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特開2022-129115ポリスチレン系二軸延伸シート及び包装体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129115
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】ポリスチレン系二軸延伸シート及び包装体
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20220829BHJP
   B29C 55/12 20060101ALI20220829BHJP
   C08L 25/04 20060101ALI20220829BHJP
   C08L 91/00 20060101ALI20220829BHJP
   B65D 65/02 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
C08J5/18 CER
C08J5/18 CET
B29C55/12
C08L25/04
C08L91/00
B65D65/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021027681
(22)【出願日】2021-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】角前 洋介
(72)【発明者】
【氏名】午菴 弘喜
(72)【発明者】
【氏名】牟田 隆俊
(72)【発明者】
【氏名】和田 隆之
【テーマコード(参考)】
3E086
4F071
4F210
4J002
【Fターム(参考)】
3E086AD05
3E086AD06
3E086AD23
3E086BA02
3E086BA15
3E086BA33
3E086BB90
3E086CA01
4F071AA12X
4F071AA15X
4F071AA22
4F071AA22X
4F071AA39
4F071AA75
4F071AA77
4F071AA81
4F071AA85
4F071AA86
4F071AA88
4F071AF13Y
4F071AF20
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4F071AF23
4F071AF30Y
4F071AF53
4F071AF61Y
4F071AH04
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC12
4F210AA13
4F210AC03
4F210AG01
4F210AH54
4F210AR06
4F210AR12
4F210AR20
4F210QA02
4F210QA03
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4J002AE052
4J002BC031
4J002BC041
4J002BC081
4J002BC091
4J002BC111
4J002GG00
4J002GG02
(57)【要約】
【課題】ゲル異物やシート表面荒れなどの外観不良が発生し難く、低温成形が可能なポリスチレン系二軸延伸シートおよびその包装体を提供する。
【解決手段】スチレン系樹脂(A)50.0~99.0質量%とテルペン系樹脂(B)1.0~50.0質量%とを含有するシートであって、シート厚みが0.05mm以上0.50mm以下であり、かつシート縦方向と横方向の配向緩和応力が共に0.1MPa以上1.2MPa以下であり、100℃の損失正接が0.15以上0.80以下である
ことを特徴とするポリスチレン系二軸延伸シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂(A)50.0~99.0質量%とテルペン系樹脂(B)1.0~50.0質量%とを含有するシートであって、
シート厚みが0.05mm以上0.50mm以下であり、かつ
シート縦方向と横方向の配向緩和応力が共に0.1MPa以上1.2MPa以下であり、
100℃の損失正接が0.15以上0.80以下である
ことを特徴とするポリスチレン系二軸延伸シート。
【請求項2】
前記シートを100.0質量%とした場合に、耐衝撃性ポリスチレン系樹脂(C)を0.1質量%以上5.0質量%以下含む請求項1に記載のポリスチレン系二軸延伸シート。
【請求項3】
前記シートのビカット軟化温度が75℃以上100℃未満である請求項1または2に記載のポリスチレン系二軸延伸シート。
【請求項4】
前記シート厚みが0.18mmの場合に、ヘイズが15.0%以下である請求項1~3の何れか1項に記載のポリスチレン系二軸延伸シート。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載のポリスチレン系二軸延伸シートを用いてなる包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テルペン系樹脂を含有するポリスチレン系二軸延伸シート、及び、該シートを成形してなる包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
汎用ポリスチレン樹脂(GPPS)等からなる透明なポリスチレン系二軸延伸シートは、剛性、軽量性、透明性、成形性、リサイクル性などに優れ、食品包装容器や蓋材などの成形品として使用されている。
包装容器や蓋材等への成形は、公知の熱板接触加熱成形法、圧空成形法、真空成形法、真空圧空成形法、プラグアシスト成形法によって行われ、目的の形状に二次成形して好適に用いることができる。GPPS等からなる透明なポリスチレン系二軸延伸シートは、特に、弁当や総菜等の食品用の包装用透明蓋等に好適である。その他、工業部品等の小分けトレイや運搬容器などに用いることもできる。
