(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130244
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】非化学量論組成を有する化合物用封止材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/312 20060101AFI20220830BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20220830BHJP
H01L 21/316 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
H01L21/312 A
H01L21/31 B
H01L21/316 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021029328
(22)【出願日】2021-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100160543
【弁理士】
【氏名又は名称】河野上 正晴
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 和哉
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 純一
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 峻一郎
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 翔平
(72)【発明者】
【氏名】韋 瀟竹
(72)【発明者】
【氏名】池田 大次
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】赤井 泰之
【テーマコード(参考)】
5F045
5F058
【Fターム(参考)】
5F045AA06
5F045AA15
5F045AB31
5F045AB39
5F045AD05
5F045AF01
5F045BB16
5F045CA15
5F045CB04
5F045DC51
5F045DC52
5F045DC55
5F058AB10
5F058AC10
5F058AD02
5F058AD10
5F058AF04
5F058AF06
5F058AH03
5F058BB10
5F058BC02
5F058BC03
5F058BF04
5F058BJ03
(57)【要約】
【課題】非化学量論組成を有する化合物に適した封止材を提供する。
【解決手段】ポリマー層及び無機酸化物絶縁体層を含み、前記ポリマー層は、有機溶媒可溶性ポリマーを含む第1のポリマー層を含む、非化学量論組成を有する化合物用封止材。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー層及び無機酸化物絶縁体層を含み、
前記ポリマー層は、有機溶媒可溶性ポリマーを含む第1のポリマー層を含む、
非化学量論組成を有する化合物用封止材。
【請求項2】
前記ポリマー層は、前記第1のポリマー層と前記無機酸化物絶縁体層との間に位置する第2のポリマー層をさらに含み、
前記第2のポリマー層は、化学気相成長膜からなる、
請求項1に記載の封止材。
【請求項3】
前記第1のポリマー層、前記第2のポリマー層、及び前記無機酸化物絶縁体層の合計厚みが100nm以下である、請求項2に記載の封止材。
【請求項4】
前記有機溶媒可溶性ポリマーは、アクリル系ポリマー、スチレン系ポリマー、フッ素系ポリマー、熱架橋性ポリマー、またはそれらの組み合わせである、請求項1~3のいずれか一項に記載の封止材。
【請求項5】
前記無機酸化物絶縁体層の無機酸化物絶縁体が、AlOx、HfOx、ZrOx、SiOx、TiOx、またはそれらの組み合わせである、請求項1~4のいずれか一項に記載の封止材。
【請求項6】
前記化学気相成長膜がパリレンである、請求項2~5のいずれか一項に記載の封止材。
【請求項7】
前記非化学量論組成を有する化合物が、アモルファス金属酸化物無機半導体膜である、請求項1~6のいずれか一項に記載の封止材。
【請求項8】
前記アモルファス金属酸化物無機半導体膜が、前記膜の主表面に垂直方向に酸素欠損状態が異なる分布を有し、表面が内部よりも酸素欠損が多い、請求項7に記載の封止材。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の封止材を含む電子素子。
【請求項10】
基板を準備すること、
第1のポリマーが溶解した有機溶媒を調製すること、
前記基板上に、前記第1のポリマーが溶解した有機溶媒を塗布して第1のポリマー層を含むポリマー層を形成すること、及び
前記ポリマー層上に、原子層堆積法またはスパッタリング法を用いて無機酸化物絶縁体層を形成して、封止材を得ること
を含む、非化学量論組成を有する化合物用封止材の製造方法。
【請求項11】
前記ポリマー層を形成することが、前記第1のポリマー層上に、化学気相成長法を用いて化学気相成長膜である第2のポリマー層を形成することを含み、
前記無機酸化物絶縁体層を形成することが、前記第2のポリマー層上に前記無機酸化物絶縁体層を形成することを含む、
請求項10に記載の封止材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非化学量論組成を有する化合物用封止材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスはIoT(Internet of Things)社会における電子デバイスの基本素子として期待されている。特に、アモルファス金属酸化物半導体(AOS)は、プリントエレクトロニクスの有望な候補である。
【0003】
AOSは、高移動度、低電圧駆動、ゲート絶縁膜との高い親和性、透明、高い熱安定性等の特徴があり、透明柔軟なTFT、電子ペーパー等の次世代デバイスへ応用が期待されている。
