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特開2022-127430潜熱蓄熱材用マイクロカプセル及びその製造方法、当該潜熱蓄熱材用マイクロカプセルを含む粉末、並びに、当該粉末を含む蓄熱装置
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  • 特開-潜熱蓄熱材用マイクロカプセル及びその製造方法、当該潜熱蓄熱材用マイクロカプセルを含む粉末、並びに、当該粉末を含む蓄熱装置 図1
  • 特開-潜熱蓄熱材用マイクロカプセル及びその製造方法、当該潜熱蓄熱材用マイクロカプセルを含む粉末、並びに、当該粉末を含む蓄熱装置 図2
  • 特開-潜熱蓄熱材用マイクロカプセル及びその製造方法、当該潜熱蓄熱材用マイクロカプセルを含む粉末、並びに、当該粉末を含む蓄熱装置 図3
  • 特開-潜熱蓄熱材用マイクロカプセル及びその製造方法、当該潜熱蓄熱材用マイクロカプセルを含む粉末、並びに、当該粉末を含む蓄熱装置 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127430
(43)【公開日】2022-08-31
(54)【発明の名称】潜熱蓄熱材用マイクロカプセル及びその製造方法、当該潜熱蓄熱材用マイクロカプセルを含む粉末、並びに、当該粉末を含む蓄熱装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 13/22 20060101AFI20220824BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20220824BHJP
   F28D 20/02 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
B01J13/22
C09K5/14 E
F28D20/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021025582
(22)【出願日】2021-02-19
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】能村 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】川口 貴大
(72)【発明者】
【氏名】味谷 和之
【テーマコード(参考)】
4G005
【Fターム(参考)】
4G005AA01
4G005BA15
4G005BB12
4G005BB17
4G005BB25
4G005BB30
4G005DA01X
4G005DA01Y
4G005DA01Z
4G005DA12Z
4G005EA10
(57)【要約】
【課題】繰り返し耐久性に優れた潜熱蓄熱材用マイクロカプセルを提供すること。
【解決手段】
Zn及びAlを含む金属コアと、該金属コアを被覆するシェルとを有する潜熱蓄熱材用マイクロカプセルであって、
当該マイクロカプセルのシェルは、Zn及びOを含む酸化膜と、当該酸化膜の内側に隣接するAl及びOを含む酸化膜とを備え、
以下の工程を含む方法によって製造される、潜熱蓄熱材用マイクロカプセル:
・ZnとAlとを含む金属粒子を提供する工程、
・前記合金粒子に対して、Alを含む溶液で化成処理を行う工程、
・前記化成処理後に、晶析処理を行う工程、及び、
・前記晶析処理後に、酸化処理を行う工程。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zn及びAlを含む金属コアと、該金属コアを被覆するシェルとを備える潜熱蓄熱材用マイクロカプセルであって、
当該マイクロカプセルのシェルは、Zn及びOを含む酸化膜と、当該酸化膜の内側に隣接するAl及びOを含む酸化膜とを備え、
以下の工程を含む方法によって製造される、潜熱蓄熱材用マイクロカプセル:
・ZnとAlとを含む金属粒子を提供する工程、
・前記合金粒子に対して、Alを含む溶液で化成処理を行う工程、
・前記化成処理後に、晶析処理を行う工程、及び、
・前記晶析処理後に、酸化処理を行う工程。
【請求項2】
前記酸化処理を行う工程が、昇温速度10℃/min以上の条件で保持温度まで昇温し、当該保持温度、酸素含有雰囲気中で保持することを含む、請求項1に記載の潜熱蓄熱材用マイクロカプセル。
【請求項3】
前記化成処理が、80℃以上の温度で、3時間以上行うことを含み、
前記晶析処理が、80℃未満の温度で、10時間以上行うことを含む、
請求項1又は2に記載の潜熱蓄熱材用マイクロカプセル。
【請求項4】
マイクロカプセル中のコアのAl及びZnの合計質量を100質量部とすると、Znが60~95質量部であり、Alが5~40質量部である請求項1~3の何れか一項に記載の潜熱蓄熱材用マイクロカプセル。
【請求項5】
Al及びOを含む酸化膜の平均厚みが100~500nmである請求項1~4の何れか一項に記載の潜熱蓄熱材用マイクロカプセル。
【請求項6】
Zn及びOを含む酸化膜の平均厚みが100~1500nmである請求項1~5の何れか一項に記載の潜熱蓄熱材用マイクロカプセル。
【請求項7】
XRD(X線回析装置)で分析し、その結果に対してRIR(Reference Intensity Ratio)法を用いて定量分析することで得られるZnAl24の質量比が、4%超である、請求項1~6の何れか一項に記載の潜熱蓄熱材用マイクロカプセル。
