(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022128799
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】細胞培養用担体と細胞培養用担体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 11/08 20200101AFI20220829BHJP
C08L 101/16 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
C12N11/08
C08L101/16 ZBP
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021027219
(22)【出願日】2021-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】後藤 泰史
【テーマコード(参考)】
4B033
4J200
【Fターム(参考)】
4B033NA15
4B033NB33
4B033NB49
4B033NB63
4B033NC02
4B033ND20
4B033NF06
4B033NG05
4B033NH04
4J200AA21
4J200BA39
4J200CA06
4J200DA22
4J200EA11
(57)【要約】
【課題】浮遊培養時のストレスを低減して良好な増殖効率で細胞を培養可能な細胞培養用担体を得ること。
【解決手段】2価以上の金属カチオンで架橋されたポリウロン酸化合物の基質繊維と、カチオン基を持つ生分解性ポリマの被覆部とを有し、平均の繊維径が500μm以下、繊維径分布の変動係数が20%以下である細胞培養用担体とその製造方法及び細胞培養方法が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2価以上の金属カチオンで架橋されたポリウロン酸化合物の基質繊維と、カチオン基を持つ生分解性ポリマの被覆部とを有し、平均の繊維径が500μm以下、繊維径分布の変動係数が20%以下である細胞培養用担体。
【請求項2】
カチオン基を持つ生分解性ポリマがキトサンであり、ポリウロン酸化合物がアルギン酸であり、2価以上の金属カチオンがFe3+である、請求項1記載の細胞培養用担体。
【請求項3】
ポリウロン酸の水溶液を内管流体とし、2価以上の金属塩水溶液又はカチオン基を持つポリマ水溶液を環状流体として、二重管のマイクロリアクターを用いて繊維化することを含む、請求項1又は請求項2記載の細胞培養用担体の製造方法。
【請求項4】
ポリウロン酸の基質表面を、カチオン基を持つポリマで被覆すること、次いで、ポリウロン酸を2価以上の金属カチオンで架橋することを含む、請求項3記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の一実施形態は、細胞培養用担体、及び細胞培養用担体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞培養は、シート状等の担体上に細胞を単層に成長させる単層培養と、培養系に細胞が浮遊した状態で細胞培養を行う浮遊培養とに大きく分類される。浮遊培養では、培養系に粒子状の担体を添加し、細胞を担体に吸着させて担持させた状態で、細胞培養を促進することができる。細胞培養後には、酵素又はキレート剤等を用いて担体を除去して、細胞を回収することができる。細胞の大量培養では、担体に対する細胞の担持量を多くすること、培養された細胞から担体を除去すること等を効率的に行うことが望まれる。
【0003】
特許文献1には、ペクチン等のポリガラクツロン酸化合物を含む基質と、基質表面にある接着性ポリマとを含む粒子状の細胞培養用担体によって、細胞を担体上に付着させた状態で培地中に浮遊させて培養し、プロテアーゼを用いずに、ペクチナーゼ及びキレート剤を用いることで、基質から細胞を容易に採取できることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
細胞培養用の担体は、その表面に細胞を接着し培養液中に分散、浮遊されて使用されるマイクロキャリアとして用いる場合は、攪拌翼などで攪拌しながら培養し、マイクロキャリアの分散、浮遊の維持とガス交換を行う。このとき、細胞はマイクロキャリアの表面に接着しているので、マイクロキャリア同士の衝突や攪拌翼や培養槽壁との衝突などで細胞へのストレスが発生し、培養効率の低下や分化誘導の原因になる。
【0006】
本開示の一目的としては、浮遊培養時のストレスを低減して良好な増殖効率で細胞を培養可能な細胞培養用担体を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
[1]2価以上の金属カチオンで架橋されたポリウロン酸化合物の基質繊維と、カチオン基を持つ生分解性ポリマの被覆部とを有し、平均の繊維径が500μm以下、繊維径分布の変動係数が20%以下である細胞培養用担体。
[2]カチオン基を持つ生分解性ポリマがキトサンであり、ポリウロン酸化合物がアルギン酸であり、2価以上の金属カチオンがFe3+である[1]に記載の細胞培養用担体。
[3]ポリウロン酸の水溶液を内管流体とし、2価以上の金属塩水溶液又はカチオン基を持つポリマ水溶液を環状流体として、二重管のマイクロリアクターを用いて繊維化することを含む、[1]又は[2]記載の細胞培養用担体の製造方法。
