(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127882
(43)【公開日】2022-09-01
(54)【発明の名称】基板処理装置
(51)【国際特許分類】
B24B 37/013 20120101AFI20220825BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20220825BHJP
B24B 49/10 20060101ALI20220825BHJP
B24B 37/30 20120101ALI20220825BHJP
【FI】
B24B37/013
H01L21/304 622S
H01L21/304 622K
B24B49/10
B24B37/30 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021026104
(22)【出願日】2021-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100091498
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【弁理士】
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【弁理士】
【氏名又は名称】金沢 充博
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 佑多
(72)【発明者】
【氏名】高橋 太郎
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 和英
(72)【発明者】
【氏名】三木 勉
【テーマコード(参考)】
3C034
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C034AA19
3C034BB92
3C034CA30
3C034CB03
3C158AA07
3C158AC02
3C158BA09
3C158BB08
3C158BB09
3C158BC01
3C158CB01
3C158DA17
3C158EA11
3C158EB01
3C158ED00
5F057AA20
5F057BA15
5F057BB15
5F057BB16
5F057CA12
5F057DA03
5F057DA38
5F057EB27
5F057FA13
5F057FA19
5F057FA20
5F057FA32
5F057FA34
5F057FA37
5F057FA39
5F057GA02
5F057GA12
5F057GA13
5F057GA15
5F057GA27
5F057GB01
5F057GB20
5F057GB34
(57)【要約】
【課題】音響センサを用いて基板研磨の終点を精度良く検知すること
【解決手段】
基板を研磨パッドに押し付けることにより基板の研磨を行う基板処理装置は、基板の研磨に伴う音響事象を検出して音響信号として出力する研磨音センサと、音響信号から音圧レベルのスペクトルを示すパワースペクトルを生成するパワースペクトル生成部と、パワースペクトルを時系列に並べることで前記パワースペクトルの時間変化を示すパワースペクトルマップを生成するマップ更新部と、パワースペクトルマップにおける音圧レベルの変化に基づいて基板の研磨終点を検出する終点判定部とを備える。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を研磨パッドに押し付けることにより前記基板の研磨を行う基板処理装置において、
前記基板の研磨に伴う音響事象を検出して、音響信号として出力する音響センサと、
前記音響信号から音圧レベルのスペクトルを示すパワースペクトルを生成するパワースペクトル生成部と、
前記パワースペクトルを時系列に並べることで、前記パワースペクトルの時間変化を示すパワースペクトルマップを生成するマップ更新部と、
前記パワースペクトルマップにおける前記音圧レベルの変化に基づき、前記基板の研磨終点を検出する終点判定部と、を備えたことを特徴とする基板処理装置。
【請求項2】
前記終点判定部は、所定の監視周波数帯域においてのみ、前記パワースペクトルマップにおける前記音圧レベルの変化を検出することを特徴とする、請求項1記載の基板処理装置。
【請求項3】
前記終点判定部は、前記基板の各層を構成する材料に応じて、前記監視周波数帯域を設定することを特徴とする、請求項2記載の基板処理装置。
【請求項4】
前記パワースペクトル生成部は、直近の所定時間の前記音響信号のみを用いて前記パワースペクトルを生成することを特徴とする、請求項1~3のいずれか記載の基板処理装置。
【請求項5】
前記終点判定部は、研磨終了の程度を示す研磨終了指標を生成するための学習済みモデルを備え、前記パワースペクトルマップの画像を前記学習済みモデルに入力して得られた前記研磨終了指標が所定値を超えた場合に、前記基板の研磨終点を検出することを特徴とする、請求項1~4のいずれか記載の基板処理装置。
