(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127615
(43)【公開日】2022-08-31
(54)【発明の名称】14族元素化合物を水素キャリアとする水素の製造および貯蔵
(51)【国際特許分類】
C01B 3/00 20060101AFI20220824BHJP
C07F 7/22 20060101ALI20220824BHJP
C07F 7/30 20060101ALI20220824BHJP
C07F 7/08 20060101ALI20220824BHJP
C07F 7/10 20060101ALI20220824BHJP
B01J 31/22 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
C01B3/00 B
C07F7/22 A
C07F7/30 A
C07F7/08 C
C07F7/10 C
B01J31/22 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023080
(22)【出願日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】63/151,147
(32)【優先日】2021-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)-1日本化学会 第101春季年会予稿 <1> ウェブサイトの掲載日 令和3年3月4日 <2> ウェブサイトのアドレス https://confit.atlas.jp/guide/event/csj101st/proceedings/list https://confit.atlas.jp/guide/event-img/csj101st/A12-1am-04/public/pdf?type=in <3> 公開者 小林 由尚、砂田 祐輔 <4> 公開された発明の内容 小林 由尚、砂田 祐輔が、上記アドレスのウェブサイトで公開された日本化学会 第101春季年会(2021)の予稿集にて、小林 由尚及び砂田 祐輔が発明した「鉄錯体によるアンモニアボランおよびヒドロシランの脱水素化反応の開発」について公開した(演題番号:A12-1am-04)。 (1)-2日本化学会 第101春季年会口頭発表 <1> 開催日 令和3年3月19日 <2> 集会名、開催場所 日本化学会 第101春季年会(2021)、WEBオンライン開催 <3> 公開者 小林 由尚、砂田 祐輔 <4> 公開された発明の内容 小林 由尚、砂田 祐輔が、日本化学会 第101春季年会(2021)にて、小林 由尚及び砂田 祐輔が発明した「鉄錯体によるアンモニアボランおよびヒドロシランの脱水素化反応の開発」について公開した(演題番号:A12-1am-04)。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (2)-1 ISOS 2021 予稿 <1> ウェブサイトの掲載日 令和3年6月24日 <2> ウェブサイトのアドレス https://filesender.renater.fr/?s=download&token=cb919627-b49f-4e54-92ba-0cff67091199 <3> 公開者 小林 由尚、砂田 祐輔 <4> 公開された発明の内容 小林 由尚、砂田 祐輔が、上記アドレスのウェブサイトで公開された第19回シリコン化学に関する国際シンポジウム2021(ISOS-2021)予稿集にて、小林 由尚及び砂田 祐輔が発明した「鉄触媒による第14族水素化物の脱水素カップリング」について公開した(演題番号:P205)。 (2)-2 ISOS 2021 ポスター発表 <1> 開催日 令和3年7月6日 <2> 集会名、開催場所 第19回シリコン化学に関する国際シンポジウム2021(ISOS-2021)、WEBオンライン開催 <3> 公開者 小林 由尚、砂田 祐輔 <4> 公開された発明の内容 小林 由尚、砂田 祐輔が、第19回シリコン化学に関する国際シンポジウム2021(ISOS-2021)にて、小林 由尚及び砂田 祐輔が発明した「鉄触媒による第14族水素化物の脱水素カップリング」について公開した(演題番号:P205)。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (3)-1 CSJ 口頭発表予稿 <1> ウェブサイトの掲載日 令和3年9月24日 <2> ウェブサイトのアドレス https://festa.csj.jp/2021/festa/ <3> 公開者 小林 由尚、砂田 祐輔 <4> 公開された発明の内容 小林 由尚、砂田 祐輔が、上記アドレスのウェブサイトで公開された日本化学会秋季事業第11回CSJ化学フェスタ2021予稿集にて、小林 由尚及び砂田 祐輔が発明した「鉄触媒を用いた第14族水素化物の脱水素カップリング」について公開した(演題番号:H2-09)。 (3)-2 CSJ 口頭発表 <1> 開催日 令和3年10月20日 <2> 集会名、開催場所 日本化学会秋季事業第11回CSJ化学フェスタ2021、WEBオンライン開催 <3> 公開者 小林 由尚、砂田 祐輔 <4> 公開された発明の内容 小林 由尚、砂田 祐輔が、日本化学会秋季事業第11回CSJ化学フェスタ2021にて、小林 由尚及び砂田 祐輔が発明した「鉄触媒を用いた第14族水素化物の脱水素カップリング」について公開した(演題番号:H2-09)。 (3)-3 CSJ 予稿(冊子) <1> 発行日 令和3年9月24日 <2> 刊行物 日本化学会秋季事業第11回CSJ化学フェスタ2021プログラム集(172頁、183頁) 公益社団法人日本化学会 <3> 公開者 小林 由尚、砂田 祐輔 <4> 公開された発明の内容 小林 由尚、砂田 祐輔が、日本化学会秋季事業第11回CSJ化学フェスタ2021プログラム集(予稿冊子)にて、小林 由尚及び砂田 祐輔が発明した「鉄触媒を用いた第14族水素化物の脱水素カップリング」について公開した(演題番号:H2-09)。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (4)-1 CSJ ポスター予稿 <1> ウェブサイトの掲載日 令和3年9月24日 <2> ウェブサイトのアドレス https://festa.csj.jp/2021/festa/ <3> 公開者 小林 由尚、砂田 祐輔 <4> 公開された発明の内容 小林 由尚、砂田 祐輔が、上記アドレスのウェブサイトで公開された日本化学会秋季事業第11回CSJ化学フェスタ2021予稿集にて、小林 由尚及び砂田 祐輔が発明した「鉄触媒を用いた第14族水素化物の脱水素カップリング」について公開した(演題番号:P9-056)。 (4)-2 CSJ ポスター <1> 開催日 令和3年10月21日 <2> 集会名、開催場所 日本化学会秋季事業第11回CSJ化学フェスタ2021、WEBオンライン開催 <3> 公開者 小林 由尚、砂田 祐輔 <4> 公開された発明の内容 小林 由尚、砂田 祐輔が、日本化学会秋季事業第11回CSJ化学フェスタ2021にて、小林 由尚及び砂田 祐輔が発明した「鉄触媒を用いた第14族水素化物の脱水素カップリング」について公開した(演題番号:P9-056)。 (4)-3 CSJ 予稿(冊子) <1> 発行日 令和3年9月24日 <2> 刊行物 日本化学会秋季事業第11回CSJ化学フェスタ2021プログラム集、379頁 公益社団法人日本化学会 <3> 公開者 小林 由尚、砂田 祐輔 <4> 公開された発明の内容 小林 由尚、砂田 祐輔が、日本化学会秋季事業第11回CSJ化学フェスタ2021プログラム集(予稿冊子)にて、小林 由尚及び砂田 祐輔が発明した「鉄触媒を用いた第14族水素化物の脱水素カップリング」について公開した(演題番号:P9-056)。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (5)-1 Pacifichem 2021 要旨 <1> ウェブサイトの掲載日 令和3年11月12日 <2> ウェブサイトのアドレス https://pacifichem2021.abstractcentral.com <3> 公開者 小林 由尚、砂田 祐輔 <4> 公開された発明の内容 小林 由尚、砂田 祐輔が、上記アドレスのウェブサイトで公開されたPacifichem2021要旨にて、小林 由尚及び砂田 祐輔が発明した「鉄触媒による第14族水素化物の脱水素カップリングを介したE-E(E=Si,Ge,Sn)結合の形成」について公開した。 5-(2)Pacifichem 2021 ポスター <1> 開催日 令和3年12月17日(ハワイ現地時間 令和3年12月16日) <2> 集会名、開催場所 Pacifichem2021、WEBオンライン開催 <3> 公開者 小林 由尚、砂田 祐輔 <4> 公開された発明の内容 小林 由尚、砂田 祐輔が、Pacifichem2021にて、小林 由尚及び砂田 祐輔が発明した「鉄触媒による第14族水素化物の脱水素カップリングを介したE-E(E=Si,Ge,Sn)結合の形成」について公開した。
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100194423
【弁理士】
【氏名又は名称】植竹 友紀子
(72)【発明者】
【氏名】砂田 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】小林 由尚
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 龍好
【テーマコード(参考)】
4G140
4G169
4H049
【Fターム(参考)】
4G140AA22
4G140AA42
4G169AA06
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BC62A
4G169BC62B
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169BE01A
4G169BE02A
4G169BE06A
4G169BE07A
4G169BE08A
4G169BE08B
4G169BE10A
4G169BE13A
4G169BE13B
4G169BE14A
4G169BE18A
4G169BE21A
4G169BE26A
4G169BE31A
4G169BE32A
4G169BE32B
4G169BE37B
4G169BE38A
4G169BE38B
4G169BE40A
4G169BE40B
4G169BE42A
4G169BE43A
4G169BE48A
4G169CB02
4G169CB07
4G169CB81
4H049VN01
4H049VN02
4H049VN03
4H049VP01
4H049VQ02
4H049VQ07
4H049VQ21
4H049VQ39
4H049VR11
4H049VR12
4H049VR21
4H049VR22
4H049VR42
4H049VR52
4H049VU32
4H049VW01
(57)【要約】
【課題】貴金属フリー、温和な作動条件、または省エネルギーなどの点に優れる水素キャリア、これを用いた水素製造および貯蔵手段を提供する。
【解決手段】幾つかの形態では、EH基(Eは、Si、GeおよびSnからなる群から選択される)を有する14族元素化合物(A)を含む水素キャリアを、鉄触媒およびマンガン触媒から選択される脱水素触媒および必要に応じて塩基に接触させて、E-E結合を有する14族元素化合物(B)と水素とを生成することを含む、水素の製造方法を提供する。幾つかの形態において、E-E結合を有する14族元素化合物(B)を含む水素貯蔵材料を、鉄触媒および必要に応じて無機塩基の存在下で、水素に接触させて、EH基を有する14族元素化合物(A)を生成することを含む、水素の貯蔵方法を提供する。幾つかの形態において、14族元素化合物(A)を含む水素キャリア、ならびに、当該水素キャリアと鉄触媒およびマンガン触媒から選択される脱水素触媒と、必要に応じて無機塩基と、を含む水素キャリア組成物が提供される。幾つかの形態において、14族元素化合物(B)と、鉄触媒と、必要に応じて無機塩基と、を含む水素貯蔵用組成物が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
EH基(Eは、Si、GeおよびSnからなる群から選択される)を有する14族元素化合物(A)を含む水素キャリアを、鉄触媒およびマンガン触媒から選択される脱水素触媒および必要に応じて無機塩基に接触させて、E-E結合を有する14族元素化合物(B)と水素とを生成することを含む、水素の製造方法。
【請求項2】
前記鉄触媒は、鉄化合物と配位子(A1)との組合せまたは鉄と配位子(A1)との鉄錯体を含み、
前記マンガン触媒は、マンガン化合物と配位子との組合せ(A2)またはマンガンと配位子(A2)とのマンガン錯体を含み、
前記鉄化合物は、鉄ハライド、鉄有機酸塩、水酸化鉄、有機配位子を有する鉄錯体、鉄ジシリル錯体、鉄ジゲルミル錯体、および鉄ジスタニル錯体から選択され、
前記配位子(A1)は、カルベン、アルケン、アルキン、カルボニル(CO)、イソシアニド、アミン、イミン、含窒素ヘテロ環、ホスフィン、アルシン、アルコール、チオール、エーテル、スルフィド、ニトリル、分子状水素、アルデヒド、およびケトンから選択される少なくとも1種であり、
前記マンガン化合物は、マンガンハライド、マンガンの有機酸塩、マンガンの水酸化物、マンガンに有機配位子が配位したマンガン錯体、マンガンジシリル錯体、マンガンジゲルミル錯体、およびマンガンジスタニル錯体から選択され、
前記配位子(A2)は、カルベン、アルケン、アルキン、カルボニル(CO)、イソシアニド、アミン、イミン、含窒素ヘテロ環、ホスフィン、アルシン、アルコール、チオール、エーテル、スルフィド、ニトリル、分子状水素、アルデヒド、およびケトンから選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記脱水素触媒は、鉄触媒であり、
前記配位子(A1)は、N-ヘテロ環カルベンまたは環状アルキルアミノカルベンを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記14族元素化合物(A)は、下記式(A1)で表され、
HER
1R
2R
3 (A1)
(式(A1)中、EはSi、Ge、およびSnから選択され、
R
1は、有機基、-OR
4、-N(R
5)
2、-OER
2
3、-N(R
5)ER
2
3、-C(R
6)
2ER
2
3、および-ER
2
3からなる群から選択され、
R
2は、それぞれ独立して水素原子、有機基、-OR
4、および-ER
5
2からなる群から選択され、
R
3は、水素原子、有機基、および-OR
4からなる群から選択され、
R
4は、有機基であり、
R
5は、水素原子、または、有機基であり、
R
6は、それぞれ独立して水素原子、または、有機基である。)
EがGeまたはSnである場合、前記14族元素化合物(B)は下記式(B1)で表される化合物であるか、下記式(B2)で表される化合物であるか、または下記式(B3)で表される構成単位を有するポリマーであり、
EがSiである場合、前記14族元素化合物(B)は下記式(B2)で表される化合物であるか、または下記式(B3)で表される構成単位を有するポリマーである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【化49】
