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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130073
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】試験用ミキサセトラ
(51)【国際特許分類】
   C22B 3/26 20060101AFI20220830BHJP
   B01D 11/04 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
C22B3/26
B01D11/04 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021029028
(22)【出願日】2021-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】工藤 敬司
(72)【発明者】
【氏名】金子 高志
(72)【発明者】
【氏名】大原 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 寛人
【テーマコード(参考)】
4D056
4K001
【Fターム(参考)】
4D056AB04
4D056AB06
4D056AC01
4D056BA04
4D056CA14
4D056CA36
4D056CA40
4K001DB26
(57)【要約】
【課題】種々の有機相に対する溶媒抽出処理条件を適切にかつ効率的に調整し設定することができる、試験用のミキサセトラを提供すること。
【解決手段】本発明は、水相と有機相とを撹拌装置3により撹拌しながら混合するミキサ部11と、そのミキサ部11から導入される混合液を静置することによって水相と有機相とを比重分離させるセトラ部12と、を備え、溶媒抽出の処理条件を設定する試験を行うための試験用ミキサセトラ1であって、ミキサ部11は、第1のミキサ槽21と、その第1のミキサ槽21に隣接して、当該ミキサセトラ1内に装入される液相の流れに沿って直列に配置され、着脱可能に設けられる第2のミキサ槽22と、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水相と有機相とを撹拌装置により撹拌しながら混合するミキサ部と、該ミキサ部から導入される混合液を静置することによって水相と有機相とを比重分離させるセトラ部と、を備え、溶媒抽出の処理条件を設定する試験を行うための試験用ミキサセトラであって、
前記ミキサ部は、
第1のミキサ槽と、
前記第1のミキサ槽に隣接して、当該ミキサセトラ内に装入される液相の流れに沿って直列に配置され、着脱可能に設けられる第2のミキサ槽と、を有する、
試験用ミキサセトラ。
【請求項2】
前記ミキサ部において、
前記第2のミキサ槽は、前記第1のミキサ槽に対して前記セトラ部の側に隣接して装着される、
請求項1に記載の試験用ミキサセトラ。
【請求項3】
前記ミキサ部において、
前記第1のミキサ槽に隣接して前記第2のミキサ槽が装着されたとき、
前記第1のミキサ槽からの混合液が、該第1のミキサ槽の側壁の上部からオーバーフローして前記第2のミキサ槽に流入される、
請求項1又は2に記載の試験用ミキサセトラ。
【請求項4】
前記第1のミキサ槽からの混合液がオーバーフローする該第1のミキサ槽の側壁の両側に、液漏れ防止治具が設けられている、
請求項3に記載の試験用ミキサセトラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶媒抽出処理に使用するミキサセトラに関するものである。より詳しくは、略同程度の装置サイズで、ミキサ部における撹拌強度の向上や滞留時間の延長を可能とし、種々の有機相に対して適切な条件を設定して溶媒抽出処理を行うことを可能とする試験用のミキサセトラに関する。
【背景技術】
【0002】
溶媒抽出技術は、湿式製錬をはじめとする様々な産業分野に活用されており、水相と油相(以下「有機相」ともいう)を向流接触させ、水相又は有機相への目的物質の分配率の差を利用して一方に濃縮し、その後、油水の比重差を利用して分離する装置としてミキサセトラが広く使用されている。
