(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022012611
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】ベーカリー用可塑性油脂組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20220107BHJP
A23D 7/00 20060101ALI20220107BHJP
A21D 2/14 20060101ALI20220107BHJP
A21D 2/16 20060101ALI20220107BHJP
A21D 13/40 20170101ALI20220107BHJP
A21D 13/00 20170101ALI20220107BHJP
【FI】
A23D9/00 502
A23D7/00 506
A21D2/14
A21D2/16
A21D13/40
A21D13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020114561
(22)【出願日】2020-07-02
(71)【出願人】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】岸野 智
(72)【発明者】
【氏名】杉山 礼央
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B026DG02
4B026DG04
4B026DG08
4B026DG10
4B026DG15
4B026DH02
4B026DH03
4B026DK10
4B026DP04
4B026DX02
4B026DX05
4B032DB01
4B032DG02
4B032DK09
4B032DK18
4B032DP13
4B032DP26
4B032DP33
4B032DP40
(57)【要約】 (修正有)
【課題】幅広い温度域で可塑性が良好で温度安定性に優れ、飽和脂肪酸の含有量が低減されており、かつ、良好な食感をベーカリー製品に付与できるベーカリー用可塑性油脂組成物を提供する。
【解決手段】20℃で液体である油脂を70質量%以上に対して、(A)特定の乳化剤を5~30質量%、または(B)特定の乳化剤を3~12質量%と極度硬化油を2~10質量%含み、かつ特定の乳化剤と極度硬化油との合計が6質量%以上、とを配合し、これにベーカリー用品質改良材を添加混合し、急冷捏和して製造された液状油を主原料としたベーカリー用可塑性油脂組成物。
【効果】ベーカリー製品の食感にしっとり感、ソフト感を付与し、しかも作業性を向上することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
20℃で液体である油脂を70質量%以上と、(A)ポリグリセリン脂肪酸エステルを5~30質量%、または(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルを3~12質量%および極度硬化油を2~10質量%含有し、かつポリグリセリン脂肪酸エステルと極度硬化油との合計が6質量%以上、
とを含有する可塑性油脂組成物に、ベーカリー用品質改良材が添加混合されているベーカリー用可塑性油脂組成物であって、
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルが、構成脂肪酸100%中、炭素数が16~18の飽和脂肪酸の含有量が90%以上であり、
前記可塑性油脂組成物が、該可塑性油脂組成物の全構成脂肪酸の質量に対して、40質量%以下の飽和脂肪酸を含有する、ベーカリー用可塑性油脂組成物。
【請求項2】
前記可塑性油脂組成物は、動的粘弾性測定における10℃と30℃の貯蔵弾性率の常用対数の数値の差が、1.0未満である、請求項1に記載のベーカリー用可塑性油脂組成物。
【請求項3】
前記ベーカリー用品質改良材が、ベーカリー用可塑性油脂組成物中に50質量%以下添加されている、請求項1または2に記載のベーカリー用可塑性油脂組成物。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のベーカリー用可塑性油脂組成物を含んでなる、ベーカリー生地。
【請求項5】
請求項4に記載のベーカリー生地が加熱調理されたベーカリー製品。
【請求項6】
20℃で液体である油脂70質量%以上に対して、
(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル5~30質量%、または(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルを3~12質量%および極度硬化油を2~10質量%含有し、かつポリグリセリン脂肪酸エステルと極度硬化油との合計が6質量%以上、を混合し、加熱して融解させた後急冷捏和し、ベーカリー用品質改良材を添加混合し、ベーカリー用可塑性油脂組成物を製造する方法であって、
ポリグリセリン脂肪酸エステルが、構成脂肪酸100%中、炭素数が16~18の飽和脂肪酸の含有量が90%以上であり、
