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特開2022-130315触媒、触媒の製造方法、不飽和化合物の製造方法、及びエポキシ化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130315
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】触媒、触媒の製造方法、不飽和化合物の製造方法、及びエポキシ化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 31/04 20060101AFI20220830BHJP
   B01J 37/10 20060101ALI20220830BHJP
   C07C 205/04 20060101ALI20220830BHJP
   C07C 201/12 20060101ALI20220830BHJP
   C07C 69/716 20060101ALI20220830BHJP
   C07C 67/313 20060101ALI20220830BHJP
   C07C 49/517 20060101ALI20220830BHJP
   C07C 45/64 20060101ALI20220830BHJP
   C07D 301/12 20060101ALI20220830BHJP
   C07D 303/12 20060101ALI20220830BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220830BHJP
【FI】
B01J31/04 Z
B01J37/10
C07C205/04
C07C201/12
C07C69/716 Z
C07C67/313
C07C49/517
C07C45/64
C07D301/12
C07D303/12
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022015578
(22)【出願日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2021028522
(32)【優先日】2021-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】原 孝佳
(72)【発明者】
【氏名】一國 伸之
(72)【発明者】
【氏名】君村 彩香
(72)【発明者】
【氏名】逆井 佑介
(72)【発明者】
【氏名】横川 直希
(72)【発明者】
【氏名】下川 隆一
(72)【発明者】
【氏名】川上 公徳
(72)【発明者】
【氏名】堤内 出
【テーマコード(参考)】
4C048
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4C048AA04
4C048BB01
4C048BC16
4C048CC01
4C048UU10
4C048XX02
4C048XX05
4G169AA04
4G169AA08
4G169BA01A
4G169BA02A
4G169BA02B
4G169BA03A
4G169BA15B
4G169BA21B
4G169BA47A
4G169BB04A
4G169BB06B
4G169BC30A
4G169BC31A
4G169BC34A
4G169BC35A
4G169BC35B
4G169BC43B
4G169BC57A
4G169BC61A
4G169BC65A
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169BC69A
4G169BD01B
4G169BD02B
4G169BD04B
4G169BE08B
4G169CB25
4G169CB62
4G169CB63
4G169CB72
4G169CB73
4G169CB78
4G169DA06
4G169EC25
4G169FA01
4G169FA02
4G169FB10
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC21
4H006AC43
4H006AC51
4H006BA07
4H006BA21
4H006BA29
4H006BA32
4H006BB11
4H006BB20
4H006BE32
4H039CA61
4H039CC40
(57)【要約】
【課題】固定床反応器における触媒として利用できる層状複塩基性塩を提供する。
【解決手段】互いに異なる2価の金属元素であるM1及びM2を含有する固体塩基性化合物と、担体とを含む触媒であって、CuKα線を用いた前記触媒のX線回折パターンにおいて、2θがd1°、ピーク強度がI1であるピークP1と、2θが(d1×2±0.2)°、ピーク強度がI2であるピークP2とを有し、3≦d1≦10を満たし、I1/I2が1以上であり、前記触媒におけるM1及びM2の合計の含有率が10~45重量%となるように、前記固体塩基性化合物が前記担体に担持されている、触媒。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる2価の金属元素であるM1及びM2を含有する固体塩基性化合物と、担体とを含む触媒であって、
CuKα線を用いた前記触媒のX線回折パターンにおいて、
2θがd1°、ピーク強度がI1であるピークP1と、
2θが(d1×2±0.2)°、ピーク強度がI2であるピークP2と
を有し、
3≦d1≦10を満たし、
I1/I2が1以上であり、
前記触媒におけるM1及びM2の合計の含有率が10~45重量%となるように、前記固体塩基性化合物が前記担体に担持されている、触媒。