【請求項6】
前記基板を押圧するための複数の圧力室を形成する研磨ヘッドと、
前記複数の圧力室内の圧力を個別に制御することで、圧力フィードバック制御を行うための圧力制御部とを備え、
前記研磨パッド内には複数の前記音響センサが設けられ、
前記終点判定部は、前記音響センサの各々により生成された前記パワースペクトルマップに変化が発生した時刻を検出するとともに、当該変化が発生した時刻の差から前記基板の表面が露呈した箇所を特定し、
前記圧力制御部は、前記基板の表面が露呈した箇所に対応する前記圧力室の圧力を減少させることを特徴とする、請求項1~5のいずれか記載の基板処理装置。
【請求項7】
前記音響センサは、前記研磨パッドを支持する研磨テーブルに形成された窪みの中に配置されていることを特徴とする、請求項1記載の基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板等の基板の表面を処理する基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程では、半導体基板等の基板の表面を研磨処理する研磨装置が広く使用されている。この種の研磨装置では、基板はトップリング又は研磨ヘッドと称される基板保持装置により保持された状態で回転する。この状態で、研磨パッドとともに研磨テーブルを回転させながら、基板の表面を研磨パッドの研磨面に押し付け、研磨液の存在下で基板の表面を研磨面に摺接させることで、基板の表面が研磨される。基板表面の研磨により、基板表面の膜厚が所定値に達した場合、あるいは下地層(例えばストッパ層)が表れたことが検出されると、基板研磨処理が終了される。
【0003】
このような研磨処理においては、加工後の基板表面の膜厚を正確に制御することが求められており、そのために基板研磨の終了を正確に検出することが重要とされる。基板研磨の終了を検出するために様々な方法が検討されており、例えば音響センサを用いて研磨音の変化を検出することも提案されている。
【0004】
例えば特許文献1に記載の制御装置では、基板からの研磨音のパワースペクトルを検出するとともに、当該パワースペクトルの変化量から単位時間あたりのS/N比を算出し、得られたS/N比が閾値を超えた場合に基板研磨の終点であると判定するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
基板研磨における研磨条件(例えば、研磨パッドの状態、研磨液の分布、研磨パッドによる押圧力)は常に一定ではなく、音響センサによる測定で得られるパワースペクトルの変化量にばらつきが生じうることから、S/N比の値が閾値を超えるタイミング(研磨終了のタイミング)にばらつきが生じ得る。また、S/N比が閾値を超えない場合には、研磨終了を検出することができない。
【0007】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、音響センサを用いて基板研磨の終点を精度良く検知することが可能な基板処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、基板を研磨パッドに押し付けることにより前記基板の研磨を行う基板処理装置であって、基板の研磨に伴う音響事象を検出して音響信号として出力する音響センサと、音響信号から音圧レベルのスペクトルを示すパワースペクトルを生成するパワースペクトル生成部と、パワースペクトルを時系列に並べることで、前記パワースペクトルの時間変化を示すパワースペクトルマップを生成するマップ更新部と、パワースペクトルマップにおける前記音圧レベルの変化に基づき、基板の研磨終点を検出する終点判定部とを備える。
【0009】
終点判定部は、所定の監視周波数帯域においてのみ、パワースペクトルマップにおける音圧レベルの変化を検出することが好ましい。これにより、基板の研磨終了の検出に要する処理を軽減することができる。また、終点判定部は基板の各層を構成する材料に応じて監視周波数帯域を設定する。これにより、基板を構成する材料に応じて適切な監視周波数帯域を設定することができる。
【0010】
パワースペクトル生成部は、直近の所定時間の音響信号のみを用いてパワースペクトルを生成することが好ましい。これにより、パワースペクトル生成の処理を軽減することができる。
【0011】
終点判定部は、研磨終了の程度を示す研磨終了指標を生成するための学習済みモデルを備え、パワースペクトルマップの画像を学習済みモデルに入力して得られた前記研磨終了指標が所定値を超えた場合に基板の研磨終点を検出することができる。これにより、基板研磨の終点を精度良く検知することが可能となる。
【0012】