【0004】
また、プリントエレクトロニクスの活用は、その高いスループットから、有望な手段となっている。特に、印刷可能な半導体を用いた薄膜トランジスタ(TFT)は、数兆個のセンサーや高周波識別タグを開発し、異なる物体間の情報交換を実現するためのキーデバイスとして注目されている。印刷可能な材料の中でも、キャリアの移動度が高く、均一性に優れたアモルファス金属酸化物半導体(AOS)は、TFTの印刷材料として有望視されている。
【0005】
しかしながら、AOSは、酸素や水を含む周囲に存在する分子等の環境に対する感度が高く、移動度、しきい値電圧、バイアス応力等が不安定であるため、製造プロセスによる劣化や、実用的な長期間の安定動作が難しいことが問題となっている。そこで、AOSを保護するために、酸素や水を含む周囲の分子のAOSへの影響を抑制する封止材(パッシベーション)が用いられている。
【0006】
SiOx、SiOx/SiNx、AlOx、YOx等の絶縁性の無機酸化物の封止材は、低いガス透過性と水透過性を示す。しかしながら、このような無機酸化物の封止材を形成するために、原子層堆積法(ALD)法、スパッタリング法等の成膜プロセスを用いると、AOSがダメージを受けてTFTの性能が低下し得る。
【0007】
別法では、CYTOP(登録商標)、パリレン等の化学気相成長法(CVD)で成膜される絶縁性ポリマーも封止材として用いられている(特許文献1)。これらは比較的マイルドなCVDによる成膜プロセスで成膜されるため、AOSへのダメージは比較的少ない。しかしながら、このようなポリマーは、無機酸化物に比べてガスや水の浸透率が高いため、保護性能が十分ではない。
【0008】
そのため、上記封止材の材料を組み合わせた二層構造を有する封止材が提案されている。非特許文献1には、有機物であるパリレン層を形成した後、ALD法を用いて無機酸化物絶縁体層であるAlOxを積層して封止する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】S. Zhan et al., Phys. Status Solidi, 2020, 217, 1900832.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これらの従来の封止材は、真空プロセスで形成されたアモルファス金属酸化物半導体(AOS)に使用することができるが、印刷可能な溶液プロセスで形成されたAOSに使用すると、AOSがダメージを受けることが分かった。この原因として、溶液プロセスで形成されたAOSは、酸素等が欠損した非化学量論組成を有するために環境感度が非常に高く、従来の封止材の形成プロセスによりダメージを受けやすいことが分かった。
【0011】
そこで、非化学量論組成を有する化合物に適した封止技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)ポリマー層及び無機酸化物絶縁体層を含み、
前記ポリマー層は、有機溶媒可溶性ポリマーを含む第1のポリマー層を含む、
非化学量論組成を有する化合物用封止材。
(2)前記ポリマー層は、前記第1のポリマー層と前記無機酸化物絶縁体層との間に位置する第2のポリマー層をさらに含み、
前記第2のポリマー層は、化学気相成長膜からなる、
上記(1)に記載の封止材。
(3)前記第1のポリマー層、前記第2のポリマー層、及び前記無機酸化物絶縁体層の合計厚みが100nm以下である、上記(2)に記載の封止材。
(4)前記有機溶媒可溶性ポリマーは、アクリル系ポリマー、スチレン系ポリマー、フッ素系ポリマー、熱架橋性ポリマー、またはそれらの組み合わせである、上記(1)~(3)のいずれかに記載の封止材。
(5)前記無機酸化物絶縁体層の無機酸化物絶縁体が、AlOx、HfOx、ZrOx、SiOx、TiOx、またはそれらの組み合わせである、上記(1)~(4)のいずれかに記載の封止材。
(6)前記化学気相成長膜がパリレンである、上記(2)~(5)のいずれかに記載の封止材。
(7)前記非化学量論組成を有する化合物が、アモルファス金属酸化物無機半導体膜である、上記(1)~(6)のいずれかに記載の封止材。
(8)前記アモルファス金属酸化物無機半導体膜が、前記膜の主表面に垂直方向に酸素欠損状態が異なる分布を有し、表面が内部よりも酸素欠損が多い、上記(7)に記載の封止材。
(9)上記(1)~(8)のいずれかに記載の封止材を含む電子素子。
(10)基板を準備すること、
第1のポリマーが溶解した有機溶媒を調製すること、
前記基板上に、前記第1のポリマーが溶解した有機溶媒を塗布して第1のポリマー層を含むポリマー層を形成すること、及び
前記ポリマー層上に、原子層堆積法またはスパッタリング法を用いて無機酸化物絶縁体層を形成して、封止材を得ること
を含む、非化学量論組成を有する化合物用封止材の製造方法。
(11)前記ポリマー層を形成することが、前記第1のポリマー層上に、化学気相成長法を用いて化学気相成長膜である第2のポリマー層を形成することを含み、
前記無機酸化物絶縁体層を形成することが、前記第2のポリマー層上に前記無機酸化物絶縁体層を形成することを含む、
上記(10)に記載の封止材の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、非化学量論組成を有する化合物に適した封止材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本開示の封止材の断面模式図である。
【
図2】
図2は、本開示の封止材を、非化学量論組成を有する化合物に接するように配置したときの断面模式図である。
【
図3】
図3は、第1のポリマー層、第2のポリマー層、及び無機酸化物絶縁体層を有する封止材の断面模式図である。
【
図4】
図4は、実施例で作製したTFTの断面模式図である。
【
図5】
図5は、実施例で作製したTFTの断面模式図である。
【
図6】
図6は、実施例で作製したTFTの光学顕微鏡写真である
【
図7】