【請求項8】
マイクロカプセルのコアが融解したときの体積膨張率が5~9%である請求項1~7の何れか一項に記載の潜熱蓄熱材用マイクロカプセル。
【請求項9】
請求項1~8の何れか一項に記載の潜熱蓄熱材用マイクロカプセルを複数含有する粉末。
【請求項10】
平均粒径が20~80μmである請求項9に記載の粉末。
【請求項11】
平均粒径が20~38μmである請求項10に記載の粉末。
【請求項12】
請求項9~11の何れか一項に記載の粉末を備える蓄熱装置。
【請求項13】
自動車の排気通路の外周に設置される請求項12に記載の蓄熱装置。
【請求項14】
Zn及びAlを含む金属コアと、該金属コアを被覆するシェルとを備える潜熱蓄熱材用マイクロカプセルの製造方法であって、
当該マイクロカプセルのシェルは、Zn及びOを含む酸化膜と、当該酸化膜の内側に隣接するAl及びOを含む酸化膜とを備え、
以下の工程を含む、方法:
・ZnとAlとを含む金属粒子を提供する工程、
・前記合金粒子に対して、Alを含む溶液で化成処理を行う工程、
・前記化成処理後に、晶析処理を行う工程、及び、
・前記晶析処理後に、酸化処理を行う工程。
【請求項15】
前記酸化処理を行う工程が、昇温速度10℃/min以上の条件で保持温度まで昇温し、当該保持温度、酸素含有雰囲気中で保持することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記化成処理が、80℃以上の温度で、3時間以上行うことを含み、
前記晶析処理が、80℃未満の温度で、10時間以上行うことを含む、
請求項14又は15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潜熱蓄熱材用マイクロカプセル及びその製造方法、当該潜熱蓄熱材用マイクロカプセルを含む粉末、並びに、当該粉末を含む蓄熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱を蓄積する技術は、例えば、顕熱蓄熱と潜熱蓄熱とが挙げられる。顕熱蓄熱は、蓄熱体の温度変化を利用する。一方で、潜熱蓄熱は、例えば、固相から液相への蓄熱体の相変化を利用する。
【0003】
特許文献1は、潜熱蓄熱体を開示しており、ここで、前記潜熱蓄熱体は、Al-Si合金のコア粒子と、該コア粒子を覆うAl酸化被膜のシェルとから構成される。前記シェルに関して、特許文献1は、コア粒子を化成被膜処理すること、更に熱酸化処理をすること、そして、これにより酸化被膜を形成することができることを開示している。
【0004】
特許文献2では、潜熱蓄熱体のコア粒子が下記のA群から選択される少なくとも1種の合金成分Aと下記のB群から選択される少なくとも1種の合金成分Bとの合金(A-B合金)であることを開示している。
群A:Ca、Si、Bi、Mg、Sb、In、Sn、Al、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Pd、Ag、Au、Pb
群B:Al、Cr、Mn、Si、Mg、Co、Ni
更に、特許文献2は、以下の関係を満足することを開示している。
ΔGA 0≧ΔGB 0
(ΔGA 0):前記合金成分Aの酸化物生成の標準自由エネルギー
(ΔGB 0):前記合金成分Bの酸化物生成の標準自由エネルギー
【0005】
特許文献3では、コア部の漏出の発生を減少させることを目的とした潜熱蓄熱体を開示しており、BET比表面積が10m2/g以上であることを開示している。また、製造時、特に、ベーマイト処理時に特定のアミン化合物を使用することを開示している。
【0006】
非特許文献1は、以下の三種類の合金を開示している。
Zn84Al8.7Mg7.3
Zn88.7Al11.3
Zn92.2Mg7.8
(各数字はat.%を表す)
そして、非特許文献1は、これらの合金が、潜熱蓄熱用相変化材料に利用できるかどうかの可能性を評価したことを開示している。さらに、当該文献によれば、融点はそれぞれ344℃、382℃、371℃であり、融解熱はそれぞれ132Jg-1、118Jg-1、106Jg-1であったことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2017/200021号
【特許文献2】国際公開第2015/162929号
【特許文献3】特開2019-203128号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】E. Risue等、「Zinc-rich eutectic alloys for high energy density latent heat storage applications」、Journal of Alloys and Compounds 705 (2017)、p.714-721
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
自動車排気の温度範囲は、幅広く、例えば、アイドリング時は200℃程度であり、全負荷運転時は800℃程度である。自動車の排気系統は排気浄化触媒を備える。しかし、排気温度が高すぎると排気浄化触媒の性能低下及び/又は劣化を引き起こす可能性がある。従って、排気温度の過度な上昇を抑制する目的で、潜熱蓄熱体を自動車の排気系統に設置して熱交換を行うことが考えられる。一方で、排気温度が低すぎると、排気浄化触媒の性能が十分に発揮されない。以上の観点から、300~550℃程度の適切な作動温度及び優れた潜熱量を有する潜熱蓄熱体を利用することで、自動車の排気温度の過度な変動を抑制できる可能性があると、本発明者は考えた。
