IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立金属株式会社の特許一覧

特開2022-126604磁性楔の製造方法、磁性楔、回転電機用固定子及び回転電機
<>
  • 特開-磁性楔の製造方法、磁性楔、回転電機用固定子及び回転電機 図1
  • 特開-磁性楔の製造方法、磁性楔、回転電機用固定子及び回転電機 図2
  • 特開-磁性楔の製造方法、磁性楔、回転電機用固定子及び回転電機 図3
  • 特開-磁性楔の製造方法、磁性楔、回転電機用固定子及び回転電機 図4
  • 特開-磁性楔の製造方法、磁性楔、回転電機用固定子及び回転電機 図5
  • 特開-磁性楔の製造方法、磁性楔、回転電機用固定子及び回転電機 図6
  • 特開-磁性楔の製造方法、磁性楔、回転電機用固定子及び回転電機 図7
  • 特開-磁性楔の製造方法、磁性楔、回転電機用固定子及び回転電機 図8
  • 特開-磁性楔の製造方法、磁性楔、回転電機用固定子及び回転電機 図9
  • 特開-磁性楔の製造方法、磁性楔、回転電機用固定子及び回転電機 図10
  • 特開-磁性楔の製造方法、磁性楔、回転電機用固定子及び回転電機 図11
  • 特開-磁性楔の製造方法、磁性楔、回転電機用固定子及び回転電機 図12
  • 特開-磁性楔の製造方法、磁性楔、回転電機用固定子及び回転電機 図13
  • 特開-磁性楔の製造方法、磁性楔、回転電機用固定子及び回転電機 図14
  • 特開-磁性楔の製造方法、磁性楔、回転電機用固定子及び回転電機 図15
  • 特開-磁性楔の製造方法、磁性楔、回転電機用固定子及び回転電機 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022126604
(43)【公開日】2022-08-30
(54)【発明の名称】磁性楔の製造方法、磁性楔、回転電機用固定子及び回転電機
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20220823BHJP
   H01F 1/24 20060101ALI20220823BHJP
   H01F 1/33 20060101ALI20220823BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20220823BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20220823BHJP
   B22F 3/10 20060101ALI20220823BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20220823BHJP
   H02K 15/02 20060101ALI20220823BHJP
   H02K 15/12 20060101ALI20220823BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20220823BHJP
【FI】
H01F41/02 D
H01F1/24
H01F1/33
B22F1/00 Y
B22F3/00 B
B22F3/10 B
B22F3/24 B
H02K15/02 Z
H02K15/12 Z
C22C38/00 303S
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022021938
(22)【出願日】2022-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2021024265
(32)【優先日】2021-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】野口 伸
(72)【発明者】
【氏名】西村 和則
(72)【発明者】
【氏名】菊地 慶子
(72)【発明者】
【氏名】石川 湧己
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
5H615
【Fターム(参考)】
4K018AA24
4K018BA13
4K018BB04
4K018BC11
4K018BC13
4K018CA02
4K018CA08
4K018CA09
4K018CA11
4K018CA31
4K018CA44
4K018DA01
4K018DA31
4K018FA06
4K018FA08
4K018FA24
4K018FA25
4K018FA47
4K018KA43
4K018KA58
5E041AA11
5E041BB03
5E041CA04
5H615AA01
5H615BB01
5H615BB05
5H615BB14
5H615PP19
5H615RR01
5H615SS44
5H615TT04
5H615TT13
5H615TT31
5H615TT34
(57)【要約】
【課題】温度上昇に対する強度安定性が高く、複雑形状にも対応可能な磁性楔、回転電機用固定子、回転電機、およびかかる磁性楔の製造方法を提供する。
【解決手段】Feよりも酸化しやすい元素Mを含有するFe基軟磁性粒子の粉末と、バインダとを混合して混合物を得る第1の工程と、前記混合物を成形して成形体を得る第2の工程と、前記成形体に、機械加工を施す第3の工程と、前記第3の工程を経た成形体に熱処理を施して、前記Fe基軟磁性粒子の粒子間に、前記Fe基軟磁性粒子同士を結着する前記Fe基軟磁性粒子の表面酸化物相を形成する第4の工程と、を有する磁性楔の製造方法。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Feよりも酸化しやすい元素Mを含有するFe基軟磁性粒子の粉末と、バインダとを混合して混合物を得る第1の工程と、
前記混合物を成形して成形体を得る第2の工程と、
前記成形体に、機械加工を施す第3の工程と、
前記第3の工程を経た成形体に熱処理を施して、前記Fe基軟磁性粒子の粒子間に、前記Fe基軟磁性粒子同士を結着する前記Fe基軟磁性粒子の表面酸化物相を形成する第4の工程と、
を有する磁性楔の製造方法。
【請求項2】
前記元素Mは、Al、Si、Cr、ZrおよびHfからなる群から選択される少なくとも一種である請求項1に記載の磁性楔の製造方法。
【請求項3】
前記Fe基軟磁性粒子は、Fe-Al-Cr系合金粒子である請求項1に記載の磁性楔の製造方法。
【請求項4】
前記成形体は、任意の平面上に描かれた線対称な図形を該平面の法線方向に引き延ばして得られる角柱状であり、
前記線対称な図形において対照的な位置にある一対の辺を前記法線方向に引き延ばして得られる一対の面に前記機械加工を施す請求項1~3のいずれか一項に記載の磁性楔の製造方法。
【請求項5】
前記成形体に前記機械加工を施すことによって非平行な面を形成し、表面粗さを粗くする請求項4に記載の磁性楔の製造方法。
【請求項6】
前記第2の工程または前記第3の工程において、前記成形体のいずれか一方もしくは両方の端面の少なくても対向する1対の辺にアールを施す請求項4または5に記載の磁性楔の製造方法。
【請求項7】
複数のFe基軟磁性粒子を有し、
前記複数のFe基軟磁性粒子は、Feよりも酸化しやすい元素Mを含有するとともに、前記元素Mを含む酸化物相で結着されており、
表面の少なくとも一部が機械加工面である磁性楔。
【請求項8】
前記元素Mは、Al、Si、Cr、ZrおよびHfからなる群から選択される少なくとも一種である請求項7に記載の磁性楔。
【請求項9】
前記Fe基軟磁性粒子は、Fe-Al-Cr系合金粒子である請求項7に記載の磁性楔。
【請求項10】
任意の平面上に描かれた線対称な図形を該平面の法線方向に引き延ばして得られる角柱状であり、
前記線対称な図形において対照的な位置にある少なくとも一対の辺を前記法線方向に引き伸ばして得られる少なくとも一対の面は機械加工面である請求項7~9のいずれか一項に記載の磁性楔。
【請求項11】
前記線対称な図形において対称的な位置にある少なくとも一対の辺を前記法線方向に引き延ばして得られる少なくとも一対の面は非平行である請求項10に記載の磁性楔。
【請求項12】
いずれか一方もしくは両方の端面の少なくても対向する1対の辺にアールを施された請求項10または11に記載の磁性楔。
【請求項13】
複数のティースと前記複数のティースにより形成された複数のスロットとを有し、
隣り合うティースの先端の間に請求項7~12のいずれか一項に記載の磁性楔が嵌装された回転電機用固定子。
【請求項14】
前記磁性楔は、前記機械加工面の少なくとも一部で前記ティースに接している請求項13に記載の回転電機用固定子。
【請求項15】
請求項13又は14に記載の回転電機用固定子と、前記回転電機用固定子の内側に配置された回転子とを有する回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機の磁気回路に用いられる磁性楔、磁性楔を用いた固定子及び回転電機、並びにかかる磁性楔の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なラジアルギャップ型回転電機では、固定子(以下ステータ)と回転子(ロータ)とを同軸にして配し、ロータ周りのステータに、コイルを巻き回した複数のティースを、周方向等間隔に配している。また、ティースのロータ側先端には、隣り合うティースの先端を接続するよう、磁性楔を配することがある。なお、この場合、磁性楔は、コイル部品等とは異なり、磁性楔自体にはコイルを巻き回さずに用いられる。
【0003】
