(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127429
(43)【公開日】2022-08-31
(54)【発明の名称】潜熱蓄熱材用マイクロカプセル及びその製造方法、当該潜熱蓄熱材用マイクロカプセルを含む粉末、並びに、当該粉末を含む蓄熱装置
(51)【国際特許分類】
B01J 13/22 20060101AFI20220824BHJP
C09K 5/14 20060101ALI20220824BHJP
F28D 20/02 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
B01J13/22 ZNM
C09K5/14 E
F28D20/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021025581
(22)【出願日】2021-02-19
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】味谷 和之
(72)【発明者】
【氏名】能村 貴宏
【テーマコード(参考)】
4G005
【Fターム(参考)】
4G005AA01
4G005BA15
4G005BB12
4G005BB17
4G005BB25
4G005DA01X
4G005DA01Y
4G005DA01Z
4G005DA12Z
4G005EA10
(57)【要約】
【課題】耐久性の高い潜熱蓄熱材用マイクロカプセルを提供すること。
【解決手段】
Zn及びAlを含む金属コアと、該金属コアに接して被覆するシェルとを備える潜熱蓄熱材用マイクロカプセルであって、
当該マイクロカプセルのシェルは、AlとZnとOとを含み、
前記シェルの厚みが1.0μm以上である、
潜熱蓄熱材用マイクロカプセル。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zn及びAlを含む金属コアと、該金属コアに接して被覆するシェルとを備える潜熱蓄熱材用マイクロカプセルであって、
当該マイクロカプセルのシェルは、AlとZnとOとを含み、
前記シェルの厚みが1.0μm以上である、
潜熱蓄熱材用マイクロカプセル。
【請求項2】
マイクロカプセルのコア中のAl及びZnの合計質量を100質量部とすると、Znが60~95質量部であり、Alが5~40質量部である請求項1に記載の潜熱蓄熱材用マイクロカプセル。
【請求項3】
前記シェルの厚みが2.0μm超である、請求項1又は2に記載の潜熱蓄熱材用マイクロカプセル。
【請求項4】
請求項1~3の何れか一項に記載の潜熱蓄熱材用マイクロカプセルを複数含有する粉末。
【請求項5】
平均粒径が20~100μmである請求項4に記載の粉末。
【請求項6】
平均粒径が30~50μmである請求項5に記載の粉末。
【請求項7】
請求項4~6の何れか一項に記載の粉末を備える蓄熱装置。
【請求項8】
自動車の排気通路の外周に設置される請求項7に記載の蓄熱装置。
【請求項9】
Zn-Al合金粒子に対して、ベーマイト処理及び酸化処理を順に行うことを含み、酸化処理は、昇温速度6℃/min以下の条件で保持温度まで昇温し、当該保持温度、酸素含有雰囲気中で保持する請求項1~3の何れか一項に記載の潜熱蓄熱材用マイクロカプセルの製造方法。
【請求項10】
昇温速度が4℃/min以下である請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
保持温度が550℃~850℃である請求項9又は10に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潜熱蓄熱材用マイクロカプセル及びその製造方法、当該潜熱蓄熱材用マイクロカプセルを含む粉末、並びに、当該粉末を含む蓄熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱を蓄積する技術は、例えば、顕熱蓄熱と潜熱蓄熱とが挙げられる。顕熱蓄熱は、蓄熱体の温度変化を利用する。一方で、潜熱蓄熱は、例えば、固相から液相への蓄熱体の相変化を利用する。
【0003】
特許文献1は、潜熱蓄熱体を開示しており、ここで、前記潜熱蓄熱体は、Al-Si合金のコア粒子と、該コア粒子を覆うAl酸化被膜のシェルとから構成される。前記シェルに関して、特許文献1は、コア粒子を化成被膜処理すること、更に熱酸化処理をすること、そして、これにより酸化被膜を形成することができることを開示している。
