(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022128046
(43)【公開日】2022-09-01
(54)【発明の名称】カチオン交換樹脂及び脱塩方法
(51)【国際特許分類】
B01J 39/20 20060101AFI20220825BHJP
C02F 1/42 20060101ALI20220825BHJP
B01J 39/05 20170101ALI20220825BHJP
B01J 41/07 20170101ALI20220825BHJP
B01J 41/12 20170101ALI20220825BHJP
B01J 47/028 20170101ALI20220825BHJP
B01J 47/04 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
B01J39/20
C02F1/42 B
B01J39/05
B01J41/07
B01J41/12
B01J47/028
B01J47/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021026358
(22)【出願日】2021-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】外村 翼
(72)【発明者】
【氏名】矢野 勝彦
【テーマコード(参考)】
4D025
【Fターム(参考)】
4D025AA01
4D025AB18
4D025BA09
4D025BA11
4D025BA15
4D025BB02
4D025BB04
4D025BB09
(57)【要約】
【課題】ボイラ水を塩基性下で脱塩する際にナトリウム溶出量が極めて少ないカチオン交換樹脂を提供する。ナトリウム溶出量が極めて少ない脱塩方法を提供する。
【解決手段】ボイラ水を塩基性下で脱塩する際に用いるカチオン交換樹脂であって、架橋度が11%~30%である、カチオン交換樹脂。このカチオン交換樹脂を用いて脱塩する、脱塩方法。カチオン交換樹脂はスチレン系樹脂であってスルホン酸基を有するゲル型カチオン交換樹脂が好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラ水を塩基性下で脱塩する際に用いるカチオン交換樹脂であって、架橋度が11%~30%である、カチオン交換樹脂。
【請求項2】
スチレン系樹脂である、請求項1に記載のカチオン交換樹脂。
【請求項3】
スルホン酸基を有する、請求項1又は2に記載のカチオン交換樹脂。
【請求項4】
ゲル型である、請求項1~3のいずれか1項に記載のカチオン交換樹脂。
【請求項5】
前記脱塩時の前記ボイラ水のpHが、9以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載のカチオン交換樹脂。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のカチオン交換樹脂を用いて脱塩する、脱塩方法。
【請求項7】
更に、アニオン交換樹脂を用いる、請求項6に記載の脱塩方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン交換樹脂及び脱塩方法に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電プラントでは、水を循環させることで、ボイラで発生した熱エネルギーを蒸気タービンでの回転エネルギーへと変換させる。
【0003】
この火力発電プラントで用いるボイラ水としては、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とを備えた混床式の脱塩装置を用いて不純物を除去した脱塩水を用いるのが一般的である。例えば、特許文献1に、火力発電プラントにおいて、混床式の脱塩装置を用いてpH9.8以上の塩基性下で不純物を除去した水をボイラ給水とする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている方法は、用いるイオン交換樹脂をボイラ水の脱塩処理に適合するように好適化しておらず、不純物の除去性能が不十分であるという課題を有する。
【0006】
ところで、火力発電プラントで用いるボイラ水に含まれる不純物の1種に、ナトリウムに代表される金属塩があり、そのナトリウムに代表される金属塩をカチオン交換樹脂によって捕捉することで、火力発電プラントで用いるボイラ水の脱塩・精製が行われる。火力発電プラントで用いるボイラ水は、塩基性下で脱塩することが多いが、ボイラ水を塩基性下で脱塩する際、ナトリウムを捕捉したカチオン交換樹脂からナトリウムが溶出されるため、脱塩・精製が不十分となるという課題を有する。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、ボイラ水を塩基性下で脱塩する際にナトリウム溶出量が極めて少ないカチオン交換樹脂を提供することにある。また、本発明のもう1つの目的は、ナトリウム溶出量が極めて少ない脱塩方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従来、ボイラ水を塩基性下で脱塩する際にナトリウム溶出量が極めて少ないカチオン交換樹脂が知られていなかったが、本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、カチオン交換樹脂の架橋度を好適化することで、ボイラ水を塩基性下で脱塩する際のナトリウム溶出量が極めて少なくなることを見出し、本発明に至った。