基板処理装置は、基板を押圧するための複数の圧力室を形成する研磨ヘッドと、複数の圧力室内の圧力を個別に制御することで、圧力フィードバック制御を行うための圧力制御部とをさらに備え、前記研磨パッド内には複数の前記音響センサが設けられ、終点判定部は音響センサの各々により生成されたパワースペクトルマップに変化が発生した時刻を検出するとともに、当該変化が発生した時刻の差から基板の表面が露呈した箇所を特定し、圧力制御部は基板の表面が露呈した箇所に対応する圧力室の圧力を減少させる。これにより、基板の被研磨面における研磨量のばらつきを抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、基板研磨音の音圧レベルのスペクトルを示すパワースペクトルを生成し、パワースペクトルの時間変化を示すパワースペクトルマップにおける音圧レベルの変化に基づき、基板の研磨終点を検出するように構成したから、音響センサを用いて基板研磨の終点を精度良く検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る基板処理装置の構成を概略的に示す平面図である。
【
図2】基板研磨ユニットの一実施形態を概略的に示す斜視図である。
【
図3】基板研磨ユニットの構成を示す側面図である。
【
図4】研磨パッドを底面から見たときの構成を概略的に示す説明図である。
【
図6】音響センサからの信号の一例を示すグラフである。
【
図7】音圧レベルのパワースペクトルの一例を示すグラフである。
【
図8】音圧レベルのカラーマップの一例を示すグラフである。
【
図9】基板研磨ユニットの構成を部分的に示す部分断面図である。
【
図10】基板処理の一例を示すフローチャートである。
【
図11】基板内の音源と音響センサとの位置関係を示す説明図である。
【
図12】基板研磨ユニットの別の構成を示す側面図である。
【
図13】音圧レベルのカラーマップの別の例を示すグラフである。
【
図14】制御装置と学習装置の構成の一例を示す説明図である。
【
図15】画像検出のためのニューラルネットワークの一例を示す説明図である。
【
図16】半導体デバイスの製造方法を概略的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係る基板処理装置について、図面を参照して説明する。なお、同一または相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0016】
図1は、基板処理装置の全体構成を示す平面図である。基板処理装置10は、ロード/アンロード部12、研磨部13と、洗浄部14とに区画されており、これらは矩形状のハウジング11の内部に設けられている。また、基板処理装置10は、基板搬送、研磨、洗浄等の処理の動作制御を行う制御装置15を備えている。
【0017】
ロード/アンロード部12は、複数のフロントロード部20と、走行機構21と、2台の搬送ロボット22を備えている。フロントロード部20には、多数の基板(ウエハ)Wをストックする基板カセットが載置される。搬送ロボット22は、上下に2つのハンドを備えており、走行機構21上を移動することで、フロントロード部20内の基板カセットから基板Wを取り出して研磨部13へ送るとともに、洗浄部14から送られる処理済みの基板を基板カセットに戻す動作を行う。
【0018】
研磨部13は、基板の研磨(平坦化処理)を行う領域であり、複数の研磨ユニット13A~13Dが設けられ、基板処理装置の長手方向に沿って配列されている。個々の研磨ユニットは、研磨テーブル上の基板Wを研磨パッドに押圧しながら研磨するためのトップリングと、研磨パッドに研磨液や純水等の液体を供給する液体供給ノズルと、研磨パッドの研磨面のドレッシングを行うドレッサと、液体と気体の混合流体または霧状の液体を研磨面に噴射して研磨面に残留する研磨屑や砥粒を洗い流すアトマイザを備えている。
【0019】
研磨部13と洗浄部14との間には、基板Wを搬送する搬送機構として、第1,第2リニアトランスポータ16,17が設けられている。第1リニアトランスポータ16は、ロード/アンロード部12から基板Wを受け取る第1位置、研磨ユニット13A,13Bとの間で基板Wの受け渡しを行う第2,第3位置、第2リニアトランスポータ17へ基板Wを受け渡すための第4位置との間で移動自在とされている。
【0020】
第2リニアトランスポータ17は、第1リニアトランスポータ16から基板Wを受け取るための第5位置、研磨ユニット13C,13Dとの間で基板Wの受け渡しを行う第6,第7位置との間で移動自在とされている。これらトランスポータ16,17の間には、基板Wを第4位置や第5位置から洗浄部14へ、及び第4位置から第5位置へ送るためのスイングトランスポータ23が備えられている。
【0021】
洗浄部14は、第1基板洗浄装置30、第2基板洗浄装置31、基板乾燥装置32と、これら装置間で基板の受け渡しを行うための搬送ロボット33,34を備えている。研磨ユニットで研磨処理が施された基板Wは、第1基板洗浄装置30で洗浄(一次洗浄)され、次いで第2基板洗浄装置31で更に洗浄(仕上げ洗浄)される。洗浄後の基板は、第2基板洗浄装置31から基板乾燥装置32に搬入されてスピン乾燥が施される。乾燥後の基板Wは、ロード/アンロード部12に戻される。