【0010】
そして、こうした温度範囲に適したコア材料として、AlとZnの組み合わせを使用することを本発明者は考えた。この理由として、AlとZnの比率を調整することで、Al-Znの2元合金の融点を上記温度範囲に調節することが可能だからである。
【0011】
しかし、潜熱蓄熱材用マイクロカプセルに要求される特性は、コア部分の融点の温度範囲だけではなく、激しい温度変化を繰り返しても構造を維持できる特性(繰り返し耐久性)も要求される。こうした繰り返し耐久性を実現するために重要なのが、シェルの特性である。シェルは、コアの成分の一部が化学反応等を起こすことで生じる。
【0012】
本発明は上記事情に鑑み創作されたものであり、繰り返し耐久性に優れた潜熱蓄熱材用マイクロカプセルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らが鋭意検討した結果、シェルを形成するための工程の一部として、晶析処理を実施したところ、最終的に得られるシェルが、繰り返し耐久性試験において優れた結果をもたらすことを見出した。本発明は、こうした知見に基づいて完成され、一側面において、以下の発明を包含する。
【0014】
(発明1)
Zn及びAlを含む金属コアと、該金属コアを被覆するシェルとを備える潜熱蓄熱材用マイクロカプセルであって、
当該マイクロカプセルのシェルは、Zn及びOを含む酸化膜と、当該酸化膜の内側に隣接するAl及びOを含む酸化膜とを備え、
以下の工程を含む方法によって製造される、潜熱蓄熱材用マイクロカプセル:
・ZnとAlとを含む金属粒子を提供する工程、
・前記合金粒子に対して、Alを含む溶液で化成処理を行う工程、
・前記化成処理後に、晶析処理を行う工程、及び、
・前記晶析処理後に、酸化処理を行う工程。
(発明2)
前記酸化処理を行う工程が、昇温速度10℃/min以上の条件で保持温度まで昇温し、当該保持温度、酸素含有雰囲気中で保持することを含む、発明1に記載の潜熱蓄熱材用マイクロカプセル。
(発明3)
前記化成処理が、80℃以上の温度で、3時間以上行うことを含み、
前記晶析処理が、80℃未満の温度で、10時間以上行うことを含む、
発明1又は2に記載の潜熱蓄熱材用マイクロカプセル。
(発明4)
マイクロカプセル中のコアのAl及びZnの合計質量を100質量部とすると、Znが60~95質量部であり、Alが5~40質量部である発明1~3のいずれか1つに記載の潜熱蓄熱材用マイクロカプセル。
(発明5)
Al及びOを含む酸化膜の平均厚みが100~500nmである発明1~4のいずれか1つに記載の潜熱蓄熱材用マイクロカプセル。
(発明6)
Zn及びOを含む酸化膜の平均厚みが100~1500nmである発明1~5のいずれか1つに記載の潜熱蓄熱材用マイクロカプセル。
(発明7)
XRD(X線回析装置)で分析し、その結果に対してRIR(Reference Intensity Ratio)法を用いて定量分析することで得られるZnAl24の質量比が、4%超である、発明1~6のいずれか1つに記載の潜熱蓄熱材用マイクロカプセル。
(発明8)
マイクロカプセルのコアが融解したときの体積膨張率が5~9%である発明1~7のいずれか1つに記載の潜熱蓄熱材用マイクロカプセル。
(発明9)
発明1~8のいずれか1つに記載の潜熱蓄熱材用マイクロカプセルを複数含有する粉末。
(発明10)
平均粒径が20~80μmである発明9に記載の粉末。
(発明11)
平均粒径が20~38μmである発明10に記載の粉末。
(発明12)
発明9~11のいずれか1つに記載の粉末を備える蓄熱装置。
(発明13)
自動車の排気通路の外周に設置される発明12に記載の蓄熱装置。
(発明14)
Zn及びAlを含む金属コアと、該金属コアを被覆するシェルとを備える潜熱蓄熱材用マイクロカプセルの製造方法であって、
当該マイクロカプセルのシェルは、Zn及びOを含む酸化膜と、当該酸化膜の内側に隣接するAl及びOを含む酸化膜とを備え、
以下の工程を含む、方法:
・ZnとAlとを含む金属粒子を提供する工程、
・前記合金粒子に対して、Alを含む溶液で化成処理を行う工程、
・前記化成処理後に、晶析処理を行う工程、及び、
・前記晶析処理後に、酸化処理を行う工程。
(発明15)
前記酸化処理を行う工程が、昇温速度10℃/min以上の条件で保持温度まで昇温し、当該保持温度、酸素含有雰囲気中で保持することを含む、発明14に記載の方法。
(発明16)
前記化成処理が、80℃以上の温度で、3時間以上行うことを含み、
前記晶析処理が、80℃未満の温度で、10時間以上行うことを含む、
発明14又は15に記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
一側面において、本発明の潜熱蓄熱材用マイクロカプセルは、晶析処理を行うことによって生成される。これによって、シェルに、比較的均一に分散した欠陥が生じる。こうした均一に分散した欠陥の存在によって、特定箇所に力が集中してシェルが壊れることを防止することができる。よって、繰り返し耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】潜熱蓄熱材用マイクロカプセルの断面図、及び、AES解析の結果を示す。
図2】潜熱蓄熱材用マイクロカプセルの表面をSEMで観察した写真を示す。
