加することで、細胞培養を促進することができる。
マイクロキャリアの形状としては、球状、多角体状、円錐状、多角錐状、破砕状、針状等のいずれであってもよいが、細胞の吸着表面が広く、細胞の損傷を抑制する観点から、球状粒子が好ましい。
【0041】
マイクロキャリアの平均粒子径は、10~500μmが好ましく、50~300μmがより好ましく、100~200μmがさらに好ましい。マイクロキャリアの平均粒子径がこの下限値以上であることで、培養系に投入される担体濃度を基準として担体の表面積を大きくすることができ、細胞の増殖量をより多くすることができる。
マイクロキャリアの平均粒子径がこの上限値以下であることで、マイクロキャリア同士が接触する際に過大なせん断力の発生を抑制し、細胞へのダメージを低減することができる。
【0042】
マイクロキャリアの粒子径分布の変動係数C.V.は、50%以下が好ましく、20%以下がより好ましい。マイクロキャリアの粒子径が均一であるほど、培養する細胞の環境を均一にでき、体積当たりの担体の表面積を正確に見積もることができる。これを利用して、播種する細胞量を増殖しやすいように調節し、細胞濃度をより一定にして管理することができる。
【0043】
ここで、平均粒子径及び粒子径の変動係数C.V.は、下記手順によって測定されるものである。
界面活性剤を含む水に粒子を超音波分散装置を用いて分散後、粒度分布計(シスメックス株式会社製「FPIA-3000S automated image analysis system」)を用いて1万個の粒子画像から平均粒子径と変動係数C.V.を測定することができる。平均粒子径は、個数基準の平均粒子径である。
【0044】
(マイクロキャリアの製造方法)
一実施形態によるマイクロキャリアは、その製造方法に限定されずに、上記した特性を備えるものであればよい。以下、一実施形態によるマイクロキャリアの製造方法について、一例を用いて説明するが、一実施形態によるマイクロキャリアは、以下の製造方法によって製造されたものに限定されない。
【0045】
マイクロキャリアの製造方法の一例としては、アルギン酸又はその塩を含む基質を作製すること、及び基質にカチオン性ポリマを形成することを含むことができる。
さらに、カチオン性ポリマに細胞接着性ポリペプチドを連結することを含むことができる。アルギン酸又はその塩を含む組成物は、上記したアルギン酸、アルギン酸塩、又はこれらの組み合わせを含む水溶液又は水分散体であることが好ましい。より好ましくは、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム等の水溶液が挙げられる。
【0046】
次に、基質にカチオン性ポリマを形成する方法について説明する。
一方法では、アルギン酸を含む基質を含む組成物を用意すること、カチオン性ポリマを含む組成物を用意すること、及び基質を含む組成物と、カチオン性ポリマを含む組成物とを混合することを含むことができる。これによって、組成物中で、基質の架橋されたアルギン酸に、カチオン性ポリマがイオン架橋し、基質にカチオン性ポリマが吸着して形成されるようになる。
基質を含む組成物と、カチオン性ポリマを含む組成物とは、それぞれ水媒体等を含む水性組成物であることが好ましい。
得られたカチオン性ポリマを形成した基質を、水等の水性媒体で洗浄し、不純物等を除去することが好ましい。また、得られたカチオン性ポリマを形成した基質は、水等の水性媒体中で水分散体として保管することが好ましい。
【0047】
細胞接着性ポリペプチドを結合させたカチオン性ポリマを作製する方法について、以下に説明する。
一方法では、細胞接着性ポリペプチドと、カチオン性ポリマとを反応させることを含むことができる。この反応において、縮合剤を用いることが好ましい。縮合剤としては、例えば、DMT-MM(4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド)等のトリアジン系縮合剤、NHS(N-ヒドロキシスクシンイミド)等のスクシンイミド系縮合剤、EDC(1‐[3‐(ジメチルアミノ)プロピル]-3‐エチルカルボジイミド)等のカルボジイミド系縮合剤等が挙げられる。
