(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127233
(43)【公開日】2022-08-31
(54)【発明の名称】シランカップリング剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 7/18 20060101AFI20220824BHJP
【FI】
C07F7/18 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021025263
(22)【出願日】2021-02-19
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 試験研究タイプ「高シリカ配合天然ゴム組成物の製造を指向する新規シランカップリング剤の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100181179
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 洋一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197295
【弁理士】
【氏名又は名称】武藤 三千代
(72)【発明者】
【氏名】進藤 涼平
(72)【発明者】
【氏名】中島 裕美子
(72)【発明者】
【氏名】永縄 友規
【テーマコード(参考)】
4H049
【Fターム(参考)】
4H049VN01
4H049VP01
4H049VQ46
4H049VR22
4H049VR42
4H049VS30
4H049VU34
4H049VW02
(57)【要約】
【課題】新規のシランカップリング剤の製造方法を提供する。
【解決手段】ビニル基導入工程とヒドロシリル化工程とジアゾ化工程とを備える、化合物(I)であるシランカップリング剤を合成するシランカップリング剤の製造方法。
化合物(I)
化合物(I)において、Aは、ヘテロ原子を有していてもよく置換基を有していてもよい炭素数3~26の2価の脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表し、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、置換基を表す。ただし、R
1、R
2及びR
3のうち少なくとも1つはアルコキシ基である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化合物(III)とCH
2=CH-R-OHで表される化合物(ただし、Rは、ヘテロ原子を有していてもよく、置換基を有していてもよい、炭素数1~24の、2価の、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す)とを反応させることで、下記化合物(IV)を合成する、ビニル基導入工程と、
前記化合物(IV)と下記化合物(VI)とを反応させることで、下記化合物(VII)を合成する、ヒドロシリル化工程と、
下記化合物(II)と前記化合物(VII)とを反応させることで、下記化合物(I)であるシランカップリング剤を合成する、ジアゾ化工程とを備える、シランカップリング剤の製造方法。
【化1】
化合物(III)
化合物(III)において、X
1及びX
2は、それぞれ独立に、ハロゲン原子を表す。
【化2】
化合物(IV)
前記化合物(IV)において、Rは、ヘテロ原子を有していてもよく、置換基を有していてもよい、炭素数1~24の、2価の、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表し、Xは、ハロゲン原子を表す。
【化3】
化合物(VI)
化合物(VI)において、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、置換基を表す。ただし、R
1、R
2及びR
3のうち少なくとも1つはアルコキシ基である。
【化4】
化合物(VII)
化合物(VII)において、Aは、ヘテロ原子を有していてもよく、置換基を有していてもよい、炭素数3~26の、2価の、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表し、R
1、R
2及びR
3の定義は、前記化合物(VI)のR
1、R
2及びR
3と同じであり、Xの定義は、前記化合物(IV)のXと同じである。
【化5】
化合物(II)
化合物(II)において、Tsはトシル基を表す。
【化6】
化合物(I)
化合物(I)において、Aの定義は、前記化合物(VII)のAと同じであり、R