【0004】
特許文献2では、潜熱蓄熱体のコア粒子が下記のA群から選択される少なくとも1種の合金成分Aと下記のB群から選択される少なくとも1種の合金成分Bとの合金(A-B合金)であることを開示している。
群A:Ca、Si、Bi、Mg、Sb、In、Sn、Al、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Pd、Ag、Au、Pb
群B:Al、Cr、Mn、Si、Mg、Co、Ni
更に、特許文献2は、以下の関係を満足することを開示している。
ΔGA
0≧ΔGB
0
(ΔGA
0):前記合金成分Aの酸化物生成の標準自由エネルギー
(ΔGB
0):前記合金成分Bの酸化物生成の標準自由エネルギー
【0005】
特許文献3では、コア部の漏出の発生を減少させることを目的とした潜熱蓄熱体を開示しており、BET比表面積が10m2/g以上であることを開示している。また、製造時、特に、ベーマイト処理時に特定のアミン化合物を使用することを開示している。
【0006】
非特許文献1は、以下の三種類の合金を開示している。
Zn84Al8.7Mg7.3、
Zn88.7Al11.3、
Zn92.2Mg7.8
(各数字はat.%を表す)
そして、非特許文献1は、これらの合金が、潜熱蓄熱用相変化材料に利用できるかどうかの可能性を評価したことを開示している。さらに、当該文献によれば、融点はそれぞれ344℃、382℃、371℃であり、融解熱はそれぞれ132Jg-1、118Jg-1、106Jg-1であったことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2017/200021号
【特許文献2】国際公開第2015/162929号
【特許文献3】特開2019-203128号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】E. Risue等、「Zinc-rich eutectic alloys for high energy density latent heat storage applications」、Journal of Alloys and Compounds 705 (2017)、p.714-721
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
自動車排気の温度範囲は、幅広く、例えば、アイドリング時は200℃程度であり、全負荷運転時は800℃程度である。自動車の排気系統は排気浄化触媒を備える。しかし、排気温度が高すぎると排気浄化触媒の性能低下及び/又は劣化を引き起こす可能性がある。従って、排気温度の過度な上昇を抑制する目的で、潜熱蓄熱体を自動車の排気系統に設置して熱交換を行うことが考えられる。一方で、排気温度が低すぎると、排気浄化触媒の性能が十分に発揮されない。以上の観点から、300~550℃程度の適切な作動温度及び優れた潜熱量を有する潜熱蓄熱体を利用することで、自動車の排気温度の過度な変動を抑制できる可能性があると、本発明者は考えた。
【0010】
そして、こうした温度範囲に適したコア材料として、AlとZnの組み合わせを使用することを本発明者は考えた。この理由として、AlとZnの比率を調整することで、Al-Znの2元合金の融点を上記温度範囲に調節することが可能だからである。
【0011】
しかし、潜熱蓄熱材用マイクロカプセルに要求される特性は、コア部分の融点の温度範囲だけではなく、激しい温度変化を繰り返しても構造を維持できる特性(繰り返し耐久性)も要求される。こうした繰り返し耐久性を実現するために重要なのが、シェルの特性である。シェルは、酸化処理によってコアの成分の一部が化学反応等を起こすことで生じる。
【0012】
本発明は上記事情に鑑み創作されたものであり、耐久性の高い潜熱蓄熱材用マイクロカプセルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者ら鋭意検討した結果、昇温速度を小さくすることで、耐久性の高いシェルを形成することができた。これは、昇温速度を小さくすることで、厚いシェルが形成され、この厚みによって、耐久性が確保されたものと考えられる。本発明は、こうした知見に基づいて完成され、一側面において、以下の発明を包含する。
