(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129449
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】情報処理装置、設計システム、設計方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/10 20200101AFI20220830BHJP
G06F 30/27 20200101ALI20220830BHJP
【FI】
G06F17/50 638
G06F17/50 604D
G06F17/50 604A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021028112
(22)【出願日】2021-02-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、「戦略的創造研究推進事業」「光・電子融合第一原理計算ソフトウェアの開発と応用」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智大
(72)【発明者】
【氏名】矢花 一浩
(72)【発明者】
【氏名】竹内 嵩
【テーマコード(参考)】
5B046
5B146
【Fターム(参考)】
5B046GA01
5B046HA05
5B046JA01
5B046JA10
5B046KA05
5B046KA06
5B146AA10
5B146DC01
5B146DC03
5B146DG02
5B146DJ04
5B146DL02
5B146DL08
(57)【要約】
【課題】計算量を低減可能なメタ表面の設計を行うための装置、設計方法、システム、およびプログラムを提供する。
【解決手段】メタ表面の設計を行うための情報処理装置であって、複素屈折率分布を示すデータに基づいて、メタ表面の単位構造を示すデータを生成する単位構造生成部と、生成された前記単位構造の反射率を、準静的近似による電磁場解析によって算出する反射率算出部と、算出された反射率に基づいて、最適な複素屈折率分布を決定する分布決定部と、を備える情報処理装置である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタ表面の設計を行うための情報処理装置であって、
複素屈折率分布を示すデータに基づいて、メタ表面の単位構造を示すデータを生成する単位構造生成部と、
生成された前記単位構造の反射率を、準静的近似による電磁場解析によって算出する反射率算出部と、
算出された反射率に基づいて、最適な複素屈折率分布を決定する分布決定部と、を備える、
情報処理装置。
【請求項2】
前記反射率算出部は、前記単位構造に含まれる単位包を回転楕円体に近似して、前記単位構造の反射率を算出する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
決定された複素屈折率分布を有する物質を探索する物質探索部をさらに備え、
前記物質探索部は、複素屈折率が未知である既存物質の複素屈折率を第一原理計算から予測し、複素屈折率を予測した既存物質から探索する、
請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
決定された複素屈折率分布を有する物質を探索する物質探索部をさらに備え、
前記物質探索部は、新規物質の複素屈折率を第一原理計算から予測し、複素屈折率を予測した既存物質から探索する、
請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項5】
決定された複素屈折率分布を有する物質を探索する物質探索部と、
複素屈折率が未知である既存物質の複素屈折率または新規物質の複素屈折率を機械学習による予測モデルに基づいて予測する予測部と、をさらに備え、
前記物質探索部は、予測された複素屈折率に基づいて、複素屈折率分布を有する物質を探索する、
請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項6】
メタ表面の設計システムであって、
任意の複素屈折率分布を適用する電磁波の波長と同程度以上の大きさの単位構造から電磁場解析によって算出されるメタ表面の単位構造全体の反射率が基準値以上になるように、前記複素屈折率分布を適用する電磁波の波長と同程度以上の大きさの単位構造から構成されるメタ表面の複素屈折率分布を最適化する最適化手段と、
最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、複素屈折率が既知の物質から探索する物質探索部と、を有する、
設計システム。
【請求項7】
コンピュータが実行するメタ表面の設計方法であって、
複素屈折率分布を示すデータに基づいて、メタ表面の単位構造を示すデータを生成するステップと、
生成された前記単位構造の反射率を、準静的近似による電磁場解析によって算出するステップと、
