(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022012985
(43)【公開日】2022-01-18
(54)【発明の名称】モールドの製造方法、及びこれを利用した成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 59/02 20060101AFI20220111BHJP
B29C 33/38 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
B29C59/02 B
B29C33/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020115198
(22)【出願日】2020-07-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 慎介
(72)【発明者】
【氏名】大西 有希
(72)【発明者】
【氏名】平井 義彦
【テーマコード(参考)】
4F202
4F209
【Fターム(参考)】
4F202AA44
4F202AC05
4F202AF01
4F202AH73
4F202AJ05
4F202AM23
4F202AR12
4F202CA19
4F202CB01
4F202CD23
4F202CD28
4F202CD30
4F209AA44
4F209AC05
4F209AF01
4F209AG05
4F209AH73
4F209AJ05
4F209AM23
4F209AR12
4F209PA02
4F209PB01
4F209PN09
4F209PN13
4F209PQ11
(57)【要約】
【課題】光インプリントによって、紫外線硬化性樹脂を精度良く成形できるモールドの製造方法を提供する。
【解決手段】本開示のモールドの製造方法は、紫外線硬化性樹脂のUV成形に用いられる、弾性体からなるモールドの製造方法であって、
前記樹脂のUV硬化を熱粘弾性体の冷却固化と模擬し、前記樹脂のUV硬化反応の進行を熱粘弾性体の仮想温度の低下と模擬し、前記樹脂のUV硬化収縮を熱粘弾性体の冷却収縮と模擬し、
前記樹脂のUV硬化による変形を、下記[1]~[3]
[1]一般化Maxwellモデルに基づくせん断挙動
[2]UV硬化反応時間を、前記樹脂の真の温度時刻歴を考慮した仮想温度へシフトする関数
[3]仮想温度依存の熱膨張係数関数
によりモデル化して有限要素解析法によりシミュレートし、
前記樹脂の変形に追従してモールドが変形することを考慮して、前記モールドの変形を相殺する補正を加えてモールドを設計するものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線硬化性樹脂のUV成形に用いられる、弾性体からなるモールドの製造方法であって、
紫外線硬化性樹脂のUV硬化を熱粘弾性体の冷却固化と模擬し、紫外線硬化性樹脂のUV硬化反応の進行を熱粘弾性体の仮想温度の低下と模擬し、紫外線硬化性樹脂のUV硬化収縮を熱粘弾性体の冷却収縮と模擬し、
紫外線硬化性樹脂の、UV硬化反応による硬化収縮と、UV硬化反応の進行に伴う発熱による、UV硬化反応速度の上昇と紫外線硬化性樹脂の熱膨張とを考慮して、
紫外線硬化性樹脂のUV硬化による変形を、下記[1]~[3]
[1]一般化Maxwellモデルに基づくせん断挙動
[2]UV硬化反応時間を、紫外線硬化性樹脂の真の温度時刻歴を考慮した仮想温度へシフトする関数
[3]仮想温度依存の熱膨張係数関数
によりモデル化して有限要素解析法によりシミュレートし、
前記紫外線硬化性樹脂の変形に追従してモールドが変形することを考慮して、前記モールドの変形を相殺する補正を加えてモールドを設計する、モールドの製造方法。
【請求項2】
[2]UV硬化反応時間を、紫外線硬化性樹脂の真の温度時刻歴を考慮した仮想温度へシフトする関数が、下記式(2)で表される関数である、請求項1に記載のモールドの製造方法。
【数1】
(式中、tはUV硬化反応時間を示し、θ
realは紫外線硬化性樹脂の真の温度を示す)
【請求項3】
[3]仮想温度依存の熱膨張係数関数が、下記式(3)で表される関数である、請求項1又は2に記載のモールドの製造方法。
【数2】
(式中、α
UVはUV硬化に伴う紫外線硬化性樹脂の熱膨張係数関数を示し、α
thermalは、発熱/熱放射に伴う紫外線硬化性樹脂の熱膨張係数関数を示す)
【請求項4】
モールドの変形を超弾性体によってモデル化する、請求項1~3の何れか1項に記載のモールドの製造方法。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載のモールドの製造方法により得られるモールド。
【請求項6】
請求項1~4の何れか1項に記載のモールドの製造方法によりモールドを製造し、得られたモールドを利用して紫外線硬化性樹脂を成形する工程を経て、前記紫外線硬化性樹脂の硬化物から成る成形体を得る、成形体の製造方法。
【請求項7】
成形体がマイクロミラーアレイである、請求項6に記載の成形体の製造方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の成形体の製造方法で得られる成形体。
【請求項9】
紫外線硬化性樹脂のUV硬化を熱粘弾性体の冷却固化と模擬し、紫外線硬化性樹脂のUV硬化反応の進行を熱粘弾性体の仮想温度の低下と模擬し、紫外線硬化性樹脂のUV硬化収縮を熱粘弾性体の冷却収縮と模擬し、
紫外線硬化性樹脂の、UV硬化反応による硬化収縮と、UV硬化反応の進行に伴う発熱による、UV硬化反応速度の上昇と紫外線硬化性樹脂の熱膨張とを考慮して、
紫外線硬化性樹脂のUV硬化による変形を、下記[1]~[3]
[1]一般化Maxwellモデルに基づくせん断挙動
[2]UV硬化反応時間を、紫外線硬化性樹脂の真の温度時刻歴を考慮した仮想温度へシフトする関数
[3]仮想温度依存の熱膨張係数関数
によりモデル化して有限要素解析法によりシミュレートするシミュレーター。
【請求項10】
紫外線硬化性樹脂の成形に用いられるモールドの製造装置であって、
紫外線硬化性樹脂のUV硬化を熱粘弾性体の冷却固化と模擬し、紫外線硬化性樹脂のUV硬化反応の進行を熱粘弾性体の仮想温度の低下と模擬し、紫外線硬化性樹脂のUV硬化収縮を熱粘弾性体の冷却収縮と模擬し、