【0014】
(発明1)
Zn及びAlを含む金属コアと、該金属コアに接して被覆するシェルとを備える潜熱蓄熱材用マイクロカプセルであって、
当該マイクロカプセルのシェルは、AlとZnとOとを含み、
前記シェルの厚みが1.0μm以上である、
潜熱蓄熱材用マイクロカプセル。
(発明2)
マイクロカプセルのコア中のAl及びZnの合計質量を100質量部とすると、Znが60~95質量部であり、Alが5~40質量部である発明1の潜熱蓄熱材用マイクロカプセル。
(発明3)
前記シェルの厚みが2.0μm超である、発明1又は2の潜熱蓄熱材用マイクロカプセル。
(発明4)
発明1~3のいずれか1つに記載の潜熱蓄熱材用マイクロカプセルを複数含有する粉末。
(発明5)
平均粒径が20~100μmである発明4の粉末。
(発明6)
平均粒径が30~50μmである発明5の粉末。
(発明7)
発明4~6のいずれか1つに記載の粉末を備える蓄熱装置。
(発明8)
自動車の排気通路の外周に設置される発明7に記載の蓄熱装置。
(発明9)
Zn-Al合金粒子に対して、ベーマイト処理及び酸化処理を順に行うことを含み、酸化処理は、昇温速度6℃/min以下の条件で保持温度まで昇温し、当該保持温度、酸素含有雰囲気中で保持する発明1~3のいずれか1つに記載の潜熱蓄熱材用マイクロカプセルの製造方法。
(発明10)
昇温速度が4℃/min以下である発明9に記載の製造方法。
(発明11)
保持温度が550℃~850℃である発明9又は10に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
一側面において、本発明の潜熱蓄熱材用マイクロカプセルは、シェルの厚みが1.0μm以上である。これによって、繰り返し耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】一実施形態における潜熱蓄熱材用マイクロカプセルの断面図を示す(実施例1)。上段の図は、SEMによる写真であり、下段の3枚の写真は、それぞれ、O、Al、Znの元素に関するEDSの解析結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<1.潜熱蓄熱材用マイクロカプセル>
(1-1.マイクロカプセルの全体組成)
一実施形態において、本発明に係る潜熱蓄熱材用マイクロカプセルは、Al及びZnを含有する。Alの融点は660.3℃であり、そして、Znの融点は419.5℃である。従って、Alに組み合わせるZnの比率を高めていくに従い、マイクロカプセルの融点を下げることができる。また、融点は低下しても、その一方で、Al及びZnを含有するマイクロカプセルにおいて、融解時の体積当たりの潜熱量が大きいという特徴も有する。更に、Alは融解時の体積膨張率が大きいため、融解時の体積膨張率が小さなZnを添加することで、固相から液相に相変化する際の体積膨張を緩和することができる。但し、Alに添加するZnの比率が高くなり過ぎると、ベーマイト処理時にアルミニウム酸化膜の前駆体としてのAlOOH膜が十分に生成されない。このことにより、その後の酸化処理で十分なアルミニウム酸化膜が生成されにくくなると考えられる。このため、AlとZnの適切な含有比率が存在する。
【0018】
従って、本発明の好ましい実施形態に係る潜熱蓄熱材用マイクロカプセルのコアにおいて、Znの含有量が60~95質量部であり、Alの含有量が5~40質量部である(ここで、当該マイクロカプセル中のコアのAl及びZnの合計質量が100質量部である)。本発明のより好ましい実施形態に係る潜熱蓄熱材用マイクロカプセルのコアにおいて、Znの含有量が60~90質量部であり、Alの含有量が10~40質量部である。本発明の更により好ましい実施形態に係る潜熱蓄熱材用マイクロカプセルのコアにおいて、Znの含有量が60~80質量部であり、Alの含有量が20~40質量部である。
【0019】
金属コアは、第三元素(例えば、Sn、Bi、Cu、In、Ni等)を一種又は二種以上含有し得る。しかし、予期せぬ特性変化を防止する目的で、マイクロカプセルは、マイクロカプセルの全体質量を基準にして、Zn及びAlを合計で70質量%以上含有することが好ましく、90質量%以上含有することがより好ましく、95質量%以上含有することが更により好ましい。マイクロカプセルは、酸素(O)及び不可避的不純物を除いて、Zn及びAlのみから構成されてもよい。