【請求項2】
前記固体塩基性化合物が下記式(I)で表される組成を有する、請求項1に記載の触媒。
[M11-xM22x(OH)][An- 2x/n・yHO] (I)
式(I)中、M1及びM2は互いに異なる2価の金属元素を示し、An-はn価のアニオンを示す。また、xは0<x<1を満たし、yは正の実数を示し、nは自然数を示す。
【請求項3】
前記担体が金属酸化物である、請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項4】
前記金属酸化物がケイ素酸化物及びアルミニウム酸化物からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項3に記載の触媒。
【請求項5】
前記M1及び前記M2が周期表第4周期6族から12族の金属元素である、請求項1~4のいずれか1項に記載の触媒。
【請求項6】
前記M1及び前記M2がニッケル、亜鉛又は銅である、請求項1~5のいずれか1項に記載の触媒。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の触媒の製造方法であって、前記担体の存在下で水熱合成することにより前記固体塩基性化合物を製造する工程を含む、触媒の製造方法。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の触媒の存在下で不飽和化合物を製造する工程を含む、不飽和化合物の製造方法。
【請求項9】
前記触媒が固定床反応器に充填されている、請求項8に記載の不飽和化合物の製造方法。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか1項に記載の触媒の存在下でエポキシ化合物を製造する工程を含む、エポキシ化合物の製造方法。
【請求項11】
前記触媒が固定床反応器に充填されている、請求項10に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒、触媒の製造方法、不飽和化合物の製造方法、及びエポキシ化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粘土鉱物、水酸燐灰石、ハイドロタルク石に代表される層状化合物は、フィラー、触媒、吸着材、化粧品・医薬品、セラミック、土木建設材料等様々な用途で利用される。層状化合物は層及び層間でイオン対を形成しており、その特異的な性質を生かした触媒反応が数多く開発されている。特に層がカチオン、層間にアニオンを有する層状化合物は固体塩基性を示すことから、塩基性触媒として利用されている(非特許文献1)。
【0003】
固体塩基性を示す層状化合物としては、2価の金属と3価の金属の水酸化物とが複合して積層構造を形成した、層状複水酸化物と呼ばれる化合物が広く研究されている(非特許文献2)。しかし層状複水酸化物において塩基性触媒として機能する箇所は、固体表面や層の端に限られている。
そこで、塩基性触媒としてより有効に機能させるため、2種類の以上の2価の金属の水酸化物が複合して積層構造を形成した固体塩基性化合物(以下、層状複塩基性塩とも称する。)を用いる方法が検討されている(非特許文献3および4)。層状複塩基性塩は層内の塩基性点を有効に利用できる固体塩基性触媒としての利用が期待されている。
【0004】
非特許文献1には層状複塩基性塩の合成法について記載されている。また、非特許文献2には層状複塩基性塩を触媒として用いた環状エノン類のエポキシ化反応について記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Nagendrappa,G.、“Organic synthesis using clay and clay-supported catalysts”、Applied Clay Science、2011年8月、第53巻、第2号、p.106-138
【非特許文献2】Fan,G.,外3名、“Catalytic applications of layered double hydroxides: recent advances and perspectives”、Chemical Society Reviews、2014年10月21日、第43巻、p.7040-7066
【非特許文献3】Yamanaka,S.,外2名、“New anion exchangeable layered mixed basic salt, Ni1-xZn2x(OH)2(OCOCH3)2x・nH2O”、Materials Research Society Symposium Proceedings、1995年、第371巻、p.131-142
【非特許文献4】Hara,T.,外3名、“Epoxidation of cyclic enones with hydrogen peroxide catalysed by alkylcarboxylate-intercalated Ni-Zn mixed basic salts”、Catalysis Science & Technology、2015年、第5巻、p.578-583
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
層状複塩基性塩を工業的に利用するためには、生成物を連続生産できる固定床反応器において使用できる触媒であることが求められる。しかしこれまで、固定床反応器における触媒として層状複塩基性塩を用いることについては検討されていなかった。
