(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130322
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】除菌・滅菌装置、空気浄化システム及び移動可能な除菌・滅菌システム
(51)【国際特許分類】
A61L 2/14 20060101AFI20220830BHJP
A61L 9/04 20060101ALI20220830BHJP
A61L 9/22 20060101ALI20220830BHJP
F24F 8/80 20210101ALI20220830BHJP
F24F 8/26 20210101ALI20220830BHJP
A61L 101/10 20060101ALN20220830BHJP
【FI】
A61L2/14
A61L9/04
A61L9/22
F24F8/80 250
F24F8/26
A61L101:10
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022021821
(22)【出願日】2022-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2021028643
(32)【優先日】2021-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】595015890
【氏名又は名称】株式会社朝日FR研究所
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002251
【氏名又は名称】弁理士法人眞久特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 延由
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 武彦
(72)【発明者】
【氏名】島 佳希
【テーマコード(参考)】
4C058
4C180
【Fターム(参考)】
4C058AA23
4C058BB02
4C058BB07
4C058EE29
4C058JJ16
4C058JJ28
4C058KK06
4C180AA07
4C180AA10
4C180CA10
4C180DD11
4C180EA54X
4C180GG03
4C180HH02
4C180HH03
(57)【要約】
【課題】除菌・滅菌対象が含まれる空間部の全体を除菌・滅菌できる除菌・滅菌装置を提供する。
【解決手段】除菌・滅菌対象を含む空間部内に放出されるプラズマにより前記空間部内にオゾンを生じさせるプラズマ発生装置と、前記空間部内に水蒸気を放出し、前記空間部内の加熱と前記オゾンをOHラジカルとする水蒸気発生装置とを備え、前記プラズマ発生装置には、誘電体層の前記空間部側に配設された第1電極34の側端面と、第1電極34と前記誘電体層を介して配設された第2電極36の側端面とが異なる位置となるように位置調整された電極Eと、第1電極34及び第2電極36にパルス電圧を印加する電源38とが設けられており、電源38から第1電極34と第2電極36とにパルス電圧が印加されたとき、前記誘電体層の第1電極34の側端面近傍の空気の一部がプラズマ化して発生する気流により、前記OHラジカルが生じている前記空間部内に対流が生じる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
除菌・滅菌対象を含む空間部内に放出されるプラズマにより前記空間部内にオゾンを生じさせるプラズマ発生装置と、前記空間部内に水蒸気を放出し、前記空間部内の加熱と前記オゾンをOHラジカルとする水蒸気発生装置とを備えた除菌・滅菌装置であって、
前記プラズマ発生装置には、誘電体層の前記空間部側に配設された第1電極の側端面と、前記第1電極と前記誘電体層を介して配設された第2電極の側端面とが異なる位置となるように位置調整された電極と、前記第1電極及び前記第2電極にパルス電圧を印加する電源とが設けられており、
前記電源から前記第1電極と前記第2電極とにパルス電圧が印加されたとき、前記誘電体層の前記第1電極の側端面近傍の空気の一部がプラズマ化して発生する気流により、前記除菌・滅菌対象を除菌・滅菌する前記OHラジカルが生じている前記空間部内に対流が生じることを特徴とする除菌・滅菌装置。
【請求項2】
前記電極が所定の間隔を介して複数個配置されており、複数個の前記電極を取り囲む凸条部が形成され、前記凸条部の端面と前記除菌・滅菌対象とが当接して前記空間部を形成することを特徴とする請求項1に記載の除菌・滅菌装置。
【請求項3】
前記第1電極の側端面の少なくとも一部が前記空間部内に露出していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の除菌・滅菌装置。
【請求項4】
前記誘電体層に誘電材のゴム弾性材から成る中空の吸盤状部が前記空間部内に突出して形成され、前記吸盤状部には、その中央部の凹部の底面に開口された前記水蒸気の噴出孔と、前記凹部の開口縁を囲む前記吸盤状部の外側底面に形成された前記第1電極と、前記凹部を内包するように前記吸盤状部の中空部の内壁面に沿って形成され、先端面が前記中空部の内側底面との間に隙間を介して対向する筒状部を具備する前記第2電極とが設けられ、
前記電源からパルス電圧が前記第1電極及び前記第2電極に印加されている状態で前記吸盤状部の外側底面の前記第1電極が前記除菌・滅菌対象に当接して生じる前記吸盤状部の変形により、前記吸盤状部の内側底面が前記第2電極の筒状部の先端面が当接したとき、前記第1電極の凹部側端面近傍の空気の一部がプラズマ化して前記凹部内の方向の気流が発生することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の除菌・滅菌装置。
【請求項5】
前記吸盤状部の外側底面に形成された前記第1電極が前記除菌・滅菌対象に当接して前記吸盤状部が変形したとき、前記凹部内に噴出された前記水蒸気の前記吸盤状部の外方への流出路を構成する孔が前記吸盤状部及び前記第2電極の筒状部に形成されていることを特徴とする請求項4に記載の除菌・滅菌装置。
【請求項6】
前記吸盤状部の外側底面の複数個所に前記第1電極よりも突出する複数の突起部が形成され、前記突起部の先端が前記除菌・滅菌対象に当接して前記吸盤状部が変形したとき、前記凹部内に噴出された前記水蒸気の前記吸盤状部の外方への流出路が前記突起部間に形成されることを特徴とする請求項4に記載の除菌・滅菌装置。
【請求項7】
前記第1電極がリング状電極であることを特徴とする請求項4~6のいずれかに記載の除菌・滅菌装置。
【請求項8】
前記第1電極及び前記第2電極が共に帯状で且つ前記誘電体層内に埋設されており、前記第2電極よりも幅狭に形成された前記第1電極は、その側面の各々が前記第2電極の対応する側面よりも内側に位置するように配置されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の除菌・滅菌装置。
【請求項9】
前記凸条部の先端面が前記除菌・滅菌対象に当接して前記凸条部が変形したとき、前記プラズマ発生装置の前記電源から前記第1電極及び前記第2電極にパルス電圧が印加されるスイッチ機構が設けられていることを特徴とする請求項2~8のいずれかに記載の除菌・滅菌装置。
【請求項10】
前記水蒸気が前記水蒸気発生装置の給水タンクに貯留された水をヒータで加熱して発生することを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載の除菌・滅菌装置。
【請求項11】
前記ヒータが、前記空間部も加熱することを特徴とする請求項10に記載の除菌・滅菌装置。
【請求項12】
前記パルス電圧が交流であることを特徴とする請求項1~11のいずれかに記載の除菌・滅菌装置。
【請求項13】
ダクト内の空間部に吸引された室内空気を除菌・滅菌対象として、請求項1~3、請求項9~12のいずれかに記載の除菌・滅菌装置が設けられていることを特徴とする空気浄化システム。
【請求項14】
前記除菌・滅菌装置の前記空間部内に放出された水蒸気の回収水が前記水蒸気発生装置に戻されることを特徴とする請求項13に記載の空気浄化システム。
【請求項15】
複数対形成された前記第1電極及び前記第2電極と、前記複数対の前記第1電極及び前記第2電極を取り囲む凸条部とが移動可能に設けられており、前記凸条部の端面に密着し、前記凸条部内に形成される空間部に臨む面を除菌・滅菌対象として、請求項1~12のいずれかに記載の除菌・滅菌装置が設けられていることを特徴とする移動可能な除菌・滅菌システム。
