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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130130
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】移動体制御装置及び移動体制御方法
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/02 20200101AFI20220830BHJP
【FI】
G05D1/02 S
G05D1/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021029120
(22)【出願日】2021-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳原 政光
(72)【発明者】
【氏名】坂田 晃一
【テーマコード(参考)】
5H301
【Fターム(参考)】
5H301BB05
5H301GG07
5H301GG08
5H301GG09
5H301GG10
5H301GG23
5H301HH01
5H301JJ01
5H301LL01
5H301LL02
5H301LL03
5H301LL06
5H301LL07
5H301LL08
5H301LL11
5H301LL14
5H301LL15
5H301LL16
(57)【要約】
【課題】移動体の滑らかで安定した走行を実現する。
【解決手段】移動体1の第1走行軌道Tを生成する軌道生成手段104と、第1走行軌道Tに基づき移動体1の走行を制御する走行制御手段106と、移動体1の速度及び加速度を検出する検出手段14と、移動体1の周囲に存在する物体Obの情報を取得する物体情報取得手段6と、検出された物体Obの情報に基づき、移動体1と物体Obとが接触するか否かを判定する判定手段100と、を備える。軌道生成手段104は、移動体の走行で許容される速度及び加速度に基づき、4次以上の項を含む多項式を用いて移動体と物体との接触を回避する目標移動先Dまでの第2走行軌道Tを生成する。走行制御手段106は、移動体1と物体Obとが接触すると判定された場合、第2走行軌道Tに基づき移動体1の走行を制御する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の第1走行軌道を生成する軌道生成手段と、
前記第1走行軌道に基づき前記移動体の走行を制御する走行制御手段と、
前記移動体の速度を検出する速度検出手段と、
前記移動体の加速度を検出する加速度検出手段と、
前記移動体の周囲に存在する物体の情報を取得する物体情報取得手段と、
前記検出された物体の情報に基づき、前記移動体と前記検出された物体とが接触するか否かを判定する判定手段と、を備え、
前記軌道生成手段は、前記移動体の走行で許容される速度及び加速度に基づき、4次以上の項を含む多項式を用いて前記移動体と前記物体との接触を回避する目標移動先までの第2走行軌道を生成し、
前記走行制御手段は、前記移動体と前記物体とが接触すると判定された場合、前記生成された第2走行軌道に基づき前記移動体の走行を制御する、移動体制御装置。
【請求項2】
前記判定手段が前記移動体と前記物体とが接触すると判定した位置に対して、予め定めれた回避距離だけ離れた位置を前記目標移動先として決定する目標移動先決定手段を備える、請求項1に記載の移動体制御装置。
【請求項3】
前記物体の情報は、前記物体の位置、前記移動体から前記物体までの距離、及び、前記物体の速度と移動方向のうち少なくともいずれか1つを含む、請求項1又は2に記載の移動体制御装置。
【請求項4】
前記判定手段は、前記移動体が前記第2走行軌道上で前記物体と接触するか否かを判定し、
前記移動体が前記第2走行軌道上で前記物体と接触すると判定した場合、前記目標移動先決定手段は、前記予め設定された許容加速度を増加し、前記増加した許容加速度に基づいて前記目標移動先を新たに決定する、請求項2又は3に記載の移動体制御装置。
【請求項5】
前記目標移動先決定手段は、前記移動体の走行方向又は前記物体の移動方向と異なる方向に前記目標移動先を決定する、請求項2から4のいずれか一項に記載の移動体制御装置。
【請求項6】
前記移動体が走行する路面状況、又は、前記移動体が搭載する搭載物の重量、重心及び特性の少なくともいずれか1つに基づいて、前記許容される加速度が決定される、請求項1から5のいずれか一項に記載の移動体制御装置。
【請求項7】