固定床反応器における触媒として層状複塩基性塩を用いた場合、層状複塩基性塩が溶媒を層間に取り込んで膨潤することにより、固定床反応器の圧力損失が増加してしまう。その結果、原料供給に必要なエネルギーが増加する、反応器の流路が閉塞して通液できなくなる等の課題があった。このように、従来の層状複塩基性塩は、工業的に用いる上での課題があることがわかった。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、固定床反応器の触媒として用いた際の圧力損失を低減できる触媒、触媒の製造方法、不飽和化合物の製造方法、及びエポキシ化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の含有率で担体に担持された層状複塩基性塩を用いることで上記目的を達成できることを知得し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下の様態を含む。
【0009】
[1] 互いに異なる2価の金属元素であるM1及びM2を含有する固体塩基性化合物と、担体とを含む触媒であって、
CuKα線を用いた前記触媒のX線回折パターンにおいて、
2θがd1°、ピーク強度がI1であるピークP1と、
2θが(d1×2±0.2)°、ピーク強度がI2であるピークP2と
を有し、
3≦d1≦10を満たし、
I1/I2が1以上であり、
前記触媒におけるM1及びM2の合計の含有率が10~45重量%となるように、前記固体塩基性化合物が前記担体に担持されている、触媒。
[2] 前記固体塩基性化合物が下記式(I)で表される組成を有する、[1]に記載の触媒。
[M11-xM22x(OH)][An- 2x/n・yHO] (I)
式(I)中、M1及びM2は互いに異なる2価の金属元素を示し、An-はn価のアニオンを示す。また、xは0<x<1を満たし、yは正の実数を示し、nは自然数を示す。
[3] 前記担体が金属酸化物である、[1]又は[2]に記載の触媒。
[4] 前記金属酸化物がケイ素酸化物及びアルミニウム酸化物からなる群から選択される少なくとも1種である、[3]に記載の触媒。
[5] 前記M1及び前記M2が周期表第4周期6族から12族の金属元素である、[1]~[4]のいずれかに記載の触媒。
[6] 前記M1及び前記M2がニッケル、亜鉛又は銅である、[1]~[5]のいずれかに記載の触媒。
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の触媒の製造方法であって、前記担体の存在下で水熱合成することにより前記固体塩基性化合物を製造する工程を含む、触媒の製造方法。
[8] [1]~[6]のいずれかに記載の触媒の存在下で不飽和化合物を製造する工程を含む、不飽和化合物の製造方法。
[9] 前記触媒が固定床反応器に充填されている、[8]に記載の不飽和化合物の製造方法。
[10] [1]~[6]のいずれかに記載の触媒の存在下でエポキシ化合物を製造する工程を含む、エポキシ化合物の製造方法。
[11] 前記触媒が固定床反応器に充填されている、[10]に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、固定床反応器の触媒として用いた際の圧力損失を低減できる触媒、触媒の製造方法、不飽和化合物の製造方法、及びエポキシ化合物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定はされない。
【0012】
[触媒]
本発明の実施形態に係る触媒(以下「本実施形態の触媒」とも記す。)は、互いに異なる2価の金属元素であるM1及びM2を含有する固体塩基性化合物と、担体とを含む。
本実施形態の触媒は、CuKα線を用いた触媒のX線回折パターンにおいて、2θがd1°であり、ピーク強度がI1であるピークP1と、2θが(d1×2±0.2)°であり、ピーク強度がI2であるピークP2とを有する。ここで、d1は3≦d1≦10を満たし、I1及びI2はI1/I2≧1を満たす。
本実施形態の触媒のX線回折パターンにおけるピークP1及びピークP2は、固体塩基性化合物に由来するピークである。ピークP1及びピークP2が規定の2θ及びピーク強度を満たす場合、固体塩基性化合物が塩基性触媒として有効に機能する。
【0013】
d1は固体塩基性化合物の層間距離に由来する値であり、d1が増加すると層間距離が減少し、d1が減少すると層間距離が増加していることを意味する。d1が3≦d1≦10を満たす場合、層間に基質を取り込みやすく、かつ基質と層内の塩基性点が有効に作用する層間距離であることを意味する。d1の下限は5以上であることが好ましい。
また、I1/I2はピークP2に対するピークP1の強度比を示す。I1/I2は1以上であり、3以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましい。
【0014】
本実施形態の触媒のX線回折パターンは、触媒を粉状として測定したものとする。測定条件としては、線源:CuKα線(λ=1.5418Å)、管電圧:40kV、管電流:15mA、長手制限スリット:10.0mm、発散スリット:0.625deg、散乱防止スリット:13.0mm、受光スリット:13.0mmとし、NiKβフィルターによって単色化したものとする。測定は、株式会社リガク社製の「商品名:MiniFlex600」等を用いることができる。得られたデータは、株式会社リガク社製「商品名:MiniFlex Guidance」等のX線回折装置用データ収集ソフトウエアを用いて、Kα2線の除去操作を実施するものとする。
【0015】
なお、本実施形態の触媒が充足するX線回折パターンは、固体塩基性化合物が有する2価の金属元素の種類及び含有量、担体の種類、層間に含まれるアニオン(式(I)中のAn-)などを適宜調整することで、上記所望の範囲とすることができる。