[4]ポリウロン酸の基質表面を、カチオン基を持つポリマで被覆すること、次いで、ポリウロン酸を2価以上の金属カチオンで架橋することを含む、[3]記載の製造方法。
【0008】
本開示の一実施形態によれば、浮遊培養時のストレスを低減して良好な培養効率で細胞を増殖可能な細胞培養用担体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示にかかる一実施形態について説明するが、以下の例示によって本開示は限定されない。
【0010】
一実施形態による細胞培養用担体としては、ポリウロン酸化合物の基質からなる平均の繊維径が500μm以下、繊維径分布の変動係数が20%以下の繊維状であることを特徴とする。ポリウロン酸化合物は、2価以上の金属カチオンでイオン架橋してゲル化する。またキトサンのようなカチオン基を持つポリマと混合してもイオン架橋してゲル化する。このゲル化を利用して、ポリウロン酸化合物を含む水溶液を、ニードルを通して2価以上の金属カチオンを含む水溶液中で噴出することで、ゲル化した繊維を得ることができる。この2価以上の金属カチオンでは繊維全体がイオン架橋するが、カチオン基を持つポリマ水溶液を用いるとポリウロン酸化合物繊維の表面がカチオン基を持つポリマで被覆された繊維を得ることができる。更に、マイクロリアクターを用いて繊維化することで、繊維径が500μm以下で繊維径分布の変動係数が20%以下の繊維を作ることができる。これらのポリウロン酸化合物の繊維は、細胞接着性ペプチドを付与したカチオン基を持つポリマで繊維表面を被覆すると細胞接着性が向上し、培養効率が向上する。また、細胞接着性ペプチドを付与したカチオン基を持つポリマで繊維表面を被覆した後に、繊維内部を所望の2価以上の金属イオンで架橋することで、細胞接着性と繊維の硬さや強度を最適化できる。これらは培養槽の培地中に入れて細胞培養用担体として使用する。担体が長繊維なので、培地が繊維内を循環するようにすることで均一な培地交換ができる。また、繊維同士の絡まりで移動が抑えられるため、細胞への機械的ストレスも抑えられる。
なお、本明細書においてポリウロン酸化合物とは、ポリウロン酸又はその塩のことを指す。
【0011】
マイクロリアクターとはマイクロ空間を反応場とする反応装置のことで、2つ以上の微細な流路から互いに反応する物質を流し、微小な合流場で反応させる装置である。このマイクロリアクターの1つの流路からポリウロン酸化合物水溶液を流し、他方の流路から2価以上の金属カチオンを含む水溶液中を流して合流させるとポリウロン酸化合物のイオン架橋ゲルができる。この2つの流路が合流する形状として、2価以上の金属カチオンを含む水溶液によりポリウロン酸化合物水溶液が層流状態で引き延ばされるようにすると、ポリウロン酸水溶液が細い層流で流れながらイオン架橋され、繊維状のポリウロン酸化合物のイオン架橋ゲルができる。
【0012】
また、上記の2価以上の金属カチオンを含む水溶液を、カチオン基を持つポリマ溶液とすると、ポリウロン酸化合物水溶液が細い層流で流れながらカチオン基を持つポリマ溶液と接する界面のみがゲル化し、表面がカチオン基を持つポリマで被覆され、中心部が無架橋のポリウロン酸の繊維ができる。
【0013】
マイクロリアクターの形状は、同心の二重管やY字型などがあるが、どの形状でもよく、材質も耐溶剤性があればガラスや金属などを使用してもよい。流路の数についても、生産量に合わせ多数の流路で一度に多数本の繊維を製造させることもできる。繊維径は、ポリウロン酸化合物水溶液の流路の径や2価以上の金属カチオンを含む水溶液の流速で調整することができる。ポリウロン酸化合物水溶液の流路を小さくすると細い繊維となり、2価以上の金属カチオンを含む水溶液の流速を上げても細い繊維ができる。
ポリウロン酸とはウロン酸を含む多糖を指し、アルギン酸やガラクツロン酸、グルクロン酸、フルクツロン酸等が含まれる。ポリウロン酸は多糖類なので、水酸基が多く高い含水率を示すことから、酸素透過性に優れる材料である。そのため、細胞への酸素供給量をより多くすることができる。また、イオン架橋したポリウロン酸化合物は、キレート剤、ウロン酸リアーゼ、又はこれらの組み合わせを用いることで分解して溶解することができる。これらは、トリプシンに代表されるプロテアーゼよりも細胞に対して無害である。これより、ポリウロン酸化合物を基質に含む細胞培養用担体は、細胞培養後に担体を除去する過程でプロテアーゼを用いなくてよいため、細胞表面のタンパク質が分解される作用を抑制することができる。
【0014】
細胞培養用担体は、細胞を担持した後に、細胞培養用担体を除去して、細胞のみを分離して回収するために用いることができる。細胞培養用担体を除去するためには、細胞培養用担体を溶解する方法がある。培養系において、細胞培養用担体が溶解すると、粘度が上昇し、細胞が回収しにくくなる傾向がある。
【0015】
基質がポリウロン酸化合物を含むことで、細胞培養用担体において、基質の溶解性を高めることができ、より短時間で基質を溶解することができる。また、基質がポリウロン酸化合物を含むことで、基質を溶解させる際に、細胞系の粘度上昇を抑制することができる。また、ポリウロン酸化合物の溶解は、キレート剤、ウロン酸リアーゼ等によって促進させることができ、特にキレート剤を用いることで高価なウロン酸リアーゼ等の酵素の使用を低減又は不要にすることができる。
【0016】
