(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022126958
(43)【公開日】2022-08-31
(54)【発明の名称】透過性構造物の配置方法、サンゴ礫堆積による陸化方法,構造体および透過性構造物
(51)【国際特許分類】
E02B 3/04 20060101AFI20220824BHJP
【FI】
E02B3/04
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021024831
(22)【出願日】2021-02-19
(71)【出願人】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107272
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 敬二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109140
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 研一
(72)【発明者】
【氏名】青木 健太
(72)【発明者】
【氏名】佐貫 宏
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】茅根 創
(72)【発明者】
【氏名】田島 芳満
【テーマコード(参考)】
2D118
【Fターム(参考)】
2D118AA10
2D118GA32
(57)【要約】
【課題】透過性構造物の安定性を確保するとともにサンゴ礫の堆積による安定した海浜・海底地形が形成可能な透過性構造物の配置方法、サンゴ礫堆積による陸化方法,構造体および透過性構造物を提供する。
【解決手段】サンゴ礫を捕捉可能な多数の開口を有する面状の捕捉部11を水底から立ち上がるように備える複数の透過性構造物A1,A2を面状の捕捉部が面横方向に一列に並ぶように第1の行Aとして配置し、別の複数の透過性構造物B1,B2,B3を第1の行に対し間隔をおいてかつ略平行に一列に並べて第2の行Bとして配置し、第1、第2の行においてそれぞれ各透過性構造物が行方向に所定の間隔をおいて配置されて各透過性構造物間に開口部A1-2,B1-2,B2-3が形成され、第1の行における開口部と第2の行における開口部とが互いに行方向に直交する方向Zにおいて同一の位置とならない。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンゴ礫を捕捉可能な多数の開口を有する面状の捕捉部を水底から立ち上がるように備える透過性構造物を配置する方法であって、
少なくとも、複数の前記透過性構造物を前記面状の捕捉部が面横方向に一列に並ぶように第1の行として配置し、別の複数の前記透過性構造物を前記第1の行に対し間隔をおいてかつ略平行に一列に並べて第2の行として配置し、
前記第1の行および前記第2の行は水塊が前記面状の捕捉部の多数の開口を通過可能な方向に位置し、前記第1の行は前記水塊の通過可能方向に関し前記第2の行より沖側に位置し、
前記第1の行および前記第2の行においてそれぞれ各透過性構造物が行方向に所定の間隔をおいて配置されて各行の透過性構造物間に開口部が形成され、
前記第1の行における開口部と前記第2の行における開口部とが互いに前記行方向と直交する方向において同一の位置とならない、透過性構造物の配置方法。
【請求項2】
第(m-1)の行よりも岸側にさらに別の複数の前記透過性構造物を前記第(m-1)の行に対し間隔をおいてかつ略平行に一列に並べて第mの行として配置することで、前記第1,第2,・・・、第mの各行を設置し(m:3以上の整数)、
前記第mの行において各透過性構造物が行方向に所定の間隔をおいて配置されて前記透過性構造物間に開口部が形成され、
前記第(m-1)の行の開口部は前記(m-2)の行の開口部および前記第mの行の開口部に対し前記行方向と直交する方向において同一の位置とならない、請求項1に記載の透過性構造物の配置方法。
【請求項3】
前記複数の透過性構造物の各天端高さは、沖波の波形勾配、底質粒径および沖波波長に基づいて所定の海底勾配を設定し、沖側から岸側に向けて前記各天端の包絡線の勾配が前記海底勾配となるように設定される、請求項1または2に記載の透過性構造物の配置方法。
【請求項4】
前記複数の透過性構造物が設置される領域における代表波浪を1つ設定し、前記各行間の間隔を前記代表波浪の波長の1/4に定める、請求項1乃至3のいずれかに記載の透過性構造物の配置方法。
【請求項5】
前記複数の透過性構造物が設置される領域における代表波浪を複数設定し、前記各行間の間隔を、前記複数の代表波浪のうちの最短の波長の1/4と最長の波長の1/4との範囲内で定める請求項1乃至3のいずれかに記載の透過性構造物の配置方法。
【請求項6】
前記複数の透過性構造物が設置される領域における代表波浪を1つ設定し、前記透過性構造物間の前記所定の間隔である前記開口部の幅を前記代表波浪の波長の1/2に定める、請求項1乃至4のいずれかに記載の透過性構造物の配置方法。
【請求項7】
前記代表波浪は、年最大有義波、年最大の10波の平均有義波、高波浪来襲時期のエネルギー平均波、および、波高50cm未満の静穏時の波を除いたエネルギー平均波のいずれかである、請求項4乃至6のいずれかに記載の透過性構造物の配置方法。
【請求項8】
サンゴ礫を捕捉可能な多数の開口を有しかつ互いに直交する面状の第1および第2の捕捉部を水底から立ち上がるように備える透過性構造物を配置する方法であって、
少なくとも、複数の前記透過性構造物を前記第1の捕捉部が面横方向に一列に並ぶように第1の行として配置し、別の前記複数の透過性構造物を前記第1の捕捉部が前記第1の行に対し間隔をおいてかつ略平行に一列に並ぶように前記第2の行として配置し、さらに別の複数の前記透過性構造物を前記第1の捕捉部が前記第2の行に対し間隔をおいてかつ略平行に一列に並ぶように第3の行として配置し、さらに別の複数の前記透過性構造物を前記第1の捕捉部が前記第3の行に対し間隔をおいてかつ略平行に一列に並ぶように第4の行として配置し、