【0009】
即ち、本発明の要旨は、以下の通りである。
[1]ボイラ水を塩基性下で脱塩する際に用いるカチオン交換樹脂であって、架橋度が11%~30%である、カチオン交換樹脂。
[2]スチレン系樹脂である、[1]に記載のカチオン交換樹脂。
[3]スルホン酸基を有する、[1]又は[2]に記載のカチオン交換樹脂。
[4]ゲル型である、[1]~[3]のいずれかに記載のカチオン交換樹脂。
[5]前記脱塩時の前記ボイラ水のpHが、9以上である、[1]~[4]のいずれかに記載のカチオン交換樹脂。
[6][1]~[5]のいずれかに記載のカチオン交換樹脂を用いて脱塩する、脱塩方法。
[7]更に、アニオン交換樹脂を用いる、[6]に記載の脱塩方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のカチオン交換樹脂は、ボイラ水を塩基性下で脱塩する際のナトリウム溶出量が極めて少ない。また、本発明の脱塩方法は、ナトリウム溶出量が極めて少ないボイラ水の脱塩方法である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明について詳述するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更して実施することができる。
本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
また、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」、「メタクリル」又はその両者をいい、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」、「メタクリレート」又はその両者をいう。
【0012】
(カチオン交換樹脂の種類・製造方法)
本発明のカチオン交換樹脂は、架橋度が11%~30%のカチオン交換樹脂である。
【0013】
カチオン交換樹脂の樹脂の種類としては、例えば、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、アミド系樹脂等が挙げられる。これらの樹脂の種類の中でも、製造が容易で、製造再現性に優れることから、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂が好ましく、スチレン系樹脂がより好ましい。
【0014】
カチオン交換樹脂の架橋度は、11%~30%であり、12%~20%が好ましく、13%~16%がより好ましい。カチオン交換樹脂の架橋度が11%以上であると、カチオン交換樹脂の機械的強度、耐酸化性に優れると共に、ナトリウム溶出量を極めて少なくできる。また、カチオン交換樹脂の架橋度が30%以下であると、カチオン交換樹脂のイオン交換反応速度に優れる。
カチオン交換樹脂の架橋度は、カチオン交換樹脂の全単量体単位中の架橋性単量体単位の含有率(質量)で定義される。
【0015】
架橋されたカチオン交換樹脂は、架橋性単量体を含む単量体を重合することで得られる。
【0016】
架橋性単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルナフタレン、ジビニルキシレン、ジビニルビフェニル等の架橋性芳香族ビニル単量体;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、アルキレンジ(メタ)アクリレート、N,N’-アルキレンビス(メタ)アクリルアミド、グリセロールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の架橋性(メタ)アクリレート単量体;メチレンビス(メタ)アクリルアミド、ピペラジンジ(メタ)アクリルアミド、ジアリル酒石酸ジアミド等の架橋性アミド単量体;イソシアヌル酸トリアリル;トリアリルアミン等が挙げられる。これらの架橋性単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの架橋性単量体の中でも、経済性、化学的安定性に優れることから、架橋性芳香族ビニル単量体が好ましく、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルナフタレン、ジビニルキシレン、ジビニルビフェニルがより好ましく、ジビニルベンゼンが更に好ましい。
【0017】
カチオン交換樹脂の原料となる単量体は、イオン交換特性に影響を与えるカチオン交換樹脂の水分含有量を制御することができることから、架橋性単量体以外に、非架橋性単量体を含むことが好ましい。
【0018】