ポリウロン酸化合物の中でも、細胞培養用担体としてはアルギン酸とガラクツロン酸が使用される例が多く、中でもアルギン酸はゲル化しやすく、担体の形状安定性を良好に維持することができるので使用例が多く細胞培養用担体としてより適している。ガラクツロン酸はゲル化しにくく、ゲル化しやすいCa2+のような多価カチオンを使用しても強度が小さく破損や分解をしやすい。アルギン酸はゲル化しやすくCa2+を使用して硬く高強度のゲル粒子を容易に作ることができるが、細胞の増殖性は劣るため、Fe3+のような多価のイオンで、より柔らかく調整することが好ましい。
アルギン酸は、多糖類であって、β-D-マンヌロン酸とα-L-グルロン酸とから形成されるポリウロン酸である。アルギン酸は、マンヌロン酸からなるブロック、グルロン酸からなるブロック、及びマンヌロン酸とグルロン酸とを含むブロック単位が不均質に存在する直鎖状の高分子である。
【0017】
アルギン酸又はその塩としては、例えば、アルギン酸、アルギン酸カルシウム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム等が挙げられる。これらの中でも、水溶性を示すことから、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム、又はこれらの組み合わせが好ましく、アルギン酸ナトリウムがより好ましい。
【0018】
アルギン酸又はその塩の重量平均分子量(Mw)は、1,000~5,000,000が好ましく、10,000~1,000,000がより好ましく、15,000~200,000が更に好ましい。アルギン酸又はその塩の重量平均分子量が小さいほど、水溶液の粘度を低くすることができる。低粘度の水溶液は、取り扱い性が良く、小粒子径の液滴を作製しやすい利点がある。特に、重量平均分子量が200,000以下であることで、水溶液がより低粘度となり、より低圧で送液を行うことができ、取り扱い性を改善することができる。重量平均分子量が1,000以上であることで、ゲル化物の形状安定性をより高めることができる。
ここで、重量平均分子量は、標準ポリスチレンで校正したゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
【0019】
アルギン酸又はその塩の1質量%水溶液の25℃の粘度は、1~900mPa・sが好ましく、1~200mPa・sがより好ましい。この粘度が1mPa・s以上であることで、ゲル化をより促進し、ゲル化物の形状安定性をより高めることができる。また、この粘度がより高いことで、ゲル化物の柔軟性をより高めることができる。この粘度が900mPa・s以下であることで、ゲル化の反応系が高粘度になることを防止し、操作性をより改善することができる。
【0020】
未架橋のアルギン酸又はその塩の市販品例として、株式会社キミカ製の「キミカアルギンシリーズ」、「アルギテックスシリーズ」、富士化学工業株式会社製の「スノーアルギンシリーズ」、「ニューテックスシリーズ」等を用いることができる(いずれも商品名)。
【0021】
また、ポリウロン酸化合物の粒子は表面にアニオン基を持つが、電荷的に細胞表面のアニオンと反発するため細胞接着性のペプチドを表面に付与することが必要になる。従来のポリウロン酸化合物をイオン架橋した粒子の表面に細胞接着性のペプチドを修飾するには、柔らかい粒子では破損や分解もしやすい。また、細胞培養時の攪拌操作などでの機械的応力によっても破損や分解を起こしやすい。
【0022】
簡便かつ効果的に細胞接着性を向上する方法として、ポリウロン酸化合物の表面にカチオン基を持つポリマ(以下、「カチオン性ポリマ」とも表記する。)をイオン架橋する方法があるが、従来の既に無機カチオンでイオン架橋されたポリウロン酸化合物では表面のアニオン基は少なくなっているので、カチオン基のポリマがイオン架橋して吸着する量も少なくなる。
【0023】
更に、好ましい一例では、カチオン性ポリマに細胞接着性ポリペプチドが連結される。この構成では、カチオン性ポリマがアルギン酸の基質に配向し、細胞接着性ポリペプチドが細胞側に配向することで、細胞接着性ポリペプチドによる細胞の接着性をより高めることができる。
【0024】
また、この担体内部のポリウロン酸化合物はイオン架橋されていないので、所望の金属カチオンを溶解した水溶液に浸漬するだけで、そのカチオンでイオン架橋され、所望の硬さの細胞培養用担体を得ることができる。
例えば、アルギン酸を基材としてキトサンで表面を架橋した担体は、Ca2+の溶液に浸漬することで基材のアルギン酸がCa2+でイオン架橋した比較的に硬い担体とすることができる。またFe3+のような3価以上の金属カチオンの溶液に浸漬することで、比較的に柔らかい担体とすることもできる。Ca2+で架橋した担体よりもFe3+で架橋した担体の方が細胞増殖性に優れている理由は、基材の柔らかさにあると推測される。また、例えばガラクツロン酸を含むペクチンを基材とした場合には、Ca2+で架橋した担体でも比較的に柔らかいが、表面をカチオン性ポリマで架橋被覆されているので機械的応力に対する強度は向上し細胞培養にもより使用されやすくなる。
また、本方法ではイオン架橋していない基材を用いているので、金属カチオンの種類の他、濃度や浸漬時間でイオン架橋の度合いを変化させることができ、所望の硬さの担体を得ることができる。
カチオン性ポリマは、基質に形成されるものであり、基質全体に形成されてもよく、基質の部分的に形成されてもよい。
カチオン性ポリマは、基質表面を全体的に被覆してもよく、部分的に被覆してもよい。
【0025】
細胞培養用担体は、回収される細胞に残渣が混入する可能性があることを考慮すると、カチオン性ポリマは、生体に対して毒性を示さないことが好ましい。また、細胞培養用担体に細胞を担持させた状態で、生体に投与する用途では、より生体に対して毒性を示さないことが好ましい。