【0003】
ミキサセトラでは、ミキサ部で水相と有機相とを撹拌することで接触効率を上げ、セトラ部で静置することにより水相と有機相を分離している。ミキサセトラを用いた溶媒抽出処理においては、目的物質の分配率を最適な状態とするために、例えばpHなどの液相の状態やミキサ部での撹拌強度等を適切なものに調整している。
【0004】
例えば特許文献1には、湿式銅製錬法で液相が塩化物浴であり、銅と鉄を分離するにあたってミキサセトラを使用し、セトラ部を液体サイクロン型セトラとする技術が開示されている。また、特許文献2には、発酵又は蒸留プロセスを実用する施設中の汚染を低減させる際に、ミキサセトラを使用し、プロセス滞留時間を低減する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-208441号公報
【特許文献2】特表2017-513697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、ミキサセトラを使用する溶媒抽出では、水相と有機相との向流接触が行われ、ミキサ部において水相と有機相を撹拌することにより、接触効率を向上させるようにしている。そのため、ミキサ部の設計、すなわち、ミキサ部タンクの容量や形状、撹拌強度に係る撹拌装置は、最適な条件となるように設定することが要求される。
【0007】
しかしながら、従来のミキサセトラでは、多少の条件変更には対応可能になっているものの、許容範囲には制限があるのが一般的である。また特に、種々の有機相に対する溶媒抽出処理の処理条件等を探索するための試験操作では、ミキサ部での撹拌強度や、セトラ部での静置時間、静置距離等に関する適切な処理条件を探索して設定していくことになるが、従来のミキサセトラでは、適切な条件を見つけるのにも制限があった。
【0008】
そのため、従来のミキサセトラにおいて、例えば許容範囲の制限を超える溶媒抽出条件の修正が必要となる場合には、ミキサ部の再設計が必要となることもあり、試験操作においても多大な労力やコストがかかり、効率的に処理条件を設定することが困難なこともあった。
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、種々の有機相に対する溶媒抽出処理条件を適切にかつ効率的に調整し設定することができる、試験用のミキサセトラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、ミキサ部と、セトラ部とを備えたミキサセトラ装置において、そのミキサ部を、第1のミキサ槽と、その第1のミキサ槽に隣接して直列に配置され、着脱可能に設けられる第2のミキサ槽とにより構成することで、特にミキサ部における撹拌強度や撹拌時間等の撹拌に関する条件調整を柔軟に行うことができ、処理条件をより適切にかつ効率的に探索して設定できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
(1)本発明の第1の発明は、水相と有機相とを撹拌装置により撹拌しながら混合するミキサ部と、該ミキサ部から導入される混合液を静置することによって水相と有機相とを比重分離させるセトラ部と、を備え、溶媒抽出の処理条件を設定する試験を行うための試験用ミキサセトラであって、前記ミキサ部は、第1のミキサ槽と、前記第1のミキサ槽に隣接して、当該ミキサセトラ内に装入される液相の流れに沿って直列に配置され、着脱可能に設けられる第2のミキサ槽と、を有する、試験用ミキサセトラである。
【0012】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記第2のミキサ槽は、前記第1のミキサ槽に対して前記セトラ部の側に隣接して装着される、試験用ミキサセトラである。
【0013】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記第1のミキサ槽に隣接して前記第2のミキサ槽が装着されたとき、前記第1のミキサ槽からの混合液が、該第1のミキサ槽の側壁の上部からオーバーフローして前記第2のミキサ槽に流入される、試験用ミキサセトラである。