可塑性油脂組成物の全構成脂肪酸の質量に対して40質量%以下の飽和脂肪酸を含有する可塑性油脂組成物を製造する、ベーカリー用可塑性油脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幅広い温度域で可塑性が良好で温度安定性に優れ、より良好な食感をベーカリー製品に付与することができ、かつ飽和脂肪酸の含有量が低減された液状油からなる可塑性油脂組成物のベーカリー用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ショートニングやマーガリンの可塑性油脂組成物は、製菓や製パン用油脂として用いられ、可塑性を有することで生地への分散性が良好となり、物性に優れた菓子やパンを製造することができる。可塑性油脂組成物は自由に形を変えることができるために、パン生地中ではグルテン膜にそって薄い膜状に広がり、発酵中に生地が膨らみやすくなり、焼成後のパンの歯切れがよくなる。
【0003】
可塑性油脂組成物には、好ましい硬さや加工適性が良いことが求められ、原料油脂の一部として天然の動植物油脂を水素添加処理した部分水素添加油脂や、牛脂、ラード、パーム油等の高融点、中融点油脂が使用されている。部分水素添加油脂には、水素添加処理の際に高度不飽和脂肪酸が異性化されて生成したトランス脂肪酸が含まれるため、血中のLDL量を上昇させることにより心血管疾患のリスクを高めるといわれている。そのため、トランス脂肪酸を含まない可塑性油脂組成物が求められている。
【0004】
中融点(融点30~40℃)油脂であるパーム油は、これを配合した可塑性油脂組成物に保形性を与えるが、多く配合すると保存中に次第に硬く変化したり、粗大結晶ができたり、高温で溶けやすく十分な可塑性を得ることができないことが知られている。そのため、パーム油を含む混合油をエステル交換によって改質したエステル交換油を可塑性油脂組成物に使用すること(特許文献1)や、パーム油を用いた可塑性油脂用の改質剤として、特定の飽和脂肪酸からなるトリグリセリドを用いること(特許文献2)により改良がなされている。
【0005】
しかし、パーム油には、45質量%以上の飽和脂肪酸が含まれているだけでなく、3-モノクロロプロパン-1,2-ジオール(3-MCPD)脂肪酸エステルおよびグリシドール脂肪酸エステルも含まれている。飽和脂肪酸、3-MCPD脂肪酸エステルおよびグリシドール脂肪酸エステルは、トランス脂肪酸のように人における健康被害は報告されていないものの、多量に摂取すると栄養学上の問題があることが指摘されており、近年の健康志向の高まりにより、より安心して摂取できる油脂を使用することが求められている。同様にベーカリー製品においても、飽和脂肪酸量等の低減が求められている。
【0006】
可塑性油脂組成物中のトランス脂肪酸の含有量を低減させるものとして、エステル化率が60%以上であって、ポリグリセリンの平均重合度が4以上、構成脂肪酸中の飽和脂肪酸の炭素数と含有量とが特定の範囲にあるポリグリセリン脂肪酸エステルを用いた、20℃で液体である油脂を30%以上含有する可塑性油脂組成物(特許文献3)が知られており、実施例で製造した可塑性油脂組成物の硬度や伸展性が改善されたことが示されている。
【0007】
また、パーム油由来の飽和脂肪酸や3-MCPD脂肪酸エステルおよびグリシドール脂肪酸エステル、部分水素添加油脂由来のトランス脂肪酸を低減する目的で、サラダ油等の液状油を製パン材料として用いることが考えられるが、液状又は流動状の油脂は、パン類の生地に於いてグルテン膜の形成を阻害する作用を持ち、製パン性を著しく低下させることが知られている(特許文献4)。具体的には、製パンのミキシング工程において、最初に液状油を添加すると、生地のつながりが悪くなり、生地がまとまりにくくなる。また、ミキシングの後半に添加した場合には、生地の表面で液状油がすべってしまい、うまく混ざらない。また、マフィン等の油分の多い焼菓子類においては、液状油であるサラダ油を使用すると焼成後に油染みが発生してしまう等の欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010-11799号公報
【特許文献2】国際公開2010/119781号
【特許文献3】特開2013-110975公報
【特許文献4】特開平6-217693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、幅広い温度域で可塑性が良好で温度安定性に優れた物性を備えた液状油からなる可塑性油脂組成物をベーカリー製品に用いる際に、ベーカリー製品製造時の作業性を向上することができ、かつ、より良好な食感をベーカリー製品に付与することができるベーカリー用可塑性油脂組成物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を進めた結果、20℃で液体である油脂70質量%以上に対して、特定のポリグリセリン脂肪酸エステルを5~30質量%配合して、完全に融解させた後急冷捏和することにより、20℃で液体である油脂から、幅広い温度域で可塑性が良好で温度安定性が改善された可塑性油脂組成物が得られ、この可塑性油脂組成物に、液体状のものを含む種々のベーカリー用品質改良材を添加混合したベーカリー用可塑性油脂組成物が、ベーカリー製品の食感において、よりしっとり感やソフト感を付与できるだけでなく、ベーカリー製品製造時の作業性を向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
また、乳化剤の添加量を減少できるか鋭意検討した結果、20℃で液体である油脂70質量%以上に対して、特定のポリグリセリン脂肪酸エステルを3~12質量%および極度硬化油を2~10質量%含有し、かつポリグリセリン脂肪酸エステルと極度硬化油との合計が6質量%以上となるよう配合して、完全に融解させた後急冷捏和することにより、乳化剤の量が少なくても同様に、20℃で液体である油脂から幅広い温度域で可塑性が良好で、温度安定性が改善された可塑性油脂組成物が得られた。