(式(B1)、(B2)、および(B3)中、E、R
1、R
2、およびR
3は式(A1)と同義であり、
nは3~12である)。
【請求項5】
式(A1)、(B1)、(B2)、および(B3)中
R1は、有機基、-OR4、および-N(R5)2からなる群から選択され、
R2は、水素原子、有機基、-OR4、および-N(R5)2からなる群から選択され、
R3は、水素原子または有機基であり、
有機基は、炭素数1~30のアルキル基、アリール基、およびヘテロアリール基からなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
反応を、20~150℃の温度および1~20気圧の圧力で行う、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
E-E結合(Eは、Si、GeおよびSnからなる群から選択される)を有する14族元素化合物(B)を含む水素貯蔵材料を、鉄触媒および必要に応じて無機塩基の存在下で、水素に接触させて、EH基を有する14族元素化合物(A)を生成することを含む、水素の貯蔵方法。
【請求項8】
反応を、20~150℃の温度および1~20気圧の水素の圧力で行う、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
水素キャリア組成物であって、分子内に少なくとも一つのEH基(Eは、Si、GeおよびSnからなる群から選択される)を有する14族元素化合物(A)を含む水素キャリアと、鉄触媒およびマンガン触媒から選択される脱水素触媒と、必要に応じて無機塩基と、を含み、
前記14族元素化合物(A)が前記脱水素触媒の存在下で反応して2つのEH基からE-E結合が形成される、組成物。
【請求項10】
前記脱水素触媒は鉄触媒であり、
前記鉄触媒は、鉄化合物と配位子(A1)との組合せまたは鉄と配位子(A1)との鉄錯体を含み、
前記鉄化合物は、鉄ハライド、鉄有機酸塩、水酸化鉄、有機配位子を有する鉄錯体、鉄ジシリル錯体、鉄ジゲルミル錯体、および鉄ジスタニル錯体から選択され、
前記配位子(A1)は、カルベン、アルケン、アルキン、カルボニル(CO)、イソシアニド、アミン、イミン、含窒素ヘテロ環、ホスフィン、アルシン、アルコール、チオール、エーテル、スルフィド、ニトリル、分子状水素、アルデヒド、およびケトンから選択される少なくとも1種である、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
水素貯蔵用組成物であって、E-E結合(Eは、Si、GeおよびSnからなる群から選択される)を有する14族元素化合物(B)と、鉄触媒と、必要に応じて無機塩基と、を含み、
前記14族元素化合物(B)が前記鉄触媒の存在下で水素と接触することでE-E結合が開裂して2つのEH基が生成する、組成物。
【請求項12】
EH基(Eは、Si、GeおよびSnからなる群から選択される)を有する14族元素化合物(A)を含む、水素キャリアであって、前記14族元素化合物(A)は脱水素反応により2つのEH基が反応してE-E結合が形成され、水素を生成し得る、水素キャリア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は14族元素化合物を水素キャリアとする水素の製造方法および貯蔵方法、これに用いる水素キャリア、水素キャリア組成物、ならびに水素貯蔵用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トルエンなどの芳香族化合物を水素化し、水素化芳香族化合物(有機ハイドライド)の状態で水素の貯蔵や輸送を行う有機ケミカルハイドライド法が注目を集めている。この手法によれば、水素は、生産地において水素化芳香族化合物に転換され、水素化芳香族化合物の形態で輸送される。そして、水素の需要地において、水素化芳香族化合物の脱水素反応により水素と芳香族化合物とが生成される。脱水素反応によって生じた化合物は、再び水素生産地に輸送され、水素化反応に利用され得る。しかし、従来、このような有機ケミカルハイドライド法は、白金やイリジウムに代表される貴金属触媒により水素化反応が実施されており、コストが高いという課題がある(例えば、特許文献1、非特許文献1)。また、これらの従来法は作動温度・圧力が高く、多くのエネルギーを必要とする点にも課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Fujita, K et al. Angew. Chem. Int. Ed., 2017, 56, 10886
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況下、貴金属フリー、温和な作動条件、または省エネルギーなどの点に優れる水素キャリア、これを用いた水素製造および貯蔵手段が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は例えば以下の通りである。
[1] EH基(Eは、Si、GeおよびSnからなる群から選択される)を有する14族元素化合物(A)を含む水素キャリアを、鉄触媒およびマンガン触媒から選択される脱水素触媒および必要に応じて無機塩基に接触させて、E-E結合を有する14族元素化合物(B)と水素とを生成することを含む、水素の製造方法。
[2] 前記鉄触媒は、鉄化合物と配位子(A1)との組合せまたは鉄と配位子(A1)との鉄錯体を含み、
前記マンガン触媒は、マンガン化合物と配位子との組合せ(A2)またはマンガンと配位子(A2)とのマンガン錯体を含み、
前記鉄化合物は、鉄ハライド、鉄有機酸塩、水酸化鉄、有機配位子を有する鉄錯体、鉄ジシリル錯体、鉄ジゲルミル錯体、および鉄ジスタニル錯体から選択され、
前記配位子(A1)は、カルベン、アルケン、アルキン、カルボニル(CO)、イソシアニド、アミン、イミン、含窒素ヘテロ環、ホスフィン、アルシン、アルコール、チオール、エーテル、スルフィド、ニトリル、分子状水素、アルデヒド、およびケトンから選択される少なくとも1種であり、
前記マンガン化合物は、マンガンハライド、マンガンの有機酸塩、マンガンの水酸化物、マンガンに有機配位子が配位したマンガン錯体、マンガンジシリル錯体、マンガンジゲルミル錯体、およびマンガンジスタニル錯体から選択され、
前記配位子(A2)は、カルベン、アルケン、アルキン、カルボニル(CO)、イソシアニド、アミン、イミン、含窒素ヘテロ環、ホスフィン、アルシン、アルコール、チオール、エーテル、スルフィド、ニトリル、分子状水素、アルデヒド、およびケトンから選択される少なくとも1種である、[1]に記載の方法。
[3] 前記脱水素触媒は、鉄触媒であり、
前記配位子(A1)は、N-ヘテロ環カルベンを含む、[2]に記載の方法。
[4] 前記14族元素化合物(A)は、下記式(A1)で表され、
HER
1R
2R
3 (A1)
(式(A1)中、EはSi、Ge、およびSnから選択され、
R
1は、有機基、-OR
4、-N(R
5)
2、-OER
2
3、-N(R
5)ER
2
3、-C(R
6)
2ER
2
3、および-ER
2
3からなる群から選択され、
R
2は、それぞれ独立して水素原子、有機基、-OR
4、および-ER
5
2からなる群から選択され、
R
3は、水素原子、有機基、および-OR
4からなる群から選択され、
R
4は、有機基であり、
R
5は、水素原子、または、有機基であり、
R
6は、それぞれ独立して水素原子、または、有機基である。)
EがGeまたはSnである場合、前記14族元素化合物(B)は下記式(B1)で表される化合物であるか、下記式(B2)で表される化合物であるか、または下記式(B3)で表される構成単位を有するポリマーであり、
EがSiである場合、前記14族元素化合物(B)は下記式(B2)で表される化合物であるか、または下記式(B3)で表される構成単位を有するポリマーである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【化1】
(式(B1)、(B2)、および(B3)中、E、R
1、R
2、およびR
3は式(A1)と同義であり、
nは3~12である)。
[5] 式(A1)、(B1)、(B2)、および(B3)中
R
1は、有機基、-OR
4、および-N(R
5)
2からなる群から選択され、
R
2は、水素原子、有機基、-OR
4、および-N(R
5)
2からなる群から選択され、
R
3は、水素原子または有機基であり、
有機基は、炭素数1~30のアルキル基、アリール基、およびヘテロアリール基からなる群から選択される、[4]に記載の方法。
[6] 反応を、20~150℃の温度および1~20気圧の圧力で行う、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7] E-E結合(Eは、Si、GeおよびSnからなる群から選択される)を有する14族元素化合物(B)を含む水素貯蔵材料を、鉄触媒および必要に応じて無機塩基の存在下で、水素に接触させて、EH基を有する14族元素化合物(A)を生成することを含む、水素の貯蔵方法。
[8] 反応を、20~150℃の温度および1~20気圧の水素の圧力で行う、[7]に記載の方法。
[9] 水素キャリア組成物であって、分子内に少なくとも一つのEH基(Eは、Si、GeおよびSnからなる群から選択される)を有する14族元素化合物(A)を含む水素キャリアと、鉄触媒およびマンガン触媒から選択される脱水素触媒と、必要に応じて無機塩基と、を含み、
前記14族元素化合物(A)が前記脱水素触媒の存在下で反応して2つのEH基からE-E結合が形成される、組成物。
[10] 前記脱水素触媒は鉄触媒であり、
前記鉄触媒は、鉄化合物と配位子(A1)との組合せまたは鉄と配位子(A1)との鉄錯体を含み、
前記鉄化合物は、鉄ハライド、鉄有機酸塩、水酸化鉄、有機配位子を有する鉄錯体、鉄ジシリル錯体、鉄ジゲルミル錯体、および鉄ジスタニル錯体から選択され、
前記配位子(A1)は、カルベン、アルケン、アルキン、カルボニル(CO)、イソシアニド、アミン、イミン、含窒素ヘテロ環、ホスフィン、アルシン、アルコール、チオール、エーテル、スルフィド、ニトリル、分子状水素、アルデヒド、およびケトンから選択される少なくとも1種である、[9]に記載の組成物。
[11] 水素貯蔵用組成物であって、E-E結合(Eは、Si、GeおよびSnからなる群から選択される)を有する14族元素化合物(B)と、鉄触媒と、必要に応じて無機塩基と、を含み、
前記14族元素化合物(B)が前記鉄触媒の存在下で水素と接触することでE-E結合が開裂して2つのEH基が生成する、組成物。
[12] EH基(Eは、Si、GeおよびSnからなる群から選択される)を有する14族元素化合物(A)を含む、水素キャリアであって、前記14族元素化合物(A)は脱水素反応により2つのEH基が反応してE-E結合が形成され、水素を生成し得る、水素キャリア。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、以下の一以上の効果を有する。
(1)本発明によれば、14族元素化合物と鉄触媒およびマンガン触媒から選択される貴金属フリーの脱水素触媒とを使用することで、14族元素化合物の脱水素反応が進行して、水素を製造することができる。当該脱水素反応は、温和な作動条件(低い反応温度および/または低い圧力)および/または高い効率で進行し、省エネルギー性にも優れる。
(2)脱水素反応により水素が放出された14族元素化合物は、鉄触媒のような貴金属フリーの水素付加触媒の存在下で水素と接触することで、水素が付加され、水素を貯蔵することができる。当該水素付加反応は、温和な作動条件(低い反応温度および/または低い圧力)および/または高い効率で進行し、省エネルギー性にも優れる。
(3)いくつかの実施形態によれば、14族元素化合物を用いた水素キャリアは、同一の鉄触媒を用いて水素の製造(脱水素化)および貯蔵(水素化)が可能となり、脱水素化と水素化を単一容器で効率的に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の一形態の水素キャリアを用いた水素の製造反応および貯蔵反応の典型例を示す。
【
図2】
図2は、本発明の一形態の水素キャリアを用いた水素の製造反応および貯蔵反応の典型例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を説明するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
本明細書に記載された数値範囲の上限値および下限値は任意に組み合わせることができる。例えば、「A~B」および「C~D」が記載されている場合、「A~D」および「C~B」の範囲も数値範囲として、本発明に範囲に含まれる。
【0010】
以下に本明細書において記載する用語等の意義を説明する。
「有機基」とは、特に断りが無い限り、有機化合物から1つ以上の水素原子を除いた原子団のことを意味する。有機基は、1種または2種以上のヘテロ原子を含むことができる。有機基の結合手は、有機基に含まれる炭素原子の結合手で形成されていることが好ましい。
有機基としては、特に限定されるものではないが、炭素数1~30の1価炭化水素基、ヘテロアリール基が好ましい。有機基は任意の位置に同一または異なる複数の置換基を有していてもよい。置換基の具体例としては、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン原子、アルコキシ基、ジアルキルアミノ基等のアミノ基等が挙げられる。
「ヘテロ原子」は、水素原子及び炭素原子以外の原子を意味する。ヘテロ原子としては、例えば、窒素原子、酸素原子(O)、硫黄原子(S)、ハロゲン原子、珪素原子(Si)等が挙げられる。
「ハロゲン原子」は、フッ素原子(F)、塩素原子(Cl)、臭素原子(Br)又はヨウ素原子(I)を意味する。有機基の結合手は、有機基に含まれる炭素原子の結合手で形成されていることが好ましい。
「炭化水素基」とは、指定された数の炭素原子を有する直鎖状、環状または分岐状の飽和または不飽和の炭化水素から水素原子を1個または2個以上除いた基を意味する。具体的には、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アルキレン基、アルケニレン基などが挙げられる。
【0011】
「アルキル基」とは、指定された数の炭素原子を有する直鎖状、分岐状、または環状の1価の飽和脂肪族炭化水素基を意味する。アルキル基の炭素数は例えば1~30(例えば1~20)である。アルキル基の具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル、n-ドデシル、n-トリデシル、n-テトラデシル、n-ペンタデシル、n-ヘキサデシル、n-ヘプタデシル、n-オクタデシル、n-ノナデシル、n-エイコサニル基等の直鎖または分岐鎖アルキル基;シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、ノルボルニル、アダマンチル基等のシクロアルキル基などが挙げられる。
【0012】