このような磁性楔を配することで、ロータからコイルに到達する磁束を磁気シールドでき、コイルの渦電流損失を抑制することができる。また、磁性楔を配することで、ステータとロータとの間のギャップ内磁束分布(特に周方向の磁束分布)をなだらかにし、ロータの回転を滑らかにすることができる。このように、磁性楔を配することで、高効率・高性能の回転電機にすることができる。
【0004】
また、従来の磁性楔の製造方法としては、例えば、特許文献1のように、磁性鉄粉とエポキシ樹脂とを混合した混合物をガラスクロスに含浸して得られた磁性シートと、ガラスクロスにエポキシ樹脂を含浸して得られた非磁性シートを用意し、磁性体層と非磁性体層の厚みの比が1:20:1になるようにサンドイッチ状に積層し、加熱成形する方法が知られている。この方法によって得られる磁性楔は、三点曲げ強度が25kg/mmと高く、透磁率が13で、体積抵抗率は10Ωcmと良好な特性を示すことが知られている。
【0005】
また、比透磁率の大きい磁性楔の製造方法としては、例えば、特許文献2のように、Fe-3wt%Si合金粉末に、室温硬化型のシリコーン樹脂を混合した液を、ステータコアのスロット開口部の所望の位置に充填し、樹脂を硬化させる方法が知られている。この方法によって得られた磁性楔は、比透磁率が最大35程度と非常に高いことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62-77030号公報
【特許文献2】WO2018/008738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
回転電機に配した磁性楔には、交流磁界により曲げ応力が加わるので、曲げ強度の高いことが望まれている。例えば、特許文献1では、三点曲げ強度25kgf/mm程度の磁性楔が開示されているが、高信頼性等の要求に応えるには、さらなる高強度化が望まれていた。また、特許文献2の磁性楔も、合金粉末を樹脂で固形化しただけなので、曲げ強度等の信頼性に課題があった。さらに、回転電機は不可避的な損失を有するため、使用中に発熱し、温度が上昇する。これに対して特許文献1、特許文献2等に開示された従来の磁性楔は、樹脂で固形化されたものであるため、高温になると、減量、強度低下が生じる問題があった。
【0008】
また、磁性楔は、その機能上、ステータとの嵌合に適した形状を有する必要がある。例えば、ステータのティースには磁性楔を嵌装するための凹部が形成され、ティースと接する磁性楔の両端側は、かかる凹部に倣った、凹部に嵌装可能な形状として形成される。したがって、磁性楔には上述のような高強度の実現および維持が可能であることに加えて、複雑形状の形成が容易であることも要求される。
【0009】
そこで、本発明では、温度上昇に対する強度安定性が高く、複雑形状にも対応可能な磁性楔、回転電機用固定子、回転電機、およびかかる磁性楔の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の磁性楔の製造方法は、Feよりも酸化しやすい元素Mを含有するFe基軟磁性粒子の粉末と、バインダとを混合して混合物を得る第1の工程と、前記混合物を成形して成形体を得る第2の工程と、前記成形体に、機械加工を施す第3の工程と、前記第3の工程を経た成形体に熱処理を施して、前記Fe基軟磁性粒子の粒子間に、前記Fe基軟磁性粒子同士を結着する前記Fe基軟磁性粒子の表面酸化物相を形成する第4の工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
また、前記磁性楔の製造方法において、前記元素Mは、Al、Si、Cr、ZrおよびHfからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。また、前記磁性楔の製造方法において、前記Fe基軟磁性粒子は、Fe-Al-Cr系合金粒子であることが好ましい。
【0012】
さらに、前記磁性楔の製造方法において、前記成形体は、任意の平面上に描かれた線対称な図形を該平面の法線方向に引き延ばして得られる角柱状であり、前記線対称な図形において対照的な位置にある一対の辺を前記法線方向に引き延ばして得られる一対の面に前記機械加工を施すことが好ましい。
また、前記磁性楔の製造方法において、前記成形体に前記機械加工を施すことによって非平行な面を形成し、さらに表面粗さを粗くすることが好ましい。
また、前記磁性楔の製造方法の前記第2の工程または前記第3の工程において、前記成形体のいずれか一方もしくは両方の端面の少なくても対向する1対の辺にアールを施すことが好ましい。
【0013】
本発明の磁性楔は、複数のFe基軟磁性粒子を有し、前記複数のFe基軟磁性粒子は、Feよりも酸化しやすい元素Mを含有するとともに、前記元素Mを含む酸化物相で結着されており、表面の少なくとも一部が機械加工面であることを特徴とする。
【0014】
また、前記磁性楔において、前記元素Mは、Al、Si、Cr、ZrおよびHfからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。また、前記磁性楔において、前記Fe基軟磁性粒子は、Fe-Al-Cr系合金粒子であることが好ましい。
【0015】
さらに、前記磁性楔は、任意の平面上に描かれた線対称な図形を該平面の法線方向に引き延ばして得られる角柱状であり、前記線対称な図形において対照的な位置にある少なくとも一対の辺を前記法線方向に引き伸ばして得られる少なくとも一対の面は機械加工面であることが好ましい。
また、前記磁性楔は、前記線対称な図形において対称的な位置にある少なくとも一対の辺を前記法線方向に引き延ばして得られる少なくとも一対の面は非平行であることが好ましい。
また、前記磁性楔は、いずれか一方もしくは両方の端面の少なくても対向する1対の辺にアールを施されていることが好ましい。
【0016】
本発明の回転電機用固定子は、複数のティースと前記複数のティースにより形成された複数のスロットとを有し、隣り合うティースの先端の間に前記いずれかの磁性楔が嵌装されたことを特徴とする。
また、前記回転電機用固定子において、前記磁性楔は、前記機械加工面の少なくとも一部で前記ティースに接していることが好ましい。
また、本発明の回転電機は、上記のいずれかの回転電機用固定子と、前記回転電機用固定子の内側に配置された回転子とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、温度上昇に対する強度安定性が高く、複雑形状にも対応可能な磁性楔、回転電機用固定子、回転電機、およびかかる磁性楔の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1実施形態である磁性楔の製造方法についての工程フローである。
図2】本発明の第1および第2実施形態である成形体または磁性楔の例である。
図3】本発明の第1および第2実施形態である成形体の断面形状の変形例である。
図4】本発明の第1および第2実施形態である成形体の変形例を示す斜視図である。
図5】本発明の第1および第2実施形態である磁性楔の拡大模式図である。
図6】本発明の第3実施形態である回転電機の模式図である。
図7】本発明の第3実施形態の別の一例である回転電機の模式図である。
図8】本発明の第3実施形態のさらに別の一例である回転電機の模式図である。
図9】実施例の断面組織を示すSEM写真である。
図10】実施例と比較例の直流磁化曲線を示すグラフである。
図11】実施例の鉄損を示すグラフである。
図12】電磁界解析に使用した回転電機のモデル図である。
図13】回転電機の電磁界解析結果を示すグラフである。
図14】実施例と比較例の三点曲げ強度の温度依存性を示すグラフである。
図15】実施例と比較例の220℃における加熱減量を示すグラフである。
図16】実施例と比較例の290℃における加熱減量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明にかかる磁性楔の製造方法を第1実施形態、磁性楔を第2実施形態、該磁性楔を用いた回転電機用固定子および回転電機を第3実施形態として、それぞれ図面を参照しながら説明する。ただし、本発明がこれらの実施形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載および図面は、適宜、簡略化されている。
【0020】
(第1実施形態)<磁性楔の製造方法>
本発明の第1実施形態である磁性楔の製造方法について、図1のフローを用いて説明する。本実施形態は、Fe基軟磁性粒子の粉末とバインダを混合して混合物を得る第1の工程S11と、得られた混合物を成形して成形体を得る第2の工程S12と、成形体に機械加工を施す第3の工程S13と、第3の工程S13を経た成形体に熱処理を施して、Fe基軟磁性粒子の表面に酸化物相を形成する第4の工程S14とからなる。
【0021】
第1の工程S11では、Feよりも酸化しやすい元素Mを含有するFe基軟磁性粒子の粉末とバインダとを混合して混合物を得る。Fe基軟磁性粉末とは、Feを主体とした(他の元素よりFeの含有量が質量比で最も多い)軟磁性合金粉末である。Fe以外に、Feの含有量を超えない範囲でCoやNiを含有してもよい。
【0022】
Fe基軟磁性粉末の平均粒径(体積積算分布におけるメジアン径d50)は、1μm以上100μm以下が好ましく、5μm以上30μm以下がより好ましい。このような粒径にすることで、本実施形態によって得られる磁性楔のFe基軟磁性粒子の平均粒径を、好ましい範囲に制御することができる。
【0023】