前記各行においてそれぞれ前記透過性構造物が行方向に所定の間隔をおいて配置されて前記透過性構造物間に開口部が形成され、
前記各行における各開口部は、隣り合う行における各開口部に対し前記行方向と直交する方向において同一の位置にならない、透過性構造物の配置方法。
【請求項9】
前記各行方向と直交する列方向において前記各透過性構造物が少なくとも第1~第4の列として一列ずつ四列に並ぶように配置され、
前記第2の行の各透過性構造物と前記第4の行の各透過性構造物とが二列に並んでそれぞれ前記第1の列および前記第3の列を構成し、
前記第1の行の各透過性構造物と前記第3の行の各透過性構造物とが二列に並んでそれぞれ前記第2の列および前記第4の列を構成し、
前記各列において、前記各透過性構造物は、前記第2の捕捉部が面横方向に一列に並び隣り合う列に対し間隔をおいてかつ略平行に配置されるとともに、前記列方向に所定の間隔をおいて配置されて前記透過性構造物間に開口部が形成され、
前記各列における各開口部は、隣り合う列における各開口部に対し前記列方向と直交する前記行方向において同一の位置にならない、請求項8に記載の透過性構造物の配置方法。
【請求項10】
前記各行方向と直交する列方向において前記各透過性構造物が少なくとも第1~第4の列として一列ずつ四列に並ぶように配置され、
前記第1の行の各透過性構造物と前記第3の行の各透過性構造物とが二列に並んでそれぞれ前記第1の列および前記第3の列を構成し、
前記第2の行の各透過性構造物と前記第4の行の各透過性構造物とが二列に並んでそれぞれ前記第2の列および前記第4の列を構成し、
前記各列において、前記各透過性構造物は、前記第2の捕捉部が面横方向に一列に並び隣り合う列に対し間隔をおいてかつ略平行に配置されるとともに、前記列方向に所定の間隔をおいて配置されて前記透過性構造物間に開口部が形成され、
前記各列における各開口部は、隣り合う列における各開口部に対し前記列方向と直交する前記行方向において同一の位置にならない、請求項8に記載の透過性構造物の配置方法。
【請求項11】
サンゴ礫を堆積させ陸化する方法であって、
請求項1乃至10のいずれかに記載の配置方法により前記透過性構造物を配置し、
水塊が前記透過性構造物の前記捕捉部の多数の開口を通過するとき前記捕捉部が前記水塊中のサンゴ礫を捕捉し、前記捕捉されたサンゴ礫を前記捕捉部の前方に堆積させる、サンゴ礫堆積による陸化方法。
【請求項12】
請求項1乃至10のいずれかに記載の配置方法により配置された複数の前記透過性構造物から構成された構造体。
【請求項13】
サンゴ礫を捕捉可能な多数の開口を有しかつ面状の第1および第2の捕捉部を水底から立ち上がるように備え、
前記第1および前記第2の捕捉部は、互いに面横方向の略中央で直交している透過性構造物。
【請求項14】
前記第1および第2の捕捉部の上部に取り付けられた十字状のプレートから構成された庇部を有し、前記庇部が各捕捉部の面に直交する方向に突き出ている請求項13に記載の透過性構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンゴ礫を捕捉可能な透過性構造物の配置方法、この方法により配置された透過性構造物を用いたサンゴ礫堆積による陸化方法、この方法により配置された透過性構造物から構成された構造体、および透過性構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、波や潮流などにより移動する水塊とともに移動するサンゴ礫を透過性構造物で捕捉し堆積させて陸化を図るサンゴ礫堆積による陸化方法、そのための透過性構造物および構造体を開示する。特許文献2は、サンゴ礫堆積による陸化方法においてサンゴ礫を効率的に堆積させるために透過性構造物の天端に庇部を設けることを開示する。
【0003】
特許文献1,2のような透過性構造物を単一で用いて陸化を図ることは現実的ではないので、実際には複数の透過性構造物を配置する必要があるが、そのような配置として、特許文献1の
図7のような平面配置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-127819号公報
【特許文献2】特開2017-210833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のような複数の透過性構造物の配置によれば、
図1に示すように、波向き直角方向に対して複数の透過性構造物A0を一列に連続して配置し、その前方にサンゴ礫の堆積物Tを形成することから次のような問題があることが判明した。
【0006】
すなわち、
図1の透過性構造物A0の前方におけるサンゴ礫の堆積に伴い水深が浅くなるため、来襲する波は、進行とともに浅水変形が生じやすく、波高が大きくなり、その結果、透過性構造物に対する作用波圧が増大することから透過性構造物が安定し難くなる。また、浅水変形に伴う砕波の乱れによりサンゴ礫の堆積物が侵食されやすいことから、安定した海浜や海底地形が形成し難くなってしまう。
【0007】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、透過性構造物の安定性を確保するとともにサンゴ礫の堆積による安定した海浜・海底地形が形成可能な透過性構造物の配置方法、サンゴ礫堆積による陸化方法,構造体および透過性構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための第1の透過性構造物の配置方法は、サンゴ礫を捕捉可能な多数の開口を有する面状の捕捉部を水底から立ち上がるように備える透過性構造物を配置する方法であって、