算出された反射率に基づいて、最適な複素屈折率分布を決定するステップと、を備える、
設計方法。
【請求項8】
コンピュータに、
複素屈折率分布を示すデータに基づいて、メタ表面の単位構造を示すデータを生成するステップと、
生成された前記単位構造の反射率を、準静的近似による電磁場解析によって算出するステップと、
算出された反射率に基づいて、最適な複素屈折率分布を決定するステップと、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、設計システム、設計方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
メタ表面とは、人工的に設計された、自然界では存在しない特性を有したメタ物質の一種である。メタ表面は、例えばナノ微粒子を薄膜状に規則正しく並べることによって生成され、高い反射率を発現する特性を有している。
【0003】
近赤外光領域で高い反射を有するメタ表面は、可視光を透過し近赤外光を反射する透明反射膜に用いることができる。例えば、非特許文献1には錫ドープ酸化インジウムナノ微粒子を六方最密に整列させることによって生成された、高い近赤外光反射を有する透明反射膜が開示されている。
【0004】
ところで、近年コンピュータシミュレーションを用いてメタ物質を設計する試みがなされている。メタ物質は、単位構造の3次元方向への繰り返しによって構成され、これらの単位構造は、所定の屈折率や吸収係数などの光学物性を有する物質から構成されている。従来のメタ物質の設計シュミュレーションでは、材料として用意された特定の物質から単位構造を作成し、その単位構造から有限要素法、有限差分時間領域(FDTD)法や厳密結合波解析(RCWA)法等の電磁場解析を用いている。
【0005】
例えば、特許文献1には、コンピュータシミュレーションを用いて広い範囲の物質からメタ物質を設計可能な設計方法が開示されている。特許文献1に開示された設計方法では、所望の屈折率を有するメタ物質を得るために、適用する電磁波の波長よりも十分に小さい単位構造を構成する物質の複素屈折率分布の最適化を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Hiroaki Matsui, Takayuki Hasebe, Noriyuki Hasuike, and Hitoshi Tabata, ACS Applied Nano Materials 2018, 1, 1853-1862.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、メタ表面は非特許文献1にあるように、適用する電磁波の波長よりも十分に小さい単位構造を規則正しく並べることが難しく、ナノ微粒子の表面を有機分子でコーティングすることによって得られる。したがって、実際のメタ表面は、適用する電磁波の波長と同程度以上の大きさの単位構造から構成されている。そのため、特許文献1に記載の技術を実際のメタ表面の設計に適用しても、計算量が膨大になるため現実的な設計が困難であるという問題がある。
【0009】
そこで上記従来技術が有する問題に鑑み、本発明の一側面では、計算量を低減可能なメタ表面の設計を行うための装置、設計方法、システム、およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る情報処理装置は、
メタ表面の設計を行うための情報処理装置であって、
複素屈折率分布を示すデータに基づいて、メタ表面の単位構造を示すデータを生成する単位構造生成部と、
生成された前記単位構造の反射率を、準静的近似による電磁場解析によって算出する反射率算出部と、
算出された反射率に基づいて、最適な複素屈折率分布を決定する分布決定部と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、計算量を低減可能なメタ表面の設計を行うための装置、設計方法、システム、およびプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】第一の実施形態に係る情報処理装置の機能構成図。
【
図3】設計処理の流れの一例を示すフローチャート。
【
図6】メタ表面の単位構造内の単位包分布の模式図。
【
図7】単位構造をメッシュ状に分割した状態を示す図。
【
図9】計算モデルのX方向及びY方向に垂直な境界面とZ方向に垂直な境界面を示す図。
【
図10】計算モデルにおいてパルス波を発生させた状態を示す図。
【
図11】準静的近似を用いて反射率を計算するための計算モデルの模式図。
【
図12】最適化された複素屈折率分布を実現する物質を、複素屈折率が既知の物質から探索するステップを示す説明図。
【
図13】複素屈折率が未知である既存物質の複素屈折率を第一原理計算から予測するステップと、最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した既存物質から探索するステップを示す説明図。
