(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022128445
(43)【公開日】2022-09-01
(54)【発明の名称】銅粉の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 9/20 20060101AFI20220825BHJP
【FI】
B22F9/20 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024914
(22)【出願日】2022-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2021026060
(32)【優先日】2021-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185018
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 亜矢
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉
(72)【発明者】
【氏名】山岡 尚樹
【テーマコード(参考)】
4K017
【Fターム(参考)】
4K017AA03
4K017BA05
4K017CA07
4K017CA08
4K017DA01
4K017DA07
4K017EH04
4K017EH18
4K017FB03
4K017FB07
(57)【要約】
【課題】銅酸化物粉をポリオール溶媒中で還元して銅粉を得るポリオール法において、230℃以下の反応温度で平均粒径250nm以下の銅粉を得ることができる製造方法を提供すること。
【解決手段】銅粉の製造方法は、銅酸化物粉末をポリオール溶媒に混合して懸濁させた反応液を加熱して銅粉を得る銅粉の製造方法であって、前記反応液に、分子内に銅イオンに配位可能な官能基を有し、グリフィン法により求められるHLB値が3以上12以下である極性有機化合物を添加し、230℃以下の温度で加熱することを特徴とする。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅酸化物粉末をポリオール溶媒に混合して懸濁させた反応液を加熱して銅粉を得る銅粉の製造方法であって、
前記反応液に、分子内に銅イオンに配位可能な官能基を有し、グリフィン法により求められるHLB値が3以上12以下である極性有機化合物を添加し、230℃以下の温度で加熱する、
ことを特徴とする銅粉の製造方法。
【請求項2】
前記極性有機化合物の添加量は、前記銅酸化物粉に含まれる銅の総量に対して、0.25質量~10重量%以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の銅粉の製造方法。
【請求項3】
前記銅イオンと配位可能な官能基は、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルデヒド基、ニトロ基、チオール基、スルホ基、リン酸基、シアン基、クロロ基、ブロモ基、及びヨード基から選ばれる1種類以上である、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の銅粉の製造方法。
【請求項4】
前記極性有機化合物は、フタル酸(HLB値:10.8)、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸(HLB値:10.5)、4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸(HLB値:10.6)、1,1-シクロヘキサン二酢酸(HLB値:9.0)、2,2’-ビフェニルジカルボン酸(HLB値:7.4)、meso-2,3-ジフェニルこはく酸(HLB値:6.7)、(+)-カンファー酸(HLB値:9.0)、1,1-シクロペンタン二酢酸(HLB値:9.7)、2,4-ジエチルグルタル酸(HLB値:9.6)、ジプロピルマロン酸(HLB値:9.6)、シクロペンチルマロン酸(HLB値:10.5)、ベンジルマロン酸(HLB値:9.3)、オクタン酸(HLB値:6.2)、デカン酸(HLB値:5.2)、ラウリン酸(HLB値:4.5)、パルミチン酸(HLB値:3.5)、及びステアリン酸(HLB値:3.2)、及びこれらの塩から選ばれる1種類以上である、
ことを特徴とする請求項3に記載の銅粉の製造方法。
【請求項5】
前記ポリオール溶媒は沸点230℃以下である、ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の銅粉の製造方法。
【請求項6】
前記ポリオール溶媒は、エチレングリコール(沸点:196℃)、プロピレングリコール(沸点:188℃)、1,3-プロパンジオール(沸点:214℃)、1,2-ブタンジオール(沸点:194℃)、1,3-ブタンジオール(沸点:207℃)、1,4-ブタンジオール(沸点:228℃)、1,2-ペンタンジオール(沸点:210℃)、及び1,2-ヘキサンジオール(沸点:223℃)から選ばれる1種以上である、
ことを特徴とする請求項5に記載の銅粉の製造方法。
【請求項7】
前記銅酸化物粉末は、酸化銅及び亜酸化銅から選ばれる1種類以上である、
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の銅粉の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオール溶媒中で銅化合物を還元して得る銅粉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅粉は、電子部品である積層セラミックコンデンサ(MLCC:multilayer ceramic capacitor)の内部電極・外部電極や多層セラミック基板の電極などを形成するための導電ペーストの材料としても利用されている。近年、積層セラミックコンデンサでは小型化・大容量化に伴い、内部電極の薄層化が進んでいるため、この用途では、上記導電ペースト(内部電極ペースト)に用いられる銅粉も微細であることが求められる。特に平均粒径が250nm以下の金属微粒子は、通常のサブミクロン以上の粒子と異なり焼成温度が低く、低温焼成ペースト等への応用が考えられている。
【0003】
銅粉の製造方法としては、いわゆる電解法が最も一般的である。しかし、この方法で得られる銅粉は粗大な凝集体となり易い。微細な銅粉を得る方法として、例えば特許文献1や特許文献2には、原料となる金属を真空中又は微量のガス存在下で誘導加熱により蒸発させることにより、気相中から得る方法が開示されている。しかし、これらの方法では、誘導加熱装置や真空装置等が高コストである上、金属微粒子が真空装置内で生成するため、一度に得られる金属微粒子の生成量が少なく、大量生産に適していない。