少なくとも、複数の前記透過性構造物を前記面状の捕捉部が面横方向に一列に並ぶように第1の行として配置し、別の複数の前記透過性構造物を前記第1の行に対し間隔をおいてかつ略平行に一列に並べて第2の行として配置し、
前記第1の行および前記第2の行は水塊が前記面状の捕捉部の多数の開口を通過可能な方向に位置し、前記第1の行は前記水塊の通過可能方向に関し前記第2の行より沖側に位置し、
前記第1の行および前記第2の行においてそれぞれ各透過性構造物が行方向に所定の間隔をおいて配置されて各行の透過性構造物間に開口部が形成され、
前記第1の行における開口部と前記第2の行における開口部とが互いに前記行方向と直交する方向において同一の位置とならない。
【0009】
第1の透過性構造物の配置方法によれば、複数の透過性構造物が並んだ各行において各透過性構造物間に開口部が形成され、各行の開口部が行方向に直交する方向に関し行毎にずれているので、各行の開口部で透過性構造物間を波による水塊が移動でき、これにより、透過性構造物の捕捉部前方から作用する波の浅水変形や砕波が軽減され、浅水変形に伴う波圧の増大を軽減でき、透過性構造物が安定し、サンゴ礫を効率的に捕捉できる。
【0010】
上記第1の透過性構造物の配置方法において、第(m-1)の行よりも岸側にさらに別の複数の前記透過性構造物を前記第(m-1)の行に対し間隔をおいてかつ略平行に一列に並べて第mの行として配置することで、前記第1,第2,・・・、第mの各行を設置し(m:3以上の整数)、
前記第mの行において各透過性構造物が行方向に所定の間隔をおいて配置されて前記透過性構造物間に開口部が形成され、
前記第(m-1)の行の開口部は前記(m-2)の行の開口部および前記第mの行の開口部に対し前記行方向と直交する方向において同一の位置とならない。これにより、複数の透過性構造物をそれぞれ第1の行、第2の行、・・・、第mの行として配置し(m=3,4,5,・・・)、たとえば、第2の行の開口部が第1の行の開口部および第3の行の開口部に対し、行方向に直交する方向に関し行毎にずれている。
【0011】
また、前記複数の透過性構造物の各天端高さは、沖波の波形勾配、底質粒径および沖波波長に基づいて所定の海底勾配を設定し、沖側から岸側に向けて前記各天端の包絡線の勾配が前記海底勾配となるように設定されることが好ましい。所定の海底勾配とは、波の作用を受ける自然海浜の状態において安定する海底勾配のことである。天端高さの設定は、設置する場所が岸から1波長以内か1波長より離れているかで異なるが、この天端高さに設定することによって砕波が一度に大きくならないので、砕波の乱れを軽減できる。このため、サンゴ礫の堆積物の侵食の低減に寄与でき、安定した海浜・海底地形を形成できる。
【0012】
また、前記複数の透過性構造物が設置される領域における代表波浪を1つ設定し、前記各行間の間隔L0を前記代表波浪の波長Lwの1/4に定めることが好ましい。各行間の間隔L0を代表波浪の波長Lwの1/4に設定することで、透過性構造物の後方側に波が回り込み(回折し)、透過性構造物の前方からの波の作用が緩和される効果が最大となる。これにより、透過性構造物の安定化に寄与できる。
【0013】
また、前記複数の透過性構造物が設置される領域における代表波浪を複数設定し、前記各行間の間隔を、前記複数の代表波浪のうちの最短の波長の1/4と最長の波長の1/4との範囲内で定めるようにしてもよい。
【0014】
また、前記複数の透過性構造物が設置される領域における代表波浪を1つ設定し、前記透過性構造物間の前記所定の間隔である前記開口部の幅Bを前記代表波浪の波長Lwの1/2に定めることが好ましい。透過性構造物間の開口部の幅Bを代表波浪の波長Lwの1/2に設定することで、各開口部に流入する波は左右に分かれて、それぞれの流出部となる開口部に向かうことができるので、透過性構造物に対する波圧の軽減に寄与でき、サンゴ礫の捕捉効率も低減しない。
【0015】
また、前記代表波浪は、年最大有義波、年最大の10波の平均有義波、高波浪来襲時期のエネルギー平均波、および、波高50cm未満の静穏時の波を除いたエネルギー平均波のいずれかであることが好ましい。
【0016】
上記目的を達成するための第2の透過性構造物の配置方法は、サンゴ礫を捕捉可能な多数の開口を有しかつ互いに直交する面状の第1および第2の捕捉部を水底から立ち上がるように備える透過性構造物を配置する方法であって、
少なくとも、複数の前記透過性構造物を前記第1の捕捉部が面横方向に一列に並ぶように第1の行として配置し、別の前記複数の透過性構造物を前記第1の捕捉部が前記第1の行に対し間隔をおいてかつ略平行に一列に並ぶように前記第2の行として配置し、さらに別の複数の前記透過性構造物を前記第1の捕捉部が前記第2の行に対し間隔をおいてかつ略平行に一列に並ぶように第3の行として配置し、さらに別の複数の前記透過性構造物を前記第1の捕捉部が前記第3の行に対し間隔をおいてかつ略平行に一列に並ぶように第4の行として配置し、
前記各行においてそれぞれ前記透過性構造物が行方向に所定の間隔をおいて配置されて前記透過性構造物間に開口部が形成され、
前記各行における各開口部は、隣り合う行における各開口部に対し前記行方向と直交する方向において同一の位置とならない。
【0017】
第2の透過性構造物の配置方法によれば、複数の透過性構造物が並んだ各行において各透過性構造物間に開口部が形成され、各行の各開口部が行方向に直交する方向に関し行毎にずれているので、各行の開口部で透過性構造物間を波による水塊が移動でき、これにより、透過性構造物の第1の捕捉部前方あるいは後方から作用する波の浅水変形や砕波が軽減されるので、浅水変形に伴う波圧の増大を軽減でき、透過性構造物が安定し、サンゴ礫を効率的に捕捉できる。また、透過性構造物は、サンゴ礫を捕捉可能な多数の開口を有しかつ互いに直交する面状の第1および第2の捕捉部を備えるので、波による水塊の移動方向が変化しても、サンゴ礫を効率的に捕捉可能である。
