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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129205
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】動物成長促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/593 20060101AFI20220829BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
A61K31/593
A61P3/02
A61P3/02 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021027813
(22)【出願日】2021-02-24
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
3.ノニデット
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、革新的先端研究開発支援事業ユニットタイプ「疾患における代謝産物の解析および代謝制御に基づく革新的医療基盤技術の創出」研究開発領域、「ケミカルバイオロジーによる脂質内因性分子の新機能研究」委託研究開発、産業技術強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(71)【出願人】
【識別番号】399086263
【氏名又は名称】学校法人帝京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上杉 志成
(72)【発明者】
【氏名】竹本 靖
(72)【発明者】
【氏名】アイリーン デ レオン メンドーザ
(72)【発明者】
【氏名】長澤 和夫
(72)【発明者】
【氏名】橘▲高▼ 敦史
(72)【発明者】
【氏名】川越 文裕
(72)【発明者】
【氏名】本谷 小佑里
(72)【発明者】
【氏名】中川 勇人
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA14
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZC23
4C086ZC61
(57)【要約】
【課題】動物の成長を促進させる技術、特に、脂質蓄積を促進させる技術を提供すること。
【解決手段】ビタミンD3、ビタミンD3水酸化体、及びビタミンD3ラクトン体からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、動物成長促進剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビタミンD3、ビタミンD3水酸化体、及びビタミンD3ラクトン体からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、動物成長促進剤。
【請求項2】
ビタミンD3ラクトン体を含有する、請求項1に記載の成長促進剤。
【請求項3】
脂質蓄積促進に用いるための、請求項1又は2に記載の成長促進剤。
【請求項4】
前記動物が非ヒト動物である、請求項1~3のいずれかに記載の成長促進剤。
【請求項5】
前記動物が魚類動物である、請求項1~4のいずれかに記載の成長促進剤。
【請求項6】
飼料組成物である、請求項1~5のいずれかに記載の成長促進剤。
【請求項7】
精製脂質を含有しない、請求項6に記載の成長促進剤。
【請求項8】
飼料添加剤である、請求項1~5のいずれかに記載の成長促進剤。
【請求項9】
請求項8に記載の成長促進剤を飼料原料に配合することを含む、飼料組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1~7のいずれかに記載の成長促進剤を非ヒト動物に摂取させることを含む、動物成長促進方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、動物の成長を促進させる技術等に関する。
【背景技術】
【0002】
世界における人口増大と共に、養殖や畜産等の食糧生産の需要増大と共に、その一層の効率化が求められている。例えば、人類史上初めて、養殖魚の捕獲量が天然魚の捕獲量を超える見通しとなっている。
【0003】
ビタミンDラクトンは45年前に発見されたビタミンD代謝物である。モルモットや魚類などの生物で主要ビタミンD代謝物として確認されている。しかし、その役割は謎に包まれ、ビタミンD分野では長年の課題であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
食糧生産の効率化に資するべく、養殖や畜産に供される動物の成長を促進させる技術が望まれている。また、品質の向上をも図るために、養殖魚や畜産動物の脂質蓄積を促進させる技術も望まれている。
【0005】
本開示に係る例示的な課題の1つは、動物の成長を促進させる技術、特に、脂質蓄積を促進させる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑みた鋭意研究の結果、ビタミンD3、ビタミンD3水酸化体、及びビタミンD3ラクトン体からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、動物成長促進剤、であれば、上記課題を解決できることを見出した。この知見に基づいたさらなる研究の結果によって、本開示に係る一連の技術の完成に至った。
【0007】
本開示の技術としては、例えば、下記の態様を包含する。
【0008】
項1. ビタミンD3、ビタミンD3水酸化体、及びビタミンD3ラクトン体からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、動物成長促進剤。
【0009】
項2. ビタミンD3ラクトン体を含有する、請求項1に記載の成長促進剤。
【0010】
項3. 脂質蓄積促進に用いるための、請求項1又は2に記載の成長促進剤。
【0011】
項4. 前記動物が非ヒト動物である、請求項1~3のいずれかに記載の成長促進剤。
【0012】
項5. 前記動物が魚類動物である、請求項1~4のいずれかに記載の成長促進剤。
【0013】
項6. 飼料組成物である、請求項1~5のいずれかに記載の成長促進剤。
【0014】
項7. 精製脂質を含有しない、請求項6に記載の成長促進剤。
【0015】
項8. 飼料添加剤である、請求項1~5のいずれかに記載の成長促進剤。
【0016】
項9. 請求項8に記載の成長促進剤を飼料原料に配合することを含む、飼料組成物の製造方法。
【0017】
項10. 請求項1~7のいずれかに記載の成長促進剤を非ヒト動物に摂取させることを含む、動物成長促進方法。
【発明の効果】
【0018】
本開示の一態様によれば、例えば、動物の成長を促進させる技術、特に、脂質蓄積を促進させる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1A図1Aは、光親和性プローブの化学構造を示す。光親和性プローブは、25-ヒドロキシビタミンD3(25(OH)D3)[SOB1134、プローブ1]および25-ヒドロキシビタミンD3-26,23-ラクトン(ラクトン-ビタミンD3)[SOB1136、プローブ2]をベンゾフェノンおよびアルキン基と共役させたものである(赤で着色されている)。
図1B図1Bは、ラクトン-ビタミンD3のジアステレオ異性体および1-デヒドロキシル化形態などを示す。
図1CD】本図、すなわち、図1C図1Dは、それぞれ、次の(C)及び(D)の化学構造等を示す:(C)A環部分構造を欠いたラクトン-ビタミンD3誘導体;および(D)蛍光ボロン-ジピロメテン(BODIPY)と共役したラクトン-ビタミンD3プローブ。
図2A図2Aは、SDS-PAGEの分析結果を示す。具体的には、蛍光(左)と銀染色(右)のゲル画像は、PBS可溶性(S)と-不溶性(I)のライセートの両方で80 kDaのプローブ2結合タンパク質のバンドを示している。HEK293を光親和性プローブで処理し、UV照射し、溶解した。ライセートは、クリックケミストリーを介してロダミンアジドと反応させ、SDS-PAGEで分離した後、蛍光イメージングまたは銀染色を行った。LC-MS/MS分析により、バンドは80kDaのミトコンドリアHADHAとして同定された。
図2B図2Bは、プローブ-HADHA結合相互作用のウェスタンブロット分析の結果を示す。HADHAは、ラクトン-ビタミンD3の天然異性体(3、7)によって置換されることができるプローブ2にのみ特異的に結合し、他の代謝物/誘導体によっては結合しない。光親和性標識後、ビオチンアジドを、ストレプトアビジン-アガロースビーズを用いたプローブ結合タンパク質のその後のプルダウンのためのクリック反応に使用した。抗HADHA抗体を用いてイムノブロットを行った。
図2C図2Cは、図2Bと同様である。
図2D図2Dは、細胞内局在を視覚化するため蛍光イメージングを行った結果を示す。ライブセル蛍光イメージングは、ラクトン-ビタミンD3結合が主にミトコンドリア領域に局在していることを示している。Hepa1-6細胞を0.3μMのBODIPY-ラクトン-ビタミンD3プローブ(9)と100nMのMitoTrackerで処理し、PBSで洗浄し、蛍光顕微鏡で可視化した。