【
図14】新規物質の複素屈折率を第一原理計算から予測するステップと、最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した新規物質から探索するステップを示す説明図。
【
図15】第二の実施形態に係る情報処理装置の機能構成図。
【
図16】第二の実施形態に係る設計処理の流れの一例を示すフローチャート。
【
図17】複素屈折率が未知である既存物質の複素屈折率を機械学習から予測するステップと、最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した既存物質から探索するステップを示す説明図。
【
図18】新規物質の複素屈折率を機械学習から予測するステップと、最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した新規物質から探索するステップを示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
【0014】
(第一の実施形態)
本実施形態に係る設計システムは、メタ表面の設計を行うシステムである。メタ表面は、人工的に設計された、自然界では存在しない特性を有したメタ物質の一種である。メタ表面は、例えばナノ微粒子を面状に規則正しく並べることによって生成され、高い反射率を発現する特性を有している。
【0015】
【0016】
設計システムは、情報処理装置1と、サーバ2と、を備える。情報処理装置1とサーバ2とは、インターネット等のネットワークを介して互いに通信可能に接続されている。情報処理装置1は、例えばコンピュータであり、CPU101、記憶装置102、入力装置103、表示装置104、出力装置105等を有している。
【0017】
CPU101は、メタ表面の設計方法を実現するためのプログラムに規定された処理を実行する。
【0018】
記憶装置102は、ハードディスクや、光ディスクなどのストレージ手段であり、例えばメタ表面の設計方法を実現するためのプログラム、複素屈折率が既知の物質のデータベース、メタ表面の設計を行うための各種条件、またはその他各種データ等を記憶する。
【0019】
入力装置103は、キーボード、マウス等のポインティングデバイスからなり、メタ表面の設計のために必要なデータの入力を受け付ける。表示装置104は、メタ表面の設計のために必要なデータ、メタ表面の設計結果等を表示する。出力装置105は、他の機器等からの要求に応じて、設計のために必要なデータ、メタ表面の設計結果等を、他の機器等に出力する。
【0020】
サーバ2は、物質データベース201を記憶する装置である。情報処理装置1からの要求に応じて、物質データベース201に含まれるデータを情報処理装置1に送信する。物質データベース201は、複素屈折率が既知の物質のデータである。なお、物質データベース201は、複素屈折率が未知の物質のデータを含んでいても良い。
【0021】
次に、情報処理装置1の機能について説明する。
図2は、第一の実施形態に係る情報処理装置の機能構成図である。
【0022】
情報処理装置1は、記憶部11と、単位構造生成部12と、反射率算出部13と、分布決定部14と、物質探索部15と、を備える。これら各部は、CPU101が記憶装置102に格納されたプログラムを読み出して、当該プログラムに規定された処理を実行することによって実現される。
【0023】
記憶部11は、各種情報を記憶する。具体的には、メタ表面の設計に必要なパラメータ、計算式等を記憶する。また、情報処理装置1がサーバ2から受信した物質のデータを記憶しても良い。
【0024】
単位構造生成部12は、複素屈折率分布の入力を受け付けて、受け付けた複素屈折率を有する単位構造を示すデータを生成する。
【0025】
反射率算出部13は、生成されたデータに示される単位構造から構成されるメタ表面の反射率を算出する。
【0026】
分布決定部14は、反射率が所定の条件を満たす複素屈折率分布を決定する。具体的には、単位構造生成部12および反射率算出部13は、算出された反射率が所定の条件を満たすまで繰り返し処理を実行し、分布決定部14は、算出された反射率が所定の条件を満たした場合に、入力を受け付けた複素屈折率分布に決定する。
【0027】
物質探索部15は、決定された複素屈折率分布を有する物質を、サーバ2の物質データベース201から探索する。なお、物質探索部15は、あらかじめ記憶部11が物質のデータを記憶する場合、記憶部11から探索しても良い。
【0028】
次に、上記設計システムで実行されるメタ表面の設計方法について説明する。当該メタ表面の設計方法は、複素屈折率分布を示すデータに基づいて、メタ表面の単位構造を示すデータを生成するステップと、生成された前記単位構造の反射率を、準静的近似による電磁場解析によって算出するステップと、算出された反射率に基づいて、最適な複素屈折率分布を決定するステップと、を有している。