この可塑性油脂組成物に、液体状のものを含む種々のベーカリー用品質改良材が添加混合されているベーカリー用可塑性油脂組成物も、ベーカリー製品の食感において、よりしっとり感やソフト感を付与でき、ベーカリー製品製造時の作業性が向上する。
【0011】
本発明は、以下の(1)ないし(3)のベーカリー用可塑性油脂組成物に係るものである。
(1)20℃で液体である油脂を70質量%以上と、(A)ポリグリセリン脂肪酸エステルを5~30質量%、または(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルを3~12質量%および極度硬化油を2~10質量%含有し、かつポリグリセリン脂肪酸エステルと極度硬化油との合計が6質量%以上、とを含有する可塑性油脂組成物に、ベーカリー用品質改良材が添加混合されている、ベーカリー用可塑性油脂組成物であって、
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルが、構成脂肪酸100%中、炭素数が16~18の飽和脂肪酸の含有量が90%以上であり、
前記可塑性油脂組成物が、該可塑性油脂組成物の全構成脂肪酸の質量に対して、40質量%以下の飽和脂肪酸を含有する、ベーカリー用可塑性油脂組成物。
(2)前記可塑性油脂組成物は、動的粘弾性測定における10℃と30℃の貯蔵弾性率の常用対数の数値の差が、1.0未満である、上記(1)に記載のベーカリー用可塑性油脂組成物。
(3)前記ベーカリー用品質改良材が、ベーカリー用可塑性油脂組成物中に50質量%以下添加されている、上記(1)または(2)に記載のベーカリー用可塑性油脂組成物。
【0012】
本発明は、以下の(4)のベーカリー生地、(5)のベーカリー製品、または(6)のベーカリー用可塑性油脂組成物を製造する方法に係るものである。
(4)上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のベーカリー用可塑性油脂組成物を含んでなる、ベーカリー生地。
(5)上記(4)に記載のベーカリー生地が加熱調理されたベーカリー製品。
(6)20℃で液体である油脂70質量%以上に対して、
(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル5~30質量%、または(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルを3~12質量%および極度硬化油を2~10質量%含有し、かつポリグリセリン脂肪酸エステルと極度硬化油との合計が6質量%以上、を混合し、加熱して融解させた後急冷捏和し、ベーカリー用品質改良材を添加混合し、ベーカリー用可塑性油脂組成物を製造する方法であって、
ポリグリセリン脂肪酸エステルが、構成脂肪酸100%中、炭素数が16~18の飽和脂肪酸の含有量が90%以上であり、
可塑性油脂組成物の全構成脂肪酸の質量に対して40質量%以下の飽和脂肪酸を含有する可塑性油脂組成物を製造する、ベーカリー用可塑性油脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、20℃で液体の油、即ち、低融点油脂(常温で液状の油脂)70質量%以上に対して、特定の乳化剤を5~30質量%配合するか、または、特定の乳化剤を3~12質量%と極度硬化油を2~10質量%とを配合することにより、低融点油脂から簡単な操作により可塑性油脂組成物が製造でき、この可塑性油脂組成物は、幅広い温度域で可塑性が良好で温度安定性がよいという、作業性において非常に好適な物性をそなえており、油染みも少なく、口溶けも良いものであった。また、特定の乳化剤の一部に替えて極度硬化油を添加することにより、乳化剤の添加量を減らすことができ、乳化剤由来の風味と、高価な乳化剤のコストを軽減できる。
【0014】
この可塑性油脂組成物を、そのままベーカリーに使用しても良好な食感のベーカリー製品が得られるが、この可塑性油脂組成物に、ベーカリー用品質改良材を添加混合してベーカリー用可塑性油脂組成物とすると、しっとり感、ソフト感が増してより良好な食感のベーカリー製品が得られた。
また、通常、食物繊維を増量する目的で小麦粉を大豆粉等に置きかえると、ベーカリー製品の食感が悪化することが多いが、この場合においても食感を改良することができる。
【0015】
また、ベーカリー用品質改良材が液体状や流動状(オリゴ糖、液体香料等)である場合や吸湿性の高い粉体(粉あめ等)である場合、粉体であるベーカリー用ミックスに添加するとダマの発生や固結の要因になってしまうため、ベーカリー製品製造時にミックスとは別に計量して添加する場合が多く、作業が煩雑になっていた。本発明では、あらかじめベーカリー用品質改良材が混合されているベーカリー用可塑性油脂組成物を用いることにより、ベーカリー製品製造時にベーカリー用品質改良材を別に計量する手間を省くことができ、さらに、ミキシング時に生地がまとまりやすく、生地のべたつきを抑制することができるため、作業性が向上する。
【0016】
さらに、油分の多い菓子(例えば、マフィン等)においては、サラダ油等の液状油を使用する場合に比べて、生地がまとまりやすく、生地のべたつきが抑制され作業性が向上し、かつ、油染みを抑制する効果が得られる。これは、本発明の可塑性油脂組成物が広い温度帯で可塑性を持つためであると考えられる。本発明のベーカリー用可塑性油脂組成物は、ベーカリー用可塑性油脂としての優れた物性を有するだけでなく、飽和脂肪酸の含有量も低減されている健康志向に沿ったベーカリー用可塑性油脂組成物である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明で用いる可塑性油脂組成物Aの各温度における動的粘弾性測定結果の貯蔵弾性率(Pa)の常用対数(log