【0022】
図2は研磨ユニットの構成を概略的に示す斜視図である。研磨ユニット40は、基板(ウエハ)Wを保持して回転させるトップリング(基板保持装置)41と、研磨パッド42を支持する研磨テーブル43と、研磨パッド42にスラリー(研磨液)を供給する研磨液供給ノズル45を備えている。また、研磨パッド42の下部には、
図3で示す音響センサ50、51が設けられている。
【0023】
トップリング41は、トップリングシャフト47及びトップリングヘッドカバー46によって回転可能に支持されており、さらに、その下面に真空吸着により基板Wを保持できるように構成されている。また、トップリングヘッドカバー46は、回転軸46aにより回動可能に指示されており、回転軸46aの回転により、トップリング41は、基板Wの研磨を行う研磨位置と、基板Wを交換する交換位置との間で移動する。
【0024】
研磨テーブル43は、図示しないモータによりテーブル軸43aを中心として回転可能とされている。トップリング41と研磨テーブル43は、矢印で示す方向に回転し、この状態でトップリング41は、基板Wを研磨テーブル43に保持される研磨パッド42の上側の研磨面42aに押しつける。研磨液供給ノズル45から研磨パッド42上に供給される研磨液の存在下で、基板Wは研磨パッド42に摺接されて研磨される。
【0025】
基板Wは、例えば金属やシリコン酸化膜といった上層と、例えばシリコン膜である下層から構成される。基板Wの上層と下層を構成する材料が異なるため、基板Wの上層の研磨が進行して下層が露出したとき、研磨パッド42に押圧される基板Wからの音響スペクトル(パワースペクトル)が変化する。なお、本発明における基板Wの構成はこれに限られることはなく、半導体チップ製造プロセスで用いられる種々の材料を用いることができる。
【0026】
図3は、研磨ユニットの構成を概略的に示す側面図である。トップリングシャフト47は、ベルト等の連結手段48を介して研磨ヘッドモータ49に連結されて回転可能に構成されている。このトップリングシャフト47の回転により、トップリング41が矢印で示す方向に回転する。これら連結手段48及び研磨ヘッドモータ49は、
図2のトップリングヘッドカバー46の内部に配置されている。
【0027】
音響センサ50,51は、一般的なアコースティックエミッションセンサ(AEセンサ)が用いられ、研磨パッド42の径方向に2つ並べられた状態で、研磨パッド42の下部に配置されている。研磨中の基板Wが研磨パッド42に押圧されて変形を受けると、基板Wから歪みエネルギーが弾性波(AE波)として放出される。音響センサ50,51は研磨パッド42を介して伝達される弾性波を検出して、電気信号(音響信号)として出力する。あるいは、音響センサ50,51を超音波マイクから構成し、トップリング41による押圧を受けた基板Wと研磨パッド42との摩擦に起因する研磨音を検出して電気信号(音響信号)として出力するようにしても良い。出力された音響信号は、テーブル軸43aの側面に取り付けられたコネクタを介して、テーブル軸43a内部に設置されたロータリーコネクタ61と接続されている。ロータリーコネクタ61は制御装置15に接続されており、基板Wの研磨音に対応する音響信号が制御装置15に送られる。これにより、テーブル軸43aの回転に影響されることなく、音響センサ50,51からの音響信号を制御装置に出力することができる。
【0028】
図4は、研磨テーブル43を底面から見たときの説明図である。研磨テーブル43の底面には窪み43b、43cが形成されており、音響センサ50、51のそれぞれは、窪み43b、43cの内部に入り込んだ状態で、研磨テーブル43に固定される。音響センサ50、51を研磨テーブル43の内部で(研磨面に近づけて)固定することで、音響センサ50、51による検出精度を高めることができる。
【0029】
図5は、制御装置15の構成の一例を示したものである。制御装置15は、例えば汎用のコンピュータ装置であり、CPU、制御プログラムを記憶するメモリ、入力部、表示部などを備えている。制御装置15は、メモリに記憶された制御プログラムを起動させることにより、研磨制御部52、スペクトル生成部54、カラーマップ更新部56、終点判定部58として動作することで、研磨ユニット40の動作を統括的に制御する。なお、制御装置15の構成は
図5に示されたものに限定されず、基板処理装置10の他の要素(例えば、ロード/アンロード部12や洗浄部14)の動作を制御する構成も備えられている。
【0030】
基板処理装置10の動作を制御するための制御プログラムは、予め制御装置15を構成するコンピュータにインストールされていても良く、あるいは、CD-ROM、DVD-ROM等の記憶媒体に記憶されていても良く、さらには、インターネットを介して制御装置15にインストールするようにしても良い。