「アルケニル基」とは、指定された数の炭素原子および少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する直鎖状、分岐状、または環状の1価の炭化水素基を意味する。アルケニル基の炭素数は例えば2~30(例えば2~20)である。アルケニル基の具体例としては、エテニル、n-1-プロペニル、n-2-プロペニル、1-メチルエテニル、n-1-ブテニル、n-2-ブテニル、n-3-ブテニル、2-メチル-1-プロペニル、2-メチル-2-プロペニル、1-エチルエテニル、1-メチル-1-プロペニル、1-メチル-2-プロペニル、n-1-ペンテニル、n-1-デセニル、n-1-エイコセニル基等が挙げられる。
【0013】
「アルキニル基」としては、炭素数2~30(例えば炭素数2~20)のアルキニル基が好ましく、その具体例としては、エチニル、n-1-プロピニル、n-2-プロピニル、n-1-ブチニル、n-2-ブチニル、n-3-ブチニル、1-メチル-2-プロピニル、n-1-ペンチニル、n-2-ペンチニル、n-3-ペンチニル、n-4-ペンチニル、1-メチル-n-ブチニル、2-メチル-n-ブチニル、3-メチル-n-ブチニル、1,1-ジメチル-n-プロピニル、n-1-ヘキシニル、n-1-デシニル、n-1-ペンタデシニル、n-1-エイコシニル基等が挙げられる。
【0014】
「アルケニレン基」とは、指定された数の炭素原子および少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する直鎖または分岐の2価の炭化水素基を意味する。「アルケニル」や「アルケニレン」としては例えば、モノエン、ジエン、トリエン及びテトラエンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0015】
「アルキニル基」とは、指定された数の炭素原子および少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を有する直鎖状、分岐状、または環状の1価の炭化水素基を意味する。
【0016】
「アリール」は芳香族性の単環又は縮合多環から構成される炭化水素を意味する。例えば、ベンゼン;およびナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、ペリレン等の多環式芳香族化合物が挙げられる。アリール基は、アリールから誘導される一価または二価の基を指す。アリール基の炭素数は例えば6~30、または、6~20である。アリール基の具体例としては、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントリル、フェナントリル、o-ビフェニリル、m-ビフェニリル、p-ビフェニリル基等が挙げられる。
【0017】
「ヘテロアリール」は、酸素原子(O)、窒素原子(N)および硫黄原子(S)から選択される1個以上(例えば1~5個、又は1~3個)のヘテロ原子および炭素原子を含有する芳香族性の単環又は縮合多環を意味する。ヘテロアリールは、典型的には、酸素原子(O)、窒素原子(N)および硫黄原子(S)から選択されるヘテロ原子を少なくとも1個(好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個)含む3~20員の単環式または多環式の芳香族基である。例えば、ピリジン、キノリン、イソキノリン、ピラジン、ピリミジン、キノキサリン、ピロール、インドール、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、ビピリジン、フェナントロリン、フラン、ベンゾフラン、ジベンゾフラン、オキサゾール、ベンゾオキサゾール、カルバゾール等のへテロ単環や多環式ヘテロ芳香族化合物などが挙げられる。ヘテロアリール基は、ヘテロアリールから誘導される一価または二価の基を指す。
【0018】
本明細書において、アリール基、ヘテロアリール基はその環上に任意の置換基を1個以上有していてもよい。そのような任意の置換基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、モノ若しくはジ置換アミノ基、シリル基、置換シリル基、アシル基、アリール基、又はヘテロアリール基などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。アリール基が2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。
【0019】
「アラルキル基」とは、アルキル基の水素原子の1つがアリール基で置換されている基を意味する。アラルキル基の炭素数は例えば7~30、または、炭素数7~20である。アラルキル基の具体例としては、ベンジル、フェニルエチル、フェニルプロピル、ナフチルメチル、ナフチルエチル、ナフチルプロピル基等が挙げられる。
【0020】
「アルコキシ基」とは、前記アルキル基が酸素原子に結合した構造であり、例えば直鎖状、分枝状、環状又はそれらの組み合わせである飽和アルコキシ基が挙げられる。アルコキシ基の炭素数は特に限定されないが、例えば、炭素数1~6個(C1-C6)、炭素数1~4個(C1-C4)である。
【0021】
1.水素の製造方法(脱水素反応)
本発明の一形態は、EH基(Eは、Si、GeおよびSnからなる群から選択される)を有する14族元素化合物(A)(以下単に「14族元素化合物(A)」または「化合物(A)」ともいう)を含む水素キャリアを、鉄触媒およびマンガン触媒から選択される脱水素触媒および必要に応じて無機塩基に接触させて、E-E結合を有する14族元素化合物(B)(以下単に「14族元素化合物(B)」または「化合物(B)」ともいう)と水素とを生成することを含む、水素の製造方法に関する。
本発明では水素キャリアとして14族元素化合物を使用する。水素キャリアは、可逆的な水素の発生および吸蔵が進行するものであることが好ましい。本発明では、14族元素化合物(A)の脱水素反応により、E-E結合を有する14族元素化合物(B)および水素が生成される。生成された14族元素化合物(B)は水素と接触して水素付加反応することで、再び14族元素化合物(A)となる。14族元素化合物(A)を用いた可逆的な水素の発生および貯蔵が可能であり、化合物(A)を水素の製造および運搬に用いることができる。
【0022】
図1および
図2に、本発明の一形態の水素キャリアとして14族元素化合物を用いた水素の製造反応および貯蔵反応の典型例を示す。
図1に示すように、本形態においては、化合物(A):H-ER
3が触媒下で反応することで化合物(A)のEH基同士が反応して水素が脱離してE-E結合を有する化合物(B):R
3E-ER
3となり、これにより水素を供給し得る。化合物(B)は、触媒下で水素と接触させることで、E-E結合部に水素が付加して、2つのEH基が生成して化合物(A)となり、これにより水素の貯蔵が可能である。なお、
図1および
図2に示す水素キャリアの構造および反応条件(水素発生:80℃、水素吸着:80℃、1気圧)は例示であり、本発明は当該構造および反応条件に限定されるわけではない。
【0023】
従来、水素化芳香族化合物(有機ハイドライド)の脱水素化および水素付加反応は、貴金属触媒の存在下、高エネルギーな反応条件(高圧・高温;例えば、150~250℃、10~30気圧下での水素付加;例えば300~350℃下での脱水素化)下で実施されることが一般的であった。これらの方法は、通常、芳香環の水素化および水素化芳香環の脱水素化を利用して、水素をC-H結合として貯蔵し、C-H結合切断により水素を発生させるものである。C-H結合は安定性が高いため、C-H結合切断には高いエネルギーが必要であり、特に、水素発生過程において高エネルギーな反応条件を用いる必要があった。
これに対し、本発明では、14族元素化合物(A)(B)を使用することで、E-H結合として水素を貯蔵し、E-H結合切断により水素を発生させる。E-H結合はC-H結合よりも結合エネルギーが低く、より低いエネルギーでE-H結合の切断が可能であるため、従来法よりも温和な反応条件での水素発生および水素付加が進行し得る。本発明では、貴金属フリーな触媒を用いて、より温和な反応条件(低い反応温度および/または低い圧力)で水素を発生および/または吸蔵させることができ、コスト面、省エネルギー面、取り扱い性、および/または安全性などの特性にも優れるという利点を有する。
【0024】
(1)14族元素化合物(A)
化合物(A)は14族元素E(Eは、Si、GeおよびSnからなる群から選択される)を含有する化合物である。化合物(A)は、EH基を有し、脱水素反応により、当該EH基から水素の脱離反応が生じる。
【0025】
化合物(A)はEH基を有する化合物であればよい。例えば、水素キャリアとしての化合物(A)としては、ケイ素上に1つ以上の水素原子を持つもの、すなわち3級ヒドロシラン、2級ヒドロシラン、1級ヒドロシラン、が活用できる。ヒドロシランとしては、有機シランに加え、シロキサン構造、シラザン構造、カルボシラン構造、オリゴシラン構造、を持つものが適用可能である。
【化2】
これらの構造において、Rは、水素もしくは有機基もしくはシロキサン、シラザン、カルボシラン、オリゴシラン骨格を示す。
また、化合物(A)はケイ素と同族のゲルマニウムもしくはスズから構成され、ケイ素と同様の構造を持つ水素キャリア(Si部分がGeやSnに置換されたもの)も活用可能である。すなわち、上記化合物のうち、SiをGeやSnに置換した化合物を水素キャリア(化合物(A))として使用可能である。
すなわち、化合物(A)としては、例えば、有機シラン化合物、アルコキシシラン化合物、シロキサン化合物、シラザン化合物、カルボシラン化合物、オリゴシラン化合物、有機ゲルマン化合物、アルコキシゲルマン化合物、ゲルモキサン化合物、および有機スズ化合物などが挙げられる。
【0026】
幾つかの実施形態において、化合物(A)は、下記式(A1)で表される。
HER1R2R3 (A1)
【0027】
式(A1)中、EはSi、Ge、およびSnから選択される。
【0028】
式(A1)中、R1は、有機基、-OR4、-N(R5)2、-OER2
3、-N(R5)ER2
3、-C(R6)2ER2
3、および-ER2
3からなる群から選択される。幾つかの実施形態において、R1は、有機基、-OR4、および-N(R5)2からなる群から選択され、有機基は、炭素数1~30のアルキル基、アリール基、およびヘテロアリール基からなる群から選択される。特定の実施形態において、R1は、炭素数1~12(好ましくは炭素数1~6、より好ましくは炭素数1~4)のアルキル基、フェニル基、-OR4、および-N(R5)2からなる群から選択される。
【0029】
式(A1)中、R2は、それぞれ独立して水素原子、有機基、および-OR4からなる群から選択される。幾つかの実施形態において、R2は、水素原子、有機基、-OR4、-OR4、および-ER5
2からなる群から選択され、有機基は、炭素数1~30のアルキル基、アリール基、およびヘテロアリール基からなる群から選択される。特定の実施形態において、R2は、水素原子、炭素数1~12(好ましくは炭素数1~6、より好ましくは炭素数1~4)のアルキル基、フェニル基、-OR4、および-N(R5)2からなる群から選択される。
【0030】
式(A1)中、R3は、水素原子、有機基、および-OR4からなる群から選択される。幾つかの実施形態において、R3は、水素原子または有機基であり、有機基は、炭素数1~30のアルキル基、アリール基、およびヘテロアリール基からなる群から選択される。特定の実施形態において、R3は、水素原子、炭素数1~12(好ましくは炭素数1~6、より好ましくは炭素数1~4)のアルキル基、およびフェニル基からなる群から選択される。一実施形態において、R3は、水素原子である。一実施形態において、R3は、炭素数1~12(好ましくは炭素数1~6、より好ましくは炭素数1~4)のアルキル基およびフェニル基からなる群から選択される。
【0031】
式(A1)中、R4は、有機基である。幾つかの実施形態において、R4は、炭素数1~30のアルキル基、アリール基、およびヘテロアリール基からなる群から選択される。特定の実施形態において、R4は、炭素数1~12(好ましくは炭素数1~6、より好ましくは炭素数1~4)のアルキル基、およびフェニル基からなる群から選択される。
【0032】
式(A1)中、R5は、水素原子、または、有機基である。幾つかの実施形態において、R5は、水素原子、炭素数1~30のアルキル基、アリール基、およびヘテロアリール基からなる群から選択される。特定の実施形態において、R5は、水素原子、炭素数1~12(好ましくは炭素数1~6、より好ましくは炭素数1~4)のアルキル基、およびフェニル基からなる群から選択される。
【0033】
式(A1)中、R6は、それぞれ独立して水素原子、または、有機基である。幾つかの実施形態において、R6は、水素原子、炭素数1~30のアルキル基、アリール基、およびヘテロアリール基からなる群から選択される。特定の実施形態において、R6は、水素原子、炭素数1~12(好ましくは炭素数1~6、より好ましくは炭素数1~4)のアルキル基、およびフェニル基からなる群から選択される。
【0034】
化合物(A)の具体例は、以下に限定されるものではないが、
フェニルシラン、ジフェニルシラン、トリフェニルシラン、ジフェニルジシラン、フェニルトリシラン、ジフェニルメチルシラン、フェニルジメチルシラン、ジフェニルエチルシラン、フェニルジエチルシラン、ジフェニルプロピルシラン、フェニルジプロピルシラン、ジフェニルブチルシラン、フェニルジブチルシラン、ジエチルシラン、トリエチルシラン、tert-ブチルシランなどの有機シラン化合物;
トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリイソプロポキシシラン、ジメトキシメチルシラン、ジエトキシメチルシラン、ジメトキシフェニルシラン、ジエトキシフェニルシラン、メトキシジメチルシラン、エトキシジメチルシラン、ジフェニルメトキシシラン、ジフェニルエトキシシラン、ジエトキシシラン、ジ-tert-ブトキシシラン、などのアルコキシシラン化合物;
ペンタメチルジシロキサン、テトラメチルジシロキサン、ヘプタメチルトリシロキサン、オクタメチルテトラシロキサン、ジメチルハイドロジェンシロキシ基末端封鎖ジメチルポリシロキサン、ジメチルハイドロジェンシロキシ基末端封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、トリメチルシロキシ基末端封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、ジメチルハイドロジェンシロキシ基末端封鎖(ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン)共重合体、トリメチルシロキシ基末端封鎖(ジメチルシロキサン・メチルヒドロシロキサン)共重合体、トリメチルシロキシ基末端封鎖(ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン)共重合体、ジメチルハイドロジェンシロキシ基末端封鎖(ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン)共重合体、ジメチルハイドロジェンシロキシ基末端封鎖(ジメチルシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン、ジフェニルシロキサン)共重合体、末端ヒドロキシ基封鎖(ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン)共重合体、および片末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基末端封鎖ジメチルポリシロキサンなどのシロキサン化合物;