図7は、比較例で作製したTFTの伝達特性を示すグラフである。
【
図8】
図8は、実施例及び比較例で作製したTFTの伝達特性を示すグラフである。
【
図9】
図9は、比較例で作製したTFTの水処理前後の伝達特性を示すグラフである。
【
図10】
図10は、実施例及び比較例で作製したTFTのバイアス応力安定性を測定したグラフである。
【
図11】
図11は、実施例及び比較例で作製したTFTのバイアス応力の前後で伝達特性を測定して、Vthシフト値(ΔVth)を見積もったグラフである。
【
図12】
図12は、比較例で作製したTFTの伝達特性の測定結果を示すグラフである。
【
図13】
図13は、比較例で形成したPMMA層のX線反射率測定による膜厚評価結果である。
【
図14】
図14は、実施例で作製したIZO層のAFM測定像である。
【
図15】
図15は、実施例で作製したPMMA層のAFM測定像である。
【
図16】
図16は、ゾルゲル法を用いたアモルファス金属酸化物無機半導体(AOS)の前駆体溶液を調製する方法を表す模式図である。
【
図17】
図17は、スピンコート法を用いてAOS層を形成する方法を表す模式図である。
【
図18】
図18は、O1sの角度分解XPSの測定結果である。
【
図19】
図19は、O1s全体に対するM-O-M(金属酸化物になっている状態)の割合(η
M-O-M)の角度依存性を表すグラフである。
【
図20】
図20は、角度分解XPSの測定方法の模式図である。
【
図21】
図21は、AOS膜の厚みによる酸素欠損状態の分布を表す断面模式図である。
【
図22】
図22は、O1s全体に対する各結合種の割合の、AOS膜の基板から最表面に向かう厚み依存性を表すグラフである。
【
図23】
図23は、実施例で作製したTFTを、作製直後に測定した初期特性及び大気中に20ヶ月放置後の特性を評価したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示は、ポリマー層及び無機酸化物絶縁体層を含み、前記ポリマー層は、有機溶媒可溶性ポリマーを含む第1のポリマー層を含む、非化学量論組成を有する化合物用封止材を対象とする。
【0016】
本開示の封止材によれば、水分や酸素が存在する大気下でも、非化学量論組成を有する化合物へのダメージを抑制することができる。そのため、本開示の封止材によれば、非化学量論組成を有する化合物を備えた電子デバイスを、大気下で長時間、安定して動作させることができる。
【0017】
本開示の封止材によればまた、封止材の配置工程や、その後の電子素子または電子デバイスの作製工程による、非化学量論組成を有する化合物へのダメージを抑制することができる。例えば、封止材を形成した後に、水や有機溶媒を用いたリソグラフィープロセスによって別の電子素子または電子デバイスを封止材上に積層・集積しても、非化学量論組成を有する化合物の劣化を抑制することができる。そのため、本開示の封止材によれば、非化学量論組成を有する化合物を備えた複雑な集積デバイス、例えば相補型金属酸化物半導体や、無機/有機ハイブリッド半導体等の作製が可能になる。本開示の封止材は、特に、プリントエレクトロニクスにおいて、簡便で効果的な封止を提供することができる。
【0018】
図1に、本開示の封止材100の断面模式図を示す。封止材100は、ポリマー層10及び無機酸化物絶縁体層20を含む。ポリマー層10は、有機溶媒可溶性ポリマーを含む第1のポリマー層を含む。ポリマー層10は第1のポリマー層のみで構成されてもよい。第1のポリマー層は、好ましくは、有機溶媒可溶性ポリマーからなる。有機溶媒可溶性ポリマーは、有機溶媒に可溶性のポリマーを意味し、有機溶媒に溶解したときにポリマーまたはオリゴマーであるものが含まれる。有機溶媒は、有機溶媒可溶性ポリマーを溶解可能且つ非化学量論組成を有する化合物を溶解しない溶媒であり、例えば酢酸ブチル、トルエン、キシレン、アセトニトリル等が挙げられる。
【0019】
有機溶媒可溶性ポリマーを含む第1のポリマー層は、溶液プロセスというマイルドな方法で成膜することができる。溶液プロセスは、真空やラジカル反応を利用しないので、酸素の脱離による酸素欠陥のさらなる形成を避けることができ、また、非化学量論組成を有する化合物との反応性が非常に低いかないという利点がある。溶液プロセスには、酸が発生するような反応もない。そのため、非化学量論組成を有する化合物上に直接、ダメージを実質的に与えずに、第1のポリマー層を形成することができる。
【0020】
図2に、本開示の封止材100を、非化学量論組成を有する化合物層30に接するように配置したときの断面模式図を示す。封止材100のポリマー層10が、電子素子に含まれる非化学量論組成を有する化合物層30側に位置し、無機酸化物絶縁体層20が、非化学量論組成を有する化合物層30とは反対側に位置するように、封止材100が用いられ得る。
図2では、封止材100のポリマー層10が非化学量論組成を有する化合物層30に接するように配置されているが、封止材100のポリマー層10と非化学量論組成を有する化合物層30との間に別の層が存在して、封止材100のポリマー層10と非化学量論組成を有する化合物層30とが直接接しなくてもよい。例えば、本開示の封止材を、薄膜太陽電池の封止材として用いる場合は,非化学量論組成を有する化合物層は薄膜太陽電池の中間層の内部に位置しており、非化学量論組成を有する化合物層の上に、他の材料や電極が積層されてもよい。
【0021】
このように、非化学量論組成を有する化合物層30と無機酸化物絶縁体層20との間にポリマー層10が存在することにより、無機酸化物絶縁体層20を形成する際の非化学量論組成を有する化合物へのダメージを抑制することができる。
【0022】
従来は、AlOx層等の無機酸化物絶縁体層を、被封止材上に直接成膜して、封止材として用いていた。しかしながら、溶液プロセスで作製したIZOx等の非化学量論組成を有する化合物上に、原子層堆積(ALD)法を用いて無機酸化物絶縁体層を直接成膜しようとすると、ALD法は真空下で基板を加熱し且つ水を介するプロセスなので、非化学量論組成を有する化合物は劣化してしまう。溶液プロセスで作製したIZOx等の非化学量論組成を有する化合物上に、スパッタリング法を用いて無機酸化物絶縁体層を直接成膜しようとすると、スパッタリング法は真空プロセスなので、非化学量論組成を有する化合物は劣化してしまう。