10X)プロット
【
図2】本発明で用いる可塑性油脂組成物Bの各温度における動的粘弾性測定結果の貯蔵弾性率(Pa)の常用対数(log
10X)プロット
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明で用いる可塑性油脂組成物は、水相を実質的に含有しないショートニングのような製品形態と、水相を含有するマーガリンやファットスプレッド形態のいずれの形態であってもよい。水相を実質的に含有しないとは、水分(揮発分を含む)の含有量が0.5質量%以下であることを意味する。マーガリンとは、油脂組成物中に占める油脂含有率が80質量%以上のものをいい、ファットスプレッドは80質量%未満のものをいう。
本発明で用いる可塑性油脂組成物がマーガリンやファットスプレッドの場合、水相の含有量は30質量%以下であるのが好ましい。
【0019】
本発明の可塑性油脂組成物に用いる20℃で液体である油脂としては、食用の低融点油脂であれば限定されるものではない。たとえば、大豆油、高オレイン酸大豆油、ナタネ油、高オレイン酸ナタネ油、コーン油、ゴマ油、シソ油、亜麻仁油、落花生油、紅花油、高オレイン酸紅花油、綿実油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、アーモンド油、カシューナッツ油、カボチャ種子油、クルミ油、あんず油、椿油、茶実油、エゴマ油、オリーブ油、カラシ油、米油、米糠油、小麦胚芽油、ボラージ油、アボカド油、カヤ油、ヒマワリ油、高オレイン酸ヒマワリ油、魚油、藻類油およびこれらの分別油脂が挙げられる。これらの油脂は、一種類でも良いし、二種類以上を組み合わせて用いても良い。
【0020】
飽和脂肪酸の含有量が高い油脂は、パーム油、ヤシ油、バター等の融点が25℃以上の油脂に多く、20℃で液体である上記油脂はいずれも好ましく用いられる。飽和脂肪酸が35質量%以下である油脂が好ましく、30質量%以下がより好ましく、25質量%以下がさらに好ましい。
【0021】
本発明で用いる可塑性油脂組成物中には、20℃で液体である油脂を75質量%以上含有させることが好ましく、80質量%以上がより好ましく、82%以上がさらに好ましい。70質量%未満であると、可塑性油脂組成物の可塑性と口溶けが悪くなる。
可塑性油脂組成物がショートニングである場合は、20℃で液体である油脂を70~95質量%含有させることが好ましく、80~93質量%がより好ましい。
可塑性油脂組成物が水相を含有するマーガリン、ファットスプレッドである場合は、20℃で液体である油脂を70~90質量%含有させることが好ましい。
【0022】
本発明の可塑性油脂組成物に用いる極度硬化油としては、特に限定されず、たとえば、大豆極度硬化油、菜種極度硬化油、ハイエルシン菜種極度硬化油、ヒマワリ極度硬化油、パーム極度硬化油、牛脂極度硬化油、豚脂極度硬化油、米極度硬化油等が挙げられる。これらの油脂は、一種類でも良いし、二種類以上を組み合わせて用いても良い。極度硬化油は100%飽和脂肪酸の固形油脂のため、液体油に硬さを付与するのに好適であり、乳化剤のポリグリセリン脂肪酸エステルの配合量を低減することができる。
【0023】
本発明の可塑性油脂組成物に配合される乳化剤であるポリグリセリン脂肪酸エステルは、構成脂肪酸100%中、炭素数が16~18の飽和脂肪酸の含有量が90%以上である。炭素数が16~18の飽和脂肪酸としては、パルミチン酸(炭素数16)、ステアリン酸(炭素数18)が好ましい。パルミチン酸の含有量は、20~40%が好ましく、27~37%がより好ましい。ステアリン酸の含有量は、60~80%が好ましく、63~73%がより好ましい。
【0024】
本発明のポリグリセリン脂肪酸エステルのエステル化率は限定されないが、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。
また、本発明のポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンの平均重合度は限定されないが、3以上が好ましく、6以上がより好ましく、8以上がさらに好ましく、10であることが最も好ましい。ここで、平均重合度(n)は、次式(式1)および(式2)に基づき算出することができる。
分子量=74n+18・・・(1)
水酸基価=56110(n+2)/分子量・・・(2)
上記ポリグリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリンと脂肪酸とのエステル化生成物であり、自体公知のエステル化反応等により製造される。その製造方法の詳細は、上記特許文献3に記載されている。
【0025】
本発明で用いる可塑性油脂組成物100質量%中に、乳化剤であるポリグリセリン脂肪酸エステルを、5~30質量%配合する。5質量%未満であると、可塑性油脂組成物の可塑性が悪くなり、油染みがみられる。30質量%以上であると、可塑性油脂組成物の可塑性と口溶けが悪くなり、また、ポリグリセリン脂肪酸エステルの飽和脂肪酸量が高いため、可塑性油脂組成物に含まれる飽和脂肪酸の含有量が高くなる。
【0026】
本発明で用いる可塑性油脂組成物がショートニングである場合は、乳化剤であるポリグリセリン脂肪酸エステルを5~30質量%含有させることが好ましい。より好ましくは7質量%以上、さらに好ましくは8質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上である。また、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは18質量%以下である。