【0018】
上記第2の透過性構造物の配置方法において、前記各行方向と直交する列方向において前記各透過性構造物が少なくとも第1~第4の列として一列ずつ四列に並ぶように配置され、
前記第2の行の各透過性構造物と前記第4の行の各透過性構造物とが二列に並んでそれぞれ前記第1の列および前記第3の列を構成し、前記第1の行の各透過性構造物と前記第3の行の各透過性構造物とが二列に並んでそれぞれ前記第2の列および前記第4の列を構成し、
前記各列において、前記各透過性構造物は、前記第2の捕捉部が面横方向に一列に並び隣り合う列に対し間隔をおいてかつ略平行に配置されるとともに、前記列方向に所定の間隔をおいて配置されて前記透過性構造物間に開口部が形成され、前記各列における各開口部は、隣り合う列における各開口部に対し前記列方向と直交する前記行方向において同一の位置とならない。上述のように、複数の透過性構造物が並んだ各列において各透過性構造物間に開口部が形成され、各列の各開口部が列方向に直交する方向において列毎にずれているので、各列の開口部で透過性構造物間を波による水塊が移動できる。これにより、透過性構造物の各捕捉部の前方あるいは後方から作用する波の浅水変形や砕波が軽減されるので、浅水変形に伴う波圧の増大を軽減でき、透過性構造物が安定し、サンゴ礫を効率的に捕捉できる。各行方向と直交する列方向においても、行方向と同様の作用効果を得ることができるので、波による水塊の移動方向が変化しても、サンゴ礫を効率的に捕捉可能である。
【0019】
また、前記各行方向と直交する列方向において前記各透過性構造物が少なくとも第1~第4の列として一列ずつ四列に並ぶように配置され、
前記第1の行の各透過性構造物と前記第3の行の各透過性構造物とが二列に並んでそれぞれ前記第1の列および前記第3の列を構成し、前記第2の行の各透過性構造物と前記第4の行の各透過性構造物とが二列に並んでそれぞれ前記第2の列および前記第4の列を構成し、
前記各列において、前記各透過性構造物は、前記第2の捕捉部が面横方向に一列に並び隣り合う列に対し間隔をおいてかつ略平行に配置されるとともに、前記列方向に所定の間隔をおいて配置されて前記透過性構造物間に開口部が形成され、前記各列における各開口部は、隣り合う列における各開口部に対し前記列方向と直交する前記行方向において同一の位置とならない。上述のように、複数の透過性構造物が並んだ各列において各透過性構造物間に開口部が形成され、各列の各開口部が列方向に直交する方向において列毎にずれているので、各列の開口部で透過性構造物間を波による水塊が移動できる。これにより、透過性構造物の各捕捉部の前方あるいは後方から作用する波の浅水変形や砕波が軽減されるので、浅水変形に伴う波圧の増大を軽減でき、透過性構造物が安定し、サンゴ礫を効率的に捕捉できる。各行方向と直交する列方向においても、行方向と同様の作用効果を得ることができるので、波による水塊の移動方向が変化しても、サンゴ礫を効率的に捕捉可能である。
【0020】
上記目的を達成するためのサンゴ礫堆積による陸化方法は、サンゴ礫を堆積させ陸化する方法であって、上記第1または第2の配置方法により前記透過性構造物を配置し、水塊が前記透過性構造物の前記捕捉部の多数の開口を通過するとき前記捕捉部が前記水塊中のサンゴ礫を捕捉し、前記捕捉されたサンゴ礫を前記捕捉部の前方に堆積させる。
【0021】
このサンゴ礫堆積による陸化方法によれば、上記第1または第2の配置方法により透過性構造物を配置することで、透過性構造物の捕捉部前方あるいは後方から作用する波の浅水変形や砕波が軽減され、このため、浅水変形に伴う波圧の増大を軽減でき、透過性構造物が安定し、サンゴ礫を効率的に捕捉できるので、サンゴ礫堆積による陸化が効率的に行われる。
【0022】
上記目的を達成するための構造体は、上記第1または第2の配置方法により配置された複数の前記透過性構造物から構成されたものである。
【0023】
この構造体によれば、上記第1または第2の配置方法により配置された複数の透過性構造物から構成されるので、各透過性構造物の捕捉部前方あるいは後方から作用する波の浅水変形や砕波が軽減され、このため、浅水変形に伴う波圧の増大を軽減でき、透過性構造物が安定し、サンゴ礫を効率的に捕捉できる。
【0024】
上記目的を達成するための透過性構造物は、サンゴ礫を捕捉可能な多数の開口を有しかつ面状の第1および第2の捕捉部を水底から立ち上がるように備え、前記第1の捕捉部と前記第2の捕捉部は、互いに面横方向の略中央で直交している。
【0025】
この透過性構造物によれば、互いに面横方向の略中央で直交している第1の捕捉部と第2の捕捉部を備えるので、波による水塊の移動方向が変化しても、サンゴ礫を効率的に捕捉可能であるとともに、透過性構造物が安定性する。
【0026】
上記透過性構造物において、前記第1および第2の捕捉部の上部に取り付けられた十字状のプレートから構成された庇部を有し、前記庇部が各捕捉部の面に直交する方向に突き出ていることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、透過性構造物の安定性を確保するとともにサンゴ礫の堆積による安定した海浜・海底地形が形成可能な透過性構造物の配置方法、サンゴ礫堆積による陸化方法,構造体および透過性構造物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】特許文献1における複数の透過性構造物の連続配置を示す平面図である。
【
図2】本実施形態による複数の透過性構造物の配置例を示す平面図である。
【
図3】
図2の透過性構造物の具体例を示す正面図である。
【
図4】
図2の配置例において間隔L0=波長Lw/4とした場合の作用効果を説明するための図であって、
図2と同様の配置例を示す平面図(a)、波浪来襲時の水位分布例を示すために