紫外線硬化性樹脂の、UV硬化反応による硬化収縮と、UV硬化反応の進行に伴う発熱による、UV硬化反応速度の上昇と紫外線硬化性樹脂の熱膨張とを考慮して、
紫外線硬化性樹脂のUV硬化による変形を、下記[1]~[3]
[1]一般化Maxwellモデルに基づくせん断挙動
[2]UV硬化反応時間を、紫外線硬化性樹脂の真の温度時刻歴を考慮した仮想温度へシフトする関数
[3]仮想温度依存の熱膨張係数関数
によりモデル化して有限要素解析法によりシミュレートし、前記紫外線硬化性樹脂の変形に追従してモールドが変形することを考慮して、前記モールドの変形を相殺する補正を加えてモールドを設計する、モールドの製造装置。
【請求項11】
紫外線硬化性樹脂のUV硬化を熱粘弾性体の冷却固化と模擬し、紫外線硬化性樹脂のUV硬化反応の進行を熱粘弾性体の仮想温度の低下と模擬し、紫外線硬化性樹脂のUV硬化収縮を熱粘弾性体の冷却収縮と模擬し、
紫外線硬化性樹脂の、UV硬化反応による硬化収縮と、UV硬化反応の進行に伴う発熱による、UV硬化反応速度の上昇と紫外線硬化性樹脂の熱膨張とを考慮して、
紫外線硬化性樹脂のUV硬化による変形を、下記[1]~[3]
[1]一般化Maxwellモデルに基づくせん断挙動
[2]UV硬化反応時間を、紫外線硬化性樹脂の真の温度時刻歴を考慮した仮想温度へシフトする関数
[3]仮想温度依存の熱膨張係数関数
によりモデル化して有限要素解析法によりシミュレートし、
前記紫外線硬化性樹脂の変形に追従してモールドが変形することを考慮して、前記モールドの変形を相殺する補正を加えて設計、製造されたモールドを使用して前記紫外線硬化性樹脂を成形する、成形体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示に係る発明は、紫外線硬化性樹脂の成形に用いられる、弾性体からなるモールドの製造方法、及び前記方法により製造されたモールドを使用した成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インプリントは非常に単純なプロセスでナノサイズのパターンを転写することができる微細加工技術である。インプリントを利用すれば低コストで量産可能であるため、半導体デバイス、光学部材等の多方面で実用化されている。
【0003】
例えばマイクロミラーアレイは、一辺が100~1000μmの四角柱や四角錐の立体形状が格子状に多数配列した光学部材であり、前記立体形状の4側面のうち隣接する2側面は直交ミラーとして利用されるため、正確な角度と高い平面性(すなわち、高い面精度)が要求される。
【0004】
インプリントには熱可塑性組成物に転写する熱インプリントと、紫外線硬化性樹脂に転写する光インプリントがある。特にマイクロミラーアレイのような転写精度が要求される分野においては、固化若しくは硬化の際の形状の変化(膨張或いは収縮)が小さいことが求められる。
【0005】
熱可塑性組成物は形状の変化が極めて小さいため、熱可塑性組成物を使用する熱インプリントは、転写性の点では優れているが、固化に長時間を要し作業効率が悪いことや、金属製のモールドを利用するため、コストが嵩むことが問題であった。
【0006】
一方、紫外線硬化性樹脂はモールド等の樹脂製モールドを利用することができるため経済的である。また、速硬化性を有するため作業効率も良好である。しかし、硬化収縮率が大きく、高精度な三次元転写形状を所望する場合には問題があった。また、紫外線硬化性樹脂の硬化収縮率を抑制すべく、組成について種々検討がなされてきたが、それも限界であった。
【0007】
特許文献1には、PDMS等の柔らかい素材で形成されたモールドを使用して光インプリント成形を行う場合、モールドは紫外線硬化性樹脂と密着しており、紫外線硬化性樹脂の硬化収縮に追従してモールドが変形し、モールドの変形が紫外線硬化性樹脂に転写されるため、所期形状の成形体が得られないことが記載されている。そして、紫外線硬化性樹脂の硬化に伴う変形を、紫外線硬化性樹脂の硬化収縮[1]とそれに伴うモールドの変形[2]を考慮した有限要素解析法によりシミュレートし、これを元に必要な補正をモールドに加えることで、所期の形状の成形体が得られるようになることが記載されている。また、前記紫外線硬化性樹脂の硬化収縮[1]は、熱粘弾性体の冷却に伴う収縮に置き換え、熱粘弾性体の熱膨張係数と、冷却に伴う粘性緩和時間の増加によってモデル化できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、前記シミュレート方法では、精度が未だ不十分であることが分かった。
【0010】
従って、本開示に係る発明の目的は、光インプリントによって、紫外線硬化性樹脂を精度良く成形することができるモールドの製造方法を提供することにある。
本開示に係る発明の他の目的は、形状精度に優れた(特に、面精度に優れた)成形体を確実に製造できるモールドを提供することにある。
本開示に係る発明の他の目的は、前記モールドを使用して、紫外線硬化性樹脂の硬化物からなる、高精度の(特に、面精度に優れた)成形体を製造する方法を提供することにある。
本開示に係る発明の他の目的は、紫外線硬化性樹脂の硬化物からなる、高精度の(特に、面精度に優れた)成形体を提供することにある。
本開示に係る発明の他の目的は、紫外線硬化性樹脂の硬化収縮と、それに伴うモールドの変形を正確に予測できる、シミュレーターを提供することにある。
本開示に係る発明の他の目的は、形状精度に優れた(特に、面精度に優れた)成形体を確実に製造するためのモールドの製造装置を提供することにある。
本開示に係る発明の他の目的は、紫外線硬化性樹脂の硬化物からなる、高精度の(特に、面精度に優れた)成形体を製造することができる、成形体の製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、下記1~4の知見を得た。
1.モールドと紫外線硬化性樹脂は密着しており、紫外線硬化性樹脂の硬化収縮に追従してモールドが変形し、モールドの変形が紫外線硬化性樹脂に転写されるので、硬化収縮を相殺するようモールドの形状を補正する必要があること
2.紫外線照射により紫外線硬化性樹脂のUV硬化が進行すると、UV硬化の進行に伴い紫外線硬化性樹脂の温度が急激に上昇し、その後、元の温度まで戻ること
3.温度の急激な上昇により、紫外線硬化性樹脂のUV硬化速度が指数関数的に加速すること