【0004】
そこで、上記問題を解決するものとして、特許文献3や特許文献4に、銅酸化物粉(原料)をポリオール溶媒中で加熱して還元する方法(ポリオール法)が開示されている。この方法は、銅の濃度が0.nモル/リットル以上の濃厚系で銅粉を製造することができる生産性の高い方法であり、ポリオールが溶媒、還元剤、及び分散剤としての役割を果たしている。そのため、上記のような濃厚系でもサブミクロンオーダーの銅粉が得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3-34211号公報
【特許文献2】特開2000-123634号公報
【特許文献3】特開2015-108183号公報
【特許文献4】特開2005-97677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献3に記載の方法(ポリオール法)は、原料とポリオール溶媒の質量比や反応温度(還元反応時の加熱温度)に得られる銅粉の粒径が依存することが知られており、同一の原料とポリオール溶媒の質量比で得られる銅粉の粒径を減少させる場合には、反応温度を高める必要があった。しかし、溶媒の沸点以上には反応温度を上げられないことから、所望の銅粉の粒径によっては、用いることができる溶媒に制約があった。また、この方法ではポリオール溶媒としてトリエチレングリコール(沸点:287℃)やテトラエチレングリコール(沸点:327℃)を用い、平均粒径250nm以下の銅粉を得るためには260℃以上の反応温度を要していた。
【0007】
また、上記特許文献4に記載の方法を用いると、200℃以下の反応温度で平均粒径100nm以下の粒径の銅粉が得られるが、核生成のために銀塩を加えなければならず、また分散剤としてポリビニルピロリドンを銅に対して40質量%以上添加しなければならなかった。
【0008】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて成されたものであり、銅酸化物粉をポリオール溶媒中で還元して銅粉を得るポリオール法において、230℃以下の反応温度で平均粒径250nm以下の銅粉を得ることができる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ポリオール溶媒に分子内に銅イオンに配位可能な官能基を有し、グリフィン法により求められるHLB値が3以上12以下である極性有機化合物を添加することで、得られる銅粉が微細化することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は以下のものを提供する。
【0010】
本発明の態様によれば、銅酸化物粉末をポリオール溶媒に混合して懸濁させた反応液を加熱して銅粉を得る銅粉の製造方法であって、反応液に、分子内に銅イオンに配位可能な官能基を有し、グリフィン法により求められるHLB値が3以上12以下である極性有機化合物を添加し、230℃以下の温度で加熱することを特徴とする銅粉の製造方法が提供される。
【0011】
また、極性有機化合物の添加量は、銅酸化物粉に含まれる銅の総量に対して、0.25質量~10重量%以下であることが好ましい。また、銅イオンと配位可能な官能基は、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルデヒド基、ニトロ基、チオール基、スルホ基、リン酸基、シアン基、クロロ基、ブロモ基、及びヨード基から選ばれる1種類以上であることが好ましい。また、極性有機化合物は、フタル酸(HLB値:10.8)、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸(HLB値:10.5)、4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸(HLB値:10.6)、1,1-シクロヘキサン二酢酸(HLB値:9.0)、2,2’-ビフェニルジカルボン酸(HLB値:7.4)、meso-2,3-ジフェニルこはく酸(HLB値:6.7)、(+)-カンファー酸(HLB値:9.0)、1,1-シクロペンタン二酢酸(HLB値:9.7)、2,4-ジエチルグルタル酸(HLB値:9.6)、ジプロピルマロン酸(HLB値:9.6)、シクロペンチルマロン酸(HLB値:10.5)、ベンジルマロン酸(HLB値:9.3)、オクタン酸(HLB値:6.2)、デカン酸(HLB値:5.2)、ラウリン酸(HLB値:4.5)、パルミチン酸(HLB値:3.5)、及びステアリン酸(HLB値:3.2)、及びこれらの塩から選ばれる1種類以上であることが好ましい。また、ポリオール溶媒は沸点230℃以下であることが好ましい。また、ポリオール溶媒は、エチレングリコール(沸点:196℃)、プロピレングリコール(沸点:188℃)、1,3-プロパンジオール(沸点:214℃)、1,2-ブタンジオール(沸点:194℃)、1,3-ブタンジオール(沸点:207℃)、1,4-ブタンジオール(沸点:228℃)、1,2-ペンタンジオール(沸点:210℃)、及び1,2-ヘキサンジオール(沸点:223℃)から選ばれる1種以上であることが好ましい。また、銅酸化物粉末は、酸化銅及び亜酸化銅から選ばれる1種類以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本実施形態に係る銅粉の製造方法によれば、銅酸化物粉をポリオール溶媒中で還元して銅粉を得るポリオール法において、沸点が250℃以下の低沸点ポリオール溶媒を使用し、反応温度を250℃以下とする場合であっても、分子内に銅イオンに配位可能な官能基を有し、グリフィン法により求められるHLB値が3以上12以下である極性有機化合物(フタル酸等)を添加することで、得られる銅粉を平均粒径250nm以下とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る具体的な実施形態(以下、「本実施形態」という)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。また、本明細書にて、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0014】
ポリオール法では、銅酸化物粉をポリオール溶媒中に懸濁させて加熱すると、ポリオール溶媒が還元剤として作用し、銅粉までの還元が進行する。銅酸化物粉として酸化銅(CuO)を用いた場合は、酸化銅(CuO)から亜酸化銅(Cu2O)を経由して銅(Cu)への還元が生じ、銅酸化物として亜酸化銅(Cu2O)を用いた場合は、亜酸化銅(Cu2O)が銅(Cu)に還元され、いずれの場合も最終的に銅粉(以下「ポリオール銅粉」と称す場合もある)が得られる。得られた銅粉は、純水等により洗浄してろ過後、必要に応じて再度洗浄して乾燥する処理が行われる。具体的には、洗浄の一例として、還元により得られた銅粉(ポリオール銅粉)を沈降させデカンテーションをした後、純水等を供給して撹拌洗浄する方法等が用いられる。ろ過の一例として、遠心分離により脱水する方法等が用いられる。