移動体の現在位置を検出する移動体位置検出手段を備え、
前記走行制御手段は、前記生成された第1走行軌道に基づくフィードフォワード制御、及び検出された前記移動体の現在位置と前記第1走行軌道との差分に基づくフィードバック制御のうち、少なくとも一方を用いて前記移動体の走行制御を行う、請求項1から6のいずれか一項に記載の移動体制御装置。
【請求項8】
前記移動体は、少なくとも2つの駆動軸を有し、
前記走行制御手段は、前記駆動軸毎に前記移動体の走行制御を行う、請求項1から7のいずれか一項に記載の移動体制御装置。
【請求項9】
車体と、
請求項1から8のいずれか一項に記載した移動体制御装置と、
少なくとも2つの駆動輪と、
前記駆動輪を駆動するモータと、
前記モータの回転量を検出するエンコーダと、を備える、移動体。
【請求項10】
移動体の第1走行軌道を生成する工程と、
前記第1走行軌道に基づき前記移動体の走行を制御する工程と、
前記移動体の速度を検出する工程と、
前記移動体の加速度を検出する工程と、
前記移動体の周囲に存在する物体の情報を検出する工程と、
前記検出された物体の情報に基づき、前記移動体と前記検出された物体とが接触するか否かを判定する工程と、
前記移動体の走行で許容される速度及び加速度に基づき、4次以上の項を含む多項式を用いて前記移動体と前記物体との接触を回避する目標移動先までの第2走行軌道を生成する工程と、
前記移動体と前記物体とが接触すると判定された場合、前記生成された第2走行軌道に基づき前記移動体の走行を制御する工程と、を含む、移動体制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、移動体制御装置及び移動体制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体の走行制御を行う装置として、例えば特許文献1記載の技術が知られている。特許文献1記載の無人搬送車は、経路データ上に、回避距離を予め設定しておき、進行方向前方に物体を検知すると、回避距離だけ横行した後、前方へ走行する。具体的には、特許文献1は、回避制御処理として、車両を減速、一時停止した後、予め定められた条件に従い回避経路を走行することを提案する。
【0003】
特許文献1の回避制御処置のように、通常、経路上の物体を回避するには移動体の加減速や一時停止が必要となる。但し、特許文献1は、回避制御処理実行中の加減速や一時停止のための具体的な制御処理については言及がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-53838号公報
【発明の概要】
【0005】
本開示の一態様においては、移動体制御装置を提供する。当該装置は、移動体の第1走行軌道を生成する軌道生成手段と、第1走行軌道に基づき移動体の走行を制御する走行制御手段と、移動体の速度を検出する速度検出手段と、移動体の加速度を検出する加速度検出手段と、移動体の周囲に存在する物体の情報を取得する物体情報取得手段と、検出された物体の情報に基づき、移動体と検出された物体とが接触するか否か判定する判定手段と、を備える。軌道生成手段は、移動体の走行で許容される速度及び加速度に基づき、4次以上の項を含む多項式を用いて移動体と物体との接触を回避する目標移動先までの第2走行軌道を生成する。走行制御手段は、移動体と物体とが接触すると判定された場合、生成された第2走行軌道に基づき移動体の走行を制御する。
【0006】
また、本開示の一態様においては、移動体制御方法を提供する。当該方法は、移動体の第1走行軌道を生成する工程と、第1走行軌道に基づき移動体の走行を制御する工程と、移動体の速度を検出する工程と、移動体の加速度を検出する工程と、移動体の周囲に存在する物体の情報を検出する工程と、検出された物体の情報に基づき、移動体と検出された物体とが接触するか否か判定する工程と、移動体の走行で許容される速度及び加速度に基づき、4次以上の項を含む多項式を用いて移動体と物体との接触を回避する目標移動先までの第2走行軌道を生成する工程と、移動体と物体とが接触する可能性があると判定された場合、生成された第2走行軌道に基づき移動体の走行を制御する工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の実施例に係る移動体制御装置を備えた移動体を示す概略図である。
図2図1の移動体制御装置のシステム構成を示す概略図である。
図3図1の移動体制御装置による処理を説明するための説明図である。
図4図1の移動体制御装置による処理を説明するための説明図である。