【0016】
また、本実施形態の触媒は、触媒における前記M1及び前記M2の合計の含有率が10~45重量%となるように、前記固体塩基性化合物が担体に担持されている。
前記M1及び前記M2の合計の含有率が10重量%以上であると、固体塩基性触媒として有効に機能する。また、前記M1及び前記M2の合計の含有率が45重量%以下であると、触媒の膨潤の抑制効果を十分に得ることができる。本実施形態の触媒における前記M1及び前記M2の合計の含有率の下限は、15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましい。また、本実施形態の触媒における前記M1及び前記M2の合計の含有率の上限は、40重量%以下であることが好ましい。
【0017】
なお、前記M1及び前記M2の合計の含有率は、下記の通り触媒を原子吸光法で分析することで算出できる。まず、500mLメスフラスコに触媒0.01gを精秤し、濃塩酸1mLを加えて8時間以上静置して触媒を溶解させる。その後、純水を加えて500mLに調整し、原子吸光分光光度計で、Ni232.0nm、Zn213.9nmの測定波長を用いて測定を行う。装置はThermo Elemental社製SOLAAR AA seriesS4等を用いることができる。
【0018】
また、本実施形態の触媒において、固体塩基性化合物が担体に担持されていることは、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM,Scanning Electron Microscope)を用いて確認することができる。固体塩基性化合物が担体に担持されている場合、触媒における担体の表面に、担体と異なる粒子径の物質が観察される。触媒のSEM測定は、触媒に対してPtコーティングを行ったのち、日本電子社製JSM-6510等の装置を用いて行うことができる。Ptコーティングは、日本電子社製JFC-1600等を用いて行うことができる。
【0019】
<固体塩基性化合物>
本実施形態の触媒における固体塩基性化合物は、互いに異なる2価の金属元素であるM1及びM2を含有し、上述の通り、X線回折パターンにおいてピークP1及びピークP2を有する。
2価の金属元素であるM1及びM2としては、積層構造を安定して形成させる観点から、周期表(https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/periodic-table/)第4周期6族から12族の金属元素であることが好ましく、ニッケル、亜鉛又は銅であることがより好ましい。
なお、周期表第4周期6族から12族の金属元素としては、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、及び亜鉛(Zn)が挙げられる。
【0020】
また、本発明における固体塩基性化合物は、下記式(I)で表される組成を有することが好ましい。
[M11-xM22x(OH)][An- 2x/n・yHO] (I)
式(I)中、M1及びM2は互いに異なる2価の金属元素を示し、An-はn価のアニオンを示す。また、xは0<x<1を満たし、yは正の実数を示し、nは自然数を示す。
【0021】
n価のアニオンであるAn-は、その大きさによって固体塩基性化合物における層間距離を調整することができる。層間距離に応じて、基質の固体塩基性化合物の取り込まれやすさが異なるため、適用する反応に応じて適宜An-を選択することで、固体塩基性化合物を触媒として有効に機能させることができる。An-としては、入手容易性の観点から、17族元素のアニオン若しくはオキソアニオン、カルボン酸類、ジカルボン酸類、又は負電荷を有する金属錯体であることが好ましく、F、Cl、Br、I、CO 2-、SO 2-、PO 2-、ClO 2-、RCOO(R=C2m+1、ただし0≦m<20)、R’(COO) 2-(R’=C2i+1、ただし0≦i<20)であることがより好ましい。
なお、17族元素としては、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、及びヨウ素(I)等のハロゲン元素が挙げられる。
【0022】
xは0.05~0.45であることが好ましい。xが0.05以上であることにより、固体塩基性化合物が固体塩基性触媒として有効に機能する。また、xが0.45以下であることにより、積層構造を安定して形成できる。xの下限は0.1以上であることがより好ましく、0.15以上であることがさらに好ましい。また、xの下限は0.4以下であることがより好ましく、0.35以下であることがさらに好ましい。y及びnの値は特に制限されないが、一般的にyは0~10、nは1~4の範囲の値となる。
【0023】
<担体>
担体としては、化学的に安定な化合物であれば特に限定されないが、金属酸化物であることが好ましい。これにより、担体の表面に存在する酸点と固体塩基性化合物とが静電的に相互作用するため、効率的に担持される。前記金属酸化物としては、ケイ素酸化物及びアルミニウム酸化物からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0024】
[触媒の製造方法]
本実施形態の触媒の製造方法としては、前記担体の存在下で水熱合成することにより前記固体塩基性化合物を製造する工程(以下、水熱合成工程とも称する。)を含むことが好ましい。これにより、担体上で固体塩基性化合物を均一に積層させることができる。
【0025】
<水熱合成工程>
水熱合成工程では、M1及びM2の原料化合物、担体及び溶媒を密閉された反応容器中で加熱することで、担体に担持された固体塩基性化合物を製造する。