【0029】
以下に、メタ表面の設計処理について、具体的に説明する。
図3は、設計処理の流れの一例を示すフローチャートである。以下の設計処理では、情報処理装置1は、パラメータとして反射率の基準値δの指定を受け、反射率が基準値δより大きいという条件を満たすメタ表面を設計する。
【0030】
単位構造生成部12は、複素屈折率分布の入力を受け付けて、受け付けた複素屈折率分布を有するメタ表面の単位構造を示すデータを生成する(ステップS1)。
【0031】
次に、反射率算出部13は、電磁場解析により、メタ表面の単位構造全体の反射率を算出する(ステップS2)。単位構造全体の反射率とは、単位構造に含まれる各物質の個々の反射率ではなく、単位構造に含まれる各物質の位置、割合、大きさ等に応じて算出される、単位構造全体の反射率を意味する。
【0032】
続いて、分布決定部14は、算出された反射率が基準値δより大きいか否かを判定する(ステップS3)。分布決定部14が、反射率が基準値δより大きくないと判定すると(ステップS3:No)、単位構造生成部12は、ステップS1の処理に戻り、新たに複素屈折率分布の入力を受け付けて、受け付けた複素屈折率分布を有するメタ表面の単位構造を示すデータを生成する。
【0033】
分布決定部14は、算出された反射率が基準値δより大きいと判定すると(ステップS3:Yes)、入力を受け付けた複素屈折率分布を、最適な複素屈折率分布に決定する(ステップS4)。
【0034】
物質探索部15は、決定された複素屈折率分布を実現する物質を探索する(ステップS5)。
【0035】
次に、上述した各ステップの処理の詳細について説明する。まず、
図3のステップS1の処理の詳細について説明する。
図4は、メタ表面の模式図である。
図4に示すように設計対象のメタ表面50は、単位構造51を2次元方向に繰り返し配置することによって構成されるものである。また、生成する単位構造51は、適用する電磁波の波長と同程度以上の大きさであっても良い。
【0036】
図5は、メタ表面の単位構造の模式図である。また、
図6は、メタ表面の単位構造内の単位包分布の模式図である。単位構造51は、さらに複数の単位包52から構成されている。
図5および
図6に示すように、単位構造生成部12は、デカルト座標(x,y,z)上に直方体の単位構造51を構築する。この場合、単位構造51を構築するために入力される入力値は、(i)単位構造の横幅a、(ii)単位構造の奥行き長さb、(iii)単位構造の高さh、(iv)単位包の各位置(デカルト座標(x,y,z))、そして、(v)単位構造中における各位置(デカルト座標(x,y,z))における複素屈折率n(x,y,z)(複素屈折率分布)である。複素屈折率nは、次式(1)のように実数部n′と虚数部kに分離できる。
【0037】
n=n′-ik・・・(1)
【0038】
図7は、単位構造をメッシュ状に分割した状態を示す図である。単位構造生成部12は、単位構造51中の各位置における複素屈折率(複素屈折率分布)を算出する。具体的には、単位構造生成部12は、
図7に示されるように、各単位構造51を、例えば、HyperMeshやCubit等の市販のメッシングソフトウエアを用いて、四面体メッシュ、六面体メッシュ等の適当なメッシュ60で分割し、メッシュ60の各節点61に複素屈折率nを割り当てて行う。もしくは、単位構造生成部12は、電磁場解析ソフトウエアと一体化されているGUIを用いても良い。これによって、単位構造51をメッシュ60で分割し、各節点61に複素屈折率nを割り当てることが可能である。
【0039】
次に、
図3のステップS2の処理の詳細について説明する。まず、従来の方法について説明する。従来の反射率算出部13は、ステップS2の処理として、構築された単位構造51に対して、有限要素法、有限差分時間領域(FDTD;Finite-difference time-domain method;FDTD method)法や厳密結合波解析(RCWA;RCWA、rigorous coupled-wave analysis)法等による電磁場解析を行うことによって、メタ表面50の単位構造全体の反射率を算出する。
【0040】
ここで、FDTD法を用いてメタ表面50の単位構造全体の反射率を算出する例について説明する。FDTD法を用いたソフトウエアとしては、SALMON、Fullwave、Poythingが挙げられる。
【0041】
図8は、FDTD法を用いた計算モデルの模式図である。反射率算出部13は、FDTD法を用いて、
図8に示したような、単位構造51をX,Y,Z方向に1個含むZ方向の長さdのスラブ70と、スラブ70をZ+方向とZ-方向より挟む、電磁波の波長より十分厚い真空層71、72とを含む直方体の計算モデル73を想定する。
【0042】
反射率算出部13は、FDTD法を用いて、次に示すMaxwell方程式(2)、(3)に基づき電場Eと磁場Hの時間発展を計算する。