1,1,3,3-テトラメチルジシラザン、1,1,3,3-テトラメチル-N-メチルジシラザン、などのシラザン化合物;
ポリカルボシランなどのカルボシラン化合物;
オクタフェニルテトラシラン、デカフェニルペンタシランなどのオリゴシラン化合物;
ジフェニルゲルマン、ジエチルゲルマン、ジプロピルゲルマン、ジブチルゲルマン、フェニルゲルマン、トリフェニルゲルマン、テトラフェニルジゲルマンなどの有機ゲルマン化合物;
トリメトキシゲルマン、トリエトキシゲルマン、トリイソプロポキシゲルマン、ジメトキシメチルゲルマン、ジエトキシメチルゲルマン、ジメトキシフェニルゲルマン、ジエトキシフェニルゲルマン、メトキシジメチルゲルマン、エトキシジメチルゲルマン、ジフェニルメトキシゲルマン、ジフェニルエトキシゲルマン、ジエトキシゲルマン、ジーtert-ブトキシゲルマンなどのアルコキシゲルマン化合物;
ペンタメチルジゲルモキサン、テトラメチルジゲルモキサン、ヘプタメチルトリゲルモキサン、オクタメチルテトラゲルモキサン、などのゲルモキサン化合物;
ジフェニルスズ、ジメチルスズ、ジエチルスズ、ジプロピルスズ、ジブチルスズ、トリブチルスズ、トリフェニルスズなどの有機スズ化合物
などが挙げられる。
中でも、化合物(A)としては、有機シラン化合物、シロキサン化合物、有機ゲルマン化合物、有機スズ化合物が好ましく、特に有機シラン化合物もしくはシロキサン化合物を適用するのが望ましい。
【0035】
化合物(A)は1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
(2)14族元素化合物(B)
上記化合物(A)の脱水素反応により、化合物(B)が生成される。化合物(B)は、E-E結合(Eは、Si、GeおよびSnからなる群から選択される)を有する化合物である。
化合物(B)は、化合物(A)の2つのEH基同士が反応して水素が脱離し、E-E結合が形成された化合物である。したがって、化合物(B)の構造は化合物(A)の構造に対応したものとなる。
具体的には、式(A1):HER1R2R3で表される化合物(A)から形成される化合物(B)は以下のとおりである。
【0037】
(i)EがGeまたはSnである場合
幾つかの実施形態において、式(A1)で表される化合物(A)から、式(B1)で表される化合物(B)、式(B2)で表される化合物(B)、または式(B3)で表される構成単位を有するポリマーである化合物(B)が生成する。幾つかの実施形態において、EがGeまたはSnである場合、14族元素化合物(B)は下記式(B1)で表される化合物(B)、下記式(B2)で表される化合物(B)または下記式(B3)で表される構成単位を有するポリマーである。
【0038】
(i-1)式(B1)で表される化合物(B)
【化3】
式(A11)および式(B1)において、EはGeまたはSnである。
なお、式(A11)は、上記式(A1)においてEはGeまたはSnであり、R
3が水素原子である化合物に対応する。式(A11)および式(B1)においてEはGeまたはSnであり、式(A11)および式(B1)におけるR
1およびR
2は前記式(A1)におけるR
1およびR
2と同義である。R
1およびR
2の好ましい態様も、前記式(A1)のR
1およびR
2について説明したものと同様である。
特定の実施形態において、式(A11)および式(B1)において、R
2は水素原子ではない。
式(B1)中、nは3~12である。幾つかの実施形態において、nは4~8である。特定の実施形態において、nは5~7である。一実施形態において、nは5~6である。
【0039】
(i-2)式(B2)で表される化合物(B)
【化4】
幾つかの実施形態において、式(A12)で表される化合物(A)から、式(B2)で表される化合物(B)が生成する。
上記式(A13)および(B2)においてEはGeまたはSnであり、上記式(A12)および式(B2)におけるR
1、R
2およびR
3は、前記式(A1)におけるR
1、R
2およびR
3と同義である。R
1、R
2およびR
3の好ましい態様も、前記式(A1)のR
1、R
2およびR
3について説明したものと同様である。
特定の実施形態において、式(A12)および式(B2)において、R
2およびR
3はいずれも水素原子ではない。
【0040】
(i-3)式(B3)で表される構成単位を有するポリマー
【化5】
幾つかの実施形態において、式(A13)で表される化合物(A)から、式(B3)で表される構成単位を有するポリマーである化合物(B)が生成する。
なお、式(A13)は、上記式(A1)においてEはGeまたはSnであり、R
3が水素原子である化合物に対応する。式(A13)および式(B3)において、R
1およびR
2は前記式(A1)におけるR
1およびR
2と同義である。R
1およびR
2の好ましい態様も、前記式(A1)のR
1およびR
2について説明したものと同様である。
特定の実施形態において、式(A13)および式(B3)において、R
2は水素原子である。
式(B3)で表される構成単位を有するポリマーである化合物(B)の繰り返し単位数は特に制限されないが例えば3~200の範囲である。
【0041】
EがGeまたはSnである場合、上記式(A1)の化合物から上記式(B1)で表される化合物、上記式(B2)で表される化合物、または上記式(B3)の構成単位を有するポリマーのいずれが生成するのかは反応条件や反応化合物の種類に依存する。一般に、R2およびR3の一方が水素原子でなく、他方が水素原子である場合(すなわちEに結合する水素原子が2個である場合)には、上記式(B1)で表される化合物が生成されやすく;R2もR3も両方とも水素原子でない場合(すなわちEに結合する水素原子が1個である場合)には、上記式(B2)で表される化合物が生成されやすく;R2もR3も両方とも水素原子である場合(すなわちEに結合する水素原子が3個である場合)には、上記式(B3)で表される構成単位を有するポリマーが生成されやすい傾向がある。
【0042】
(ii)EがSiである場合
幾つかの実施形態において、式(A1)で表される化合物(A)から、式(B2)で表される化合物(B)または式(B3)で表される構成単位を有するポリマーである化合物(B)が生成する。幾つかの実施形態において、EがSiである場合、14族元素化合物(B)は下記式(B2)で表される化合物(B)または下記式(B3)で表される構成単位を有するポリマーである。
【0043】
(ii-1)式(B2)で表される化合物(B)
【化6】
幾つかの実施形態において、式(A12)で表される化合物(A)から、式(B2)で表される化合物(B)が生成する。
なお、式(A12)においてEはSiであり、式(A12)は、上記式(A1)においてEがSiである化合物に対応する。
上記式(A12)および式(B2)におけるR
1、R
2およびR
3は、前記式(A1)におけるR
1、R
2およびR
3と同義である。R
1、R
2およびR
3の好ましい態様も、前記式(A1)のR
1、R
2およびR
3について説明したものと同様である。
特定の実施形態において、式(A12)および式(B2)において、R
2およびR
3の少なくとも一方は水素原子ではない。
【0044】
(ii-2)式(B3)で表される構成単位を有するポリマー
【化7】
幾つかの実施形態において、式(A13)で表される化合物(A)から、式(B3)で表される構成単位を有するポリマーである化合物(B)が生成する。
なお、式(A13)においてEはSiであり、式(A13)は、上記式(A1)においてEがSiであり、R
3が水素原子である化合物に対応する。式(A13)および式(B3)におけるR
1およびR
2は前記式(A1)におけるR
1およびR
2と同義である。R
1およびR
2の好ましい態様も、前記式(A1)のR
1およびR
2について説明したものと同様である。
特定の実施形態において、式(A13)および式(B3)において、R
2は水素原子である。
式(B3)で表される構成単位を有するポリマーである化合物(B)の繰り返し単位数は特に制限されないが例えば3~200の範囲である。
【0045】
EがSiである場合、上記式(A1)の化合物から上記式(B2)で表される化合物または上記式(B3)の構成単位を有するポリマーのいずれが生成するのかは反応条件や反応化合物の種類に依存する。一般に、R2およびR3の一方が水素原子でなく、他方が水素原子である場合(すなわちEに結合する水素原子が2個である場合)およびR2もR3も両方とも水素原子でない場合(すなわちEに結合する水素原子が1個である場合)には、上記式(B2)で表される化合物が生成されやすく;R2もR3も両方とも水素原子である場合(すなわちEに結合する水素原子が3個である場合)には、上記式(B3)で表される構成単位を有するポリマーが生成されやすい傾向がある。
【0046】
(3)脱水素触媒
脱水素触媒としては、鉄触媒およびマンガン触媒から選択される少なくとも一種が使用される。これらの脱水素触媒を使用することで、温和な作動条件(低い反応温度および/または低い圧力)および/または高い効率で化合物(A)の脱水素反応が進行し得る。また、これらの脱水素触媒は貴金属フリーな触媒であり、しかも、鉄やマンガンなどの安価な金属を用いるものであるため、コスト面にも優れる。
脱水素触媒は、作動条件の温和さ、ならびにコストの点から、鉄触媒が好ましい。
【0047】
鉄触媒としては、鉄化合物と適切な配位子を組み合わせたものを活用することができる。鉄触媒は、好ましくは、(i)鉄化合物と配位子(A1)との組合せまたは(ii)鉄と配位子(A1)との鉄錯体を含むものである。中でも、(i)鉄化合物と配位子(A1)との組合せを用いることが好ましい。鉄化合物(鉄前駆体)と適切な配位子を組み合わせて使用することでより高活性を示す。
【0048】
(鉄化合物)
鉄化合物としては、一般的な鉄(II)もしくは鉄(III)前駆体を適用可能である。すなわち、鉄ハライド(FeXn[式中、XはF,Cl,Br,またはIを表し、nは1以上の整数を表す])、鉄の有機酸の錯体(「鉄有機酸塩」と呼ぶこともある)(MXn[式中、Mは遷移金属原子である鉄(Fe)を表し、Xは有機酸を表し、nは1以上の整数(例えば1~6の整数)を表す])、遷移金属である鉄(Fe)の水酸化物(Fe(OH)n[式中、nは1以上の整数(例えば1~6の整数)を表す])が適用可能である。鉄ハライドの具体例は、FeX2(式中、XはF,Cl,Br,またはIを表す)などが挙げられる。有機酸としては特に限定されず、例えば、酢酸などのカルボン酸、スルホン酸などが挙げられる。鉄の有機酸(鉄有機酸塩)の具体例は、酢酸鉄、アセチルアセトナト鉄、硫酸鉄が挙げられる。また、鉄有機酸塩としてFe(OCOtBu)2も使用可能である。
またそれ以外にも、鉄に有機配位子を持った前駆体(「有機配位子を有する鉄錯体」と呼ぶこともある)も適用可能である。例えば、鉄ジメシチル錯体([Fe(mesityl)2]2)などの鉄上にアリール基(芳香族置換基)を持つ錯体が適用可能である。この際、鉄に配位するアリール基としては、フェニル基などの炭化水素系芳香環に加え、ピリジル基などのヘテロ芳香環(ヘテロアリール)も適用できる。また、鉄上にアルキル基を持つ鉄アルキル錯体(FeR2)も適用可能である。また、これらから合成される、Fe上に補助配位子(L)を持つものも適用可能である。例えば、Fe(mesityl)2(NHC)2などが例として挙げられる(NHCの構造については後述する)。
また、アルキル基ではなく、炭素と同族のケイ素・ゲルマニウム・スズから構成される配位子を持つ鉄錯体も適用可能である。すなわち、鉄ジシリル錯体(Fe(SiR3)2(L)2)、鉄ジゲルミル錯体(Fe(GeR3)2(L)2)、鉄ジスタニル錯体(Fe(SnR3)2(L)2)が適用可能である。ここでRは、水素、アルキル基、アリール基、シリル基、ハロゲン、アルコキシ基、アミノ基、等を示す。
また、一般的な鉄(0)前駆体も適用可能である。すわなち、Fe(CO)5、Fe2(CO)9、Fe3(CO)12などのカルボニル配位子を持つ鉄前駆体や、COをイソシアニド(CNR)やホスフィン(PR3)、アミン(NR3)等で置換した錯体も適用できる。
【0049】
幾つかの実施形態において、鉄化合物は、鉄ハライド、鉄有機酸塩、水酸化鉄、有機配位子を有する鉄錯体、鉄ジシリル錯体、鉄ジゲルミル錯体、および鉄ジスタニル錯体から選択される。
特定の実施形態において、鉄化合物は、有機配位子を有する鉄錯体、鉄ジシリル錯体、および鉄ジゲルミル錯体から選択される。これらの鉄化合物を用いることで反応効率が向上し得る。
【0050】
(配位子(A1))
配位子(A1)としては、非共有電子対および/またはπ電子を有する配位子が挙げられる。典型的には、カルベン、アルケン、アルキン、カルボニル(CO)、イソシアニド、アミン、イミン、含窒素ヘテロ環、ホスフィン、アルシン、アルコール、チオール、エーテル、スルフィド、ニトリル、分子状水素、アルデヒド、およびケトンから選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0051】
配位子(A1)としては、特に、カルベン、中でもN-ヘテロ環カルベン(NHC)または環状アルキルアミノカルベン(CAAC)を用いるのが、活性の観点から望ましい。一実施形態において、配位子(A1)は、N-ヘテロ環カルベンを含む。
カルベンとしては、特に限定されるものではないが、例えば、下記で示されるものが挙げられる。
【化8】
上記式(i)において、Zは、炭素原子(C)、窒素原子(N)または酸素原子(O)を表し、Zが炭素原子のとき、bは3であり、Zが窒素原子のとき、bは2であり、Zが酸素原子のとき、bは1である。
式(i)においてR
1およびR
2は、互いに独立して、ハロゲン原子またはアルコキシ基などで置換されていてもよい、炭素数1~30のアルキル基、アリール基またはアラルキル基を表すが、R
1のいずれか1つと、R
2のいずれか1つが結合して2価の有機基を構成して環状構造をとっていてもよく、この場合、環状構造内に窒素原子および/または不飽和結合を含んでいてもよい。
【0052】
N-ヘテロ環カルベン(NHC)は、隣接する2つの窒素原子に挟まれたカルベンである。
幾つかの実施形態において、N-ヘテロ環カルベン(NHC)は下記式(ii)で表される。
【化9】
【0053】
式(ii)中、R1aおよびR2aはハロゲン原子またはアルコキシ基で置換されていてもよい炭素数1~30のアルキル基;ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、もしくはアラルキル基で置換されていてもよいアリール基;またはハロゲン原子もしくはアルコキシ基で置換されていてもよいアラルキル基を表す。