【0026】
(M1及びM2の原料化合物)
M1及びM2の原料化合物としては、M1及びM2のカルボン酸塩、酸化物、水酸化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硫化物、炭酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩等が挙げられる。これらの中でも、触媒を容易に合成できる観点から、カルボン酸塩、酸化物、水酸化物を用いることが好ましい。また、積層構造の層間距離を制御する観点から、カルボン酸塩を用いることがより好ましい。M1及びM2の原料化合物は、M1及びM2の合計の濃度が0.01~10mol/Lとなるように用いることが好ましい。濃度が0.01mol/Lであることにより、製造される固体塩基性化合物の結晶構造が安定する。また、濃度が10mol/L以下であることにより、溶媒に容易に溶解する。濃度の下限は0.1mol/L以上であることがより好ましく、0.5mol/L以上であることがさらに好ましい。また、濃度の上限は5mol/Lであることがより好ましく、2.5mol/L以下であることがさらに好ましい。
【0027】
(担体)
担体としては、上述の化合物を用いることができる。具体的には、シリカ、アルミナ、及びセライト等の珪藻土等を用いることができる。
(溶媒)
溶媒としては、通常は水が用いられるが、必要に応じて有機溶媒を水と共存させて用いてもよい。有機溶媒としては、有機合成反応において一般的に用いられるものであれば特に制限されず、メタノール、エタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類等が挙げられる。
【0028】
(反応容器)
反応容器としては、例えば、ガラス製、ステンレス(SUS)製、鉄製、その他金属製のものを用いることができる。これらの中でも、腐食耐性の観点から、ステンレス(SUS)製、又は内部がテフロンコーディングされた金属製の反応容器を用いることが好ましい。
【0029】
(加熱条件)
加熱温度は100~250℃であることが好ましい。加熱温度が100℃以上であることにより、製造される固体塩基性化合物の結晶構造が安定する。また、加熱温度が250℃以下であることにより、製造される固体塩基性化合物及び担体の分解を抑制できる。加熱温度の下限は120℃以上であることがより好ましく、140℃以上であることがさらに好ましい。また、加熱温度の上限は240℃以下であることがより好ましく、220℃以下であることがさらに好ましい。
前記加熱温度において、通常0.5~168時間、好ましくは1~24時間保持することで、担体に担持された固体塩基性化合物を製造することができる。なお保持する時間は、M1及びM2の含有量、加熱温度、溶媒の種類等によって適宜調整することができる。
【0030】
<固体塩基性化合物の回収及び洗浄>
前記水熱合成工程により得られた固体塩基性化合物は、ろ過等の手段によって固形物として回収される。回収された固形物を触媒として用いることもできるが、溶媒によって洗浄したものを触媒として用いてもよい。これにより、固体塩基性化合物の結晶構造に含まれない、余分な成分を取り除くことができる。
洗浄に用いる溶媒としては、水、又はメタノール、エタノール、オクタノール若しくはドデカノール等のアルコール類等が好ましく、水がより好ましい。洗浄方法としては、触媒に前記の溶媒を加えてろ過する方法やソックスレー抽出法等を用いることができ、溶媒を効率的に使用できる観点からソックスレー抽出を用いることが好ましい。
【0031】
[不飽和化合物及びエポキシ化合物の製造方法]
本実施形態の触媒は固体塩基性触媒として有効に機能し、例えば、ヘンリー反応、アザヘンリー反応、マイケル付加、エポキシ化反応、アルドール反応、ロビンソン環化反応、ベンゾイン縮合等の反応に利用できることから、不飽和化合物やエポキシ化合物の製造に好適に使用される。
【0032】
<不飽和化合物の製造方法>
本発明の別の実施形態に係る不飽和化合物の製造は、上記触媒の存在下で、求核攻撃を受ける基質と求核材として作用する基質を反応させることで進行する。求核攻撃を受ける基質としては例えば、カルボニル化合物、イミン化合物、ニトリル化合物が挙げられる。求核材として作用する基質としては例えば、カルボニル化合物、イミン化合物、アルコール化合物、ニトロ化合物、ニトリル化合物が挙げられる。
【0033】
ここでカルボニル化合物とは、カルボニル基(C=O二重結合)を一つのみ有するものに限らず、カルボニル基を2つ以上有する有機化合物をも内包する広義のカルボニル化合物を示す。カルボニル化合物としては、炭素数2以上のカルボニル化合物、不飽和カルボニル化合物、環状カルボニル化合物、芳香族カルボニル化合物のいずれであってもよく、例えばアセトアルデヒド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルビニルケトン、2-メチルアセト酢酸エチル、2-メチルアセト酢酸メチル、シクロヘキサノン、シクロヘキセノン、ベンゾフェノン、アセトフェノン、アセトアルデヒドが挙げられる。
【0034】
また、イミン化合物とは、カルボニル基(C=N二重結合)を一つのみ有するものに限らず、イミン基を2つ以上有する有機化合物をも内包する広義のイミン化合物を示す。イミン化合物としては炭素数2以上のイミン化合物、不飽和イミン化合物、環状イミン化合物、芳香族イミン化合物のいずれであってもよく、また、置換基を有していてもよい。イミン化合物としては、例えばN-メチリデンアニリン、N-エチリデンアニリン、N-プロピリデンアニリン、N-ブチリデンアニリン、シクロヘキサンイミン、N-シクロヘキシリデンアニリン、ベンジリデン、ベンゾフェノンイミン、メチルフェニルイミン、フェニルイミン、N-ベンジリデンメチルアミン、ベンジリデンアニリンが挙げられる。