【0043】
【0044】
【0045】
ここで、電場Eおよび磁場Hは、x成分、y成分及びz成分から構成されるベクトル値である。また、μ0は真空中での透磁率4π×10-7(H/m)、μrは比透磁率、ε0は真空中での誘電率8.854187817620×10-12F/m、εrは比誘電率、tは時間である。
【0046】
物質中の透磁率μ及び誘電率εは、次式(4)、(5)のように表される。
【0047】
【0048】
また、複素屈折率nは、透磁率μと誘電率εを用いて次式(6)のように表される。
【0049】
【0050】
可視光領域では、比透磁率μrは、1.0であると考えてよいので、複素屈折率nは、比誘電率εrによって次式(7)で表される。
【0051】
【0052】
従って、反射率算出部13は、式(3)に代入する比誘電率εrを、入力条件である複素屈折率nの値から、次式(8)のように決定する。
【0053】
【0054】
よって、反射率算出部13は、式(3)及び(4)に、次式(9)、(10)の比誘電率εrと比透磁率μrが入力される。
【0055】
【0056】
次に、FDTD法における具体的な計算についてさらに説明する。まず、境界条件として、
図9に示したように、計算モデル73のX方向及びY方向に垂直な境界面80に周期境界条件を与え、Z方向に垂直な境界面81に吸収境界条件を与える。吸収境界条件を与える方法としては、Perfectly Matched Layer(PML)が挙げられる。
【0057】
反射率算出部13は、時間t=0において、
図10に示したように入射波として、任意の偏光状態を有し、且つ、Z+方向の進行方向を有したパルス波82をスラブ70の空気層中83から発生させるシミュレーションによって、電磁場の時間発展を計算する。
【0058】
反射率算出部13は、計算モデル73全体の点における電場及び磁場の振幅がt=0の時の値、すなわち0に到達するまで、時間発展計算をFDTD法によって実施する。その結果、計算モデル73における各点の電場、磁場の振幅及び位相の時間発展が得られる。
【0059】
反射率算出部13は、各点の電場、磁場を次式のようにフーリエ変換する。これによって、周波数ω依存性を算出する。
【0060】
【0061】
式(11)を用い反射電場Er、透過電場Etは次式(13)、(14)のように表せる。
【0062】
【0063】
ここで、
図10に示すとおりz
0はメタ表面から十分離れたZ-方向の点のz座標、z1はメタ表面から十分離れたZ+方向の点のz座標である。またE′はメタ表面が存在しない場合、つまり真空中の電場の時間発展のフーリエ変換である。
【0064】
反射率算出部13は、透過電場、反射電場から、メタ表面全体の反射率R、透過率Tを次式(15)、(16)のように算出する。
【0065】
【0066】
上述した従来の反射率算出方法では、計算量が膨大になるため現実的な設計が困難であるという問題がある。そこで、以下ではその問題を解決するための技術として、準静的近似を用いて、メタ表面全体の反射率を算出する方法について説明する。
【0067】
図11は、準静的近似を用いて反射率を計算するための計算モデルの模式図である。反射率算出部13は、
図11に示す通り、a=L
xr
0、b=L
yr
0のメタ表面の単位構造51を構成する単位包を回転楕円体とし、各回転楕円体を以下の式(22)によって表す。
【0068】
【0069】
ここでnは各回転楕円体を表し、anr0、bnr0は各回転楕円体の半径を表している。座標(xn′,yn′,zn′)は元の座標(x,y,z)からx軸まわりにθn、z軸周りにφnだけ回転させた座標系であり、以下の式(23)、(24)、(25)で表される。
【0070】
【0071】
なお、準静的近似を適用するため、各回転楕円体が光の波長より十分に小さく、それぞれが相互作用しない範囲でメタ表面の単位構造内に分布しているものとする。
【0072】
もとの座標(x,y,z)にて、入射電場Eiは以下の式(26)で表される。
【0073】
【0074】
また、座標系(xn′,yn′,zn′)での入射電界Ei′(ω)は、式(27)となる。
【0075】
【0076】
このEi′を用いると,n番目の回転楕円体内における全電場Eτ,n′(ω)は式(28)のように算出される。
【0077】
【0078】
ここで、Anは反電界係数であり、回転楕円体の場合、以下の式(29)、(30)、(31)、(32)および(33)によって算出される。
【0079】
【0080】
【0081】
Aa,n+2Ab,n=1→Ab,n=(1-Aa,n)/2・・・(33)
【0082】
式(28)は式(27)を用いることで次式(34)のように算出される。
【0083】
【0084】
このEτ,n′を座標系(x,y,z)で表したEτ,nは、次式(35)のように算出される。
【0085】
【0086】
よって、座標系(x,y,z)におけるn番目の回転楕円体内を流れる電流密度jnは次式(36)のように算出される。