【0003】
近年、環境問題に対する意識の高まりから、環境負荷を低減できる加工工程や生産性の向上を目的として、低温成形が求められている。低温成形は、従来の加工条件に比べて低い温度条件で加工できるため、加熱に必要なエネルギーを小さくできたり、加熱や離型に要する時間が短くできたりするため、環境負荷の低減や生産性の向上につながる。
低温成形を目的としたポリスチレン系二軸延伸シートとしては、例えば、特許文献1~3にスチレン-アクリル酸エステル共重合体を用いたシートが開示されている。
しかしながら、これらの技術は、共重合未反応物に起因するゲルが発生して押出成形不良が起こりやすく、ブツやメヤニ等のシート外観不良を発生させたり、共重合体の分岐鎖に起因して溶融張力が高くなりシート表面が荒れたりする等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6-073133号公報
【特許文献2】特開2007-291366号公報
【特許文献3】特開2008-248156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記実情を鑑み、本発明の課題は、ゲル異物やシート表面荒れなどの外観不良が発生し難く、低温成形が可能なポリスチレン系二軸延伸シートおよびその包装体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、スチレン系樹脂とテルペン系樹脂とを所定の割合にて含有し、延伸により所定の配向緩和応力とすることで、シートの100℃の損失正接を所定範囲とすることにより、上記課題を解決可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
第1の本発明は、スチレン系樹脂(A)50.0~99.0質量%とテルペン系樹脂(B)1.0~50.0質量%とを含有するシートであって、シート厚みが0.05mm以上0.50mm以下であり、かつシート縦方向と横方向の配向緩和応力が共に0.1MPa以上1.2MPa以下であり、100℃の損失正接が0.15以上0.80以下であることを特徴とするポリスチレン系二軸延伸シートである。
【0008】
第1の本発明において、前記シートを100.0質量%とした場合に、耐衝撃性ポリスチレン系樹脂(C)を0.1質量%以上5.0質量%以下含むことが好ましい。
【0009】
第1の本発明において、前記シートのビカット軟化温度が75℃以上100℃未満であることが好ましい。
【0010】
第1の本発明において、前記シート厚みが0.18mmの場合に、ヘイズが15.0%以下であることが好ましい。
【0011】
第2の本発明は、第1の本発明のポリスチレン系二軸延伸シートを用いてなる包装体である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリスチレン系二軸延伸シートは、外観不良が発生し難いので、生産歩留まりが良好で経済効率が良く、また低温成形が可能であるので、成形加工のエネルギーを低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明の範囲は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
<ポリスチレン系二軸延伸シート>
本発明のポリスチレン系二軸延伸シート(以下、本発明のシートと称することがある)は、スチレン系樹脂(A)50.0~99.0質量%とテルペン系樹脂(B)1.0~50.0質量%とを含有する。
なお、断り書きを設けない限り「△~△△」の表記は、「△以上△△以下」を意味し、好ましくは「△超△未満」を意味する。
【0014】
(スチレン系樹脂(A))
本発明のシートに用いるスチレン系樹脂(A)は、スチレン系モノマーを用いた重合体、スチレン系モノマーとそれらと共重合可能な他のモノマーとの共重合体を挙げることができる。
スチレン系モノマーとしては、スチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-エチルスチレン、4-t-ブチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン等のアルキル置換スチレン、α-メチルスチレン、α-メチル-4-メチルスチレン等のα-アルキル置換スチレン、2-クロロスチレン、4-クロロスチレン等のハロゲン化スチレン等を挙げることができる。これらスチレン系モノマーは、1種を単独で用いても良いし、2種以上を共重合させて用いてもよい。耐熱性向上の観点では、スチレンとαメチルスチレンとの共重合体が好ましい。
スチレン系モノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、無水マレイン酸、酢酸ビニル、アクリロニトリルや、ブタジエン、イソプレン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン等の共役ジエン系炭化水素、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等のα-オレフィン等を挙げることができる。耐熱性向上の観点では、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、無水マレイン酸、アクリロニトリルを用いることが好ましく、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルを用いることがより好ましく、(メタ)アクリル酸を用いることが特に好ましい。
【0015】