図3A図3Aは、メタボローム解析の結果を示す。メタボローム解析によって、ラクトン-ビタミンD3の存在下でATPと遊離L-カルニチンの減少を調べた。Hepa1-6細胞は、グルコース(Glc)およびグルタミン(Gln)を含む(+/+)または含まない(‐/‐)培地で6時間、30μMのラクトン-ビタミンD3で処理した。
図3B図3Bは、Hadhaをノックダウンしたときの遊離L-カルニチンの測定結果を示す。HADHAノックダウンは、ラクトン-ビタミンD3の効果と同様に遊離L-カルニチンのレベルを制限する。Hepa1-6細胞を、グルコース(Glc)およびグルタミン(Gln)を含む(+/+)または含まない(-/-)培地中で、25pmol siHadhaで48時間ずつ2回処理した。溶液を免疫ブロットおよびカルニチンアッセイで分析した。
図3CD】本図、すなわち、図3Cおよび図3Dは、それぞれ、以下の(C)および(D)を示す:(C)β-酸化の障害は、L-カルニチン(>50%)およびトリメチルリジン(TML)によって部分的に救済することができるオポッサム腎臓(OK)細胞の生存率を低下させる。OK細胞を10μMラクトンビタミンD3(7)および10mMTMLまたはL-カルニチンでグルコースおよびグルタミン枯渇培地中で16時間インキュベートした。(D)トリメチルリジンジオキシゲナーゼ(TMLD)とラクトン-ビタミンD3によって減少するHADHA相互作用のウェスタンブロット分析。HEK293細胞を、ラクトンビタミンD3の有無に関わらずエピトープタグ付きDNAで12時間共導入した。IPサンプルは抗c-Myc抗体または抗FLAG抗体で免疫ブロッティングした。
図3E図3Eは、組換えTMLDおよびHADHAを用いた生化学的酵素アッセイの結果を示す。TMLD活性は、HADHAによって増強されるが、ラクトン-ビタミンD3によって相殺される。ラクトン-ビタミンD3の非天然アナログ(4-6)およびA環構造を含まない誘導体(8)は、TMLD機能に対するHADHAの増強効果を有意に相殺しなかった。試験管内でのTMLD活性は、組換えHADHAおよび化合物の存在下または非存在下での3-ヒドロキシトリメチルリジン(HTML)の産生によって決定された。HTMLをHPLCで分析した。データは、平均±SD(n = 3)として提示し、ANOVAを用いて分析した。p<0.05、**p<0.01、**p<0.001、****p<0.0001、ns:有意ではない。
図4AB】本図、すなわち図4Aおよび図4Bは、以下の(A)および(B)を示す:(A)ラクトン-ビタミンD3が存在しない場合、HADHAはTMLDの活性を促進する。(B)ラクトン-ビタミンD3は、HADHAとTMLDの相互作用に重要な部位でHADHAに結合し、TMLDを変位させ、その機能を阻害し、カルニチン合成を抑制する。枯渇したカルニチンのレベルは、結果的に低い細胞の代謝活性とATPの生産につながる脂肪酸のβ酸化を損なう。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0021】
本開示は、その一態様において、ビタミンD3、ビタミンD3水酸化体、及びビタミンD3ラクトン体からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、動物成長促進剤(本明細書において、「本開示の剤」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0022】
ビタミンD3は、式(1):
【0023】
【化1】
【0024】
で表される化合物である。
【0025】
ビタミンD3水酸化体は、ビタミンD3に水酸基が付加されてなる化合物であって、生体内においてビタミンD3ラクトン体へと代謝され得る化合物である限り、特に制限されない。
【0026】
ビタミンD3水酸化体としては、例えば一般式(2):
【0027】
【化2】
【0028】
[式中、R1は水素原子又は水酸基を示す。]
で表される化合物、一般式(3):
【0029】
【化3】
【0030】
[式中、R2は水素原子又は水酸基を示す。]
で表される化合物等が挙げられる。
【0031】
ビタミンD3ラクトン体は、一般式(4):
【0032】
【化4】
【0033】
[式中、R3は水素原子又は水酸基を示す。]
で表される化合物である。
【0034】
本明細書において、ビタミンD3、ビタミンD3水酸化体、及びビタミンD3ラクトン体をまとめて、「本開示の化合物」と示すこともある。
【0035】
本開示の化合物は、溶媒和物の形態であってもよい。溶媒和物を形成する溶媒としては、例えば、水、有機溶媒(例えばエタノール、グリセロール、酢酸等)等が挙げられる。
【0036】
本開示の化合物としては、市販されているものを使用することもできるし、公知の方法に従って又は準じて製造したものを使用することもできる。製造方法としては、例えば酵素合成法、有機合成法を採用することができるが、これらに限定されない。
【0037】
例えば、ビタミンD3ラクトン体を生成する酵素であるCYP24A1を利用して、試験管内で、或いは細胞内で、ビタミンD3ラクトン体を合成することができる。CYP24A1は、一般式(2)で表される化合物を基質として、水酸基を付加する反応を触媒する酵素である。CYP24A1は、ビタミンD3ラクトン体を生成させる反応(25(OH)D3の23位への水酸基付加)以外の他の反応(25(OH)D3の24位への水酸基付加)も触媒するところ、CYP24A1としては、前者の反応を触媒する活性が高いものを採用することができる。この観点から、オポッサムCYP24A1を採用することができる。
【0038】
また、別の例として、公知の方法(例えば、The Journal of Organic Chemistry, 2019, 84, 7630-7641に記載の合成方法)に従って又は準じて、ビタミンD3ラクトン体を有機合成することができる。
【0039】
ビタミンD3ラクトン体は、動物成長促進作用、特に脂質蓄積促進作用を有する。これは、その一因として、ビタミンD3ラクトン体が、カルニチン合成抑制作用、及びそれによる脂質β酸化抑制作用を有することに基づく。このため、ビタミンD3ラクトン体、及び生体内でビタミンD3ラクトン体へと代謝され得る化合物(ビタミンD3、及びビタミンD3水酸化体)は、これらの作用に基づく用途に用いることができる。本開示の化合物は、動物成長促進剤(又は動物成長促進用組成物)、脂質蓄積促進剤(又は脂質蓄積促進用組成物)、カルニチン合成抑制剤(又はカルニチン合成抑制用組成物)、脂質β酸化抑制剤(又は脂質β酸化抑制用組成物)等の有効成分として利用することができる。なお、以下、これらをまとめて、「本開示の剤」と示すこともある。
【0040】
本開示の剤の使用態様は特定の態様に限定されず、その種類に応じて適切な使用態様を採用することができる。本開示の剤は、その一態様において、例えばin vitro(例えば、培養細胞を含有する培地に添加することによって)又はin vivo(例えば、動物に摂取させることによって)で使用することができる。
【0041】
本開示の剤の利用分野は特に制限されない。本開示の剤の利用分野としては、例えば、飼料添加剤、飼料組成物、栄養剤、医薬、試薬、食品組成物(健康食品及びサプリメントを含む)、食品添加剤等が挙げられるがこれらに限定されない。本開示の例示的な実施形態では、飼料添加剤、飼料組成物等として本開示の剤は利用可能である。本開示の別の例示的な態様は、例えば、飼料添加剤である本開示の剤を飼料原料に配合することを含む、飼料組成物の製造方法、に関する。また、本開示の別の例示的な態様は、本開示の剤を非ヒト動物に摂取させることを含む、動物成長促進方法、に関する。
【0042】
本開示の剤の対象動物は、特に制限されず、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、シカ等の種々の哺乳類動物;ニワトリ、カモ、アヒル、ガチョウ、シチメンチョウ等の鳥類動物;ブリ、マダイ、カンパチ、マグロ、サケ、アジ、ヒラメ、ウナギ、アユ、マス、コイ等の魚類動物等が挙げられるが、これらに限定されない。例示的な実施形態において、本開示の剤の対象動物は、非ヒト動物、魚類動物などである。そのような対象動物は、養殖又は畜産動物として飼育されていても、いなくてともよい。
【0043】
本開示の剤をin vitroで使用する場合、対象細胞としては、例えば、血液細胞、造血幹細胞・前駆細胞、配偶子(精子、卵子)、線維芽細胞、上皮細胞、血管内皮細胞、神経細胞、肝細胞、ケラチン生成細胞、筋細胞、表皮細胞、内分泌細胞、ES細胞、iPS細胞、組織幹細胞、がん細胞等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
本開示の剤を動物に摂取させる場合、その摂取態様としては、例えば、経口摂取、経管栄養、注腸摂取等の経腸摂取;経静脈摂取、経動脈摂取、筋肉内摂取、心臓内摂取、皮下摂取、皮内摂取、腹腔内摂取等の非経口摂取等が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態においては、簡便性の観点から、本開示の剤は、経口摂取するように提供される。
【0045】
本開示の剤は、本開示の化合物以外の他の成分を含有することができ、また各種形態を採ることができる。