【0087】
【0088】
次に、反射率算出部13は、メタ表面と等価な反射率、透過率を持つ厚さ0の一様薄膜を想定した計算を行う。この薄膜の電流密度Jは、次式(37)のように算出される。
【0089】
【0090】
ここで、~Jは、次元[A/m2]を持つ二次元電流密度である。この時、薄膜内の電場は次式(38)によって算出される。
【0091】
【0092】
ここでEt、Erはそれぞれ透過電場、反射電場を表す。cは真空中の光の速さである。この薄膜がメタ表面と等価な反射率、透過率を有するためには,次式(39)を満たす必要がある。
【0093】
【0094】
ここでNは単位構造に含まれる単位包の総数である。なお、電場のz成分は薄膜内にのみ存在し、反射電場、透過電場に寄与しないため無視する。式(38)、(39)より、反射電場Erは次式(40)によって算出される。
【0095】
【0096】
透過電場Etは境界条件より次式(41)のように算出される。
【0097】
【0098】
そして、反射率算出部13は、メタ表面の反射率Rおよび透過率Tを、式(26)の入射電場Ei、式(40)の反射電場Er、式(41)の透過電場Etを用いて次式(42)、(43)によって算出する。
【0099】
【0100】
このように、反射率算出部13は、式(42)を用いることで、メタ表面の反射率を計算する。
【0101】
上述した準静的近似に基づく計算によれば、メタ表面の単位構造51を構成する単位包を回転楕円体とした近似計算によって、上述したFDTD法を用いた計算よりも計算量が少なく、現実的な計算量で反射率を算出することが可能である。
【0102】
次に、
図3のステップS5の処理の詳細について説明する。具体的には、物質探索部15は、
図12に示すように、例えば、最適な複素屈折率分布の各複素屈折率値n1、n2を有するような、複素屈折率が既知の物質のデータベース100から探索する。物質探索部15は、最適な複素屈折率分布の各複素屈折率の値と一致、又は近い値の複素屈折率を有する物質を探索する。なお、データベース100は、情報処理装置1の記憶装置102に含まれても良いし、サーバ2の物質データベース201の一部であっても良い。
【0103】
物質探索部15は、データベース100の中から探索条件を満たす物質のデータが見つかるか、データベース100のすべての物質のデータを探索すると、探索を終了する。情報処理装置1は、探索条件を満たす物質のデータが見つかると、その物質のデータを用いてメタ表面50を設計する。
【0104】
本実施の形態によれば、メタ表面50の単位構造全体の反射率が、基準値以上になるような、最適な複素屈折率分布を与えた単位構造51を定め、その最適な複素屈折率分布を実現する物質を、複素屈折率が既知の物質から探索する。その際、適用する電磁波の波長と同程度以上の大きさの単位構造であっても、準静的近似に基づく計算によって、現実的な計算量で反射率を算出することが可能である。したがって、現実的な計算量でメタ表面を設計できる。
【0105】
単位構造生成部12、反射率算出部13および分布決定部14は、任意の複素屈折率分布を適用する電磁波の波長と同程度以上の大きさの単位構造から電磁場解析によって算出されるメタ表面の単位構造全体の反射率が基準値以上になるように、前記複素屈折率分布を適用する電磁波の波長と同程度以上の大きさの単位構造から構成されるメタ表面の複素屈折率分布を最適化する最適化手段の一例である。
【0106】
図3のステップS5の処理において、物質探索部15は、複素屈折率が未知である既存物質の複素屈折率を第一原理計算から予測し、最適化された複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した既存物質から探索しても良い。
【0107】
具体的には、
図13に示すように、物質構造データベース110から物質の分子構造を取り出し、第一原理計算を行って既存物質の複素屈折率を予測する。物質構造データベース110は、物質の分子構造を示すデータの集合である。なお、物質構造データベース110は、情報処理装置1の記憶装置102に含まれても良いし、サーバ2の物質データベース201の一部であっても良い。
【0108】
複素屈折率を予測できる第一原理計算用の市販プログラムとして、VASP、CASTEP、WIEN2K等が挙げられる。第一原理計算を実施するために、既存物質の分子構造を、デカルト座標、もしくはZ-Matrixによって入力する。そのために、Material StudioやMedeA等の市販モデリングソフトを用いると、簡便に各原子の座標を入力することができる。
【0109】
上記の第一原理計算プログラムに既存物質の分子構造を入力して実行することによって、情報処理装置1は、密度汎関数法に基づいて基底状態の電子状態を示す値を算出し、更に、得られた電子状態を示す値及び線形応答理論に基づいて、複素屈折率を算出によって予測することができる。情報処理装置1の記憶部11は、予測結果を示す情報を記憶しておく。