スチレン系樹脂(A)の重量平均分子量は、特に限定されるものではないが150,000以上2,000,000以下が好ましく、150,000以上1,800,000以下がより好ましい。係る範囲であると、溶融粘度特性から押出成形性が良好となる。また、150,000以上であると、シートの機械的強度が十分となり、2,000,000以下であるとシートの弾性率が好適となり低温成形性が向上する。
スチレン系樹脂(A)のMFRは、1.5g/10分以上5.0g/10分以下が好ましく、2.0g/10分以上4.0g/10分以下がより好ましい。
【0016】
スチレン系樹脂(A)は、ガラス転移温度80℃以上140℃以下が好ましく、上限は130℃以下がより好ましい。係る範囲であると、テルペン系樹脂(B)と配合した際に、シートの機械的強度と低温成形性のバランスに優れる。具体的には、80℃以上により、シートに実用的な耐熱性を付加でき、140℃以下により低温成形性が良好となる。
ガラス転移温度は、JIS K7121:2012に基づき、示差走査熱量測定により、10℃/分で再昇温した際の値から求める。
【0017】
(テルペン系樹脂(B))
本発明のシートに用いるテルペン系樹脂(B)は、単量体の主成分としてイソプレン(C5H8)の化学式を含む炭化水素及びその含酸素誘導体、例えば、モノテルペン(C10化合物)、セスキテルペン(C15化合物)、ジテルペン(C20化合物)などのテルペンを基本骨格とする化合物(テルペン化合物)を重合して得られる樹脂である。
具体的には、テルペン化合物の単独重合体であるテルペン樹脂、テルペン化合物と芳香族化合物とを共重合して得られる芳香族変性テルペン樹脂、テルペン化合物とフェノール化合物との共重合体であるテルペンフェノール樹脂、それらの完全水素添加樹脂、または部分水素添加樹脂等を用いることができる。これらの中でも、入手のしやすさや価格の安さ、臭気の少なさなどから、テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂が好ましい。なお、これらは1種類を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0018】
テルペン化合物としては、特に限定されないが、例えばα―ピネン、β―ピネン、カルボン、カンフェン、2-カレン、3-カレン、ジペンテン、d―リモネン、ミルセン、アロオシメン、オシメン、α―フェランドレン、α―イオノン、β―イオノン、β―シトロネレン、α―テルピネン、γ―テルピネン、テルピノレン、1,8-シネオール、1,4-シネオール、β―シトロネロール、α―テルピネオール、β―テルピネオール、γ―テルピネオール等が挙げられる。これらは1種類を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
これらのテルペン化合物は、何れも植物源または動物源であり天然で生合成され、再生可能な資源である。
【0019】
テルペン化合物の単独重合体であるテルペン樹脂としては、α―ピネン樹脂、β―ピネン樹脂、ジペンテン樹脂などを例示できる。これらはバイオマス割合が100%に近い樹脂であるので、昨今の環境意識の高まりによるサーキュラーエコノミーの観点において有効に用いることができる。
【0020】
芳香族変性テルペン樹脂は、テルペン化合物と芳香族化合物との共重合体である。テルペン化合物と共重合可能な芳香族化合物としては、スチレン、α―メチルスチレン、アルキルスチレン、アルコキシスチレン、ビニルトルエン、不飽和炭化水素基含有スチレンなどのスチレン誘導体であるクマロン、インデンなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上で用いても良い。
芳香族変性テルペン樹脂としては、α―ピネン-スチレン共重合体、ジペンテン-スチレン共重合体、β―ピネン-スチレン共重合体、α―ピネン-α―スチレン共重合体、リモネン-スチレン共重合体等のスチレン単量体との共重合体が好ましい。
芳香族変性テルペン樹脂の共重合質量組成比のテルペン化合物/芳香族化合物は、5/95~99/1が好ましく、20/80~95/5がより好ましく、40/60~95/5がさらに好ましい。芳香族変性テルペン樹脂のバイオマス割合を高めるには、バイオマス由来の芳香族化合物を用いる、及び/又はテルペン化合物の共重合組成比を高くするとよい。バイオマス割合(単位%)は、樹脂の乾燥総重量に対するバイオマス原料由来成分の乾燥重量の比により求まる。
これらの共重合体は、例えばテルペン化合物と芳香族化合物とを有機溶媒中に混合し、フリーデルクラフツ型触媒存在下で共重合して得ることができる。
【0021】
テルペン系樹脂(B)の重量平均分子量は、特に限定されないが、上限は6000以下が好ましく、5000以下がより好ましく、4000以下が更に好ましい。下限は300以上が好ましく、500以上がより好ましく、700以上が更に好ましい。分子量6000以下によりスチレン系樹脂(A)との相溶性が良好になり、またテルペン系樹脂(B)の軟化点が低くなり、シートの低温成形性が向上する。分子量300以上により、シートの機械強度や耐熱性が十分となる。
【0022】
テルペン系樹脂(B)の軟化点は、60℃以上160℃以下が好ましく、70℃以上150℃以下がより好ましく、80℃以上140℃以下が更に好ましい。60℃以上により、シートに実用的な耐熱性を付与できる。160℃以下により、シートのビカット軟化温度およびガラス転移温度が低くなり、低温成形性を向上できる。テルペン系樹脂(B)の軟化点は、JIS K5902:2006に準じて測定される。
【0023】
(シートの組成)