図4(a)の透過性構造物A1,C1を水塊の移動方向ZであるLine1方向に切断して見た側断面図(b)および同じく透過性構造物B2を水塊の移動方向ZであるLine2方向に切断して見た側断面図(c)である。
【
図5】比較のために間隔L0=波長Lw/2とした場合の作用効果を説明するための図であって、
図4(b)と同様のLine1方向の側断面図(a)および
図4(c)と同様のLine2方向の側断面図(c)である。
【
図6】
図2の配置例において開口部の開口幅B0=波長Lw/2とした場合の作用効果を説明するための図であって、
図2と同様の配置例を示す平面図(a)、開口幅B0=波長Lw/2とした場合の水塊の移動を概略的に示す斜視図(b)、開口幅B0をLw/2よりも小さくした場合の問題を示す斜視図(c)および開口幅B0をLw/2よりも大きくした場合の問題を示す斜視図(d)である。
【
図7】本実施形態による複数の透過性構造物の別の配置例を示す平面図である。
【
図8】
図7の透過性構造物の具体例を示す斜視図である。
【
図9】本実施形態における複数の透過性構造物の天端高さの設定について説明するための側断面図(a)(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。
図2は、本実施形態による複数の透過性構造物の配置例を示す平面図である。
図3は、
図2の透過性構造物の具体例を示す正面図である。
【0030】
図2に示す配置例は、複数の透過性構造物A1,A2を面状の捕捉部11が面横方向に一列に並ぶように第1の行Aとして配置し、別の複数の透過性構造物B1,B2,B3を第1の行Aに対し間隔をおいてかつ略平行に一列に並べて第2の行Bとして配置し、さらに別の複数の透過性構造物C1,C2を第2の行Bに対し間隔をおいてかつ略平行に一列に並べて第3の行Cとして配置したものである。なお、複数の行A,B,Cとして配置された複数の透過性構造物から構造体が構成される。
【0031】
図2の各透過性構造物は、
図3のように、サンゴ礫を捕捉可能な多数の開口10を有する面状の捕捉部11を備え、捕捉部11は、水底GRから立ち上がるように底版12により支持されている。多数の開口10を有する捕捉部11は、たとえば、縦横に配置された多数の鋼線からなる網目状部材から構成できる。各開口10のサイズは、たとえば、対象の海域におけるサンゴ礫の平均的な寸法の長手寸法以下および短手寸法以上が好ましい。
【0032】
図2の各行A,B,Cは、波による水塊の移動方向Zに対し直交するように配置され、水塊が各透過性構造物A1,A2,B1,B2,B3,C1,C2の面状の捕捉部11の多数の開口10を通過可能になっている。また、水塊の移動方向Zは、通常、沖側から岸側に向く方向であり、行A,B,Cは、順に沖側から岸側に配置される。
【0033】
図2のように、第1の行Aにおいて複数の透過性構造物A1,A2が行方向(図の横方向)に所定の間隔をおいて配置されて透過性構造物A1,A2間に開口部A1-2が形成され、第2の行Bにおいて複数の透過性構造物B1,B2,B3が行方向に所定の間隔をおいて配置されて透過性構造物B1,B2間、透過性構造物B2,B3間に開口部B1-2,B2-3が形成され、第3の行Cにおいて複数の透過性構造物C1,C2が行方向に所定の間隔をおいて配置されて透過性構造物C1,C2間に開口部C1-2が形成されている。
【0034】
また、各行A,B,Cにおいて各透過性構造物A1,A2,B1,B2,B3,C1,C2は、互いに行方向(図の横方向)と直交する方向Zに対し行毎にずれて配置され、所謂千鳥配置になっている。このため、第1の行Aにおける開口部A1-2と第2の行Bにおける開口部B1-2,B2-3とが行方向に直交する方向において同一の位置とならない。同様に、第3の行Cの開口部C1-2は第2の行Bの開口部B1-2,B2-3に対し行方向に直交する方向において同一の位置とならない。
【0035】
図2において、波による水塊が方向Zに移動し、各透過性構造物の捕捉部11を透過するとき、水塊に含まれるサンゴ礫が捕捉部11の開口10で捕捉され、捕捉部11の前方に堆積し、サンゴ礫による堆積物Tが形成される。
【0036】
図2のように配置された複数の透過性構造物によれば、複数の透過性構造物が並んだ各行A,B,Cにおいて各透過性構造物間に開口部A1-2,B1-2,B2-3,C1-2が形成され、各行の各開口部A1-2,B1-2,B2-3,C1-2が行方向に直交する方向において同一の位置とならないので、各行の開口部A1-2,B1-2,B2-3,C1-2で透過性構造物間を波による水塊が移動でき、これにより、透過性構造物の捕捉部前方から作用する波の浅水変形や砕波が軽減されるので、浅水変形に伴う波圧の増大を軽減でき、透過性構造物が安定し、サンゴ礫を効率的に捕捉できる。
【0037】
また、複数の透過性構造物の天端高さH(
図3)は、
図9(a)(b)のように海底GRから透過性構造物の天端までの高さであり、沖側から岸側に向けて順に高くなり、各天端の包絡線が直線的に傾斜するように設定されるが、設置する場所が岸から1波長以内か1波長より離れているかで設定が異なる。かかる天端高さの設定について
図9(a)(b)を参照して説明する。なお、
図9(a)(b)の透過性構造物D1~D5、D1~D7は、天端高さH以外は
図3と同様に構成される。また、天端高さHの設定については養浜工の設計で、自然海浜の前浜勾配、外浜勾配を参考に設定することが多いため、この考え方を参考に設定することが望ましい。
【0038】
図9(a)のように、複数の透過性構造物D1~D5を設置する場所が岸から1波長以内の場合には、式(1)の勾配αが自然海浜における安定な前浜勾配になるため、本実施形態の透過性構造物に置き換えて考えると、透過性構造物の前方に底質が斜面状に堆積し、前浜が形成されるのと同じような状態になる。複数の透過性構造物D1~D5の各天端の包絡線による天端勾配が自然海浜の安定勾配αとなるように各天端高さを設定する 。なお、