図5図1の移動体制御装置による走行制御の効果を示す図である。
図6図1の移動体制御装置による別の処理を説明するための説明図である。
図7図1の移動体制御装置による別の処理を説明するための説明図である。
図8図1の移動体制御装置による走行制御を示すフローチャートである。
図9図1の移動体制御装置の判定条件を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら、本開示に係る移動体制御装置及び移動体制御方法の実施例について説明する。
【0009】
図1は、本開示に係る移動体制御装置10を備える移動体1を概略的に示す。また、移動体制御装置10のシステム構成を図2に示す。図1に示すように、移動体1は、前後左右に設けられた4つの車輪2を備える。車輪2は、内部に設けられたインホイールモータ12により駆動される。また、移動体1は搭載物を積載する載積面4を備える。なお、本実施例において、移動体1を無人搬送車(Automated Guide Vehicle:AGV)として説明するが、移動体1はAGVに限られない。
【0010】
また、図2に示すように、実施例に係る移動体制御装置10は、移動体1の周囲に存在する物体(障害物等)を検出する物体検出部(物体情報取得手段)6と、インホイールモータ12の回転量を検出するエンコーダ14とを有する。移動体制御装置10は、移動体1がAGVとして構成される場合は、載積面4に載せられた搭載物の重量を検出する重量センサ18を有してもよい。また、移動体制御装置10は、移動体1の進行方向を制御するために、車輪2の操舵角を検出する操舵角センサ16を備えていてもよい。また、移動体制御装置10は、搭載面4に載せられた搭載物の重心位置を検出する重心位置検出センサ(図示しない)を有していてもよい。
【0011】
物体検出部6は、例えばミリ波レーダからなり、移動体1の進行方向前方に対して発した電波の反射波に基づき、移動体1の前方に存在する物体(障害物等)の位置、速度及び加速度を検出する。また、検出対象となる物体が電波や信号を発する機能を有する場合、物体検出部6は、当該物体の発した電波や信号を受信することで当該物体の位置、速度、及び加速度を検出してもよい。即ち、物体検出部6は、信号検出手段として機能し得る。物体検出部6は、ミリ波レーダに代えて、レーザー等の光を前方に照射し、物体からの反射光を受光する光送受信機やTOF(Time Of Flight)センサであってもよい。
【0012】
なお、進行方向前方に加え、物体検出部6を移動体1の側方及び後方にも設けても良い。また、移動体制御装置10とは独立して、監視モニタのように移動体1の走行経路の周囲に存在する物体を検出する手段を別途設けてもよい。この場合は、当該監視モニタが取得した物体の位置情報を受信する受信機が物体情報取得手段に相当する。
【0013】
エンコーダ14は、検出したインホイールモータ12の回転量から、車輪2の回転速度及び回転加速度、即ち移動体1の速度及び加速度を算出(検出)する。したがって、本実施例において、エンコーダ14が速度検出手段及び加速度検出手段として機能する。
【0014】
なお、操舵角センサ16に代えて、ジャイロセンサやGPSを使って移動体1の進行方向を検出してもよい。また、予め走行経路が定められている場合には、走行経路に沿って走行ライン(マーカ)を敷設し、走行ラインに対する移動体1の姿勢の傾きに基づいて移動体1の進行方向を検出してもよい。移動体制御装置10は、検出した移動体1の進行方向が定められた走行方向(走行経路)と一致するように移動体1の操舵角を制御する。
【0015】
また、実施例に係る移動体制御装置10は、移動体1を制御する制御部100を備える。制御部100は、マイクロコンピュータ(マイクロコントローラ)からなり、後述するプログラム等を格納する記憶部102と、移動体1の走行軌道を生成する軌道生成部104(軌道生成手段)と、生成された軌道に基づき移動体1の走行を制御する走行制御部106(走行制御手段)を備える。なお、制御部100は、移動体1の存在を周囲に知らせる発信部108を備えていてもよい。
【0016】
軌道生成部104は、移動体1の現在位置や記憶部102に予め記憶された地図情報(又は予め定められた走行経路)等に基づき、移動体1の目標走行軌道を生成する。なお、地図情報を記憶部102に予め記憶する代わりに、通信手段(図示しない)を使用してネットワークを経由して地図情報をダウンロードしてもよい。
【0017】