【0015】
本実施形態に係る銅粉の製造方法について詳細に説明する。
【0016】
本実施形態に係る銅粉の製造方法は、銅酸化物粉(原料)を、ポリオール溶媒中で還元して銅粉を得る還元工程を備えた銅粉の製造方法であって、還元工程で、銅酸化物粉を懸濁させたポリオール溶媒(以降、このポリオール溶媒と銅酸化物粉末が混合され懸濁した液の総称として反応液とすることもある)に分子内に銅イオンに配位可能な官能基を有し、グリフィン法により求められるHLB値が3以上12以下である極性有機化合物を添加し、230℃以下の温度で加熱還元することで、得られる銅粉を微細化する。
【0017】
上記グリフィン法によるHLB値(Hydrophilic-Lipophilic Balance value)は、疎水性と親水性のバランスを表す指標であり、式(1)により求めることができる。
HLB値=20×(極性有機化合物に含まれる親水性官能基の式量)/(極性有機化合物の式量) ・・・(1)
【0018】
HLB値は、親水性の程度を0~20の範囲で表し、HLB値が小さいほど疎水性(親油性)が高く、HLB値が大きいほど親水性が高いことを示している。
【0019】
上記極性有機化合物において、グリフィン法により求められるHLB値は、3以上12以下が好ましく、より好ましくは3以上11以下であることが望ましい。メカニズムの詳細は明らかではないものの、HLB値が上記範囲を超えて大きすぎても小さすぎても所望する銅粉の微細化効果が十分に得られないからである。例えば極性有機化合物でフタル酸(1,2-ベンゼンジカルボン酸)の場合は、銅イオンに配位可能な官能基は2個のカルボキシ基であり、グリフィン法によるHLB値の計算式(式(1):HLB値=20×(極性有機化合物に含まれる親水性官能基の式量)/(極性有機化合物の式量))にフタル酸を適用すると、HLB値は10.8である。
【0020】
銅イオンに配位可能な官能基の例としては、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルデヒド基、ニトロ基、チオール基、スルホ基、リン酸基、シアン基、クロロ基、ブロモ基、及びヨード基からなる群より選択される1種類以上とすることができ、特にカルボキシ基が好ましい。また、極性有機化合物を構成する銅イオンに配位可能な官能基の個数は1以上であればよいが、特に1または2個の銅イオンに配位可能な官能基を有するのが好ましい。
【0021】
ポリオール溶媒に添加する極性有機化合物の具体例としては、下記(化1)~(化17)に一例を示すが、フタル酸(HLB値:10.8)、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸(HLB値:10.5)、4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸(HLB値:10.6)、1,1-シクロヘキサン二酢酸(HLB値:9.0)、2,2’-ビフェニルジカルボン酸(HLB値:7.4)、meso-2,3-ジフェニルこはく酸(HLB値:6.7)、(+)-カンファー酸(HLB値:9.0)、1,1-シクロペンタン二酢酸(HLB値:9.7)、2,4-ジエチルグルタル酸(HLB値:9.6)、ジプロピルマロン酸(HLB値:9.6)、シクロペンチルマロン酸(HLB値:10.5)、ベンジルマロン酸(HLB値:9.3)、オクタン酸(HLB値:6.2)、デカン酸(HLB値:5.2)、ラウリン酸(HLB値:4.5)、パルミチン酸(HLB値:3.5)、及びステアリン酸(HLB値:3.2)からなる群より選択される1種類以上が好ましく、フタル酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、1,1-シクロヘキサン二酢酸、2,2’-ビフェニルジカルボン酸、meso-2,3-ジフェニルこはく酸、(+)-カンファー酸、1,1-シクロペンタン二酢酸、2,4-ジエチルグルタル酸、ジプロピルマロン酸、シクロペンチルマロン酸、ベンジルマロン酸からなる群より選択される1種類以上がさらに好ましい。また、極性有機化合物は、ポリオールに可溶であれば、例えばフタル酸ジナトリウム(HLB値:8.6)のようにその塩(アルカリ金属塩(Na、K)等)を用いてもよい。なお、極性有機化合物は、ポリオール溶媒中で上記の性質を示せばよく、例えば、無水物をポリオール溶媒に添加してもよい。
【0022】
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【0023】
還元反応(還元工程)では、銅酸化物粉を、上述の極性有機化合物を添加したポリオール溶媒中で加熱還元して本実施形態に係る銅粉を得る。還元反応は、反応液に極性有機化合物を添加した後に加熱を開始する。ただし、極性有機化合物については昇温中の反応液に、後から添加してもよい。
【0024】
なお、水溶液とした時に中性(pHが6.5~7.5程度)とならない極性有機化合物を用いる場合は、反応液に添加した極性有機化合物を中和するために、アルカリもしくは酸を中和剤として合わせて添加するのが好ましい。中和剤にアルカリを用いる場合には、アルカリ金属の水酸化物が好ましく、具体的には水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを用いることができる。中和剤に酸を用いる場合には、無機酸が好ましく、具体的には硫酸や塩酸を用いることができる。中和剤を反応液に添加する際に、予め水溶液にして添加してもよい。
【0025】
反応液中の極性有機化合物の量が増大するに従い、得られる銅粉の粒径も微細化する。これにより、得られる銅粉の粒径を制御することができる。反応液中の極性有機化合物の量(ポリオール溶媒に添加する極性有機化合物の量)は、還元反応後に得る銅粉の粒径等の条件に応じて設定される。反応液中の極性有機化合物の量は、予備実験により設定することができる。反応液中の極性有機化合物の量は、原料の銅酸化物に含まれる銅の総量に対して0.25質量%~10質量%であるのが好ましく、0.25質量%~5質量%であるのがさらに好ましい。極性有機化合物の添加効果は、添加量の増大により逓減するため、原料の銅酸化物に含まれる銅の総量に対して10質量%を超えた極性有機化合物の添加は生産コストが増大するため経済的ではない。また、極性有機化合物の添加量の下限については、原料の銅酸化物に含まれる銅の総量に対して0.25質量%未満の添加では、銅粉の平均粒径が250nmを超えるおそれがあるため、これを下限にすればよい。
【0026】