【0110】
物質探索部15は、
図3のステップS1からステップS4までの処理により定められた単位構造51の最適な複素屈折率分布の各複素屈折率値n1、n2を実現する物質を、複素屈折率が予測された既存物質の中から探索する。このとき、物質探索部15は、最適な複素屈折率分布の各複素屈折率の値と一致、又は近い値の複素屈折率を有する既存物質を探索する。
【0111】
さらに、
図3のステップS5の処理において、物質探索部15は、新規物質の複素屈折率を第一原理計算から予測し、最適化された複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した新規物質から探索しても良い。
【0112】
具体的には、
図14に示すようにユーザが新規物質をデザインし、情報処理装置1が、その新規物質の複素屈折率を第一原理計算から予測して、その予測値が探索条件を満たす新規物質を探索する。新規物質としては、第一原理計算において、電子状態が収束するものであれば、特に制限することなくデザインすることができる。
【0113】
さらに、物質探索部15は、
図3のステップS5の処理において、上述した各処理を順に実行するようにしても良い。具体的には、物質探索部15は、初めに、最適な複素屈折率分布を実現する物質を、複素屈折率が既知の物質から探索する。そして、物質探索部15は、最適な複素屈折率分布を実現する物質が見つからなかった場合、複素屈折率が未知である既存物質の複素屈折率を第一原理計算から予測し、最適な複素屈折率分布を実現する物質を、複素屈折率を予測した既存物質から探索する。さらに、物質探索部15は、既存物質から探索できなかった場合に、新規物質の複素屈折率を第一原理計算から予測し、最適な複素屈折率分布を実現する物質を、複素屈折率を予測した新規物質から探索する。
【0114】
(第二の実施形態)
以下に図面を参照して、第二の実施形態について説明する。第二の実施形態は、最適な複素屈折率分布を実現する物質を探索する際に、複素屈折率が未知である既存物質の複素屈折率を機械学習によって得られた予測モデルに基づいて予測する点が、第一の実施形態と相違する。よって、以下の第二の実施形態の説明では、第一の実施形態との相違点を中心に説明し、第一の実施形態と同様の機能構成を有するものには、第一の実施形態の説明で用いた符号と同様の符号を付与し、その説明を省略する。
【0115】
図15は、第二の実施形態に係る情報処理装置の機能構成図である。本実施形態に係る情報処理装置1は、第一の実施形態に係る情報処理装置1に、予測部16を追加した構成である。
【0116】
予測部16は、機械学習によって予測モデルを構築し、構築された予測モデルを記憶部11に記憶させる。また、予測部16は、最適な複素屈折率分布を実現する物質を探索する際に、複素屈折率が未知である既存物質の複素屈折率を予測モデルに基づいて予測し、予測されたデータを記憶部11に記憶させる。予測部16は、CPU101が記憶装置102に格納されたプログラムを読み出して、当該プログラムに規定された処理を実行することによって実現される。
【0117】
また、物質探索部15は、
図3のステップS5の処理において、最適な複素屈折率分布を実現する物質を探索する際に、複素屈折率が未知である既存物質の複素屈折率を予測部16による予測結果から探索する。
【0118】
図16は、第二の実施形態に係る予測処理の流れの一例を示すフローチャートである。情報処理装置1は、設計処理の前に事前処理として予測処理を実行する。まず、予測部16は、予測モデルを構築する(ステップS11)。
【0119】
具体的には、予測部16は、複素屈折率が既知の物質のデータベース100から物質の複素屈折率を取り出し、この情報をもとに複素屈折率を予測する予測モデルを構築する。予測モデル作成手法として、例えば重回帰、LASSO回帰、Ridge回帰、Elastic-Net回帰、カーネル回帰、決定木回帰、ランダムフォレスト回帰、勾配ブースティング、ニューラルネットワークなどがあげられる。予測モデルを構築するために、予測部16は、既存物質を特徴づける記述子を作成する。記述子として、例えば物質に含まれる各元素の物性値の加重平均、加重分散、加重和、最大値、最小値などがあげられる。例えば、2元物質AwABwBの場合、物性値fについては、元素A、Bの物性値fA,fBを用いて次式(17)、(18)、(19)、(20)、(21)となる。
【0120】
加重平均:fave=(wAfA+wBfB)/(wA+wB)・・・(17)
加重分散:fvar=[wA(fA-fave)2+wB(fB-fave)2]/(wA+wB)・・・(18)
加重和:fsum=wAfA+wBfB・・・(19)
最大値:fmax=max(fA,fB)・・・(20)
最小値:fmin=min(fA,fB)・・・(21)
【0121】
