(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022126933
(43)【公開日】2022-08-31
(54)【発明の名称】電波吸収シート
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20220824BHJP
H01F 1/34 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
H05K9/00 M
H05K9/00 T
H01F1/34 140
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021024796
(22)【出願日】2021-02-19
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】畠中 優介
(72)【発明者】
【氏名】白田 雅史
【テーマコード(参考)】
5E041
5E321
【Fターム(参考)】
5E041AB12
5E041BB03
5E041BC01
5E041NN04
5E041NN06
5E321AA23
5E321BB32
5E321BB35
5E321BB53
5E321GG11
5E321GH03
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、六方晶フェライト粒子の表面に窒化物を被覆したフィラー、およびバインダーを含む電波吸収シートであって、高い電磁波吸収性、高い放熱性を両立する電波吸収シートを提供することにある。
【解決手段】六方晶フェライト粒子の表面に窒化物を被覆したフィラー、およびバインダーを含む電波吸収シートであって、電波吸収シートにおけるフィラーの体積充填率が15体積%以上45体積%以下であり、透過減衰量が8.0dB以上、かつ反射減衰量が8.0dB以上であり、熱伝導率が1.5W/m・K以上である、電波吸収シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方晶フェライト粒子の表面に窒化物を被覆したフィラー、およびバインダーを含む電波吸収シートであって、
前記電波吸収シートにおける前記フィラーの体積充填率が15体積%以上45体積%以下であり、
透過減衰量が8.0dB以上、かつ反射減衰量が8.0dB以上であり、
熱伝導率が1.5W/m・K以上である、電波吸収シート。
【請求項2】
初期の絶縁破壊電圧が0.6kV/mm以上である、
請求項1に記載の電波吸収シート。
【請求項3】
前記フィラーの粒径が3μm以上15μm以下であって、
前記フィラーの被覆層の厚みが0.1μm以上2.5μm以下である、
請求項1または2に記載の電波吸収シート。
【請求項4】
前記窒化物が窒化ホウ素である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の電波吸収シート。
【請求項5】
前記フィラーのX線光電子分光分析により検出される、
表面における、ホウ素原子濃度に対する酸素原子濃度の原子濃度比が、0.12以上である、
請求項4に記載の電波吸収シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波吸収性を有する絶縁材料に関する。さらに詳しくは、例えば、発熱性電子部品等で高電磁波吸収性、および高放熱性を両立する電波吸収シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、急速に発達してきたコンピューター、家電製品等の電子機器、またはスマートホン、タブレッド、自動車に搭載される各種センサー機器は、多くの高周波の電磁波ノイズを発生するため、電磁波障害が問題になっている。このため、上記電子機器または各種センサー機器における電子部品等の電磁波を吸収するための技術が求められている。
【0003】
この問題に対して、種々の技術が提案されており、例えば、特許文献1及び2等では、軟磁性金属と無機酸化物の複合フィラーが開示されている。また、特許文献3等では、フェライトを樹脂へ混合させた電磁波吸収性を有するシート材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5453477号公報
【特許文献2】特開2012-230958号公報
【特許文献3】特開平6-275982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記電子部品の高性能化に伴って、モジュールのエネルギー密度はますます高まってきており、高電磁波吸収性、および高放熱性を両立する電波吸収シートが求められている。
本発明の課題は、上記従来の問題を解決するため、六方晶フェライト粒子の表面に窒化物を被覆したフィラー、およびバインダーを含む電波吸収シートであって、高い電磁波吸収性、高い放熱性を両立する電波吸収シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明の一態様は以下の通りである。
【0007】
(1)六方晶フェライト粒子の表面に窒化物を被覆したフィラー、およびバインダーを含む電波吸収シートであって、上記電波吸収シートにおける上記フィラーの体積充填率が15体積%以上45体積%以下であり、透過減衰量が8.0dB以上、かつ反射減衰量が8.0dB以上であり、熱伝導率が1.5W/m・K以上である電波吸収シート。
【0008】
(2)初期の絶縁破壊電圧が0.6kV/mm以上である、上記(1)に記載の電波吸収シート。
【0009】
(3)上記フィラーの粒径が3μm以上15μm以下であって、上記フィラーの被覆層の厚みが0.1μm以上2.5μm以下である、上記(1)または(2)に記載の電波吸収シート。
【0010】
(4)上記窒化物が窒化ホウ素である、上記(1)~(3)のいずれかに記載の電波吸収シート。
【0011】