幾つかの実施形態において、R1aおよびR2aは、ハロゲン原子または炭素数1~6(例えば炭素数1~3)のアルコキシ基で置換されていてもよい炭素数1~12(例えば炭素数1~10、もしくは、炭素数1~6)のアルキル基;ハロゲン原子、炭素数1~6(例えば炭素数1~3)のアルキル基、炭素数1~6(例えば炭素数1~3)のアルコキシ基、もしくは炭素数1~20(例えば炭素数1~18、もしくは炭素数1~15)のアラルキル基(例えば、1つもしくは2つのフェニル基で置換された炭素数1~6(例えば炭素数1~3)のアルキル基など)で置換されていてもよいアリール基(例えばフェニル基);またはハロゲン原子もしくはアルコキシ基で置換されていてもよい炭素数1~20(例えば炭素数1~18、もしくは炭素数1~15)アラルキル基(例えば、1つもしくは2つのフェニル基で置換された炭素数1~6(例えば炭素数1~3)のアルキル基など)からなる群から選択される。
【0054】
式(ii)中、R3aおよびR4aは、水素原子;ハロゲン原子またはアルコキシ基で置換されていてもよい炭素数1~30のアルキル基;ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、もしくはアラルキル基で置換されていてもよいアリール基;またはハロゲン原子もしくはアルコキシ基で置換されていてもよいアラルキル基であるか、あるいは、R3aおよびR3aは一緒になってそれらが結合する炭素原子とともに、5員または6員の環構造を形成しており、該環構造はヘテロ原子(例えば、酸素原子、窒素原子、もしくは硫黄原子)を含んでもよく、環構造は1~4個の置換基で置換されていてもよい。
幾つかの実施形態において、R3aおよびR4aは、水素原子;ハロゲン原子または炭素数1~6(例えば炭素数1~3)のアルコキシ基で置換されていてもよい炭素数1~12(例えば炭素数1~10、もしくは、炭素数1~6)のアルキル基;ハロゲン原子、炭素数1~6(例えば炭素数1~3)のアルキル基、炭素数1~6(例えば炭素数1~3)のアルコキシ基、もしくは炭素数1~20(例えば炭素数1~18、もしくは炭素数1~15)のアラルキル基(例えば、1つもしくは2つのフェニル基で置換された炭素数1~6(例えば炭素数1~3)のアルキル基など)で置換されていてもよいアリール基(例えばフェニル基);またはハロゲン原子もしくはアルコキシ基で置換されていてもよい炭素数1~20(例えば炭素数1~18、もしくは炭素数1~15)アラルキル基(例えば、1つもしくは2つのフェニル基で置換された炭素数1~6(例えば炭素数1~3)のアルキル基など)からなる群から選択される;あるいは、R3aおよびR3aは一緒になってそれらが結合する炭素原子とともに、5員または6員の環構造(例えば、フェニル環)を形成している。
【0055】
式(ii)において、
【化10】
は、二重結合(=)または単結合(-)を表し、
【化11】
が二重結合(=)である場合、R
3bおよびR
4bは存在しない。
【0056】
環状カルベン化合物の具体例としては、以下の化合物を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【化12】
上記構造において、Phはフェニル基を表し、Meはメチル基を表し、iPrはイソプロピル基を表し、tBuはtert-ブチル基を表す。
上記の他、配位子として一般に知られるNHCを使用することができる。
【0057】
NHCは、使用する水素キャリアの構造によって適宜選択される。
【0058】
環状アルキルアミノカルベン(CAAC)は、NHCの片側の窒素がアルキル炭素で置換された部分構造を有するカルベンである。
幾つかの実施形態において、環状アルキルアミノカルベン(CAAC)は下記式(iii)で表される。
【化13】
式(iii)中、R
1a、R
3a、R
3b、R
4a、R
4bの定義は上記式(ii)と同じである。
式(iii)中、R
5aは炭素数1~30のアルキル基である。
環状アルキルアミノカルベン(CAAC)としては、例えば以下のものが挙げられる。
【化14】
上記の他、配位子として一般に知られるCAACを使用することができる。
【0059】
アルケンとしては、直鎖状、分岐状または環状のアルケンのいずれでもよい。直鎖状、分岐状のアルケンとしては、例えば、炭素数2~30、より好ましくは炭素数2~16の直鎖状、分岐状のアルケンが挙げられる。環状アルケン(シクロアルケン)としては、例えば、炭素数4~12、より好ましくは炭素数4~8のシクロアルケンであり、具体例としては、シクロオクタジエン、シクロオクタテトラエン等が挙げられる。
【0060】
アルキンとしては、直鎖状、分岐状または環状のアルキンのいずれでもよい。直鎖状、分岐状のアルキンとしては、例えば、炭素数2~30、より好ましくは炭素数2~14の直鎖状、分岐状のアルキンが挙げられる。
【0061】
イソシアニドとしては、特に限定されるものではないが、例えば、Y-NCで示されるものが好適である。
ここでYは、置換されていてもよく、かつ、酸素原子(O)、窒素原子(N)、硫黄原子(S)およびリン原子(P)から選択される原子が1個または2個以上介在していてもよい炭素数1~30の1価有機基を表す。また、Yとしての、炭素数1~30の1価の有機基は置換基を有していてもよく、任意の位置に同一または異なる複数の置換基を有していてもよい。置換基の具体例としては、ハロゲン原子、アルコキシ基、ジアルキルアミノ基等のアミノ基等が挙げられる。アルコキシ基としては、その炭素数は特に限定されるものではないが、好ましくは炭素数1~10である。
【0062】
イソシアニド化合物の具体例としては、メチルイソシアニド、エチルイソシアニド、n-プロピルイソシアニド、シクロプロピルイソシアニド、n-ブチルイソシアニド、イソブチルイソシアニド、sec-ブチルイソシアニド、t-ブチルイソシアニド、n-ペンチルイソシアニド、イソペンチルイソシアニド、ネオペンチルイソシアニド、n-ヘキシルイソシアニド、シクロヘキシルイソシアニド、シクロヘプチルイソシアニド、1,1-ジメチルヘキシルイソシアニド、1-アダマンチルイソシアニド、2-アダマンチルイソシアニド等のアルキルイソシアニド;フェニルイソシアニド、2-メチルフェニルイソシアニド、4-メチルフェニルイソシアニド、2,4-ジメチルフェニルイソシアニド、2,5-ジメチルフェニルイソシアニド、2,6-ジメチルフェニルイソシアニド、2,4,6-トリメチルフェニルイソシアニド、2,4,6-トリt-ブチルフェニルイソシアニド、2,6-ジイソプロピルフェニルイソシアニド、1-ナフチルイソシアニド、2-ナフチルイソシアニド、2-メチル-1-ナフチルイソシアニド等のアリールイソシアニド;ベンジルイソシアニド、フェニルエチルイソシアニド等のアラルキルイソシアニドなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
アミンとしては、R3Nで示される第3級アミンが挙げられる。
ここで、Rは互いに独立して、ハロゲン原子、水酸基(OH)、アルコキシ基で置換されていてもよい、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。
ハロゲン原子、炭素数1~30のアルキル基、アリール基、およびアラルキル基、ならびにアルコキシ基の具体例はYとしての有機基または置換基として上記で例示した基と同様のものが挙げられる。
【0064】
イミンとしては、RC(=NR)R(Rは互いに独立して上記アミンにおけるRと同じ意味を表す。)で示されるものが挙げられる。中でも、触媒活性や触媒安定性の点で、ジイミン(例えば、N,N’-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)ブタン-2,3-ジイミン、N,N’-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)エタン-1,2-ジイミンなど)、ビスイミノピリジン、ジアミン、トリアミンが好ましい。
【0065】
含窒素ヘテロ環としては、例えば、ピロール、イミダゾール、ピリジン、ターピリジン、ビスイミノピリジン、ピリミジン、オキサゾリン、イソオキサゾリン並びにこれらの誘導体等が挙げられる。中でも、下記式(xi)で表されるビスイミノピリジン化合物、式(xii)で表されるターピリジン化合物が好ましい。
【化15】
上記式(xi)および(xii)において、R
10は、互いに独立して、水素原子または置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基であり、アルキル基の具体例としては上記で例示した基と同様のものが挙げられる。
ビスイミノピリジン化合物の具体例としては、2,6-ビス[1-(2,6-ジメチルフェニルイミノ)エチル]ピリジン、2,6-ビス[1-(2,6-ジエチルフェニルイミノ)エチル]ピリジン、2,6-ビス[1-(2,6-ジイソプロピルフェニルイミノ)エチル]ピリジン等が挙げられる。
ターピリジン化合物の具体例としては、2,2’:6’,2”-テルピリジン等が挙げられる。
【0066】
ホスフィンとしては、例えば、R3P(Rは互いに独立して上記アミンにおけるRと同じ意味を表す。)で示されるものが挙げられる。中でも、触媒活性や触媒安定性の点で、3級アルキルホスフィンや3級アリールホスフィン(例えば、トリ-tert-ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィンなど)、3級アルキルホスファイト、3級アリールホスファイト(トリメチロールプロパンホスファイトなど)が好ましい。
【0067】
アルシンとしては、例えば、R3As(Rは互いに独立して上記アミンにおけるRと同じ意味を表す。)で示されるものが挙げられる。
【0068】
アルコールとしては、例えば、ROH(Rは上記アミンにおけるRと同じ意味を表す。)で示されるものが挙げられる。
【0069】
チオールとしては、上記アルコールの酸素原子を硫黄原子で置換したものが挙げられる。
【0070】
エーテルとしては、例えば、ROR(Rは互いに独立して上記アミンにおけるRと同じ意味を表す。)で示されるものが挙げられる。
【0071】
スルフィドとしては、上記エーテルの酸素原子を硫黄原子で置換したものが挙げられる。
【0072】
ニトリルとしては、例えば、RCN(Rは互いに独立して上記アミンにおけるRと同じ意味を表す。)で示されるものが挙げられる。
【0073】
アルデヒドとしては、例えば、RCHO(Rは上記アミンにおけるRと同じ意味を表す。)で示されるものが挙げられる。
【0074】
ケトンとしては、例えば、RCOR(Rは互いに独立して上記アミンにおけるRと同じ意味を表す。)で示されるものが挙げられる。
【0075】
配位子(A1)は、鉄原子の原子価に応じて複数となり得る。配位子(A1)は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0076】
前記鉄化合物と配位子(A1)との組み合わせ(混合)により、鉄原子と配位子(A1)との錯体が形成され、当該鉄錯体が化合物(A)に作用し、脱水素反応を触媒し得る。
【0077】
他の実施形態において、鉄触媒は、鉄と配位子(A1)との鉄錯体を含む。かかる鉄錯体は、例えば、前記鉄化合物と前記配位子(A1)とを予め混合させる等により反応させることにより形成することにより製造することができる。例えば、Fe(mesityl)2とNHCをジエチルエーテル中、室温下で1時間撹拌し、溶媒を減圧除去することで調整される(NHC)2Fe(mesityl)2をあらかじめ合成して使用することができる。あるいは、鉄錯体として市販品を利用してもよい。
【0078】
マンガン錯体としては、マンガン化合物と配位子を組み合わせたものを活用することができる。マンガン錯体としては、好ましくは、(iii)マンガン化合物と配位子との組合せ(A2)または(iv)マンガンと配位子(A2)とのマンガン錯体を含むものである。中でも、(iii)マンガン化合物と配位子(A2)との組合せを用いることが好ましい。マンガン化合物(マンガン前駆体)と配位子を組み合わせて使用することでより高活性を示す。
【0079】
(マンガン化合物)
マンガン化合物は、マンガンハライド、マンガンの有機酸塩、マンガンの水酸化物、マンガンに有機配位子が配位したマンガン錯体、マンガンジシリル錯体、マンガンジゲルミル錯体、およびマンガンジスタニル錯体から選択される。
マンガンハライドとしては、MnXn[式中、XはF,Cl,Br,またはIを表し、nは1以上の整数を表す]であり、例えば、MnX2[式中、XはF,Cl,Br,またはIを表す]が挙げられる。マンガンの有機酸塩は、MnXn[式中、Xは有機酸を表し、nは1以上の整数(例えば1~6の整数)を表す])である。有機酸としては特に限定されず、例えば、酢酸などのカルボン酸、スルホン酸などが挙げられる。マンガンの有機酸塩の具体例は、酢酸マンガン、アセチルアセトナトマンガン、硫酸マンガンが挙げられる。マンガンの水酸化物は、Mn(OH)n[式中、nは1以上の整数(例えば1~6の整数)を表す]であり、例えば、Mn(OH)2が挙げられる。
【0080】
(配位子(A2))
配位子(A2)としては、配位子(A1)と同様、非共有電子対および/またはπ電子を有する配位子が挙げられる。典型的には、カルベン、アルケン、アルキン、カルボニル(CO)、イソシアニド、アミン、イミン、含窒素ヘテロ環、ホスフィン、アルシン、アルコール、チオール、エーテル、スルフィド、ニトリル、分子状水素、アルデヒド、およびケトンから選択される少なくとも1種が挙げられる。配位子(A2)の具体的態様および好ましい態様は配位子(A1)と同様であり、配位子(A1)について説明したものを同様に使用可能である。
【0081】
脱水素触媒の量は、基質(EH基)1モルに対して触媒(鉄原子またはマンガン原子のモル量)として、好ましくは0.001モル以上、より好ましくは0.1モル以上、さらに好ましくは1モル以上である。触媒の量に特に上限はないが、経済的な観点から基質(EH基)1モルに対して触媒(鉄原子またはマンガン原子のモル量)として、好ましくは10モル以下、より好ましくは5モル以下である。
【0082】
(4)無機塩基
化合物(A)の脱水素反応は、必要に応じて無機塩基の存在下で行ってもよい。本手法は、適切な塩基の存在下でより効果的に進行する。塩基としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、アルコキシド、または炭酸塩、などの一般的な無機塩基が挙げられる。具体的には、LiOH、NaOH、KOH、Mg(OH)2、Ca(OH)2などのアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物;式:LiOR、NaOR、KOR、Mg(OR)2,またはCa(OR)2で表されるアルカリ金属やアルカリ土類金属のアルコキシド(式中Rはアルキル基を表す)(例えば、カリウムtert-ブトキシド(KOtBu)、ナトリウムメトキシド(NaOMe)、リチウムtert-ブトキシド(LiOtBu)など);Li2CO3、Na2CO3、K2CO3などのアルカリ金属やアルカリ土類金属の炭酸塩が挙げられるが、無機塩基であれば広く適用可能である。
無機塩基は1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0083】
無機塩基を使用する場合、無機塩基の使用量は、鉄触媒1モルに対して0.1~5モルの範囲が好ましく、0.5~3モルの範囲がより好ましく、1~2モルの範囲がさらに好ましい。
なお、無機塩基の使用は必須ではなく、無機塩基の非存在下で脱水素反応を行ってもよい。
【0084】
(5)反応条件