非架橋性単量体としては、例えば、スチレン、アルキルスチレン(例えば、メチルスチレン、エチルスチレン、α-メチルスチレン等)、ハロゲノスチレン(例えば、クロロスチレン等)、ハロアルキルスチレン(例えば、クロロメチルスチレン、ブロモブチルスチレン等)、アルコキシスチレン、アリールスチレン等の芳香族モノビニル単量体;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート、4,5-エポキシブチル(メタ)アクリレート、9,10-エポキシステアリル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリレート;(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類;(メタ)アクリロニトリル等のシアノ基含有(メタ)アクリレート;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のモノビニルエステル単量体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のモノビニルエーテル単量体等が挙げられる。これらの非架橋性単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの非架橋性単量体の中でも、化学的安定性に優れることから、芳香族モノビニル単量体が好ましく、スチレン、アルキルスチレン、アルコキシスチレン、アリールスチレン、ハロゲノスチレン、ハロアルキルスチレンがより好ましく、スチレンが更に好ましい。
【0019】
カチオン交換樹脂の原料となる単量体中の架橋性単量体の含有率は、単量体全量100質量%中、11質量%~30質量%が好ましく、12質量%~20質量%がより好ましい。架橋性単量体の含有率が1質量%以上であると、カチオン交換樹脂の機械的強度、耐酸化性に優れると共に、ナトリウム溶出量を極めて少なくできる。また、架橋性単量体の含有率が30質量%以下であると、カチオン交換樹脂のイオン交換反応速度に優れる。
【0020】
カチオン交換樹脂の原料となる単量体中の非架橋性単量体の含有率は、単量体全量100質量%中、70質量%~89質量%が好ましく、80質量%~88質量%がより好ましい。非架橋性単量体の含有率が70質量%以上であると、カチオン交換樹脂のイオン交換反応速度に優れる。また、非架橋性単量体の含有率が89質量%以下であると、カチオン交換樹脂の機械的強度、耐酸化性に優れると共に、ナトリウム溶出量を極めて少なくできる。
【0021】
単量体の重合方法は、得られるカチオン交換樹脂の形状が真球状となり、充填床を用いてイオン交換処理を施す流体の流通特性に優れることから、懸濁重合、乳化重合が好ましく、懸濁重合がより好ましい。
【0022】
懸濁重合は、単量体及び重合開始剤等を含む有機相を、分散安定剤等を含む水相に分散させ、加熱等により重合反応を行う方法である。
【0023】
重合開始剤としては、例えば、ジ-t-ヘキシルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、ジ-t-ブチルパーオキシド、t-ヘキシルパーベンゾエート、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-ブチルクミルパーオキシド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、ジ-(3-メチルベンゾイル)ペルオキシド、ベンゾイル(3-メチルベンゾイル)ペルオキシド、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、過酸化水素、過硫酸塩等の過酸化物系重合開始剤;アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系重合開始剤等が挙げられる。これらの重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの重合開始剤の中でも、取り扱い性、経済性に優れることから、過酸化物系重合開始剤が好ましく、過酸化ベンゾイル、ジ-(3-メチルベンゾイル)ペルオキシド、ベンゾイル(3-メチルベンゾイル)ペルオキシド、t-ブチルパーオキシベンゾエートがより好ましい。
【0024】
重合開始剤の使用量は、用いる単量体や重合開始剤の種類に応じて適宜設定すればよいが、単量体全量100質量部に対して、0.05質量部~10質量部が好ましく、0.1質量部~5質量部がより好ましい。重合開始剤の使用量が上記下限値以上であると、重合が進行しやすい。また、重合開始剤の使用量が上記上限値以下であると、得られるカチオン交換樹脂の平均分子量が十分大きく、機械的強度、イオン交換速度に優れる。
【0025】
分散安定剤としては、例えば、ゼラチン、でんぷん、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル部分加水分解物、ポリアクリルアミド、ポリ(ジメチルジアリル)アンモニウムクロリド、カルボキシメチルメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ケイ酸マグネシウム等が挙げられる。これらの分散安定剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの分散安定剤の中でも、分散安定性に優れることから、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル部分加水分解物、カルボキシメチルメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースが好ましい。
【0026】
水相中の分散安定剤の含有率は、水相成分の種類や所望の粒子径に応じて適宜設定すればよいが、水相の全量100質量%中、0.01質量%~5質量%が好ましく、0.05質量%~3質量%がより好ましい。分散安定剤の含有率が上記下限値以上であると、有機相の液滴の合着や破砕を抑制し、有機相の液滴の粒子径の均一性に優れる。また、分散安定剤の含有率が上記上限値以下であると、得られるカチオン交換樹脂表面からの分散安定剤の除去が容易となる。