【0020】
上述したAlとZnの比率に関連して、一実施形態において、本発明に係る潜熱蓄熱材用マイクロカプセルの融解時のコア体積膨張率が5~9%であり、好ましくは6~9%であり、より好ましくは7~9%である。これらの範囲内であれば、融解を繰り返した際にシェルに係る物理的な力が作用したとしても、シェルを構成する酸化被膜が破損しにくい。なお、コア体積の膨張率は、構成元素の比率に応じて変化する。例えば、Factsage(計算力学研究センター製、Ver.7.3)により、固相線温度と液相線温度の間の体積膨張率を求めることが可能である。例えば、以下の範囲で条件を設定することで、Al-Znの2元合金の所定の構成比率での体積膨張率を求めることができる。
・データベース:FTlite
・元素:Al、Zn
・計算組成:5~40wt%Al(5wt%刻み)
・温度:0~600℃(1℃刻み)
・圧力:1atm
【0021】
本明細書において、蓄熱潜熱材用マイクロカプセルの融解時の体積膨張率は、実測値ではなくソフトウェア(Factsage)の予測結果を意味する。
【0022】
(1-2.マイクロカプセルの構造)
一実施形態において、本発明に係る潜熱蓄熱材用マイクロカプセルはZn及びAlを含む金属コアと、該金属コアに接して被覆するシェルとを有する。
【0023】
金属コアはZn及びAlを含有する。一実施形態において、金属コア中のZn及びAlはZn-Al合金(例えば、Zn-Alの2元合金)の形態で存在することができる。
【0024】
一実施形態において、予期せぬ特性変化を防止する目的で、金属コアは、Zn及びAlを合計で70質量%以上含有することができ、90質量%以上含有することが好ましく、95質量%以上含有することがより好ましい。金属コアは、不可避的不純物を除いて、Zn及びAlのみから構成されてもよい。
【0025】
一実施形態において、シェルは、AlとZnとOとを含む。特に、コアから300nm(好ましくは200nm)以内のシェル領域において、AlとZnとOの全てが検出される。ここで、コアとシェルの境界はOが検出されるか否かの基準に基づいて判定可能である。好ましくは、シェルは、幾つかの酸化物を含有する。より具体的には、シェルが含む酸化物は、Al2O3とZnOとZnAl2O4とを含むことができる。これらの酸化物の存在は、当該マイクロカプセルの断面をEDS(エネルギー分散型X線分光法)やAES(オージェ電子分光法)で分析することにより検出できる。例えば、当該マイクロカプセルのシェルに対してEDS分析やAES分析することにより、そして、Zn、Al、及びOの画像を重ね合わせることにより、Al2O3とZnOとZnAl2O4とが検出される。また、AlとZnとOとを含むシェルの外側に、更なるシェルが設けられてもよい。従って、潜熱蓄熱材用マイクロカプセルが備える層の数は、1つであってもよく、2つ以上であってもよく、或いは、部分的に2以上であってもよい。同じ厚さの場合、層の数が1つの方が、耐久性が高いという理由から、好ましくは層の数は、1つである。
【0026】
シェルの厚み(シェルが単層の場合には、当該単層の厚み、シェルが複数の層から構成される場合には、複数の層全体の厚み)は、1.0μm以上であり、好ましくは、2.0μm超であり、更に好ましくは、2.5μm以上である。厚みを確保することで、シェルの強度を維持することができる。一方で、上限値は特に限定されないが、典型的には3.7μm以下である。シェルの厚みに関連して、一実施形態における本発明の潜熱蓄熱材用マイクロカプセルは、特に、低い温度から高い温度までの温度変化を繰り返したときの耐久性に優れる。ある用途においては、潜熱蓄熱材用マイクロカプセルは激しい温度変化にさらされる可能性がある。従って、こうした優れた耐久性は有益となる可能性がある。
【0027】
本明細書において、シェルを構成する平均厚みは、以下の方法により測定する。まず、マイクロカプセル断面をSEM観察し、マイクロカプセル1つにつきシェルの厚みを3箇所以上測定し、測定値の平均値を算出する。その後、マイクロカプセル3つ以上で同様の測定及び算出を行う。そして、各マイクロカプセルの平均値に対する平均値を算出する。
【0028】
ここで、シェルとコアの境界については、断面図を元素分析して(例えば、EDS(エネルギー分散型X線分光法)、AES(オージェ電子分光法)等)、酸素の存在の有無を確認することで判別することができる。