本発明のシートは、スチレン系樹脂(A)とテルペン系樹脂(B)とを混合することで、シートの低温成形性を発現させることができる。これは、テルペン系樹脂(B)のガラス転移温度や軟化点が分子量により制御し易いからである。また、芳香族変性テルペン樹脂、特にスチレン変性テルペン樹脂は、スチレン系樹脂(A)との共通成分であるスチレンにより、スチレン系樹脂(A)とテルペン系樹脂(B)との相溶性を調整できるので、両者の樹脂組成物からなるシートのガラス転移温度やビカット軟化温度の制御がし易いからである。
【0024】
本発明のシートは、シートを100.0質量%とする場合、スチレン系樹脂(A)とテルペン系樹脂(B)との混合質量組成比は、50.0~99.0:1.0~50.0である。テルペン系樹脂(B)の混合質量組成比が1.0質量%以上によりシートの低温成形性が向上し、50.0質量%以下によりスチレン系樹脂(A)との相溶性が良好となり、シート表面荒れ等が起き難くシート外観が向上する。
中でも、スチレン系樹脂(A)とテルペン系樹脂(B)との混合質量組成比が80.0~99.0:1.0~20.0であると、シートの無色透明性が高くなり、例えば容器の蓋などの成形品で内容物の視認性や美観を求められる包装体用途に好適となる。90.0~99.0:1.0~10.0がより好ましく、95.0~99.0:1.0~5.0が更に好ましい。
また、スチレン系樹脂(A)とテルペン系樹脂(B)との混合質量組成比が50.0~80.0:20.0~50.0であると、シートの白色度が増し文字や絵柄の印刷等が映えるため、意匠性の高いシートや底容器などの成形品からなる包装体用途に好適となる。50.0~70.0:30.0~50.0がより好ましい。
また、石油由来樹脂の使用量を低減させ、環境負荷の軽減させる観点では、バイオマス由来のテルペン系樹脂(B)の混合比が高いほど好ましい。例えば、シートのバイオマス度は、0.5%以上が好ましく、2.5%以上がより好ましい。なお、バイオマス度(単位%)は、製品の乾燥重量に対する、使用したバイオマスの乾燥重量の比から求まる。
【0025】
(耐衝撃性ポリスチレン系樹脂(C))
本発明のシートは、耐衝撃性ポリスチレン系樹脂(C)を含有することができる。耐衝撃性ポリスチレン系樹脂(C)の含有により、シートの耐ブロッキング性と耐衝撃性が向上する。耐衝撃性ポリスチレン樹脂(C)の含有率は、シートを100.0質量%とした場合、0.1質量%以上5.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以上4.0質量%以下がより好ましい。
【0026】
耐衝撃性ポリスチレン系樹脂(C)としては、ゴム等の成分が含まれるポリスチレン系樹脂であれば良く、スチレンの単独重合体中にゴム成分が含まれているもの等を好適に用いることができる。ゴム成分としては、例えば、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ブタジエン-イソプレン共重合体などが挙げられる。ゴム成分は、マトリックス樹脂となるポリスチレン中に、独立してゴム成分が粒子状になって分散していているもの、あるいは、ポリスチレンにグラフト重合して粒子状に分散しているものであってもよい。
【0027】
耐衝撃性ポリスチレン系樹脂(C)のゴム成分の含有率は、耐衝撃性と延伸成形性とを両立する観点から、耐衝撃性ポリススチレン系樹脂(C)を100.0質量%とする場合、1.0質量%以上15.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以上15.0質量%以下がより好ましく、5.0質量%以上15.0質量%以下が更に好ましい。
ゴム成分の含有率は、一塩化ヨウ素、ヨウ化カリウムおよびチオ硫酸ナトリウム標準液を用いた電位差滴定でジエン含有量を測定し、ジエン含有量をゴム状重合体の含有量として計算される。測定方法は、例えば、日本分析化学会高分子分析研究懇談会編、「新版 高分子分析ハンドブック」、紀伊國屋書店(1995年度版)、P.659(3)ゴム含量に記載されている。
耐衝撃性ポリスチレン系樹脂(C)のMFRは、1.5g/10分以上5.0g/10分以下が好ましく、2.0g/10分以上4.0g/10分以下がより好ましい。
【0028】
(相溶化剤)
本発明のシートは、スチレン系樹脂(A)とテルペン系樹脂(B)との相溶性を向上させ均質なシートを得るために、相溶化剤を用いてもよい。相溶化剤としては、スチレン系樹脂(A)とテルペン系樹脂(B)との相溶効果が得られる成分であれば特に限定されないが、例えば、スチレン系熱可塑性エラストマーが挙げられ、具体例としてはスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-ブタジエン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SBBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)等が挙げられる。
相溶化剤の含有率は、シートを100質量%とする場合、0~30質量%が好ましく、1~20質量%がより好ましく、2~10質量%が更に好ましい。相溶化剤が30質量%以下であることにより、スチレン系熱可塑性エラストマー中のエチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン、ブタジエン、イソプレン等のゴム成分が、シート製膜工程や二次加工時に熱劣化し難く、シート外観、二軸延伸性、低温成形性が良好となる。
【0029】
(他の成分)
本発明のシートは、本発明の効果を損ねない範囲で、上記した樹脂以外の他の樹脂や添加剤等の他の成分を含有することができる。