【0046】
例示的な一実施形態では、本開示の剤は、添加剤(飼料添加剤、食品添加剤等)として提供され得る。この場合は、本開示の化合物以外の他の成分としては、例えば、基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、着色料、香料、及びキレート剤ならびにこれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。上述の添加剤は、例えば、錠剤、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、ドライシロップ剤、液剤、ゼリー剤等として提供され得る。
【0047】
別の例示的な実施形態では、本開示の剤は、飼料組成物として提供され得る。この場合、本開示の化合物以外の他の成分としては、飼料原料などが挙げられるがこれらに限定されない。例示的な飼料原料としては、例えば、魚加工物(切り身、魚粉)、小麦粉、大豆、味噌、ジャガイモ、及びカイコのさなぎ、ならびにこれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
本開示の化合物は、脂質に依らず、脂質蓄積を促進することができる。この観点から、本開示の剤は、剤中に添加されている精製脂質量が少なくとも、脂質蓄積促進作用を発揮することができる。そのため、一実施形態において、本開示の剤は、精製脂質を含まなくてもよい。また、別の実施形態において、本開示の剤は、低量の精製脂質のみを含み得る。例えば、本開示の剤中に添加される精製脂質量は、本開示の剤100質量%に対して、30質量%以下、20質量%以下、10質量%以下、5質量%以下、1質量%以下、又は0.1質量%以下であり得る。
【0049】
なお、脂質としては、例えば長鎖脂肪酸(例えばC8又はC12以上、C8~30等)、単純脂質(トリアシルグリセロール等の脂肪酸エステル)、複合脂質(例えばリン脂質、糖脂質等)等が挙げられる。精製脂質としては、脂質原料(動物組織、植物組織、酵母等)から脂質濃度を高める精製処理を経て得られたもの或いは合成して得られたものである限り特に制限されない。例えば、このような精製脂質としては、例えば魚油、動物油、植物油、合成脂質等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
本開示の剤における本開示の化合物(有効成分)の含有量は、用途、使用態様、適用対象の状態などに左右されるものであり、限定はされないが、例えば0.0001~100質量%、又は0.001~50質量%とすることができる。
【0051】
本開示の剤の適用(例えば、投与、摂取、接種など)量は、所望の作用を発揮できる有効量であれば特に限定されない。例示的な態様において、その量は、有効成分の乾燥重量として、一日あたり0.1~10000 mg/kg体重である。上記適用量は1日1回以上(例えば1~3回)に分けて適用してもよい。また、その量は、年齢、病態、症状により適宜増減することもできる。
【実施例0052】
本開示の一態様は、以下の実施例に詳細を記載されている。これらの実施例は、例示的なものでありによって限定されるものではない。すなわち、当業者が、本願明細書の記載を読むと明らかであるように、他の態様および実施形態が、本開示に係る創作者らにより意図される。
【0053】
(1)材料と方法
以下の各試験例で行った各実験の材料及び方法は、特に制約しない限り、以下に示す方法で行った。
【0054】
<1-1.細胞株>
ヒト子宮頸部腺癌細胞株(女性、HeLa)、ヒト肝細胞癌細胞株(男性、HepG2)、ヒト胎児腎臓細胞株(女性、HEK293)、およびマウス肝細胞株(Hepa1-6)を培地Aで増殖させた。腎臓細胞株(メス、OK)は培地Dで増殖させた。すべての細胞は5%CO2を含む加湿雰囲気で37℃に維持した。
【0055】
<1-2.菌株>
Escherichia coli BL21-CodonPlus(DE3)-RIPLコンピテントセル(Agilent Technologies)は、Agilentの高性能BL21-Goldコンピテントセルラインから派生したものである。コンピテントセルは、受領時に-80℃で保存し、形質転換手順の直前に氷上で解凍した。細菌細胞は、LB(Lennox、Nacalai Tesque)増殖培地で37℃で増殖させた。
【0056】
<1-3.増殖培地>
培地Aは、10%(v / v)ウシ胎児血清(FBS、Biosera)を添加した1xダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Gibco)、および100 units / mLのペニシリンと100μg/ mLの硫酸ストレプトマイシン(ナカライテスク)の混合溶液で構成されている。培地Bは血清を含まない培地Aである。培地Cは、グルコース、グルタミン、ピルビン酸ナトリウムを含まない培地Aである。培地Dは、10%(v / v)FBS、100 units / mLのペニシリン、100μg/ mLの硫酸ストレプトマイシンを添加した1xイーグル最小必須培地(Sigma-Aldrich)で構成されている。培地Eは、25 mMグルコース(Wako)、4 mM GlutaMAX(Gibco)、および1 mMピルビン酸ナトリウム(Gibco)を添加したDMEMベースのアッセイ培地(Agilent Technologies)である。
【0057】
<1-4.バッファー>
バッファーAは、1xプロテアーゼ阻害剤を含む1xリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(pH 7.4)である。バッファーBは、1%(v / v)のノニデットP-40を含むバッファーAである。バッファーCは、1%SDSを含む1xPBSである。バッファーDは、150 mM NaCl、1%(v / v)Nonidet P-40、1%(w / v)デオキシコール酸ナトリウム、および1xプロテアーゼ阻害剤を含む50 mM Tris-HCl(pH 7.5)である。バッファーEは、0.1%SDSを含むバッファーDである。バッファーFは、150 mM NaClおよび0.1%(w / v)Tween-20を含む20 mM Tris(pH 7.5)である。バッファーGは50mMビス-トリスプロパン(pH 7.5または9.0)である。バッファーHは、120 mM NaCl、5 mM EDTA、および0.5%Nonidet P-40を含む50 mM Tris-HCl(pH 7.5)である。バッファーIは、300 mM NaCl、0.1%Triton X-100、および20mMイミダゾールを含む20mM Tris-HCl(pH 8.0)である。バッファーJは、150 mM NaClおよび0.1%TritonX-100を含む20mM Tris-HCl(pH 8.0)である。バッファーKは、1 M NaClを含む20mM Tris-HCl(pH 8.0)である。バッファーLは、150 mM NaClと2mMイミダゾールを含む100mM Tris-HCl(pH 8.0)である。バッファーMは、40mMイミダゾールを含むバッファーLである。バッファーNは、500mMイミダゾールを含むバッファーLである。
【0058】
<1-5.光親和性ラベリング>
光親和性プローブを使用してアッセイを実施した。HEK293細胞は、90%のコンフルエンシーに達するまで10cmディッシュで培養した。培地を、プローブを含む5mLの培地Bと交換した。37℃で40分後、ディッシュを氷上に5分間置き、BIO-LINK(登録商標)クロスリンカー(BLX-365)UV照射システム(Vilber-Loumat)を使用してUV光(λ= 365 nm)に30分間曝露した。細胞を収集し、1x PBSで洗浄し、超音波処理(2回、各10秒)により600μLのバッファーAで溶解した。ホモジネートを20,000x gで15分間、4℃で遠心分離し、ライセートをPBS可溶性画分として収集した。超音波処理により、ペレットを600μLのバッファーBで再均質化した。遠心分離後、溶解物をPBS不溶性画分として収集した。スルホローダミンB-PEG3-アジド(Click Chemistry Tools)をライセートに加え、続いて2 mMトリス(3-ヒドロキシプロピルトリアゾリルメチル)アミン(THPTA)、1mM CuSO4、5mMアスコルビン酸ナトリウムを含む触媒溶液を加えた。500μLの反応混合物を室温で2時間ボルテックス混合し、1.5 mLの冷アセトンと混合し、-30℃で一晩インキュベートした。溶液を遠心分離し(10,000 x g、10分、4℃)、得られたペレットを音波浴によって500μLの冷アセトンに再懸濁し、遠心分離した(10,000 x g、10分、4℃)。洗浄ステップをさらに3回繰り返した。ペレットを10分間風乾し、音波浴により100μLのバッファーCに可溶化し、1×SDS-PAGEサンプルバッファ(ナカライテスク)と共に室温で1時間インキュベートした。ゲル電気泳動後、GelDoc(商標)EZ Imager(Bio-Rad)を使用したゲル内蛍光イメージングによってサンプルを分析した。
【0059】
<1-6.プルダウンアッセイ>