【0023】
パリレンのような化学気相成長膜(蒸着膜)は、ALD法よりも比較的マイルドな、基板加熱の必要がない化学気相成長法(CVD)で成膜できるため、無機酸化物絶縁体層を形成するための下地としてパリレン等の化学気相成長膜を成膜することも行われている。しかしながら、非化学量論組成を有する化合物は環境感度が非常に高いために、化学気相成長膜の成膜時の真空環境及び発生するラジカルによってもダメージを受けやすい。
【0024】
これに対して、非化学量論組成を有する化合物上に、有機溶媒可溶性ポリマーを含む第1のポリマー層を溶液プロセスで形成することにより、非化学量論組成を有する化合物に実質的なダメージを与えることなく、ポリマー層を配置することができる。
【0025】
第1のポリマー層は、ALD法に付随する水分またはスパッタリングプロセスの真空環境から非化学量論組成を有する化合物を保護することができる。そのため、非化学量論組成を有する化合物にダメージを実質的に与えずに、ポリマー層上に無機酸化物絶縁体層を形成することができる。第1のポリマー層は、密度が低いのでガスバリア性能が低く、酸素をある程度透過させてしまう。第1のポリマー層の密度は、好ましくは0.4~1.3g/cm3、より好ましくは0.5~1.2g/cm3、さらに好ましくは0.6~1.1g/cm3、さらに好ましくは0.7~1.0g/cm3である。一方で、第1のポリマー層の上に緻密構造を有する無機酸化物絶縁体層が位置するので、水分や酸素は封止材を実質的に通過できない。第1のポリマー層の密度は、X線反射率測定から算出される。X線反射率データのフィッティングにより、膜厚と膜密度とを同時にフィッティングパラメータとして見積もることができる。
【0026】
非化学量論組成を有する化合物は、アモルファス金属酸化物無機半導体(AOS)、金属カルゴゲナイド、ハライドペロブスカイト等が挙げられる。AOSとしては、ZnO、In2O3、In-Zn-O(IZO)、In-Ga-Zn-O(IGZO)、特に溶液プロセスで形成したAOS等が挙げられる。金属カルゴゲナイドとしては、例えば、硫化モリブデン、硫化タングステン、セレン化モリブデン等の層状物質や、硫化鉛、硫化カドミウム等の量子ドットが挙げられる。ハライドペロブスカイトとしては、例えば、ABX3、A2BX4(Aは有機アンモニウム物質またはアルカリ金属、Bは金属であり例えば鉛や錫、Xはハロゲン元素)等で表される有機無機ハイブリッド物質または無機金属物質が挙げられる。AOS層は、薄膜X線回折により、アモルファスであるかどうかを確認することができる。
【0027】
非化学量論組成を有する化合物を備えた電子デバイスとしては、トランジスタ、相補型金属酸化物半導体デバイス、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)、電池、有機太陽電池、酸化物センサー等が挙げられる。トランジスタには、薄膜トランジスタ、電界効果トランジスタ等が含まれる。酸化物センサーには、ケミカルセンサーや光センサー等も含まれる。以下、同様である。
【0028】
本開示の封止材は、任意の形状であることができ、封止膜、封止シート等であることができる。
【0029】
第1のポリマー層は、好ましくは50nm以上、より好ましくは75nm以上、さらに好ましくは100nm以上の厚みを有する。第1のポリマー層が、前記好ましい厚みを有することにより、無機酸化物絶縁体層を形成する際の非化学量論組成を有する化合物へのダメージをより抑制することができる。第1のポリマー層の厚みの上限は特に限定されないが、封止材を含む電子デバイスの厚みが大きくならないように、第1のポリマー層の厚みは、好ましくは1000nm以下、より好ましくは500nm以下であり、100nm以下、50nm以下、または30nm以下でもよい。
【0030】
好ましくは、ポリマー層は、第1のポリマー層と無機酸化物絶縁体層との間に位置する第2のポリマー層をさらに含み、第2のポリマー層は、化学気相成長膜からなる。
【0031】
化学気相成長膜からなる第2のポリマー層が、第1のポリマー層と無機酸化物絶縁体層との間に位置することにより、無機酸化物絶縁体層を形成する際の非化学量論組成を有する化合物へのダメージをより抑制することができる。また、第2のポリマー層を形成するCVDプロセスによるラジカルの攻撃から、非化学量論組成を有する化合物を保護することができる。ポリマー層が第2のポリマー層を含むとき、第1のポリマー層の好ましい厚みは薄くてもよく、10nm以上の厚みでもよい。
【0032】
図3に、第1のポリマー層12、第2のポリマー層14、及び無機酸化物絶縁体層20を有する封止材100の断面模式図を示す。封止材100は、第1のポリマー層12と無機酸化物絶縁体層20との間に位置する第2のポリマー層14を含む。
【0033】
第1のポリマー層12、第2のポリマー層14、及び無機酸化物絶縁体層20を含むハイブリッド構造の封止材100において、有機溶媒可溶性ポリマーを含む第1のポリマー層12及び化学気相成長膜からなる第2のポリマー層14が、無機酸化物絶縁体層20を形成するときのALDプロセスまたはスパッタリングプロセスによるダメージからのバッファ層として機能し、無機酸化物絶縁体層20は強力なバリア効果を有する。
【0034】
化学気相成長膜は、溶液プロセスで形成される第1のポリマー層とは異なり、ドライプロセスで形成される。そのため、第2のポリマー層は、化学気相成長膜で構成されるため緻密であり、バリア効果が高い。化学気相成長膜からなる第2のポリマー層の密度は、有機溶媒可溶性ポリマーを含む第1のポリマー層の密度よりも大きい。第2のポリマー層の密度は、好ましくは1.0~1.5g/cm3、より好ましくは1.0超~1.45g/cm3である。第2のポリマー層の密度は、ASTM D1505またはASTM E1461で測定される。