(5)上記フィラーのX線光電子分光分析により検出される、表面における、ホウ素原子濃度に対する酸素原子濃度の原子濃度比が、0.12以上である、上記(4)に記載の電波吸収シート。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、高い電磁波吸収性能、および高い放熱絶縁性性能を有する電波吸収シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一態様は、六方晶フェライト粒子の表面に窒化物を被覆したフィラー、およびバインダーを含む電波吸収シートであって、上記電波吸収シートにおける上記フィラーの体積充填率が15体積%以上45体積%以下であり、透過減衰量が8.0dB以上、かつ反射減衰量が8.0dB以上であり、熱伝導率が1.5W/m・K以上10.0W/m・K以下であり、絶縁破壊電圧が0.6kV/mm以上10kV/mm以下である電波吸収シートに関する。
【0014】
<フィラー>
本発明に用いられるフィラーは、六方晶フェライト粒子の表面に窒化物を被覆してなる構造を有する。
【0015】
本発明および本明細書において、「六方晶フェライトの粒子」とは、X線回折分析によって、主相として六方晶フェライト型の結晶構造が検出される磁性粒子をいうものとする。主相とは、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが帰属する構造をいう。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが六方晶フェライト型の結晶構造に帰属される場合、六方晶フェライト型の結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。X線回折分析によって単一の構造のみが検出された場合には、この検出された構造を主相とする。六方晶フェライト型の結晶構造は、構成原子として、少なくとも鉄原子、二価金属原子および酸素原子を含む。二価金属原子とは、イオンとして二価のカチオンになり得る金属原子であり、ストロンチウム原子、バリウム原子、カルシウム原子等のアルカリ土類金属原子、鉛原子等を挙げることができる。本発明および本明細書において、六方晶ストロンチウムフェライトの粒子とは、この粒子に含まれる主な二価金属原子がストロンチウム原子であるものをいい、六方晶バリウムフェライトの粒子とは、この粒子に含まれる主な二価金属原子がバリウム原子であるものをいう。主な二価金属原子とは、この粒子に含まれる二価金属原子の中で、原子%基準で最も多くを占める二価金属原子をいうものとする。ただし、上記の二価金属原子には、希土類原子は包含されないものとする。本発明および本明細書における「希土類原子」は、スカンジウム原子(Sc)、イットリウム原子(Y)、およびランタノイド原子からなる群から選択される。ランタノイド原子は、ランタン原子(La)、セリウム原子(Ce)、プラセオジム原子(Pr)、ネオジム原子(Nd)、プロメチウム原子(Pm)、サマリウム原子(Sm)、ユウロピウム原子(Eu)、ガドリニウム原子(Gd)、テルビウム原子(Tb)、ジスプロシウム原子(Dy)、ホルミウム原子(Ho)、エルビウム原子(Er)、ツリウム原子(Tm)、イッテルビウム原子(Yb)、およびルテチウム原子(Lu)からなる群から選択される。
【0016】
一態様では、上記電波吸収体に含まれる六方晶フェライトの粒子は、マグネトプランバイト型(一般に「M型」と呼ばれる。)の六方晶フェライトの粒子であることができる。マグネトプランバイト型の六方晶フェライトは、鉄を置換する原子を含まない場合、組成式:AFe12O19により表される組成を有する。ここでAは、Sr、Ba、CaおよびPbからなる群より選ばれる少なくとも1種の原子を表すことができ、これらの2種以上が任意の割合で含まれる態様も包含される。
【0017】
電波吸収性能の観点から好ましい六方晶フェライトとしては、マグネトプランバイト型の六方晶フェライトの鉄原子の一部がアルミニウム原子に置換された置換型のマグネトプランバイト型六方晶フェライトを挙げることができる。そのような六方晶フェライトの一態様としては、下記式1で表される組成を有する六方晶フェライトを挙げることができる。
【0018】
【0019】
式1中、Aは、Sr、Ba、CaおよびPbからなる群より選ばれる少なくとも1種の原子(以下、「A原子」とも記載する。)を表し、1種のみであってもよく、2種以上が任意の割合で含まれていてもよく、粒子を構成する粒子間の組成の均一性向上の観点からは1種のみであることが好ましい。
高周波数帯域での電波吸収性の観点からは、式1におけるAは、Sr、BaおよびCaからなる群より選ばれる少なくとも1種の原子であることが好ましく、Srであることがより好ましい。
【0020】
式1中、xは、1.50≦x≦8.00を満たす。高周波数帯域での電波吸収性の観点から、xは1.50以上であり、1.50超であることがより好ましく、2.00以上であることが更に好ましく、2.00超であることが一層好ましい。また、磁気特性の観点から、xは8.00以下であり、8.00未満であることが好ましく、6.00以下であることがより好ましく、6.00未満であることがより好ましい。
【0021】
式1で表されるマグネトプランバイト型の六方晶フェライトの具体例としては、SrFe(9.58)Al(2.42)O19、SrFe(9.37)Al(2.63)O19、SrFe(9.27)Al(2.73)O19、SrFe(9.85)Al(2.15)O19、SrFe(10.00)Al(2.00)O19、SrFe(9.74)Al(2.26)O19、SrFe(10.44)Al(1.56)O19、SrFe(9.79)Al(2.21)O19、SrFe(9.33)Al(2.67)O19、SrFe(7.88)Al(4.12)O19、SrFe(7.04)Al(4.96)O19、SrFe(7.37)Al(4.63)O19、SrFe(6.25)Al(5.75)O19、SrFe(7.71)Al(4.29)O19、Sr(0.80)Ba(0.10)Ca(0.10)Fe(9.83)Al(2.17)O19、BaFe(9.50)Al(2.50)O19、CaFe(10.00)Al(2.00)O19、PbFe(9.00)Al(3.00)O19等が挙げられる。六方晶フェライトの組成は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析によって確認することができる。確認方法の具体例としては、後述の実施例に記載の方法を挙げることができる。または、電波吸収体を切断する等して断面を露出させた後、露出した断面について、例えばエネルギー分散型X線分析を行うことによって、電波吸収体に含まれる磁性粒子の組成を確認することもできる。