【請求項16】
前記除菌・滅菌装置の前記空間部内に放出された水蒸気の回収水が前記水蒸気発生装置に戻されることを特徴とする請求項15に記載の移動可能な除菌・滅菌システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラズマを使った除菌・滅菌装置、空気浄化システム及び移動可能な除菌・滅菌システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
衛生管理を必要とする病院の手術室や食品の加工室等の壁面,天井,床及び室内の物体の表面に付着しているウィルスや微生物、空気に浮遊しているウィルスや微生物は、患者や病院職員の二次感染防止のために除菌・滅菌することが必要である。また、冷蔵庫内の食品に発生する微生物の繁殖を防止するためにも、庫内壁面や庫内の空気を除菌・滅菌することを要する。更に、パソコンのキーボードの隙間、モニタ、マウス等の表面、飲食店のカウンター表面、パーティションの表面、角部や隙間も除菌・滅菌が要請されつつある。
【0003】
このような室内空気を殺菌する装置として、下記特許文献1に、室内空気の空気入口と空気出口との間の空間部に、その天井部に設けられた針状の放電ニードルと底部に設けられたグランド板との間でコロナ放電すると共に、水蒸気発生部から水蒸気を供給することにより、空間部内にOHラジカルを生じさせて空間部の空気を殺菌する装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で提案されている装置によれば、人体に有害なオゾンを発生させることなく空間部内の空気を殺菌できる。しかし、本発明者等の検討によれば、空間部の天井部に設けられた針状の放電ニードルと底部に設けられたグランド板との間のコロナ放電と水蒸気とによるOHラジカルは、針状の放電ニードルの先端部近傍のみに生成され、しかもOHラジカルの寿命は短いことから、放電ニードルの先端部近傍の空気が殺菌されるに過ぎず、空間部全体の空気の殺菌は困難である。また、このような装置では、室内の壁面、床面やテーブル表面の殺菌は至難のことである。
【0006】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、除菌・滅菌対象が含まれる空間部の全体を除菌・滅菌できる除菌・滅菌装置、室内空気を殺菌・除菌が可能の空気浄化システム、及び壁面、床面やテーブル表面の除菌・滅菌ができる移動可能な除菌・滅菌システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するためになされた本発明の除菌・滅菌装置は、除菌・滅菌対象を含む空間部内に放出されるプラズマにより前記空間部内にオゾンを生じさせるプラズマ発生装置と、前記空間部内に水蒸気を放出し、前記空間部内の加熱と前記オゾンをOHラジカルとする水蒸気発生装置とを備え、前記プラズマ発生装置には、誘電体層の前記空間部側に配設された第1電極の側端面と、前記第1電極と前記誘電体層を介して配設された第2電極の側端面とが異なる位置となるように位置調整された電極と、前記第1電極及び前記第2電極にパルス電圧を印加する電源とが設けられており、前記電源から前記第1電極と前記第2電極とにパルス電圧が印加されたとき、前記誘電体層の前記第1電極の側端面近傍の空気の一部がプラズマ化して発生する気流により、前記除菌・滅菌対象を除菌・滅菌する前記OHラジカルが生じている前記空間部内に対流が生じることを特徴とするものである。
【0008】
前記電極が所定の間隔を介して複数個配置されており、複数個の前記電極を取り囲む凸条部が形成され、前記凸条部の端面と前記除菌・滅菌対象とが当接して前記空間部を形成することにより、除菌・滅菌対象との間で空間部を簡単に形成できる。
【0009】
前記第1電極の側端面の少なくとも一部が前記空間部内に露出していることにより、第1電極の露出面側にプラズマを確実に発生させることができる。
【0010】
前記誘電体層に誘電材のゴム弾性材から成る中空の吸盤状部が前記空間部内に突出して形成され、前記吸盤状部には、その中央部の凹部の底面に開口された前記水蒸気の噴出孔と、前記凹部の開口縁を囲む前記吸盤状部の外側底面に形成された前記第1電極と、前記凹部を内包するように前記吸盤状部の中空部の内壁面に沿って形成され、先端面が前記中空部の内側底面との間に隙間を介して対向する筒状部を具備する前記第2電極とが設けられ、前記電源からパルス電圧が前記第1電極及び前記第2電極に印加されている状態で前記吸盤状部の外側底面の前記第1電極が前記除菌・滅菌対象に当接して生じる前記吸盤状部の変形により、前記吸盤状部の内側底面が前記第2電極の筒状部の先端面が当接したとき、前記第1電極の凹部側端面近傍の空気の一部がプラズマ化して前記凹部内の方向の気流が発生することができ、除菌・滅菌が必要なときのみにプラズマを発生させることができる。
【0011】
前記吸盤状部の外側底面に形成された前記第1電極が前記除菌・滅菌対象に当接して前記吸盤状部が変形したとき、前記凹部内に噴出された前記水蒸気の前記吸盤状部の外方への流出路を構成する孔が前記吸盤状部及び前記第2電極の筒状部に形成されていることより、吸盤状部の凹部内に放出された水蒸気及び空気を吸盤状部の外側にスムーズに排出できる。
【0012】
前記吸盤状部の外側底面の複数個所に前記第1電極よりも突出する突起部が形成され、前記突起部の先端が前記除菌・滅菌対象に当接して前記吸盤状部が変形したとき、前記凹部内に噴出された前記水蒸気が前記吸盤状部の外方への流出路が前記突起部間に形成されることにより、除菌・滅菌装置を除菌・滅菌対象の面に沿ってスムーズに移動できる。
【0013】
前記第1電極がリング状電極であることにより、リング状電極の第1電極の内側面の全面から吸盤状部の凹部内の方向にプラズマを発生させることができる。
【0014】
前記第1電極及び前記第2電極が共に帯状で且つ前記誘電体層内に埋設されており、前記第2電極よりも幅狭に形成された前記第1電極は、その側面の各々が前記第2電極の対応する側面よりも内側に位置するように配置されていることにより、人や物品が電極に接触することによる感電や漏電を防止でき安全であり、第1電極の側端面の各々からプラズマを発生させることができる。
【0015】
前記凸条部の先端面が前記除菌・滅菌対象に当接して前記凸条部が変形したとき、前記プラズマ発生装置の前記電源から前記第1電極及び前記第2電極にパルス電圧が印加されるスイッチ機構が設けられていることにより、除菌・滅菌が必要な状態となったときのみにプラズマを発生させることができる。
【0016】
前記水蒸気が前記水蒸気発生装置の給水タンクに貯留された水をヒータで加熱して発生することにより、空間部に水蒸気を十分に供給できる。
【0017】
前記ヒータが、前記空間部も加熱することにより、空間部を水蒸気による加熱と相俟って高温多湿にでき、除菌・滅菌対象を十分に除菌・滅菌できる。
【0018】
前記パルス電圧が交流であることにより、第1電極及び前記第2電極にパルス電圧を簡単に印加できる。
【0019】
また、前記の目的を達成できる本発明の空気浄化システムは、ダクト内の空間部に吸引された室内空気を除菌・滅菌対象として、前述した除菌・滅菌装置が設けられていることを特徴とするものである。
【0020】
前記除菌・滅菌装置の前記空間部内に放出された水蒸気の回収水が前記水蒸気発生装置に戻されることにより、空気浄化システムの水蒸気発生装置への水の供給量を減少できる。
【0021】
更に、前記の目的を達成できる本発明の移動可能な除菌・滅菌システムは、複数対形成された前記第1電極及び前記第2電極と、前記複数対の前記第1電極及び前記第2電極を取り囲む凸条部とが移動可能に設けられており、前記凸条部の端面に密着し、前記凸条部内に形成される空間部に臨む面を除菌・滅菌対象として、前述した除菌・滅菌装置が設けられていることを特徴とするものである。
【0022】
前記除菌・滅菌装置の前記空間部内に放出された水蒸気の回収水が前記水蒸気発生装置に戻されることにより、移動可能な除菌・滅菌システムの水蒸気発生装置への水の供給回数を減少できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る除菌・滅菌装置によれば、プラズマ発生装置のプラズマ発生により生じたオゾンと水蒸気発生装置からの水蒸気とにより、強酸化性のOHラジカル及びOHラジカルよりも寿命の長い過酸化水素水の液滴が空間部内に生成し、且つプラズマ発生装置のプラズマ発生の際に空間部内に対流が生じる。空間部内に生じたOHラジカル及び過酸化水素水の液滴は対流によって空間部内に迅速に撹拌され、空間部内の除菌・滅菌対象を十分に除菌・滅菌できる。