【0035】
化学気相成長膜からなる第2のポリマー層の厚みは、好ましくは10~40nm、より好ましくは15~35nmである。第2のポリマー層は密度が高いために、上記好ましい厚み範囲でもバリア効果を得ることができるので、封止材の全体厚みを低減することができる。
【0036】
無機酸化物絶縁体層の厚みは、好ましくは5~100nm、より好ましくは15~75nm、さらに好ましくは25~55nmである。無機酸化物絶縁体層は、有機膜であるポリマー層よりもバリア効果がさらに高いため、上記好ましい厚み範囲で、良好なバリア効果を発揮しつつ、封止材の全体厚みを低減することができる。無機酸化物絶縁体層は緻密構造を有し比較的硬いため、封止材を含む電子素子または電子デバイスのフレキシビリティを確保する観点で、無機酸化物絶縁体層の厚みは、100nm以下が好ましい。
【0037】
封止材が、有機溶媒可溶性ポリマーを含む第1のポリマー層、化学気相成長膜からなる第2のポリマー層、及び無機酸化物絶縁体層を含む場合、封止材の合計厚みは、好ましくは100nm以下、より好ましくは90nm以下、さらに好ましくは80nm以下である。化学気相成長膜からなる第2のポリマー層を備える場合、封止材の全体厚みを薄くすることができる。封止材の厚みの下限は、好ましくは25nm以上、より好ましくは40nm以上である。封止材の厚みが上記好ましい範囲であることにより、良好なバリア機能を得つつ、封止材を備えた電子素子または電子デバイスの厚みを低減することができる。
【0038】
有機溶媒可溶性ポリマーは、好ましくは、アクリル系ポリマー、スチレン系ポリマー、フッ素系ポリマー、熱架橋性ポリマー、またはそれらの組み合わせである。
【0039】
アクリル系ポリマーは、好ましくは、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸アダマンチル(PADMA)、またはポリメタクリル酸シクロヘキシル(PCMA)である。
【0040】
スチレン系ポリマーは、好ましくは、ポリスチレン、ポリ-α-メチルスチレン(PαMS)、ポリ-4-メチルスチレン(PMS)、またはポリビニルフェノール(PVP)である。
【0041】
フッ素系ポリマーは、好ましくは、CYTOP(登録商標)またはテフロン(登録商標)AFである。
【0042】
熱架橋性ポリマーは、好ましくは、エポキシ樹脂または熱硬化性シクロオレフィンポリマーである。
【0043】
無機酸化物絶縁体層の無機酸化物絶縁体は、好ましくは、AlOx、HfOx、ZrOx、SiOx、TiOx、またはそれらの組み合わせである。xは化学量論組成を満たす値でもよく化学量論組成を満たさない値でもよい。無機酸化物絶縁体層は密度が高く、空気中の水分子や酸素のような大きな分子は透過できないため、水分やガスに対するバリア効果が高い。
【0044】
化学気相成長膜は好ましくはパリレンである。パリレンは、逐次的に室温付近で成膜されるため、緻密性及び均一性が高い点で好ましい。パリレンにはその誘導体も含まれる。
【0045】
封止材は、好ましくは、第1のポリマー層としてPMMA層、第2のポリマー層としてパリレン層、及び無機酸化物絶縁体層としてAlOx層の3層のハイブリッド構造を有する。PMMA/パリレン/AlOxのハイブリッド3層封止膜は、非化学量論組成を有する化合物の性能を劣化させることなく、強力な保護を得ることができる。
【0046】
非化学量論組成を有する化合物は、好ましくは、アモルファス金属酸化物無機半導体(AOS)膜である。
図21に模式的に表すように、AOS膜は、好ましくは、AOS膜の主表面に垂直方向に酸素欠損状態が異なる分布を有し、表面が内部よりも酸素欠損が多い。
【0047】
AOS層の厚み方向の酸素欠陥量の分布は、角度分解X線光電子分光法(XPS)で、O1s全体に対するM-O-M(金属酸化物になっている状態)の割合(ηM-O-M)の角度依存性を測定することで、評価することができる。厚み方向に酸素欠陥量の分布を有するAOS層は、AOS層の最表面に近いほどM-O-M(M:InまたはZn)結合が少なくなる。
【0048】
角度分解XPSとは、
図20に示すように、測定試料の表面に垂直方向を基準(0°)としたXPSの検出器(アナライザ)に対する角度(傾斜角θ)を変えることによって、下記式1及び式2:
【数1】
(式中、I
0は入射電子強度、I
(d)は表面からの深さdにおける実効強度、λは固体中の電子の非弾性平均自由行程(今回の測定条件では約2.8nmと推定)、3λは脱出深さ(I
(d)~I
0×5%)である)
【数2】
(式中、dは表面からの深さ、d
infは検出深さ(情報深さ)、θ
subは基板の傾斜角)で表される測定対象膜の表面から所定の深さ(情報深さd
inf)までの範囲の化学種を検出する方法である。傾斜角θは0°~90°未満、好ましくは0°~70°の範囲で設定可能である。
【0049】
AOS層は、内部のηM-O-Mに対する最表面のηM-O-Mの比率が、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、さらに好ましくは20%以上小さい。
【0050】
本開示の封止材は電子素子に用いることができる。本開示の封止膜は、好ましくはフレキシブル基板上に配置された、非化学量論組成を有する化合物を含む電子素子をカバーする封止材として用いることができる。電子素子を含む電子デバイスとしては、例えば、トランジスタ、相補型金属酸化物半導体デバイス、有機EL、電池、太陽電池、酸化物センサー等が挙げられる。
【0051】
本開示はまた、基板を準備すること、第1のポリマーが溶解した有機溶媒を調製すること、前記基板上に、前記第1のポリマーが溶解した有機溶媒を塗布して第1のポリマー層を含むポリマー層を形成すること、及び前記ポリマー層上に、原子層堆積法またはスパッタリング法を用いて無機酸化物絶縁体層を形成して、封止材を得ることを含む、非化学量論組成を有する化合物用封止材の製造方法を対象とする。