図9(a)の複数の透過性構造物D1~D5全体の沖から岸に向けての設置長さLLは、沖波波長L
0未満に設定される。
tanα=0.25(d/H
0)
0.25(H
0/L
0)
-0.15 (1)
H
0:来襲する波浪の沖波波高
L
0:来襲する波浪の沖波波長
d:底質粒径
【0039】
また、
図9(b)のように、複数の透過性構造物D1~D7を設置する場所が岸から1波長以上離れている場合には、自然海浜の外浜勾配の特性を参考に透過性構造物の天端勾配を設定する。すなわち、自然海浜において、式(2)において外浜勾配の大きさに基づいて算定されるパラメータCの値が18となるとき、汀線が前進(堆積タイプ)と後退(侵食タイプ)の境界となる。沖波の波形勾配、底質粒径、沖波波長は既知の条件であるので、C=18を与えた際に求められるtanβの値が堆積と侵食の境界、つまりCの値が18より小さくなる場合には、堆積タイプとなる。海浜が堆積タイプとなるように、Cの値が18より小さくなるような勾配条件を示す式(3)を用いて、複数の透過性構造物D1~D7の各天端の包絡線による天端勾配を設定し、各天端高さを設定する。または、式(4)で求められる外浜の安定勾配βを使って、複数の透過性構造物の天端勾配を設定してもよい。なお、
図9(b)の複数の透過性構造物D1~D7全体の沖から岸に向けての設置長さLLは、沖波波長L
0を越えるように設定される。
C = (H
0/L
0) (d/L
0)
-0.67(tanβ)
0.27 (2)
tanβ<{18(d/L
0)
0.67/(H
0/L
0)}
1/0.27 (3)
tanβ=0.5(w
s/gT)/(H
0/L
0) (4)
C:自然海浜における侵食・堆積の地形変化傾向を判定するパラメータ
H
0:来襲する波浪の沖波波高
L
0:来襲する波浪の沖波波長
d:底質粒径
w
s:底質粒子の沈降速度
g:重力加速度
T:波の周期
【0040】
上述のように、複数の透過性構造物は各天端高さHが沖側から岸側に向けて高くなることで砕波が一度に大きくならないので、砕波の乱れを軽減できる。このため、サンゴ礫の堆積物Tの侵食の低減に寄与でき、安定した海浜・海底地形を形成できる。
【0041】
図2の水塊の移動方向Zにおける各行A,B間、各行B,C間の間隔L0は、一定になっているが、かかる間隔L0は、海浜の変形に影響の大きい代表波浪の波長Lwの1/4に設定することが望ましい。各行間の間隔L0を波長Lwの1/4に設定した場合の作用効果を
図4,
図5を参照して説明する。
図4は、間隔L0=波長Lw/4とした場合の作用効果を説明するための図であって、
図2と同様の配置例を示す平面図(a)、波浪来襲時の水位分布例を示すために
図4(a)の透過性構造物A1,C1を水塊の移動方向ZであるLine1方向に切断して見た側断面図(b)および同じく透過性構造物B2を水塊の移動方向ZであるLine2方向に切断して見た側断面図(c)である。
図5は、比較のために間隔L0=波長Lw/2とした場合の作用効果を説明するための図であって、
図4(b)と同様のLine1方向の側断面図(a)および
図4(c)と同様のLine2方向の側断面図(c)である。
【0042】
図4(a)(b)(c)のように、Line1に波の山が作用したとき、間隔L0=波長Lw/4の場合、水位の高い透過性構造物B2の前方から、水位の低い透過性構造物A1の後方に流体は水位差により移動しやすい。波は、透過性構造物A1の前方の波も含めて、透過性構造物A1の後方に回り込む(回折する)。特に,間隔L0が波長Lwの1/4のときに、この水位差が最大になるため、回折効果が最大になり、透過性構造物A1に作用する波圧の緩和効果が高くなる。
【0043】
これに対し、間隔L0=波長Lw/2の場合、
図5(a)(b)のように、透過性構造物B2の前方に波の山と谷が等しく存在するため、Line1とLine2では平均水位が同じとなり実質的な水位差がつきにくく、流体の移動は抑えられやすい。間隔L0=波長Lw/4のケースと比べて,透過性構造物B2の前方から透過性構造物B2の後方への流体の移動は抑制されやすいため、透過性構造物A1に作用する波圧の緩和効果を得にくい。なお、間隔L0=波長Lwのケースでも波の山と谷の各エリアが等しく存在するため好ましくない。
【0044】
上述のように、間隔L0=波長Lw/4であると、透過性構造物の後方側に波が回り込み(回折し),透過性構造物の捕捉部前方側における波の作用が緩和される効果が最大となる。たとえば、作用する波の周期8秒、水深5mの条件であると、波長Lw=54mとなるため最適な間隔L0=13.5mとなる。
【0045】
なお、代表波浪としては以下が挙げられる。
(1)年最大有義波
(2)年最大の10波の平均有義波
(3)高波浪来襲時期のエネルギー平均波
(4)波高50cm未満の静穏時の波を除いたエネルギー平均波
【0046】
また、複数の代表波浪を設定し、そのうちで最短の波長(Lw_min)と最長の波長(Lw_max)とから、間隔L0を1/4 Lw_min~1/4 Lw_maxの範囲内で幅を持たせて定めるようにしてもよい。
【0047】
次に、
図2の各透過性構造物間の開口部A1-2、開口部B1-2,B2-3、および、開口部C1-2の行方向の所定の間隔である開口幅について
図6を参照して説明する。
図6は、開口部の開口幅B0=波長Lw/2とした場合の作用効果を説明するための図であって、
図2と同様の配置例を示す平面図(a)、開口幅B0=波長Lw/2とした場合の水塊の移動を概略的に示す斜視図(b)、開口幅B0をLw/2よりも小さくした場合の問題を示す斜視図(c)および開口幅B0をLw/2よりも大きくした場合の問題を示す斜視図(d)である。
【0048】
図6(a)(b)のように、透過性構造物A1,A2間の開口部A1-2の開口幅B0は、海浜の変形に影響の大きい代表波浪の波長Lwの1/2に設定される。これにより、開口幅B0の開口部A1-2に流入した波は左右に分かれて、それぞれの流出部となる透過性構造物A1,A2の後方側に向かうことで、透過性構造物に対する波圧の軽減に寄与でき、サンゴ礫の捕捉効率も低減しない。