4.温度の急激な上昇とその後の低下により、紫外線硬化性樹脂が熱膨張と熱収縮すること
そして、上記1~4の知見を元に、UV硬化による紫外線硬化性樹脂の変形をシミュレーションし、前記変形を相殺するようモールドを補正すれば、得られる成形体の精度を高めることができることを見いだした。本開示に係る発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0012】
すなわち、本開示は、紫外線硬化性樹脂のUV成形に用いられる、弾性体からなるモールドの製造方法であって、
紫外線硬化性樹脂のUV硬化を熱粘弾性体の冷却固化と模擬し、紫外線硬化性樹脂のUV硬化反応の進行を熱粘弾性体の仮想温度の低下と模擬し、紫外線硬化性樹脂のUV硬化収縮を熱粘弾性体の冷却収縮と模擬し、
紫外線硬化性樹脂の、UV硬化反応による硬化収縮と、UV硬化反応の進行に伴う発熱による、UV硬化反応速度の上昇と紫外線硬化性樹脂の熱膨張とを考慮して、
紫外線硬化性樹脂のUV硬化による変形を、下記[1]~[3]
[1]一般化Maxwellモデルに基づくせん断挙動
[2]UV硬化反応時間を、紫外線硬化性樹脂の真の温度時刻歴を考慮した仮想温度へシフトする関数
[3]仮想温度依存の熱膨張係数関数
によりモデル化して有限要素解析法によりシミュレートし、
前記紫外線硬化性樹脂の変形に追従してモールドが変形することを考慮して、前記モールドの変形を相殺する補正を加えてモールドを設計する、モールドの製造方法を提供する。
【0013】
本開示は、また、[2]UV硬化反応時間を、紫外線硬化性樹脂の真の温度時刻歴を考慮した仮想温度へシフトする関数が、下記式(2)で表される関数である前記モールドの製造方法を提供する。
【数1】
(式中、tはUV硬化反応時間を示し、θ
realは紫外線硬化性樹脂の真の温度を示す)
【0014】
本開示は、また、[3]仮想温度依存の熱膨張係数関数が、下記式(3)で表される関数である前記モールドの製造方法を提供する。
【数2】
(式中、α
UVはUV硬化に伴う紫外線硬化性樹脂の熱膨張係数関数を示し、α
thermalは、発熱/熱放射に伴う紫外線硬化性樹脂の熱膨張係数関数を示す)
【0015】
本開示は、また、モールドの変形を超弾性体によってモデル化する前記モールドの製造方法を提供する。
【0016】
本開示は、また、前記モールドの製造方法により得られるモールドを提供する。
【0017】
本開示は、また、前記モールドの製造方法によりモールドを製造し、得られたモールドを利用して紫外線硬化性樹脂を成形する工程を経て、前記紫外線硬化性樹脂の硬化物から成る成形体を得る、成形体の製造方法を提供する。
【0018】
本開示は、また、成形体がマイクロミラーアレイである前記成形体の製造方法を提供する。
【0019】
本開示は、また、前記成形体の製造方法で得られる成形体を提供する。
【0020】
本開示は、また、紫外線硬化性樹脂のUV硬化を熱粘弾性体の冷却固化と模擬し、紫外線硬化性樹脂のUV硬化反応の進行を熱粘弾性体の仮想温度の低下と模擬し、紫外線硬化性樹脂のUV硬化収縮を熱粘弾性体の冷却収縮と模擬し、
紫外線硬化性樹脂の、UV硬化反応による硬化収縮と、UV硬化反応の進行に伴う発熱による、UV硬化反応速度の上昇と紫外線硬化性樹脂の熱膨張とを考慮して、
紫外線硬化性樹脂のUV硬化による変形を、下記[1]~[3]
[1]一般化Maxwellモデルに基づくせん断挙動
[2]UV硬化反応時間を、紫外線硬化性樹脂の真の温度時刻歴を考慮した仮想温度へシフトする関数
[3]仮想温度依存の熱膨張係数関数
によりモデル化して有限要素解析法によりシミュレートするシミュレーターを提供する。
【0021】
本開示は、また、紫外線硬化性樹脂の成形に用いられるモールドの製造装置であって、
紫外線硬化性樹脂のUV硬化を熱粘弾性体の冷却固化と模擬し、紫外線硬化性樹脂のUV硬化反応の進行を熱粘弾性体の仮想温度の低下と模擬し、紫外線硬化性樹脂のUV硬化収縮を熱粘弾性体の冷却収縮と模擬し、
紫外線硬化性樹脂の、UV硬化反応による硬化収縮と、UV硬化反応の進行に伴う発熱による、UV硬化反応速度の上昇と紫外線硬化性樹脂の熱膨張とを考慮して、
紫外線硬化性樹脂のUV硬化による変形を、下記[1]~[3]
[1]一般化Maxwellモデルに基づくせん断挙動
[2]UV硬化反応時間を、紫外線硬化性樹脂の真の温度時刻歴を考慮した仮想温度へシフトする関数
[3]仮想温度依存の熱膨張係数関数
によりモデル化して有限要素解析法によりシミュレートし、前記紫外線硬化性樹脂の変形に追従してモールドが変形することを考慮して、前記モールドの変形を相殺する補正を加えてモールドを設計する、モールドの製造装置を提供する。
【0022】
本開示は、また、紫外線硬化性樹脂のUV硬化を熱粘弾性体の冷却固化と模擬し、紫外線硬化性樹脂のUV硬化反応の進行を熱粘弾性体の仮想温度の低下と模擬し、紫外線硬化性樹脂のUV硬化収縮を熱粘弾性体の冷却収縮と模擬し、
紫外線硬化性樹脂の、UV硬化反応による硬化収縮と、UV硬化反応の進行に伴う発熱による、UV硬化反応速度の上昇と紫外線硬化性樹脂の熱膨張とを考慮して、
紫外線硬化性樹脂のUV硬化による変形を、下記[1]~[3]
[1]一般化Maxwellモデルに基づくせん断挙動
[2]UV硬化反応時間を、紫外線硬化性樹脂の真の温度時刻歴を考慮した仮想温度へシフトする関数
[3]仮想温度依存の熱膨張係数関数
によりモデル化して有限要素解析法によりシミュレートし、
前記紫外線硬化性樹脂の変形に追従してモールドが変形することを考慮して、前記モールドの変形を相殺する補正を加えて設計、製造されたモールドを使用して前記紫外線硬化性樹脂を成形する、成形体の製造装置を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本開示のモールドの製造方法によれば、従来は試作を繰り返し行い膨大な時間やコストをかけて行っていたモールドの設計を、紫外線硬化性樹脂の変形をシミュレーションにより予測し、必要な補正を設計に反映させることで、より早く、確実に行うことができる。詳細には、紫外線硬化性樹脂の硬化挙動をモデル化することにより、紫外線硬化性樹脂の硬化挙動にともない発生するモールドの変形、例えば側面の湾曲を定量的に再現することができ、湾曲を予め考慮してモールド形状を最適化することができる。