【0014】
(4)本発明の第4の発明は、第3の発明において、前記第1のミキサ槽からの混合液がオーバーフローする該第1のミキサ槽の側壁の両側に、液漏れ防止治具が設けられている、試験用ミキサセトラである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、種々の有機相に対する溶媒抽出処理条件を適切にかつ効率的に調整し設定することができる、試験用のミキサセトラを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】溶媒抽出の一般的な処理の流れを示す図である。
図2】試験用ミキサセトラの構成の一例を示す断面図である。
図3】従来のミキサセトラの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」ともいう)について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0018】
≪1.試験用ミキサセトラの概要について≫
本実施の形態に係るミキサセトラは、水相と有機相とを混合して、有機相に目的の抽出対象物質を移行させて抽出する溶媒抽出装置である。例えば、不純物金属成分を含有する溶液から、その金属成分を除去して精製する処理に用いられる。
【0019】
図1は、溶媒抽出の一般的な処理の流れを示す図である。溶媒抽出においては、水相と有機相とを混合して目的物質を抽出する抽出段と、抽出段から得られた有機相を洗浄する洗浄段と、洗浄後の有機相に対して逆抽出処理を行う逆抽出段と、の3つの処理を有する。ミキサセトラは、主に、抽出段での処理に用いられ、通常複数のミキサセトラを並列に多段で設けて、多段階で有機相への目的物質の抽出が行われる。
【0020】
特に、本実施の形態に係るミキサセトラは、溶媒抽出の処理条件を探索して設定するための試験(溶媒抽出試験)に用いられて好適な「試験用ミキサセトラ」である。ここで、「試験用」とは、例えば溶液の製造プロセスに設けられる溶媒抽出工程での処理に使用される実機ではなく、その実機での溶媒抽出処理に適用される適切な処理条件を探索するために行う溶媒抽出試験に用いられることをいう。なお、処理条件の探索のための試験に限定的に解釈されず、広く実験用途を含む概念である。
【0021】
図2(A)及び(B)は、本実施の形態に係る試験用ミキサセトラの構成を示す断面図である。図2では、液相(水相、有機相)が装置内に装入されたときの状態を併せて示し、当該ミキサセトラによる溶媒抽出処理における液相の流れも示している。なお、図1中の矢印Fは、試験用ミキサセトラ1内に装入される液相(水相、有機相)の流れの方向を示している。
【0022】
試験用ミキサセトラ1(1A)は、水相と有機相とを撹拌装置3により撹拌しながら混合するミキサ部11と、ミキサ部11から導入される混合液を静置することで水相と有機相とを比重分離させるセトラ部12と、を備える。そして、試験用ミキサセトラ1では、ミキサ部11において、第1のミキサ槽21と、第1のミキサ槽21に隣接して直列に配置され着脱可能に設けられる第2のミキサ槽22と、を有することを特徴としている。
【0023】
このように、試験用ミキサセトラ1では、ミキサ部11が、従来のミキサセトラ(図3参照)のように単一の槽(ミキサ槽)からなるのではなく、第1のミキサ槽21に隣接して直列に、着脱可能な第2のミキサ槽22を設置できるようになっている。このような試験用ミキサセトラ1によれば、例えば種々の有機相に対して、特に撹拌強度や撹拌時間等の撹拌に関する条件調整を柔軟に行うことができ、処理条件をより適切にかつ効率的に探索して設定することが可能となる。
【0024】
≪2.試験用ミキサセトラの具体的な構成について≫
以下に、本実施の形態に係る試験用ミキサセトラ1の構成について、図面を参照しながらより具体的に説明する。
【0025】
[ミキサ部]
(ミキサ部について)