【0049】
これに対し、
図6(c)のように、開口部A1-2の開口幅B0が、Lw/4と設定される間隔L0において、Lw/2よりも小さい場合、開口部A1-2を通過する水塊量が少なくなるとともに通過するサンゴ礫が少なくなり、透過性構造物B2の前方に堆積するサンゴ礫の堆積量が少なくなり、サンゴ礫の捕捉効果が低下する。
【0050】
また、
図6(d)のように、開口部A1-2の開口幅B0がLw/4と設定される間隔L0において、Lw/2よりも大きい場合、開口部A1-2を通過する水塊量が多くなり、透過性構造物B2への直行性が強く透過性構造物A1,A2の後方側に回り込む水塊量が少なくなるため、透過性構造物B2に対する波圧が軽減されない。
【0051】
次に、本実施形態による複数の透過性構造物の別の配置例について説明する。
図7は、本実施形態による複数の透過性構造物の別の配置例を示す平面図である。
図8は、
図7の透過性構造物の具体例を示す斜視図である。
【0052】
図7に示す配置例は、幅広い方向からの波に対応可能なように、
図8のように互いに直交する面状の第1の捕捉部21と第2の捕捉部22とを備える透過性構造物E1,E2,F1,F2,F3,G1,G2,H1,H2,H3,I1,I2を、
図2と同様に行方向(
図7の横方向)に第1の捕捉部21が並ぶように配置するとともに、行方向と直交する列方向(
図7の縦方向)にも第2の捕捉部22が並ぶように配置するものである。
【0053】
図8の透過性構造物は、サンゴ礫を捕捉可能な多数の開口20を有しかつ面状の第1の捕捉部21と第2の捕捉部22を水底から立ち上がるように備え、第1の捕捉部21と第2の捕捉部22は、互いに面横方向の略中央で直交しており、また、第1の捕捉部21と第2の捕捉部22の上部に取り付けられた十字状のプレートから構成された庇部23を有し、庇部23が各捕捉部21,22の面に直交する方向に突き出ている。多数の開口20を有する捕捉部21,22は、たとえば、互いに直交する斜め二方向に配置された多数の鋼線からなる網目状部材から構成できる。各開口20のサイズは、たとえば、対象の海域におけるサンゴ礫の平均的な寸法の長手寸法以下および短手寸法以上が好ましい。
【0054】
図7に示す配置例は、
図8の複数の透過性構造物E1,E2を面状の第1の捕捉部21が面横方向に一列に並ぶように第1の行Eとして配置し、別の複数の透過性構造物F1,F2,F3を第1の捕捉部21が第1の行Eに対し間隔をおいてかつ略平行に一列に並ぶように第2の行Fとして配置し、さらに別の複数の透過性構造物G1,G2を第1の捕捉部21が第2の行Fに対し間隔をおいてかつ略平行に一列に並ぶように第3の行Gとして配置し、さらに別の複数の透過性構造物H1,H2,H3を第1の捕捉部21が第3の行Gに対し離れてかつ略平行に一列に並ぶように第4の行Hとして配置し、さらに別の複数の透過性構造物I1,I2を第1の捕捉部21が第4の行Hに対し間隔をおいてかつ略平行に一列に並ぶように第5の行Iとして配置したものである。なお、複数の行E,F,G,H,Iとして配置された複数の透過性構造物からもう1つの構造体が構成される。
【0055】
第1~第5の行E~Iにおいて各透過性構造物E1,E2が行方向に所定の間隔をおいて配置されて透過性構造物間に開口部E1-2が形成され、各透過性構造物F1,F2,F3が行方向に所定の間隔をおいて配置されて透過性構造物間に開口部F1-2,F2-3が形成され、各透過性構造物G1,G2が行方向に所定の間隔をおいて配置されて透過性構造物間に開口部G1-2が形成され、各透過性構造物H1,H2,H3が行方向に所定の間隔をおいて配置されて透過性構造物間に開口部H1-2,H2-3が形成され、各透過性構造物I1,I2が行方向に所定の間隔をおいて配置されて透過性構造物間に開口部I1-2が形成されている。
【0056】
また、各透過性構造物E1,E2,F1~F3,G1,G2,H1~H3,I1,I2は、互いに各行方向(図の横方向)に直交する方向に関し各行毎にずれて配置され、所謂千鳥配置になっている。このため、第1の行Eにおける開口部E1-2と第2の行Fにおける開口部F1-2,F2-3とが互いに行方向に直交する方向において同一の位置とならない。同様に、第3の行Gの開口部G1-2は第2の行Fの開口部F1-2,F2-3に対し行方向に直交する方向において同一の位置とならない。第4の行Hの開口部H1-2,H2-3は第5の行Iの開口部I1-2に対し行方向に直交する方向において同一の位置とならない。このように各行における開口部は、隣り合う行の開口部に対し、行方向に直交する方向において同一の位置とならない。
【0057】
また、各行E,F,G,H,Iと直交する各列J,K,L,M,Nにおいて、第2の行Fの各透過性構造物F1,F2,F3と第4の行Hの各透過性構造物H1,H2,H3とが列方向に一列に並んで第1の列J、第3の列L、第5の列Nとして配置され、第1の行Eの各透過性構造物E1,E2と第3の行Gの各透過性構造物G1,G2と第5の行Iの各透過性構造物I1,I2が列方向に一列に並んで第2の列K、第4の列Mとして配置される。第1~第5の列J~Nにおいてそれぞれ各透過性構造物が各列方向に所定の間隔をおいて配置され、第1の列Jにおいて透過性構造物F1,H1間に開口部FH-1が形成され、第2の列Kにおいて透過性構造物E1,G1間およびG1,I1間に開口部EG-1,GI-1が形成され、第3の列Lにおいて透過性構造物F2,H2間に開口部FH-2が形成され、第4の列Mにおいて透過性構造物E2,G2間およびG2,I2に開口部EG-2,GI-2が形成され、第5の列Nにおいて透過性構造物F3,H3間に開口部FH-3が形成される。
【0058】