アッセイは、0.1 mMのアジド-PEG3-ビオチン(Sigma-Aldrich)を溶解物に添加し、続いて触媒溶液を添加したことを除いて、上記のように実施した。100μLのバッファーCにペレットを可溶化した後、溶液を900μLのバッファーDで希釈し、20,000 xgで15分間4℃の条件で遠心分離した。上清からのアリコートを「インプットサンプル」として取っておき、1xSDSサンプルバッファとともに室温で1時間インキュベートした。上澄みに20μLのSoftlinkSoft-Release Avidin樹脂(Promega)を加え、4℃の回転ミキサーで一晩インキュベートした。3,000 x gで1分間遠心分離した後、樹脂を回収し、1 mLのバッファーEに再懸濁し、3,000 x gで1分間遠心分離した。洗浄ステップをさらに3回繰り返した。レジンを60μLの5mM D-ビオチン(ナカライテスク)(バッファーEで新たに調製)と室温で15分間ボルテックス混合した後、20,000 x gで1分間遠心分離した。上清を1xSDS-PAGEサンプルバッファとともに室温で1時間インキュベートし、ゲル電気泳動後の銀染色(和光)で分析した。80 kDaのバンドを分離し、nanoLC-MS / MS(JBioS)で分析した。
【0060】
<1-7.ウェスタンブロット分析>
ゲルは、ゲルキャスティング試薬(Nacalai Tesque)を使用して、8%または10%のアクリルアミドで調製した。ゲル電気泳動およびニトロセルロースブロッティングメンブレン(GE Healthcare)へのブロッティングは、Mini Trans-Blotシステム(Bio-Rad)を使用して順次実行した。タンパク質を電気泳動で転写した後、メンブレンを1%(w / v)ウシ血清アルブミンを含むバッファーFに15分間浸し、ブロッキングバッファーで希釈した一次抗体とともに4℃で一晩インキュベートした。メンブレンをバッファーFで数回洗浄した後、3%(w / v)スキムミルクを含むバッファーFで希釈した二次抗体とともに室温で1時間インキュベートした。メンブレンをバッファーFで数回洗浄した後、ECL Prime Westernブロッティング検出試薬(GE Healthcare)で1分間処理した。ImageQuant LAS 500(GE Healthcare、MA、USA)を使用して、タンパク質バンドを視覚化した。画像はImageJ(NIH)で処理した。タンパク質量は、入力サンプルのタンパク質レベルまたはβ-アクチン発現のいずれかに正規化した。使用した一次抗体は次のとおりである:ウサギポリクローナル抗HADHA(Abcam)、マウスモノクローナル抗HADHB(Abcam)、マウスモノクローナル抗FLAG(登録商標)(Sigma-Aldrich)、マウスモノクローナル抗c-Myc(Nacalai Tesque)、ウサギポリクローナル抗TMLHE(ProteinTech)、およびマウスモノクローナル抗β-アクチン(Abcam)。使用した二次抗体は、ヒツジ抗マウスIgG HRP結合全抗体(GE Healthcare)、およびヤギ抗ウサギIgG HRP結合抗体(Cell Signaling)である。
【0061】
<1-8.競合アッセイ>
アッセイは、競合するリガンドを細胞に添加し、次にプローブを添加する前に37℃で20分間インキュベートしたことを除いて、プルダウンアッセイについて上記したのと同様に実施した。サンプルはウェスタンブロットによって分析した。
【0062】
<1-9.細胞イメージング>
アッセイは、蛍光BODIPY標識ラクトン-ビタミンD3プローブ(9)を使用して実施した。Hepa1-6細胞を96ウェルガラス底黒色マイクロプレート(IWAKI)に1ウェルあたり1x104細胞で100μLの培地Aに播種した。37℃で24時間後、培地を、9を0.3μMを含む200μLの培地Aと交換した。37℃で2.5時間プレインキュベーションした後、100nMのMitoTrackerRed CMXRos(ThermoFisher)を細胞に添加し、さらに37℃で30分間インキュベートした。細胞を200μLの1xPBSで3回洗浄した後、100μLの培地Aを添加した。蛍光シグナルをCellVoyager CV1000共焦点顕微鏡(Yokogawa)で可視化し、画像をImageJで処理した。
【0063】
<1-10.酸素消費率>
細胞酸素消費率(OCR)は、既報に従って、Seahorse XFe96アナライザー(Agilent Technologies)を使用して測定した。簡単に説明すると、HeLa細胞(ウェルあたり1x104細胞)またはHepG2細胞(ウェルあたり1x104細胞)をSeahorse XFe96マイクロプレート(Agilent Technologies)に播種し、CO2フリーインキュベーター内で培地E中37℃で1時間プレインキュベートした。ベースライン測定が行われた後、ラクトン-ビタミンD3、エトモキシル(Cayman Chemical)、またはアンチマイシンA(Sigma-Aldrich)を注入した。OCR値の変化は6分ごとに監視した。化学物質の添加後30分でのOCRの変化率を計算した。
【0064】
<1-11.遺伝子クローニングと突然変異誘発>
特に明記しない限り、クローン化された遺伝子はすべてヒト由来である。エピトープタグ付き発現ベクター、pCMV-3Tag(Agilent Technologies)およびpCold TF DNA(Takara Bio)を、製造元のプロトコルに従って制限酵素(Takara Bio)で消化した。クローンおよび欠失変異体は、特異的プライマーを使用して、cDNAライブラリーまたはカスタマイズされた遺伝子コンストラクト(Invitrogen)から作成した。得られたDNAインサートは、In-Fusion HDクローニングキット(タカラバイオ)を使用して発現ベクターに組み込んだ。構築物は、DNAシーケンシングおよびトランスフェクトされた哺乳動物または形質転換された細菌細胞における一過性発現によって検証した。
【0065】
<1-12.一過性トランスフェクション>
6ウェルプレートのサブコンフルエントな細胞に、FuGENE(登録商標)HDトランスフェクション試薬(Promega)を製造元のプロトコルに従って使用して、1μgのDNAをトランスフェクトした。インキュベーションの終わりに、細胞を1x PBSで洗浄し、細胞懸濁液を25ゲージの注射針に10回通すことにより、200μLのバッファーDで溶解した。ライセートを7,000x gで10分間遠心分離し、上清を1x SDS-PAGEサンプルバッファと室温で1時間インキュベートした後、ウェスタンブロットで分析した。
【0066】
<1-13.免疫沈降>
0日目に、HEK293細胞を10mLの培地A中のディッシュあたり2x105細胞で10cmディッシュに播種し、37℃でインキュベートした。2日目に、細胞に10μgのエピトープタグ付きDNAをトランスフェクトし、37℃で6~24時間インキュベートした。細胞を回収し、1x PBSで洗浄し、600μLのバッファーBで超音波処理して溶解した。得られたライセートを20μLのプロテインGセファロース樹脂(GE Healthcare)と、4℃で1時間穏やかに回転させて混合した。混合物を遠心分離し(1,000 x g、1分、4℃)、アリコート(入力サンプル)を1xSDS-PAGEサンプルバッファとともに室温で1時間インキュベートした。残りの上清を、10μgの抗FLAG抗体(または40μgのアガロース結合抗c-Myc抗体(Nacalai Tesque))と、4℃で1時間(または2時間)穏やかに回転させて混合した。プロテインGセファロースレジン(20μL)を加え、4℃でさらに1時間混合した。ビーズを遠心分離により回収し、1 mLのバッファーBに再懸濁し、遠心分離した。洗浄ステップをさらに3回繰り返した。最後の洗浄ステップでは、バッファーG(pH 7.5)を使用した。ビーズを室温で15分間、70μLの100μg/ mLのFLAGペプチド(Millipore)(またはc-Mycペプチド、Sigma-Aldrich)(バッファーG、pH 7.5で新たに調製)とボルテックス混合した。混合物を20,000x gで1分間遠心分離し、アリコート(IPサンプル)も1xSDS-PAGEサンプルバッファと室温で1時間インキュベートした。免疫沈降したタンパク質を含む残りの上清は、酵素アッセイでさらに使用するまで-30℃で保存した。入力サンプルとIPサンプルをイムノブロットで分析した。
【0067】
<1-14.HADHA基質の調製>
基質2-ヘキサデセノイル-CoAは既報の方法にいくつかの変更を加えて調製した。0.2 mM パルミトイル-CoA(Sigma-Aldrich)と1 mg/mL(0.7単位)のアシル-CoAオキシダーゼ(Wako)からなる50 mMリン酸カリウムバッファー(pH7.4)中の100μLの反応混合物を37℃で15分間インキュベートした。当量のアセトニトリルを混合物に加え、4℃で7,200×gで10分間遠心分離した。上清をCVE3100遠心エバポレーター(Eyela)で真空乾燥し、蒸留水で再構成した。サンプルはSPE C18カートリッジ(Waters社)を用いて脱塩し、90%メタノール3 mLで調整し、蒸留水2 mLで平衡化した。カートリッジカラムに装填されたサンプルは、2 mLの水でゆっくりとフラッシュし、その後、1 mLの80%メタノールで溶出した。溶出液を真空乾燥し、Microflex-KC Reflectron MALDI-TOF質量分析計(Bruker Daltonics,)で分析した。
【0068】
<1-15.インビトロmTFP酵素アッセイ>
