(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022128421
(43)【公開日】2022-09-01
(54)【発明の名称】ウェアラブルセンシング装置
(51)【国際特許分類】
G01D 5/12 20060101AFI20220825BHJP
G01R 33/02 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
G01D5/12 H
G01R33/02 A
G01R33/02 D
G01R33/02 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022054
(22)【出願日】2022-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2021026082
(32)【優先日】2021-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度 国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、総括実施型研究ERATO「川原万有情報網プロジェクト」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川原 圭博
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亮
(72)【発明者】
【氏名】笹谷 拓也
【テーマコード(参考)】
2F077
2G017
【Fターム(参考)】
2F077FF04
2F077FF39
2F077TT07
2F077TT23
2F077TT82
2G017AA02
2G017AD02
2G017BA05
(57)【要約】
【課題】人体に磁界の影響を与えることなく、より良好にセンシングする。
【解決手段】ウェアラブルセンシング装置は、導電糸を用いて衣類に組み込まれたリーダコイルとリーダコイルに交番電圧を供給する電源とを有するリーダ回路を備え、リーダコイルの巻回線の間に配置された少なくとも1つの第1センサコイルのインピーダンス変化をセンシングする。リーダコイルは、巻回軸に対して一巻回方向の巻回と他巻回方向の巻回とを所定の間隔を持って交互に行なって得られるメアンダコイルとして構成されており、リーダ回路は、リーダコイルの巻回の方向を変更する位置の少なくとも一部に電気的に等間隔に配置された複数のコンデンサを有する。そして、リーダ回路と共にバランスドブリッジ回路を構成し、リーダ回路に対してインピーダンス整合された参照回路を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電糸を用いて衣類に組み込まれたリーダコイルと前記リーダコイルに交番電圧を供給する電源とを有するリーダ回路を備え、リーダコイルの巻回線の間に配置された少なくとも1つの第1センサコイルのインピーダンス変化をセンシングするウェアラブルセンシング装置であって、
前記リーダコイルは、巻回軸に対して一巻回方向の巻回と他巻回方向の巻回とを所定の間隔を持って交互に行なって得られるメアンダコイルとして構成されており、
前記リーダ回路は、前記リーダコイルの巻回の方向を変更する位置の少なくとも一部に電気的に等間隔に配置された複数のコンデンサを有し、
更に、
前記リーダ回路と共にバランスドブリッジ回路を構成し、前記リーダ回路に対してインピーダンス整合された参照回路を備える、
ことを特徴とするウェアラブルセンシング装置。
【請求項2】
請求項1記載のウェアラブルセンシング装置であって、
前記参照回路は、前記リーダコイルと同一の第2コイルと、前記複数のコンデンサと同一の複数の第2コンデンサと、前記電源と同一の第2電源と、を有し、前記リーダ回路と同一の回路として構成されている、
ウェアラブルセンシング装置。
【請求項3】
請求項1記載のウェアラブルセンシング装置であって、
前記参照回路は、前記リーダコイルとは巻回数が異なるメアンダコイルとして構成された第2コイルと、前記複数のコンデンサと同一であるが数の異なる複数の第2コンデンサと、前記電源とは電圧が異なる第2電源と、を有し、前記リーダ回路と同様の接続状態として構成された回路として構成されている、
ウェアラブルセンシング装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載のウェアラブルセンシング装置であって、
前記参照回路の前記第2コイルの巻回線の間に配置された少なくとも1つの第2センサコイルを備え、
前記参照回路をリーダ回路として機能させると共に前記リーダ回路を参照回路として機能させて前記第2コイルの巻回線の間に配置された少なくとも1つの第2センサコイルのインピーダンス変化をセンシングする、