Feよりも酸化しやすい元素Mとは、酸化物の標準生成ギブズエネルギーが、Feよりも低い元素を意味する。この条件を満たす元素のうち、過度な反応性や毒性が少なく、磁気楔を製造しやすい観点から、元素Mは、Al、Si、Cr、ZrおよびHfからなる群から、一種類もしくは複数種類を選択できる。中でも、Fe基軟磁性粒子は、Fe-Al-Cr系合金粒子であることが好ましい。このような元素Mを含有することで、後にFe基軟磁性粒子に良好な表面酸化物相を形成することができる。具体的には、Fe基軟磁性粉末を成形後に酸化させることで、Fe基軟磁性粒子の内部よりも元素Mの含有量が高い表面酸化物相を、容易に形成することができる。
【0024】
Fe基軟磁性粉末には、アトマイズ法(例えば、ガスアトマイズ法や水アトマイズ法)により作製された成形性のよい粒状の粉末を用いることができる。また、形状異方性の活用を目的とした偏平粉として、粉砕法により作製した粉末を用いることもできる。他にも、化学的手法や熱処理等で表面処理した粒子を含む粉末を用いてもよい。比透磁率の調整等を目的として、Feよりも酸化しやすい元素Mを含有するFe基軟磁性粉末に、非磁性粉末を混合させてもよい。
【0025】
バインダは後述する第2の工程S12において、粒子同士を仮接着して、成形体にある程度の強度を付与するために用いられる。また、バインダには粒子間に適切な間隔を付与する役割もある。バインダの種類は、例えばポリビニルアルコール、アクリル樹脂などの有機バインダを用いることができる。有機バインダは成形後の熱処理により、熱分解する。
バインダは、混合物全体に十分に行きわたり、十分な成形体強度を確保しつつ、後述する第3の工程S13において、十分熱分解される量だけ添加するのが好ましい。例えば、後述する第2の工程S12が加圧成形の場合であれば、後述する第3の工程S13で行う機械加工に耐えるために、Fe基軟磁性粉末100質量部に対して0.5~3.0質量部添加するのが好ましい。
【0026】
第1の工程S11における混合方法は、公知の混合方法や混合機を用いることができる。混合の形態は、適用する成形方法に応じて選択することができる。以下、主として造粒プロセスを適用した加圧成形を例にして説明する。
【0027】
球状、かつ粒径の揃った混合物(造粒粉)を得るためには、Fe基軟磁性粉末およびバインダ、並びに水等の溶媒を含むスラリー状の混合物を、スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥する方法を適用することが好ましい。また、混合物には、第2の工程S12における粉末と金型との摩擦を低減するために、ステアリン酸、ステアリン酸塩等の潤滑剤を添加してもよい。その場合、添加量は、混合粉(造粒粉)100質量部に対して0.1~2.0質量部にすることが好ましい。なお、潤滑剤は、第1の工程S11で混合物に添加せず、第2の工程S12で金型に塗布してもよい。噴霧乾燥によれば、粒径分布がシャープで、平均粒径が小さい造粒粉が得られる。よりシャープな粒径分布を得るために、造粒粉を、例えば振動篩等を用いて篩に通し、所望の二次粒子径の造粒粉にしてから、第2の工程S12に適用してもよい。成形の際の給粉性(粉の流動性)を高める観点からは、造粒粉の平均粒径(メジアン径d50)は40~150μmが好ましく、60~100μmがより好ましい。
【0028】
第2の工程S12では、第1の工程S11で得られた混合物を成形し、成形体を得る。成形方法としては、公知なさまざまな方法(例えば、シート成形、加圧成形、押出成形等)が適用できる。例えば、シート成形を適用する場合は、ドクターブレード等の成形機によって一定の厚みに製造されたグリーンシートを積層、圧着して、所定の厚さの成形体を得ることができる。加圧成形を適用する場合は、第1の工程で得られた混合物を成形金型に充填して、プレス機で加圧することで、円柱形状、直方体形状等所定の形状を得ることができる。この場合、室温成形でもよいし、バインダが消失しない程度に加熱する温間成形でもよい。
【0029】
このように成形方法はいくつか考えられるが、プレス機と成形金型を用いた加圧成形が好適である。また、後述する第3の工程S13で機械加工によって寸法や形状、表面粗さ等を整えるため、第2の工程S12においては、必ずしもニアネットシェイプ、最終形状の成形体を得る必要は無い。
【0030】
加圧成形時、プレス圧や温度等の加圧条件を調整することで、得られる成形体の占積率を所望の範囲に調整することができる。後述する第3の工程S13において、機械加工時のチッピングを防ぎ、寸法精度を高めるためには、成形体の占積率を高めることが有効である。一方で、占積率を過度に高めることは量産性が劣るため好ましくない。そのため、第3の工程に供する成形体の占積率は78~90%であることが好ましく、79~88%がより好ましく、81~86%がさらに好ましい。
【0031】
また、成形性に優れるFe-Cr-Al系のFe基軟磁性粉末を用いることで、低い成形圧でも第3の工程S13に供する成形体の占積率を82%以上に高めることも可能である。第2の工程S12において、成形圧等の調整によって、成形体の占積率をかかる範囲に調整することができる。なお、第3の工程S13に供する成形体の占積率(相対密度)は、成形体の密度をFe基軟磁性粉末の真密度で除して算出する。この場合、成形体に含まれるバインダや潤滑剤の質量分は、その添加量を基にして成形体の質量から差し引く。また、Fe基軟磁性粉末の真密度は、同組成で溶解して作製したインゴットの密度を用いればよい。
【0032】
第3の工程S13では、前述した第2の工程S12で得られた成形体に機械加工を施して、所望の形状や寸法、表面粗さにする。第3の工程において、機械加工とは、切削加工、切断加工、研削加工等の加工方法のいずれか、もしくは、これら加工方法を複数組み合わせた加工の意味である。研削加工は回転砥石等、切削加工は切削工具等、切断加工は切断刃等を用いて行うことができる。さらに、機械加工を施されたままの表面状態に限らず、機械加工後に熱処理、被覆処理等を施して性状が変化している面を含む趣旨である。このように機械加工が施された面を機械加工面と呼ぶ。機械加工面は、より好ましくは、表面酸化物相を形成する熱処理を施した面である。後述する第4の工程に係る熱処理を経ると磁性楔の強度は非常高くなるから、その前に機械加工を済ませることで、一連の製造工程の簡略化が図れる。
【0033】
ここで、成形体の形状の一例として、図2に示す直方体について述べる。図2は、紙面奥行方向をx方向、紙面左右方向をy方向、紙面上下方向をz方向としたときに、成形体の表面積が最も狭い面(端面)をxy平面上に、成形体の表面積が最も広い面(平面)をyz平面上に配置した状態を示す。このときxz平面と平行な面を側面と呼ぶ。また、成形体をxy平面と平行な面で切断した時の断面を、単に断面と呼ぶ。
【0034】
すなわち、図2に示す成形体は、xy平面上にある長方形断面をz方向に引き延ばして柱状にした形状と換言することができる。さらに言えば、該成形体は任意の平面上に描かれた線対称な図形を、該平面の法線方向に引き延ばして得られる柱状、と換言することができる。このとき、端面のことを、任意の平面上に描かれた図形と平行な面と言い換えることができる。また、平面および側面のことを、任意の平面に描かれた図形において対照的な位置にある一対の辺を前記法線方向に引き延ばして得られる一対の面と言い換えることができる。
【0035】
図3は成形体の断面形状の変形例を示す。これらの断面は線対称な図形である。線対称な図形というのは、例えば長方形、等脚台形、線対称な多角形、その他段付き形状や、一部が円弧な図形も含む。
【0036】
図3を用いてさらに説明する。(a)は断面が長方形の例である。符号301が、対向する一対の側面である。(b)~(h)は、側面301に機械加工を施して得られる形状である。(b)は断面がT字状の変形例であり、一対の側面302が平行である。(c)は断面が台形状の変形例であり、一対の側面303が非平行である。さらに(d)は、(a)と(c)の組み合わせであり、両端側の一対の側面に非平行側面304と平行側面305を有する。さらに(e)は両端側の一対の側面に二つの非平行側面306および307を有し、両端部が鋭角三角形状をなす変形例である。さらに(f)は(e)の両側面の一部に平行側面を設けた変形例であり、一対の両側面に二つの非平行側面308と310を有し、さらに平行側面309を有する。さらに(g)は、両側面が曲面311で構成される変形例である。さらに(h)は一対の平行側面に凹部を設けたことで、平行側面が、平行側面312と313に分割された変形例である。
【0037】
機械加工は、例えば、角柱状の成形体の表面うちの少なくとも一つの平面に対して行っても良い。また、線対称な断面を有する柱状の成形体に対して、軸方向(長手方向)から見て対称的な位置にある一対の側面を機械加工によって形成することもできる。例えば、機械加工は直方体状の成形体の対向する一対の平面に対して行っても良い。さらに、直方体状の成形体の対向する一対の平面に対して、それぞれ斜めに、すなわち、直方体の角(稜線)を落とすように機械加工を行い、一対の側面が非平行となるように加工してもよい。かかる機械加工によって、断面が台形状の磁性楔を簡易に作製することができる。かかる点は、相対的に表面粗さの大きい非平行面をティースへの嵌装面(接触面)として用いることができることを意味する。研削、切削等の加工方向は、角柱状の成形体の長手方向にすれば、平坦性を得やすいため好ましい。
【0038】