これによって、細胞接着性ポリペプチドのC末端をカチオン性ポリマのアミノ基に結合させることができる。
【0048】
マイクロキャリアを所望の硬さや強度に調整する方法について以下に説明する。
一方法では、基質にカチオン性ポリマを形成した担体に、2価以上の金属カチオンを含む水溶液中に浸漬して混合することで、基質の塩の1価の金属カチオンが2価以上の金属カチオンと置き換わり、基質がイオン架橋され硬さが増し、強度が大きくなる。基質として好ましいアルギン酸ナトリウムを用いた時に、3価以上の金属カチオンで架橋して細胞増殖性の高い担体とすることが好ましい。3価以上の金属カチオンは、FeCl3、Al(NO3)3等の水溶液が挙げられる。
【0049】
基質は、3価以上の金属イオンによって架橋されたアルギン酸を、基質全量に対して何%含むかで硬さを調整することができる。細胞培養の担体としては、好ましくは50%以上である。この架橋の度合いは処理する金属イオン濃度と処理時間でも変化する。短い処理時間の管理は難しいので、濃度と処理量で制御するのが好ましく、濃度として3価以上の金属イオンを含む組成物は、0.1~5Mで3価以上の金属イオンを含むことが好ましく、より好ましくは、0.5~1Mである。
基質には、その他の成分が含まれてもよい。また、培地中の金属カチオン量に影響しないように、培地中の金属カチオンを利用して架橋し、適宜培地中の金属カチオン量を調整してもよい。
【0050】
得られた架橋されたアルギン酸を基質とした担体は、水等の水性媒体で洗浄し、不純物等を除去することが好ましい。また、得られた架橋されたアルギン酸は、水等の水性媒体中で水分散体として保管することが好ましい。
【0051】
以下、一実施形態による細胞培養方法について説明する。
一実施形態による細胞培養方法は、マイクロキャリアを用意すること、マイクロキャリアを培養系に配置すること、及びマイクロキャリアの存在下で、細胞を培養することを含むことができる。
【0052】
細胞の培養を行う工程では、マイクロキャリアの存在下で、対象となる細胞の培養を行う。
培養対象となり得る細胞として、例えば、初代培養細胞、培養細胞株、組換培養細胞株等を用いることができる。細胞の由来については、特に限定されず、例えば、ヒト、チンパンジー、サル、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウス、ハムスター等の哺乳類;ニワトリ等の鳥類等が挙げられる。また、種の異なる2つ以上の細胞をハイブリッドさせた細胞を用いてもよい。
細胞が由来する器官、組織としては、特に限定されず、例えば、血球・リンパ系、血管系、脳・神経系、骨髄、筋組織、胸腺、唾液腺、口腔、食道、胃、肝臓、胆嚢、脾臓、小腸、大腸、直腸、皮膚、角膜、肺、甲状腺、哺乳器、子宮、子宮頸部、卵巣、精巣、膵臓、腎臓、副腎皮質、膀胱、胎盤、臍帯、胎仔、胎子、尾、間葉系幹細胞、癌細胞等が挙げられる。
【0053】
また、培養可能な細胞として幹細胞を好ましく用いることができる。例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性腫瘍細胞(EC細胞)、胚性生殖幹細胞(EG細胞)、核移植ES細胞、体細胞由来ES細胞等の分化多能性を有する幹細胞;造血幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞、脂肪組織由来間葉系幹細胞、臍帯由来間葉系幹細胞、その他間質由来幹細胞、Muse細胞、神経幹細胞等の組織幹細胞;肝臓、膵臓、脂肪組織、骨組織、軟骨組織、神経組織等の各種組織における前駆細胞、線維芽細胞等の各種の幹細胞が挙げられる。
【0054】
細胞の培養としては、対象となる細胞の培養に通常用いられる条件を、細胞の種類に応じてそのまま用いることができる。
細胞培養に用いる培地としては、細胞が生存し、増殖可能であるものであれば特に限定されず、培養する細胞の種類に応じて適宜選択することができる。