組換えHADHAおよびHADHB酵素は、HEK293での発現によって生成し、上記のように免疫沈降によって精製した。ミトコンドリア三機能タンパク質(mTFP)複合体の酵素活性は、既報の方法にいくつかの修正を加えて分光的に測定した。反応に使用する前に、すべての試薬を25℃で平衡化した。反応は、1 mM NAD +と10μgの酵素を含むバッファーG(pH 9.0)の総溶液60μLに100μMの2-ヘキサデセノイル-CoAを添加することによって開始した。NADHの生成を、HitachiU-3010分光光度計を使用したλ= 340nmでの吸光度測定により、直ちに20分間モニターした。
【0069】
<1-16.メタボローム解析>
0日目に、Hepa1-6細胞を、培地Aを入れた10cmディッシュに1x106細胞で播種した。2日目に、細胞を30μMのラクトン-ビタミンD3またはDMSOを含む8 mLの培地A(または培地C)でインキュベートした。37℃で6時間培養した後、最初に5mL、次に2mLの5%(w/w)マンニトールで洗浄した。細胞を800μLのメタノールで30秒間処理した後、Human Metabolome Technologies Inc. (HMT)から提供された1x内部標準溶液を30秒間添加し、30秒間ろ過し、メタボローム解析を行った。同時に、別のセットの細胞を採取し、700μLのバッファーHに再懸濁し、超音波で溶解した。得られた上清のタンパク質含量を測定し、タンパク質濃度をHMTでの分析に先立って全サンプルについて一様に調整した。
【0070】
<1-17.RNA干渉による遺伝子ノックダウン>
マウスHadha(Ambion Silencer(登録商標)Select siRNA、Thermo Fisher)を標的化するために2組のsiRNAデュプレックスを使用した。ネガティブコントロールとしてスクランブルsiRNA(Thermo Fisher)を使用した。0日目に、Hepa1-6細胞を6ウェルプレートに播種し、1ウェルあたり1x105細胞を1mLの培地A中に播種した。1 日目に、LipofectamineTM RNAiMAX トランスフェクション試薬(Invitrogen)を用いて、製造元のプロトコールに従って 25 pmolのsiRNA を細胞にトランスフェクションした。3日目に、細胞を新鮮な培地Aで25pmol siRNAで2回トランスフェクションした。5日目に、培地を1 mLの培地A(または培地C)に交換し、37℃で6時間後、免疫ブロットによる分析のために細胞を採取した。遊離L-カルニチンは、L-カルニチンアッセイキット(Abnova)を用いて測定した。
【0071】
<1-18.レスキュー実験>
0日目に、OK細胞を、100μLの培地Aを含む1ウェルあたり1x104細胞となるように96ウェルプレートに播種した。1日目に、細胞を、10μMのラクトン-ビタミンD3(7)の有無にかかわらず、10mMのTMLまたはL-カルニチン(シグマ-アルドリッチ)の存在下または非存在下で、100μLの培地Cでインキュベートした。16時間のインキュベーション後、10μLのWST-8試薬(同仁堂)を各ウェルに添加し、37℃でさらに1~4時間インキュベートした。吸光度(λ=450nm)をプレートリーダーで測定した。
【0072】
<1-19.組換え酵素の調製>
組換え6xHis-TF-TMLDおよび6xHis-TF-HADHAを、大腸菌BL21(DE3) (Agilent Technologies)に導入した。形質転換した大腸菌を、50μg/mLのアンピシリン(Wako)を含む5 mLの滅菌2xYTブロスに接種し、37℃で16~18時間、シェーカー(200 rpm)でインキュベートした。培養物を直ちに氷浴に入れ、15℃まで冷却し、30分間休ませた。0.2 mMイソプロピル-β-D(-)-チオガラクトピラノシド(Wako)を添加し、18℃で24時間シェーカー中にて、さらにインキュベートすることにより、タンパク質の発現を開始した。得られたペレットを、50μg/mLリゾチーム(Wako)および1xプロテアーゼ阻害剤カクテル(Nacalai Tesque)を含む溶解バッファーIに懸濁した。氷上で10分後、細胞を超音波で溶解し、30分間氷上に放置した。サンプルアリコート(ライセート画分)を、1x SDS-PAGEサンプルバッファ中に取っておいた。ライセートを20,000×g、4℃で15分間遠心分離し、得られた上清(可溶性画分)のアリコートを1x SDSサンプルバッファ中に取っておいた。残りの上清を、Ni Sepharose 6 Fast Flow resin(GE Healthcare)の50%スラリー(バッファーI中)と4℃で1時間穏やかに回転させて混合した。混合物を4℃で700×gで5分間遠心分離し、上清(パススルー画分)のアリコートを1×SDS-PAGEサンプルバッファ中に取っておいた。樹脂をバッファーJで洗浄し、700×g、4℃で5分間遠心分離した。上清(洗浄画分)のアリコートは、1x SDS-PAGEサンプルバッファ中に取っておいた。結合したタンパク質は、4℃で5分間穏やかに回転させて溶出バッファーNで樹脂から溶出し、続いて4℃で5分間700×gで遠心分離した。上清を回収し、アリコート(溶出画分)を1x SDS-PAGEサンプルバッファ中に取っておいた。溶出ステップをさらに4回繰り返した。溶出液を透析チューブ(Spectrum Chemical)にプールし、20mMリン酸カリウムバッファー(pH7.0)中、4℃の条件で一晩透析した。透析液を10kDa MWCO Amicon Ultra遠心フィルター(Merck Millipore)を用いて徐々に濃縮した。アリコートを1×SDS-PAGEサンプルバッファ中に取っておき、残りの溶液を5%(w/v)グリセロール中に-30℃で保存した。アリコートサンプルは、ゲル電気泳動に続いて、クーマシーブリリアントブルー染色、銀染色またはウェスタンブロットによって分析した。
【0073】
<1-20.インビトロTMLD酵素アッセイ>
TMLD活性は、既報の方法にいくつかの修正を加えた方法により、トリメチルリジン(TML、Sigma-Aldrich)から3-ヒドロキシ-トリメチルリジン(HTML、Toronto Research Chemicals)を製造することによって決定した。反応混合物は、20mMリン酸カリウム(pH7.0)、20mM KCl、3mM 2-オキソグルタル酸塩、0.25mM鉄(II)硫酸アンモニウム、10mMアスコルビン酸ナトリウム、10mM TMLおよび組換えタンパク質から構成される。反応は、60μLの最終アッセイ体積にTMLを添加することによって開始した。37℃で24時間インキュベートした後、混合物を30kDa MWCO Microcon遠心フィルター(Merck Millipore)を用いて遠心分離(14,000×g、4℃、20分間)により濾過した。濾液の10μLのアリコートに、0.1Mホウ酸バッファー(pH8.1)の25μLと6-アミノキノリル-N-ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート(アセトニトリル中3mg/mL)の20μLを加えた。この溶液を55℃で10分間インキュベートし、室温まで15分間冷却し、350μLのアセトニトリルで希釈した。この溶液を、LC-20AD液体クロマトグラフおよびSPD-M20Aプロミネンスダイオードアレイ検出器を備えた島津プロミネンスHPLCシステム(島津)を用いてクロマトグラフィー分離により分析した。カラムInertsil ODS-3(5μm、4.6×150mm、GL Sciences)を、A(50mM酢酸ナトリウム、pH5.75)とB(50mM酢酸ナトリウム、アセトニトリル(30:70)中のpH6.0)の溶媒系で40℃にて平衡化した。5μLのサンプル量をカラムに装填し、以下のように溶媒の線形グラジエントで溶出した。5%~10%Bを10.13分かけて、10%~25%Bを5.87分かけて、25%~32%Bを5.9分かけて、1 mL/minの流速で溶出した。HTMLのピークをλ=254 nmでモニターし、標準曲線を用いて定量した。
【0074】
<1-21.ラクトン-ビタミンD3産生量の測定>
0日目に、HEK293細胞を6ウェルプレートに播種し、2 mLの培地Aに5x105細胞/ウェルで播種した。2日目に、細胞を組換えCyp24a1でトランスフェクトした。12時間後、細胞を5μMの25(OH)D3で処理し、さらに37℃で24時間インキュベートした。培地を回収し、4℃で1,300×gで5分間遠心分離した。得られた上清を、既報の方法に従って、LC-MS/MSを用いて様々なビタミンD3代謝物について分析した。抗CYP24A1抗体および抗FLAG抗体を用いた免疫ブロットにより、細胞溶解液中のCYP24A1発現量を解析した。
【0075】
(2)合成例
<2-1.材料>
使用したすべての化学物質、試薬および溶媒は市販のものから購入し、特に断りのない限り、さらなる精製を行わずに使用した。低分解能マススペクトルは、島津製作所LCMS-2010EVを使用してESIモードで取得した。高分解能マススペクトル(HRMS)は、FABモードでJEOL MStation JMS-MS700Vを用いて記録した。NMRスペクトルはJEOL JNM-ECP300 (300 MHz)またはJEOL JNM-ECA600 (600 MHz)で記録した。化学シフトは、テトラメチルシラン(TMS)に対するδ(ppm)で報告した。