可塑性油脂組成物が水相を含有するマーガリン、ファットスプレッドである場合は、乳化剤であるポリグリセリン脂肪酸エステルを5~30質量%含有させることが好ましい。より好ましくは7質量%以上、さらに好ましくは8質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上である。また、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは18質量%以下である。
【0027】
あるいは、本発明の可塑性油脂組成物100質量%中に、乳化剤であるポリグリセリン脂肪酸エステルを3~12質量%と極度硬化油を2~10質量%とを配合する。極度硬化油を配合することにより、乳化剤のポリグリセリン脂肪酸エステルの配合量を減らすことができ、乳化剤由来の風味を軽減することができる。
この場合、ポリグリセリン脂肪酸エステルが3質量%未満で、かつ極度硬化油が3質量%未満であると、可塑性油脂組成物の可塑性が悪くなり、また油染みも多くみられる。そのため、ポリグリセリン脂肪酸エステルと極度硬化油との合計が6質量%以上である必要がある。また、ポリグリセリン脂肪酸エステルが12質量%より多く、極度硬化油が10質量%より多いと、可塑性油脂組成物の口溶けが悪くなる。ポリグリセリン脂肪酸エステルの配合量は、より好ましくは4~10質量%、さらに好ましくは5~9質量%であり、極度化油の配合量は、より好ましくは2~7質量%である。
ポリグリセリン脂肪酸エステルと極度硬化油との配合量の比率は限定されないが、極度硬化油がポリグリセリン脂肪酸エステルと等量、もしくは極度硬化油がポリグリセリン脂肪酸エステルよりも少なく配合されていることが好ましい。
【0028】
本発明で用いる可塑性油脂組成物は公知の方法により製造することができる。
可塑性油脂組成物がショートニングである場合は、20℃で液体である油脂と、ポリグリセリン脂肪酸エステル、またはポリグリセリン脂肪酸エステルと極度硬化油を混合し、50~80℃、好ましくは60~70℃に加熱して融解する。得られた溶液を、急冷捏和装置により急冷捏和して、油脂の結晶化と練捏を連続的に行い、可塑性油脂組成物を得る。その後、10~30℃で24~72時間テンパリングするのが好ましい。
【0029】
可塑性油脂組成物が水相を含有するマーガリン、ファットスプレッドである場合は、20℃で液体である油脂と、ポリグリセリン脂肪酸エステル、またはポリグリセリン脂肪酸エステルと極度硬化油を混合し、50~80℃、好ましくは60~70℃に加熱して融解して油相とする。次いで、油相と、精製水を主体とする水相とを混合撹拌し、得られた混合液を急冷捏和装置により急冷捏和して、油脂の結晶化と練捏を連続的に行い、可塑性油脂組成物を得る。その後、10~30℃で24~72時間テンパリングするのが好ましい。
【0030】
急冷捏和装置は、一般に2つのユニットから構成されており、管型の掻き取り式熱交換機からなる一つ目のユニットと、製品の種類、目的により構造の異なる管からなる二つ目のユニットからなる。ショートニングでは、管の内壁およびシャフトにピンを設けた混練機等が用いられ、マーガリン、ファットスプレッドでは、中空管または内部に金網を設けた管等が用いられる。
【0031】
本発明においては、ベーカリー用品質改良材を、可塑性油脂組成物に公知の方法で混合添加することにより、本発明のベーカリー用可塑性油脂組成物を製造する。
ベーカリー用品質改良材を添加する工程に特に制限はなく、あらかじめ20℃で液体である油脂に混合しておいてもよく、20℃で液体である油脂とポリグリセリン脂肪酸エステルを、またはポリグリセリン脂肪酸エステルと極度硬化油とを混合して加熱融解する工程で添加してもよく、急冷捏和装置により急冷捏和する工程で添加してもよく、10~30℃でテンパリングする工程で添加してもよく、可塑性油脂組成物の製造後に添加してもよい。
【0032】
本発明のベーカリー用品質改良材に特に制限はなく、たとえば、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の乳化剤、アスコルビン酸、臭素酸カリウム等の酸化剤、シスチン、グルタチオン等の還元剤、オリゴ糖、粉末水あめ、澱粉分解物、デキストリン、カルボキシメチルセルロース、澱粉、増粘多糖類等の糖質、アミラーゼ、βアミラーゼ、αアミラーゼ、キシラナーゼ、プロテアーゼ等の酵素、オイル系やエッセンス系の液体香料、粉末香料等の香料、液体色素、粉末色素等の色素、イーストフード等が挙げられる。好ましくは、糖質、酵素、香料、色素であり、特に、糖質としてはオリゴ糖、粉末水あめ、カルボキシメチルセルロース、酵素としてはβアミラーゼ、香料としては液体香料、色素としては液体色素が用いられる。
これらのベーカリー用品質改良材を、ベーカリー用可塑性油脂組成物中に50質量%以下の量で、好ましくは20~30質量%の量で混合することにより、可塑性油脂組成物と改良材の相加効果により、ベーカリー製品の食感において、よりしっとり感やソフト感を付与できる。
【0033】
本発明によれば、液体状または流動状であるオリゴ糖や液体香料等を可塑性油脂組成物に混合すると、全体として柔らかくはなるが可塑性は維持されたベーカリー用可塑性油脂組成物となる。ベーカリー用品質改良材が液体や吸湿性が高い粉末である場合に、これらを粉末であるベーカリー用ミックスに混合すると、ダマや固結を生じてしまうが、あらかじめこれらが添加されている本発明のベーカリー用可塑性油脂組成物を用いると、ベーカリー製品製造時の作業性が向上する。