ウェアラブルセンシング装置。
【請求項5】
請求項4記載のウェアラブルセンシング装置であって、
前記リーダコイルは、前記衣類の筒状部位の一端側から中央に向けて配置され、
前記第2コイルは、前記衣類の前記周状部位の他端側から中央に向けて配置された、
ウェアラブルセンシング装置。
【請求項6】
請求項4記載のウェアラブルセンシング装置であって、
前記リーダコイルは、前記衣類の一対の筒状部位の一方の部位に配置され、
前記第2コイルは、前記衣類の前記一対の筒状部位の他方に部位も配置された、
ウェアラブルセンシング装置。
【請求項7】
請求項4記載のウェアラブルセンシング装置であって、
前記リーダコイルは、半周で折り返すように形成され、前記衣類の筒状部位の前面側に配置され、
前記第2コイルは、半周で折り返すように形成され、前記衣類の前記筒状部位の後面側に配置された、
ウェアラブルセンシング装置。
【請求項8】
請求項4記載のウェアラブルセンシング装置であって、
前記リーダコイルは、半周で折り返すように形成され、前記衣類の筒状部位を中心軸を含む面で分割したときの一方の半周面側に配置され、
前記第2コイルは、半周で折り返すように形成され、前記衣類の前記筒状部位の前記一側面側と対をなす他方の半周面側に配置された、
ウェアラブルセンシング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェアラブルセンシング装置に関し、詳しくは、導電糸を用いて衣類に組み込まれたリーダコイルを有するウェアラブルセンシング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術としては、人体に固定する複数のセンサモジュールと、この複数のセンサモジュールに対向するように衣服に取り付けられた複数のアンテナモジュールと、コントローラとを備えるセンシングシステムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このセンシングシステムでは、複数のセンサモジュールはセンサチップとコイルアンテナとを有し、複数のアンテナモジュールはコイルアンテナとスイッチとを有ている。そして、コントローラにより、特定のアンテナモジュールのスイッチをオンとしてアンテナモジュールのコイルアンテナとセンサモジュールのコイルアンテナとを通じて通信可能となったセンサモジュールのセンサチップに電力を供給すると共にその出力信号を受信する。
【0003】
また、非導電性の基布に導電性繊維もしくは導電性媒質により形成された共振構造を備えるものも提案されている(例えば、特許文献2参照)この技術では、入射した電磁波と共振することにより入射した電磁波を変化させ、物理量に応じた変形により電磁波に対する変化度合を変化させる。これにより、衣服の美観・外見を大きく損なうことなく、繊維のみでウェアラブルなセンサデバイスを実現するとしている。
【0004】
さらに、有機繊維を芯に丸撚りしたアルミ箔導電性繊維に、他種の導電糸をアルミ箔導電糸に巻きつけた導電繊維も提案されている(例えば特許文献3参照)。この導電繊維では、アルミ箔の亀裂、剥離による断線を防ぎ、しなやかで屈曲性の良いものとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6653819号
【特許文献2】特開2019-148599号公報
【特許文献3】特開2016-061006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来この種の技術としては、健康管理や行動認識などのために、これらに必要なセンサを衣服や人体に配置してセンシングすることが行なわれている。上述の特許文献1に記載されたシステムでは、センサモジュールを人体に取り付けると共にアンテナモジュールを衣服に取り付けるため、センサモジュールとアンテナモジュールとの位置がズレると、コイルアンテナの結合度が低くなり、電力の供給やセンサ出力信号の受信が良好に行なうことができない場合が生じる。また、コイルアンテナの巻回軸に生じる磁界が人体を貫く場合には人体に対する磁界の影響も考慮する必要がある。
【0007】
本発明のウェアラブルセンシング装置は、人体に磁界の影響を与えることなく、より良好にセンシングすることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のウェアラブルセンシング装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0009】
本発明のウェアラブルセンシング装置は、