また、本開示のモールドの製造方法で得られるモールドは、予測される変形を相殺するよう補正された形状を有するため、当該モールドを使用すれば、形状精度に優れた、特に面精度に優れた、成形体が効率よく、且つ安価に得られる。
従って、本開示のモールドの製造方法で得られるモールドは、マイクロミラーアレイ等の光学部材、半導体のリソグラフィー、ポリマーMEMS、フラットスクリーン、ホログラム、導波路、精密機械部品などの高い面精度が要求される微細構造物を光インプリントで製造する用途に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】一般化Maxwellモデルによるせん断方向の粘弾性を示した模式図である。
【
図2】解析に用いた六面体要素の紫外線硬化性樹脂部のメッシュ分割図(a)とモールド部(b)のメッシュ分割図である。
【
図3】モールド形状の最適化における、形状変更の方法を示す図である。
【
図4】マイクロミラーアレイ成形解析の概略図である。
【
図5】回転振動式レオメータによる紫外線硬化性樹脂の物性測定実験の概略を示す図である。
【
図6】12個のサンプル仮想温度を用いたG’(ω)のマスターカーブを示す図(a)と、G”(ω)のマスターカーブを示す図(b)である。
【
図7】仮想温度-時間シフト関数A(θ
virt)とテーブルデータで与えられる近似曲線を示す図である。
【
図8】Prony級数によって近似されるG’(ω)の、基準仮想温度(θ
virt=-1800)におけるマスターカーブを示す図(a)と、G”(ω)の基準仮想温度(θ
virt=-1800)におけるマスターカーブを示す図(b)である。
【
図9】真の熱膨張係数時刻歴α
thermal(t)を示す図である。
【
図10】真の熱膨張係数の仮想温度変化α
thermal(θ
virt)を示す図である。
【
図11】真の熱膨張係数の仮想温度変化α
thermal(θ
virt)、UV収縮を模擬する熱膨張係数の仮想温度変化α
UV(θ
virt)、及びトータルの熱膨張係数の仮想温度変化α
total(θ
virt)を示す図である。
【
図12】実施例1の数値解析によって再現された成形体の上面の3Dイメージ図(a)、比較例1の数値解析によって再現された成形体の上面の3Dイメージ図(b)、および実際のインプリントで得られた成形体の上面の顕微鏡写真(c)である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[モールドの製造方法]
本開示のモールドの製造方法は、紫外線硬化性樹脂のUV成形に用いられる、弾性体からなるモールドの製造方法である。
本開示のモールドの製造方法では、紫外線硬化性樹脂のUV硬化を熱粘弾性体の冷却固化と模擬し、紫外線硬化性樹脂のUV硬化反応の進行を熱粘弾性体の仮想温度の低下と模擬し、紫外線硬化性樹脂のUV硬化収縮を熱粘弾性体の冷却収縮と模擬し、
紫外線硬化性樹脂の、UV硬化反応による硬化収縮と、UV硬化反応の進行に伴う発熱による、UV硬化反応速度の上昇と紫外線硬化性樹脂の熱膨張とを考慮して、
紫外線硬化性樹脂のUV硬化による変形を、下記[1]~[3]
[1]一般化Maxwellモデルに基づくせん断挙動
[2]UV硬化反応時間を、紫外線硬化性樹脂の真の温度時刻歴を考慮した仮想温度へシフトする関数
[3]仮想温度依存の熱膨張係数関数
によりモデル化して有限要素解析法によりシミュレートし、
前記紫外線硬化性樹脂の変形に追従してモールドが変形することを考慮して、前記モールドの変形を相殺する補正を加えてモールドを設計する工程を含む。
【0026】
本解析においては、立体パターンを1つだけ含む直方体領域を取り出して検討し、その側面に周期境界条件を設定する。
【0027】
前記弾性体からなるモールドは、弾性を有し、外力によって変形する性質を有するモールドである。モールドの材質としては、弾性を有するものであれば特に制限されることがなく、例えば、シリコーン(例えば、ポリジメチルシロキサン等)、アクリルポリマー、シクロオレフィンポリマー、フッ素系ポリマー等が挙げられる。
【0028】
前記モールドの変形は、例えば、超弾性体(例えば、ネオ・フック弾性体)によってモデル化することができる。
【0029】
本解析においては、紫外線硬化性樹脂のUV照射により進行する硬化反応は、熱粘弾性体の冷却(例えば、100℃から0℃まで冷却)による固化反応に置き換えてモデル化する。
そして、紫外線硬化性樹脂の硬化反応の進行は、UV硬化反応時間の経過を、熱粘弾性体の温度低下に置き換える。以後、UV硬化反応の経過時間を「現実時間t」と称し、熱粘弾性体の温度を「仮想温度θvirt」と称する場合がある。
また、UV硬化反応の経過時間に依存する紫外線硬化性樹脂の収縮率は、温度に依存する熱粘弾性体の熱膨張係数に置き換える。
そして、UV硬化反応の経過時間に依存する紫外線硬化性樹脂の増粘は、温度に依存する熱粘弾性体の粘度緩和時間の増加に置き換える。
【0030】
前記紫外線硬化性樹脂は、[1]一般化Maxwellモデルに基づくせん断挙動を有するものとしてモデル化される(
図1参照)。
【0031】
そして、前記紫外線硬化性樹脂の即時せん断弾性率G
0は下記式(1)で表される。
【数3】
【0032】
前記G∞はUV照射前におけるせん断方向の変形に対する抵抗を示す。前記G0は完全硬化した状態におけるせん断方向の変形に対する抵抗を示す。一般に、各GiをG0で正規化した無次元表現gi(=Gi/G0)を材料定数として用い、Prony級数係数と呼ばれる(gi,τi)のリストを材料の定義に用いる。τiは、各Giに対する緩和時間を示す。
【0033】
前記せん断挙動モデルの調和応答は、下記式(1-1)で表される、周波数依存の複素せん断弾性率G
*(ω)として記載することができる。
【数4】
尚、G’は貯蔵せん断弾性率、G”は損失せん断弾性率、ωは角周波数、jは虚数単位である。
【0034】
体積弾性率Kは粘性を持たない定数として次式の通り取り扱う。ただし、K0は即時体積弾性率を、K∞は長期体積弾性率を表す。
K=K0=K∞
【0035】
上記式(1-1)で表される複素せん断弾性率は、仮想温度-時間シフト関数A(θvirt)によって、仮想温度依存に拡張される。
【0036】
仮想温度-時間シフト関数A(θvirt)は、UV硬化反応の進行に伴う粘度上昇を考慮して、仮想温度θvirtにおける緩和速度を、基準緩和温度θref