細胞培養用担体において、細胞を担持させ、その後に基質を溶解させ、細胞を回収する際に、カチオン性ポリマは基質とともに溶解しないことで、細胞とともに回収される場合がある。この場合に、回収された細胞とともにカチオン性ポリマが生体に投与されることを考慮すると、生体内でカチオン性ポリマが分解されることが好ましい。例えば、カチオン性ポリマは、生分解性を示すことが好ましい。
【0026】
カチオン性ポリマとしては、カチオン性基を有するモノマーの重合体、カチオン性分散剤等を用いてカチオン性に表面処理されたポリマ、カチオン性基が導入されたポリマ等であってよい。好ましくは、アミノ基を有するポリマであり、より好ましくは、アミノ基を有する単糖類の重合体、アミノ基を有するアミノ酸の重合体、又はこれらの組み合わせである。
【0027】
カチオン性ポリマとしては、例えば、キトサン、ポリエチレンイミン、ポリリジン、ポリ(2-ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート等の4級アンモニウム塩基を有する(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド等のポリマ、カチオン残基を持つポリペプチド、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、ポリアミジン、カチオン化セルロース、カチオン化デンプン等が挙げられる。
これらは、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中で、生分解性を示すカチオン性ポリマが好ましく、より好ましくはキトサンである。
【0028】
細胞培養用担体の一例では、カチオン性ポリマに細胞接着性ポリペプチドが連結されることが好ましい。
この構成では、カチオン性ポリマがアルギン酸の基質に配向し、細胞接着性ポリペプチドが細胞側に配合することで、細胞接着性ポリペプチドによる細胞の接着性をより高めることができる。
【0029】
例えば、カチオン性ポリマと細胞接着性ポリペプチドとが連結された状態で、細胞接着性ポリペプチドが連結したカチオン性ポリマがアルギン酸を含む基質に吸着されて形成されたものであることが好ましい。
このような細胞培養用担体では、細胞接着性ポリペプチドが、担体の外周側に配向することから、細胞の担持量をより多くすることができる。
【0030】
細胞接着性ポリペプチドとしては、例えば、ポリペプチド及びタンパクのいずれであってもよく、天然品及び合成品のいずれであってもよい。天然ポリペプチドは、微生物培養によって得られたものであってもよい。
天然ポリペプチド、化学合成ポリペプチド、タンパクは、担持対象の細胞の種類に応じて、適切なアミノ酸配列を備えるものを用いることができる。化学合成ポリペプチドは、より適切なアミノ酸配列を安価に得ることができる。
【0031】
化学合成ポリペプチドとしては、カチオン性を示すことが好ましい。カチオン性化学合成ポリペプチドは、カチオン性を示すことから、細胞と接着しやすく、細胞接着量をより多くすることができる。
カチオン性化学合成ポリペプチドとしては、C末端でカチオン性ポリマに結合し、N末端としてアミノ基を有することが好ましい。これによって、カチオン性化学合成ポリペプチドのN末端によって、細胞を接着することができる。
カチオン性化学合成ポリペプチドは、カチオン性ポリマと反発するため、カチオン性化学合成ポリペプチドは、細胞培養用担体の外周側に配向するようになる。そして、細胞培養用担体の外周側において、カチオン性化学合成ポリペプチドによって細胞が接着されやすくなる。
【0032】
また、カチオン性化学合成ポリペプチドとしては、カチオン性アミノ酸を有することが好ましい。このカチオン性アミノ酸は、カチオン性化学合成ポリペプチドのN末端として導入されることが好ましい。
また、カチオン性化学合成ポリペプチドとしては、プロリンを含むことが好ましい。プロリンは、カチオン性化学合成ポリペプチドに、1個又は2個以上含まれてもよく、2個以上含まれることが好ましい。
【0033】
具体的な細胞接着性ポリペプチドとしては、ビトロネクチン(VN)ポリペプチド、フィブロネクチンポリペプチド、ラミニンポリペプチド等があり、これらのポリペプチドのRGDモチーフを含むアミノ酸配列を有するポリペプチド、これらのポリペプチドに含まれるメチオニンをノルロイシンに置換したポリペプチド等が挙げられる。
これらは、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
中でも、ビトロネクチン(VN)ポリペプチドのRGDモチーフを含むアミノ酸配列を有する化学合成ビトロネクチン(VN)ポリペプチドを好ましく用いることができる。
化学合成ビトロネクチンは、カチオン性ポリマとの連結末端と反対側の末端をN末端としてカチオン性とすることで、カチオン性ポリマから離れた位置で、細胞接着性をより向上させることができる。
化学合成ビトロネクチンは、カチオン性アミノ酸を有することで、カチオン性ポリマから離れた位置で、細胞接着性をより向上させることができる。更に、化学合成ビトロネクチンは、アニオン性アミノ酸を備えないことで、カチオン性ポリマから離れた位置で、細胞接着性をより向上させることができる。
【0035】
化学合成ビトロネクチンは、プロリンを含むことで、線状構造となって細胞接着性をより向上させることができる。線状構造は、螺旋構造、βシート構造等に比べて、表面積を大きくすることができ、細胞との接着面積をより大きくすることができる。