また、本発明に係る空気浄化システムによれば、空間部に導入された室内空気の全体を確実に除菌・滅菌ができる。
更に、本発明に係る本発明の移動可能な除菌・滅菌システムによれば、除菌・滅菌対象の壁面、床面、テーブル表面に十分な除菌・滅菌を移動しながら行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明を適用する移動可能な除菌・滅菌システムの略線図である。
【
図2】本発明を適用する移動可能な除菌・滅菌システムを構成するヘッド部の正面図及び底面部である。
【
図4】本発明を適用するヘッド部の部分拡大断面図である。
【
図5】本発明を適用するヘッド部の第2電極を構成する各筒状部の断面図である。
【
図6】本発明を適用するヘッド部を除菌・滅菌対象に載置した状態を示す部分断面図である。
【
図7】本発明を適用するヘッド部を除菌・滅菌対象に載置して除菌・滅菌している状態を示す部分断面図である。
【
図8】本発明を適用するヘッド部を構成する吸盤状部の他の態様を示す部分断面図である。
【
図9】本発明を適用するヘッド部の他の態様を示す部分断面図である。
【
図10】本発明を適用するヘッド部の他の態様を示す部分断面図及びこの態様で用いたプラズマ発生装置を説明する部分断面斜視図である。
【
図11】本発明を適用するヘッド部を構成する凸条部の他の構成を示す部分断面図である。
【
図12】本発明を適用するヘッド部に設けたスイッチ機構を説明する部分断面図である。
【
図13】本発明を適用するヘッド部に設けたスイッチ機構の他の態様を説明する部分断面図である。
【
図14】本発明を適用するヘッド部の他の態様に設けたスイッチ機構を説明する部分断面図である。
【
図15】本発明を適用するハンディタイプの滅菌・除菌装置の断面図である。
【
図16】本発明を適用する空気浄化システムの概略図である。
【
図17】本発明を適用する別の空気浄化システムの概略図である。
【
図18】本発明を適用する別の空気浄化システムの概略図である。
【
図19】本発明を適用するヘッド部の空間S内のオゾン濃度の測定方法を説明する部分断面図である。
【
図20】
図19に示すヘッド部の空間S内のオゾン濃度、湿度、温度について、ヒータの加熱の有無及び水蒸気の噴出の有無による経時示変化の違いを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0026】
本発明を適用する移動可能な除菌・滅菌システムの概略図を
図1に示す。
図1に示す移動可能な除菌・滅菌システムは、除菌・滅菌対象、例えばテーブル、壁、床の表面Fに下面側が当接して矢印A方向に移動可能なヘッド部10が掃除機等の吸引機20とホース30を介して連結されている。ホース30の途中には、ヘッド部10内で噴射された水蒸気及びヘッド部10内の空気の凝縮・浄化手段40が設けられており、清浄な空気が吸引機20で吸引されて排出される。ヘッド部10は、ホース30を引っ張ること又は人手で直接スライドできる。
【0027】
表面Fに下面側が非当接状態のヘッド部10の正面図を
図2(a)に示し、その底面図を
図2(b)に示す。ヘッド部10は、ベース部12の一面側に水蒸気発生装置を構成する貯水タンク16が設けられた本体部14と、ベース部12の他面側を覆う誘電材であるゴム弾性材で形成された弾性誘電体層18と、弾性誘電体層18の外周縁に沿って形成された環状の凸条部22とが設けられている。この凸条部22の弾性誘電体層18の底面からの高さは1~20mmとすることが好ましい。環状の凸条部22で囲まれた弾性誘電体層18からは、先端が凸条部22の端面から突出する複数の吸盤状部24が所定の間隙を介して形成されており、吸盤状部24の各々は弾性誘電体層18を形成するゴム弾性材で形成されている。このような弾性誘電体層18及びベース部12を貫通してホース30に連結される貫通孔26が弾性誘電体層18の底面に開口している。また、吸盤状部24の中央部に形成された凹部35の底面には、凹部35内に水蒸気を噴出する噴出孔28が開口されている。
【0028】
図2(b)の矢印B-Bで示す断面図を
図3に示す。
図3に示す貯水タンク16を含む水蒸気発生装置は、ベース部12と本体部14とに設けられている。貯水タンク16の底部に、ヒータ31が底面に設けられた蒸発室27の天井部に水Wを供給する供給口32が形成されており、供給口32の出口を塞ぐように弁21aが設けられている。弁21aは、本体部14の上部に突出する突起21bから延出された延出棒21cの先端面が当接しており、突起21bの押し込み量を調整することにより、蒸発室27に供給される水量を調整できる。この弁21a、突起21b及び延出棒21cは、電磁弁を構成するものであってもよい。
【0029】
蒸発室27に供給された水は、蒸発室27のヒータ31で加熱され水蒸気となって、蒸発室27から導通路29,29,33を経由して各吸盤状部24の噴出孔28から噴出される。噴出孔28から噴出された水蒸気は環状の凸条部22と表面Fとで囲まれた空間部に至り、空間部内の空気と共に弾性誘電体層18の底面に開口している貫通孔26に連結されているホース30を介して吸引機20(
図1)に吸引される。環状の凸条部22と表面Fとで囲まれた空間部内の水蒸気及び空気はホース30の途中に設けられた凝縮・浄化手段40を通過し、水蒸気は凝縮器42で凝縮されて回収水として貯水タンク16に戻され、空気はHEPAフィルター等で構成されるフィルター44で細菌の死骸等の微粒子が捕集されて清浄空気として吸引機20に吸引される。
尚、ヒータ31は凸条部22と表面Fとで囲まれた空間部Sも加熱する。
【0030】
図2~
図3に示す吸盤状部24は、その部分拡大断面図である
図4(a)に示すように中空であってプラズマ発生装置の電極Eを構成する第1電極34と第2電極36とが設けられている。吸盤状部24は、誘電材であるゴム弾性材から成る弾性誘電体層18から凸条部22で囲まれた空間内に突出して形成されており、中央部に凹部35が形成されている。この凹部35の底面に水蒸気を噴出する噴出孔28が開口されており、噴出孔28は、蒸発室27から水蒸気が供給される導通路29,29,33に連結されている。吸盤状部24の凹部35の内壁及び吸盤状部24の外壁に孔24b、24cが穿設されている。
【0031】
このような吸盤状部24の凹部35の外側底面に、吸盤状部24の底面図である
図4(b)に示すように凹部35の開口縁に沿ってリング状の第1電極34が形成されている。更に、吸盤状部24の中空部24a内に導電材から成る第2電極36を構成する筒状部36bが形成されている。第2電極36は、本体部14と弾性誘電体層18との境界に形成された導電板36aと、導電板36aから吸盤状部24の中空部24a内に筒状に突出して形成されている筒状部36bとから構成される。筒状部36bは、吸盤状部24の凹部35を内包するように中空部24aの内壁面に沿って挿入されている。筒状部36bの先端面は中空部24aの内側底面との間に間隙Lを介して対向している。この筒状部36bは、
図4(b)に示すように筒状部36bの内側縁が第1電極34の内側縁よりも内側となるように配設されており、
図4(a)に示すC-C面での断面図である
図4(c)に示すように孔37,37が形成されている。筒状部36bの孔37,37は、吸盤状部24の凹部35の内壁に穿設された孔24bと吸盤状部24の外壁に穿設された24cと共に、凹部35内に噴出された水蒸気及び空気の凸条部22と表面Fとで囲まれた空間部への流出路を構成する。
尚、
図5に示す筒状部36bの孔37,37は筒状部36b毎に90°異なっているが、孔37,37は凹部35内に噴出された水蒸気及び空気が凸条部22と表面Fとで囲まれた空間部に流れる際の圧力損失を出来るだけ小さくし得る位置に形成することが好ましく、吸盤状部24の各々に対応する筒状部36b毎に異なる位置に形成されていてもよい。
【0032】
第1電極34は吸盤状部24の外面側及び弾性誘電体層18の露出面側に形成された導電路(図示せず)を介して電源38に接続されており、第2電極36も弾性誘電体層18のベース部12との境界面に形成された導電路(図示せず)を介して電源38に接続されている(図面では、第1電極34及び第2電極36と電源38とが電気的に接続されていることを、電源38と各電極とを一点鎖線でつないで示している)。このように第1電極34及び第2電極36は電源38からパルス電圧としての交流が印加されるようになっているが、
図4(a)に示すように第2電極36の筒状部36bの先端面と中空部24aの内側底面との間に間隙Lが存在している場合、プラズマは発生しない。この状態では、噴出孔28からも水蒸気を噴出しないように