1、R
2及びR
3の定義は、前記化合物(VI)のR
1、R
2及びR
3と同じである。
【請求項2】
下記化合物(III)とCH
2=CH-R-OHで表される化合物(ただし、Rは、ヘテロ原子を有していてもよく、置換基を有していてもよい、炭素数1~24の、2価の、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す)とを反応させることで、下記化合物(IV)を合成する、ビニル基導入工程と、
下記化合物(II)と前記化合物(IV)とを反応させることで、下記化合物(V)を合成する、ジアゾ化工程と、
前記化合物(V)と下記化合物(VI)とを反応させることで、下記化合物(I)であるシランカップリング剤を合成する、ヒドロシリル化工程とを備える、シランカップリング剤の製造方法。
【化7】
化合物(III)
化合物(III)において、X
1及びX
2は、それぞれ独立に、ハロゲン原子を表す。
【化8】
化合物(IV)
前記化合物(IV)において、Rは、ヘテロ原子を有していてもよく、置換基を有していてもよい、炭素数1~24の、2価の、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表し、Xは、ハロゲン原子を表す。
【化9】
化合物(II)
化合物(II)において、Tsはトシル基を表す。
【化10】
化合物(V)
化合物(V)において、Rは、ヘテロ原子を有していてもよく、置換基を有していてもよい、炭素数1~24の、2価の、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。
【化11】
化合物(VI)
化合物(VI)において、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、置換基を表す。ただし、R
1、R
2及びR
3のうち少なくとも1つはアルコキシ基である。
【化12】
化合物(I)
化合物(I)において、Aは、ヘテロ原子を有していてもよく、置換基を有していてもよい、炭素数3~26の、2価の、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表し、R
1、R
2及びR
3の定義は、前記化合物(VI)のR
1、R
2及びR
3と同じである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シランカップリング剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、分子内に有機材料及び無機材料と結合する官能基を併せ持つシランカップリング剤が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、新規のシランカップリング剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
【0006】
(1) 後述する化合物(III)とCH2=CH-R-OHで表される化合物(ただし、Rは、ヘテロ原子を有していてもよく、置換基を有していてもよい、炭素数1~24の、2価の、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す)とを反応させることで、後述する化合物(IV)を合成する、ビニル基導入工程と、
上記化合物(IV)と後述する化合物(VI)とを反応させることで、後述する化合物(VII)を合成する、ヒドロシリル化工程と、
後述する化合物(II)と上記化合物(VII)とを反応させることで、後述する化合物(I)であるシランカップリング剤を合成する、ジアゾ化工程とを備える、シランカップリング剤の製造方法。
(2) 後述する化合物(III)とCH2=CH-R-OHで表される化合物(ただし、Rは、ヘテロ原子を有していてもよく、置換基を有していてもよい、炭素数1~24の、2価の、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す)とを反応させることで、後述する化合物(IV)を合成する、ビニル基導入工程と、
後述する化合物(II)と上記化合物(IV)とを反応させることで、後述する化合物(V)を合成する、ジアゾ化工程と、
上記化合物(V)と後述する化合物(VI)とを反応させることで、後述する化合物(I)であるシランカップリング剤を合成する、ヒドロシリル化工程とを備える、シランカップリング剤の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