他の樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、塩素化ポリエチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリメチルペンテン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、ポリブチレンサクシネート系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリエチレンオキサイド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアミドビスマレイミド系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリサルフォン系樹脂、アラミド系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。
また、シート製造工程で発生するシート耳のトリミングロス等を用いたリサイクル樹脂を含有することもできる。
【0030】
添加剤としては、加工助剤、溶融粘度改良剤、酸化防止剤、老化防止剤、熱安定剤、光安定剤、耐候性安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、核剤、架橋剤、滑材、アンチブロッキング剤、鉱油、スリップ剤、防曇剤、抗菌剤、消臭剤、難燃剤、帯電防止剤、着色剤および顔料などが挙げられる。
【0031】
アンチブロッキング剤としては、無機粒子、有機粒子が挙げられる。無機粒子としては、例えばシリカ、ガラスビーズ等、及びそれらの表面に化学的処理を施したもの等が挙げられる。有機粒子としては、例えばポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル等、及びそれらに熱処理、化学処理を施したもの等が挙げられる。中でも、化学的に安定であり、触媒作用によって樹脂を変性させないこと、後述のシート表面への離型剤シリコーンオイルの塗布性の点から、酸化珪素を主体成分とする球状シリカが好ましい。
アンチブロッキング剤のシート中の含有率は50~500ppmが好ましい。平均粒子径は1~20μmが好ましい。
【0032】
(防曇層、離型層)
本発明のシートは、表面に防曇剤、離型剤などを含む塗布液を塗布し乾燥して防曇層、離型層を設けることができる。シートの一方の面に防曇層、他方の面に離型層を設けると、蓋、容器などの包装体を成形、使用する際の離型性が良好となり、食品等の水分を含む内容物を収容した際の防曇性が良好となる。
防曇剤としては、公知の界面活性剤が使用可能で、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等の多価アルコール脂肪酸エステルが好ましく、更にポリビニルアルコール、アクリルポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック共重合体等の水溶性高分子および/またはメチルセルロース、シクロデキストリン等の多糖類混合物を加えるとシート表面における多価アルコール脂肪酸エステルの分散性や保持が良好になり防曇性向上の点で好ましい。
離型剤としては、シリコーンオイルが好ましく、安全性、離型性等の点から、アルキルポリシロキサンが好ましく、ポリジメチルシロキサンが特に好ましい。
防曇層、離型層の厚みは、特に制限されないが、それら性能を十分発現する点で、防曇層は20~100nm、離型層は1~50nmが好ましい。
【0033】
(シートの製造方法)
本発明のポリスチレン系二軸延伸シートは、公知の方法によって製造できる。例えば、原材料を押出機で溶融混練してダイからシート状に押出し、冷却ロールや空冷、水冷にて冷却固化して未延伸シートを作製し、次いで、縦方向及び横方向に延伸処理し、二軸延伸シートを得ることできる。
【0034】
未延伸シートの製造方法の詳細例としては、シートを構成する原材料を混合した後、単軸押出機、異方向二軸押出機、同方向二軸押出機などの押出機を使用し、組成物の均一な分散分配を促す。原材料は、タンブラーミキサー、ミキシングロール、バンバリーミキサー、リボンブレンダ―、スーパーミキサーなどの混合機で混合した後、押出機に投入してもよいし、または、他の混練機の先端にストランドダイを接続し、ストランドカット、ダイカットなどの方法により一旦ペレット化した後、得られたペレットを押出機に投入してもよい。
次いで、押出機により溶融された樹脂組成物を、押出機の先端にTダイなどの口金を接続し、シート状に成型した後、冷却ロールで冷却固化する。押出温度は、180~260℃程度が好ましく、190~250℃がより好ましい。
【0035】
未延伸シートの延伸方法の詳細例としては、シートの流れ方向(縦方向、MD)へのロール延伸や、シートの流れ方向に対して垂直方向(横方向、TD)へのテンター延伸等により、二軸延伸することが好ましい。また、縦方向に延伸後、横方向に延伸してもよいし、横方向に延伸後、縦方向に延伸してもよい。また、縦方向及び横方向に延伸処理されていれば、同じ方向に2回以上延伸してもよい。さらには、縦方向に延伸後、横方向に延伸し、さらに縦方向に延伸してもよい。また、同時二軸延伸機により縦方向、横方向に同時に延伸されてもよい。さらには、未延伸シートを裁断し、バッチ式の延伸機により二軸延伸してもよい。
【0036】
二軸延伸シートの延伸倍率は、シートの縦方向、横方向共に1.1倍以上4.0倍以下が好ましく、1.5倍以上3.0倍以下がより好ましく、2.0倍以上2.5倍以下が更に好ましい。延伸倍率1.1倍以上により、シートを成形加工した成形品が十分な衝撃強度を有し、4.0倍以下により、シートを熱成形する際の賦形性、型再現性が良好となる。
本発明における延伸倍率は、二軸延伸シートの試験片に直線を記して熱収縮させ、その直線長さの収縮前後の変化率から求められる。具体的には、[延伸倍率=Y/Z]の式によって算出される値であり、この式において、Yは、二軸延伸シートの試験片に定規および筆記用具を用いてシート縦方向および横方向に描いた直線の長さ(mm)であり、Zは、JIS K7206に準拠して測定した当該シートのビカット軟化温度より40℃高い温度のシリコンオイルバスに試験片を10分間浸漬させ収縮させた後の直線の長さ(mm)である。