金型を用いて成形する場合、成形体の表面粗さは、金型の表面粗さをそのまま反映した面となるため、非常に平滑性が良い面となる。しかし、磁性楔として回転電機用固定子のティースに嵌める際は、強固に固定する作用を働かせるため、表面粗さが粗い方がよい。また、磁性楔の表面に被膜を形成したり、のちに接着剤を塗布したりする際には、表面が粗い方がアンカー効果によって密着強度向上が期待できる。そのため、このような嵌装する時の接面や被膜や接着層を纏う際の表面は、金型から抜いた状態の面では無く、機械加工によって表面粗さを粗くした(微細な凹凸を備えた)面にすることが好ましい。
【0039】
成形体に機械加工を施すと所望の形状が得られ、金型を用いたプレス成形後の面よりも表面粗さを大きくすることができる。このとき、成形体の表面全体に機械加工を施してもよいが、加工に無駄な工数がかかり煩雑になるため、必要な部分にのみ加工する事が好ましい。後述する第4の工程にかかる熱処理の後は、成形体の強度が非常に高くなり、機械加工が困難になるため、機械加工は熱処理前に行うことが好ましい。
【0040】
機械加工を施すことによって、非加工面の算術平均粗さRaの平均RASに対する、機械加工面の算術平均粗さRaの平均RMDの比RMD/RASを2~5程度にすることができる。この値は、後述する第4の工程S14を経た後の測定値である。なお、算術平均粗さとしては、レーザー顕微鏡を用いて一箇所当たり1.0mm以上の面積で、複数箇所で評価してその平均値を用いる。
【0041】
図2に示す成形体の平面(yz面)は長方形をしているが、この長方形の角部にアールが施されていてもよい。図4は、成形体の角部にアールを施した場合の斜視図である。(a)は断面が長方形の場合(図3(a)の形状)の例であり、(b)は断面が変形台形型の場合(図3(d)の形状)の例である。このような形状とすることにより、後述する第3実施形態において、磁性楔をティース先端部に挿入しやすくなる、という効果がある。
【0042】
また、このアールによる効果は、Fe基軟磁性粒子の粉末やバインダの組成によらず得ることができる。すなわち、本実施形態の製造方法において、軟磁性粒子の粉末とバインダを混同して混合物を得る第1の工程と、前記混合物を成形して成形体を得る第2の工程と、前記成形体に機械加工を施す第3の工程と、前記第3の工程を経た成形体に熱処理を施す第4の工程とを有し、前記成形体は、任意の平面上に描かれた線対称な図形を該平面の法線方向に引き延ばして得られる角柱状であり、前記線対称な図形において対照的な位置にある少なくとも一対の辺を前記法線方向に引き伸ばして得られる少なくとも一対の面は機械加工面であり、前記第2の工程または前記第3の工程において、前記成形体のいずれか一方もしくは両方の端面の少なくても対向する1対の辺にアールを施すことが好ましい。
【0043】
また、このアールによる効果は、アールが大きいほど得られやすいものの、アールが大き過ぎるとこの部分で磁性楔とティース先端部との間に大きなすき間が生じてしまう。これにより磁性楔を固定する力が弱まるほか、すき間の周辺では磁束の分布が乱れるので磁性楔によるモータ効率向上効果が損なわれる。
【0044】
かかる観点から、アールの大きさ(半径)は磁性楔の幅(y方向の長さ)の1/2未満であることが好ましく、1/3以下であることがより好ましく、1/4以下であることがさらに好ましい。一方、アールが小さすぎると上述の効果が得られ難くなるため、アールの大きさ(半径)は磁性楔の幅(y方向の長さ)の1/20以上が好ましく、1/10以上がより好ましく、1/5以上がさらに好ましい。アールの形状は円弧に限らず、楕円の円弧やその他の曲線でもよく、長手方向(z方向)に尖った形状であると、さらに良い。このような形状にすることで、磁性楔をティース先端部へ挿入しやすくなる。
【0045】
このアール(もしくは任意の曲線部)は、第3の工程S13で側面に機械加工を施すときに形成してもよく、前述した第2の工程S12において、角部にアール(もしくは任意の曲線部)を施した形状の金型を用いてプレス成形することで当該形状を形成してもよい。製造上、可能であれば、成形時にアール部を有する成形体を製造した方が、機械加工工程が少なくて済み、生産性向上と低コスト化に有利なので好ましい。
【0046】
第4の工程S14では、第3の工程S13を経て得られた成形体を熱処理して圧密体(磁性楔)を形成する。図5に磁性楔の断面の拡大模式図を示す。熱処理の途中で、成形体中のFe軟磁性粒子1の粒子間に存在するバインダは熱分解・消失して、粒子間に空隙2が形成される。さらに熱処理を継続することでFe基軟磁性粒子1が酸化されて、Fe基軟磁性粒子1の粒子間にFe基軟磁性粒子1同士を結着するFe基軟磁性粒子1の表面酸化物相3が形成される。
【0047】
かかる酸化物相はFe基軟磁性粒子間の粒界相を構成し、Fe基軟磁性粒子の絶縁性および耐食性が向上する。また、かかる酸化物相は、粉末状態ではなく成形体(バルク体)を構成した後に形成されるため、該酸化物相を介したFe基軟磁性粒子同士の結合にも寄与し、成形体の状態に比べて、各段に強度が高い圧密体(磁性楔)が得られる。Fe基軟磁性粒子1同士の間のうち、かかる表面酸化物相で満たしきれない部分は、空隙2が形成される。
【0048】
例えば、Fe基軟磁性粉末としてFe-Cr-M’(M’はAlおよびSiのうちの少なくとも一種)系の粉末を用いる場合、以下の構成が得られる。 M’がSiの場合、すなわちAlを積極的に添加していない場合は、特にCrが前記酸化物相に濃化し、Fe基軟磁性粒子の表面に、内部の合金相よりもFe、CrおよびM’(Si)の和に対するCrの比率が高い酸化物相が形成される。一方、M’としてAlを含む場合は、特にAlが前記酸化物相に濃化し、Fe基軟磁性粒子の表面に、内部の合金相よりもFe 、CrおよびM’の和に対するAlの比率が高い酸化物相が形成される。
【0049】
なお、熱処理は、大気中、酸素と不活性ガスの混合気体中など、酸素が存在する雰囲気中で行うことができる。また、水蒸気と不活性ガスの混合気体中など、水蒸気が存在する雰囲気中で熱処理を行うこともできる。これらのうち大気中の熱処理が簡便であり好ましい。また、熱処理雰囲気の圧力もこれを特に限定するものではないが、圧力制御を必要としない大気圧下が好ましい。
【0050】
熱処理は、Fe基軟磁性粒子の粒子間に、Fe基軟磁性粒子1同士を結着する表面酸化物相3を形成可能な温度に加熱して行えばよい。ただし、熱処理温度が低いと、成形時に成形体に加わった歪が緩和されずに残る可能性があり、高いと、Fe基軟磁性粒子同士が焼結し、電気抵抗が下がって渦電流損失の大きい磁性楔になる可能性がある。そこで、熱処理温度は600℃~900℃の範囲が好ましく、700~800℃の範囲がより好ましい。保持時間は、これを特に限定するものではなく、磁性楔の大きさ、処理量などによって適宜設定される。保持時間は、例えば0.5~3時間が好ましい。
【0051】
上述した第3の工程では、機械加工が行われるため、加工面のFe基軟磁性粒子は内部の合金相が露出する。これに対して、第4の工程の熱処理を経ることで露出した合金相の部分が酸化物相に覆われるため、加工面の絶縁性が確保される。第4の工程の熱処理は、成形時の歪み除去、Fe基軟磁性粒子同士の結合および加工面の絶縁層形成を兼ねることができるため、高強度、高絶縁性の磁性楔の効率的な製造が可能になる。
【0052】
第1~第4の各工程の前後に、他の工程を追加してもよい。具体的には、第1の工程の前に絶縁皮膜を形成する工程を付加してもよく、第2工程と第3工程の間に、予備加熱工程を設けてもよく、第4工程のあとに、追加の機械加工工程を設けてバリ取りをしてもよく、さらにバリ取りをするかしないかに関わらず、第4工程の後に、電気絶縁性被膜を形成する工程を付加してもよい。これらの工程について、以下に説明する。
【0053】
第1の工程の前に、熱処理、ゾルゲル法等によってFe基軟磁性粉末に絶縁被膜を形成する予備工程を付加してもよい。但し、本実施形態にかかる磁性楔の製造方法においては、第4の工程によってFe基軟磁性粒子の表面に酸化物相を形成することができるため、かかる予備工程を省略して製造工程を簡略化することがより好ましい。
【0054】
第2工程と第3工程の間に、予備加熱工程を設けてもよい。例えば、複雑な形状の磁性楔、薄い部分を有する磁性楔を製造する場合のように、第3の工程における磁性楔の破損が懸念される場合には、第3の工程に供する成形体の強度を成形されたままの状態よりも高めておくことが好ましい。具体的には、第2の工程と第3の工程との間に、第4の工程における熱処理温度よりも低い温度に加熱する予備加熱工程を有することが好ましい。第4の工程の熱処理によって、Fe基軟磁性粒子の表面に該Fe基軟磁性粒子の含有元素を含む酸化物相が形成され、得られる磁性楔の強度が顕著に増加するが、かかる熱処理の温度よりも低い温度への加熱でも成形体の強度を高めることが可能である。
【0055】
加熱の実効性から、予備加熱工程における加熱温度は室温よりも高く設定する一方、加熱の温度が高すぎると第3の工程における加工が困難になる。そこで、上記予備加熱を行う場合は、第4の工程における熱処理温度よりも低い温度で行う。加熱温度は、例えばFe-Cr-M’系(M’はAlおよびSiのうちの少なくとも一種)の場合であれは、前記Fe基軟磁性粉末の含有元素のうちFe以外のAl、Cr等が酸化し、粒界に濃化する温度以下が好ましく、300 ℃以下がより好ましい。加熱温度が300℃以下であれば、Fe-Cr-M’系のFe基軟磁性粉末とともに、それ以外の軟磁性材料粉末にも適用可能となる点でも好ましい。また、加熱による強度向上効果を高めるためには加熱温度は100℃以上であることが好ましい。
【0056】