【0022】
一態様では、上記電波吸収体に含まれる六方晶フェライトの粒子は、結晶相が単相であることができ、複数の結晶相を含むものであることもでき、結晶相が単相であることが好ましく、結晶相が単相であるマグネトプランバイト型の六方晶フェライトの粒子であることがより好ましい。
「結晶相が単相である」場合とは、X線回折分析において、任意の結晶構造を示す回折パターンが1種類のみ観察される場合をいう。X線回折分析は、例えば、後述の実施例に記載の方法によって行うことができる。複数の結晶相が含まれる場合、X線回折分析において、任意の結晶構造を示す回折パターンが2種類以上観察される。回折パターンの帰属には、例えば、国際回折データセンター(ICDD:International Centre for Diffraction Data(登録商標))のデータベースを参照できる。例えば、Srを含むマグネトプランバイト型の六方晶フェライトの回折パターンについては、国際回折データセンター(ICDD)の「00-033-1340」を参照できる。ただし、鉄原子の一部がアルミニウム原子等の置換原子により置換されていると、ピーク位置は、置換原子を含まない場合のピーク位置からシフトする。
【0023】
(六方晶フェライト粒子の製造方法)
六方晶フェライトの粒子の製造方法としては、固相法および液相法が挙げられる。固相法は、複数の固体原料を乾式で混合して得られた混合物を焼成することによって六方晶フェライトの粒子を製造する方法である。これに対し、液相法は、溶液を使用する工程を含む。以下に、液相法での六方晶フェライトの粒子の製造方法の一態様について説明する。ただし上記電波吸収体が六方晶フェライトの粒子を含む場合、その製造方法は、下記態様に限定されるものではない。
【0024】
液相法の一態様は、
鉄原子と、Sr、Ba、CaおよびPbからなる群より選ばれる少なくとも1種の原子と、必要に応じて鉄原子を置換する置換原子の1種以上とを含む溶液から沈殿物を得る工程1と、
工程1により得られた沈殿物を焼成して焼成体を得る工程2と、
を含むことができる。以下、各工程について詳細に説明する。
【0025】
[工程1]
工程1では、六方晶フェライトの前駆体を沈殿物として得ることができる。例えば、鉄原子の一部を置換する置換原子としてアルミニウム原子を含む六方晶フェライトの粒子を得るためには、鉄原子とA原子とアルミニウム原子とを溶液中で混合することができる。この場合、工程1により得られる沈殿物は、水酸化鉄、水酸化アルミニウム、鉄原子とアルミニウム原子とA原子との複合水酸化物等であると推測される。
【0026】
工程1において沈殿物を得るための溶液は、少なくとも水を含む溶液であることが好ましく、水溶液であることがより好ましい。例えば、各種原子を含む水溶液(以下、「原料水溶液」とも記載する。)とアルカリ水溶液とを混合することにより、沈殿物を生成することができる。また、工程1は、沈殿物を固液分離する工程を含むことができる。
【0027】
原料水溶液は、例えば、Fe塩、Al塩およびA原子の塩を含む水溶液であることができる。これら塩は、例えば、硝酸塩、硫酸塩、塩化物等の水溶性の無機酸塩であることができる。Fe塩の具体例としては、塩化鉄(III)六水和物〔FeCl3・6H2O〕、硝酸鉄(III)九水和物〔Fe(NO3)3・9H2O〕等が挙げられる。 Al塩の具体例としては、塩化アルミニウム六水和物〔AlCl3・6H2O〕、硝酸アルミニウム九水和物〔Al(NO3)3・9H2O〕等が挙げられる。 A原子の塩は、Sr塩、Ba塩、Ca塩およびPb塩からなる群から選ばれる1種以上であることができる。Sr塩の具体例としては、塩化ストロンチウム六水和物〔SrCl2・6H2O〕、硝酸ストロンチウム〔Sr(NO3)2〕、酢酸ストロンチウム0.5水和物〔Sr(CH3COO)2・0.5H2O〕等が挙げられる。 Ba塩の具体例としては、塩化バリウム二水和物〔BaCl2・2H2O〕、硝酸バリウム〔Ba(NO3)2〕、酢酸バリウム〔(CH3COO)2Ba〕等が挙げられる。 Ca塩の具体例としては、塩化カルシウム二水和物〔CaCl2・2H2O〕、硝酸カルシウム四水和物〔Ca(NO3)2・4H2O〕、酢酸カルシウム一水和物〔(CH3COO)2Ca・H2O〕等が挙げられる。 Pb塩の具体例としては、塩化鉛(II)〔PbCl2〕、硝酸鉛(II)〔Pb(NO3)2〕等が挙げられる。ただし上記は例示であって、他の塩も使用可能である。原料水溶液を調製するための各種塩の混合比は、所望の六方晶フェライト組成に応じて決定すればよい。
【0028】
アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等が挙げられる。アルカリ水溶液の濃度は、例えば、0.1mol/L~10mol/Lとすることができる。ただし、沈殿物を生成できればよく、アルカリ水溶液の種類および濃度は上記例示に限定されない。
【0029】
原料水溶液とアルカリ水溶液とは、単に混合すればよい。原料水溶液とアルカリ水溶液とは、全量を一度に混合してもよく、原料水溶液とアルカリ水溶液とを徐々に混合してもよい。また、原料水溶液およびアルカリ水溶液のいずれか一方に、他方を徐々に添加しながら混合してもよい。原料水溶液とアルカリ水溶液とを混合する方法は、特に限定されず、例えば、撹拌により混合する方法が挙げられる。撹拌手段も特に限定されず、一般的な撹拌手段を用いることができる。撹拌時間は、沈殿物が生成できる時間に設定すればよく、原料水溶液の組成、使用する撹拌手段の種類等に応じて適宜設定できる。