【0037】
(シートの厚み)
本発明のシートの厚みは、0.05mm以上0.50mm以下である。係る範囲において、包装体等の成形品を作製する二次加工工程における取り扱い容易性や、成形品の強度が良好となり、0.10mm以上0.40mm以下が好ましく、0.15mm以上0.3mm以下がより好ましい。0.05mm以上により、成形品が十分な機械的強度を有し、0.50mm以下により、二次加工成形し易い。
【0038】
(シートの物性)
・透明性
本発明のシートを、例えば容器の蓋などの成形品で内容物の視認性や美観を求められる包装体に用いる場合は、シートの透明性が高いほど良い。
シートの高透明性としては、例えば、シート厚みが0.18mmの場合に、ヘイズ15.0%以下が好ましく、ヘイズ10.0%以下がより好ましく、5.0%以下がさらに好ましく、2.0%以下が特に好ましい。全光線透過率は80%以上が好ましく、84%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましい。
他方、シートのバイオマス度を高めるためにテルペン系樹脂(B)の混合組成比を増大させる場合、薄肉成形品の強度を強めるために耐衝撃性ポリスチレン系樹脂(C)の混合組成比を増大させる場合、シートを構成する樹脂の相溶性向上のために相溶化剤を含有する場合は、シートの白色度が高くなり易い。これらの場合は、文字や絵柄の印刷等が映える意匠性の高いシートや底容器等の包装体に好適に使用することができる。ヘイズは、例えば、シート厚みが0.18mmの場合に、10.0%超70.0%以下となりやすく、15.0%以上50.0%以下となりやすく、シートの機械的強度、耐熱性と両立する点から、15.0%以上30.0%以下が好ましい。
ヘイズは、JIS K7136:2000に準拠して測定でき、全光線透過率に対する拡散透過率の比である。全光線透過率は、JIS K7361-1:1997に準拠して測定できる。
【0039】
・ビカット軟化温度、ガラス転移温度
本発明のシートは、テルペン系樹脂(B)の含有によりビカット軟化温度、ガラス転移温度が低くなり、市場で流通しているホモポリスチレンからなる二軸延伸シートに比べ低温成形性に優れる。
ビカット軟化温度の上限は、シートの低温成形性の点から、100℃未満が好ましく、99℃以下がより好ましく、98℃以下が更に好ましい。下限は、実用的な耐熱性の点から、75℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、85℃以上がさらに好ましい。
ガラス転移温度の上限は、シートの低温成形性の点から、100℃未満が好ましく、99℃以下がより好ましい。下限は、実用的な耐熱性の点から、80℃以上が好ましく、85℃以上がより好ましい。
ビカット軟化温度は、JIS K7206:2016に準拠して測定できる。
ガラス転移温度は、JIS K7121:2012に基づき、示差走査熱量分析装置を用い、10℃/分で再昇温した際のガラス転移温度で求まる。
ビカット軟化温度とガラス転移温度の測定対象物は、シートを構成する樹脂組成物、未延伸シート、二軸延伸シートの加熱収縮物の何れでもよい。
【0040】
・粘弾性
本発明のシートは、動的粘弾性測定装置を用い振動周波数10Hz条件で測定した100℃における損失正接(tanδ)が0.15以上であり、0.20以上が好ましい。損失正接(tanδ)の上限は0.80以下であり、0.70以下が好ましく、0.60以下がより好ましい。
損失正接(tanδ)は、貯蔵弾性率(E’) に対する損失弾性率(E”)の比、すなわち損失正接(tanδ=E”/E’)である。損失正接(tanδ)が高いと、その温度領域では、材料の損失弾性率(E”)、すなわち粘性の寄与率が大きいことを意味する。
本発明のシートは低温成形性に優れるものであるが、ポリスチレン系二軸延伸シートの一般的な成形温度は100℃~140℃前後であることから、粘弾性の温度指標を100℃とすることで、損失正接(tanδ)の大小からシートの熱成形性を考察できる。損失正接(tanδ)が0.15以上により、シートを加熱して包装体に成形する時にシートが適度に変形するため成形性が向上する。損失正接(tanδ)が0.80以下により、シートを包装体に加熱成形する時のシートの変形が大きくなり過ぎず、破れや厚みムラなどの成形不良が生じ難い。
損失正接(tanδ)は、一般的には材料のガラス転移温度、分子構造、分子配向などで制御される。本発明では、ガラス転移温度の低いテルペン系樹脂(B)の混合組成比を好適化にすることで、シートの損失正接(tanδ)を所望の範囲に調整できる。具体的には、テルペン系樹脂(B)の混合量を増やすことで、ガラス転移温度が低温側にシフトし損失正接を大きくすることができる。このとき、テルペン系樹脂(B)の混合量は上述した1.0~50.0%の範囲が好適である。
【0041】
・配向緩和応力
本発明のシートは、縦方向と横方向の配向緩和応力が共に0.1MPa以上1.2MPa以下であり、0.2MPa以上1.0MPa以下が好ましく、0.3MPa以上0.8MPa以下がより好ましい。
0.1MPa以上により、シートおよび成形品、包装体の耐衝撃性が向上して割れ難く、破れ難くなり、また、シートを熱板加熱式圧空成形等で熱成形する際に、金型外周の枠部分で裂ける等の成形不良が発生し難くなる。1.2MPa以下により、熱成形時の賦形性、型再現性が良好となる。
また、シートの縦方向と横方向の物性の異方性による熱成形時の不良を少なくする観点から、配向緩和応力の縦方向と横方向との絶対値差は0.6MPa以下が好ましく、0.4MPa以下がより好ましく、0.1MPa以下が更に好ましい。