加熱の保持時間は、短すぎると成形体強度増加の効果が少なく、必要以上に長いと生産性が低下するため、例えば10分以上、4時間以下であることが好ましい。より好ましくは30 分以上、3時間以下である。予備加熱時の雰囲気は酸化性雰囲気には限定されない。工程が簡易になることから雰囲気としては大気中が好ましい。上記予備加熱工程を経ることによって、第3の工程に供する成形体の曲げ強度を15MPa超とすることができる。
【0057】
第4工程のあとに、追加の機械加工工程を設けてバリ取りをしてもよい。第4の工程を経て得られた磁性楔がバリを有する場合、寸法調整が必要な場合等がある。その場合には、第4の工程を経て得られた磁性楔に、さらに機械加工を施す第5の工程を追加してバリ取りをすることが可能である。さらに、該第5の工程を経て得られた磁性楔を熱処理する第6の工程を追加し、この熱処理によって、追加の機械加工をされた面にFe基軟磁性粒子の含有元素を含む酸化物相を形成することもできる。
【0058】
バリ取りをするかしないかに関わらず、第4の工程以降にさらに新たな工程を付加し、第4の工程で得られた圧密体を基体として、その表面に電気絶縁性被覆を形成することもできる。こうすることで、磁性楔の電気抵抗と強度をさらに高くするとともに、圧密体表面からの粒子が脱落することを抑制し、信頼性の高い磁性楔を提供することができる。被覆には、渦電流損失を抑制するために、樹脂、酸化物等による電気絶縁性被覆が好ましく、例えばエポキシ樹脂による粉体塗装、ワニス又はシリコン樹脂の含浸による封孔処理被覆、金属アルコキシドを用いたゾルーゲル法による無機物の封孔処理被覆等を採用することができる。これらのうち、樹脂の高温劣化を回避する観点から、樹脂を含まない、ゾルーゲル法による無機物の封孔処理被覆が特に好ましい。
【0059】
(第2実施形態)<磁性楔>
本実施形態の磁性楔は、複数のFe基軟磁性粒子を有し、前記複数のFe基軟磁性粒子は、Feよりも酸化しやすい元素Mを含有するとともに、前記元素Mを含む酸化物相で結着されており、表面の少なくとも一部が機械加工面である。磁性楔の形状は、ティースとの接続態様に依存して変化し、長手稜線に段差やテーパーを設けたり、切欠きを入れたりすることもあり、断面を、例えば台形のような多角形や、異形にすることもある。
【0060】
図2に示す符号100は、前述した第1実施形態において成形体と説明したが、本実施形態では磁性楔と読み替えることができる。磁性楔の概略寸法は、例えば、長手方向(z方向)が10mmから300mm、幅方向(y方向)が2mm~20mm、厚さ方向(x方向)が1~5mm程度である。
【0061】
図5は、本実施形態の磁性楔の断面の拡大模式図である。磁性楔は、複数のFe基軟磁性粒子で構成され、より具体的には、Feよりも酸化しやすい元素Mを含有する複数のFe基軟磁性粒子1の圧密体である。そして、圧密体の粒子間に、空隙2と、Fe基軟磁性粒子1同士を結着するFe基軟磁性粒子の表面酸化物相3とを有している。かかる表面酸化物相は元素Mを含む酸化物相である。
このような元素Mを含有することで、Fe基軟磁性粒子1同士を強固に結着する良好な表面酸化物相3を容易に形成することができる。具体的には、複数のFe基軟磁性粒子1を成形後に酸化することで、元素Mの含有量がFe基軟磁性粒子1の内部よりも高い表面酸化物相3を容易に形成することができる。特に、元素MにAlを選択した場合、とりわけ良好な表面酸化物相3が得られるので好ましい。
【0062】
表面酸化物相3は、化学的に安定で電気抵抗が高く、Fe基軟磁性粒子1に強く密着して強固な表面酸化物相になる。層状に形成された表面酸化物相によってFe基軟磁性粒子の表面が覆われる。すなわち、かかる表面酸化物相がFe基軟磁性粒子1の粒子間を隔絶することで、電気抵抗の高い磁性楔が得られる。また、表面酸化物相がFe基軟磁性粒子1同士を強固に結着することで、曲げ強度の高い磁性楔が得られる。
【0063】
Fe基軟磁性粒子1に含有される元素Mの量は、少な過ぎると、Fe基軟磁性粒子1を酸化しても、元素Mの含有量がFe基軟磁性粒子の内部よりも高い、良好な表面酸化物相を形成しにくくなり、多過ぎると、Fe濃度が薄まるのでFe基軟磁性粒子の飽和磁束密度とキュリー温度が低下してしまう可能性がある。そこで、Fe基軟磁性粒子に含有される元素Mの量は、1.0質量%以上20質量%以下にするのが好ましい。このようにすることで、良好な表面酸化物相3を容易に形成でき、Fe基軟磁性粒子1の飽和磁束密度とキュリー温度を高く維持することができる。すなわち、電気抵抗と曲げ強度が高く、磁気シールド性の高い、磁性楔が実現できる。
【0064】
また、元素Mは、一種だけでなく、例えば、元素Mとして少なくともCrを含み、AlとCr、SiとCrなどの組み合わせのように二種以上選択してもよい。AlとCrの二種を選択して、Fe基軟磁性粒子がFe-Al-Cr系合金粒子であることがより好ましい。このようにすることで、比較的少ないAl量でも、元素Mの含有量の合計がFe基軟磁性粒子の内部よりも高い、良好な表面酸化物相を形成することができる。すなわち、曲げ強度が高く、比透磁率が調整された磁性楔を得ることができる。
【0065】
Fe-Al-Cr系合金とは、Feの次に含有量が多い元素が、CrおよびAl(順不同)である合金のことであり、その他の元素がFe、Cr、Alより少量含まれていてもよい。Fe-Al-Cr系合金の組成はこれを特に限定するものではないが、例えばAlの含有量としては、好ましくは2.0質量%以上、より好ましくは5.0質量%以上である。高飽和磁束密度を得る観点からは、Alの含有量は、好ましくは10.0質量%以下、より好ましくは6.0質量%以下である。また、Crの含有量は、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは2.5質量%以上である。高飽和磁束密度を得る観点からは、Crの含有量は、好ましくは9.0質量%以下、より好ましくは4.5質量%以下である。
【0066】
なお、上記元素Mに二種以上の元素を選択した場合、それら含有量の合計は、一種を選択した場合と同様に、1.0質量%以上20質量%以下が好ましい。
【0067】
Fe基軟磁性粒子は、上記元素M以外の元素が添加された粒子でもよい。ただし、これら添加元素は、元素Mより少量添加するのが好ましい。また、Fe基軟磁性粒子は、組成が異なる複数種のFe基軟磁性粒子で構成することもできる。
【0068】
表面酸化物相は、元素M以外にFeやその他の元素を含有する表面酸化物相にしてもよく、元素MやFeなどの元素濃度は、表面酸化物相の内部において必ずしも均一である必要はない。すなわち、粒界ごとに元素濃度が異なっていてもよい。
【0069】
表面酸化物相の厚さは、厚くなるほど粒子同士の電気的な隔絶が大きくなって、磁性楔の抵抗率が増加する。一方、比透磁率、磁気シールド効果等を高めるためには、表面酸化物相は薄い方が好ましい。抵抗率と曲げ強度が高く、比透磁率が調整された磁性楔を提供する観点からは、表面酸化物相の厚さは、例えば0.01~1.0μmが好ましい。
【0070】
Fe基軟磁性粒子の粒径を小さくすることで、磁性楔自身に発生する渦電流損失低減に有利である一方、粒径が小さいと、粒子の製造自体が困難になる可能性がある。そこで、磁性楔の断面観察像において、Fe基軟磁性粒子の各粒子の最大径の平均は、0.5μm以上、15μm以下であるのが好ましく、0.5μm以上、8μm以下であるのがより好ましい。また、最大径が40μmを超える粒子個数比率は、1.0%未満であるのが好ましい。なお、ここで言うFe基軟磁性粒子の各粒子の最大径の平均とは、磁性楔の断面を研磨して顕微鏡観察を行い、一定の面積の視野内に存在する30個以上の粒子の最大径を読み取った、それらの平均値のことである。
【0071】
空隙と表面酸化物相は、Fe基軟磁性粒子の粒子間に存在することで、Fe基軟磁性粒子の平均粒子間隔を広くし、磁性楔の電気抵抗を高めることができる。加えて、空隙と表面酸化物相の、磁性楔全体に対する体積比率を調整することで、磁性楔の比透磁率を調整することもできる。別の言い方をすれば、磁性楔全体に対する空隙と表面酸化相の体積比率と、Fe基軟磁性粒子の体積比率(以下では占積率と呼ぶ)は、相補的な関係にあるので、Fe基軟磁性粒子の占積率を調整することで、磁性楔の比透磁率を調整することもできる。
占積率は、Fe基軟磁性粒子の真密度に対する、磁性楔の密度の割合(相対密度)で定義される。占積率は、後の実施形態で説明するように、混合物の成形圧、あるいは、成形体の熱処理温度により調整することができる。
【0072】
ここでいう比透磁率とは、磁性楔の直流B-H曲線において、印加磁界160kA/mにおける磁束密度の値(単位:T)を磁界の値(即ち160kA/m)で除し、さらに真空の透磁率(4π×10-7H/m)で除した値μである。また、比透磁率として、磁性楔の飽和磁束密度の1/10以下の励磁レベルで、かつ磁性楔の自然共鳴周波数の1/10以下の周波数(直流を含む)で測定された磁化曲線(いわゆるマイナーループ)の傾きを、真空の透磁率(4π×10-7H/m)で除した値μiを用いる場合もある。自然共鳴周波数とは、比透磁率の虚数部が極大となる周波数のことであり、複数の極大が現れる場合には最も低周波側のものを採用する。
【0073】
磁性楔の比透磁率は、高いほど磁気シールド効果が高まって損失が低減する。その反面、比透磁率が高すぎると磁束がティースからロータに流れずにティース間で短絡し、回転電機のトルクが低下する。このような効果は磁性楔の厚さにも依存し、比透磁率の高い磁性楔でも薄くすることで磁気抵抗を調整し、損失低減とトルクをある程度両立することができる。また、磁性楔が厚すぎると、その分コイル設置スペースを圧迫することになり好ましくない。本実施形態の磁性楔は強度が高いため、薄くすることが特に好適である。そのため、磁性楔の厚さは例えば3mm以下とすることができる。