移動体1の現在位置は、例えば、走行開始地点を原点とする座標系において、エンコーダ14で検出される車輪2の回転量に基づく移動量と、操舵角センサ16で検出される操舵角に基づく移動体1の進行方向とから算出できる。なお、移動体1の現在位置は、走行開始時からの経過時間と生成された目標走行軌道とから算出してもよい。また、移動体1にGPS受信機を設けて現在位置を取得してもよい。あるいは、移動体1に通信機器を設け、走行経路の周囲に設けられた基準局に対する相対位置から移動体1の現在位置を算出してもよい。
【0018】
走行制御部106は、軌道生成部104が生成した目標走行軌道に基づき各モータ12の回転数と各車輪2の操舵角を制御する。なお、走行制御部106は、各車輪2を独立して制御できるため、各車輪2の操舵角を制御する代わりに、各車輪2の回転数を適宜異ならせることにより移動体1の操舵を実現してもよい。
【0019】
走行制御部106は、移動体1の走行を制御する際、インホイールモータ12への入力に対する出力(移動体1の速度、加速度、移動量等)を予測し、その予測出力と生成された目標走行軌道に基づき、必要な入力値を計算するフィードフォワード制御を行ってもよい。また、走行制御部106は、移動体1の現在位置と目標走行軌道との差分を算出し、当該差分に基づくフィードバック制御を行ってもよい。
【0020】
発信部108は、移動体1に設けられたLEDなどの発光素子や警報器(いずれも図示せず)に接続され、光及び音の少なくともいずれか1つを用いて移動体1の存在を周囲に発信する。
【0021】
図3は、実施例に係る移動体制御装置10の基本的な動作を説明する説明図である。
【0022】
本実施例に係る移動体制御装置10は、利用者によって入力された最終目的地と記憶部102に予め記憶された地図情報とに基づき移動体1の目標走行軌道(第1走行軌道T)を生成する。生成される第1走行軌道Tには、一例として、走行経路や目標到達時間TAが含まれるだけでなく、移動体1の目標速度Vや目標加速度α、及び後述する加加速度(ジャーク)などの速度関連情報が含まれていてもよい。
【0023】
なお、第1走行軌道Tを生成する具体的な演算方法等については、公知の技術を利用できるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0024】
図4は、実施例に係る移動体制御装置10の走行経路(より具体的には、第1走行軌道T)の周囲に物体Obが存在するときの移動体制御装置10の動作を説明する説明図である。
【0025】
移動体制御装置10は、物体検出手段6を用いて移動体1の周囲に物体Obが存在するか検出する。物体Obを検出した場合、制御部100(判定部)は、移動体1の走行情報と物体Obの情報とに基づき、移動体1と物体Obとが接触するか否か判定する。なお、移動体1の走行情報とは、一例として、移動体1の現在位置P、走行方向、現在速度V、及び現在加速度αを意味する。また、物体Obの情報とは、一例として、物体Obの現在位置、物体Obの移動方向、物体Obの速度と加速度、及び移動体1から物体Obまでの距離を意味する。
【0026】
ここで、「接触する」とは、所定時間経過後に移動体1と物体Obとが直接接触する場合だけでなく、移動体1と物体Obとの距離が所定距離L未満となり、接触する可能性がある場合を含んでもよい。なお、「所定距離」とは、移動体制御装置10が移動体1を減速又は加速させる制御を開始してから移動体1を停止又は等速にさせるのに必要な距離Lに対し、所定の安全率(例えば、20%)を乗じた距離を意味する。例えば、移動体1の走行方向に物体Obがあり、移動体1を停止させるのに必要な停止距離がLの場合、物体Obまでの距離が1.2*L(すなわちL)以下であるとき(安全率が20%の場合)に、制御部100は、移動体1と物体Obとが「接触する」と判定する。なお、制御部100は、移動体1から物体Obのまでの距離がLから1.2*L(すなわちL)の範囲内にあるときに、移動体1と物体Obとが「接触する」と判定してもよい。また、所定の安全率は設けなくともよく、L=0でもよい。また、Lは、規定値とすることもできる。
【0027】
移動体制御装置10は、移動体1と物体Obとが接触すると判定した場合、物体Obとの接触を回避できる位置を目標移動先Dに決定する。具体的には、接触の可能性がある位置よりも所定の距離(回避距離)だけ手前の位置を目標移動先Dとする。なお、図4では、目標移動先Dを移動体1の現在位置Pから距離Lだけ離れた位置に示しているが、目標移動先Dの位置がこれに限定されるわけではないことは言うまでもない。
【0028】
なお、移動体1の現在位置Pから目標移動先Dまでの距離、経路に加えて、速度、加速度等の速度関連情報を決定することを、走行軌道を決定すると称する。