本実施形態に係る銅粉の製造方法では、分子内に銅イオンに配位可能な官能基を有し、グリフィン法により求められるHLB値が3以上12以下である極性有機化合物を添加したポリオール溶媒を用いて銅酸化物粉を還元した場合に、極性有機化合物を添加しない場合と比較して顕著に微細化された銅粉を得ることができる。極性有機化合物を添加したポリオール溶媒を用いて銅酸化物粉を還元した場合に、銅粉が微細化するメカニズムについては詳細に解明されていないが、上記ポリオール溶媒中の還元反応過程において、銅への配位子をもつ極性有機化合物が生成した銅の初期核表面に吸着し、通常のポリオール還元によって形成されるポリオール溶媒由来の有機被膜とは性質の異なる、極性有機化合物が組み込まれた有機被膜を形成し、銅の粒成長を抑制するよう作用したためと考えられる。この際に、グリフィン法により求められるHLB値が12を超える極性有機化合物は、親水性が極端に高いため、生成した銅の初期核表面に吸着するよりもエチレングリコール等の親水性溶媒に溶媒和された状態のほうがエネルギー的に安定となることから、銅の初期核表面への吸着が起きにくく、銅の粒成長の抑制効果が乏しくなると考えられる。一方、グリフィン法により求められるHLB値が3未満である極性有機化合物は、親水性官能基に対する炭化水素の割合が極端に大きいため、表面への極性有機化合物の吸着により得られる銅粉の炭素含有量が多くなり、微細であっても低温焼結用途に適さない銅粉となると考えられる。
【0027】
還元工程で原料として用いられる銅酸化物粉は、酸化銅(CuO)、亜酸化銅(Cu2O)から選ばれる1種類以上を用いることができる。また、銅酸化物粉は予め粉砕して、還元反応に供してもよい。
【0028】
還元工程で溶媒として用いられるポリオール溶媒は、銅酸化物粉に対して還元作用を有する多価アルコールであり、2~6個のOH基を有することが好ましいが、本実施形態に係る銅粉の製造方法では、沸点が230℃以下のポリオール溶媒を用いるのが好ましく、沸点が210℃以下のポリオール溶媒がより好ましく、沸点が200℃以下のポリオール溶媒がさらに好ましい。具体的にはエチレングリコール(1,2-エタンジオール、沸点:196℃)、プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール、沸点:188℃)、1,3-プロパンジオール(沸点:214℃)、1,2-ブタンジオール(沸点:194℃)、1,3-ブタンジオール(沸点:207℃)、1,4-ブタンジオール(沸点:228℃)、1,2-ペンタンジオール(沸点:210℃)、及び1,2-ヘキサンジオール(沸点:223℃)から選ばれる1種類以上が好ましい。特に好ましくは、エチレングリコール及びプロピレングリコールから選ばれる1種類以上である。
【0029】
反応温度(ポリオール溶媒と銅酸化物粉末が混合され懸濁した反応液の加熱温度)は、ポリオール溶媒の沸点に対して-50℃以上、ポリオール溶媒の沸点に対して±0℃以下とするのが好ましく、ポリオール溶媒の沸点に対して-40℃以上、ポリオール溶媒の沸点に対して-5℃以下とするのがさらに好ましい。つまり反応温度(反応液の加熱温度)は230℃以下となる。上記反応温度をポリオール溶媒の沸点に対して-50℃よりも低い温度とした場合、還元反応が十分に進まずに銅酸化物粉(原料)が残留することにで得られる銅粉(ポリオール銅粉)中の酸素含有量が高くなることもあり、かつ反応時間が大幅に延びて生産性も悪化する。また、上記加熱温度をポリオールの沸点よりも高くすると、ポリオールの分解揮発による減少(消費)が著しくなり、十分に還元できなくなるおそれがある。
【0030】
本実施形態の銅粉の製造方法により得られる銅粉の表面には、極性有機化合物を含有する有機被膜が形成されている。有機被膜は、ポリオールもしくは還元反応により生成したポリオール変性物であるポリオール由来物(炭化水素等)、極性有機化合物で構成され、微細な銅粉であっても大気などの酸化雰囲気中で優れた耐酸化性を有する。
【0031】
本実施形態に係る銅粉の製造方法によって得られる銅粉の平均粒径は、250nm以下が好ましい。これまでに説明した製造方法により得られた銅粉(ポリオール銅粉)は、還元反応時に極性有機化合物を用いることで、上記平均粒径以下に制御される。微細な銅粉であることから、積層セラミックコンデンサの電極など電子部品に利用することができる。本実施形態に係る銅粉の製造方法によって得られた銅粉の平均粒径の下限は特に限定されないが、上記説明した製造方法では20nm程度が下限となる。なお、本実施形態における銅粉の平均粒径は、実施例に記載の方法で測定した値である。
【0032】
有機被膜に相当する銅粉の炭素含有量は、0.05質量%~0.5質量%とするのが好ましい。炭素含有量を上記範囲とすることで、大気などの酸化雰囲気中で焼成しても、優れた耐酸化性を発揮する。銅粉の炭素含有量が0.5質量%を超えても耐酸化性は損なわれないが、焼成時に発生する二酸化炭素等のガス量が増大してしまうことがある。
【0033】
以上のように、本実施形態の銅粉の製造方法は、銅酸化物粉を、ポリオール溶媒中で加熱還元して銅粉を得る銅粉の製造方法であって、銅酸化物粉をポリオール溶媒に混合して懸濁させた反応液に、分子内に銅イオンに配位可能な官能基を有し、グリフィン法により求められるHLB値が3以上12以下である極性有機化合物が添加し、230℃以下に加熱することを特徴とする。なお、本実施形態に係る銅粉の製造方法において、上記以外の構成は任意の構成である。上記本実施形態に係る銅粉の製造方法によれば、銅酸化物粉をポリオール溶媒中で還元して銅粉を得るポリオール法において、沸点が230℃以下の低沸点ポリオール溶媒を使用し、反応温度を230℃以下とする場合であっても、上記極性有機化合物を添加することで、得られる銅粉の平均粒径を250nm以下とすることができる。
【実施例0034】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示してさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、物性値の測定方法は以下の通りである。
【0035】
(1)平均粒径、および粒度分布
得られた銅粉(ポリオール銅粉)の平均粒径は、SEM(走査型電子顕微鏡)で観察した200個以上の粒子を対象とした画像解析から求めた数平均の粒径とした。粒度分布については、平均粒径と同様にSEM(走査型電子顕微鏡)で観察した200個以上の粒子を対象とした画像解析から粒径の分布を求め、単分散かどうかを評価した。
(2)銅粉表面の分析