以下に示すように、本発明によれば、新規のシランカップリング剤の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明のシランカップリング剤の製造方法について説明する。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
また、各成分は、1種を単独でも用いても、2種以上を併用してもよい。ここで、各成分について2種以上を併用する場合、その成分について含有量とは、特段の断りが無い限り、合計の含有量を指す。
【0010】
本発明のシランカップリング剤の製造方法(以下、「本発明の方法」とも言う)の第1の態様(以下、「本発明の方法1」とも言う)は、
後述する化合物(III)とCH2=CH-R-OHで表される化合物(ただし、Rは、ヘテロ原子を有していてもよく、置換基を有していてもよい、炭素数1~24の、2価の、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す)(以下、「特定アルコール」とも言う)とを反応させることで、後述する化合物(IV)を合成する、ビニル基導入工程と、
上記化合物(IV)と後述する化合物(VI)とを反応させることで、後述する化合物(VII)を合成する、ヒドロシリル化工程と、
後述する化合物(II)と上記化合物(VII)とを反応させることで、後述する化合物(I)であるシランカップリング剤(以下、「特定シランカップリング剤」とも言う)を合成する、ジアゾ化工程とを備える、シランカップリング剤の製造方法である。
【0011】
また、本発明の方法の第2の態様(以下、「本発明の方法2」とも言う)は、
後述する化合物(III)とCH2=CH-R-OHで表される化合物(ただし、Rは、ヘテロ原子を有していてもよく、置換基を有していてもよい、炭素数1~24の、2価の、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す)(特定アルコール)とを反応させることで、後述する化合物(IV)を合成する、ビニル基導入工程と、
後述する化合物(II)と上記化合物(IV)とを反応させることで、後述する化合物(V)を合成する、ジアゾ化工程と、
上記化合物(V)と後述する化合物(VI)とを反応させることで、後述する化合物(I)であるシランカップリング剤(特定シランカップリング剤)を合成する、ヒドロシリル化工程とを備える、シランカップリング剤の製造方法である。
【0012】
本発明の方法はこのような構成をとるため、高い収率で特定シランカップリング剤を得ることができる。
なお、本発明の方法2では、後述のとおり、好適な態様としてKarstedt触媒を使用するところ、Karstedt触媒を使用した場合、ジアゾ基の分解反応も促すため長時間の反応が困難になることがある(反応と分解の協奏反応)。長時間反応させると目的物が消失してしまうことがあるため、厳密な時間、温度の制御が必要になる場合がある。一方、本発明の方法1では、Karstedt触媒よりも扱いやすい触媒が適用可能なため、より高い収率で特定シランカップリング剤を得ることができる。
【0013】
また、上記特定シランカップリング剤を有機材料(特に天然ゴム)及び無機材料(特にシリカ)の混合物に配合した場合、有機材料中の無機材料の分散性は極めて高いレベルになる。これは、特定シランカップリング剤を上記混合物に配合した場合、特定シランカップリング剤のアルコキシシリル基は無機材料と結合し、ジアゾ基(=N2)は有機材料と結合するところ、ジアゾ基の有機材料に対する反応性が極めて高いためと考えられる。
なお、ジアゾ基は、分解してカルベン(反応性の高い種)を経て、有機材料(例えば、オレフィン(特にゴム中の二重結合))と反応するものと考えらえる。特に、電子不足なカルベンと、電子豊富な多置換アルケンは相性が良く、反応性を獲得できると考えられる。
【0014】
以下、本発明の方法1及び本発明の方法2について説明する。
【0015】
[本発明の方法1]
上述のとおり、本発明の方法1は、
後述する化合物(III)と特定アルコールとを反応させることで、後述する化合物(IV)を合成する、ビニル基導入工程と、
上記化合物(IV)と後述する化合物(VI)とを反応させることで、後述する化合物(VII)を合成する、ヒドロシリル化工程と、
後述する化合物(II)と上記化合物(VII)とを反応させることで、後述する化合物(I)であるシランカップリング剤(特定シランカップリング剤)を合成する、ジアゾ化工程とを備える、シランカップリング剤の製造方法である。
【0016】
以下、各工程について説明する。
【0017】
〔ビニル基導入工程〕