【0052】
本方法においては、第1のポリマーが溶解した有機溶媒を調製する。有機溶媒と第1のポリマーを混合して、第1のポリマーが溶解した有機溶媒を調製することができる。第1のポリマーの濃度は、第1のポリマー層の目的とする厚みに応じて変えればよく、例えば1~80mg/mL、2~70mg/mL、または3~60mg/mLである。
【0053】
本方法においては、基板上に、第1のポリマーが溶解した有機溶媒を塗布して第1のポリマー層を含むポリマー層を形成する。塗布方法は、好ましくは、スピンコート法、バーコート法、スプレーコート法、ディップコート法、インクジェット法、フレキソ印刷法、またはグラビア印刷法であり、より好ましくはスピンコート法、バーコート法、スプレーコート法、ディップコート法、またはインクジェット法であり、さらに好ましくはスピンコート法である。
【0054】
無機酸化物絶縁体層は、原子層堆積(ALD)法またはスパッタリング法、好ましくは、原子層堆積(ALD)法を用いて形成する。ALD法は大面積に成膜することができ、コストを低減することができる点で好ましい。
【0055】
無機酸化物絶縁体層の成膜温度は、200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、125℃以下がさらに好ましい。前記好ましい温度範囲で成膜することによって、無機酸化物絶縁体層よりも下の層がダメージを受けにくい。特に、フレキシブル基板は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド等有機物で構成されるので、前記好ましい温度範囲で成膜することによって、基板がダメージを受けることを抑制することができる。
【0056】
好ましくは、ポリマー層を形成することが、第1のポリマー層上に、化学気相成長法(CVD)を用いて化学気相成長膜である第2のポリマー層を形成することを含み、無機酸化物絶縁体層を形成することが、第2のポリマー層上に無機酸化物絶縁体層を形成することを含む。
【0057】
化学気相成長膜である第2のポリマー層は、CVDで成膜する。CVDは軽い真空プロセスであり、成膜速度、処理面積、緻密性、及び均一性の点で好ましい。
【0058】
ポリマー層、第1のポリマー層、第2のポリマー層、無機酸化物絶縁体層、有機溶媒可溶性ポリマー、有機溶媒、及びその他の構成は、上記封止材に関する内容が適用される。
【実施例0059】
(実施例1)
(2層封止材及びIZOを備えたTFTの作製)
(ゾルゲル法によるAOS前駆体溶液の調製)
図16に模式的に示すゾルゲル法で酸化インジウム亜鉛(IZO)の前駆体溶液を調製した。10mLの2-メトキシエタノールに0.462gのIn(NO
3)
3-xH
2O(Aldrich)を添加し、大気下で6時間撹拌して、インジウムの前駆体溶液(0.1M)を得た。10mLの2-メトキシエタノールに0.297gのZn(NO
3)
2-xH
2O(Aldrich)を添加し、大気下で6時間撹拌して、亜鉛の前駆体溶液(0.1M)を得た。得られたインジウム及び亜鉛の前駆体溶液を、In:Zn=3:2のモル比で混合し、大気下で6時間撹拌して、IZOの前駆体溶液を調製した。
【0060】
ゲート絶縁膜として熱酸化SiO2(厚み100nm)を有するPドープSiウエハー基板を、アセトン次いで2-プロパノール中で各10分間超音波洗浄した後、ホットプレートを用い、大気下、100℃で10分間乾燥させた。
【0061】
(AOS層の形成)
上記洗浄及び乾燥した基板をUVオゾンクリーナー(フィルゲン社製、UV253H)で10分間処理し、有機残渣を除去し、濡れ性を向上させた。
【0062】
図17に模式的に示すように、上記UV処理した基板上に、調製したIZO前駆体溶液を500rpmで5秒間、次いで5000rpmで30秒間スピンコートしてIZO中間膜を形成した。次いで、形成したIZO中間膜に、大気雰囲気下で、150℃で5分間の熱処理を行い、さらに370℃で1時間の熱処理を行い、厚みが6nmのAOS膜(IZO膜)を形成した。
【0063】
IZO膜上に、メタルマスクを用いてソース・ドレイン(S/D)電極(Al、40nm)を熱蒸着により成膜及びパターニングした。さらに、イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)レーザーによりIZO膜をパターニングして、大気下、90℃で3時間熱処理し室温まで徐冷してIZO活性層を得た。
【0064】
(封止材の形成)
IZO活性層及びS/D電極を形成したゲート絶縁層上に、PMMA(Mw:120,000)を溶解させた酢酸ブチル溶液(50mg/mL)を、500rpmで5秒間、4000rpmで30秒間スピンコートした後、150℃で2時間熱処理を行い、厚みが100nmのPMMA層を形成した。PMMA層上に、ALD法を用いて、基板温度を110℃に保ちながら、厚みが40nmのAlOxを堆積させて、PMMA層/AlOx層の2層の封止膜を形成した。このようにして、封止材とIZO膜とを有するボトムゲート・トップコンタクトTFTを作製した。
【0065】
図4に、作製したTFTの断面模式図を示す。作製したTFTは、100μmのチャネル長(L)及び2000μmのチャネル幅(W)を有していた。
【0066】
(実施例2)
(3層封止材及びIZOを備えたTFTの作製)
実施例1と同じ条件でIZO前駆体溶液を調製した。ガラス基板上に、フォトレジスト(TLOR、東京応化工業株式会社)で形成したパターン上にCr/Au/Crを蒸着し、次いでフォトレジストを除去するリフトオフ法により、厚みが5/25/5nmのCr/Au/Crのゲート電極を形成した。ALD法を用いて、厚みが75nmのAlOxゲート絶縁膜を形成した。
【0067】
AlOxゲート絶縁膜を形成した基板をUVオゾンクリーナーで10分間処理した後、実施例1と同じ条件でIZO膜を形成した。形成したIZO膜に感光性誘電体(PDM、太陽インキ製造株式会社)を用いてフォトリソグラフィ及び1.75質量%のシュウ酸水溶液によるウェットエッチングを施して、パターニングされたn型半導体であるIZO活性層を形成した。