【0031】
研磨制御部52は、研磨ユニット40を構成するトップリング41、研磨テーブル43等の動作を制御して、トップリング41に保持された基板Wに対して研磨処理を行う。
【0032】
スペクトル生成部54は、音響センサ50,51から送信されてきた音響信号(研磨パッド42による押圧を受けた基板Wの歪みに起因する信号)のデータに対して、FFT(高速フーリエ変換)を行って周波数成分とその強度を抽出し、基板Wの音響信号のパワースペクトル(周波数に対する音圧レベル)として出力する。ここで、パワースペクトルの生成に用いる音響信号のデータ数については、基板研磨開始から取得された全てのデータを用いても良いが、直近の一定時間(例えば10秒間)の音響信号のデータのみを用いることが望ましく、これによりパワースペクトルの生成処理の時間を短縮することができる。
【0033】
図6は、音響センサ50,51から送信されてきた信号の一例を示したグラフであり、横軸は基板研磨開始からの経過時間を、縦軸は音響信号の強度(電圧)を示している。基板Wの研磨に伴い、トップリング41による押圧を受けた基板Wの歪みに起因する信号(音響信号)が発生しており、スペクトル生成部54は、直近の例えば10秒間における信号(
図6の点線で示した「解析ウインドウ」に含まれる区間内の信号)を用いて、パワースペクトルを生成する。本実施形態において、これら2つの音響センサ50,51からの一方のみの信号を用いてパワースペクトルを生成しても良く、あるいは平均値を用いても良い。また、音響センサ50からの音響信号によるパワースペクトルと、もう一つの音響センサ51からの音響信号によるパワースペクトルを別々に生成して、それぞれを後述する終点検知の判定に用いるように構成しても良い。
【0034】
図7は、上記のようにして生成されたパワースペクトル(ここでは、2つの音響センサ50,51の一方の音響信号のみを用いた場合を示す)の一例を示したグラフであり、横軸は周波数を、縦軸は音圧レベルを、それぞれ示している。前述のとおり、スペクトル生成部54は、一定時間間隔(例えば1秒間隔)で、解析ウインドウ(
図6参照)内に含まれる音響信号を用いてパワースペクトルを生成する。これにより、基板Wの研磨に伴い、複数のパワースペクトルのデータが時系列で生成される(
図7では模式的に解析ウインドウ毎のグラフの生成を3つ積層化して示している)。
【0035】
なお、周波数が低い領域における音圧レベルは、基板研磨の状況変化とは無関係である場合が多いため、音響センサ50,51の出力側にハイパスフィルタ(あるいはバンドパスフィルタ)を設けて、低周波領域の信号をカットするように構成してもよい。
【0036】
カラーマップ更新部56は、スペクトル生成部54において生成されたパワースペクトルのデータを時系列で並べ替えることで、周波数と音圧レベルの経時変化を示すグラフ(カラーマップ)を生成する。
図8はカラーマップの一例を示したグラフであり、横軸は時間を、縦軸は周波数をそれぞれ示しており、ある時点及び周波数における音圧レベルが、色分けされて(あるいは白黒の濃度の分布により)構成される。生成されたカラーマップは、制御装置15に設けられた表示部(ディスプレイ装置)に表示される。
【0037】
図8の例では、音圧レベルが所定値(例えば20dB)ごとに色分けして表示されるようにカラーマップを構成しているが、この態様に限られるものではなく、例えば色がグラデーション状に変化するようにカラーマップを構成しても良い。
【0038】
図8のグラフにおいて、横軸(時間)の「0」とは、研磨開始時点(すなわち、音響センサ50,51による音圧信号の測定を開始した時点)を表している。スペクトル生成部54は、直近の例えば10秒間(
図5の「解析ウインドウ」の幅に相当する時間)における信号を用いてパワースペクトルを生成するため、(信号が生成されていない)最初の約10秒間におけるパワースペクトルは後述する研磨終了判定には用いられない。あるいは、パワースペクトルの生成を行わないように構成しても良い。
図8の例では、周波数が低い領域における音圧レベルが比較的高く、周波数が高くなるほど音圧レベルが低くなっていることが示されている。
【0039】
終点判定部58は、所定の周波数帯域(モニタ範囲)におけるカラーマップの音圧レベルを監視し、当該モニタ範囲におけるカラーマップに変化が生じたか否かを判定する。
図7の例では、研磨が開始してから40秒が経過した時点において、12~16kHz帯における音圧レベルが高くなっている。これは、研磨開始時点では上層に隠れていた下層が少しずつ露呈され、下地層の影響を受けて基板Wからの音響信号のスペクトルに変化が生じたことに起因する。
【0040】