得られた銅粉の表面を、フーリエ変換赤外分光光度計(FT/IR-6600、粉末拡散反射法、日本分光株式会社製)を用いて組成を定性分析した。ポリオール由来物である炭化水素被膜が存在すれば2800cm-1~3000cm-1に吸収ピークが現れるので、この吸収ピークの有無により炭化水素被膜の有無を確認した。銅粉表面の他の有機成分の有無については、銅粉をテトラヒドロフランに浸漬して表面の有機物を抽出し、必要に応じて抽出液に前処理を加えて、核磁気共鳴分光(NMR、AVANCE400、Bruker Biospin社製)、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、ACQUITY UPLC H-class、Waters社製)により得られたデータとFT-IRのデータを組み合わせて、有機成分の定性分析を行なった。
【0036】
(実施例1)
銅酸化物粉として亜酸化銅(Cu2O)粉(Chemet社製、品番:Ultrafine)27gを200mlセパラブルフラスコに入れ、エチレングリコール(略称:EG、沸点:197℃、分子量62)100gを加え入れた後、フタル酸0.63g(亜酸化銅中の銅総量に対して2.62質量%(1モル%)、グリフィン法により求められるHLB値=10.8)と中和のため25質量体積%水酸化ナトリウム水溶液1.21mlを加え、均一なスラリーとなるよう混合した。このスラリーを190℃に加熱し、45分撹拌しながらその温度に保持し、還元反応を行なった。反応液を冷却した後、生成したポリオール銅粉を遠心分離し、洗浄し、乾燥した。
得られたポリオール銅粉の粒度分布測定を行なったところ、平均粒径190nmの単分散粒子であることがわかった。また、ポリオール銅粉のフーリエ変換赤外分光測定を行なったところ、2800cm-1~3000cm-1の炭化水素に帰属される吸収ピークが検出された。さらに、行なった他の分析結果を総合した結果、銅粉表面にはフタル酸が存在すると同定された。製造条件、及び、測定結果を表1に示す。
【0037】
(実施例2)
フタル酸の代わりにフタル酸ジナトリウム0.79g(亜酸化銅中の銅総量に対して3.31質量%(1モル%)、グリフィン法により求められるHLB値=8.6)を加え、25質量体積%水酸化ナトリウム水溶液を加えなかったこと以外は、実施例1と同様に操作し、ポリオール銅粉を得た。
得られたポリオール銅粉の粒度分布測定を行なったところ、平均粒径190nmの単分散粒子であることがわかった。また、ポリオール銅粉のフーリエ変換赤外分光測定を行なったところ、2800cm-1~3000cm-1の炭化水素に帰属される吸収ピークが検出された。さらに、行なった他の分析結果を総合した結果、銅粉表面にはフタル酸が存在すると同定された。製造条件、及び、測定結果を表1に示す。
【0038】
(実施例3)
フタル酸ジナトリウム0.60g(亜酸化銅中の銅総量に対して2.48質量%(0.75モル%))を加えたこと以外は、実施例2と同様に操作し、ポリオール銅粉を得た。
得られたポリオール銅粉の粒度分布測定を行なったところ、平均粒径220nmの単分散粒子であることがわかった。また、ポリオール銅粉のフーリエ変換赤外分光測定を行なったところ、2800cm-1~3000cm-1の炭化水素に帰属される吸収ピークが検出された。さらに、行なった他の分析結果を総合した結果、銅粉表面にはフタル酸が存在すると同定された。製造条件、及び、測定結果を表1に示す。
【0039】
(実施例4)
フタル酸ジナトリウム0.40g(亜酸化銅中の銅総量に対して1.65質量%(0.5モル%))を加えたこと以外は、実施例2と同様に操作し、ポリオール銅粉を得た。
得られたポリオール銅粉の粒度分布測定を行なったところ、平均粒径240nmの単分散粒子であることがわかった。また、ポリオール銅粉のフーリエ変換赤外分光測定を行なったところ、2800cm-1~3000cm-1の炭化水素に帰属される吸収ピークが検出された。さらに、行なった他の分析結果を総合した結果、銅粉表面にはフタル酸が存在すると同定された。製造条件、及び、測定結果を表1に示す。
【0040】
(実施例5)
フタル酸の代わりにcis-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸0.65g(亜酸化銅中の銅総量に対して2.71質量%(1モル%)、グリフィン法により求められるHLB値=10.5)を加えたこと以外は、実施例1と同様に操作し、ポリオール銅粉を得た。
得られたポリオール銅粉の粒度分布測定を行なったところ、平均粒径150nmの単分散粒子であることがわかった。また、ポリオール銅粉のフーリエ変換赤外分光測定を行なったところ、2800cm-1~3000cm-1の炭化水素に帰属される吸収ピークが検出された。さらに、行なった他の分析結果を総合した結果、銅粉表面には1,2シクロヘキサンジカルボン酸が存在すると同定された。製造条件、及び、測定結果を表1に示す。
【0041】
(実施例6)
フタル酸の代わりにcis-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸0.33g(亜酸化銅中の銅総量に対して1.36質量%(0.5モル%))を加えたこと以外は、実施例5と同様に操作し、ポリオール銅粉を得た。
得られたポリオール銅粉の粒度分布測定を行なったところ、平均粒径170nmの単分散粒子であることがわかった。また、ポリオール銅粉のフーリエ変換赤外分光測定を行なったところ、2800cm-1~3000cm-1の炭化水素に帰属される吸収ピークが検出された。さらに、行なった他の分析結果を総合した結果、銅粉表面には1,2シクロヘキサンジカルボン酸が存在すると同定された。製造条件、及び、測定結果を表1に示す。
【0042】
(実施例7)
フタル酸の代わりにcis-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸0.16g(亜酸化銅中の銅総量に対して0.68質量%(0.25モル%))を加えたこと以外は、実施例5と同様に操作し、ポリオール銅粉を得た。
得られたポリオール銅粉の粒度分布測定を行なったところ、平均粒径230nmの単分散粒子であることがわかった。また、ポリオール銅粉のフーリエ変換赤外分光測定を行なったところ、2800cm-1~3000cm-1の炭化水素に帰属される吸収ピークが検出された。さらに、行なった他の分析結果を総合した結果、銅粉表面には1,2シクロヘキサンジカルボン酸が存在すると同定された。製造条件、及び、測定結果を表1に示す。
【0043】
(実施例8)
フタル酸の代わりにcis-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸0.07g(亜酸化銅中の銅総量に対して0.27質量%(0.1モル%))を加えたこと以外は、実施例5と同様に操作し、ポリオール銅粉を得た。
得られたポリオール銅粉の粒度分布測定を行なったところ、平均粒径250nmの単分散粒子であることがわかった。また、ポリオール銅粉のフーリエ変換赤外分光測定を行なったところ、2800cm-1~3000cm-1の炭化水素に帰属される吸収ピークが検出された。さらに、行なった他の分析結果を総合した結果、銅粉表面には1,2シクロヘキサンジカルボン酸が存在すると同定された。製造条件、及び、測定結果を表1に示す。