【0035】
アルコール化合物としては、炭素数1以上のアルコール化合物、不飽和アルコール化合物、環状アルコール化合物、フェノール化合物のいずれであってもよく、また、置換基を有していてもよい。アルコール化合物としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、オクタノール、ドデカノール、シクロヘキサノール、アリルアルコール、フェノールが挙げられる。
【0036】
ニトロ化合物としては炭素数1以上のニトロ化合物、不飽和ニトロ化合物、環状ニトロ化合物、芳香族ニトロ化合物のいずれであってもよく、また、置換基を有していてもよい。ニトロ化合物としては、例えばニトロメタンが挙げられる。
ニトリル化合物としては、炭素数2以上のニトリル化合物、不飽和ニトリル化合物、環状ニトリル化合物、芳香族ニトリル化合物のいずれであってもよく、また、置換基を有していてもよい。ニトリル化合物としては、例えばアセトニトリル、アクリロニトリル、ベンゾニトリル、アジポニトリルが挙げられる。
【0037】
本実施形態に係る不飽和化合物の製造は無溶媒で行ってもよいし、必要に応じて、反応に悪影響を与えない種類の溶媒を使用してもよい。溶媒としては特に制限されないが、具体的には、水;メタノール、エタノール、オクタノール、ドデカノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン等のケトン類;ベンゼン、トルエン、トリフルオロトルエン等の芳香族化合物類;アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ピリジン、ジメチルスルホキシド等の含窒素化合物、含硫黄化合物類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;その他、ヘキサン、シクロヘキサン、デカリン等の炭化水素類が挙げられる。好ましくは、水、ジメチルホルムアミド又はヘキサンである。これらの溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0038】
本実施形態に係る不飽和化合物の製造の反応温度は、10℃以上150℃以下が好ましい。反応温度が10℃以上であることにより、短い反応時間で不飽和化合物を製造することができる。また、反応温度が150℃以下であることにより、副生物量を低減して不飽和化合物の収率を向上させ、さらに触媒の劣化を抑制することができる。反応温度の下限は30℃以上がより好ましい。また、反応温度の上限は130℃以下がより好ましく、110℃以下がさらに好ましい。
【0039】
<エポキシ化合物の製造方法>
本発明の別の実施形態に係るエポキシ化合物の製造は、上記触媒の存在下で、オレフィン化合物と酸化剤を基質として用いることで進行する。
ここでオレフィン化合物とは、二重結合を一つのみ有するものに限らず、二重結合を2つ有する有機化合物をも包含する広義のオレフィン化合物を示す。オレフィン化合物としては、炭素数2以上の末端オレフィン、内部オレフィン及び環状オレフィンのいずれでもよく、また、置換基を有していてもよい。オレフィン化合物としては、例えばエチレン、プロピレン、1-ブテン、2-ブテン、1-ヘキセン、2-エチル-1-ヘキセン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、プロピレントリマー、プロピレンテトラマー、ブテンダイマー、ブテントリマー、シクロヘキセン、シクロオクテン、ブタジエン、ペンタジエン、ヘキサジエン、オクタジエン、デカジエン、リモネン、メチルビニルケトン、シクロヘキセノンが挙げられる。
酸化剤としては、例えば酸素や過酸化物を用いることができる。
【0040】
本実施形態に係るエポキシ化合物の製造は無溶媒で行ってもよいし、必要に応じて、反応に悪影響を与えない種類の溶媒を使用してもよい。溶媒としては、に制限されないが、具体的には、水;ベンゼン、トルエン、トリフルオロトルエン等の芳香族化合物類;アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ピリジン、ジメチルスルホキシド等の含窒素化合物、含硫黄化合物類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;その他、ヘキサン、シクロヘキサン、デカリン等の炭化水素類が挙げられる。好ましくは、水、ジメチルホルムアミド又はヘキサンである。これらの溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0041】
本実施形態に係るエポキシ化合物の製造の反応温度は、10℃以上100℃以下が好ましい。反応温度が10℃以上であることにより、短い反応時間でエポキシ化合物を製造することができる。また、反応温度が100℃以下であることにより、副生物量を低減してエポキシ化合物の収率を向上させ、さらに触媒の劣化を抑制することができる。反応温度の下限は20℃以上がより好ましい。また、反応温度の上限は90℃以下がより好ましく、70℃以下がさらに好ましい。
【0042】
<固定床反応器を用いた製造>
本実施形態の触媒は、回分式反応器、流動床反応器、固定床反応器のいずれにおいても用いることができるが、生成物を連続生産する観点から、特に固定床反応器に充填して用いることが好ましい。
【0043】