シートの配向緩和応力は、二軸延伸によって樹脂の分子を配向させることによって有する物性であり、縦延伸温度、横延伸温度を下げて延伸すると縦方向、横方向の配向緩和応力が増大し、縦延伸温度、横延伸温度を上げて延伸すると縦方向、横方向の配向緩和応力が低減する。縦方向と横方向の配向緩和応力を共に0.1MPa以上1.2MPa以下にするには、縦延伸温度を100~130℃、縦延伸倍率を1.1~4.0倍、横延伸温度を100~140℃、横延伸倍率を1.1~4.0倍にするとよい。
シートの配向緩和応力は、ASTM D 1504に準拠し、15mm幅の試験片をシートのビカット軟化温度より30℃高い温度のシリコンオイルバス中に浸漬させた際に発生する収縮応力の最大値を測定して求まる。
【0042】
・耐衝撃性
本発明のシートは、二次加工時のシートの割れや、包装体の取り扱い時の割れや破れを起こり難くする観点から、耐衝撃性として、JIS K7124-2:1999に準拠して測定される最大衝撃点エネルギーが0.5J以上であることが好ましく、0.7J以上がより好ましい。
【0043】
・引張弾性率
本発明のシートは、JIS K7161-1:2014に準拠して雰囲気温度23℃で測定される引張弾性率が2.0GPa以上であることが好ましく、2.2GPa以上がより好ましく、2.5GPa以上がさらに好ましい。上限は、特に制限されないが、一般に6.0GPa以下である。引張弾性率が2.0GPa以上であれば、シートや包装体の剛性が十分高く、特にシート厚みを薄くした場合でも、外力に対する変形が抑制され好適である。
【0044】
<包装体>
本発明のシートは、成形加工して包装体に利用できる。
包装体は、各種用途に応じた形状に成形して用いられる。例えば、用途は、生鮮、総菜、乾物、菓子などの食品や工業部品を収容する包装体であり、形状は、箱型底容器、コップ、皿、トレイ、蓋つき容器、蓋などが挙げられる。
本発明のシートは、公知の方法で成形できる。例えば、熱板接触加熱成形法、圧空成形法、真空成形法、真空圧空成形法、プラグアシスト成形法、等である。中でも、成形品の厚みの均等性、成形生産効率の観点から、熱板接触加熱成形法が好ましい。シートの成形加工は、シートロールを用いて連続的に行っても良いし、カット版シートを用い1ショット毎に成形しても良い。
【0045】
熱板接触加熱成形法の場合、熱板温度条件は、低温成形性の観点からシートのビカット軟化温度+10℃~+30℃が好ましく、上限は+20℃以下がより好ましく、+15℃以下が更に好ましい。金型形状が複雑な場合や深い場合は、ビカット軟化温度+16℃~+20℃とするとよい。シートの低温成形性の観点からより熱板温度条件は十分な賦形性が得られる範囲で低いほど好ましい。熱板温度条件をビカット軟化温度+30℃以下とすることにより、成形サイクル時間の短時間化と成形品のレインドロップの発生抑制を両立し易い。
上述の各種成形法の加熱時間条件は、0.5~10.0秒が好ましく、0.5秒~5.0秒がより好ましい。なお、加熱時間とは、シートを真空及び/又は圧空で熱板に接触させている時間と、次いでシートを金型へ延展するために所望の真空及び/又は圧空状態になるまでの遅れ時間の合計を云う。
【実施例0046】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
<原材料>
実施例比較例に用いた原材料の成分、物性、略号は、以下の通りである。
なお、スチレン系樹脂(A)、耐衝撃性ポリスチレン系樹脂(C)のメルトフローレート(MFR)はJIS K7210-1:2014に準じ、温度200℃、荷重5kgfの条件で測定された値である。相溶化剤のMFRは、JIS K7210-1:2014に準じ、温度230℃、荷重2.16kgfの条件で測定された値である。
テルペン樹脂(B)の軟化点は、JIS K5902:2006に準じて測定された値である。
【0047】
(スチレン系樹脂(A))
A-1; スチレン単独重合体、MFR3.5g/10分
(テルペン系樹脂(B))
B-1; 芳香族変性テルペン樹脂、ヤスハラケミカル社製YSレジンTO125、軟化点125℃、バイオマス割合70%、重量平均分子量1500
B-2; β―ピネン樹脂、軟化点115℃、バイオマス割合90%、重量平均分子量3400
【0048】
(耐衝撃性ポリスチレン系樹脂(C))
C-1; スチレン-ポリブタジエンゴムグラフト共重合体、ポリブタジエンゴム含有率9.0質量%、MFR3.0g/10分
(相溶化剤);
D-1; スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン含有比率67質量%、MFR2.0g/10分
【0049】
<実施例1~8、比較例1>
表1に示すシート組成の原材料を単軸押出機に投入し、設定温度200℃で溶融混練した後、単軸押出機の先端に接続したTダイにてシート状に押出し、設定温度100℃のキャスティングロールに引き取り、冷却固化させて未延伸シートを得た。その後、得られた未延伸シートを表1に示す延伸温度で同時二軸延伸機を用い、縦方向2.5倍、横方向2.5倍の延伸処理を行い、二軸延伸シートを得た。
シートのバイオマス度は、シートの質量を100%としたときの、テルペン系樹脂(B)の混合質量組成比にテルペン系樹脂(B)のバイオマス割合を乗じて算出し、表1に記した。
【0050】
<評価>
実施例、比較例で得られたシートについて、以下の評価を行い表1に纏めた。
(1)シート厚み
二軸延伸シートについて、JIS K7130:1999に準拠して、スタンドタイプ定圧厚さ測定器にて測定した。
(2)シート外観
二軸延伸シートから、縦方向250mm、横方向250mmの試験片を5枚切り出し、ゲル異物や未溶融ブツ、メヤニなど外観不良の欠点数を数え、試験片5枚の合計数を以下の基準で評価した。