培地としては、血清培地又は無血清培地のいずれであってもよいが、一実施形態による細胞培養用担体は無血清培地での培養に好ましく用いることができる。
培地としては、例えば、イーグル培地、ダルベッコ変法イーグル培地(低グルコース又は高グルコース)、イーグルMEM培地、αMEM培地、IMDM培地、ハムF10培地、ハムF12培地、RPMI1640培地等、又はこれらのブレンド培地が挙げられる。
培地に血清を添加する場合は、例えば、ウシ胎仔血清(FBS)、ウマ血清、ヒト血清等の血清等を用いることができる。血清を添加する場合は、血清の濃度は30質量%以下が好ましい。
【0055】
培地には、必要に応じて、添加剤を添加してもよい。添加剤としては、例えば、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD等のビタミン;葉酸等の補酵素;グリシン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、グルタミン、イソロイシン、ロイシン等アミノ酸;乳酸等の炭素源としての糖又は有機酸;EGF、FGF、PFGF、TGF-β等の成長因子;IL-1、IL-6等のインターロイキン;TNF-α、TNF-β、レプチン等のサイトカイン;トランスフェリン等の金属トランスポーター;鉄イオン、セレンイオン、亜鉛イオン等の金属イオン;β-メルカプトエタノール、グルタチオン等のSH試薬;アルブミン等のタンパク質などが挙げられる。
【0056】
細胞培養方法は、特に限定されず、それぞれの細胞に適した方法を用いればよい。通常、細胞の培養は、30~40℃の範囲内、好ましくは36~37℃の温度で、pHは6.2~7.7の範囲内好ましくは7.4で、CO2濃度は4~10体積%、好ましくは5~7体積%の環境下で行うことができる。細胞の継代の時期及び方法も、特に限定されず、それぞれの細胞に適した方法を用いればよい。
【0057】
マイクロキャリアの使用量は、細胞の種類、マイクロキャリアの種類によって異なるが、例えば、1×103~2×105cells/mLであり、好ましくは5×103~1×105cells/mLの細胞に対して、例えば、0.1~50g/Lであり、好ましくは0.5~10g/Lのマイクロキャリアを組み合わせて行うことができる。
【0058】
また、一実施形態によれば、上記した一実施形態によるマイクロキャリア、及び培地を含む細胞培養キットを提供することができる。このキットにおいては、一実施形態によるマイクロキャリア、培地がそれぞれ別の容器に保存されてもよい。また、このキットには、培養する細胞が含まれてもよい。また、このキットには、培養に使用する器具等が備えられてもよい。一実施形態によるマイクロキャリアについては、上記した通りである。
また、一実施形態によれば、マイクロキャリアのための、カチオン性ポリマで被覆された未架橋のアルギン酸を含む基質とアルギン酸を架橋するための金属イオン溶液の使用を提供することができる。
【実施例0059】
以下、本開示を実施例により具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されない。
【0060】
<粒子径測定>
界面活性剤を含む水に粒子を超音波分散装置を用いて分散後、粒度分布計(シスメックス株式会社製「FPIA-3000S automated image analysis system」)を用いて1万個の粒子画像で平均粒子径と変動係数C.V.を測定した。ここで、平均粒子径は、個数基準の平均粒子径である。
【0061】
[実施例1]
<細胞接着性ポリペプチドの合成>
合成用担体粒子を用いたFmoc固相合成法でビトロネクチン(VN)のRGDモチーフを中心に12アミノ酸残基PQVTRGDVFTMPの配列のペプチドを合成し、細胞接着性ポリペプチドとした。
【0062】
<細胞接着性ポリペプチド結合カチオン性ポリマの合成>
細胞接着性ポリペプチドのC末端をキトサンのアミノ基と縮合剤を用いて結合し、細胞接着性ポリペプチド結合カチオン性ポリマを合成した。縮合剤には、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMT-MM)を用いた。