脱水素反応の条件は、脱水素化が進行する条件であれば特に限定されない。
反応温度は、反応物である化合物(A)の種類や触媒の種類によっても異なるが、反応効率および省エネルギーの点で、20~150℃の温度で行うことが好ましい。反応温度は、より好ましくは20~120℃であり、さらに好ましくは20~100℃であり、特に好ましくは20~80℃である。
反応時間は、反応物によっても異なるが、反応効率の観点から、1~48時間が好ましく、1~24時間がより好ましい。
反応の圧力は、反応効率および省エネルギーの点で、好ましくは1~20気圧の圧力であり、より好ましくは1~15気圧であり、さらに好ましくは1~10気圧であり、特に好ましくは1~5気圧である。
反応の雰囲気は特に限定されないが、反応効率の点で、反応は窒素雰囲気下で行うことが好ましい。
【0085】
反応は無溶媒で行うこともできるが、必要に応じて溶媒を添加してもよい。溶媒としては例えば、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶媒が好ましい。
【0086】
2.水素の貯蔵方法(水素付加反応)
本発明の一形態は、上記14族元素化合物(B)を含む水素貯蔵材料を、鉄触媒および必要に応じて無機塩基の存在下で、水素に接触させて、EH基を有する14族元素化合物(A)を生成することを含む、水素の貯蔵方法に関する。本形態の水素貯蔵材料は、鉄触媒の存在下で水素と接触させることにより、14族元素化合物(B)の水素付加反応が進行する。具体的には、14族元素化合物(B)のE-E結合が開裂して、2つのEH基が生成し、EH基を有する14族元素化合物(A)となる。従来の水素付加反応は、貴金属触媒を用いて高温(例えば300℃以上)、高圧下で行う必要があった。本形態によれば、鉄触媒を用いた貴金属フリーな触媒システムにおいて、従来と比較して温和な条件下で水素付加反応が進行し得るものであり、実用面で非常に有利である。
【0087】
(1)14族元素化合物(B)、14族元素化合物(A)
水素付加反応に使用する14族元素化合物(B)、および水素付加反応により生成される14族元素化合物(A)の構造は、上記「1.水素の製造方法(脱水素反応)」において上述したものを使用可能であり、好ましい態様も、上記「1.水素の製造方法(脱水素反応)」において上述したものと同様である。
【0088】
以下に、水素付加反応の例を示す。
【0089】
(i)EがGeまたはSnである場合
幾つかの実施形態において、式(B1)で表される化合物(B)に水素が付加し、式(A11)で表される化合物(A)が生成する。
【化16】
【0090】
(ii)EがSiである場合
幾つかの実施形態において、式(B2)で表される化合物(B)から、式(A12)で表される化合物(A)が生成する。
幾つかの実施形態において、式(B3)で表される構成単位を有するポリマー(B)から、式(A13)で表される化合物(A)が生成する。
【0091】
【0092】
式(B3)で表される構成単位を有するポリマー
【化18】
【0093】
上記(i)~(iii)の実施形態において、式(B1)、(B2)、(B3)、(A11)、(A12)、(A13)における置換基(E、R1、R2およびR3)ならびにnは、上記「1.水素の製造方法(脱水素反応)」において上述したものを使用可能であり、好ましい態様も、上記「1.水素の製造方法(脱水素反応)」において上述したものと同様である。
【0094】
(2)水素化触媒
上記14族元素化合物(B)の水素付加反応は、鉄触媒の存在下で行われる。鉄触媒は、水素化触媒として作用し、化合物(B)の水素付加反応を促進し、温和な作動条件(低い反応温度および/または低い圧力)および/または高い効率で反応を進めることができる。鉄触媒は、貴金属フリーな触媒であり、コスト面にも優れる。
【0095】
鉄触媒としては、鉄化合物と適切な配位子を組み合わせたものを活用することができる。鉄触媒は、好ましくは、(i)鉄化合物と配位子(A1)との組合せまたは(ii)鉄と配位子(A1)との鉄錯体を含むものである。中でも、(i)鉄化合物と配位子(A1)との組合せを用いることが好ましい。鉄化合物(鉄前駆体)と適切な配位子を組み合わせて使用することでより高活性を示す。
鉄触媒は、上記「1.水素の製造方法(脱水素反応)」における「鉄触媒」と同じものを使用可能であり、好ましい態様も、上記「1.水素の製造方法(脱水素反応)」において上述したものと同様である。
と同様であり、配位子(A1)について説明したものを同様に使用可能である。
【0096】
鉄触媒の量は、基質(E-E結合)1モルに対して触媒(鉄原子のモル量)として、好ましくは0.001モル以上、より好ましくは0.01モル以上、さらに好ましくは1モル以上である。触媒の量に特に上限はないが、経済的な観点から基質(E-E結合)1モルに対して触媒(鉄原子のモル量)として、好ましくは10モル以下、より好ましくは5モル以下である。
【0097】
(3)無機塩基
化合物(B)の水素付加反応は、必要に応じて無機塩基の存在下で行ってもよい。本手法は、適切な塩基の存在下でより効果的に進行する。無機塩基としては、上記「1.水素の製造方法(脱水素反応)」における「無機塩基」と同じものを使用可能であり、好ましい態様も、上記「1.水素の製造方法(脱水素反応)」において上述したものと同様である。
【0098】
無機塩基を使用する場合、無機塩基の使用量は、鉄触媒1モルに対して0.1~5モルの範囲が好ましく、0.5~3モルの範囲がより好ましく、1~2モルの範囲がさらに好ましい。
なお、無機塩基の使用は必須ではなく、無機塩基の非存在下で水素付加反応を行ってもよい。ただし、無機塩基を用いることで、水素付加反応が促進され、化合物(A)の生成が効率的に進むため好ましい。
【0099】
(4)反応条件
水素付加反応の条件は、水素化が進行する条件であれば特に限定されない。
反応温度は、反応物である化合物(B)の種類や触媒の種類によっても異なるが、反応効率および省エネルギーの点で、20~150℃の温度で行うことが好ましい。反応温度は、より好ましくは20~120℃であり、さらに好ましくは20~100℃であり、特に好ましくは20~80℃である。
反応時間は、反応物によっても異なるが、反応効率の観点から、1~48時間が好ましく、1~24時間がより好ましい。
反応の圧力は、反応効率および省エネルギーの点で、水素の圧力が、好ましくは1~20気圧の圧力であり、より好ましくは1~15気圧であり、さらに好ましくは1~10気圧であり、特に好ましくは1~5気圧である。
反応の雰囲気は特に限定されないが、反応効率の点で、反応は窒素雰囲気下で行うことが好ましい。
【0100】
反応は無溶媒で行うこともできるが、必要に応じて溶媒を添加してもよい。溶媒としては例えば、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶媒が好ましい。
【0101】
3.水素キャリア、水素キャリア組成物
本発明の一形態は、前記14族元素化合物(A)を含む、水素キャリアに関する。
また、本発明の一形態は、当該14族元素化合物(A)を含む水素キャリアと、鉄触媒およびマンガン触媒から選択される脱水素触媒と、必要に応じて無機塩基と、を含む水素キャリア組成物に関する。本形態の水素キャリア、水素キャリア組成物では、前記14族元素化合物(A)が前記脱水素触媒の存在下で反応することで2つのEH基からE-E結合が生成し、水素を供給することができ、当該水素キャリアおよび水素キャリア組成物を水素の製造および運搬に用いることができる。
【0102】
幾つかの実施形態において、水素キャリアは、下記式(A1)で表される化合物(A)を含む。
HER
1R
2R
3 (A1)
幾つかの実施形態において、水素キャリアは、下記式(A11)、(A12)、または(A13)で表される化合物(A)を含む。
【化19】
上記の実施形態において、式(A1)、(A11)、(A12)、(A13)における置換基(E、R
1、R
2およびR
3)は、上記「1.水素の製造方法(脱水素反応)」において上述したものを使用可能であり、好ましい態様も、上記「1.水素の製造方法(脱水素反応)」において上述したものと同様である。
【0103】
脱水素触媒および無機塩基は、上記「1.水素の製造方法(脱水素反応)」において上述したものを使用可能であり、好ましい態様も、上記「1.水素の製造方法(脱水素反応)」において上述したものと同様である。
脱水素触媒および無機塩基の含有量も、上記「1.水素の製造方法(脱水素反応)」において使用量(量)として記載したものを使用可能である。
【0104】
なお、本手法としては、上記の鉄の前駆体(鉄化合物)を使うと高活性を示すが、対応するコバルト錯体も触媒として適用可能である。
また、水素キャリアは、コスト面、反応効率、反応条件などの点から、鉄触媒またはマンガン触媒を用いることが好ましいが、貴金属触媒などを使用して化合物(A)の脱水素反応を実施してもよい。
【0105】
4.水素貯蔵用材料、水素貯蔵用組成物
上記水素キャリアの化合物(A)は、水素付加反応により、水素が脱離した水素貯蔵用材料(水素吸収材料)となる。
本発明の一形態は、E-E結合(Eは、Si、GeおよびSnからなる群から選択される)を有する14族元素化合物(B)(14族元素化合物(B)、化合物(B))を含む、水素貯蔵用材料に関する。また、本発明の一形態は、当該14族元素化合物(B)と鉄触媒と、必要に応じて無機塩基と、を含む、水素貯蔵用組成物に関する。本形態の水素貯蔵用材料、水素貯蔵用組成物は、鉄触媒の存在下で水素と接触することで化合物(B)の水素付加反応が生じ、水素を貯蔵(吸収)する材料として使用することができる。したがって、当該水素貯蔵用材料および水素貯蔵用組成物を水素の貯蔵および運搬に用いることができる。
【0106】
幾つかの実施形態において、水素貯蔵用材料は、下記式(B1)または(B2)で表される化合物(B)を含む。
【化20】
幾つかの実施形態において、水素貯蔵用材料は、下記式(B3)で表される構成単位を有するポリマーである化合物(B)を含む。
【化21】
上記の実施形態において、式(B1)、(B2)、(B3)における置換基(E、R
1、R
2およびR
3)およびnは、上記「1.水素の製造方法(脱水素反応)」において上述したものを使用可能であり、好ましい態様も、上記「1.水素の製造方法(脱水素反応)」において上述したものと同様である。
【0107】
水素化触媒としての鉄触媒および無機塩基は、上記「2.水素の貯蔵方法(水素付加反応)」において上述したものを使用可能であり、好ましい態様も、上記「2.水素の貯蔵方法(水素付加反応)」において上述したものと同様である。
水素化触媒としての鉄触媒および無機塩基の含有量も、上記「2.水素の貯蔵方法(水素付加反応)」において使用量(量)として記載したものを使用可能である。
【0108】
なお、本手法としては、上記の鉄の前駆体(鉄化合物)を使うと高活性を示すが、対応するコバルト錯体も触媒として適用可能である。
本手法において、水素吸着反応においては、鉄触媒が存在せず、NHCと塩基のみを触媒として適用することも可能である。
また、水素貯蔵用材料は、コスト面、反応効率、反応条件などの点から、鉄触媒を用いることが好ましいが、貴金属触媒などを使用して化合物(B)の水素付加反応を実施してもよい。
【0109】
5.水素の製造および貯蔵方法
幾つかの実施形態において、下記工程(I)および工程(II)水素の製造および貯蔵方法が提供される。
(I)EH基(Eは、Si、GeおよびSnからなる群から選択される)を有する14族元素化合物(A)を含む水素キャリアを、鉄触媒およびマンガン触媒から選択される脱水素触媒および必要に応じて無機塩基に接触させて、E-E結合を有する14族元素化合物(B)と水素とを生成すること、
(II)E-E結合(Eは、Si、GeおよびSnからなる群から選択される)を有する14族元素化合物(B)を含む水素貯蔵材料を、鉄触媒および必要に応じて無機塩基の存在下で、水素に接触させて、EH基を有する14族元素化合物(A)を生成すること。
【0110】
工程(I):水素の製造工程および工程(II):水素の貯蔵工程の具体的な態様は、それぞれ、「1.水素の製造方法(脱水素反応)」および「2.水素の貯蔵方法(水素付加反応)」において上述したとおりであり、好ましい態様も上述したものと同様である。
【0111】
幾つかの実施形態において、工程(I):水素の製造工程および工程(II):水素の貯蔵工程の両方を同一の鉄触媒を用いて実施する。脱水素反応および水素付加反応において同一の鉄触媒を用いることにより、水素キャリア組成物の脱水素化物をそのまま水素貯蔵用組成物として使用することが可能である。すなわち、特定の実施形態において、水素キャリア組成物は、前記水素貯蔵用組成物の水素付加反応物である。特定の実施形態において、水素貯蔵用組成物は、前記水素キャリア組成物の脱水素反応物である。また、このような形態によれば、同一の鉄触媒を用いて水素の貯蔵および供給が可能となり、水素化と脱水素化を単一容器で効率的に実施することができる。
【実施例0112】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
本明細書において、「室温」は通常約20℃から約35℃を示す。
本明細書において、用語「約」は、±10%(例えば±5%)を意味することができる。
【0113】
実施例において使用される略語は当業者に周知の慣用的な略語である。幾つかの略語を以下に示す。
r.t.:室温
Ph:フェニル
Me:メチル
Et:エチル
Bu:n-ブチル
tBu:tert-ブチル
C6D6: 重ベンゼン
THF:テトラヒドロフラン
vial:バイアル
catalyst:触媒
mol%:モル%
toluene:トルエン
mesityl:メシチル
side product:副生成物
tube:チューブ
mmol:ミリモル
mL:ミリリットル
h:時間
NMR:核磁気共鳴
neat:溶媒希釈なし
【0114】
合成例および実施例で得た化合物および反応生成物の物性の測定は、以下に示す装置を用いて行った。
1H NMR測定: JEOL社製 JNM-ECZ600R spectrometer
以下の合成例および実施例において、反応は特記しない限り、室温および圧力(1気圧)の条件で行った。
【0115】
(触媒)
以下の実施例で使用した触媒(鉄化合物)は以下の手順で合成した。
[合成例1] [Fe(mesityl)
2]
2の合成法
【化22】
シュレンク管中で、FeCl
2(6.3 g, 49.7 mmol)を300 mLのテトラヒドロフラン(THF)に懸濁させ、室温下で1時間撹拌した。ここに1,4-ジオキサンを100 mL加え、溶液を-30度に冷却した。ここに、(mesityl)MgBrの1Mジエチルエーテル溶液を100 mL加え、その後反応溶液を室温下で24時間撹拌した。その後、真空下で溶媒を減圧留去し、残った残渣にジエチルエーテル200 mLを加え、得られた懸濁溶液を遠心分離し、不溶物を除去した。ジエチルエーテルの上澄み液を減圧下で80 mLになるまで濃縮し、得られた溶液を-30℃に冷却することで、[Fe(mesityl)
2]
2を50%の収率(7.31 g)得た。
参考論文:Klose, E. Solari, R. Ferguson, C. Floriani, A. Chiesi-Villa, C. Rizzoli, Organometallics 1993, 12, 2414.