【0076】
<2-2.化学合成と特性評価>
<2-2-1.光親和性プローブSOB1134(1)とSOB1136(2)の合成>
【0077】
【化5】
【0078】
<2-2-1-1.S1の合成>
【0079】
【化6】
【0080】
ジクロロメタン(0.5 mL)中の4-(4-Prop-2-nyloxy-benzoyl)-安息香酸(20 mg, 0.071 mmol)の懸濁液に、塩化オキサリル(9.2 μL, 0.11 mmol)および触媒量のN,N-ジメチルホルムアミドを添加した。反応混合物を室温で 3 時間撹拌し、その間に混合物は懸濁液から透明な淡黄色の溶液となり、減圧下で溶媒を除去した。得られた残渣にトルエンを加え、減圧下で濃縮した。このプロセスを2回繰り返し、得られた残渣を高真空下で乾燥させ、淡黄色の固体(22 mg)としてS1を得た。この材料は、さらに精製することなく、次のステップで使用した。1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ 8.15-8.30 (m, 2H), 7.75-7.90 (m, 4H), 4.79 (d, J = 2.3 Hz, 2H), 2.58 (t, J = 2.3 Hz, 1H)。
【0081】
<2-2-1-2.S3の合成>
【0082】
【化7】
【0083】
ジクロロメタン(0.2 mL)中のS2(5.1 mg、0.0079 mmol)の溶液にトリエチルアミン(2.8 μL、0.020 mmol)を加え、0℃でジクロロメタン(0.15 mL)中のS1(3.1 mg、0.010 mmol)の溶液を加えた。0℃で2時間撹拌した後、反応混合物を酢酸エチルと炭酸水素ナトリウムの飽和水溶液の間で分配し、層を分離し、有機層を食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥し、濾過し、減圧下で濃縮した。残渣をフラッシュクロマトグラフィー(勾配溶出;15:1~10:1ヘキサン-酢酸エチル)で精製し、無色のアモルファス(7.0 mg, 97%)としてS3を得た。1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ 7.75-7.86 (m, 6H), 7.05 (d, J = 8.9 Hz, 2H), 6.39 (d, J = 11.0 Hz, 1H), 6.00-6.04 (m, 2H), 5.31 (s, 1H), 5.00 (s, 1H), 4.92-4.98 (m, 1H), 4.78 (d, J = 2.0 Hz, 2H), 4.00-4.05 (m, 1H), 2.82-2.87 (m, 1H), 2.56 (t, J = 2.0 Hz, 1H), 2.50-2.56 (m, 1H), 2.30-2.37 (m, 1H), 2.18-2.24 (m, 1H), 1.96-2.05 (m, 2H), 1.82-1.90 (m, 2H), 1.66-1.76 (m, 2H), 0.95-1.60 (m, 22H), 0.93 (t, J = 7.6 Hz, 9H), 0.87 (s, 9H), 0.54 (q, J = 7.6 Hz, 6H), 0.52 (s, 3H), 0.06 (s, 6H)。
【0084】
<2-2-1-3.SOB1134 (1)の合成>
【0085】
【化8】
【0086】
テトラヒドロフラン(0.2 mL)中のS3(7.0 mg, 0.0077 mmol)の溶液にフッ化水素-ピリジン(70%HF, 50 μL)を加え、反応混合物を室温で一晩撹拌した。炭酸水素ナトリウムの飽和水溶液を慎重に添加した。反応混合物を酢酸エチルで抽出し、有機層を食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥し、濾過し、減圧下で濃縮した。残渣をフラッシュクロマトグラフィー(勾配溶出;1:1~1:4ヘキサン-酢酸エチル)およびRP-HPLCにより精製し、無色のアモルファス(3.4 mg, 65%)としてSOB1134(1)を得た。1H NMR (600 MHz, CD3OD) δ 7.94 (d, J = 8.9 Hz, 2H), 7.82 (d, J = 8.9 Hz, 2H), 7.78 (d, J = 8.9 Hz, 2H), 7.13 (d, J = 8.9 Hz, 2H), 6.37 (d, J = 11.0Hz, 1H), 6.06 (d, J = 11.0Hz, 1H), 5.25 (s, 1H), 4.95-5.02 (m, 1H), 4.95 (s, 1H), 4.86 (d, J = 2.4 Hz, 2H), 4.18-4.16 (m, 1H), 3.02 (t, J = 2.4 Hz, 1H), 2.84-2.90 (m, 1H), 2.55-2.62 (m, 1H), 2.35-2.42 (m, 1H), 0.98-2.10 (m, 26H), 0.95 (d, J = 6.2Hz, 3H), 0.47 (s, 3H). 13C NMR (150 MHz, CD3OD) δ 196.6, 168.9, 163.2, 146.7, 143.2, 142.0, 139.2, 135.4, 133.5, 131.4, 130.6, 128.5, 125.3, 118.8, 115.9, 112.0, 79.1, 77.5, 71.5, 67.5, 58.0, 57.6, 56.9, 45.6, 45.3, 41.8, 41.1, 37.8, 37.5, 30.7, 30.0, 29.3, 29.1, 28.7, 24.7, 23.3, 21.9, 19.4,12.4. ESI-MS [M+Na]+ m/z = 700. FAB-MS calculated for C44H56NO5 [M+H]+: 678.4158; found: 678.4161。
【0087】
<2-2-1-4.S5の合成>
【0088】
【化9】
【0089】
ジクロロメタン(0.2 mL)中のS4(Scheme 2)(5.6 mg、0.0083 mmol)の溶液にトリエチルアミン(2.9 μL、0.021 mmol)を加え、ジクロロメタン(0.15 mL)中のS1(3.3 mg、0.011 mmol)の溶液を0℃で加えた。0℃で1時間撹拌した後、反応混合物を酢酸エチルと炭酸水素ナトリウムの飽和水溶液の間で分配し、層を分離し、有機層を食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、減圧下で濃縮した。残渣をフラッシュクロマトグラフィー(勾配溶出;15:1→6:1ヘキサン-酢酸エチル)で精製し、無色のアモルファス(6.1mg、78%)としてS5を得た。1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ 7.77-7.84 (m, 6H), 7.06 (d, J = 8.9 Hz, 2H), 6.39 (d, J = 11.0 Hz, 1H), 6.00-6.04 (m, 2H), 5.31 (s, 1H), 5.01 (s, 1H), 4.95-4.99 (m, 1H), 4.79 (d, J = 2.7 Hz, 2H), 4.32-4.38 (m, 1H), 4.00-4.08 (m, 1H), 2.82-2.88 (m, 1H), 2.57 (t, J = 2.7 Hz, 1H), 2.50-2.56 (m, 1H), 2.29-2.37 (m, 2H), 2.16-2.23 (m, 1H), 0.85-2.06 (m, 31H), 0.88 (s, 9H), 0.59-0.70 (m, 6H), 0.52 (s, 3H), 0.06 (s, 6H)。
【0090】
<2-2-1-5.SOB1136 (2)の合成>
【0091】
【化10】
【0092】
テトラヒドロフラン(0.2 mL)中のS5(6.1 mg, 0.0065 mmol)の溶液にフッ化水素-ピリジン(70%HF, 40 μL)を加え、反応混合物を室温で一晩撹拌した。炭酸水素ナトリウムの飽和水溶液を慎重に添加した。反応混合物を酢酸エチルで抽出し、有機層を食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥し、濾過し、減圧下で濃縮した。残渣をフラッシュクロマトグラフィー(勾配溶出;1:1~1:4ヘキサン-酢酸エチル)およびRP-HPLCにより精製し、白色固体(3.5 mg, 76%)としてSOB1136(2)を得た。1H NMR (600 MHz, CD3OD) δ 7.94 (d, J = 8.9 Hz, 2H), 7.82 (d, J = 8.9 Hz, 2H), 7.79 (d, J = 8.9 Hz, 2H), 7.13 (d, J = 8.9 Hz, 2H), 6.37 (d, J = 11.0 Hz, 1H), 6.04 (d, J = 11.0 Hz, 1H), 5.25 (s, 1H), 4.94-5.00 (m, 1H), 4.94 (s, 1H), 4.86 (d, J = 2.4 Hz, 2H), 4.44-4.52 (m, 1H), 4.18-4.25 (m, 1H), 3.20 (t, J = 2.4 Hz, 1H), 2.85-2.90 (m, 1H), 2.56-2.61 (m, 1H), 2.36-2.42 (m, 2H), 1.25-2.10 (m, 20H), 1.02 (d, J = 6.3 Hz, 3H), 0.47 (s, 3H). 13C NMR (150 MHz, CD3OD) δ 196.6, 181.3, 168.9, 163.3, 146.7, 142.9, 142.0, 139.2, 135.6, 133.5, 131.4, 130.6, 128.6, 125.2, 118.9, 115.9, 112.1, 79.1, 77.6, 77.5, 74.2, 67.5, 58.0, 57.5, 56.9, 45.7, 44.9, 43.1, 41.7, 41.0, 35.3, 30.7, 30.0, 28.9, 24.6, 24.0, 23.3, 22.0, 19.8,12.3. ESI-MS [M+H]+ m/z = 706. FAB-MS calculated for C44H52NO7 [M+H]+: 706.3744; found: 706.3739。