【0034】
本発明のベーカリー用可塑性油脂組成物は、製菓または製パン用としてロールイン用、練り込み用に用いる。ロールイン用とは、菓子またはパンの生地に折り込んで用いられることを指し、練り込み用とは、菓子またはパンの生地に練り込まれて用いられることを指す。本発明のベーカリー用可塑性油脂組成物を用いるベーカリー生地は、小麦粉を主成分とし、他に穀粉として、通常ベーカリー生地に配合されるものを含んでもよい。たとえば、大麦粉、ライ麦粉、燕麦粉、トウモロコシ粉、ホワイトソルガム粉、大豆粉(きな粉)、緑豆粉、そば粉、アマランサス粉、キビ粉、アワ粉、ヒエ粉、米粉が挙げられる。
【0035】
ベーカリー生地には、穀粉と本発明のベーカリー可塑性油脂組成物の他に、従来の公知の成分を含んでよい。そのような公知の成分としては、たとえば、砂糖、ぶどう糖、麦芽糖、異性化糖、水あめ、粉あめ、オリゴ糖、デキストリン、糖アルコール類、澱粉、加工澱粉等の糖質、バター、ラード、サラダ油、マーガリン、ショートニング等の油脂、脱脂粉乳、乾燥卵等のグルテン以外のたん白質、その他、イースト、ベーキングパウダー、増粘多糖類、食塩、カルシウム塩、調味料、香料、ビタミンC、乳化剤、イーストフード等が挙げられる。
【0036】
本発明のベーカリー用可塑性油脂組成物を用いて製造されるベーカリー製品としては、小麦粉を主成分として調製された生地を加熱することで製造される製品であれば、特に制限はない。例えば、パン、イーストドーナツ、ピザ、中華まんじゅう等のパン類、クッキー、サブレ、ビスケット、マドレーヌ、マフィン、ドーナツ、スポンジケーキ、パイ、ホットケーキ等の焼き菓子類等が挙げられる。
【0037】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下実施例において、特に表示がなければ、「%」とは「質量%」を意味する。
【実施例0038】
1.可塑性油脂組成物Aの製造
試験例として示した実施例または比較例において、ポリグリセリン脂肪酸エステルとして、乳化剤Aと乳化剤Bを用いた。乳化剤Aは、本発明のポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB1.7、融点53℃、パルミチン酸32%、ステアリン酸67%、理研ビタミン株式会社製)である。乳化剤Bは、本発明のポリグリセリン脂肪酸エステルに該当しないポリグリセリン脂肪酸エステル(商品名TAISET50、パルミチン酸2%、ステアリン酸58%、太陽化学株式会社製)である。乳化剤A、Bの脂肪酸組成は、下記の脂肪酸分析方法により測定した。
【0039】
また、下記の実施例で使用した油脂とそれぞれの飽和脂肪酸量は、以下の通りであった。飽和脂肪酸量は、下記の脂肪酸分析方法により測定した。
キャノーラ油(昭和産業株式会社):6.2質量%
綿実油(昭和産業株式会社):21.2質量%
高オレイン酸ヒマワリ油(昭和産業株式会社):6.9質量%
オリーブ油(昭和産業株式会社):13.7質量%
パームオレイン(IV60)(昭和産業株式会社):41.9質量%
パームオレイン(IV67)(昭和産業株式会社):36.6質量%
パーム中融点分別油脂(IV45)(太陽油脂株式会社):55.1質量%
なお、極度硬化油はすべて横関油脂工業株式会社のものであり、飽和脂肪酸含量は100質量%であった。
【0040】
[分析方法]
脂肪酸組成および飽和脂肪酸量の分析は、基準油脂分析試験法2.4.2.3-2013 脂肪酸組成に準じて、試料をキャピラリーガスクロマトグラフ法で測定し、分析した。
【0041】
動的粘弾性測定には、AntonPaar社製 Modular Compact Rheometer MCR102を用いた。治具は25mm平行板治具、ギャップは1mm、周波数1.0rad/sec、ひずみ0.05%で、試料の温度を5℃から50℃まで1分間に2℃ずつ上昇させて、試料の温度依存の貯蔵弾性率(Pa)を測定した。
【0042】
破断応力(g)の測定には、英弘精機株式会社製 Texture Analyser TA TXplusを用いた。容器に充填した試料の温度を、15℃と25℃にそれぞれ調整し、治具は1mmψで、これを0.5mm/secで表面より12mm貫入させた際の破断応力(g)を測定した。
【0043】
[評価基準]
(1)可塑性評価
常温の試料をへらに取り、紙の上に伸ばした際の可塑性を、5名の専門パネルにより以下の評価基準で評価した。5名の合議結果を評価点とした。
評価基準
◎:非常に良好
○:良好
△:やや悪い
×:悪い
【0044】
(2)油染み評価
常温の試料をへらに取り、紙の上に伸ばした後、油の染み出しを、5名の専門パネルにより以下の評価基準で目視評価した。5名の合議結果を評価点とした。
評価基準
◎:油染みが無く非常に良好
○:油染みが少なく良好
△:油染みが見られるが許容範囲
×:油染みが多く悪い
【0045】
(3)口溶け評価
専門パネル10名により、以下の評価基準で官能評価を行い、その平均値を算出して、小数点第二位を四捨五入した値を評価点とした。
評価基準
5:非常に良好
4:良好
3:許容範囲
2:やや悪い
1:悪い
【0046】
[可塑性油脂組成物Aの製造方法]
下記表2および表3に示す試験例1-1~1-18の配合割合で、それぞれの油脂と乳化剤を調合し、60℃で完全に融解させた後、急冷捏和装置で急冷捏和した。急冷捏和装置として、プライミクス株式会社製のAGI HOMOMIXER 2M-1を使用し、冷媒温度-10℃、パドルミキサー150rpm、ホモミキサー10000rpmの条件で、60℃から20℃まで冷却して、試験例1-1~1-18の可塑性油脂組成物Aを製造した。