【0044】
(実施例9)
フタル酸の代わりにcis-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸0.64g(亜酸化銅中の銅総量に対して2.68質量%(1モル%)、グリフィン法により求められるHLB値=10.6)を加えたこと以外は、実施例1と同様に操作し、ポリオール銅粉を得た。
得られたポリオール銅粉の粒度分布測定を行なったところ、平均粒径220nmの単分散粒子であることがわかった。また、ポリオール銅粉のフーリエ変換赤外分光測定を行なったところ、2800cm-1~3000cm-1の炭化水素に帰属される吸収ピークが検出された。さらに、行なった他の分析結果を総合した結果、銅粉表面には4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸が存在すると同定された。製造条件、及び、測定結果を表1に示す。
【0045】
(実施例10)
フタル酸の代わりに1,1-シクロヘキサン二酢酸0.76g(亜酸化銅中の銅総量に対して3.15質量%(1モル%)、グリフィン法により求められるHLB値=9.0)を加えたこと以外は、実施例1と同様に操作し、ポリオール銅粉を得た。
得られたポリオール銅粉の粒度分布測定を行なったところ、平均粒径90nmの単分散粒子であることがわかった。また、ポリオール銅粉のフーリエ変換赤外分光測定を行なったところ、2800cm-1~3000cm-1の炭化水素に帰属される吸収ピークが検出された。さらに、行なった他の分析結果を総合した結果、銅粉表面には1,1-シクロヘキサン二酢酸が存在すると同定された。製造条件、及び、測定結果を表1に示す。
【0046】
(実施例11)
フタル酸の代わりに2,2’-ビフェニルジカルボン酸0.91g(亜酸化銅中の銅総量に対して3.81質量%(1モル%)、グリフィン法により求められるHLB値=7.4)を加えたこと以外は、実施例1と同様に操作し、ポリオール銅粉を得た。
得られたポリオール銅粉の粒度分布測定を行なったところ、平均粒径90nmの単分散粒子であることがわかった。また、ポリオール銅粉のフーリエ変換赤外分光測定を行なったところ、2800cm-1~3000cm-1の炭化水素に帰属される吸収ピークが検出された。さらに、行なった他の分析結果を総合した結果、銅粉表面には2,2’-ビフェニルジカルボン酸が存在すると同定された。製造条件、及び、測定結果を表1に示す。
【0047】
(実施例12)
フタル酸の代わりにmeso-2,3-ジフェニルこはく酸1.02g(亜酸化銅中の銅総量に対して4.26質量%(1モル%)、グリフィン法により求められるHLB値=6.7)を加えたこと以外は、実施例1と同様に操作し、ポリオール銅粉を得た。
得られたポリオール銅粉の粒度分布測定を行なったところ、平均粒径90nmの単分散粒子であることがわかった。また、ポリオール銅粉のフーリエ変換赤外分光測定を行なったところ、2800cm-1~3000cm-1の炭化水素に帰属される吸収ピークが検出された。さらに、行なった他の分析結果を総合した結果、銅粉表面にはmeso-2,3-ジフェニルこはく酸が存在すると同定された。製造条件、及び、測定結果を表1に示す。
【0048】
(実施例13)
フタル酸の代わりに(+)-カンファー酸0.76g(亜酸化銅中の銅総量に対して3.15質量%(1モル%)、グリフィン法により求められるHLB値=9.0)を加えたこと以外は、実施例1と同様に操作し、ポリオール銅粉を得た。
得られたポリオール銅粉の粒度分布測定を行なったところ、平均粒径80nmの単分散粒子であることがわかった。また、ポリオール銅粉のフーリエ変換赤外分光測定を行なったところ、2800cm-1~3000cm-1の炭化水素に帰属される吸収ピークが検出された。さらに、行なった他の分析結果を総合した結果、銅粉表面にはカンファー酸が存在すると同定された。製造条件、及び、測定結果を表1に示す。
【0049】
(実施例14)
フタル酸の代わりに1,1-シクロペンタン二酢酸0.70g(亜酸化銅中の銅総量に対して2.93質量%(1モル%)、グリフィン法により求められるHLB値=9.7)を加えたこと以外は、実施例1と同様に操作し、ポリオール銅粉を得た。
得られたポリオール銅粉の粒度分布測定を行なったところ、平均粒径160nmの単分散粒子であることがわかった。また、ポリオール銅粉のフーリエ変換赤外分光測定を行なったところ、2800cm-1~3000cm-1の炭化水素に帰属される吸収ピークが検出された。さらに、行なった他の分析結果を総合した結果、銅粉表面には1,1-シクロペンタン二酢酸が存在すると同定された。製造条件、及び、測定結果を表1に示す。
【0050】
(実施例15)
フタル酸の代わりに2,4-ジエチルグルタル酸0.71g(亜酸化銅中の銅総量に対して2.96質量%(1モル%)、グリフィン法により求められるHLB値=9.6)を加えたこと以外は、実施例1と同様に操作し、ポリオール銅粉を得た。
得られたポリオール銅粉の粒度分布測定を行なったところ、平均粒径80nmの単分散粒子であることがわかった。また、ポリオール銅粉のフーリエ変換赤外分光測定を行なったところ、2800cm-1~3000cm-1の炭化水素に帰属される吸収ピークが検出された。さらに、行なった他の分析結果を総合した結果、銅粉表面には2,4-ジエチルグルタル酸が存在すると同定された。製造条件、及び、測定結果を表1に示す。
【0051】
(実施例16)
フタル酸の代わりにジプロピルマロン酸0.71g(亜酸化銅中の銅総量に対して2.96質量%(1モル%)、グリフィン法により求められるHLB値=9.6)を加えたこと以外は、実施例1と同様に操作し、ポリオール銅粉を得た。
得られたポリオール銅粉の粒度分布測定を行なったところ、平均粒径190nmの単分散粒子であることがわかった。また、ポリオール銅粉のフーリエ変換赤外分光測定を行なったところ、2800cm-1~3000cm-1の炭化水素に帰属される吸収ピークが検出された。さらに、行なった他の分析結果を総合した結果、銅粉表面にはジプロピルマロン酸が存在すると同定された。製造条件、及び、測定結果を表1に示す。
【0052】
(実施例17)
フタル酸の代わりにシクロペンチルマロン酸0.65g(亜酸化銅中の銅総量に対して2.71質量%(1モル%)、グリフィン法により求められるHLB値=10.5)を加えたこと以外は、実施例1と同様に操作し、ポリオール銅粉を得た。
得られたポリオール銅粉の粒度分布測定を行なったところ、平均粒径220nmの単分散粒子であることがわかった。また、ポリオール銅粉のフーリエ変換赤外分光測定を行なったところ、2800cm-1~3000cm-1の炭化水素に帰属される吸収ピークが検出された。さらに、行なった他の分析結果を総合した結果、銅粉表面にはシクロペンチルマロン酸が存在すると同定された。製造条件、及び、測定結果を表1に示す。