原料水溶液とアルカリ水溶液とを混合する際の温度(液温)は、例えば、突沸を防ぐ観点から、100℃以下であることが好ましく、沈殿物の生成反応を良好に進行させる観点から、95℃以下であることがより好ましく、15℃以上92℃以下であることが更に好ましい。温度を調整する手段としては、一般的な加熱装置、冷却装置等を用いることができる。原料水溶液とアルカリ水溶液との混合により得られる水溶液の液温25℃におけるpHは、例えば、沈殿物をより得やすいとの観点から、5~13の範囲であることが好ましく、6~12の範囲であることがより好ましい。
【0030】
沈殿物の生成後、得られた沈殿物を固液分離する場合、その方法は特に限定されず、デカンテーション、遠心分離、ろ過(吸引ろ過、加圧ろ過等)等の方法が挙げられる。例えば、固液分離を遠心分離により行う場合、遠心分離の条件は、特に限定されず、例えば、回転数2000rpm(revolutions per minute)以上で、3分間~30分間遠心分離することができる。また、遠心分離は、複数回行ってもよい。
【0031】
[工程2]
工程2は、工程1により得られた沈殿物を焼成する工程である。
工程2では、工程1により得られた沈殿物を焼成することによって、六方晶フェライトの前駆体を六方晶フェライトに転換することができる。焼成は、加熱装置を用いて行うことができる。加熱装置は、特に限定されるものではなく、電気炉等の公知の加熱装置、製造ラインに合わせて作製した焼成装置等を用いることができる。焼成は、例えば大気雰囲気下で行うことができる。焼成温度および焼成時間は、六方晶フェライトの前駆体を六方晶フェライトに転換可能な範囲に設定すればよい。焼成温度は、例えば、900℃以上であることが好ましく、900℃~1400℃の範囲であることがより好ましく、1000℃~1200℃の範囲であることが更に好ましい。焼成時間は、例えば、1時間~10時間の範囲であることが好ましく、2時間~6時間の範囲であることがより好ましい。また、工程1により得られた沈殿物を、焼成前に乾燥させることもできる。乾燥手段は、特に限定されず、例えば、オーブン等の乾燥機が挙げられる。乾燥温度は、例えば、50℃~200℃の範囲であることが好ましく、70℃~150℃の範囲であることがより好ましい。乾燥時間は、例えば、2時間~50時間の範囲であることが好ましく、5時間~30時間の範囲であることがより好ましい。なお上記の焼成温度および乾燥温度は、焼成または乾燥を行う装置の内部雰囲気温度であることができる。
【0032】
上記工程2によって得られる焼成体は、六方晶フェライトの前駆体が転換して六方晶フェライトの結晶構造を示す塊状の焼成体または粒子状の焼成体であることができる。更に、この焼成体を粉砕する工程を実施することもできる。粉砕は、乳鉢および乳棒、粉砕機(カッターミル、ボールミル、ビーズミル、ローラーミル、ジェットミル、ハンマーミル、アトライター等)等の公知の粉砕手段によって行うことができる。例えば、メディアを用いる粉砕の場合、メディアの粒径(所謂メディア径)は、例えば、0.1mm~5.0mmの範囲であることが好ましく、0.5mm~3.0mmの範囲であることがより好ましい。「メディア径」とは、球状メディアの場合、無作為に選択した複数個のメディア(例えば、ビーズ)の直径の算術平均を意味する。非球状メディア(例えば、非球状ビーズ)の場合、透過型電子顕微鏡(TEM;Transmission Electron Microscope)または走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)の観察像から求められる、無作為に選択した複数個のメディアの円相当径の算術平均を意味する。メディアの材質としては、例えば、ガラス、アルミナ、スチール、ジルコニア、セラミック等を挙げることができる。また、カッターミルにより粉砕を行う場合には、粉砕する焼成体の量、使用するカッターミルのスケール等に応じて粉砕条件を決定することができる。例えば、一態様では、カッターミルの回転数は、5000~25000rpm程度とすることができる。
【0033】
(無機窒化物の被覆形成方法)
六方晶フェライト粒子の表面に被覆される窒化物としては特に限定されないが、高熱伝導性、および高絶縁性の観点から、窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウムが好ましく、特に窒化ホウ素が好ましい。窒化ホウ素を用いることでバインダー樹脂との相互作用を強くすることができ、熱伝導性を改善でき、更に耐絶縁性をも向上することができる。
また、六方晶フェライト粒子への窒化物の被膜形成方法としては、特に限定されず、例えば、蒸着処理、メカノケミカル処理、等で形成することができる。蒸着処理の方法としては、特開2019-040974号公報記載されているような、無機窒化物の原料気体を気化させて、芯材のフェライトに上記原料気体を流し、マイクロ波冷気により原料気体の表面波プラズマを生成して被覆させる方法が好ましい。
なお、その場合の原料気体としてはアンモニアボラン(NH3BH3)を使用することが好ましい。また、特開2008-038218号公報記載のバレル型蒸着装置を使用すると、被覆の均一性が向上し、より好ましい。また、メカノケミカル処理を用いる場合は、ビーズによる解砕処理と超音波照射により、芯材の構造・結合状態変化させ、被覆材と結合させる方法が用いられる。この際には、被覆材として窒化物そのものを使用することができる。
【0034】
上記の方法で作製されたフィラーの粒径は、電波吸収性の観点から3μm以上15μm以下が好ましく、4μm以上12μm以下がより好ましい。また、フィラーが有する被覆層の厚みとしては、熱伝導性、および絶縁性の観点から0.1μm以上2.5μm以下が好ましく、0.5μm以上2.0μm以下がより好ましい。
【0035】
(酸素原子修飾処理)