導電糸を用いて衣類に組み込まれたリーダコイルと前記リーダコイルに交番電圧を供給する電源とを有するリーダ回路を備え、リーダコイルの巻回線の間に配置された少なくとも1つの第1センサコイルのインピーダンス変化をセンシングするウェアラブルセンシング装置であって、
前記リーダコイルは、巻回軸に対して一巻回方向の巻回と他巻回方向の巻回とを所定の間隔を持って交互に行なって得られるメアンダコイルとして構成されており、
前記リーダ回路は、前記リーダコイルの巻回の方向を変更する位置の少なくとも一部に電気的に等間隔に配置された複数のコンデンサを有し、
更に、
前記リーダ回路と共にバランスドブリッジ回路を構成し、前記リーダ回路に対してインピーダンス整合された参照回路を備える、
ことを特徴とする。
【0010】
この本発明のウェアラブルセンシング装置では、リーダコイルは、巻回軸に対して一巻回方向の巻回と他巻回方向の巻回とを所定の間隔を持って交互に行なって得られるメアンダコイルとして構成されている。リーダコイルの巻回軸では、一巻回方向の巻回による磁界と他巻回方向の巻回による磁界とが打ち消すから磁界は生じない。このため、人体にリーダコイルによる磁界の影響を与えるのを抑制することができる。また、本発明のウェアラブルセンシング装置では、リーダ回路は、リーダコイルの巻回の方向を変更する位置の少なくとも一部に電気的に等間隔に配置された複数のコンデンサを有する。第1センサコイルのインピーダンス変化を感度よくセンシングするには、リーダコイルのインダクタンスを大きくすると共に周波数を高くすることが考えられるが、リーダコイルの巻回数を多くしてインダクタンスを大きくするとコイルがコンデンサのように機能するため、周波数を下げる必要が生じる。一方、コイルに複数のコンデンサを適度に分散配置すると、コイルのインダクタンスを大きくしても高い周波数とすることができる。このように、リーダコイルに複数のコンデンサを取り付けることにより、リーダコイルの巻回数を多くしてインダクタンスを大きくしても高い周波数で機能させることができ、センシングの感度をより高くすることができる。さらに、本発明のウェアラブルセンシング装置では、リーダ回路と共にバランスドブリッジ回路を構成し、前記リーダ回路に対してインピーダンス整合された参照回路を備える。これにより、高感度でセンシングすることができる。これらの結果、人体に磁界の影響を与えることなく、より良好にセンシングすることができる。
【0011】
本発明のウェアラブルセンシング装置において、前記参照回路は、前記リーダコイルと同一の第2コイルと、前記複数のコンデンサと同一の複数の第2コンデンサと、前記電源と同一の第2電源と、を有し、前記リーダ回路と同一の回路として構成されているものとしてもよい。こうすれば、より良好なインピーダンス整合を行なうことができ、より感度よくセンシングすることができる。
【0012】
また、本発明のウェアラブルセンシング装置において、前記参照回路は、前記リーダコイルとは巻回数が異なるメアンダコイルとして構成された第2コイルと、前記複数のコンデンサと同一であるが数の異なる複数の第2コンデンサと、前記電源とは電圧が異なる第2電源と、を有し、前記リーダ回路と同様の接続状態として構成された回路として構成されているものとしてもよい。こうすれば、リーダコイルと第2コイルとの体格を異なるものとすることができる。
【0013】
参照回路が第2コイルと複数の第2コンデンサと第2電源を備える態様の本発明のウェアラブルセンシング装置において、前記参照回路の前記第2コイルの巻回線の間に配置された少なくとも1つの第2センサコイルを備え、前記参照回路をリーダ回路として機能させると共に前記リーダ回路を参照回路として機能させて前記第2コイルの巻回線の間に配置された少なくとも1つの第2センサコイルのインピーダンス変化をセンシングするものとしてもよい。即ち、リーダ回路による第1センサコイルのインピーダンス変化のセンシングと,参照回路による第2センサコイルのインピーダンス変化のセンシングとを行なうものとするのである。これにより、リーダ回路におけるリーダコイルの巻回線の間にセンサコイルを配置するだけでなく、参照回路における第2コイルの巻回線の間にもセンサコイルを配置することができる。
【0014】
参照回路をリーダ回路として機能させる態様の本発明のウェアラブルセンシング装置において、前記リーダコイルは、前記衣類の筒状部位の一端側から中央に向けて配置され、前記第2コイルは、前記衣類の前記周状部位の他端側から中央に向けて配置されたものとしてもよい。例えば、参照回路をリーダ回路と同一の構成としてシャツに配置する場合には、シャツの胴部分の上半分にリーダコイルと第2コイルのうちの一方を配置し、シャツの胴部分の下半分にリーダコイルと第2コイルのうちの他方を配置するものとすればよい。また、参照回路の第2コイルの巻回数をリーダ回路のリーダコイルの巻回数の半分とした構成としてシャツに配置する場合には、シャツの胴部分の上から1/3までに第2コイルを配置すると共にシャツの胴部分の上から1/3から下端までにリーダコイルを配置したり、逆に、シャツの胴部分の上から2/3までにリーダコイルを配置し、シャツの胴部分の上から2/3から下端までに第2コイルを配置するものとすればよい。