【0074】
磁性楔の厚さが3mm以下であっても磁気シールドによる損失低減効果を維持するためには、磁性楔の比透磁率μは、4以上(μiで5以上)であるのが好ましく、7以上(μiで10以上)であるのがより好ましい。そのためには、磁性楔におけるFe基軟磁性粒子の占積率が、50%以上であるのが好ましく、70%以上であるのがより好ましい。
【0075】
一方、磁性楔を薄くしすぎると耐荷重が低下して強度不足に陥る可能性がある。かかる観点から、磁性楔の厚さは0.5mm以上が好ましく、1mm以上がより好ましい。磁性楔の厚さが1mm以上であっても回転電機のトルク低下を抑制するためには、磁性楔の比透磁率μは8.0以下(μiで65以下)に調整されているのが好ましく、7.5以下(μiで50以下)に調整されているのがより好ましい。そして、7.0以下(μiで35以下)に調整されているのがさらに好ましい。そのためには、磁性楔におけるFe基軟磁性粒子の占積率が、90%未満であるのが好ましく、85%以下であるのがより好ましい。
【0076】
磁性楔は、コイルを良好に磁気シールドするために、比透磁率が高いことが好ましいとともに、コイルやロータの交流磁界による渦電流損失を抑制するために、電気抵抗が高いことが好ましい。磁性楔の体積抵抗率は10Ω・m以上であるのが好ましく、20Ω・m以上であるのがより好ましく、さらに100Ω・m以上であるのが好ましい。そして、磁性楔の体積抵抗率は1000Ω・m以上であるのがより一層好ましい。磁性楔の曲げ強度も、高いほど好ましく、三点曲げ強度の値で150MPa以上であるのが好ましく、200MPa以上であるのがより好ましい。そして、磁性楔の三点曲げ強度は250MPa以上であるのがさらに好ましい。
【0077】
上述のFe基軟磁性粒子と表面酸化物相を有する形態によって、電気抵抗と曲げ強度が高い磁性楔が実現できる。そして、かかる形態と空隙2とで、電気抵抗と曲げ強度が高く、比透磁率が調整された磁性楔を提供することができる。
【0078】
比透磁率の調整等を目的として、Feよりも酸化しやすい元素Mを含有する複数のFe基軟磁性粒子と、複数の非磁性粒子の圧密体を用いることもできる。かかる場合も、複数のFe基軟磁性粒子は、元素Mを含む酸化物相で結着されている。ここで言う「非磁性」とは室温にて強磁性でないことを意味する。具体的には、室温にて常磁性、反磁性、反強磁性のいずれかの磁性を示す粒子を意味している。また、非磁性粒子は金属であっても、酸化物などの非金属であってもよい。非磁性粒子は、Fe基軟磁性粒子の粒子間に存在することで、Fe基軟磁性粒子の平均粒子間隔を広くして、反磁界効果により、磁性楔の比透磁率を下げることができる。すなわち、非磁性粒子の含有量を調整することで、比透磁率の調整が可能である。
【0079】
従来の磁性楔は、鉄粉をエポキシ樹脂中に分散させ、軟磁性粒子同士をエポキシ樹脂にて結着しているので、温度上昇とともに樹脂成分が減少するうえ、高温下の環境では、樹脂が軟化して結着強度が低下してしまう可能性がある。すなわち、回転電機のような高温下で使用すると、曲げ強度に課題を生じる可能性がある。これに対して、本実施形態の磁性楔は、樹脂ではなく表面酸化物相で粒子同士を接合しているので、高温下で粒子同士の結着強度が低下することを抑制でき、高温下でも曲げ強度の高い磁性楔が提供できる。例えば、室温(25℃)から150℃に昇温したときの三点曲げ強度の低下率を5%未満、より好ましくは3%未満にすることができる。さらには、室温(25℃)から200℃に昇温したときの三点曲げ強度の低下率も10%未満、より好ましくは5%未満にすることができる。
【0080】
上述のように従来の磁性楔には結着材として樹脂が含まれているため、高温環境下に長時間さらされると樹脂が分解劣化して不可逆的な強度低下と寸法減少を引き起こすという課題があった。これに対し、本実施形態である樹脂レスの磁性楔ではそのような問題は発生しない。この点においても、耐熱性と長期信頼性に優れた磁性楔が提供できる。例えば、180℃で1000時間経過後の質量の減量率を0.05%未満、より好ましくは0.03%未満にすることができる。また、220℃で450時間経過後の質量の減量率も0.1%未満、より好ましくは0.05%未満にすることができる。さらには、290℃で240時間経過後の質量の減量率も1%未満、より好ましくは0.5%未満にすることができる。
【0081】
回転電機の耐熱温度は、用途や仕様により異なるものの、規格上155℃や180℃と設定されるものがある。加えて、一部の回転電機では、200℃程度にまで上昇するものもある。本実施形態の磁性楔は、高温下でも優れた曲げ強度を維持できるので、これまで磁性楔が設置できなかった、最高温度が180℃を超える回転電機、さらには200℃を超えるような回転電機にも好適に用いることができる。
【0082】
本実施形態の磁性楔を構成する圧密体は樹脂レスであるため、高い熱伝導率を有する。熱伝導率が高く放熱性に優れた本実施形態を、回転電機の発熱源であるギャップ近傍に磁性楔として配置することにより効果的に熱を逃がすことができ、回転電機の冷却効率を向上させる効果も期待できる。このような冷却効果は磁性楔の熱伝導率が高いほど好ましく、例えば熱伝導率が2.0W/(m・K)以上が好ましく、5.0W/(m・K)以上がより好ましく、8.0W/(m・K)以上がさらに好ましい。また、回転電機のステータを構成する電磁鋼板の熱伝導率は一般的に20W/(m・K)程度と高いため、磁性楔の熱伝導率がこの値に近いほど冷却効果が高まると期待できる。従って、磁性楔の熱伝導率はステータを構成する磁性材料(電磁鋼板)の1/10以上であることが好ましく、1/5以上であることがより好ましく、1/3以上であることがさらに好ましい。
【0083】
本実施形態の磁性楔は、その表面の少なくとも一部が機械加工面である。なお、ここでいう機械加工面とは、切削加工、研削加工、切断加工等の機械加工が施されたままの面に限定する意味ではなく、機械加工を経た面を意味する。すなわち、機械加工後に熱処理、被覆処理等の処理を経て、機械加工された面の性状が変化している面を含む趣旨である。
【0084】
機械加工面は、より好ましくは、後述する表面酸化物相を形成する熱処理を施した面である。従来から、磁性楔の成形は金型を用いて行われるため、磁性楔の表面は金型と接した面である。本実施形態の磁性楔も金型を用いた成形を経て作製することができるが、機械加工(面加工)によって、表面の少なくとも一部に機械加工面を形成する。機械加工を施した面は、平滑な金型に接した面よりも、表面粗さが大きくなる。表面粗さが大きい面は、例えば回転電機用固定子のティースに接する面として使用すれば、ティース側の凹凸との間の接触抵抗が大きくなり、磁性楔の固定の強化が期待できる。また、表面粗さが大きい面は、被膜、接着剤を設ける面として使用すれば、アンカー効果によって、被膜等の密着強度向上が期待できる。表面全体が機械加工面であってもよいが、加工が煩雑になるため、必要な部分として表面の一部が機械加工面であることが好ましい。
【0085】
本実施形態の磁性楔は、xy平面上にある長方形断面をz方向に引き延ばして柱状にした形状と換言することができる。さらに言えば、該成形体は任意の平面上に描かれた線対称な図形を、該平面の法線方向に引き延ばして得られる柱状、と換言することができる。このとき、端面のことを、任意の平面上に描かれた図形と平行な面と言い換えることができる。また、平面および側面のことを、任意の平面に描かれた図形において対照的な位置にある一対の辺を前記法線方向に引き延ばして得られる一対の面と言い換えることができる。
【0086】
また図4のように平面の角部にアールを備えてもよい。このアールによる効果は、Fe基軟磁性粒子の粉末やバインダの組成によらず得ることができる。すなわち、本実施形態の磁性楔は、複数の軟磁性粒子からなり、任意の平面上に描かれた線対称な図形を該平面の法線方向に引き延ばして得られる角柱状であり、前記線対称な図形において対照的な位置にある少なくとも一対の辺を前記法線方向に引き伸ばして得られる少なくとも一対の面は機械加工面であり、いずれか一方もしくは両方の端面の少なくても対向する1対の辺にアールを施されていることが好ましい。
【0087】
上述した第1実施形態において、図3および図4は、成形体の変形例と説明したが、本実施形態においては、これらを磁性楔の変形例と読み替えてもよい。図3および図4に示す実施形態はすでに詳細に説明したため、ここでは省略する。
【0088】
図2の成形体の側面が機械加工面であれば、かかる面を後述する第3実施形態においてティースと接する面、すなわち磁性楔がティース間に嵌装され固定される面として用いることができる。かかる磁性楔は、機械加工面が形成されている一対の側面を介して、その両側からティースで挟持可能であるため、より強固な固定が可能である。かかる一対の側面は非平行であることが好ましい。こうすることで、磁性楔をティースに嵌めた時に強固な固定が可能となり、製造性向上の効果を併せ持つためである。
【0089】
本実施形態の磁性楔は、上記圧密体を基体として、その表面に電気絶縁性被覆を備えることもできる。このようにすることで、磁性楔の電気抵抗と強度をさらに高くするとともに、圧密体表面からの粒子の脱落を抑制して、信頼性の高い磁性楔を提供することができる。被覆には、渦電流損失を抑制するために、樹脂、酸化物等による電気絶縁性被覆が好ましく、例えばエポキシ樹脂による粉体塗装、ワニス又はシリコン樹脂の含浸による封孔処理被覆、金属アルコキシドを用いたゾルーゲル法による無機物の封孔処理被覆等を採用することができる。これらのうち、樹脂の高温劣化を回避する観点から、ゾルーゲル法による無機物の封孔処理被覆が特に好ましい。