本発明の一態様として、窒化ホウ素をフィラーの被覆材として使用する場合には、バインダーとの結合性を強化させ、熱伝導性および絶縁性を向上させる観点から、表面を酸素原子で修飾させることが好ましい。酸素の修飾量を定量する方法としては、フィラー表面をX線光電子分光分析器で測定し、ホウ素原子濃度に対する酸素原子濃度の原子濃度比を計算する方法が用いられる。本方法でのホウ素原子濃度に対する酸素原子濃度の原子濃度比としては、0.12以上が好ましく、0.15以上がより好ましく、0.20以上が特に好ましい。上記原資濃度比の上限は特に制限されず、例えば、0.30以下である。
【0036】
上記の酸素原子を修飾する方法としては特に限定されないが、プラズマ処理、シランカップリング処理が好適に用いられる。
【0037】
(プラズマ処理)
上記プラズマ処理は、大気圧下で実施してもよく減圧下(500Pa以下、好ましくは0~100Pa)で実施してもよい。プラズマ処理において、プラズマ状態とするガスとしては、O2ガス、Arガス、N2ガス、H2ガス、Heガス、及び、これらの1種以上を含む混合ガスが挙げられる。上記ガスには、少なくともO2ガスが含まれることが好ましく、上記ガスの60~100体積%がO2ガスであることがより好ましく、上記ガスの90~100体積%がO2ガスであることが更に好ましく、実質的にO2ガス単独であることが特に好ましい。つまり、プラズマ処理は、酸素プラズマ処理であることが好ましい。
【0038】
プラズマ処理における出力は、大気圧下、減圧下で行う場合いずれでも、生成する水酸化ホウ素の量を制御する点から、50~1000Wが好ましく、70~500Wがより好ましく、100~300Wが更に好ましい。大気圧下でプラズマ処理を行う場合の、プラズマ処理の時間は、0.2~30時間が好ましく、4~8時間がより好ましい。減圧下でプラズマ処理を行う場合の、プラズマ処理の時間は、0.2~10時間が好ましく、0.2~3時間がより好ましい。プラズマ処理は、連続的に行ってもよく断続的に行ってもよい。断続的に行う場合、合計の処理時間が上記範囲内であることが好ましい。また、プラズマ処理を行う際の処理温度は、0~200℃が好ましく、15~100℃がより好ましい。
【0039】
(シランカップリング処理)
シランカップリング処理は、以下のシランカップリング剤を用いて処理される。すなわち、ケイ素原子に、1以上の加水分解性基と、1以上の加水分解性基以外の基が結合した構造を有する化合物である。上記加水分解性基としては、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~10)、及び、塩素原子等のハロゲン原子が挙げられる。シランカップリング剤が有する、ケイ素原子に直接結合した加水分解性基の数は、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、3以上が更により好ましい。上記数に上限はなく、例えば、10000である。
【0040】
シランカップリング剤は、反応性基を有することも好ましい。上記反応性基は、例えば、後述するような樹脂バインダー又はその前駆体と架橋可能な基であることが好ましい。上記反応性基の具体例としては、エポキシ基、オキセタニル基、ビニル基、(メタ)クリル基、スチリル基、アミノ基、イソシアネート基、メルカプト基、及び、酸無水物基が挙げられる。シランカップリング剤が有する、反応性基の数は、1以上が好ましく、2以上でもよい。上記数に上限はなく、例えば、10000である。
【0041】
シランカップリング剤としては、例えば、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシラン、及び、トリメトキシ[3-(フェニルアミノ)プロピル]シランのようなアミノシラン系シランカップリング剤;3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、及び、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランのようなエポキシシラン系シランカップリング剤;トリエトキシビニルシラン、及び、ビニル-トリ(β-メトキシエトキシ)シランのようなビニルシラン系シランカップリング剤;N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩のようなカチオニックシラン系シランカップリング剤;フェニルトリメトキシシラン、及び、フェニルトリエトキシシランのようなフェニルシラン系シランカップリング剤;3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランのようなメタクリルシラン系シランカップリング剤;3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランのようなアクリルシラン系シランカップリング剤;3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランのようなイソシアネートシラン系シランカップリング剤;トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートのようなイソシアヌレートシラン系シランカップリング剤;3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、及び、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランのようなメルカプトシラン系シランカップリング剤;3-ウレイドプロピルトリアルコシシシランのようなウレイドシラン系シランカップリング剤;並びに、p-スチリルトリメトキシシランのようなスチリルシラン系シランカップリング剤、が挙げられる。シランカップリング剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を使用してもよい。
【0042】
また、シランカップリング剤は、ポリマータイプのシランカップリング剤であってもよい。
シランカップリング剤の分子量は1000以上が好ましく、2000以上がより好ましい。上限は100000以下が好ましく、10000以下がより好ましい。また樹脂バインダー又はその前駆体と架橋可能な反応性基の含有量は1000g/mol以下が好ましく、500g/mol以下がより好ましい。上記含有量の下限は例えば0g/mol超である。