【0029】
(1-3.マイクロカプセルの融点)
一実施形態において、本発明に係る潜熱蓄熱材用マイクロカプセルの融点は、300~550℃である。なお、自動車の排気浄化触媒の適正温度は約400℃である。従って、自動車の排気温度を当該温度付近に保持すること目的から、マイクロカプセルの融点は、350~450℃であることが好ましく、370℃以上であることが更に好ましい。
【0030】
本明細書において、マイクロカプセルの融点は、示差走査熱量測定(DSC)を行った時の、融解開始温度を指す。
【0031】
(1-4.マイクロカプセルの大きさ)
一実施形態において、本発明に係る潜熱蓄熱材用マイクロカプセルは、潜熱蓄熱材用マイクロカプセルを複数含有する粉末の形態で提供される。一実施形態において、当該粉末の平均粒径は、20~100μmであり、好ましくは、30~50μmである。平均粒径が小さすぎると、必要な蓄熱量が確保しにくくなる。一方で、平均粒径が大きすぎると、粒子同士が固着している可能性が大きくなる。粒子同士の固着は、コア成分が漏出してバインダとして役割を果たすことで生じる可能性がある。従って、シェル構造が破損している可能性がある。
【0032】
本明細書で述べる平均粒径(例えば、原料紛末の平均粒径、及び潜熱蓄熱材用マイクロカプセルを含有する粉末の平均粒径)は、レーザー回折式粒度分布計(例:HORIBA LA-920、又は、マイクロトラック・ベル製、MT3000IIなど)で測定したときの値である。より具体的には、レーザー回折式粒度分布計により、粒子群の体積分布を測定し、累積50体積%径の値(D50)を、平均粒径とみなす。
【0033】
(1-5.マイクロカプセルの潜熱量)
一実施形態において、本発明に係る潜熱蓄熱材用マイクロカプセルの潜熱量が70~130J/gであり、好ましい実施形態において、潜熱量が88~110J/gである。
【0034】
本明細書において、マイクロカプセルの潜熱量は、示差走査熱量測定(DSC)を行った時の、固液相変化に伴う熱流変化を指す。
【0035】
更なる一実施形態において、本発明に係る潜熱蓄熱材用マイクロカプセルは、温度変化を繰り返した時の耐久性に優れている。より具体的には、本発明に係る潜熱蓄熱材用マイクロカプセルにおいて、温度変化を繰り返した時に潜熱量の低下率が低い。
【0036】
温度変化を繰り返した時に潜熱量の低下率は、例えば、以下の条件で測定することで算出できる。
昇温速度及び降温速度 50K/min
最高温度 600℃
最低温度 350℃
雰囲気 大気雰囲気
繰り返し回数 100回
潜熱量の低下率=(繰り返し数100回後の潜熱量)÷(繰り返し数0回目の潜熱量)×100
【0037】
更なる一実施形態において、上記条件で算出される本発明に係る潜熱蓄熱材用マイクロカプセルの潜熱量の低下率は、95~105%であってもよい(好ましくは96~100%)。なお、理論上は、100%を超える可能性はないが、実際には測定上の誤差などで、100%を超えることもあるため、測定誤差も考慮に入れたうえで、実際上の上限値は105%であってもよい。
【0038】
(1-6.マイクロカプセルの用途)
本発明の一実施形態によれば、潜熱蓄熱材用マイクロカプセルを含有する粉末を備える蓄熱装置が提供される。本発明の一実施形態に係る潜熱蓄熱材用マイクロカプセルにおいて、融点を、約300~550℃、好ましくは370℃以上の範囲へ容易に調整することができ、Znの含有量を変化させることで実現可能である。従って、当該潜熱蓄熱材用マイクロカプセルは、例えば、潜熱蓄熱装置に好適に利用可能であり、そして、前記潜熱蓄熱装置は、好ましくは、排気温度を調整する目的で、自動車の排気系統に設置されてもよい。一実施形態において、潜熱蓄熱材用マイクロカプセルを含有する粉末を備える蓄熱装置を自動車の排気通路の外周に設置することができる。また、蓄熱装置は、自動車の排気熱のみならず、上述の温度範囲で発生する様々な未利用熱を蓄熱することができる。
【0039】
<2.潜熱蓄熱材用マイクロカプセルの製造方法>
以下、本発明に係る潜熱蓄熱材用マイクロカプセルの製造方法を例示的に説明する。
【0040】
(2-1.原料)