【0053】
(実施例18)
フタル酸の代わりにベンジルマロン酸0.73g(亜酸化銅中の銅総量に対して3.06質量%(1モル%)、グリフィン法により求められるHLB値=9.3)を加えたこと以外は、実施例1と同様に操作し、ポリオール銅粉を得た。
得られたポリオール銅粉の粒度分布測定を行なったところ、平均粒径180nmの単分散粒子であることがわかった。また、ポリオール銅粉のフーリエ変換赤外分光測定を行なったところ、2800cm-1~3000cm-1の炭化水素に帰属される吸収ピークが検出された。さらに、行なった他の分析結果を総合した結果、銅粉表面にはベンジルマロン酸が存在すると同定された。製造条件、及び、測定結果を表1に示す。
【0054】
(実施例19)
フタル酸の代わりにオクタン酸0.54g(亜酸化銅中の銅総量に対して2.27質量%(1モル%)、グリフィン法により求められるHLB値=6.2)を加えたこと以外は、実施例1と同様に操作し、ポリオール銅粉を得た。
得られたポリオール銅粉の粒度分布測定を行なったところ、平均粒径180nmの単分散粒子であることがわかった。また、ポリオール銅粉のフーリエ変換赤外分光測定を行なったところ、2800cm-1~3000cm-1の炭化水素に帰属される吸収ピークが検出された。さらに、行なった他の分析結果を総合した結果、銅粉表面にはオクタン酸が存在すると同定された。製造条件、及び、測定結果を表1に示す。
【0055】
(実施例20)
フタル酸の代わりにデカン酸0.65g(亜酸化銅中の銅総量に対して2.71質量%(1モル%)、グリフィン法により求められるHLB値=5.2)を加えたこと以外は、実施例1と同様に操作し、ポリオール銅粉を得た。
得られたポリオール銅粉の粒度分布測定を行なったところ、平均粒径150nmの単分散粒子であることがわかった。また、ポリオール銅粉のフーリエ変換赤外分光測定を行なったところ、2800cm-1~3000cm-1の炭化水素に帰属される吸収ピークが検出された。さらに、行なった他の分析結果を総合した結果、銅粉表面にはデカン酸が存在すると同定された。製造条件、及び、測定結果を表1に示す。
【0056】
(実施例21)
フタル酸の代わりにラウリン酸0.76g(亜酸化銅中の銅総量に対して3.15質量%(1モル%)、グリフィン法により求められるHLB値=4.5)を加えたこと以外は、実施例1と同様に操作し、ポリオール銅粉を得た。
得られたポリオール銅粉の粒度分布測定を行なったところ、平均粒径80nmの単分散粒子であることがわかった。また、ポリオール銅粉のフーリエ変換赤外分光測定を行なったところ、2800cm-1~3000cm-1の炭化水素に帰属される吸収ピークが検出された。さらに、行なった他の分析結果を総合した結果、銅粉表面にはラウリン酸が存在すると同定された。製造条件、及び、測定結果を表1に示す。
【0057】
(実施例22)
フタル酸の代わりにパルミチン酸0.97g(亜酸化銅中の銅総量に対して4.04質量%(1モル%)、グリフィン法により求められるHLB値=3.5)を加えたこと以外は、実施例1と同様に操作し、ポリオール銅粉を得た。
得られたポリオール銅粉の粒度分布測定を行なったところ、平均粒径100nmの単分散粒子であることがわかった。また、ポリオール銅粉のフーリエ変換赤外分光測定を行なったところ、2800cm-1~3000cm-1の炭化水素に帰属される吸収ピークが検出された。さらに、行なった他の分析結果を総合した結果、銅粉表面にはパルミチン酸が存在すると同定された。製造条件、及び、測定結果を表1に示す。
【0058】
(実施例23)
フタル酸の代わりにステアリン酸1.07g(亜酸化銅中の銅総量に対して4.48質量%(1モル%)、グリフィン法により求められるHLB値=3.2)を加えたこと以外は、実施例1と同様に操作し、ポリオール銅粉を得た。
得られたポリオール銅粉の粒度分布測定を行なったところ、平均粒径70nmの単分散粒子であることがわかった。また、ポリオール銅粉のフーリエ変換赤外分光測定を行なったところ、2800cm-1~3000cm-1の炭化水素に帰属される吸収ピークが検出された。さらに、行なった他の分析結果を総合した結果、銅粉表面にはステアリン酸が存在すると同定された。製造条件、及び、測定結果を表1に示す。
【0059】
(実施例24)
エチレングリコールの代わりに、プロピレングリコール(略称:PG、沸点:188℃、分子量76)100gとしたことと、スラリーの加熱温度を185℃としたこと以外は、実施例5と同様に操作し、ポリオール銅粉を得た。
得られたポリオール銅粉の粒度分布測定を行なったところ、平均粒径60nmの単分散粒子であることがわかった。また、ポリオール銅粉のフーリエ変換赤外分光測定を行なったところ、2800cm-1~3000cm-1の炭化水素に帰属される吸収ピークが検出された。さらに、行なった他の分析結果を総合した結果、銅粉表面には1,2-シクロヘキサンジカルボン酸が存在すると同定された。製造条件、及び、測定結果を表1に示す。
【0060】
(実施例25)
エチレングリコールの代わりに、プロピレングリコール(略称:PG、沸点:188℃、分子量76)100gとしたことと、スラリーの加熱温度を185℃としたこと以外は、実施例10と同様に操作し、ポリオール銅粉を得た。
得られたポリオール銅粉の粒度分布測定を行なったところ、平均粒径40nmの単分散粒子であることがわかった。また、ポリオール銅粉のフーリエ変換赤外分光測定を行なったところ、2800cm-1~3000cm-1の炭化水素に帰属される吸収ピークが検出された。さらに、行なった他の分析結果を総合した結果、銅粉表面には1,1-シクロヘキサン二酢酸が存在すると同定された。製造条件、及び、測定結果を表1に示す。
【0061】
(比較例1)
銅酸化物粉として亜酸化銅(Cu2O)粉(Chemet社製、品番:Ultrafine)27gを200mlセパラブルフラスコに入れ、エチレングリコール100gを加え入れ、ポリオール溶媒を190℃に加熱し、60分撹拌しながらその温度に保持し、還元反応を行なった。反応液を冷却した後、生成したポリオール銅粉を遠心分離し、洗浄し、乾燥した。
得られたポリオール銅粉の粒度分布測定を行なったところ、平均粒径1790nmの単分散であるが粗大な粒子であることがわかった。また、ポリオール銅粉のフーリエ変換赤外分光測定を行なったところ、2800cm-1~3000cm-1の炭化水素に帰属される吸収ピークは検出されたが、他の分析結果を総合しても、ポリオール溶媒由来以外の他の有機物は同定されなかった。製造条件、及び、測定結果を表1に示す。
【0062】
(比較例2)
フタル酸の代わりにシュウ酸0.34g(亜酸化銅中の銅総量に対して1.42質量%(1モル%)、グリフィン法により求められるHLB値=20.0)を加えたこと以外は、実施例1と同様に操作し、ポリオール銅粉を得た。