【0043】
シランカップリング剤は、表面修飾窒化ホウ素粒子中において、加水分解性基の一部又は全部が加水分解した状態となっていてもよい。
【0044】
表面修飾剤としては、シランカップリング剤以外にも、ケイ素原子に加水分解性基が結合した構造を有する化合物を使用でき、例えば、式2で表される化合物を使用してもよい。
【0045】
(式2)
Si(OR)4
一般式2中、4個のRは、それぞれ独立に、メチル基又はエチル基を表す。 つまり、式2で表される化合物は、1~4個の加水分解性基(ケイ素原子に直接結合した、メトキシ基又はエトキシ基)を有している。式2で表される化合物は、表面修飾窒化ホウ素粒子中において、加水分解性基の一部又は全部が加水分解した状態となっていてもよい。式2で表される化合物は、1種単独で使用してもよく、2種以上を使用してもよい。
【0046】
<バインダー>
本発明のバインダーは、樹脂バインダー、もしくは樹脂バインダーの前駆体であってもよい。
【0047】
樹脂バインダーとしては、例えば、溶媒と、上記溶媒中に溶解したポリマー(樹脂)である樹脂バインダーとを含む組成物が挙げられる。この組成物の溶媒が蒸発することで、上記樹脂バインダーが析出し、上記樹脂バインダーがバインダー(結合剤)として機能する熱伝導材料が得られる。また、組成物が樹脂バインダーとして熱可塑性樹脂を含む場合、組成物は、例えば、熱可塑性樹脂である樹脂バインダーを含み、溶媒を含まない組成物であってもよい。この組成物を加熱溶融させてから所望の形態で冷却固化して、上記熱可塑性樹脂である樹脂バインダーがバインダー(結合剤)として機能する熱伝導材料を得てもよい。
【0048】
樹脂バインダーの前駆体は、例えば、組成物から熱伝導材料が形成される過程で、所定の条件で重合及び/又は架橋して、樹脂バインダー(重合体及び/又は架橋体)となる。このように形成された樹脂バインダーが、熱伝導材料中でバインダー(結合剤)として機能する。樹脂バインダーの前駆体としては、例えば、硬化性化合物が挙げられる。硬化性化合物としては、熱又は光(紫外光等)等によって重合及び/又は架橋が進行して硬化する化合物が挙げられる。つまり、熱硬化性化合物及び光硬化性化合物が挙げられる。これらの化合物は、ポリマーでもよいしモノマーでもよい。硬化性化合物は、2種以上の化合物(例えば主剤と硬化剤)の混合物であってもよい。なお、樹脂バインダーの前駆体は、後述の表面修飾剤と化学反応してもよい。
【0049】
樹脂バインダー(樹脂バインダーの前駆体から形成される樹脂バインダーを含む)としては、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、メラミン樹脂、フェノキシ樹脂、イソシアネート系樹脂(ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリウレタンウレア樹脂等)、及び、ラジカル重合体((メタ)アクリル樹脂等)のように重合性二重結合を有する2以上のモノマーが連鎖重合してなる樹脂が挙げられる。
【0050】
また、樹脂バインダー(樹脂バインダーの前駆体から形成される樹脂バインダーを含む)は、例えば、異なるモノマー及び/又はプレポリマー間における下記(官能基1/官能基2)の1種以上の組み合わせが反応して形成される樹脂であってもよい。つまり組成物は、下記(官能基1/官能基2)の1種以上の組み合わせが反応して形成される樹脂を形成するための樹脂バインダーの前駆体を含んでいてもよい。(官能基1/官能基2)=(重合性二重結合/重合性二重結合)、(重合性二重結合/チオール基)、(カルボン酸ハロゲン化物基(カルボン酸塩化物基等)/一級又は二級アミノ基)、(カルボキシル基/一級又は二級アミノ基)(カルボン酸無水物基/一級又は二級アミノ基)、(カルボキシル基/アジリジン基)、(カルボキシル基/イソシアネート基)、(カルボキシル基/エポキシ基)、(カルボキシル基/ハロゲン化ベンジル基)、(一級又は二級アミノ基/イソシアネート基)、(一級、二級、又は三級アミノ基/ハロゲン化ベンジル基)、(一級アミノ基/アルデヒド類)、(イソシアネート基/イソシアネート基)、(イソシアネート基/水酸基)、(イソシアネート基/エポキシ基)、(水酸基/ハロゲン化ベンジル基)、(水酸基/カルボン酸無水物基)、(水酸基/アルコキシシリル基)、(エポキシ基/一級又は二級アミノ基)、(エポキシ基/カルボン酸無水物基)、(エポキシ基/水酸基)、(エポキシ基/エポキシ基)、(オキセタニル基/エポキシ基)、(アルコキシシリル基又はアセトキシシリル基/アルコキシシリル基又はアセトキシシリル基)、(シラノール基/アルコキシシリル基又はアセトキシシリル基)、(ヒドロシリル基/ビニルシリル基)なお、重合性二重結合は、ラジカル重合等の重合が可能な炭素同士の二重結合を意図し、例えば、(メタ)アクリロイル基、及び、ビニル基における炭素同士の二重結合が挙げられる。
【0051】
中でも、組成物は、バインダーとして、樹脂バインダーの前駆体を含むことが好ましく、エポキシ樹脂又はシリコーン樹脂を形成可能な樹脂バインダーの前駆体を含むことがより好ましい。 例えば、組成物におけるバインダーは、エポキシ化合物及びシリコーン化合物からなる群から選択される1種以上を含むことが好ましい。 樹脂バインダーは、1種単独で使用してもよく、2種以上を使用してもよい。
【実施例0052】
次に、本発明の実施例について、比較例と併せて説明する。
【0053】
<実施例1>
<磁性粒子1の作製(六方晶フェライトの粒子の作製)>