図3に示す弁21aで供給口32を塞いでおく。この間隙Lは、第1電極34及び第2電極36に印加するパルス電圧値や吸盤状部24の底部の厚さによって異なるが、1~5mm程度とすることがプラズマ発生を効果的に抑制でき好ましい。
【0033】
吸盤状部24が
図4(a)に示す状態にあるヘッド部10を除菌・滅菌対象面である表面Fに近接させて、
図6に示すように第1電極34を表面Fに当接することにより、ゴム弾性基材から成る吸盤状部24は変形して中空部24aの内側底面が第2電極36の筒状部36bの先端面に当接する。このような状態では、
図7に示すように電源38に接続されてパルス電圧としての交流が印加されている第1電極34及び第2電極36のうち、リング状の第1電極34の凹部側面から凹部35の内方に誘電体バリア放電によるプラズマが発生して矢印Dで示すように凹部35内方向への気流が生じ、凹部35と表面Fで囲まれた空間内に対流が生じる。対流は、その剪断応力により表面Fからウィルスや細菌を剥離し凹部35内に巻き上げることができる。
【0034】
更に、
図3に示す弁21aを開き供給口32から蒸発室27に水を供給することにより、噴出孔28から凹部35内に水蒸気を噴出して、凹部35と表面Fで囲まれた空間を高温多湿化できる。このような高温多湿下の空間内では、誘電体バリア放電によるプラズマにより発生したオゾンは、殺菌力の強いOHラジカルに変換され、空間内のウィルスや細菌を殺菌する。OHラジカルは短寿命であるが、高温多湿下では過酸化水素水の液滴が生じる。過酸化水素水はOHラジカルよりも長寿命であって、その液滴は表面Fを濡らして表面Fに付着しているウィルスや細菌を殺菌しつつ、高温下の環境では再蒸発して空間内に浮遊しているウィルスや細菌を殺菌する。このようにして表面Fを含む空間内を除菌・滅菌できる。第1電極34及び第2電極36が設けられた吸盤状部24は、
図2(b)に示すようにヘッド部10の底面側に所定間隔を介して複数個所形成されており、表面Fの複数個所を同時に除菌・滅菌できる。このヘッド部10は、
図1の矢印Aに示すように前後にスライドでき、次の新たな表面Fに移動することより、新たな表面Fを除菌・滅菌できる。
【0035】
図7に示すように凹部35と表面Fで囲まれた空間に噴射された水蒸気及び空気は、オゾン、OHラジカル、過酸化水素水及び殺菌等の死骸が含まれている。このような水蒸気及び空気は、凹部35内の内壁に穿設された孔24bから筒状部36b内に流入し、筒状部36bの(
図4(a)(c))から吸盤状部24内に流入する。吸盤状部24内に流入した水蒸気及び空気は、吸盤状部24の外壁に穿設された孔24cから環状の凸条部22及び表面Fで囲まれた空間部Sに流出する。空間部Sに流出した水蒸気及び空気中には、オゾン、OHラジカル、過酸化水素水が含まれており、空間部Sのみに臨む表面Fの除菌・滅菌も施すことができる。空間部Sに流出したオゾン、OHラジカル、過酸化水素水及び殺菌等の死骸が含まれている水蒸気及び空気は、
図3に示す貫通孔26からホース30を経由して凝縮・浄化手段40を通過し、水蒸気は凝縮器42で凝縮されて回収水として貯水タンク16に戻され、空気はHEPAフィルター等で構成されるフィルター44で細菌の死骸等の微粒子が捕集された清浄空気として吸引機20に吸引される。
尚、吸盤状部24を含む空間部Sは、蒸発室27のヒータ31で加熱されており、水蒸気が水滴となっても再蒸発でき、吸盤状部24の中空部内に水滴が溜まることはない。
【0036】
図1~
図7に示すヘッド部10のベース部12及び本体部14は硬質のプラスチック製である。このプラスチックとしては、エポキシ系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィン系樹脂;エチレン・エチルアクリレート共重合体;ポリ塩化ビニル;エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂;フッ素樹脂;アクリル樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートのようなポリエステル樹脂;ウレタン樹脂;フェノール樹脂;シアネート樹脂;アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂;ポリカーボネート;ポリアミドを挙げることができる。また、環状の凸条部22は、その先端面を表面Fに密着してスライドできるように、凸条部22を軟質又は硬質のシリコーンゴムで形成することが好ましい。この凸条部22の剛性を向上すべく金属や硬質のプラスチックを用いる場合、凸条部22の先端部を軟質又は硬質のシリコーンゴムで形成することが好ましい。
【0037】
弾性誘電体層18及び吸盤状部24を形成する誘電材であるゴム弾性材としては、ゴムであれば特に限定されない。例えば、付加架橋型シリコーンゴム、より具体的にはPt触媒存在下で合成したビニルメチルシロキサン/ポリジメチルシロキサンコポリマー、ビニル末端ポリジメチルシロキサン、ビニル末端ジフェニルシロキサン/ポリジメチルシロキサンコポリマー、ビニル末端ジエチルシロキサン/ポリジメチルシロキサンコポリマー、ビニル末端トリフロロプロピルメチルシロキサン/ポリジメチルシロキサンコポリマー、ビニル末端ポリフェニルメチルシロキサン、ビニルメチルシロキサン/ジメチルシロキサンコポリマー、トリメチルシロキサン基末端ジメチルシロキサン/ビニルメチルシロキサン/ジフェニルシロキサンコポリマー、トリメチルシロキサン基末端ジメチルシロキサン/ビニルメチルシロキサン/ジトリフロロプロピルメチルシロキサンコポリマー、トリメチルシロキサン基末端ポリビニルメチルシロキサンなどのビニル基含有ポリシロキサンと、H末端ポリシロキサン、メチルHシロキサン/ジメチルシロキサンコポリマー、ポリメチルHシロキサン、ポリエチルHシロキサン、H末端ポリフェニル(ジメチルHシロキシ)シロキサン、メチルHシロキサン/フェニルメチルシロキサンコポリマー、メチルHシロキサン/オクチルメチルシロキサンコポリマーで例示されるH基含有ポリシロキサンの組成物;アミノプロピル末端ポリジメチルシロキサン、アミノプロピルメチルシロキサン/ジメチルシロキサンコポリマー、アミノエチルアミノイソブチルメチルシロキサン/ジメチルシロキサンコポリマー、アミノエチルアミノプロピルメトキシシロキサン/ジメチルシロキサンコポリマー、ジメチルアミノ末端ポリジメチルシロキサンで例示されるアミノ基含有ポリシロキサンと、エポキシプロピル末端ポリジメチルシロキサン、(エポキシシクロヘキシルエチル)メチルシロキサン/ジメチルシロキサンコポリマーで例示されるエポキシ基含有ポリシロキサン、琥珀酸無水物末端ポリジメチルシロキサンで例示される酸無水物基含有ポリシロキサン及びトルイルジイソシアナート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアナートなどのイソシアナート基含有化合物との組成物から得られるゴム;ビニルメチルシリコーン(VMQ)、メチルフェニルシリコーン(PVMQ)、フルオロメチルシリコーン(FVMQ)、及びジメチルシリコーン(MQ)のようなシリコーンゴム;パーオキサイド架橋型シリコーンゴム:縮合架橋型シリコーンゴム:紫外線架橋型シリコーンゴム:放射線架橋型シリコーンゴム;これらのシリコーンとオレフィンとの共ブレンド物を成形金型等に入れて、架橋させることにより製造された立体的な架橋構造を有する三次元化シリコーン;エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、フッ化ビニリデン系(FKM)やテトラフルオロエチレン-プロピレン系(FEPM)やテトラフルオロエチレン-パープルオロビニルエーテル系(FFKM)のようなフッ素ゴム、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、イソブチレン-イソプレンゴム(IIR)、天然ゴム(NR)、ウレタンゴム(U)、アクリルゴム(ACM)、これらの架橋ゴムとオレフィンとの共ブレンド物;非結晶性樹脂、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC);ポリスチレン(PS);アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS);ポリアミド(PA);ポリメタクリル酸メチル(PMMA);ポリカーボネート(PC);ポリブタジエンテレフタレート(PBT)やポリエチレンテレフタレート(PET);ポリフェニレンスルフィド(PPS);ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、およびシリコーン(メタ)アクリレート、及びペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートのような(メタ)アクリル樹脂;が挙げられる。