virtにおける緩和速度から換算して求める関数である。A(θvirt)は、正の単調減少関数であり、A(θref
virt)=1を満たす。θvirt=θref
virtにおいて、粘弾性緩和時定数の各要素がτiで与えられる場合、仮想温度が上昇するとAが小さくなり、τiがAτi(<τi)に変化する。一方で、仮想温度が低下するとAτiは増大するので、紫外線硬化性樹脂の固化を表現することができる。
【0037】
仮想温度-時間シフト関数A(θvirt)は様々な周波数における時間領域の複素せん断弾性率G*(t;f)によって同定される。本開示に係る発明では、時間-温度換算則に基づくA(θvirt)を表現するためにデーブルデータを用いる。実際にA(θvirt)を実装するためには、ユーザブサブルーチン関数(ABAQUS/StandardのUTRS)を使用する。仮想温度-時間シフト関数A(θvirt)はテーブルデータで与えられる。
【0038】
G*(t;f)は仮想温度依存の複素せん断弾性率G*(-θvirt;f)と見なすことができ、それを様々な仮想温度における周波数領域の関数G*(ω;θvirt)に変換する。ここで、ω(=2πf)は角周波数である。具体的には、いくつかのサンプル仮想温度θj
virtを設定し、G*(ωi;θvirt)はリスト形式(ωi,G*(-θj
virt;ωi))のテーブルデータとして生成される。ここで、ωi(=2πfi)はレオメータ実験におけるロッドの振動角周波数である。そして、G*(ωA(θvirt);θvirt)がマスターカーブと呼ばれる滑らかな関数になるようにA(θvirt)が決定される。A(θvirt)は仮想温度-時間に関するシフトのため、垂直(剛性)方向ではなく水平(時間)方向でのみシフトが施される。
【0039】
基準仮想温度θref
virtは任意の値であり、例えばθref
virt=-1800に設定することができる。
【0040】
また、より詳細なシミュレートを必要とする場合は、緩和時定数τiおよびそれに対応する重み係数giを持つProny級数を用いて、G’(ω)およびG”(ω)のフィッティング作業を行うことができる。
【0041】
前記[2]UV硬化反応時間を、紫外線硬化性樹脂の真の温度時刻歴を考慮した仮想温度へシフトする関数は、真の温度変化に伴うUV硬化反応速度の増減を考慮するため、仮想温度θ
virtを、UV硬化反応時間tだけでなく真温度θ
realの関数として定義するものであり、例えば下記式(2)で表される。
【数5】
(式中、tはUV硬化反応時間を示し、θ
realは紫外線硬化性樹脂の真の温度を示す)
【0042】
上記式(2)によれば、サーモグラフィー等で測定した、紫外線硬化性樹脂の真の温度時刻歴θreal(t)と、反応速度理論式(例えば、Arrheniusの式)を用いて、f(t;θreal)を同定することで、真の温度の変化に応じてUV反応が加速/減速するよう数値モデリングを拡張することができる。
【0043】
例えば、UV硬化に伴う発熱により、UV硬化反応速度が、25℃におけるUV硬化反応速度のr(θ
real)倍になると規定した場合、紫外線硬化性樹脂の仮想温度時刻歴(θ
virt(t))は、下記式(2-1)で表すことができる。
【数6】
(式中、tはUV硬化反応時間を示し、θ
realは紫外線硬化性樹脂の真の温度を示す)
【0044】
前記[3]仮想温度依存の熱膨張係数関数は、UV硬化に伴う収縮に、真の温度の変化に応じた熱膨張/熱収縮を加味する式であり、例えば、下記式(3)で表される。
【数7】
(式中、α
UVはUV硬化に伴う硬化収縮を仮想温度依存の熱膨張係数に置き換えた関数を示し、α
thermalは真の発熱/冷却に伴う真の熱膨張を仮想温度依存の熱膨張係数に置き換えた関数を示す)
【0045】
上記式(3)で表される仮想温度依存の熱膨張係数関数は、下記ステップを経て求められる。
ステップ1:あるUV照射条件の下で紫外線硬化性樹脂の真の温度時刻歴(t,θreal)を、サーモグラフィー等を用いて測定する。
【0046】
ステップ2:熱機械分析(TMA)を用いて完全硬化した紫外線硬化性樹脂の真の熱膨張率αTMAを測定する。尚、硬化途中の真の熱膨張率は完全硬化後と同一であると近似し、スカラー値として同定する。
【0047】
ステップ3:上記を用いて真の熱膨張係数の時刻歴αthermal(t)を定める。真の熱膨張係数の時刻歴αthermal(t)は、室温をθroomとすると、次式で与えられる。
αthermal(t)=αTMA(θreal(t)-θroom)
【0048】
ステップ4:先に定めた仮想温度時刻歴(下記式(2-1)で表される)を用いて、α
thermal(t)をα
thermal(θ
virt)に変換する。
【数8】
【0049】
ステップ5:UV収縮を模擬する従来のαUV(θvirt)とαthermal(θvirt)を加算して、トータルの熱膨張係数の仮想温度変化αtotal(θvirt)を得る
【0050】
ここで、紫外線硬化性樹脂の硬化挙動(G’、G”、相対ギャップ変化β、収縮特性の時刻歴)は、実施例に記載の方法により求めることができる。
【0051】
有限要素解析は、例えばABAQUS/Standard2017の六面体ハイブリッド要素(C3D8H)を用いて実施することができる。
【0052】
前記六面体要素の紫外線硬化性樹脂部のメッシュ分割図(a)とモールド部(b)のメッシュ分割図を
図2(a)(b)に示す。
図2(a)(b)は、+X端面と-Y端面が完全に同一のメッシュパターンで分割されている。
【0053】
前記解析により得られた結果を元に、例えば、以下の手段でモールド形状の最適化(例えば、水平面上の一方向をx軸、前記水平面上においてx軸に垂直な方向をy軸、x軸とy軸に垂直な方向をz軸とし、四角錐台形状の成形体を水平面上に設置し、x軸とz軸を含む面によって切断した場合、左側辺がz軸と平行な直線となるようにモールド形状の最適化)を行うことができる(
図3)。
1.解析結果から、離型後の成形体左側辺の各節点iのx方向座標x
(i)を取得する。
2.湾曲の基準点からy軸に平行な補助線を引く。各節点iの補助線に対するx方向の符号付き距離d
(i)(=x
(i)-x
(0))を算出する。
3.次式が成立するとき、最適化ループを終了する。但し、εは最大許容湾曲深さを表す。
d
(i)<ε∀i.