【0090】
(第3実施形態)<回転電機用固定子および回転電機>
次に、本発明の第3実施形態である回転電機300を、その構成要素の一つである回転電機用固定子とともに説明する。
図5は、回転電機300の模式図であり、回転電機300の回転軸に垂直な断面構造を示している。回転電機300は、ラジアルギャップ型回転電機であり、回転電機用固定子(ステータ31)と、ステータ31の内側に配置された回転子(ロータ32)を有し、これらが同軸にして配置されている。ステータ31は、複数のティース34と複数のティース34により形成された複数のスロットとを有し、コイル33を巻き回した複数のティース34が周方向に等間隔に配置されている。
【0091】
本実施形態の回転電機では、スロットのロータ32側、すなわちティース34のロータ32側先端に、隣り合うティース34の先端を接続するように、第2実施形態の磁気楔100が嵌装されている。
【0092】
ここで、ティース34の比透磁率と飽和磁束密度は、通常、磁性楔100のそれらよりも高く設計される。これにより、磁性楔100に達したロータ32からの磁束は、磁性楔100を経由してティース34に流入し、コイルに達する磁束が抑制されて、コイルに生じる渦電流損失を低減することができる。
【0093】
また、回転電機の駆動時において、コイル電流により生じたティース34内の磁束は、大部分がギャップを隔ててロータ32に流入するものの、一部は磁性楔100に誘引されて周方向に広がるようになる。これにより、ステータ31とロータ32との間のギャップ内磁束分布がなだらかになり、例えばロータ32に永久磁石を配置した回転電機では、コギングを抑制することができ、さらにロータ32に発生する渦電流損を低減することができる。また、例えばロータ32にかご形導体を配置した誘導型回転電機では、二次銅損を低減することができる。以上のように上述の磁性楔100を回転電機に配することで、損失を低減し、高効率・高性能の回転電機にすることができる。
【0094】
磁性楔100の断面形状は矩形に限らず、上述のように様々な形状とすることできる。例えば、図7に示したように、ティース34の先端が周方向に突起を有するような形状であれば、磁性楔100の断面形状を凸型として、図のように配置することもできる。
さらに、磁性楔100の厚さ(回転電機の径方向の寸法)を、磁性楔の幅方向に変化させた形状とすることも可能である。例えば、図8に示すように、幅方向の中央付近が相対的に薄くなるような形状とすることで、ティース34間における磁束の過剰な短絡を磁性楔の中央付近の薄肉部で抑制しつつ、両端の肉厚部で磁束の空間分布を効果的になだらかにすることができるため好ましい。これにより、高いレベルでトルクと効率の両立が実現可能となる。なお、磁性楔100の厚さの別の形態として、図8の直線的なもの以外にも、曲線的または段階的に変化させるなど、種々のバリエーションが適用可能である。
【0095】
隣り合うティース34の先端を接続するように磁性楔100を配置する場合、磁性楔100は上述の機械加工面の少なくとも一部でティース34に接していることが好ましい。すなわち、磁性楔100とティース34とが接する部分に機械加工面を配置することが好ましい。磁性楔100の機械加工面の少なくとも一部とティース34とは、直接接してもよいし、接着層等を介して接してもよい。上述のように、かかる構成によって、磁性楔100の固定の強化等が期待できる。
【0096】
さらに、線対称な断面を有する柱状であり、軸方向から見て対称的な位置にある一対の側面が機械加工面である磁性楔100を用いて、かかる一対の側面をティース34と接する面、すなわち磁性楔100がティース34間に嵌装され固定される面として用いることができる。例えば、電磁鋼板、アモルファス合金薄帯等の板状の磁性体を積層して構成されたティース34の側面、すなわちスロット側の面は、凹凸が大きい。したがって、かかる面と磁性楔100の加工面とが接する配置を採用することにより、磁性楔がより強固に固定された回転電機用固定子(ステータ31)および回転電機が期待できる。
【0097】
磁性楔100の厚さは、前述のように比透磁率との兼ね合いで適宜設定可能であるが、薄すぎると強度が低下するほか、磁性楔100としての効果も弱まるので、1mm以上が好ましい。一方、厚すぎるとコイル33のスペースを圧迫して銅損増大の一因になるほか、磁性楔100の体積が増大するので磁性楔100自体に生じる損失(鉄損)も増大する。従って、厚さは5mm以下が好ましく、3mm以下がより好ましく、2mm以下がさらに好ましい。
【0098】
磁性楔100の幅(回転電機の周方向の寸法)は、隣接するティース34の間隔に合わせて適宜設定されるが、2mmから20mmの範囲にあることが好ましい。
【0099】
磁性楔100の長さ(回転電機の軸方向の寸法)も、基本的にはステータ31の厚さ(軸方向長さ)に合わせて適宜設定されるが、長すぎると作製自体が困難になるほか、回転電機への取り付け時に折れやすくなって作業性が悪くなる。従って長さは、300mm以下が好ましく、200mm以下がより好ましく、100mm以下がさらに好ましい。一方、短すぎると、回転電機への取り付け時に作業が煩雑となって好ましくない。かかる観点から、長さは10mm以上が好ましく、25mm以上がより好ましく、50mm以上がさらに好ましい。
【実施例0100】
Fe基軟磁性粒子としてFe-Al-Cr系合金を用いた実施例を以下に示す。
【0101】
(圧密体の作製)
高圧水アトマイズ法により、Fe-5%Al-4%Cr(質量%)の合金粉末(Fe基軟磁性粉末)を作製した。原料の溶解および出湯はAr雰囲気下で行った。作製した粉末の平均粒径(メジアン径)は12μm、粉末比表面積は0.4m/g、粉末の真密度は7.3g/cm、粉末の含有酸素量は0.3%であった。
この合金粉末にポリビニルアルコール(PVA)とイオン交換水を加えてスラリーを作製し、スプレードライヤーで噴霧乾燥を行って造粒粉を得た。原料粉末を100質量部とするとPVA添加量は0.75質量部である。得られた造粒粉に0.4質量部の割合でステアリン酸亜鉛を添加し、混合した。得られた混合粉を金型に充填し、室温にて成形圧力0.9GPaでプレス成形した。作製した成形体に、大気中750℃×1時間の熱処理を施した。この際の昇温速度は250℃/hとした。熱処理後の圧密体に含まれる酸素量は2%であった。
【0102】
特性評価用として作製した試料の寸法は以下の通りである。
曲げ強度・加熱減量評価用試料:幅2.0mm×長さ25.5mm×厚さ1.0mm
直流磁化曲線評価用試料:10mm角×厚さ1.0mm
磁心損失・電気抵抗評価用試料:外径13.4mm×内径7.7mm×厚さ2.0mm(リング形状)
【0103】
(実施例の断面組織)
上記のように作製した実施例について、走査電子顕微鏡(SEM/EDX)を用いて断面観察を行い、同時に各構成元素の分布を調べた。結果を図9に示す。図9(a)はSEM像であり、図9(b)~(e)はそれぞれ、Fe(鉄)、Al(アルミニウム)、Cr(クロム)、O(酸素)の分布を示すマッピング像である。明るい色調ほど対象元素が多いことを示す。図9から、Fe基軟磁性粒子間の粒界にはアルミニウムと酸素が多く、酸化物相が形成されていることがわかる。さらに、各軟磁性粒子同士がこの酸化物相を介して結合している様子がわかる。
【0104】
(比較例)
比較例として市販の磁性楔材である磁性積層板を使用した。この磁性楔はガラスエポキシ基板中に鉄粉を分散させたものであり、厚さ3.2mmの板材から各種測定用に必要なサイズを切り出して使用した。
【0105】
(密度・電気抵抗)
上記実施例の試料の密度は6.4g/cmであった。試料の密度を上記の粉末真密度で除した値である占積率(相対密度)は88%であった。一方、比較例の密度は3.7g/cmであった。
また上記のリング形状試料を使用して測定した実施例の電気抵抗率は、3×10Ω・mであった。なお電気抵抗率は、リング試料の対向する二平面に導電性接着剤を塗って電極を形成し、アドバンテスト社製デジタル超高抵抗計R8340で測定した50V印加時の抵抗値R(Ω)を用いて、次式で電気抵抗率ρ(Ω・m)を算出した。
ρ(Ω・m)=R×A/t
ここでAはリング試料の平面の面積(m)、tは試料の厚さ(m)である。
一方、比較例の電気抵抗は低すぎて上記の超高電気抵抗計では測定できなかったため、日置電機製抵抗計RM3545を用いて測定した。測定に供した試料は10mm角に切り出した板材の両面に電極を形成したものである。当該電極に上記抵抗計のプローブを押し当てて板厚方向の電気抵抗値を測定し、上式から比較例の電気抵抗率を算出したところ、9×10-3Ω・mであった。
【0106】
(直流磁化曲線)
試料の直流磁化曲線(B-H曲線)は直流自記磁束計(東英工業製TRF-5AH)を用いて、上記の10mm角試料を電磁石の磁極に挟み、最大印加磁界500kA/mで測定した。
室温での測定結果を図10に示す。同図には比較例のB-H曲線も併せて示す。印加磁界160kA/mにおける磁束密度の値は、実施例が1.60T、比較例が0.76Tであった。従って比透磁率μは、実施例が8.0、比較例が3.8であった。
また、f=1kHz、Bm=0.07Tで測定した交流磁化曲線(マイナーループ)から求めた試料の比透磁率μiは59であった。実施例の自然共鳴周波数は150MHzであった。なお、比較例の磁心損失も同様の方法で測定を試みたが透磁率が低すぎて測定困難であった。