本実施形態の触媒を固定床反応器に充填して用いる場合、触媒層の空搭体積から計算した滞留時間が0.01~2時間となるように原料を流通させることが好ましい。滞留時間が0.01時間以上であることにより、反応における圧力損失を十分に低減することができる。また、滞留時間が2時間以下であることにより、単位時間あたりの生成物の製造量が向上する。滞留時間の下限は0.05時間がより好ましい。また、滞留時間の上限は1時間以下がより好ましく、0.5時間以下がさらに好ましい。
【0044】
固定床反応器は、ガラス製、ステンレス(SUS)製、鉄製、その他金属製のものを用いることができる。これらの中でも、腐食耐性及びエネルギー伝達効率の観点からガラス製又はステンレス(SUS)製の反応器を用いることが好ましい。
【実施例0045】
以下に、実施例により本発明の実施形態をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
[M1及びM2の合計の含有率の測定]
触媒におけるM1及びM2の合計の含有率は、触媒を原子吸光法により分析することで算出した。まず、500mLメスフラスコに触媒0.01gを精秤し、濃塩酸1mLを加えて8時間以上静置して触媒を溶解させた。その後、純水を加えて500mLに調整し、原子吸光分光光度計で測定を行うことでM1及びM2の含有率を算出した。装置はThermo Elemental社製SOLAAR AA seriesS4を用い、測定波長はNi232.0nm、Zn213.9nmを用いた。
なお、ろ過等の手段により固形物を回収する場合は、一部の金属成分がろ液側に溶出するため、原料の仕込み比から算出される含有率と、得られた触媒について上述の分析を行って算出される含有率は必ずしも一致しない。
【0047】
[X線回折パターンの測定]
触媒のX線回折パターンは、触媒を粉状として、株式会社リガク社製の「商品名:Mififlex600」を用いて測定した。測定条件としては、線源:CuKα線(λ=1.5418Å)、管電圧:40kV、管電流:15mA、長手制限スリット:10.0mm、発散スリット:0.625deg、散乱防止スリット:13.0mm、受光スリット:13.0mmとし、NiKβフィルターによって単色化した。得られたデータは、株式会社リガク社製「商品名:MiniFlex Guidance」等のX線回折装置用データ収集ソフトウエアを用いて、Kα2線の除去操作を実施した。
【0048】
[SEM測定]
触媒のSEM測定は、触媒に対してPtコーティングを行った後、日本電子社製JSM-6510を用いて行った。Ptコーティングは、日本電子社製JFC-1600を用いて行った。
【0049】
[圧力損失の測定]
圧力損失は、下記の方法で測定した。まず、フラスコ内に触媒及びエタノール5mLを加え、得られた分散溶液を、ステンレス製パッカーを接続したステンレス製カラム(φ6mm×150mm)に充填した。なお触媒は、触媒中の固体塩基性化合物が0.5gとなるように加えた。次いでHPLCポンプ(株式会社島津製作所製、LC-20AT)を用い、エタノールを15MPaの液圧にて10分間カラムに通液させた。次いでHPLCポンプの流量を1mL/min、0.5mL/min及び0.1mL/minに設定した場合について、HPLC通液圧力を測定した。
【0050】
[生成物の分析]
生成物である不飽和化合物及びエポキシ化合物の分析は、ガスクロマトグラフィー(装置:島津製作所社製GC-2010、カラム:Restek Rtx-5MSキャピラリーカラム、カラム長:30m、内径:0.25mm、膜厚:0.25μm)若しくは液体クロマトグラフィー(装置:島津製作所社製:LC-20シリーズ、検出器:島津製作所社製LC-20A、カラム:ナカライテスク社製COSMOSIL Packed Column 5C18-MS-II、カラム長:100mm、内径:4.6mm、温度:40℃、展開溶媒:CHCN:HO=1:1、流量:1mL/min)を用いて行った。ガスクロマトグラフィー若しくは液体クロマトグラフィーの結果から、不飽和化合物及びエポキシ化合物の収率を求めた。
【0051】
<実施例1>
Ni(AcO)・4HO(和光純薬特級)11.67g及びZn(AcO)・2HO(和光純薬特級)5.07gを、蒸留水70mLに溶解させた。得られた水溶液と、担体としてセライト(登録商標、富士フイルム和光純薬株式会社製)1.0gを、内部がテフロン(登録商標)コーティングされたステンレス製オートクレーブに密閉し、200Cで24時間保持して水熱合成を行い、M1及びM2としてNi及びZnを含有する固体塩基性化合物を含む懸濁液を得た。次いで、得られた懸濁液を吸引ろ過して固体塩基性化合物を回収し、これを触媒とした。
得られた触媒のSEM観察により、固体塩基性化合物が担体に担持されていることを確認した。触媒におけるXRD回折パターン、並びにM1及びM2の合計の含有率を表1に、固体塩基性化合物の組成比及び圧力損失を表2に、それぞれ示す。
【0052】
続いて、得られた触媒を用いて下記の通り、不飽和化合物としてニトロジフェニルエチレン及びエチル-2-アセチル-2-メチル-5-オキソヘキサノエート、並びにエポキシ化合物として2,3-エポキシシクロヘキサン-1-オンの製造を行った。
【0053】
(回分式反応器によるニトロジフェニルエチレンの製造)
フラスコに触媒0.1g、ベンゾフェノンイミン1mmol及びニトロメタン2mLを加え、90℃で24時間保持することで反応を行った。得られたニトロジフェニルエチレンの収率を表3に示す。
【0054】
(固定床反応器によるニトロジフェニルエチレンの製造)