まず、原料としてZn-Alの2元合金粒子を用意する。Zn-Alの2元合金粒子中のAl及びZnの含有比率は、要求される特性に応じて適宜調整することができる。典型的にはZn-Alの2元合金粒子は粉末の形態で提供される。一実施形態において、原料粉末の平均粒径は20~100μmである。表面欠陥の少ないシェル形成の観点から、当該粉末の平均粒径は、20~50μmであることが好ましい。また、原料におけるZn-Alの組成比は、最終的な製品で求められる組成比に近い値にすればよい。後述する製造工程を経ることで、組成比の多少の変動はあるものの、著しい変動では無い。従って、近い組成比を有する原料を幾つか準備して製造することで、容易に所望の組成比のマイクロカプセルを得ることができる。
【0041】
(2-2.ベーマイト処理)
次いで、原料のZn-Alの2元合金粒子に対して、ベーマイト処理を施して被膜を形成する。ベーマイト処理をすることにより、シェルを構成する酸化被膜の前駆体を形成させることができる。具体的には、原料のZn-Al合金粒子を高温の水中に入れ、合金表面に被膜を生成させる。水の純度は高いほうが好ましい。具体的には、蒸留水、純水、脱イオン水等を使用することができる。
【0042】
例えば、60~100℃の水温、3~12時間の条件で、Zn-Al合金粒子をベーマイト処理することができる。ベーマイト処理は攪拌しながら実施することが好ましい。ベーマイト処理後は、特に限定されないが、放冷して液温を室温まで下げてもよい。そして、ベーマイト処理後の粒子を回収し、吸引濾過し、及び、乾燥する。ベーマイト処理後の粒子を乾燥する理由は粒子表面の余分な水分を除去するためである。
(2-3.酸化処理)
次に、ベーマイト処理を行ったZn-Alの2元合金粒子を酸化処理する。より具体的には、酸素含有雰囲気下で高温処理を実施する。ベーマイト処理後に酸化処理を実施することにより、酸化膜を有するシェルを形成することができる。
【0043】
後述する保持温度で酸化処理を行うが、保持温度まで上昇させる際には、昇温速度を低くする。特定のレベルまで昇温速度が低くなると、シェル自体の厚さが大きくなる。結果として、シェルの強度が増大する。
【0044】
典型的には、昇温速度は、6℃/min以下、好ましくは、4℃/min以下であってもよい。下限値は、特に限定されず、例えば、0℃/min超であってもよく、1℃/min以上であってもよい。こうした昇温速度は量産化の観点からも好ましい。例えば、量産化する場合には、物理的に大きなサイズの反応炉を使用する場合が多く、従って、急速な温度変化を実現するのに困難な場合が多い。
【0045】
酸素含有雰囲気とは酸素を含有している雰囲気であればよく、例えば純度99.5%の酸素を200mL/minの流量で供給した酸素雰囲気でもよく、或いは、大気雰囲気でもよい。量産化の観点から、大気雰囲気が好ましい。保持温度は、例えば、550~850℃、好ましくは650℃~850℃であってもよい。
【0046】
なお、ここでの昇温速度は以下の式で計算される。
昇温速度=(保持温度-加熱開始温度)/(加熱開始後から保持温度に到達するまでに要する時間)
【0047】
一方、保持温度から温度を下げる場合において、降温速度は、特に限定されず、任意の速度であってもよい。例えば、降温速度は、-1℃/min~-60℃/minであってもよく、或いは、-1℃/min~-6℃/minであってもよい。
【0048】
保持温度で維持する時間は、例えば30分~10時間、好ましくは1時間~5時間とすることができる。
【0049】
酸化処理の重要なポイントは、マイルドな条件で酸化反応を進行させる点である。例えば、昇温速度を低くしたり、及び/又は、雰囲気を純酸素ではなく、大気雰囲気に設定したりするなどにより、マイルドな条件で酸化反応を進行させることができる。これにより、マイクロカプセルの構造を維持しながら、膜の厚みの成長を促進することができる。
【0050】
また、酸化処理を行う際の規模については、特に限定されないが、例えば、1バッチあたりの試料の量が5g以上であり、量産化する場合には、50g以上であり、好ましくは75g以上であり、更に好ましくは100g以上である。
【0051】
ここで、1バッチあたりとは、粒子同士が接触する単位を指す。例えば、流動層であれば、1つの流動反応層を指す。例えば、ロータリーキルンであれば、回転する1つのロータリーキルン内を指す。ローラーハースキルンであれば、投入される1つの匣鉢を指す(仮に複数の匣鉢が一度に投入されるとしても、異なる匣鉢内の粒子同士が接触する可能性はないので、ローラーハースキルンの場合には、1つの匣鉢を指す)。