良 :欠点数が3個未満
可 :欠点数が3個以上8個未満
不可:欠点数が8個以上
(3)透明性(ヘイズ、全光線透過率)
二軸延伸シートについて、日本電色工業株式会社製ヘイズメーターNDH-5000を用いて、JIS K7136:2000に準拠してヘイズを、JIS K7361:1997に準拠して全光線透過率を測定した。
【0051】
(4)ビカット軟化温度
二軸延伸する前の未延伸シートを用いて、JIS K7206:2016に準拠して測定した。
(5)ガラス転移温度
JIS K7121:2012に基づき、パーキンエルマー製DSC8500を用いて、二軸延伸シート約10mgを昇温速度10℃/分で0℃から200℃まで昇温し、200℃で1分間保持した後、降温速度10℃/分で0℃まで降温し、再度、昇温速度10℃/分で200℃まで昇温し、再昇温時のガラス転移温度を分析した。
【0052】
(5)粘弾性
二軸延伸シートの幅方向について、JIS K7244:1999に基づき、動的粘弾性測定装置を用いて、振動周波数10Hz、ひずみ0.1%の条件で、-100℃から200℃まで昇温した時の粘弾性カーブを測定し、100℃と115℃における貯蔵弾性率(E’)および損失正接(tanδ)を求めた。また、損失正接(tanδ)がピークを示す温度を損失正接(tanδ)のピーク温度とした。
(6)配向緩和応力
二軸延伸シートを用い、縦方向に平行に幅15mm、長さ約120mmの試験片と、横方向に平行に幅15mm、長さ約120mmの試験片をそれぞれ切り出し、各試験片についてASTM D-1504に準拠し、シートのビカット軟化温度より30℃高い温度のシリコンオイルバス中で収縮応力を測定し、その際の最大値を配向緩和応力とした。
【0053】
(7)引張弾性率
二軸延伸シートについて、縦方向に幅10mm、長さ100mmの試験片を3本切り出し、JIS K7161-1:2014に準拠して、引張試験機を用い、雰囲気温度23℃、引張速度5mm/分の条件で測定し、3本の測定値の平均を算出した。
(8)引張破断伸度
二軸延伸シートについて、JIS K7127:1999に準拠し、シートの縦方向、横方向に各5本ずつ計10本のダンベル状試験片(試験片タイプ5、狭い平行部の幅6mm)を切断刃で打ち抜き、狭い平行部に標線間距離25mmで標線を記し、チャック間初期距離80mm、測定雰囲気温度23℃、試験速度200mm/minの条件で、引張試験を行い、10本の引張破断伸度の平均値を算出した。
(9)耐衝撃性(面衝撃強度)
二軸延伸シートについて、JIS K7124-2:1999に準拠し、100mm×100mmの試験片5枚を切断刃にて打ち抜き、測定雰囲気温度23℃において、衝撃速度3.0m/秒の条件で衝撃試験を行い、5枚の面衝撃強度(最大衝撃点エネルギー)の平均値を算出した。
【0054】
(10)低温成形性
二軸延伸シートを用い、縦方向250mm、横方向250mmの正方形の試験片を切り出し、関西自動成形機社製、熱板加熱式圧空成形機PK-450型に、評価用金型を取り付け、加熱時間2.0秒、加熱圧力1.0kg/cm、成形時間1.0秒、成形圧力3.0kg/cm、金型温度60℃の条件で、熱板温度条件を変化させて、試験片に対して成形試験を行い、成形されたシートを観察し、型の再現忠実性(型再現性)を評価した。
熱板温度条件は、88℃~108℃の間の4℃毎の温度と、116℃、124℃である。
成形試験に用いた評価用金型は、長辺200mm、短辺150mmの長方形で、長辺はシート縦方向に平行に合わせ、短辺はシート横方向に平行に合わせる。長方形内に、開口幅10mm、長さ50~70mmの溝が、縦方向、横方向に各10本あり、10本は、溝の開口幅に対する最大深さで表される絞り比が0.3から1.2まで、0.1刻みに異なるものである。絞り比が大きいほど型再現性の難度が高く、試験片1枚につき、縦方向と横方向のそれぞれの型再現性の良好な最大絞り比が求められる。型再現性は、成形されたシートの溝を凹と表現すると、シートを反転させて溝(凹)を上向き(凸)にして照明を当てて観察し、溝の深さに相当する凸の高さが溝の全長に亘って均一であるか否かの良否を調べ、良評価の溝の絞り比で最大のものを最大絞り比とした。
評価は、先ず、熱板温度条件ごとに試験片2枚を成形し、2枚の各縦方向、横方向の最大絞り比、計4点を求め平均値を算出する。次に、横軸に熱板温度、縦軸に最大絞り比をとったグラフに、各熱板温度条件の最大絞り比平均値をプロットし、2次関数近似曲線を用いて最大絞り比が0.6となる熱板温度を読み取る。この温度が低いほど、低温成形性が優れていると評価できる。なお、縦方向、横方向の最大絞り比、計4点全てが0.3未満の場合と、成形したシートのレインドロップが酷い場合は、グラフにプロットしない。
【0055】
【表1】
【0056】
表1より、実施例1~8のシートは、テルペン系樹脂(B)を含有することにより、ビカット軟化温度、ガラス転移温度が比較例1よりも低下し、低温成形性に優れた。これは、テルペン系樹脂を含有し、かつ配向緩和応力を1.2MPa以下となるように延伸した結果、100℃における損失正接(tanδ)が0.15以上と高くなり、熱成形時にシートが容易に変形するようになったためである。また、ゲル状物やメヤニなどが少なく、シート外観はいずれも良好であった。
実施例1、2、3、5、7は、ヘイズ10.0%以下であり、食品用包装体として好適な透明性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のポリスチレン系二軸延伸シートは、外観不良が発生し難いので、生産歩留まりが良好で経済効率が良く、また低温成形が可能であるので、成形加工のエネルギーを低減できる。
更に、バイオマス由来のテルペン原料を用いた樹脂を使用することからも、環境負荷の低減に大いに役立つ。