化学合成ビトロネクチンは、メチオニンを含まないことが好ましい。ポリペプチドにメチオニンが含まれる場合、メチオニンは酸化を受けやすいため、化学的安定性が低下することがある。化学合成によって、メチオニンをノルロイシンに置換することが好ましい。
【0036】
一実施形態による細胞培養用担体は、未架橋のアルギン酸又はその塩からなる基質と、基質とイオン架橋して基質表面を被覆したキトサンからなる。この状態で細胞培養用担体として使用するよりも、アルギン酸又はその塩を2価以上の金属イオンによって架橋して適度な硬さと強度を持つようにすることが好ましい。細胞増殖性が良好になるため、3価以上の金属塩がより好ましい。3価以上の金属イオンとしては、例えば、アルミニウムイオン(Al3+)、鉄(III)イオン(Fe3+)、スズイオン(Sn4+)、チタンイオン(Ti4+)、バナジウムイオン(V3+)、ジルコニウムイオン(Zr4+)等が挙げられる。好ましくは、アルミニウムイオン(Al3+)、鉄(III)イオン(Fe3+)であり、より好ましくは、鉄(III)イオン(Fe3+)である。
【0037】
一実施形態による細胞培養用担体は、細胞培養に用いた後に、培養系から除去することができる。細胞培養用担体の除去には、キレート剤、アルギン酸リアーゼ等を用いることができる。これらを用いることで、細胞培養用担体のアルギン酸基質を溶解除去することができる。
カチオン性ポリマにキトサンを用いる場合は、細胞培養後に、培養系から細胞培養用担体のカチオン性ポリマを除去するために、キトサナーゼを用いることができる。この場合、キトサナーゼと、キレート剤、アルギン酸リアーゼ等とを組み合わせて用いて、細胞培養用担体のアルギン酸又はその塩を含む基質とカチオン性ポリマとをともに除去するようにしてもよい。
【0038】
繊維状の細胞培養用担体は粒子状のマイクロキャリアの代替として用いることができる。この繊維状の細胞培養用担体は三次元培養方法において培地中に細胞を懸濁させて培養する際に、培地中で細胞を接着して担持する足場として用いることができる。培地にこの担体を添加することで、細胞培養を促進することができる。
繊維状の細胞培養用担体の平均繊維径は、500μm以下であり、10~500μmが好ましく、50~400μmがより好ましく、100~300μmが更に好ましい。繊維状の細胞培養用担体の平均繊維径がこの上限値以下であることで、培養系に投入される担体濃度を基準として細胞が増殖接着可能な担体の表面積を大きくすることができ、細胞の増殖量をより多くすることができる。また、平均繊維径がこの下限値以上であることでも、繊維径が細胞に対して細すぎて実質的に細胞が増殖接着できないことを防ぐので、細胞の増殖量をより多くすることができる。また繊維の強度を維持し、細分化して浮遊することで細胞への機械的ストレスが増えてしまうことを防ぐことができる。
繊維状の細胞培養用担体の繊維長は長い方が好ましい。繊維同士の絡まりで移動が抑えられるため、細胞への機械的ストレスも抑えられる。培地は繊維内を循環するようにすることで均一な培養環境と培地交換が可能になる。
繊維状の細胞培養用担体の繊維径分布の変動係数C.V.は、20%以下であり、15%以下であることが好ましい。繊維状の細胞培養用担体の繊維径が均一であるほど、培養する細胞の環境を均一にでき、体積当たりの担体の表面積を正確に見積もることができる。これを利用して、播種する細胞量を増殖しやすいように調節し、細胞濃度をより一定にして管理することができる。
【0039】
ここで、平均繊維径及び繊維径の変動係数C.V.は、下記手順によって測定されるものである。担体をガラス上に採取し、顕微鏡で撮影した繊維の画像から100か所の繊維径を画像計測ソフト(有限会社デジタル・ビーイング・キッズ製 PopImaging)を用いて測定して平均と変動係数C.V.を求める。
【0040】
(繊維状細胞培養用担体の製造方法)
一実施形態による繊維状細胞培養用担体は、その製造方法に限定されずに、上記した特性を備えるものであればよい。以下、一実施形態による繊維状細胞培養用担体の製造方法について、一例を用いて説明するが、以下の製造方法によって製造されたものに限定されない。
【0041】
繊維状細胞培養用担体の製造方法の一例としては、アルギン酸又はその塩を含む基質を作製すること、及び基質にカチオン性ポリマを形成することを含むことができる。
【0042】
更に、カチオン性ポリマに細胞接着性ポリペプチドを連結することを含むことができる。アルギン酸又はその塩を含む組成物は、上記したアルギン酸、アルギン酸塩、又はこれらの組み合わせを含む水溶液又は水分散体であることが好ましい。より好ましくは、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム等の水溶液が挙げられる。
【0043】
次に、基質にカチオン性ポリマを形成する方法について説明する。
一方法では、アルギン酸又はその塩を含む基質を含む組成物を用意すること、カチオン性ポリマを含む組成物を用意すること、及び基質を含む組成物と、カチオン性ポリマを含む組成物とを混合することを含むことができる。これによって、組成物中で、基質の架橋されたアルギン酸又はその塩に、カチオン性ポリマがイオン架橋し、基質にカチオン性ポリマが吸着して形成されるようになる。
【0044】
基質を含む組成物と、カチオン性ポリマを含む組成物とは、それぞれ水媒体等を含む水性組成物であることが好ましい。
【0045】