4.モールド形状の修正量Δx
(i)を下記式から算出する。
Δx
(i)=-αd
(i) (0<α<1)
5.副解析(モールドの形状変更のための静解析)を行う。節点iにx方向の強制変位としてΔx
(i)を与える。この際、y方向には変位を与えない。
6.副解析の結果から、全節点の座標を取得し、それを主解析の初期座標として代入更新する。
【0054】
紫外線硬化性樹脂の硬化収縮は相転移を含む複雑な現象であり解析が困難であるが、本開示のモールドの製造方法によれば、紫外線硬化性樹脂の硬化挙動を熱粘弾性体の固化挙動に置き換えてモデル化するため、紫外線硬化性樹脂の変形を有限要素解析法によりシミュレートすることができ、これを元にモールド製造用金型を設計し、前記設計に基づいて得られた金型に、液状のモールド形成材料(例えば、ポリジメチルシロキサン等のシリコーン樹脂など)を充填し、これを硬化させれば、従来に比べて極めて短時間で、所望の形状の成形体を確実に形成できるモールドを製造することができる。
【0055】
[シミュレーター]
本開示のシミュレーターは、紫外線硬化性樹脂のUV硬化を熱粘弾性体の冷却固化と模擬し、紫外線硬化性樹脂のUV硬化反応の進行を熱粘弾性体の仮想温度の低下と模擬し、紫外線硬化性樹脂のUV硬化収縮を熱粘弾性体の冷却収縮と模擬し、
紫外線硬化性樹脂の、UV硬化反応による硬化収縮と、UV硬化反応の進行に伴う発熱による、UV硬化反応速度の上昇と紫外線硬化性樹脂の熱膨張とを考慮して、
紫外線硬化性樹脂のUV硬化による変形を、下記[1]~[3]
[1]一般化Maxwellモデルに基づくせん断挙動
[2]UV硬化反応時間を、紫外線硬化性樹脂の真の温度時刻歴を考慮した仮想温度へシフトする関数
[3]仮想温度依存の熱膨張係数関数
によりモデル化して有限要素解析法によりシミュレートする装置である。
【0056】
上記[1]~[3]によりモデル化する方法は、上記モールドの製造方法におけるモデル化と同じである。
【0057】
本開示の装置は上記機能を有するものであれば、その構成は特に制限されないが、例えば、ハードウェハとしてコンピュータ一式(例えば、CPU、メモリ、及びハードディスク等)、ソフトウェアとしてオペレーティングシステム、及び有限要素解析ソフト(ソルバー、プリプロセッサー、ポストプロセッサー)を備えることが好ましい。
【0058】
本開示のシミュレーターを利用すれば、相転移を含む複雑な現象であるところの紫外線硬化性樹脂の硬化収縮と、それに伴うモールドの変形を正確に予測することができる。本開示のシミュレーターを利用して得られた変形の正確な予測は、これを元にモールドを製造すれば、所望の形状の成形体を確実に製造することができるため大変有用である。
【0059】
[モールド]
本開示のモールドは上述のモールドの製造方法により得られる。本開示のモールドは、予め、紫外線硬化性樹脂の硬化収縮による変形がシミュレーションにより予測され、これが設計に反映されている。そのため、本開示のモールドを使用すれば、紫外線硬化性樹脂の硬化物から成る成形体であって、形状精度に優れた(特に、面精度に優れた)成形体を確実に製造することができる。
【0060】
[モールドの製造装置]
本開示のモールドの製造装置は、紫外線硬化性樹脂の成形に用いられるモールドの製造装置であって、紫外線硬化性樹脂のUV硬化を熱粘弾性体の冷却固化と模擬し、紫外線硬化性樹脂のUV硬化反応の進行を熱粘弾性体の仮想温度の低下と模擬し、紫外線硬化性樹脂のUV硬化収縮を熱粘弾性体の冷却収縮と模擬し、
紫外線硬化性樹脂の、UV硬化反応による硬化収縮と、UV硬化反応の進行に伴う発熱による、UV硬化反応速度の上昇と紫外線硬化性樹脂の熱膨張とを考慮して、
紫外線硬化性樹脂のUV硬化による変形を、下記[1]~[3]
[1]一般化Maxwellモデルに基づくせん断挙動
[2]UV硬化反応時間を、紫外線硬化性樹脂の真の温度時刻歴を考慮した仮想温度へシフトする関数
[3]仮想温度依存の熱膨張係数関数
によりモデル化して有限要素解析法によりシミュレートし、前記紫外線硬化性樹脂の変形に追従してモールドが変形することを考慮して、前記モールドの変形を相殺する補正を加えてモールドを設計する機能を有するものである。
【0061】
上記[1]~[3]によりモデル化する方法は、上記モールドの製造方法におけるモデル化と同じである。
【0062】
本開示のモールドの製造装置は、紫外線硬化性樹脂の硬化に伴う変形をシミュレートし、これを元にモールドを設計し、製造する(例えば、これを元に必要な補正をしてモールドの金型の設計を行い、得られた金型を利用してモールドを製造する)機能を有するものであれば、その構成は特に制限されないが、例えば、ハードウェハとしてコンピュータ一式(例えば、CPU、メモリ、及びハードディスク等)、ソフトウェアとしてオペレーティングシステム、及び有限要素解析ソフト(ソルバー、プリプロセッサー、ポストプロセッサー)を備えることが好ましい。
【0063】
本開示のモールドの製造装置を利用すれば、相転移を含む複雑な現象であるところの紫外線硬化性樹脂の硬化収縮と、それに伴うモールドの変形を正確に予測し、これを元にモールドを製造するため、変形の補償がなされたモールドが製造できる。このようにして得られたモールドは、これを使用すれば、所望の形状の成形体を確実に製造することができるため大変有用である。
【0064】
[成形体の製造方法]
また、前記モールドの製造方法により得られたモールドを使用して、紫外線硬化性樹脂を成形すれば、所望の形状の成形体を確実に得ることができる。
【0065】
成形体としては、例えば、マイクロミラーアレイが挙げられる。マイクロミラーアレイは、高さが10~1000μmの四角柱、四角錐台、四角錐等の立体パターンが格子状に多数配列(例えば、10~1000μmの間隔を開けて格子状に配列)した光学部材である。
【0066】
マイクロミラーアレイを製造する場合のモールドとしては、四角柱や四角錐の反転形状を有する凹部が格子状に多数配列した構成を有することが好ましい。
【0067】
紫外線硬化性樹脂を成形する方法としては、例えば、下記(1)、(2)の方法等が挙げられる。
(1)モールドに紫外線硬化性樹脂を塗布し、その上から基板を押し付け、紫外線硬化性樹脂を硬化させた後、モールドを剥離する方法