各可塑性油脂組成物Aの飽和脂肪酸量、動的粘弾性、および破断応力を上記分析方法で測定し、可塑性、油染み、口溶け評価を上記評価基準で行った。
試験例1-1~1-7、1-9~1-11、1-15、1-16は本発明の実施例に相当し、試験例1-8、1-12~1-14、1-17、1-18は比較例に相当する。
【0047】
表1に、参考例1-1として雪印北海道バター 食塩不使用(雪印メグミルク株式会社)を、参考例1-2としてショートニングであるプレミックスオイル150(昭和産業株式会社)を用いた各分析結果、評価結果を示す。
また、以下の表2および表3には、製造した試験例1-1~1-18の油脂組成物について、それぞれの油脂と乳化剤の配合割合、その分析結果および評価結果を示す。
【0048】
【0049】
【0050】
[分析結果]
各可塑性油脂組成物Aについて、その全構成脂肪酸の質量に対する飽和脂肪酸の含有量を測定した。本発明の乳化剤の飽和脂肪酸量が高いため、乳化剤の配合量が多くなるにつれて、可塑性油脂組成物の飽和脂肪酸量が高くなる傾向があったが、20℃で液体である油脂のみを用いた試験例1-1~1-11のいずれも飽和脂肪酸量が40質量%以下であった。
一方、パーム油およびパームに由来する油脂(パームオレイン、パーム油中融点分別油脂)を用いた試験例1-12~1-14の飽和脂肪酸量は40%以上であった。
【0051】
次に、可塑性油脂組成物の温度を変えて動的粘弾性を測定した貯蔵弾性率(Pa)の結果を、横軸の温度に対して縦軸にその貯蔵弾性率の値を常用対数(log
10X)で示したものが、
図1である。参考としてバター(参考例1)の測定結果も示すが、25℃を超えると急激に貯蔵弾性率が減少した。
室温の範囲として10℃から30℃を選択し、試料の10℃と30℃での貯蔵弾性率(Pa)の結果を常用対数にした値、およびそれら値の差を表1~3に示す。試験例1-1~1-12、1-18では、その値の差が1未満であり、温度変化の影響を受けづらく、安定した動的粘弾性を維持することがわかった。
一方、
図1にも示した試験例1-15と1-16では、10℃と30℃での貯蔵弾性率(Pa)の常用対数の差の数値が1以上となり、日常の温度範囲内での温度変化に影響され、動的粘弾性が安定しないことが示された。
【0052】
破断応力は垂直の力に対する応力であり、硬度の指標である。この値が高くて可塑性油脂組成物が硬すぎる場合(たとえば、試験例1-8と試験例1-14)には、油脂が伸びず、可塑性の評価が悪くなった。
【0053】
[評価結果]
本発明の可塑性油脂組成物は、特に20℃で液体である油脂を85~90質量%、ポリグリセリン脂肪酸エステルを15~10質量%配合した場合、可塑性、油染み、口溶けの全ての評価が高かった。また、それ以外の配合量の場合の本発明の可塑性油脂組成物においても、可塑性、油染み、口溶けの評価は、総合的に良好なものであった。
【0054】
2.ベーカリー用可塑性油脂組成物Aの製造
上記1.可塑性油脂組成物Aの製造と同じ方法で、下記表4に示す割合でキャノーラ油と乳化剤を調合して60℃で完全に融解させた後、急冷捏和装置で急冷捏和して、可塑性油脂組成物を製造し、この可塑性油脂組成物に、下記表4に示す割合で各資材を添加し混合機で混合することにより、本発明のベーカリー用可塑性油脂組成物である油脂ミックスA~Iの9種類を製造した。油脂ミックスの可塑性について、1.可塑性油脂組成物Aの製造に記載された、可塑性評価の基準に従って評価した。評価結果を表4に示した。
【0055】
【0056】
3.パンの製造とその評価
表5にロールパンミックスの基本配合を示した。また、表6に示す配合でロールパンを製造した。
【0057】
製造条件
参考例3-1および試験例3-1、3-3~3-12については、ミキサーに表5の原材料を添加し、低速で4分間、中速で8分間ミキシングした後、ショートニング、サラダ油、あるいは油脂ミックスを投入し、低速で3分30秒~5分間、中速で7~9分間ミキシングした(捏ね上げ温度24℃)。試験例3-2については、ミキサーに表5の原材料およびオリゴ糖を添加し、低速で4分間、中速で8分間ミキシングした後、ショートニングを投入し、低速で3分30秒~5分間、中速で7~9分間ミキシングした(捏ね上げ温度24℃)。得られた生地を27℃、湿度80%で5分間発酵させ70gに分割して丸めた。10分間ベンチタイムをとった後、成形して、38℃、湿度85%で60分間ホイロをとった後、200℃、10分間焼成してロールパンを得た。
得られたロールパンについて、下記の評価を行った。それぞれの評価結果は表6に示す。なお、試験例3-3~3-12は、本発明の実施例に相当し、試験例3-1、3-2は比較例に相当する。
【0058】
(1)作業性評価
上記ロールパンの製造時における生地のまとまりやすさ、および生地のべたつきを作業性として評価した。専門パネル10名により、以下の評価基準で官能評価を行い、その平均値を算出して、小数点第二位を四捨五入した値を評価点とした。
評価基準
5:非常に良好
4:良好
3:許容範囲
2:悪い
1:非常に悪い
【0059】
(2)しっとり感
上記ロールパンの食感におけるしっとり感について、官能評価を行った。専門パネル10名により、以下の評価基準で官能評価を行い、その平均値を算出して、小数点第二位を四捨五入した値を評価点とした。
評価基準
5:しっとり感が十分にあり、非常に良好
4:しっとり感が適度にあり、良好