終点判定部58は、モニタ範囲におけるカラーマップの変化を検出したときに、基板研磨の終了を指示する信号を研磨制御部52に送る。例えば、一定時間における音圧レベルの変化割合が所定値を超えた場合、カラーマップにおいて音圧レベルが増加した領域の面積が所定値を超えた場合、モニタ範囲における音圧レベルが増加した後に減少し、変動量が閾値未満となった場合に、基板Wの下層が露呈したと検出することができる。
【0041】
終点判定部58において音圧レベルをモニタするモニタ範囲は、基板Wを構成する各層の材料の組み合わせに応じて設定することができる。あるいは、基板Wの実際の研磨に先立ち、層構造が共通するダミー基板を用いてテスト研磨を行い、生成されたカラーマップに変化が生じた周波数帯域をモニタ範囲として設定するようにしても良い。
【0042】
記憶部60は、例えば不揮発性のメモリ装置であり、音響センサ50,51から受信した信号の情報、スペクトル生成部54において生成されたパワースペクトルの情報、カラーマップ更新部56において生成されたカラーマップの情報、基板Wを構成する各層の種類毎に定められたモニタ範囲といった情報が記憶され、適宜読み出される。
【0043】
図9に示すように、トップリング41は、トップリングシャフト47の下端に固定されたヘッド本体70と、基板Wの側縁を支持するリテーナリング71と、基板Wを研磨パッド42の研磨面に対して押圧する柔軟な弾性膜72を備えている。リテーナリング71は基板Wを囲むように配置されており、ヘッド本体70に連結されている。弾性膜72は、ヘッド本体70の下面を覆うようにヘッド本体70に取り付けられている。
【0044】
ヘッド本体70は、例えばエンジニアリングプラスティック(例えば、PEEK)などの樹脂により形成され、弾性膜72は、例えばエチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリウレタンゴム、シリコンゴム等の強度及び耐久性に優れたゴム材によって形成されている。
【0045】
トップリング41を構成するトップリング本体70およびリテーナリング71は、トップリングシャフト47の回転により一体に回転するように構成されている。
【0046】
リテーナリング71は、トップリング本体70及び弾性膜72を囲むように配置されている。このリテーナリング71は、研磨パッド42の研磨面42aに接触するリング状の樹脂材料から構成された部材であり、トップリング本体70に保持される基板Wの外周縁を囲むように配置されており、研磨中の基板Wがトップリング41から飛び出さないように基板Wの外周縁を支持している。
【0047】
リテーナリング71の上面には、図示しない環状のリテーナリング押圧機構に連結されており、リテーナリング71の上面の全体に均一な下向きの荷重を与える。これによりリテーナリング71の下面を研磨パッド42の研磨面42aに対して押圧する。
【0048】
弾性膜72は、同心状に配置された複数(
図9では4つ)の環状の周壁72a,72b,72c,72dが設けられている。これら複数の周壁72a~72dによって、弾性膜72の上面とヘッド本体70の下面との間に、中央に位置する円形状の第1圧力室D1と、環状の第2、第3及び第4圧力室D2、D3、D4が形成されている。
【0049】
ヘッド本体70内には、中央の第1圧力室D1に連通する流路G1、第2~第4圧力室に連通する流路G2~G4が、それぞれ形成されている。これら流路G1~G4は、それぞれ流体ラインを介して流体供給源74に接続されている。流体ラインには、開閉バルブV1~V4と図示しない圧力コントローラが設置されている。
【0050】
リテーナリング71の直上にはリテーナ室D5が形成されており、リテーナ圧力室D5は、ヘッド本体70内に形成された流路G5、開閉バルブV5及び図示しない圧力コントローラが設置された流体ラインを介して流体供給源74に接続されている。流体ラインに設置された圧力コントローラは、それぞれ流体供給源74から圧力室D1~D4およびリテーナ圧力室D5に供給する圧力流体の圧力を調整する圧力調整機能を有している。圧力コントローラおよび開閉バルブV1~V5は、それらの作動が制御装置15で制御されるようになっている。
【0051】
以下、上記構成による基板研磨装置10の動作について、
図10のフローチャートを用いて説明する。基板Wへの研磨が開始されると、音響センサ50、51は、研磨パッド42を介して伝達される基板Wの研磨音を検出して、音圧レベルを示す音響信号に変換して制御装置15へ出力する(ステップS10)。
【0052】
制御装置15は、音響センサ50、51から受信した音響信号のデータを記憶部60に記憶する。そして、制御装置15は、記憶部60に記憶された音響信号のデータ量が所定値(例えば、10秒間に相当する分のデータ量)を超えたかどうかを判定する(ステップS11)。データ量が所定値を超えている場合には、スペクトル生成部54は、記憶部60に記憶された直近10秒分の音響信号のデータを読み出して、FFT処理を施すことで、ある時点における周波数スペクトル(パワースペクトル)を生成する(ステップS12)。周波数スペクトルのデータは、記憶部60に記憶される。