【0038】
弾性誘電体層18及び吸盤状部24は、3Dプリンタ―を用いて直接成形してもよく、3Dプリンタ―で形成した金型を用いて成形してもよい。
【0039】
プラズマ発生装置を構成する第1電極34及び導電板36aと筒状部36bとから成る第2電極36は、金属分類上は通常の金属、機能性金属、アモロファス金属、繊維強化金属ブロック、形状記憶合金、超弾性合金等を用いることができる。具体的には、周期律表上はベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム、スカンジウム、イットリウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、プラチナ、銅、銀、金、亜鉛、カドミウム、水銀、アルミニウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、アンチモン、ビスマス、ネオジムの何れかであり、合金組成上は鉄合金(鋼(スチール)、炭素鋼、鋳鉄)、銅合金(りん青銅、黄銅、二プロニッケル、ベリリウム銅、チタン銅)、アルミニウム合金(銅、マンガン、珪素、マグネシウム、亜鉛、ニッケル合金等)、マグネシウム合金(Mg/Zn合金、Mg/Ca合金等)、亜鉛合金、鈴及び鈴合金、ニッケル合金、金合金、銀合金、白金合金、パラジウム合金、鉛合金、チタン合金(α型、β型及びα+β型合金)、カドミウム、ジルコニウム合金、コバルト合金、クロム合金、モリブデン合金、タングステン合金、マンガン合金、フェライト系ステンレス、マルテンサイト系ステンレス、オースチナイト系ステンレス、析出強化型ステンレス、ニッケル-チタン合金、鉄-マンガン-チタン合金、超弾性合金(ニッケル-チタン合金)等の材料が挙げられる。その素材は、金属箔のような導電性材料箔又は金属板のような導電性材料板を例示したが、金属形状分類上は板、シート、フィルム、角棒、丸棒、球、半球、繊維、網、網線布、及びこれらの複雑回路形状、打抜き及び切削加工成形品を含む。
【0040】
第1電極34及び第2電極36は、導電性物質が含有又は分散された導電性の硬質樹脂で形成されていてもよい。具体的には、導電性無機粉末又は導電性繊維を含有及び/又は分散した硬質合成樹脂、導電性有機物を含有及び/又は分散した硬質合成樹脂、硬質導電性ポリマー(電気伝導性高分子化合物)が挙げられる。
【0041】
導電性無機粉末又は導電性繊維を含有する合成樹脂中、導電性無機粉末又は導電性繊維であるフィラーとして、珪素;カーボン、カーボンブラック、グラファイト、カーボン繊維;第1電極34及び第2電極36の素材として例示した前記金属、好ましくは金、銀、銅、チタン、ニッケル、錫、アルミニウム、ステンレス、亜鉛、ビスマス、カドミウム、インジウム、鉛、又はパラジウムのような金属粉若しくは金属繊維;これらの金属の2種以上を含む合金、例えばSn-Pb、Sn-Cu、Sn-Zn、Sn-Al、Sn-Ag、Pd-Agのような合金粉若しくは合金繊維;導電ウィスカー;これらの金属の金属メッシュが挙げられる。
【0042】
導電性有機物を含有する硬質合成樹脂中、導電性有機化合物として、イオン導電剤、例えば四級アンモニウム基及び/又はスルホン酸基含有有機化合物が挙げられる。この樹脂原料主剤、硬化剤、イオン導電剤を溶媒中で混合し、硬化させることによって、導電性有機物含有合成樹脂が得られる。
【0043】
導電性無機粉末又は導電性繊維を含有する硬質合成樹脂や導電性有機物を含有する硬質合成樹脂として、エポキシ系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィン系樹脂;エチレン・エチルアクリレート共重合体;ポリ塩化ビニル;エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂;フッ素樹脂;アクリル樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートのようなポリエステル樹脂;ウレタン樹脂;フェノール樹脂;シアネート樹脂;アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂;ポリカーボネート;ポリアミドを挙げることができる。
【0044】
硬質導電性ポリマーは、例えば導電性を有する有機化合物から構成される硬質樹脂であり、例えばポリアセチレン;ポリピロール;ポリチオフェン;ポリパラフェニレン;ポリメタフェニレン;ポリ(p-フェニレンビニレン);ポリアニリン;ポリ(p-フェニレンスルフィド);アニオン性ポリマーまたはラテックスが挙げられる。
【0045】
第1電極34及び第2電極36の素材として、導電性物質含有樹脂や導電性樹脂であれば、体積抵抗率が1×100Ω・cm以下、好ましくは体積抵抗率が1×10-3Ω・cm以下の導電性を持つものが好ましい。
【0046】
吸盤状部24の底面に形成する第1電極34は、例えば吸盤状部24の底面に金属蒸着を施して所定厚さの金属膜を形成した後、所定形状となるようにエッチングを施して第1電極34を形成できる。
図1~
図7に示すリング状の第1電極34は、その内側面を細かな波状の凹凸面に形成することにより、凸部のみに放電が集中し放電耐久性を向上でき好ましい。更に、リング状の第1電極34の外周縁の一部を吸盤状部24の周面に沿うように延出し、第1電極34の端子としてもよい。
また、導電板36aと筒状部36bとから成る第2電極36は、導電板36aの所定位置に、金属材の削り出し、金属パイプの切断、又はプレス加工で形成した筒状部36bを螺子止め、差し込み、スポット溶接して形成できる。或いは、第2電極36の全体をプレス加工で形成してもよい。
【0047】
図1~
図7に示す吸盤状部24の底面に形成した第1電極34は、電源38に接続された状態で表面Fとの当接面が露出しており、表面Fが金属面である場合、
図1~
図7に示すヘッド部10は用いることができない。また、第1電極34の露出面に人が接触して感電するおそれもある。このため、
図8(a)に示すように、第1電極34の露出面のうち、凹部35側の側面を除く露出面を絶縁膜39で被覆することにより、ヘッド部10を用いて金属製の表面Fの除菌・滅菌を行うことができ、人が触り易い露出面が絶縁膜39で覆われているから、人への感電も防止できる。この絶縁膜39は、電気絶縁性の有機物や無機物のコーティング膜又はフィルム膜であることが好ましい。また、
図1~
図7に示す吸盤状部24は断面形状が円形状であったが、円形状以外の形状、例えば
図8(b)の断面図で示すように六角形あってもよい。断面形状が六角形の吸盤状部24は第2電極36を構成する筒状部36bも六角形であり、凹部35も六角形である。更に、複数の吸盤状部24の配列も
図2(b)では格子状配列であったが、千鳥状配列でもよい。
【0048】
図1~
図7に示すように第1電極34の露出面のうち、凹部35側の側面を除く露出面や
図8(a)に示す絶縁膜39が表面Fに密着状態でヘッド部10をスライドするとき、両者の摩擦力により表面Fに沿ってスライドし難い場合がある。このような場合、
図9(a)に示すように吸盤状部24の外側底面の複数個所に第1電極34よりも突出する複数の突起部55を形成することにより第1電極34又は絶縁膜39と表面Fとの密着状態を解消してヘッド部10をスムーズに表面Fに沿ってスライドできる。
複数の突起部55は、硬質の樹脂製であって、
図9(b)に示すようにリング状の第1電極34又は絶縁膜39の外周縁に沿って等間隔に形成されている。この突起部55と隣接する突起部55との間が吸盤状部24の凹部35内に噴出された水蒸気の吸盤状部24の外方への流路となるので、
図9(a)に示す吸盤状部24及び第2電極36には、凹部35内に噴出された水蒸気の吸盤状部24の外方への流路を構成する孔を形成することは要しない。
図9(a)(b)に示す吸盤状部24を表面Fに近接させ、
図9(c)に示すように複数の突起部55の先端を表面Fに当接することにより、吸盤状部24は変形して中空部24aの内側底面が第2電極36の筒状部36bの先端面に当接する。このとき、第1電極34と表面Fとの間隔が0.5~3mm程度となるように突起部55の高さを調整することが好ましい。
このような状態でパルス電圧としての交流が印加されている第1電極34及び第2電極36のうち、リング状の第1電極34の凹部側面から凹部35の内方に誘電体バリア放電によるプラズマが発生して矢印Dで示すように凹部35内方向への気流が生じ、凹部35と表面Fで囲まれた空間内に対流が生じる。対流は、その剪断応力により表面Fからウィルスや細菌を剥離し凹部35内に巻き上げる。