【0015】
また、参照回路をリーダ回路として機能させる態様の本発明のウェアラブルセンシング装置において、前記リーダコイルは、前記衣類の一対の筒状部位の一方の部位に配置され、前記第2コイルは、前記衣類の前記一対の筒状部位の他方に部位も配置されたものとしてもよい。例えば、参照回路をリーダ回路と同一の構成としてシャツに配置する場合には、右袖にリーダコイルと第2コイルのうちの一方を配置し、左袖にリーダコイルと第2コイルのうちの他方を配置するものとしたり、ズボンに配置する場合には、右股下部分にリーダコイルと第2コイルのうちの一方を配置し、左股下部分にリーダコイルと第2コイルのうちの他方を配置するものとすればよい。
【0016】
さらに、参照回路をリーダ回路として機能させる態様の本発明のウェアラブルセンシング装置において、前記リーダコイルは、半周で折り返すように形成され、前記衣類の筒状部位の前面側に配置され、前記第2コイルは、半周で折り返すように形成され、前記衣類の前記筒状部位の後面側に配置されたものとしてもよい。例えば、参照回路をリーダ回路と同一の構成としてシャツに配置する場合には、シャツの前身頃にリーダコイルと第2コイルのうちの一方を配置し、シャツの後身頃にリーダコイルと第2コイルのうちの他方を配置するものとすればよい。
【0017】
また、参照回路をリーダ回路として機能させる態様の本発明のウェアラブルセンシング装置において、前記リーダコイルは、半周で折り返すように形成され、前記衣類の筒状部位を中心軸を含む面で分割したときの一方の半周面側に配置され、
前記第2コイルは、半周で折り返すように形成され、前記衣類の前記筒状部位の前記一側面側と対をなす他方の半周面側に配置されたものとしてもよい。例えば、参照回路をリーダ回路と同一の構成としてシャツに配置する場合には、シャツの胴部の右半周面にリーダコイルと第2コイルのうちの一方を配置し、シャツの胴部の左半周面にリーダコイルと第2コイルのうちの他方を配置するものとすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態のウェアラブルセンシング装置20の構成の概略を示す構成図である。
【
図2】実施形態のウェアラブルセンシング装置20にセンサコイルS1~S5を配置したときのセンシングの様子を示す説明図である。
【
図3】リーダコイルRCとセンサコイルSとの磁気的な結合状態を示す説明図である。
【
図4】センサコイルSのインピーダンスが変化したときの共振周波数の変化を示す説明図である。
【
図5】リーダコイルRCとセンサコイルS1~S5との磁気的な結合状態を示す説明図である。
【
図6】センサコイルS1~S5の共振周波数を示す説明図である。
【
図7】リーダコイルRCにコンデンサ分散配置を施した場合を説明する説明図である。
【
図8】実施形態のウェアラブルセンシング装置20をバランスドブリッジ回路として示す回路図である。
【
図9】参照回路として半導体チップを用いた場合とリーダ回路と同一の回路(実施形態)を用いた場合の周波数の変化に対するコイル間のインピーダンスエラーを示す説明図である。
【
図10】参照回路として半導体チップを用いた場合とリーダ回路と同一の回路(実施形態)を用いた場合の異なる共振周波数に対する感度を示す説明図である。
【
図11】実施形態のウェアラブルセンシング装置20にセンサコイルS1~S5を配置してセンシングしたときの共振周波数に対するΔZinを示す説明図である。
【
図12】変形例のウェアラブルセンシング装置120の構成の概略を示す構成図である。
【
図13】変形例のウェアラブルセンシング装置220の構成の概略を示す構成図である。
【
図14】変形例のウェアラブルセンシング装置320の構成の概略を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、実施形態のウェアラブルセンシング装置20の構成の概略を示す構成図である。実施形態のウェアラブルセンシング装置20は、図示するように、第1リーダ回路30と、第2リーダ回路40と、オペアンプAmと、PC50とを備える。
【0020】
第1リーダ回路30は、衣類としてのシャツ22の胴部24に編み込まれた第1リーダコイル32と、リーダコイル32に分散配置された複数の第1コンデンサ34と、交番電圧の第1電源V1と、により構成されている。