【実施例0052】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0053】
<実施例1>
(1.蓄熱潜熱材用マイクロカプセルを含有する粉末の作製)
以下の手順により、実施例1の蓄熱潜熱材用マイクロカプセルを含有する粉末を作製した。
【0054】
(1-1.原料粉末)
まず、Znの質量比が70%であり、且つ、Alの質量比が30%であるZn-Alの2元合金(Zn-30質量%Al)粉末を回転ディスクアトマイズ法により準備した。当該粉末の平均粒径を、レーザー回折式粒度分布計(マイクロトラック・ベル製、MT3000II)を用いて測定したところ、20~50μmであった。
【0055】
(1-2.ベーマイト処理)
ビーカーに蒸留水300mL入れ、蒸留水を加熱させた。その際に、ホットスターラーを用いて回転速度500rpmで攪拌しながら、上記で用意した粉末10gを、上記蒸留水300mL中に添加した。そして、撹拌を継続しながらベーマイト処理をした。ベーマイト処理中は蒸留水を添加することによりビーカー内の水量を維持した。
【0056】
(1-3.酸化処理)
その後、粉末を卓上管状炉(光洋サーモシステム株式会社、型式:KTF055N)のサンプルパン内に入れた。1つのサンプルパン内に投入する試料(即ち、1バッチあたりの試料の量)は5gであった。次に、200mL/minの流量で、空気を供給する雰囲気条件下で静置させた状態で酸化処理した。実施例1の酸化処理時の条件は以下の通りであった。
昇温速度:3K/min
保持温度:700℃
保持時間:1h
降温速度:-50K/min
【0057】
昇温速度及び降温速度は、以下の式に従って算出した。
昇温速度=(保持温度-25℃)/(25℃から保持温度に到達するまでに要する時間)
降温速度=(25℃-保持温度)/(冷却開始後、保持温度から25℃に到達するまでに要する時間)
【0058】
(2.特性評価)
上記の手順で得られた実施例1の蓄熱潜熱材用マイクロカプセルを含有する粉末について、以下の特性分析を行った。
【0059】
(2-1.SEMによる断面観察)
炭素片の表面にカッターで溝を形成した。蓄熱潜熱材用マイクロカプセルを含有する粉末の試料を、その溝に埋め込んだ。次いで、CP(Cross section polisher)により(より具体的にはArイオンビームにより)炭素片の表面と粒子を削り、粒子断面を露出した。この粒子断面に対して、Arイオンによるエッチングを実施した(エッチング条件は以下の通り:ビームエネルギー3000eV、イオン電流4.0μm、ガス圧8.0×10-2Paで30秒間)。これにより、粒子断面における合金表面の自然酸化被膜を除去した。その後、粒子断面をSEM(日立ハイテク社製、型式SU-70)で観察した。
【0060】
図1に示すように、実施例1に係る粒子について、粒子表面に金属コアを被覆するシェルが形成されていることが確認された。
【0061】
(2-2.EDS(エネルギー分散型X線分光法)分析)
前項「(2-1.SEMによる断面観察)」に記載の方法で粒子断面を形成した後、EDS分析(日立ハイテク社製、型式SU-70)を実施した。
【0062】
その結果、
図1に示すように、実施例1では、AlとZnとOとを含む酸化膜が形成されていた。また、ZnとAlが、コア部分とシェル部分の両方で検出された。
【0063】
Oの画像、Alの画像、Znの画像を重ね合わせることで、シェル部分において、これら3つの元素が存在すること(例えば、Al2O3とZnOとZnAl2O4などの酸化物を含むこと)が示された。
【0064】
また、
図1に示す断面を拡大した写真を、
図2に示す。サイズが2.5μmのスケールバーと比較することで明らかであるが、シェルの厚さがかなり厚く、2.5μmよりも大きいことが示された。拡大写真に示される部分以外の部分でも同様であった。
【0065】
(2-3.潜熱量)
蓄熱潜熱材用マイクロカプセルの潜熱量を示差走査熱量測定(DSC)(リガク社製、型式DSC8231)により求めた。実施例1の粒子の潜熱量は、97J/gであった。
【0066】
(2-4.耐久性試験)