上記ビニル基導入工程は、下記化合物(III)と特定アルコールとを反応させることで、下記化合物(IV)を合成する工程である。
【0018】
<化合物(III)>
【0019】
【0020】
化合物(III)において、X1及びX2は、それぞれ独立に、ハロゲン原子を表す。
【0021】
上述のとおり、化合物(III)において、X1及びX2は、それぞれ独立に、ハロゲン原子を表す。
上記ハロゲン原子は特に制限されないが、特定シランカップリング剤の収率がより高くなり、また、得られる特定シランカップリング剤の無機材料の分散性を向上させる効果がより優れる理由から、臭素原子であることが好ましい。
以下、「特定シランカップリング剤の収率がより高くなり、また、得られる特定シランカップリング剤の無機材料の分散性を向上させる効果がより優れる」ことを「本発明の効果等がより優れる」とも言う。
【0022】
<特定アルコール>
上記特定アルコールは、CH2=CH-R-OHで表される化合物(ただし、Rは、ヘテロ原子を有していてもよく、置換基を有していてもよい、炭素数1~24の、2価の、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す)である。上記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。
上記Rは、本発明の効果等がより優れる理由から、炭素数1~5の2価の脂肪族炭化水素基(特にアルキレン基)であることが好ましい。
【0023】
<化合物(IV)>
【0024】
【0025】
化合物(IV)において、Rは、ヘテロ原子を有していてもよく、置換基を有していてもよい、炭素数1~24の、2価の、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表し、Xは、ハロゲン原子を表す。
【0026】
上記Rの具体例及び好適な態様は、上述した特定アルコールのRと同じである。
また、上記Xの具体例及び好適な態様は、上述した化合物(III)のXと同じである。
【0027】
<好適な態様>
上記ビニル基導入工程は、本発明の効果等がより優れる理由から、
上述した化合物(III)と上述した特定アルコールとを、炭酸水素ナトリウム及びアセトニトリルの存在下で反応させることで、上述した化合物(IV)を合成する工程であることが好ましい。
【0028】
〔ヒドロシリル化工程〕
上記ヒドロシリル化工程は、上述したビニル基導入工程で得られた化合物(IV)と下記化合物(VI)とを反応させることで、下記化合物(VII)を合成する工程である。
【0029】
<化合物(VI)>
【0030】
【0031】
化合物(VI)において、R1、R2及びR3は、それぞれ独立に、置換基を表す。ただし、R1、R2及びR3のうち少なくとも1つはアルコキシ基である。
【0032】
上記アルコキシ基の炭素数は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、1~5であることが好ましい。
【0033】
上記置換基がアルコキシ基以外である場合の具体例としては、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、またはこれらを組み合わせた基などが挙げられる。
上記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。上記脂肪族炭化水素基の具体例としては、直鎖状または分岐状のアルキル基(特に、炭素数1~30)、直鎖状または分岐状のアルケニル基(特に、炭素数2~30)、直鎖状または分岐状のアルキニル基(特に、炭素数2~30)などが挙げられる。
上記芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などの炭素数6~18の芳香族炭化水素基などが挙げられる。
上記置換基がアルコキシ基以外である場合、本発明の効果等がより優れる理由から、脂肪族炭化水素基であることが好ましく、アルキル基(特に炭素数1~5)であることがより好ましい。
【0034】
<化合物(VII)>
【0035】
【0036】
化合物(VII)において、Aは、ヘテロ原子を有していてもよく、置換基を有していてもよい、炭素数3~26の、2価の、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表し、R1、R2及びR3の定義は、上述した化合物(VI)のR1、R2及びR3と同じであり、Xの定義は、上述した化合物(IV)のXと同じである。
【0037】