ミキサ部11は、抽出部とも呼ばれ、抽出対象物を含む水相と有機相とが装入され、水相と有機相との接触混合により抽出対象物が有機相に移行して抽出される処理部である。具体的に、ミキサ部11は、図示しないが水相装入口と有機相装入口とを有し、各装入口から水相と有機相とが内部に装入される。また、ミキサ部11は、例えば撹拌軸31と撹拌羽根32とから構成される撹拌装置3を備えた槽構造の区画領域を有しており、撹拌装置3による撹拌力によって水相と有機相とを撹拌混合する。
【0026】
(ミキサ部の構成)
試験用ミキサセトラ1では、このミキサ部11において、第1のミキサ槽21と、第1のミキサ槽21に隣接して直列に配置される第2のミキサ槽22と、を有している。第1のミキサ槽21と第2のミキサ槽22は、それぞれ、槽構造をなし区画領域を構成するものであり、撹拌装置3による撹拌力によって水相と有機相とを撹拌混合する。
【0027】
より具体的に、試験用ミキサセトラ1では、水相装入口と有機相装入口とを介して水相と有機相とが内部に装入されると、まず、第1のミキサ槽21にてその水相と有機相とが撹拌混合される(1段目の混合)。第1のミキサ槽21にて混合されて得られた混合液(水相と有機相の混合液)は、その第1のミキサ槽21の側壁21aの上部からオーバーフローして、隣接して直列に設けられる第2のミキサ槽22内に流入する。第2のミキサ槽22では、流入した混合液に対する撹拌装置3による更なる撹拌混合が行われる(2段目の混合)。
【0028】
つまり、試験用ミキサセトラ1では、第1のミキサ槽21と第2のミキサ槽22との両方にて水相と有機相との混合処理が行われることになる。従来のミキサセトラのように、ミキサ部が単一のミキサ槽からなる場合、撹拌混合の強度を上げようとするときには撹拌装置の回転数を上げる等する必要があるが、所定の大きさからなるミキサ槽において撹拌強度にも限界がある。これに対して、試験用ミキサセトラ1では、第1のミキサ槽21と共に第2のミキサ槽22を直列に設置可能となっているため、処理対象の有機相の種類等に応じて、撹拌強度を効率的に上げることができる。
【0029】
溶媒抽出の処理においては、例えば、目的物質の抽出効率を高めるためにアルカリ等のpH調整剤を添加して液相の状態を調整することがある。このとき、添加したpH調整剤と、液相を構成する成分との反応によって沈殿物が生じることがある。生成した沈殿物は、ミキサ部における撹拌混合によって溶解可能であるものの、撹拌強度が十分ではない場合には液相中に残留し、続くセトラ部や排出部へと持ち込まれる。そして、排出部に持ち込まれた沈殿物は、例えば水相排出口における詰まりの原因にもなり、水相の排出を阻害する。このようなとき、第1のミキサ槽21と共に第2のミキサ槽22を設けることで、撹拌強度を高めることができ、例えば、生成した沈殿物を効果的にかつ効率的に溶解させることができ、処理効率を向上させることができる。
【0030】
(着脱可能な第2のミキサ槽)
しかも、第2のミキサ槽22は、着脱可能に構成されるものとなっており、試験用ミキサセトラ1における重要な特徴点である。このことは、単に、第1のミキサ槽21と第2のミキサ槽22との2つのミキサ槽を直列に設けたということにとどまらず、柔軟な撹拌混合の処理を実行することが可能になる特徴点である。例えば、水相と有機相の種類に依って、撹拌強度をそれほど高めなくても効率的に目的物質を抽出できるような場合には第2のミキサ槽22を装着せずに第1のミキサ槽21のみで混合し、撹拌強度を高める必要がある場合には第2のミキサ槽22を追加装着して第1のミキサ槽21と第2のミキサ槽22との両方で混合するといったように、柔軟な撹拌混合の処理を実行できる。
【0031】
このような柔軟な処理対応は、特に、水相や有機相の種類に応じて溶媒抽出の処理条件を探索し設定するための溶媒抽出試験の操作に有効となる。例えば、溶媒抽出の処理条件が未知の有機相に対してその処理条件を調整するにあたって、試験用ミキサセトラ1によれば、着脱式の第2のミキサ槽22を装着していないで抽出処理したときの結果と、第2のミキサ槽22を装着して撹拌混合の強度を高めて抽出処理したときの結果とを効率的に得ることができ、適切な溶媒抽出の条件を有効に探索することができる。
【0032】