【0116】
[合成例2] Fe[Si(SiMe3)3]2(THF)2の合成法
シュレンク管中で、FeBr2 (1 g, 4.64 mmol)を20 mLのテトラヒドロフラン(THF)に懸濁させ、ここにK[Si(SiMe3)3]・1.58THF (3.90 g, 9.74 mmol)を室温で加えた。この溶液を室温下で1時間撹拌した後、真空下で溶媒を減圧留去した。残った残渣にペンタン80 mLを加え、得られた懸濁溶液を遠心分離し、不溶物を除去した。ペンタンの上澄み液を減圧下で15 mLになるまで濃縮し、得られた溶液を-30℃に冷却することで、Fe[Si(SiMe3)3]2(THF)2を89%の収率(2.87 g)得た。
参考論文:Arata, S.; Sunada, Y. Dalton Trans. 2019, 48, 2891-2895.
【0117】
[合成例3] Fe[Ge(SiMe3)3]2(THF)2の合成法
シュレンク管中で、FeBr2(86.3 mg, 0.4 mmol)を10 mLのテトラヒドロフラン(THF)に懸濁させ、ここにKGe(SiMe3)3(278 mg, 0.84 mmol)を室温で加えた。この溶液を室温下で1時間撹拌した後、真空下で溶媒を減圧留去した。残った残渣にペンタン20 mLを加え、得られた懸濁溶液を遠心分離し、不溶物を除去した。ペンタンの上澄み液を減圧下で濃縮し、得られた溶液を-30℃に冷却することで、Fe[Ge(SiMe3)3]2(THF)2を74%の収率(0.232 g)得た。
参考論文:Kobayashi, Y.; Sunada, Y. Catalysts, 2020, 20, 1/29-12/29.
【0118】
[合成例4] Mn[Si(SiMe3)3]2(THF)2の合成法
シュレンク管中で、MnBr2 (1 g, 4.66 mmol)を20 mLのテトラヒドロフラン(THF)に懸濁させ、ここにK[Si(SiMe3)3]・1.0THF (3.49 g, 9.74 mmol)を室温で加えた。この溶液を室温下で1時間撹拌した後、真空下で溶媒を減圧留去した。残った残渣にペンタン80 mLを加え、得られた懸濁溶液を遠心分離し、不溶物を除去した。ペンタンの上澄み液を減圧下で15 mLになるまで濃縮し、テトラヒドロフランを5 mL加えた後、得られた溶液を-30度に冷却することで、Mn[Si(SiMe3)3]2(THF)2を85%の収率(2.76 g)得た。
参考論文:Saito, K.; Ito, T.; Arata, S.; Sunada, Y. ChemCatChem, 2021, 13, 1152-1156.
【0119】
[合成例5] Fe[OC(O)C(CH3)3]2の合成法
Ar気流下、還元鉄(関東化学製)0.68 g (12.2 mmol)を入れた20mLシュレンクチューブに、ピバル酸(東京化成製)3.55 g (34.8 mmol)、無水ピバル酸(東京化成製)0.50 mLを加え、160℃で17時間撹拌した。この間、温度が160℃付近になるとゆっくりと気体が発生し、時間がたつにつれ溶液の色は緑色へと変化し、結晶が摘出しだす。反応後、100℃で1時間かけてピバル酸を減圧下(8Pa)で留去し、その後生成物を窒素気流下、脱水エーテルで洗浄して、目的物を淡緑色固体として1.54 g(収率49%)得た。
参考論文:T. Nakamoto, et al, Inorg. Chem. Acta,1995, 236, 155-161, M. Novotortsev, et al, J. Cluster Sci., 2005, 16, 331-351.
【0120】
1.ゲルマニウム化合物の脱水素化
1.1 ジフェニルゲルマンの脱水素化
触媒として[Fe(mesityl)
2]
2を用い、添加剤としてN-ヘテロ環カルベンを加え、ジフェニルゲルマンの脱水素化カップリングを行った(実施例A-1~A-3)。
【化23】
【0121】
[実施例A-1]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた4 mLのバイアルに鉄化合物([Fe(mesityl)
2]
2)(7 mg, 0.0125 mmol)と、N-ヘテロ環カルベンとして1,3-ジイソプロピル-4,5-ジメチル-2-イリデン(9 mg, 0.05 mmol)、テトラヒドロフラン(0.5 mL)を混合した。数分後、系中にジフェニルゲルマン(114 mg, 0.5 mmol)を加え、10時間撹拌した。反応終了後、内部標準としてヘキサメチルベンゼン(22 mg, 0.1 mmol)を加え、重ベンゼンを用い
1H NMR分光法で分析することで収率>99%で脱水素化カップリングが進行していることが示された。
【化24】
【0122】
[実施例A-2]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた4 mLのバイアルに鉄化合物([Fe(mesityl)
2]
2)(7 mg, 0.0125 mmol)と、N-ヘテロ環カルベンとして1,3-ジイソプロピル-4,5-ジヒドロ-2-イリデン(8 mg, 0.05 mmol)、テトラヒドロフラン (0.5 mL)を混合した。数分後、系中にジフェニルゲルマン(114 mg, 0.5 mmol)を加え、4時間撹拌した。反応終了後、内部標準としてヘキサメチルベンゼン(22 mg, 0.1 mmol)を加え、重ベンゼンを用い
1H NMR分光法で分析することで収率11%で脱水素化カップリングが進行していることが示された。
【化25】
【0123】
[実施例A-3]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた4 mLのバイアルに鉄化合物([Fe(mesityl)
2]
2)(7 mg, 0.0125 mmol)とN-ヘテロ環カルベンとして1,3-ジエチル-4,5-メチル-2-イリデン(9 mg, 0.05 mmol)、テトラヒドロフラン (0.5 mL)を混合した。数分後、系中にジフェニルゲルマン(114 mg, 0.5 mmol)を加え、20時間撹拌した。反応終了後、内部標準としてヘキサメチルベンゼン(22 mg, 0.1 mmol)を加え、重ベンゼンを用い
1H NMR分光法で分析することで収率13%で脱水素化カップリングが進行していることが示された。
【化26】
【0124】
<脱水素化生成物のNMRスペクトル>
【化27】
1H NMR (400 MHz, C
6D
6) δ = 7.57-7.59 (m, 20H), 6.89-7.00 (m, 30H);
【0125】
1.2 ジエチルゲルマンの脱水素化
触媒として[Fe(mesityl)
2]
2を用い、ジエチルゲルマンの脱水素化カップリングを行った(実施例B-1)。
【化28】
【0126】
[実施例B-1]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた4 mLのバイアルに鉄化合物([Fe(mesityl)2]2)(7 mg, 0.0125 mmol)とN-ヘテロ環カルベンとして1,3-ジイソプロピル-4,5-ジメチル-2-イリデン(9 mg, 0.05 mmol)、テトラヒドロフラン(0.5 mL)を混合した。数分後、系中にジエチルゲルマン(66 mg, 0.5 mmol)を加え、10時間撹拌した。反応終了後、重ベンゼンを用い1H NMR, 13C NMR分光法で分析することで転化率>99%で脱水素化カップリングが進行していることが示された。
【0127】
<脱水素化生成物のNMRスペクトル>
【化29】
1H NMR (400 MHz, C
6D
6) δ = 1.26-1.14 (m, 50H);
13C NMR (100 MHz, C
6D
6) δ = 6.13 (s), 12.48(s);
【0128】
2.スズ化合物の脱水素化
2.1 ジフェニルスズの脱水素化
触媒として[Fe(mesityl)
2]
2を用い、ジフェニルスズの脱水素化カップリングを行った(実施例C-1)。
【化30】
【0129】
[実施例C-1]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20 mLのバイアルに鉄化合物([Fe(mesityl)2]2)(6 mg, 0.01 mmol)とN-ヘテロ環カルベンとして1,3-ジイソプロピル-4,5-ジメチル-2-イリデン(7 mg, 0.04 mmol)、トルエン (5 mL)を混合した。数分後、系中にジフェニルスタンナン(275 mg, 1 mmol)を加え、24時間撹拌した。反応終了後、減圧乾燥を行い、トルエンを取り除いた。ペンタン(10 mL×3)で洗浄を行うことで単離収率 72%で目的の生成物を得た。
脱水素化カップリングが進行していることが示された。
【0130】
<脱水素化生成物のNMRスペクトル>
【化31】
1H NMR (400 MHz, C
6D
6) δ = 7.59-7.61 (m, 24H), 6.90-7.02 (m, 36H);
119Sn NMR (400 MHz, C
6D
6) δ = -209.10 (s);
【0131】
2.2 ジブチルスズの脱水素化
触媒として[Fe(mesityl)
2]
2を用い、ジブチルスズの脱水素化カップリングを行った(実施例D-1)。
【化32】
【0132】
[実施例D-1]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20 mLのバイアルに鉄化合物([Fe(mesityl)2]2)(2 mg, 0.004 mmol)とN-ヘテロ環カルベンとして1,3-ジイソプロピル-4,5-ジメチル-2-イリデン(3 mg, 0.016 mmol)、トルエン (2 mL)を混合した。数分後、系中にジブチルスタンナン(94 mg, 0.4 mmol)を加え、24時間撹拌した。反応終了後、重ベンゼンを用い1H NMR, 119Sn NMR分光法で分析することで転化率>99%で脱水素化カップリングが進行していることが示された。なおこの際、Sn6-compoundとSn5-compoundの生成比は2:1であることを119Sn NMRスペクトルから確認した。
【0133】
<脱水素化生成物のSn6-compoundのNMRスペクトル>
1H NMR (400 MHz, C6D6) δ = 1.89-1.71 (br, 24H), 1.60-1.42 (m, 48H), 1.06-0.93 (br, 36H);
119Sn NMR (149 MHz, C6D6) δ = -202.20 (s);
<脱水素化生成物のSn5-compoundのNMRスペクトル>
1H NMR (400 MHz, C6D6) δ = 1.89-1.71 (br, 24H), 1.60-1.42 (m, 48H), 1.06-0.93 (br, 36H);
119Sn NMR (149 MHz, C6D6) δ = -200.91 (s);
【0134】
3.ケイ素化合物の脱水素化
3.1 ジフェニルシランの脱水素化
鉄化合物として[Fe(mesityl)
2]
2もしくはFe[Si(SiMe
3)
3]
2(THF)
2もしくはFe[Ge(SiMe
3)
3]
2(THF)
2もしくはFe[OC(O)C(CH
3)
3]
2を用いて、ジフェニルシランの脱水素化カップリングを行った(実施例E-1~E-7)。
【化33】
【0135】
[実施例E-1]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた50 mLの密閉容器に鉄化合物([Fe(mesityl)2]2)(7 mg, 0.0125 mmol)とN-ヘテロ環カルベンとして1,3-ジイソプロピル-4,5-ジメチル-2-イリデン(9 mg, 0.05 mmol)、ジエチルエーテル (0.1 mL)を混合した。数分後、減圧乾燥によりジエチルエーテルを留去し、ジフェニルシラン(0.092 mL, 0.5 mmol)を加え、80 ℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(0.042 mL, 0.5 mmol)を加え、重ベンゼンを用い1H NMR分光法で分析することで収率37 %で脱水素化カップリングが進行していることが示された。
【0136】
[実施例E-2]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた50 mLの密閉容器に鉄化合物([Fe(mesityl)
2]
2)(7 mg, 0.0125 mmol)とN-ヘテロ環カルベンとして1,3-ジイソプロピルベンズイミダゾール-2-イリデン(10 mg, 0.05 mmol)、ジエチルエーテル (0.1 mL)を混合した。数分後、減圧乾燥によりジエチルエーテルを留去し、ジフェニルシラン(0.092 mL, 0.5 mmol)を加え、80 ℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(0.042 mL, 0.5 mmol)を加え、重ベンゼンを用い
1H NMR分光法で分析することで収率39 %で脱水素化カップリングが進行していることが示された。
【化34】
【0137】
[実施例E-3]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた50 mLの密閉容器に鉄化合物([Fe(mesityl)
2]
2)(7 mg, 0.0125 mmol)とN-ヘテロ環カルベンとして1,3-ジシクロヘキシル-4,5-ジメチル-2-イリデン(13 mg, 0.05 mmol)、ジエチルエーテル (0.1 mL)を混合した。数分後、減圧乾燥によりジエチルエーテルを留去し、ジフェニルシラン(0.092 mL, 0.5 mmol)を加え、80 ℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(0.042 mL, 0.5 mmol)を加え、重ベンゼンを用い
1H NMR分光法で分析することで収率24 %で脱水素化カップリングが進行していることが示された。
【化35】
【0138】
[実施例E-4]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた50 mLの密閉容器に鉄化合物([Fe(mesityl)
2]
2)(15 mg, 0.025 mmol)とN-ヘテロ環カルベンとして1,3-ジイソプロピル-4,5-ジフェニル-2-イリデン(30 mg, 0.1 mmol)、ジエチルエーテル (0.1 mL)を混合した。数分後、減圧乾燥によりジエチルエーテルを留去し、ジフェニルシラン(0.18 mL, 1 mmol)を加え、80 ℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ビス(トリメチルシリル)ベンゼン(45 mg, 0.2 mmol)を加え、重ベンゼンを用い
1H NMR分光法で分析することで収率31 %で脱水素化カップリングが進行していることが示された。
【化36】
【0139】