上述のとおり、化合物(VII)において、Aは、ヘテロ原子を有していてもよく、置換基を有していてもよい、炭素数3~26の、2価の、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。
上記Aは、本発明の効果等がより優れる理由から、-CH2CH2-R-で表される基であることが好ましい。ここで、Rの定義、具体的及び好適な態様は、上述した特定アルコールのRと同じである。
【0038】
上述のとおり、化合物(VII)において、R1、R2及びR3の定義は、上述した化合物(VI)のR1、R2及びR3と同じである。上記R1、R2及びR3の具体例及び好適な態様も、上述した化合物(VI)のR1、R2及びR3と同じである。
【0039】
上述のとおり、化合物(VII)において、Xの定義は、上述した化合物(IV)のXと同じである。上記Xの具体例及び好適な態様も、上述した化合物(IV)のXと同じである。
【0040】
<好適な態様>
上記ヒドロシリル化工程は、本発明の効果等がより優れる理由から、
上述したビニル基導入工程で得られた化合物(IV)と上述した化合物(VI)とを、イリジウム触媒及びジクロロメタンの存在下で室温でヒドロシリル化反応させることで、上述した化合物(VII)を合成する工程であることが好ましい。
【0041】
上記イリジウム触媒としては、例えば、イリジウム塩、イリジウム錯体等が挙げられる。上記イリジウム塩として具体的には、三塩化イリジウム、四塩化イリジウム、塩化イリジウム酸、塩化イリジウム酸ナトリウム、塩化イリジウム酸カリウム等が挙げられる。イリジウム錯体として具体的には、クロロ(1,5-シクロオクタジエン)イリジウム(I)ダイマー、ブロモ(1,5-シクロオクタジエン)イリジウム(I)ダイマー、ヨード(1,5-シクロオクタジエン)イリジウム(I)ダイマー、クロロ(2,5-ノルボルナジエン)イリジウム(I)ダイマー、ブロモ(2,5-ノルボルナジエン)イリジウム(I)ダイマー、ヨード(2,5-ノルボルナジエン)イリジウム(I)ダイマー、1,5-シクロオクタジエン(アセチルアセトナト)イリジウム(I)、クロロビス(シクロオクテン)イリジウム(I)ダイマー、クロロカルボニルビス(トリフェニルホスフィン)イリジウム(I)等が挙げられる。特に、本発明の効果等がより優れる理由から、クロロ(1,5-シクロオクタジエン)イリジウム(I)ダイマーを用いることが好ましい。
【0042】
〔ジアゾ化工程〕
上記ジアゾ化工程は、下記化合物(II)と上述したヒドロシリル化工程で得られた化合物(VII)とを反応させることで、下記化合物(I)であるシランカップリング剤(特定シランカップリング剤)を合成する工程である。
【0043】
<化合物(II)>
【0044】
【0045】
化合物(II)において、Tsはトシル基を表す。
【0046】
化合物(II)の合成方法は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、p-トルエンスルホニルヒドラジドと塩化パラトルエンスルホニルとをピリジンとジクロロメタンの存在下で反応させる方法が好ましい。
【0047】
<化合物(I)>
【0048】
【0049】
化合物(I)において、Aの定義は、上述した化合物(VII)のAと同じであり、R1、R2及びR3の定義は、上述した化合物(VI)のR1、R2及びR3と同じである。
【0050】
上述のとおり、化合物(I)において、Aの定義は、上述した化合物(VII)のAと同じである。上記Aの具体例及び好適な態様も、上述した化合物(VII)のAと同じである。
【0051】
上述のとおり、化合物(I)において、R1、R2及びR3の定義は、上述した化合物(VI)のR1、R2及びR3と同じである。上記R1、R2及びR3の具体例及び好適な態様も、上述した化合物(VI)のR1、R2及びR3と同じである。
【0052】
<好適な態様>
上記ジアゾ化工程は、本発明の効果等がより優れる理由から、
上述した化合物(II)と上述したヒドロシリル化工程で得られた化合物((VII)とを、テトラメチルグアニジン及びテトラヒドロフランの存在下でジアゾ化反応させることで、上述した化合物(I)であるシランカップリング剤を合成する工程であることが好ましい。
【0053】
[本発明の方法2]
上述のとおり、本発明の方法2は、
後述する化合物(III)とCH2=CH-R-OHで表される化合物(ただし、Rは、ヘテロ原子を有していてもよく、置換基を有していてもよい、炭素数1~24の、2価の、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す)(特定アルコール)とを反応させることで、後述する化合物(IV)を合成する、ビニル基導入工程と、