図3】晶析処理~酸化処理の過程において、潜熱蓄熱材用マイクロカプセルの表面の状態変化をSEMで観察した写真を示す。
図4】繰り返し耐久性試験を行った後の潜熱蓄熱材用マイクロカプセルの表面をSEMで観察した写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<1.潜熱蓄熱材用マイクロカプセル>
(1-1.マイクロカプセルの全体組成)
一実施形態において、本発明に係る潜熱蓄熱材用マイクロカプセルは、Al及びZnを含有する。Alの融点は660.3℃であり、そして、Znの融点は419.5℃である。従って、Alに組み合わせるZnの比率を高めていくに従い、マイクロカプセルの融点を下げることができる。また、融点は低下しても、その一方で、Al及びZnを含有するマイクロカプセルにおいて、融解時の体積当たりの潜熱量が大きいという特徴も有する。更に、Alは融解時の体積膨張率が大きいため、融解時の体積膨張率が小さなZnを添加することで、固相から液相に相変化する際の体積膨張を緩和することができる。但し、Alに添加するZnの比率が高くなり過ぎると、化成処理時にアルミニウム酸化膜の前駆体としてのAlOOH膜が十分に生成されない。このことにより、その後の酸化処理で十分なアルミニウム酸化膜が生成されにくくなると考えられる。このため、AlとZnの適切な含有比率が存在する。
【0018】
従って、本発明の好ましい実施形態に係る潜熱蓄熱材用マイクロカプセルのコアにおいて、Znの含有量が60~95質量部であり、Alの含有量が5~40質量部である(ここで、当該マイクロカプセル中のコアのAl及びZnの合計質量が100質量部である)。本発明のより好ましい実施形態に係る潜熱蓄熱材用マイクロカプセルのコアにおいて、Znの含有量が60~90質量部であり、Alの含有量が10~40質量部である。本発明の更により好ましい実施形態に係る潜熱蓄熱材用マイクロカプセルのコアにおいて、Znの含有量が60~80質量部であり、Alの含有量が20~40質量部である。
【0019】
金属コアは、第三元素(例えば、Sn、Bi、Cu、In、Ni等)を一種又は二種以上含有し得る。しかし、予期せぬ特性変化を防止する目的で、マイクロカプセルは、マイクロカプセルの全体質量を基準にして、Zn及びAlを合計で70質量%以上含有することが好ましく、90質量%以上含有することがより好ましく、95質量%以上含有することが更により好ましい。マイクロカプセルは、酸素(O)及び不可避的不純物を除いて、Zn及びAlのみから構成されてもよい。
【0020】
上述したAlとZnの比率に関連して、一実施形態において、本発明に係る潜熱蓄熱材用マイクロカプセルの融解時のコア体積膨張率が5~9%であり、好ましくは6~9%であり、より好ましくは7~9%である。これらの範囲内であれば、融解を繰り返した際にシェルに係る物理的な力が作用したとしても、シェルを構成する酸化被膜が破損しにくい。なお、コア体積の膨張率は、構成元素の比率に応じて変化する。例えば、Factsage(計算力学研究センター製、Ver.7.3)により、固相線温度と液相線温度の間の体積膨張率を求めることが可能である。例えば、以下の範囲で条件を設定することで、Al-Znの2元合金の所定の構成比率での体積膨張率を求めることができる。
・データベース:FTlite
・元素:Al、Zn
・計算組成:5~40wt%Al(5wt%刻み)
・温度:0~600℃(1℃刻み)
・圧力:1atm
【0021】
本明細書において、蓄熱潜熱材用マイクロカプセルの融解時の体積膨張率は、実測値ではなくソフトウェア(Factsage)の予測結果を意味する。
【0022】
(1-2.マイクロカプセルの構造)
一実施形態において、本発明に係る潜熱蓄熱材用マイクロカプセルはZn及びAlを含む金属コアと、該金属コアを被覆するシェルとを有する。
【0023】
金属コアはZn及びAlを含有する。一実施形態において、金属コア中のZn及びAlはZn-Al合金(例えば、Zn-Alの2元合金)の形態で存在することができる。
【0024】
一実施形態において、予期せぬ特性変化を防止する目的で、金属コアは、Zn及びAlを合計で70質量%以上含有することができ、90質量%以上含有することが好ましく、95質量%以上含有することがより好ましい。金属コアは、不可避的不純物を除いて、Zn及びAlのみから構成されてもよい。
【0025】
一実施形態において、シェルは、少なくとも2つの膜(例えば、二重膜)を有する。これらの膜は、Zn及びOを含む酸化膜(例えば、Zn、Al、Oを含む酸化膜、ZnAl24の酸化膜、又は、ZnOとZnAl24の酸化膜の組み合わせ等)と、当該酸化膜の内側に隣接するAl及びOを含む酸化膜(例えば、Al23を含有する酸化膜、Al及びOを含み且つZnを含まない酸化膜等)から構成されてもよい。更には、Zn及びOを含む酸化膜は、ZnとOから構成される酸化膜と、ZnとAlとOから構成される酸化膜との組み合わせであってもよい。当該組み合わせの場合、典型的には、ZnとOから構成される酸化膜の内側に、ZnとAlとOから構成される酸化膜が位置してもよい。そして、酸化膜は、ZnとOから構成される酸化膜と、ZnとAlとOから構成される酸化膜に加えて、上述したAl及びOを含む酸化膜の三重膜を構成してもよい。これらの膜の存在は、当該マイクロカプセルの断面をAES(オージェ電子分光法)で分析することにより検出できる。例えば、当該マイクロカプセルのシェルに対してAES分析することにより、Zn及びOを含む酸化膜と、当該酸化膜の内側に隣接するAl及びOを含む酸化膜とが検出される。シェルが二重膜又は三重膜を有することによって金属コアが二重に又は三重に保護される。従って、金属コア中のZn及びAl等の相変化物質の漏出が防止される。