【0093】
<2-2-2.蛍光性ラクトン-ビタミンD3プローブ(BODIPY-ラクトン-ビタミンD3)(9)の合成>
【0094】
【化11】
【0095】
<2-2-2-1.S4の合成>
【0096】
【化12】
【0097】
トルエン(1.1 mL)およびEt3N(1.1 mL)中のS6(Nagata et al., 2019) (53.8 mg, 0.108 mmol)およびS7 (77.8 mg, 0.177 mmol)の溶液に、室温でPd(PPh3)4(30.2 mg, 0.026 mmol)を加え、反応混合物を90℃で加熱した。1.5時間撹拌した後、反応混合物をセライトで濾過し、濾液を真空中で濃縮した。残渣をシリカゲル上のクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=10:1)に付し、さらに分取TLC(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)で精製してS8を得た。ジエチルエーテル(80 μL)中の1-ドデカネチオール(20 μL、0.083 mmol)の溶液に、0℃で水素化ナトリウム(3.7mg、0.092mmol、鉱物油で60%安定化)を加え、30分間撹拌した。懸濁液にジエチルエーテル(100 μL)中のS8(29.9 mg, 0.035 mmol)を添加し、反応混合物を室温にした。2時間後、反応混合物を水冷し、H2Oを加えた。水性層を酢酸エチルで抽出した。有機抽出物を飽和食塩水で洗浄し、MgSO4上で乾燥し、真空中で濃縮した。残渣をシリカゲル上でクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)に付し、S4(12.7 mg、2段階で18%)を得た。1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ 6.26 (d, J = 11.0 Hz, 1H), 5.98 (d, J = 11.4 Hz, 1H), 5.16 (s, 1H), 4.89 (s, 1H), 4.40-428 (m, 1H), 4.16-4.07 (m, 1H), 3.73-3.65 (m, 1H), 2.84-2.63 (m, 1H), 2.50-2.40 (m, 1H), 2.39-2.19 (m, 2H), 2.06-1.85 (m, 6H), 1.86- 1.15 (m, 16H), 1.04-0.90 (m, 20H), 0.71-0.51 (m, 8H), 0.06 (s, 6H) ppm; 13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 177.94, 141.42, 134.71, 123.60, 117.61, 110.17, 75.64, 75.16, 67.27, 56.51, 56.20, 45.78, 45.53, 41.91, 33.85, 25.81, 25.09, 19.31, 18.10, 11.96, 6.90, -4.68, -4.74 ppm; HRMS (ESI) m/z calcd for C39H70NO4Si2: 672.4843 [M+H]+; found: 672.4810。
【0098】
<2-2-2-2.9の合成>
【0099】
【化13】
【0100】
DMF(0.4 mL)中のS4(3.7 mg, 0.005 mmol)の溶液に、Et3N(5 μL, 0.035 mmol)およびBODIPYの活性化エステルS9 (5 mg, 0.011 mmol)を加えた。得られた混合物を室温で2時間撹拌した後、反応混合物を水冷し、H2Oを加えた。水性層を酢酸エチルで抽出し、有機抽出物を飽和食塩水で洗浄し、MgSO4上で乾燥し、真空中で濃縮した。残渣をシリカゲル上でクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1~1:1)に付し、S10を得た。S10 (2.5 mg, 0.02 mmol)のTHF (0.1 mL) 溶液に、HF-Et3N (0.04 mL, 0.245 mmol) をアルゴン下、0℃で加えた。次いで、反応混合物を室温まで温めた。24時間後、反応混合物に飽和重曹水を加えた。水層を酢酸エチルで抽出し、有機抽出物を飽和食塩水で洗浄し、MgSO4上で乾燥させ、真空中で濃縮した。残渣をシリカゲル上でクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:4~CHCl3:MeOH=10:1)に付し、BODIPY-ラクトン-ビタミンD3)(9)(3.1mg、2段階で74%)を得た。1H NMR (300MHz, CDCl3) δ 6.39 (d, J = 11.4 Hz, 1H), 6.05 (s, 2H), 5.94 (d, J = 11.0 Hz, 1H) , 5.44 (d, J = 8.9 Hz, 1H), 5.20 (s, 1H), 4.97 (s, 1H), 4.90-4.81 (m, 1H), 4.45-4.34 (m,1H), 4.10-4.01 (s, 1H), 3.10-2.91 (m, 2H), 2.85- 2.75 (m, 1H), 2.65-2.25 (m, 15H), 2.06-1.89 (m, 5H), 1.72-1.23 (m, 20H), 1.03-0.96 (m, 4H), 0.43 (s, 3H) ppm; 13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ 179.39, 170.33, 144.97, 144.28, 143.78, 135.14, 132.32, 12540, 121.77, 116.85, 112.99, 73.23, 66.86, 65.43, 50.03, 45.76, 45.28, 43.28, 41.63, 40.98, 36.83, 34.30, 29.70, 27.58, 24.41, 19.4, 16.54, 14.48, 11.72 ppm; HRMS (ESI) m/z calcd for C44H60BFN3O5Na: 782.4491 [M+Na]+; found: 782.4493。
【0101】
<2-2-2-3.ラクトン-ビタミンD3ジアステレオマーの合成(4-6)>
合成は、既報に記載されているように行った。
【0102】
(3)試験例
<3-1.HADHAタンパク質とラクトン-ビタミンD3との結合>
ラクトン-ビタミンD3結合タンパク質を単離する試みでは、最初に2つのアフィニティープローブ、SOB1134(プローブ1)とSOB1136(プローブ2)を準備した。これらのプローブにおいては、25(OH)D3または 25-ヒドロキシビタミンD3-26,23-ラクトン(ラクトン-ビタミンD3)は、光架橋のためにベンゾフェノンと結合し、アジドレポータータグとのクリック反応のためにアルキン基と結合している(図1Aおよびスキーム1)。それらの構造は、1H-NMRおよびLC-MS分析によって確認された。
【0103】
HEK293細胞を各プローブで40分間処理し、UVを照射し、溶解した。得られたPBS可溶性(S)およびPBS不溶性(I)溶解物画分を、銅触媒によるアジド-アルキン環状付加を介して蛍光ローダミン-アジドタグと反応させ、SDS-PAGEで分析した。ゲルの蛍光イメージングでは、プローブ2で処理したサンプルでは明確な約80 kDaのバンドが示されたが、プローブ1で処理したサンプルでは示されなかった(図2A)。続いて、このプローブ2選択的タンパク質をビオチンプルダウン実験によって単離した。プローブ2で標識したタンパク質をビオチン-アジドと反応させ、ストレプトアビジン-アガロースビーズを使用して濃縮し、SDS-PAGEで分析した(図2A)。LC-MS / MSによる単離された約80kDaバンドのマイクロシーケンシングにより、ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼ三機能性酵素(HADHA)のミトコンドリアアルファサブユニットとして同定された。HADHAは、ベータサブユニット(HADHB)に関連する82.9 kDaのミトコンドリア内膜結合酵素であり、脂肪酸のβ酸化に不可欠なミトコンドリア三機能タンパク質(mTFP)複合体を形成する。
【0104】