3:しっとり感がややあり、許容範囲
2:しっとり感があまりなく、やや悪い
1:しっとり感がほとんどなく、悪い
(3)ソフト感
上記ロールパンの食感におけるソフト感について、官能評価を行った。専門パネル10名により、以下の評価基準で官能評価を行い、その平均値を算出して、小数点第二位を四捨五入した値を評価点とした。
評価基準
5:ソフト感が十分にあり、非常に良好
4:ソフト感が適度にあり、良好
3:ソフト感がややあり、許容範囲
2:ソフト感があまりなく、やや悪い
1:ソフト感がほとんどなく、悪い
(4)風味
上記ロールパンの風味について、官能評価を行った。専門パネル10名により、以下の評価基準で官能評価を行い、その平均値を算出して、小数点第二位を四捨五入した値を評価点とした。
評価基準
5:非常に良好
4:良好
3:許容範囲
2:やや悪い
1:悪い
【表5】
【表6】
【0060】
油脂ミックスA~Iを添加した試験例3-3~3-12では、特に作業性の評価が高かった。また、しっとり感、ソフト感、風味についても良い評価であった。一方、液状油であるサラダ油を添加した試験例3-1では、ミキシング工程において生地がまとまりにくく、生地がべたつき、作業性が非常に悪かった。また、ショートニングとオリゴ糖を別々に添加した試験例3-2では、しっとり感やソフト感は感じられ、風味は良好であった。しかし、原材料にオリゴ糖を添加する工程でダマが発生し、ミキシング工程で生地がまとまりにくく、また、生地がべたつき、作業性が悪かった。本発明の油脂ミックスを配合すると、パンの食感において、しっとり感、ソフト感が付与され、風味がよく、また、パンの製造時の作業性が良好になることがわかった。
【0061】
さらに、栄養成分を調整する目的で、大豆粉や米粉を添加する場合、試験例3-13、3-14に示したとおり、しっとり感やソフト感が損なわれることがある。小麦粉の一部を大豆粉あるいは米粉に置き換え、本発明の油脂ミックスを添加した試験例3-15、3-16は、表7に示すように小麦粉を100%とした試験例3-2と同等の良好なしっとり感、ソフト感であった。
【表7】
【0062】
4.マフィンの製造とその評価
表8に示す配合で、マフィンを製造した。
製造方法
全卵、砂糖、食塩、牛乳を混合した。篩った小麦粉とベーキングパウダーを加えた。つぎに、サラダ油、または50℃程度で溶解したマーガリン、油脂ミックスを加え、混ぜ合わせた。90gずつ紙ケースに分注し、オーブンにて焼成した。焼成条件は、200℃で20分間であった。焼成後、25℃にて24時間保管した。得られたマフィンについて、下記の評価を行った。それぞれの評価結果は表8に示す。
なお、試験例4-2~4-4は、本発明の実施例に相当し、試験例4-1は比較例に相当する。
【0063】
(1)しっとり感
上記マフィンの食感におけるしっとり感について、官能評価を行った。専門パネル10名により、以下の評価基準で官能評価を行い、その平均値を算出して、小数点第二位を四捨五入した値を評価点とした。
評価基準
5:しっとり感が十分にあり、非常に良好
4:しっとり感が適度にあり、良好
3:しっとり感がややあり、許容範囲
2:しっとり感があまりなく、やや悪い
1:しっとり感がほとんどなく、悪い
(2)風味
上記マフィンの風味について、官能評価を行った。専門パネル10名により、以下の評価基準で官能評価を行い、その平均値を算出して、小数点第二位を四捨五入した値を評価点とした。 評価基準
5:非常に良好
4:良好
3:許容範囲
2:やや悪い
1:悪い
(3)油染み
上記マフィンの油染みについて、評価を行った。専門パネル10名により、以下の評価基準で官能評価を行い、その平均値を算出して、小数点第二位を四捨五入した値を評価点とした。
評価基準
5:紙ケースの油染みがなく、非常に良好
4:紙ケースの油染みがほとんどなく、良好
3:紙ケースの油染みがややあるが、許容範囲
2:紙ケースの油染みがあり、やや悪い
1:紙ケースの油染みが多くあり、悪い
【0064】
【0065】
液状油であるサラダ油を添加した試験例4-1では、油染みの発生がみられた。試験例4-2~4-4では、特に油染みが少なく、評価が高かった。
【0066】
また、栄養成分を調整する目的で、大豆粉や米粉を添加する場合、試験例4-5、4-6に示したとおり、しっとり感が損なわれることがある。小麦粉の一部を大豆粉あるいは米粉に置き換え、本発明の油脂ミックスを添加した試験例4-7、4-8は、表9に示すように小麦粉を100%とした試験例4-2と同等の良好なしっとり感であった。
【表9】
破断応力は垂直の力に対する応力であり、硬度の指標である。25℃、15℃のいずれにおいても、試験例5-2~5-12は適度な破断応力であったため、油脂が伸びやすく、可塑性が良好であることが確認された。試験例5-1は、破断応力が低く、可塑性が悪かった。また、油染みの評価も悪かった。
油脂ミックスJ~Rを添加した試験例7-3~7-12では、特に作業性の評価が高かった。また、しっとり感、ソフト感、風味についても良好な評価であった。一方、液状油であるサラダ油を添加した試験例7-1では、ミキシング工程において生地がまとまりにくく、生地がべたつき、作業性が非常に悪かった。また、ショートニングとオリゴ糖を別々に添加した試験例7-2では、しっとり感やソフト感、風味は良好であったが、原材料にオリゴ糖を添加する工程でダマが発生し、ミキシング工程で生地がまとまりにくく、また、生地がべたつき、作業性が悪かった。本発明の油脂ミックスを配合すると、パンの食感において、しっとり感、ソフト感が付与され、風味がよく、また、パンの製造時の作業性が良好になることがわかった。