(2)基板上に塗布された紫外線硬化性樹脂にモールドを押し付けて成形し、紫外線硬化性樹脂を硬化させた後、モールドを離型する方法
【0068】
前記基板としては、400nmの波長の光線透過率が90%以上である基板を使用することが好ましく、石英やガラスからなる基板を好適に使用することができる。尚、前記波長の光線透過率は、基板(厚み:1mm)を試験片として使用し、当該試験片に照射した前記波長の光線透過率を、分光光度計を用いて測定することで求められる。
【0069】
紫外線硬化性樹脂の塗布方法としては、特に制限が無く、例えば、ディスペンサーやシリンジ等を使用する方法等が挙げられる。
【0070】
紫外線硬化性樹脂の硬化は、紫外線を照射することによって行うことができる。紫外線照射を行う時の光源としては、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、キセノン灯、メタルハライド灯等が用いられる。照射時間は、光源の種類、光源と塗布面との距離、その他の条件により異なるが、長くとも数十秒である。照度は、5~200mW程度である。紫外線照射後は、必要に応じて加熱(ポストキュア)を行って硬化の促進を図ってもよい。
【0071】
(紫外線硬化性樹脂)
本開示の紫外線硬化性樹脂には、カチオン硬化性組成物及びラジカル硬化性組成物が含まれる。本開示に係る発明においては、なかでも、酸素による硬化阻害を受けない点においてカチオン硬化性組成物が好ましい。
【0072】
カチオン硬化性組成物は、カチオン硬化性化合物を含む組成物であり、硬化性に優れる。とりわけ、カチオン硬化性化合物としてエポキシ樹脂、オキセタン化合物、又はビニルエーテル化合物を含む組成物が、硬化性に優れ、光学特性(特に、透明性)、高硬度、及び耐熱性を兼ね備えた硬化物が得られる点で好ましい。
【0073】
前記紫外線硬化性樹脂は、上記硬化性化合物と共に光重合開始剤を1種又は2種以上含有することが好ましい。光重合開始剤の含有量は、紫外線硬化性樹脂に含まれる硬化性化合物(特に、カチオン硬化性化合物)100重量部に対して、例えば0.1~5.0重量部となる範囲である。
【0074】
本開示の紫外線硬化性樹脂は、上記硬化性化合物と光重合開始剤と、必要に応じて他の成分(例えば、溶剤、酸化防止剤、表面調整剤、光増感剤、消泡剤、レベリング剤、カップリング剤、界面活性剤、難燃剤、紫外線吸収剤、着色剤等)を混合することによって製造することができる。
【0075】
[成形体の製造装置]
本開示の成形体の製造装置は、紫外線硬化性樹脂のUV硬化を熱粘弾性体の冷却固化と模擬し、紫外線硬化性樹脂のUV硬化反応の進行を熱粘弾性体の仮想温度の低下と模擬し、紫外線硬化性樹脂のUV硬化収縮を熱粘弾性体の冷却収縮と模擬し、
紫外線硬化性樹脂の、UV硬化反応による硬化収縮と、UV硬化反応の進行に伴う発熱による、UV硬化反応速度の上昇と紫外線硬化性樹脂の熱膨張とを考慮して、
紫外線硬化性樹脂のUV硬化による変形を、下記[1]~[3]
[1]一般化Maxwellモデルに基づくせん断挙動
[2]UV硬化反応時間を、紫外線硬化性樹脂の真の温度時刻歴を考慮した仮想温度へシフトする関数
[3]仮想温度依存の熱膨張係数関数
によりモデル化して有限要素解析法によりシミュレートし、
前記紫外線硬化性樹脂の変形に追従してモールドが変形することを考慮して、前記モールドの変形を相殺する補正を加えて設計、製造されたモールドを使用して前記紫外線硬化性樹脂を成形する機能を有するものである。
【0076】
上記[1]~[3]によりモデル化する方法は、上記モールドの製造方法におけるモデル化と同じである。
【0077】
本開示の成形体の製造装置は、紫外線硬化性樹脂の硬化に伴う変形をシミュレートし、これを元に設計、製造されたモールドを使用して前記紫外線硬化性樹脂を成形する機能を有するものであれば、その構成は特に制限されないが、例えば、ハードウェハとしてコンピュータ一式(例えば、CPU、メモリ、及びハードディスク等)、ソフトウェアとしてオペレーティングシステム、及び有限要素解析ソフト(ソルバー、プリプロセッサー、ポストプロセッサー)を備えることが好ましい。
【0078】
本開示の成形体の製造装置を利用すれば、相転移を含む複雑な現象であるところの紫外線硬化性樹脂の硬化収縮と、それに伴うモールドの変形を正確に予測し、これを元に製造されたモールドを使用して紫外線硬化性樹脂を成形するため、所望の形状の成形体を確実に製造することができる。
【0079】
以上、本開示に係る発明の各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であって、本開示に係る発明の主旨から逸脱しない範囲において、適宜、構成の付加、省略、置換、及び変更が可能である。また、本開示に係る発明は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。
【実施例0080】
以下、実施例により本開示に係る発明をより具体的に説明するが、本開示に係る発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0081】
実施例1
空中ディスプレイ用のマイクロミラーアレイであるパリティミラーの成形解析を実施した。
【0082】
本解析の概要を
図4(Y軸に垂直な平面に沿って切断した二次元断面図)に示す。解析領域の前後左右端面に周期境界条件を適用した。
【0083】
弾性体からなるモールドモールドとして、下記表1に記載の特性を有する、超ハードタイプのPDMSからなるモールドを使用した。
【0084】
【0085】
下記表2に記載の特性を有する紫外線硬化性樹脂(商品名「CELVENUS OUH106」、(株)ダイセル製)について、G’、G”、及び相対ギャップ変化βを、回転振動式レオメータ(アントンパール社製、MCR-301)を用いて測定した。
【0086】
【0087】
すなわち、ガラス板とシリンダーロッドの間にある数百ミクロン程度のギャップに紫外線硬化性樹脂を挟み込み、ガラス板側から紫外線を照射すると同時にロッドを微小回転振動させることにより粘弾性特性の時刻歴を測定した(
図5参照)。