磁性粒子1として、マグネトプランバイト型六方晶フェライトの粒子を、以下の方法により作製した。液温35℃に保温した水400.0gを撹拌し、撹拌中の水に、塩化鉄(III)六水和物〔FeCl3・6H2O〕57.0g、塩化ストロンチウム六水和物〔SrCl2・6H2O〕27.8gおよび塩化アルミニウム六水和物〔AlCl3・6H2O〕10.2gを水216.0gに溶解して調製した原料水溶液と、濃度5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液181.3gに水113.0gを加えて調製した溶液と、をそれぞれ10mL/minの流速にて、添加のタイミングを同じにして全量添加し、第1の液を得た。 次いで、第1の液の液温を25℃とした後、この液温を保持した状態で、濃度1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液39.8gを添加し、第2の液を得た。得られた第2の液のpHは、10.5±0.5であった。pHは、卓上型pHメータ(堀場製作所社製F-71)を用いて測定した。次いで、第2の液を15分間撹拌し、マグネトプランバイト型六方晶フェライトの前駆体となる沈殿物を含む液(前駆体含有液)を得た。次いで、前駆体含有液に対し、遠心分離処理(回転数:2000rpm、回転時間:10分間)を3回行い、得られた沈殿物を回収して水洗した。次いで、回収した沈殿物を内部雰囲気温度95℃のオーブン内で12時間乾燥させて、前駆体の粒子を得た。次いで、前駆体の粒子をマッフル炉の中に入れ、大気雰囲気下において、炉内の温度を1100℃に設定し、4時間焼成することにより、塊状の焼成体を得た。次いで、得られた焼成体を、粉砕機として、カッターミル(大阪ケミカル社製ワンダークラッシャー WC-3)を使用し、この粉砕機の可変速度ダイアルを「5」(回転数:約10000~15000rpm)に設定して90秒間粉砕した。
【0054】
[結晶構造の確認]
上記の各磁性粒子を構成する磁性体の結晶構造を、X線回折分析により確認した。測定装置としては、粉末X線回折装置であるPANalytical社のX’Pert Proを使用した。測定条件を以下に示す。
【0055】
-測定条件-
X線源:CuKα線
〔波長:1.54Å(0.154nm)、出力:40mA、45kV〕
スキャン範囲:20°<2θ<70°
スキャン間隔:0.05°
スキャンスピード:0.75°/min
【0056】
上記X線回折分析の結果、磁性粒子1は、マグネトプランバイト型の結晶構造を有しており、マグネトプランバイト型以外の結晶構造を含まない単相のマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粒子であることが確認された。また、上記X線回折分析の結果、磁性粒子2が、α相およびγ相の結晶構造を含まない、ε相の単相の結晶構造(ε-酸化鉄型の結晶構造)を有することが確認された。
【0057】
[組成の確認]
上記の各磁性粒子を構成する磁性体の組成を、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析により確認した。具体的には、以下の方法により確認した。磁性粒子12mgと濃度4mol/Lの塩酸水溶液10mLとを入れた容器ビーカーを、設定温度120℃のホットプレート上に3時間保持し、溶解液を得た。得られた溶解液に純水30mLを加えた後、フィルタ孔径0.1μmのメンブレンフィルタを用いてろ過した。このようにして得られたろ液の元素分析を、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置〔島津製作所社製ICPS-8100〕を用いて行った。得られた元素分析の結果に基づき、鉄原子100原子%に対する各原子の含有率を求めた。そして、得られた含有率に基づき、磁性体の組成を確認した。その結果、磁性粒子1がSrFe10.00Al2.00O19の組成を有する六方晶フェライト(六方晶ストロンチウムフェライト)の粒子であることが確認された。
【0058】
<表面への窒化ホウ素被覆>
上記で得られた磁性粒子1への窒化ホウ素被覆を、下記の通り実施した。すなわち、メカノケミカルMC反応を発現させるための粉砕機として遊星ミル(Fritsch社(Germany)Pulverisette-7)を用いた。本実施例ではミルポット(容量45cm3、ZrO2製)に下記混合試料1を3g添加した。
【0059】
[混合試料1]
・上記磁性粒子1:280g
・窒化ホウ素(デンカ株式会社製、窒化ホウ素粉末SP-3、平均粒径:4μm):19g
・塩化パラジウム(II)(富士フイルム和光純薬株式会社、PdCl2 ):1g
【0060】
[メカノケミカル処理]
上記混合試料1を300gと、媒体(ボール)(直径15mm、ZrO2製)を7個装填し、ミル回転速度700rpmという一定速度で、空気雰囲気化で24時間処理した。次に、得られた前駆体(粉砕産物)をアルミナ製ルツボで600℃、1時間加熱処理を行った。最後に焼成物を純水で洗浄し、遠心分離機で固液分離することを繰り返すことによって不要な水を除去した後、得られた固体粉末を乾燥機により105℃で乾燥させ、無機窒化物被覆磁性流体1を得た。
【0061】
<表面の酸素原子修飾処理>
さらに、上記で得られた無機窒化物被覆磁性流体1への酸素原子修飾を、下記の通り実施した。すなわち、無機窒化物被覆磁性流体1を100g準備し、株式会社魁半導体社製の「YHS-DΦS」を用いて、真空プラズマ処理(ガス種:O2、圧力:30Pa、流量:10sccm、出力:300W、処理時間:2時間)を行い、フィラー粒子1を得た。
【0062】
<フィラー物性の測定>
[平均粒径]
上記フィラー1の平均粒径は、レーザ回折散乱法により測定した。その結果、フィラー1の平均粒径は6.7μmであった。
【0063】
[無機窒化物の被覆厚]
上記フィラー1の窒化物(窒化ホウ素)の被覆厚は、フィラーの断面をミクロトームで切削し、断面方向からのFE-SEM像の観察で測定した。断面FE-SEM像は10個の粒子を選択し、各粒子の任意10箇所で計測を行った。その平均厚を被覆厚とした。その結果、フィラー1の窒化物の被覆厚は2.5μmであった。
【0064】
[表面酸素原子濃度比(XPS O/B比)]
上記フィラー1の、酸素原子濃度及びホウ素原子濃度(ともに単位は原子%)を、X線光電子分光装置(Ulvac-PHI社製:Versa Probe II)を用いて測定した。得られた結果から、窒化ホウ素粒子の表面における、ホウ素原子濃度に対する酸素原子濃度の原子濃度比(酸素原子濃度/ホウ素原子濃度)を計算したところ、フィラー1の値は0.20であった。