【0027】
重合温度は、20℃~250℃が好ましく、40℃~150℃がより好ましい。重合温度が20℃以上であると、重合が進行しやすい。また、重合温度が250℃以下であると、解重合を抑制することができる。
【0028】
重合時間は、1時間~24時間が好ましく、2時間~12時間がより好ましい。重合時間が1時間以上であると、重合が進行しやすい。また、重合時間が24時間以下であると、カチオン交換樹脂の生産性に優れる。
【0029】
重合雰囲気は、空気であっても、不活性ガスであってもよいが、安全性、製造再現性に優れることから、不活性ガスが好ましい。不活性ガスとしては、例えば、窒素、二酸化炭素、アルゴン等が挙げられる。
【0030】
懸濁重合では、有機相と水相とを反応器中に供給し、撹拌等の手段により懸濁状態にしながら単量体の重合を行う。有機相と水相との浴比は、製造再現性に優れることから、有機相の体積:水相の体積の比で、1:0.5~15が好ましく、1:1.5~10がより好ましい。
【0031】
カチオン交換樹脂の交換基としては、例えば、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基等が挙げられる。これらのカチオン交換樹脂の交換基は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのカチオン交換樹脂の交換基の中でも、カチオン交換樹脂のイオン交換性能に優れることから、スルホン酸基、カルボン酸基が好ましく、スルホン酸基がより好ましい。
【0032】
カチオン交換基を樹脂に導入する方法は、樹脂合成時にカチオン交換基を導入する方法であっても、樹脂合成後にカチオン交換基を導入する方法であってもよいが、製造が容易であることから、樹脂合成後にカチオン交換基を導入する方法が好ましい。
【0033】
カチオン交換基は、公知の方法により導入することができる。例えば、スルホン酸基を導入する方法としては、特開平5-132565号公報、特表平10-508061号公報等に記載の方法が用いられる。
【0034】
カチオン交換樹脂の構造としては、例えば、ゲル型、ポーラス型等が挙げられる。これらのカチオン交換樹脂の中でも、カチオン交換樹脂の機械的強度、イオン交換容量に優れることから、ゲル型が好ましい。
【0035】
ポーラス型のカチオン交換樹脂を得るためには、重合時に多孔質化剤を用いればよい。
多孔質化剤としては、例えば、公知の多孔質化溶媒、公知の直鎖状高分子等が挙げられる。
【0036】
カチオン交換樹脂の塩形としては、例えば、H形、アンモニア形、Na形、Ca形等が挙げられる。これらのカチオン交換樹脂の塩形の中でも、脱塩性に優れることから、H形、アンモニア形が好ましく、H形がより好ましい。
【0037】
カチオン交換樹脂のイオン交換容量は、0.01meq/mL~20meq/mLが好ましく、0.1meq/mL~10meq/mLがより好ましい。カチオン交換樹脂のイオン交換容量が0.01meq/mL以上であれば、カチオン交換性能に優れる。また、カチオン交換樹脂のイオン交換容量が20meq/mL以下であれば、カチオン交換樹脂の機械的強度が優れる。
本明細書において、カチオン交換樹脂のイオン交換容量は、カチオン交換樹脂(イオン形はH形)10mLをメスシリンダーに採取し、5質量%食塩水溶液250mLをSV70で流し、濾液を250mLのメスフラスコに受け定容とし、これよりホールピペットで50mLの液を正確に取り、メチルレッド・メチレンブルー混合指示薬を用い0.1mol/L-NaOHで滴定し、算出する。
【0038】
カチオン交換樹脂の体積平均粒子径は、50μm~1500μmが好ましく、100μm~1200μmがより好ましく、150μm~800μmが更に好ましい。カチオン交換樹脂の体積平均粒子径が50μm以上であると、カチオン交換樹脂をカラムに充填して通液したときの圧力損失を抑制し、通液速度を高めることができ、精製処理の生産性に優れる。また、カチオン交換樹脂の体積平均粒子径が1500μm以下であると、カラム効率に優れ、脱塩性能や分離能に優れる。
本明細書において、カチオン交換樹脂の体積平均粒子径は、光学顕微鏡を用いて任意の400個のカチオン交換樹脂の粒子径を測定し、その分布から算出した体積メジアン径である。
【0039】
カチオン交換樹脂は、市販のカチオン交換樹脂を用いてもよい。市販のカチオン交換樹脂としては、例えば、UBK14H(三菱ケミカル株式会社製)、UBK12(三菱ケミカル株式会社製)、SK112(三菱ケミカル株式会社製)等が挙げられる。これらのカチオン交換樹脂は、通常軟化処理に用いられるものであり、塩基性下でのボイラ水の脱塩には用いられていない。
【0040】
(カチオン交換樹脂の脱塩条件)
本発明のカチオン交換樹脂は、ボイラ水を塩基性下で脱塩する際に用いられる。
【0041】
脱塩時のボイラ水のpHは、9~10.5が好ましく、9.1~9.9がより好ましい。脱塩時のボイラ水のpHが9以上であると、ボイラ水中の鉄濃度を低減することができ、ボイラの伝熱管内への酸化鉄の付着を抑制することができる。脱塩時のボイラ水のpHが10以下であると、カチオン交換樹脂の再生頻度を下げることができる。
【0042】