【0021】
第1リーダコイル32は、導電糸により胴部24の中央より上部側に編み込まれており、胴部24の中心を巻回軸とし、巻回軸を一巻回方向(例えば時計回り方向))の巻回と他巻回方向(例えば反時計回り方向)の巻回とを所定の間隔を持って交互に行なって得られるメアンダコイルとして構成されている。複数の第1コンデンサ34は、第1リーダコイル32の巻回の方向を変更する位置(図中左側の折り返し位置)に電気的に等間隔となるように配置されている。第1リーダコイル32の一方の端子は第1電源V1の一方の端子に接続されており、他方の端子はオペアンプAmの反転入力端子に接続されている。なお、第1電源V1の他方の端子は接地されている。
【0022】
第2リーダ回路40は、第1リーダコイル32と同一で胴部24の中央より下部側に編み込まれた第2リーダコイル42と、第1リーダコイル32に分散配置された複数の第1コンデンサ34と同一で第2リーダコイル42に同様に分散配置された複数の第2コンデンサ42と、第1電源V1と同一ではあるが逆位相の第2電源V2と、を備える。第2リーダコイル42の一方の端子は第2電源V2の一方の端子に接続されており、他方の端子はオペアンプAmの反転入力端子に接続されている。なお、第2電源V2の他方の端子は接地されている。
【0023】
オペアンプAmは、負帰還回路に取り付けられた抵抗Rampと共に周知の反転増幅回路を構成し、非反転入力端子は接地されている。オペアンプAmの出力端子はPC50に入力されている。
【0024】
PC50は、CPUを中心とする周知のマイクロコンピュータとして構成されており、CPUの他に、ROMやRAM、入出力ポートなどを備える。
【0025】
図2は、実施形態のウェアラブルセンシング装置20にセンサコイルS1~S5を配置したときのセンシングの様子を示す説明図である。センサコイルS1~S5は、共振周波数が重ならないようように適度にインダクタンスやキャパシタンスが異なるコイルとして構成されており、図示しないセンサ部に接続されている。第1リーダコイル32と第2リーダコイル42に図中矢印のように電流を流すと、各コイル32,42の右側に示すようなコイル回りに磁界が生じる。シャツ22の胴部24の中心軸方向では、各コイル32,42がメアンダコイルとして構成されているため、磁界は打ち消される。このため、シャツ22を着たときに人体への磁界の影響は抑制される。一方、各リーダコイル32,42の隣接する巻線間では、磁界が強め合っているが、衣類の表面だけであるから、人体への磁界の影響は小さい。巻線間にセンサコイルS1~S5をその巻回軸が各リーダコイル32,42の巻回軸に直交するように配置すると、各センサコイル32,42の巻線間に生じる磁界が各センサコイルS1~S5を貫くようになり、各リーダコイル32,42と各センサコイルS1~S5とに磁気的結合が生じる。センサコイルS1~S5のセンサ部は、例えば感圧素子や感温素子などのセンシングデバイスとして構成されており、圧力や温度、歪みなどの物理的な状態量の変化に応じてそのインピーダンスを変化させる。このため、センサコイルS1~S5は、物理的な状態量に応じて共振周波数を変化させるものとなる。実施形態のウェアラブルセンシング装置20では、第1電源V1および第2電源V2の周波数を変化させてセンサコイルS1~S5の共振周波数を検出し、センサの物理的な状態量の変化を共振周波数の変化として検出する。
【0026】
次に、実施形態のウェアラブルセンシング装置20におけるセンシングについて説明する。実施形態のウェアラブルセンシング装置20では、パッシブインダクティブテレメトリとして機能する。
図3は、リーダコイルRCとセンサコイルSとの磁気的な結合状態を示す説明図であり、
図4は、センサコイルSのインピーダンスが変化したときの共振周波数の変化を示す説明図である。
図5は、リーダコイルRCとセンサコイルS1~S5との磁気的な結合状態を示す説明図であり、
図6は、センサコイルS1~S5の共振周波数を示す説明図である。
図3に示すように、リーダコイルRCに交番電圧を印加してリーダコイルRCに磁界を生じさせると、その磁界がセンサコイルSを貫き、リーダコイルRCとセンサコイルSとに磁気的結合が生じ、リーダコイルRCに印加する交番電圧の周波数を順次変化させることにより、センサコイルSの共振周波数を検出することができる。センサコイルSに接続されたセンサ部のインピーダンスを変化させると、