後述する化合物(II)と上記化合物(IV)とを反応させることで、後述する化合物(V)を合成する、ジアゾ化工程と、
上記化合物(V)と後述する化合物(VI)とを反応させることで、後述する化合物(I)であるシランカップリング剤(特定シランカップリング剤)を合成する、ヒドロシリル化工程とを備える、シランカップリング剤の製造方法である。
【0054】
以下、各工程について説明する。
【0055】
〔ビニル基導入工程〕
上記ビニル基導入工程は、上述した本発明の方法1のビニル基導入工程と同じである。
【0056】
〔ジアゾ化工程〕
上記ジアゾ化工程は、下記化合物(II)と上述したビニル基導入工程で得られた化合物(IV)とを反応させることで、下記化合物(V)を合成する工程である。
【0057】
<化合物(II)>
上記化合物(II)は、上述した本発明の方法1のジアゾ化工程で使用される化合物(II)と同じである。
【0058】
<化合物(V)>
【0059】
【0060】
化合物(V)において、Rは、ヘテロ原子を有していてもよく、置換基を有していてもよい、炭素数1~24の、2価の、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。
【0061】
上記Rの具体例及び好適な態様は、上述した特定アルコールのRと同じである。
【0062】
<好適な態様>
上記ジアゾ化工程は、本発明の効果等がより優れる理由から、上述した化合物(II)と上述したビニル基導入工程で得られた化合物(IV)とを、ジアザビシクロウンデセン及びテトラヒドロフランの存在下でジアゾ化反応させることで、上述した化合物(V)を合成する工程であることが好ましい。
【0063】
〔ヒドロシリル化工程〕
上記ヒドロシリル化工程は、上述したジアゾ化工程で得られた化合物(V)と下記化合物(VI)とを反応させることで、下記化合物(I)であるシランカップリング剤(特定シランカップリング剤)を合成する工程である。
【0064】
<化合物(VI)>
上記化合物(VI)は、上述した本発明の方法1のヒドロシリル化工程で使用される化合物(VI)と同じである。
【0065】
<化合物(I)>
上記化合物(I)(特定シランカップリング剤)は、上述した本発明の方法1のジアゾ化工程で合成される化合物(I)(特定シランカップリング剤)と同じである。
【0066】
<好適な態様>
上記ヒドロシリル化工程は、本発明の効果等がより優れる理由から、上述したジアゾ化工程で得られた化合物(V)と上述した化合物(VI)とを、Karstedt触媒の存在下でヒドロシリル化反応させることで、上述した化合物(I)(特定シランカップリング剤)を合成する工程であることが好ましい。
【0067】
[用途]
上述した特定シランカップリング剤は、有機材料(特に天然ゴム)及び無機材料(特にシリカ)の混合物の配合剤として特に有用である。
【実施例0068】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0069】
〔実施例1〕
【0070】
<化合物(II)の合成>
温度計を装着した300mLの3つ口フラスコ内にp-Toluenesulfonyl Hydrazide(東京化成工業社製、18.6g)およびp-Toluenesulfonyl Chloride(東京化成工業社製、28.6g)のCH2Cl2懸濁液を入れ、氷浴で冷却した。Pyridine/CH2Cl2=1:1の混合溶液(25 mL)を滴下ロートを使用して、内温20℃以下を維持した状態で約10分間かけ滴下した。反応混合物を室温で3時間攪拌した。Et2O(ジエチルエーテル)(60mL)を加えて1Lのビーカーにあけ、純水60mLとEt2O60mLをこの順に加え、室温で10分間攪拌した。白色析出物をろ取し、500mLナスフラスコ内に移して、減圧乾燥した。
粗生成物にMeOH(メタノール)(260mL)を加えて、浴温80℃で穏やかに還流させながら、3時間攪拌した。室温まで冷却し、白色析出物をろ取して、MeOH(90mL)とEt2O(90mL)で洗浄した。
得られた固体を減圧乾燥したところ白色固体が26.9g得られた。
1Hおよび13C NMRスペクトルから、得られた白色固体はTs-NHNH-Ts(Ts:トシル基)(上述した化合物(II)に該当)であることが確認された。収率は79%であった。
【0071】
<ビニル基導入工程>