【0026】
一実施形態において、本発明の潜熱蓄熱材用マイクロカプセルのZnAl24の質量比は、4%超である。ZnAl24の質量比は、XRD(X線回析装置)で分析し、その結果に対してRIR(Reference Intensity Ratio)法を用いて定量分析することで得られる。具体的には、マイクロカプセルに存在する各結晶相の合計質量を100%とし、且つ、RIR法を用いて定量分析した場合において、ZnAl24の質量比が4%超となるマイクロカプセルである。ZnAl24の質量比と、酸化膜の欠陥の量(又は表面欠陥の量)とは、ある程度の関係性がある。相関関係なのか、因果関係なのかは不明ではあるが、例えば、ZnAl24の質量比が大きい場合には、酸化膜の欠陥が多い傾向がある。
【0027】
コア成分の漏出の観点からすれば、酸化膜の欠陥が多いことは好ましいことではない。従って、当業者がこうした知見を得た場合、ZnAl24の質量比が少ない潜熱蓄熱材用マイクロカプセルを製造しようとするかもしれない。しかし、意外なことに、本発明者は、適度に酸化膜の欠陥(亀裂)を均一性の高い形でシェルに導入することで、繰り返し耐久性が向上することを見出した。
【0028】
以下の説明は、発明の範囲を限定することを意図するものではないが、適度な量の酸化膜の欠陥が均一に分散することは、特定の欠陥部位に力が集中することを防ぐことにつながるものと考えられる。換言すれば、温度変化を繰り返す際にコアの膨張収縮が繰り返され、シェルには物理的な力がかかる。ここで、特定箇所にのみシェルの欠陥が存在する場合には、コアからの物理的な力が集中してしまい、最終的にコア成分の漏出につながってしまうものと考えられる。
【0029】
しかしながら、一実施形態における本発明の潜熱蓄熱材用マイクロカプセルでは、シェルに適度な欠陥が存在し、更には、後述する製法によって、適度に欠陥が均一性の高い形で分散していると考えられる。これにより、コアからの物理的な力を分散させることができ、繰り返し耐久性が向上しているものと考えられる。ZnAl24の質量比の上限は特に限定されないが、あまりにも高すぎると、極端な量の欠陥が導入され、シェル構造の耐久性が損なわれることから、典型的には15%以下であってもよく、又は、11%以下であってもよい。
【0030】
なお、RIR(Reference Intensity Ratio)法とはRIR値と、XRD(X線回析装置)結果より得られた各結晶相の最強ピーク強度の値との比から結晶相の質量比を求める方法である。マイクロカプセルに結晶相A、B、C、・・・が含まれる場合、結晶相Aの質量比XAは以下の式で計算される。
A=IAA/(IAA+IBB+ICC+・・・)
ここで、Iは各結晶相のX線の最強ピークの強度、kは各結晶相のRIR値を示す。RIR値には、国際回折データセンターの粉末回折ファイル(PDF)データベースに記載の値を用いることができる(例えば、ICSDのNo.01-070-8186)。
【0031】
Al及びOを含む酸化膜の平均厚みは、例えば100~500nmとすることができ、典型的には300~500nmとすることができる。Zn及びOを含む酸化膜の平均厚みは、例えば100~1500nmとすることができ、典型的には500~1500nmとすることができる。また、Zn及びOを含む酸化膜が、Zn及びOから構成される酸化膜と、Zn、Al、及びOから構成される酸化膜とを含む場合、Zn及びOから構成される酸化膜は、0~1000nm、好ましくは、0~900nmであってもよく、Zn、Al、及びOから構成される酸化膜は、500~1500nmであってもよい。これにより、マイクロカプセルを構成するAl及びZnのほとんどは、コアに存在し、そして、固液相変化による潜熱蓄熱機能に寄与する。従って、体積当たりの潜熱量を大きくすることができるという利点が得られる。
【0032】
本明細書において、シェルを構成する平均厚み(具体的には、Al及びOを含む酸化膜の平均厚み、並びに、Zn及びOを含む酸化膜の平均厚み)は、それぞれ以下の方法により測定する。マイクロカプセル断面をSEM観察し、一つのマイクロカプセルにつき、酸化膜の厚みを3箇所以上測定し、そして、これらの測定値の平均値を算出する。同じ操作を3個以上のマイクロカプセルについて行い、そして、各マイクロカプセルの酸化膜の厚みの平均値を算出する。次いで、これら3個以上のマイクロカプセルの酸化膜の全体の平均値を算出し、そして、この値を、平均厚みとして採用する。酸化膜の種類については、AES(オージェ電子分光法)分析で特定可能である。
【0033】
一実施形態において、本発明に係る潜熱蓄熱材用マイクロカプセルは、このようなナノメートルオーダーの極めて薄いシェルを有し、同時に、表面欠陥が存在する特性を兼備する。そのような潜熱蓄熱材用マイクロカプセルは、潜熱量及び耐久性に優れた潜熱蓄熱材用マイクロカプセルとなり得る。
【0034】
(1-3.マイクロカプセルの融点)
一実施形態において、本発明に係る潜熱蓄熱材用マイクロカプセルの融点は、300~550℃であり、好ましくは、420~520℃である。
【0035】
本明細書において、マイクロカプセルの融点は、示差走査熱量測定(DSC)を行った時の、融解開始温度を指す。