図4に示すように、検出されるセンサコイルSの共振周波数はf0からf0’に変化する。このように、リーダコイルRCに交番電圧を印加することにより、リーダコイルRCと磁気的に結合したセンサコイルSのセンサ部のインピーダンス変化を検出することができる。このため、センサコイルSには電源は不要となる。いま、共振周波数の変化範囲が重複しないように適度にインダクタンスやキャパシタンスが異なるように調整した複数のセンサコイルS1~S5を用いれば、
図5および
図6に示すように、1つのリーダコイルRCにより複数のセンサコイルS1~S5のセンサ部のインピーダンス変化を共振周波数の変化として検出することができるようになる。
図2の例では、第1リーダコイル32によりセンサコイルS1~S3のセンサ部のインピーダンス変化を検出し、第2リーダコイル42によりセンサコイルS4,S5のセンサ部のインピーダンス変化を検出する。
【0027】
センシングの感度は、リーダコイルとセンサコイルとの距離が小さくなるほど良好となり、リーダコイルのインダクタンスが大きいほど良好となり、リーダコイルに印加する交番電圧の周波数が高いほど良好となる。
図2に示すように、各リーダコイル32,42と各センサコイルS1~S5との距離については変更することはできないから、各リーダコイル32,42のインダクタンスを大きくすると共に各リーダコイル32,42に印加する交番電圧の周波数を高くするのが好ましい。一般に、インダクタンスを大きくするために巻回数を多くするとリーダコイルはコンデンサ的に機能するようになり、交番電圧の周波数を小さくする必要が生じる。
図7に示すように、リーダコイルRCに複数のコンデンサC1~C3を程度に分散配置すると、リーダコイルRCは高い周波数としてもインダクタンスの高いコイルとして機能する。実施形態のウェアラブルセンシング装置20では、
図1および
図2に示すように、各リーダコイル32.42の巻回の方向を変更する位置(図中左側の折り返し位置)に電気的に等間隔となるように複数のコンデンサ34,44を配置することにより、各リーダコイル32,42を高い周波数でも機能するインダクタンスの大きなコイルとしてセンシングの感度を良好なものとしている。
【0028】
実施形態のウェアラブルセンシング装置20では、センシングの感度を良好なものとするために、バランスドブリッジ回路を用いている。
図8は、実施形態のウェアラブルセンシング装置20をバランスドブリッジ回路として示す回路図である。第1リーダ回路30をインピーダンスZrefで一定の参照回路とし、第2リーダ回路40のインピーダンスZinが変化したときのオペアンプAmの出力Voutを考えると、出力Voutは、電源電圧をVinとすると、次式(1)により求めることができる。式(1)中、ΔZはZin-Zrefである。
【0029】
【0030】
いま、標準状態でのZinがZrefに等しくZinの標準状態からのズレをΔZinとすると、ΔZ=ΔZinとなる。センサコイルSのインピーダンス変化に基づくセンサコイルSと第2リーダコイル42との磁気的な結合状態の変化は、即ち共振周波数の変化はΔZinとして現われるから、これがオペアンプAmから増幅されて出力Voutとして出力される。ここで、標準状態のZinが100Ωであると共にZrefが99Ωの事例1と、標準状態のZinが100Ωであると共にZrefが90Ωの事例2とにおけるΔZの感度を考える。ΔZinが1Ωの場合、事例1では1Ω(標準状態でのZin-Zref)に対する1Ωの変化量であるから、変化量比(変化量/(標準状態でのZin-Zref))は1/1=1となる。一方、事例2では10Ω(標準状態でのZin-Zref)に対する1Ωの変化量となるから、変化量比は1/10=0.1となり、事例1に比して1/10となる。変化量比はセンシング感度を意図するから、ZinとZrefとの差分が小さいほど感度が良好となる。このため、リーダ回路に対してインピーダンス整合を施した参照回路を用いることにより、センシングの感度を良好なものとすることができる。実施形態のウェアラブルセンシング装置20では、第1リーダ回路30と第2リーダ回路40とを同一の構成とすることにより、リーダ回路と参照回路のインピーダンス整合を図っている。なお、第2リーダ回路40をインピーダンスZinで一定の参照回路とし、第1リーダ回路30のインピーダンスZrefが変化したときのオペアンプAmの出力Voutを考えれば、出力VoutはZinとZrefを入れ替えた式(1)となり、第1リーダ回路30を参照回路として考えたときと同様となる。即ち、実施形態のウェアラブルセンシング装置20では、第1リーダ回路30の第1リーダコイル32によりセンサコイルS1~S3のインピーダンス変化を検出するときには第2リーダ回路40を参照回路として機能させており、逆に、第2リーダ回路40の第2リーダコイル42によりセンサコイルS4,S5のインピーダンス変化を検出するときには第1リーダ回路30を参照回路として機能させている。
【0031】