【0053】
次に、制御装置15のカラーマップ更新部56は、記憶部60に記憶された周波数スペクトルのデータを時系列に並べることで、例えば
図8に示すようなカラーマップを生成し、これを更新する(ステップS13)。カラーマップのデータは記憶部60に記憶される。
【0054】
終点判定部58は、カラーマップ更新部56により生成(更新)されたカラーマップに対し、所定の終点検出条件を満たしたかどうか(例えば、モニタ領域(モニタ周波数領域)における音圧レベルに所定の変動が生じたかどうか)を判定する(ステップS14)。終点検出条件を満たしていない場合は、制御装置15は音響センサ50、51から音響信号のデータを受信し(ステップS15)、ステップS12に戻ってスペクトル生成部54においてパワースペクトルを生成し、カラーマップ更新部56においてカラーマップを更新する。
【0055】
一方、終点判定部58において終点検出条件が満たされたと判定された場合には、研磨制御部52は、トップリング41及び研磨パッド42の回転を停止して、研磨処理を終了する(ステップS16)。
【0056】
このように、音響センサで得られた音響信号に基づき、音圧レベルのカラーマップ(強度分布図)を生成し、当該カラーマップの変化から基板研磨の終点を検出するようにしたから、基板研磨の終点を精度良く検知することができる。
【0057】
上記実施形態では、2つの音響センサ50,51からの音響信号を用いてパワースペクトルを生成しているが、本発明における音響センサは2つに限られることはなく、1つ又は3つ以上の音響センサを用いても良い。
【0058】
また、2つの音響センサ50,51のそれぞれから取得した音響信号を用いて、個別にパワースペクトル及びカラーマップを生成するように構成し、いずれか又は両方のカラーマップが終点検出条件を満たした場合に、基板研磨を終了するようにしても良い。この場合、2つのカラーマップに変化が発生した時刻の差から、基板Wの表面が露呈した箇所(
図11における音源)を特定し、当該露呈した箇所に対応するエリアの圧力室における圧力を減少させることで、当該露呈した箇所の研磨速度を調整することができる。これにより、研磨中の基板の面内における膜厚分布のばらつきを抑制することができる。
【0059】
上記実施形態では、研磨テーブル内に埋め込まれた音響センサを用いて、基板Wの音響信号を生成しているが、本発明はこれに限られることはなく、例えば
図12に示すように、研磨テーブルの上方に研磨音センサとしての集音マイク(超音波マイク)80を配置して、当該集音マイク80を用いて基板Wからの音響信号を生成し、上記実施形態と同様の手順によりカラーマップを生成するようにしても良い。
図12に示す例では、集音マイク80は保持機構82によってトップリングヘッドカバー46の底部に固定されている。
【0060】
図13は、集音マイク80で得られた音響信号により生成されたカラーマップの一例であり、研磨テーブル内に埋め込まれた音響センサを用いた場合と同様に、所定の周波数範囲(モニタ範囲)における音圧レベルの変化を検出することで、下層の露出(基板研磨の終了)を検出することができる。なお、
図13の例では、音圧レベルが所定値ごとに色分けして表示されるようにカラーマップを構成しているが、この態様に限られるものではなく、例えば、色がグラデーション状に変化するようにカラーマップを構成しても良い。
【0061】
上記実施形態では、カラーマップの変化から基板研磨の終点を検出するようにしているが、基板研磨の終端検知方法はこれに限られることはなく、例えば終点に達したことを示す複数のカラーマップ画像を機械学習させることで学習済みモデルを生成し、当該学習済みモデルを用いた画像検出により終点検知を行うようにしても良い。
【0062】
図14は、学習済みモデルを用いた画像検出を行う実施形態におけるシステムの構成を示したものである。なお、前述した実施形態と同一の構成については、同一の符番を付して詳細な説明を省略する。
図14において、システムは、基板研磨及び終点検出を行う制御装置100と、カラーマップの画像について機械学習を行う学習装置110とを備える。制御装置100は、前述した制御装置15の構成に加えて、終了判定部102及び画像抽出部104を備えている。
【0063】
終了判定部102は、後述する学習済モデル106を備えている。この学習済モデル106は、例えばニューラルネットワークを用いて、生成されたカラーマップの画像が研磨終了画像と一致するかの程度を推定する学習を行った学習済みの機械学習モデルである。この学習済みモデル106は、学習装置110から制御装置100の記憶部60に記憶され、制御装置100において画像検出による研磨終了判定を行う場合に、終了判定部54により読み出される。
【0064】
このニューラルネットワークとしては、例えば