物性値fは、周期、陽子数、原子番号、原子半径、Rahmによる原子半径、原子体積、原子質量、Inorganic Crystal Structure Databaseの原子体積、格子定数、ファンデルワールス(vdW)半径、AlvarezによるvdW半径、BatsanovによるvdW半径、BondiによるvdW半径、DREIDING FFのvdW半径、MM3 FFのvdW半径、RowlandとTaylorによるvdW半径、TruhlarによるvdW半径、UFFのvdW半径、Braggによる共有結合半径、Cerderoによる共有結合半径、Pyykkoによる共有結合半径の単結合距離、Pyykkoによる共有結合半径の二重結合距離、Pyykkoによる共有結合半径の三重結合距離、Slaterによる共有結合半径、vdW係数C6、GouldとBuckoによるvdW係数C6、295Kにおける密度、プロトン親和力、双極分極率、電子親和力、電気陰性度、Allenスケールの電気陰性度、Ghoshスケールの電気陰性度、Mullikenスケールの電気陰性度、DFTのバンドギャップ、DFTのエネルギー、DFTによるBCCの格子定数、DFTによるFCCの格子定数、DFTの磁気モーメント、DFTの体積、HHI係数、20℃の比熱、気相塩基度、第一イオン化エネルギー、融解熱、生成熱、モル比熱容量、比熱容量、蒸発熱、熱膨張係数、沸点、ブリネル硬度、圧縮率、融点、金属結合半径の単結合距離、金属結合半径の最近接距離、25℃の熱伝導率、音速、ビッカース硬度、分極率、ヤング率、ポアソン比、モル体積、全非占有電子数、全価電子数、非占有d電子数、d価電子数、非占有f電子数、f価電子数、非占有p電子数、p電子数、非占有s電子数、s価電子数などがあげられる。その他動径分布関数、ボロノイ図形、Crystal-Graph-Convolutional-Neural-Networkなどがあげられる。これら記述子をインプット、既存物質の複素屈折率をアウトプットとして予測モデルを上記の手法などにより構築する。
【0122】
次に、予測部16は、複素屈折率が未知の既存物質の分子構造を示すデータの入力を受け付ける(ステップS12)。そして、予測部16は、構築された予測モデルにこの予測モデルに複素屈折率が未知の既存物質の記述子を入力して、複素屈折率を予測する(ステップS13)。そして、記憶部11は、予測部16によって予測されたデータを記憶する。
【0123】
図17に示すように、予測部16は、
図16のステップS13において、物質構造データベース110から物質の分子構造を取り出し、予測モデルに基づいて既存物質の複素屈折率を予測する。そして、物質探索部15は、機械学習によって構築された予測モデルに基づいて予測された複素屈折率を示すデータから、探索条件を満たす複素屈折率の物質を探索する。
【0124】
さらに、予測部16は、
図16のステップS13において、新規物質の複素屈折率を機械学習から予測しても良い。
【0125】
具体的には、予測部16は、
図16のステップS13において、
図18に示すように新規物質のデザインを行ったデータを取得して、その新規物質の複素屈折率を予測モデルに基づいて予測する。そして、物質探索部15は、機械学習によって構築された予測モデルに基づいて予測された複素屈折率を示すデータから、探索条件を満たす複素屈折率の新規物質を探索する。
【0126】
さらに、物質探索部15は、
図3のステップS5の処理において、上述した各処理を順に実行するようにしても良い。具体的には、物質探索部15は、初めに、最適な複素屈折率分布を実現する物質を、複素屈折率が既知の物質から探索する。そして、物質探索部15は、最適な複素屈折率分布を実現する物質が見つからなかった場合、最適な複素屈折率分布を実現する物質を、予測部16によって複素屈折率を予測された既存物質から探索する。さらに、物質探索部15は、既存物質から探索できなかった場合に、予測部16によって複素屈折率を予測された新規物質から探索する。
【0127】
物質探索部15は、
図3のステップS5における、最適な複素屈折率分布を実現する物質を、複素屈折率が既知の物質から探索するか、複素屈折率が未知の既存物質から探索するか、新規物質から探索するかを任意の順で任意に組み合わせて実行してもよい。
【0128】
本実施形態に係る情報処理装置1によれば、複素屈折率が既知の物質だけでなく、複素屈折率が未知の既存物質または新規にデザインされた物質についても、機械学習によって構築された予測モデルに基づいて複素屈折率を予測することによって、探索の対象とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明は、窓ガラス、車のフロントガラス等の設計に用いることができる。
【符号の説明】
【0130】
1 情報処理装置1
2 サーバ
11 記憶部
12 単位構造生成部
13 反射率算出部
14 分布決定部
15 物質探索部
16 予測部
101 CPU
102 記憶装置
103 入力装置
104 表示装置
105 出力装置
201 物質データベース