参照回路としてインピーダンスZrefが標準状態のZinと同一となる半導体チップ(LCR回路)を用いることも可能であるが、半導体チップを用いた場合、一部の周波数を共振周波数とするセンサコイルに対しては良好な感度を示すが、それ以外の周波数では感度が低くなる場合が生じる。
図9は、参照回路として半導体チップを用いた場合とリーダ回路と同一の回路(実施形態)を用いた場合の周波数の変化に対するコイル間のインピーダンスエラーを示す説明図であり、
図10は、参照回路として半導体チップを用いた場合とリーダ回路と同一の回路(実施形態)を用いた場合の異なる共振周波数に対する感度を示す説明図である。図中、実線が実施形態であり、一点鎖線が半導体チップを用いた場合である。
図9に示すように、半導体チップを用いた場合には図中中央の範囲の周波数ではコイル間のインピーダンスエラーは小さいが、それ以外の周波数ではインピーダンスエラーが閾値を超えて大きくなる。一方、実施形態では、広範囲な周波数で閾値未満のインピーダンスエラーとなる。この結果、
図10に示すように、半導体チップを用いた場合には図中中央の範囲の周波数を共振周波数(f2)とするセンサコイルに対しては良好な感度を示すが、それ以外の周波数を共振周波数(f1,f3)とするセンサコイルに対しては感度が低くなる。一方、実施形態では、広範囲な周波数を共振周波数(f1~f3)とするセンサコイルに対して良好な感度となる。実施形態のウェアラブルセンシング装置20では、広範囲な周波数でセンシングの感度を良好なものとするために、第1リーダ回路30と第2リーダ回路40とを同一の構成としている。
【0032】
図11は、
図2に示すように実施形態のウェアラブルセンシング装置20にセンサコイルS1~S5を配置してセンシングしたときの共振周波数に対するΔZinを示す説明図である。図中、f1~f3はセンサコイルS1~S3の共振周波数であり、f4,f5はセンサコイルS4,S5の共振周波数である。第1リーダコイル32の巻線間に配置されたセンサコイルS1~S3に対するΔZinがプラス側(上側)に現われ、第2リーダコイル42の巻線間に配置されたセンサコイルS4,S5に対するΔZinがマイナス側(下側)に現われるのは、第1電源V1と第2電源V2が逆位相であることに基づく。
【0033】
以上説明した実施形態のウェアラブルセンシング装置20では、第1リーダコイル32や第2リーダコイル42を導電糸を用いてシャツ22の胴部24にメアンダコイルとして編み込むから、シャツ22を着たときに人体への磁界の影響を抑制することができ、第1リーダコイル32や第2リーダコイル42の巻線間にセンサコイルS1~S5を配置することにより、センサコイルS1~S5のセンサ部における物理的な状態量の変化を検出することができる。また、実施形態のウェアラブルセンシング装置20では、パッシブインダクティブテレメトリを採用しているから、センサコイルS1~S5に電源を持たせる必要がない。これにより、センサコイルを簡易で軽量なものとすることができる。さらに、実施形態のウェアラブルセンシング装置20では、第1リーダコイル32や第2リーダコイル42に複数のコンデンサ34,44を適度に分散配置したことにより、センシング感度を良好なものとすることができる。加えて、実施形態のウェアラブルセンシング装置20では、バランスドブリッジ回路を用いて検出するから、センシング感度を良好なものとすることができる。特に、第1リーダ回路30と第2リーダ回路40とを同一の構成とし、第1リーダコイル32の巻線間に配置したセンサコイルS1~S3のインピーダンス変化を検出するときには第2リーダ回路40を参照回路として機能させ、第2リーダコイル42の巻線間に配置したセンサコイルS4,S5のインピーダンス変化を検出するときには第1リーダ回路30を参照回路として機能させることにより、センシング感度をより良好とすると共により多くのセンサコイルのインピーダンス変化を同時にセンシングすることができる。
【0034】
実施形態のウェアラブルセンシング装置20では、第1リーダコイル32と第2リーダコイル42とを巻回軸を一巻回方向(例えば時計回り方向))の一周の巻回と他巻回方向(例えば反時計回り方向)の一周の巻回とを交互に行なって得られるメアンダコイルとして構成したが、一巻回方向の複数周の巻回と他巻回方向の複数周の巻回とを交互に行なって得られるメアンダコイルとして構成しても構わない。この場合、同一方向の複数周の巻回は密に行ない、隣接する他方向の複数周の巻回とある程度の距離を持つようにメアンダコイルを構成し、隣接する複数周の巻回の間にセンサコイルを配置するのが好ましい。
【0035】
実施形態のウェアラブルセンシング装置20では、第1リーダコイル32と第2リーダコイル42とを同一の巻回数のメアンダコイルとしたが、インピーダンス整合が図られていれば巻回数の異なるメアンダコイルとしても構わない。