また、ロッドの垂直位置を紫外線硬化性樹脂の収縮によるギャップの変化に追従させることにより、紫外線硬化性樹脂の収縮特性の時刻歴を測定した。下記UV照射条件下、回転振動の振動数を様々に変化させて、各回転振動の振動数に応じた特性値を測定することで物性値を同定した。
<UV照射条件>
UV光源光源:波長315~400nmのUV光を通す光学バンドパスフィルタ付き水銀ランプ
UV露光量:50mW/cm
2×30s
UV照射温度:室温(25℃)
離型時間:530s
【0088】
12個のサンプル仮想温度を用いた、基準仮想温度θ
ref
virtにおけるG’(ω)、G”(ω)のマスターカーブを
図6に示す。また、仮想温度-時間シフト関数A(θ
virt)をプロットしたものを
図7に示す。
【0089】
また、Prony級数の係数をG’(ω)、G”(ω)のマスターカーブを用いて同定した。同定されたProny級数の係数を下記表1に示す。尚、緩和時定数τiとして10-3,10-2,・・・・1016sの20項を用いた。
【0090】
【0091】
上記表3を用いたProny級数によって近似されるG’(ω)およびG”(ω)の基準仮想温度(θ
virt=-1800)におけるマスターカーブを
図8に示す。
【0092】
下記ステップを経て仮想温度依存の熱膨張係数関数を求めた(
図9~11参照)。
ステップ1:上記UV照射条件の下で紫外線硬化性樹脂の真の温度時刻歴(t,θ
real)を、サーモグラフィー等を用いて測定した。
【0093】
ステップ2:熱機械分析(TMA)を用いて完全硬化した紫外線硬化性樹脂の真の熱膨張率αTMAを測定した。硬化途中の真の熱膨張率は完全硬化後と同一であると近似し、スカラー値として同定した。
【0094】
ステップ3:上記αTMAを用いて、真の熱膨張係数の時刻歴αthermal(t)を下記式から定めた。尚、θroomは室温を示す。
αthermal(t)=αTMA(θreal(t)-θroom)
【0095】
ステップ4:下記式(2-1)で表される仮想温度時刻歴を用いて、α
thermal(t)をα
thermal(θ
virt)に変換した。
【数9】
【0096】
ステップ5:UV収縮を模擬する従来のα
UV(θ
virt)とα
thermal(θ
virt)を加算して、トータルの熱膨張係数の仮想温度変化α
total(θ
virt)を得た。
【数10】
【0097】
下記手順に従って、ABAQUS/Standard2017を、要素タイプとしてC3D8Hを用いた有限要素解析を行った。
【0098】
<初期状態>
紫外線硬化性樹脂が一定の厚さで塗布されている剛体基板上にPDMSモールドを設置した。
モールドのピラーパターン内部に紫外線硬化性樹脂を完全に充填した。
解析領域の前後左右の端面に周期境界条件を適用した。
紫外線硬化性樹脂とPDMSモールドの間に分離なし/滑りなし接触を定義した。
紫外線硬化性樹脂の初期仮想温度はθvirt=0に設定した。
<ステップ1:静止(1s)>
静解析を実施した。
重力をZ軸下向きに発生させた(g=9.8m・s-2)。
<ステップ2:UV露光および暗硬化(530s)>
準静的解析を実施した。
開始から30s間のUV露光を実施した後、残り500sで暗硬化させた。
紫外線硬化性樹脂の仮想温度θvirtを、上記式(2-1)で表される関数に沿って変化させた。
<ステップ3:離型および暗硬化(10s)>
準静的解析を実施した。
紫外線硬化性樹脂とPDMSモールドの間の分離なし/滑りなし接触を除去した。
PDMSモールドをZ軸上方向に400μmだけ引き上げた。
紫外線硬化性樹脂の仮想温度θvirtを、引き続き上記式(2-1)で表される関数に沿って変化させた。
<ステップ4:暗硬化(6000s)>
準静的解析を実施した。
紫外線硬化性樹脂の仮想温度θvirtを、引き続き上記式(2-1)で表される関数に沿って変化させた。
【0099】
絶対平均湾曲深さ、及び二乗平均平方根湾曲深さは、下記方法で得られた「湾曲深さ」を用いて、下記式から算出した。
1.対象となる表面を格子状に離散化し、各格子点の座標(x,y,z)を取得する。
2.最小二乗回帰を用いて格子点にフィッティングされた近似平面を計算する。
3.各格子点から近似平面までの符号付き距離を計算し、それを「湾曲深さ」として定義する。
【数11】
【0100】
比較例1
真の温度変化の影響を敢えて無視するために、θreal(t)≡θroom(一定)とした以外は実施例1と同様に数値解析を行った。
【0101】
参考例1
紫外線硬化性樹脂(商品名「CELVENUS OUH106」、(株)ダイセル製)を、上記表1に記載の特性を有する、超ハードタイプのPDMSからなるモールドを使用して、下記条件下でインプリントを行い、成形体を得た。
インプリント条件:
室温25℃、UV露光50mW/cm2×30sで行い、530sで離型し、室温25℃で24時間の暗硬化を行い終了した。UV光源としては波長315~400nmのUV光を通す光学バンドパスフィルタ付き水銀ランプを用いた。
【0102】
得られた成形体の湾曲深さは、レーザ顕微鏡VK-X100(キーエンス社)を用いて測定した。
【0103】
実施例1の数値解析によって再現された成形体の上面の3Dイメージ図(a)、比較例1の数値解析によって再現された成形体の面の3Dイメージ図(b)、及び参考例1で、実際に得られた成形体の上面の顕微鏡写真(c)を
図12に示す。前記3Dイメージ図は、レーザーマイクロスコープ((株)キーエンス製、K-X100)を用いて測定した。また、前記顕微鏡写真は、レーザ顕微鏡VK-X100(株)キーエンス製)を用いて撮影した。
【0104】
図12より、実施例1は、比較例1よりも、参考例1の再現性に優れていることが分かる。また、湾曲深さについて、定量的に比較するため、2種類のスカラー指標(絶対平均湾曲深さ,二乗平均平方根湾曲深さ)を用いて比較した。結果を下記表4に示す。
【0105】
【0106】
上記表4より、実施例1と参考例1は、絶対平均湾曲深さおよび二乗平均平方根湾曲深さにおける誤差範囲が共に10%以内に収まっており、定量的に一致していることが分かる。
一方、比較例1は前記誤差範囲が共に60%を超えており、定量的には一致していないことが分かる。
以上の結果から、本開示の解析方法によれば、UVインプリントプロセスを高精度に再現できることがわかる。