【0107】
(磁心損失)
上記実施例のリング試料に、ポリウレタン被覆銅線を用いて一次巻線と二次巻線を施した。巻き回数は一次側、二次側とも50ターンとした。この試料を、大電流バイポーラ電源(NF回路設計ブロック製BP4660)を備えたB-Hループアナライザ(IFG社製IF-BH550)に接続して鉄損Pcvを測定した。測定条件は、周波数f=50Hz~1kHz、最大磁束密度Bm=0.05~1.55Tである。なお、一次巻線のジュール熱による試料温度上昇を防ぐために、冷媒温度を23℃に維持した冷却槽(Julabo製高低温サーキュレータFP50-HE)に試料を浸漬して鉄損を測定した。冷媒にはシリコンオイル(信越化学製KF96-20cs)を使用した。
【0108】
測定結果を図11に示す。図中の白丸が測定値である。図のようにBmの高い領域では磁気飽和に近づくためPcvが徐々に飽和する傾向を示している。次項のモータ特性シミュレーションでは、実施例の鉄損としてこの実測値を用いた。なお、実測で測定できたのはBm=1.55Tまでであったが、モータ内部で磁性楔は電磁鋼板の飽和磁束密度に相当する2T程度まで磁化される可能性がある。そこで、1.55Tを超える高Bm側のPcv値については、測定結果を最小二乗法で以下の式に当てはめ、この式の外挿値を使用した。
実施例: Pcv=6.9f/(1+(1.28/Bm)
ここでPcvの単位はkW/m、Bmの単位はT、fの単位はHzである。図11中の実線がこの式の計算値である。
比較例の鉄損も上記と同様の方法で測定した。測定に供した試料は外径20mm、内径14mm、厚さ3.2mmのリング形状であり、これに一次巻線、二次巻線とも85ターンの巻線を施した。比較例は透磁率が実施例より低いため、測定できた最大磁束密度Bmは0.6Tまでであったが、測定値は実施例のPcvの約二倍であった。次項のモータ特性シミュレーションでは、比較例の鉄損としてこの実測値を用いた。なお、Bm>0.6TにおけるPcv値については実施例と同様に測定結果を以下の式に当てはめ、この式の外挿値を使用した。
比較例: Pcv=6.7f/(1+(1.1/Bm)1.58
【0109】
(圧密体の加工面の評価)
実施例の成形体と同様にプレス成形によって作製した成形体に回転砥石で研削加工を施した。加工後の成形体に、大気中で750℃、1時間の熱処理を施し、圧密体を得た。得られた圧密体の加工面(上記研削加工を施した面)と非加工面(成形パンチ面)の表面粗さをOLYMPUS社製レーザー顕微鏡OLS5100で測定した。測定は、加工面と非加工面のそれぞれで5カ所ずつ行った。1カ所あたりの評価面積は1.12mmであった。非加工面(成形パンチ面)の算術平均粗さRaは2.00~3.06μmの範囲で、その平均RASは2.37μmであった。これに対して、加工面の算術平均粗さRaは4.92~11.13μmの範囲で、その平均RMDは7.93μmであった。この結果から、RMDとRASの比RMD/RASは、3.3程度であり、機械加工により、相対的に粗い面が形成できることが確認された。
【0110】
(回転電機特性シミュレーション)
誘導型回転電機に実施例もしくは比較例の磁性楔を設置した場合の特性(効率とトルク)を有限要素法による電磁界シミュレーションを用いて算出した。その際、磁性楔の磁気特性として図11の磁化曲線と前述の鉄損値を計算に取り入れた。
電磁界シミュレーションに供した誘導型回転電機の諸元は以下の通りである。
ステータ:直径450mm×高さ162mm
極数:4 スロット数:36
ロータおよびステータ材質:電磁鋼板(50A1000)
回転電機出力:150kW 回転数:1425rpm
図12に、本シミュレーションで使用した磁性楔100の設置位置を示す。磁性楔の幅(回転電機の周方向の長さ)は7.0mm、厚さ(回転電機の径方向の長さ)は0.0mm(磁性楔無し)、1.5mm、3.0mmと変えて計算した。
【0111】
(回転電機特性シミュレーション結果)
図13に電磁界シミュレーション結果を示す。この図は、横軸に回転電機の効率、縦軸に回転電機のトルクをとって計算結果をプロットしたものである。縦軸のトルクは磁性楔無しの場合のトルク値で規格化した値を示している。厚さ3mmの実施例と比較例を比較した場合、実施例では高効率が得られる反面、トルクは比較例よりも低下した。これは、比透磁率の高い実施例では、ティース間での磁束短絡が比較例よりも多くなったことが原因と考えられる。そこで磁束短絡を抑制することを目的に実施例の厚さを1.5mmに薄くしたところ、比較例と同等の効率とトルクが得られた。
【0112】
以上のように、透磁率の高い実施例を磁性楔に用いたうえで、磁性楔の厚さを薄く調整することによって、トルクの低下を抑制しつつ効率を向上させることができる。しかも、本電磁界シミュレーションには含まれていないものの、磁性楔が薄くなるとその分コイルのスペースが増えるので、コイル線径を大きくするなどによりコイルの電気抵抗を下げ得るので、さらなる効率の向上も期待できる。
【0113】
(曲げ強度の温度依存性)
前述の棒状試料を用い、万能試験機(インストロン社製5969型)を使用して室温から200℃での三点曲げ強度を測定した。測定条件は、ロードセル容量500N、支点径4mm、圧子径10mm、支点間距離16mm、試験速度0.5mm/分である。破断時の荷重W(N)から、次の式で三点曲げ強度σを算出した。
σ=3LW/(2bh
ここで、Lは支点間距離、bは試料の幅、hは試料の厚さである。
【0114】
以上のようにして求めた実施例の三点曲げ強度を図14に示す。図には比較例の三点曲げ強度も併せて示した。図のように、樹脂を含む比較例の三点曲げ強度は温度上昇によって顕著に低下するのに対して、本実施形態である樹脂レスの実施例は200℃の高温でも強度低下は無く、室温と同等の高強度を維持している。
【0115】
(加熱減量)
モータの駆動時にはその内部温度が上昇するため、高温環境下に長時間晒されても特性劣化を生じない耐久性が磁性楔には求められる。この耐久性を評価するために、前述の棒状試料を用いてエージングによる質量変化(加熱減量)の測定を行った。エージングは空気中で220℃および290℃で行い、一定時間経過ごとに試料を取り出して冷却し、室温にて質量測定を行った。ここで、加熱温度を220℃と290℃に設定した理由は次の通りである。220℃はモータの内部温度が到達し得る最高温度であり、290℃は加熱減量の加速試験を行うためである。質量測定には最小表示0.01mgの電子天秤(島津製作所製AUW220D)を使用した。なお、実施例の棒状試料は質量が0.3g程度と小さいので、測定の信頼性確保のために試料数を5個とした。
【0116】
220℃での測定結果を図15に、290℃での測定結果を図16に示す。いずれの図においても、実施例のデータは試料5個の平均値である。また、図には比較例の測定結果も併せて示す。220℃の場合、456時間経過後に比較例の質量は0.56%減少するのに対し、実施例の質量変化は0.05%未満に留まっている。290℃では質量変化の差が顕著となり、240時間経過後において比較例の質量減少は10%以上になるのに対し、実施例の質量変化はやはり0.05%未満に留まった。
また、上記の290℃エージング後に三点曲げ強度を測定したところ、実施例ではエージング前と曲げ強度に変化が見られなかったのに対して、比較例は手で持っただけで折れてしまうほど強度が低下していた。
以上のように本実施例は比較例よりも高温長時間のエージングに対する耐久性に優れ、磁性楔としてより実用性の高い材料であると言える。
【0117】
(熱拡散率)
実施例と比較例の室温での熱拡散率を熱拡散率測定装置(Netzsch社製LFA467)で測定したところ、実施例は3.4mm/s、比較例は0.8mm/sであった。また、実施例と比較例の室温での比熱を示差走査熱量計(Netzsch製DSC404F1)で測定したところ、実施例は0.4J/(g・K)、比較例は0.5J/(g・K)であった。熱拡散率と比熱、および前述の密度を乗じて熱伝導率を求めたところ、実施例は8.7W/(m・K)、比較例は1.5W/(m・K)であり、実施例は比較例の約6倍の高い熱伝導率を示した。一般に樹脂の熱伝導率は金属の1/10以下と低いので、本実施例の高い熱伝導率は樹脂レスという特徴に起因したものと考えられる。熱伝導率が高く放熱性に優れた本実施例を、発熱源であるギャップ近傍に磁性楔として配置することにより効果的に熱を逃がすことができ、回転電機の冷却効率を向上させる効果も期待できる。
【0118】
以上より、本発明によれば、磁性楔を構成する粒子同士は、表面酸化物相で結着されていることになるので、電気抵抗と曲げ強度が高い磁性楔を提供することができる。更に、本発明の磁性楔は樹脂レスで構成されることになるので、耐熱性、放熱性や長期信頼性にも優れた磁性楔とすることができる。
【0119】
以上、本発明について、上記実施形態を用いて説明してきたが、本発明の技術範囲は、上記実施形態に限定されない。特許請求の範囲に記載されている技術範囲にて、内容を変更できるものである。
【符号の説明】
【0120】
1:Fe基軟磁性粒子
2:空隙
3:表面酸化物相
31:ステータ
32:ロータ
33:コイル
34:ティース
100:成形体(磁性楔)
301~313:側面
304、306、307、308、310:非平行側面
305、309、312、313:平行側面
311:曲面

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16