【0029】
ここで、走行軌道に基づき移動体1を制御する場合、最大加速度αMAXを加速度として一定に用いると、移動体1の挙動が不安定になり易い。
【0030】
そこで実施例に係る移動体制御装置10は、軌道生成部104において4次以上の項を含む多項式を用いて第2走行軌道Tを生成することとし、制動距離を短くしながらも移動体1およびその搭載物に対する振動を抑制できるようにした。
【0031】
例えば、移動体1の走行軌道を以下のような5次多項式(1)~(3)で表す。
【数1】
【0032】
式(1)~(3)において、r(t)は時刻tにおける移動体1の走行距離を、r’(t)は時刻tにおける移動体1の速度を、r"(t)は時刻tにおける移動体1の加速度をそれぞれ表す。
【0033】
例えば、移動体1が走り出してからT秒後に距離Lだけ進んで停止する場合、初期状態[t0,r0,r'0,r"0]の境界条件は[0,0,0,0]となり、終端状態[t1,r1,r'1,r"1]の境界条件は[T,L,0,0]となる。したがって、式(1)~(3)に上記条件を与えることで以下の式(4)~(6)が得られる。
【数2】
【0034】
上記式(4)~(6)は加加速度(ジャーク)の2乗積分値を最小にするジャーク最小軌道式と一致する。即ち、移動体1を上記式(1)~(3)で表す5次多項式軌道に基づき制御することで、加速度の変化を最小化した滑らかな走行を実現できる。なお、速度Vは、移動体1が停止に要する時間Tまでの毎秒のr′(t)のうち最大の速度であってよい。また、許容加速度(許容減速度)αMAXは、移動体1が停止に要する時間Tまでの毎秒のr″(t)のうち、最大の加速度であってよい。
【0035】
移動体1の第2走行軌道Tは4次多項式を用いて生成してもよい。図5によく示すように、4次多項式を用いて第2走行軌道Tを生成した場合でも、5次多項式(ジャーク最小軌道)に近い滑らかな走行軌道を実現できる。
【0036】
例えば、移動体制御装置10がAGVで構成される場合は、搭載物の種類に応じて4次多項式と5次多項式とを使い分けてもよい。搭載物が精密機器等であって可能な限り振動を抑えることが求められる場合であれば、5次多項式を用いて第2走行軌道Tを生成し、滑らかで安定した走行を実現できる。一方、搭載物の振動耐性が高い場合は、4次多項式を用いて第2走行軌道Tを生成し、軌道生成部104の演算負荷を低減してもよい。
【0037】
また、移動体1が減速中に物体Obを検出した場合であって、そのまま減速を続ければ物体Obとの接触を回避できる場合であれば、移動体制御装置10は、移動体1の現在の速度Vと加速度(減速度)αとに基づいて目標移動先Dを決定してもよい。また、予め実験などによって求められた値に基づいて目標移動先Dを決定するための回避距離を定めてもよい。
【0038】
図4に示すように、移動体1の走行方向前方に物体Obが存在する場合、移動体制御装置10は、第1走行軌道T上における移動体1の現在位置Pと接触予想位置Cまでのいずれかの位置(換言すれば、現在位置Pと接触予想位置Cとの間)を目標地点(目標移動先D)と決定してもよい。あるいは、物体Obが移動していない場合又は物体Obが移動体1から離れる方向に移動している場合であれば、移動体制御装置10は、移動体1の現在位置Pから物体Obの現在位置までの距離よりも大きい距離を目標移動距離(目標移動先D)と決定してもよい。
【0039】
なお、図4では移動体1が目標移動先Dで停止する例を説明した。しかしながら、本開示に係る接触回避処理はかかる場合に限られない。物体Obとの接触を回避できるのであれば、目標移動先Dまでに移動体1を減速させるだけでもよい。あるいは、第1走行軌道Tから側方に移動するなど、移動体1の現在の走行方向や物体Obの移動方向とは異なる方向に目標移動先Dを決定することで物体Obとの接触を回避してもよい。
【0040】
また、図6に示す如く、目標移動先Dに移動体1が移動する前に、物体Obとは異なる他の物体Obが第2走行軌道Tに侵入して移動体1と接触すると判定された場合、移動体制御装置10は、決定した目標移動先Dとは異なる目標移動先DT2を新たに決定し、物体Obとの接触を回避するように移動体1を制御してもよい。このときの目標移動先DT2は、例えば、移動体1の走行方向における移動体1から物体Obまでの距離より小さい距離である。また、移動体制御装置10は、移動体1の第2走行軌道T走行中においてもリアルタイムに移動体1と物体Obとが接触するか否かの判定を行ってもよい。例えば、停止していた物体Obの位置情報に基づいて目標移動先Dを決定していたときに、物体Obが移動体1の方向に移動し始め、目標移動先Dに到達する前に移動体1が物体Obと接触すると判定された場合、決定した目標移動先Dとは異なる新たな目標移動先Dを決定してもよい。