【0068】
その後、感光性誘電体(PDM、太陽インキ製造株式会社)を用いてフォトリソグラフィを行いシャドウマスクとして用いて、Al熱蒸着及びリフトオフにより、厚みが60nmのソース・ドレインS/D電極を形成した。次いで、S/D電極を形成した積層体を、大気下、90℃で3時間熱処理し、室温まで徐冷した。
【0069】
IZO活性層及びS/D電極を形成したゲート絶縁層上に、PMMA(Mw:120,000)を溶解させた酢酸ブチル溶液(5mg/mL)を、500rpmで5秒間、4000rpmで30秒間スピンコートした後、150℃で1時間熱処理を行い、厚みが13nmのPMMA層を形成した
【0070】
PMMA層上に、CVD法を用いて25nm厚のパリレン層を堆積させた。パリレン層上に、ALD法を用いて、基板温度を110℃に保ちながら、厚みが40nmのAlOxを堆積させて、PMMA層/パリレン層/AlOx層の3層の封止膜を形成した。このようにして、封止材とIZO膜とを有するボトムゲート・トップコンタクトTFTを作製した。
【0071】
図5に、作製したTFTの断面模式図を示す。
図6は、作製したTFTの光学顕微鏡写真である。作製したTFTは、10μmのチャネル長(L)及び200μmのチャネル幅(W)を有していた。
図6(a)は、作製したTFTを上面から観察した光学顕微鏡写真である、
図6(b)は、
図6(a)の四角で囲んだ部分の拡大写真である。
【0072】
(比較例1)
封止膜を、厚みが13nmのPMMA単層にしたこと以外は、実施例2と同様に、TFTを作製した。
【0073】
(比較例2)
封止膜を、厚みが25nmのパリレン単層にしたこと以外は、実施例2と同様に、TFTを作製した。
【0074】
(比較例3)
封止膜を、厚みが40nmのAlOx単層にしたこと以外は、実施例2と同様に、TFTを作製した。
【0075】
(比較例4)
封止膜を形成しなかったこと以外は、実施例2と同様に、TFTを作製した。
【0076】
(比較例5)
封止膜を、厚みが13nmのPMMA層及びその上に配置した厚みが25nmのパリレン層にしたこと以外は、実施例2と同様に、TFTを作製した。
【0077】
半導体パラメータアナライザ(Keithley 4200-SCS)を用いて、常温暗所条件で、実施例及び比較例で作製したTFTの電気的測定を行った。IZO膜及びPMMA層の厚さは、X線反射率測定(XRR、Rigaku SmartLab、CuKα照射、λ=1.5416Å)により測定した。表面粗さは、原子間力顕微鏡(AFM、島津製作所製SPM-9700HT)を用いて測定した。特性測定の際は、YAGレーザーで封止材に貫通穴を形成して、銀ペーストを用いて導通を確保した。
【0078】
(TFT作製プロセスによる活性層の性能への影響評価)
比較例1~4で作製したTFTの伝達特性を測定し、TFT作製プロセスによる活性層の性能への影響を評価した。
【0079】
図7に、比較例1(PMMA単層)、比較例2(パリレン単層)、比較例3(AlOx単層)の封止材を含むTFT、及び比較例4の封止材を含まないTFTの伝達特性の測定結果を示す。
【0080】
比較例4(封止材無し)のTFTは、飽和移動度(μsat)が2.3cm2V-1s-1、オン/オフ電流比(Ion/Ioff)が約108、及びしきい値電圧(Vth)が2.0Vであった。この値が、比較の基準値となる。
【0081】
比較例1(PMMA単層)のTFTは、2.0cm2V-1s-1のμsat、Ion/Ioff≒108、1.7VのVth、無視できるほどのヒステリシス等の望ましい特性を示した。
【0082】
比較例2(パリレン単層)のTFTは、Vthが大きく負側にシフトした。これは、パリレン蒸着中の長時間の真空状態や、弱結合酸素原子と反応する可能性のあるパリレン源に由来する反応性ラジカル種が、非化学量論組成を有するIZO活性層に影響したためと考えられる。
【0083】
比較例3(AlOx単層)のTFTは、Vthが大きく負側にシフトした。比較例2(パリレン単層)のTFTよりも性能がさらに低下した。これは、高真空、高温(110℃)、反応種として水を使用する等のALD法の過酷な条件によると考えられる。このように、パリレンコーティングのプロセス及びALD法は、非化学量論組成を有するIZO活性層の特性を変化させた。
【0084】
(3層封止材の評価)
図8に、実施例2(PMMA層/パリレン層/AlOx層の3層)の封止材を含むTFT、及び比較例4の封止材を含まないTFTの伝達特性の測定結果を示す。
【0085】
比較例4のTFTと比較して、実施例2のTFTは実質的に同じ特性を示した。すなわち、ALD法によるAlOxの成膜時に、PMMA層/パリレン層の2層が、保護層として機能能したことが確認された。
【0086】
(水分に対する封止材の構成要素の評価)
比較例1(PMMA単層)のTFT、比較例4(封止材無し)のTFT、及び比較例5(PMMA/パリレンの2層)のTFTを、脱イオン水に15分間浸漬して風乾させた(以下、水処理という)。水処理した各TFTの伝達特性を測定して、防水特性を評価した。比較例4(封止材無し)のTFTの水処理前の特性を基準にして、評価した。
【0087】
図9に、比較例4(封止材無し)のTFTの水処理前後の特性、並びに比較例1(PMMA単層)のTFT及び比較例5(PMMA/パリレンの2層)のTFTの水処理後の特性を示す。
【0088】
比較例4(封止材無し)のTFTは、水処理により、バックチャネル層に大量の水が混入・残留したため、電荷ドナー及びトラップとして作用し、Vthシフトが大幅に負になり、大きなヒステリシスが観測された。
【0089】
比較例1(PMMA単層)のTFTは、Vthシフトが若干みられたが、ヒステリシスは無視できる程度であった。比較例5(PMMA/パリレンの2層)のTFTは、水処理前の比較例4(封止材無し)のTFTと実質的に同じ特性を示した。すなわち、PMMA/パリレン2層は水分に対して強い保護能力を有することが示され、ALD法による成膜プロセスにも保護能力を有することが分かる。パリレンの水分浸透率が低いため、AlOx蒸着時に、PMMA/パリレン2層がPMMA単層よりも優れたバッファ機能を有する。