【0049】
更に、噴出孔28から凹部35内に噴出された水蒸気は、凹部35と表面Fで囲まれた空間を高温多湿化とし、誘電体バリア放電によるプラズマにより発生したオゾンを、殺菌力の強いOHラジカルに変換し、空間内のウィルスや細菌を殺菌する。OHラジカルは短寿命であるが、高温多湿下では過酸化水素水の液滴が生じる。過酸化水素水はOHラジカルよりも長寿命であって、その液滴は表面Fを濡らして表面Fに付着しているウィルスや細菌を殺菌しつつ、高温下の環境では再蒸発して空間内に浮遊しているウィルスや細菌を殺菌する。このように凹部35と表面Fで囲まれた空間に噴射された水蒸気及び空気は、オゾン、OHラジカル、過酸化水素水及び殺菌等の死骸が含まれている。この水蒸気及び空気は、
図9(c)の矢印Iに示すように突起部55と隣接する突起部55との間を通過して吸盤状部24の外方に流出する。このように
図9に示す吸盤状部24及び第2電極36には、凹部35内に噴出された水蒸気の吸盤状部24の外方への流路を構成する孔を形成することを要しないから、その成形が簡単化でき、且つ水蒸気が吸盤状部24内で凝縮する事態の懸念を解消できる。
図9に示す複数の突起部55は第1電極34又は絶縁膜39の外周縁に沿って等間隔に形成されているが等間隔でなくてもよく、突起部55が一個であってもよい。また、突起部55は吸盤状部24の外側底面に、吸盤状部24を形成する樹脂と異なる樹脂で成形されていてもよく、吸盤状部24と同一樹脂で一体に形成されていてもよい。
【0050】
図1~
図9に示す除菌・滅菌装置では、第1電極34の少なくとも一部が露出しており、この露出部に人が触れるおそれを有する。この点、
図10(a)に示すヘッド部10のように、誘電材としてのゴム弾性材から成る弾性誘電体層18内に帯状の第1電極50と第2電極52とを埋設することにより、第1電極50に人が触れるおそれを解消できる。第1電極50と第2電極52とから成る一対の電極は、
図10(a)に示すように他の一対の電極と噴出孔28を挟んで配置されている。環状の凸条部22と表面Fとで囲まれた空間部S側に配置された第1電極50は、
図10(b)に示すように第2電極52よりも幅狭に形成されており、第1電極50の側面の各々が第2電極52の対応する側面よりも内側に位置するように配置されている。この第1電極50及び第2電極52に電源38からパルス電圧を印加することにより、
図10(b)の矢印で示すように第1電極50の側面の各々から下方に向けてプラズマを発生させることができる。
図10(b)に示すような下向きのプラズマによって、
図10(a)に示すように第1電極50と第2電極52とから成る一対の電極が複数設けられた空間部Sでは、矢印Gで示す下向きの気流が発生し、空間部S内に対流が生じる。
【0051】
空間部S内に生じた対流は、その剪断応力により表面Fからウィルスや細菌を剥離し空間部S内に巻き上げることができる。更に、噴出孔28から空間部S内に水蒸気を噴出して、ヒータ31の加熱と相俟って空間部Sを高温多湿化できる。このような高温多湿下での空間部S内では、誘電体バリア放電によるプラズマにより発生したオゾンは、殺菌力の強いOHラジカルに変換され、空間内のウィルスや細菌を殺菌する。OHラジカルは短寿命であるが、高温多湿下では過酸化水素水の液滴が生じる。過酸化水素水はOHラジカルよりも長寿命であって、その液滴は表面Fを濡らして表面Fに付着しているウィルスや細菌を殺菌しつつ、高温下の環境では再蒸発して空間内に浮遊しているウィルスや細菌を殺菌する。このようにして表面Fを含む空間内を除菌・滅菌できる。このような空間部Sが形成されたヘッド部10は、
図1の矢印Aに示すように前後にスライドでき、次の新たな表面Fに移動することより、新たな表面Fを除菌・滅菌できる。
尚、
図10(a)に示すヘッド部10の構成部材について、
図1~
図9に示すヘッド部10と同一の構成部材は同一の符号を付与して詳細な説明を省略する。
【0052】
図10(a)(b)に示す帯状の第1電極50と第2電極52とは、例えば所定厚さの弾性層の表面に金属蒸着を施して所定厚さの金属膜を形成した後、所定長さ及び形状となるようにエッチングを施して第1電極50を形成する。更に、第1電極50上に所定厚さの弾性層を積層してから、金属蒸着を施して所定厚さの金属膜を形成した後、所定長さ及び形状となるようにエッチングを施して第2電極52を形成する。次いで、所定厚さの弾性層を積層することにより形成できる。
尚、
図10(a)(b)に示す帯状の第1電極50及び第2電極52は、ゴム弾性材から成る弾性誘電体層18に埋設しているが、非ゴム弾性材の誘電材で形成した層に埋設してもよい。
【0053】
図1~
図10に示すヘッド部10は、環状の凸条部22の端面が除菌・滅菌対象の表面Fに当接してスライドしているが、ヘッド部10がスライドし難い場合、
図11に示すように環状の凸条部22の端面に柔軟性を有するゴム、特にシリコーンゴムで形成されたOリング54を装着することにより、凸条部22の端面と表面Fとの密着面積を減少でき、ヘッド部10を簡単に移動できる。
【0054】
図1~
図9に示すヘッド部10は、表面Fを除菌・滅菌していない場合でも、第1電極34(50)及び第2電極36(52)に電源38からパルス電圧としての交流が印加されているが、表面Fを除菌・滅菌するときのみに、第1電極34(50)及び第2電極36(52)に電源38からパルス電圧を印加することもできる。例えば、
図2~
図9に示す吸盤状部24が形成されたヘッド部10では、
図12(a)に示すように凸条部23にスイッチ機能を設けることにより、第1電極34及び第2電極36に電源38からパルス電圧を印加することができる。凸条部23は、
図12(a)に示すように誘電材としてのゴム弾性材で形成されたチューブ状部23aと、チューブ状部23aの内部の下部側に導電体としての導電性樹脂で形成された下部導電体23bと、チューブ状部23aの内部の上部側であって、隙間Kを介して下部導電体23bに対向する導電体としての導電性樹脂から成る上部導電体23cとから構成される。この下部導電体23bと上部導電体23cとの各々は、電源38のON、OFFを制御するスイッチ制御部41に接続されている。
図12(a)では、下部導電体23bと上部導電体23cとが離れて非通電状態となっており、スイッチ制御部41から電源38にOFF信号が出され、電源38から第1電極34及び第2電極36にパルス電圧は印加されない。
【0055】
図12(a)に示すヘッド部10が表面Fに降下し、
図12(b)に示すように凸条部23のチューブ状部23aの底面が表面Fに当接して変形し、下部導電体23bと上部導電体23cとの対向面が当接して通電状態となると、スイッチ制御部41から電源38にON信号が出され、電源38から第1電極34及び第2電極36にパルス電圧が印加される。このとき、ヘッド部10の吸盤状部24の外側底面に形成された第1電極34が表面Fに当接して吸盤状部24が変形し、吸盤状部24内に形成された第2電極36の筒状部36bの先端面が吸盤状部24の内側底面に当接すると、
図6に示すように吸盤状部24の凹部35内の方向に第1電極34の内側面からプラズマが発生し、表面Fを除菌・滅菌できる。
図12(a)に示す状態からヘッド部10が上昇して
図12(a)に示すようにチューブ状部23aの下部導電体23bと上部導電体23cとが離れて非通電状態となると、スイッチ制御部41から電源38にOFF信号が出される。このとき、第2電極36の筒状部36bの先端面が吸盤状部24の内側底面に当接した状態であっても、第1電極34からのプラズマは停止する。また、第2電極36の筒状部36bの先端面が吸盤状部24の内側底面から離れたとき、チューブ状部23aの下部導電体23bと上部導電体23cとの対向面が当接した状態であっても、第1電極34からのプラズマは停止する。更に、
図12(a)(b)に示すスイッチ制御部41が、
図3に示す弁21a、突起21b及び延出棒21cから成る電磁弁、蒸発室27のヒータ31のON,OFFの制御を兼ねることにより、噴出孔28からの水蒸気の噴射開始及び停止を自動的に行うことができる。このようにスイッチ制御部41により弁21aを含む電磁弁及びヒータ31のON,OFFを制御する場合、第1電極34及び第2電極36にパルス電圧を印加してプラズマが発生するとき、水蒸気が噴出孔28から噴射されているように制御することが好ましい。
尚、
図12(a)(b)に示すヘッド部10の構成部材について、
図1~
図9に示すヘッド部10と同一の構成部材は同一符号を付与して詳細な説明を省略する。