温度計を装着した1Lの3つ口フラスコにNaHCO3(炭酸水素ナトリウム)(富士フイルム和光純薬工業社製、39.6g)、3-Butene-1-ol(上述した特定アルコールに該当。ここで、Rは-CH2CH2-である)(東京化成工業社製、13.5mL)とアセトニトリル(400mL)を入れ、氷浴で冷却した。この混合物に、Bromoacetyl bromide(上述した化合物(III)に該当。ここで、X1及びX2は臭素原子である)(東京化成工業社製、20mL)を滴下ロートを使用して、内温4~5℃を維持しつつ約1時間かけ滴下した。同温でさらに約30分攪拌したのち、TLC(薄層クロマトグラフィー)で3-Butene-1-olの消失を確認した。
3Lのビーカーに純水(500mL)を入れ、攪拌しながら得られた反応液を注いだ。反応容器を純水、次いで少量のアセトニトリルで洗い、洗浄した液は混合物に加えた。混合物を室温で5分程度攪拌したのち、CH2Cl2(600mL)で抽出した。混合物を2L分液ロートに入れ、CH2Cl2(600mL)で抽出し、CH2Cl2層を食塩水で洗浄した。CH2Cl2層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾別後、減圧下に濃縮した。残渣の油状物を減圧乾燥し、無色の油状生成物28.6gを得た。
反応生成物の1Hおよび13C NMRスペクトルから、得られた油状生成物は上述した化合物(IV)(ここで、Rは-CH2CH2-であり、Xは臭素原子である)であることが確認された。収率は94%であった。
【0072】
<ヒドロシリル化工程>
温度計を装着した500mL3つ口フラスコ内に[IrCl(C8H12)]2(富士フイルム和光純薬製、0.955g)を入れ、反応容器を減圧にして窒素置換した。無水CH2Cl2(148mL)を加えて、反応容器を氷浴で冷却した。内温3~4℃を維持しつつtriethoxysilane(上述した化合物(VI)に該当。ここで、R1、R2及びR3はエトキシ基である)(東京化成工業社製、32mL)を滴下ロートを使用して約30分かけて滴下した。続いて、上述のとおり合成した化合物(IV)(28.6g)のCH2Cl2溶液(15mL)を滴下ロートを使用して約1時間かけて滴下した。同温で30分程度攪拌し、化合物(IV)の消失をTLCで確認した。
3Lビーカー内でSiO2(114g)をAcOEt(酢酸エチル)/n-hexane=20/80の混合溶液500mLに懸濁し、攪拌しながら氷浴で冷却し、この中に反応溶液をゆっくり静かに注いだ。3Lの吸引ビンに15cmの桐山ロートを装着し、桐山ロートのろ紙の上にセライト(富士フイルム 和光純薬工業社のCelite No. 545)を敷いて、吸引しながらセライトを押し固め、約1cmのcelite padとした。クエンチした反応混合物をcelite padでろ過し、SiO2と不溶物を濾別した。ろ過物はAcOEt/n-hexane=20/80の混合溶液500mL、次いでAcOEt/n-hexane=30/70の混合溶液600mLで洗浄した。ろ液を減圧下に濃縮し、粗生成物約46gの薄い褐色の油状物を得た。粗生成物をカラム精製し、薄い黄色の油状物42.46gを得た。
【0073】
(粗生成物を精製する際のカラム条件)
・Yamazen Smart Flash EPLC AI 580S
・Column Size 4L(SiO2 200g)、injection column 2L
・AcOEt/n-hexane=0/100 → 9/91
・UV 254nm
【0074】
1H、13C及び29Si NMRスペクトルから、得られた油状物は上述した化合物(VII)(ここで、Aは-CH2CH2CH2CH2-であり、R1、R2及びR3はエトキシ基であり、Xは臭素原子である)であることが確認された。収率は80%であった。
【0075】
<ジアゾ化工程>
温度計を装着し、減圧にして窒素置換した100mL3つ口フラスコ内に上述のとおり合成した化合物(VII)を入れ、無水THF(テトラヒドロフラン)12mLに溶解し、上述のとおり合成したTs-NHNH-Ts(1.59g)を粉末ロートで加えた。これを-10℃にて冷却し、テトラメチルグアニジン(東京化成工業社製、32mL)の無水THF溶液(1.3mL)を滴下ロートを使用して、内温-5~-3℃を維持しながら約20分かけて滴下した。滴下開始時、Ts-NHNH-Tsは完全には溶解せず、懸濁液となっていたが、滴下していくにつれて、いったんすべて溶解し均一な溶液となった後、徐々に白色の析出物が生じた。同温に冷却したままさらに20分程度攪拌し、TLCで原料がほぼ消失していることを確認した。反応混合物を冷却装置から外し、室温まで自然昇温しながら1時間程度攪拌した。反応混合物は白色析出物を含む黄色の溶液であった。TLCで化合物(VII)の生成物の消失を確認し、反応溶液にEt2O(50mL)を加えた。桐山ロートにSiO2(5g)を敷いて反応混合物をろ過した。ろ過物をEt2O15mLで4回洗浄した。ろ液を洗浄液をすべてあわせて、減圧下に濃縮し、残渣をSiO2カラムで精製した。このようにして黄色の油状物0.674gを得た。