【0090】
(バイアス応力安定性の評価)
実施例2(PMMA層/パリレン層/AlOx層の3層)のTFT、比較例1(PMMA単層)のTFT、比較例4(封止材無し)のTFT、及び比較例5(PMMA/パリレン2層)のTFTについて、室温(25℃)でのバイアス応力安定性を評価した。
図10に、バイアス応力安定性の測定結果を示す。
【0091】
バイアス応力安定性は、プロセス全体を通してドレイン電流(ID)を測定し、下記式3で定義する3700秒後のID低下率を算出して評価した。
【0092】
【数3】
式中、I
D(0)は初期ドレイン電流、I
D(t)はそれぞれの時間(t)にバイアスストレスをかけた後のI
Dである。
【0093】
ゲートバイアスを一定にした場合、どのTFTでもIDが徐々に低下する傾向がみられた。これは、下式:
O2(g)+e-(s)=2O-(s)
で表されるように、吸収した酸素が導電性ボンドから電子を奪い取ることができたためと考えられる。
【0094】
比較例4(封止材無し)のTFTは、ID低下率が67%であり、バイアス応力の安定性が最も悪かった。比較例1(PMMA単層)のTFTのID低下率は21%、比較例5(PMMA/パリレン2層)のTFTのID低下率は17%に抑えられた。特に、実施例2(PMMA層/パリレン層/AlOx層の3層)のTFTでは、ID低下率が大幅に抑制され、ID低下率は2%であった。
【0095】
(バイアス応力の前後のVthシフトの評価)
実施例2(PMMA層/パリレン層/AlOx層の3層)のTFT、比較例1(PMMA単層)のTFT、比較例4(封止材無し)のTFT、及び比較例5(PMMA/パリレン2層)のTFTについて、バイアス応力の前後で伝達特性を測定して、Vthシフト値(ΔVth)を見積もった。
図11に、バイアス応力の前後で伝達特性の測定結果を示す。
【0096】
図11(a)に示すように、比較例4(封止材無し)のTFTのΔVthは2.8Vであった。
図11(b)に示すように、比較例1(PMMA単層)のTFTのΔVthは0.7Vであった。
図11(c)に示すように、比較例5(PMMA/パリレン2層)のTFTのΔVthは0.8Vであった。
図11(d)に示すように、実施例2(PMMA層/パリレン層/AlOx層の3層)のTFTでは、ΔVthは0.2Vに抑制された。ALD法でAlOxを成膜したときに、PMMA/パリレンのバッファ層のバリア効果により、IZO活性層がダメージを受けなかったためである。
【0097】
(2層封止材の効果の評価)
図12に、比較例5(PMMA/パリレン2層)の封止材を含むTFT、及び比較例4の封止材を含まないTFTの伝達特性の測定結果を示す。
【0098】
比較例4(封止材無し)のTFTと比べて、比較例5(PMMA/パリレン2層)のTFTでは変化が少なかった。
図13に、比較例5と同様の条件で形成したPMMA層のX線反射率測定結果を示す。PMMA層の厚さがわずか13nmであるにもかかわらず、パリレン蒸着時のラジカルから、非化学量論組成を有するIZO活性層を効果的に保護できたことが分かる。
【0099】
図14に、実施例1と同様の条件で作製したIZO層のAFM測定像を示す。
図15に、実施例1と同様の条件で作製したIZO層上に形成したPMMA層のAFM測定像を示す。IZO層の表面粗さRMSは0.196nmであり、IZO層上に形成したPMMA層は、平坦でピンホールのない構造を有しており、表面粗さRMSは0.334nmであった。
【0100】
(酸素欠陥の濃度分布の分析)
図18に、実施例1と同様の方法で作製したAOS層(IZO膜)のO1sの角度分解XPSの測定結果を示す。
図18(a)は、傾斜角θを0°、40°、55°、63°、及び70°としたときの、AOS層のO1sの測定スペクトルをまとめたグラフである。
図18(b)~
図18(f)は、傾斜角θを0°、40°、55°、63°、及び70°として測定した測定スペクトルを、結合エネルギーが529.7eVにピークを持つM-O-M、531.1eVにピークを持つM-O(H)、及び532.0eVにピークを持つM-O-Rに分解及びフィッティングしたグラフである。
【0101】
Mは、InまたはZnを意味する。M-O-Mは、金属中心間を架橋している酸素を意味し、酸素欠陥がない化学量論組成の酸化物を意味する。M-O(H)は、金属中心間を架橋しない不対電子を持つ酸素または水酸基を意味し、M-O-Rは、金属中心に結合したH2O、CO2、アルコール等の有機物中の酸素を意味し、それぞれ酸素欠陥がある組成を意味する。
【0102】
図19、
図22及び表1に、上記フィッティングにより算出した、O1s全体に対するM-O-M(金属酸化物になっている状態)の割合(η
M-O-M)の角度依存性を示す。
【0103】
【0104】
傾斜角θが大きくなるほど表面選択的になり、AOS層の表面に近い組成を表す。AOS膜の内部はM-O-M結合の割合が約50%で一定であるが、AOS膜の表面に近いほどM-O-M結合の割合が少なくなり、約40%まで減少、すなわちM-O-M結合の割合は約20%減少した。このように、AOS層は、内部に比べて表面付近では酸素欠陥が多く、膜厚方向に不均一な化学組成を有することが示された。
図22において、横軸の5.5nmにおける3点は、AOS最表面から5.5nmまでの深さまでの各M-O種の積算値の割合であり、2.8nmにおける3点は最表面から2.8nmの深さまでのM-O種の積算値の割合である。
【0105】
(長期間放置後の特性評価)
図23に、実施例2で作製したW/L=200μm/10μmのTFTデバイスを、作製直後に測定した初期特性及び大気中に20ヶ月放置後の特性を評価したグラフを示す。20ヶ月放置後において若干の変化がみられたが、初期特性及び20ヶ月放置後において、実質的に同じ特性を示し、良好な長期安定性を有することが分かった。