50K/minの速度で昇温及び降温を100回繰り返した。最高温度を600℃、最低温度を350℃とした。大気雰囲気下で実施した。その後、前項「(2-3.潜熱量)」で示した手順に従って潜熱量を測定した。耐久性試験前後での蓄熱量の変化率を、以下の式に従って算出した。その結果、実施例1の粒子の潜熱量の低下率は101%であった。
潜熱量の低下率=(繰り返し数100回後の潜熱量)÷(繰り返し数0回目の潜熱量)×100
【0067】
(2-5.膜厚測定)
マイクロカプセル断面をSEM観察し、1つのマイクロカプセルにつき、シェルの厚みを4箇所で測定し、平均値を算出した。同様の測定及び算出を6つのマイクロカプセルで行った。そして、各マイクロカプセルの平均値に対する平均値を算出した。その結果、実施例1にかかる粒子の膜厚は3.4μmであった。
【0068】
(2-6.体積膨張率)
蓄熱潜熱材用マイクロカプセルの融解時のコア体積膨張率について、原料の粒子の組成比に基づいて、Factsage(計算力学研究センター製、Ver.7.3、条件は以下の通り)により、固相線温度と液相線温度の間の体積膨張率を求めた。その結果、実施例1に係る粒子では、8.2%であった。
・データベース:FTlite
・元素:Al、Zn
・計算組成:5~40wt%Al(5wt%刻み)
・温度:0~600℃(1℃刻み)
・圧力:1atm
【0069】
(2-7.平均粒径)
蓄熱潜熱材用マイクロカプセルの平均粒径を、レーザー回折式粒度分布計(マイクロトラック・ベル製、MT3000II)を用いて測定した。その結果、実施例1に係る粒子では、粒径が、42.5μmであった。
【0070】
(2-8.融点)
蓄熱潜熱材用マイクロカプセルの融点を示差走査熱量測定(DSC)(リガク社製、型式DSC8231)により求めた。その結果、実施例1にかかる粒子の融点は、377℃であった。
【0071】
(2-9.マイクロカプセルにおけるAl及びZnの質量比)
コア/シェル構造が破壊されるように蓄熱潜熱材用マイクロカプセルを粉砕した。粉砕後の試料を、X線回折装置(Rigaku社製、型式SmartLab)により分析した。そして、その結果に対してRIR(Reference Intensity Ratio)法を適用して、定量分析を行い、Zn及びAlの質量比を求めた。例えば、Alの質量比は、Al/(Al+Zn)×100で算出される。なお、ここで述べるZn及びAlの質量比は、純Zn及び純Alの質量比を意味する。換言すれば、Znの化合物(例えば、酸化物)及びAlの化合物(例えば、酸化物)は含まない。そして、上述したように、コアとシェルの境界はOが検出されるか否かの基準に基づいて判定可能である。従って、粉砕して分析する対象はシェルとコアを含むものの、ここで、検出される純Zn及び純Alは、実質的にコア由来のものとなる。
【0072】
RIR値には、国際回折データセンターの粉末回折ファイル(PDF)データベースに記載の値を用いた。分析条件は以下の通りに設定した。
・X線源:CuKα線
・測定範囲:2θ=10°~120°
・ステップ:0.01°
・スキャンスピード:20.0°/min
・検出器:高速1次元検出器D/teX Ultra
・管電圧:40kV
・管電流:30mA
その結果、実施例1にかかる粒子においては、Alが26質量%、残りの74質量%がZnという構成になっていた。
【0073】
<実施例2~3>
実施例1と同様の条件で蓄熱潜熱材用マイクロカプセルを製造した。ただし、酸化処理時の保持温度を800℃及び600℃に設定した。また、実施例1と同様、各種特性を分析した。
酸化条件及び結果を表1~2に示す。
【0074】
<比較例1~2>
実施例1と同様の条件で蓄熱潜熱材用マイクロカプセルを製造した。ただし、酸化処理時の保持温度を900℃、1000℃に設定した。また、実施例1と同様、各種特性を分析した。
酸化条件及び結果を表1~2に示す。
【0075】
実施例1~3は、シェルの厚みが厚く、潜熱量の低下の度合いが少なかった。比較例1では、シェルの厚みが確保できたものの、粒子同士の固着が起こっており、粉末又はマイクロカプセルとしての構造が維持できていなかった。従って、粒径の測定が行えなかった。また、昇温降温を繰り返したときの耐久性(潜熱量の低下率)が実施例と比べて劣っていた。比較例2は、コア部分のAl及びZnが全て酸化されてしまった。また、比較例2は、比較例1よりも粒子同士の固着の度合いが高く、粒径の測定だけでなく、他の特性についても測定することができなかった。
【表1】
【表2】