図12は変形例のウェアラブルセンシング装置120の構成の概略を示す構成図である。変形例のウェアラブルセンシング装置120では、第1リーダ回路130は、巻回数の少ないメアンダコイルとして構成された第1リーダコイル132と少数のコンデンサ134とを備え、第2リーダ回路140は、巻回数の多いメアンダコイルとして構成された第2リーダコイル142と多数のコンデンサ144とを備える。インピーダンス整合を図るためには、第2リーダコイル142のインピーダンスをa倍すると第1リーダコイル132のインピーダンスに等しくなるようにすると共に、第1電源V1の交番電圧を第2電源V2の交番電圧のa倍とすればよい。この場合のオペアンプAmの出力Voutは次式(2)により求めることができる。式(2)中、Z1が第1リーダコイル142のインピーダンスであり、Z2が第2リーダコイル142のインピーダンスであり、ΔZはZ2-Z1である。このようにすれば、巻回数の異なる2つのメアンダコイルを用いてウェアラブルセンシング装置120を構成することができる。
【0036】
【0037】
実施形態のウェアラブルセンシング装置20では、シャツ22の胴部24の中央より上側に第1リーダコイル32を編み込み、胴部24の中央より下側に第2リーダコイル42を編み込んだが、シャツ22の胴部24を中心軸を含む面で分割したときの一方の半周面に第1リーダコイルを編み込み、胴部24の他方の半周面に第2リーダコイルを編み込むものとしてもよい。例えば、
図13の変形例のウェアラブルセンシング装置220に示すように、シャツ22の胴部24の前身頃に第1リーダコイル232を編み込み、胴部24の後身頃に第2リーダコイル242を編み込むものとしてもよい。この場合、第1リーダコイル232および第2リーダコイル242は、半周したところで折り返すものとし、この折り返し部に複数のコンデンサ234,244を配置すればよい。また、胴部24の右半分側に第1リーダコイル232を編み込み、胴部24の左半分側に第2リーダコイル242を編み込むものとしてもよい。
【0038】
また、
図14の変形例のウェアラブルセンシング装置320に示すように、ズボンの一対の股下部のうちの一方の股下部に第1リーダコイル332を編み込み、他方の股下部に第2リーダコイル342を編み込むものとしてもよいし、図示しないが、シャツの一対の袖のうちの一方の袖に第1リーダコイルを編み込み、シャツの他方の袖に第2リーダコイルを編み込むものとしてもよい。
【0039】
実施例や変形例のウェアラブルセンシング装置20では、シャツやズボンに第1リーダコイル32,332と第2リーダコイル42.342を編み込むものとしたが、他の衣類、例えばセーターや帽子、靴下などに第1リーダコイルと第2リーダコイルとを編み込むものとしてもよい。
【0040】
実施形態の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施形態では、第1リーダコイル32や第2リーダコイル42が「リーダコイル」に該当し、第1電源V1や第2電源V2が電源に相当し、第1リーダ回路30や第2リーダ回路が「リーダ回路」に相当し、センサコイルS1~S5が「第1センサコイル」に相当し、複数のコンデンサ34,44が「複数のコンデンサ」に相当する。第1リーダ回路30が「リーダ回路」に相当するときには、第2リーダ回路が「参照回路」に相当し、第2リーダ回路40が「リーダ回路」に相当するときには第1リーダ回路が「参照回路」に相当する。
【0041】
なお、実施形態の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施形態が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施形態は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0042】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、ウェアラブルのセンシング装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0044】
20,120,220,320 ウェアラブルセンシング装置、22 シャツ、24 胴部、30,130 第1リーダ回路、40,140 第2リーダ回路、32,132,232,332 第1リーダコイル、34,44、134,144、234,244 複数のコンデンサ、42,142,242,342 第2リーダコイル、50 PC、Am オペアンプ、V1 第1電源、V2 第2電源、Ramp 抵抗。