【0063】
<アルギン酸液滴に細胞接着性ポリペプチド結合カチオン性ポリマを被覆>
内径80μmの管からアルギン酸Naの1質量%水溶液を、細胞接着性ポリペプチド結合カチオン性ポリマの1質量%乳酸水溶液(乳酸濃度1質量%)に振動滴下して粒子を造粒した。
【0064】
<アルギン酸のイオン架橋>
細胞接着性ポリペプチド結合カチオン性ポリマで被覆されたアルギン酸粒子を、純水湿潤状態で、粒子質量が10%の分散液を調整した。これにFeCl3水溶液を添加し、FeCl3濃度を0.3Mに調整して、5分間浸漬後、ろ過と純水洗浄を行い、培養液中に分散してマイクロキャリア分散培養液を得た。マイクロキャリアの平均粒子径は200μm、変動係数C.V.は20%であった。
【0065】
[実施例2]
実施例1の細胞接着性ポリペプチド結合キトサンで被覆されたアルギン酸粒子を純水湿潤状態で、粒子質量が10%の分散液を調整した。これにCaCl2水溶液を添加し、CaCl2濃度を0.2Mに調整して、5分間浸漬後、ろ過と純水洗浄を行い、培養液中に分散してマイクロキャリア分散培養液を得た。マイクロキャリアの平均粒子径は190μm、変動係数C.V.は21%であった。得られた実施例2のマイクロキャリア及び上記の実施例1のマイクロキャリアを、それぞれ、2枚のスライドガラス間にマイクロキャリアを挟み、実体顕微鏡下で押圧してマイクロキャリアの硬さを比較した。実施例1に比べ実施例2のマイクロキャリアが硬いことを確認した。
【0066】
[比較例1]
内径80μmの管からアルギン酸Naの1質量%水溶液を0.5MのFeCl3水溶液に振動滴下して平均粒子径150μm、変動係数C.V.17%のFe3+でイオン架橋されたアルギン酸粒子を造粒した。Fe3+でイオン架橋されたアルギン酸粒子を純水洗浄後、細胞接着性ポリペプチド結合キトサンの1質量%乳酸水溶液(乳酸濃度1質量%)に浸漬してろ過後純水洗浄して培養液中に分散してマイクロキャリア分散培養液を得た。マイクロキャリアの平均粒子径は180μm、変動係数C.V.は19%であった。
【0067】
[比較例2]
上記比較例1のイオン架橋を0.5MのCaCl2水溶液に変えてマイクロキャリア分散培養液を得た。マイクロキャリアの平均粒子径は170μm、変動係数C.V.は19%であった。得られた比較例2のマイクロキャリア及び上記の比較例1のマイクロキャリアを、それぞれ、2枚のスライドガラス間にマイクロキャリアを挟み、実体顕微鏡下で押圧してマイクロキャリアの硬さを比較した。比較例1に比べ比較例2のマイクロキャリアが硬いことを確認した。
【0068】
<評価>
各マイクロキャリア分散培養液を用いて、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
各マクロキャリア分散液について、マイクロキャリアの平均粒子径及び変動係数C.V.を求めた。ポリマの被覆前後で数値に差はなかった。
【0069】
125mLのスピナーフラスコに60mLのマイクロキャリア分散培養液を添加し、7000cells/mLの間葉系幹細胞を添加した。37℃で、スピナーフラスコ中で攪拌しながら間葉系幹細胞を5日間培養し、マイクロキャリアを溶解除去して細胞を回収した。なお、マイクロキャリアの溶解には1質量%EDTA(エチレンジアミン四酢酸)溶液、キトサナーゼ及びアルギン酸リアーゼを必要量で添加した。
【0070】
回収した細胞数を顕微鏡観察で細胞係数板によってカウントし、以下の基準で、細胞増殖性を評価した。
〇:細胞数が50000cells/mL以上。
△:細胞数が30000cells/mL超過50000cells/mL未満。
×:細胞数が30000cells/mL以下。
【0071】
【0072】
表1に示す通り、実施例1と2はそれぞれの比較例1と2に比べ、細胞増殖性が向上した。無架橋のアルギン酸を、細胞接着性ペプチドを結合したキトサンで被覆して得られたマイクロキャリアを、更に、多価の金属カチオンで表面を架橋することで、容易に硬さを調整することができ、かつ、より細胞増殖性に優れた効果が得られる。