【0036】
(1-4.マイクロカプセルの大きさ)
一実施形態において、本発明に係る潜熱蓄熱材用マイクロカプセルは、潜熱蓄熱材用マイクロカプセルを複数含有する粉末の形態で提供される。一実施形態において、当該粉末の平均粒径は、20~80μmである。当該粉末の平均粒径は、表面欠陥の少ないシェル形成の観点から、20~50μmであることが好ましく、20~38μmであることが更に好ましい。
【0037】
本明細書で述べる平均粒径(例えば、原料紛末の平均粒径、及び潜熱蓄熱材用マイクロカプセルを含有する粉末の平均粒径)は、レーザー回折式粒度分布計(例:HORIBA LA-920)で測定したときの値である。より具体的には、レーザー回折式粒度分布計により、粒子群の体積分布を測定し、累積50体積%径の値(D50)を、平均粒径とみなす。
【0038】
(1-5.マイクロカプセルの潜熱量)
一実施形態において、本発明に係る潜熱蓄熱材用マイクロカプセルの潜熱量が70~120J/gであり、好ましい実施形態において、潜熱量が100~115J/gである。
【0039】
本明細書において、マイクロカプセルの潜熱量は、示差走査熱量測定(DSC)を行った時の、固液相変化に伴う熱流変化を指す。
【0040】
(1-6.マイクロカプセルの用途)
本発明の一実施形態によれば、潜熱蓄熱材用マイクロカプセルを含有する粉末を備える蓄熱装置が提供される。本発明の一実施形態に係る潜熱蓄熱材用マイクロカプセルにおいて、融点を、約300~550℃の範囲へ容易に調整することができ、Znの含有量を変化させることで実現可能である。また、本発明の一実施形態に係る潜熱蓄熱材用マイクロカプセルにおいて、潜熱量が大きい。従って、当該潜熱蓄熱材用マイクロカプセルは、例えば、潜熱蓄熱装置に好適に利用可能であり、そして、前記潜熱蓄熱装置は、好ましくは、排気温度を調整する目的で、自動車の排気系統に設置されてもよい。一実施形態において、潜熱蓄熱材用マイクロカプセルを含有する粉末を備える蓄熱装置を自動車の排気通路の外周に設置することができる。また、蓄熱装置は、自動車の排気熱のみならず、上述の温度範囲で発生する様々な未利用熱を蓄熱することができる。
【0041】
<2.潜熱蓄熱材用マイクロカプセルの製造方法>
以下、本発明に係る潜熱蓄熱材用マイクロカプセルの製造方法を例示的に説明する。
【0042】
(2-1.原料)
まず、ZnとAlとを含む金属粒子を提供する。例えば、原料としてZn-Alの2元合金粒子を用意する。Zn-Alの2元合金粒子中のAl及びZnの含有比率は、要求される特性に応じて適宜調整することができる。典型的にはZn-Alの2元合金粒子は粉末の形態で提供される。一実施形態において、原料粉末の平均粒径は20~80μmである。表面欠陥の少ないシェル形成の観点から、当該粉末の平均粒径は、20~38μmであることが好ましい。また、原料におけるZn-Alの組成比は、最終的な製品で求められる組成比に近い値にすればよい。後述する製造工程を経ることで、組成比の多少の変動はあるものの、著しい変動では無い。従って、近い組成比を有する原料を幾つか準備して製造することで、容易に所望の組成比のマイクロカプセルを得ることができる。
【0043】
(2-2.化成処理)
次いで、合金粒子に対して、Alを含む溶液で化成処理を行う。例えば、原料のZn-Alの2元合金粒子に対して、化成処理(ベーマイト処理)を施して被膜を形成する。化成処理をすることにより、シェルを構成する酸化被膜の前駆体を形成させることができる。具体的には、原料のZn-Al合金粒子を高温の水中に入れ、合金表面に被膜を生成させる。この時、水中には、Al(より具体的には、水酸化アルミニウムAl(OH)3、Al23、Al、AlOOH等、好ましくは、水酸化アルミニウムAl(OH)3)を添加する。水中のAlは、化成処理、及び、後述する晶析処理の際に、粒子表面と接触することで、粒子表面の膜に欠陥を形成させる役割を果たす。従って、量が少なすぎると十分な欠陥を形成できない。一方で、量が多すぎると欠陥が過剰に導入されたり、コア粒子内部の酸化が進行して潜熱蓄熱量が低下したりする可能性がある。こうした理由から、好ましい添加量(水酸化アルミニウムに換算した添加量)は、1.0~10.0g/Lであり、更に好ましくは、1.0~8.0g/Lである。
【0044】
温度及び時間などは特に限定されないが、80℃以上の温度で、3時間以上行うことが好ましい。例えば、80~100℃の水温、3~12時間の条件で、Zn-Al合金粒子を化成処理することができる。化成処理は攪拌しながら実施することが好ましい。
【0045】
(2-3.晶析処理)
化成処理後は、温度を下げて、晶析処理を行う。これにより、水酸化アルミニウムAl(OH)3をZn-Al合金粒子の表面に析出させる。また、上述したように、粒子表面と接触することで、粒子表面の膜に欠陥を形成させる。
【0046】
温度及び時間などは特に限定されないが、80℃未満、好ましくは、室温(例えば、25℃)~80℃未満の温度で、更に好ましくは、70~80℃未満の温度で、10時間以上行うことが好ましい。例えば、70~80℃未満の水温、12~20時間の条件で、晶析処理を行うことができる。十分な時間をかけて晶析処理を行うことで、上述した水酸化アルミニウムによる均一な欠陥形成を促すことができる。また、欠陥を、より均一に分散させることができる。
【0047】