また、試験用ミキサセトラ1Aにおいては、図2(A)に示すように、第2のミキサ槽22が、第1のミキサ槽21に対してセトラ部12の側に隣接して装着される。より具体的には、セトラ部12の一部の領域に、第1のミキサ槽21に隣接するように装着される。そのため、ミキサセトラの装置自体の大きさは変わらない。このように、試験用ミキサセトラ1によれば、装置全体の大きさを変えることなく、ミキサ部11における撹拌強度を柔軟に変更して処理することができる。
【0033】
一方、第2のミキサ槽22については、上述したようにセトラ部12の側に直列に設けることに限られない。具体的には、図2(B)に示す試験用ミキサセトラ1Bのように、第2のミキサ槽22は、第1のミキサ槽21におけるセトラ部12に連続する側面とは対向する側面に隣接するように直列に装着されてもよい。このように、セトラ部12の側に直列に装着することに限られず、それとは反対の側にも装着可能であることは、第2のミキサ槽22が「着脱式」の槽であることの利点のひとつである。
【0034】
図2(B)で示す試験用ミキサセトラ1Bでは、まず、その第2のミキサ槽22に水相と有機相とが装入され、いわゆる1段目の混合が行われる。第2のミキサ槽22での撹拌混合により得られた混合液は、その第2のミキサ槽22の側壁22aの上部からオーバーフローして第1のミキサ槽21に流入する。そして、第1のミキサ槽21に流入した混合液は、その第1のミキサ槽21にて、いわゆる2段目の混合として更なる撹拌混合が行われる。
【0035】
例えば、試験用ミキサセトラ1Bは、ミキサ部11における撹拌強度を高めることが可能であるとともに、セトラ部12における静置時間及び静置距離を長くすることができる。したがって、セトラ部12における水相と液相の比重分離に比較的時間を要する対象の場合には、より好適な形態となる。
【0036】
試験用ミキサセトラ1Bでは、上述したように、第2のミキサ槽22を、第1のミキサ槽21におけるセトラ部12に連続する側面とは対向する側面に隣接するように装着していることから、ミキサセトラ装置全体の大きさとしては、追加装着した第2のミキサ槽22の分だけ大きくなる。しかしながら、その大きさ増加分は、第2のミキサ槽22の大きさ分のみで限定的であり、一方で、処理対象の種類に応じてセトラ部12における静置処理時間や距離を確保しながら撹拌強度を高めることができる点で有効となる。
【0037】
試験用ミキサセトラ1(1A,1B)において、第2のミキサ槽22の着脱方法としては特に限定されない。例えば、当該ミキサセトラ装置において上流側に位置するミキサ槽を下流側に隣接するミキサ槽の側壁に係止するような態様で装着し、またその係止を解除することで取り外すようにすることができる。具体的に、試験用ミキサセトラ1Aの場合では、液相の流れにおいて上流側に位置する第1のミキサ槽21の側面(第2のミキサ槽22に隣接する側面)を、下流側に位置する第2のミキサ槽22の側面(第1のミキサ槽21に隣接する側面)に、引掛け部等の所定の部位で係止させることによって装着する。なお、このとき、第2のミキサ槽22に係止させた第1のミキサ槽21の引掛け部(図示しない)は、第1のミキサ槽21から混合液がオーバーフロー流路の一部を構成することになる。
【0038】
(混合液のオーバーフロー)
図2(A)に示す試験用ミキサセトラ1Aを例にあげ、第1のミキサ槽21に隣接して直列に第2のミキサ槽22が装着されたとき、第1のミキサ槽21にて水相と有機相とを撹拌混合して得られた混合液は、第1のミキサ槽21の側壁21aの上部からオーバーフローすることによって、隣接する第2のミキサ槽22内に流入していく。なお、図2(A)中の矢印Xは、第1のミキサ槽21から第2のミキサ槽22へ混合液がオーバーフローしている状態を示している。
【0039】
ここで、第1のミキサ槽21には、その側壁21aの両側に、オーバーフローする混合液の横漏れの防止するための液漏れ防止治具を設けることができる。
【0040】