フラスコに触媒及びエタノール5mLを加え、得られた分散溶液を、ステンレス製パッカーを接続したステンレス製カラム(φ6mm×150mm)に充填した。なお触媒は、触媒中の固体塩基性化合物が0.5gとなるように加えた。
次いで、HPLCポンプ(株式会社島津製作所製、LC-20AT)を用い、エタノールを15MPaの液圧にて10分間カラムに通液させた。その後、ニトロメタンを15MPaの液圧にて10分間カラムに通液させた。その後、触媒が充填されたステンレス管を90℃に保温し、ベンゾフェノンイミンのニトロメタン溶液(0.3mol/L、流速0.1mL/min)を通液させることで反応を行った。この際の流通液圧は0.1MPaであり、触媒の膨潤によるステンレス管の閉塞は見られなかった。出口組成が時間によらず一定となったことをHPLCにて確認した後、分取した出口溶液をHPLCで定量分析を行った結果、ニトロジフェニルエチレンが収率12%で得られた。
【0055】
(回分式反応器によるエチル-2-アセチル-2-メチル-5-オキソヘキサノエートの製造)
フラスコに触媒0.1g、2-メチルアセト酢酸エチル1mmol、メチルビニルケトン1.5mmol及びn-ヘキサン5mLを加え、50℃で6時間保持することで反応を行った。得られたエチル-2-アセチル-2-メチル-5-オキソヘキサノエートの収率を表3に示す。
【0056】
(回分式反応器による2,3-エポキシシクロヘキサン-1-オンの製造)
フラスコに触媒0.05g、シクロヘキセノン0.5mmol、ジメチルホルムアミド2mL及び30%過酸化水素水溶液2.0mmolを加え、60℃で1時間保持して反応を行った。得られた2,3-エポキシシクロヘキサン-1-オンの収率を表3に示す。
【0057】
<実施例2~3>
セライトの使用量を表1に示す通り変更した以外は、実施例1と同様の方法で触媒を得た。
得られた触媒のSEM観察を行い、固体塩基性化合物が担体に担持されていることを確認した。触媒におけるXRD回折パターン、並びにM1及びM2の合計の含有率を表1に、固体塩基性化合物の組成比及び圧力損失を表2に、それぞれ示す。
【0058】
<実施例4~6>
担体としてキャリアクトQ-3(富士シリシア化学株式会社)を用い、使用量を表1に示す通り変更した以外は、実施例1と同様の方法で固体塩基性化合物を回収した。得られた固体塩基性化合物を、円筒ろ紙を用いて純水で12時間ソックスレー洗浄を行い、触媒を得た。
得られた触媒のSEM観察を行い、固体塩基性化合物が担体に担持されていることを確認した。触媒におけるXRD回折パターン、並びにM1及びM2の合計の含有率を表1に、固体塩基性化合物の組成比及び圧力損失を表2に、それぞれ示す。
【0059】
続いて、実施例6において得られた触媒を用いて、実施例1と同様の方法により回分式反応器によるニトロジフェニルエチレン、エチル-2-アセチル-2-メチル-5-オキソヘキサノエート、及び2,3-エポキシシクロヘキサン-1-オンの製造を行った。ニトロジフェニルエチレン、エチル-2-アセチル-2-メチル-5-オキソヘキサノエート、及び2,3-エポキシシクロヘキサン-1-オンの収率を表3に示す。
【0060】
<比較例1>
セライトを用いなかった以外は、実施例1と同様の方法で固形物を得た。得られた固形物を、円筒ろ紙を用いて純水で12時間ソックスレー洗浄を行い、触媒を得た。
得られた触媒のSEM観察を行い、固体塩基性化合物が担体に担持されていなかったことを確認した。触媒におけるXRD回折パターン、並びにM1及びM2の合計の含有率を表1に、固体塩基性化合物の組成比及び圧力損失を表2に、それぞれ示す。
【0061】
<比較例2>
比較例1と同様の方法で得られた触媒0.5gと、担体としてセライト0.5を物理混合したものを触媒とした。
得られた触媒のSEM観察を行い、固体塩基性化合物が担体に担持されていなかったことを確認した。触媒におけるXRD回折パターン、並びにM1及びM2の合計の含有率を表1に、固体塩基性化合物の組成比及び圧力損失を表2に、それぞれ示す。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
<触媒製造例1~5>
担体としてAlu-C(日本アエロジル株式会社)を用い、使用量を表1に示す通り変更した以外は、実施例1と同様の方法で固体塩基性化合物を回収し、触媒を得た。
得られた触媒のSEM観察により、固体塩基性化合物が担体に担持されていることを確認した。触媒におけるXRD回折パターン、並びにM1及びM2の合計の含有率を表4に、固体塩基性化合物の組成比を表5に、それぞれ示す。
【0066】
【表4】
【0067】
【表5】
【0068】
表1及び表2に示すように、実施例1~6では、規定のXRDパターンを有する固体塩基性化合物を、M1及びM2の含有率が10~45質量%となるように担体に担持され得る触媒を用いることで、圧力損失の値が低い値となった。また、これらの触媒を用いることで、表3に示すように、不飽和化合物及びエポキシ化合物を良好な収率で製造することができた。また、実施例1の「固定床反応器によるニトロジフェニルエチレンの製造」に記載したとおり、固定床反応器を用いた場合も触媒の膨潤による反応器の閉塞は見られなかった。
【0069】
一方、表1及び表2に示すように、担体を用いずに製造した触媒を用いた比較例1では、66MPaを超える非常に高い圧力損失を示した。また、表1及び表2に示すように、担体を含むものの、固体塩基性化合物と担体とを物理混合した触媒を用いた比較例2も、実施例1~6及びと比較して高い圧力損失を示した。
【0070】
表4及び表5に示すとおり、触媒製造例1~5では規定のXRDパターンを有する固体塩基性化合物を、M1及びM2の合計の含有率が10~45質量%となるように担体に担持され得る触媒を製造した。