また、第1の列J~第5の列Nにおいても行方向と同様に各開口部は列方向にずれて配置され、所謂千鳥配置になっている。すなわち、第2の列Kにおける各開口部EG-1,GI-1は、第1の列Jおよび第3の列Lにおける各開口部FH-1,FH-2に対し列方向に直交する行方向において同一の位置とならない。第4の列Mにおける各開口部EG-2,GI-2は、第3の列Lおよび第5の列Nにおける各開口部FH-2,FH-3に対し列方向に直交する行方向において同一の位置とならない。このように各列における開口部は、隣り合う列の開口部に対し、列方向に直交する行方向において同一の位置とならない。
【0059】
図7の配置例では、各行E~Iにおいて各透過性構造物の間隔L0および開口部の開口幅B0は、
図2と同様に定められ、また、列Jの透過性構造物F1,H1と列Kの透過性構造物G1との間隔L0’および透過性構造物F1,H1間の開口部FH-1の開口幅B0’は、各行E~Iと同様に定められ、他の列K~Nにおいても同様に定められる。
【0060】
図7,
図8において、波による水塊が方向Zまたはその反対方向Z’(図の縦方向)に移動し、各透過性構造物の第1の捕捉部21を透過するとき、水塊に含まれるサンゴ礫が第1の捕捉部21の開口20で捕捉され、第1の捕捉部21の前方または後方に堆積し、サンゴ礫による堆積物Tが形成される。また、波による水塊の移動方向が変化し方向Yまたはその反対方向Y’(図の横方向)に移動し、各透過性構造物の第2の捕捉部22を透過するとき、水塊に含まれるサンゴ礫が第2の捕捉部22の開口20で捕捉され、第2の捕捉部22の前方または後方に堆積し、サンゴ礫による堆積物Tが形成される。
【0061】
以上のように、
図7の配置例によれば、波による水塊の移動方向が略直交方向に変化しても、多方向に変化しても、第1の捕捉部21または第2の捕捉部22でサンゴ礫を捕捉可能であるので、サンゴ礫の捕捉効率が低下しない。また、州島の海浜保全を目的としてサンゴ礫の堆積による陸化方法を適用する際には、一般海浜に比べて、幅広い方向からの波に対応しなければならないが、波向直角方向に対して一方向に透過性構造物を配置するのではなく全方向に対して対応可能となるように透過性構造物を効果的に配置することができる。
【0062】
また、
図8の透過性構造物によれば、第1の捕捉部21と第2の捕捉部22とが互いに面横方向の略中央で直交し平面的に十字型形状に構成されることで、次の作用効果を得ることができる。
(1)多方向波に対する透過性構造物の耐波安定性を高める。
(2)多方向から来る波に対してサンゴ礫の捕捉効果を高める。
(3)捕捉部が一方向の場合、横から波が来ると、捕捉部の端部が洗掘され不安定になり易いのに対し、
図8の十字型形状であれば、捕捉部の端部が洗掘されることなく、確実に安定性が得られ、サンゴ礫が安定して堆積する。
(4)透過性構造物の上部に庇部23を設けることで、より一層、堆積促進効果を得ることができる。
【0063】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。たとえば、
図2の配置例では、複数の透過性構造物を第1の行~第3の行として配置したが、本発明はこれに限定されず、さらに複数の透過性構造物を同様にして第4の行、第5の行、・・・、第mの行として配置可能である(m:3以上の整数)。また、各行の透過性構造物の数を増減してもよい。
【0064】
また、
図7の配置例では、各行方向に各一行に並べた2つの透過性構造物と3の透過性構造物を行毎に交互に並べて第1の行~第5の行として配置し、行方向と直交する列方向に一列ずつ第1の列~第5の列として配置したが、さらに同様にして第6の行、第7の行、・・・、第nの行として配置可能である(n:4以上の整数)。また、各行の透過性構造物の数に応じて、さらに同様にして第6の列、第7の列、・・・、第pの列として配置可能である(p:4以上の整数)。
【0065】
また、
図7において第1の行Eを省略し、各行方向に各一行に並べた3つの透過性構造物と2つの透過性構造物を行毎に交互に並べて第1の行~第4の行F~Iとして配置し、行方向と直交する列方向に一列ずつ第1の列~第5の列J~Nとして配置してもよい。この場合、第1の行Fの各透過性構造物と第3の行Hの各透過性構造物とが二列に並んでそれぞれ第1の列J、第3の列Lを構成し、第2の行Gの各透過性構造物と第4の行Iの各透過性構造物とが二列に並んでそれぞれ第2の列K、第4の列Mを構成する。
【0066】
また、本発明では、透過性構造物として
図3,
図8に示す以外の構成を有する透過性構造物であってもよいことはもちろんである。例えば
図3に図示する透過性構造物の開口10は菱形としてもよい。また、透過性構造物は、堆積した珊瑚により陸地化した際に影響を与えないように、生分解性プラスチックによるものとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、透過性構造物の安定性を確保するとともにサンゴ礫の堆積による安定した海浜・海底地形が形成可能であるので、サンゴ礫の効率的な捕捉・堆積が可能であり、効率的なサンゴ礫堆積による陸化が可能である。
【符号の説明】
【0068】
10,20 開口
11 捕捉部
21 第1の捕捉部
22 第2の捕捉部
23 庇部
A,B,C 第1の行~第3の行
A1,A2,B1,B2,B3,C1,C2 透過性構造物
A1-2,B1-2,B2-3,C1-2 開口部
L0,L’透過性構造物間の間隔
B0,B’ 開口部の開口幅
E,F,G,H,I 第1の行~第5の行
J,K,L,M,N 第1の列~第5の列
E1,E2,F1~F3,G1,G2,H1~H3,I1,I2 透過性構造物
E1-2,F1-2,F2-3,G1-2、H1-2,H2-3,I1-2 開口部
FH-1,EG-1,GI-1,FH-2,EG-2,GI-2,FH-3 開口部
Lw 波長
GR 水底
Z,Z’,Y,Y’ 水塊の移動方向
T 堆積物