試験用ミキサセトラ1Aにおいては、第2のミキサ槽22は着脱式の槽であることから、第1のミキサ槽21に隣接して装着する際にその第1のミキサ槽21との間に隙間が形成されることがある。このような隙間が形成されると、第1のミキサ槽21からの混合液がオーバーフローして第2のミキサ槽22に流入するとき、第1のミキサ槽21の側壁21aの脇部分からその混合液が漏れ流れてしまうことがある。また、一般的に、ミキサセトラ装置においては、セトラ部を構成する槽の端側の内部にミキサ部を構成する槽を嵌め込んで構成されている。そのため、ミキサ部の槽(ミキサ槽)にて得られた混合液がそのミキサ槽の側壁の脇部分から漏れ流れたとして、セトラ部の槽内に入るようになるだけであり、特に問題は生じない。ところが、試験用ミキサセトラ1において、撹拌強度を高めるために着脱式の第2のミキサ槽22を装着したにもかかわらず、第1のミキサ槽21からの混合液が第2のミキサ槽22に確実に流入しなければ、第2のミキサ槽22での撹拌作用が付与されず、一部不十分な混合状態にある混合液がセトラ部12に混入することになる。
【0041】
このとき、液漏れ防止治具を、第1のミキサ槽21の側壁の両側に設けておくことによって、混合液の漏れを防ぎ、確実に第2のミキサ槽22に流入させるようにすることができる。そしてこれにより、セトラ部12に流入するまえに、水相と有機相とに対して十分な撹拌混合の作用を付与できるようになり、目的物質の抽出効率を高めることができるだけでなく、試験用のミキサセトラ装置として溶媒抽出条件のより適切な調整に寄与する。
【0042】
液漏れ防止治具としては、第1のミキサ槽21の側壁21aの脇部分から混合液が漏れることを防げる構造であれば特に限定されない。例えば、塩ビ製のパイプや、そのパイプを長軸方向に切断して断面を半円状にした構造体、あるいは丸棒や角柱体であってもよい。そのような構造体からなる液漏れ防止治具を、第1のミキサ槽21の側壁の両側に上部から挿入するように設置する。
【0043】
なお、第2のミキサ槽22での更なる撹拌混合を経て得られた混合液は、第2のミキサ槽22の側壁22aの上部からオーバーフローすることによって、セトラ部12内に流入していく。なお、図2(A)中の矢印Yは、第1のミキサ槽21から第2のミキサ槽22へ混合液がオーバーフローしている状態を示している。
【0044】
[セトラ部]
セトラ部12は、静置部とも呼ばれ、ミキサ部11にて水相と有機相とが混合されて得られた混合液(混合相)を静置させ、水相と有機相とを比重差により相分離させる処理部である。セトラ部12では、水相と有機相とが相分離して、その油水界面(図2に示す水相と有機相との界面)を境にして、下層に水相が、上層に有機相が分離する。このときの、水相の深さと有機相の深さが、「(水/有機)比」に相当する。
【0045】
なお、ミキサ部11とセトラ部12との間には、中間区域を設けることができる。中間区域には、ミキサ部11からの混合液がオーバーフローして流入する。また、中間区域に流入して混合液は、セトラ部12に面した隔壁であって下端が開放された隔壁のその下端を通ってセトラ部12に移行する。
【0046】
[排出部]
図2(A)(B)には示していないが、ミキサ部11に先に(液相の流れに沿った先に)、セトラ部12にて相分離した水相と有機相とを排出する排出部が設けられている。排出部では、相分離した各相が混入しないようにそれぞれを別々に排出する。例えば、排出部では、セトラ部12と隔てる隔壁が設けられており、セトラ部12にて相分離して下層を構成するようになった水相は、下端が開放されているその隔壁の下部から排出部に移送される。また、セトラ部12にて相分離して上層を構成するようになった有機相は、隔壁の上部をオーバーフローして排出部に移送される。
【0047】
排出部は、セトラ部12から移送された有機相を滞留させる有機相室と、水相を滞留させる水相室とを有する。有機相室は、水相室と隔離されており、セトラ部12から移送された有機相を保持する。有機相室にて保持された有機相は、その後、所定の箇所に設けられた有機相排出口を介して排出される。一方、水相室では、セトラ部12から移送された水相をオーバーフローさせるオーバーフロー筒が設けられており、オーバーフロー筒の上端部の出口から溢れ出た水相が所定の箇所の設けられた水相排出口から排出される。
【符号の説明】
【0048】
1,1A,1B 試験用ミキサセトラ
11 ミキサ部
12 セトラ部
21 第1のミキサ槽
21a 側壁
22 第2のミキサ槽
22a 側壁
3 撹拌装置
31 撹拌軸
32 撹拌羽根
図1
図2
図3