【0056】
図12(a)(b)に示すチューブ状部23aを形成するゴム弾性材としては、弾性誘電体層18及び吸盤状部24を形成するゴム弾性材として前述したものを用いることができ、弾性誘電体層18及び吸盤状部24のゴム弾性材と同一又は異なっていてもよい。
下部導電体23bと上部導電体23cとを形成する導電性樹脂は、所定形状に成形可能な導電性を示す樹脂であればよく、弾性体であっても弾性体でなくてもよい。この導電性樹脂としては、例えばカーボン、カーボンナノチューブ(CNT)、非導電性コア(ガラス、アクリル樹脂、シリカ、ゴム)の表面が金属めっき等により金属皮膜された導電フィラー、高い導電性を呈する導電性樹脂が配合された樹脂又はゴムを挙げることができる。
また、下部導電体23bと上部導電体23cとは、アクリル樹脂等の非導電性樹脂から成る所定形状の成形体の表面が蒸着やスパッタリング等により形成された金属膜で被覆されたものであってもよく、金属ワイヤを用いて所定形状に成形したものであってもよい。
このような下部導電体23bと上部導電体23cとの接触面を、蒸気やオゾン等に対して耐腐食性を呈する金属、例えば金等の保護膜で被覆してもよい。
【0057】
図12(a)(b)に示す凸条部23は、3Dプリンタ―を用いて直接成形してもよく、3Dプリンタ―で形成した金型を用いて成形してもよい。また、所定形状に成形した下部導電体23bと上部導電体23cとをチューブ状部23aを形成するゴム弾性材でインサート成形して形成してもよい。
【0058】
図12(a)(b)の凸条部23を含むスイッチ機構が設けられているヘッド部10では、
図13に示すように第2電極36の筒状部36bの先端が予め吸盤状部24の内側底面に当接状態で設けられても、凸条部23の下部導電体23bと上部導電体23cとの間に隙間Kが形成されている場合、スイッチ制御部41から電源38にOFF信号が発せられており、第1電極34と第2電極36とにパルス電圧は付加されずプラズマは生じない。このように予め第2電極36の筒状部36bの先端が吸盤状部24の内側底面に当接状態で設けられている場合、
図14(a)に示すように凸条部23の先端面が除菌・滅菌対象の表面Fに当接して下部導電体23bと上部導電体23cとが当接したとき、第1電極34と表面Fとの間に凹部35内に噴射された水蒸気の流路となる隙間が形成されるようにしてもよい。
図14(a)に示すヘッド部10では、吸盤状部24及び筒状部36bに凹部35内に噴射された水蒸気の流路となる孔を形成することは要しない。また、
図14(b)に示すように吸盤状部24の外側底面に第1電極34に沿って複数の突起部55を設けることにより、凹部35内に噴出された水蒸気の吸盤状部24の外方への流路を確実に確保できる。
【0059】
また、
図10(a)に示すヘッド部10は、第1電極50の側面の各々からのプラズマの発生・停止は、手動で電源38をON,OFFにすることを要するが、
図15(a)(b)に示す凸条部23を用いることにより、プラズマの発生・停止を自動的にできる。すなわち、
図15(a)に示すようにヘッド部10が表面Fから上昇して
図15(a)に示すように凸条部23のチューブ状部23aの下部導電体23bと上部導電体23cとの対向面間が離れて隙間Kができ、下部導電体23bと上部導電体23cとが非通電状態の場合、スイッチ制御部41から電源38にOFF信号が出され、電源38からの第1電極50と第2電極52とにパルス電圧は付加されずプラズマは発生しない。
【0060】
図15(a)に示す状態からヘッド部10が降下し、
図15(b)に示すように凸条部23のチューブ状部23aの底面が表面Fに当接して変形し、下部導電体23bと上部導電体23cとの対向面が当接して通電状態となると、スイッチ制御部41から電源38にON信号が出されて、電源38から第1電極50及び第2電極52にパルス電圧が印加され、
図15(b)に示すように第1電極50の側面の各々から下方に向けてプラズマが発生する。
図15(a)(b)に示すヘッド部10においても、
図3に示す弁21a、突起21b及び延出棒21cから成る電磁弁、蒸発室27のヒータ31のON,OFFの制御を兼ねることにより、噴出孔28からの水蒸気の噴射開始及び停止を自動的に行うことができる。このようにスイッチ制御部41により弁21aを含む電磁弁及びヒータ31のON,OFFを制御する場合、第1電極50及び第2電極52にパルス電圧を印加してプラズマが発生するとき、水蒸気が噴出孔28から噴射されているように制御することが好ましい。
尚、
図15(a)(b)のヘッド部10の構成部材について、
図10(a)(b)に示すヘッド部10と同一の構成部材は同一符号を付与し詳細な説明を省略する。
【0061】
図1~
図15に示す移動可能な除菌・滅菌システムを構成するヘッド部10は、吸引機20で凸条部22(23)と表面Fとで囲まれた空間部Sを吸引しつつホース30を引っ張ってスライドしているが、吸引機20による空間部Sの吸引を無くし、
図16に示すようにヘッド部10に取手46を設けて手動でヘッド部10を矢印A方向に表面Fをスライドするハンディタイプの除菌・滅菌システムとすることもできる。このようなハンディタイプの除菌・滅菌システムであっても、凸条部22(23)と表面Fで囲まれた空間部Sから貫通孔26を経由して排出される空気及び水蒸気は凝縮・浄化手段40を通過し、水蒸気を凝縮器42で凝縮して回収水として貯水タンクに戻し、空気は含まれている細菌の死骸等の微粒子をフィルター44で捕集して清浄化した空気を排出することが好ましい。
【0062】
図1~
図16に示す移動可能な除菌・滅菌システムは、テーブル、床、壁等の表面の除菌・滅菌に用いるものであったが、室内等の空気の除菌・滅菌をする空気浄化システムを
図17(a)に示す。
図17(a)に示す空気浄化システムは、室内の空気を空調設備に送風する横断面形状が矩形状のダクト62の室内空気の取入口と吸引ファン70との間の空間部S内の室内空気の除菌・滅菌ができるようにプラズマ発生装置と水蒸気発生装置68とが設けられている。プラズマ発生装置の電極Eは、
図17(b)に示すようにシート状の誘電体層65の一面側に形成され、ダクト62の空間部Sに露出する第1電極64と、シート状の誘電体層65の他面側であって、接着層67を介してダクト62の内壁面に接着される第2電極66とで形成されている。この第1電極64及び第2電極66にパルス電圧としての交流を印加する電源38はダクト62外に設けられている。第1電極64と第2電極66とに電源38からパルス電圧としての交流が印加されると、シート状の誘電体層65の第1電極64の近傍の面の空気の一部が誘電体バリア放電によりプラズマ化されて矢印G方向の気流が発生することにより、空間部S内の空気は矢印Hで示す対流をしつつ吸引ファン70で吸引される。
【0063】
また、水蒸気発生装置68は、通常の水蒸気発生装置、例えば熱沸騰タイプや超音波タイプの水蒸気発生装置を用いることができる。水蒸気発生装置68からの水蒸気は、空間部S内を加熱して高温多湿の雰囲気とする。このように高温多湿の空間部Sに第1電極64と第2電極66との誘電体バリア放電によるプラズマで生じたオゾンは、水蒸気の存在で殺菌力の強いOHラジカルに変換され、空間部S内を対流で浮遊している空気中のウィルスや細菌を殺菌する。OHラジカルは短寿命であるが、高温多湿下では過酸化水素水が生じる。OHラジカルよりも長寿命の過酸化水素水を含む液滴も生じるが、液滴は高温多湿の空間部Sでは再蒸発して空間部S内を対流で浮遊しているウィルスや細菌を殺菌する。このようにして空間部S内の空気を迅速に除菌・滅菌できる。
【0064】
空間部S内で除菌・滅菌された空気には、たオゾン、OHラジカル、過酸化水素水を含む水蒸気及びウィルスや細菌の死骸が含まれているため、吸引ファン70で吸引されて空間部Sを通過した空気中の水蒸気は凝縮器72で凝縮して系外に排出してもよい。但し、凝縮器72で凝縮した凝縮水は、過酸化水素水等を含むことから、回収水として水蒸気発生装置68に戻すことが好ましい。更に、凝縮器72を通過したウィルスや細菌の死骸を含む空気はフィルター74でウィルスや細菌の死骸を除去した清浄空気を空調設備に送風する。このフィルター74はHEPAフィルターを好適に用いることができる。
【0065】
図17(a)(b)に示す第1電極64、誘電体層65及び第2電極66は、矩形状のダクト62の内壁面に装着しているから、例えばシート状の誘電体層65の両面に金属蒸着を施して所定所厚さの金属膜を形成した後、各金属膜に所定長さとなるようにエッチングを施して第1電極64と第2電極66とを形成できる。
【0066】