【0076】
(粗生成物を精製する際のカラム条件)
・Yamazen Smart Flash EPLC AI 580S
・Column Size M(SiO2 16g)、injection column S
・AcOEt/n-hexane =0/100 → 17/83
・UV 254nm
【0077】
1H、13Cおよび29Si NMRスペクトルから、得られた油状物は上述した化合物(I)(ここで、Aは-CH2CH2CH2CH2-であり、R1、R2及びR3はエトキシ基である)(特定シランカップリング剤)であることが確認された。収率は52%であった。
【0078】
〔実施例2〕
<化合物(II)の合成>
実施例1と同様の手順に従って化合物(II)を合成した。
【0079】
<ビニル基導入工程>
実施例1と同様の手順に従って化合物(IV)を合成した。
【0080】
<ジアゾ化工程>
化合物(VII)の代わりに上述のとおり合成した化合物(IV)を使用し、テトラメチルグアニジンの代わりにジアザビシクロウンデセンを使用した点以外は、実施例1のジアゾ化工程と同様の手順に従って、反応を行い、油状物を得た。
1H及び13C NMRスペクトルから、得られた油状物は上述した化合物(V)(ここで、Rは-CH2CH2-である)であることが確認された。
【0081】
<ヒドロシリル化工程>
化合物(IV)の代わりに上述のとおり合成した化合物(V)を使用し、イリジウム触媒の代わりにKarstedt触媒を使用した点以外は、実施例1のヒドロシリル化工程と同様の手順に従って、反応を行い、油状物を得た。
1H、13C及び29Si NMRスペクトルから、得られた油状物は上述した化合物(I)(ここで、Aは-CH2CH2CH2CH2-であり、R1、R2及びR3はエトキシ基である)(特定シランカップリング剤)であることが確認された。
【0082】
〔実施例3〕
triethoxysilaneの代わりにmethyldiethoxysilane(上述した化合物(VI)に該当。ここで、R1、R2及びR3のうち2つはエトキシ基であり、1つはメチル基である)を使用した点以外は、実施例1と同様の手順に従って、各工程を行い、油状物を得た。
1H、13C及び29Si NMRスペクトルから、得られた油状物は上述した化合物(I)(ここで、Aは-CH2CH2CH2CH2-であり、R1、R2及びR3のうち2つはエトキシ基であり1つはメチル基である)(特定シランカップリング剤)であることが確認された。収率(ジアゾ化工程)は51%であった。
【0083】
〔実施例4〕
<化合物(II)の合成>
実施例1と同様の手順に従って化合物(II)を合成した。
【0084】
<ビニル基導入工程>
実施例1と同様の手順に従って化合物(IV)を合成した。
【0085】
<ジアゾ化工程>
化合物(VII)の代わりに上述のとおり合成した化合物(IV)を使用し、テトラメチルグアニジンの代わりにジアザビシクロウンデセンを使用した点以外は、実施例1のジアゾ化工程と同様の手順に従って、反応を行い、油状物を得た。
1H及び13C NMRスペクトルから、得られた油状物は上述した化合物(V)(ここで、Rは-CH2CH2-である)であることが確認された。
【0086】
<ヒドロシリル化工程>
化合物(IV)の代わりに上述のとおり合成した化合物(V)を使用し、イリジウム触媒の代わりにKarstedt触媒を使用し、triethoxysilaneの代わりにmethyldiethoxysilane(上述した化合物(VI)に該当。ここで、R1、R2及びR3のうち2つはエトキシ基であり、1つはメチル基である)を使用した点以外は、実施例1のヒドロシリル化工程と同様の手順に従って、反応を行い、油状物を得た。
1H、13C及び29Si NMRスペクトルから、得られた油状物は上述した化合物(I)(ここで、Aは-CH2CH2CH2CH2-であり、R1、R2及びR3のうち2つはエトキシ基であり1つはメチル基である)(特定シランカップリング剤)であることが確認された。収率(ヒドロシリル化工程)は2%であった。
【0087】
本発明の方法2に該当する実施例4は特定シランカップリング剤の収率が1%であり、これに対して本発明の方法1に該当する実施例3は特定シランカップリング剤の収率が22%であり、本発明の方法2に該当する実施例4と比較して本発明の方法1に該当する実施例3はより高い収率を示した。