晶析処理後は、放冷して液温を室温まで下げてもよい。そして、晶析処理後の粒子を回収し、吸引濾過し、及び、乾燥する。晶析処理後の粒子を乾燥する理由は粒子表面の余分な水分を除去するためである。
【0048】
(2-4.酸化処理)
次に、酸化処理を行う。例えば、晶析処理を行ったZn-Alの2元合金粒子を酸化処理する。より具体的には、酸素含有雰囲気下で高温処理を実施する。ベーマイト処理後(化成処理後)に酸化処理を実施することにより、二重酸化膜又は三重酸化膜等を有するシェルを形成することができる。
【0049】
酸化処理の保持温度、昇温速度、時間等の条件が、欠陥形成に影響する可能性はあるものの、晶析処理時のアルミニウムの影響の方が大きい。従って、酸化処理の保持温度、昇温速度、時間等は特に限定されない。
【0050】
典型的には、昇温速度は、10℃/min以上、好ましくは、40℃/min以上であってもよい。上限値は、例えば、60℃/min以下であってもよい。酸素含有雰囲気とは酸素を含有している雰囲気であればよく、例えば純度99.5%の酸素を200mL/minの流量で供給した酸素雰囲気でもよく、或いは、大気雰囲気でもよい。保持温度は、例えば、700℃~910℃、好ましくは750℃~850℃であってもよい。
【0051】
なお、ここでの昇温速度は以下の式で計算される。
昇温速度=(保持温度-加熱開始温度)/(加熱開始後から保持温度に到達するまでに要する時間)
【0052】
一方、保持温度から温度を下げる場合において、降温速度は、特に限定されず、任意の速度であってもよい。例えば、降温速度は、-40℃/min~-60℃/minであってもよい。
【0053】
保持温度で維持する時間は、例えば30分~5時間、好ましくは1時間~5時間とすることができる。
【実施例0054】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0055】
<実施例1、及び、比較例1>
(1.蓄熱潜熱材用マイクロカプセルを含有する粉末の作製)
以下の手順により、実施例1、及び、比較例1の蓄熱潜熱材用マイクロカプセルを含有する粉末を作製した。
【0056】
(1-1.原料粉末)
まず、Znの質量比が70%であり、且つ、Alの質量比が30%であるZn-Alの2元合金(Zn-30質量%Al)粉末を回転ディスクアトマイズ法により準備した。当該粉末の平均粒径を、レーザー回折式粒度分布計(HORIBA社製、型式LA-920)を用いて測定したところ、20~38μmであった。
【0057】
(1-2.化成処理)
ビーカーに蒸留水300mL入れ、蒸留水を沸騰させた。その際に、ホットスターラーを用いて回転速度500rpmで攪拌しながら、沸騰させた。実施例1では、水酸化アルミニウムを3.3g/Lになるように沸騰水に添加した。比較例1では、水酸化アルミニウムを添加することなく沸騰水を使用した。上記で用意した粉末3gを、沸騰させた100℃の水300mL中に添加した。そして、撹拌を継続しながら3時間化成処理をした。化成処理中は蒸留水を添加することによりビーカー内の水量を維持した。
【0058】
(1-3.晶析処理)
化成処理後、実施例1の試料に対して晶析処理をした。比較例1の試料に対しては、晶析処理を実施しなかった。具体的には、ホットスターラーの温度機能を調節して、水の温度を75℃まで下げ、そして、16h維持した。16h経過後、ビーカー内の水を室温まで放冷した。その後、粉末をビーカーから取り出し、吸引濾過をし、及び乾燥した。
【0059】
(1-4.酸化処理)
その後、晶析処理後の粉末をTG-DSC(メトラー・トレド社製、型式TGA/DSC3+)のサンプルパン内に入れた。次に、200mL/minの流量で、空気を供給する大気雰囲気ではなく、酸素を供給する雰囲気条件下で静置させた状態で酸化処理した。酸化処理時の条件は以下の通りであった。
昇温速度:50K/min
保持温度:800℃
保持時間:3h
降温速度:-50K/min
昇温速度及び降温速度は、以下の式に従って算出した。
【0060】
昇温速度=(保持温度-25℃)/(25℃から保持温度に到達するまでに要する時間)
降温速度=(25℃-保持温度)/(冷却開始後、保持温度から25℃に到達するまでに要する時間)
【0061】
(2.特性評価)
上記の手順で得られた実施例1(MEPCM03)、及び、比較例1(MEPCM0)の蓄熱潜熱材用マイクロカプセルを含有する粉末について、以下の特性分析を行った。
【0062】
(2-1.SEMによる断面観察)
炭素片の表面にカッターで溝を形成した。蓄熱潜熱材用マイクロカプセルを含有する粉末の試料を、その溝に埋め込んだ。次いで、CP(Cross section polisher)により(より具体的にはArイオンビームにより)炭素片の表面と粒子を削り、粒子断面を露出した。この粒子断面に対して、Arイオンによるエッチングを実施した(エッチング条件は以下の通り:ビームエネルギー3000eV、イオン電流4.0μm、ガス圧8.0×10-2Paで30秒間)。これにより、粒子断面における合金表面の自然酸化被膜を除去した。その後、粒子断面をSEM(JEOL社製、型式JSM-7001FA)で観察した。
【0063】
図1に示すように、実施例1(MEPCM03)及び比較例1(MEPCM0)の何れの例に係る粒子についても、粒子表面に金属コアを被覆する二重膜(シェル)が形成されていることが確認された。
【0064】
(2-2.AES(オージェ電子分光法)分析)