ダクト62の横断面形状が円形の場合、シート状の誘電体層65をゴム弾性体材で形成し、シート状の第1電極64及び第2電極66もシート状の誘電体層65に合わせて曲折可能とすることにより、ダクト62の内壁の曲率に合わせて第1電極64、誘電体層65及び第2電極66を設置できる。誘電体層65を形成するゴム弾性体は、前述した弾性誘電体層18を形成するゴム弾性材と同じものを用いることができる。
【0067】
このようにゴム弾性体材で形成された曲折可能のシート状の誘電体層65に合わせて曲折可能の第1電極64及び第2電極66としては、曲折可能な金属箔のような導電性材料箔が好ましい。また、導電性の柔軟性ゴムで第1電極64及び第2電極66を形成してもよい。柔軟性ゴムとしては、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレンゴム;シリコーンゴムやシリコーン樹脂のようなシリコーン;天然ゴム;イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、エチレン・プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴムのような合成ゴムが挙げられ、天然樹脂として天然ゴムが挙げられる。これらの柔軟性ゴムに分散又は含有される導電性物質としての導電性無機粉末又は導電性繊維は前述したものを用いることができる。このように導電性の柔軟性ゴムで形成された第1電極64及び第2電極66の導電性は、体積抵抗率が1×100Ω・cm以下、特に体積抵抗率が1×10-3Ω・cm以下であることが好ましい。
【0068】
図17(a)に示す空気浄化システムは、室内の空気を空調設備に送風するダクト62内に設けられているものであるが、空調設備内の空気取入ダクト内に設けてもよい。空調設備としては、家庭用のエアコンであってもよい。また、冷蔵庫内の冷気を循環する循環設備内やその循環経路の途中に設けてもよい。
【0069】
机や椅子の全体を除菌・滅菌したい場合、
図18に示すように机や椅子を置いた小型ブースを作って空気浄化システムを設置することが好ましい。
図18に示す空気浄化システムを設置する小型ブースは、床面に立設した柱76,76で天板78を支承し、天板78の周縁に沿って端縁が床面に当接するビニールシート80を張り巡らせて形成する。この小型ブース内に机や椅子を置き空気浄化システムを設置する。
図18では、天板78に空気浄化システムを設置した。
図18に示す空気浄化システムでは、フィルター74から小型ブース内に放出される空気中にオゾン、OHラジカル及び過酸化水素が残存するように水蒸気発生装置68からの空間部Sへの水蒸気供給量、吸引ファン70の回転数、凝縮器72の冷却水量等を調整する。小型ブース内に放出されたオゾン、OHラジカル及び過酸化水素を含む空気は、小型ブース内を巡回して机や椅子の全表面を除菌・滅菌する。尚、凝縮器72で凝縮された凝縮水は、ビニールシート80外に排出してもよく、
図17(a)に示すように回収水として水蒸気発生装置68に戻してもよい。
【実施例0070】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0071】
図9に示すヘッド部10を、
図19に示すように、凸状部22の端面がアクリル板82の表面Fに密着するように載置した。その際に、吸盤状部24の底面から突出する突起部55の先端も表面Fに当接している。凸条部22を貫通してチューブ84の先端部が、凸条部22と表面Fとに囲まれた空間S内に挿入されている。空間S内のオゾンを含む空気はチューブ84を通ってオゾン濃度計(柴田科学株式会社製のOZM-7000GN(商品名):図示せず)によりオゾン濃度が測定される。更に、空間S内の温度・湿度の測定用として、温湿度計(株式会社デジタルオーム製のHD2101.2K(商品名):図示せず)のロングタイプ・プローブ(HP474ACR(商品名))が空間S内に挿入されている。
【0072】
実施例
ヘッド部10内のヒータ31(
図3)により
図19に示す空間S内を加熱しつつ、電源38(
図6)から正弦波形電圧のパルス電圧を吸盤状部24の外底面側のリング状の第1電極34と吸盤状部24内の第2電極とに10秒間印加して第1電極34の内面側から吸盤状部24の凹部35内にプラズマを発生させてからパルス電圧の印加を停止した(第1回目のパルス電圧印加)。その直後、突起21b(
図3)を押圧して、水蒸気を噴出口28から吸盤状部24の凹部35内に10秒間噴出させて停止した。更に、第1回目のパルス電圧印加停止から20秒後に、第1電極34と第2電極とに第2回目のパルス電圧を10秒間印加して第1電極34の内面側から吸盤状部24の凹部35内にプラズマを発生させてからパルス電圧の印加を停止した。第1回及び第2回のパルス電圧の印加及び水蒸気の噴出による空間S内のオゾン濃度変化を
図20(a)、空間S内の湿度変化を
図20(b)及び空間S内の温度変化を
図20(c)に示す。
【0073】
参考例1
実施例において、水蒸気を噴出させなかった他は、実施例と同様にして二回のパルス電圧を第1電極34と第2電極とに印加して第1電極34の内面側から吸盤状部24の凹部35内にプラズマを発生させた。第1回及び第2回のパルス電圧の印加による空間S内のオゾン濃度変化を
図20(a)、空間S内の湿度変化を
図20(b)及び空間S内の温度変化を
図20(c)に併記した。
【0074】
参考例2
実施例において、ヒータ31による空間S内の加熱を省略し且つ水蒸気を噴出させなかった他は、実施例と同様にして二回のパルス電圧を第1電極34と第2電極とに印加して第1電極34の内面側から吸盤状部24の凹部35内にプラズマを発生させた。第1回及び第2回のパルス電圧の印加による空間S内のオゾン濃度変化を
図20(a)、空間S内の湿度変化を
図20(b)及び空間S内の温度変化を
図20(c)に併記した。
【0075】
実施例では、空間S内の温度は、
図20(c)に示すように、ヒータ31の加熱により徐々に上昇しつつ、水蒸気の噴出によっても一時的に上昇する。また、空間S内の湿度は、
図20(b)に示すように、水蒸気が噴出されたことにより急激に上昇し、水蒸気の噴出停止後に急激に低下する。これに対し、水蒸気の噴出のない参考例1では、空間S内の温度は、
図20(c)に示すように、ヒータ31の加熱により徐々に上昇するが、空間S内の湿度は、
図20(b)に示すように、徐々に低下している。ヒータ31による加熱も水蒸気の噴出もない参考例2では、
図20(b)(c)に示すように、空間S内の湿度及び温度は略一定である。
【0076】
このような温度・湿度の空間S内のオゾン濃度は、
図20(a)に示すように、実施例では、最大値が200ppm程度となった。これに対し、水蒸気の噴出のない参考例1では、空間S内のオゾン濃度は、最大値が400ppm程度となり、ヒータ31による加熱も水蒸気の噴出もない参考例2では、600ppm程度となった。このようにヒータ31による加熱及び水蒸気の噴出がある実施例の空間S内のオゾン濃度の最大値は、参考例1及び参考例2のよりの低濃度となった。このことは、ヒータ31による加熱及び水蒸気の噴出により空間S内を高温多湿化していることから、水蒸気の噴出前に生成されたオゾンは、高温多湿下の空間S内で水蒸気に吸収されて過酸化水素水に変換され、高温多湿下で第1電極と第2電極とに印加されたパルス電圧により発生したプラズマは水蒸気の一部と反応してOHラジカルに変換されているものと推察される。尚、
図20(a)において、パルス電圧の印加の停止後にも空間S内のオゾン濃度が増加しているが、オゾン濃度計による空間S内のオゾン濃度の計測には約10秒程度のタイムラグが存在することに起因している。
10:ヘッド部、12:ベース部、14:本体部、16:貯水タンク、18:弾性誘電体層、20:吸引機、21a:弁、21b:突起、21c:延出棒、22,23:凸条部、23a:チューブ状部、23b:下部導電体、23c:上部導電体、24:吸盤状部、24a:中空部、24b,24c,37:孔、26:貫通孔、27:蒸発室、28:噴出孔、29,33:導通路、30:ホース、31:ヒータ、32:供給口、34,50,64:第1電極、36,52,66:第2電極、35:凹部、36a:導電板、36b:筒状部、38:電源、39:絶縁膜、41:スイッチ制御部、40:凝縮・浄化手段、42,72:凝縮器、44,74:フィルター、46:取手、54:Oリング、55:突起部、62:ダクト、65:誘電体層、67:接着層、68:水蒸気発生装置、70:吸引ファン、76:柱、78:天板、80:ビニールシート、82:アクリル板、84:チューブ、A:ヘッド部10の移動方向、E:電極、D,G,H,I:空気流の流れ方向、F:表面、K,L:隙間、S:空間部、W:水