【0041】
図7は、物体Obが移動体1の走行方向と反対側から近付いてくる場合を示す。なお、図7に示す実施例にあっては、移動体制御装置10の物体検出部6は、少なくとも車両の後方の物体を検出可能な構成とする。
【0042】
移動体制御装置10は、移動体1の進行方向と反対側(即ち移動体1の後方)に物体Obを検出すると、移動体1の走行情報と物体Obの情報とに基づき、移動体1と物体Obとが接触するか否か判定する。移動体1と物体Obとが接触予想位置Cで接触すると判定した場合、移動体制御装置10は、進行方向に所定距離先の目標移動先Dを決定する。
【0043】
この場合において、移動体1が物体Obとの接触を避けるには、移動体1が目標移動先Dに到達した時点で、移動体1の速度Vが物体Obの移動速度VOb以上となれば良い。
【0044】
目標移動先Dを決定すると、移動体制御装置10の軌道生成部104は、上記した4次以上の多項式を用いて目標移動先Dまでの第2走行軌道Tを生成する。そして、移動体制御装置10の走行制御部106は、生成された第2走行軌道Tに基づいて移動体1の走行を制御する。このように、物体Obが移動体1の走行方向と反対側から移動体1に接近する場合、目標移動先Dにおいて移動体1は停止せずに、例えば、物体Obの移動速度VOb以上の速度で走行することになる。換言すれば、上記多項式における終端状態の境界条件を、r'1≧Vobとすればよい。
【0045】
なお、物体Obが定速移動ではなく加速又は減速をしている場合、移動体制御装置10は、物体Obの加速度αObも勘案して移動体1の目標移動先Dを決定する。
【0046】
また、物体Obが移動体1の斜め後方から近付いてくる場合は、必ずしも移動体1の速度Vを物体Obと等速以上にまで加速する必要はない。例えば、図4を用いて説明したように、移動体1を減速又は停止させて物体Obとの接触を回避するようにしてもよい。
【0047】
また、移動体1が物体Obの移動速度VObまで加速する前に移動体1と物体Obとの距離が、安全率に基づき定まる所定距離L未満となる場合、移動体制御装置10は、移動体1と物体Obとの距離が所定距離L以上離れるまで移動体1の加速を続けてもよい。この場合は、移動体1と物体Obとの距離が所定距離Lまで離れた後に、移動体1の速度Vを物体Obの移動速度VObまで減速させればよい。したがって、移動体制御装置10は、上記走行を実現できる目標移動先D(具体的には、加速走行時の目標移動先Dと、減速走行時の目標移動先D)を決定し、決定した各目標移動先Dに基づいて軌道生成部104が第2走行軌道Tを生成する。
【0048】
これにより、移動体制御装置10は、物体Obとの接触を回避しつつ、移動体1の滑らかで安定した加減速を実現できる。
【0049】
図8は、実施例に係る移動体制御装置10の制御部10により実行される制御の一例を示すフローチャートである。図8に示すフローチャートは、移動体制御装置10の起動後、生成された第1走行軌道Tに基づき移動体1が走行を開始すると共に開始され、所定間隔で繰り返し実行される。
【0050】
S10において、移動体制御装置10の制御部100は、エンコーダ14からの出力に基づき移動体1の速度V及び加速度αを検出する。
【0051】
S12では、制御部100は緊急回避条件を算出する。「緊急回避条件」とは、移動体1が物体Obを回避するための限界条件を意味する。即ち、制御部100は、検出した移動体1の速度V及び加速度αに加え、予め設定された移動体1の許容速度VMAX及び許容加速度αMAX等から、移動体1と物体Obとの接触を回避するために必要な距離(緊急回避距離)や時間(緊急回避時間)を算出する。
【0052】
図9を参照してS12の緊急回避条件について説明する。図示の通り、緊急回避距離とは、現在の速度V及び加速度αにおいて、許容加速度αMAXを用いて移動体1が回避動作を行った際に必要な距離を意味する。例えば、緊急停止をする場合、許容加速度(許容減速度)αMAXだけで移動体1を停止させた場合に、移動体1が停止するまでに要する距離が最短の緊急回避距離Lとなる。ここで、目標移動先Dは、緊急回避領域内の位置として設定される。
【0053】