通常、ボイラ水はカチオン交換樹脂を充填したカラムに所定の通水速度で通水することで脱塩処理される。このときのボイラ水の通水速度SVは20hr-1~60hr-1とすることが好ましい。通水速度が20hr-1以上であれば、通水する水の量を少なくすることができ、60hr-1以下であればカチオン交換樹脂の量を少なくすることができる。
【0043】
(脱塩方法)
本発明の脱塩方法は、本発明のカチオン交換樹脂を用いて脱塩する方法である。
【0044】
本発明の脱塩方法は、アニオン性の不純物イオンも除去することができることから、本発明のカチオン交換樹脂と共にアニオン交換樹脂を用いることが好ましい。
【0045】
アニオン交換樹脂の樹脂の種類としては、例えば、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、アミド系樹脂等が挙げられる。これらの樹脂の種類の中でも、製造が容易で、製造再現性に優れることから、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂が好ましく、スチレン系樹脂がより好ましい。
【0046】
アニオン交換樹脂の交換基としては、例えば、トリメチルアンモニウム基、ジメチルエタノールアンモニウム基、ジメチルアミノ基等が挙げられる。これらのアニオン交換樹脂の交換基は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのアニオン交換樹脂の交換基の中でも、アニオン交換樹脂のイオン交換性能に優れることから、トリメチルアンモニウム基、ジメチルエタノールアンモニウム基が好ましく、トリメチルアンモニウム基がより好ましい。
【0047】
アニオン交換樹脂の塩形としては、例えば、OH形、Cl形、炭酸形等が挙げられる。これらのアニオン交換樹脂の塩形の中でも、脱塩性に優れることから、OH形、炭酸形が好ましく、OH形がより好ましい。なお、異なる塩形のアニオン交換樹脂を混合して用いてもよい。
【0048】
アニオン交換樹脂は、市販のカチオン交換樹脂を用いてもよく、例えば、SA10AOH(三菱ケミカル株式会社製)、UBA120OH(三菱ケミカル株式会社製)等が挙げられる。
【0049】
カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂とを併用する場合、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂との混床としてもよく、カチオン交換樹脂床とアニオン交換樹脂床との2床型としてもよい。
【0050】
脱塩前のボイラ水のナトリウム濃度、脱塩時のボイラ水のpHは、前述と同様である。
本発明では、このようなボイラ水を本発明のカチオン交換樹脂を用いて脱塩処理することで、脱塩処理後のボイラ水のナトリウム濃度を10ppb以下に脱塩することが好ましく、0.1ppb~5ppbに脱塩することがより好ましい。
【0051】
(カチオン交換樹脂の用途)
本発明のカチオン交換樹脂は、ナトリウム溶出量が極めて少ないことから、火力発電プラントで用いるボイラ水の脱塩に特に好適である。
【実施例0052】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0053】
[実施例1]
架橋度14%のH形のカチオン交換樹脂(スルホン酸基を有するスチレン系樹脂、商品名「UBK14H」、三菱ケミカル株式会社製)99.9質量%及び架橋度14%のNa形のカチオン交換樹脂(スルホン酸基を有するスチレン系樹脂、商品名「UBK14」、三菱ケミカル株式会社)0.1質量%を混合した50mLのカチオン交換樹脂の混合物を、カラム(株式会社フロンケミカル製、カラム管内径20mm、カラム管長さ300mm、材質パーフルオロアルコキシアルカン樹脂)に充填した。カラムを定量ポンプ(機種名「Qシリーズ」、株式会社タクミナ製)に接続し、超純水(ナトリウム濃度0.1ppb以下)をSV30hr-1で1時間通水し、前洗浄を行った。次いで、アンモニア水を用いてpHを9.4に調製した超純水(ナトリウム濃度0.1ppb以下)をSV30hr-1で1時間通水し、カラム出口から出口水を採取した。得られた出口水について、ICP-MS(機種名「ELEMENT2」、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて、ナトリウム濃度(ppt)を測定した。
【0054】
[実施例2~10]
H形のカチオン交換樹脂の含有率、Na形のカチオン交換樹脂の含有率、脱塩する超純水のpHを表1のように変更した以外は、実施例1と同様に操作を行った。
【0055】
[比較例1]
H形のカチオン交換樹脂を架橋度10%のH形のカチオン交換樹脂(スルホン酸基を有するスチレン系樹脂、商品名「UBK10H」、三菱ケミカル株式会社製)に、Na形のカチオン交換樹脂を架橋度10%のNa形のカチオン交換樹脂(スルホン酸基を有するスチレン系樹脂、商品名「UBK10」、三菱ケミカル株式会社)に変更した以外は、実施例1と同様に操作を行った。
【0056】
[比較例2~10]
H形のカチオン交換樹脂の含有率、Na形のカチオン交換樹脂の含有率、脱塩する超純水のpHを表1のように変更した以外は、比較例1と同様に操作を行った。
【0057】
【0058】
表1からも分かるように、架橋度10%のカチオン交換樹脂を用いた比較例1~10に対し、架橋度14%のカチオン交換樹脂を用いた実施例1~10は、ナトリウム溶出量が極めて少ないことが確認できた。カチオン交換樹脂内の架橋がより密になることで、ナトリウム溶出量が抑制されたと考えられる。