前項「(2-1.SEMによる断面観察)」に記載の方法で粒子断面を形成した後、AES分析(JEOL社製、型式JAMP-9500F)を実施した。
【0065】
その結果、図1に示すように、実施例1(MEPCM03)では、AlとZnとOとを含む酸化膜が形成されており、その内側には、AlとOとを含む酸化膜が形成されていることが示された。また、コア部分については、Oが検出されなかった。一方で、比較例1(MEPCM0)では、ZnとOとを含む酸化膜が形成されており、その内側には、AlとOとを含む酸化膜が形成されていることが示された。また、コア部分については、Oが検出されなかった。
【0066】
(2-3.SEM(走査型電子顕微鏡)による表面観察)
蓄熱潜熱材用マイクロカプセルの表面をSEM(JEOL社製、型式JSM-7001FA)で観察した。実施例1(MEPCM03)及び比較例1(MEPCM0)の粒子表面のSEM画像を図2に示す。図2から分かるように、比較例1の粒子においては、ほとんど亀裂が見られなかった。一方で、実施例1の粒子では、亀裂が多数見られた。
【0067】
また、実施例1の粒子について、晶析処理した時点での試料(写真番号1)と、酸化処理を行ったときの試料(写真番号4)のSEM写真を図3に示す。酸化処理を行うことで、晶析処理時に水酸化アルミニウムによって生じた欠陥が、亀裂という形で顕在化したと考えられる。
【0068】
(2-4.潜熱量)
蓄熱潜熱材用マイクロカプセルの潜熱量を示差走査熱量測定(DSC)(METTLER TOLEDO社製、型式DSC823e)により求めた。結果は表2に示す通りとなった。
【0069】
(2-5.耐久性試験)
50K/minの速度で昇温及び降温を100回繰り返した。最高温度を600℃、最低温度を350℃とした。大気雰囲気下で実施した。試験後の粒子の表面をSEMで観察した写真を図4に示す。実施例1(MEPCM03)では、粒子の崩壊がほとんど見られず、温度変化の繰り返しに対する耐久性があることが示された。一方で、比較例1(MEPCM0)では、円で囲った部分に示されるように、粒子の崩壊が、見られた。このように、実施例1の粒子の表面に亀裂があるにも関わらず、耐久性試験においては、実施例1の方が比較例1よりも優れていた。ここで、繰り返し試験後の×300のSEM画像中に存在するマイクロカプセルの数をカウントした。更には、同じ画像中に存在し、且つ、シェルが破損したマイクロカプセルの数をカウントした。両者の比率から、耐久性試験後の保持率を算出した。比較例1の保持率は87%であった。一方で、実施例1保持率は97%であった。
【0070】
(2-6.膜厚測定)
蓄熱潜熱材用マイクロカプセルの断面を「(2-1.SEMによる断面観察)」で述べた方法により観察した。そして、Al及びOから成る酸化膜の平均厚み、Zn、Al、及びOから成る酸化膜の平均厚み、並びに、Zn及びOから成る酸化膜の平均厚みをそれぞれ先述した方法により測定及び算出した。結果は、表1に示す通りとなった。
【0071】
(2-7.XRD(X線回折法)分析)
コア/シェル構造が破壊されるように蓄熱潜熱材用マイクロカプセルを粉砕した。粉砕後の試料を、X線回折装置(Rigaku社製、型式MiniFlex600)により分析した。そして、その結果に対してRIR(Reference Intensity Ratio)法を適用して、定量分析を行い、ZnAl24の質量比を求めた。また、前記化合物以外に、マイクロカプセルコアにおけるZn及びAlの質量比も求めた。なお、ここで述べるZn及びAlの質量比は、純Zn及び純Alの質量比を意味する。換言すれば、Znの化合物(例えば、酸化物)及びAlの化合物(例えば、酸化物)は含まない。なお、粉砕して分析する対象はシェルとコアを含むものの、ここで、検出される純Zn及び純Alは、実質的にコア由来のものとなる。
【0072】
RIR値には、国際回折データセンターの粉末回折ファイル(PDF)データベースに記載の値を用いた(ICSDのNo.01-070-8186)。分析条件は以下の通りに設定した。
・X線源:CuKα線
・測定範囲:2θ=3°~90°
・ステップ:0.01°
・スキャンスピード:1.0°/min
・検出器:高速1次元検出器D/teX Ultra2
・管電圧:40kV
・管電流:15mA
結果は、表2に示す通りとなった。
【0073】
(2-8.融点)
蓄熱潜熱材用マイクロカプセルの融点を示差走査熱量測定(DSC)(METTLER TOLEDO社製、型式DSC823e)により求めた。結果は、表2に示す通りとなった。
【0074】
(2-9.体積膨張率)
蓄熱潜熱材用マイクロカプセルの融解時のコア体積膨張率について、原料の粒子の組成比に基づいて、Factsage(計算力学研究センター製、Ver.7.3、条件は以下の通り)により、固相線温度と液相線温度の間の体積膨張率を求めた。結果を表2に示す。
・データベース:FTlite
・元素:Al、Zn
・計算組成:5~40wt%Al(5wt%刻み)
・温度:0~600℃(1℃刻み)
・圧力:1atm
【0075】
<実施例2~4>
上記実施例1と同様の手順でマイクロカプセルを製造し、そして、評価した。ただし、化成処理時のAl(OH)3の添加量を、表1のように設定した。

【表1】
【0076】
評価結果を表2に示す。
【表2】
【0077】
上記結果から、晶析処理によってAlを晶析させることで、マイクロカプセルの特性に変化が生じ、具体的には、繰り返し耐久性が向上することが示された。
図1
図2
図3
図4