得られたカチオン性ポリマを形成した基質を、水等の水性媒体で洗浄し、不純物等を除去することが好ましい。また、得られたカチオン性ポリマを形成した基質は、水等の水性媒体中で水分散体として保管することが好ましい。
【0046】
細胞接着性ポリペプチドを結合させたカチオン性ポリマを作製する方法について、以下に説明する。
一方法では、細胞接着性ポリペプチドと、カチオン性ポリマとを反応させることを含むことができる。この反応において、縮合剤を用いることが好ましい。縮合剤としては、例えば、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMT-MM)等のトリアジン系縮合剤、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)等のスクシンイミド系縮合剤、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)等のカルボジイミド系縮合剤等が挙げられる。
これによって、細胞接着性ポリペプチドのC末端をカチオン性ポリマのアミノ基に結合させることができる。
【0047】
繊維状細胞培養用担体を所望の硬さや強度に調整する方法について以下に説明する。
一方法では、基質にカチオン性ポリマを形成した担体に、2価以上の金属カチオンを含む水溶液中に浸漬して混合することで、基質の塩の1価の金属カチオンが2価以上の金属カチオンと置き換わり、基質がイオン架橋され硬さが増し、強度が大きくなる。基質として好ましいアルギン酸ナトリウムを用いた時に、3価以上の金属カチオンで架橋して細胞増殖性の高い担体とすることが好ましい。3価以上の金属カチオンは、FeCl3、Al(NO3)3等の水溶液が挙げられる。
【0048】
基質は、3価以上の金属イオンによって架橋されたアルギン酸を、基質全量に対して何%含むかで硬さを調整することができる。細胞培養の担体としては、好ましくは50%以上である。この架橋の度合いは処理する金属イオン濃度と処理時間でも変化する。短い処理時間の管理は難しいので、濃度と処理量で制御するのが好ましく、濃度として3価以上の金属イオンを含む組成物は、0.1~5Mで3価以上の金属イオンを含むことが好ましく、より好ましくは、0.5~1Mである。
【0049】
基質には、その他の成分が含まれてもよい。また、培地中の金属カチオン量に影響しないように、培地中の金属カチオンを利用して架橋し、適宜培地中の金属カチオン量を調整してもよい。
【0050】
得られた架橋されたアルギン酸又はその塩を基質とした担体は、水等の水性媒体で洗浄し、不純物等を除去することが好ましい。また、得られた架橋されたアルギン酸は、水等の水性媒体中で水分散体として保管することが好ましい。
【0051】
基質のアルギン酸又はその塩の水溶液の繊維状のゲルは、アルギン酸又はその塩を含む水溶液を内径数100μmのニードルを通して2価以上の金属カチオンを含む水溶液中で噴出することで、ゲル化した繊維を得ることができる。このとき、アルギン酸又はその塩を含む水溶液の送液速度を一定にしてニードルを一定速度で金属カチオンを含む水溶液中を移動させることでゲルの塊を少なく、繊維の部分を多くできる。しかし、これらの条件を一定にすることは難しく繊維径が大きくなると共にばらついてしまう。繊維径を細く、かつ均一にするにはマイクロリアクターを利用する。一例として二重管の流路によるマイクロリアクターを用いた場合について説明する。この構造は、太い管の内側により細い管が挿入された二重管構造になっており、内側の管(内管)からアルギン酸又はその塩を含む水溶液相、その外側の太い管(外管)から金属カチオンを含む水溶液相を同一方向に送液する。流れ出す方の管の端部は内管の方が短く、内管から出たアルギン酸又はその塩を含む水溶液相は外管の金属カチオンを含む水溶液相の中を層流になって流れる。この時に、金属カチオンを含む水溶液相のほうがアルギン酸又はその塩を含む水溶液相よりも送液速度を十分に速くすると、内管の端部から出たアルギン酸水溶液相は、金属カチオンを含む水溶液相の速い流れで引き延ばされ、細い層流となる。この層流の状態で、アルギン酸又はその塩は、2価以上の金属カチオンでイオン架橋されゲル化する。内管の内径は、アルギン酸又はその塩のゲルの繊維径に影響するので、作製したい繊維径に近い径が適している。また管の長さが長いほど送液抵抗が大きくなり高圧で送液する必要があるので、繊維化が安定する範囲で管の長さは短いほうが適している。また、上記の2価以上の金属カチオンを含む水溶液中をキトサンなどのカチオン基を持つポリマ溶液とすると、アルギン酸又はその塩を含む水溶液が細い層流で流れながらカチオン基を持つポリマ溶液と接する界面のみがゲル化し、表面がカチオン基を持つポリマで被覆され、中心部が無架橋のアルギン酸又はその塩の繊維ができる。
【0052】
アルギン酸又はその塩を含む水溶液の粘度や送液速度を一定にして2価以上の金属カチオン相による引き延ばし力を一定にするとアルギン酸又はその塩を含む水溶液相の層流の太さは一定になり、繊維径が500μm以下で繊維径分布の変動係数が20%以下の繊維を作ることができる。アルギン酸又はその塩を含む水溶液の送液を続ける限り繊維は途切れないので長繊維も自在に作ることができ、二重管を並列に増やすことで数百レベルの多数本を同時に作製することもでき、大量の製造も可能である。
【0053】