ラクトン-ビタミンD3のターゲットを検証するために、HADHAに対する抗体を使用してビオチンプルダウンサンプルのウェスタンブロット分析を実行した。82 kDaマーカーの近くのバンドは、プローブ1ではなくプローブ2でプルダウンされたサンプルで、抗HADHA抗体によって標識された(図2B)。リガンド-ターゲット相互作用の特異性を確立するために、競合アッセイも実施した。過剰量のラクトン-ビタミンD3(3)はプローブ2と競合したが、25(OH)D3は競合しなかった。これは、3とHADHAの特異的な相互作用を示している(図2B)。ラクトン-ビタミンD3の3つのジアステレオマー(4-6、図1B)は、天然異性体3(図2C)と比較して有意な競合を示さず、HADHA相互作用におけるラクトン構造の立体化学の重要性を強調している。ラクトン-ビタミンD3のA環構造を含まない誘導体(8、図1C)も、プローブ2のHADHAへの結合への影響が限定的であることから、HADHAとの結合活性のために、ラクトン部分とコアリング構造全体の両方が必要であることを示している(図2B)。動物の体内でより豊富な1-デヒドロキシル化型のラクトン-ビタミンD3(7、図1B)は、予想通りプローブ2(図2C)を置換し、1-OH基がHADHAへの結合に必要ないことを示している。
【0105】
また、BODIPY結合ラクトン-ビタミンD3プローブ(9、図1Dおよびスキーム2)を準備して、蛍光イメージングによって細胞内局在を視覚化した。図2Dに示すように、プローブは主にHADHAが存在するミトコンドリアに限定されていた。これらの一連の実験は、ミトコンドリアのHADHAがラクトン-ビタミンD3の標的タンパク質であり、その一体構造と構成がその結合活性にとって重要であることを示している。
【0106】
<3-2.ラクトン-ビタミンD3の細胞エネルギー代謝に与える影響>
標的のHADHAはβ酸化に関与しているため、ラクトン-ビタミンD3が細胞のエネルギー代謝に影響を与えると推測された。細胞の代謝活性は、さまざまな濃度の試験化合物で処理されたHeLaおよびHepG2細胞の酸素消費率(OCR)を測定することによって評価した。ラクトン-ビタミンD3は、用量依存的(3~30μM)にOCRを対照の10%~40%減少させた。OCRに対するラクトン-ビタミンD3の効果は、酸化的リン酸化の阻害剤であるアンチマイシンAの効果ではなく、β酸化の不可逆的阻害剤であるエトモキシルの効果と類似していた。その効果は、酸化的リン酸化の直接的な阻害によるものではなく、β酸化に関連する先行する代謝活性である可能性があると考えられた。
【0107】
次に、ラクトン-ビタミンD3がHADHAとHADHBの発現、HADHA-HADHBの相互作用、およびそれらの酵素活性に及ぼす影響を確認した。HEK293細胞をラクトン-ビタミンD3で24~48時間処理しても、HADHAとHADHBの両方の発現レベルに検出可能な影響はなかった。共免疫沈降実験は、HADHAとHADHBがmTFP複合体を形成する能力にほとんど影響を与えなかった。驚いたことに、mTFP複合体のin vitro酵素アッセイでは、高濃度でもラクトン-ビタミンD3による酵素活性の有意な阻害は見られなかった。これらの結果は、ラクトン-ビタミンD3がβ酸化酵素活性に影響を与えることなく非触媒部位でHADHAに結合することを示している。
【0108】
HADHAのリガンド結合領域を決定するために、HADHAの2つの触媒ドメインが交互に欠損された変異体を作製し、プルダウン実験で検証した。デヒドロゲナーゼまたはヒドラターゼドメインのいずれかを削除すると、プローブ結合が失われ、ラクトン-ビタミンD3との相互作用に両方のドメインが必要であることを意味する。
【0109】
<3-3.ラクトン-ビタミンD3によるL-カルニチン合成の制御>
ラクトン-ビタミンD3がHADHAのまだ説明されていない機能を調節する可能性があることを想定した。ラクトン-ビタミンD3の代謝結果に関する洞察を得るために、グルコースとグルタミンを含むまたは含まない培地で30μMのラクトン-ビタミンD3とインキュベートしたHepa1-6細胞を使用してメタボローム解析を行った。エネルギー源の不足により、細胞はβ酸化を利用するようになり、ATPレベルで測定されるように細胞の代謝状態が維持される(図3A)。ラクトン-ビタミンD3の存在は、脂肪酸依存性ATP産生の約30%の低下をもたらし、OCR実験の結果と一致するβ酸化の低下を示している。
【0110】
メタボローム解析では、ラクトン-ビタミンD3処理によるいくつかの代謝物の枯渇も明らかになった。これらの代謝物の中で特に興味深いのはL-カルニチンであった。これは、信頼性が高く、最も減少した代謝物であった(図3A)。L-カルニチンは、その後のβ酸化のために長鎖脂肪酸をミトコンドリアに輸送する役割を担う豊富なトリメチル化アミノ酸誘導体である。β酸化が主要なエネルギー源となるグルコースおよびグルタミンが枯渇した条件下では、L-カルニチンの必要性はその細胞内濃度の上昇によって強調された(図3A)。したがって、L-カルニチンが欠如することにより、ラクトン-ビタミンD3で処理された細胞のβ酸化が間接的に損なわれている可能性がある。このカルニチン効果がHADHAによって媒介されるかどうかを調べるために、HadhaのsiRNA(siHadha)とのRNA干渉を介してHadhaをノックダウンしたときの遊離L-カルニチンを測定した。Hadhaノックダウンの効果はラクトン-ビタミンD3の効果と同様であり、HADHAの発現レベルが低下している細胞では遊離L-カルニチン濃度が低かった(図3B)。この発見は、HADHAがカルニチンの恒常性を制御している可能性を示唆している。
【0111】
遊離カルニチンの利用が脂肪酸のβ酸化の調節に重要な役割を果たすことが文献で確立されている。L-カルニチンまたはその前駆体であるトリメチルリジン(TML)がラクトン-ビタミンD3の代謝効果を補うことができるかどうかをテストするために、オポッサム腎臓(OK)細胞を使用してレスキュー実験を行った。高いATP需要が主に脂肪酸β酸化によって供給されるOK細胞を、グルコースおよびグルタミンを含まないデヒドロキシル化型のラクトン-ビタミンD3(7、図1B)で処理した。図3Cに示すように、細胞を化合物7で処理すると、細胞の生存率が著しく低下した。これは、ラクトン-ビタミンD3によるβ酸化の障害と一致している。TMLの効果は限られていたが、生存率の低下はL-カルニチンによって50%以上改善された。これらの結果は、ラクトン-ビタミンD3がカルニチン量を低下させることで間接的にβ酸化を制限するという我々の仮定を支持し、またカルニチン生合成がラクトン-ビタミンD3によって阻害される可能性があることを示唆する。
【0112】
<3-4.ラクトン-ビタミンD3によるTMLD機能の制限>
カルニチン生合成に関与する4つの酵素の中で、トリメチルリジンジオキシゲナーゼ(TMLD)に焦点を当てた。これは、カルニチン生合成経路の中で、唯一のミトコンドリアマトリックスに局在する酵素であるためである。レスキュー実験で実証されたように、TMLの添加は細胞生存率のわずかな回復しかもたらさなかったため、TMLDは有望な候補のように思われた。共免疫沈降実験は、実際にHADHAがTMLDと相互作用することを実証し、この相互作用は、ラクトン-ビタミンD3の存在下で減少した(図3D)、HADHAとTMLDの相互作用は、ラクトン-ビタミンD3によって制御されるβ酸化とカルニチン生合成の間のクロストークポイントであることを示唆している。組換えTMLDおよびHADHAを用いた生化学的酵素アッセイは、HADHAが3-ヒドロキシ-トリメチルリジン(HTML)産生によって測定されるTMLD酵素活性を増強することを示した。HADHAによるTMLDの活性化は、天然のラクトン-ビタミンD3の添加によってキャンセルされた(3)(図3E)。我々の結果は、TMLDの触媒活性はHADHAとの密接な相互作用に依存しており、ラクトン-ビタミンD3はHADHAの相互作用を低下させることでTMLD活性を減少することを示唆する。
【0113】
(4)考察
カルニチン合成が阻害されると、栄養代謝が変化することが報告されている。ハイバーネーターを含む多くの高緯度動物は、夏から冬にかけてエネルギー代謝を主に炭水化物から脂質代謝に再プログラムし、冬の食物制限条件下での生存を確保することが知られている。脂肪酸のβ酸化能力の増加をサポートするために、冬眠中の動物と冬眠していない動物の両方で、血漿を含まないカルニチンが著しく増加することが報告されている。高緯度の動物の血清ビタミンD3レベルも季節に依存する。日光が利用できるため、一般的に夏は高く、冬は低くなる。上記結果は、ラクトン-ビタミンD3がこれらの動物の季節的な代謝シフトの別の要因として機能する可能性を示す。夏の日光によって生成されるラクトン-ビタミンD3はカルニチン生合成を抑制し、それによって夏の脂質酸化を制限して食物を制限する冬に備えることが想定される。したがって、ビタミンD3ラクトン体、或いは生体内でビタミンD3ラクトン体へと代謝され得る化合物(ビタミンD3、及びビタミンD3水酸化体)を動物に摂取させる/投与することによって、動物成長促進作用、特に脂質蓄積促進作用を発揮することができる。
図1A
図1B
図1CD
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3CD
図3E
図4AB