緊急回避距離未満では、移動体1と物体Obとの接触を回避することはできない。そこで、本実施例では、当該領域を「回避不可領域」と定義する。また、緊急回避距離から、緊急回避距離に所定の安全率(例えば20%)を乗じて得られる所定距離Lを付加した距離までの領域を「緊急回避領域」と定義する。即ち、緊急回避動作を行うことで物体Obとの接触を回避できる領域が「緊急回避領域」となる。また、移動体1との距離が「緊急回避領域」を超えて離れている領域を「通常運転領域」と定義する。「通常運転領域」では、制御部100は、移動体1を許容加速度αMAXで制御することなく、移動体1と物体Obとの接触を回避できる。
【0054】
したがって、S12は、移動体1の現在の走行状態に基づき、「回避不可領域」と「緊急回避領域」とを算出する処理ともいえる。なお、各領域は、緊急回避距離に代えて緊急回避時間に基づいて定めることもできる。
【0055】
S14では、制御部100は物体検出部6を用いて移動体1の周囲に存在する物体Ob(障害物等)を検出する。
【0056】
S16では、制御部100は検出した物体Obと移動体1とが接触するか否か判定する。具体的には、移動体1の現在の走行に用いる第1走行軌道Tにおける、移動体1の走行経路、現在位置P、現在速度V等から算出されるある時間後(時刻)の予測到達位置と、物体Obの同時刻の予測到達位置とから、両者が接触するか否かを判定する。
【0057】
S16において、物体Obと移動体1とが接触しないと判定されると、図8の処理はS10に戻る。なお、S14において物体Obが検出されていない場合も、S16の判定は否定され、図8の処理はS10に戻る。
【0058】
一方、S16において、検出された物体Obと移動体1とが接触すると判定されると、図8の処理はS18に進む。
【0059】
S18では、制御部100は発信部108を操作し、移動体1と物体Obとが衝突する可能性があることを光及び/又は音を使って周囲に通知する。なお、移動体1の周囲に利用者がいない場合などはS18の処理を省略してもよい。
【0060】
S20では、制御部100は目標移動先Dを決定する。具体的には、移動体1と物体Obとが接触すると予測される位置よりも所定の距離(回避距離)だけ手前の位置を目標移動先Dとする。所定の距離は、予め定められた距離でも良いし、現在の速度Vと加速度(減速度)αとに基づいて決定されてもよい。
【0061】
S22では、制御部100は、4次以上の多項式を用い、S22で決定した目標移動先Dを決定すると共に、走行軌道(第2走行軌道T)を生成する。
【0062】
S24では、制御部100は、生成した第2走行軌道Tで移動体1を走行させた場合に、移動体1と物体Obが接触するか否かを判定する。即ち、制御部100は、S24において、物体Obが回避不可領域にあるか否かを判定する。なお、S24の判定は、S16の判定と併せて行ってもよい。
【0063】
S24の判定が否定される場合、図8の処理はS26に進み、制御部100は、生成した第2走行軌道Tに基づいて移動体1の走行を制御する。そして、S28において目標移動先Dに到達したと判断すると図8の処理を終了する。
【0064】
この結果、本開示に係る移動体制御装置10は、滑らかで安定した加減速を実現しながら移動体1と物体Obとの接触を回避できる。
【0065】
一方、S24の判定が肯定される場合、図8の処理はS30に進み、許容加速度αMAXを一時的に増加させる。次いで、S32において、増加した許容加速度αMAXに基づいて目標移動先D及び第2走行軌道Tを更新し、再度S24の接触判定を行う。即ち、制御部100は、S24の接触判定が否定されるまでS30-S32の処理を繰り返し、許容加速度αMAXを増加させる。
【0066】
許容加速度αMAXを増加させた結果、S24において移動体1と物体Obとが接触しないと判定されると、図8の処理はS26,S28に進む。即ち、上記した通り、制御部100は、生成された第2走行軌道Tに基づいて移動体1の走行を制御する。
【0067】
この結果、本開示に係る移動体制御装置10は、回避不可領域に存在する物体Obであっても移動体1との接触を回避できる。
【0068】
なお、図示は省略するが、許容加速度αMAXが増加されて限界値まで達した場合、S24の判定結果にかかわらず、図8の処理はS26,S28に進み、当該限界値に基づいて移動体1を走行させる。この場合、移動体1と物体Obとの接触は回避できないが、接触の衝撃を最小限に留めることができる。
【0069】