これらのアルギン酸又はその塩の繊維は表面を、細胞接着性ペプチドを付与したカチオン基を持つポリマで被覆すると細胞接着性が向上し、培養効率が向上する。また、繊維表面を、細胞接着性ペプチドを付与したカチオン基を持つポリマで被覆した後に繊維内部を所望の2価以上の金属イオンで架橋することで、細胞接着性と繊維の硬さや強度を最適化できる。
【0054】
以下、一実施形態による細胞培養方法について説明する。
一実施形態による細胞培養方法は、繊維状細胞培養用担体を用意すること、繊維状細胞培養用担体を培養系に配置すること、及び繊維状細胞培養用担体の存在下で、細胞を培養することを含むことができる。
【0055】
細胞の培養を行う工程では、繊維状細胞培養用担体の存在下で、対象となる細胞の培養を行う。
培養対象となり得る細胞として、例えば、初代培養細胞、培養細胞株、組換培養細胞株等を用いることができる。細胞の由来については、特に限定されず、例えば、ヒト、チンパンジー、サル、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウス、ハムスター等の哺乳類;ニワトリ等の鳥類等が挙げられる。また、種の異なる2つ以上の細胞をハイブリッドさせた細胞を用いてもよい。
細胞が由来する器官、組織としては、特に限定されず、例えば、血球・リンパ系、血管系、脳・神経系、骨髄、筋組織、胸腺、唾液腺、口腔、食道、胃、肝臓、胆嚢、脾臓、小腸、大腸、直腸、皮膚、角膜、肺、甲状腺、哺乳器、子宮、子宮頸部、卵巣、精巣、膵臓、腎臓、副腎皮質、膀胱、胎盤、臍帯、胎仔、胎子、尾、間葉系幹細胞、癌細胞等が挙げられる。
【0056】
また、培養可能な細胞として幹細胞を好ましく用いることができる。例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性腫瘍細胞(EC細胞)、胚性生殖幹細胞(EG細胞)、核移植ES細胞、体細胞由来ES細胞等の分化多能性を有する幹細胞;造血幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞、脂肪組織由来間葉系幹細胞、臍帯由来間葉系幹細胞、その他間質由来幹細胞、Muse細胞、神経幹細胞等の組織幹細胞;肝臓、膵臓、脂肪組織、骨組織、軟骨組織、神経組織等の各種組織における前駆細胞、線維芽細胞等の各種の幹細胞が挙げられる。
【0057】
細胞の培養としては、対象となる細胞の培養に通常用いられる条件を、細胞の種類に応じてそのまま用いることができる。
細胞培養に用いる培地としては、細胞が生存し、増殖可能であるものであれば特に限定されず、培養する細胞の種類に応じて適宜選択することができる。
培地としては、血清培地又は無血清培地のいずれであってもよいが、一実施形態による細胞培養用担体は無血清培地での培養に好ましく用いることができる。
培地としては、例えば、イーグル培地、ダルベッコ変法イーグル培地(低グルコース又は高グルコース)、イーグルMEM培地、αMEM培地、IMDM培地、ハムF10培地、ハムF12培地、RPMI1640培地等、又はこれらのブレンド培地が挙げられる。
培地に血清を添加する場合は、例えば、ウシ胎仔血清(FBS)、ウマ血清、ヒト血清等の血清等を用いることができる。血清を添加する場合は、血清の濃度は30質量%以下が好ましい。
【0058】
培地には、必要に応じて、添加剤を添加してもよい。添加剤としては、例えば、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD等のビタミン;葉酸等の補酵素;グリシン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、グルタミン、イソロイシン、ロイシン等アミノ酸;乳酸等の炭素源としての糖又は有機酸;EGF、FGF、PFGF、TGF-β等の成長因子;IL-1、IL-6等のインターロイキン;TNF-α、TNF-β、レプチン等のサイトカイン;トランスフェリン等の金属トランスポーター;鉄イオン、セレンイオン、亜鉛イオン等の金属イオン;β-メルカプトエタノール、グルタチオン等のSH試薬;アルブミン等のタンパク質などが挙げられる。
【0059】
細胞培養方法は、特に限定されず、それぞれの細胞に適した方法を用いればよい。通常、細胞の培養は、30~40℃の範囲内、好ましくは36~37℃の温度で、pHは6.2~7.7の範囲内好ましくは7.4で、CO2濃度は4~10体積%、好ましくは5~7体積%の環境下で行うことができる。細胞の継代の時期及び方法も、特に限定されず、それぞれの細胞に適した方法を用いればよい。
【0060】
繊維状細胞培養用担体の使用量は、細胞の種類、繊維状の細胞培養用担体の種類によって異なるが、例えば、1×103~2×105cells/mLであり、好ましくは5×103~1×105cells/mLの細胞に対して、例えば、0.1~50g/Lであり、好ましくは0.5~10g/Lの繊維状細胞培養用担体を組み合わせて行うことができる。
【0061】
また、一実施形態によれば、上記した一実施形態による繊維状細胞培養用担体、及び培地を含む細胞培養キットを提供することができる。このキットにおいては、一実施形態による繊維状細胞培養用担体、培地がそれぞれ別の容器に保存されてもよい。また、このキットには、培養する細胞が含まれてもよい。また、このキットには、培養に使用する器具等が備えられてもよい。一実施形態による繊維状細胞培養用担体については、上記した通りである。
また、一実施形態によれば、繊維状細胞培養用担体のための、カチオン性ポリマで被覆された未架橋のアルギン酸又はその塩を含む基質とアルギン酸又はその塩を架橋するための金属イオン溶液の使用を提供することができる。