得られたポリオール銅粉の粒度分布測定を行なったところ、平均粒径870nmの単分散であるが粗大な粒子であることがわかった。また、ポリオール銅粉のフーリエ変換赤外分光測定を行なったところ、2800cm-1~3000cm-1の炭化水素に帰属される吸収ピークが検出された。さらに、行なった他の分析結果を総合した結果、銅粉表面にはシュウ酸が存在すると同定されたが、十分な微細化効果は得られなかった。製造条件、及び、測定結果を表1に示す。
【0063】
(比較例3)
フタル酸の代わりにコハク酸0.45g(亜酸化銅中の銅総量に対して1.86質量%(1モル%)、グリフィン法により求められるHLB値=15.2)を加えたこと以外は、実施例1と同様に操作し、ポリオール銅粉を得た。
得られたポリオール銅粉の粒度分布測定を行なったところ、平均粒径920nmの単分散であるが粗大な粒子であることがわかった。また、ポリオール銅粉のフーリエ変換赤外分光測定を行なったところ、2800cm-1~3000cm-1の炭化水素に帰属される吸収ピークが検出された。さらに、行なった他の分析結果を総合した結果、銅粉表面にはコハク酸が存在すると同定されたが、十分な微細化効果は得られなかった。製造条件、及び、測定結果を表1に示す。
【0064】
(比較例4)
フタル酸の代わりにグルタル酸0.50g(亜酸化銅中の銅総量に対して2.08質量%(1モル%)、グリフィン法により求められるHLB値=13.6)を加えたこと以外は、実施例1と同様に操作し、ポリオール銅粉を得た。
得られたポリオール銅粉の粒度分布測定を行なったところ、平均粒径760nmの単分散であるが粗大な粒子であることがわかった。また、ポリオール銅粉のフーリエ変換赤外分光測定を行なったところ、2800cm-1~3000cm-1の炭化水素に帰属される吸収ピークが検出された。さらに、行なった他の分析結果を総合した結果、銅粉表面にはグルタル酸が存在すると同定されたが、十分な微細化効果は得られなかった。製造条件、及び、測定結果を表1に示す。
【0065】
(比較例5)
フタル酸の代わりに1,1-シクロブタンジカルボン酸0.54g(亜酸化銅中の銅総量に対して2.27質量%(1モル%)、グリフィン法により求められるHLB値=12.5)を加えたこと以外は、実施例1と同様に操作し、ポリオール銅粉を得た。
得られたポリオール銅粉の粒度分布測定を行なったところ、平均粒径290nmの単分散であるが粗大な粒子であることがわかった。また、ポリオール銅粉のフーリエ変換赤外分光測定を行なったところ、2800cm-1~3000cm-1の炭化水素に帰属される吸収ピークが検出された。さらに、行なった他の分析結果を総合した結果、銅粉表面には1,1-シクロブタンジカルボン酸が存在すると同定されたが、十分な微細化効果は得られなかった。製造条件、及び、測定結果を表1に示す。
【0066】
(比較例6)
エチレングリコールの代わりに、プロピレングリコール100gとしたことと、スラリーの加熱温度を185℃としたこと以外は、比較例1と同様に操作し、ポリオール銅粉を得た。
得られたポリオール銅粉の粒度分布測定を行なったところ、平均粒径1560nmの単分散であるが粗大な粒子であることがわかった。また、ポリオール銅粉のフーリエ変換赤外分光測定を行なったところ、2800cm-1~3000cm-1の炭化水素に帰属される吸収ピークは検出されたが、他の分析結果を総合しても、ポリオール溶媒由来以外の他の有機物は同定されなかった。製造条件、及び、測定結果を表1に示す。
【0067】
【0068】
(評価結果)
沸点230℃以下の同一ポリオール溶媒を用いた実施例1~23と比較例1~5、実施例24及び実施例25と比較例6とをそれぞれ比較すると、実施例は比較例に対して、ポリオール溶媒中に、分子内に銅イオンに配位可能な官能基を有し、グリフィン法により求められるHLB値が3以上12以下である極性有機化合物(フタル酸、フタル酸ジナトリウム、cis-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、cis-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、1,1-シクロヘキサン二酢酸、2,2’-ビフェニルジカルボン酸、meso-2,3-ジフェニルこはく酸、(+)-カンファー酸、1,1-シクロペンタン二酢酸、2,4-ジエチルグルタル酸、ジプロピルマロン酸、シクロペンチルマロン酸、ベンジルマロン酸、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、及びステアリン酸のいずれか)を添加して加熱還元したことで、得られたポリオール銅粉の粒径が顕著に減少したことが示される。また得られたポリオール銅粉も、表面に極性有機化合物が含有された有機被膜を有することが示される。一方、分子内に銅イオンに配位可能な官能基を有しているが、グリフィン法により求められるHLB値が12を超える極性有機化合物(シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、1,1-シクロブタンジカルボン酸)をポリオール溶媒に添加した比較例2~5では、得られたポリオール銅粉の平均粒径は250nmを超え、得られたポリオール銅粉の粒径の減少の程度は限定的であった。
【0069】
さらに、極性有機化合物(フタル酸ジナトリウムやcis-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸)の添加量(原料の銅酸化物に含まれる銅の総量に対する割合、質量%)が異なる実施例2~実施例4、及び実施例5~実施例8の結果より、フタル酸ジナトリウムやcis-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸(極性有機化合物)の添加量が増大するに従い、得られたポリオール銅粉の平均粒径が減少して微細化することも示される。すなわち、極性有機化合物の添加量により粒径を制御することも可能であることが示される。
【0070】
実施例及び比較例から、本実施形態に係る銅粉の製造方法は、銅酸化物粉をポリオール溶媒中で加熱還元して銅粉を得るポリオール法において、ポリオール溶媒中に分子内に銅イオンに配位可能な官能基を有し、グリフィン法により求められるHLB値が3以上12以下である極性有機化合物を添加することで、沸点が230℃以下の低沸点ポリオール溶媒を使用し、反応温度を230℃以下とする場合であっても、得られる銅粉の平均粒径を250nm以下とすることができることが確認される。
【0071】
なお、本発明の技術範囲は、上述の実施形態等で説明した態様に限定されない。上述の実施形態等で説明した要件の1つ以上は、省略されることがある。また、上述の実施形態等で説明した要件は、適宜組み合わせることができる。また、法令で許容される限りにおいて、上述の実施形態等で引用した全ての文献の開示を援用して本文の記載の一部とする。