【0065】
<シート形成>
上記フィラー1を用いて、実施例1のシート組成物を作製した。以下に組成物の特徴、及び、組成物を用いて実施した試験方法などを示す。
【0066】
以下のシート前駆体液1を作製した。
・MEK:40g
・シクロヘキサノン40g
・エピコート828EL(三菱化学株式会社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂):25g
・HP4700(DIC株式会社製、エポキシ樹脂)50g
・LA7052(DIC株式会社製、フェノール系硬化剤)30g
・E1256(三菱化学株式会社製、フェノキシ樹脂):10g
・2E4MZ(四国化成工業株式会社製、硬化触媒):0.1g
・フィラー1:300g
【0067】
上記シート前駆体液1を、厚み25μmのポリイミドフィルム(東レ・デュポン株式会社製「カプトン」)の離型処理面上に、乾燥後の樹脂組成物層の厚さが200μmになるよう、バーコーターにて均一に塗布し、10MPaの圧力で165℃で10分間加熱乾燥し、実施例1のシートを得た。
【0068】
<実施例2>
上記実施例1のうち、表面の酸素原子修飾を実施しなかった以外は、同様の方法を行い、実施例2のシートを得た。
【0069】
<実施例3>
上記実施例2のうち、混合試料1の窒化ホウ素を窒化ケイ素に変更した以外は、同様の方法を行い、実施例3のシートを得た。
【0070】
<実施例4>
上記実施例1のうち、フィラー1の添加量を変更しシート中の体積充填率を15体積%とした以外は、同様の方法を行い、実施例4のシートを得た。
【0071】
<実施例5>
上記実施例1のうち、フィラー1の添加量を変更しシート中の体積充填率を45体積%とした以外は、同様の方法を行い、実施例4のシートを得た。
【0072】
<実施例6>
上記実施例1のうち、プラズマ処理の時間を40分に変更した以外は、同様の方法を行い、実施例6のシートを得た。
【0073】
<実施例7>
上記実施例1のうち、プラズマ処理の時間を20分に変更した以外は、同様の方法を行い、実施例7のシートを得た。
【0074】
<実施例8>
上記実施例1のうち、プラズマ処理の時間を3時間分に変更した以外は、同様の方法を行い、実施例8のシートを得た。
【0075】
<実施例9>
上記実施例1のうち、磁性粒子1の粉砕時間を40秒に変更した以外は、同様の方法を行い、実施例9のシートを得た。
【0076】
<比較例1>
上記実施例1のうち、無機窒化物の被覆、および表面の酸素修飾処理を実施しなかった以外は、同様の方法を行い、比較例1のシートを得た。
【0077】
<比較例2>
上記実施例2のうち、フィラー1の添加量を変更しシート中の体積充填率を10体積%とした以外は、同様の方法を行い、比較例2のシートを得た。
【0078】
<比較例3>
上記実施例2のうち、フィラー1の添加量を変更しシート中の体積充填率を50体積%とした以外は、同様の方法を行い、比較例3のシートを得た。
【0079】
<シートの物性評価>
上記実施例および比較例について、以下の通りシートとしての物性評価を実施した。
【0080】
[透過減衰量および反射減衰量]
以下の方法により、実施例および比較例の各電波吸収体の透過減衰量(単位:dB)および反射減衰量(単位:dB)を測定した。測定装置として、keysight社のベクトルネットワークアナライザ(製品名:N5225B)およびキーコム社のホーンアンテナ(製品名:RH12S23)を用い、自由空間法により、入射角度を0°とし、掃引周波数を60GHz~90GHzとして、上記の各電波吸収体の一方の平面を入射側に向けて、Sパラメータの測定を行い、76.5GHzの周波数におけるSパラメータのS21を透過減衰量とし、76.5GHzの周波数におけるSパラメータのS11を反射減衰量とした。結果を表1に示しており、透過減衰量、反射減衰量ともに数値が大きいほど良好な特性であることを示す。透過減衰量は8.0dB以上であることが好ましい。反射減衰量は8.0dB以上であることが好ましい。
【0081】
[熱伝導率]
以下の方法により、実施例および比較例の熱伝導率(単位:W/mK)を測定した。
(1)NETZSCH社製の「LFA467」を用いて、レーザーフラッシュ法で熱伝導材料の厚み方向の熱拡散率を測定した。
(2)メトラー・トレド社製の天秤「XS204」を用いて、熱伝導材料の比重をアルキメデス法(「固体比重測定キット」使用)で測定した。
(3)セイコーインスツル社製の「DSC320/6200」を用い、10℃/分の昇温条件の下、25℃における熱伝導材料の比熱を求めた。
(4)得られた熱拡散率に比重及び比熱を乗じて、熱伝導材料の熱伝導率を算出した。
結果を表1に示しており、数値が大きいほど良好な特性であることを示す。
熱伝導率は1.5W/m・K以上であることが好ましい。上限値は特に制限はないが、10.0W/m・K以下であることが好ましい。
【0082】
[絶縁破壊電圧(初期値)]
以下の方法により、実施例および比較例の絶縁破壊電圧(単位:KV/mm)を測定した。実施例および比較例のシート30mm□を準備し、シートの両面に10mmφの銅箔を設置させ、両側の銅箔にJIS・C2110のステップ耐電圧試験方法に従い測定した。出力電流容量を40mAに設定し、0kVから0.1kVずつ電圧を上げていき、リークが発生しない上限電圧値をシートの厚みで除した値を絶縁破壊電圧値とした。結果を表1に示しており、数値が大きいほど良好な特性であることを示す。初期の絶縁破壊電圧は0.6kV/mm以上であることが好ましい。上限値は特に制限はないが、10kV/mm以下であることが好ましい。
【0083】
[絶縁破壊電圧(ヒートサイクル後)]
上述の絶縁破壊電圧の測定を、-30℃(1時間保持)/+120℃(1時間保持)の繰り返しを100回実施した後のシートについて同様に測定した。なお設定温度の切り替え時間は1時間に設定した。結果を表1に示す。ヒートサイクル後の絶縁破壊抵抗は初期値との乖離が少ないほど良好な特性であることを示す。
【0084】