[実施例E-5]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた4 mLのバイアルに鉄化合物(Fe[Si(SiMe3)3]2(THF)2)(9 mg, 0.013 mmol)とN-ヘテロ環カルベンとして1,3-ジイソプロピル-4,5-ジメチル-2-イリデン(5 mg, 0.027 mmol)、ジエチルエーテル (0.25 mL)を混合した。数分後、系中にジフェニルシラン(0.05 mL, 0.27 mmol)を加え、80℃で24時間撹拌した。反応終了後、重ベンゼンを用い1H NMR分光法で分析することで転化率37 %で脱水素化カップリングが進行していることが示された。
【0140】
[実施例E-6]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた4 mLのバイアルに鉄化合物(Fe[Ge(SiMe3)3]2(THF)2)(9 mg, 0.013 mmol)とN-ヘテロ環カルベンとして1,3-ジイソプロピル-4,5-ジメチル-2-イリデン(5 mg, 0.027 mmol)、ジエチルエーテル (0.25 mL)を混合した。数分後、系中にジフェニルシラン(0.05 mL, 0.27 mmol)を加え、室温で24時間撹拌した。反応終了後、重ベンゼンを用い1H NMR分光法で分析することで転化率29 %で脱水素化カップリングが進行していることが示された。
【0141】
[実施例E-7]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた4 mLのバイアルに鉄化合物(Fe[OC(O)C(CH3)3]2)(4 mg, 0.013 mmol)とN-ヘテロ環カルベンとして1,3-ジイソプロピル-4,5-ジメチル-2-イリデン(5 mg, 0.027 mmol)、ジエチルエーテル (0.25 mL)を混合した。数分後、系中にジフェニルシラン(0.05 mL, 0.27 mmol)を加え、80℃で24時間撹拌した。反応終了後、重ベンゼンを用い1H NMR分光法で分析することで転化率24 %で脱水素化カップリングが進行していることが示された。
【0142】
<脱水素後の生成物のNMRスペクトル>
【化37】
1H NMR (400 MHz, C
6D
6) δ = 7.57-7.60 (m, 8H), 6.04-7.10 (m, 12H), 5.48 (s, 2H);
【0143】
[実施例E-8]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた4 mLのバイアルにマンガン化合物(Mn[Si(SiMe3)3]2(THF)2)(9 mg, 0.013 mmol)とN-ヘテロ環カルベンとして1,3-ジイソプロピル-4,5-ジメチル-2-イリデン(5 mg, 0.027 mmol)、ジエチルエーテル (0.25 mL)を混合した。数分後、系中にジフェニルシラン(0.05 mL, 0.27 mmol)を加え、80℃で24時間撹拌した。反応終了後、重ベンゼンを用い1H NMR分光法で分析することで転化率24 %で脱水素化カップリングが進行していることが示された。
【0144】
3.2 フェニルシランの脱水素化
触媒として[Fe(mesityl)
2]
2を用い、フェニルシランの脱水素化カップリングを行った(実施例F-1)。
【化38】
【0145】
[実施例F-1]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた50 mLの密閉容器に鉄化合物([Fe(mesityl)2]2)(12 mg, 0.02 mmol)とN-ヘテロ環カルベンとして1,3-ジイソプロピル-4,5-ジメチル-2-イリデン(14 mg, 0.08 mmol)、ジエチルエーテル (0.2 mL)を混合した。数分後、減圧乾燥にてジエチルエーテルを留去し、フェニルシラン(87 mg, 0.8 mmol)を加え、144時間撹拌した。反応終了後、重ベンゼンを用い1H NMR分光法で分析することで転化率91 %で脱水素化カップリングが進行していることが示された。
【0146】
<脱水素後の生成物のNMRスペクトル>
[Ph-Si polymer]
-(PhSi)n-
1H NMR (400 MHz, C6D6) δ = 6.95-8.25 (br)
【0147】
3.3 ジエトキシメチルシランの脱水素化
触媒として[Fe(mesityl)
2]
2を用い、ジエトキシメチルシランの脱水素化カップリングを行った(実施例G-1)。
【化39】
【0148】
[実施例G-1]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた50 mLの密閉容器に鉄化合物([Fe(mesityl)2]2)(7 mg, 0.0125 mmol)とN-ヘテロ環カルベンとして1,3-ジイソプロピル-4,5-ジメチル-2-イリデン(9 mg, 0.05 mmol)、ジエチルエーテル (0.1 mL)を混合した。数分後、減圧乾燥によりジエチルエーテルを留去し、ジエトキシメチルシラン(67 mg, 0.5 mmol)を加え、80 ℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(0.042 mL, 0.5 mmol)を加え、重ベンゼンを用い1H NMR分光法で分析することで収率6 %で脱水素化カップリングが進行していることが示された。
【0149】
<脱水素後の生成物のNMRスペクトル>
【化40】
1H NMR (400 MHz, C
6D
6) δ = 0.11 (s, Si-Me, 6H), 1.24 (t, 12H, -OCH
2CH
3), 3.87 (q, 8H, -OCH
2CH
3)
【0150】
3.4 ビス(ジエチルアミノ)シランの脱水素化
触媒として[Fe(mesityl)
2]
2を用い、ビス(ジエチルアミノ)シランの脱水素化カップリングを行った(実施例H-1)。
【化41】
【0151】
[実施例H-1]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた50 mLの密閉容器に鉄化合物([Fe(mesityl)2]2)(7 mg, 0.0125 mmol)と1,3-ジイソプロピル-4,5-ジメチル-2-イリデン(9 mg, 0.05 mmol)、ジエチルエーテル (0.1 mL)を混合した。数分後、減圧乾燥によりジエチルエーテルを留去し、ビス(ジエチルアミノ)シラン(87 mg, 0.5 mmol)を加え、80 ℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(0.042 mL, 0.5 mmol)を加え、重ベンゼンを用い1H NMR分光法で分析することで収率7%で脱水素化カップリングが進行していることが示された。
【0152】
<脱水素後の生成物のNMRスペクトル>
【化42】
1H NMR (400 MHz, C
6D
6) δ = 1.04 (t, 24H, -NCH
2CH
3), 2.67 (q, 16H, -NCH
2CH
3), 4.71 (s, 2H, Si-H)
【0153】
4 ゲルマニウム化合物の水素化
4.1 デカフェニルシクロペンタゲルマン(Ge
5Ph
10)の水素化
触媒として[Fe(mesityl)
2]
2を用い、デカフェニルシクロペンタゲルマンの水素化カップリングを行った(実施例I-1, I-2)。
【化43】
【0154】
[実施例I-1]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた4 mLのバイアルに鉄化合物([Fe(mesityl)2]2)(1.4 mg, 0.0025 mmol)とN-ヘテロ環カルベンとして1,3-ジイソプロピル-4,5-ジメチル-2-イリデン(1.8 mg, 0.01 mmol)、重ベンゼン (2 mL)を混合した。数分後、系中にデカフェニルシクロペンタゲルマン(22 mg, 0.02 mmol)を加え、10時間撹拌した。反応終了後、内部標準としてヘキサメチルベンゼン(22 mg, 0.1 mmol)を加えた。溶液から0.1 mLをヤングコックのついたNMRチューブに移し、重ベンゼンを0.7 mL程度追加した後、系中に1気圧の水素を室温で添加した。反応終了後、1H NMR分光法で分析することで収率40%で水素化が進行していることが示された。
【0155】
[実施例I-2]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた4 mLのバイアルに鉄化合物([Fe(mesityl)2]2)(1.4 mg, 0.0025 mmol)とN-ヘテロ環カルベンとして1,3-ジイソプロピル-4,5-ジメチル-2-イリデン(1.8 mg, 0.01 mmol)、KOtBu(2.2 mg, 0.02 mmol)、重ベンゼン (2 mL)を混合した。数分後、系中にデカフェニルシクロペンタゲルマン(22 mg, 0.02 mmol)を加え、10時間撹拌した。反応終了後、内部標準としてヘキサメチルベンゼン(22 mg, 0.1 mmol)を加えた。溶液から0.1 mLをヤングコックのついたNMRチューブに移し、重ベンゼンを0.7 mL程度追加した後、系中に1気圧の水素を室温で添加した。反応終了後、1H NMR分光法で分析することで収率99%で水素化が進行していることが示された。
【0156】
<水素化後の生成物のNMR>
【化44】
1H NMR (400 MHz, C
6D
6) δ = 7.44-7.41 (m, 4H), 7.13-7.09 (m, 6H), 5.16 (s, 2H);
【0157】
5 ケイ素化合物の水素化
5.1 デカフェニルシクロペンタシラン(Si
5Ph
10)の水素化
触媒として[Fe(mesityl)
2]
2を用い、デカフェニルシクロペンタシランの水素化カップリングを行った(実施例J-1, 2)。
【化45】
【0158】
[実施例J-1]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた4 mLのバイアルに鉄化合物([Fe(mesityl)2]2)(1.5 mg, 0.0025 mmol)と1,3-ジイソプロピル-4,5-ジメチル-2-イリデン(1.8 mg, 0.01 mmol)、重ベンゼン(2 mL)を混合した。数分後、系中にデカフェニルシクロペンタシラン(18 mg, 0.02 mmol)を加えた。溶液から約1 mLをヤングコックのついたNMRチューブに移し、系中に1気圧の水素を添加し、80 ℃に加熱した。反応終了後、1H NMR分光法で分析することで収率3%で水素化が進行していることが示された。
【0159】
[実施例J-2]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた4 mLのバイアルに鉄化合物([Fe(mesityl)2]2)(1.5 mg, 0.0025 mmol)と1,3-ジイソプロピル-4,5-ジメチル-2-イリデン(1.8 mg, 0.01 mmol)、KOtBu(2.2 mg, 0.02 mmol)、重ベンゼン(2 mL)を混合した。数分後、系中にデカフェニルシクロペンタシラン(18 mg, 0.02 mmol)を加えた。溶液から約1 mLをヤングコックのついたNMRチューブに移し、系中に1気圧の水素を添加し、80 ℃に加熱した。反応終了後、1H NMR分光法で分析することで収率20%で水素化が進行していることが示された。
【0160】
<水素化後の生成物のNMR>
【化46】
1H NMR (400 MHz, C
6D
6) δ = 7.52-7.50 (m, 4H), 7.17-7.09 (m, 6H), 5.09 (s, 2H);
【0161】
5.2 テトラフェニルジシラン(H
2Si
2Ph
4)の脱水素化
触媒として[Fe(mesityl)
2]
2を用い、テトラフェニルジシランの水素化カップリングを行った(実施例K-1)。
【化47】
【0162】
[実施例K-1]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた4 mLのバイアルに鉄化合物([Fe(mesityl)
2]
2)(1.5 mg, 0.0025 mmol)と1,3-ジイソプロピル-4,5-ジメチル-2-イリデン(1.8 mg, 0.01 mmol)、KOtBu(2.2 mg, 0.02 mmol)、重ベンゼン(2 mL)を混合した。数分後、系中にテトラフェニルジシラン(7 mg, 0.02 mmol)を加えた。溶液から約1 mLをヤングコックのついたNMRチューブに移し、系中に1気圧の水素を添加し、80 ℃に加熱した。反応終了後、
1H NMR分光法で分析することで収率20%で水素化が進行していることが示された。
<水素化後の生成物のNMR>
【化48】
1H NMR (400 MHz, C
6D
6) δ = 7.52-7.50 (m, 4H), 7.17-7.09 (m, 6H), 5.09 (s, 2H);
【0163】
(結果)
上記実施例の脱水素反応の結果を表1に、水素化反応の結果を表2に示す。
【表1】
【表2】
【0164】
脱水素反応の実施例および表1から、多様な14族元素化合物(A)を鉄触媒の存在下で反応させることで、脱水素反応が進行することが確認された。当該反応により、14族元素化合物(A)は14族元素化合物(B)へと転化し、この反応により水素が製造されることが確認された。また、当該脱水素反応は、温和な作動条件(低い反応温度(室温または80℃)および常圧)で進行した。また、触媒や塩基の種類を変更することで、収率が向上し得ることが確認された。
【0165】
水素化反応の実施例および表2から、多様な14族元素化合物(B)を鉄触媒の存在下で水素と接触反応させることで、水素化反応が進行することが確認された。当該反応により、14族元素化合物(B)に水素が付加され、14族元素化合物(A)へと転化することが確認された。また、当該水素化反応は、温和な作動条件(低い反応温度(室温)および低い水素の圧力)で進行した。また、塩基の種類を変更することで、収率が向上し得ることが確認された。
【0166】
上記実施例の結果から、本発明の14族元素化合物(A)を水素キャリア(水素運搬・発生材料)として使用でき、水素発生後に生成される14族元素化合物(B)を水素貯蔵用材料として使用できることが示された。
また、上記実施例の結果から、同一の鉄触媒で、14族元素化合物(A)の脱水素反応および14族元素化合物(B)の水素化反応が進行することが確認された。本発明の14族元素化合物を用いた水素キャリアは、同一の鉄触媒を用いて水素の製造および貯蔵が可能となる。
以上の結果は、本発明の14族元素化合物(A)が水素キャリア材料として利用可能であることを実証するものである。
【0167】
本発明の範囲は以上の説明に拘束されることはなく、上記例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施し得る。なお、本明細書に記載した全ての文献及び刊行物は、その目的にかかわらず参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする。
本発明の実施形態に係る水素キャリアは、貴金属フリーの触媒を用いて水素の発生・貯蔵が可能である、水素の発生・貯蔵を温和および/または高効率に実施できる、または省エネルギー性に優れる、などといった利点を有し、実用性及び有用性に優れたものである。