【実施例0062】
以下、本開示を実施例により具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されない。
【0063】
「繊維径測定」
担体をガラス上に採取し、顕微鏡で撮影した繊維の画像から100か所の繊維径を画像計測ソフト(有限会社デジタル・ビーイング・キッズ製 PopImaging)を用いて測定して平均と変動係数C.V.を求めた。
【0064】
[実施例1]
<細胞接着性ポリペプチドの合成>
合成用担体粒子を用いたFmoc固相合成法でビトロネクチン(VN)のRGDモチーフを中心に12アミノ酸残基PQVTRGDVFTMPの配列のペプチドを合成し、細胞接着性ポリペプチドとした。
【0065】
<細胞接着性ポリペプチド結合カチオン性ポリマの合成>
細胞接着性ポリペプチドのC末端をキトサンのアミノ基と縮合剤を用いて結合し、細胞接着性ポリペプチド結合カチオン性ポリマを合成した。縮合剤には、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMT-MM)を用いた。
【0066】
<繊維状アルギン酸のイオン架橋ゲルの作製>
二重管のマイクロリアクターを用い、マイクロリアクターの内径130μmの内管からアルギン酸ナトリウムの1質量%水溶液を0.4mL/minで送液し、内径0.6mmの外管から0.5MのFeCl3水溶液を2mL/minで送液して繊維化した。アルギン酸ゲル繊維はろ過後純水で洗浄した。
【0067】
<アルギン酸ゲル繊維に細胞接着性ポリペプチド結合キトサンを被覆>
アルギン酸ゲル繊維を細胞接着性ポリペプチド結合キトサンの1%乳酸水溶液(乳酸濃度1質量%)に浸漬して、ろ過後純水洗浄して培養液中に浸漬して繊維状細胞培養用担体分散培養液を得た。繊維状細胞培養用担体の平均繊維径は170μm、繊維径の変動係数C.V.は13%であった。
【0068】
[実施例2]
<繊維状アルギン酸の細胞接着性ポリペプチド結合キトサンを被覆ゲルの作製>
二重管のマイクロリアクターを用い、マイクロリアクターの内径130μmの内管からアルギン酸ナトリウムの1質量%水溶液を0.6mL/minで送液し、内径0.6mmの外管から細胞接着性ポリペプチド結合キトサンの1%乳酸水溶液(乳酸濃度1質量%)を6mL/minで送液して吐出繊維化した。
【0069】
<細胞接着性ポリペプチド結合キトサン被覆アルギン酸ゲルのイオン架橋>
上記二重管の吐出口を0.5MのFeCl3水溶液中に浸漬して、吐出繊維化したアルギン酸ゲル繊維をイオン架橋した。ろ過後純水洗浄して培養液中に浸漬して繊維状細胞培養用担体分散培養液を得た。繊維状細胞培養用担体の平均繊維径は260μm、繊維径の変動係数C.V.は17%であった。
【0070】
[実施例3]
上記実施例2の0.5MのFeCl3水溶液を0.5MのCaCl2水溶液として繊維状細胞培養用担体分散培養液を得た。繊維状細胞培養用担体の平均繊維径は250μm、繊維径の変動係数C.V.は15%であった。
【0071】
[比較例1]
<繊維状アルギン酸のイオン架橋ゲルの作製>
内径130μmの単管を0.5MのCaCl2水溶液中に浸漬し、アルギン酸ナトリウムの1質量%水溶液を0.4mL/minで送液して繊維化した。アルギン酸ゲル繊維はろ過後純水で洗浄した。
【0072】
<アルギン酸ゲル繊維に細胞接着性ポリペプチド結合キトサンを被覆>
アルギン酸ゲル繊維を細胞接着性ポリペプチド結合キトサンの1%乳酸水溶液(乳酸濃度1質量%)に浸漬して、ろ過後純水洗浄して培養液中に浸漬して繊維状細胞培養用担体分散培養液を得た。繊維状細胞培養用担体の平均繊維径は460μm、繊維径の変動係数C.V.は32%であった。
【0073】
[比較例2]
<繊維状アルギン酸のイオン架橋ゲルの作製>
内径200μmの単管を0.5MのCaCl2水溶液中に浸漬し、アルギン酸ナトリウムの1質量%水溶液を0.4mL/minで送液して繊維化した。アルギン酸ゲル繊維はろ過後純水で洗浄した。
【0074】
<アルギン酸ゲル繊維に細胞接着性ポリペプチド結合キトサンを被覆>
アルギン酸ゲル繊維を細胞接着性ポリペプチド結合キトサンの1%乳酸水溶液(乳酸濃度1質量%)に浸漬して、ろ過後純水洗浄して培養液中に浸漬して繊維状細胞培養用担体分散培養液を得た。繊維状細胞培養用担体の平均繊維径は590μm、繊維径の変動係数C.V.は50%であった。
【0075】
<評価>
各繊維状細胞培養用担体分散培養液を用いて、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
各繊維状細胞培養用担体分散液について、繊維状細胞培養用担体の平均繊維径と繊維状細胞培養用担体の繊維径分布の変動係数C.V.を求めた。
【0076】
125mLのスピナーフラスコに60mLの繊維状細胞培養用担体分散培養液を添加し、7000cells/mLの間葉系幹細胞を添加した。37℃で、スピナーフラスコを振盪攪拌しながら間葉系幹細胞を5日間培養し、繊維状細胞培養用担体を溶解除去して細胞を回収した。なお、繊維状細胞培養用担体の溶解には1質量%EDTA(エチレンジアミン四酢酸)溶液、キトサナーゼ及びアルギン酸リアーゼを必要量で添加した。
【0077】
回収した細胞数を顕微鏡観察で細胞計数盤によってカウントし、細胞数が30000cells/mLを超えていることで合格とし、細胞増殖性を評価した。
【0078】
【0079】
表1に示す通り、平均繊維径が500μm以下かつ繊維径の変動係数が20%以下の実施例は、比較例に比べ細胞増殖性に優れている。