上記の如く、本開示に係る移動体制御装置10は、移動体1の第1走行軌道Tを生成する軌道生成手段(軌道生成部104)と、第1走行軌道Tに基づき移動体1の走行を制御する走行制御手段(走行制御部106)と、移動体1の速度Vを検出する速度検出手段(エンコーダ14)と、移動体1の加速度αを検出する加速度検出手段(エンコーダ14)と、移動体1の周囲に存在する物体Obの情報を検出する物体情報取得手段(物体検出部6)と、検出された物体Obの情報に基づき、移動体1と検出された物体Obとが接触するか否かを判定する判定手段(制御部100)と、を備える。
また、軌道生成部104は、移動体1の走行で許容される速度VMAX及び加速度αMAXに基づき、4次以上の項を含む多項式を用いて移動体1と物体Obとの接触を回避する目標移動先Dまでの第2走行軌道Tを生成する。
そして、走行制御部106は、移動体1と物体Obとが接触すると判定された場合、生成された第2走行軌道Tに基づき、移動体1の走行を制御する。
【0070】
この結果、本開示に係る移動体制御装置10は、移動体1と物体Obとの接触を回避しつつ、滑らかで安定した加減速を実現できる。
【0071】
また、本開示に係る移動体制御方法は、移動体1の第1走行軌道Tを生成する工程と、第1走行軌道Tに基づき移動体1の走行を制御する工程と、移動体1の速度Vを検出する工程(S10)と、移動体1の加速度αを検出する工程(S10)と、移動体1の周囲に存在する物体Obの情報を検出する工程(S14)と、検出された物体Obの情報に基づき、移動体1と検出された物体Obとが接触するか否かを判定する工程(S16)と、移動体1の走行で許容される速度VMAX及び加速度αMAXに基づき、4次以上の項を含む多項式を用いて移動体1と物体Obとの接触を回避する目標移動先Dまでの第2走行軌道Tを生成する工程と(S20-S22)、移動体1と物体Obとが接触すると判定された場合、生成された第2走行軌道Tに基づき移動体1の走行を制御する工程(S26-S28)と、を含む。
【0072】
この結果、本開示に係る移動体制御方法は、移動体1と物体Obとの接触を回避しつつ、滑らかで安定した加減速を実現できる。
【0073】
以上、図面を参照して実施例に係る移動体制御装置10を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施例に限らず、その要旨を逸脱しない程度の設計変更は、本開示に含まれる。
【0074】
例えば、走行経路の路面状況(摩擦係数など)に基づいて移動体1の許容速度VMAXや許容加速度αMAXを変化させてもよい。また、移動体1の載積面4に載せられた搭載物の重量や重心、及び当該搭載物の特性の少なくともいずれか1つに基づいて許容速度VMAXや許容加速度αMAXを変化させてもよい。ここで、搭載物の特性とは、搭載物の大きさや振動耐性、積載面4との間の摩擦係数などをいう。また、搭載物が人である場合、特性には、当該人の身長、体重、年齢のうち少なくともいずれか1つが含まれる。
【0075】
実施例では、物体検出手段6を用いて物体Obの現在位置P、物体Obの移動方向、物体Obの速度と加速度、及び移動体1から物体Obまでの距離を検出したが、物体検出手段6は、これらのうちの少なくともいずれか1つを検出するようにしてもよい。なお、移動体1から物体Obまでの距離は、移動体1及び物体Obそれぞれの位置情報(例えばGPS情報)から求めてもよい。
【0076】
また、移動体1の車輪2の数は4つに限られない。移動体1を前後左右に移動させることができればよく、車輪2の数を3つとしてもよいし、5つ以上としてもよい。あるいは、移動体1の重心付近に1個の球体を設け、これを車輪2としてもよい。また、移動体1に補助輪を1つ設けて、補助輪とは別の車輪2を2つ設けてもよい。
【0077】
また、移動体1はAGVに限られず、例えば電動式の車椅子であってもよい。
【0078】
また、図2には、前方の車輪2の1つにのみエンコーダ14が設けられる構成を示したが、エンコーダ14を後方の車輪2にも設け、駆動軸毎に走行制御を行うようにしてもよい。あるいは、4つの車輪2それぞれにエンコーダ14を設け、各車輪2を独立して制御するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0079】
1 移動体
2 車輪
6 物体検出部(物体情報取得手段)
10 移動体制御装置
12 インホイールモータ
14 エンコーダ(速度検出手段・加速度検出手段)
16 操舵角センサ
18 重量センサ
100 制御部(判定手段、目標移動先決定手段)
102 記憶部
104 軌道生成部(軌道生成手段)
106 走行制御部(走行制御手段)
108 発信部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9