図15に示す畳み込みニューラルネットワーク120が用いられる。畳み込みニューラルネットワーク120は、畳み込み層122及びプーリング層124が交互に接続された構造を有しており、出力側のプーリング層124の出力が全結合層126に入力され、全結合層126の出力が出力層128に入力される。
【0065】
畳み込み層122では、入力される画像の画像データと所定の重みフィルタとの相関を算出することで、入力画像の各局所領域における特徴量が出力される。プーリング層124では、畳み込み層122で出力された局所領域における特徴量について、最大値又は平均値を出力する。全結合層126は、複数の層から構成され、各層は1又は複数のニューロン(ノード)を備えており、隣接する層のニューロンが互いに結合されている。出力層128は、ニューラルネットワーク120の最も出力側に配置され、入力されたカラーマップの画像が研磨終了画像と一致するかの程度を示す推定情報を出力する。
【0066】
ニューロンの結合には重みが設定されており、また、各ニューロンには閾値が設定されている。各ニューロンへの入力と重みの積の和が閾値を超えるかによって、各ニューロンの出力が決定され、これによりニューラルネットワークにおいて推定情報が出力される。研磨判定部は、学習済みモデルより出力された推定情報の値が予め設定された基準値を超える場合に、入力画像が研磨終了画像と一致すると判定して、基板研磨を終了させる。
【0067】
なお、本実施形態におけるニューラルネットワークはこれに限られることはなく、例えば入力層、中間層及び出力層を備えた全結合ニューラルネットワークを用いても良く、畳み込みニューラルネットワークと全結合ニューラルネットワークとを組み合わせて用いても良い。さらに、内部にループを有する再帰型ニューラルネットワーク(例えばLSTMネットワーク)を設けてもよい。
【0068】
画像抽出部104は、カラーマップ更新部56により更新されたカラーマップについて、所定周波数帯域及び所定時間で確定されるカラーマップの一部の画像を抽出し、これを終了判定部の学習済モデル102に入力する。これにより、終点検出に不要な部分の画像データが省略され、画像検出による終点検出の処理時間を短縮することができる。さらに、画像抽出部104において、抽出された画像の解像度を低減させても良く、これによっても終点検出の処理時間を短縮することができる。
【0069】
学習装置110は、例えば汎用のコンピュータであり、CPU、学習プログラムを記憶するメモリ、入力装置、表示装置等を備えており、図示しない通信回線を介して制御装置100と接続されている。学習装置110は、図示しないメモリに予め記憶された(あるいはネットワークを通じてインストールされた)学習プログラムを起動することで、画像入力部112、教師データ格納部114、学習部116及び学習済モデル格納部118として動作する。なお、学習装置110と制御装置100を一体として構成しても良い。
【0070】
画像入力部112は、テスト研磨により基板研磨が終了した時点でのカラーマップの画像を入力し、所定周波数帯域及び所定時間で確定される一部の画像(教師データ)として、教師データ格納部114に格納する。学習部116は、前述したニューラルネットワーク120と同等の構成を備えており、当該教師データが入力されると基準値を超える推定情報が出力として得られるように、各ニューロンの重み及び閾値を調整することで、ニューラルネットワークの学習を行う。教師データ格納部114に格納された複数の教師データに対して、基準値を超える推定情報が出力された段階で、学習を終了し、学習済モデル格納部118に学習済モデルとして記憶する。また、学習装置110は、学習が終了した学習済モデルのデータを制御装置100に送り、これにより制御装置100の学習済モデル106がアップデートされる。
【0071】
図16は、本実施形態に係る基板処理制御を含む半導体デバイスの製造方法を概略的に示すフローチャートである。まず、基板Wを準備する(ステップS101)。次に、例えばフォトリソグラフィーを用いて基板Wの表面に開口パターンを形成し(ステップS102)、例えば化学気相成長(CVD)又は物理気相成長(PVD)を用いて開口パターンを有する基板Wの表面に例えば金属やシリコン酸化膜の膜を形成する(ステップS103)。そして、本実施形態に係る基板処理制御により、基板Wの表面の研磨を行う(ステップS104)。基板W表面への開口パターンの形成及び成膜と、基板Wの研磨とは、それぞれ、複数回行ってもよい。
【0072】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0073】
10 基板処理装置
15、100 制御装置
40 研磨ユニット
41 トップリング
42 研磨パッド
50、51 音響センサ
52 研磨制御部
54 スペクトル生成部
56 カラーマップ更新部
58、102 終点判定部
60 記憶部
80 集音マイク
106 学習済モデル
110 学習装置
W 基板